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Channel: リニア中央新幹線 南アルプスに穴を開けちゃっていいのかい?
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大量残土 「崩れるときは山ごと崩れるから問題ない」!?

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なんだか名古屋-大阪間に税金をつぎ込むとか、そんな話が出ておりますが、そんな先のことよりこのムチャクチャな話を何とかしてくれ!!
 
いやマジで。
 
 

「あまりにもひどい準備書」
 
という言葉が言葉が、リニア計画に批判的な人々だけではなく、沿線自治体における審議会からも相次いでいます。
 
そんな準備書において、JR東海という企業が、この計画にともなう沿線の環境問題にいい加減な姿勢で臨んでいるかを、あまりにも露骨に分かりやすく示していた例を見つけたのでご紹介します。
 
もしもJR東海の方がこのブログをお読みになっていたら不愉快に感じられるかもしれませんが、こればかりは、
 
「人をバカにするのもいい加減にしろ!」
 
と声を荒げたくなってしまいます。

このブログで再三取り上げていますが、静岡県の大井川源流の谷底から掘り出した大量の残土については、南アルプス山中に捨てる計画が出されています。
 
360万立方メートル(東京ドーム3杯)のうち大半の残土は、扇沢という大井川支流の源頭の緩斜面に捨てる計画です。そこは、谷底から400~500mも高い、南アルプスの標高2000mの稜線です。
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Google画像に加筆
 
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国土地理院地形図閲覧サービス「うぉっちず」より複製・加筆
 
図に示した緑の線に沿って壁を造り、その内側に残土を放り込めば100万立方メートル程度の処分が可能です。その上に、さらに目一杯積み上げれば、最大300万立方メートル程度まで処分することが可能かもしれません。
 
が、あまりにもムチャクチャです。
 
急な谷川の源頭にある緩斜面ですから、常に下方から侵食にさらされている場所であるはずです。侵食すなわち小規模な崩壊が継続的に起きているような場所とみられます。

また、標高2000mという寒冷地であるうえに、無土壌の残土という特性上、急速な緑化をおこなうことは不可能です(文末参照)。いつまでも裸地をさらし、侵食への抵抗力は低いままでしょう。
 
さらに、山肌が自重で崩れている可能性も指摘されており、かなり不安定な地形とみられます。通常、地すべり上部に盛土をしたり重い構造物を建設することは禁物です(下端への盛土は地すべりをおさえる効果があるとされている)。100万立方メートルの岩を盛れば、重量は200万t以上となり、きわめて不安定だと思うのですが…。
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(防災科学技術研究所作成の地すべり地形分布図)
●重量物を高いところに置くため重力エネルギーが増す
●侵食の活発な谷川の源頭
●崩れやすい残土の盛土
●急速な緑化が不可能
●地盤条件が最悪
というように崩れる要件がそろっているのです。

いったん最下部を支える部分が侵食で崩れたら、支えを失って大規模な崩壊に結びつきかねません。
 
この扇沢は一直線です。一度崩れたら、大規模な山崩れとなって、そのまま標高差400mを流れ落ち、下の大井川本流までまっしぐらに進んでしまいます。その結果、大井川をせきとめ、大規模な土石流を誘発したり、あるいは長期にわたる河川環境の荒廃を招いてしまいます。

それから残りの大半については、大井川の河原に捨てる計画を出しています。ここは千枚岳崩れという巨大な崩壊地からの土砂が大井川を埋め立てて形成された平坦地であり、常に土砂が落ちてきては川に流されているものとみられます。
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その崩壊地のやや下流側で河原を埋め立てるので、当然川幅は狭くなり、崩れてきた石や砂を堰き止めてしまいます。次第に川床は高くなり、水が伏流したりして生態系に影響を及ぼすかもしれません。それだけでなく、大量に石や砂が分厚く河原に堆積すると、数十年に一度程度の増水時に、一気に土石流となって流される危険性があります。
 
要するに、侵食が活発である河川源流部においては、大量の残土というものはどこにおいても土石流の元になってしまいかねないのです。

 
 
このような懸念が私の意見書を含め、数通、準備書に寄せられています(静岡市長からも出されています)。
 
その懸念に対するJR東海の見解がこちら。
 
 
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準備書に対する意見への見解書 静岡県版113ページより
 
一言で感想を…
 
バカにしてるのか!?
 
 
「大量の残土を山の上に積んだら崩れそうなので危ない」と言っているのに、「崩れるときは山ごと大量に崩れるから問題ない」って、どんだけバカにしてるの!?
 
これ、「見解書」として環境省に提出するのですが…。
 
この見解書を見るたびに力が抜けてしまうので、これ以上何も言えません。
 
 
 
 


)緑化の問題について
 
準備書では、残土捨て場は次のようにして緑化するとしています。
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準備書 資料編より
 
 
「種子吹付け」とありますね。
 
これはオオウシノケグサ、カモガヤといったイネ科草本、コマツナギ、ウマゴヤシ、メドハギといったマメ科草本など、原産地不明の種子を肥料・水・接着剤と混ぜ、機械でスプレーのように吹き付ける工法です。安価であり急速な緑化が可能ですので、都市周辺の造成地・道路のり面・堤防など広く行われています。
 
一方、ほとんどの種子が外国産もしくは原産地不明であり、場合によっては何が入っているのかも不明なこともあり、こんなことをしたら、周辺はあっという間に外来種で埋め尽くされます。生態系保全が第一に要求される南アルプスでは、絶対にやってはいけない方法です。
 
準備書の後に出された見解書には、次のようにも書かれています。
 
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ところが、これがきわめて難しい。

南アルプスのように、人為的な改変を受けていない土地における緑化の方法は、次のようにすべきだそうです。

(環境省自然局編集 「自然公園における法面緑化水準検討調査報告書より環境保全水準1~2の例」その他緑化関係の文献を参考にまとめまあした)
① 盛土を行う前に種子・苗木を採取する
② 土壌を剥ぎ取り、どこかに保存しておく。
③ 地元産の木材をもちいて盛土上に枠を組む。
④ 枠の中に②の土壌と堆肥(地元産)を入れ、なじませる。
⑤ ①から育てた苗を植え、ワラやシュロなど植物性材料で土壌流出を防止する。
 
見ての通り、非常に手間とコストがかかります。そのうえ、手順をみても分かるとおり、「土壌をどこかに保存しておかねばならない」というのが難関です。口で言えば簡単ですが、土壌は長期間ほったらかしにしておけば酸化したり、含まれている微生物の組成が変わったりして、全く別なものへと変質してしまうからです。また、この方法をとるのは土壌中に含まれている植物の種子による緑化も目的にしているのですが、あまり長期間たつと生き残る種子に偏りがでてしまいます。
 
 
リニアの残土捨て場の場合、どういう手順で盛り上げていくのか不明ですが、仮に緑化を行うのが工事開始から10年後だとしたら、そのときまで土壌を保全しておける保証などどこにもありません
 
さらに苗を植えてもそれで終了するのではなく、野生動物による食害、病害虫、大雪、暴風、大雨から苗を守り、育て上げる作業も必要となります。標高2000m地点の場合、たぶん北方領土並みに低温な場所ですから、気候条件もきわめて厳しくなります。河川源流で水が非常にきれいな場所ですから、育ちが悪いからと言って、化学肥料や農薬を用いることもタブーです。
 
無土壌から原生林を育てなければならないわけですから、普通の植林とは全く異質なのです。何十年…というかたぶん100年先まで、管理し続けていかなければなりません。
 
そこまでJR東海が責任をもって管理できるのでしょうか?

大井川 河川流量予測式の検証作業を求めるべきでは?

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南アルプスにリニア中央新幹線のトンネルを建設すると、「南アルプスの静岡県部分を流れる大井川の流量が毎秒2トン減少する」という準備書の記載内容が波紋を呼び、大騒ぎとなっています。
 
ところが、この「毎秒2トン」という数字について、JR東海はもとより県とか市とか、しかるべき機関が検証をおこなったという話は寡聞にして聞きません。
 
何だか分からないけれども、同じ静岡県版準備書の「水資源」のページにあった計算上の現況値と、「水質」のページにあった実測に基づく現況値とが、まるっきり異なる値を示しています。
 
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これらの図についての詳細はこちらをご覧になっていただきたいのですが、まずはこのモデル式なり観測の状況なりを、きちんと検証すべきだと思います。そうしなければ、まったく話になりません。
◇   ◇   ◇   ◇   ◇
 
 
長野県では、この”解析値”と実測値との相関性を調べているようで、その結果が県の第2回準備書審議会で出され、その後にインターネット上に公開されています。そもそも常識的に考えて、そういう資料があるのになぜ準備書に載せなかったのでしょう?
 
それがこちら。
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ちょっと本題から外れますが、この資料によれば、流量の観測は平成19年から行っていたことになっています。平成19年(2006年)といえば、JR東海がリニア構想を発表する前年であり、環境影響評価の始まった平成23年より4年も前のことです。
 
アセス開始以前に調査を始めていたことになります。
 
これは違法ではないけれども、環境影響評価の手続として考えると非常におかしな話です。各種調査をおこなう方法を記載した図書を方法書と呼び、これに対して自治体や住民からの意見を受け付けるのが、環境影響評価の手続だからです。JR東海の姿勢は、この制度をないがしろにしたことになります。そういう批判があがるのをおそれて、準備書には記載しなかったのでしょうか?
 
さて本題に戻ります。
 
この図は、長野県内の小渋川流域において、予測式が実際の河川流量をうまく表現できているかを検証するためのものです。X軸(横方向)が実際に観測された流量、Y軸(縦方向)に計算上の流量となっています。Y=Xの直線上なら観測値:計算値=1:1で正確に再現できていることを意味します。
 
なお、目盛をよく見ると、対数表示になっていますのでご注意ください。目盛が右・上に向かうにつれて10倍になっています。値に大きな差がある事象を一枚の図で表示するための目盛です。
 
色別(つまり季節・年毎)に見ると、右上がりの一直線上にあり、相関関係はあるようです。ただし相関関係はあるものの、それが即、上手に予測できていることを意味するわけではありません。全体としてY=Xの直線よりも下側に偏っています。すなわち計算上の流量は、実際に観測された流量より少なく出ている傾向にあることがうかがえます。
 
それから、相関関係は年ごとにバラつきがあり、「H20渇水期」「H21渇水期」はY=Xの直線に沿っているものの、「豊水期」とされたものはおしなべてばらついています。

つまり、渇水期の予測はよい傾向にあり、豊水期の再現性は悪いことが伺えます。
 
河川水のうち、降水の影響を受けず、恒常的に流れている成分については比較的良好に再現できているものの、降水の影響を受けやすい浅い地層中の地下水の影響が予測できていないということかな?
 
それとも渇水期の状況を上手に再現するように予測式がつくられたということなのでしょうか?
 
予測式は、偏微分方程式という複雑な数式です。前にも書きましたが、これが適切といえるのか、私の脳ミソではよく分かりません。ただ、うろ覚えの知識で推測しますと、この式は岩盤中に仮想の地下水面を想定し、トンネル工事や降水によって水面が上下方向にどのように変動するかをコンピュータ上で再現するというような意味だと思います。
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もし渇水期の状況を再現するように予測式がつくられ、降水など外部の影響をうまく再現できていないとすれば、トンネル工事という外部からの影響予測についても、上手に再現できないのではないかという不安があるような気がします(専門家ではないのでうかつなことは言えませんが)。
 
 
それから、ここを例にするだけではなく、実際にトンネルを掘って水枯れを起こした山梨実験線の川も例にすればいいのに…

式の意味はともかく、この相関図については、これ以上のことは何も分かりません。一番の疑問は、どのプロットがどこの観測地点を示しているのか分からないということです。
 
たとえば「H21豊水期(茶色の)」では、観測:試算において1:1と正確に当てた場所もあれば、1:0.07と大外れの場所もあります。1:0.07となると、試算は実際の1/14となり、全く実態を反映できていないことになります。
 
また、もう少し客観的に見定めるためには、降水量と流量の関係なども提示する必要があります。まだまだ資料不足という印象はぬぐえません
 
さらに、「流量と実際の河川空間との関係がよく分からない」という問題もあります。
 
こうして流量予測の検証を行うのは、ひとえにトンネル工事による影響を予測するための、環境アセスメントの一環だからです。工事の影響ということを考えた場合、同じ流量であっても、浅くて流れの速い場所と、深くて緩やかな場所とでは、トンネル工事で水位が減少した場合の影響の受け方が大きく異なるのではないのでしょうか。
 
《流量=断面積×流速》ですので、流量を観測する場合は必ず河川断面の測量を行います。したがって水位(水深)も調べているはずです。この水位に関するデータも合わせて出してもらわないと、その河川がどのような環境にあるのか、よくわからないのです。
 

それでも、長野県においてはこうした資料を出しているだけマシでしょう。静岡県の場合、この手の資料が全く出されていません。もしかしたら審議会の場では出ているのかもしれませんが、少なくとも公開されてはいません(非公開にする理由もなかろうに)。
 
◇   ◇   ◇   ◇   ◇

静岡の場合、トンネルを掘った場合における流量の予測値だけが出され、そこで「2㎥/sの減少」という値が示され、大騒ぎになっているところです。
 
しかしながら、これはそのまま鵜呑みにしてよい数字なのでしょうか?
 
「2㎥/sの流れ」というものを冷静に考えてみます。単位を見て分かるとおり、1秒あたり2㎥が流れるということです。すなわち、幅2m、深さ1mの排水溝を、秒速1m(かなり速いです)で水が流れていることになります。幅4m、深さ50㎝でも、幅8m、深さ25㎝でも同じことですが…。(注 実際には摩擦の影響があるのでこうはならない)
 
この数字からイメージできるように、「2㎥/sの流れ」というのはちょっとした川に相当します。JR東海の予測では、これだけの流れがトンネル内に生じることになるわけですので、もし実際にそのような状況となったら、トンネル自体を維持できるのか、甚だ疑わしいところです。
 
というわけで、非現実的な気もします。
 
で、その予測の妥当性を知りたいところだけれども、検証作業については全く行っていないわけです。

現在、大井川源流部において予測値と実測値とを比較できるのは2地点(二軒小屋取水堰下流と東俣)だけです。この2地点について、さきほどの長野県側における相関図に当てはめてみると、次のようになります。
 
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印が大井川の2地点です。大騒ぎのもととなったのは上側ので、試算値は実測値の7倍と、かけ離れた値を示していることが分かります(実測値:試算値=1:7)。ちなみに「9㎥/sの流れ」とは幅18m、深さ50㎝程度、流速1m/sという川となります。そもそも源流部に、こんなに水があるのかな? 

ともかく、これじゃあ信頼できません
 
先日、静岡県の環境影響評価審査会の答申がまとまり、県知事に提出されました。これを微調整して知事意見として提出されることになりますが、一見したところ、「流量予測の検証作業をおこなえ」とは書いてないようです。
 
「予測式の再現性について検証作業を行い、評価書に記載すること」という一文を入れるべきだと思うのですが…。
 

南アルプス国立公園拡張を実現してからリニア計画を議論すべきである

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●そもそも現在の環境が十分に把握されていない(静岡・長野)
●南アルプスに残土を捨てるは好ましくない(静岡)
●大量残土が土砂災害を誘発するかもしれない(静岡)
●残土処分方法が記されていないので評価しようがない(長野)
●残土捨て場での調査が不十分(静岡)
●地すべり地帯での工事が土砂災害を誘発するかもしれない(長野)
●大井川の大幅な流量減少は大きな影響(静岡)
●小河内沢の大幅な流量減少は大きな影響(長野)
●無人地帯に700人が常駐し環境悪化(静岡)
●エコパーク事業への影響(静岡)
●大量のダンプカーが山里を埋め尽くす(静岡)
●南アルプスに外来種拡散のおそれ(静岡・長野)
●様々な希少動植物の調査・保全措置がマトモに考えられていない(静岡・長野)
●景観の評価が不十分(静岡・長野)
●人と自然との触れ合い環境の評価が不十分(静岡・長野)
●水質悪化(静岡)
●鉱山跡地付近から鉱毒を含んだ残土が出るかもしれない(長野)

先日、リニア中央新幹線事業の環境影響評価準備書に対する静岡県知事意見の案と、長野県環境影響評価審議会の意見案とが公表されました。
 
静岡 答申案 
長野 意見案 
どちらもPDFファイル
 
冒頭のような懸念事項が並び、両県とも「事業内容の見直しも視野に入れて環境への影響を低減すべき」という、知事意見(案)としては異例の内容となっています。アセス文書としては失格の烙印を押されたようなものかもしれません
 
本来、事業推進における不安を払拭するために行われるのが環境影響評価制度なのですが、JR東海の説明が具体性に欠け、必要最低限の資料さえ公開せず、何か尋ねられれば「適切に対応します」の繰り返しとなっており、否が応でも不安が高まるばかりとなっっちゃったのです。
 
JR東海さん、おたくの会社、なんでそんなに隠蔽体質なのですか
 
神奈川での審議会議事録を見てみると、JR東海の出席者からことあるごとに「新幹線建設事業は他の一般的な事業とは異なり、事業認可が出てから詳細を決定しますので、現段階では詳しいことをお話しすることはできません」との発言があります。でもねえ・・・
 
それって何回目なんですか!?
 
国交省中央新幹線小委員会の折には
「具体的なことは環境アセスの段階で」
アセス開始後の配慮書段階では
「具体的なルート等は方法書段階で」
方法書段階では
「具体的な事業予定地は準備書段階で」
そして今回の準備書段階では
「具体的な内容は事業認可後の説明会で」



結局、何にもわからないじゃないですか!!
事業認可前に計画を知らせなきゃ、何の意味もないでしょ!!
 
 
静岡では県の環境影響評価審査会から、「JR東海に対する監視体制を整えるべき」との提案まで出されましたし、長野県でも市町村は独自に協定を結ぶべきと提言されています。まるで不祥事の相次いだJR北海道のような扱いです。
 
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2/28 静岡新聞朝刊
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3/1 静岡新聞朝刊
 
JR東海さん、おたくの会社、ま~~~ったく信頼されていませんよ!! ここまで言われて悔しくはないのですか?
 
はては国会で南アルプスの環境問題を提議しても、自民党の議員からは「静岡がゴネてJR東海から利権をむさぼり取ろうとしている」としか解釈されないとか。
 
国会議員の皆さん、あなた方の心根はどこまで腐ってるのですか?
 
もっとも、提議した議員様も、腹の内は何をお考えなのか分かりませんけど…。
 
◇   ◇   ◇   ◇   ◇
 
ところで、環境影響評価手続によって考案される環境保全措置について、それを必ず実行しなければならないという法的な縛りはありません。ただでさえ不十分な環境保全措置なのに、それすら守れるかどうか疑わしいので「監視体制」「協定」なるものを整えねばならない事態となっています。しかも監視体制をとったととしても、
 
もし希少な植物を踏み潰しても「ごめんなさい」
もし希少な動物がいなくなっても「ごめんなさい」
もし登山者が入れなくなっても「関係ありません」
もし残土が流出しても「仕方がない。積みなおすか」
もし川が汚染されても「ごめんなさい。対処します」
 
こんふうになってしまうのではないのでしょうか?
 
着工後に環境の変化をチェックする事後調査制度というものがありますが、これとて起こってしまった環境破壊に対しては何の効力もありません。5㎞くらいトンネルを掘ったところで水枯れを引き起こしても、もはや後戻りすることはできず、そのまま工事を進めさせるしかありません。
 
要するに、言葉は悪いかもしれませんが、「着工させたらJR東海のやりたい放題。着工したもの勝ち」という制度なのです。
 
南アルプスにおいてはユネスコ・エコパーク登録計画がありますが、これとて、残念ながら規制力はありません。それどころか登録が実現しても、環境の悪化が認められた場合には、後に登録が抹消されかねません(2024年に見直し→このときリニア建設工事の最中)。
 
南アルプスにおいて法的な規制力があるのは、森林法に基づく保安林制度や林地開発制度、河川法に基づく規制、砂防指定地というところでしょうか。ただしこれらの規制は災害防止の観点しかなく、生態系や景観の保全としてはあまり期待できません。水質汚濁防止法、騒音規正法などもありますが、これはさすがに破るわけにはいかないでしょう。でもこれらは都市部を想定した規制であり、ギリギリだったら環境悪化は免れない。
 
◇   ◇   ◇   ◇   ◇
 
というわけで、こりゃ困ったぞと考えていたのですが、ここで私も1つ提案いたします。
 
南アルプス国立公園を早急に大幅拡張し、その規制にのっとってリニア建設事業を行えばいいじゃありませんか!!
 
