Quantcast
Channel: リニア中央新幹線 南アルプスに穴を開けちゃっていいのかい?
Viewing all 483 articles
Browse latest View live

本当に南アルプスでも安全に避難できるのかな?

$
0
0
去る3月1日金曜日、秋田新幹線が脱線するという事故がありました(新幹線とはいっても在来線区間)。
 
秋田県内のJR奥羽本線にて、猛吹雪のなかで「こまち25号」が脱線し、乗客130人が6時間にわたって車内に閉じ込められたということです。
 
時速20㎞/h走行での脱線ということで、幸いにも怪我人はありませんでしたが、動かない列車のなかで、水も食べ物もないまま6時間待たされるというのは、けっこうしんどいだろうなあ…と思います。
 
脱線に限らず、列車が緊急停止したときって、けっこう避難に時間がかかるもののようです。
2011年4月7日深夜、宮城県沖でM7.1が地震が発生し、東北新幹線が停止した際には、八甲田トンネル内(長さ26㎞)に停止した車両から乗客を避難させるのに4時間かかったそうです。このときの乗客は15人。
 
2011年5月27日に、北海道のJR石勝線で特急列車が脱線・転覆した状態でトンネル内に停止し、火災が発生して車両が全焼するという事故が起こりました。このときは乗客へのアナウンスがなく、自己判断で非常ドアを開けて命からがら脱出したということです。
 
大事故でなくとも、ダイヤの乱れで駅間に列車が停止し、長時間待たされるなんてことは、首都圏の方なら誰しも経験がおありだと思います。10分くらいならまだしも、20~30分ともなると足は疲れるしトイレに行きたくなったり…。
 
◇   ◇   ◇   ◇   ◇
 
リニア中央新幹線は、先行区間である東京-名古屋286㎞のうち、およそ8割がトンネルになるとされています。おおよそ230kmがトンネルになるということです。
 
先行区間においては、上下線合わせて10本の列車を運行するとされています。名古屋まで47分で到達することを考慮すると、ある瞬間には計8本の列車が路線上に存在することになります。平均すると、30km弱の間隔で存在することになります。
 
ということは、大地震等の際に一斉に停止した際、8本の列車の8割すなわち6~7本の列車がトンネル内に停止することになります。乗車率60%とすれば、3400~4000人の乗客を乗せていることになります。
 
トンネル内に停止した列車から、乗客の避難誘導が迅速におこなえるのでしょうか?

リニア計画を審議した国土交通省中央新幹線小委員会では、この点については全く議題にあがりませんでした。審議の最中に東日本大震災が発生したのにも関わらずにです
 
なお、JR東海のホームページにはこのような質疑が掲載されています。
 
(質問)トンネル内で列車が停止した場合の避難はどうするのですか。移動に制約のある乗客の避難はどうするのですか。
(回答)既に、国内では長さ20kmを超える上越新幹線大清水トンネル等の長大山岳トンネルがあり、万一の際の避難対策についても知見が蓄積されており、中央新幹線においても、それらと同様の対策を講ずることが基本となります。
 避難設備については、都心部の大深度区間においては、トンネルの下部に安全な避難通路を設けると共に、5kmから10kmおきに配置する地上と繋がる立坑内にエレベータ等の昇降装置を設置して、地上までの安全な避難経路を確保します。また、山岳トンネル区間においては保守用通路及び斜坑を避難通路として活用できるように整備します。
 列車には乗務員(複数)を乗車させる考えであり、異常時には乗務員がお客様の避難誘導を行います。
移動に制約のあるお客様については、新幹線と同様に、降車の際に乗務員が補助するほか、周囲のお客様のご協力を得ることも考えています。具体的には、今後検討してまいります。
イメージ 1
 
いかがでしょうか。

 東京、名古屋では、地表からの深さ40~50mのところにトンネルが掘られます。東京都内や名古屋市内の一般的な地下鉄よりも、さらに10~20m深い位置になります。

 リニアの縦坑は5~10㎞おきに設置されることになっていますが、これは1~2㎞おきに駅が設けられる通常の地下鉄に比べると、地上への脱出口の間隔が5倍以上になることを意味し、万一の避難の際には地下鉄の5倍以上の距離をたどらなければならないことになります。大地震の際など、大混乱の中で迅速な避難が可能なのでしょうか?

 また、上越新幹線大清水トンネルの例が挙げられていますが、南アルプスの長大トンネルの場合は、全く条件が異なります。 

20kmを越す大清水トンネルや東北新幹線のトンネルには3~4ヶ所程度の斜坑が設けられており、乗客を誘導すべき距離は2~3km、長くて5kmほどとなります。
 
リニアのルート上で南アルプスの幅は52㎞程度あり、おそらく3本のトンネルで貫かれます。
 
イメージ 4

このうち南アルプス本体の赤石山脈を貫く最長トンネル(23km程度)には、大井川源流の二軒小屋1ヶ所にしか斜坑が設けられないうえ、その斜坑自体が4km程度の長さがあります。片方の坑口がふさがれるなど最悪の場合、トンネルの中を10km以上も歩かなければならないことになります。
 
イメージ 2
東北新幹線岩手一戸トンネル(25.8km)と、南アルプスのトンネル(推定23km)の断面比較
 
 
トンネルの立地条件が上越新幹線等の場合と大きく異なることも大問題です。
 
大清水トンネルの場合、いずれも出入り口や斜坑は平地に設けられています。そばに国道も通っているため、脱出した乗客を比較的迅速に大型バス等で迎えに行くことが可能です。上の例に挙げられている岩手一戸トンネルも同様です。
 
いっぽう南アルプスの長大トンネルは、出入り口も斜坑も険しい山奥に設けられます。
 
大鹿村釜沢の場合、村の中心部までは林道を約4㎞もたどらなければなりません。二軒小屋という場所にいたっては、最寄の集落まで40㎞も離れた秘境です(登山者用のロッジがあるものの、当然、数百人も収容することは不可能)。
 
こんな場所にまで、どうやって大量の乗客を向かえに行くというのでしょう。秘境の温泉宿や登山客が孤立するようなケースでは、少人数ですかからマイクロバスや救助機関の車両あるいはヘリコプターでの輸送が可能ですが、リニアの場合は数百人を輸送しなければなりません。バスが不可欠でしょうが、大型車両が簡単に入れる場所でもありません。
 
さらに、外部に通ずる林道沿いには崩壊地や地すべりがいくつもあり、リニアが一斉停止するような大地震でも起これば確実に数ヶ所で寸断されます。山梨県側の早川の谷も、比高1000mのきわめて急峻な谷底にあり、山崩れが起きれば孤立する可能性があります。なにしろ日本を代表する大断層の中央構造線と糸魚川-静岡構造線に沿った谷が出口で避難経路なのです。そんな場所ですから、避難中に余震で二次災害に巻き込まれる可能性だって大いにあります。
 
イメージ 3
予想される避難経路と周辺の巨大崩壊地
 
かといって小渋川、二軒小屋、早川からの脱出を断念すれば、それは南アルプス全体を横断する52kmもの区間が、出入り口を除いて外部から孤立することを意味します。大地震の際にトンネル内を20kmも歩いて非難しろというのも危険で困難です。

さらに特殊な場所ゆえ、気候も大問題になります。
 
脱出した先の小渋川の谷は標高約800m。しかも谷底なので、冬場は相当に寒いはずです。あくまで推測ですが、おそらく1月の最低気温は月平均でも-7~-8℃、冷え込む日なら-15℃以下にまで下がるのでしょう(長野県南部のアメダス観測値から推定)。さらに二軒小屋は標高1400mの谷底であり、晴れた日の夜間~朝には-20℃くらいにまで下がるはずです。

もともと寒いところを走る路線なら、乗客もそれ相応の服装をしているはずですが、東京-名古屋-大阪を移動する乗客が、スキー場に行くような服装をしているはずがありません。

要するに南アルプスという場所を通る以上、そこでの緊急時は都市生活では遭遇しえないような事態が起こりえるのです。数百人にサバイバルをしいるような事態も、決して想定外ではありません。
 
 
それぞれの坑口に、数千人分の食料、防寒服、毛布、登山靴、ヘルメットおよびザイルやランタンなどを常備しておくというのでしょうか?
 
 
こんな場所を避難路とするのは、明らかに間違っています。わざわざ災害のリスクを高めているようなものです。こんなことが審議対象にもなっていないのも、異常な状況だと思います。
 

南アルプスルートという災害リスク

$
0
0
前回の記事で、掲載しようとしていた図を貼り付けるのを忘れておりました。再度貼りなおし、内容も少々書き加えます。
 

リニア中央新幹線は、東海地震や南海トラフ巨大地震が発生したときにも東京-名古屋-大阪の行き来を確保することが、建設の大目標なのだそうです。というわけで、以下の内容は東海地震・南海トラフ巨大地震を念頭に置いたものとなっています。
 
リニア中央新幹線は、先行区間である東京-名古屋286㎞のうち、およそ8割がトンネルになるとされています。おおよそ230kmがトンネルになるということです。
 
先行区間においては、上下線合わせて10本の列車を運行するとされています。名古屋まで47分で到達することを考慮すると、ある瞬間には計8本の列車が路線上に存在することになります。平均すると、30km弱の間隔で存在することになります。
 
ということは、大地震等の際に一斉に停止した際、8本の列車の8割すなわち6~7本の列車がトンネル内に停止することになります。乗車率60%とすれば、3400~4000人の乗客を乗せていることになります。
 
トンネル内に停止した列車から、乗客の避難誘導が迅速におこなえるのでしょうか?

リニア計画を審議した国土交通省中央新幹線小委員会では、この点については全く議題にあがりませんでした。審議の最中に東日本大震災が発生したのにも関わらずにです
 
なお、JR東海のホームページにはこのような質疑が掲載されています。
 
(質問)トンネル内で列車が停止した場合の避難はどうするのですか。移動に制約のある乗客の避難はどうするのですか。
(回答)既に、国内では長さ20kmを超える上越新幹線大清水トンネル等の長大山岳トンネルがあり、万一の際の避難対策についても知見が蓄積されており、中央新幹線においても、それらと同様の対策を講ずることが基本となります。
 避難設備については、都心部の大深度区間においては、トンネルの下部に安全な避難通路を設けると共に、5kmから10kmおきに配置する地上と繋がる立坑内にエレベータ等の昇降装置を設置して、地上までの安全な避難経路を確保します。また、山岳トンネル区間においては保守用通路及び斜坑を避難通路として活用できるように整備します。
 列車には乗務員(複数)を乗車させる考えであり、異常時には乗務員がお客様の避難誘導を行います。
移動に制約のあるお客様については、新幹線と同様に、降車の際に乗務員が補助するほか、周囲のお客様のご協力を得ることも考えています。具体的には、今後検討してまいります。
 
イメージ 1
 
いかがでしょうか。国土交通省中央新幹線小委員会資料とありますが、実質的に、何の審議もしていません。

 東京、名古屋では、地表からの深さ40~50mのところにトンネルが掘られます。東京都内や名古屋市内の一般的な地下鉄よりも、さらに10~20m深い位置になります。

 リニアの縦坑は5~10㎞おきに設置されることになっていますが、これは1~2㎞おきに駅が設けられる通常の地下鉄に比べると、地上への脱出口の間隔が5倍以上になることを意味し、万一の避難の際には地下鉄の5倍以上の距離をたどらなければならないことになります。大地震の際など、大混乱の中で迅速な避難が可能なのでしょうか?

 また、上越新幹線大清水トンネルの例が挙げられていますが、南アルプスの長大トンネルの場合は、全く条件が異なります。

20kmを越す大清水トンネルや東北新幹線のトンネルには3~4ヶ所程度の斜坑が設けられており、乗客を誘導すべき距離は2~3km、長くて5kmほどとなります。
 
リニアのルート上で南アルプスの幅は52㎞程度あります。そしてここを横断するために、南アルプスを構成する巨摩山地、赤石山脈(南アルプス本体)、伊那山地という3つの山脈に、それぞれ10㎞超の長大トンネルが掘られるものと思われます。
 
イメージ 2
 
このうち赤石山脈を貫く最長トンネル(23km程度)には、大井川源流の二軒小屋1ヶ所にしか斜坑が設けられないうえ、その斜坑自体が4km程度の長さがあります。片方の坑口がふさがれたり、火災が発生したときなど最悪の場合、トンネルの中を10km以上も歩かなければならないことになります。イメージ 3
東北新幹線岩手一戸トンネル(25.8km)と、南アルプスのトンネル(推定23km)の断面比較

 
一般的にトンネル構造は揺れに強いものです。しかし東海地震、あるいは南海トラフの連動地震は、南アルプスにおいては直下型地震になります。震動が激しいだけでなく、トンネルを掘った山地自体が変形しますので、トンネルの壁などに大きな力がかかり、大きな損傷を受けるおそれはないのでしょうか。
 
 
 
トンネルの立地条件が上越新幹線等の場合と大きく異なることも大問題です。一番上に掲げた、JR東海作成の資料では、「外に出るまで」しか考えていません。
 
大清水トンネルの場合、いずれも出入り口や斜坑は平地に設けられています。そばに国道も通っているため、脱出した乗客を比較的迅速に大型バス等で迎えに行くことが可能です。上の例に挙げられている岩手一戸トンネルも同様です。
 
いっぽう南アルプスの長大トンネルは、出入り口も斜坑も険しい山奥に設けられます。
 
大鹿村釜沢の場合、村の中心部までは林道を約4㎞もたどらなければなりません。二軒小屋という場所にいたっては、最寄の集落まで40㎞も離れた秘境です(登山者用のロッジがあるものの、当然、数百人も収容することは不可能)。
 
こんな場所にまで、どうやって大量の乗客を向かえに行くというのでしょう。秘境の温泉宿や登山客が孤立するようなケースでは、少人数ですかからマイクロバスや救助機関の車両あるいはヘリコプターでの輸送が可能ですが、リニアの場合は数百人を輸送しなければなりません。バスが不可欠でしょうが、大型車両が簡単に入れる場所でもありません。
 
さらに、外部に通ずる林道沿いには崩壊地や地すべりがいくつもあり、リニアが一斉停止するような大地震でも起これば確実に数ヶ所で寸断されます。山梨県側の早川の谷も、比高1000mのきわめて急峻な谷底にあり、山崩れが起きれば孤立する可能性があります。なにしろ日本を代表する大断層の中央構造線と糸魚川-静岡構造線に沿った谷が出口で避難経路なのです。そんな場所ですから、避難中に余震で二次災害に巻き込まれる可能性だって大いにあります。
 
イメージ 5
この図は南アルプスにおける巨大な崩壊地の分布を示しています。いずれも崩壊土砂の量が数百万立方メートル以上もあります。現在も崩壊が続いています。これら巨大崩壊地からの土砂流出は、人の力で制御できるものではありません。まして東海地震でも起これば、再び大規模な崩壊が起こりえます。
 
事実、図の右側にある大谷崩れは1703年元禄関東地震と1707年宝永地震で、七面山崩れは1854年の安政東海地震で大規模に崩壊したとされています。一帯においては、大地震時の土砂災害リスクが高いことは明白なはずです。なお南アルプス山中は無人地帯なので、過去の巨大地震発生時の詳細な様子はわかっていません。
 
そして新たに追加した図です。
 
イメージ 4
 
こちらは防災科学研究所の「地すべりデータベース」の図にリニアのルート、トンネルから外部への通路を加筆したものです。黒く塗られているのが、地すべり地形と判断されるものです。地すべりというのは、山の斜面がじわりじわりとゆっくり滑ってゆく現象のことです。大地震や集中豪雨が起きた際に、土砂災害が最も起こりやすい場所といえます。南アルプス長大トンネルからの避難経路沿いには、数多くの地すべりが分布していることが一目瞭然です。
 
このように、トンネル坑口付近およびトンネルに達する林道沿いは、大地震の際に土砂災害に見舞われる可能性が非常に高いはずです。かといって小渋川、二軒小屋、早川からの脱出を断念すれば、それは南アルプス全体を横断する52kmもの区間が、出入り口を除いて外部から孤立することを意味します。大地震の際にトンネル内を20kmも歩いて非難しろというのも危険で困難です。

さらに特殊な場所ゆえ、気候も大問題になります。
 
脱出した先の小渋川の谷は標高約800m。しかも谷底なので、冬場は相当に寒いはずです。あくまで推測ですが、おそらく1月の最低気温は月平均でも-7~-8℃、冷え込む日なら-15℃以下にまで下がるのでしょう(長野県南部のアメダス観測値から推定)。さらに二軒小屋は標高1400mの谷底であり、晴れた日の夜間~朝には-20℃くらいにまで下がるはずです。
 
上記の通り、林道が寸断されれば数日間にわたって二軒小屋に足止めされるか、あるいは数十kmを歩かなければなりません。-10℃以下の谷底で、果たして耐えられるものなのでしょうか?

もともと寒いところを走る路線なら、乗客もそれ相応の服装をしているはずですが、東京-名古屋-大阪を移動する乗客が、スキー場に行くような服装をしているはずがありません。

要するに南アルプスという場所を通る以上、そこでの緊急時は都市生活では遭遇しえないような事態が起こりえるのです。数百人にサバイバルをしいるような事態も、決して想定外ではありません。
 
 
それぞれの坑口に、数千人分の食料、防寒服、毛布、登山靴、ヘルメットおよびザイルやランタンなどを常備しておくというのでしょうか?
 
 
こんな場所を避難路とするのは、明らかに間違っています。わざわざ災害のリスクを高めているようなものです。
 
そして、なぜ東海地震時の災害リスクが非常に大きな場所に、「東海地震に備えるために必要」とされるリニア中央新幹線を通すのでしょうか?
 
