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Channel: リニア中央新幹線 南アルプスに穴を開けちゃっていいのかい?
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マスコミ各社のリニア狂騒/外来種で南アルプスが南アルプスでなくなる!!

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「この秋リニア着工!!」
と、JR東海が環境影響評価制度を理解できていないとしか思えない計画を出したからなのか何なのか分かりませんが、この正月はあちこちの新聞-
それもこれまでのリニア推進旗振り役であった読売・産経ではなく毎日・朝日新聞、NHKがメイン-がこぞってリニア万々歳の記事を出していたようです。毎日新聞というのは批判的な記事や社説を載せたり、リニアの需要予測をした某会社の試算結果をそのまま載せて経済工をうたったりして、いったいどういうスタンスなの?
 
といっても、ネット上で見かけただけの話であり、実際に新聞を購入して読んだわけではありません。当方、静岡新聞しか読んでませんし、高校サッカーで静岡県代表校が初戦敗退してからは、ロクにテレビも見ていませぬ。
 
昨日あたりからは、日本政府がアメリカに5000億円を融資してリニアを建設させる話を昨年秋に提案していたという、実に気前のよいニュースも出てきました。
 
リニア中央新幹線計画というものの実態を全く知らぬ-意図的に無視している?-としか思えないバカ騒ぎです。

●南アルプス貫通の長大トンネル建設により、南ア山中に1000万立方メートル超の膨大な残土が発生する。その残土を処分するために、南アルプスの標高2000mの稜線や山崩れ直下に残土を捨てたり、山里を1日1700台の大型車両で埋め尽くして搬出したりと、物理的に実現不可能な処分方法が出されている。
●環境影響評価により、静岡県の大井川では大幅な流量減少が予測されている。しかしトンネルの構造から、実現的な対策方法がない。
●大量の車両通行、残土投棄、外来種搬入、騒音、道路整備、砂防工事により南アルプスの生態系と景観がメチャクチャになる
●岐阜県東濃地区ではウラン鉱床を突っ切るが、環境影響評価において、JR東海独自の調査をしていない。万一、放射性物質を含む層に突き当たった場合の対策も何ら示していない。

現在のリニア計画では物理的に避けられない、非常に大きな環境破壊。どうして全て無視して万々歳という記事を書けるのでしょう?

ほかにも
●環境影響評価がデタラメ・ヘリクツだらけ。準備書の審議会でも「これほどひどいのは珍しい」という声が相次いでいる(山梨・神奈川・静岡)。
●バカみたいに電気をくう。東京-大阪間における1人あたりのエネルギー消費は、現在の新幹線N700系に比べて4.1倍(準備書より)。移動時間は半分以下になることを考えると効率はとても悪い。
●総建設費9兆300億円に、消費税、利子払い、そして以上のような環境破壊への対策費は含まれていない。
●事業見通しに、長期的な人口減少・少子高齢化の影響は考慮されていない。そして人口が減少するにもかかわらず、大阪開業後には現在の1.5倍の利用者が見込めるとしている。
JR東海会長の首相への直談判で土地取得に関わる186億円の税金が免除される方向になった。そもそも、なんで直談判できるの?
●大地震により南アルプス地下で停止した場合、乗客は孤立するうえ救助も困難。
 
なんでこんな問題だらけの進め方に疑問を抱かぬのでしょう?

アメリカに輸出するなどと景気のよい話が出ていますが、そもそもリニア技術は、アメリカで考案されたものの、彼の地では不要と判断されて開発を中断したものです。建設費がはるかに安い鉄輪式の高速鉄道でさえ導入を渋っている国で、その何倍もの費用のかかるものが受け入れられるのでしょうか? セキュリティー対策、電磁波対策(アメリカでは送電線直下に人は住んでいない)など日本ではほぼ不問にされていることも考慮しなければなりません。
→昨年3月に書いた記事http://blogs.yahoo.co.jp/jigiua8eurao4/10971758.html
 
キリがないからもういいや・・・。
 
日本国においては、マスコミ各社が、多々ある問題点には目をつむって一斉に賛美し始めるものには、ロクなものがないという法則があるような気がしますが…。
 


 
 