ちょっと、一月前のブログ記事をそのまま再掲します(小さな文字の部分)。

 
1992年、ブラジルのリオデジャネイロで国連会議が開かれました。地球規模での環境保全がテーマとなったため、通称地球サミットとよばれます。この場において、生物多様性条約の調印が開始されました。当然、日本国もこの条約を批准しています。
 
この条約には、批准国が守る原則だけが書かれており、各国は条約の原則に従って国内の制度を整備してゆくことで効力を発揮することに特徴があります。
 
以下、それを受けた流れです。
 
1993年12月21日 生物多様性条約が発効。日本政府も締結。

1995年 政府は同条約6条「生物の多様性の保全及び持続可能な利用を目的とする国家的な戦略若しくは計画を作成し、又は当該目的のため、既存の戦略又は目的を調整し、特にこの条約に規定する措置で当該締約国に関連するものを考慮したものになるようとする」という内容に沿って生物多様性国家戦略を作成。この中で、国立・国定公園のあり方について見直しを公表する。
 
2000年12月 生物多様性国家戦略に基づき、環境大臣より中央環境審議会に対し、「自然公園の今後のあり方について」を諮問。
http://www.env.go.jp/nature/ari_kata/
 
2004年2月 マレーシアで開かれた第7回生物多様性条約締約国会議(COP7)において、保護地域作業計画が決議される。これは代表的な生態系を網羅した保護地域ネットワークの確立を目標としており、このために「2009年までに、国あるいは地域レベルのギャップ分析により抽出された保護地域を選定する」という目標が掲げられる。
 
2007年11月 環境省は、保護地域作業計画(2004年決議)に基づき、第3次生物多様性国家戦略において、国立・国定公の総点検をおこなうとし、これより作業が開始される。生物多様性の保全上重要な地域と保護地域とのギャップの分析が中心作業となる。これは2004年のCOP7で掲げられた国際目標実現に向けた行動でもある。
 
2010年10月4日 環境省は国立・国定公園総点検事業の結果、10年以内を目標として南アルプス国立公園などの区域拡張や、新たな国立・国定公園設置をおこなう方針を決定。
http://www.env.go.jp/park/topics/review.html(環境省)
この発表では、南アルプス地域について、次のような評価が与えられている。上の環境省発表より、一部を複製して添付する。詳しくはリンク先をご覧いただきたい。
 
南アルプスにおける現行の自然保護地域(kabochadaisuki)作成
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国立公園地域見直しに用いた資料の例(以下、環境省HPより)
 
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現行の南アルプス国立公園周辺地域に対する評価
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国立・国定公園の新規指定・大幅拡張が望ましいと判断された地域
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以上のように様々な観点から、国内の生物多様性保全のために重要な地域を探し出し、そのうち、既存の制度による保護のなされていない地域を抽出し、今後の国立・国定公園の拡張候補地としたのである。

このように政府として、南アルプス一帯の自然環境は国内でも突出して優れていると判断したわけである。
 
同年10月下旬 以上の国立・国定公園の新規指定・拡張方針の決定が、名古屋市で開催された第10回生物多様性条約取締役国会議{通称COP10)にて報告される。つまり、国際目標を実行したことの報告でもある。
 COP10では2020年に向けて20の行動目標がまとめられている(愛知ターゲット)。そのうち目標11では
生物多様性と生態系サービスにとって重要な地域を中心に、陸域および内陸水域の少なくとも17%、沿岸域および海域の少なくとも10%を、効果的な保護区制度などにより保全する。
http://www.wwf.or.jp/activities/2012/07/1076623.html(WWFジャパン)
という項目があり、国立・国定公園の拡張を実行に移すことは、愛知ターゲットの実現という意味合いをもつ。
 
以上、再掲おわり。
 
つまり、生物多様性の保存に向けた国際的取り組みの一環として、南アルプス国立公園区域を拡張する方針が打ち出されていたのです。
 
今月、国内で31番目となる慶良間国立公園が発足しましたが、これも国立・国定公園総点検事業の結果を受けたものです。
 
国が南アルプスを法的に保全しようと考えているのだから、地元としてもこれを積極的に後押ししない手はないと思うのでございます。
 
 
◇   ◇   ◇   ◇   ◇

国立公園に指定されると、その中での開発行為に対しては規制がかかります。国立公園内の景観を大きく損ねるような行為は禁止させようというわけです。
 
長ったらしいけど法律の条文をコピーします。

第20条(抜粋)
 3   特別地域内においては、次の各号に掲げる行為は、環境大臣の許可を受けなければ、してはならない。ただし、非常災害のために必要な応急措置として行う行為又は第三号に掲げる行為で森林の整備及び保全を図るために行うものは、この限りでない。
  一  工作物を新築し、改築し、又は増築すること
  二  木竹を伐採すること
  三  環境大臣が指定する区域内において木竹を損傷すること。
  四  鉱物を掘採し、又は土石を採取すること。
  五  河川、湖沼等の水位又は水量に増減を及ぼさせること
  六  環境大臣が指定する湖沼又は湿原及びこれらの周辺一キロメートルの区域内において当該湖沼若しくは湿原又はこれらに流水が流入する水域若しくは水路に汚水又は廃水を排水設備を設けて排出すること。
  七  広告物その他これに類する物を掲出し、若しくは設置し、又は広告その他これに類するものを工作物等に表示すること。
  八  屋外において土石その他の環境大臣が指定する物を集積し、又は貯蔵すること。
  九  水面を埋め立て、又は干拓すること。
  十  土地を開墾しその他土地の形状を変更すること。
  十一  高山植物その他の植物で環境大臣が指定するものを採取し、又は損傷すること
  十二  環境大臣が指定する区域内において当該区域が本来の生育地でない植物で、当該区域における風致の維持に影響を及ぼすおそれがあるものとして環境大臣が指定するものを植栽し、又は当該植物の種子をまくこと。
  十三  山岳に生息する動物その他の動物で環境大臣が指定するものを捕獲し、若しくは殺傷し、又は当該動物の卵を採取し、若しくは損傷すること。
  十四  環境大臣が指定する区域内において当該区域が本来の生息地でない動物で、当該区域における風致の維持に影響を及ぼすおそれがあるものとして環境大臣が指定するものを放つこと(当該指定する動物が家畜である場合における当該家畜である動物の放牧を含む。)。
  十五  屋根、壁面、塀、橋、鉄塔、送水管その他これらに類するものの色彩を変更すること。
  十六  湿原その他これに類する地域のうち環境大臣が指定する区域内へ当該区域ごとに指定する期間内に立ち入ること。
  十七  道路、広場、田、畑、牧場及び宅地以外の地域のうち環境大臣が指定する区域内において車馬若しくは動力船を使用し、又は航空機を着陸させること。
  十八  前各号に掲げるもののほか、特別地域における風致の維持に影響を及ぼすおそれがある行為で政令で定めるもの

こういった行為は許可制となり、基準に満たないものは禁止されます。無視すると逮捕されちゃいます。
 
法律の条文中、太字で記した部分は、リニアの工事が国立公園内で行われたとすれば、規制のかかるであろう項目です。
 
逆にいえば、工事計画には逐一チェックが行われます。たぶん、こんな具合になるのでしょう。
●木を切る→ ニ、(三)、(十一)
●川の流量を減らす→ 五
●斜坑を設ける→ 一、四、十
●宿舎を設ける→ 一、ニ
●残土を捨てる→ 一、八、十、(十一)、(十三)
●工事用道路をつくる/道路を拡幅する→ 一、四、八、十、(十一)、(十三)
●緑化をおこなう→ (十ニ)
●山中にダンプカーを走らせる→ 十七
●工事用看板の設置→ 七
●変電所・送電線の設置→ 一、七、十、(十一)、十七
●土砂災害防止施設の建設→ 一、四、八、十、(十一)、(十三)
●橋梁の建設→ 一、四、八、十、(十一)、(十三)
 
また、次のような行為も禁止されています。
第三十七条  国立公園又は国定公園の特別地域、海域公園地区又は集団施設地区内においては、何人も、みだりに次の各号に掲げる行為をしてはならない。
  一  当該国立公園又は国定公園の利用者に著しく不快の念を起こさせるような方法で、ごみその他の汚物又は廃物を捨て、又は放置すること。
  二  著しく悪臭を発散させ、拡声機、ラジオ等により著しく騒音を発し、展望所、休憩所等をほしいままに占拠し、嫌悪の情を催させるような仕方で客引きをし、その他当該国立公園又は国定公園の利用者に著しく迷惑をかけること。
 
●宿舎・盛土から排水を流す→ 三十七条の一
●工事・ダンプカー走行による騒音→ 三十七条のニ
●工事用車両の大量走行で一般利用者の通行を阻害→ 三十七条のニ

いかがでしょう。
 
先に県の環境影響評価審査会が、「監視体制」「協定」とありましたが、下手をすると口約束で終わってしまいますし、もし環境悪化が起きても因果関係が認められるか疑わしいし、水環境のように元には戻せないかもしれません。
 
それに対し国立公園制度の場合は、何らかの改変を行う場合には逐一国のチェックが入り、基準すなわち国立公園の景観・自然環境を維持する上で問題ないものだけが認められます
 
JR東海が再三述べているように具体的な計画・構造・工法の決定するのが事業認可後でなければならないのだとしても、これだけチェックされることが決まれば、それほどの心配はいらないのではないのでしょうか。
 
もっとも、着工した後に国立公園の指定をかけても「後のまつり」で、何にも効力はありません。早急に指定を掛けることが重要です。
 
◇   ◇   ◇   ◇   ◇
 
静岡県側の南アルプス一帯は、島田市の某製紙会社の社有林になっておりますが、現在は大規模な伐採は行わないと聞いています(それほどの国産材需要があるとも思えないし)。もし伐採を再開したいとなれば、吉野熊野国立公園など、有名な木材産地で国立公園に指定されながらも林業経営が行われている地域を参考にすればよいのです。
 
山小屋の改築等でも面倒な書類手続が加わるかもしれませんが、その程度ならば禁止されることもありません。
 
そもそも国立公園に指定されたことで観光に強い規制がかかった例など皆無かと思います。南アルプス北部も、槍ヶ岳も、尾瀬も、日光も…谷川岳、大雪山、知床、八幡平、阿蘇、霧島、屋久島、富士山、箱根、天城峠、立山、妙高、白馬、白山…著名な山岳観光地はみ~んな国立公園です。
 
日本の国立公園制度は、アメリカなどのようにむやみに厳しい規制をかけるものではありません。
 
JR東海さん、この提案、いかがでしょう?
 
何しろ自然公園法には

第四条  この法律の適用に当たつては、自然環境保全法 第三条 で定めるところによるほか、関係者の所有権、鉱業権その他の財産権を尊重するとともに、国土の開発その他の公益との調整に留意しなければならない。
 
こんな条文もありますので、リニア計画が国立公園の自然環境・景観・利用を阻害することのないものであれば、何の問題もなく造れるはずですよ。

ご不満は特にないと存じます。
だって2010年5月の中央新幹線小委員会に御社が提出された資料にも
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このように自信満々で書かれたではありませんか。冒頭の懸念など、反対派の杞憂・無理難題だと思ってらっしゃるのでしょう? 杞憂じゃなかったらこんなこと書けませんものね。
 
《まとめ》
JR東海の作成した中央新幹線事業の環境影響評価準備書には、きわめて不備が多く、大幅な修正を伴わずに評価書を作成した場合には事業を認めることができない。あるいは認めたとしても社会的・法的混乱を招くので即座に着工することはできない。よって、当面の間は着工できない状況が続くはずである。
 
この間に、従来の環境省方針に基づき、南アルプスの国立公園区域を大幅に拡張するのである。
 
中央新幹線建設事業を国立公園内における規制にのっとった内容とすれは、今後JR東海の考案する環境保全措置が不十分なものだとしても、一定水準の保全措置は法的に担保されるので、大幅な自然破壊、社会的混乱を避けることが可能である。罰則規定もあるため、自治体による監視や協定よりも実行力があるだろう。さらにエコパーク構想における環境保全制度としても申し分はない。
 
JR東海としても、社会的混乱を避ける、国立公園内での環境保全が可能な事業・企業というブランドがつく、というメリットが生まれる。
 
そもそも「南アルプスの現状を維持すべき」という広範な意見ならびに配慮書への環境大臣意見を勘案するのであれば、国立公園内における行為規制基準程度は満たせなければならないはずであろう。
 
南アルプス国立公園区域を早急に拡張し、そのうえで中央新幹線事業を議論することを強く望む次第である。

5000万立方メートルの残土処分 費用は? アセスは?

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ゆうべNHKを見ていたら、
「13年後の開業を目指すリニアの試乗会!」
っていう感じのニュースがありました。社長さんのインタビューつきで。
 
はいはい、景気のいい話は報道するけれども、困ったことはま~~ったく報道しないんだな…。
 
一言ぐらい残土の話をしてくれたっていいのに。
 
◇   ◇   ◇   ◇   ◇
 
JR東海は、静岡県の大井川源流に吐き出す残土360万立方メートルは、すべて南アルプス山中に捨てる計画としています。
 
残土発生量の概要
静岡県の環境影響評価審議会資料より転載
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準備書より複製・加筆
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そのために7ヶ所の残土捨て場候補地をあげましたが、そのうち1ヶ所は標高2000mの稜線上というとんでもない場所です。
 
国土地理院地形図閲覧サービス「うぉっちず」より複製・加筆
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この場所は、工事用トンネルを掘って、余計な残土を76万立方メートルも増やしながら捨てにいくつもりですので、相当な量を捨てるつもりであると思われます。地形図上で計測してみると、厚さ50mで埋め立てれば100万立方メートル程度、谷を限界ギリギリまで埋め立てると300万立方メートルくらい入りそうです。
 
おそらく残土捨て場の本命として出したのでしょうが、いくらなんでも場所が悪すぎます。自重による崩壊の危険性、地すべり・山崩れを誘発する危険性、高標高による緑化困難、絶滅危惧種が多数存在…静岡市より撤回を求められていますし、県知事意見でもこの場所は考え直すよう求められる見通しとなっています。
 
市としても、準備書意見で回避を求めた以上は許可を出せるはずもなく、出したとしても森林法の林地開発許可に反する可能性(土砂災害を誘発するおそれのある森林伐採は許可できないきまりになっている)もあり、ここはまず使えません

ここを断念するケースを考えてみます。
 
その場合、工事用道路トンネルと斜坑1本は不要となるので、残土は260万㎥程度に減ります。とはいえ東京ドーム2杯分です。これを残り5ヶ所に分配することになりますが、うち3ヶ所は既に発電所建設時の残土が積み上げてあるため、たいして受け入れられません。小さいほうから4ヶ所合計で40万立方メートルというところでしょう。残りは220万立方メートル。
 
標高2000m残土捨て場候補地の次に受け入れ容積の大きいのは、千枚岳直下の大井川沿いの平坦地です。
 
準備書より複製
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この場所は、地図上で計測すれば、南北約950m、幅100mくらいの敷地を確保することが能です。ここに残土を積み上げることを考えます。
 
盛土の勾配は一般的に30°まで、高さは20mまでとされています。
 
この条件のもとで計算すると、残土の受け入れ容積は最大120万立方メートルとなります。
 
これでは半分ぐらいしか入りません
 
仮に、周囲に垂直な壁を築くとすれば、計算上はもっとたくさん積み上げることが可能です。単純に2,200,000立方メートルを95,000㎡で割れば、約23mの高さとなります。電信柱の2倍程度です。
 
高さ23m、周囲2100mの壁を南アルプス山中につくる?
 
こりゃあ、ありえないでしょう。
 
そもそもこの場所は大規模崩壊地の直下。
 
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砂防ダムを築いて土砂の流出を防いでいる場所なのに、そんなところに残土を捨てるという発想自体が理解不可能です。それに、そんな場所で河川空間を大規模に改変することは、河川法で基本的に禁じられています。
 
 
よって、ここに大量の残土を捨てられる見通しはなく、まだまだ大量の残土の行方が定まっていないことになります。
 
◇   ◇   ◇   ◇   ◇
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残土の問題は南アルプスだけじゃなく、全線にわたってるんですね。
 
たとえば神奈川県
 
神奈川県では1140万立方メートルが発生するとされていますが、具体的な処分方法を示したのは、車両基地造成に回すとした360万立方メートルだけとなっています。残り780万立方メートルについては行方が定まっていません
 
当然、これら全てが他の公共事業等に転用できるはずがありません。リニア以外にも大小の建設工事で残土は大量に出てくるからです。
 
審議会でも真っ先に疑問視され、再三にわたって「県内における受け入れ容量はどのくらいか調べているのか」とたずねられ、3回目()にしてようやくJR東海が提出した資料によると、
 
公共事業用 277万立方メートル
民間業者  181万立方メートル
合計 458万立方メートル
 
つまり、神奈川県内にある全ての残土処分場をJR東海1社で埋め尽くしても、まだ320万立方メートルもの量があふれてしまうのです。しかもこんなことをしたら、リニア以外の建設工事で発生した残土の受け入れ先がなくなってしまいます。

したがって海岸埋立、県外搬出などの手段をとらなくては残土処分先を確保することができず、物理的に工事をおこなうことができません。
 
そしてどちらにせよ、そのためには新たな環境影響評価をやり直さなければなりません。特に海面埋立の場合は公有水面埋立法という法律に基づく複雑な手続と漁業補償なども必要になってきます。
 
また、山梨県では早川町に掘り出される330万立方メートルの残土を処分するために、数十万立方メートルの残土を余計に生み出してトンネルをほって町外に搬出し、道路整備や駐車場造成をおこなうという案が出てきました
 
これはJR東海の案ではなく、何が何でも着工させたい山梨県が出したものです。
 
こんなことは環境影響評価の過程では全く出てこなかったので、もし実行するとなると、環境影響評価手続を最初からやり直さなければなりません。これが終了するまでには再び2年ほどかかります。
 
岐阜県の審議会議事録を見てみると、やはり同様な問題が生じているようです。
 
◇   ◇   ◇   ◇   ◇

リニアの工事では、品川-名古屋で5680万立方メートルもの残土が発生します。計算上、東京ドーム42~43杯に相当します。現時点で再利用の見込みを出しているのは、前述の神奈川のほかには、山梨県での変電所200万立方米程度?と長野での道路工事10万立法米だけです。まだ5000万立方メートルもの処分方法が全く決まっていません。
 
ちょっと試算。
 
50,000,000㎥÷10m=5,000,000㎡
5,000,000㎡の平方根は2236m。
 
つまり、もしもこの残土を平均10mの高さ(電信柱より少し低め)にならすと、500ヘクタール、2236m四方の土地が必要となってしまいます。7都県合わせて必要な処分場の合計面積はこのぐらいになるのでしょう。
 
静岡空港より広いなあ…。実際には、それぞれの残土捨て場ごとに沈砂池、遊水地等を設ける必要があるため、もっと広い面積が必要となります。
 
リニアの路線の、品川-名古屋間における新設の地上区間は31.4㎞です。用地幅は22mとしているので、路線そのものの敷地面積は約690,800㎡となります。斜坑・縦坑や駅の用地を考えても、100万~200万㎡といったところでしょう。


たぶん、残土処分に必要な面積のほうが大きい!
 
 
重複しますが、現段階では、残土処分場については候補地の目途すらたっていないことから、全く環境影響評価が行われていません。言い換えれば、リニア計画の全事業地の半分程度は環境影響評価を行っていないのです。
 
これじゃあ物理的にも法的にも着工できないのでは…?
 
