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Channel: リニア中央新幹線 南アルプスに穴を開けちゃっていいのかい?
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環境アセスメントとL0系走行実験を同時に進めるのは絶対におかしいのである!

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ちょっと整備して書き直し
 
 
JR東海が、今年9月から2016年度にかけて、山梨実験線にて営業用車両L0系を用いて最大12両編成で走行実験をおこなうと発表しています。(例えば読売新聞中部版など)
 
L0系は新型車両ですし、12両編成で走行実験が行われるのも初めてのことなので、いろいろと新たな知見が得られることとなります。
 
一方でJR東海は、今年2013年秋にはリニア中央新幹線の環境影響評価準備書を発表すると宣言しています(山梨日日新聞など) 。
 
要するに、準備書が出されてから走行実験をおこなうということです。これって全然話題になりませんが、環境影響評価(アセスメント)制度の本質に関わる非常に由々しき事態だと思います。
 

 
準備書というのは事業に伴う様々な環境への影響を予測・評価し、対策を記載した文書のことです。当然、列車の走行にともなう騒音、振動、トンネル微気圧波、電力消費、磁界などの影響予測や対策についても言及がなされます。そして準備書に対しては市民や市町村・県知事から意見を提出できることが環境影響評価法で定められています。
 
この準備書への意見提出が、外部から環境配慮について意見を出せる最後の機会です。

準備書が公表される正確な日時はわかりませんが、日程を考えると、L0系・12両編成での走行実験結果が記載されるのは不可能です(そもそも実験終了の2016年度というのは着工予定2014年度よりも2年先!)。ですからこれまでのMLX01等による、最大5両編成での走行に基づく予測や対策が記載されることになります。
 
したがって万が一、今後の新型車両12両編成での走行実験で新たな環境への影響が判明し、それへの新たな対応が必要となっても、準備書には反映できなくなってしまい、外部からの法律に基づく意見提出も不可能(事業者側から見れば不要)になってしまいます
 
問題はこれだけにとどまりません。
 
事業者は、住民や都道府県知事からの意見をもとに準備書を書き換えてゆきます。この準備書を書き換えてゆくプロセスが、環境影響評価の核心といわれています。
 
準備書を書き換えたものは評価書と呼ばれます。さらに担当大臣から意見(実際には環境省からの意見)が出されて評価書が補正されます。補正後の評価書を公表することにより、環境影響評価は終了となります。
 
JR東海は2014年度着工を目指すとしておりますので、用地買収の日程などを考えると、2014年前半には環境影響評価を終わらせねば間に合いません。
 
いっぽう、走行実験が終わるのは2016年度。この結果を工事に反映させるのは、それ以降となります。
それでは、着工後に工事内容が変更される可能性が否定できないということになりますよね。 
 
環境影響評価が終わったあとに事業内容が変更されたらどうなるんだろう?
 
と思って調べておりました。で、環境影響評価法に、次のような条文を見つけました。なお、以下の文中では環境影響評価をアセスと表記します。
 
第三十一条
2  事業者は、第二十七条の規定による公告を行った後に第五条第一項第二号に掲げる事項を変更しようとする場合において、当該変更が事業規模の縮小、政令で定める軽微な変更その他の政令で定める変更に該当するときは、この法律の規定による環境影響評価その他の手続を経ることを要しない
 
注1 第二十七条…事業者は、第二十五条第三項の規定による送付又は通知をしたときは、環境省令で定めるところにより、評価書を作成した旨その他環境省令で定める事項を公告し、公告の日から起算して一月間、評価書等を関係地域内において縦覧に供するとともに、環境省令で定めるところにより、インターネットの利用その他の方法により公表しなければならない。
 
注2 第五条第一項第二号…対象事業の目的及び内容
 
簡単に解説しますと(これを理解するのに時間がかかってしまった)、
事業者は、補正後の評価書を公表した後に、政令で定めた基準以下で事業内容の変更をおこなう場合には、再度環境アセスメントを行う必要がない。
 
という意味だと思います。「ある基準以上の変更をする場合は再度行わなければならない」と、義務として書いてくれたほうが分かりやすいと思うのですが…。
 
それはともかく、「政令で定めた基準」はどの程度か…。
これも調べました。
 
環境影響評価法施行令 第十八条の抜粋
 法第三十一条第二項 の政令で定める軽微な変更は、別表第三の第一欄に掲げる対象事業の区分ごとにそれぞれ同表の第二欄に掲げる事業の諸元の変更であって、同表の第三欄に掲げる要件に該当するものとする。
2  法第三十一条第二項 の政令で定める変更は、次に掲げるものとする。
一  前項に規定する変更
二  別表第三の第一欄に掲げる対象事業の区分ごとにそれぞれ同表の第二欄に掲げる事業の諸元の変更以外の変更
三  前二号に掲げるもののほか、環境への負荷の低減を目的とする変更(緑地その他の緩衝空地を増加するものに限る。)。

チンプンカンプンで回りくどい文章ですが、要するに
 
「軽微な変更」→表を参照して基準以下だったら再調査は不要
「政令で定める変更」→表の第二欄に掲げてある項目以外の変更…これも再調査不要
 
ということだと思います。で、これがその表。
 
左から第一欄、 第二欄、第三欄 となっています
 

いかがでしょうか。
「政令で定める軽微な変更」はこの7種類。これらの項目は、表の基準以下の変更ならアセスのやり直しは不要。そして、この7種類以外の変更は、「第二欄に掲げる事業の諸元の変更以外の変更」となるので同じくやり直す必要なし。
 
これで環境保全が有効になるとは思えないし、納得しろと言われても素直に受け入れられそうにないのですが…。
 
例えば、表には路線の長さや位置に関する記載はあるものの、幅など規格や改変面積に関する項目は書かれていません。「第二欄に掲げる事業の諸元の変更以外の変更」に該当するので、環境アセスメントのやり直しは不要という扱いになるのでしょうか?
 
あくまで懸念ですが、12両での走行実験の結果、騒音対策や微気圧波対策などのためとして、トンネルの幅を広げる必要が出てきた…なんてことがあるかもしれません。
 
方法書によるとリニアのトンネル内側の幅は約13mです。掘削幅は14m程度になると見込まれますが、両側に数十㎝広げるだけで、残土の量は1割増になります。残土の量が増加すれば処分方法や搬出方法にも影響します。周辺環境に与える影響は確実に増大しますが、どのような扱いになるのでしょう?
 
「表の第二欄に掲げる事業の諸元の変更以外の変更」…規格や残土だけでなく、トンネル縦穴の位置や規模、リニアの問題として頻繁に挙げられる電力消費や電磁波などもこれに該当しちゃいますね…。
 
 

また、この表の基準はシャクシ定規であり、現地の様々な実情は完全に無視されることになっています。
 
騒音対策等でルートを少し変更することを考えてみます。移動先に貴重な自然環境が残されていたとしても、移動した距離が300m以内なら再調査は不要ということになりますね。

 この解釈が原因となり、現在延伸計画中の北陸新幹線で実際に問題が発生しています。北陸新幹線においては、福井県敦賀市内でアセス当時のルートが騒音対策として変更された結果、貴重な生態系が息づき、長年の保護運動の結果としてラムサール条約に登録された中池見湿地をぶち抜くことになってしまいました。しかし事業主体の鉄道建設・運輸施設整備支援機構は現在のところ再調査は不要としています。
 
湿地近傍のルートといえば、リニアにおいても、小規模な湿地が点在する岐阜県内で大きな問題となりそうですが。

◇   ◇   ◇   ◇   ◇
 
これらはあくまで懸念であり、実際に起こるかどうかは分かりません。
 
しかし、走行実験が終了するのが着工後になっていることから、理屈の上ではありえる話です。
 
繰り返しますが
 
2014年前半、環境アセスメントが終わった
2014年後半、アセスで問題なしとして着工にいたった
2016年頃、走行実験が終わり、あらたな問題点が判明した
2017年頃、新たな問題点に対処するために、路線の構造等を変える必要が出てきた。環境への負担は増大することとなったが、再調査は不要と判断された。問題視する声は無視された…。

こんな感じです。
 
 
ものすごくおかしな話だと思いませんか?
 
これでは環境アセスメントなど全く意味がありません。北陸新幹線の事例など、環境影響評価法の隙間をぬって、アセス抜きで自然破壊を強行するようなものです。
 
 
本当に環境配慮をするつもりがあるのなら、少なくともL0系12両での走行実験結果を準備書に反映させねばならないはずです。
 
 
ひょっとしたら、走行実験結果を適切に反映させて環境対策をとれば、それでいいじゃないかと思われる方もおられるかもしれません。

しかしなぜ私がアセスにこだわるかと申しますと、それはアセスが、住民とJR東海とが、環境保全という範囲に限定されるものの、法的に設けられた、相互に意見をやり取りできる数少ない機会だからです。単なる環境規制とはこの点が根本的に異なります。ただでさえ住民不在・情報非開示のこの計画では唯一の機会と言っていいかもしれません。単なる説明会とは違って発言時間に制限がないこと、事業者側も説明を求められること、文書として後に残ることも重要です。
 

ところがそんなことを全然気にかけていない、輪をかけておかしな人々を発見。産経新聞の記事より
 
リニア新幹線の早期着工を要請 愛知県知事らが太田国交相に
 リニア中央新幹線建設促進期成同盟会の大村秀章会長(愛知県知事)ら6県知事は27日、国土交通省で太田昭宏国交相と会い、早期着工に向けた行政手続きの円滑化を要望した。太田氏は「しっかり受け止めたい」と話した。
 要望書は、JR東海が2014年度に予定している東京-名古屋の着工が速やかにできるように、環境影響評価(アセスメント)や全国新幹線鉄道整備法に基づく工事実施計画の認可など必要な手続きを着実に進めることを求めた。
 駅やレールの敷設がスムーズに進むよう、農地法で定める転用許可の手続きを省略可能にすることも訴えた。
 
 
着工前倒しを望むということは、「今後の走行実験結果はアセスに反映させなくてもいいです」ということを、沿線のトップが申し出ていることに他なりません。
 
ただでさえ問題・懸念が多く、情報が公開されていないのに、そうした悪しき状況をさらに悪化させようとするのはおかしいと思います。
 
 

「着工前倒しを望む」のは環境配慮欠如の表れではなかろうか?

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前回は、「JR東海の主張どおりに環境影響評価(アセスメント)と新型営業用車両L0系での走行実験を同時におこなうのは絶対におかしい」という点を指摘しました。
 
 
環境アセスメントについて今までの流れと、JR東海の主張する今後の流れを図示しますとイメージ 1
 
こんな感じになります。今後の走行実験結果が出てくるのは、環境アセスメントが終了した後です。それではその結果をアセスメントに反映することはできなくなり、どんな事態になろうとも、誰も何も言えなくなってしまいます。これは環境アセスメントの本質にかかわる大問題です(詳細は前回5/27の記事をご覧ください)。
 

ところで
着工前倒しを要望
という声が沿線自治体首長の皆々様から出ています。(
5/27神奈川新聞
一方JR東海からも「2014年度早期着工を目指す」という声がでているようです。(5/24信濃毎日新聞
 
でもこれって、環境アセスメント制度を考えるとムチャな話なんですよ。いや、ムチャというより、自治体トップから事業主体のJR東海までもが、こぞって「環境配慮など軽視しますよ」と宣言しているようなものです。
 
どのマスコミも、このことに何ら疑問を掲げることなく報じていますが、とっても不思議に思います。
 
 
 
かなり速いペースで環境アセスメントを進める場合を考えてみます。
 
JR東海は秋に準備書を公表するとしています。準備書というのは事業に伴う様々な環境への影響を予測・評価し、対策を記載した文書のことです。具体的な公表日時がいつになるか分かりませんが、仮に2013年9月上旬としておきます。
 
環境影響評価法の規定により、準備書を公表してから一ヶ月と2週間の間は、一般からの意見を受け付けなければなりません。9月上旬から一ヶ月+2週間経つと10月半ばに意見受付終了となります。
 
このあとJR東海は受け付けた意見をまとめ、関係都県や市町村に送付しなければなりません。意見集約に少なくとも2週間はかかると考え、10月末頃と仮定します(これまでの鉄道事業の事例ではいずれも一ヶ月程度かかっている)。
 
意見概要を受け付けた各都県(知事)や市町村は準備書に対する審議を行い、120日以内に意見をJR東海に提出しなければなりません(市町村は都県に意見提出)。法律上、審議期間は短くしようと思えばいくらでも短縮できるようですが、通常は120日いっぱいかかっているようです。というわけで、120日後の2014年3月初めに、知事意見がJR東海に提出されるとします。

JR東海は知事意見をもとに準備書の内容を修正します。準備書を修正する期間に制限はありません。ここにいかに時間をかけるかは、事業者の裁量次第とも言えます。修正されたものは評価書と呼ばれ、これについて環境大臣は45日以内に意見を述べなければなりません。

JR東海は、環境大臣意見を元に再び評価書を修正し、最終的に「補正後の評価書」を作成します。これを公告することにより、(その後に事業内容に大幅な変更がない限り)環境影響評価の手続きは終了となります。

環境影響評価法に基づいた鉄道事業の環境アセスメントにおける、知事意見提出から補正後の評価書公告までの期間を調べてみますと次の通りでした。http://www.env.go.jp/policy/assess/3-2search/search.html
 
東京の地下鉄13号線(池袋-渋谷間8.9㎞)…224日
仙台市高速鉄道東西線建設事業14㎞…205日
成田新高速鉄道線建設事業19.1㎞…160日
大阪都市計画都市高速鉄道第8号線(井高野-今里)12㎞…148日
北海道新幹線(北海道域:250.7km)…1年と27日
北海道新幹線(青森県域:28.8km)…1年と33日
北陸新幹線(南越(仮称)・敦賀間:31.1㎞)…1年と16日

最低でも5ヶ月、区間の短い地下鉄工事でも7ヶ月くらいはかかっているようです。
 
これを参考に、2014年3月初めと見込まれる知事意見提出から5~7ヶ月後とすれば、環境アセスメント終了は早くても2014年8~10月となります
 
いっぽう沿線自治体トップの皆々様のご意向は「2014年度早期着工を目指す」ということですので、2014年度の真ん中、9月末までに着工したいと考えているとします。すると補正後の評価書公表から着工までの期間は長くても2ヶ月程度。
 
この間に、測量、設計、全国新幹線鉄道整備法や鉄道事業方に基づく国土交通省による事業の審査、用地買収、保安林解除、農地転用など、多方面にわたる様々な準備や手続きを行わなければなりません。
 
たったの2ヶ月で終わるものなのでしょうか??
 