南アルプスにおける外来種搬入による生態系破壊は非常に大きな問題であり、声高に主張したいので、しばらく掲載します。
 
 
 
明治時代、
 
「鉄道草」
 
と呼ばれた草がありました。
 
新しく線路が敷かれた地域にきまって生えてくる、これまで誰も見たこともない、不思議な草のことをこう呼んだそうです。
 
文明開化のしるしとされたこともあったそうです。
 
その草には、様々な種類があり、「ヒメムカシヨモギ」「ヒメジョオン」などという和名がつけられました。

これらは、北アメリカ原産のキク科植物です。幕末~明治の開港にともない北アメリカから輸入された物資について日本に伝播し、鉄道網の拡大とともに全国に広がり、元々荒地を好む性質とあいまって、線路沿いを席巻してしまったのです。現在では都会の空き地、土手、緑地などに大量に生えています。名前はマイナーですが、誰しも一度は見たことがあると思います。手元に適当な写真がないのが残念ですが・・・。
 
このように海外から持ち込まれた、本来その地に生えていない植物のことを外来種といいます。なお、生物の分布に国境で仕切ることに意味はなく、九州にしか生えていない植物が関東に広まったら、それだって生態系のうえでは異質であり、移入種とよばれます。
 
現在日本各地に広まっている外来植物の多くは、
種子を大量につける
種子が軽量・ごく小型で、風・水・物に付着するなどして散布されやすい
他の植物の生育しにくい、やせた荒地で育つ

という性質をもっています。鉄道草とよばれたヒメムカシヨモギやヒメジョオンは典型例で、種子は1㎜にも満たないうえ、風に乗りやすいよう小さな冠毛がついています。そのため貨物や乗り物に付着したり、風に飛ばされたりして、広範囲へ簡単に運ばれてゆきます。
 
そして荒地-養分が少ない、石だらけなど普通の植物の生育に適さない-にたどり着くといち早く出芽し、大量に繁茂し、在来植物の生育する場を占領してしまいます。そこが新たな種子供給源となり、また周囲へと広がってゆきます。

このような植物には、

キク科植物(オオアレチノギク、セイタカアワダチソウ、センダングサ類、セイヨウタンポポ、ダンドボロギク、ノゲシ、ブタクサなど実に多様)
アブラナ科植物(菜の花、クレソンなど)
タデ科(エゾノギシギシなど)
アカザ科(アリタソウなど)
マツヨイグサ類、
クマツヅラ属(アレチハナガサなど)
イネ科(シナダレスズメガヤ、ネズミムギ、オオクサキビ、イヌムギ、カモガヤ、メリケンカルカヤなど実に多様)
メリケンガヤツリ

など、実に多様な種類があります。静岡市内の東海道線沿いや清水港周辺を歩いただけで、簡単に100種類は見つかるでしょう。
 
外来植物の目から日本列島を見つめると、明治維新以降、こうした伝播・繁茂に適した環境が着々と広げられてきたに違いありません。
 
つまり交通網の拡大というのは、
工事に伴う荒地の出現
工事に伴う大量の物資の搬入
完成後の大量のヒト・モノの移動
交通路沿いの開発と新たな荒地の出現
 
という面がありますが、これはいずれも外来植物の繁茂にとってふさわしい環境が拡大の一途をたどってきたことを意味します。
 
外来植物の生える土地が増えた分、在来植物の生える土地が減ったことは、いうまでもありません。そしてそれは、在来植物をエサとしていた昆虫の減少や、あるいは外来種をエサにすることのできる一部の種の増加(キャベツをえさにするモンシロチョウが典型例)につながり、生態系の破壊と、郷土景観の喪失に直結します。

さて、リニア中央新幹線計画と外来植物という関係に目を向けます。
 
JR東海の作成した静岡県版準備書によると、静岡県内の現地調査範囲(南アルプス)でみつかった高等植物は756種だそうです。このうちシダ植物を除く種子植物は
686種。
 
このうち外来種はどのくらいかな…と思って一覧表を見渡すと、全く分類していないんです。環境影響評価で在来種と外来種・栽培種とを分けることは常識であり、南アルプスという場所を考えると、非常識ともいえるいい加減さです。
 