冒頭に掲げた建設目的は、南アルプスという場所が抱える東海地震時の災害リスクを評価したうえでなければ成り立たないはずです。それゆえ、こんなことが審議対象にもなっていないのは、異常な状況だと思います。

安政東海地震が再来しても安全に停止できるのだろうか?

$
0
0
前回は、「東海地震が起きても無事に避難できるの?」という疑問を書きましたが、一般人としては、それ以前に、「東海地震が発生した時にも時速500キロから安全に停止できるの?」という疑問がぬぐえません。
 
「アメリカに輸出できるぜ!!」
みたいな記事を、産経新聞がここのところやたらと喧伝していますが、テロ対策なんかを重視する彼の地では、導入の是非として、こういうことは当然過ぎる疑問として浮かび上がるのでは?
 
 
 
というわけで半年以上前に掲載した簡単な試算を、再度取り上げてみます。
 
あくまで私の考えに基づく計算であり、本当に妥当な数字なのかは定かでありません。「おかしくない?」と思われた方は、どうぞご指摘いただけると幸いです。

以下、幕末の嘉永六年十一月四日(1854年12月23日)に発生した東海地震(M8.4)を例にとってみます。この地震では東海道を中心に甲州街道沿い、北陸南部、近畿にまで揺れによる大被害が発生し、銚子~土佐に大津波が来襲しています。
 
リニアの路線が位置する甲府盆地も震度6~7の揺れに襲われ、特に南アルプス長大トンネル坑口が設けられる鰍沢地区(現富士川町)で家屋倒壊が特にひどくなりました。一帯の家屋倒壊率は7割に達し、これは震源域真上の静岡県沿岸部と同程度とされています。
イメージ 1
 
甲府盆地は岩盤の破壊が伝播する方向に位置していること、分厚い軟弱地盤が分布していること、周囲を相対的に強固な岩盤で囲まれているため、揺れが反射されて増幅されたことが要因なのでしょう。
 
また、リニアの路線が南アルプス山中で一瞬地表に顔を出す山梨県早川町でも山崩れが相次ぎ、早川を堰き止めて洪水が起こるほどだったそうです。長野県側の飯田市付近も震度5強~6弱程度の揺れに見舞われ、家屋倒壊は少なかったものの、山崩れが相次いだと伝えられています。なお静岡市北部である南アルプス山中は、完全な無人地帯ですので様子は分かっていません。
 
今風にいえば、東海・東南海連動型地震です。さらにその32時間後にM8.4の南海地震が引き続いて起きたことは有名。なお、この両大地震をきっかけに元号が安政に変わったため、こんにちでは「安政東海/南海地震」と呼ばれるようになりました。
 
(この点を考えると、リニアのルートとして南アルプスを選択した時点で、「東海地震対策としてリニアを建設する」というのは説得力を失っているように思えるのだが・・・)
 
◇   ◇   ◇   ◇   ◇
 
理科年表によると、震央(最初に岩盤の破壊が生じた位置を地図上に示した点)は、遠州灘の34°N、137.8°Eになっています。ここからリニア中央新幹線の南アルプスルートまでは約160kmです。
 
カタカタと縦に揺れる最初の地震動(P波)は、7km/sで進むため、リニア路線が揺れ始めるのは、岩盤が壊れ始めてから約23秒後になります。そして、ユッサユッサという建造物を壊す大きな揺れ(S波)は4km/s程度で進むため、S波がリニア路線に到達するのは約40秒後となります。
 
実際には、岩盤の破壊そのものが断層(駿河トラフ)に沿って北に進みながら、さらに震動を発し続けるため、揺れが増幅してゆき、S波が到達する前にも次第に揺れが大きくなってゆくそうです。
 
地震発生時に走行中のリニアが緊急停止するシステムは、気象庁の緊急地震速報と同じシステムですので、最初の岩盤破壊発生からブレーキをかけ始めるまでに数秒かかります。東北地方太平洋沖地震で緊急地震速報が発表されたのは、最初の岩盤破壊から約8秒後でした。リニアの自動減速が開始されるまでに要する時間を、最速でこの程度と仮定すると、減速開始からS波到達までの猶予は32秒ほどとなります。
 
(海底地震計を自動ブレーキに適応すれば減速開始はもう数秒早まりますが、逆に震央が遠州灘ではなく駿河湾であったら、S波到着はさらに早くなります。)
 
いっぽう500km/hで走行中のリニアが停止するまでの所要時間は、新聞報道によると90秒だそうです。すると
このときの加速度は-1.543ms/sとなります。
 
停止するまで一定の加速度で減速し続けるとすれば、減速中の速度の変化は、次の式で表されます。
 
速度V=138.89m/s-1.543ms/s×t
 
t秒後(単位はs)には、138.89m/sから、秒速1.543ms/s×tぶん、減速しているという意味です。90秒後には速度0(ゼロ)、すなわち停止します。
 
高校の数学や物理で習う内容ですので、詳しくは参考書などをご覧ください。
 
というわけで、南アルプスルート付近で揺れ始めるタイミングと、リニアの減速状況が試算できます。その結果は以下のとおり。
 
 0秒後 遠州灘海底で岩盤が壊れ始め、地震が発生する
 8秒後 138.89m/s=500km/hで走行中のリニアが減速開始
23秒後 南アルプス~甲府盆地南部のリニア路線にP波到達。揺れ始める
 このときリニアは115.75m/s=416.6km/h
32秒後 リニア路線にS波到達。大きく揺れ始める。
 このとき89.5m/s=322.1km/h
61秒後 大揺れの中、44.4m/s=160km/hとなり、車輪走行となる。国内の狭軌路線で最速のレベル
72秒後 普通列車なみの27.8m/s=100km/hとなる
90秒後 停止
 
東日本大震災のときの東北新幹線は、揺れの到達する前に300㎞/h走行から減速を開始し、試運転中の1列車を除いて無事に停まれましたが、リニアは400㎞/hの浮上走行でゆれに見舞われ、320㎞/hまで減速したところでS波に遭遇し、大揺れに襲われてしまいます。着陸した時点でも160㎞/hもあり、京成スカイライナーや特急はくたかなど、国内の狭軌路線での最速レベルです。

さて先の式を時刻 t について積分すると、減速開始後に進んだ距離も求められます(計算過程は後述)。
 
例えば、大きく揺れ始めるS波が到達する時刻 t=32 から、停止する時刻 t=90 まで定積分すると、その間に進んだ距離が求められます。計算すると、2595.9m走行し続けることになります。
 
つまり、安政東海地震が再来し、8秒後に減速を開始したら、震度6以上の揺れの中を、58秒間、2600mにわたって走り続けてしまうことになります。しかも40秒間は時速100キロ以上を保ち、最初の20秒間は在来の新幹線と同等の速度です。
 
リニアの速度と進んだ距離をグラフにしたのがこちら。青い右下がりの直線がリニアの速度右上がりの緑色の曲線が減速開始から進んだ距離を表します。
イメージ 2
 
S波到達から40秒間は在来線普通列車以上の速度を保っています。路線の全てがトンネル、切り通し、シェルター構造であり、頭上を重量物が覆っているわけですが、この40秒間の間にそれら構造物が落っこちてきたり、あるいはガイドウェイが倒壊するようなことはないのでしょうか。
 
 
200㎞/h以上の速度で落石や土砂崩れにクラッシュしたらどうなるのでしょうか。ドイツの実験線で大事故が起きたときは200㎞/hだったそうです。
 
車輪が出た際に、ガイドウェイ内に障害物が落下していたらどうなるのでしょうか。
 
 ◇   ◇   ◇   ◇   ◇
 
「新幹線でも直下型地震に見舞われたら同じだろ」

という声が聞こえてきそうですが、スピードが増していることで、衝突時の衝撃や、停止するまでの距離が増しているのは否定しようがないと思います。ガイドウェイにはまって走行するため、落下物を横に押しのけることもできません。さらに超伝導リニアは高速化のために車体をとことん軽量化しているそうですが、強度はどうなっているのでしょう。ちなみに中央新幹線小委員会での議事録によると、リニアにシートベルトを設ける予定は今のところないとのこと。
 
「トンネルなら安全だ」

というお声もあろうかと思いますが、岩盤条件の悪い断層(地層の切れ目という意味であり、地震を起こす活断層とは別の概念)や地すべり地帯のトンネルは、直下型地震で崩れやすいことも事実です。実際、伊豆大島近海地震では伊豆急行線のトンネルが、新潟県中越地震では上越新幹線のトンネルが崩落しています。
 
南アルプスの場合、割れ目だらけ、地すべりを通る、大量の湧き水があるなど、地盤条件は最悪です。さらに3~4㎜/年という日本最速の隆起速度と、日本最大の土被り(トンネルから地表までの厚さ)1400mという、前例のない条件も加わります。下からは隆起にともなう圧力が、上からは山の重さによる圧力がトンネルに加わり、常にトンネルを押しつぶそうという力がかかり続けるのです。これによりコンクリートの劣化が早まる恐れはないのでしょうか。
 
膨大な圧力が加わり続けたコンクリート壁に微細なヒビが入り、水が染み込んで劣化し、大地震の際に大きな塊となってはがれ落ち、そこへ減速中のリニアが時速200キロで突っ込む…
 
そして脱出が困難なことは、前回指摘の通りです。
 
 

一応、こういう危険性は全て最小化できる自信があるからこそ計画が持ち上がっているのでしょう。
 
しかしそれがどのような内容なのか-「東海地震ではこのような事態が予想され、ここまでは対策がとれる」という話-はほとんど聞こえてきません。まして、それを踏まえて計画の是非を問うようなことは全く行われていません。それなのに、「東海地震を想定すると迂回路としてのリニア中央新幹線が必要」という声が沿線自治体はもとよりマスコミから鉄道ファンを含めてまかりとおっています。
 
なんだかおかしくありませんか?
 
 
第一、審議すらしないというのは、はっきりいって無責任だと思います。
 
 
繰り返しますが、あくまで試算です。「そんなことはないぞ」「間違ってない?」と思われたら、どうぞご指摘いただけると幸いです。


 
(備考)時速500キロから停止するまでの90秒間で進む距離
なにやら難しそうですが、高校2年生の授業内容です
イメージ 3

備忘録 南アルプスにトンネルを掘ることの問題点

$
0
0
ブログというものの性質上、過去に書いた内容は時が経つにつれて自分でも分からなくなってしまいます。
というわけで、備忘録として、南アルプスに長大なトンネルを掘ることに、私が大きな疑問を抱いている理由を書き並べます。
 
イメージ 1
JR東海作成の環境影響評価配慮書に加筆
 
イメージ 2
(1)掘ってよい場所かどうかの議論が皆無
  ●原生的な空間という認識が欠如
南アルプススーパー林道の通る北沢峠以南のおよそ110㎞にわたる稜線には、道路やトンネルはもとより送電線、地下水路といった人工的な構造物は一切横切っていない。植生のうえでも、太平洋側で最大級の自然林が残されている。原生的な空間の広がりとしては、太平洋側で最大である。推進者側には、こうした原生的な空間が存在することの価値が完全に欠落している。また斜坑が設けられる大井川源流の静岡市二軒小屋は、発電所・登山小屋関係者を除くと無人地帯であり、森林伐採と水力発電所建設を除くと、これまで大規模な改変が行われていない場所である。改変の是非については慎重に判断されるべきであるが、何の議論も根拠ないにもかかわらず、斜坑を設けることが前提となっている。
  ●政策の不一致
2010年の同時期に南アルプスの自然環境についての審議が環境省と国土交通省にて行われた。審議の結果、環境省は周辺よりも優れた環境を有すると判断して国立公園区域の大規模拡張を決定した。いっぽう国土交通省は、自然環境はルート選定に影響しないという観点から審議を放棄し、時間短縮効果のみの視点から南アルプスルートを決定した。同じ場所の環境について、正反対の判断を下したことになる。
  ●計画段階での環境配慮の恣意的な無視
→詳細はこちら 
  ●周辺自治体は南アルプスをユネスコエコパークおよび世界自然遺産へ登録しようと活動を行っているが、あからさまに登録上の障害であるリニア計画との整合性が全くとれていない。
  ●様々な問題点があるのにもかかわらず、在京メディアにおいては全く扱われていない。 
 
(2)自然・環境破壊
  ●膨大な残土が発生するが、事実上処分方法がない。
私の試算では500万㎥以上、1坑口から約100万㎥発生。掘り出し口となる長野県大鹿村釜沢、静岡県静岡市二軒小屋は南アルプスの山奥ゆえ、環境に配慮した運搬・処分は不可能である。  →詳細はこちら
  ●大型車両の頻繁な通行
震動・騒音・粉塵の発生による動植物への悪影響や小動物の轢死を招く。     
  
●岩盤内の地下水流動は一度破壊されたら復元は物理的に不可能である。影響の予測も不可能。
  ●河川の水量への影響も予測不可能。
  ●工事現場までの輸送路建設による大きな自然破壊。
工事現場は市街地から遠く離れた山奥であり、円滑な輸送のためには道路整備が不可欠。急峻な山岳地域での道路工事では、直接的な植生破壊、生態系の寸断、河川の荒廃、土砂崩れの誘発、外来動植物の伝播がつきもの。
  ●水質汚染
一帯は大井川や小渋川の源流域であり、非常に水質が良好な場所であるが、工事により長期間にわたって水の濁りがとれなくなる。有害な物質を含む残土が発生する可能性もある。冬季も車両の通行が行われる場合、融雪剤がまかれ、水質汚染につながるおそれがある。
  
●ルート上に十谷温泉、小渋温泉が存在するが、温泉枯渇のおそれがある。
  ●車両の頻繁な通行、大量の資材搬入にともない外来動植物が大量に進入する。
  ●工事は谷底で行われるが、間接的に高山帯の生態系へ及ぼす影響が予測不可能。
  ●工事期間は10年以上と長く、静かな山峡の地という雰囲気がぶち壊される。
大鹿村や早川町は鉱山都市へと一変する。
  
●南アルプスという場所と相容れない
人工物がほとんど存在せず、日常生活から途絶したエリアに、地下深くとはいえ時速500キロで大都市を結ぶ超伝導リニアという、大自然と全く相反する科学技術の結集のようなものが出現することに違和感が生ずる。
  ●調査方法にも問題が多い
→詳細はこちら
  
(3)災害のおそれ
  ●建設目的と災害リスクとの関係が不明
推進者側は「東海地震対策にリニアが必要」と主張しているが、南アルプスルートでは東海地震および南海トラフ巨大地震の想定震源域北縁を通り、揺れによるガイドウェイの損傷や土砂崩れ、トンネル内壁の崩落などの恐れがある。それにもかかわらず、東海地震時の影響については、審議段階で全く扱われていない。
  ●南アルプスの隆起速度
南アルプスの隆起速度は「年間4㎜前後、100年間40㎝で日本最大級」というのが地質・地形学者の常識的ともいえる共通認識であるが、JR東海では「突出した値でない」という認識であり、大きな違いがある。長期的に見た場合のトンネル維持コストや安全性に影響が出るのではないか。     →詳細はこちら 
  ●土砂災害の常習地域
南アルプス長大トンネルの坑口となる早川は糸魚川-静岡構造線に、小渋川の谷は中央構造線に接し、地質条件は非常に悪く土砂災害に対して脆弱である。実際、過去の東海地震や大雨の際に大規模な土砂災害が発生している。小規模な土砂崩れは日常茶飯事である。万一落石が発生した場合、時速500キロで突っ込んだら大変なことになる。
  ●無事に緊急停止できるのか
以上のように、災害リスクが非常に高い地域である。超伝導リニアは時速500㎞から停止するまでに90秒の時間と6㎞以上の距離を要するが、その間に衝突事故を起こしたら大惨事となりかねない。
  ●緊急時の乗客救助が困難
さらに南アルプスをお横断する約52㎞の区間は救助拠点となる市街地から遠く離れている。そのうえトンネルに達する林道の近傍は土砂災害に対して脆弱であり、東海地震が起きたら孤立する可能性が高く、救助も容易ではない。
  
●緊急時の通路が度々寸断する
大雨の際に、二軒小屋への林道が寸断するのは日常茶飯事である。
  
●一帯は大部分が無人地帯であり、あえて土砂災害対策を行う必要のない場所である。
そのような場所で災害対策工事を大規模におこなうことは本来不要なことであって、無秩序な自然破壊以外の何物でもない。

中には私の勝手な思い込みと感じられるような項目があるかもしれませんが、妥当なものもあると思います。様々な問題をことごとく無視して計画が進められることに、最大の懸念を抱きます。

備忘録 南アルプスにトンネルを掘ることの問題点 書きなおし

$
0
0
「南アルプスにトンネルを掘ることの問題点」と題していろいろ書きましたが、肝心なことを忘れておりました。
 
というわけで書きなおし。
 
JR東海作成の環境影響評価配慮書に加筆
 
 
(1)掘ってよい場所かどうかの議論が皆無
  ●原生的な空間という認識が欠如
南アルプススーパー林道の通る北沢峠以南のおよそ110㎞にわたる稜線には、道路やトンネルはもとより送電線、地下水路といった人工的な構造物は一切横切っていない。植生のうえでも、太平洋側で最大級の自然林が残されている。原生的な空間の広がりとしては、太平洋側で最大である。推進者側には、こうした原生的な空間が存在することの価値が完全に欠落している。また斜坑が設けられる大井川源流の静岡市二軒小屋は、発電所・登山小屋関係者を除くと無人地帯であり、森林伐採と水力発電所建設を除くと、これまで大規模な改変が行われていない場所である。改変の是非については慎重に判断されるべきであるが、何の議論も根拠ないにもかかわらず、斜坑を設けることが前提となっている。
  ●政策の不一致
2010年の同時期に南アルプスの自然環境についての審議が環境省と国土交通省にて行われた。審議の結果、環境省は周辺よりも優れた環境を有すると判断して国立公園区域の大規模拡張を決定した。いっぽう国土交通省は、自然環境はルート選定に影響しないという観点から審議を放棄し、時間短縮効果のみの視点から南アルプスルートを決定した。同じ場所の環境について、正反対の判断を下したことになる。
  ●計画段階での環境配慮の恣意的な無視
→詳細はこちら 
  ●周辺自治体は南アルプスをユネスコエコパークおよび世界自然遺産へ登録しようと活動を行っているが、あからさまに登録上の障害であるリニア計画との整合性が全くとれていない。 
 