常識的に考えて不可能です。例に挙げた十数キロの地下鉄工事とは違い、南アルプスから大都市大深度地下まで、様々な環境をもつ延々240㎞(実験線部分のぞく)という規模です。あらかじめ用地買収や測量、設計が終了していなければ絶対に不可能でしょう。
 
現在は環境影響評価の真っ最中であり、その結果としてはじめて路線の構造や改変箇所が決まってくるわけですから、現段階で測量や設計ができているはずがありません。できていたとすれば、それは「今後の環境影響評価の結果は既に出ている」、もしくは「結果は考慮しない」ことになります。
 
環境影響評価法に用地買収に関する規定はないようですが、あらかじめ土地を購入してあったなら、環境アセスメントなんてハナから無視していたことになります。
 
あるいは極力ペースを速くするために、各自治体での審議を短縮させるとか、JR東海による準備書修正期間を短くするといったことも考えられます。

いずれにせよ、環境アセスメントの内容を粗雑にすることには変わりありません。
 
 
分かりにくいと思いますので、今述べたことを図にまとめてみますとこうなります。 
 
イメージ 2
 
 
 
また、前回指摘したとおり「2014年度前半着工を目指す」のは、今後行われる新型営業用車両L0系12両での走行実験結果を環境アセスメントに反映しないことを意味します。

自治体や事業主体のトップが「2014年度前半着工を目指す」と発言するのは、こういうおかしな進め方を、自ら率先して行わせようとしていることに他ならないと思います。
 
リニア計画は、規模・内容・改変箇所とも前例のない事業です。常識的に考えて、通常の鉄道建設などよりも丁寧で詳しい環境配慮が求められて当然です。
 
それなのに、どうして環境配慮の手続きを簡略化させたがる動きが活発なのでしょうか。そしてどうしてどのマスコミも計画を持ち上げるばかりで、あからさまにおかしな点を追求しないのでしょうか。

環境アセスメントの問題点 総まとめ

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現時点で明らかになっている、リニア中央新幹線計画における環境影響評価(アセスメント)の進め方に関する問題点をまとめてみました。
 
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リニア着工までの各段階での「環境配慮」
 
その1 計画早期段階での環境配慮の欠如 
 計画段階における国土交通省内のふたつの審議会(中央新幹線小委員会、超電導浮上式鉄道技術評価委員会)では環境面からの検討をまともにおこなっていません。大型プロジェクトの場合、この段階での環境配慮が特に重要だと思います。
超電導浮上式鉄道技術評価委員会における問題点
●技術的に走れるかという点に終始しており、環境面や安全面についてはほとんど踏み込んでいない。議事録も公開されていないし、パブリックコメント等も行われていない。
中央新幹線小委員会における主要な問題点
●優れた自然環境を有する南アルプスをぶち抜くことについては「意見のすり替え」ということを行って不問に付した。
 →詳しくはこちら
●同時期に環境省は南アルプス国立公園の拡張方針を定めている。政策が不一致である。
●電力不足の最中であるのにも関わらず電力消費について審議することなく認可した。
●大きなエネルギー消費、路線設置の制約(曲がれない!)、磁界の発生など超電導リニア特有の環境影響評価項目についても、在来型新幹線との比較すらおこなっていないのに超伝導リニア方式が妥当と結論付けた。
●パブリックコメント結果を無視したことについて何も説明がない。
 
その2 情報が開示されない状況でのアセスは無意味 
 環境アセスメントの流れを把握しておかないと問題の大きさが分かりにくいと思いますので、まずその点を説明します。
イメージ 1
 
まず事業者は方法書を作成します。これは、事業者が、文献調査や現段階での案、そしてアセスメントの調査項目、調査・予測・評価の方法をまとめた文書のことです。
 
一般の人々(以下公衆)や自治体は方法書に対して意見を述べることができます。例えば、○○山のこのあたりには△△という貴重な植物が多いので調査を重点的におこなうべき、◎◎展望台からの眺めを大事にしてほしい、○×川の生態系は特に重要、この地区は通学路になっているので大型車両の通行は避けるべき…といった感じです。
 
事業者は寄せられた意見をもとに現地調査や影響の予測をおこない、対策を考え、文書にまとめます。現地調査は最低でも1年間です(1年では情報の集まらない項目もあるはずですが)。この文書を準備書を呼びます。
 
準備書の記載内容に対しては市民や市町村・県知事から意見を提出できることが環境影響評価法で定められています。この準備書での意見提出が、公衆が事業者に対して意見を述べる最後の機会となります。
 
事業者は、公衆や都道府県知事からの意見をもとに準備書を書き換えてゆきます。この準備書を書き換えてゆくプロセスが、環境影響評価の核心といわれています。
 
準備書を書き換えたものは評価書と呼ばれます。さらに担当大臣から意見(実際には環境省からの意見)が出されて評価書が補正されます。補正後の評価書を公表することにより、環境影響評価は終了となります。

以上の通り、環境アセスメントは単なる規制とは異なり、事業者が公衆との対話を通じて環境保全措置を生み出してゆく制度です。そのため、事業者や監督機関は情報の徹底的な開示を行うことが不可欠です。
 
ところがリニア計画においては計画が固まっていない段階-大雑把なルートが幅3㎞の帯で示されただけ-でアセスに踏み切ったため、方法書では詳細な情報が開示されていませんでした。これではコミュニケーションの成り立ちようがありません。
 
JR東海は「詳細な情報は準備書作成段階で明らかにする」と繰り返していますが、以上の通りアセスの流れから見れば遅すぎます。準備書段階では、既に現地調査や予測・評価は終了しているからであり、調査手法や場所に意見を述べたくても既に「後の祭り」だからです(寄せられた意見を基に、再度調査を行うというのなら話は別ですが)。

その3 実際の事業実施区域の選定過程が不明 
 JR東海によると、方法書において3㎞幅で示されたルートから、路線や駅の位置を決定し、調査範囲(
実際の工事箇所を中心として600m以内)を定め、調査・予測・評価を行うとしています。
何だかヘンだと思われませんか?
 
3㎞幅より実際の路線(工事箇所)を決めてから600m幅を調査するとしています。何を判断材料として工事箇所を決めるのでしょう?
 
順序が逆なんですよね。
 
常識的に考えて、3㎞幅から実際の工事箇所を絞り込む過程こそが、「環境に配慮した路線の位置決定をおこなう」という環境アセスメントの目的であるはずです
 
ところで、JR東海は今年秋に準備書を公表するとしていますので、実際の調査・予測・評価は1年程度で終わることになります。1年で調査・予測・評価を終わらせるためには、現地調査の開始以前から実際の路線の位置が決まってなければ日程的には不可能です。もし最初から路線の位置が決まっていたら…アセスメントの結果は最初から出ていたことになります。
 
 ちなみに現地調査をおこなう範囲は、工事箇所から600m以内を予定しているということですが、この600mという数値は「整備新幹線の事例を基にした」というだけで、リニア建設予定地においても意味をなすものだとはいえません。
 
 
その4 複数案を検討していない
「超伝導リニア方式」「南アルプスを貫く」といったことは国鉄時代から計画されていて、JR東海がそれをそのまま引き継いだ形になっています。言い換えれば、これ以外の”より環境に良いであろう”案は検討していません。
 
 
その5 東京~名古屋のうち15%の区間は環境アセスメントをおこなわずに完成した 
 将来営業路線に転用する山梨リニア実験線42.8㎞がこのほど完成しました。この区間については環境アセスメントを定めた現行の環境影響評価法(1997年制定)はもとより、それ以前のアセスメント規定である閣議アセスメント要綱すら適用されていません。→詳しくはこちら 

 すなわち、東京~名古屋286kmのうち15%の区間が、環境アセスメントを行われずに完成することになります。
 
 なお、1990年ごろに現地調査のようなものも行われたようですが、それによってどのような環境配慮がなされたのか、公衆との意見交換が行われたのか、実際に引き起こしてしまった水枯れを回避できなかったのか…など肝心のことは何一つ明らかにされていません(単に、建設上、走行実験データ取得上の基礎調査をおこなっただけのようですが)。
 
その6 環境アセスメント終了後に新型車両L0系での走行実験をおこなう 
JR東海は、2013年秋に準備書を公表するとしている一方、2013年秋から2016年度にかけて、営業用新型車両L0系を用いて最大12両編成での走行実験をおこなうともしています。
準備書が公表される正確な日時はわかりませんが、日程を考えると、L0系・12両編成での走行実験結果が記載されるのは不可能です(そもそも実験終了の2016年度というのは着工予定2014年度よりも2年先!)。ですからこれまでのMLX01等による、最大5両編成での走行に基づく予測や対策が記載されることになります。
 
したがって万が一、今後の新型車両12両編成での走行実験で新たな環境への影響が判明し、それへの新たな対応が必要となっても、準備書には反映できなくなってしまい、外部からの法律に基づく意見提出も不可能(事業者側から見れば不要)になってしまいます。
 
しかも環境影響評価法31条の規定により、アセス終了後の事業変更は、特に大きく内容を変える場合を除き、再度のアセスを不要としています。
 
これは環境アセスメント制度の本質にかかわる大きな問題であり、現在着工されている北陸新幹線で実際に問題を引き起こしています。詳しくはこちらをご覧ください 
 
その7 環境アセスメントの開始以前に現地調査が始まっている
方法書を公表して、公衆や自治体から意見を受け付けてからでなければ調査方法は確定できないはずです。それに文献調査ならともかく、ボーリング調査など重機を使用する現地調査の場合、騒音等によりその場所の環境をアセス本番の前に乱してしまう可能性もあります(愛知万博のアセスで問題視された)。
 
しかしJR東海は2008年から長野県大鹿村でボーリング調査を行うなど、事前調査を開始しています(ボーリングの穴からはいまだに水の流出が止まらないらしい)。これは論理的に考えておかしなことです。

その8 243㎞もの区間での現地調査を1年で終わらせるのは可能なのか
調査員をどれだけ動員するのかにもよりますが、本当に可能と考えているのでしょうか。
 
例えば南アルプス山岳地帯の場合、ベテラン登山者でなければ登山道を歩くこともままなりません。まして植生調査や水生動物調査などは、登山道から外れた森林内、崖、渓流なども調査対象にしなければ意味がありません。2011年9月に南アルプスを直撃した台風15号の影響もあるでしょう。たった1シーズンの調査でどの程度の範囲を踏査できるのでしょうか。
 
これを考えただけでも、かなり無理のある日程だと思います。
 
あるいは大気環境(騒音の伝播等に関連)調査は四季×1週間おこなっているようですが、その間の気象条件が現地の気候を反映しているとは限りません。例えば今年3月上旬は異常高温が継続しましたが、もしこの時期が観測期間に該当していたら、得られた異常高温のデータが現地の気候という結論になってしまいます。また北海道を除いてサクラが異常に早く開花したように、動植物の生態にも異変が生じている可能性もあります。
 
動植物の生態、地下水位の変化など季節による変化のある項目を知るためには、数年間の継続的な観察が必要だと思います。南アルプスのように既存データが少ない場所ならなおさらです。
 
 

その9 南アルプスの自然環境に対する評価が不自然
国土交通省での審議段階から付随する問題点です。

南アルプスは、日本で最大級の、人工的な改変の少ない山岳地域であり、その点に大きな価値があります(2010年環境省はこの点に着目し、国立公園区域の拡張を決定しています)。ところが国交省にしろJR東海にしろ、あくまで「ルート上での自然環境の豊かな場所」という位置づけであり、全国的な視点、わが国の自然保護制度上からの視点が完全に欠落しています。視点によって必要な対策や保全措置は大きく異なってくるはずです。
 

その10 環境アセスメントを簡略化させようという動きが活発
 沿線自治体が「リニア中央新幹線建設促進期成同盟会」という組織を結成して推進しているため、環境アセスメントその他様々な手続きを簡略化させようという声が盛んにあがっています。前代未聞の事業に対し、この姿勢はおおいに疑問があります。
 詳しくはこちらをご覧ください

その11 公衆・国民不在 
 パブリックコメント無視およびその説明の欠如、多くの懸念意見への無回答、「その2」「その3」のように意思決定過程の不透明さなど、挙げればキリがありません
 



リニア計画は環境面から見て、

環境影響評価法が1997年に制定されてから最大級の規模であり、
南アルプスという日本最大級の原生的な空間を大きく改変し、
500㎞/h走行や大深度地下トンネル、磁界など前例のない要素を多く含む
 
という、前代未聞の事業です。環境アセスメントも前例のないほど丁寧に行うのが当然ではないのでしょうか?
 


参考文献 原科幸彦(2010)「環境アセスメントとは何か」 岩波新書
環境アセスメントを学ぶうえで、非常に役立つ本です。

リニア説明会についての疑問 何ゆえオジ様・ジイ様向け?

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先日12日、長野県飯田市でリニアの説明会が開催されています。各種新聞報道によれば、相変わらず具体的な話はなかったそうです。
→外部リンク 中日新聞 南信州新聞 
 
説明会後の質疑では、次のような質問(要望?)が相次いだとか(テレビ朝日の番組でも報じられていたようですが)。

「1時間に1本では利便性が低すぎる」
「中間駅が簡素すぎる」
「中間駅が市街地から遠すぎる」
「1県1駅では利便性が低い」

・・・。

素朴な疑問
 
何をいまさら?
 
こんなことは、当初、「中間駅を設けない」とJR東海が言い出した頃から明らかだったと思っていましたが…。それにいくら声を挙げたところで、「6000万都市をつくる」ことをうたったリニア計画で、1/200の人々の声を汲み上げることはないと思う…。
 
それに何故、環境影響評価の説明会において、環境とは全く関係のない地域振興関連の質疑に時間を費やすのでしょう。そちらは別に機会を設けるべきではないのでしょうか?
 