◇   ◇   ◇   ◇   ◇

ここまで書いてきて疑問に感じたのですが…
 
着工するつもりなら、全ての残土処分場について、それぞれの土地ごとに環境影響評価を行い、購入し、ダンプカーで残土を遠路はるばる運び入れ、重機でならし、緑化しなければなりません。
 
アセス費用、環境対策費、土地代、運送費、工事費…
 
いくらかかるんだろう?
 
処分方法が全く決まっていないのなら、その費用を算出することはできていないと考えるのが自然ですが…
 
JR東海が建設指示を受ける前に公表した工事費用の表には、残土処分のことなどなど一言も書いてありません。
 
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残土処分だけで、空港を1つ造るような大規模な土地造成になるのですから1000~2000億円程度かかると思います(静岡空港の建設費は2500億円)。山梨の実験線延伸工事では100万立方メートル程度を処分するのに40億円(税金で)かかったとのことですので、やっぱり2000億円くらいかかるのかな?
 
これって5兆1000億円の予想建設費に含まれているのでしょうか?

知事意見から垣間見える超電導リニア中央新幹線構想の本質的な問題

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22日に、山梨県と長野県の知事意見がJR東海に提出されました。
 
どうせたいしたことは書かれないだろう…と思っておりましたが、目を通して驚きました。
 
新聞報道では「厳しい意見」「追加調査を要求」というように、わりと冷静な表現となっていますが、受け取る側としてはおそらく冷静さを保ってられる意見書ではありません。事実上、「アセスやり直しを要求」になっており、はっきり言って、環境影響評価としては失格の烙印を押されたのに等しいといえます。
 
わたくし、環境影響評価などドシロウトですので、リニア中央新幹線の環境影響評価手続を考えるために、予習として法対象アセスとなった道路建設事業の環境影響評価数事例と、閣議アセスにおける100件ぐらい(1995~1996年)の知事意見概要にざっと目を通してみました。閣議アセスというのは法律に基づかない古い手法で、環境保全も不十分な時代ですが、それでもここまで言われているのは見当たりませんでした(事業者=知事という事例も多かったためでもありますが)。
 
というわけで、1997年の環境影響評価法施行以降では、例外的なケースじゃないかと思われます。
 
もっとも、厳しい意見が出るのは当然と言えば当然なんですが…
 
というのも、前回述べたように、リニア中央新幹線建設事業は、地上の鉄道設備よりも、トンネル工事にともなう水環境への影響と、5000万立方メートル以上に及ぶ残土の処分地造成に伴う環境への影響とが主要な争点になります。影響を受ける規模も範囲も、こっちのほうが広範囲・深刻・予測困難だからです。
 
ところがJR東海が今までに環境影響評価で取り扱ってきたのは地上設備に関する部分ばかり。何度も指摘してきたとおり、水環境については調査地点が乏しく、残土処分については「9割リサイクルを目指す」と、実現性に乏しく具体性のない目標を掲げただけにとどまっています。
 
すなわち、必要なアセスの半分も行っていないのです。
 
しかも地上設備のアセスについても、主観的な評価・根拠のない評価が相次いでいます。
 
例えば…生活道路となっている1本道を1日1700台の大型車両が通行しても「問題がない」というのは(長野県大鹿村)どう考えても無茶だし、工事終了後の完成予想図も出さずに「景観への影響はない」なんていうのは(静岡県)、論理的におかしい。長野県では事業者自らが「調査範囲」と定めた範囲での調査を行っていなかったことも判明しました。
 
こういう論理的におかしな内容がズラリと並べられているのです。
 
これだけひどい準備書をスルーしたとなると、自治体として後々責任問題に波及しかねません。そういう意味でも厳しい意見を出さざるを得なかったのでないでしょうか。

※どれだけひどいかというと、静岡市在住の方でしたら、静岡県立中央図書館にリニアのアセス図書および最近の道路建設のアセス図書が並べられていますので、見比べてくださいませ。
 
このあと今月25日までに残る都県からも意見書が出されますが、知事意見案や審議会の答申書をみたところでは、概ね同様に厳しい内容になりそうです。

◇   ◇   ◇   ◇   ◇

この後JR東海は、各都県の知事意見をもとに準備書を修正して評価書を作成し、知事意見を添えて環境大臣に提出することになっています。評価書の作成に期限はありません。
 
JR東海は今年10月にも着工したいとしていますが、そのスケジュールだと、4~5月には評価書を作成しなければ間に合いません。信濃毎日新聞でも「JR東海は4月にも評価書を作成する見込み」と報じられていました。
 
ところが知事意見では、様々な項目において現地における追加調査を求めていますし、斜坑の数や残土運搬計画など、事業計画そのものの見直しを求めている項目も多岐にわたっています。その場合に環境影響評価をやり直す必要があるとJR東海自らが認める場合は、環境影響評価法第21条の規定に基づき、再び方法書段階から行わねばなりません。生物相や河川の流量等の再調査には、調査自体に1年かかります。すなわち、知事意見に真剣に対応すると、今後1年半から2年は着工できません。
 
4~5月に評価書を作成することは、こうした知事意見を完全に無視することになります。ほぼ無修正・追加調査なしのまま環境大臣に提出するのでしょうか?
 
仮にこの準備書内容のまま評価書として提出した場合、知事意見で「問題がある」とされた点が修正されていないのですから、環境省としても「問題がある」という意見を出さねばなりません。環境大臣意見で「問題がある」とされた評価書に基づいて、許認可権者である国土交通大臣はそのまま事業認可するのでしょうか?
 
「問題がある」という環境大臣意見を無視して国土交通大臣が事業認可したら、裁判沙汰になった場合、「許認可権者の権利濫用」として環境影響評価法上の違法性を問われる可能性があるようです(環境法関連の多数の文献で指摘されている)
 
もっとも、そこまでおかしなアセスの事例はこれまでほとんどなかったようですね。アセスにおける騒音基準のあり方等から裁判に発展し、一審判決で事業認可を取り消されたという事例(圏央道あきるのIC問題)はありますが、全面的に問題のあるものを事業認可して裁判になったことはないようです
 
つまり、問題のある準備書・評価書であった場合は、どうにかクリアできるように準備書段階・評価書段階で事業内容を修正してきたわけなんですね。それが環境影響評価というものだからです。
 
というわけで、いくら国交省がJR東海とベタベタくっついていたとしても、さすがにこんなリスクのあることはしないでしょう。

というわけで、仮にJR東海が強引に知事意見を無視しても、許認可の段階で事業内容の修正を要求される可能性が高いと思われます。
 
つまり、少なくとも今年度中に着工することは不可能といえます。
 
◇   ◇   ◇   ◇   ◇
 
ところがですねえ、「これまでの事例ではどうにかクリアできるように事業内容を修正してきた」とはいっても、これができないのが超電導リニア方式中央新幹線建設事業の宿命なんですよ。
 
環境への適応という面から見ると、超電導リニアという概念そのものがムチャなんです。もっとも事業の採算という面からもきわめて「?」ですが…。

ムチャというのは、「時速500キロの新技術」という点に起因します。
 
時速500キロ走行をするがために…
①曲がれないからルート設定の際に環境配慮をすることができない。
②時速500キロの安定走行と用地買収費の節約のために地下を通さざるをえず、よって新設区間の9割近くがトンネル区間となり、地上の環境と関係なく膨大な残土が発生する。
③地球上で初めての技術であるから、参考にする先行事例がない。
 
①は、このブログでさんざん書いてきたことです。

国立公園・県立公園・自然環境保全地域・エコパーク
重要種の多い湿地
野鳥の越冬場所
豊かな景観の里山・山里
静かな住宅地
有害物質の出るかもしれないウラン鉱床や鉱山跡地
川の水源地帯
史跡
土砂災害の危険性の高い地域
 
直線で東京-名古屋-大阪を結ばねばならないから、上記のような改変すべきでない場所であっても無思慮にぶち抜かなけらばなりません。環境配慮の第一段階は、事業立地場所の選定ですが、リニア計画ではこれが不可能なんです。だからどうしても避けるべき場所を避けられず、問題が大きくなってしまう。しかもたった1年で現地調査を終わらせようとする…こりゃいくらなんでもムチャです。
 
環境に配慮して路線をクネクネ曲げたりアップダウンを激しくしたら…時速500キロで走ることができず、超電導リニア方式である意味がなくなります。
 
「環境への影響を避けるため」として新設路線の9割近くを地下に埋める計画になったわけですが、それが②残土の問題にむすびつきます。
これ、はっきりいって破綻してるんですよ
 
高速道路を造る場合、トンネル・切土区間から出るズリ(建設発生土)は盛土区間に転用し、バランスをとります。余ったものは建設資材に回され、それでも使いきれなかった部分が”建設残土”として捨てられることになります。
 
たとえば新東名高速道路の建設工事では、静岡県内160㎞くらいの区間で7500万立方メートル(リニアの品川-名古屋間での5620万立方メートルを上回る)ものズリが発生し、そのうち4900万立方メートルは盛土区間に転用し、残りは工業団地の造成等に回されました。
 
自然環境や景観が守られたかどうかは別としても、とりあえずバランスはとれています(個人的感想としては、里山がメチャクチャになっているので、とても環境が保全されたとは思えませんが)。
 
ところがリニアの場合、この手法がとれません。品川-名古屋243.4㎞のうち、地上区間は31.4㎞と13%に過ぎません。このうち4㎞くらいは川を渡る区間なので、盛土が可能となるのは大雑把にみて27㎞程度です。高架橋の断面はこんな構造だそうです。
 
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山梨県版準備書より転載
 
この27㎞を全て高さ20mの盛土区間とすることを考えます。
 
ちょっと試算
 
高さ20mの盛土を想定すると、断面はたぶんこんな感じとなります。
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これだと断面積は972平方メートル。総延長27㎞なので使える残土は約2600万立方メートル。
 
どんなに使っても、半分しか使えないんですよ。変電所設備などに使える量を割引いても、大量に余ってしまいます。
 
それから高架橋の場合に必要な用地幅は22mとしていますが、これが盛土になると、90mもの幅が必要になります。用地取得の費用と手間が4倍になるので、そもそもありえないのでしょう。
 
かといって他の事業に回すといっても、これが可能なのはごく一部に限られます。
 
なにしろ路線の大半は山岳地帯です。大規模な造成をしたところで工場や住宅地などが立地するはずがありません。南アルプス山中の場合、再利用は自然破壊の拡大と表裏一体です。南アルプスの山梨県側では残土を使って道路拡幅とか駐車場造成という話が出てきましたが、苦し紛れという感が否めません。「リニアの残土でなくとも造成可能」なものだからです。神奈川や愛知では使い道がありそうにも見えますが、こことて他の建設工事から発生する残土を再利用しきれていないのが現状です(だから残土の不法投棄が後を絶たない)
 
ネットで検索すると「海岸の津波対策につかえばいいじゃん」といったことを述べている人が見受けられますが、南アルプスや中央アルプスの山奥から100㎞近い距離をダンプカーで運ぶことは、作業効率・沿道のダンプ公害という観点からいって不可能です。
 
そもそも「建設発生土の運搬は原則的に50㎞以内」になってるんですよね…。
 
要するに、建設発生土すなわち残土の処分計画が破綻していると思われるのです。

③これについて、「東海道新幹線だって前例がなかっただろ」という持論を出す人が見受けられます。ネット上の戯言だけでなく、時々”有識者”と呼ばれる人でもこの理論を持ち出します。
 
昭和37年の東海道新幹線の営業開始後、沿線で大変な騒音・振動が発生し、各地で住宅や学校の立ち退きが相次ぎ、「新幹線公害」という言葉まで生まれました。名古屋では大規模な訴訟が起こされ、その後の東北・上越新幹線の完成が遅れる原因ともなりました。
 
このために新幹線鉄道の建設に際して騒音規制や環境アセスメントの制度が構築されてきたのですが、リニアは新幹線とは全く異質な乗り物です。
 
東海道新幹線は時速200キロでしたが、当時はヨーロッパにおいてミストラル(仏)など時速130~140キロ程度の列車が運行されており、国内でも国鉄の特急こだま号や小田急の列車が130キロで走っており、それらを参考にすることができました。時速500キロのリニアの場合、参考にするのは時速300キロ程度の新幹線となりますが、200キロの速度差は大きく、そもそも走行方式が全く異なり、あまり参考にならないでしょう。時速430キロの上海リニアを参考にすることは、JR東海のプライドが許さないだろうし。
 
そもそも現段階で、地下を高速移動する16両編成・全長400mの物体なんて地球上にありません。山梨の実験線で走ってるのも5両編成までだし…。
 
そういえば、大深度地下トンネルに列車を走らせた事例もないし、南アルプスにトンネルを掘った前例もない。標高2000mで大面積を緑化したこともない。磁界が人体や環境に与える影響が十分に研究されているとも言い難い(基準ができたのはリニアの建設指示直前)。大河川の源流域をぶった切るようなトンネルを造ったこともない。

リニアはこのように「前例のないものだらけ」です。それなのに、既存の基準や環境影響評価手続きで対応できるのかという検証さえ行われていません。国交省の設けた超電導磁気浮上式鉄道実用技術評価委員会にしろ中央新幹線小委員会にしろ、鉄道関係の専門家しか招かれておらず、環境面からの審議がされた形跡はありません。これは非常に大きな問題でしょう。
 
◇   ◇   ◇   ◇   ◇
 
新幹線建設の手続きを定めた全国新幹線鉄道整備法には、環境面からの事業審査をおこなわせる規定はありません。環境影響評価法33条の規定により、環境影響評価手続きがその役割を果たします。
 
つまり、ここにきて初めて、超電導リニアというものに環境面からの審査がなされたとみることもできます。
 
その審査において、はっきりと「こりゃダメだ」という審判が下りつつあります。JR東海ならびに国交省においては、なぜこの技術・計画が環境に対応できないのか、その点を十分に検証したうえで今後の計画の是非を判断していただきたいものであります。
 

 

準備書への知事意見が出そろう これでどうやって着工するの?

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25日までに、リニア中央新幹線沿線7都県の知事意見が事業者であるJR東海に提出されました。それを受けて思ったことを改めて書き直します。
 
新聞報道では「厳しい意見相次ぐ」といったニュアンスで書いているところが多いようです。私も前回そう書きましたが…。ざっと目を通しますと、たくさんの注文がついているものの、決して「厳しい意見」が並んだわけではありません。これでも弱いといえます。
 
今回、JR東海のおこなったアセス結果において、あまりにも内容が不足しているため、それを指摘すると膨大な量になり、あたかも「厳しい意見」のように見えたといえるでしょう。
 
「厳しい意見」というのは例えば、地形の改変が、ある動物の生態に与える影響を予測するために、改変場所におけるその動物の利用パターンや年齢や個体数など各種データを用いて、生態学的・統計学的に意味のある調査を行わせるとか、そういった難しい調査を要求するようなことをいいます。
 
ちなみにダム工事や海岸埋め立て等では、これくらい普通に要求されるようです。沖縄の辺野古埋め立て計画におけるジュゴンの扱い(その調査結果が妥当という意味ではないので…念のため)とか、ダム建設の際に、イヌワシの営巣・繁殖状況を詳細な調査結果に基づいて影響を予測させるとか。
 
本件の知事意見を見渡した限りでは、こういう本格的な再調査を要求しているわけではないようです。特に希少性の高いはずのイヌワシ・クマタカ・ミゾゴイとかも、いたってフツーな扱いに終始しています。
 
南アルプス周辺では、これら3種の繁殖が確認されています。
 
イヌワシの繁殖が1か所でも確認されたら、国交省や電源開発とかがゴリ押しするようなダム工事でも、計画そのものがひっくり返ってしまうことも多いのですが…。
 
 
 
特に神奈川・岐阜・愛知は弱い意見という印象を受けました。
 
例えば河川流量や井戸の現地調査が不足している問題について、東京、山梨では「調査を行って評価書に記載すること」としていますが、岐阜や愛知では「着工後に事後調査を行うこと」としています。後者の場合、着工後に問題が起きてもOKというニュアンスです。
 
この温度差は何なのだろう?

◇   ◇   ◇   ◇   ◇
 
さて、各県の知事意見は大きく2種類に分けられます。
 
《知事意見の意味その1》
環境影響評価の最低基準を満たせていないから、せめてそれぐらいはやってくれ
環境影響評価をおこなうための「技術的指針等を定める主務省令」というマニュアルがあります。http://www.env.go.jp/policy/assess/2-2law/5.html
 
1997年の環境影響評価法施行後、環境省が環境影響評価を行うための統一基準をつくり、それに合わせて各事業種類ごと、主務省が手直ししてつくったマニュアルです。新幹線を含む鉄道建設事業の技術的指針は旧運輸省が作り、最近、環境影響評価法の改正に伴って国土交通省が手直ししました。
 
「これに従って環境影響評価を行えば形式的には問題ない」というマニュアルであり、これを満たしたうえで、どれほど環境に配慮できるのかが問われるところです。
 
JR東海の作成した準備書ならびに環境影響評価の進め方は、この技術的指針を満たせていません
●川の下を潜り抜けるのに、トンネル上方の河川環境を調査していなかった。
●騒音発生源と調査対象地点との位置関係を示していない。
●環境保全措置や事業計画における複数案の検討過程を記載していない。
●具体的な環境保全措置を示していない
●具体的根拠もなく「影響は小さい」としている
などなど…
 
というわけで「最低基準(マニュアル)すら満たしていないからせめてそれは満たせ」というのが知事意見の大部分を占めています。山梨県知事意見では、ご丁寧に「主務省令のここに該当」なんて注記がつけられています
 
要するに不足している調査項目や不十分な評価結果があまりにも多くの項目にわたるため、「厳しい意見」のように見えるんですね。
 
《知事意見の意味その2》
建設発生土の取り扱いが不明だから必要なアセスの半分もできていない
 
このブログで何十回も書いてきたことです。リニア中央新幹線計画においては、5680万㎥もの大量のズリ(岩のカケラ)が生じます。このズリは建設資材として使うことが可能なので、リサイクルの制度上では「建設発生土」とよばれます。リニアの場合、地上区間はすべて高架橋なので、当該事業内で再利用することはできず、他の事業に回すことになります。それでも使い切れなかった分が残土として捨てられます。
 
他の工事に転用するにせよ、どこかに捨てるにせよ、いずれにせよ運搬には大量のダンプカーが必要であり、その走行によって沿道では騒音・振動といった影響が発生します。そしてどこかの土地(海かもしれない)を埋め立てなければなりません。その埋め立て先においては、直接的に生態系は壊滅するし、重機の稼働による騒音・振動も生じます。完成後も土砂や混濁物質の流出による水の濁り、水質汚染といった懸念もありますし、もしかしたら残土中に有害物質が含まれるかもしれません。
 
つまり、建設発生土をどのように処分するにせよ、その処分の過程における環境影響評価が欠かせないのです
 
ことに本事業においては、列車の走行する軌道や駅舎の建設工事・存在だけでなく、建設発生土の処分場の建設・存在が、環境に大きな影響を与えます。面積的には地上設備の半分、あるいはそれ以上を占めるかもしれません。というわけで、建設発生土の取り扱いについても環境影響評価を行わねば意味がありません。
 
ところがJR東海は、その建設発生土の取り扱いについて、準備書においても具体的な処分方法をほとんど示していません。環境影響評価をおこなう以前の問題です。
 
これでは沿線の自治体がどれほど事業を進めたくても、物理的・法的に進めさせることができません。事業を実現させるためにもアセスをやり直す必要があるという判断が働いたのかもしれません。
 
◇   ◇   ◇   ◇   ◇
 
《JR東海は、各意見を反映させた環境影響評価書を国に提出。その後、工事実施計画を今夏までに認可申請し、今秋にも着工することを目指している。ただ、国の認可時期や沿線自治体との調整にも左右され、着工がずれ込む可能性もある。》

