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Channel: リニア中央新幹線 南アルプスに穴を開けちゃっていいのかい?
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拝啓 国土交通省様 このアセス内容で事業認可するととんでもない事態になりますよ

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長野県の信濃毎日新聞によれば、なんでも環境影響評価において調査空白地域があるのにもかかわらず、JR東海は4月にも評価書を作成するつもりなのだそうです。
 
それから何の記事だったのかは失念しましたが、10月の東海道新幹線開業50周年に合わせてリニアを着工する計画とかいう話もあるようです。
 
いずれにせよ、このようにとにかく急いでいるスケジュールになっています。何がそんんあにJR東海を駆り立てているのか、皆目見当が付きません。あちこちの審議会議事録を見てみると「2027年開業のためにはこのスケジュールしかない」という説明をしているようですが、2027年開業というのは自主的に定めた目標であり、どこかからそうしろという命令が下ったわけじゃあるまいし。
 
仮に10月着工に間に合わせるためには、やはり4~5月には評価書を作成しなければならなくなります。そのためには、「非常に問題点が多い」と指摘されている現在の準備書および事業計画が、ほとんど修正・追加アセスを行わずにそのまま評価書に記載されることとなります。そして環境省がどれほど厳しい意見を出そうとも、国土交通大臣がそれを認可するという皮算用になっていることになります。
 
環境影響評価書についての国土交通大臣の審査…
 
環境影響評価法では次のように定められています。
(免許等に係る環境の保全の配慮についての審査等)
第三十三条  対象事業に係る免許等を行う者は、当該免許等の審査に際し、評価書の記載事項及び第二十四条の書面に基づいて、当該対象事業につき、環境の保全についての適正な配慮がなされるものであるかどうかを審査しなければならない。
2  前項の場合においては、次の各号に掲げる当該免許等(次項に規定するものを除く。)の区分に応じ、当該各号に定めるところによる。
一、二 略
三  免許等を行い又は行わない基準を法律の規定で定めていない免許等(当該免許等に係る法律の規定で政令で定めるものに係るものに限る。=全国新幹線鉄道整備法) 当該免許等を行う者は、対象事業の実施による利益に関する審査と前項の規定による環境の保全に関する審査の結果を併せて判断するものとし、当該判断に基づき、当該免許等を拒否する処分を行い、又は当該免許等に必要な条件を付することができるものとする。

非常に読みにくい文章ですが、要約すると、「環境保全に関する審査結果と事業による利益とを総合的に考えて事業の認可の是非を決定する」という意味です。
 
ここでいう「環境保全に関する審査」は、条文にもあるように「評価書の記載事項及び第二十四条の書面(環境大臣意見)に基づいて」行われることとなっています。
 
ここのところは重要で、「許認可権者(国交省)は、一般住民、市町村、知事意見を考慮せよ」とは書かれていません。それらは直接・間接的に事業者に出されており、事業者はそれによって準備書を補正して評価書を作成するため、評価書は既に一般住民、市町村、知事意見を考慮したものになっているはずだという性善説になっているのです(現実的に考えて、そんなことが可能なはずがあるわけないのですが)。
 
鉄道事業の許認可をおこなうのは環境省ではなく国土交通省(の鉄道関係の部署)です。
 
お役所、特に国の機関というのは杓子定規なので、一般住民・市町村・知事からどんなに強い懸念が出されていたとしても、「法律では、環境大臣意見や評価書記載内容以外の懸念事項を考慮せよとは書いてない」とか何とか言い逃れしてすることが可能です。
 
結局のところ、その他の事業認可の諸基準と合わせて「総合的に判断した」とかなんとか言って、事業認可を自動的に出すのでしょう。

が、そうはいっても、このリニア計画の環境影響評価はあまりにもお粗末です。たぶん、日本の環境アセスメント史上に名を残す、悪しき代表例となるでしょう。数人の環境アセスメント専門家からも、「ここまでひどいのは見たことがない」という話が伝わってきています。
 
仮に百歩譲ってリニア中央新幹線が将来の日本にとって必要不可欠な事業であろうとも、あまりにムチャクチャな評価書で事業認可をすると、(財政的な面を除いても)自然環境・生活環境のみならず、JR東海、認可した方々のためにならないともいえます。

現在の準備書掲載内容からみて、確実に起こるであろう問題
《南アルプスの山梨・静岡・長野3県共通》
●大井川、小河内沢、虻川、大柳川、内河内川の流量が減少。しかし現実的な対応ができない。さらに河川法の想定外の事態となる。
●河川の水質悪化。
●騒音によりミゾゴイ、イヌワシ、クマタカ、ブッポウソウ等の希少鳥類がいなくなってしまう。
●残土の処分方法が未確定のまま見切り発車。行き先を失った残土が南アルプス山中にあふれる。
《静岡県》
●千枚岳直下の大井川河川敷に盛られた残土が、千枚岳大崩壊地からの土砂を受け止め、川床上昇を招く。トンネル工事による減水とあいまって流れが伏流し、魚類の生息域を分断、植生の変化、食草を絶たれた高山蝶などの昆虫などの減少を招き、生態系を破壊。
●標高2000mに残土捨て場を設けても、気候・地形・土壌から緑化ができず、いつまでも裸地を呈し続け、景観的にも醜悪な姿をさらし続ける。そのうえ地すべり地帯でもあり、大雨、地震で大崩壊を起こしかねない。
●大井川中下流域にまで流量減少の影響が及び、冬季・夏季渇水期に流れが途絶。水生生物の減少を招く。大渇水の際には数十万人の生活や企業活動にも影響。
●大井川源流に沿って工事現場に向かう東俣林道が崩壊し、工事関係者が孤立する危険性がある。
●大量のダンプカーが出入りすることにより、大井川源流部一帯の林道沿いと河原は外来種の植物に埋め尽くされる。
●大量のダンプカーがひっきりなしに通行することにより、サンショウウオなど川と森林とを行き来していた生物が大量に轢死。
●林地開発許可をめぐり自治体とJR東海とが対立。
《山梨県》
●標高2000mの残土捨て場は静岡・山梨県境での工事だが、アセスでは静岡側でしか取り扱っていない。建設に起因する問題が山梨県側で問題になる。
●河川水位だけでなく地下水位も低下。井戸や簡易水道の枯渇が相次ぐ。