もっと強い違和感を感じたのは以下の点。

上記の新聞社のサイトには、会場の写真が掲載されています。
 
写真を見た限りでは、会場に集まられたのは年配男性ばかりのように見受けられます。平日の昼間という時間ですから当然と言えば当然です(そういえば女性の姿もほとんど見えない)。
 
だけど、失礼な言い方だけれども、会場にお集まりになられた方々の大半は、着工から何十年間もリニア計画に向き合っていくとは思えません。リニアが(JR東海の予定通り進んだとしても)本格着工は数年後、開業するのは14年先、全線開業は32年後。十数年後にはご隠居なされているかもしれない方々よりも、むしろ若者の声に耳を傾けなければならないと思うのですが…。
 
記事によれば、計画を歓迎する声も多かったらしいけれども、もしこうした人々の間に、「あの高度成長期を再び」という発想が共通認識としてあるのなら、それは少々(イヤかなり)マズイと思う。
→古い記事
http://blogs.yahoo.co.jp/jigiua8eurao4/11297060.html
 
少なくとも、2013年の今日まで、ど~にか残ってきた自然や景観を壊すだけ壊しておいて、そして成功するのかどうかキワドイ大工事を歓迎し、「後のことは知らんよ~」なんてことだけは絶対に避けなければならないはずです。
 
なぜJR東海あるいは自治体は、若い世代の人々に、気軽に参加してもらえるような配慮を行わないのか、ものすごく理解に苦しみます。

準備書9月公表はおかしいのではないのかな 北陸新幹線の事例から考える

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こういう記事がありました。

『リニアの環境影響評価準備書、9月にも公表(時事通信)』

会員制記事なので中身は分からないけれども、前にも書いた通り、2014年度着工のためにはこのスケジュールでなければ実現不可能ですから、案の定といった感じです。
 
そのいっぽうで、今年秋からは、延伸工事の終わった山梨実験線において、新型車両L0系を用いて最大12両編成で走行実験が行われることになっています。
 
準備書というのは環境への影響を調査・予測・評価し、それをまとめた文書のこと。当然のことながら、列車の走行に関する項目も多々含まれます。
 
これも前に書いたことだけれども、準備書を出してから走行実験を行うっていうのは、あからさまにおかしい。
 
万が一、今後の新型車両12両編成での走行実験で新たな環境への影響が判明し、それへの新たな対応が必要となっても、準備書には反映できなくなってしまい、外部からの法律に基づく意見提出も不可能(事業者側から見れば不要)になってしまいます。
 
しかも環境影響評価法31条の規定により、アセス終了後の事業変更は、特に大きく内容を変える場合を除き、再度のアセスを不要としています。
 
つまり、環境アセスメントの結果を合法的に無視できてしまうのです。これは大きな問題であり、環境アセスメント制度の本質に関わってきます。

というわけで、環境アセスメント終了後に事業内容が変更されることは、大きな混乱を招くようです。
 
事例1 辺野古への米軍基地建設
→使用される航空機の種類が未定であった(アセスの終了近くになってオスプレイ配備計画が浮上)ため、騒音問題に関しての予測や評価が無意味になってしまった。
 
事例2 愛知万博と海上の森
→現地調査の途中で会場予定地だった海上の森でオオタカの営巣が確認され、非難が高まる。そのうえ入場者数予測等も変更され、予定地が変更される。新規予定地に関しては不十分な調査しかおこなえず再調査が必要となり、その予定地も再度変更されるなどして、結果として通常の2倍以上の手間がかかってしまった。当初から複数案を提示していればよかったとされる。
 
事例3 北陸新幹線と中池見湿地
→中池見湿地というのは福井県敦賀市にある湿地。現在の日本では湿地の存在そのものが貴重ですが、その中でも特に良好な水循環が保たれ、数多くの希少な生物が生息し、長年の保護運動の結果ラムサール条約にも登録された稀有な場所。アセス後に、そこを北陸新幹線が貫通することになってしまった。
 
北陸新幹線の事例について、ちょっと経緯を時系列に並べてみます


1992年 大阪ガス㈱による液化天然ガス基地計画が明らかになる。地元自治体も誘致に動く。いっぽう貴重な動植物や珍しい地形が破壊されることに対し、市民から反対の声があがる。
 
1993.10~1996.3 大阪ガスによる環境影響評価
この頃から市民や学者による調査が活発化し、湿地生態系の重要さが広く知られることとなる。
 
1999.5 コスタリカでのラムサール会議分科会にて、中池見湿地の現状が国際的に知られるところとなる。これを受け、福井県知事、敦賀市長が大阪ガスに意見書を提出。
 
1999.10 大阪ガスは工事を10年間延期すると発表。
いっぽう1998~2001年、鉄道建設・運輸施設整備支援機構(以下鉄建機構)による北陸新幹線建設事業の環境盈虚評価が行われる。湿地東側の山中にトンネルを掘るも、問題はないという評価で終了。
 
2002.4 大阪ガスは液化天然ガス基地計画の中止を発表。
 
2004~5 大阪ガスは維持管理費と事業予定地を敦賀市に寄付。敦賀市長は湿地をラムサール条約に登録したいとの意向を表明。こののち保全計画についての協議会が繰り返し行われる。
 
2005 鉄建機構は住宅地への影響を避けるため」「高速走行のため」として予定ルートを150m移動し、湿地を貫くことになる。http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20121110-00000007-mai-soci
 
2011.2~ 環境省による中池見湿地の越前加賀海岸国定公園編入のための現地調査
 
2012.3.27 環境省は越前加賀海岸国定公園特別地域に指定
 
2012.6.29 国土交通省は北陸新幹線(金沢-敦賀間)の着工認可。お墨付きを与えたのはリニアによる南アルプスぶち抜き計画にお墨付きを与えたときと同じ人物。2005年に行われていた予定ルートの変更については、「若干」の変更であるため環境影響評価法31条で定めた再アセスの基準以下であり、国交省整備新幹線小委員会、鉄建機構ともに問題はないという認識を示す。
 
2012.7.2 ラムサール条約に登録(水源地となる湿地東側の山も含む)。
 
2012.7.25 鉄建機構は湿地東側の山で環境調査をおこなうことを表明。しかし調査結果にかかわらずルート変更はおこなわないと発言。批判が高まる。http://www.fukuishimbun.co.jp/localnews/super_expless/36788.html
2012.秋~年末 市民、日本自然保護協会、環境省などの調査により湿地生態系の豊かさが再確認され、鉄建機構に計画の見直しを求める声が強まる。
 
2013.6.8 この日の報道では、事業主体の鉄道建設・運輸施設整備支援機構は「調査」をおこなう方針であると表明。ただし、それが、関係者と事業主体だけによる調査で終わるのか、環境影響評価法32条に基づいて、自主的に環境影響評価を最初からやり直すのか、定かではない。


 
中池見湿地では、こういうゴタゴタが続いているわけです。国定公園に指定したりラムサール条約への登録をしたわけですが、今までのところ自然環境の保全には何の役にも立っていないわけで、果たして有効性があったのでしょうか。
 
 

それはともかく、リニア新幹線では今後も走行実験が行われるわけですから、その結果次第では路線の位置や規模や構造が「若干」アセス時よりも変更されることも理論上はありえます。その結果として大きな自然破壊につながっていく可能性も、実際に北陸新幹線という事例があることから否定できないように思われます。事業を進める側にしても、無用な混乱を増幅させるだけのような気がします。
 
2014年前半、環境アセスメントが終わった
2014年後半、アセスで問題なしとして着工にいたった
2016年頃、走行実験が終わり、あらたな問題点が判明した
2017年頃、新たな問題点に対処するために、路線の構造等を変える必要が出てきた。環境への負担は増大することとなったが、再調査は不要と判断された。問題視する声は無視され、事態が泥沼化した…。
こんな感じです。
 
 
ものすごくおかしな話だと思いませんか?
 
これでは環境アセスメントなど全く意味がありません。北陸新幹線の事例など、環境影響評価法の隙間をぬって、アセス抜きで自然破壊を強行するようなものです。
 
 
このような懸念を抱くのですが、最近行われている各地の説明会でも、この手の質問があがったという話は全く聞きません。私の杞憂なのでしょうか。リニアの通る岐阜県東濃地区には、”東海丘陵要素”と称される珍しい植生を有する湿地が点在しており、国定公園への編入も議論されているそうですが、中池見湿地の事例は他人事ではないと思います。

とにかくリニアに関して言えば、本当に環境配慮をするつもりがあるのなら、L0系12両での走行実験結果を準備書に反映させるべきだと思います。
 
 
(注)ひょっとしたら、走行実験結果を適切に反映させて環境対策をとれば、それでいいじゃないかと思われる方もおられるかもしれません。
 
しかしなぜ私がアセスにこだわるかと申しますと、それはアセスが、住民とJR東海とが、環境保全という範囲に限定されるものの、法的に設けられた、相互に意見をやり取りできる数少ない機会だからです。ただでさえ住民不在・情報非開示のこの計画では唯一の機会と言っていいかもしれません。単なる説明会とは違って発言時間に制限がないこと、事業者側も説明を求められること、文書として後に残ることも重要です。単なる説明会や環境規制とは、これらの点が根本的に異なります。
 

「環境に配慮」したら南アルプス貫通は不可能!!

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南アルプストンネルからの残土は600万立方メートル以上?

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南アルプスを横断する50㎞以上の長大トンネル群。当然のことながら、トンネルを掘れば残土が発生します。
 
道路トンネルだろうと地下鉄だろうと、トンネルを掘れば当然のことです。ただ、リニア計画の場合は南アルプスという特殊な場所ゆえに問題が非常に大きくなります。
 
イメージ 5
 
この残土、今まで530万㎥程度と見込んでいましたが、どうやらさらに多くなりそうです。
 
JR東海が作成した環境影響評価方法書には、断面の形状はこのように示されていました。
イメージ 1

これをもとにして下図のように掘削断面積を100㎡程度と見込んでいました。
イメージ 2
 
 
しかし平成22年11月12日、国土交通省の第11回中央新幹線小委員会に、独立行政法人鉄道建設運輸施設整備支援機構が提出した資料中央新幹線の建設に要する費用に関する検証(主としてトンネル区間を見ますと、このようになっています。
イメージ 3
 内空有効断面積…トンネル内側の断面積からガイドウェイや設備分の断面積をのぞいたもの
 
JR東海が方法書で示した図では省略されていた、路盤より下側の部分も示されています。高速道路など、幅10m程度よりも大きなトンネルを掘る場合には、底面も逆アーチとし、強度を増すように設計することが多いようです。こうした構造をインバートと呼ぶそうです(英和辞典だとそのまま逆アーチの意味)。リニアのトンネルは新幹線トンネルよりも断面積が大きいため、逆アーチになっていたんですね。
 
というわけで、本当の掘削断面積には、このインバート部分も加わります。

これをもとに、断面積の推定をやり直しました。
 
トンネル断面はけっして単純なものではなく、複数の円や楕円を組み合わせた複雑なものです。断面図でも外周部分は曲線や直線がいくつも組み合わさっています。しかし、大雑把な断面積の推定ですから、単純に2つの円をつなぎ合わせたものと見なしました。
 
また、コンクリート壁の厚さは60㎝と仮定していました。ところが「土木工学ポケットブック」という資料によりますと、新幹線トンネルでインバート構造を用いるような条件では70㎝、底面の舗装厚さも50㎝にするとのこと。そこで今回はこの条件に従います(南アルプスの地質条件ではこれでも薄いかもしれません)。
 
試算をおこなううえで作成した概略図はこちら。
イメージ 4

 
その結果、断面積は約115㎡という数字が出てきました。
 
ですから断面積×トンネル長さ
 115㎡×52000m=5980000㎥
そして二軒小屋斜坑からの残土
 31㎡×4000m=124000㎥

合わせて6,104,000㎥
読みにくいですね。610万4000㎥です。今までの試算より1割増となりました。
 
これを甲府盆地の旧鰍沢町、山梨県早川町新倉、静岡市二軒小屋、長野県大鹿村釜沢、長野県伊那谷の5ヶ所から掘り出すので、1坑口につき1220800㎥。ナゴヤドーム一杯分。
 
10年間、年間作業日数280日で掘り出すと1日につき436㎥。
毎日、重量にして959~1177トン、大型ダンプカー107~131台分の残土が発生し続ける…。
 

こんなに大量の残土をどうするつもりなのでしょう。
 

二軒小屋斜坑は市街地まで自動車で半日もかかる南アルプスのど真ん中です。残土を埋め立てることも運び出すことも、どちらも困難です。なにより、無人地帯であり、人手のあまり入っていない、原生的な空間の残る場所です。そんな場所へナゴヤドーム一杯分の残土…どこが「環境に配慮した」計画なのでしょうか。
 
 
 
さらに内壁やインバート部分を構築するためのコンクリート原料も大量に搬入しなければなりません。必要なコンクリートの量は、単純計算で35㎥×52000m=1664000㎥。同様に試算するとダンプカー30~40台分。
 
その他、各種建設資材も搬入しなければなりません。
 
結局、ダンプカーなど大型車両が、10年間、毎日150往復前後しなければ、このトンネルを掘ることはできません。
 
 
 
 
こんな工事を「環境に配慮して」進めることが可能なのでしょうか?
 
 


なお関数電卓と定規とコンパスがあれば、高校数学で大雑把な数字が出てきますので、お時間のある方はお確かめください。

こんなにたくさんダンプカーが通っていいのかな?

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リニア中央新幹線は、幅およそ50kmの南アルプスを、計3本、総延長約52kmのトンネルで横断するものとみられます。
イメージ 1
トンネルの概略
 
 
イメージ 2
おおよその断面はこんな感じ。
 
 
私の概算では、このトンネル工事にともない、計610万立方メートル前後の残土が発生すると予想されます。東京ドーム約5杯に相当します。くわしくはこちらをご覧ください
 

(ちなみに横浜市でのアセス審議会では、総延長38㎞の神奈川県内区間で600万立方メートルという試算が出されています。
http://www.city.yokohama.lg.jp/kankyo/etc/shingikai/eikyou/gijiroku/h23/231213.pdf
 
さて、5ヶ所から搬出されるので、のべ2800日の工事日数で割ると、一ヶ所あたり毎日436立方メートルとなります。
 
砂岩の密度2.2~2.7t/㎥をかけると、重量にして959~1177トンになります。
 
10t積み大型ダンプカー107~131台分となります。
 
さらにコンクリート骨材、建設資材、各種機械、燃料など様々な物資を運び入れることを考えると、さらに多くの車両が通行することになります。
 
例えば内壁やインバート部分(下方に掘り下げた部分)を構築するためのコンクリート骨材を考えてみます。コンクリート部分の容積は、単純計算で35㎥×52000m=182万㎥。そのうち骨材の占める割合は容積比にして7割前後らしいので、必要なのは127万㎥。これは1坑口・1日あたり91㎥。大型ダンプカー16台分。

こんなふうに考えると、南アルプスを横断するトンネルを造るためには、10年間毎日、大型車両が150回前後も往復しなければなりません
 
それは、甲府盆地と伊那谷に面した坑口だけでなく、静岡県最北端で大井川源流部にあたる、標高1400mの二軒小屋という南アルプスど真ん中も同様です。
 
谷底ですから残土を埋め立てる土地は皆無です。大井川源流部の林道を、大規模な自然破壊のうえ拡幅し、どこかに運び出さねばなりません
 
これだけでも大問題ですが、車両の通行も問題です。
 
工事現場における大型車両の通行は、通常、日没後は禁じられます。
 
すると1日に通行できるのは8~9時間。1時間あたり17.6往復することになります。あくまで平均ですので、日によってはもっと増えることでしょう。
 
これはどのような数字なのか?
 