この文章、神奈川新聞から転用したものですが、静岡新聞でも使われていたし、25日の朝日新聞朝刊でも見かけました。
 
共同通信か何かが作成した文章を使いまわしているのかな?。

『着工がずれ込む可能性もある』のではなく、ずれこまなければ工事はできません。
前回も書きましたが、この後のスケジュールをざっと説明しますと…。
 
①JR東海は知事意見やこれまで寄せられた公衆等からの意見を基に準備書の記載内容を修正して評価書を作成し、知事意見を添えて国土交通省に提出する。
 
②国土交通省は、受け取った評価書と知事意見とを環境省に送付する。環境省は、評価書が知事意見や公衆等からの意見を反映しているかを、環境の保全の見地から審査する。
 
③審査結果は環境大臣意見として国土交通省に提出される。
 
④国土交通省は環境大臣意見を受け取ってから45日以内に、同意見書を勘案して環境の保全の見地からの意見をJR東海に述べる(国土交通大臣意見)。
 
⑤JR東海は国土交通大臣意見を受けて評価書を補正し、最終的なアセス結果として国土交通大臣および関係知事・市町村長に提出する(②から⑤までは90日以内)。
 
⑥国土交通省は、事業認可の際に、設計図、事業計画の書類等とともに、補正版評価書を環境面からの審査基準として用いる。
 
⑦事業認可。土地買収等はここから。
結構、先はまだまだ長いのです。

南アルプスを抱える山梨・静岡・長野の知事意見では、さまざまな項目について再調査や再検討をおこない、評価書に記載するよう要求しています(二度手間になるのに先にやっておかなかったJR東海の姿勢が不可解)。JR東海がしんしに受け止めるのなら、これに基づいて調査・再検討を行い、準備書の内容を書き換えなければなりません。
 
景観への影響、列車走行による騒音などの再調査・評価、温室効果ガス排出量といった項目は、室内作業でデータを処理すれば可能なので、それほど時間はかかりません。準備書審議の最中から行っていることも可能です。
 
問題となるのはこういった簡易な項目ではなく、現地調査が不可欠となる項目です。
◎河川や湧水の流量、井戸の水位調査⇒最低でも1年間必要
◎生物相の調査⇒最低でも1年間必要
◎道路の騒音・振動の調査⇒季節によって交通量の異なる場所では、騒音が最大となる季節での調査が必要

代表的なところではこんな感じです。
 
また、南アルプス一帯では、残土の発生量や車両の通行台数を減らすために、静岡・長野とも斜坑の数について再検討を要求していますし、静岡では残土処分計画の全面的再検討も要求されました。斜坑の数を減らしたり残土処分方法を見直せば、先に作成した準備書の記載内容はもとより、全体の事業見通しそのものも大幅に変更しなくてはなりません。
 
◇   ◇   ◇   ◇   ◇
 
以上のように、各都県の知事意見に素直に従うと、最低でも2年は着工できなくなります。10月に着工するならば、こうした意見はすべて無視して、先般の準備書内容をほぼ無修正のまま評価書として国に提出しなければなりません。
 
少し前回の繰り返しになりますが、知事意見を無視した評価書が提出された以上は環境省としても「問題がある」と判断しなければなりません。
 
法律の規定では、環境大臣意見はそのまま国土交通大臣意見となりJR東海に提出されます。JR東海はこれをもとに再度、評価書を検討し、最終的に許認可権者である国土交通大臣に修正版評価書として提出します(⑤)。10月着工を目指すのであれば、ここでの再検討もほぼ無視しなければなりません。
 
その場合、知事意見・環境大臣意見ともに無視した評価書がそのまま国土交通大臣に提出されることとなります。知事意見・環境大臣意見で「問題がある」とされた評価書に基づいて、許認可権者である国土交通大臣はそのまま事業認可できるのでしょうか?
 
「問題がある」という環境大臣意見を無視して国土交通大臣が事業認可したら、仮に裁判沙汰になった場合、「許認可権者の権利濫用」として環境影響評価法上の違法性を問われる可能性があるそうです(環境法関連の多数の文献で指摘されている)。私の思い込みではなく、裁判所がこうした見解を示しています(新石垣空港建設事業をめぐる裁判判決文より)。
 
もっとも、そこまでおかしなアセスの事例はこれまでほとんどなかったようですね。アセスにおける騒音基準のあり方等から裁判に発展し、一審判決で事業認可を取り消されたという事例(圏央道あきる野IC問題など)はありますが、全面的に問題のあることが自明な評価書に基づく事業認可について、裁判の争点とした例はないようです。
 
つまり、問題のある準備書・評価書であった場合は、どうにかクリアできるように準備書段階・評価書段階で事業内容を修正してきたわけなんですね。それが環境影響評価というものだからです。とはいえ、これが容易にできないのが超電導リニアの特性であり宿命なのですが。⇒前回の記事 

というわけで、いくら国交省がJR東海とベタベタくっついていたとしても、さすがにこんなリスクのあることはしないでしょう。
 
というわけで、仮にJR東海が強引に知事意見を無視しても、許認可の前段階で事業内容の修正を要求される可能性が高いと思われます。すなわち、アセスやり直しは避けられない…。
 
◇   ◇   ◇   ◇   ◇
 
また、残土処分場については、静岡を除いて「事後調査」すなわち場所や処分方法を決めるのは評価書確定後でも構わないというニュアンスになっています。
 
とはいえ全ての都県において、場所・方法が決まり次第、環境影響評価手続きを一から行うことを要求しています。
 
その際、きちんと環境影響評価手続きを行えば、最低でも(今から)3年はかかります。残土捨て場となるような里山や谷津田のような場所は、多かれ少なかれ、オオタカ、サシバ、ハイタカ、ツミ、クマタカといった猛禽類の行動域にかかっている可能性が高く、その調査に時間がかかるのです。環境省作成のマニュアルにより、猛禽類調査は12月から2シーズンにわたって行わなければならなりません。
 
繰り返しますが、リニアの建設工事は9割がたトンネル工事なので、仮に本業である鉄道建設の事業認可が先になされても、残土処分方法・先が決まらない限りは物理的・法的に工事を行えません。すなわち、残土処分地が決定し、本格的に工事が行われるまでにはまだ数年はかかるはずです
 
◇   ◇   ◇   ◇   ◇
 
要点がまとまりませんが、兎にも角にも、このまま着工することは不可能です。事業計画全般にわたる見直しが避けられません。
 
どうするつもりなのだろう?

それから、なんでこんな大事になってるのにテレビじゃ報
道されないんだろう?

知事意見を無視した評価書を作成したらどうなる?

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先日、こんな記事がありました。
 
JR東海は27日、2014年度の設備投資計画を発表した。連結ベースでの総投資額は3260億円。このうちリニア中央新幹線の建設関係費として230億円を初めて計上、14年秋の着工を目指す。 
これは、環境影響評価準備書への知事意見の出そろった25日のすぐ後のニュースです。
 
それからこちらはJR東海のHPにあった
《【社長会見】平成26年度重点施策と関連設備投資について》より
超電導リニアによる中央新幹線計画については、環境影響評価書の公告、工事実施計画の認可申請を行うとともに、工事計画を着実に進めます。

だそうです。
 
やる気満々ですが、「あの準備書」で、ホントに着工が認められるのでしょうか?
 
何度も書きましたが、環境影響評価の手続きに従い、JR東海は知事意見をもとに準備書記載内容を修正し、評価書を作成して国土交通省に提出します。受理した国土交通省は複製を環境省に送付し、そこで審査が行われます。
 
(余談ですが、国土交通省経由という回りくどいことをしているのは、許認可権者である国交省が審査をするという、行政手続き上の建前のためだそうです。)
環境省は、審議において、事業者が知事意見に誠実に答えているかを検証することになっています。
 
ちょっと、知事意見について具体的に見てみましょう。わかりやすいところで山梨県知事意見を引用します。
 
イメージ 1
 
赤い線のところで、トンネル真上の温泉について湧出量を把握し、評価書に記載するよう求めています。同県富士川町において、十谷温泉の直下をリニアの長大トンネルが貫く計画になっていることから影響が懸念され、調べろということです。

温泉の湧出量や泉質を把握するためには、最低でも1年間は必要です。静岡県立中央図書館に、伊豆の下田市で計画中の伊豆縦貫自動車道の環境影響評価準備書・評価書が収められていますが、ここではトンネル工事にともなう温泉の状況把握のために、10か所の泉源について1年以上の継続調査を行っています。すなわち、これぐらいはやらなきゃマズいはずです。
 
それから青い線のところでは、トンネルがくぐりぬける2つの川について、現地調査を行うよう求めています。このうち大柳川というのは、以前このブログでも触れたように、「トンネルが川底から100m程度と非常に小さな土被りでくぐり抜け、河川流量に大きな影響が出そうなのになぜか調査をしていない」と指摘したところです。案の定、再調査が求められることになりました。
 
 
イメージ 2
 
河川の流量調査は、工事が与える影響予測・評価の基礎として、その川の現状を知るために行われます。データのない川で現状を知るためには、最低でも1年間の継続調査を行い、豊水位、平水位、低水位、渇水位を把握する必要があります。
 
知事意見に従って評価書を作成するのなら、ここの項目だけでも「調査1年間+データ処理数か月」ぐらいの期間が必要となるはずです。したがって評価書の作成までに1年半程度かかり、それから国の審議を受けるので、着工は2015年後半以降となります。

ところがJR東海の意向通りに「今年秋までに着工」するのなら、1年半どころか一月程度で評価書を作成しなければ間に合いません。知事意見に沿って準備書の記載内容を修正することは時間的に不可能になります。したがって追加調査はおこなわず、その理由を何かごにょごにょ書いて評価書とし、環境省の審査を受けるつもりなのでしょう。
 
その場合、知事意見で、「調査地点が不足しているから評価書までに追加調査しろ」と書かれ、それを実行していない評価書が送られてくるのですから、環境省としても「問題がある」と判断し、知事意見を繰り返さねばなりません。
 
環境省意見で「問題がある」とした評価書で国交省が事業認可をすると、環境影響評価法上の違法性を問われる可能性があるのは前回・前々回指摘した通りです。
 
過去の裁判において、以下のような見解が出されているそうです。
 
北村喜宣(2013) 「環境法」 弘文堂 所収
新石垣空港建設許可の取り消しをめぐる判例より
許認可権者は、アセスメント手続きにおいて作成された環境情報を踏まえて環境配慮適合性を判断するが、それが違法となるのは、「その判断が事実の基礎を欠き又は社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかであるなど、免許等を行う者に付与された裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものが明らかである」場合という。そして、事実の基礎を欠く場合として、手続き上の瑕疵(かし)のために重要な環境情報が収集されないまま評価書が確定したことをあげる。重大な手続き上の瑕疵は、処分の違法につながりうる。
 
赤字部分は判例文そのまま(東京地方裁判所 平成23年6月9日)
ちなみに、この新石垣空港建設のアセスが違法になったわけではないらしい。

少なくとも山梨県知事意見書では、水環境について追加調査を求めており、そのほかにも多岐にわたる再調査・追加調査を求めており、それらの大部分を無視した評価書で事業認可したら、『手続き上の瑕疵のために重要な環境情報が収集されないまま評価書が確定』に該当し、違法性が問われてしまう(あるいは問うことができる)のではないのでしょうか
 
過去に裁判所がこのような見解を示した以上、国土交通省としても、そうそうデタラメなことはできないでしょう。ちなみに空港建設の許認可も国土交通省(新石垣空港がもめていたころは運輸省だったのかな?)。こういう過去はよくご存じのはず。
 
こういう事態は容易に想定できるのに今年秋の着工を目指すのであれば、環境省の審査や過去の判例をスルーできるような、よほど説得力のある「知事意見を無視できる理由」があるとでもいうのでしょうか?
 
皆目、検討がつきません。

「リニア開業でひかり・こだまが便利になる」「空港新駅で便利に」…それってホント?

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「リニアが開通するとダイヤに余裕ができるから静岡駅に停車する本数が増えるし静岡空港に新駅を造れる」みたいなことが言われていますし、リニアの準備書説明会でも話されていました。
 
南アルプスをメチャクチャにするための免罪符…といったところでしょうか。
 
南アルプスなんか山奥だからどうでもいいけど、新幹線が便利になるなら願ってもないチャンス…と思う方がいるかもしれません。
 
でも、ちょっと考えていただきたいのです。
 
静岡県民にとってメリットがあるのは、単に東京、名古屋に素早く行けるだけではなく、名古屋以西(京都・大阪・山陽方面)に直通する「のぞみ」が停まってくれることであるはずです。だからこそ前知事がやっきになって、「のぞみ通過税」を言い出したり、赤字確実な静岡空港を造り始めたわけです。

ところが、リニアが名古屋まで開業すると、東京-博多間の「のぞみ」は廃止されます。
 
これはJR東海が前々から言っていることです。
 
その理由を明確に説明したわけではありませんが、おそらく次のようなことによるのでしょう(あくまで私の推測)。
 
理由① リニア開業後にも東京-新大阪以西直通の「のぞみ」が残っていたら、大半の乗客は品川・名古屋での乗り換えを嫌い、リニアを敬遠してしまう可能性があるから。
出発地点にもよるが、都心→品川→(リニア)→名古屋→東海道新幹線)→新大阪となると、所要時間は2:10程度となり、現在の「のぞみ」による2:33とたいして変わらない。よく考えれば現在のN700Aの「ひかり」だって、通過待ちがない深夜の列車では東京-名古屋を1:45程度で結んでおり、速度が285㎞/hに引き上げたうえでのぞみ全廃となれば、リニアと競合してしまう可能性すらある。
 
理由② 運行体系は名古屋で寸断せざるをえないから
全席指定のリニア利用者が名古屋以西に行くためには、名古屋で接続する東海道新幹線列車も、リニアの利用者(最大950人)分は指定席にせねばならない。すると、もしも東京-新大阪を直通する列車を残す場合、リニア連絡列車については950人分の席を、東京-名古屋間では空席としておかねばならない。そのために16両編成のうち11両をカラにしたまま、東京-名古屋を行き来するなんてことはありえない。よって、名古屋駅の東西で、運行体系は分断されることとなる。

というわけで、2027年にリニアが開業しても、こだまをのぞいてほとんどの列車が名古屋で寸断され、静岡県民にメリットのある列車が設定される可能性は、残念ながら低のではないのでしょうか
 
⇒これ間違いかもしれません m(_ _)m
名古屋駅の受け入れ能力にもよりますが、よくよく考えれば、東京発新大阪行きの「ひかり」を毎時3本程度走らせることは可能かもしれません。名古屋-新大阪間は、毎時ひかり3本と、リニア接続列車4本の計7本を走らせるかたちで…。

たしかに「こだま」の「のぞみ」通過待ちがなくなり、東京、名古屋まで1:40だったのが15~20分程度短縮されるでしょうが、メリットといえば、それくらいだろうと思われます。南アルプスをメチャクチャにすることを考えると、交換条件としてOKといえるのでしょうか?
 
「大阪開通まで30年以上待てば確実なメリットが出る」というのも馬鹿げた話です。
 
 
 
ところで、今日(4/3)の静岡新聞朝刊で、JR東海が静岡空港新駅構想について改めて無理との見解を示したと、報道されました。
 
静岡空港への東海道新幹線新駅設置構想は、川勝県知事が再三にわたって主張されてきたものです。

リニアのトンネルを南アルプスに通すと、大量の残土を県内に捨てるし、それが原因となって土砂災害の危険性があるし、大井川の水を抜くかもしれない…と、静岡県には大問題ばかりが降りかかります。
 
それに対して、「だったら見返りに空港に新幹線駅を造ってくれてもよい」というようなニュアンスも含まれているのでしょう。
 
私自身としては、リニアのトンネル工事とは関係なく、静岡空港新駅なんてやめたほうがいい…というか、無茶だとも思います。
 
確かに、空港の直下に新幹線駅があれば、便利になるようにみえます。でも三島あたりから新幹線を使うなら品川経由で羽田に出る人が多いでしょうし、浜松からでも、セントレアのほうが便利かもしれない。新幹線を使って静岡空港に向かうのは、静岡市民だけかもしれません。掛川あたりならマイカーで出かけるでしょうし。
 
そもそもの問題として、275㎞/hの速度で列車の通過しているトンネルを拡幅することなど可能なのでしょうか?
 
少なくとも、国内に前例はないと思います。
 
また、新幹線列車が停止する部分の勾配は3‰(0.3%=1㎞で3m高さが変化)までと、新幹線鉄道構造規則というもので定められています
 
空港下のトンネルは第一高尾山トンネルといいます。東の大井川橋梁から西の牧ノ原台地に向けての上り勾配区間の途中に設けられた、上り一辺倒のトンネルです。
 
ちょっと、国土地理院の地形図閲覧サービスより、空港周辺の地形図を転載しておきます。
イメージ 1
確かに勾配区間となっていますね。
 
このトンネルの勾配についてネットで検索すると15‰という結果が出てきます。この数字が正しければ、ここに駅を造って列車を停車させることは、規則によってできないことになってしまいます。
 
 
それでも駅を造って列車を停めたければ、
①15‰でも停められるブレーキを備えた車両を開発する
②規則を改定する
③平らなトンネルを上下線それぞれに新設し、そこにホームを設ける。
 
のようなことをしなければなりません。なんだか、非現実的な気がします。
 
それから、いくらかかるのかさっぱり分かりませんが、ボツになったびわこ南駅構想が250億円程度、リニアの地下駅が2200億円ですから、相当な額になるはずです。
 
しかもこれだけお金をつぎ込んでも、駅利用者は空港利用者にほぼ限定されます。周囲は茶畑ばかりですし、島田や藤枝からなら東海道線で静岡・掛川駅に行くのと時間的・金銭的に大差ないですから。
 
静岡空港の年間利用者の当初目標は85万人でした。しかし過大だったとして、先日70万人に下方修正されました。
 
仮に85万人がすべて新幹線を利用したとしても、85万人÷365日で、1日2329人。70万人が使ったとしたら1918人。上下線合わせた人数であることにご注意。
 
県内の新幹線駅で、もっとも乗車人数の少ないのは新富士駅で1日4502人(平成22年度)。降車人数を合わせれば9000人ぐらいにはなるでしょう。
 
空港新駅を造っても、利用者は新富士駅の2割にしかならないのではないのでしょうか。 御前崎や吉田町からの利用もあることにはあるのでしょうが、あまり多くはないでしょう。

赤字の空港に、赤字確実な新駅を造る…?
しかも、それはリニア工事認可との交換条件…?
 
やめたほうがいいんじゃないのかな?

どうしても空港に接続する鉄道駅が必要なら、大井川鐵道を金谷駅からのスイッチバックで延伸したほうがいいのでは…?

リニア新幹線、ホントに造るつもりがあるの?

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このリニア中央新幹線、それにしても計画の進め方がおそろしくヘタクソだな~と感じます。
 
進める側としても、そろそろ、これはマズいと感じている頃ではないでしょうか?
 
◇   ◇   ◇   ◇   ◇
 
リニア中央新幹線事業は、JR東海がおこなう”民間事業”とされています。その一方で、国から全国新幹線鉄道整備法に基づいて建設指示を受けたことにより、”公共事業”ともなっています。
 
いわば”国策民営”といったところであり、民間事業、公共事業、双方の特権がJR東海に与えられています。したがって公共事業としての責任を問われれば民間事業としてすり抜け、民間事業として監視・規制しようとすれば公共事業を盾に退けるということがまかり通っています。

思い込みでもなんでもなくて、各地の準備書審議会の議事録を見れば一目瞭然です。審議会に関わられた方々、そう感じておられるじゃないでしょうか。
 
先日、準備書に対する知事意見が出され、現在はJR東海がそれを受けて準備書を修正し、評価書を作成している最中です。10月着工を目指すのなら、そろそろ知事意見を完全に無視した評価書が出てくるのでしょう。その評価書を環境省が審査し、もう一度JR東海が補正して評価書が確定し、国交省による事業認可審査に移ります。
 
通常の”公共事業”なら、「知事意見に全く答えてない評価書」で事業認可することはありえません。曲がりなりにも修正作業をおこないます。そうしなければ住民の合意がまず得られぬうえ、環境影響評価法33条に違反する可能性があるからです。
 
しかしながらリニアの場合、”民間事業”なのでそこまでは求められませんし、鉄道事業法や全国新幹線鉄道整備法においては住民の合意も不要です。もし環境省が強い意見を出しても、国会経由(与野党ともリニア推進)で横やりが入り、自動的に事業認可となるのでしょう。

要するにまあ、現在のJR東海は無敵なんですね。
 
う~ん、無敵じゃないか。裸の王様かな?
 