(2)自然・環境破壊
  ●膨大な残土が発生するが、事実上処分方法がない。
私の試算では500万㎥以上、1坑口から約100万㎥発生。掘り出し口となる長野県大鹿村釜沢、静岡県静岡市二軒小屋は南アルプスの山奥ゆえ、環境に配慮した運搬・処分は不可能である。  →詳細はこちら
  ●大型車両の頻繁な通行
震動・騒音・粉塵の発生による動植物への悪影響や小動物の轢死を招く。     
  
●岩盤内の地下水流動は一度破壊されたら復元は物理的に不可能である。影響の予測も不可能。
  ●河川の水量への影響も予測不可能。
  ●工事現場までの輸送路建設による大きな自然破壊。
工事現場は市街地から遠く離れた山奥であり、円滑な輸送のためには道路整備が不可欠。急峻な山岳地域での道路工事では、直接的な植生破壊、生態系の寸断、河川の荒廃、土砂崩れの誘発、外来動植物の伝播がつきもの。
  ●水質汚染
一帯は大井川や小渋川の源流域であり、非常に水質が良好な場所であるが、工事により長期間にわたって水の濁りがとれなくなる。有害な物質を含む残土が発生する可能性もある。冬季も車両の通行が行われる場合、融雪剤がまかれ、水質汚染につながるおそれがある。
  
●ルート上に十谷温泉、小渋温泉が存在するが、温泉枯渇のおそれがある。
  ●車両の頻繁な通行、大量の資材搬入にともない外来動植物が大量に進入する。
  ●工事は谷底で行われるが、間接的に高山帯の生態系へ及ぼす影響が予測不可能。
  ●工事期間は10年以上と長く、静かな山峡の地という雰囲気がぶち壊される。
大鹿村や早川町は鉱山都市へと一変する。
  
●南アルプスという場所と相容れない
人工物がほとんど存在せず、日常生活から途絶したエリアに、地下深くとはいえ時速500キロで大都市を結ぶ超伝導リニアという、大自然と全く相反する科学技術の結集のようなものが出現することに違和感が生ずる。
  ●調査方法にも問題が多い
→詳細はこちら
  
(3)災害のおそれ
  ●建設目的と災害リスクとの関係が不明
推進者側は「東海地震対策にリニアが必要」と主張しているが、南アルプスルートでは東海地震および南海トラフ巨大地震の想定震源域北縁を通り、揺れによるガイドウェイの損傷や土砂崩れ、トンネル内壁の崩落などの恐れがある。それにもかかわらず、東海地震時の影響については、審議段階で全く扱われていない。
  ●南アルプスの隆起速度
南アルプスの隆起速度は「年間4㎜前後、100年間40㎝で日本最大級」というのが地質・地形学者の常識的ともいえる共通認識であるが、JR東海では「突出した値でない」という認識であり、大きな違いがある。長期的に見た場合のトンネル維持コストや安全性に影響が出るのではないか。     →詳細はこちら 
  ●土砂災害の常習地域
南アルプス長大トンネルの坑口となる早川は糸魚川-静岡構造線に、小渋川の谷は中央構造線に接し、地質条件は非常に悪く土砂災害に対して脆弱である。実際、過去の東海地震や大雨の際に大規模な土砂災害が発生している。小規模な土砂崩れは日常茶飯事である。万一落石が発生した場合、時速500キロで突っ込んだら大変なことになる。
  ●無事に緊急停止できるのか
以上のように、災害リスクが非常に高い地域である。超伝導リニアは時速500㎞から停止するまでに90秒の時間と6㎞以上の距離を要するが、その間に衝突事故を起こしたら大惨事となりかねない。
  ●緊急時の乗客救助が困難
さらに南アルプスをお横断する約52㎞の区間は救助拠点となる市街地から遠く離れている。そのうえトンネルに達する林道の近傍は土砂災害に対して脆弱であり、東海地震が起きたら孤立する可能性が高く、救助も容易ではない。
  
●緊急時の通路が度々寸断する
大雨の際に、二軒小屋への林道が寸断するのは日常茶飯事である。
  
●一帯は大部分が無人地帯であり、あえて土砂災害対策を行う必要のない場所である。
そのような場所で災害対策工事を大規模におこなうことは本来不要なことであって、無秩序な自然破壊以外の何物でもない。
 
(4)計画の進め方が大問題
  ●南アルプスを大事に思う人が大勢いるのに、そうした人の存在は完全に無視して、JR東海の論理だけでトンネルを掘ることが決まった。
この計画においては、住民・国民は数回のパブリックコメント、環境アセスメントの意見陳述、あとは街づくり構想への意見提出ぐらいでしか携わることが許されないのである。巨大事業において、こういう進め方がもはや通用しないのは、愛知万博や千歳川放水路、吉野川可動堰などの例で明らかである。今の世の中においては、はっきりいって時代錯誤の進め方なのである。
  ●そもそも本当に必要なのか、妥当な計画なのかという議論が行われていない
いい加減な進め方で破壊してよい場所ではない。
  ●様々な問題点があるのにもかかわらず、在京メディアにおいては全く扱われていない。
最近は、こういう傾向はリニアに限ったことではないことが明らかになってきましたが…。
 
 
なにより様々な問題をことごとく無視して計画が進められることに、懸念を抱いています。

国土交通省 交通政策審議会 陸上交通分科会 鉄道部会 中央新幹線小委員会

$
0
0
山梨県にて「リニア活用基本構想案」というものが打ち出され、県民の声を反映するということで意見募集され、昨日結果が公表されたのこと。40人、141通の意見が寄せられたようですが、そのうち55通が反映困難、36通がその他として適当にお茶を濁すだけで終わっているようです。http://www.pref.yamanashi.jp/smartphone/gyoukaku/public/linear-kt/linear-katuyoukihonnkousou-kekka.html
 
「反映困難」の理由として掲げられているのは
「リニア中央新幹線は、国の交通政策審議会での議論等を経て、平成23年5月に整備計画が決定されております」
からだということです。
 
全てが交通政策審議会の一存で決まっているというご認識のようですが、よく考えると、この審議会もパブリックコメントを理由も説明もなく無視して計画を認可したという経緯があります。(左欄外「パブリックコメント一蹴」をご覧ください)
 
国交省の審議に対し、様々な観点から計画を見直す声が多数寄せられる(パブリックコメントでは7割が批判)
→理由も説明もなく無視
 
山梨県が募集したパブリックコメントにも批判意見が大多数
→「国交省の審議で決まったことだから文句は言えません」との回答
 
これでは国民・市民の声の完全無視ではありませんか・・・。
 
民主的な手続きを経たわけでもない国交省の官僚&エラ~い教授の方々に、どうしてそんな強力な権限が握られているのでしょう?
 
あたかも越後屋と悪代官のようですな。
 
◇   ◇   ◇   ◇   ◇
 
JR東海によるリニア中央新幹線の建設計画を国として審議したのは、前原国土交通大臣から諮問を受けて結成された、「国土交通省 交通政策審議会 陸上交通分科会 鉄道部会 中央新幹線小委員会」という長ったらしい名称の委員会です。http://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/s304_sinkansen01.html
 
東京大学教授、京都大学教授などエラ~い先生方がお集まりになり、堺屋太一氏など3人のスペシャルゲストを招き、2010年春から2011年5月まで、途中東日本大震災による中断をはさみながら1年間にわたって審議が行われました。
 
とはいえ委員会というのは名ばかりで、率直に言って実際には何にも議論らしいことをしていません。議論をしていないばかりか、無理矢理な意見すり替えのようなことも横行しています。
 
私が特に注視している南アルプスの環境についての審議などは最たるもので、悪質なので、こちらに文句を別途まとめてあります。http://park.geocities.jp/jigiua8eurao4/chuuoushinkansen-environmental-shingi.html

ところで先日読んだ本にこんな一文がありました。
 
最近はNHKのニュースなどにも出演されるようになった津田大介氏の著作です。文化庁の審議会に委員として出席した際、あるいはジャーナリストとして取材した際に感じた様子を次のように述べています。
 
著作権分野の政策を決定する委員会『文化庁著作権分科会私的録音録画小委員会』に委員として出席して…
 筆者はここで、各省庁の委員会や審議会というものが、政策決定において極めて重要な場でありながら、役人の大いなる意思によって、方向性が決められているお手盛りの会議であることを始めて知ることになる。いかにも”お役所の会議”という雰囲気のなか、利害関係者が集まり、互いに政治的なトークに終始するだけで、なかなか建設的な議論には発展しない。そして委員から提起された懸念点については十分な検討も行われないまま、偏ったメンバーによって決定された法案がそのまま国会に提出され、それがやがて法律になっていく―そんな光景を目の当たりにした。
【津田大介『ウェブで政治を動かす!』朝日新書P22.より】
 
 議論するための知識や、当事者性の少ない委員たちが審議会に招集され、官僚が議論の方向性を決め、予定調和の「全会一致」で政策が決まっていく―これが日本の審議会で見られる日常的光景だ。政策が成立するかどうかは、委員が選ばれた時点でほとんどど決まっている。
 筆者はジャーナリストとしていくつかの省庁の審議会を取材で傍聴したこともあるが、実のところ審議会の議論は、9割近くが無駄話。ありていに言えば退屈な会議だ。それゆえに、ある程度の関心や専門的知識を持ったメディアの記事でも、審議会を継続的に膨張しに来る人は少なく、議論の途中で記事になることはほとんどない
、(中略)議論が広く知れ渡る機会がないままに、多くの問題点を抱えながら法律が決まっていく。
【同書 P26より】
 
私がリニアの議事録を読んで感じた違和感がそのまま文章にされています。
 
う~ん、やっぱり日本の(といっても、外国の様子なんて知らないんだけれども)お役所の審議会なんてそんなものなのか。
 
また、同書で紹介されていた別の本では次のような指摘がなされています。
 
 官僚制の側からみて審議会は、日常業務から切り離されたところで、問題点の検証、代替案の作成を行うための足がかになる。さらに審議会を機能させるために、委員に高い権威を持つ人物を据える。民主的正当性に代えて、専門的正当性を持つことが、その存在意義を保証するからである。業界代替案とともに、当該分野における研究者、識見を持つ財界人など社会的な成功者を迎える。もちろん担当の官僚も専門性を持つが、委員と事務局を兼ねるのは難しく、「元官僚」など関係省庁と関連がある者を委員にする。

 審議会のあり方は多様であり、1つの型に納まらない。ただ、多くの審議会で事務局の官僚が報告書原案を執筆するため、官僚の意図する方針に反する結論は出ないのが普通である。審議会は官僚の「隠れ蓑」としばしば指摘されるが、おおむね正しい。ただし最初から官僚が結論を持っているとは限らない。官僚も審議会の議論によって考え方をまとめ、その議論の流れをみて、社会的に受け容れられる政策をは何かを判断するからである。

 このように審議会は民主的正当性を持たない省庁官僚制が、自らマニフェスト(政権公約)の代替物を作り出す仕組みという側面を持っている。しかし民主的正当性を持たないことの意味は小さくない。
【飯尾潤(2007)『日本の政治構造』中公新書  P122より】
 
リニア中央新幹線計画の是非を審議したはずの中央新幹線小委員会という名前ばかりの審議会が、なにゆえデタラメな審議を繰り返していたか…ということを考えるうえで参考になる一文かと思います。
 
お集まりになられたセンセイ方は、東京大学、京都大学、北海道大学、東北大学…と大学教授ばっかり。しかもほとんどが交通政策と鉄道工学の専門家。これが「専門的正当性」にあたるという筋書きなのでしょう。
 
とはいえ誰がどのような意図を持って集めたセンセイ方なのか、さっぱりわかりません。どこに正当性やら専門性があるのかさえわかりません。「民主的正当性を持たないことの意味は小さくない」とありますが、確かに住民や国民の意向とは無関係に、官僚(そして官僚の意向を左右する事業者や政治家)の意図に沿って集められた可能性は(根拠はないけれども)非常に高いと思われます(原発なんて最たるものですが)。
 
また冒頭の『悪質なので、こちらに別途まとめてあります。』のリンク先には、南アルプスの自然環境についての審議議事録をコピーしてありますが「自分は専門外だからわからない」という発言がいくつか見られます。
 
はっきり言って、いい加減で無責任です。門外漢ばかりなら、環境省なり自然保護団体なりに専門家を紹介してもらうようなことを、なぜ行わなかったのでしょう??
 
自然環境分野だけでもこの状況ですから、他の様々な分野においても同様であることは、言を待ちません。人口減少と需要予測、緊急時対応、防災対策…
 
「専門家」を隠れ蓑にした出来レースだったのでしょうか?
 
 ◇   ◇   ◇   ◇   ◇
 
それにしても会議が全て猿芝居なんていうのは、まるで議論が卑しいこととされた江戸時代みたいじゃありませんか。
 
リニアに限らず、こうした体制ってひどい悪質だと思います。
 
 
国会議員ならば、原理的には、イヤなら選挙で投票しなければいいわけです。でも省庁が決定権を握ることには、どんなイヤなこと・問題の多いことでも文句を突きつけることができない。パブリックコメント制度なんていうものが法律で義務付けられているけれども、寄せられた意見がまともに取り上げられることはまずない。特に大きな問題ならば裁判になるようなこともありえるけど、一般人にはあまりにも縁の遠い世界だし…。
 
イヤな世の中ですな。

形ばかりの審議でこんな重大なことを決めてよいのかな?

$
0
0
前回、「お役所とエラい先生方が話し合ってご決断なされたことは、下々のものには絶対にくつがえすことはできない」という日本の不思議な制度(?)について書きました。
 
「リニア計画はJR東海による”民間事業”だから官僚の意図するところには当てはまらない。JR東海の意向通りに計画を認可するのは審議会として妥当なあり方、結論だ」
「民間事業なんだから国・官僚はあれこれ言う立場でない」
という見方もあるかもしれませんが、けっしてそうとは思えません(Yahoo!コメントや知恵袋なんかにはこの手の声が多いようで)。
 
しかしですねえ~、リニア計画そのものが純粋な”民間事業”と呼べるものなのでしょうか?
 
私としては以下のような点から、純粋な”民間事業”とは言いがたく、半官半民のようなものだと思います。
 
●リニア中央新幹線計画は、全国新幹線鉄道整備法という法律に基づいて建設される。同法では、新幹線の計画そのものは広く国民生活の発展に寄与することを目的とした国家プロジェクトと位置づけられており、簡単に民間に丸投げできるような性質のものではないはずである。
 
難解だしネット上では読みづらいけれども、一応、法律の条文を掲載しておきます。
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S45/S45HO071.html
【全国新幹線鉄道整備法 第一条】
この法律は、高速輸送体系の形成が国土の総合的かつ普遍的開発に果たす役割の重要性にかんがみ、新幹線鉄道による全国的な鉄道網の整備を図り、もつて国民経済の発展及び国民生活領域の拡大並びに地域の振興に資することを目的とする。
 
●そもそも新幹線の建設計画は国土交通大臣(つまり官僚)が決めるものである。東京-名古屋-大阪に超伝導リニアの高速鉄道を建設するというリニア中央新幹線構想ないし第二東海道新幹線構想は、田中角栄「日本列島改造論」が発端にあり、昭和48年に国が基本計画を定めたもの。本質的には国家プロジェクトである。
【全国新幹線鉄道整備法 第四条】
 国土交通大臣は、鉄道輸送の需要の動向、国土開発の重点的な方向その他新幹線鉄道の効果的な整備を図るため必要な事項を考慮し、政令で定めるところにより、建設を開始すべき新幹線鉄道の路線を定める基本計画を決定しなければならない。
 
●全国新幹線鉄道整備法第五条によって、新幹線鉄道を建設する際の調査は独立行政法人の(国交省所管)もしくは国交省の息のかかった法人がおこなうことと定められている。
【全国新幹線鉄道整備法 第五条】
 国土交通大臣は、前条の規定により基本計画を決定したときは、独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構その他の法人であつて国土交通大臣の指名するものに対し、建設線の建設に関し必要な調査を行うべきことを指示することができる。基本計画を変更したときも、同様とする。
(参考)
【独立行政法人通則法 第二条】
 この法律において「独立行政法人」とは、国民生活及び社会経済の安定等の公共上の見地から確実に実施されることが必要な事務及び事業であって、国が自ら主体となって直接に実施する必要のないもののうち、民間の主体にゆだねた場合には必ずしも実施されないおそれがあるもの又は一の主体に独占して行わせることが必要であるものを効率的かつ効果的に行わせることを目的として、この法律及び個別法の定めるところにより設立される法人をいう。
【独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構法 第三条】
独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構は、鉄道の建設等に関する業務及び鉄道事業者、海上運送事業者等による運輸施設の整備を促進するための助成その他の支援に関する業務を総合的かつ効率的に行うことにより、輸送に対する国民の需要の高度化、多様化等に的確に対応した大量輸送機関を基幹とする輸送体系の確立並びにこれによる地域の振興並びに大都市の機能の維持及び増進を図るとともに、運輸技術に関する基礎的研究に関する業務を行うことにより、陸上運送、海上運送及び航空運送の円滑化を図り、もって国民経済の健全な発展と国民生活の向上に寄与することを目的とする。
 