現在の大井川源流部には細い林道がつけられています。一般車両の通行は禁じられています。中部電力の車両などは通りますが、ある程度は静かな環境が保たれています。
 
二軒小屋のような険しい山岳地帯で大型車両が多数通行する場所…と考えて思い浮かんだのが北アルプスの上高地。近年、上高地では、マイカーで訪れる観光・登山客の増加に対応して、シーズン中の交通規制を行うようになってきています。
 
すなわち、入り口で一般車両の進入を禁じ、シャトルバスに乗り換えてもらうという方式です。シャトルバスも一種の大型車両。これがどの程度の頻度で運行されているのでしょうか。
 
長野県のHPによると10~30分に1本の割合で運行されるということです。7・8月の混雑日には、ツアーバスの運行も規制されるとのこと。
 

それじゃ、他の山岳観光地はどうなっているのか…少々調べてみました。
 
 
 
世界遺産に登録されて話題沸騰中の富士山の場合30分間隔で運行される予定になっています。(富士急のHP)。
 
白山スーパー林道の場合20分間隔(石川県のHP)
 
乗鞍岳(長野県側)の場合1時間間隔(長野県のHP)。もっとも、タクシーの通行は可能。
 
尾瀬の場合20~30分間隔(尾瀬保護財団のHP)。こちらもタクシーやマイクロバスは可能とのこと。
 
南アルプス北部の南アルプス・・スーパー林道の場合は1日に5往復
 
そして今問題視している、南アルプス南部の大井川源流部に至る林道東俣線の場合も1日に5往復。ただし小型の車両(東海フォレストのHP)。もっとも中部電力の車両も通りますが…。
 
並べてみると
上高地…1時間に2~6往復
富士山…1時間に2往復+タクシー
白山 …1時間に3往復
乗鞍岳…1時間に1往復+タクシー
尾瀬 …1時間に2~3往復+タクシー/マイクロバス
南アルプス・スーパー林道…1日に5往復
南アルプス・東俣林道…1日に5往復

どういう検討過程でこの数字になったのかは定かでありませんが、現在の日本では1時間に6往復程度が上限となっているようです
 
これに対し、リニア建設で南アルプス南部の山中を通行する大型車両は、最低でも1時間に18往復。さらに上記の山岳観光地は、冬半年は閉鎖されるのに、リニア建設の場合は1年中この値となります。もしも冬場の通行を禁じるのなら、夏場は2倍に増加することになります。
 
あきらかに各地のマイカー規制中の水準を上回っています。
 
すなわち各地の基準に照らしあわせてもあからさまに「環境に悪い」!!
現状とは比較になりません。
 
 
 
JR東海は、残土について「適切に対処する」としか方針を示していません。工事用車両の通行についても、「なるべく既存の道路を活用する」といった、通り一遍等なことしか書いてありません。
 
しかしどう考えても環境に配慮できるような「適切」な処分・輸送方法はありません。
 
 
9月には「環境への影響に対する方策」を記載する環境影響評価準備書を公表するとしています
「環境に配慮」とはどのような内容とするつもりなのでしょうか?

山岳部では輸送すること自体が大規模自然破壊なんですが

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残土の問題を蒸し返しているついでに輸送路の問題を再掲します。昨年秋に書いたものをベースにしています。
 
JR東海は南アルプスを横断する長大トンネルを掘るにあたり、南アルプスのど真ん中、大井川源流の静岡市二軒小屋という場所へ斜坑を掘ろうと計画しています。斜坑というのは長大トンネルの工期を短縮するために横から本坑へ掘り進める工事用トンネルのことです。
 
イメージ 1

二軒小屋というのは3000m級の山々に囲まれた秘境の地です。
 
静岡の市街地から自動車で向かった場合、ヘアピンカーブの県道を経て畑薙第一ダムに至り、さらに未舗装・一般車両通行禁止の林道東俣線を通ってゆくことになります。直線距離では70~80㎞くらいですが、所要時間は少なくとも4時間はかかります。
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これだけ遠い場所ですので、工事をおこなうにあたっては、まずは輸送路の確保が問題となります。
 
ところで大井川といえば、「昔は『箱根八里は馬では越すが、越すにに越されぬ大井川』とうたわれていたが、今では河原砂漠で簡単に渡れる」ということがよく言われます。
 
その水を取ってしまったのが大小多数の水力発電用ダム。
 
山奥に巨大なダムを造るにあたり、輸送路の確保はどのようにおこなわれていたのでしょうか。
 
 
 
以下、「井川発電所工事誌」「大井川 文化と電力」(どちらも中部電力編集)に基づきます。
 
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井川ダムは、中部電力によって昭和32年に造られた堤高103mの中空重力式ダムです。全長約180㎞の大井川の中ほど、旧井川村(現静岡市)を水没させて造られることになりました。
 
建設前の試算では、コンクリート打設総量は53万立方メートルに及ぶこととなりました。骨材(砂利)の大部分はダム湖底となる大井川川床から採取する方針だったようですが、セメントや各種建設資材など、様々な種類の、膨大な量の資材が必要となります。試算では1日あたり720トンの資材輸送が不可欠となりました。
 
いっぽう工事の行われる井川地区は標高1000~2000mの山々に囲まれた秘境というような場所です。当時は、村人が静岡や大井川下流域に出るためにはケモノ道か登山道のような道を歩くしかなく、生活物資は簡易な索道で運搬しているという状況でした。
 
完全に外部から孤立していた井川集落にどうやって膨大な資材を運び込むか…。
Wikipediaにも掲載されていますし、鉄道マニアの方々ならよくご存知かと思いますが、結論から言いますと、わざわざ専用の軌道をつくることになりました。現在の大井川鐵道井川線になります。
 
工事概要は
●大井川鐵道の千頭駅~大井川ダム(現アプトいちしろ駅)約10㎞に設けられていた幅762㎜の軌道を幅1067㎜に改良
●大井川ダム~堂平(現井川駅の東方約1㎞地点)約17.15㎞に軌道敷設
 
ということが行われました。後者の17.15㎞間は、大井川流域のなかでも最も両側がせまっていて断崖絶壁が連なり、接阻峡とよばれる険しい地形を呈しています。トンネルをいくつも穿ち、高さ100mの橋をかけるなど、まさに難工事でしたが、2年で完成しました。建設費は当時の金額で24億4000億円かかったそうです。
 
《なお、井川線の列車は車体が小さいために狭々軌と勘違いされますが、実際には大井川鐵道から貨車を直通させるために1067㎜幅の狭軌が用いられています。工期短縮のためにトンネル断面を小さくしたので、車体が小さくなったのです。最小曲線60mというヘアピンカーブもあります。》
 
完成後は、8トン積みの貨車を8両連結した列車が1日11~12往復程度して、上記の1日700トン強の資材運搬にあたったということです。井川集落の人々が千頭方面に移動する際にも利用されるようになりましたが、その後中部電力が静岡市街地方面へ抜ける道路を完成させた後は、静岡方面との行き来がメインとなっています。また、井川線建設に並行して静岡市街地方面とつなぐ道路の建設もおこなわれました(こちらはダムの水没補償の一環ですが)。

◇   ◇   ◇   ◇   ◇ 
 
井川ダムの次に造られた大型ダムは、昭和37年完成の畑薙第一ダムです。
 
こちらは井川以上に険しい山奥になります。そこで工事の第一段階(昭和32~34年)は、やはり輸送路の確保となりました。これも辛苦を極めたようで…
 
●山肌を削って車両の通行可能な道路(幅員6m、総延長20㎞)をつくる
●豊水期には大井川にプロペラ舟(スクリューではなくプロペラで航行する船。浅い川でも航行可能だがすさまじい騒音が生ずる)を航行させて資材運搬
●渇水期には大井川の川底をならして車両が通行
 
といった経緯を経て昭和34年にダム本体着工となったそうです。すごいですね。高度成長期だからこそ可能だったといえなくもありません。畑薙第一ダムが完成してから16年後に出版された「南アルプス・奥大井地域学術調査報告書」という文献によると、やはり道路工事によって相当に植生が破壊されたことが問題視されています。現在だったら環境アセスメントで確実に問題視されていたことでしょう。
◇   ◇   ◇   ◇   ◇ 
 
大井川流域の最後の大規模電源開発は昭和62年から平成7年にかけて源流域で行われました。
 
これは赤石ダム(赤石岳と聖岳の間を流れる赤石沢へ建設:堤高58m)の建設をはじめ、大井川源流域に7つの取水堰を設け、総延長約22㎞の水路トンネルで結び、3つの発電所を設けて計86900kWの電力を確保するというものです。
 
この時代となるとさすがに環境保全の声が高まっていたので、通産省(当時)の通達により、法律によらない「閣議アセスメント」とよばれるものがおこなわれ、環境に配慮したということですが、詳しい内容はよく分かりません。
 
それはともかく、この一連の工事でも輸送路確保が問題となり、
●畑薙ダムから30㎞近い距離の林道を拡幅・補修する
●大雨による崩壊時にはヘリコプター輸送
●静岡市街地とを結ぶ県道の改良工事
といったことがおこなわれました。
 
なお水路トンネル掘削ではかなりの残土が出たはずですか、どこへどのように運ばれて処分されたのか定かでありません。発電施設の造成にでも使われたのでしょうか?
 
渓流釣りの本、あるいはリニア中央新幹線方法書に対する静岡市の議事録などを読むと、この工事で多くの沢が荒らされ、水が涸れ、生態系が乱されたようです。ヤマトイワナの激減には、この工事が相当な影響を与えていたそうな。バブル全盛当時の環境アセスメントは、やはりいい加減だったのでしょうか。
 
このように、人里はなれた場所での大工事では、まずは輸送路の確保が重要課題となり、また、自然や社会に大きな影響を及ぼします。

◇   ◇   ◇   ◇   ◇
 
ここで、リニア中央新幹線の南アルプス長大トンネル群に目を向けます。
 
トンネル工事ですから、ダムとは逆に掘り出した膨大な残土の搬出が問題となります(ちなみに井川ダム建設では、残土は井川集落の移転用地造成に使われました)。南アルプスを掘削断面積115平方メートルのトンネル3本(推定長さ計約52㎞)のトンネルで貫きますと、約610万立方メートルの残土が発生します。
試算はこちら 
 
これを5ヶ所から均等に運び出すと、一ヶ所当たり122.08万立方メートル、268.4万~329.4万tになる勘定です。砂岩の密度は2.2~2.7t/㎥程度といわれているので、1日あたり436㎥の残土を重さに換算すると約959~1177トンとなります
 
井川ダム建設時における1日の資材運搬量に比べて1.3~1.6倍という値です。もちろんコンクリートや資材などを搬入しますから、二軒小屋へと行き来する総運搬量はさらに多くなります。
 
わざわざ専用の軌道を設けなければ運搬できなかった膨大な量より、さらに多くののモノを、どうやって運び出すというのでしょうか?
 
 
やっぱり大量残土の搬出路確保のために大工事が必要となるのでしょう。昨今、静岡で造られた大規模事業の作業用道路-新東名高速道路、布沢川ダム(中止)、中部横断道-は、いずれも幅員8m級の、国道と見まごう立派な道路です。
イメージ 4
静岡市清水区に計画されていた布沢川ダム建設のために設けられた作業用道路
 ・山肌が高さ10mほど切り取られてコンクリートで固められた
 ・地下水流動、動物の移動を寸断
 ・外来種の植物が侵入
といった変化をもたらした
 
こんなものをつくるためには、相当な大工事と自然破壊が必要となり、昭和40年代の南アルプス・スーパー林道建設時と同じ状況となります。
 
かといって、残土の長距離運搬をあきらめ処分地を南アルプス山中に求めるとしたら、それはそれでとんでもない自然破壊となる…。
 
 
 
このようにリニアのトンネル工事は、相当な自然破壊を起こした昭和~平成の電源開発よりはるかに大きな負担を、南アルプスの環境に強いることが確実だといわざるをえません。JR東海や鉄道建設・運輸施設支援整備機構や国土交通省が「南アルプス貫通可能」というのは、あくまで「技術的に掘削が可能」(かもしれない)ということだけであり、環境保全上は客観的に見ると不可能と判断せざるを得ないことを、ご承知頂きたいと思います。自然保護地域とされる場所でおこなってよい行為なのでしょうか?

土管列車!?

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この週末、何だか急にアクセス数が増えました。何だろうと思ってましたが、どうやらネットニュースで「リニアは土管列車。車窓を楽しめない」という記事が配信されたためのようです。

イメージ 1
こんな巨大土管が延々と続くわけですな
 
 
はっきり言って、「何を今さら?」という感じ。そんなことは前々から分かりきったことだったのに・・・。

以下、「土管列車報道」から思いついたことをダラダラと書いています。
 
 
東海道新幹線の発案者の1人であり、日本鉄道建設公団総裁を務めた、故・篠原武司氏は、ご自身の回想録の中でリニア構想に触れ、「鉄道の速度は時速300キロ程度におさえ、それ以上の高速を望むなら飛行機を使え。移動手段としての限度をわきまえるべきだ」「電磁波の危険性もある」「まさか全区間を地下に埋めるわけにもいくまい」と、安易な実現化に警鐘を鳴らしておられました。

(『新幹線発案者の独り言―元日本鉄道建設公団総裁・篠原武司のネットワーク型新幹線の構想』1992年 石田パンリサーチ出版局より)
 
さて、中国・上海に建設されたドイツの常伝導リニア「トランスラピッド」の場合、沿線への磁界・騒音対策のために路線をはさんで50mの緑地を設け、緩衝帯としてあります。フードはありません。
 
いっぽう日本のリニア中央新幹線の場合、用地取得を極力減らすためか緩衝帯は設けられず、代わりにフードが設けられます。これが「土管」ですな。トランスラピッドよりも速度・磁界ともに影響が大きいことも理由にあるのでしょう。高架橋の両側は、側道をはさんで住宅地等に向き合うことになります。
 
 
また、物体が高速で細長い空間に進入すると、圧縮された空気が反対側出口に押し出され、大きな音が生じます。専門的には微気圧波とよばれ、東海道新幹線の時代からの、高速鉄道ならではの課題となっています。リニアは新幹線よりもさらに高速で移動しますから、これを緩和するためにもフードが不可欠となります。

時速505キロというのは、現代のプロペラ旅客機や第二次大戦中の軍用機(「ゼロ戦」とか「隼」とかB-29とか)に匹敵する速度。プロペラ機は上空数千mの薄い大気中を飛行しますが、リニアの場合は地上1気圧の大気中で動きます。上空より濃い大気中ですので、その空気をむりやり動かすことにより様々な現象が生じるのです。
 
また、切り通し区間での落石、野鳥などとの衝突、往来妨害、降雪などへの対策というという意味合いも強いのでしょう。こんな速度で障害物に衝突したら、それは鉄道事故ではなく航空事故に近い大惨事になってしまいます。
 
時速505キロというのは秒速140.3mです。そして時速505キロから緊急停止に要する時間は90秒とのこと。計算すると、停止までには6313.5mの距離が必要となります。普通列車並みの110キロまで減速するまでにも70.4秒の時間と6014mの距離が必要です。
 
言い換えれば、ガイドウェイに異常を検知しても、すでに列車が6㎞以内に近づいていたら、もはや回避は不可能です。

そういう心配から「全てにフタをしてしまえ」という発想に至ったのだと思いますが、「フタ」をしたらしたで、別に様々な問題が出てきます。
・景観をぶち壊す
・日照問題
・緊急時の迅速な対応が困難
「全てフードで覆ってしまえば安全」みたいなことが言われていますが、大地震のときにトンネルのコンクリート壁が剥がれ落ちた例もあります(中越地震、兵庫県南部地震、伊豆大島近海地震など)。山陽新幹線なんて、建設後20年程度で地震もないのにパラパラ剥がれ落ちる事故が起きました。
 
そんなふうに、剥がれ落ちたコンクリートに突っ込むリスクはどのように評価されているのでしょうか
 
万一火災が発生すれば、土管はただちに煙突に変わります。そういうリスクもどのように検討されていたのか。
 
火災が起きて消防車が駆けつけても、土管の中ではどうしようもありません。東京-名古屋286kmに、延々と水道管を引いて消火栓を設けるつもりなのでしょうか?
 