今の進め方じゃ、事業認可が出ても着工できそうもないんですよ。
 
物理的に残土がどうのこうのという問題ではありません。人々の信頼という問題です。

ちょっと、事業を進めてもらいたい側、つまりリニアの早期開業を望む側にたって考えてみます。
 
早期開業を望むということは、当然ながら、「早期着工、工事の遅延なし、金銭的にも予定額内、2027年ぴったり名古屋開業!」という円満解決を望むとことでしょう。
こういう進め方を望むのならば、地域住民や自治体に理解してもらうことが何より大切なはずです。要するに「波風をたたせないでスムーズに進めてくれ」ってことです。
いかに新設区間の9割が地下とはいえ、20㎞くらいは地上で工事が行われますし、駅や車両基地だってつくらなければなりません。30か所くらい縦穴・斜坑を設けなければなりません。それから5680万立方メートルにもおよぶ膨大な建設発生土を処分するため、広大な土地も確保しなければなりません。
 
「地下9割」とはいえ、住民から広大な土地を提供してもらわなければ完成しないわけです。
 
それからこれも当たり前ですが、この工事により大きな生活環境と自然環境の破壊が避けられません。いかにリニアの早期開業を望む人とて、生活道路を毎日数百台ものダンプカーが行き来することを全く不快に感じぬことはないでしょうし、目の前に高さ20m級の高架橋が出現することに対し、違和感を覚えぬ人もあまりいないと思います。
 
騒音、振動、地下水・川の枯渇、動植物への影響、鉱毒、ウランを含む残土、遺跡の破壊、景観の破壊、磁界、エコパーク…現在、リニア中央新幹線計画においてあがっている環境破壊の懸念について数え上げたらキリがありません。知事意見でも出されていることから、住民だけでなく行政としても見過ごせないレベルになっちゃったんですね。
 
こうした不満・不安・懸念をいかに最小限におさえるか。そこに事業の成否がかかっているとみて間違いないでしょう。
 
しかもカネですむ問題じゃない。「水がなくなる」って心配しているところに札束はたいたって何の意味もない。
さらに技術的・科学的にどうにかなる性質でもない。何しろ「前例のない事業だから何が起こるかわからない」のが不安のもとなんだもん

環境アセスメントというものは、こうした住民のもつ不安・懸念について、事業者・行政・住民とが一緒になって考えるというコミュニケーションの手法と位置づけられています(建前上は)。
 
場合によってはアセスの途中で事業内容が変更されたり、場合によっては中止を決断したりします。そのためにアセス結果を修正して評価書を作成したり、評価書をさらに補正する手続きが定められているのです。合意形成のための手段ともいえます。
 
そこで事業者が真剣に環境配慮をしなかったらどうなるでしょうか。
 
その場合、不安・懸念が高まる一方です。合意形成どころか、不満が高まり反対運動が頻発しかねません。失敗事例とされた、各地の大型公共事業で繰り返されてきた光景ですな。

だから最近のアセスは、こういう事態を避ける意味でも、いかに事業者が環境配慮に気をつかっているか、PRする場にもなっているようです。分かりやすい記載にしたり、専門家の審査に耐えうる資料を掲載したり、シミュレーションの計算過程を公表したり…

どうしてもこのリニア中央新幹線計画を進める必要があるのなら、それがいかに社会にとって要不可欠なものであり、それに住民がどう関わるか、ということを、事業者であるJR東海と地域住民とが一緒になって考え、合意形成を目指さないと、まず前に進まないと思うのであります。そのためにはアセスで真剣に環境配慮を考え、住民の信頼を得るのが大前提のはずです。
 
 
悪いけれども、今までのところ、JR東海には「合意形成を目指す」姿勢がぜーんぜん感じられません。スケジュールからみて今後もそうなのでしょう。国の建設支持を錦の御旗として強引に推し進めようというようにしか見えません。
 
このままでは確実にモメますな。
 
こんな状況を引き起こして誰が得をするの?
 
●JR東海⇒反対運動に対して手を焼き、いつまでたっても着工できない。
●推進したい自治体⇒JR東海の尻拭いをさせられ、住民からの不振だけが募る。
●推進したい住民や政治家⇒反対住民に圧力
●不安のある住民⇒反対運動に労力を使うのみ。
●地元⇒地域コミュニティの破壊。将来像なきまま月日がたつ
 
 これじゃつくりたくてもつくれませんよ~!
 
話があちこちに飛んでしまったのでまとめ!
 
大型プロジェクトを進めるのならカネ・技術・コミュニケーション能力の3点が欠かせないが、いまのJR東海は、三番目の能力に明らかに欠けている。これでは永久に前に進まず、混乱を引き起こすだけであろう。これは進めたい側にとっても不利益である。
(別にご機嫌伺いをしろとか、カネをばらまけとか、そういうことをしろという意味ではないので) 
 
いつまでも「大動脈の二重系統化にご協力を」じゃ通用せんよ!!

アメリカにリニア技術無償提供? NEPA法でのアセスが気になる

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なんでもアメリカに超電導リニア技術を無償提供するそうです。

今のところ産経新聞しか伝えていないようなので、どこまで信頼できるのか、よくわからりませんが…。
 
私kabochadaisukiは、こういう技術輸出に関することは全くの門外漢なのだけども、JR東海という民間企業の技術を、政府が密室会議でポーンとあげちゃっていいのかな? という疑問を抱きました。
 
中央新幹線計画においては、一応、JR東海は民間企業だし、国交省や政治家も「民間事業なので」という建前により、あまり指導するようなことはしていません。
 
今回はこのような話らしい(新聞記事より引用)
技術提供の場合、「ライセンス料」を受け取るのが一般的だが、短期的な資金回収よりも、リニア新幹線を米に確実に売り込むことを優先する。無償提供であっても、車両や部品の量産効果に伴うコスト削減、世界的な知名度の高まりによる販路開拓で、十分に利益を得られると見込んでいる。

おかしくないかい?
 
どうして”民間企業”の開発した技術を政府の方針というか一存で無償提供できるの?
 
国鉄および独立行政法人が開発主体であったから政府が勝手に扱ってよいという認識なのかな?

だったらリニア中央新幹線だって政府が指導しなさいよ。
 
よくわかりません…
 
それよりわからないのが、日本のアセスでさえ非常にいい加減なものが、アメリカの環境アセスメントを突破できるのかという疑問。ちなみに日本でのアセスがきわめていい加減なのは、どんなに詳しく丁寧に調査・予測をしたところで、計画を全く修正できず(ルート変更不可能、残土は物理的に消せないなど)・、意味がないところに原因があります。
 
アメリカでは州ごとに環境影響評価制度が異なっているようですが、連邦政府が意思決定に関わる事業計画に対しては、国家環境政策法(National Environmental Policy Act:通称NEPA法)という法律に基づくアセスメントが行われるそうです。
 
もし造るとなれば、現計画ではバージニア州内だけだけれども、アメリカ連邦政府が導入計画に関わっている以上、このNEPA法が適用されるはずです。
 
NEPA法とは、1969年に、世界に先駆けて環境アセスメント制度を規定した法律で、その後、各国の環境影響評価制度のモデルとなっています。環境先進国と呼ばれるようなドイツやオランダなども、これをモデルとしているだけあって、様々な先進的取り組みが含まれており、はっきりいって日本のアセスメント制度とは比べ物にならんほど厳しいもののようです。

《日米、環境アセスメントの大きな違い》
●調査・予測・評価を行うのは環境諮問委員会(CEQ:Council on Environmental Quality)という大統領直轄機関
⇒日本では事業者だから「問題ない」のオンパレードにしてしまう。それが通用しない。
●審査するのは環境保護庁(EPA:Environmental Protection Agency)
⇒日本だと環境省と自治体。自治体は事業者と一体化していることが多いから、「問題ない」としがちだけど、そうはいかない。
●戦略的環境影響評価
⇒NEPA法は、政策のあらゆる段階に適用されるらしいので、「リニア導入の是非」という政策段階でも、この法律に基づいた環境配慮が求められると思われる。日本の中央新幹線小委員会のように、走行方式やルートの決定過程において、全く環境面からの審議をしないなどという馬鹿げたことは行われないはず。
イメージ 1
 
イメージ 2
 
どちらも国交省中央新幹線小委員会作成の答申より複製
こんなアホなことはできない

●調査対象
1 提案行為が環境に与える影響
2 当該提案が実施された場合に回避することのできない環境へのすべての悪影響
3 提案行為の代替案
4 人間をとりまく環境の局地的、短期的な利用と生産性の長期的な維持、向上との関係
5 提案行為が実施された場合に起こる不可逆的で回復不可能な資源の消失
⇒「代替案」というのが非常に重要で、「ワシントン-ボルチモア間に公共交通機関を設ける必要があるのなら、リニア以外にどのような案があるのか」ということを環境面から検討しなければならない。日本のように「最初からリニアで決定」ではない。リニアより優れた案があるのなら、あるいは環境破壊をしてまで造る必要性が認められなければ、そこでボツとなりかねない。
●住民の意見提出機会は4回
⇒日本では3回。自然保護運動や市民運動の活発な土地がら、自然破壊が問題になるケースなら、意見書が数十万通送られることもあるらしい。

どんな事業でも、立地場所の選定が環境配慮の大前提であり、アメリカのアセス制度では、この段階での検討が義務付けられているわけです。
 
特に鉄道のように線状の開発では、ルートの選定過程における環境配慮が非常に重要です。ところが超電導リニアは時速500キロで突っ走るから、周囲の環境に合わせてルートを柔軟に変えることができません(だから南アルプスを串刺しにして自然破壊が問題となっているのである)これは「代替案の比較検討が不可能」ということであり、NEPA法における環境アセスメントでは致命的な欠陥でしょう。
 
なお、冒頭の新聞記事では「世界的な知名度の高まりによる販路開拓」なんて書いてあるけれども、EU加盟国では戦略的環境アセスメントが導入されており、そもそも高速鉄道網を構築中であることも考慮すると、高速鉄道よりも環境面よりも優れていることを説明せねばならず、販路は皆無でしょう。
 
さらに、「大きな環境破壊をしてまで造る必要性があるのか」ということが問われる。日本では不問とされていたことであるが、どう答えるのでしょう?
 
向こうで事業を担当するのがJR東海なのか、日本政府なのか、アメリカ政府なのか、合同であちらで法人を立ち上げるのか、現段階では全然分かりません。しかし少なくとも今の日本でJR東海が行っているようなアセスでは、本格的に環境問題を議論する前に、必要性の判断段階で却下されるに違いありません。重要な自然保護地域を避けることなく串刺しにするような計画、計画に疑問に抱く声をことごとく無視するような進め方ならなおさらです。
 
リニア技術について、アメリカの環境アセスメントでどのような審判が出されるのか、実に興味深いところです。

【参考リンク】
環境影響評価法の日米比較と法施行による環境訴訟に与える影響について

知事意見に答えるのは事業認可後で構わないというカラクリ

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アメリカへリニア技術を無償提供&5000億円融資云々という話が出てきましたが、それは横に置いておきます。
 
環境影響評価準備書に対する知事意見が提出されてから3週間が経ちました。
 
もしJR東海が今年秋の着工にこだわっているのなら、スケジュールの都合上、もうそろそろ評価書が作成されることになります。
 
知事意見について見てみると、再調査や再評価を求めるものが多数出され、中には河川流量や動植物のように、調査自体に1年以上かかるようなものもありました。残土処分方法を明らかにしたうえでアセスをせよというものもありました
 
(例 山梨県知事意見)。
赤や青の線を引いた部分がそうですね。
 
こうした意見に忠実に回答するためには1年半~2年の期間が必要ですが、当然のことながら、そんなことをしていたら今年秋の着工は不可能です。おそらく着工後の「事後調査」と称し、事業認可後の調査に回すのでしょう。
 
「事後調査」
 
分かりにくい言葉です。

最近まで、「工事中または完成後に環境が適切に保全されているか確認すること」が事後調査だと思い込んでいましたが、環境影響評価制度に詳しい知人に伺いますと、そうではないそうです(これは法38条で定められた報告書作成義務)。
 
以下、概念が分かりにくいので、法律の文章を引用して説明してみたいと思います。
 
事後調査というのは、「環境影響評価法第十四条1のハ」という部分で規定されています。
 
(評価書の作成)
第二十一条 事業者は、前条第一項、第四項又は第五項の意見が述べられたときはこれを勘案するとともに、第十八条第一項の意見に配意して準備書の記載事項について検討を加え、当該事項の修正を必要とすると認めるときは、次の各号に掲げる当該修正の区分に応じ当該各号に定める措置をとらなければならない。
 一  第五条第一項第二号に掲げる事項の修正
 ⇒ 同条から第二十七条までの規定による環境影響評価その他の手続を経ること。
 二  第五条第一項第一号又は第十四条第一項第二号から第四号まで、第六号若しくは第八号に掲げる事項の修正
 ⇒ 次項及び次条から第二十七条までの規定による環境影響評価その他の手続を行うこと。
 三  前二号に掲げるもの以外のもの
 ⇒第十一条第一項及び第十二条第一項の主務省令で定めるところにより当該修正に係る部分について対象事業に係る環境影響評価を行うこと。
2  事業者は、前項第一号に該当する場合を除き、同項第三号の規定による環境影響評価を行った場合には当該環境影響評価及び準備書に係る環境影響評価の結果に、同号の規定による環境影響評価を行わなかった場合には準備書に係る環境影響評価の結果に係る次に掲げる事項を記載した環境影響評価書を、第二条第二項第一号イからワまでに掲げる事業の種類ごとに主務省令で定めるところにより作成しなければならない。
一  第十四条第一項各号に掲げる事項
二~四 
 
第十四条は以下のとおり
 
第十四条 事業者は、第十二条第一項の規定により対象事業に係る環境影響評価を行った後、当該環境影響評価の結果について環境の保全の見地からの意見を聴くための準備として、第二条第二項第一号イからワまでに掲げる事業の種類ごとに主務省令で定めるところにより、当該結果に係る次に掲げる事項を記載した環境影響評価準備書(以下「準備書」という。)を作成しなければならない。
一~六 
 七  環境影響評価の結果のうち、次に掲げるもの
  イ 調査の結果の概要並びに予測及び評価の結果を環境影響評価の項目ごとにとりまとめたもの(環境影響評価を行ったにもかかわらず環境影響の内容及び程度が明らかとならなかった項目に係るものを含む。)
  ロ 環境の保全のための措置(当該措置を講ずることとするに至った検討の状況を含む。)
  ハ ロに掲げる措置が将来判明すべき環境の状況に応じて講ずるものである場合には、当該環境の状況の把握のための措置
 
非常に分かりづらいのですが、「21条の2」に基づき、評価書には「環境の保全のための措置」と「環境の保全のための措置が将来判明すべき環境の状況に応じて講ずるものである場合には、当該環境の状況の把握のための措置」とを書くことになります。
 
リニアの場合、現状では何も決まっていないことがたくさんあり、それが判明するのは将来=事業認可後だから、当面の措置として現状把握をする必要があり、そのために、再び調査をするという方針を評価書に書いておけばよいという解釈が成り立ちます。これは着工前だけど事業認可後なので「事後調査」となりうるようです。
 
JR東海は各地の説明会や準備書審議会で、「事業の詳細を明らかにできるのは詳細な測量等を終わらせた事業認可後」と繰り返していましたが、これがまさに、第十四条の「環境の保全のための措置が将来判明すべき環境の状況に応じて講ずるものである場合には、当該環境の状況の把握のための措置」であり、当該環境の状況の把握のための措置が、事業認可後の調査ということになります。
 
 
 
例えば「残土について事後調査せよ」という意見が、長野県や神奈川県から出されました。これについて解釈しますと、
 
残土処分に関係する環境保全策(環境の保全のための措置)を決めるためには、残土の処分方法・場所を決めなければならない。それは事業認可後に決まる(将来判明すべき環境の状況に応じて講ずるもの)ってJR東海は言ってるのだから、現時点ではわからないのだろう。だから、場所や方法が決まったら適切に調査する(当該環境の状況の把握のための措置=事後調査)と評価書に書いてくださいね。
 
こんな具合なのでしょう。
 

言葉遊びかヘリクツのようですが、おそらくこの解釈により、「調査をしていない」というのは事業認可のうえでは不問に付されます。
 
整理しますと、

確かにJR東海による調査は不十分である、知事意見でも再調査をして評価書に記載するよう求めている。しかし法律を忠実に解釈すると、評価書には事業認可後に再調査する旨を記載しておけばよいことになっている。これが事後調査である。したがって知事意見は全て事後調査で回答するとすれば、事業認可には何ら関係がない可能性が高い。
 
こんなところなのでしょう。
 
つまり、事後調査とは、
業開始調査
ではなく
業認可調査
にもなりうるのですな。
 
もちろん、法第21条に基づき、事業者が自主的に環境影響評価を一からやり直すことも可能です。しかしまあ、そんなことは望むべくもないでしょう。
 
ついでながら、知事意見を完全に無視したところで、知事としては法律上、文句を言う規定はありません。知事意見に答えないことは問題ですが、文句を言ったって、環境影響評価法の上では何の拘束力ももちません。
 
知事意見<法律
 
ですので。
 
 
しかしすごいですねえ。
 
国交省中央新幹線小委員会の答申
「具体的な環境配慮はアセス段階で」
JR東海作成の環境影響評価配慮書
「大まかなルート等は方法書段階で明らかになるので環境配慮方針はその際に明らかにする」
JR東海作成の環境影響評価方法書
「詳細な環境配慮方針は準備書で説明する」
JR東海作成の環境影響評価準備書
「具体的な環境配慮は評価書で」
 
と先送りを続け、今度は評価書で「不足している調査は事業認可後に」と書くことになりそうです。事業認可後に調査結果が出されても、それについては一般市民も市町村長も県知事も環境大臣も、誰も意見を言うことができず、事業計画には全く反映されなくなります。
 
ぶっちゃけ、「都合の悪いことは全て事業認可後に先送りして文句を言われなくなる」という裏ワザです。
 
そうなった場合
第一条に規定された環境影響評価の目的「その手続等によって行われた環境影響評価の結果をその事業に係る環境の保全のための措置その他のその事業の内容に関する決定に反映させるための措置をとること」から逸脱してくるんじゃないのでしょうか?
 
少なくとも、第三者の意見を組み入れて事業計画を修正してゆくという、環境影響評価の正規手続きからは逸脱します。

トンネル湧水の大井川へのポンプくみ上げは壮大なるムダではないのかな?

