昨日、大井川流域の9市町(川根本町、島田市、牧ノ原市、焼津市、藤枝市、掛川市、菊川市、吉田町、御前崎市)が静岡市と静岡県に対し、「JR東海に対して大井川の流量を減少させないよう評価書に記載させる」ことを旨とした要望書を出しました。
要望書を受け取った静岡市の田辺市長も、「静岡市が県中部地区の責任をもった立場」「意見書に反映させる」と述べたそうです
特に牧ノ原市の西原市長は強い懸念をご自身のブログでも示されています。
西原市長はこの文章の中で「いつ流量減少について予測しだしたのだろう?」「下流域への影響の有無はルート決定前に検討されたのか?」と疑問を投げかけておられます。
ルート決定以前に環境配慮を検討する立場にあったのは、国土交通省中央新幹線小委員会という組織です。環境面からBルート(南アルプス迂回ルート)とCルート(南アルプスルート)のルート選定作業をおこなったのは、平成22年10月20日の審議会でした。
概要は以下の通りです
委員 「提出された資料が大雑把で、検討のしようがない」
家田委員長「環境面からは、どちらがいいと言えないということですね」
委員 「はい」
(作者注)これは意見のすりかえです
別の委員「トンネル構造なら地上はあまり関係ないのではないでしょうか」
国交省官僚「水が涸れたら補償することになっています」
家田委員長「とにかく環境面でどっちかのルートが決定的に問題を持っているという状況にはないということが確認できたという意味で、建設的な結果が得られたんじゃないかと思います」
というわけで、こんな答申が出されました。
この部分に書いてあることは嘘っぱちです。実際にはこれまで注釈をつけたとおりどちらがよいか、提示された資料からは判断できないというのが、どちらも貴重な自然環境が存在しているので環境保全には十分な配慮が必要 となっています。
これは意見のすり替えです。
また、「現段階においては…できるものではなく…対処すべきである」というのは、「審議するための委員会が何の審議もできなかったけれども、とりあえずトンネルを掘るのを事実上認めておくから後は丸投げする」と言っているのにも等しい内容です。単なる責任放棄です。
大井川の流量減少を懸念される方、南アルプスの自然破壊を懸念される方には非常に不満の残る
(というか腹の立つ)内容となっています。5分もあれば読めると思いますので、大井川や南アルプスの環境が心配な方は、ぜひご覧になってください。
大井川の流量減少問題は、リニアが南アルプスを貫く以上は構造的に避けらず、また根本的な対策もとれないと思います。
→昨年暮れに記事を更新しました
「リニアは南アルプスの巨大水抜きパイプ」
http://park.geocities.jp/jigiua8eurao4/SouthAlps/Ooigawa/Ooigawa.html
さて、昨日取り上げたロードキルは、生態系保全という観点で大きな問題ですので、引き続き掲載しておきます。
サンショウウオという両生類のグループがあります。
イモリに似た、体長15㎝程度の小さな小さな生き物です。
南アルプス世界自然遺産登録推進協議会のHPにアカイシサンショウウオの写真が掲載されていましたので、借用させていただきます。http://www.minamialps-wh.jp/photograph_detail.php?data_category=8&data_id=1018
目玉がくりっとしてかわいいですね。
普段は水辺近くの森林の落葉の下などでひそみ、雨天時や夜間に這い出て小さな昆虫などを食べて生活しているそうです。初春に穏やかな清流に集まって卵を産み、孵化した幼生は水中で成長し、成体となって川からあがり、森林へと移動します。詳しい調査はあまりなされていないようですが、トウキョウサンショウウオという種類では200mほど移動するとのこと。
よって、サンショウウオの生活には清流と、森林との連続性が欠かせないことになります。水辺と森林との連続性を断ち切ったら、この生物は住み場を失ってしまいます。このことは重要なので、頭に入れておいてくださいね。
また、ごく小さな生き物であるうえ、水辺から離れて生活することはできないので、移動能力は高くなく、地域ごとに異なる形質をもったグループに分かれているそうです。
大井川源流部には、ハコネサンショウウオ、ヒダサンショウウオ、アカイシサンショウウオの3種が分布しているそうです。いずれも数は少なく、ハコネ、ヒダの2種は県版レッドデータブックで絶滅危惧Ⅱ類に、アカイシサンショウウオはⅠB類に選定されています。ⅠB類というのは、絶滅のおそれがかなり高いことを意味しています。
私自身、現物を見たことはありませんが、アカイシサンショウウオというのは、2004年に新種と判明したばかりのもので、その分布域は現在のところ赤石山脈南部(静岡・長野)に限定されているようです。すなわち、この地球上で南アルプス南部にしか分布していないわけです。地味な生き物ですが、非常に貴重なんです。
ところでJR東海作成の環境影響評価準備書によると、リニア中央新幹線の建設工事では、南アルプス山中の林道東俣線を、1日最大480台の大型車両が通行する計画になっています。1日の作業時間を8時間とすると、1時間に60台すなわち1分おきに通行することになります。これが10年余にわたって続きます。
大型車両の通行で気になるのが、サンショウウオを含む、小動物の交通事故死です。路上で轢死することからロードキルとよばれます。
林道東俣線は、大井川の谷底に沿って、延々35㎞に及びます。トンネルや高架構造はほとんどなく、谷底に近い部分にへばりつくような感じです。ちなみに未舗装です。
静岡県版準備書 関連図を複製・加筆
椹島ロッジ北東側の残土捨て場候補地一帯の地図
等高線間隔は10m
当然ながら、林道より山側の森林と大井川とを行き来する動物は、全てこの林道を横切らねばなりません。
サンショウウオ、大丈夫なのでしょうか?