こういうリスクをきちんと検討した形跡が全く見当たらないのですが、いったいどうなっているのでしょう?
 
◇   ◇   ◇   ◇   ◇
 
そもそも土管列車にしなければ運転が不可能であり、土管列車化しても次々と問題が出てくるのは、最高時速505キロ走行の実現という発想に、ムリが多いことに端を発します

よくよく考えると、高速鉄道、レーシングカー、離陸時のジェット機などの速度はおしなべて300㎞/h前後。これ以上の速度で地表を移動する乗り物なんて、先の上海リニアと、実験的に改造したケースを除くと存在しないんですよね。
 
やっぱりこれくらいの速度が、地表での限界なんじゃないのかな?

いろいろな「?」の浮かび上がってくる記事でした。
 
 
 
 
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「土管」もこれぐらいゴージャスにすれば格好いいかも(フランス:ガールの水道橋/Wikipediaより)
 
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リニアに似ていますね(乾燥地帯の地下水路「カナート」の断面図/Wikipediaより)

「土管列車」報道はリニア問題の本質を表している…かも

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「土管列車」について、ネット上では、ああだこうだと話題になっているようです。
 
ああした構造にせざるを得ないというのは、やっぱりお天道様のもとを堂々と走ることに自信がないことの表れなのでしょう。
 
●磁界が周辺に及ぼす影響に不安がある
●ガイドウェイ内に何かが侵入することに対して不安がある
●走行時の騒音対策に不安がある
●トンネル進入時の音に不安がある
●天候対策に不安がある
 
本当に快適で、周辺環境に調和できる移動システムならば、わざわざあんな醜悪な「巨大土管」構造にする必要なんてないわけです。
 
さて、ネット上で配信された新聞記事では「車窓を楽しめない」と、乗客に主観を置いています。おそらくは東京・名古屋の人々を念頭においているのでしょうが、この書き方では車窓を楽しめないことが問題であるという印象を受けます。しかし「巨大土管」の影響をこうむるのは明らかに沿線住民です。そもそも景観については、環境影響評価(アセスメント)において調査・評価対象となる事項であり、まずは沿線の視点に立った報道がなされるべきでしょう。
 
環境アセスメントでは、景観については主に
①眺望ポイントからランドマーク(主要な眺望対象)を隠さないようにできるか
②周囲の景観と調和できるか
といったところが評価ポイントとなっていますす。
 
リニアの高架部分は高さ20m程度となります。そのうえに、高さ8m程度のコンクリート製フードがかぶせられます。
 
この写真のような感じですな。
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このコンクリート製超巨大土管を、どのようにすれば「景観に配慮した構造」と見なすことができるのでしょうか。
 
私見では、非常に威圧的な構造で、周囲の風景とも調和していないように思われます。平地でも高さが30m近く、深い谷間ではそれ以上になるでしょうから、眺望ポイントからの視界をさえぎってしまうこともあるかもしれません。
 
ところが超伝導リニアは「巨大土管」にしなければ走行ができないわけですし、また、路線を曲げることも不可能ですから、抜本的な対策はほとんどありません。せいぜい色にこだわるとか、装飾をつけるとか。すなわち、解決方法は「解釈次第」としかいえないと思います。とはいえ、こんなものを、どのように解釈すれば「景観に配慮した構造」と見なすことができるのでしょうか?
 
長野県大鹿村には、小渋川の谷とその先の赤石岳とを一望できるスポットがあります。この小渋川の谷に、かような「巨大土管」が出現したらその眺望が台無しになるとの懸念も出ています。
 
詳細なルートが表明するにつれ、同様な問題が次々と出てくることでしょう。
 
ついでに言えば、日照問題とか巨大構造物による風系への影響(ビル風とか)なんかも気になります。

ところで、超伝導リニア技術を実用化するにあたり、国として審査した国土交通省の専門家会議「超電導磁気浮上式鉄道実用技術評価委員会」というものが設けられました。この委員会、議事録が公開されていないので、どういう審査が行われたのかさっぱり分かりません。
 
その委員会資料では、冒頭に掲げたような走行に関するこれらの不安について、「フードや緩衝工(つまり巨大土管)を設置することによって対処できる」と簡潔に言い切っています。
 
例えばトンネル進入時の衝撃音については
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こんな具合です。
 
ところがこの巨大土管を設けることによって生じる様々な問題については、全く言及していないようなんですね。「周辺に人家が存在する場合においては150m級緩衝工を設ければよい」なんてあっさりと書いてあるわけですが、それによって未来永劫、景観が失われることなんかに気をとめたりする委員はいなかったのでしょうか。家の前に長さ数百mの巨大土管ができることを、何の疑問も抱かず受け入れられる人は、そうはいないと思いますが…。
 
◇   ◇   ◇   ◇   ◇
 
フードの記述に限らず、この委員会の資料からは、実験設備(山梨実験線)をそのまま巨大化すれば実用化が可能という考え方しか伝わってきません。そこからは、どんなことをしても受け入れられるだろうという思い込みが感じられてしまいます。あるいは推進する側(技術者、専門家、官僚、事業者)の一方的な論理とも言えるかもしれません。
 
「土管列車」の問題は、リニア計画を進める人々が、この超伝導リニアという技術が、社会・環境・景観の面においても受け入れられるのかという点にまで思考・考察を巡らせていないという、あるいはその点が議論されていないという、本質的な問題を象徴していると思います。

どういう環境配慮の結果として南アルプスでの工事を推進するのか?

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南アルプスの残土問題に戻ります。
 
リニア中央新幹線を建設するためには、南アルプスに最低でも50㎞以上のトンネルが掘られることになります。50㎞のトンネル工事においては途中の橋梁区間を含め、5ヶ所の作業口が設けられることになります。
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5ヶ所のトンネル出入り口のなかでも、残土の発生や長期にわたる大型車両の頻繁な通行により、特に多大な影響が出るのは静岡県静岡市の二軒小屋(大井川源流部)と長野県大鹿村の小渋川流域です。
 
トンネル掘削によりおそらく600万立方メートル以上の残土が山中に発生しますが、5ヶ所から均等に搬出すれば、それぞれ120万立方メートルずつ(東京ドーム一杯分)が両地点にも振り向けられることになります。険しい谷をむりやり埋め立てるという非常識なことをしない限り、搬出しなければなりません。ところがまともな道のない場所ですから、運び出すための道路建設だけで大掛かりになります。
 
さらに掘削によりいくつもの沢を涸れさせたり、大型車両が10年間頻繁に走り続けるなど、山岳地域の工事としては、平成に入って最大・最悪の自然破壊を引き起こすことは避けられないと思います。
 
◇   ◇   ◇   ◇   ◇
 
さて、現在は環境影響評価(アセスメント)の最中です。
 
環境アセスメントでは、原則として当初の案と、環境に配慮した複数の案を比較し、より環境への負担の少ない方法を選ぶという手法が用いられます。複数の案のことを、法的には代替案と呼ぶびます。これは、環境影響評価法の施行にあたって公布された、技術的な指針を定めたマニュアルにちゃんと書かれています。
 
このマニュアルの正式名称は「鉄道の建設及び改良の事業に係る環境影響評価の項目並びに当該項目に係る調査、予測及び評価を合理的に行うための手法を選定するための指針、環境の保全のための措置に関する指針等を定める省令(平成10年6月12日公布 運輸省令第35号)」と言い、(長っ!!)代替案の検討については第三十条にあります。文末に記載しておきますね。

JR東海が示している当初の案は、「少なくとも5ヶ所から残土を搬出する」という内容です。したがって、環境への影響の少ない工法を考える以上、「きわめて環境負荷の大きくなる大井川、小渋川、両地点での工事を行わない」という代替案が検討されなければならないはずです
 
◇   ◇   ◇   ◇   ◇
 
この代替案についてちょっと考えてみました。
 
この2ヶ所からの掘削を行わないとすると、山梨県早川町新倉から伊那谷側(長野県豊丘村付近)までのおおよそ30~40㎞の距離を、両側2地点だけから掘り進めることになります。

JR東海は、トンネルを掘るにあたり、重機あるいはダイナマイトで岩を崩し、すぐにコンクリートを吹き付けてゆくという工法をとるとしています(NATM:新オーストリア工法というらしい)。
 
ところで近年の国内の山岳トンネル工事で、特に難航したものとして、NEXCO中日本が事業主体となった東海北陸自動車道・飛騨トンネル(10.7㎞)の飛騨トンネルの例があります。
 
このときには、NATM工法よりも工期を短縮できるトンネルボーリングマシンを用いました(TBM工法)。このときは斜坑を設けず、10.7㎞のトンネルを7.2㎞と3.5㎞の工区とに分けて、両側から掘ったそうです。ところが山の重さによる圧力や湧き水で難航し、結局、貫通までに9年4ヶ月を要しました。NEXCO中日本のページ)。ボーリングマシンの直径は約13mであり、トンネル断面の大きさはリニアのトンネルとほぼ同程度と見られます。また、本坑に先駆けて作業用の小断面(直径4.5m)のトンネルを掘り、完成後は避難坑として整備しています。
 
飛騨トンネルの場合は、地表からの深さは最大で1000m前後(とはいえ国内ではかなり厚いほう)でしたし、その区間は一部だけ。また地質条件の悪い区間は1.7㎞ほど。
 
それに対し南アルプスの場合は、深さ1000m以上の区間はおそらく15㎞前後、最大の深さは1500m前後に達するとみられます(地形図からの読図による)。山の重さははるかに大きくなります。さらにいくつも川をくぐったり、中央構造線付近の破砕帯や地すべり地形を貫くなど、地質条件も非常に悪い。
つまり飛騨トンネルよりも条件はずぅ~っと悪く、遅れる条件ばかりが揃っているわけです
 
とりあえず、「7.2㎞掘るのに9年4ヶ月かかった」飛騨トンネルの例を、そのまま南アルプスの30㎞区間に当てはめてみましょう。
 
長さから、単純に4.16倍すれば38年9ヶ月

JR東海の計画通りに2014年度着工でも、貫通するのは2052年か2053年になってしまいます。さらに軌道の敷設等で1~2年はかかるでしょうから開業は2055年頃。
 
これは極端に遅い例かもしれません。現在、NATM工法を用いた山岳トンネルの標準的な掘削速度は速くて100mとのこと。これを当てはめれば、2坑口から15㎞ずつ掘ってゆくと貫通まで150ヶ月、12年半かかります。前後の工事期間を加味すれば、やはり2027年度開業は不可能です。

ということは、大井川源流部や小渋川流域での工事を行わない場合、現在の計画である「2027年名古屋開業」には間にあわなくなります。したがってJR東海としては、この開業目標を目指す限り、「静岡市二軒小屋と大鹿村釜沢に残土搬出口を設けない」という選択肢はありえないのでしょう。つまり二軒小屋や釜沢は必ず工事現場に含めるのが、JR東海の意向であるはずです。
 
でも冒頭に記した通り、これは、環境への影響という視点から見ると、考えられうる複数案の中でも最悪のものです。
 
繰り返しますが、環境影響評価では、複数の案を検討してより環境に配慮した最善の対策をとることが求められます。その検討過程と結果は、準備書に記載するよう法律で定められています。
 
すなわち準備書には最善の対策と検討経緯を記さなければならないのに、書かれる内容は、おそらく最悪の対策になることが、目に見えています
 
JR東海は9月にも準備書を公表するとしていますが、果たしてどのような複数案の検討結果として、「最悪」である大井川源流部や小渋川流域での工事を進める根拠を打ち出し、つじつまを合わせるつもりなのでしょうか?

 
 
もっともリニア計画においては、在来型新幹線とリニア方式の比較、南アルプスルートの選定という国交省における審議段階での環境配慮が本質的に欠けていますが。
 
◇   ◇   ◇   ◇   ◇
 
「鉄道の建設及び改良の事業に係る環境影響評価の項目並びに当該項目に係る調査、予測及び評価を合理的に行うための手法を選定するための指針、環境の保全のための措置に関する指針等を定める省令」の一部抜粋
 
第二十九条  事業者は、環境影響がないと判断される場合及び環境影響の程度が極めて小さいと判断される場合以外の場合にあっては、事業者により実行可能な範囲内で選定項目に係る環境影響をできる限り回避し、又は低減すること、必要に応じ損なわれる環境の有する価値を代償すること及び当該環境影響に係る環境要素に関して国又は関係する地方公共団体が実施する環境の保全に関する施策によって示されている基準又は目標の達成に努めることを目的として環境の保全のための措置(以下「環境保全措置」という。)を検討しなければならない。
 
(検討結果の検証)
第三十条  事業者は、前条第一項の規定による検討を行ったときは、環境保全措置についての複数の案の比較検討、実行可能なより良い技術が取り入れられているかどうかの検討その他の適切な検討を通じて、事業者により実行可能な範囲内で対象鉄道建設等事業に係る環境影響ができる限り回避され、又は低減されているかどうかを検証しなければならない。
 
(検討結果の整理)
第三十一条  事業者は、第二十九条第一項の規定による検討を行ったときは、次に掲げる事項を明らかにできるよう整理しなければならない。
一  環境保全措置の実施主体、方法その他の環境保全措置の実施の内容
二  環境保全措置の効果及び当該環境保全措置を講じた後の環境の状況の変化並びに必要に応じ当該環境保全措置の効果の不確実性の程度
三  環境保全措置の実施に伴い生ずるおそれがある環境への影響
四  代償措置にあっては、環境影響を回避し、又は低減させることが困難である理由
五  代償措置にあっては、損なわれる環境及び環境保全措置により創出される環境に関し、それぞれの位置並びに損なわれ又は創出される当該環境に係る環境要素の種類及び内容
六  代償措置にあっては、当該代償措置の効果の根拠及び実施が可能であると判断した根拠
2  事業者は、第二十九条第一項の規定による検討を段階的に行ったときは、それぞれの検討の段階における環境保全措置について、具体的な内容を明らかにできるよう整理しなければならない。
3  事業者は、位置等に関する複数案のそれぞれの案ごとの選定事項についての環境影響の比較を行ったときは、当該位置等に関する複数案から第一種鉄道建設等事業に係る位置等を決定する過程でどのように環境影響が回避され、又は低減されているかについての検討の内容を明らかにできるよう整理しなければならない