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南アルプスの中南部に、
 
二軒小屋
赤石
赤石沢
田代川第二

という5つの水力発電所があります。いずれも大井川に堰を設けて取水し、発電しています。
 
イメージ 2
 
 枠内を拡大
 
 
イメージ 1
 
二軒小屋、赤石、赤石沢の3発電所は、いずれも大井川の本・支流に設けられた7つの堰から取水し、大井川本流へと落とし、発電しています。それぞれの発電所のデータは以下の通り。
 
【二軒小屋発電所】
西俣・東俣から常時1.15㎥/s取水、常時2100kw(最大26000kw)発電。
【赤石沢発電所】
大井川本流・西河内沢・赤石沢上流部・聖沢から常時0.76㎥/s取水した水を赤石沢下流へ落として常時1500kw(最大19000)発電。
【赤石発電所】
赤石沢発電所に落とされた水を赤石ダムにため、常時1.06㎥/s取水して大井川本流に落とし発電。常時発電はせず、最大39500kw発電。
 
いずれも中部電力の発電所で、水を本来の川から地下水路に流し、合わせて常時3600kw、最大84500kw発電しています。このため、川の流量はかなり減ってしまっています(ただし、最終的には大井川本流に戻されています)。
 
また田代川第二発電所は東京電力所有で、大井川本流から取水し、県境の稜線をくぐって山梨県側の内河内川(早川支流:富士川水系)へ、標高差500mを落として発電しています。認可された常時取水量は1.98立方メートル/秒で、常時8300kwを発電しています(最大5.34㎥/s:21700kw)。
 
以上のように、南アルプス山中となる大井川源流部でも、かなりの水力発電所関連の施設が造られ、大井川の水を使っています。4か所を合計した最大出力は10万6200kwありますが、常時発電しているのは11900kwです。
 
水力発電所は、貯水槽に水をため、ピーク時に合わせて多く落として出力を増やす。

当然のことながら、これらを造るために環境が破壊され、例えば沢登りの世界では天下の茗渓とうたわれた赤石沢は、取水による流量減少と工事による土砂流出により、下流側半分がただの河原に変化してしまったそうです。東俣、西俣、西河内沢いずれも同じ傾向だとか。
 
いくらなんでも場所が悪いよなあ…。

以上は予備知識。

JR東海による予測によると、トンネル工事に伴い、大井川本流の流量が約2㎥/s減少、支流の西俣でも約1㎥/s減少するとされています。この水はトンネルに湧き出し、東側の早川方面への流れ出すことになります。そしてもしこの予測が当たってしまった場合、ポンプでトンネルから水をくみ上げて流すとしています。
イメージ 4
流量減少予測 準備書より作成
 
イメージ 3
準備への意見に対する見解書より複製
 
以前にも書きましたが、このポンプが消費するエネルギーについて、ちょっと考えてみました。

ポンプを動かすのに必要なエネルギーは、

P=ρ×g×Q×H÷η×(1+α)…①
 
で示されるそうです。大井川・早川流域界直下のトンネル標高は約980m、2㎥/sの減少が予測される二軒小屋斜坑付近は標高1390mなので、2㎥/sの水を410mくみ上げることとなります。
 
ここで①の式に
ρ:水の密度 1000㎏/㎥
g:重力加速度 9.8ms・s
Q:くみ上げる水の量 2㎥/s
H:くみ上げる高さ 410m
η:ポンプ効率 0.8と仮定(詳細不明ですがこんなものらしい)
α;余裕率 0.15
 
を代入すると、約11600kwという数字が出てきます。つまり、ポンプで水をくみ上げて流量減少に対応するのであれば、常時11600kwのエネルギーを消費し続けねばなりません(実際には摩擦の影響などもあるので、もっと大きくなる)。
 
また、二軒小屋斜坑より160m高い西俣斜坑付近でも1㎥/sの減少が予測されています。生態系維持などの対策には、ここまでさらに1㎥/sをくみ上げねばなりません。ここでのエネルギー消費を見積もってみると、①の式に、Q=1㎥/s、H=160mを代入して、約2300kw程度となります。
 
さらに、西俣斜坑より170m高い西俣上流部でも0.6㎥/s程度の減少が予測されています。ここまでくみ上げるのなら、またまた1200kwのエネルギーが必要。
 
合わせて15100kw
 
 
以上のように、JR東海の主張通りにポンプくみ上げで流量減少に対応するには、常時15100kwのエネルギーを消費し続けねばなりません。これは東海道新幹線を1本走らせるのに必要なエネルギーと同等であり、きわめて無駄な消費といえます。

エネルギーがムダなだけでありません。必要なエネルギーは、当然、電力会社から供給される電力でまかなうはずです。この15100kwという概算値は、前半部分に書いた通り、大井川源流部から取水して発電している11900kwと同じかそれ以上になります。これでは、何のために取水して発電しているのか、意味が分かりません。
 
JR東海は、水をくみ上げることを「環境保全措置」としていますが、逆に無駄なエネルギー浪費になるうえ、かつての発電所建設が、大規模で無駄な自然破壊となってしまいます。

特に大井川水系と早川水系という関係に着目しますと…
 
東京電力が、大井川から約2㎥/s取水し、早川水系に500m落として発電しているのが8300kw
JR東海が、大井川から早川へ2㎥/s流出しないよう、地下410mからくみ上げるのに必要な電力が11600kw
 
おかしくありませんか?
 
これじゃあ、JR東海がくみ上げるよりも、中部電力・東京電力に取水をやめてもらったほうが明らかに消費エネルギーが少なくてすみます。
 
もちろん、そんなことをしたら発電所施設が不要となるので、設備(発電所、取水堰、導水トンネル、送電線)の全面的撤去と自然回復を、JR東海が責任をもって進めてもらう必要が出てきますが。
 
大井川の水のくみ上げ構想は破綻してるんじゃないんかな?

この評価書、情けないよ…

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23日に環境影響評価書が出されてから、一週間ほどかけて静岡県版の評価書を読み終えました。そんなわけで、しばらくブログから遠ざかっていました。

一言でいうと…
 
何これ?
 
 
ふつう、環境影響評価の問題は、「環境への影響の懸念が払しょくされていない」「影響がないという結論に合わせているばかり」というところにあります。
 
ところがこの評価書は、そういう標準的な問題(?)に達してません。それ以前に
①記載内容のつじつまが合っていない
②必要な調査・予測・評価をしていない
③実行不可能な環境保全措置を平気で書いている
④環境保全措置が自然破壊
⑤危険性を認識してない
⑥本当に調査したのかわからない
⑦確信的に条例違反?
⑧知事意見にすら答えていない
⑨準備書よりも劣化

という情けないレベルです。これ、ホントに評価書なの…?
 
①の例
工事中は川の流量が減少すると予測しているのに、減少しない前提で水質予測をおこなっている

②の例
河原や谷底で工事をする計画であるのに、河原から離れた山腹の生態系を予測・評価の対象とし、改変しないから生態系に影響は与えないという結論を出している。そして肝心の河原や谷底は調査対象外である。改変を計画していない場所だけを環境影響評価の対象とした、意味不明な内容である。
 
③の例
環境への影響を小さくするために、車両の通行ルートを適切に選ぶという。大井川源流部には1本しか道がないのに、どうするつもりなのかさっぱり分からない。
 
④の例
イヌワシやクマタカへの影響を小さくするために、大井川源流に長さ5㎞のトンネルを掘ることが環境保全措置だという。この工事だけで県内発生分の残土を2割増やし、大量の車両が通行したりするので、イヌワシやクマタカのみならず多方面に余計な影響を増やすような気がするけど、これでも環境に配慮した計画なのらしい
 
⑤の例
谷底から500mも高い山のてっぺんに大量の残土を積み上げても安全なのだそうだけど、わざわざ崩壊の危険性を高めているという認識は毛頭ないらしい。
 
⑥の例
景観の予測においては、工事中・完成後の予想図で評価するという作業がおこなわれる。この評価書でもやったらしいけれども、予想図が掲載されていないので、本当にやったかどうかもわからない。
 
⑦の例
静岡県の場合、奥大井県立自然公園において工事が計画されている。自然公園内では、県条例によって採取・損傷の禁じられている植物種がある。しかしそれらの種に対して環境影響評価の対象とせず、環境保全措置を講じていない。また、県希少野生動植物保護条例で採取・損傷の禁じられている植物についても、その生育地を残土で埋め立てる計画である。

⑧知事意見で計画の見直しや再調査についていろいろと求められているが、ことごとく無視している。
 
⑨準備書において、トンネル工事で大井川の流量が減少するという予測が出されたため、これについて「渇水期はどうなるか」という説明を求める意見が多数出された。これに対し、JR東海が評価書で出した数字は、減少後の渇水期流量は現在の豊水期流量よりも多いというものであった。わけがわからない。
 
 
気付いた点をチェックしていったら90個くらいになってしまいました。しかもほぼ全ては準備書の段階で指摘されていたことばかりです。上に書いた①~⑦も、全てこのブログで再三取り上げたものです。
 
①、⑥、⑨のように、構成が間違っているようなことも訂正せずに、評価書にしちゃったようです。

ちょっとマズいよコレ…。
 
マズいっていうか、情けないよ…。
 

「渇水期には水が増える」って意味不明なんですけど!?

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ネットで検索すると、ちらほらリニア反対&批判の記事が見つかります。関心をもつことはよいことです。しかしながら、そういうのを見ていてものすご~~~~~く不満が募るのも事実。
 
●あんなものいらない
●誰が乗るのか
●あんなアセス意味がない!
●情報隠ぺい!
いつまでもおんなじことの繰り返し…少し調べてから書けよ!!
 
別にネット上で何を騒ごうが個人の勝手なんだけれども、
 
何の根拠もなくいらない、あぶない、自然破壊、原発再稼働前提

と騒ぎ立てても

それはJR東海が何の根拠もなく必要、安全、環境は保全できる、原発には頼らない
と主張するのと同じ穴のムジナなんだと思うのであります。
 
環境影響評価書というものを、公式文書としてJR東海が作成し、ネットで公開してるんだから、文句があるならそれに基づいて批判すればいいのに、どうして誰もそれをやらずにわけもわからず○○の一つ覚えのように、ステレオタイプな反対論を繰り返すんだろう???
 
まあ、いいや

本題に入ります。
 
準備書が出されたときに、大井川の流量が2㎥/s減少するという記述があったことから、大騒ぎとなりました。しかし、このブログでは、どうも試算するにあたってメチャクチャな数字を前提としているんじゃなかろうかという疑問を投げかけました。
 
その疑念は評価書において、ますます強くなりました。
 
静岡県知事意見で、「渇水期はどうなるんだ」という指摘が出され、それに対するJR東海の見解が評価書に掲載されているのですが、その値がまたしてもメチャクチャなのです。
 
これがそのやりとり。静岡県版の評価書6-3-13ページより転載しています。
イメージ 4
 
「渇水期の流量は以下の通りです」と書かれ、表には『現況の流量(解析)』とありますね。解析流量というのは、「コンピュータの中で自然環境を再現してみたところ、計算上はこのぐらいの流量が流れているはずである」というものです。あくまで理論上の値です。
 
これが実際の流量をうまく再現できているか、というのが重要となります。実測値に近ければ、モデル式は信頼できるといえるし、的外れな数字ならモデル式が信頼できなくなります。ところがJR東海は、ものすご~~~く肝心なこの検証作業をおこなっていません。ここの知事意見(左側)を見ると、ちゃんと説明せいっ!って書いてあるのになあ~
 
ここで、表の最下段「地点番号07 大井川(赤石発電所木賊取水堰上流)」というところにご注目ください。渇水期の流量は、理論上3.17㎥/sであるとしています。
 
そして、この地点番号07における通常時の解析流量は11.9㎥/sであるとしています(評価書の表8-2-4-5より)。
イメージ 1

実はJR東海は、水質調査・予測のために、この地点番号07の下流約1㎞の地点で流量を実際に調査しています。この2地点を見比べてみます。
 
その調査結果はこちらの表8-2-1-6(1)にあります。紛らわしいですが、ここでは地点番号06としています。豊水期は2.99㎥/s、低水期は2.26㎥/sであったそうです(低水期という言葉の意味が不明ですが、渇水期と同じことを意味するのでしょう)
 
イメージ 2
 
 
ん!?
 
おかしくないですか!?
 
計算上、流れているはずの流量は通常時11.9㎥/sで渇水期は3.17㎥/sなのに、実際には、豊水期でも2.99㎥/sしか流れていなかった!!
 
分かりにくいと思うので、図にまとめてみます。
イメージ 3
 
 
 
計算上の渇水期流量は、実際の豊水期流量よりも多い!?
 
豊水期の解析流量は、実測流量よりも9㎥/sも多く見積もっているのなら、減少後の9.87㎥/sというのも9㎥/s差し引いて考えなければならないってこと??
 
渇水期の解析流量は、実測流量よりも0.9㎥/s多く見積もっているのなら、減少後の1.63㎥/sというのも0.9㎥/s差し引いて考えなければならないってこと?
 
それとも取水の影響?
 
解析流量は取水されていない状況を表していて、実態に合わせるためには、さらに取水分を差し引けってこと?

 
完全に意味不明です。
 
こんなもの、信頼できません。
 
 
もちろん、モデル式が万全なわけがなく、完璧なものを求めるのは不可能です。しかし問題は技術論ではありません。
 
解析流量の問題は準備書の段階で再三指摘されているのに、全く修正も検証も解説もしないで評価書に掲載したというのが大問題なのです。
 
評価書はれっきとした公式文書なのに、こんなものを世に送り出すとなれば、恥知らずというか、確信犯というか、情けない。
 

評価書(静岡県版)にぶちキレました

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最近どうも体調が悪く、ブログから遠ざかっております。不眠症なんですよ…
 
夜中にパカパカ目が覚めてしまう…


 
リニアの評価書なんですけど、何度も繰り返した通り、1997年の環境影響評価法制定以降、まれに見るひどいシロモノなんじゃないかと思うのであります。
JR東海のページ
 
先日、長野県から知事と関係市町村長が環境省へ直訴をしたそうですが、こういうことが起こるのも極めて異例でしょう。現在、北海道新幹線や北陸新幹線の延伸工事が行われていますが、こんなことは起こっていないし、他の事業でも、原発の事例を除き、知事自ら”民間事業”の評価書内容に対して環境省へ直訴するなんて聞いたことがありません。
http://www.shinmai.co.jp/news/20140514/KT140513ATI090008000.php
 
環境影響評価というのは、事業の実施に先立ち、環境に与える影響を予測・評価し、市民や自治体の声を考慮して環境保全措置を考えてゆく制度とされています(環境影響評価第1条)。
 
事業者と住民・自治体とがコミュニケーションをとる場でもあります。
 
え~とですねえ、わたくし、静岡県版の評価書全部と一部他県の評価書に目を通しました。
 
で、ブチ切れました。
 
JR東海さん、
あんたら、何様のつもりですか?

 
ここに、沖縄県の辺野古米軍基地建設計画の評価書に対し、日本自然保護協会が出した意見書があります。
 
こちら辺野古埋め立てアセスもひどいもので、「史上最悪のアセス」とまで酷評されてきましたが、それでもリニアのアセスよりはマシです。
 
辺野古埋め立てアセスの評価書は、一応、必要な調査・予測が行われています。その結果に対して無理やり「影響がない」と言い張っているので、日本自然保護協会はじめ各方面から、調査結果に対して批判が出されました。言ってみれば、結論ありきの評価書に対する批判です。
 
ところがリニアの評価書(静岡県版)はさらに低レベル。必要な調査をおこなっていないんです。だから批判もしようがない。さらに住民意見はもとより市町村や県知事の要請にも全く耳を傾けない。
 
 
リニアのような大事業を行うとしたら、どうしても犠牲が避けられません。
 
バカでかい高架橋や車両基地の出現により、何百という家屋が移転を余儀なくされるに違いありません。そしてそこに育まれてきた地域社会も、歴史・伝統も、将来も、地上から消し去ってしまうかもしれない。
 
膨大な残土を処分するためには、何百年と受け継いでた田畑や、多くの生き物を生き物をはぐくむ森や原っぱや川を、この世から消し去ってしまうにありません。
 
長大なトンネルを掘れば、遠い昔から多くの生命をはぐくんできた川を枯渇させ、金輪際消し去ってしまうかもしれません。
 
我が国を代表する美しい南アルプスの山河もメチャクチャに破壊してしまうに違いありません。

JR東海という企業が、東証一部上場の超一流企業だか、世界一の東海道新幹線を運営してるすごい企業だか何だか知りませんが、所詮は一民間企業。その一企業が、自社の思うが儘に人々の大切にしているものを奪い去ってよいはずがありません。
 
とはいえ、どうしてもリニアというものを造らねばならず、それを壊さねばならないのなら、最低限の礼儀と作法を守らなければなりません。そのひとつが、最善を尽くして環境影響評価をおこなうことだと思うのであります。失われゆくものへの、せめてもの償いとも言えるかもしれません。何でもかんでもカネじゃすまないんですよ。
 
辺野古埋め立てアセスを行った防衛省には、まだその姿勢が見えたけど、JR東海には全く感じられない。
 
 
環境影響評価さえ満足に(行えないのではなく)行わないのだから、この会社に生活環境と自然環境とを壊す資格はないと思います。

この評価書(静岡県版)、はっきり言って社会をナメてます。
 
 

評価書(静岡県版)にブチ切れた その1 扇沢発生土置き場の詭弁

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バカにしくさっていると感じたのが「評価書 資料編8 発生土置き場の安全性について 8-1 扇沢付近発生土置き場」です。
 
これは標高2000mの稜線上にまでトンネルを掘り、東京ドーム2杯分程度の残土を捨てようという狂気じみた計画。このブログで何回も指摘し、そればかりか静岡市長・静岡県知事ともども「やめろ!」と繰り返した危険この上もない場所。
 
ちなみにGoogleEarthで見るとこんな感じ。
イメージ 2
 
地形図で示すとこんな感じ(Kabochadaisuki作成)
イメージ 3
左側の道路トンネルの長さは2150mとなっていますが2500mの誤りです。

 
 
以下に評価書を複製して貼り付けます。書いたのがJR東海なのか調査を担当したコンサルタント会社なのかどちらか存じませんが(評価書に書いてよ!)、論理的に支離滅裂で意味不明なのです。
 
本当にこの内容で自信があるのなら、この文章をもって地すべり学会や地形学会や地理学会の場で発表しに行ってみてもらいたいものです。
 
イメージ 1
 
イメージ 4
>地質確認を目的として現地踏査やボーリング調査を実施している
⇒だったらその現地踏査やボーリング調査結果を評価書に掲載してください。
 
>扇沢の谷底部は岩盤が露頭しており、
⇒それってどういう意味なんでしょうか 露頭という言葉は、「地層が露出している場所」という意味です。 意味不明です。
 
>ボーリング調査においても岩盤を確認しており、
⇒そりゃまあ、山の中ならどこだってボーリングで穴を掘れば岩盤にたどり着くはずです。その岩盤の種類、地層の走行・傾斜、亀裂の状況、風化の程度を示さなければ、岩盤を確認したことが何の意味を持つのか伝わりません。
 
>現地踏査でも扇沢東斜面を除き特段の問題は確認されておらず
⇒問題が確認されているならマズいのではありませんか?
 
>扇沢の谷底より西側の稜線付近は比較的良好な岩盤が分布するものと推定される
⇒何をしたのかもわからないのにどうしてそういう結論に至るのか、読んでいる側として論理的に意味不明です。
 
>伝付峠から扇沢に至る稜線には溝状凹地が点在しているが、
⇒そういう場所であること自体、ここが非常に不安定であることを意味しています。溝状凹地というのは、重力によって山肌が崩れ始めることによって生じた亀裂であるとされており、そういうものがあることは要注意ってことのはずです。
 
>概ね図8-1-1で認識されている地すべり地形に合致しており
⇒図8-1-1は、防災科学研究所が空中写真を使って推測したもので、その作業で示された地すべりは、かなり大規模なものである可能性が高いものです。その場所に溝状凹地を確認したのであれば、それはヤバさを現地確認したということです。
 
>これらを包括するような大規模な崩壊の兆候が顕在化しているようには認められないこと
⇒何でそういう結論が出てくるのか論理的に意味不明です。前の文章とつながっていません。
 
>および本地域における崩壊の主要因とされる隆起や
⇒隆起が崩壊の主要因といういい方には語弊があります。活発な隆起は、崩れる場=山を形成する作用(内的プロセス(endogenetic)とよばれる)であって、崩す作用(外的プロセス(exogenetic process))とは別の概念です。地形学の教科書で冒頭に書いてあることであり、大学の学部生のレポートでさえ、こんなことを書いたら怒られます。
 
>川の下刻に伴う侵食は非常に長い期間で進行する現象であることから中央新幹線の共用期間中において大規模崩壊を懸念すべき状況にない。
おもいっきり間違っています。侵食は、常にガラガラ崩れているわけではなく、間欠的に崩壊として起こるものです。
2011年9月の紀伊山地、2005年の九州山地(ともに台風による豪雨)とかで大崩壊が頻発したように、規模の大きな侵食なら、一挙に数十~100m程度後方へ崩れることも珍しくはありません。まして本地域は大崩壊の密集地域です。それに、大崩壊を起こす引き金となる「東海地震」というものを想定しなければならないはずです。
 
>従って、発生土置き場の詳細を検討する段階で岩盤の状態を考慮しながら配置などを決めていくことにより安全性の確保は十分可能であると考えられる。
⇒ですから、なぜ安全なのか論理的に意味不明なのですが…
 
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>なお、山梨県との境界側の稜線の斜面下方に地すべりが想定されているが、西側に発生土を置くことによりその末端を押さえることになるため、地すべりに対して抑制的に作用するものと考えられる。
⇒その地すべりについて詳細な調査を全くしていないのに、なんでそんなこと言えるのか不明です。
 
>また、扇沢の西側の稜線より西を上端とする地すべりも想定されているが、これに対して計画されている盛土は、地すべりの情報斜面の荷重の増大を招いて地すべりを誘発するような関係にはなく、特段の影響を与えないものと考えられる。
⇒こっちも何も調べていないのに、なんでそんなことが言えるのか、全く分かりません。
 
>いずれにしても、長期的な安全確保の観点に立ち、計画段階において必要な地質調査、慎重な現地確認及び斜面の安定性の検討を行うとともに、関係機関と協議を行う。
⇒結局、現段階では何も分かってないってことじゃないんですか!?
それに関係機関である市や県は、「ここはやめてくれ」と言ったはずですが?
 