ちょっと考えてみました。
10tダンプの車体幅は2.5mだそうです。1分おきに通過するのですから、250㎝÷60秒≒4㎝/秒の速度で、一直線に休むことなく渡らないと、ひかれてしまう可能性大です。
サンショウウオ類の現物を見たことはありませんが、似たような体つきのイモリから連想するに、秒速4㎝で歩き続けることはできないだろうと思います。たぶん、その半分がせいぜいでしょう。それに舗装されてしまえば、ノロノロ歩いているうちに干からびちゃうかも…。
YouTubeにサンショウウオの歩く動画がありました
もともと数が少ない動物ですので、ロードキルによる個体数減少は、種の存続に関わるような重大な事態に直結するような気がいたします。特に分布域が南アルプス南部に限定されているアカイシサンショウウオにとっては一大事なのでは?
実際、静岡県版レッドデータブックにも、サンショウウオ類の生息環境をおびやかす要因としてロードキルがあげられています(レッドデータブックの実物は、県内各地の図書館で見ることができます)。
この懸念はサンショウウオ類だけでなく、カエル、爬虫類、地表性の昆虫類にも当てはまるのではないのでしょうか?
また、こうして路上で轢死した動物の死体がエサとなり、さらに他の動物を路上におびき寄せ、ロードキルを増やす可能性もあります。
道路建設事業では、当初からロードキルの発生を考慮し、動物の主要な移動経路をできるだけ分断させないようなルートを採用したり、動物の侵入防止策を設けたり、道路下に小動物用のトンネルを掘ったりするような対策をとることがあります(実際に役立っているのかは分かりません)。
しかし本リニア建設の場合、既存の林道をそのまま使うため、そうした根本的な対策をとることは一切できません。というわけで、確実にロードキルが頻発します。そしてこれは、前回指摘の外来種と同様、直接的な改変によって自然環境を破壊するわけではないけども、間接的に生態系の質を劣化させる大きな要因となります。
前回の外来種対策と同様に、このことも前々から配慮書、方法書への意見として提出してきましたが、マトモに扱ってもらえませんでした。このほど「準備書へ寄せられた意見への見解書」で、ようやくそれらしきものが得られましたが、それがコレ…。
またしても、全く的外れです。
雨の日に、体長10㎝にも満たないサンショウウオを運転席から見つけて車を停止させることなんてできるわけないでしょう!!
江戸時代風にモッコでかついで運ぶわけじゃあるまいし。
この見解書から察するに、ロードキル対策の対象は、明らかに夜行性の大型哺乳類(シカ、クマ、カモシカ、タヌキ、キツネ、イノシシ等)しか想定していません。小動物(サンショウウオ、カエル、地表性昆虫等)のことは全く無視しているようです。
例えば準備書の「重要な両生類(ヒダサンショウウオ)の予測結果」のところを見ても、次のようにロードキルは影響を与える要因として取り上げていません。
『主要な生息地である河川/森林は保全されるから影響は小さい』ってありますね。
その河川と森林との連続性を断ち切って、大量のダンプカーが通ることが大きな影響要因なの!!
そもそも、冒頭の流量減少のように、川の環境が保全されることさえ疑わしいのに…。
時速500㎞が話題となるリニア中央新幹線計画ですが、足元を秒速数㎝でゆっくりと歩む小さな生き物のことは、全く意に介さないようです。
おちおち散歩もできねえや・・・。
静岡市北部の林道で見つけたヒキガエル
ちなみにJR東海によれば、アカイシサンショウウオについては、現地調査では確認されず、「専門家」による「分布域はもっと下流域だろう」という指摘を受けて保全対象にしないとのこと。現地調査地点・時期・時間・方法が適切だったのか、専門家とはどこのどなたなのか、そうしたことは準備書からは全くわかりません。