というわけで非常に不親切なのですが、一応、拾い上げてみました。結果は以下の通りでした。
エゾノギシギシ
オランダミミナグサ
イタチハギ
ハリエンジュ
コメツブツメクサ
ムラサキツメクサ
シロツメクサ
メマツヨイグサ
マツヨイグサ
アメリカセンダングサ
コセンダングサ
ダンドボロギク
ヒメムカシヨモギ
ハルジオン
セイタカアワダチソウ
ヒメジョオン
セイヨウタンポポ
コヌカグサ
シナダレスズメガヤ
オオクサキビ
 
確実な外来種は以上の21種。このほか植林されたものかどうか不明なものとしてスギ、ヒノキ、サワラ、カラマツの4種があります。なお、イタチハギ、ハリエンジュ、シナダレスズメガヤの3種は、砂防工事のために意図的に植えられたものだと思われます。
 
とりあえず21種という値を用いると、外来種の割合は3%となります。これは、1地点の環境アセスメントとしては、おそらく、けっこう低い割合だと思います。
 
例えば同様の作業を隣県の山梨県版準備書について行ってみますと、種子植物1186種のうち、外来種は約226種(数え漏れがあるかと思います)。その割合は19%に達します。面倒なのでこれ以上は調べていませんが、東京都、神奈川県、愛知県ではもっと割合が多くなるのでしょう。
 
これと比較すると、やはり静岡県内で工事が計画されている地域では、現状ではまだそれほど外来植物が入り込んでいないと言えます。
 
外来種の搬入をこの程度で何とか食い止めてきたのは、ひとえに一般車両の通行を禁じてきたからに違いありません。
 
リニア中央新幹線の建設工事は10年以上に及びます。
 
現在の計画では、その間は大井川源流部の東俣林道を使って、毎日300~500台の大型車両が大量の物資と人とを乗せて、外部と南アルプスとを行き来することになっています。
 
こんな事態は南アルプスにとってはじめてです

現在は山梨県版準備書で明らかな通り、平野部や人家周辺は外来種だらけなのですから、かつての電源開発や森林伐採の行われた時代に比べて種子供給源がたくさんあります。そこを通って、これまでになく大量の車両・人・モノが入り込むのですから、これでは、確実に大量の外来植物が外部から南アルプスへと運び込まれます。
 
そして工事にともない、表土をはぎとられる場所があちこちに生じます。さらに残土捨て場という植物の全くない裸地も広い面積で生じます。こうした場所は、外来植物にとっては天国です。
 
もうちょっと具体的に想像してみますと・・・。
 
準備書の植物リストから推測するに、現在の南アルプスにおいて、がけ崩れや倒木によって生じた裸地に真っ先に侵入する在来植物は、おそらくフジアザミ、ヤマハタザオ、ミヤマハンノキ、ノリウツギといった種類です。こうした植物を先駆性植物とよびます。
 
がけ崩れや洪水で植生が失たら、上方からの落下や周囲からの飛散により、徐々に先駆性植物の種子が入ってきます。やがて発芽し、成長してゆき、土壌の流出を防ぎ、土地が安定してきたところでカラマツやアカメガシワなど明るい場所を好む樹木が生え、最終的にブナやミズナラ、高所ならオオシラビソ等の高木の茂る森林へと変わってゆくのでしょう。
 
ところが工事によって人為的に表土をはぎとられた直後には、先駆性植物等の種子は含まれていません。そこへ頻繁に外来種の種子がふりかけのようにばらまかれ、早々と発芽してしまったら、在来の先駆性植物の生えてくる間がなくなってしまうのではないのでしょうか。しかもそういう危険箇所が、南アルプス南部を串刺しにするように延々35㎞もの区間におよびます。

リニアの工事の場合、まず、畑薙第一ダムから斜坑までの約35㎞の東俣林道沿いにおいて、路肩の整備によって現存の植生が剥ぎ取られます。林道整備のイメージのために、最近、突貫工事で完成した林道の写真を貼り付けておきます(静岡市葵区牛ヶ峰山腹)。
 