事業認可後に詳細な調査を行って、ここの発生土置場が本当にヤバいことが判明した場合、数百万立方メートルの残土の行方が定まらなくなります。すると静岡県版の評価書の内容は全面的に無意味になりますし、山梨や長野の評価書内容も大きな変更につながります。南アルプスにトンネルを掘ることが、残土の取り扱いという面で物理的に不可能になるかもしれませんが、事業認可後では容易に後戻りできなくなってしまいます。建設費や事業計画全般の見通しにも大きな影響を与えることは間違いありません。
 
 
必要な調査は今やらなければならないはずですが??
 
 
それから図8-1-1についてさらなる疑問が二点。

まず、扇沢の南側に大規模な地すべりがあります。JR東海の計画では、扇沢に残土を捨てに行くため、ここに長さ3㎞のトンネルを掘るとのことです(図中黒い太点線)。
 
地すべりをぶち抜くトンネルなど正気なのでしょうか?
標高差500mを一気に駆け上がるトンネルですから(16%勾配)、これ以上深くして勾配をきつくさせることは難しいので(重機・人員輸送の車両が通行できなくなる)、トンネルを深く潜らせて地すべり下方を迂回することは無理であるはずです。静岡でいえば、由比のさった峠のような、大規模対策工事が必要になるかもしれませんが、そうしたら評価書の記載内容など無意味になります。
 
それから、扇沢は山梨県側からも崩されているのが一目瞭然です。しかしその点についても言及はありません。これはどうなってるのでしょう?
 
 
また、ふつう、残土の表面は植物で覆い、積み上げた残土が雨、風、地震、凍結・融解作用で崩れないようにします。ところがここは標高2000mという高地のうえ、稜線上で風当りの強い場所です。大面積の緑化は不可能です。これではいつまでたっても残土は不安定なままです。
 
 
 

扇沢のヤバさにとどめをさすようなものがこちら。
 
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評価書の4-2-1-65ページから複製・加筆した図です。

発生土置き場と示された円の中心を、南北に黒い線が貫いていますね。
これ、断層です。井川-大唐松山断層といいます。活断層ではありません。しかし断層のそばは破砕帯といって岩が砕かれているので、常識的に考えて、盛土を行うことは禁物のはずです。岩盤がボロボロだと重さで沈下してしまうからです。この断層について、「安全性について」では全く触れていません。
 


 
以上のように、「発生土置き場の安全性」と言いながら、その中身はデタラメばかりです。地形学を学ぶ大学1年生のレポート水準にも達してません。ところが、JR東海はこんなシロモノを環境影響評価書として正式に作成しました、
 
 
市民をバカにしているとしか思えません。
 
 
 
 
 
 

評価書(静岡県版)にブチ切れた その2 セミやキツネを守って川を守れるかっつーの!

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環境影響評価に「生態系」という項目があります。
 
これがデタラメそのものなんです。
 
以下の記事は、準備書の段階で書いたブログ記事(1/14)をほぼ踏襲しています。
分かりにくい概念ですが、ぶっちゃけ、こんな具合でしょうか?
 
「生き物同士のつながり(食う・食われるの関係、住み分けなど)に対し、その事業がどのような影響を与えるか」を予測・評価する。
 
生き物同士のつながりって言ったって、極めて複雑です。とらえるスケールの大小、気候、地形、水条件、地表を構成する物質(石とか砂とか)の移動…それこそ無限の区分基準があります。
 
生態系は地形・地質・気候によって、あるいはスケールのとり方によって幾通りにも分類できますが、これを全て評価対象とすることは事実上不可能なので、次のA、B、Cのような条件を満たす種や植物群落が影響評価の対象になります。
 
「A.上位性の注目種」
生態系の頂点に立つ捕食者が存続するためには、エサとなる多様な小動物と、その小動物のエサとなるさらに小さな生物や植物が広範囲にわたって健全に生きてゆく環境が不可欠です。したがって食物連鎖上位の動物を保全対象にすることは、広い範囲の環境保全につながるという概念です。ちなみにこのような種のことを、アンブレラ種とよびます。傘のように、様々な種を覆って保全すうるという意味です。
 
「B.典型性の注目種」
改変の対象地域で広く見られる動植物は、その場所の自然環境を代表しているものであり、それを保全することは、その場所の自然環境の保全につながるという考え方です。
 
「C.特殊性の注目種」
湿地、岩稜、汽水域、湧水、崖、高山、特殊な地質など、他に代替のない自然環境に基盤をもつ生態系を守ろうという概念です。
 
ふつう、それぞれか2~4種ずつ代表を選んで環境影響評価の対象とします。最初にも述べたとおり、地形が複雑な場所でしたら、ほんの少し移動するだけで環境は大きく変わりますので、生態系区分もよりきめ細やかに詳しくなされねばなりません。
 
これらを総合し、その地の環境を評価・保全しようとするのが、現在の日本で行われている生態系評価の概念です。
 
で。リニア中央新幹線の準備書を見てみます。なんで準備書?と疑問に思われるかも知れませんが、評価書でも全く修正していないから、皮肉を交えて(評価書を複製するのが面倒だし)あえてこうしています。
イメージ 1
 
 
 
これだけ?
 
キツネ
クマタカ
ツキノワグマ
ヒメネズミ
エゾハルゼミ
ミヤコザサ-ミズナラ群集(ミズナラの林)
 
わずか6種で南アルプスの生態系を評価できるってか!?
 
ムチャクチャです!!
 
キツネ、クマタカ、ツキノワグマ、ヒメネズミ、エゾハルゼミ、ミヤコザサ-ミズナラ群集(ミズナラの森)…こんなもん評価対象にしたって、工事計画とはぜんっぜん関係ないでしょ!
 
まず根本的な間違いとして、工事を計画しているのは川岸であり、残土を捨てるのも河原であり、そのうえトンネル工事で川の水が減るって予測しているのに、川の生き物が対象になっていません

そりゃまあ、キツネやクマだって水辺には来るでしょうが、別に水辺に全面的に依存した生き物じゃあないでしょ。少なくとも、川の水が減って直接的に大ダメージを受けるような生き物じゃあない。
 
現地調査で確認された、動植物リストから、パッと見て水辺を主要な生活空間にしていると直感した生き物たちを挙げてみるとこんな感じ。
 
(哺乳類)
カワネズミ、イタチ、コウモリ類
(魚類)ヤマトイワナ、アマゴ、カジカ
(両生類)ヒダサンショウウオ、ハコネサンショウウオ、カジカガエル…
(鳥類)ヤマセミ、アカショウビン、カワガラス、ミソサゾイ、キセキレイ…
(樹木)ドロノキ、サワグルミ、トチノキ、シオジ、フサザクラ、オオバヤナギ、オヒョウ、エゾエノキ、カツラ
(草本)カワラニガナ、シナノナデシコ、ミヤマタネツケバナ、コンロンソウ、ダイモンジソウ、シダ類
そして水生昆虫をはじめとする何百種類にのぼる水中の小動物。
 
 
ちょっと、これらの生き物のつながりを考えてみます。
 
 
渓流魚であるイワナ・アマゴ・カジカ等の渓流魚の餌は、夏場を除いて水生昆虫が大半を占めます。水生昆虫は渓流魚だけでなく、カワネズミ、コウモリ類、鳥類、カエル類など、河川とその周辺に生息する様々な動物にとって重要な餌となっています。
 
水生昆虫の餌は落葉です。斜面における落葉の移動距離は最大で25m、通常15m以内という報告がなされているため、河川への落葉は、ほぼ全てが 河畔林・渓畔林といった水辺林によってもたらされると考えられます。
 
それから、水中における落葉の分解速度は樹種によって異なりますので、水辺林に多 種の樹木が生育することにより、河川中の落葉は一挙に消費されつくすことなく、長期にわたって水生昆虫の餌となり続けます。
 
したがって水生昆虫の 維持には、水辺林の存続が欠かせないんですね。
 
いっぽう、水生昆虫が羽化して水中から姿を消す夏季には、渓流魚の餌の大半は、水辺林からの落下昆虫によって供給されているという報告がなされています。
 
それから今述べた水辺林。この中も非常に重要。
 
ハイキングに行ったときに、ボーッと歩くのではなく、注意深く周りを見渡していただくとお気づきかと思うのですが、水辺って、植物の種類が豊富なんです。土壌水分・湿度が高いうえ、川の流れなどで頻繁に倒木や土砂崩れが起き、その跡地に小さな草が生えたりしてくるからなんです。洪水や土砂の移動の影響を受けるっていいうのがミソで、こういうのを生態学用語で擾乱(じょうらん)とよびます。
 
水辺林では擾乱が頻繁に起こるから生物の種数が多いともいえます。
 
それに水辺林というのは、水辺で暮らす鳥や両生類の重要な生息場所ともなります。あたりまえですが、カエルなんかは沢沿いの湿った森なんかに多く、山の上にはごく少ないですよね。植物でも湿ったところを好むものは、当然ながら、沢沿いの水辺林に多く生えてきます。そして水辺の大木は、羽化した水生昆虫を狙う小鳥の採餌場にもなるし、営巣場所にもなる。
 
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渓流と水辺林のイメージ
南アルプスとはあまり関係のない、静岡県静岡市清水区興津川上流部にて
 
また、川岸とは言っても特に水辺に近く土砂の移動の活発な場所には、ヤナギ類など一部の種を除いて高木が生育せず、開けた河原となります。こうした河原には、洪水に強い性質をもった植物が生育し、またそれを食べる昆虫が集まります。南アルプスの残土捨て場候補地一帯は、こうした環境に応じた、高山性の蝶など、独自の生態系が成立しています。
 
こういう場所が工事予定地になっているので、当然、いろいろな動植物への影響が懸念されます。
 
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でも、関係のないミズナラ林が評価対象になっているんです。
 
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ほらね。わずか3.2%しか改変しないんだって。
改変しない森林を
評価対象にして
何の意味があるんだ⁉
 
 
 
 
それから前回指摘した通り、標高2000m地点に残土を捨てようと目論んでいます、標高2000mになると、寒すぎてミズナラ林は成立せず、変わって寒さに強いシラビソ、コメツガ、トウヒといった針葉樹林が成立します。いわゆる亜高山針葉樹林というものであり、北海道北部と共通した植物種が分布します。ミズナラ林とは、気候という点で、根本的に成立条件が異なります。
 
イメージ 4
環境省のHPより転載
たぶん、亜高山帯針葉樹林に100万立米単位で建設残土を捨てるのは、初めてのことじゃないのかな?
 
 
それなのに、なんで全然関係のない山腹のミズナラ林やらセミなんて評価対象にしてるんだ?
 
 
 
 
こういう、複雑な生態系を完全に無視しているのが、この評価書なんです。
 
捻挫で病院に行ったら、熱を測って「平熱だから大丈夫だよ」と言われて帰されるようなものです。

バカにしてるんですか?

現在、静岡県の伊豆半島(下田市)において、伊豆縦貫自動車道建設事業の環境影響評価が行われています。その準備書が、静岡県立中央図書館に置かれています。このアセスでは、生態系において
【山地の樹林地】
 「上位性」
  ⇒テン、オオタカ、サシバ、フクロウ
 「広い面積を覆う代表的な森林構成種」
  ⇒スダジイ群集、コナラ群集、スギ・ヒノキ植林
 「優先する植物を食べる昆虫」
  ⇒ナカキシャチホコ、クロクモエダシャク(どちらも蛾)
 「生態系基盤とつながりの深い生物」
  ⇒タゴガエル
【丘陵地】
 「上位性」
  ⇒アナグマ、フクロウ
 「典型性」
  ⇒イノシシ、メジロ、ヤマアカガエル、ヒメハルゼミ
 「優先する植物を食べる昆虫」
  ⇒ホソバシャチホコ
 「特殊性」
  ⇒キクガシラコウモリ、谷津田の生物
【耕作地】
 上位性
  ⇒イタチ、カワセミ、ヤマカガシ
 典型性
  ⇒水田雑草群落、オイカワ、ヨシノボリ、水生昆虫、ホソヘリカメムシ、トノサマガエル
【開放水域】
 上位性
  ⇒ミサゴ、アオサギ、カワセミ
 典型性
  ⇒ゴクラクハゼ、シマヨシノビリ、ミゾレヌマエビ、水生昆虫、イシマキガイ
ごく普通の里山環境でのアセスでさえ、このように何通りかに区分し、30種程度の生物を対象に挙げるのが、現在の生態系評価の水準なんです
 
ふつうの水準も守れなくてどうすんの!?
 
この水準を適応すれば、リニアの評価書では、
まず河川と森林とに区分。
河川は渓流、河原、崖とに3区分。
 
森林は亜高山帯と温帯とに区分。
亜高山帯は常緑針葉樹のシラビソ林、崩壊地跡地のダケカンバ林、崩壊地とに3区分。
温帯林は水辺林と山腹の林とに区分。
水辺の林は斜面下部と河原のヤナギ林とに区分。
山腹の林は植林地とミズナラ林とに区分。
 
 
これで渓流、河原、崖、シラビソ林、ダケカンバ林、崩壊地、山腹の林、斜面下部の林、ヤナギ林、ミズナラ林、植林地との11に区分、この11それぞれ典型種、上位種を2~3種ずつえらんで、合計60種ぐらいは評価対象に選ばなければなりません。

評価書(静岡県版)にブチ切れた その3 景観評価がまるでデタラメ

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静岡県版の環境影響評価書、トンデモ記載の宝庫になってるんですよ。
 
今度は「景観」。

静岡の場合、リニアの路線は地上に出てきませんが、巨大な残土捨て場が7地点、それから斜坑2本と道路トンネル2本が掘られるので、出入口が合わせて6か所出現します。
 
イメージ 2
準備書を複製
 
まず、トンネルについて考えてみます。
 
参考までに、新東名高速道路の建設工事で静岡市街地郊外に造られた、作業用道路トンネルの写真を貼り付けます。リニアの道路トンネル断面積は41㎡なので、この写真程度の断面(内幅7.5m)になるとみられます。
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静岡市葵区にて
 
南アルプスの場合、おそらく上記の場所より岩石の風化が激しく、また常に侵食にさらされている川岸近くに造られる計画なので、こんな具合に周囲をガチガチに固めなければならないかもしれません。なお、斜坑は道路トンネルよりも一回り大きく、こちらの写真程度になるのでしょう。
イメージ 3
静岡市葵区 国道362号線新間トンネル
 
南アルプスの奥深い場所ですから、そんな異様なものが7か所も出現したら、渓谷や山岳の景観を大いに損ねるのではないでしょうか。こういう不安や疑問を誰しも抱くので、当然、景観に与える影響も環境影響評価の対象となっています。
 
では評価書を見てみましょう。なお、トンネル出入り口のことを評価書では「非常口(山岳部)」と呼んでいます。
 
イメージ 4
 
なんだこれ?

(赤く線を引いた部分)トンネルは景観資源の中にない。トンネルの見える範囲に景観を見る点(眺望点)も存在しないから、景観への影響はない…???

はあ~!? Σ(゚д゚;)
 
しかも青く囲った部分をよ~くご覧いただきたい。「主要な眺望景観について、フォトモンタージュ法を用いてその変化の程度を予測した」ってありますよね。フォトモンタージュ法というのは、写真に完成予想図を合成するものです(マンションの広告にあるようなもの)。
 
でも、評価書には一切載っていない…。
 
予測結果も載せていないのに何を言っているんだ!?
 
関係者の方には失礼ですが、「本当に調査したのか??」という疑念さえ抱いてしまいます。
 

 

それから意味不明なのが残土捨て場の予測。
 
南アルプスのど真ん中に当たる二軒小屋というところの近くに、バカでかい残土捨て場が計画されています。どのぐらい捨てるのか分かりませんが、県内発生分360万立方メートルのうち、おそらく100万立方メートルぐらいは捨てるのでしょう。平均厚さ20m(電信柱の倍近く!)の盛土にすれば、短辺100m、長辺500mという広大な規模となります。
 
とにかく、確実に数百メートル四方‼
 
静岡市街地の感覚でいえば、駿府公園を全面厚さ10m程度の残土で覆うようなものです。
 
二軒小屋というのは登山拠点になっていて、そこまで送迎用のマイクロバスがやってきます。残土捨て場はそのバスが通る林道沿いに計画されていますので、バスの車内から否応なく、この巨大な残土の山を見ることとなります。
イメージ 5
これについては一応イメージ図が載っているわけですが、それがこちら。
 
イメージ 6
 
ん?
 
っていう感です。ちっちゃくて何も分かりませんね(それにど~も、残土捨て場が見えにくいような角度で撮った気がしてなりません。もし左手の木の枝が折れたらどうなるんだろう?)
 
それもそのはず。イメージ図のベースとした写真は、直線距離で2~3㎞(!)も離れ、900mも高い登山道の途中(山の上)から撮影されたものだからです。
 
この残土捨て場のイメージ予測については、この図だけです。
 
無意味とは申しませんが、なぜそんな遠くからの予測だけ?
 
これまた静岡市街地付近の感覚でいえば、安倍川の河原に何かをつくるときに、竜爪山の山頂からのイメージ図だけに基づいて景観予測をするようなものです(静岡以外の方、分かりにくくてごめんなさい)。
 
環境影響評価においては、ある点を「眺望点」と定め、そこからの眺望がどのように変化するかという手法で予測・評価がなされます。この評価書では、すぐ横に林道が通っているのにもかかわらず、この残土捨て場を見ることのできる”眺望点”は、この2~3㎞離れた山の上ただ一点しか存在しないという、JR東海のナゾめいた判断に基づいているのです。
 
なんという自己中心的な判断でしょう…
 
途中の林道から、否応なく目の前に見えるはずです。

しかもその林道については、評価書の中で「人と自然との触れ合い活動の場」に選定しているものです。
 
だったら林道から見た場合を想定しろよ~!!! (`Д´)

しかもよ~く見ると、残土捨て場は緑色に塗られています。これは「緑化が完成して木々が生い茂っている」状況をイメージしたものだからです。
 
んんっ?
 
開業予定は2027年だから工事終了予定は2026年ごろ。それから木を植えて大きく育てて…って、
 
おい!  (;゚⊿゚)ノ

このイメージ図って、何十年後なんだよ⁉
 
 
 
 
 
 

山梨など他県では、「景観への影響はない」とする評価結果に対し、非論理的で自己中心的だという批判があるそうです。ところが静岡の場合はそれ以前の問題。
 
ホントに調べたかどうかすら分からない。

イメージ図はわざわざ見えにくい場所を選んで作成したのかもしれない。

疑惑だらけ!!
 