●建設のための調査だけでなく、山梨実験線における超伝導リニアの研究・実験にも鉄道建設・運輸施設整備支援機構がかかわっている。
●そもそも超伝導リニアの研究・開発は国鉄が始めたもの。1988年に山梨実験線の建設を打ち出したのは当時の石原慎太郎運輸大臣。
●そんなわけで、山梨実験線関連だけでも過去20年間で約1300億円の税金が投入されている。
●国鉄から発足したJRという企業の成り立ちからして国と無関係であるはずがない。
 
当時の運輸省が、リニアの実験・開発は必要なことと判断して鉄道建設・運輸施設整備支援機構に実験線の建設と実験、そして調査をおこなわせ、日本国有鉄道(国鉄)から変化したJR東海がそれを元に自費で実現すると表明するにいたったわけですので、制度的にも国は無関係とは言えないと思います。
 
また、建設の円滑な遂行のために、建設主体つまりJR東海には、国土交通大臣を通じて他人の権利を侵害しうる、強い権限が与えられるようです。
 
【全国新幹線鉄道整備法 第十条 第1項】
国土交通大臣は、前条第一項の規定による認可に係る新幹線鉄道の建設に要する土地で政令で定めるものについて、当該新幹線鉄道の建設を円滑に遂行させるため第十一条第一項に規定する行為の制限が必要であると認めるときは、区域を定め、当該区域を行為制限区域として指定することができる。
【第十一条 第1項 抜粋】
 前条第一項の規定により指定された行為制限区域内においては、何人も、土地の形質を変更し、又は工作物を新設し、改築し、若しくは増築してはならない。
【全国新幹線鉄道整備法 第十二条】
国土交通大臣の指名を受けた法人若しくは建設主体又はその委任を受けた者は、新幹線鉄道の建設に関する調査、測量又は工事のためやむを得ない必要があるときは、その必要の限度において、他人の占有する土地に立ち入り、又は特別の用途のない他人の土地を材料置場若しくは作業場として一時使用することができる。
2  前項の規定により他人の占有する土地に立ち入ろうとする者は、あらかじめ、当該土地の占有者にその旨を通知しなければならない。ただし、あらかじめ通知することが困難である場合においては、この限りでない。
3  第一項の規定により建築物が所在し、又はかき、さく等で囲まれた他人の占有する土地に立ち入ろうとする場合においては、その立ち入ろうとする者は、立入りの際、あらかじめ、その旨を当該土地の占有者に告げなければならない。
(中略)
6  第一項の規定により特別の用途のない他人の土地を材料置場又は作業場として一時使用しようとする者は、あらかじめ、当該土地の占有者及び所有者に通知して、その意見をきかなければならない。
7  
土地の占有者又は所有者は、正当な理由がない限り、第一項の規定による立入り又は一時使用を拒み、又は妨げてはならない。

かなり強い権限が与えられるわけで、こうした権限を形ばかりのいい加減な形ばかりの審査で簡単に認めてしまってもいいものなのでしょうか。
 
また、この条項により、自然公園法や保安林制度など土地開発規制と矛盾する事態が生ずる可能性もあるように思われます。現在、南アルプス周辺や岐阜県南東部の小湿地群など、特に自然保護が求められる地域において、環境省が国立・国定公園区域を拡張する方針を打ち出していますが、骨抜きになるおそれはないのでしょうか。同じく岐阜県南東部のウラン鉱床において、ウランを含む残土が発生した場合にも適応されるのか…?
 
 
 
 
リニア計画は国と密接に関わっているうえに、建設主体に強い権限を認めるわけですから、国による認可手続きは慎重かつ民主的なものでなければならないと思います。
 
それが無理であるならば、国民に開かれた形で、客観的な立場で議論できる委員を選び、多様な意見に耳を傾ける姿勢を持たなければならないはずです。それができていれば、何も文句はありますまい。
 
ですが全くできていないということは、やはり批判されてしかるべきだと思います。
 
何かしら裏でおいしい思いをする一団があるとか、
ひたすらにスピードアップに情熱を燃やす技術者集団があるとか、
どこかから圧力を受けているとか、
 
そういった水面下のドロドロしたものが審議会のあり方-つまり官僚の書いた筋書き-を決定しているのではないかと勘ぐりたくなってしまいます。

リニア計画を考える上で参考になると思われる本。

$
0
0
リニア計画について考えるうえで、いろいろと本を読んでみました。そこで、個人的に参考になると感じた本を紹介します。
 
橋山禮次郎(2010)『必要か、リニア新幹線岩波書店
リニア計画の進め方における問題点が数多くなされています。過去の大型プロジェクトから、成功例としての東海道新幹線や失敗例としての東京湾横断道路やコンコルドなどを引用、対比することによりリニア計画の問題点が浮き彫りになされています。
 


タイトルからして一見リニア計画とは関係なさそうですが、ぜひ一度お読みいただきたいと思います。
 
日本における4つの万博の歴史を、政府による大規模事業と市民との関わりという視点から眺めています。
 
 戦後日本の高度成長を象徴する「官製超巨大お祭り」として6000万人の入場者数を数え、大成功とされた大阪万博。
 その大成功の再現を狙い、折々の世相を反映させ、徐々に湧き上がる疑問の声を封じながら開催された沖縄海洋博とつくば万博。

 万博というイベントに内在する多くの矛盾が一挙に露呈し、長い混乱のうちに市民参画というかたちに軟着陸させた愛知万博。その裏にはトヨタという巨大企業の戦略が見え隠れするとの指摘も。
 
戦後日本における、市民社会の成長、政策への市民参加の歴史をつづったものともいえるでしょう。
 
 新幹線建設も、戦後日本における一大国家プロジェクトです。 
 大阪万博の大成功を東海道新幹線の大成功に、徐々に問題点が浮き彫りになってくる沖縄海洋博とつくば万博を整備新幹線計画に、そして市民や地方の意識とのズレから大混乱に陥った愛知万博をリニア中央新幹線に、それぞれ重ね合わせてみることができると思います。 
 高度成長期と変われず開発主義であった官製イベントの愛知万博は、その矛盾-テーマの形骸化、自然破壊、開発主義への疑問、国際世論の動向、国と地方との対立、地方と住民との対立-によって迷走し、次第に高まる市民の声により、市民参画という形にならざるをえませんでした。筆者は、既に日本においては大規模イベントが意味をなす時代は終焉を迎えたのかもしれないと述べています。
 
 愛知万博の迷走は、全く同様-高度成長期の構想を引きずる開発主義、市民の声を無視、上からのお仕着せ、自然破壊-に進められているリニア計画の行く末を暗示しているように思えてなりません。
 


平川秀幸(2010)『生活人新書 科学技術は誰のものか-社会の側から問い直す NHK生活出版

以前紹介した本です。
 
 世界初の500㎞/h走行、超低温、超伝導磁石、電磁波、初めて南アルプスを横断する長大トンネル、大都市の大深度トンネル、ほとんどの人にとっては未知の要素が数多く並ぶリニア計画。それに対して市民はどう向かい合うべきなのか。それを考える上で参考になるかと思います。
 
 遺伝子組み換え作物、原子力、再生医療、大型公共事業…
 科学・技術が発達することにより、人々の生活は確かに便利になりました。しかし科学・技術が発達、巨大化を続ける一方で、社会との関わりは複雑化してゆき、福島の原発事故を引き合いに出すまでもなく、もはや単純に人々の幸せにつながるとはいえない時代になっています。
 
 科学・技術の発達に対し、一般の人々はどのように向き合うべきなのか、誰が舵取りを担うべきなのか、海外の先進的な取り組みを多数紹介しながら述べています。
 
 大阪万博を振り返り、当時の世相を「懐かしい未来」と評しているところが、前掲の本と重なり合います。関係ないけれども、文体が椎名誠っぽい。



畠山武道(2004)『自然保護法講義北海道大学図書刊行会
 公害に関連する法律の文献は平易なものから専門書まで数多くありますが、自然保護に関する法律に関するものは残念ながらほとんど見かけません。そんな中で自然保護制度を法律の面から解説している数少ない貴重な文献。

 リニア計画においても森林法、自然公園法、自然環境保全法、環境影響評価法などが関わってくるようです。それらについて詳しく説明がなされています。
 
 なお本書では日本の環境アセスメントの問題として、計画段階での環境配慮がなされていないことを指摘し、戦略的環境アセスメントの導入を訴えています。しかし出版後9年を経た現在に至ってもそれが実現していないのが実情。この本の7年後に出版された下記の「環境アセスメントとは何か」でもこの点が述べられています。
 


原科幸彦(2011)『岩波新書 環境アセスメントとは何か』岩波書店
 環境アセスメントについての基本的な知識を学ぶことができます。欧米ではとうの昔に導入され常識となっている戦略的環境アセスメントについての詳しい説明もあります。
 
日本野鳥の会 北海道自然保護協会 とりかえそう北海道の川実行委員会 編集(2003)
『市民が止めた! 千歳川放水路-公共事業を変える道筋』北海道新聞社
 市民の行動で中止された公共事業としては、規模、事業費ともにたぶん最大級と思われる北海道の千歳川放水路建設計画。突然降って湧いたかのような放水路建設計画に対して市民は何を感じたのか、なぜ多くの住民が反対の声を掲げて立ち上がっのか、なぜ中止に追い込まれたのか。運動に関わった市民やNPOの証言がまとめられています。
 
放水路計画の進め方とリニア計画の進め方には、相通ずるところが多いと思いますが…。
 

 
ところで、本屋や図書館に行くと鉄道関連のコーナーがあり、リニアに関する内容の書かれたものも並んでいます。しかし個人的に、そうしたところに並んでいる本はあまり参考になるようには思えません。鉄道マニアによる鉄道ファンのための出版物であるためか、資料の出所が推進者側に限定されており、推進者側の主張あるいはファンが喜びそうなことばかりが並べられ、様々な問題点は無視されていると感じてしまうからです。
 
本屋や図書館で目に留まった以下の本にもざっと目を通しましたが…。
川島令三(2012)『徹底詳解 リニア中央新幹線のすべて』廣済堂出版
村串栄一(2012)『新幹線とリニア 半世紀の挑戦 世界に冠たる「安全神話」はどう構築されたか』中日新聞社
峯崎淳(2011)『「動く大地」の鉄道トンネル―世紀の難関「丹那」「鍋立山」を掘り抜いた魂 』交通新聞社
週刊『東洋経済』や週刊『ダイヤモンド』の鉄道特集号
鉄道総合技術研究所(2006)『ここまで来た!超電導リニアモーターカー―もう夢ではない。時速500キロの超世界』
どれも、JR東海や関係機関の記者発表や環境影響評価方法書から計画内容を抜き出して紹介しているばかりなんですよね…
 
もっともリニア計画に懸念を示す内容が記された本というのも、上に掲げたもの以外に読んでみたけれども、
広瀬 隆(2012)『集英社新書 原発ゼロ社会へ! 新エネルギー論』
原 武史(2011)『朝日新書 震災と鉄道』
言いたいことは理解できますが、何となく感情論が先走っているように感じてしまいまして…。
 
 
そんな中で異色の一冊。
梅原淳(2011)『角川ONEテーマ21 鉄道の未来学』角川書店
 鉄道ジャーナリストとしては珍しく辛口な内容。リニア計画については経済面での課題が多いと強調。リニアだけでなく、際限もなく伸ばされ続ける整備新幹線のカラクリなども詳しく紹介されています。
 
 
 
最後に一冊、とんでもない本を紹介。
 

中央新幹線沿線学者会議(2001)『リニア中央新幹線で日本は変わるPHP出版
リニア計画を進める人々が主張している「建設することの意義」の根本は、おそらくこの本にあります。
 まさに御用学者の集まりとその提言。
御用学者と判断する根拠は、
①課題・問題点にいっさい触れていないから(人口減少、安全性、自然破壊、生活環境の破壊、ストロー効果…等々)
②全く住民目線に立っていないから
③疑いもなく開発志向に拠っているから
④主張にムリが多いから(エコに役立つ、災害時の迂回になる、大型公共事業費をケチるな…等々)
という点によります。ちなみにこの本では諏訪湖ルートを主張。
国土交通省中央新幹線小委員会が出した答申も、ルート案以外はほぼこの本の主張を踏襲。リニア計画を推進する人々の根拠を探るという意味で役に立つ本。
 
 

リニア計画を考える上で参考になると思われる本。 ちょっと追加

$
0
0
リニア計画について考えるうえで、いろいろと本を読んでみました。そこで、個人的に参考になると感じた本を紹介してみましたが、1冊忘れておりましたので追記します。
 
橋山禮次郎(2010) 『必要か、リニア新幹線』 岩波書店
リニア計画の進め方における問題点が列挙されています。過去の大型プロジェクトから、成功例としての東海道新幹線や失敗例としての東京湾横断道路やコンコルドなどを引用、対比することによりリニア計画の問題点が浮き彫りにされています。
 


 タイトルは一見リニア計画とは関係なさそうですが、ぜひ一度お読みいただきたいと思います。
 
 日本における4つの万博の歴史を、政府による大規模事業と市民との関わりという視点から眺めています。
 
 戦後日本の高度成長を象徴する「官製超巨大お祭り」として6000万人の入場者数を数え、大成功とされた大阪万博。
 その大成功の再現を狙い、折々の世相を反映させ、徐々に湧き上がる疑問の声を封じながら開催された沖縄海洋博とつくば万博。

 万博というイベントに内在する多くの矛盾が一挙に露呈し、長い混乱のうちに市民参画というかたちに軟着陸させた愛知万博。その裏にはトヨタという巨大企業の戦略が見え隠れするとの指摘も。
 
戦後日本における、市民社会の成長、政策への市民参加の歴史をつづったものともいえるでしょう。
 
 新幹線建設も、戦後日本における一大国家プロジェクトです。 
 
 大阪万博の大成功を東海道新幹線の大成功に、徐々に問題点が浮き彫りになってくる沖縄海洋博とつくば万博を整備新幹線計画に、そして市民や地方の意識とのズレから大混乱に陥った愛知万博をリニア中央新幹線に、それぞれ重ね合わせてみることができると思います。 
 高度成長期と変われず開発主義であった官製イベントの愛知万博は、その矛盾-テーマの形骸化、自然破壊、開発主義への疑問、国際世論の動向、国と地方との対立、地方と住民との対立-によって迷走し、次第に高まる市民の声により、市民参画という形にならざるをえませんでした。筆者は、既に日本においては大規模イベントが意味をなす時代は終焉を迎えたのかもしれないと述べています。
 
 愛知万博の迷走は、全く同様-高度成長期の構想を引きずる開発主義、市民の声を無視、上からのお仕着せ、自然破壊-に進められているリニア計画の行く末を暗示しているように思えてなりません。
 


平川秀幸(2010) 『生活人新書 科学技術は誰のものか-社会の側から問い直す 』 NHK生活出版

以前紹介した本です。
 
 遺伝子組み換え作物、原子力、再生医療、大型公共事業…。 科学・技術が発達することにより、人々の生活は確かに便利になりました。しかし科学・技術が発達、巨大化を続ける一方で、社会との関わりは複雑化してゆき、福島の原発事故を引き合いに出すまでもなく、もはや単純に科学の発達が人々の幸せにつながるとはいえない時代になっています。
 
 こうした科学・技術の発達に対し、一般の人々はどのように向き合うべきなのか、誰が舵取りを担うべきなのか、海外の先進的な取り組みを多数紹介しながら述べています。
 
 世界初の500㎞/h走行、超低温、超伝導磁石、電磁波、初めて南アルプスを横断する長大トンネル、大都市の大深度トンネル、大量の電力供給が前提…と、ほとんどの人にとっては技術的・科学的に未知の要素だらけのリニア計画。それに対して市民はどう向かい合うべきなのか。それを考える上で参考になるかと思います。
 
 大阪万博を振り返り、当時の世相を「懐かしい未来」と評しているところが、前掲の本と重なり合います。関係ないけれども、文体が椎名誠っぽい。



畠山武道(2004) 『自然保護法講義』 北海道大学図書刊行会

 少しマニアックな専門書ですが、役に立つことは間違いないと思われる本。本屋には置いていないかもしれませんが、たぶん大きな図書館にはあると思います。
 公害に関連する法律の文献は平易なものから専門書まで数多くありますが、自然保護に関する法律に関するものは残念ながらほとんど見かけません。そんな中で自然保護制度を法律の面から解説している数少ない貴重な文献。
 リニア計画においても法律の上では森林法(特に保安林制度)、自然公園法、自然環境保全法、環境影響評価法などがが関わってくるようです。それらについての説明がなされています。
 
 なお本書では日本の環境アセスメントの問題として、計画段階での環境配慮がなされていないことを指摘し、戦略的環境アセスメントの導入を訴えています。しかし出版後9年を経た現在に至ってもそれが実現していないのが実情。この本の7年後に出版された下記の「環境アセスメントとは何か」でもこの点が述べられています。
 


原科幸彦(2011) 『岩波新書 環境アセスメントとは何か』 岩波書店
 環境アセスメントについての基本的な知識を学ぶことができます。欧米ではとうの昔に導入され常識となっている戦略的環境アセスメントについての詳しい説明もあります。
 リニア計画における環境アセスメントの実情は、この本で述べられている「あるべき環境アセスメントの姿」からは程遠いものと言わざるを得ません。ぜひ読んでいただきたい一冊。
 

日本野鳥の会 北海道自然保護協会 とりかえそう北海道の川実行委員会 編集(2003)
『市民が止めた! 千歳川放水路-公共事業を変える道筋』 北海道新聞社
 市民の行動で中止された公共事業としては、規模、事業費ともにたぶん最大級と思われる北海道の千歳川放水路建設計画。突然既成事実のように現れた放水路建設計画に対して市民は何を感じたのか、なぜ多くの住民が反対の声を掲げて立ち上がっのか、なぜ中止に追い込まれたのか。運動に関わった市民やNPOの証言がまとめられています。
 
 放水路計画の進め方とリニア計画の進め方には、相通ずるところが多いと思いますが…。
 

そして追記。
津田大介(2012) 『朝日新書 ウェブで政治を動かす!』 朝日新聞出版社
 最近、様々な場で引っ張りだこの津田氏の著作です。
 リニア計画に関しては、
「マスコミは推進側に都合のよいことしか報道しない」
というぼやきがあるようです。
 「これは原発推進と同じ構図だ!」という声もありますが、何もリニア・原発に限らず、ありとあらゆる公共事業やお役所仕事にあてはまるようです。
 
 そう感じてしまうことの多い昨今の風潮を、ソーシャルメディアを中心とする情報発信技術を駆使して変えていこうと呼びかける一冊。「ぼやく前に、ウェブを使って自分から問題点を提起しよう」というスタンスです。
 
 静的なホームページやブログだけでなく、facebook、twitterといった双方向に情報をやり取りできるソーシャルメディアの普及により、誰もが情報発信源となりうるようになりました。原発事故後の、原発をめぐる議論において、大手マスコミの信頼低下に反してソーシャルメディアの力が大きく関わってきていると筆者は述べています。この構図はリニア計画に当てはまりうるのではないのでしょうか?