ニュージーランドの「南アルプス」では国立公園内のトンネル工事が中止

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このようなニュースが配信されています。
 
世界遺産地域へのトンネル建設却下、ニュージーランド

【AFP=時事】ニュージーランド政府は17日、同国の南島(South Island)で世界遺産に指定されている地域に全長11キロのトンネルを建設する計画を、環境への影響が大きすぎるとして却下した。

 トンネル建設会社「ミルフォード・ダート(Milford Dart)」が申請したのは、クイーンズタウン(Queenstown)のスキー場から、国連教育科学文化機関(ユネスコ、UNESCO)の世界遺産に登録されているフィヨルド「ミルフォードサウンド(Milford Sound)」をつなぐルート上のトンネル建設計画で、バスや自動車で観光客を輸送する時間の短縮を目的としていた。
 
 しかし同国のニック・スミス(Nick Smith)環境相は、環境と安全の観点からこの申請を却下。「国立公園は特別な場所であり、アスパイアリング山(Mount Aspiring)とフィヨルドランド(Fiordland)国立公園のような絶景はほとんどない」と報道陣に語った。
 
 スミス環境相は、トンネルを建設した場合に国立公園内に捨てられるがれきの量が50万トンに上るとし、ニュージーランドで最も有名なハイキングコース「ルートバーントラック(Routeburn Track)」を破壊することになると説明した。またこれだけ長いトンネルが、申請された予算1億4200万ドル(約140億円)だけで完成できるかという点にも疑問を呈した。
 
 計画に反対していた環境活動家らはこの決定を歓迎している。
 
以上、引用終わり
 
「ミルフォードサウンド」という場所に行ったことはありませんが、調べてみると確かに素晴らしく美しい場所。ニュージーランド南西部、サザンアルプスが海に落ち込む場所にあり、深く切れ込んだフィヨルドと雪をまとった険しい山々、深い原生林が織り成す絶景の地です。ここをつなぐハイキングコースは「世界で最も美しい散歩道」とも称されるほどで、最近では日本の観光パンフレットやアウトドア雑誌なんかでもよく取り上げられます。
 
これは英断と言うべきでしょう。
 
そんな場所に残土なんて山積みにしたら美しい景観は台無しになるでしょうし、工事で生態系が破壊されてしまいます。
 
ところで記事を見ると「がれきの量は50万トン」なんだそうです。
 
がれきとは残土のことだと思います。
 
こちら日本のサザンアルプス(つまり南アルプス)で発生する残土の量は少なくとも600万立方メートル。砂岩の比重2.2~2.7t/㎥を掛けて重量に換算すれば1320~1620万トン。現在の計画通り、甲府盆地、南アルプス山中3ヶ所、伊那谷の計5ヵ所から掘り出されれば、南アルプス山中へは792~324~972万トンが発生します。
 
JR東海がそのうちどの程度を南アルプス山中に投棄するのか分かりませんが、ニュージーランドの例とは桁違いの量になることだけは確実です。

ニュージーランドでは50万トンで重大な懸念が生じるのなら、数百万トンが発生するリニアのトンネル工事はどれほど自然破壊をするのでしょうか?
 
そしてなぜ日本の環境省はだんまりを決め込んでいるのでしょう?

もひとつの審議会-超電導磁気浮上式鉄道技術評価委員会-って何を審議していたの?

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参議院選挙が終わり、衆参両議院とも自民・公明党が過半数を獲得することとなりました。自民党が推し進める、総額200兆円の国土強靭化計画の一環として、リニア計画のような巨大プロジェクトにとってはまさに追い風といったところなのでしょう。
 
でも同時に自民党はTPP参加にまっしぐら。たしかTPPの交渉項目には、日本国内の公共事業に海外企業の参入を容易にするといったことがあったように記憶しています。そうなれば、今までどおりのバラマキ型が国富の海外流出につながる可能性も出てくるわけですので、いったいどうなることやら。
 
 
さて、リニアの話でございます。
 
「リニア計画の様々な問題は国土交通省中央新幹線小委員会というデタラメな審議会に起因する」ということを何度もこのブログで強調しました。ところが、よくよく調べてみると、この委員会がデタラメになっていた以前に、その前に設置されていた別な審議会がそもそもいい加減だったのではないかと感ずるようになりました。
 
リニア中央新幹線の計画に先立ち、超電導リニア技術の実用性を審議する専門家会議として、「超電導磁気浮上式鉄道技術評価委員会」というのが平成16~21および23年度、国土交通省に設けられました。
 
「山梨実験線での走行実験結果をもとに、超伝導リニア技術が実用化の域に達しているかどうかを見定める」という位置づけだったようです。
 
とはいえ、この委員会についての説明は「超電導リニアの実用化に向けた総合的な技術評価を行う。」というただ一行のみ。実態が全く分からない審議会です。上のURL先には資料のようなものもがPDFファイルで掲載されていますが、それが審議会の結果としてまとめられたものなのか、それとも審議会のために用意された資料なのか、それすら不明です。議事録もありません。
 
どういう人選なのかも分かりませんが、この点をお調べになった「東濃リニアを考える会」様のブログによれば、鉄道関連の専門家(しかも東大関係らしい)で固められているとのこと。
 
この技術評価委員会が「実用化の域に達した」と評価したことがJR東海のリニア計画へのお墨付きになりました。でも本当に真剣な審議の結論だったのでしょうか?

ちょっと中身を見てみましょう。
 
 
以下、平成21年度の委員会資料について記述
 
騒音や微気圧波(トンネル進入時に発生する衝撃波)については緩衝工の改良によって克服できると書いてあります。
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あるいは、トンネル進入時の大きな音(微気圧波)については、長さ150mの緩衝工を設ければ対応可能と書いてあります。
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それを受けて結局のところ、中央新幹線の明かり区間は全てコンクリート壁で覆われることになりました。甲府盆地や伊那谷の場合、高さ20mの位置に延々20㎞もの巨大土管を造ることになってしまったわけです。目の当たりにする多くの人々にとっては、すなからず違和感を感ずる構造物だと思いますが、何の異論もでなかったのでしょうか?
 
このようなことは、「専門家」の方々ならリニアの特性上ある程度は予見できたはずです。それにもかかわらず全く疑問視されなかったとしたら、あるいは異質な構造物を生活空間に造ることになんのためらいもないのだとしたら、それは一般市民の感覚とかけ離れているんじゃないのかな?

資料[2]のp30~31には「万一の異物衝撃に備え、車両先頭部に排障(緩衝)装置を装備」なんて書いてあります。
 
だけどリニアはガイドウェイにスッポリはまって走行しているから、普通の鉄道のように排障装置(いわゆるスカート)で障害物を横に押しのけることは不可能なように見受けられます。停止するまで押し続けたり、あるいは乗り上げてしまうことが避けられないのではないでしょうか。
 
そもそも最高時速505キロ、秒速140mなのですから、ぶつかった時の衝撃は現行新幹線の比ではありません。その際、通常の新幹線よりも軽量素材の車体という条件で、どの程度の衝撃まで乗客の安全が確保されるのか、どういう緩衝装置をつければよいのか、そういったことは(表向きには)検証されていないのに、なぜ堂々とこのような文章を書けたのでしょう。
 
極め付きはこれ
 
資料[2]p.31を見ると「火災発生/検知時には、減速として次の停車場又はトンネル(緩衝工、明かりフード区間含む)の外まで走行して停止し、非難する。」とあります。
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この審議会の時点で「ほとんどがトンネル、明かり区間もほとんどフード」ということは分かっていたでしょうに、こんな文章を書いていておかしいと思わなかったのでしょうか?

その他、実験線建設当初より問題視されていた電力消費に関する記述、様々な自然破壊を助長する「曲がれない」というリニアの特性についても全く触れていません。
 
すなわち、フツーの感覚では、「それってどうなのよ?」と疑問に感ずるような種の疑問は、ここの検討過程では無視されてしまっていたかのようなのです
 
鉄道の専門家ばかりではなく、せめて他分野の専門家が加わっていれば、この検討過程には違和感を覚えていたかもしれません。たとえば景観やデザインの専門家なら「巨大土管」には違和感を覚えるかもしれませんし、環境アセスメントや自然環境の専門家が加わっていれば「曲がれない」という制約を実用化することに疑問を抱いたかもしれません。
 
環境影響評価制度なら、事業者作成の方法書に記載された調査項目・手法に対し、住民・自治体意見が出され、調整してゆく過程が組み込まれています(この過程をスコーピングという)。一応は、国民の意見を聞く、あるいは外部の専門家が意見を出す機会が、建前上とはいえ法的に設けられているわけです。
 
だけどこの超電導磁気浮上式鉄道実用技術評価委員会においては、国民の抱く疑問も、他分野の専門家の声を聞く機会も皆無。官僚&官僚の選んだ偉い学者様という閉鎖空間なのでした。
 
 
 
この技術評価委員会の審議結果については、妥当なものであったのかもしれません。詳細な内容に逐一突っ込むほどの知識も持ち合わせておりません。しかし、地球上に前例のないものを「実用化」して、大きな構造物を造って多くの人々を乗せる計画であるのならば、その評価過程はオープンなものにして広く意見を求めるべきだったんじゃなかったのでしょうか
 
 
まあ、今さら言っても後の祭りですが。
 

静岡空港の赤字解消のために南アルプスを差し出す?

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先日24日、静岡新聞朝刊にあった小さな記事です。
 
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「リニア整備と空港新駅設置 県、JRにウィン・ウィン 県議会で知事、持論展開」
とあります。
 
要点をまとめますと…。
 
川勝県知事には、赤字に苦しむ静岡空港の乗客増加の切り札として、空港直下を通る東海道新幹線のトンネルに、空港直結の駅を造ろうという構想がある。それはリニア開業後にダイヤに余裕ができれば可能であり、知事自ら、個人的にJR東海の葛西会長とも話をしている。
 
といったところです。
 
確かに空港直下に新幹線の駅があれば便利でしょう。
 
でも、た~くさんの「」があります。
 
 
既存のトンネルを拡張して駅を造る方針なのでしょうか?
 
地下鉄でも、営業中の路線に新駅を設置したという話はあまり聞きません。ちょっと考えただけでも、様々な障害があります。
 
第一の問題として、どうやって工事をおこなうのでしょう。
 
270㎞/hで列車が営業運転しているトンネルの幅を広げることなど可能なのでしょうか。浅い地下鉄の場合なら掘削工法といって、いったん上から掘り下げて駅をつくり、再度埋め立てる方法をとることができますが、空港新駅の場合は深さが50m以上あり、この手段はとれません(そもそもトンネルの真上が営業中の空港ですから不可能)。馬鹿でかいボーリングマシンで既存トンネルの横を掘っていくことも可能かもしれませんが…。
 
第二の問題として、風圧対策があります。

トンネル内は風の行き場がありませんから、列車が高速で通過すると、ものすごい風圧が生じ、横で停止中の列車が脱線する可能性があります。
 
東北新幹線を青函トンネルに通す際に、停止中の貨物列車の横をどう通過させるかで問題視されている事項です。これを回避するためには、トンネルの幅を広げたうえで、各線路を分離するための強固な壁を築くか、あるいは通過車両を減速させねばなりません。青函トンネルの場合は後者の手段をとり、新幹線を160㎞/hまで減速させることになりそうですが、東海道新幹線の場合は不可能でしょう。この駅に用のない列車が、わざわざ減速するメリットは皆無ですし、乗客から不満が出るのも確実。
 
第三の問題として、勾配の問題があります。
 
地形図を見ると、島田側の標高は60m、菊川側の標高は80~90mとなっています。長さは1750mほどですので、14パーミルの勾配となっています。14パーミル勾配というのは100mで14cmの勾配ですので、長さ400mの新幹線の場合、先頭と最後尾で50cm以上の高度差が生じることになります。
 
これでは停まれません!
 
すなわち、これらの問題を一挙に解決して空港直下に新駅を設けるためには、既存のトンネルの両側に新たな空港駅専用のトンネルを造るぐらいしか手段がないように思われます。
 
この場合、いくらかかるのでしょう?
 
現在の整備新幹線の1㎞あたりの建設単価は約69億円とのこと。もし既存トンネルの前後から分岐する新線を2㎞つくったら約140億円となります。さらに駅のホームをつくったり地上までの通路をつくったりすれば、数百億円に達するのでしょう。
 
空港の建設費2500億円が、さらに1割増しになってしまいます。
 
仮に完成したとしても…
 
この空港新駅、これだけの費用をかけても、利用者は空港利用者、それもマイカーを利用しない人に限られます。そうなると極めて利用者は少なくなります。
 
静岡空港の平成24年度年間利用者は約44万6755人。1日平均1224人。
 
仮に空港新駅による利便性向上により、空港利用者が県の当初目標142万人に達したとすれば1日平均3890人。全てが新駅を利用するとしても、これは東海道線の六合駅の1日利用者の半分にすぎません。ちなみにリニア中央新幹線の甲府新駅や飯田新駅よりも少ない…。
 
赤字空港のために、赤字になりかねない新駅を造るの…?
 
私自身のもつ違和感は、さらに別なところにあります。
 
この記事だけでなく、過去の記事(2011年5月18日の静岡新聞記事)を参照すると、静岡市北部つまり南アルプスでの大工事に静岡県側が協力する見返りに、空港新駅を造ってほしいという構想なのだそうです。
 
空港の赤字解消(できるとは限らない)のために南アルプスを差し出す…?
 
どーにも納得がいかない。
 
県知事が、議会とは関係もなくJRの会長と勝手に話を進めている(?)という点も疑問。公共事業に関して自民党議員に問われるというのもヘンな話。
 
 
確かに、静岡空港構想を打ち出したのは前々知事で、建設したのは前知事であり、その責任を現在の知事に負わすのは酷な話ですし、どうにかしなければならないという立場はよ~く理解できます。しかしながら、南アルプスという重要な場所での大工事を、軽々に口約束のようなかたちで認めてしまうというのもおかしな話です。世界遺産富士山をかかえる自治体のトップが持つ、自然環境保全に対する認識というのはこんな程度なのですかな?
 


リンクが切れているので概要を以下に記載

静岡県の川勝知事と静岡市の田辺新市長とが会談し、南アルプスのリニア中央新幹線トンネルの調査・工事に全面的に協力することで一致。また作業用道路を観光用道路として活用できるようJR側に要請することで一致。静岡市北部の観光拠点にしたい考え。さらにはトンネル工事の土砂を活用する方針を表明。

山梨リニア実験線の環境アセスメントはどうなっていたのかな?