《長野県》
●大鹿村は1日1700台の大型車両に埋め尽くされ、村外に通ずる1本道をふさぎ、日常生活が困難となり、おおげさでなく村の存続の危機となる。
●保安林解除をめぐりトラブル発生。
●リニア本線が通らないことから”事業実施対象区域”から外されアセス対象にされていない長野県中川村で、大量の車両通行が問題化。
●河川水位だけでなく地下水位も低下。個人宅・事業所の井戸や簡易水道の枯渇が相次ぐ。
以上のことは確実に起こります。
 
確実ではなく「おそれ」があるものについては…
●残土から有害物質が発生した場合には搬出作業が行えなくなるため、全ての作業が中断となる。
●工事が原因となり人口流出
●登山客・観光客離れ
●小日影鉱山跡周辺からの残土から有害物質を検出
●ユネスコに対してエコパーク登録を推薦した地域での大工事を認めることにより、日本の環境行政についての不信感が国際的に広まる
 
もう少し広い範囲、長い期間で眺めると…
●エコパークは、登録から10年後に、環境が適切に保全されているか見直されることになっている。順調なら今年登録であるから、見直しは2024年、リニアの建設工事の最中である。以上のような環境破壊が実際に引き起こされたら登録取り消しとなりかねない。
●大鹿村を中心に山崩れが頻発。
●標高2000mの残土捨て場や河原の残土捨て場が数十年に一度の大雨で大出水し、大規模土石流を招きかねない
●様々な方面から事業の差し止めを求める訴訟や公害調停を求める声が上がり泥沼化。
●人々の個人的なつながり、集落同士のつながり、市町村単位、県単位で亀裂を生み出す。諫早湾干拓事業のように、環境破壊に起因して地域社会を大分断する事態を招きかねない。
●豪雨・大地震により標高2000mの残土捨て場が崩壊し大規模土石流が発生。二軒小屋ロッジの宿泊客を飲み込むみ、大人災となる。
●残土捨て場、作業用道路など条例対象となりうる規模の建設事業でも、付帯設備と見なせば事前アセスを免れるという新手のアセス逃れの前例となる。
●計画段階環境配慮事項については別段何もしなくてよいという見本となる。
●住民とのあつれき、自然破壊を強引に推し進めるというイメージがJR東海に定着し、企業イメージが急速に悪化。リニア技術についても「生活環境・自然環境との調和が不可能」というイメージが広まる。リニア技術はもとより、新幹線についても海外輸出の道を自ら閉ざす。
●大問題の評価書であることを承知のうえで事業認可をした国の責任問題。
 

あくまで南アルプスを中心とした範囲での、環境影響評価からみえてくる問題・懸念ですが、今の事業計画のままだと、オーバーではなく、こういう事態が起こりえます。
 
これに加え、その他の都県での残土処分、岐阜県でのウラン鉱床通過の問題、可児市内での遺跡通過問題、阿智村や座間市での水資源問題、南木曽町での斜坑問題…JR東海は、すべてにおいて答えを示していません。

この環境影響評価は、法的にもかなりグレーゾーンな内容なのですよ(方法書確定以前の現地調査開始のタイミング、情報非公開など)。オーバーではなく訴訟のネタにはなりえるし、公害等調整委員会に出動してもらわなければならないかもしれない。
 
かつて裁判でアセスのあり方が争点となったことがあり、「評価書における環境影響評価の判断の過程に看過しがたい過誤等があり、判断がこれに依拠してされたと認められる場合には、上記判断は不合理であり、裁量権の逸脱があるものとして違法と解すべき」という見解を裁判所が示したことがあります。
(大阪地裁判決 平成18年3月30日:西大阪延伸線建設事業/この事業の認可が撤回されたわけではない)
 
沿線自治体からも強い懸念が示されている以上、現在のまま事業認可するのは、「裁量権の逸脱」となりかねません。

そんな事態になったところで責任をとっていただけるのですか?
 
整備新幹線の事業計画については事業者が主役ではなく国土交通大臣が主役であると、全国新幹線鉄道整備法に明記されています。
 
第七条  国土交通大臣は、第五条第一項の調査の結果に基づき、政令で定めるところにより、基本計画で定められた建設線の建設に関する整備計画を決定しなければならない。
2  国土交通大臣は、前項の規定により整備計画を決定しようとするときは、あらかじめ、営業主体及び建設主体(機構を除く。)に協議し、それぞれの同意を得なければならない。整備計画を変更しようとするときも、同様とする

全国新幹線鉄道整備法に基づいて事業を行う以上は、JR東海が決定権を握った事業ではないはずです。
 
国土交通省様、事業認可を出せないとする根拠はいくらでもありますよ。

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