「サイバーテロ」ならぬ「サイバーデモ」

という考え方はおもしろいかも。
 
 いっぽうリニア計画というのは、計画のスパンが30年、40年と非常に長いわけです。ですから今の青少年世代の考え方が、計画に反映されなければなりません。生まれたときからデジタル技術に囲まれたデジタルネイティブという呼び名もある世代に、どうやってリニア計画について考えてもらうか、それを考えるうえでも参考になるかと思います。
 

 
 ところで、本屋や図書館に行くと鉄道関連のコーナーがあり、リニアに関する内容の書かれたものも並んでいます。しかし個人的に、そうしたところに並んでいる本はあまり参考になるようには思えません。鉄道マニアによる鉄道ファンのための出版物であるためか、資料の出所が推進者側に限定されており、推進者側の主張あるいはファンが喜びそうなことばかりが並べられ、様々な問題点は無視されていると感じてしまうからです。
 
 
 本屋や図書館で目に留まった以下の本にもざっと目を通しましたが…。
川島令三(2012) 『徹底詳解 リニア中央新幹線のすべて』 廣済堂出版
村串栄一(2012) 『新幹線とリニア 半世紀の挑戦 世界に冠たる「安全神話」はどう構築されたか』中日新聞社
週刊『東洋経済』週刊『ダイヤモンド』の鉄道特集号 
堀内重人(2012) 『新幹線VS航空機』 東京堂出版 
 いずれも、JR東海が2010年5月10日に国交省中央新幹線小委員会に提出した資料「超電導リニアによる中央新幹線の実現について」や環境影響評価方法書から計画内容をそのまま抜き出して紹介しているばかりであり、分析や周辺を取材した形成は皆無です。
 例えば、いずれの本でもあっさりと「南アルプスを貫く…」なんて書いてありますが、ここを貫くと生活環境悪化、自然破壊、残土処分不可能、土砂災害リスク、緊急時の避難困難…といった問題が噴出するという現地の実情を知らないのかな?
 
峯崎淳(2011) 『「動く大地」の鉄道トンネル―世紀の難関「丹那」「鍋立山」を掘り抜いた魂 』 交通新聞社
 南アルプス等長大トンネルの工事を考える上で参考になるかと思って読みました。プロジェクトXふうの内容。日本屈指の難工事となった北越急行鍋立山トンネルの建設にたずさわった人々の情熱には頭が下がります。そのことに自体についてはすごいことだと、素直に受け入れます。でもいっぽうで、赤字が累々と重なりつつあった国鉄末期に、難工事を20年間も続けることが果たしてよい選択だったのか、他のルートはありえなかったのか、いろいろな疑問が頭をよぎってしまいますが、それらにも解答が欲しいと感じました。

鉄道総合技術研究所(2006) 『ここまで来た!超電導リニアモーターカー ―もう夢ではない。時速500キロの超世界』
 超電導リニアの技術的なあらましについて書かれた本。
 
 
 もっともリニア計画に懸念を示す内容が記された本というのも、すべてが首肯できるわけでもないようです。
広瀬 隆(2012) 『集英社新書 原発ゼロ社会へ! 新エネルギー論』
原 武史(2011) 『朝日新書 震災と鉄道』
 これらの本ではリニア計画を真っ向から反対しています。言いたいことは理解できますが、感情論が先走っているように感じてしまいまして、もうすこし論理的に書いていただきたいと思いました…。
 
 
そんな中で異色の2冊。
梅原淳(2011) 『角川ONEテーマ21 鉄道の未来学』 
角川書店
福井義高(2012) 『鉄道は生き残れるか-鉄道復権という幻想- 中央経済社 
 鉄道ファンを喜ばすためのような(?)鉄道本が多い中、その幻想を打ち砕くかのように珍しく辛口な内容。どちらもリニア計画については経済面での課題が多いと強調。リニアだけでなく、際限もなく伸ばされ続ける整備新幹線のカラクリなども詳しく紹介されています。
 
 
 
最後に一冊、とんでもない本を紹介。
 

中央新幹線沿線学者会議(2001) 『リニア中央新幹線で日本は変わる PHP出版
リニア計画を進める人々が主張している「建設することの意義」の根本は、おそらくこの本にあります。
 まさに御用学者の集まりとその提言。
 
御用学者と判断する根拠は、
①課題・問題点にいっさい触れていないから(人口減少、安全性、自然破壊、生活環境の破壊、ストロー効果…等々)
②全く住民目線に立っていないから
③疑いもなく開発志向に拠っているから
④主張にムリが多いから(エコに役立つ、災害時の迂回になる、大型公共事業費をケチるな…等々)
という点によります。ちなみにこの本では諏訪湖ルートを主張。
国土交通省中央新幹線小委員会が出した答申も、ルート案以外はほぼこの本の主張を踏襲。リニア計画を推進する人々の根拠を探るという意味で役に立つ本。
 
 

誰が運営して誰が利用するのかな?

$
0
0
リニア計画においては、一般の市民・国民が計画に携われないことになっています。
 
まあ、規模の大小を問わず、公共事業や国策民営事業、さらにはお役所仕事全般というのはそんな性質なのでしょう。
 
とはいえ、マジいと思うのですよ。冗談ではなく。
 
リニア計画と一般市民の関係を見てみると―
 
「東京-甲府市南部-南アルプス-名古屋-大阪というルートで、超伝導リニアを用いて1時間で結ぶ」という基本計画が1973年に、整備計画が2011年5月に、お役所・JR東海・偉い学者センセイ方・政治家のセンセイ方によって決定しました。このあと2014年に着工するという計画になっています。
 
この間、市民・国民が計画決定に関わり得た機会というのは、国土交通省中央新幹線小委員会での3回のパブリックコメントだけ。しかも寄せられた意見-賛成意見が減少し、最終的には7割が批判-について何らコメントすることなく一蹴されました。
 
あとは、せいぜい駅前整備構想で意見を提出するだとか、そんな瑣末なところでお茶を濁すだけに留まっています。環境アセスメントでも意見提出が認められていますが、基本的に環境保全に関わる項目に限定されており、計画そのものへの意見は受け付けていません。
 
日本の国には間接民主制という、選挙で選ばれた国会議員が国民の代理となり、国会で議論をするという制度がありますが、ことリニア計画については、全く議論対象になっていません。つまり直接的どころか、間接的にも国民の意見が政策決定の場に届いていないことになります。
 
全く国民の声を聞かずに進められていると言っても過言ではないと思います。
 
社会や生活環境、自然環境に非常に大きな影響を与えるというのに、全く一般市民が計画に関われないというのは明らかにおかしいと思います。
 
 
 
さて、計画が打ち出されたのは40年前。
 
そして完成予定は今から30年以上も先の2045年。
 
計画の決定から完成まで実に72年。
 
最初の基本計画策定に携わった人々が30歳以上だったとしたら、失礼な言い方になりますが、実際に完成を目の当たりにする可能性は極めて低いはずです。立案者の田中角栄首相をはじめ、既に鬼籍に入られた方も多いかもしれません。最も若かった人が仮に25歳だったとしても、開業時には97歳。
 
いま現在、計画に携わっている人のことを考えてみても…
 
例えば国土交通省中央新幹線小委員会に呼ばれ、整備計画にOKを出した「有識者のセンセイ方」は、おしなべて55歳前後。議員のセンセイ方、沿線自治体の人々、国土交通省の官僚、JR東海の重役といった人々の年齢構成も似たようなものなのでしょう。
 
完成する頃には80~90歳。計画がどういう方向に進んでいっても責任を取っていただくことは不可能です。開通式典に招かれてふんぞり返っているのが関の山…。
 
いっぽう、完成時にリニアを利用する、あるいは運営する人々の大多数は、まだ選挙権も持っていない今の子供たち。そして生まれてもいない次の世代。つまり声すら挙げられない世代。
 
どんなに困った事態を引き起こしても、責任は全てこの「声なき声」に振り向けられてしまうわけです
 
一番声が大きく、計画を進めている世代には責任を取る必要がなく、一番声が小さく、計画に携われない世代に全ての責任が押し付けられる…。
 
 
も~~~のすごく無責任な話に思えます国の借金や、使用済み核燃料の話に似てますね)。
 
 
できるだけ広い範囲から様々な意見を集めることが、少しでもこの無責任状態をよい方向に向かわせる道筋ではないのでしょうか。そういった意味でも、市民・国民の声に耳を傾ける必要があると思います。
 
特に計画に真正面から向き合っていかなければならない、今の若い世代が、もっと関心を持たねばならないはずです。
 
とはいっても、だ~れも聞いてないんだろうなあ・・・。

30年、40年先でも「スピードアップで時間短縮」が好まれているのかな?

$
0
0
当たり前のことですが、リニア中央新幹線が大阪まで開業する2045年時点では、55歳以下のヒトの全てが平成以降の生まれになります。開業後10年もすれば、昭和生まれのヒトは大部分引退なさっていることになります。このことはどれほど考慮されているのでしょう?
 
リニア計画が打ち出されたのは40年前の1973年
 
そして完成予定は今から30年以上も先の2045年
 
計画の決定から完成まで実に72年
 
よく考えれば、利用客が増えていってもらわなければ困るのは40~50年先。
見方をかえると、40年以上先の人々の生活スタイルや生活環境を、30年・40年前のオジサンたちの価値観に基づき、今のJR東海や国交省やお役所のオジサンたちが決めてしまう…。
(あ、オバサンもいらっしゃるかもしれませぬが)
 
 
これって少々おかしな、あるいは乱暴な話だと思いませんか?
 
昭和40年当時のオジサン世代-つまり今のおじいさん世代-の考え方を、今から生まれてくる子どもたちに押し付けることは不可能だと思いますし、受け容れてくれないと思います。
 
「中央新幹線ナントカ同盟会」とか「中央新幹線ナントカ協議会」といった会議が、政府から地方の役場にいたるまであちこちに設けられているようですが、メンバーはほとんど中高年層 悪いけど未来のお客さん、つまり今の若者や子ども達の考え方を深く理解しているとは到底思えないし、予測するなんてもっと難しいと思う(もっとも、計画を批判する人々の年齢構成も似たようなものかも)。

そういえば、リニア中央新幹線の開通を望む人々のブログなんかも、若者が書いたような文脈のものはほとんど見かけません(証明しろと言われても困りますが)。一般の人で関心を寄せているのも、子供の頃にテレビや絵本でリニアモーターカー(宮崎の赤いやつ)を見て、憧れてしまった世代なんじゃないのかな。
 
おじさん・おじいさん世代
「科学技術を結集してものすごいスピードの乗り物を作り、東京と大阪を1時間で行き来するなんて素晴らしいじゃないか!」
 
今の若者
「出かけるの面倒だからメールで十分じゃないっスか?」
「いつもネットを通じて会ってっから十分っスよ」
 
これ、冗談でも空想でもないかもしれませんよ。
 
リニアの途中駅が計画されている長野県飯田市にて、高校生に向けて県議会議員がリニアの夢を熱く語ったところ反応がイマイチだったので、「ひょっとしたらリニアなんていらないと思ってる?」とたずねたところ、大半の生徒が手を挙げたそうです。その議員は「もっと将来に希望を持って」と締めくくったそうな。
 

ほとんど笑い話ですが、将来を悲観しているわけでも何でもなく、単にフツーの生活をしていくうえでは不必要と感じているんじゃないのかな?
 
たぶん、沿線のどこでも似たようなものだと思いますよ。早急に10~30代向け限定のアンケートをすべきでは…?
 
「こんな考え方ではいかん」
「もっと若者に希望を持たせろ」
「若者が内向き思考など嘆かわしい」
とかいう声がどこかから聞こえてきそうですが、いくら叫んだところでその声が30年先まで続くわけがありませんし、その考え方自体が正しいのかどうかも分かりません。
 
「まだ社会のことなど分かっていないだけだ。いずれ必要性がわかるはずだ」
という考え方もあると思いますが、これとていつまで通じるかわかりません。
 
2013年の今は、社会で最も発言力があって社会を引っ張っているのは、当然ながらオジサンたちです。ですから当然のこと、基本的にはオジサンたちの思考・嗜好によって世の中が成り立っています。昭和40~50年代に少年期を過ごされたのですから、当時の空気を受け継いでいるわけです。
 
でも、15年、20年も経てば、今の若者の発言力が最大になり、リニアが動き出す30年、40年後には、今の子ども達が世の中の中心となります。まもなくファミコン世代が世の中の中心となり、そして日本人の全てが、子供の頃からネットやらデジタル製品に浸って育った世代になる日も、否応なく到来します。
 
物心ついた頃からスマホをいじり、自室にいながらオンラインゲームで世界のどこかとつながり、ニコニコ動画やYouTubeで遠くの物事を知り、ネットで何でも買い物できる世代が社会の中核を担う頃に、果たして「70年前に考え出された日本でしか実用化されていない超スピードの乗り物」がどれほど意味をなすのか、一度でも顧みられたことがあったのでしょうか?
 
 
ちなみにこうした、生まれながらにウェブに浸っている世代をデジタルネイティブと呼ぶとのこと(ネット世代というより実感ありますね)。
 
 
あっ、いや、別にこうした世の中が望ましいと言ってるわけじゃないですよ。
ただ、全般的な世の中の流れとして、「移動するのが面倒と感じる若者が増えている」「直接ヒトと会うこと自体が面倒がられる」傾向にあるような気がして、そういう傾向が続けばリニアの需要にも影響してくるんじゃないのかな~なんて思ったのです。
 
 
日本人の大半がデジタルネイティブで構成されている30年、40年先の世の中では、スピードアップによる移動時間短縮よりも、ムダな移動をしなくて済む社会が好まれていくんじゃないのかな

新型車両L0系と環境アセスメント

$
0
0
世代間のギャップについての懸念についてもう一回書こうと思っておりましたが、新たなニュースが入ってきたのでちょっと方向転換。
 
JR東海が、今年9月から2016年度にかけて、山梨実験線にて営業用車両L0系を用いた走行実験をおこなうと発表しています。
 
例えばコレ(読売新聞中部版より引用)
http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/chubu/news/20130418-OYT8T00199.htm?from=localtop
 JR東海は17日、延伸工事を進めている山梨リニア実験線(山梨県上野原市―笛吹市、42・8キロ)の完成に合わせ、9月から実際の営業で使われる新型車両「L0(エル・ゼロ)系」の試験走行を始めると発表した。
 
 実験線は、2027年に開業予定のリニア中央新幹線の路線の一部で、実験のため先行整備していた18・4キロから東西それぞれに延伸していた。新型車両による試験走行はまず5両編成でスタートし、営業運行で予定している12両に増やす計画。16年度末まで続け、最高時速500キロでの走行や耐久性などを確かめる。
 
 山田佳臣社長は同日の記者会見で、「延伸工事が順調で、当初は今年末からの予定だった試験を前倒しすることができた。L0系の性能を最大限引き出せるようにしたい」と述べた。
 

L0系は新型車両ですし、12両編成で走行実験が行われるのも初めてのことなので、いろいろと新たな知見が得られることとなります。
 
一方でJR東海は、今年2013年秋にはリニア中央新幹線の環境影響評価(アセスメント)準備書を発表すると宣言しています。
(山梨日日新聞)
http://www.sannichi.co.jp/linear/news/2013/04/11/13.html
 
準備書というのは事業に伴う様々な環境への影響を予測・評価し、対策を記載した文書のことであり、当然、列車の走行にともなう騒音、振動、トンネル微気圧波、電力消費、磁界などの影響予測や対策についても言及がなされます。そして準備書に対しては市民や市町村・県知事から意見を提出できることが環境影響評価法で定められています。
 
っていうか、準備書への意見提出が、外部から環境配慮について意見を出せる最後の機会です。準備書が出された後に意見提出のできるのは、環境大臣(つまり環境省)だけと定められています。

準備書が公表される正確な日時はわかりませんが、日程を考えると、L0系・12両編成での走行実験結果が記載されるのは不可能です(そもそも実験終了の2016年度というのは着工予定2014年度よりも2年先!)。ですからこれまでのMLX01等による最大5両編成での走行に基づく予測や対策が記載されることになります。
 
したがって万が一、今後の新型車両12両編成での走行実験で新たな環境への影響が判明し、それへの新たな対応が必要となっても、準備書には反映できなくなってしまい、外部からの法律に基づく意見提出も不可能(事業者側から見れば不要)になってしまいます
 
例えば、12両で走らせてみたら、4両での走行に基づく予想よりも沿線への騒音や磁界なんかが大きいことが判明して路線の規格が若干変更され、準備書での記載内容が有名無実化してしまったけど、誰も法的には何も言えない…なんて事態が、理論上は生じうるわけです

これでは何のための走行実験なのか分からなくなってしまいますし、あるいは環境アセスメントが形骸化してしまうように思われますが、どうなっているのでしょうか?
 