 

評価書(静岡県版)にぶちキレた その4 大井川の流量予測は粉飾・虚偽記載では?

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今回は流量問題の本質を。
 
毎秒2トンの水が大井川から消える!!という準備書の記載内容が、静岡におけるリニア懐疑論に一気に火をつけた感があります。
⇒去年11/8の静岡新聞記事
 
この記載、評価書にも受け継がれています。
 
イメージ 6
 ⇓ 拡大
イメージ 5
イメージ 1
(注)地点07は地点06より10㎞ほど下流側
 
 
中央新幹線 環境影響評価書(静岡県版)を複製・加筆
 
これですね。下の3つの段。確かに2立方メートル/秒=2トン/秒の減少という予測です。これは下流側60万人の生活用水に匹敵する量。それにもともと流量の小さい源流部で水が減ったら、渇水期には干上がって魚などが全滅してしまうかもしれない。
 
ものすごく心配ですね。
 
でもちょっと待った!
 
この大井川における流量減少問題については、流量が減るということを心配する以前に、「調査・予測・評価方法そのものが異常である」ということに注意すべきです。
 
この表をよく見ると、現況の流量には(解析)という注記があります。要するに、トンネル工事による流量減少を計算する際、コンピュータに、地質条件や降水量や気温条件などの値を入力し、「現在これぐらいは流れているはずだ」と出された値です。計算をするために、解析値を試算の前提にすること自体はおかしくありません。数値シミュレーションを行う際、一般的に行われていることです。
 
とはいえ解析値はあくまで理論上の数字
 
じゃあ、現実の川にはどれくらいの水が流れているんだ?
 
と思って検証するのが正常な感覚ですよね。現実の河川における流量の値が分からなければ、こんなのは単なる数字の遊びにすぎません。例えば赤く囲った「地点06 大井川(田代ダム下流)」では、現在の解析流量は9.03㎥/sとなっていますが、じゃあ、本当はどれぐらいなのか?

実は、信じがたいことですが、計算をした地点において現実にはどのくらいの水が流れているのか、JR東海は全く調べていません。少なくとも評価書には載っていません。
 
いや、マジで。
 
はい証拠。評価書のコピーです。
イメージ 2
中央新幹線 環境影響評価書(静岡県版)を複製・加筆
ホンモノの川でどれくらいの水が流れているのか、調べていない!?
 
水質への影響予測の前提のために、申し分程度に調べているものの、この流量予測地点とは違う場所ですし、しかもたった2回しか調べていないので、何の参考にもなりません。
 
 
◇   ◇   ◇   ◇   ◇
 
 
流量減少を計算する式(水収支モデル)の詳細は存じませんが、式の形式を見た限りでは、概要は気象庁がおこなっている天気予報(数値予報モデル)と似たようなものとみられます。
 
天気予報で、
「明日の最高気温は今日より8℃も下がる予報だ。今日の最高気温は計算上25℃だったから明日は17℃になると思われる。だけど実際に今日は何℃まで上がっていたのかは調べていない」

こんなバカな予報はありません。でも、この評価書の形式はまさにコレなんです。
 
なんで、正体不明な「解析流量」が現況の値と言えるんだ?

なんで実際の流量を前提として計算しないんだ?
 
 
◇   ◇   ◇   ◇   ◇
 
 
川の流量を把握するためには、最低でも1年は必要です(本来は数年)。どの時期に流量が最大になり、どの時期に最低になるのか、最低になった場合はどれくらいまで減るのか、そういう年間の変動を知るための最低条件です。
 
その間、月に1度程度川を訪れて流量を測定するか、自動的に水位変動を記録する装置を川に設置する必要があります。ちなみにこの手の装置は、水害対策のため全国あちこちに設置されており、街中の川沿いを歩けばよく目にします。
http://sipos.shizuoka2.jp/sipos/index.html(静岡県土木総合防災情報)
 
道路トンネル建設のアセスにおいても、これぐらいは普通に行われています。
 
リニアの南アルプス横断トンネルから南へ約40㎞。静岡県との県境に三遠南信自動車道・青崩トンネルというものが計画されています。この工事における環境影響評価書のうち長野県版が長野県のHP上で公開されていますので、リニアのアセス評価書と比較してみましょう。http://www.pref.nagano.lg.jp/kankyo/kurashi/kankyo/ekyohyoka/hyoka/tetsuzukichu/aokuzuretoge/hyokasho.html
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三遠南信自動車道 青崩峠道路 環境影響評価書(長野県版)を複製・加筆

はい、ちゃんと現地で河川流量を1年以上かけて観測してますね。機械による自動観測も行われています。
 
なお、静岡県側の分はネット上では公開されていませんが、評価書の実物が県立中央図書館に収蔵されています。やはり同様に、10か所程度で1年半かけて、流量の調査が行われています。
 
 
◇   ◇   ◇   ◇   ◇
 
 
長さ4~5㎞のトンネル工事でも、こうやって河川流量を1年をかけて調べています。これが通常のアセスです。それなのに、JR東海はサボっているように見えます。

なんでこんな幼稚なことをしているのか?
 
推測①そのための費用をケチった?
たとえ現地調査をしても5~6兆円の建設費から比べれば”はした金”です。こんなことをして不信感を買うぐらいなら、最初から調べるはずです。それ以前に、ダムの放水量なら、電力会社か県庁に問い合わせれば電話1本でわかることです。
 
推測② 本当の流量を知らせたらエライことになる?
私はたぶん、こちらだと思います。
 
 
 
ここから先が今回の本題。
 
 
 
冒頭の図8-2-4-5で、JR東海は「地点06田代ダム下流」での解析流量は9.03㎥/sであり、トンネル完成後は7.14㎥/sに減少すると予測しました
 
しかしこのダムを管理する東京電力が河川環境維持のために下流側へ流している流量は、夏場は1.49㎥/s、冬場は0.43㎥/sだけです。
 
つまり、実際の河川流量は、このぐらいにまで減る可能性があります。
 
ここから疑問を感じ、実際の流量統計を探しておりました。
 
 
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少々古いですが、平成19年の田代ダムにおける取水量と放水量です。全部を合わせた値は、地点06で本来流れている流量に相当します。
 
グラフのうち、濃い水色部分が発電用水に取水された分で、紺色は余った分。薄い水色は、取り決めによって川に常時流される分。実際に川に流される量は、紺色部分と薄い水色部分を合わせた量になります。
 
冬場の2か月間は、河川流量は取水しなくとも2㎥/s程度なのです。これに取水が加わり、現実の川には0.43㎥/sしか流れていません。
 
これに対し、JR東海の予測はピンクの点線部分。確かに年平均値の減少に対する予測としてはこれでも妥当かもしれませんが、実際の河川の年変動という観点からでは、全く妥当性を欠いています。
 
 
なお、この年が異例に少ないわけではなく、その前年も似たような推移をたどっています(リンク先参照)。平成18年の場合、秋にも2㎥/s近くにまで減少していました。

さて評価書には、ここの上・下流側の地点05、07における渇水期の予測が載せられています(位置については冒頭の地図参照)。
 
この試算における現況流量は4.08~3.17㎥/sであり、実査の冬季流量2㎥/sよりも1~2㎥/sも大きくされており、妥当性について強い疑問があります。それでもこんなのしか参考に使えないのですが、そこでの減少量は1.8~1.5㎥/sと予測。
 
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この条件下でトンネルを掘って流量を減らしたらどうなるのでしょうか?
 
さらに注意していただきたいことをもう一点。
 
この地点06は、西俣と東俣とが合流している場所の下流側になります。このうち、東俣の流量はトンネル工事の影響はさほど出ないという予測が出ています(表を参照)。ということは、地点06の減少は、西俣の大幅減少を意味しています。
 
冒頭の地図と表6-3-1(13)をよくご覧になっていただきたいのですが、「地点01西俣二軒小屋発電所取水堰上流」では、渇水期の現況1.18㎥/sが0.62㎥/sに、0.56㎥/s減ると予測されています。ところがこの取水堰、川から取水しているのは0.6㎥/s程度で、河川環境維持のために常時下流へ流しているのは0.12㎥/s、渇水期の本来の流量は、おそらく1㎥/sもありません(合流後が2㎥/sだから当然)。それから0.56㎥/s減ったら、干上がってしまいます。
 
つまり、冬場には、地点06の下流側から01あたりまで、10㎞以上にわたる長い区間で干上がる可能性があるということです。
 
 
 
ちょっと整理しましょう。
 
実際の大井川の地点06では、冬場の流量はもともと2㎥/s程度であり、取水のため0.43㎥/sにまで減少している。これは文献調査で明らかである。いっぽうトンネル工事による減少量は1.5~1.9㎥/sと試算された。0.43㎥/sから1.5~1.9㎥/s減少したらゼロになってしまう。東京電力に取水を停止してもらっても、もともとの流量は2㎥/sしかないので無意味である可能性が高い。
さらに、この流量激減は大井川最上流部の西俣の奥地にまで及ぶ可能性が高い。
 
こういうわけです。これを受けて、JR東海が本当の流量を評価書に載せない理由が見えてきました。
 
すなわち、トンネル工事によって、冬季は長期にわたり、大井川源流部の広い範囲を干上がらせるという試算結果が出ていたということです。
 
事業を進めたいのならば、とてもじゃないけどそんなことは評価書に記載できないと判断したのでしょう。「2か月ほど大井川が消滅する」なんて記載したら流域から批判・反対の声が高まるのは必至ですし、「適切な環境保全措置が講じられていない」として事業認可を受けられなくなる可能性が現実味を帯びてきます。それゆえ、実際の流量を評価書に載せるのはためらい、正体不明の「解析流量」でごまかした。
 
こんな具合じゃなかろうかと…。

手抜きというレベルではなく、これは虚偽・粉飾・隠ぺいです。
 
データ改ざんの一種かもしれません。これで事業認可したら、環境影響評価手続き上の瑕疵(かし)であり、違法性があるんじゃないかと思います。
 
◇   ◇   ◇   ◇   ◇
 
そういえば、政府の成長戦略だか何だかに、リニアの大阪開業前倒しを明記したとかなんとか聞きますが、最低限の環境影響評価すらマトモに行えない事業者に、国家プロジェクトの遂行能力があると、どーして判断できたのでしょうか?
 
カネをつぎ込む前に、違法性スレスレの、どーしようもない評価書を、公文書としての使用に耐える最低水準にまで引き上げるよう指導してください。 
 
それが政府の存在意義でしょう!?
 
マジで公害まき散らしになりますよ。

 

異例づくめの環境大臣意見 リニアの環境影響評価書は失格

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中央新幹線建設事業に対する環境大臣意見が出されました。
ぱっとみたところは簡単に見え、新聞報道などではこれで大丈夫なのかと「?」マーク付きで報じられていますが、実は異例の内容です。
 
まず、全体で12ページあります。これ自体が異例のことなんです。
 
例えば、リニアに相当する規模の事業の環境影響評価で出された環境大臣意見は、平成13年の北海道新幹線(250.7㎞)に対するものが最後です。規模自体はリニア(286㎞)とほぼ同じですが、同時に行われた北陸新幹線・九州新幹線への意見と合わせ、たった1~2ページ程度しかありません。
 
あるいは最近(今年5/1)評価書の出された道路建設事業『都市計画道路阿久根薩摩川内線(18㎞)』への大臣意見も、たったの1ページ半。
 
それから火力発電所建設の場合はこんな具合。
http://www.env.go.jp/press/press.php?serial=18109
(今年2/21 石狩湾新港発電所建設計画)
 
成田新高速鉄道建設事業の場合も、やはり1~2ページ程度。
http://www.env.go.jp/press/press.php?serial=6395
(平成17年9/28)
これらに比べると、12ページというのは異例の分量だと言えます。

ここから先は、リニアへの意見と合わせ、上のリンク先にある過去の意見例をご覧になってからお読みください。
 
さて、リニア評価書への環境大臣意見に移ります。
 
まず、冒頭1ページにわたり、前文が設けられ、そこで「ほとんどの区間はトンネルで通過することとなっているが、多くの水系を横切ることとなることから、地下水がトンネル湧水を発生し、地下水位の低下、河川流量の減少及び枯渇を招き、ひいては河川の生態系に不可逆的な影響を与える可能性が高い
 
本事業の実施に伴う環境影響は枚挙に遑がない
 
これほどのエネルギー需要が増加することは看過できない
 
環境の保全を内部化しない技術に未来はない
 
 
等と、懸念が書き並べられています。
 
普通、このように懸念を書き並べた前文が環境大臣意見に添えられることはありません。
 
私、リニアのことを調べるために、過去の大臣意見例50~60件程度に目を通しましたが、本件のように冒頭で懸念を長々と表明したものには出くわしませんでした。
 
というのも、常識的には準備書への対応により、評価書が作成された段階では、懸念事項は基本的に対応されているとみなされるからなんですね、
 
それなのにあえて前文を書き加えて、そこで計画全般への懸念を表明したのです。
 
これはつまり、この事業(=リニア建設)を、この評価書のまま始めた場合、環境への非常に大きな悪影響を与えることが確実視されたため、このまま着工させてはならないと、環境省が国土交通省に正式に通達したという意味です。同時に、これが政府の公式見解です。
 
本当に異例のことで、評価書としては失格の烙印を押されたに等しい内容なんです。
 
大臣意見は、具体的な指摘事項に乏しいように見えますが、評価書は法律上、知事意見つまり地域ごとの具体的な指摘事項を勘案して作成されたものという扱いであり、それに対する大臣意見では、知事意見と重複する内容は基本的に省かれるためです。
 
しかしJR東海は知事意見を無視しているんですね、この点については、前文および末尾にある「関係する地元自治体の意見を十分勘案することが必要」という部分で、「知事意見に大してはマトモに答えさせなければならない」ということを、国交省に対して求めています。国交省は、これを反故にすることはできません。っていうか、おそらくは環境省内において、打ち合わせ済みなのでしょう。
 
上に掲げたそのほかの大臣意見例では、こんな当然のことは求めておらず、わざわざ書かれることも異例なんです。
 
 
とにかく異例づくめなんです。
 
ところで、ネットで新聞報道を見渡してみると、リニア計画に反対している人々からは一斉に「落胆の声があがった」かのように書かれています。実効性がないとする論評も見受けられます。
 
でも環境影響評価制度の仕組みに照らし合わせてみると、これは最大限の見直し要求なんです。
 
 
 
重要なポイントはいろいろありますが、南アルプスの場合、水環境の部分が特に重要になります。
 
(4ページより)
地下水位の低下並びに河川流量の減少及びこれに伴い生ずる河川の生態系や水生生物への影響は、重大なものとなるおそれがあり、また、事後的な対応措置は困難である。
 
山岳トンネル部の湧水対策は、(略)特に巨摩山地から伊那山地までの区間においては、本線及び非常口のトンネル工事実施前に、三次元水収支解析を用いてより精度の高い予測を行い、その結果に基づき、地下水位及び河川流量への影響を最小化できるよう水系を回避又は適切な工法及び環境保全措置を講じること。
 
この部分、非常に重要です。
 
平地の工事の場合、あらかじめつくっておいた壁をはり付けながら掘り進めるシールド工法が用いられるため、川底でも問題なくトンネルを掘ることができます。
 
ところが南アルプス等の山地の場合、 山岳工法(NATM工法)がという工法で工事が進められます。その場合、先に小断面のトンネル(先進坑:とはいっても2車線道路並み)を掘ってあらかじめ周囲の地下水を抜いておき、水が減ったところで薬液を注入して岩盤中の隙間を埋め、本坑を掘るという手順をとります。それからコンクリートを塗り固め、防水シートを張り、また塗り固めて内壁を構築する。要するに、地下水を流れ出るだけ流れさせて、止まったところで本坑の掘削を進め、これを繰り返すわけです。こんな工法ですから、川の水が減ることは不可避というよりも、減らすことが前提になっているようなものです。
 
このNATM工法を採用する以上、おそらく川の水を減らすことは避けられません。これは「適切な工法」とはいえません。そして、すでに南アルプスを流れる大井川水系では大幅に流量が減少するという予測が出ています(前回のブログ記事参照)。長野側の小河内沢でも同様です(それどころか山梨県富士川町の大柳川や長野県豊丘村の虻川については、予測自体をしていない)。水枯れ対策に有効な工法はありません。川の水が減った場合、環境を元に戻すことも不可能です(事後的な対応措置は困難という記述に注意)。
 
すると、大臣意見の通り「水系を回避」すなわちルートを変えるしか残された道はありません。
 
ここでトンネルの位置を300m以上ずらすと、環境影響評価をやり直さねばならなくなります。
 
つまりこの大臣意見は、暗にアセスやり直しを求めているとも解釈できるのです。
 
それから水絡みで8~9ページ。
水系ごとに、流量の少ない源流部や支流部も含めて複数の調査地点を設定し、工事の実施前から水生生物の生息状況、河川の流量及び水質について調査を行い、その結果に基づき予測、評価を実施し、適切な環境保全措置を講じること」とあります。
 
「工事の実施前」「予測、評価」という言葉があるように、事後調査ではなく事前に調査・予測・評価をおこなえということです。今からこれを行うためには1年以上かかります。したがって、JR東海が誠実に対応した場合、今から1年半は事業申請を出せません。かといってやらずに事業申請を出したら、環境大臣意見さえ無視したということで、国交省としても事業認可は与えられません。
 
こんなのが大臣意見で出されることはまずありません。

こうやって深読みしていくと、なかなか厳しい意見であると思われませんか?
 

時間が足りないので、言い足りないことはまた後日…。 
 
ところで、
「長期間の追加調査や抜本的な見直しは求めなかった」「スケジュールへの影響は小さいとみられる」と、いくつかの地方紙に使われていますが、これを書いた記者は前文を読まなかったのかな? しかも同じ文章が使い回されているのも気になるなあ…。
 
 


ちょっと重要な補足説明
 
環境影響評価制度を知るうえで、これは是非知っておいていただきたいのですが、
①環境省が事業中止や大幅変更を求めることは法律上できない。
②環境影響評価法の枠内で取り扱われる項目には限界がある。
ということです。この2点ははっきりさせておかねばならないんですが、新聞記事を見ると、新聞記者から反対派の方まで、謝って認識されているようです。
 
①について
環境影響評価法第1条に、「この法律は、土地の形状の変更、工作物の新設等の事業を行う事業者がその事業の実施に当たりあらかじめ環境影響評価を行うことが環境の保全上極めて重要である…」という表現があります。すなわち、環境影響評価は、あくまで事業を実施することが前提であり、そのうえで事業者の自主的な配慮を促すための制度であるため、中止を求めることはできません。
 
②について
環境影響評価の進め方や評価項目は主務省令というもので定められており、ここから外れた要求を環境大臣が行うことは、環境影響評価法に抵触してしまうのです
 
例えば静岡の場合、標高2000m地点に発生土置き場を計画しており、これによる自然破壊ばかりか災害誘発の危険性も懸念され、県知事意見で回避を求められています。このブログで何十回も繰り返してきたことです。また、長野県側では地すべり密集地帯での工事が計画されており、やはり県知事意見で再考を求められています。
 
ところが、主務省令には、「地形・地質に起因する安全性の問題」を取扱う規定はありません。したがってもし仮に環境大臣意見でこれらの計画に対し、「地形条件が危険だから回避すること」としたら、法律から外れた意見になってしまう可能性があります。それゆえ、環境省からこれらについて回避を要求することは困難だと思われます。ただし前述のとおり、関係する地元自治体の意見を十分勘案することという一文がありますので、これに基づき、知事意見を再考せよと命じていることになっているといえます。
 
なお主務省令では「地質・地形について予測評価の対象とすること」とありますが、これは天然記念物や景勝地のように珍しい地形を保全することが目的であり、地形災害を対象にしたものではありません。それからリニアにおいては「磁界」が調査項目となっていますが、これは主務省令に含まれていません。JR東海が自主的に選定したものです。
 


 
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