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先日、東京都町田市でリニア中央新幹線の環境影響評価についての説明会が開かれました。参加された方のブログによれば、次のような質疑があったということです。
 
(問い)山梨実験線の環境影響評価の資料はどこで見られますか?
(JR東海の回答)要領を得ず、曖昧なまま。
 
なんでもないやり取りのようにも見えますが、リニア計画における環境アセスメントが抱える、重大な問題を突いた質問だと思います。
 
◇   ◇   ◇   ◇   ◇
 
山梨リニア実験線は、延長42.8kmあります。将来的に中央新幹線の一部に組み込まれる計画なので、営業路線が既に完成していることになります。東京-名古屋286kmのうち、おおよそ15%に相当します。
 
現在行われている環境影響評価において、この区間も対象に含まれていますが、既に路線が完成しているわけですから、結果を反映することはできません。できることはせいぜい騒音対策をどうするかということぐらい。
 
よって、当時の環境影響評価がいかなるものであったのかなどが、重要な論点になるはずです。
 
ところが、建設時にいかなる環境影響評価がおこなわれたのか、さっぱりわかりません。
 
制度的にどのような扱いだったのか、できる範囲で調べてみました。
着工前後における、環境影響評価制度の変遷を時系列に並べてみます。

1973(昭和48)年 全国新幹線鉄道整備法に基づく基本計画路線として中央新幹線が選定される。
1979(昭和54)年 整備5新幹線に関する環境影響評価の運輸大臣通達(準備書段階から)
1984(昭和59)年 整備新幹線など、国が関与する大規模事業を対象に環境アセスメントを行うことを閣議決定(一般に閣議アセスメントとよばれる)。
1987(昭和61)年 国鉄民営化。リニア研究は財団法人鉄道総合技術研究所(鉄道総研)が継承。
1988(昭和62)年 石原運輸大臣(当時)が東京-甲府間で本格的実験線の建設に着手したいとの意向を表明。同年、超党派の国会議員によるリニア中央新幹線建設促進国会議員連盟が発足。会長は自民党の堀内光雄氏(山梨選出)。
1990(平成2)年 鉄道総研・東海旅客鉄道株式会社(JR東海)・独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構(鉄建機構)が「山梨実験線環境影響調査報告書」を作成。山梨リニア実験線着工。
1997(平成9)年 3月、山梨リニア実験線先行区間18.4㎞完成、走行実験開始。4月、環境影響評価法(以下アセス法)成立。
1998(平成10)年 6/12 アセス法施行。技術指針等を定める主務省令(鉄道)制定。アセスメントのマニュアルのようなもの。
2000(平成12)年 JR東海、鉄道総合技術研究所、鉄建機構に対し、地形・地質等の調査を指示。
2007(平成19)年 1月山梨リニア実験線の延伸工事開始。JR東海が中央新幹線構想を発表。
2009(平成21)年 1月に「山梨実験線の建設計画」の変更について国土交通大臣の承認。
2011(平成23)年 5月超伝導リニア方式による中央新幹線の建設指示。6月中央新幹線(東京・名古屋間)について環境影響評価開始。
2013(平成25)年 山梨実験線の延伸工事が終了。秋から走行実験が再開される予定。
 
実験線の着工に先立ち、「山梨実験線環境影響調査報告書」なるものが1990年に作成されているようです。これがいかなるものであったのか、さっぱり実態が分かりません。ちょっとこれについて考察してみます。

山梨実験線の計画が具体化したのは1988年頃のようです。まだアセス法は制定されておりません。かわりに国の関与する大規模事業に対して環境影響評価を行うことが閣議決定されていました。これは通称、閣議アセスメントとよばれます。
http://www.env.go.jp/policy/assess/2-2law/2/ex-120.html
 
山梨実験線は、建設当初から将来の中央新幹線の営業路線となることを見越して建設されたといわれています。
 
それでは、事実上のリニア営業路線となる山梨実験線の建設は、閣議アセスメントの対象事業だったのでしょうか?
 
鉄道の建設事業のうち、閣議アセスメントの対象事業は「新幹線」だけだったそうです。しかしこの「新幹線」とは、当時建設が具体化されていた整備新幹線5路線(北海道、東北、北陸、九州2路線)が対象であり、中央新幹線は対象になっていません。
 
また、「特別の法律により設立された法人によって行われる土地の造成」というのも対象事業に挙げられていますが、これは住宅・都市整備公団、地域振興整備公団、環境事業団、農用地整備公団の事業とされており、実験線の建設に携わった日本鉄道建設公団の名は挙げられていません。
 
したがって実験線が閣議アセスメントの対象であった可能性は、制度的にも小さいと思われます。
また、過去の環境影響評価法および閣議決定に基づくアセスメントの事例は、環境省のHPで検索できます。(ここにURLを貼りますhttp://www.env.go.jp/policy/assess/2-2law/2/ex-120.html
 
しかし山梨実験線の事例は見つかりません。
 
次に、山梨県立図書館の資料検索ページで調べてみましたが、山梨県内の図書館で保管されているのは中部横断自動車道のアセス文書だけのようでした。
 
 
 
また、山梨県の環境影響評価条例が公布されたのは1998年。条例以前に環境影響評価を規定した 山梨県環境影響評価等指導要綱が公布されたのは1990年とのことで、いずれも山梨実験線環境影響調査報告書が作成された後になります。
 
 
「影響評価」ではなく「影響調査」という名であることから、騒音や震動など、走行実験が環境に与える影響を実証するための基礎調査だったのかもしれません。
 
鉄道ファン向けの本にあった一文。
『鉄道総研、JR東海、鉄道建設公団は、実験線の建設に先立ち、実験線の建設及びその後の各種試験に伴う周辺環境への影響を把握し的確に対処するため、建設予定地の環境調査を実施し、その結果を「山梨実験線環境影響調査報告書(平成二年七月)にまとめている、この報告書により環境保全目標が設定されており、実験線での各種試験を通じて、この保全目標が満足されているかの実証を行った。』
(鉄道総合研究所(2006)「ここまできた! 超電導リニアモーターカー」 p123より)
 
これを読んだ限りでは、やはり実験のためのデータ集めだった性格が強かったと判断せざるを得ない…。
 
 
 
以上のことを勘案すると、「山梨実験線環境影響調査報告書」なるものは、環境影響評価法、閣議アセスメント、山梨県条例といった制度に基づく、正式な環境影響評価の形式ではなかった公算が大きく、山梨実験線つまり営業路線42.8kmは正式な環境影響評価制度を経ずに建設された可能性が高いと思われます。
 
◇   ◇   ◇   ◇   ◇

最後になりますが、山梨実験線建設時の環境影響評価資料の開示が重要だと思うのは、次のような理由によります。

①実験線42.8㎞分を、適切な環境影響評価を経たかどうか確認もできないまま営業路線に転用することになる
(もし経ていないのなら、法的な問題があるような気がする)。

②情報が公開されない限り、この実験線の立地条件が営業路線の立地条件としても適正なのか、検証しようがない。
 
③当時の環境影響予測や対策が適切であったか検証するための貴重な資料である。例えば、現実問題として、実験線のトンネル掘削にともない、周辺で水枯れが起きている。今般の環境影響評価においては、当時の資料を公開し、なぜ予測・対応ができなかったのか検証しなけれはならないはずである。
 
これらは環境影響評価制度の本質に関わる重大な問題です。①の懸念が真実だったら、結果的にせよ「アセス逃れ」と言われてしまわれても仕方がないと思います。

残土は50㎞で950万立方メートル

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長野県区間約50㎞での残土発生量の試算が出されたそうで、記事になっています。
 
一部を引用。
リニア、県内トンネル掘削残土は950万立方メートル JRが試算 信濃毎日新聞8月05日(月)
 
 2027年の東京―名古屋間の開通を目指すリニア中央新幹線計画で、JR東海は5日、県内路線(約50キロ)のトンネル掘削に伴う残土量が概算で約950万立方メートルに上るとの試算を公表した。東京ドーム7・6個分に相当する膨大な量。残土量が判明したことで、今後、処理方法など県内自治体の対応の在り方について議論が本格化することになる。
http://www.shinmai.co.jp/news/20130805/KT130805ATI090002000.php

 
トンネル部分の掘削断面積100㎡の前提、そのほか斜坑等からの発生も合わせ、50㎞で950万立方メートル
 
ものすごい量です。

南アルプスを横断する部分の長さは52㎞ありますので、単純に考えれば、南アルプス横断トンネルから発生する量はおおよそ1000万立方メートルとなります。
 
以前、このブログではトンネルの掘削断面積を115㎡と見なし、斜坑1本や非難通路を加え、残土の発生量は最低610万立方メートルと見込んでいましたが、考え方が甘かったようです。
 
5ヶ所(山梨県富士川町鰍沢、山梨県早川町新倉、静岡市二軒小屋、長野県大鹿村釜沢、長野県豊丘)の搬出口から、作業日数2800日で掘り出せば、1ヶ所当たり毎日714.3立方メートル。
砂岩の比重2.5をかけると重量にして約1786トン。
大型ダンプカー200台分。
 
毎日ダンプカー200台分の土砂が発生…!?
 
この残土が発生するのは平地でも港湾でもありません。
人里離れた南アルプスのど真ん中です。
 
 
どうやって運び出すの?
どうやって処分するの?
どこが環境に配慮した計画なの?
 
 

南アルプスをダンプカーで埋めつくすつもりなのかな?

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JR東海がはじめて残土に関して具体的な試算を示しました。
長野県内区間約50㎞から発生する残土の量は、おおよそ950万立方メートルになるとのこと。
 
私が以前に試算したときには、南アルプスの52㎞のトンネルから発生するのは610万立方メートルとなったので、それにくらべるとかなり多めです。
 
私のシロウト試算が妙に過小評価だったのは、「変化率」という概念を考慮していなかったためでした。
 
私の試算した610万立方メートルという値は、掘削される空間の容積です。
 
実際には、空間から排出される岩は細かく砕かれ、デコボコの石となります。デコボコ・大小さまざまな大きさで出てきたものを積み重ねると、当然すき間ができて容積が増します。この容積増加の割合を「土量の変化率」と呼ぶそうです。http://cat-japan.jp/ms-net/yougo/machine/n57a2474.html
 
山地を形成する硬岩の場合、土量の変化率は1.65~2.00だそうです。仮に間をとって1.825とします。
 
先ほどの610万立方メートルに1.825を掛けると1113万2500立方メートル。(比重は1.51になる)
 
これが南アルプスを横断する長大トンネルから発生する残土の大まかな量になると思われます。中日新聞の記事では、「トンネル区間47㎞で950万㎥」となっていますから、52㎞の南アルプス横断の長大トンネル群52㎞の値としては妥当な数字でしょう。
 
※ただ、搬出に要するダンプカーの台数には変わりがなさそうです。
一般的な10t積み大型ダンプカーに積み込めるのは、通常9トンあるいは約6立方メートルまでだそうです。
610万トンを運び出すには、610万t×(2.75t/㎥)÷(9トン/1台)で、のべ186.4万台。
1113万立方メートルを運び出すには、1113.25万㎥÷6㎥/1台で185.5万台。なお6㎥はちょうど9t。

さて、間もなく環境影響評価準備書が公表されることと思います。残土の扱いも、当然、環境影響評価の対象です。
 
環境に配慮した処理方法などあるのでしょうか?
 
掘り出し口は5ヶ所あります(山梨県富士川町鰍沢、山梨県早川町新倉、静岡市二軒小屋、長野県大鹿村釜沢、伊那谷の長野県豊丘)
イメージ 1
一ヶ所当たりに掘り出されるのは222.6万立方メートルになります。年間作業日数280日、10年かけて掘り出すと、1ヶ所あたり毎日795立方メートルとなります。
 
以下、もっとも山奥である静岡市二軒小屋を念頭において書きます。
 
795立方メートルの岩クズを運び出すためには、毎日133台の車両が必要です。
 
 
しかもこれは「年間工事日数2800日(月23日程度)」という前提です。
 
実際には悪天候などによって搬出の困難な日も想定されるため、環境アセスメントの予測段階では、月間工事日数を20日程度と見込むことが多いようです(注1)。
 
すると、のべ工事日数2400日で搬出することになり、1日あたりの搬出量は927.5立方メートル、大型ダンプカー155台分となります。
 
また、このほかにも環境影響評価の結果として作業日数を制限しそうな要素がいくつかあります。
①この一帯にはクマタカをはじめとする様々な希少動物が棲息しています。これらの繁殖期(春~梅雨)は車両の通行を見合わせるなんてこともよくあります(注2)。
②工事予定地は南アルプスのど真ん中で登山基地になっている場所です。登山者に配慮し、登山・紅葉シーズンの工事や車両の通行を禁止することも想定されます(上高地の砂防工事はオフシーズン)。
③マイナーな生き物ですが、アカイシサンショウウオ(絶滅危惧ⅠB)など移動能力の低い小動物が数多く棲息しています。これらが活発に活動する雨天・日没・夜明け前後の通行は避けるべきでしょう。
 
これらを勘案すると、搬出作業のおこなえるのは1~3月と11~12月の100日前後に集中します。
 
のべ日数1000日で222.6万立方メートルの残土を搬出すると1日あたり2226立方メートル、ダンプカー248台分となります。この集中日において、1日7時間通行(冬季の谷底だから夕方には真っ暗!)すれば、1時間あたり35往復となります。ある場所に立っていれば、51秒に1台通る計算になります。
 
現状ではほとんど車の通らない場所において、大型ダンプカーを絶え間なく走らせて、どこが「環境に配慮」した計画なのでしょうか?
 
しかも、長期にわたって搬出を行えなくなると、どこかに仮置き場を設けねばなりません。例えば60日分だと4.77万立方メートル。厚さ5mで積むと約97m四方(実際には若干縮みます)。
そんな用地が山奥の谷底のどこにあるのでしょう?
 
 
二軒小屋からの搬出を断念する…となると、今度は東側の早川坑口、西側の大鹿村坑口への残土搬出量がそれぞれ1.5倍に増加します。すると、ダンプカーの通行だけでも毎日400台近くになり、とてつもない負担となります。
 
◇   ◇   ◇   ◇   ◇
 
はっきり言ってムチャクチャです。
 
これだけ膨大な残土が発生すると、小手先の環境配慮では焼け石に水です。
 
あるいは、ある項目への”環境対策”が、別の環境破壊を引き起こしかねません。
 
 
これでも”環境に配慮した”工事が可能だというのでしょうか?