 
「今までの走行実験である程度分かってるから、そんな小さいこと気にすんなよ」
という声が聞こえてきそうですが、「想定外」のことが起こるのがこの国では恒例化してますし、そもそも進め方としておかしいと思います。フツーに考えれば順序は逆です。
 
 
それにしても、なんでこんな懸念が報道されないんだろう?

4.15国会でのやりとり

$
0
0
さる4月15日、国会にてリニア中央新幹線についての質疑が行われていたそうです。
 
動画がYouTubeにアップされていましたので、ご紹介します。
 
 
【質問者】共産党 佐々木憲昭議員
 
主な質問内容
・国の審査が不十分ではないか
・何のためにつくるのか
・大地震時の安全性は確保されているのか
・国民の支持を得ているといえるのか
 
【回答者】太田昭宏国土交通大臣、国土交通省鉄道局長
「科学的に安全である」「科学的に安全性を確保する」の繰り返し…

エコパーク構想とリニア中央新幹線計画は水と油なんじゃないのかな?

$
0
0
山梨・長野・静岡の10市町村により、南アルプスをユネスコ生物圏保存地区(通称:エコパーク)に登録しようという運動がなされています。さる19日、登録への第一手続きとして、申請書の素案を文部科学省内に設置されている日本ユネスコ国内委員会に提出したのだそうです。
 
静岡新聞の記事
 
東京新聞の記事
 
エコパークというのは、ごく端的に説明しますと、自然環境の自足性と生物資源の持続的な利用能力を高めることが重要であることが国際的に認識されるようになってきて、それを実現するための国際的な自然保護地域のことをさすのだそうです。
(詳しくはこちらに掲載しましたhttp://park.geocities.jp/jigiua8eurao4/SouthAlps/hozen/ecopark.html
 
 日本では長野県の志賀高原、白山、紀伊半島の大台ケ原、屋久島、の4地域が1980年に登録録され、2012年7月に、貴重な照葉樹林を残した宮崎県綾地域が登録されることとなりました。綾地域の登録は、国内では31年ぶりということになります。順調に行けば、南アルプスの登録は2014年夏になるとのこと。
 
 ところで南アルプスにおいては、世界自然遺産登録を目指した運動も行われています。世界遺産登録のためには、単に優れた自然環境が残されているだけでなく、それを保護するため制度が整っていなければなりませんが、エコパークの場合は既存の法的保護制度と保全管理計画とで申請可能だということです。南アルプスを世界遺産登録するためには国立公園拡張が不可欠ですが、環境省による拡張がいつになるのかさっぱり見通しがつかないので、とりあえず第一目標をエコパークに変更したのでしょうか?
 
 エコパークに登録すると住民や自然環境保全にどのようなメリットがあるのか、実現すると生活や自然環境にどのような影響が予見されるのか、国内外の事例はどうなっているのか、そうしたことを広く説明する必要があると思うのですが、全く伝わってきません。いつの間にか世界文化遺産登録まっしぐらとなった富士山同様、ナゾの多い計画といった雰囲気があります。
 
 とはいえ、既登録地から不満が出ているわけでもなく、世界遺産登録のなされた屋久島のように膨大な観光客が押し寄せたり、あるいは白神山地のように住民の利用をも拒むような状況となるようなこともなっておらず(ちなみに大井川水系寸又川上流域はこのような規制下だけども、一般人が簡単に近づける場所ではない)、新たな法的規制がかかるわけでもなく、基本的にデメリットになりそうなこともないと思うので、悪いことではないと思います。もっとも関係市町村のホンネは地域のブランド化にあるようですが。
 
さて、その南アルプスではリニア中央新幹線の長大トンネルの建設が計画されています。一部の周辺市町村においては、エコパークもリニアもどちらも歓迎する声も聞こえてきます。
 
リニアの建設工事は10年以上におよび、残土運搬路や処分地のことも含めると、直接的な改変を受ける範囲は非常に広くなります。今後十数年間は、事実上、南アルプスの主産業が鉱山開発になるようなものです。これでは明らかに時速可能な利用とはいえません。
 
「自然環境の持続性および時速可能な的な利用」を図るエコパークと、単純に壊して通るだけのリニア計画とは、まったく相反するものですが、なぜかどの方面からも、両計画を並行して進めることの矛盾を指摘する声は聞こえてきません。
 
以前この点について長々と書いたことがあり、左欄外の「世界自然遺産登録って本気?」のところに保存しています。また、別途長々とまとめてありますのでよろしかったらご覧になってみてくだい。
 
 
 


 
4月15日、国会にてリニア中央新幹線についての質疑が行われていたそうです。
 
動画がYouTubeにアップされていましたので、ご紹介します。
 
 
【質問者】共産党 佐々木憲昭議員
 
主な質問内容
・国の審査が不十分ではないか
・何のためにつくるのか
・大地震時の安全性は確保されているのか
・国民の支持を得ているといえるのか
 
【回答者】太田昭宏国土交通大臣、国土交通省鉄道局長
「科学的に安全である」「科学的に安全性を確保する」の繰り返し…
 
リニアのことが国会で話題に上がるのは、建設指示後ではおそらく初めてのことではないかと思います。
 
継続した審議をお願いしたいと思います。
 

リニアが運ぶ”夢”って何だろう?

$
0
0
リニア中央新幹線というものは、

51年前の1962年に理論的な研究が始まり、
40年前の1973年に基本計画路線に定められ、
2年前の2011年に整備計画路線に昇格され、
2年後の2014年に着工し、
14年後の2027年に東京~名古屋間が暫定開業し、
32年後の2045年に大阪までの全線が完成する
 
という運びになっています。
 
計画のはじまりから終わりまで、実に70年以上もかかります。
 
しめて10兆円という建設費の償却が終わるのは今世紀終盤になると見込んでいるのでしょうから、全てが完結するには100年近い歳月が必要になるのかもしれません。
 
当然のことながら、この間、社会も経済も大きく変化します。それにともない、人々の価値観も大きく変化します。

社会は常に変化してゆきますが、長期プロジェクトというのは当初の目的を掲げて延々と続けなければならないのが宿命です。それゆえ時代の変化とのギャップが生じてしまい、突然目的を変更したりして、無用な社会的混乱に陥ってしまうケースも多いようです。
 
水が余っているところへダム建設、
減反政策の一方で進められる干拓事業、
需要が減りつつあるのに際限なく高速道路をつくる、
木なんて切るつもりがないのに大規模林道をつくる
いろいろとムリだと分かってきたのに核燃料サイクルをやめられない…
 
いろいろありますね。
 
リニア計画は超がつくほどの長期プロジェクト。そして東京~大阪を1時間で結ぶ「夢の超特急」。計画当初の1970年代の思想や価値観に基づく”夢”を、今世紀半ば以降にまで必然的に引きずっていかねばなりません。
 
その”夢”はどんな価値観によって支えられているのでしょうか。そして「高度成長期のタイムカプセル」とでも言うべきリニアの建設により、どんな社会を後世に伝えようとしているのでしょうか?
 
リニア計画に携わる人々の思想を垣間見てみようかと思います…
 
●田中角栄『日本列島改造論』
リニア計画の発端となった本だそうです。日本が土建社会へと突き進むきっかけとなったものと位置づけられています。とにかくカネをばらまいて日本列島をコンクリートで固めてしまおうという趣向。
 
●国交省中央新幹線小委員会の答申
・リニアが完成することにより、単に移動時間が短縮されるだけでなく、国民に技術立国としての自信・自負と将来社会への大きな希望を与える。
・6000万人都市が出現することにより国土構造を変革するとともに国際競争力を大きく向上させる。
・磁界、緊急時の安全性、環境保全、トンネル掘削等、様々な課題は技術的に対処可能である。
とのこと。要するにまあ、人々の生活は常に変革し続けていかなければならず、リニアはそれを叶えてくれるとのこと。
 
リニア開発にあたった鉄道総合技術研究所が編集した『ここまで来た!超電導リニアモーターカー ―もう夢ではない。時速500キロの超世界』 の巻末268ページ目より
「人々は自分たちの生活をより便利にしたいという欲望を持っている。この欲望は、その時代々々の技術レベルを超えていて、それが常に技術の進歩を促してきた。物質的豊かさを求めてきた社会の意識構造が、近年では、精神的・文化的な豊かさを重視し、「量」から「質」へと転換してきた。輸送手段に対しても、より高速で、より快適で、より環境に適合したシステムを求めている」

●信濃毎日新聞 国土交通省中央新幹線小委員会の家田委員長のインタビュー
「電力不足が心配だ」という質問に対し、「電力消費はそれに伴ってどんなメリットを生むかというバランスが重要。電力消費を考えて、より高度な乗り物の開発や整備をやめようという国では将来がない」
●同じく家田氏が、建設通信平成23年1月1日号に寄せたリニア計画推進を強くPRする文章…
長ったらしいから、かいつまんで引用。
『国内の社会資本整備では維持管理やストックマネジメントばかりを重視するなど、現在の日本が陥りがちな世界観を指摘し、そうした閉塞感の漂う風潮に異を唱える。現状をそれほど落とさないようにしようと思った時点で、ベクトルは下に向かってしまう。「リノベートして上に行こうとしなければ現状維持すらできない」と警鐘を鳴らす。』全文はこちら
http://blogs.yahoo.co.jp/jigiua8eurao4/archive/2012/04/04
 
●中央新幹線沿線学者会議(2001)『リニア中央新幹線で日本は変わる』より
 リニア中央新幹線の開通によって日本の動脈の質的・量的グレードアップが実現されれば、三大都市圏の集積のメリットを最大限に活かすととともに日本列島全体の時間距離を短縮し、経済社会活動の効率性をさらに高めることが可能になるということである。
 日本が活気ある経済活動を維持し、21世紀の国際社会をリードしてゆくためには、限られた国土の潜在的機能を最大限に引き出してゆく必要があるだろう。つまり、美しい自然、歴史、風土をうまく取り込みながら、三大都市圏を約1時間で結び、効率的かつ巨大な経済圏を実現してゆくこと、全国の人と人との交流を可能な限りスムーズにして快適な生活圏を作りあげていくことが必要なのである。
(中略)
 ところで、リニア中央新幹線に対しては、財源などの問題からその建設を時期尚早とする声もある。確かに今の日本は財政難にあり、賞しか・高齢化にともない今後も余力投資の減少が進行すると見込まれている。しかし、社会経済的な総合効果でなく、交通事業者の採算性だけにとらわれた萎縮した公共投資に終始していたならば日本の将来の発展はない。』
 
●産経新聞の「ちょうちん記事」
【目覚めよ 日本力】
〈次世代技術〉超電導リニア、世界唯一の500キロ台鉄道が実現へ 

●肝心のJR東海
どういう姿勢で進めようとしているのかよくわかりません。
http://company.jr-central.co.jp/company/others/chuoshinkansen01.html
 
(参考)JR東海の葛西会長
「原発継続しか活路はない」
福島の原発事故から2ヶ月の時点でこれを公言したとは・・・。
 
 
以上の発言等からでも感じられるように、リニア中央新幹線のもつ”夢”を通じて受け継がれていく価値観とか思想というと、
・科学技術の発達は疑いもなくよいことである。
・科学技術発達のデメリットなど許容せよ。
・日本は今後も技術立国でなければならない
・エネルギー消費が増えるのは経済成長の証し。
・経済成長は際限なく続くし、そうでなくてはならない。
・人間は忙しければ忙しいほどよい。ヒマな時間など許さん。
・都市が巨大化するのはよいことだ。
・自然環境の保全なんて二の次、三の次。っていうか、自然は人間に征服されるべきもの。
・乗り物は速ければ速いほどよい。
・計画に市民が関わることなんぞ考えてもいない。
といったところだと思うのですよ。
 
なんだかんだ言っても、昭和30~60年代の、科学技術発達や経済発展を最上のものと仰ぎ、それをもたらすお上や科学者が絶対的な発言力を持つと見なされていた、高度成長期の頃を象徴する考え方を色濃く反映していると思います。
 
こうした考え方が経済成長に寄与し、社会が(物質的には)豊かになり、様々な技術や知見が積み重なってきたことは事実です。
 
 
でもいっぽうで様々な問題を引き起こしてきたことも紛れもない事実です。
 
現在、顕在化している様々な問題-例えばエネルギー問題、環境問題、自然破壊といったもの-は、こうした価値観が持ち合わせている根本的な矛盾に基づいているといえるでしょう。
 
様々な科学技術が発達するにつれ、災害の誘発、バイオテクノロジー発達にともなう諸問題、IT犯罪など新たなリスクも増える一方です。インフラの老朽化、借金大国、東京への一極集中など様々な社会的な弊害も引き起こしていますし、大事な決定に対し、市民が意思表示できないという状況も変わりません。原発事故というのはこうした価値観の抱く矛盾が最大・最悪の形で現れたものでしょう。
 
伝統とか知恵とか知識とか良好な自然環境といったものなら、いくらでも受け継いでいってくれて構わないけれども、超伝導リニアのような”問題が多くてキワどい”科学技術に依存した社会というのは、けっして持続可能ではないし、社会にも自然環境にも負担が大きいわけです。そういう意味で、安易に未来へ受け継がせていってはマズイ価値観をも併せ持っているのではないでしょうか?
 
そして、これが肝心だと思うのですが、科学技術がどうのこうのと言う以前に、何をもって幸福と感じるかという価値観も、高度成長期とは全く異なっていることに目を向けたほうがいいんじゃないでしょうか。

(参考)NHK『「絶望の国」の幸福論、視聴者の反応は』
http://seiji.yahoo.co.jp/close_up/1283/
 
少なくとも今の時代、科学技術の発達が人々の幸福につながるなんて単純な考え方をしている人は、あんまりいないと思います。
 
 
 

別に科学技術を捨てろとか、江戸時代に戻れとか、そういう極端なことを言っているわけじゃあございません。
 
ただ、社会全体が方向転換しなければマズイ…ていうか、変化しちゃっている時代なのに、時代錯誤な面が強い”夢”を、さらに40年も50年も先にまで引き継がせるってのはおかしいんじゃないかな~?と思うわけであります。
 
こういうことも議論すべきだと思うのですよ。

開業後も人口は減り続ける予想なんですが・・・

$
0
0
昨日はこどもの日でした。
 
こどもの人数は、毎年減少の一途をたどっているとのこと。
 
したがって、今後移民でもない限り、人口は減少の一途をたどります。
 
10兆円という莫大な予算を投ずるリニア中央新幹線。将来のリニア利用者の数はどうなるのでしょう?
 
リニアの需要予測についてネット上で検索してみると、「首都圏、名古屋、関西圏の人口減少は緩やかだから問題ない」という意見が散見されます。これは多分、JR東海が用いたこの資料によると思われます。
イメージ 2
東京 大阪市間のデータについて(平成21年10月13日)
 
また、ここから派生して、JR東海が国土交通省中央新幹線小委員会に提出した各資料によると、現在の東海道新幹線の輸送実績は年431億人キロですが、2045年には、リニア中央新幹線と東海道新幹線とを合わせて675億人キロとなるそうです。JR東海は「固めの予想である」と自賛。
 
これについて中央新幹線小委員会では何にも審議対象にもならず
、雑誌なんかでもJR東海の記載どおりに「固めの予想となっている」と評価されたりしていますが、妥当なんでしょうか?
 
