なんだか名古屋-大阪間に税金をつぎ込むとか、そんな話が出ておりますが、そんな先のことよりこのムチャクチャな話を何とかしてくれ!!
いやマジで。
「あまりにもひどい準備書」
という言葉が言葉が、リニア計画に批判的な人々だけではなく、沿線自治体における審議会からも相次いでいます。
そんな準備書において、JR東海という企業が、この計画にともなう沿線の環境問題にいい加減な姿勢で臨んでいるかを、あまりにも露骨に分かりやすく示していた例を見つけたのでご紹介します。
もしもJR東海の方がこのブログをお読みになっていたら不愉快に感じられるかもしれませんが、こればかりは、
「人をバカにするのもいい加減にしろ!」
と声を荒げたくなってしまいます。
このブログで再三取り上げていますが、静岡県の大井川源流の谷底から掘り出した大量の残土については、南アルプス山中に捨てる計画が出されています。
360万立方メートル(東京ドーム3杯)のうち大半の残土は、扇沢という大井川支流の源頭の緩斜面に捨てる計画です。そこは、谷底から400~500mも高い、南アルプスの標高2000mの稜線です。
Google画像に加筆
国土地理院地形図閲覧サービス「うぉっちず」より複製・加筆
図に示した緑の線に沿って壁を造り、その内側に残土を放り込めば100万立方メートル程度の処分が可能です。その上に、さらに目一杯積み上げれば、最大300万立方メートル程度まで処分することが可能かもしれません。
が、あまりにもムチャクチャです。
急な谷川の源頭にある緩斜面ですから、常に下方から侵食にさらされている場所であるはずです。侵食すなわち小規模な崩壊が継続的に起きているような場所とみられます。
また、標高2000mという寒冷地であるうえに、無土壌の残土という特性上、急速な緑化をおこなうことは不可能です(※文末参照)。いつまでも裸地をさらし、侵食への抵抗力は低いままでしょう。
さらに、山肌が自重で崩れている可能性も指摘されており、かなり不安定な地形とみられます。通常、地すべり上部に盛土をしたり重い構造物を建設することは禁物です(下端への盛土は地すべりをおさえる効果があるとされている)。100万立方メートルの岩を盛れば、重量は200万t以上となり、きわめて不安定だと思うのですが…。
(防災科学技術研究所作成の地すべり地形分布図)
●重量物を高いところに置くため重力エネルギーが増す
●侵食の活発な谷川の源頭
●崩れやすい残土の盛土
●急速な緑化が不可能
●地盤条件が最悪
●侵食の活発な谷川の源頭
●崩れやすい残土の盛土
●急速な緑化が不可能
●地盤条件が最悪
というように崩れる要件がそろっているのです。
いったん最下部を支える部分が侵食で崩れたら、支えを失って大規模な崩壊に結びつきかねません。
この扇沢は一直線です。一度崩れたら、大規模な山崩れとなって、そのまま標高差400mを流れ落ち、下の大井川本流までまっしぐらに進んでしまいます。その結果、大井川をせきとめ、大規模な土石流を誘発したり、あるいは長期にわたる河川環境の荒廃を招いてしまいます。
それから残りの大半については、大井川の河原に捨てる計画を出しています。ここは千枚岳崩れという巨大な崩壊地からの土砂が大井川を埋め立てて形成された平坦地であり、常に土砂が落ちてきては川に流されているものとみられます。
その崩壊地のやや下流側で河原を埋め立てるので、当然川幅は狭くなり、崩れてきた石や砂を堰き止めてしまいます。次第に川床は高くなり、水が伏流したりして生態系に影響を及ぼすかもしれません。それだけでなく、大量に石や砂が分厚く河原に堆積すると、数十年に一度程度の増水時に、一気に土石流となって流される危険性があります。
要するに、侵食が活発である河川源流部においては、大量の残土というものはどこにおいても土石流の元になってしまいかねないのです。
このような懸念が私の意見書を含め、数通、準備書に寄せられています(静岡市長からも出されています)。
その懸念に対するJR東海の見解がこちら。
準備書に対する意見への見解書 静岡県版113ページより
一言で感想を…
バカにしてるのか!?
「大量の残土を山の上に積んだら崩れそうなので危ない」と言っているのに、「崩れるときは山ごと大量に崩れるから問題ない」って、どんだけバカにしてるの!?
これ、「見解書」として環境省に提出するのですが…。
この見解書を見るたびに力が抜けてしまうので、これ以上何も言えません。
(※)緑化の問題について
準備書では、残土捨て場は次のようにして緑化するとしています。
準備書 資料編より
「種子吹付け」とありますね。
これはオオウシノケグサ、カモガヤといったイネ科草本、コマツナギ、ウマゴヤシ、メドハギといったマメ科草本など、原産地不明の種子を肥料・水・接着剤と混ぜ、機械でスプレーのように吹き付ける工法です。安価であり急速な緑化が可能ですので、都市周辺の造成地・道路のり面・堤防など広く行われています。
一方、ほとんどの種子が外国産もしくは原産地不明であり、場合によっては何が入っているのかも不明なこともあり、こんなことをしたら、周辺はあっという間に外来種で埋め尽くされます。生態系保全が第一に要求される南アルプスでは、絶対にやってはいけない方法です。
準備書の後に出された見解書には、次のようにも書かれています。
ところが、これがきわめて難しい。
南アルプスのように、人為的な改変を受けていない土地における緑化の方法は、次のようにすべきだそうです。
(環境省自然局編集 「自然公園における法面緑化水準検討調査報告書より環境保全水準1~2の例」その他緑化関係の文献を参考にまとめまあした)
① 盛土を行う前に種子・苗木を採取する
② 土壌を剥ぎ取り、どこかに保存しておく。
③ 地元産の木材をもちいて盛土上に枠を組む。
④ 枠の中に②の土壌と堆肥(地元産)を入れ、なじませる。
⑤ ①から育てた苗を植え、ワラやシュロなど植物性材料で土壌流出を防止する。
見ての通り、非常に手間とコストがかかります。そのうえ、手順をみても分かるとおり、「土壌をどこかに保存しておかねばならない」というのが難関です。口で言えば簡単ですが、土壌は長期間ほったらかしにしておけば酸化したり、含まれている微生物の組成が変わったりして、全く別なものへと変質してしまうからです。また、この方法をとるのは土壌中に含まれている植物の種子による緑化も目的にしているのですが、あまり長期間たつと生き残る種子に偏りがでてしまいます。
リニアの残土捨て場の場合、どういう手順で盛り上げていくのか不明ですが、仮に緑化を行うのが工事開始から10年後だとしたら、そのときまで土壌を保全しておける保証などどこにもありません。
さらに苗を植えてもそれで終了するのではなく、野生動物による食害、病害虫、大雪、暴風、大雨から苗を守り、育て上げる作業も必要となります。標高2000m地点の場合、たぶん北方領土並みに低温な場所ですから、気候条件もきわめて厳しくなります。河川源流で水が非常にきれいな場所ですから、育ちが悪いからと言って、化学肥料や農薬を用いることもタブーです。
無土壌から原生林を育てなければならないわけですから、普通の植林とは全く異質なのです。何十年…というかたぶん100年先まで、管理し続けていかなければなりません。
そこまでJR東海が責任をもって管理できるのでしょうか?