注1、注2 リニアと同じく静岡・長野にまたがる、「一般国道474号 三遠南信自動車道青崩峠道路 環境影響評価書」ではこのような”環境対策”がある)

大井川をこれ以上壊さないでくださいな -静岡県民も考えてね-

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ぜんぜん話題にあがりませんが、南アルプス、特に大井川の「水」の問題です。
 
リニアの工事で水といえば、長野県飯田市の上水道水源地帯でのトンネル工事が話題にあがりますが、個人的には大井川のほうが「やばい」と思っています。
 
地下鉄工事のように、平地にトンネルを掘る場合は、既存の井戸による長期観測記録やボーリング資料を用いることができ、シュミレーション手法が何種類か考案されていて、ある程度の予測がつきます。シールド工法といって、砂利を掘ったそばから既成の壁を組み立ててゆき、地下水がトンネル内に漏出するのを極力小さくする工法もあります。リニア中央新幹線の場合、東京や名古屋の大深度区間で用いられます。
 
ところが、山岳トンネルの場合は全く事情が異なります。
 
平地の場合は、砂や礫の層にある隙間を水が流れています。しかし山地は岩でできています。この場合、地下水は、地上とつながっている岩盤の亀裂の中に含まれていることになります(火山地帯を除く)。これを「裂か水(れっかすい)」と呼びます。地下深い岩盤内にどのように亀裂が入っているのか、裂か水がどの程度存在しているのか、地上の水循環とどのような関係にあるのか、それを前もって正確に知ることは現在の技術でもできません。
 
だから、突発的な出水に見舞われて、事故につながったり大幅に遅延したりするのです。
 
山岳トンネルを掘るときには、機械で岩を掘り崩し、一定の長さを掘り進めたところで壁にコンクリートを吹きつけ、鉄の棒(ロックボルト)で岩盤に密着させ、防水シートを張り、さらにコンクリートで内壁を構築するという工法が用いられます。
 
とことが地下水がビシャビシャ流れ出している状況では作業が困難ですし、場合によっては坑道が崩れたり水没する危険性もあります。それゆえ、山岳トンネル工事の際には、徹底的にトンネル周辺の水を抜くことが基本になっています。
 
湧水の激しいときには、水を抜くために、「先進ボーリング坑」と呼ばれる小断面のトンネルを本坑の前方に掘ったり、あるいは並行して何本も小断面のトンネルを掘ったりします。

シロウト目には、行き当たりばったりの、地上の環境を完全に無視した工法のように見えますが、どうやら現在でもこれが標準となっているようです。
愛媛県地芳トンネル(鹿島建設のページ) 
長野県権兵衛トンネル(Wikipedia) 
 
山地の水の量は、岩の中ですから全体の量としては少ないはずです。ところが、亀裂の多い山地、断層破砕帯(断層活動によって岩が砕かれ隙間の多い部分)、地すべり地帯、火山岩、石灰岩の山地では、亀裂・すき間が多いため、地下水の量は多くなります。また、谷の下方も水が周囲から集まりやすくなっています。
 
例えば、山陽新幹線の六甲・神戸トンネルの建設に際しては、断層破砕帯での湧水が激しく、ここを突破するために長さ数十mの水抜き坑を12本も掘る必要に迫られました。
 
南アルプスの場合、隆起としゅう曲が激しいため亀裂が多く、糸魚川-静岡構造線、中央構造線などの断層運動に起因するひび割れ(断層破砕帯)も多く、長野県側には地すべりも多く分布しています。
 
つまり、岩盤中に大量の水が含まれているものと推察されます。
 
工事が難航するのは、そんなところにトンネルを掘ろうっていうのですから、当たりまえです。
 
より深刻な問題は、水抜き工法をとった場合、その影響がどの範囲にどの程度及ぶのか、全く予想がつかないということ
 
リニア山梨実験線の延伸工事においても、”予想だにしなかった場所”数十ヶ所で井戸の枯渇、川の枯渇を招いています。昭和初期に建設された東海道本線の丹那トンネルのように、断層破砕帯の突破で大量の湧水をまねき、トンネル上の稲作が不可能になったという事例もあります。
 
こうした場合の対策は、環境アセスメント事例やトンネル工事の文献によれば、21世紀の現在でも
「応急対策」トンネル湧水による補給、補償金を払う
「恒久対策」代替水源の確保、土地利用の変更
なのだそうです。
 
冒頭の長野県飯田市のケースでも、最悪の場合はトンネル内湧水を代替水源に切り替えることが理論上は可能です。
 
九州新幹線の玉名トンネル建設でも相当の水枯れを引き起こしたそうで、玉名市がわざわざ条例をつくってまで代替水源の確保に務めたなんていう事例もあります。http://www1.g-reiki.net/tamana/reiki_honbun/r227RG00000875.html
 
でもこれって、南アルプスの場合は通用しません。
 
水利権をもつ中部電力、東京電力に払ったところで、問題が解決するわけではありません。
 
代替水源の確保などというのも、行う規模には限界があります。生活用水の代替程度なら井戸掘りで確保できますが、生態系を維持するためには相当の水量が必要になります。それだけの規模の井戸を掘れば、別の水枯れを招きかねません。さらに、名もないような小さな沢まで、目を配ることができるのでしょうか?
 
 
また、大井川源流部の場合、「トンネル湧水による補給」はほぼ不可能になります。
 
リニアの南アルプス横断トンネルの場合、下の図のように富士川、大井川、天竜川という全く別の3河川の流域を、1本のトンネルで掘ります。
イメージ 1

つまり、大井川の谷底下方をトンネルで掘り抜くわけで、軌道は大井川流域に顔を出しません。
 
イメージ 2
GoogleEarth 地形断面図に加筆。トンネル位置は作者の推定。
 
それゆえ大井川流域の水がトンネル内に漏出した場合、その水はポンプでくみ上げない限り、大井川に戻ることはありえません
 
ポンプをつけたところで問題が解決するわけではありません。トンネルから地上まで400~500mの高度差がありますが、水をくみ上げるのにどれだけの数のポンプが必要なのか、無人地帯でのメンテナンスが適切に行えるのか、くみ上げたところで水質は良好なのか、遠い将来にこのトンネルが不要になった場合、その後はどうするのか…。
 
またこのあたりでは地下深い本坑だけでなく、本坑につながる作業用の斜坑も掘られます。これは地表から下に向かって掘り下げてゆくわけですから、より地下水の豊富な浅い層を通過します。斜坑による水枯れも、相当なものになるでしょう。
 
二軒小屋付近の大井川源流域には、畑薙山断層(活断層の疑いが強い)や井川-大唐松断層といった大断層があり、おそらくは断層面に沿って、地表から地下深くへ水が流れているはずです。これらの断層が大井川と交わる場所では、断層に沿って大井川やその支流の河川水が地下深くへ浸透しているかもしれません。それらの断層を横切ってトンネルを掘ろうっていうわけです。言ってみれば、バケツのヒビをふさいだガムテープを切り裂くようなものです。

既存の中部電力・東京電力の水力発電により、ただでさえ主要水系の水量が減少している地域です。これ以上の水量減少は、生態系全体の影響に関わります。
 
 
たぶん、もうすぐ公表される環境影響評価準備書には、「地下水への影響は少ないと考えられる」「万一、地下水位への影響が見られた場合は、代替水源の確保等、適切な対応をとる」と書かれるのでしょう。しかし本当の「万一の場合」には、適切な対応は不可能なことを記しておきます。
 
 
 
同時に、行政区分上、リニアが通ることになる静岡市だけでなく、大井川流域の人々にも関心を払っていただきたいと思います。
 
 

「環境への影響が予測不可能な工事」を、「自然環境を保全すべき地域」でおこなうのは、絶対に間違っています。
 

実験線延伸工事での水枯れ事例

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このほど南アルプスのユネスコエコパーク登録に向けて、関係市町村で基本合意書の締結式が行われたと、報道がなされました。
 
イメージ 3
2013年8月18日 静岡新聞朝刊より
 
うまくいけば南アルプスの環境保全と周辺の活性化につながることが期待されます。しかしながら、果たして目前に迫っているリニア中央新幹線という、超巨大計画に対して、どのような対応をとるというのでしょう? その答えはいっこうに聞こえてきません。
 
とっても疑問に感じておりますので、その点は別途、長文にまとめてございます。よろしかったらご覧ください。→http://park.geocities.jp/jigiua8eurao4/SouthAlps/hozen/ecopark.html
 
さて、前回は南アルプスを流れる大井川の水枯れに対する懸念を書きました。
 
水枯れといえば、このほど延伸工事の終了した山梨実験線でも、トンネル掘削にともない多数の水枯れを引き起こしていると報道がなされています。
→http://shuzaikoara.blog39.fc2.com/blog-entry-239.html
 
 
現在は環境影響評価の最中ですので、このように実際に起きてしまった問題について、JR東海には丁寧に説明する義務が、住民には聞く権利があると思うのですが、そのような質疑が行われたとは寡聞にして知りませぬ。
 
下手をすると、うやむやのまま闇に葬られてしまうかもしれませんので、こちらで勝手な想像をします。
場所が紹介されていて、地形図から判断できる場所について見てみると、水枯れは次のような場所で起きています。
 
①川の谷底の下方にトンネルを掘ったケース
大月市朝日小沢地区の場合、川底とトンネルとの標高差はおおよそ150~200m。
上野原市秋山地区の場合、谷底とトンネルとの標高差はおおよそ90~150m。
②扇状地にトンネルを掘ったケース
笛吹市竹居地区
 

上野原市秋山地区のケースについて、地形図で現場を見てみましょう。
 
当時(2011年12月)の山梨日日新聞の記事がリンク切れとなっていますので、要点をまとめますと、
・水の涸れたのは「棚の入り川」。集落の水源として利用。 
・水枯れの起きた現場の1㎞上流にて2008年10月から秋山トンネルの掘削工事が始まった。
・2010年7月頃から川の水が涸れ始めた。先に500m西側の沢で水が涸れ、工事が進むにつれて東側の川も涸れ初めた。
・数㎞西側の都留市(トンネル坑口のある方)の沢では逆に水量が増加
・渓流魚のイワナやヤマメが水たまりにとり残されている。
・2010年8月から、JR東海が当面の対策として地下水監視用に掘削した深さ100mの井戸から地下水を供給。
・JR東海は、「現時点での原因特定は困難だが、トンネル工事が周辺の河川の流量に影響を与える可能性がある」として、工事終了後に因果関係を調査する方針。

イメージ 1
国土地理院の地形図閲覧システム「うおっ地図」より複製
山梨県上野原市で水枯れの起きたあたり 赤い線はリニア実験線の秋山トンネル
 
容量を少しでも小さくするために四隅を削ってありますが、あまり気になさらないでください。
 
画像左端にある「車両基地」というのが、地形図作成当時のリニア実験線東端です。2008年以降、ここからさらに東へ、赤線部分にトンネルが掘られました。これが秋山トンネルで長さが約3㎞あります。

図の中央で、北に流れている川が「棚の入り川」だと思われます。上流部は複数の谷に分岐していますが、主だった谷について、便宜上、西からA谷、B谷、C谷としておきます。

秋山トンネルは、紫色で囲ったあたりで、棚の入り川上流部をくぐっています。このあたりの棚ノ入沢谷底の標高は、A谷で730m前後、B谷で800m前後、C谷で830m前後です。
 
車両基地の標高は630mです。また、このトンネルの勾配は、実験線概念図(省略)から判断すると非常に緩やかな上りとなっていますので、棚の入り川上流部をくぐる部分のトンネル高度は、640mほどと推察されます。
 
すると、このトンネルと谷底との間の厚さは、おおよそ90~190m程度と見込まれます。
 
 
イメージ 2
ちなみにGoogleEarthを用いてこのトンネルの断面を描くとこんな感じです。青い矢印は、想定される水の流れ。西側の坑口側の沢で水量が急増しているのだそうです。トンネル内に湧出した水が、勾配に沿って西側へ流れているのでしょう。
 
一般的に谷は、周辺よりも侵食されやすいがために削られ、くぼんでいるものです。侵食されやすい原因は様々であり、一概には言えませんが、もともと大きな亀裂が入っていることも一因に挙げられます。そのような亀裂には、地上から水が浸透しています。
 
地上の地形がくぼんで谷を形成していることと表裏一体ですが、谷の地下には多くの水が含まれていることが、一般論として言えます。ですから、本来は谷底下方にトンネルを掘ることは避けられるとのことです。
 
地表とトンネルとの厚さ(土被り)がどの程度あれば大丈夫なのかは、その地域ごとに異なるのでしょうが、一般的には厚ければ厚いほど、地表の水環境への影響は小さくなるものと思われます。また、流域の端に近いところを通せば、流域全体への影響は小さくなるはずです。
 
ここの部分は、100m前後の土被りでは不十分であったことが、結果論ではありますが、言えると思います。
 
ここのケースでも、トンネルにカーブを加え、もう少し南側の稜線に近い部分を通過させれば、土被りは300m程度にはなり、流域の端を通ることにもなるため、水枯れはそれほどひどくならなかったかもしれません。あるいは、トンネルなど造る必要のないルート設計にしていればよかったのかもしれません。
 
まあ、そうした融通の全く効かないところが、「直線しか進めない」超伝導リニアの特徴なのですが。
 
 
 
また、②の扇状地というのは、河川が上流から運んできた石や砂が、上空から見て扇を描くように堆積した地形のことです。川底に厚く石や砂が形成されているので川の水は地中に浸透して伏流水となりがちです。その反面、地下には豊富な水があり、井戸や湧き水として生活に役立っています。
 
扇状地の場合は、地上に路線を設ければ何の問題もありません。ところがここに伏流水の流れをさえぎるように地中構造物を築けば、当然水の流れに影響が出ます。構造物の構造や深さにもよりますが、一般的には上流側では地下水位の上昇、下流側では地下水位の低下を招きます。
 
(ちなみに扇状地にトンネルを設けて災害を招いた例として、JR武蔵野線の事例が有名です。武蔵野線の北西部は、多摩川扇状地を横切ってで造られました。多摩川から伏流した水が、西から東へと流れている地域です。その流れをさえぎるようにトンネル・掘割構造で路線が造られたため、大きな影響を及ぼしました。線路の西側で地下水位の上昇で浸水被害、東側で低下を招き、特に新小平駅駅では1991年秋の長雨で、駅舎が水没するという事故まで起こりました。)
 
笛吹市内におけるリニアのトンネル構造や深さなど、詳しいことは全く分かりません。しかしトンネルの存在が伏流水の流れをさえぎり、下流方で地下水位の低下を招き、井戸の枯渇や湧き水の現象を引き起こした可能性が高いと思われます。
 
 
 
 
①、②どちらのケースにしろ、このような地上の地形を全く無視した立地では、シロウトでも一見して水枯れを心配してしまいます(そして実際に起きている)。ましてトンネルの設計にあたったプロフェッショナルの方々が、そんなことに気付かなかったはずがありません。
 
となると、水枯れはあらかじめ織り込み済みだったと考えざるをえません
 
時速500キロで突っ走るためには、地表の起伏に関係なく、ひたすら真っ直ぐにトンネルを掘らねばなりません。実際、想定ルート上には多数の「トンネルでくぐらざるをえない川」が存在しています。このリニア計画が実行に移されれば、実験線建設時と同様に、いたるところで水枯れを引き起こすに違いありません。
 
実験線の着工前には「環境影響調査書」なるものが作成され、現在でも山梨県庁に保管されているようです。いかなる調査だったのか、開示して
 
なぜ水枯れが起きたのか
着工前の調査で予測は不可能だったのか
どうして回避できなかったのか
水枯れの起こる可能性について説明はあったのか
今後の対策にどう活かすつもりなのか
 
これらが検証されなければならないと思います。

また、間もなく環境影響評価準備書が公表されるのでしょうが、谷の地下や扇状地をトンネルでくぐっている場合は、水枯れについてどの程度言及しているのか、予測・評価の手法が示されているかをチェックすることが重要化と思います。

 
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