この資料を見ると、確かに全国での年率人口減少率0.65%に対し、沿線人口では0.5%と若干小さくなっています。また、JR東海が沿線と見なす都府県(東京・埼玉・千葉・神奈川・山梨・長野・岐阜・愛知・三重・奈良・京都・大阪・兵庫)での人口は、2008年の6800万人から2045年の5650万人へと、37年間で13%の減少となっています。全国での値が21.4%減少しているのに比べると緩やかであり、これくらいなら許容範囲と見込んでいるのかもしれません。とはいえ、減少していることには違いありません。
 
ところで、この資料の人口予測は全年齢を対象にしたものです。
 
しかし東京-名古屋-大阪という東海道新幹線の利用者の大部分は出張などビジネス利用であるはずです。お盆や正月しか利用しない方にはイメージがつきにくいかもしれませんが、平日はスーツ姿の方ばっかりですから。
 
というわけでビジネス利用の中核を占める15~64歳人口について、今年3月27日に、国立人口問題研究所から発表された、2010年の調査に基づく最新の予測を掲載します。
イメージ 1

15~64歳人口の減少率は、JR東海が資料として用いた全人口での値よりも大きくなっており、リニア完成前の段階で、現在の3/4にまで減少してしまいます。これは、市場そのものが3/4に縮小してしまうことを意味していると思います。
 
人口減少率が13%だったとしても、お年寄りばっかりだったら多くの利用なんぞ望めません。それゆえ、「13%の人口減少なら想定内」というのは、ちょっと甘いんじゃないかな…と思ってしまうのであります。
 
なお埼玉、兵庫、京都の人口も加えられていますが、これら府県がリニアの利用圏内となるかは定かでありません。埼玉県内から関西へは、ひょっとしたら北陸新幹線のほうが利便性がよいかもしれず、京都・兵庫も乗り換え不要の東海道新幹線を使ったほうが便利かもしれないからです。長野や岐阜も、全域がリニア利用圏内になるとは到底思えません。

また、JR東海の資料では2045年大阪開業時の人口は掲載されていますが、その後の人口予測については触れていません。
 
この点について人口問題研究所の資料によれば、
2050年 9708万人
2055年 9193万人
2060年 8674万人
 
と、1年間で約100万人ずつ減少してゆくという予測になっています。仮に大阪開業時の人口規模が想定内だっとしても、建設費を償却するために需要を増やしていかなければならない期間にも、どんどん人口すなわち市場が縮小してゆくことになっています。
 
開業前後の人口増加率が、毎年年間+1%前後であり、開業後も40年間にわたって増加が続いた東海道新幹線とは、全く正反対の条件です。
 
つまり、少なくとも人口推移という面からは、いくらリニアが速いとはいえ、利用者が爆発的に増える要素は全くないように見えるのです。
 
なお需要予測を達成するためには、2045年以降には、日本人が現在より2倍も頻繁に東京-大阪を行き来するようにならなければならないようです。
http://blogs.yahoo.co.jp/jigiua8eurao4/folder/464959.html
 
 
ホントに妥当な予測といえるのでしょうか?

開業後も人口は減り続ける予想なんですが・・・その2

$
0
0
気になるデータを見つけたので内容更新。
 
先日のこどもの日にニュースで放送していたのですが、こどもの人数は、毎年過去最小を更新し続け、減少の一途をたどっているとのこと。
 
したがって、今後年間100万人単位での移民でもない限り、人口は減少の一途をたどります。
 
10兆円という莫大な予算を投ずるリニア中央新幹線。将来のリニア利用者の数はどうなるのでしょう?
 
リニアの需要予測についてネット上で検索してみると、「首都圏、名古屋、関西圏の人口減少は緩やかだから問題ない」という意見が散見されます。これは多分、JR東海が用いたこの資料によると思われます。
東京 大阪市間のデータについて(平成21年10月13日)
 
また、ここから派生して、2010年5月10日にJR東海が国土交通省中央新幹線小委員会に提出した各資料によると、現在の東海道新幹線の輸送実績は年431億人キロですが、2045年には、リニア中央新幹線と東海道新幹線とを合わせて675億人キロとなるそうです超伝導リニアによる中央新幹線の実現について
 
要するに、人口が減少するのにも関わらず、東京-大阪を行き来する人々が現在の1.6倍に増えるとのこと。JR東海は「固めの予想である」と自賛。これについて中央新幹線小委員会では何にも審議対象にもならず、週刊東洋経済など雑誌なんかでもJR東海の記載どおりに「固めの予想となっている」と評価されたりしていますが、妥当なんでしょうか?
 
この資料を見ると、確かに全国での年率人口減少率0.65%に対し、沿線人口では0.5%と若干小さくなっています。また、JR東海が沿線と見なす都府県(東京・埼玉・千葉・神奈川・山梨・長野・岐阜・愛知・三重・奈良・京都・大阪・兵庫)での人口は、2008年の6800万人から2045年の5650万人へと、37年間で13%の減少となっています。全国での値が21.4%減少しているのに比べると緩やかであり、これくらいなら許容範囲と見込んでいるのかもしれません。とはいえ、減少していることには違いありません。
 
ところで、この資料の人口予測は全年齢を対象にしたものです。
 
しかし東京-名古屋-大阪という東海道新幹線の利用者の大部分は出張などビジネス利用であるはずです。お盆や正月しか利用しない方にはイメージがつきにくいかもしれませんが、平日はスーツ姿の方ばっかりですから。
 
というわけでビジネス利用の中核を占める15~64歳人口について、今年3月27日に、国立人口問題研究所から発表された、2010年の調査に基づく最新の予測を掲載します。

15~64歳人口の減少率は、JR東海が資料として用いた全人口での値よりも大きくなっており、リニア完成前の段階で、現在の3/4にまで減少してしまいます。これは、市場そのものが3/4に縮小してしまうことを意味していると思います。
 
人口減少率が13%だったとしても、お年寄りばっかりだったら多くの利用なんぞ望めません。それゆえ、「13%の人口減少なら想定内」というのは、ちょっと甘いんじゃないかな…と思ってしまうのであります。
 
なお埼玉、兵庫、京都の人口も加えられていますが、これら府県がリニアの利用圏内となるかは定かでありません。埼玉県内から関西へは、ひょっとしたら北陸新幹線のほうが利便性がよいかもしれず、京都・兵庫も乗り換え不要の東海道新幹線を使ったほうが便利かもしれないからです。長野や岐阜も、全域がリニア利用圏内になるとは到底思えません。

また、JR東海の資料では2045年大阪開業時の人口は掲載されていますが、その後の人口予測については触れていません。
 
この点について人口問題研究所の資料によれば、全国の人口は次のように推移してゆくとの予想。
2050年 9708万人 うち15~64歳人口5001万人
2055年 9193万人 うち15~64歳人口4706万人
2060年 8674万人 うち15~64歳人口4418万人
 
と、1年間で約100万人ずつ減少してゆくという予測になっています。ちなみに2060年の年間人口増加率は-1.2%、15~64歳人口にいたっては-1.4%前後となります仮に大阪開業時の人口規模が想定内だっとしても、建設費を償却するために需要を増やしていかなければならない期間にも、どんどん人口すなわち市場が縮小してゆくことになっています。
 
これは、開業前後の人口増加率が、毎年年間+1%前後であり、開業後も40年間にわたって増加が続いた東海道新幹線とは、全く正反対の条件です。
 
これを端的に示すデータを。
 
まず、東海道新幹線の建設最中であった1960年の人口ピラミッドです。
 
イメージ 1
 
一見して分かるとおり、下方ほど裾野の広いピラミッド型です。地理学などの用語では「多産少子型」とよばれます。10~15歳代に突出したピークがありますが、これが第一次ベビーブーム、あるいは団塊の世代になります。こども世代に人口のピークがあるわけですから、これから人口は増えてゆきます。したがって潜在的な利用者数すなわち市場は確実に拡大の一途をたどります。 
 
国鉄は、こうした社会状況から東海道本線の輸送力は限界に達したと判断し、東海道新幹線の建設に踏み切ったわけです。
 
 
それから半世紀を経て、リニア計画を実行に移そうとしている現在(2010年)の状況。
 
イメージ 3
 
50年が経ち、団塊の世代は55~65歳になっています。この団塊の世代と、団塊ジュニア(第二次ベビーブーム)世代の30~45歳代とにピークがあります。利用の中心層が人口のピークを形成しているのですから、現在が利用のピークになっていると考えて間違いないと思います。その下は年齢が若くなるほど幅が狭くなっています。第二次ベビーブーム世代の子供による人口増加は見られません。つまり、今後の人口増加は見込めません。団塊ジュニア世代が引退してしまえば、15~64歳人口は急激に減少します。
 
 
そして今から半世紀後の2060年の予想。リニアの大阪開業後から15年後となり、最も利用者が増えていってもらわなければ困る時期です。 
 
イメージ 2
 1960年とは逆に、上方すなわち高齢者層の幅が最大であり、下方ほどすぼんでいます。85歳前後のピークが第二次ベビーブーム世代ですね。冗談ではなく「年寄りばっかり」という社会になってしまうわけです一人当たりの利用頻度が増えようとも、利用者層そのものがそれを上回る勢いで縮小していきかねないことを意味しています。また、2010年よりも全体の面積自体が小さくなっており、これは人口の減少を意味します。
 
こんな人口構成で、現在の1.6倍もの需要が見込めるのでしょうか?
 
 
また、こちらに1920年から2060年にかけての人口動態の動画が掲載されています。 戦後に増加した人口が2030年ごろから急激に減少するということ、人口の主体が高齢化してゆくとともに、若い世代の人数が先細りの一途であるという実態があからさまになっています。
 
 
最後に世代別の人口推移予測を掲載します。
 
イメージ 4
 
市場の中核となる15~64歳人口は激減、65歳以上人口は停滞のち漸減だが比率は増大の一方、潜在的市場の0~14歳人口も減少の一途。
 
つまり、少なくとも人口推移という面からは、仮にリニアが素晴らしい乗り物で人々をひきつけたとしても、利用者が爆発的に増える要素は全くないように見えるのです。
 
 
 
 
なお需要予測を達成するためには、2045年以降には、日本人が現在より2倍も頻繁に東京-大阪を行き来するようにならなければならないようです。
http://blogs.yahoo.co.jp/jigiua8eurao4/folder/464959.html
 
 
ホントに妥当な予測といえるのでしょうか?

本当に人口減少社会を想定しているのでしょうか?

$
0
0
ここのところ書いてきたことのまとめ…になるのかな?
 
ココの部分をよ~く覚えていただきたいと思います。
東海道新幹線建設時の1960年の総人口
  9342万人 うち15~64歳5707万人 0~14歳2807万人 年人口増加率プラス1%
イメージ 2
 
2010年の総人口
1億2801万人
 うち15~64歳8174万人 0~14歳1684万人
イメージ 3
 
リニア完成から15年後の2060年の総人口予測
  8674万人 うち15~64歳4418万人 0~14歳 791万人 人口増加率マイナス1.4%
イメージ 4
総人口は2/3に、15~64歳人口は1/2にまで減少してしまいます。「のびしろ」と言うべき子供の人口にいたっては1/3以下です。
 
より引用
 

バブル期からの約20年間、東海道新幹線や航空機を利用して東京~大阪を行き来する人々の人数はあまり変化がありません。人口も経済成長も頭打ちになったためだと思います。
 
ここ10年間の東京-大阪での航空機での旅客輸送量と、東海道新幹線での旅客輸送量を掲げます。
イメージ 1
各年度の航空輸送統計速報、JR東海のHPより作成
 
もとのデータでは航空機での旅客輸送量は人数ですが、単位をそろえるために東海道新幹線の営業キロ数をかけてあります。
 
2007~2008年が合計輸送量のピークとなっていますが、一貫して増え続けてきた日本の総人口が頂点に達した時期と一致します。なお2009年に一旦落ち込んでいますが、これはリーマンショックの影響とみられます。
 
また表を見ると2005年ごろから東海道新幹線利用者が若干増加していますが、これは品川駅開業効果でしょう。裏付けるかのように、入れ替わって航空機利用が落ち込んでいます。

仮に2060年にも、人々が東京-名古屋-大阪を行き来する必要性や頻度が現在と全く変わらないとしたら、需要は現在より3~4割は減少します。市場が7~6割の規模に縮小した状況下で、リニア中央新幹線という新たな輸送機関が完成し、東海道新幹線と合わせて輸送力が2倍に増えるわけです。
 
これだけ大幅に市場が縮小してしまえば、現状で東海道新幹線の2割程度しかない航空機利用客が全てリニア利用にシフトしたとしても、人口減少分をカバーできるものではありません。
 
現在の東海道新幹線の輸送量をとします。
 
表の最下段に記した数字をもとに、航空機利用者が全て東海道新幹線に移行した場合、1.09になります。
 
半世紀後の2060年、総人口の減少に比例して輸送需要も1.2から35%減少すると仮定すると0.71になります。
 
0.71をリニア中央新幹線と東海道新幹線とで分け合うと0.36になります(北陸新幹線、LCCの動向、高速バスの動向を考えると、0.36よりは小さな値になると思います)。
 
さらに需要を総人口ではなく15~64歳人口(46%減)に比例すると仮定した場合は0.28にまで小さくなってしまいます。
 
現在の輸送量433億人キロが3割に減ると130億人キロ。これは現在の東北新幹線とほぼ同じ数字です。もっとも東北新幹線のほうが路線が長いので、正確に言えば東北新幹線より大きな輸送量は保っていられます。
 
とはいえ、これで9兆300億円(消費税・利子は含まず)の建設費を払えるかというと甚だしく疑問。
国交省の審議など公的には
「JR東海の東海道新幹線購入時の負債はピーク時5兆円だったけれども、これを返済してきた実績があるから大丈夫」
という話になっているようだけれども、よくよく考えれば東海道新幹線の購入費は「東海道新幹線&需要(人口)増加&高度成長期」という条件に支えられてきたからこそ返済が順調に進んでいるわけです。
 
2045年以降には東海道新幹線購入時の負債がゼロになり、その利益は全てリニア建設費(JR東海によれば負債はピーク時でも5兆円以下らしい)返済に回せるとしても、東海道・リニア合わせて現在の7割程度しか望めない輸送量で返してゆくことは可能なのでしょうか。しかも建設費は9兆300億円で収まるかどうかは分かりません。2060年以降も人口が減少してゆく可能性だって大いにありえます。
 
私の脳ミソではこれ以上の追及は不可能なので、どなたか続きを計算していただけませんか・・・?

10兆円もかけて路線を2本に増やし、それぞれ現在の3割程度の乗客を運ぶ-あるいは片方を立てて一方は激減させる-ことに何のメリットがあるのか、さっぱり分かりません。
 
 
人口推移予測からではこのような懸念が生じるのですが、JR東海や国土交通省はどのようにみているのでしょうか?

JR東海や国交省の予想によれば、スピードアップで新規需要が次々掘り起こされ、現在の東海道新幹線の輸送量1に対して2045年にはリニア+東海道新幹線とで1.22~1.58になるから万事OKとのこと(平成22年5月10日国土交通省中央新幹線小委員会提出資料「超伝導リニアによる中央新幹線の実現について」29ペー目より)。

いくらなんでもムリだと思う。
 
この予測についてJR東海の主張では、
「当社の収入見通しは、将来の経済成長等を説明変数としたモデルによる需要予測ではなく、現行の収入を維持しながら、超伝導リニア開業による変化について、これまでの航空機との競争の中で蓄積したシェア変動の実績をベースに想定する方法を採っている。」
なのだそうです(
中央新幹線小委員会提出資料「超伝導リニアによる中央新幹線の実現について」9ページ目より)。
 
「これまでの航空機との競争」というのは、一貫して人口増加&経済成長が続いてきた社会におけるものであるはずです。
イメージ 5
 
東海道新幹線開業以来、今まで人口が減少したことはありません。人口増加社会での、航空機相手のシェア争いでの実績をベースに人口減少社会の需要予測をおこなう…って、大丈夫なんでしょうか?
 
まさか、人口すなわち需要そのものが減ってゆくのは、ひょっとしたら想定外なんてことはないでしょうね・・・?

「南アルプスの隆起速度は国内最大級ではない」の根拠は?

$
0
0
5月13日、山梨県甲府市で環境アセスメントの進捗具合などに関する説明会が開かれたそうです。このときの質疑の様子が、リニア中央新幹線計画にまつわる様々な問題を精力的に取材されている樫田秀樹さんのブログに紹介されています。http://shuzaikoara.blog39.fc2.com/blog-entry-238.html
 
相変わらずワンパターンの質問と、形だけの解答という、あんまり中身のなさそうなやりとりに終始しているようです。
 
さて、気になったのが皆見アルプスの隆起速度に関する質疑。
 
「南アルプスは、一昨年の3月11日の大地震以前は年に数ミリの隆起でしかなかったのに、地震以来は、年に25ミリ隆起している。これにどう対処するか」

という質問に対し、開催者側は

「南アルプスが他と比べてことさら隆起が激しいわけではない」という回答だったそうです。
 
まず、「年間25㎜の隆起」というのがどのようなデータに基づくものなのか、残念ながら私の存じる限りでは分かりません。
 
しかしながら「南アルプスが他と比べてことさら隆起が激しいわけではない」という回答は、おそらくは間違っています。環境影響評価が始まった頃の長野県の信濃毎日新聞でその件が指摘されています。
 
この南アルプスの隆起速度について、以前私の書いたブログ記事を修正しながら再掲します。
 
 


 
 
まず、南アルプスは日本列島で最も活発に隆起している地域です(マグマの上昇によって変形している火山をのぞく)。これは地形学者・地質学者・測地学者の共通認識です。
 
例えば南アルプス南西部の国道152号線沿いに設置されている水準点での測量記録によると、過去70年の間、平均して年間4㎜のペースで隆起が継続していることが知られています。
 
「1895年前後から1965年前後にかけての計4回の測量結果より、赤石山脈付近では1年間に4㎜ほど隆起していると報告される。付図では、赤石山脈付近の隆起量は日本最大級になっている。
①檀原毀(1971):日本における最近70年間の総括的上下変動,測地学会誌17,100~108ページ
 
この報告の後、多くの地形学者や地質学者がこの見解を支持していて、地形学や地理学関係者の間では、もはや常識的なこととなっています。ちなみに水準測量というのは、東京湾の平均海面をもとに基準0mを定め、そこからの垂直方向の高さを測ってゆくものです。
 
「赤石山地の中心部では過去70年間に30㎝も隆起している。年間平均にして約4㎜もの隆起速度は、日本の山地のなかでも最急速なものである」
②貝塚爽平・鎮西清高編(1986)「日本の自然2 日本の山」岩波書店 143ページより
 
また近年になってGPSによる連続的な観測がおこなわれるようになりました。GPS観測というのは簡単に言えば、衛星からの電波受信時刻のズレによって大地の変化をとらえるというものです。つまり、衛星との距離なんですね。GPS観測が行われるようになってからはまだ日が浅いのですが、それでも以下の論文によれば、連続的な隆起が観測されているとのことです。また、近年出版された地形学関連の文献でも、南アルプスの活発な隆起が紹介されています。
 
「掛川から諏訪湖へと北上する水準路線に沿っては顕著な隆起が見られる。100年間の隆起量は40㎝程度に及んでおり、水準測量の精度を考えると明らかに有意な変動と言える。」「こうした結果は、檀原(1971)が70年分の水準測量データから得た変動傾向が現在もそのまま継続していることを確認するものである」
③鷺谷 威・井上政明(2003):測地測量データで見る中部日本の地殻変動、月刊地球,25-12 922ページより
 
「赤石山地をほぼ南北に縦断する路線(諏訪湖-掛川[作者注:水準測量路線])では、伊那山脈南部の水準点5306は改測のたびに上昇しており、その上昇量は約100年間に40㎝(4㎜/年)に達している」
④町田洋・松田時彦・梅津政倫・小泉武栄編(2006)「日本の地形5 中部」東京大学出版会 32ページより
 
「赤石山脈は隆起速度が年4㎜以上であり、これは世界最速レベル」
⑤南アルプス世界自然遺産登録推進協議会編(2010)「南アルプス学術総論」118ページより
(参考 
南アルプス世界自然遺産登録推進協議会のHP)
 
測量によって急速な隆起が確認されているのは、南アルプス本体というよりそれよりやや西方に位置する国道沿いの水準点です。③の文献によると、赤石山脈中心部の継続的な測量データは存在していないとのこと(山頂などに設けられている三角点にも㎝単位の標高が記されていますが、三角点はあくまで水平位置関係を把握するためのものであり、高さの精度は水準点に劣ります)。また、④の文献によれば、赤石山脈全体としては、山地全体の地形からみて北東側ほど隆起が活発であろうとのこと。というわけで、山岳中心部の正確な隆起量については「4㎜以上」とみるのが妥当なはずです。また、南アルプス東側に隣接する巨摩山地も、隆起は急激との事です。
 
そのいっぽうで、南アルプスで最も活発な隆起が継続しているであろう「南アルプス北東部~巨摩山地」からわずか15㎞ほどしか離れていない甲府盆地は、年間1㎜程度のペースで沈降傾向にあるとのこと(それでも湖になってしまわないのは、周辺の山地から土砂が流れ込んでいるため)。
 
こちらは国土地理院が2001年に発表した、過去100年間における日本列島の地殻上下変動を図示したものです。(リンクはこちら:加筆してあります)
 
南アルプスの東側(甲府盆地付近)は緑色すなわち沈降域であるのに対し、わずかに離れた南アルプス付近は赤く塗られ、数十㎝隆起していることが分かります。昭和東南海・南海地震による急激な隆起の起きた四国南部・紀伊半島・三河湾付近を除くと、日本で最も隆起が活発な地域です。

つまり南アルプス東側では、沈降傾向にある場所と異常に活発な隆起が継続している場所とが隣接しており、リニア新幹線はその変動地帯(隆起軸)をトンネルで貫こうと言うわけです。年間5㎜、数十年単位で数十㎝の上下変動が起こる地帯を1本のトンネルで貫いた例など、これまで我が国にはありません
 
ところが。 
 
JR東海作成の環境影響評価配慮書には
 
と書かれています
 
国土地理院や地形学者などの常識を真っ向から否定するかのような見解です。
 
JR東海は何を根拠にして「南アルプスが他と比べてことさら隆起が激しいわけではない」と主張しているのでしょうか。それをうかがわせるやり取りが昨年10月に長野県飯田市での説明会で起きたたそうです。
 
 
(問い)南アルプスは隆起しているが安全なのか?
(返答)国土の隆起の数値を見ると、大鹿村のデータが突出しているものではない。by JR東海
 
「国土の隆起の数値」とは何のことやらよくわからない日本語ですが、おそらくは国土地理院のHPに公開されている、GPS観測データのことだと思われます。
 
また、データが突出しているわけではないから何だと言いたくなるような、微妙に意味不明なやり取りですが、平易に解釈しますと、
「国土(地理院)(GPSで観測した)隆起の数値を見ると、(南アルプス西部にある)大鹿村のデータが突出しているものではない(からトンネルを掘っても問題はない)」という意味なんだと思われます。
 
さて、そのGPS観測ですが、これも国土地理院のHPから転載しますと…
 
リンクはこちら。そのまま開くと水辺方向の変動が示されますので、「表示形式」を「垂直方向」に変更すると、上下方向の移動、すなわち隆起・沈降の様子が表示されます)。
 
このデータでは、確かに大鹿村の2002年8月~20012年8月の10年間の垂直変動は、-2.4㎝と表示されます。隆起どころか沈み込んでいるんですね。しかも、全国的に同じような数字に見えます。

ただ注意していただきたいのは、「GPS観測による変動はある場所を基準にした相対的な変化である」ということです。
 
先ほど「GPS観測というのは衛星との距離を測るもの」と書きましたが、ある場所の変動を知るためには別に基準となる観測局を決め、そこでの変動を0と仮定し、相対的なデータをとらなければなりません。この基準となる観測局のことを、固定局とよんでいます(ややこしくてごめんなさい)。
 
画面の左上には、《固定観測局「岩崎」》と表示されています。大鹿村の-2.4㎝という数字は、「岩崎」という場所を固定局にすると「-2.4㎝」という意味です。ではこの「岩崎」がどこかといいますと、実は青森県の日本海側にあるんです。
 
この固定局は自在に変更することができます。たとえば福島県小高という地点に変更すると、大鹿村の隆起は+57.6㎝という大変な値になります。もちろん、南アルプスがそんなに急に隆起したわけではありません。昨年3月11日の東北地方太平洋沖地震で、東北地方~関東の太平洋岸が一気に沈降したためです。
 
このように、固定局の選定いかんによっては、ある場所が隆起傾向にも沈降傾向にも表現されてしまいます
  
また2002~2012年の間には、中部地方では能登半島沖地震、中越地震、中越沖地震などの地震が起きていて、これらにより局所的に急激な変化も起きています。さらに、東海地域ではスロースリップという現象も考慮しなければなりません。これは静岡・愛知県境付近の地下で、陸側プレートがゆっくりとフィリピン海プレートの上面を滑りあがるという現象です。これが起きている間は、愛知県から長野県南部にかけては沈降する傾向があることが明らかになっています。このGPS観測期間のうち、2000年秋ころから2005年夏ころにかけて、スロースリップが起きていたことが確認されています。http://cais.gsi.go.jp/tokai/(国土地理院)
 
さらにさらに、さきほどの「大鹿村-2.4㎝」は最近10年間での上下変動値ですが、これを最近1年間に切り替えますと、「+1㎝」になります。
 
 
どれが本当なのかわかりませんね。
 
要するに、「大鹿村のデータが突出しているものではない」という見解には、固定局の選定方法の良し悪し、あるいは大地震やスロースリップという数年単位での短い変動が一種のノイズとして現れている可能性が濃厚です。
 
GPS観測は、連続観測が可能という優れものですが、何しろ観測期間がまだ十数年しかありません。10年程度の観測では、得られたデータが一時的な変動なのか、長期的な変動とも一致しているのかを見定めることができません。地球温暖化を論ずるときに、数年単位での気温変化に目を配っていたら、長い目での議論ができなくなるのと同じ話です。
 
これらの話は、③の文献に特に詳しく述べられていますので、興味のある方はご覧になってください。
 
 
長い目-日本で近代的測量が始まった明治以降の100年間-で眺めますと、南アルプス周辺は明らかに隆起しています。
 
リニアのトンネルの耐用年数は数十年以上の期間のはずです。ですからたった数年の観測データではなく、数十年~百年単位での隆起傾向で議論すべきではないのでしょうか?
◇   ◇   ◇   ◇   ◇
 
JR東海や国交省が「南アルプスにトンネルを掘ることは技術的に可能」というのは、ただ単に「地質条件が悪くても25㎞程度のトンネルを掘ることは可能」といっているだけのようです。「山地自体の変形を考慮しても長期的に維持可能」なのかどうかについては、全く触れていません。
 
 なおJR東海の見解については多くの地元の地形学者から疑問視する声が相次いで出ています
(静岡市南アルプス世界自然遺産登録推進協議会学術検討委員会のメンバー、南アルプスの地形・地質研究の第一人者である松島信幸氏などなど)。ついでながら、地元市町村がユネスコエコパーク/世界遺産登録のために作成した資料にも、南アルプスの隆起速度が日本最大であることが強調されています。

環境アセスメントと新型L0系走行実験の同時進行はすごくおかしいのである

$
0
0
JR東海が、今年9月から2016年度にかけて、山梨実験線にて営業用車両L0系を用いた走行実験をおこなうと発表しています。
 
 JR東海は17日、延伸工事を進めている山梨リニア実験線(山梨県上野原市―笛吹市、42・8キロ)の完成に合わせ、9月から実際の営業で使われる新型車両「L0(エル・ゼロ)系」の試験走行を始めると発表した。
 
 実験線は、2027年に開業予定のリニア中央新幹線の路線の一部で、実験のため先行整備していた18・4キロから東西それぞれに延伸していた。新型車両による試験走行はまず5両編成でスタートし、営業運行で予定している12両に増やす計画。16年度末まで続け、最高時速500キロでの走行や耐久性などを確かめる。
 
 山田佳臣社長は同日の記者会見で、「延伸工事が順調で、当初は今年末からの予定だった試験を前倒しすることができた。L0系の性能を最大限引き出せるようにしたい」と述べた。
 
L0系は新型車両ですし、12両編成で走行実験が行われるのも初めてのことなので、いろいろと新たな知見が得られることとなります。
 
一方でJR東海は、今年2013年秋にはリニア中央新幹線の環境影響評価(アセスメント)準備書を発表すると宣言しています。(山梨日日新聞 
 
準備書というのは事業に伴う様々な環境への影響を予測・評価し、対策を記載した文書のことであり、当然、列車の走行にともなう騒音、振動、トンネル微気圧波、電力消費、磁界などの影響予測や対策についても言及がなされます。そして準備書に対しては市民や市町村・県知事から意見を提出できることが環境影響評価法で定められています。
 
っていうか、準備書への意見提出が、外部から環境配慮について意見を出せる最後の機会です。

準備書が公表される正確な日時はわかりませんが、日程を考えると、L0系・12両編成での走行実験結果が記載されるのは不可能です(そもそも実験終了の2016年度というのは着工予定2014年度よりも2年先!)。ですからこれまでのMLX01等による最大5両編成での走行に基づく予測や対策が記載されることになります。
 
したがって万が一、今後の新型車両12両編成での走行実験で新たな環境への影響が判明し、それへの新たな対応が必要となっても、準備書には反映できなくなってしまい、外部からの法律に基づく意見提出も不可能(事業者側から見れば不要)になってしまいます
 
 
 
と、ここまでは4/19に書いた内容。
 
事業者は、住民や都道府県知事からの意見をもとに準備書を書き換えてゆきます。この準備書を書き換えてゆくプロセスが、環境影響評価の核心といわれています。
 
準備書を書き換えたものは評価書と呼ばれます。さらに担当大臣(実際には環境省からの意見)から意見が出されて評価書が補正されます。補正後の評価書を公表することにより、環境影響評価は終了となります。
 
JR東海は2014年度着工を目指すとしておりますので、用地買収の日程などを考えると、2014年前半には環境影響評価を終わらせねば間に合いません。
 
いっぽう、走行実験が終わるのは2016年度。この結果を工事に反映させるのは、それ以降となります。
それじゃあ、 
 
環境影響評価が終わったあとに事業内容が変更されたらどうなるんだろう?
 
と思って調べておりました。で、環境影響評価法に、次のような条文を見つけました。なお、以下の文中では環境影響評価をアセスと表記します。
 
第三十一条
2  事業者は、第二十七条の規定による公告を行った後に第五条第一項第二号に掲げる事項を変更しようとする場合において、当該変更が事業規模の縮小、政令で定める軽微な変更その他の政令で定める変更に該当するときは、この法律の規定による環境影響評価その他の手続を経ることを要しない
 
第二十七条…事業者は、第二十五条第三項の規定による送付又は通知をしたときは、環境省令で定めるところにより、評価書を作成した旨その他環境省令で定める事項を公告し、公告の日から起算して一月間、評価書等を関係地域内において縦覧に供するとともに、環境省令で定めるところにより、インターネットの利用その他の方法により公表しなければならない。
 
第五条第一項第二号…対象事業の目的及び内容
 
簡単に解説しますと(これを理解するのに時間がかかってしまった)、
事業者は、補正後の評価書を公表した後に、政令で定めた基準以下で事業内容の変更をおこなう場合には、再度環境アセスメントを行う必要がない。
 
という意味だと思います。「ある基準以上の変更をする場合は再度行わなければならない」と、義務として書いてくれたほうが分かりやすいと思うのですが…。
 
それはともかく、「政令で定めた基準」はどの程度か…。
これも調べました。
 
環境影響評価法施行令 第十八条の抜粋
 法第三十一条第二項 の政令で定める軽微な変更は、別表第三の第一欄に掲げる対象事業の区分ごとにそれぞれ同表の第二欄に掲げる事業の諸元の変更であって、同表の第三欄に掲げる要件に該当するものとする。
2  法第三十一条第二項 の政令で定める変更は、次に掲げるものとする。
一  前項に規定する変更
二  別表第三の第一欄に掲げる対象事業の区分ごとにそれぞれ同表の第二欄に掲げる事業の諸元の変更以外の変更
三  前二号に掲げるもののほか、環境への負荷の低減を目的とする変更(緑地その他の緩衝空地を増加するものに限る。)。

チンプンカンプンで回りくどい文章ですが、要するに
 
「軽微な変更」→表を参照して基準以下だったら再調査は不要
「政令で定める変更」→表の第二欄に掲げてある項目以外の変更…これも再調査不要
 
ということだと思います。
で。これがその表。
 
イメージ 1
左から第一欄、 第二欄、第三欄 となっています
 

いかがでしょうか。
「政令で定める軽微な変更」はこの7種類。これらは、この基準以下の変更ならアセスのやり直しは不要。そして、この7種類以外の変更は、「第二欄に掲げる事業の諸元の変更以外の変更」となるので同じくやり直す必要なし。
 
これで環境保全が有効になるとは思えないし、納得しろと言われても素直に受け入れられそうにないのですが…。
 
例えば、表には路線の長さや位置に関する記載はあるものの、幅など規格や改変面積に関する項目は書かれていません。「第二欄に掲げる事業の諸元の変更以外の変更」に該当するので、環境アセスメントのやり直しは不要という扱いになるのでしょうか?
 
あくまで懸念ですが、12両での走行実験の結果、騒音対策や微気圧波対策などのためとして、トンネルの幅を広げる必要が出てきた…なんてことがあるかもしれません。
 
方法書によるとリニアのトンネル内側の幅は約13mです。掘削幅は14m程度になると見込まれますが、両側に数十㎝広げるだけで、残土の量は1割増になります。残土の量が増加すれば処分方法や搬出方法にも影響します。周辺環境に与える影響は確実に増大しますが、どのような扱いになるのでしょう?
 
「表の第二欄に掲げる事業の諸元の変更以外の変更」…規格や残土だけでなく、リニアの問題として頻繁に挙げられる電力消費や電磁波などもこれに該当しちゃいますね…。
 
 

また、この表の基準はシャクシ定規であり、現地の様々な実情は完全に無視されることになっています。
 
騒音対策等でルートを少し変更することを考えてみます。移動先に貴重な自然環境が残されていたとしても、移動した距離が300m以内なら再調査は不要ということになりますね。

 この解釈が原因となり、現在延伸計画中の北陸新幹線で実際に問題が発生しています。北陸新幹線においては、福井県敦賀市内でアセス当時のルートが騒音対策として変更された結果、貴重な生態系が息づき、長年の保護運動の結果としてラムサール条約に登録された中池見湿地をぶち抜くことになってしまいました。しかし事業主体の鉄道建設・運輸施設整備支援機構は現在のところ再調査は不要としています。
 
湿地近傍のルートといえば、リニアにおいても、小規模な湿地が点在する岐阜県内で大きな問題となりそうですが。

◇   ◇   ◇   ◇   ◇
 
これらはあくまで懸念であり、実際に起こるかどうかは分かりません。
 
しかし、走行実験が終了するのが着工後になっていることから、理屈の上ではにはありえる話でもあります。繰り返しますが
 
2014年前半、環境アセスメントが終わった
2014年後半、アセスで問題なしとして着工にいたった
2016年頃、走行実験が終わり、あらたな問題点が判明した
2017年頃、新たな問題点に対処するために、路線の構造等を変える必要が出てきた。環境への負担は増大することとなったが、再調査は不要と判断された…。

こんな感じです。
 
 
ものすごくおかしな話だと思いませんか?
 
これでは環境アセスメントなど全く意味がありません。北陸新幹線の事例など、環境影響評価法の隙間をぬって、アセス抜きで自然破壊を強行するようなものです。
 
 
本当に環境配慮をするつもりがあるのなら、L0系12両での走行実験結果を準備書に反映させなければならないはずです。長野での新聞報道によると、自民党が着工を前倒ししたいなんて言い出しているようですが、それは国会議員自ら「法の隙間をすり抜けろ」と言っているのに等しいような気もします。
Viewing all 483 articles
Browse latest View live


<script src="https://jsc.adskeeper.com/r/s/rssing.com.1596347.js" async> </script>