こんなふうに、道の両側はいったん表土がはぎ取られた状況となります。土砂崩れ防止のためにフェンスが張ってありますが、用を足していません。完成直後に土砂崩れが起きて通行止めとなったためか、今のところは外来種の姿は目立ちませんが、それでもダンドボロギク、ヒメムカシヨモギ、アメリカセンダングサ等が入り込んでいます。
 
 
南アルプスでは、さらに作業用ヤードにおいて、頻繁にダンプカーがコンクリート骨材をや何かを降ろしてゆくため、その周辺も外来種だらけとなるでしょう。
 
 
 
在来の先駆性植物がカモガヤ、エゾノギシギシ、シナダレスズメガヤ、セイタカアワダチソウなど、強力な繁殖力をもった外来種に変わったら…その時点でアウトです。その場所を占拠し、在来の植物を締め出してしまいます。 これらはびっしりとはびこるため、他の植物が生えてくる隙間を残しません。
 
さらにこうした場所は恒久的な外来植物の種子供給源となります。すなわち川の流れ、風、動物や登山者への付着により、奥へ奥へと運ばれていってしまうに違いありません。そしてがけ崩れや洪水で裸地が生じると同時に芽吹き、新たな種子供給源となり、これを繰り返して奥へ奥へと拡散していってしまう…。
 
 
しかも、これらの植物については、いったん侵入してしまうと根絶が不可能なのが現状です。セイタカアワダチソウなど、1本の株で数万の種子を飛散させるんですから…。かといって、こんな南アルプスの山奥に、強力な除草剤をばらまくわけにもいかない。
 



私、配慮書の段階から3回この点を意見書として問いましたが、マトモに取り扱ってもらえません。
 
準備書への意見に対し、ようやく見解書で回答らしきものが得られましたが、それは次の通り。

まったくもって、的外れです。

「工事終了後、外来種の植物が入り込まないよう…」

工事が終了するまで10年かかるんです。その間に工事現場周辺が外来種だらけになるのは目に見えています。その対策を求めているんです 
 
こちら、静岡市街地郊外で工事中だった新東名高速道路の写真ですが
 
まわりを散歩していたら、オオマツヨイグサ、ヒメムカシヨモギ、オオアレチノギク、セイタカアワダチソウ、アメリケセンダングサ、シナダレスズメガヤ、カモガヤ、ネズミムギ、イヌムギ、アレチハナガサ、オッタチカタバミなど、実に多種多様な外来植物が繁茂しておりました。目に付く在来種はマメ科のクズばかり。このクズとて、在来種とはいえ強力な繁殖力をもち、他の植物の生育を阻害し、生態系を貧弱にするという厄介な性質をもっています。
 
いずれにせよ、外来種は工事の最中から大量に生えてくるんです!!
 
「タイヤの洗浄」とも書かれていますが、これとて厳重な管理をおこなわない限り、洗車場が種子供給源となります。1日400回も洗浄をしていれば水の使用量もバカにならない(水道などない場所!!)し、その処理も必要となりますが、全く言及していません。
 
また、種子がくっつくのはタイヤだけであるわけありません。荷台にだって、大量の建設資材やセメント材料にだって付着しているでしょう。特にセメント骨材はどこかの河原から運んでくるのでしょうが、現在の日本において河原の砂利というのは、外来植物のかたまりみたいなものです(例えば安倍川河川敷では、アメリカセンダングサ、セイタカアワダチソウ、ヒメムカシヨモギ、シナダレスズメガヤ、オオフタバムグラ、オオカワヂシャ、フサフジウツギ、ハリエンジュ、マツヨイグサ類、オオブタクサ、アメリカフウロ、アレチウリなどが非常に目に付く)
 
搬入する骨材すべてを洗浄するか熱処理でもしない限り、ダンプカーの荷台を傾けた瞬間に、砂ぼこりとともに大量に飛散してしまいます。
 
700人もの作業員が入れば、その靴の裏や荷物にもくっついてくるでしょう。

近所に生えていたセイタカアワダチソウ、マツヨイグサ類(正確な種類は不明)、ノゲシ、アメリカセンダンガウサの種子の写真を貼り付けておきますが、こんな1㎜にも満たない、ごく小さく軽いものの侵入を拒むことなど可能だと思いますか?
 
 
 
さらに、南アルプスのように原生的な自然環境を残している地域の場合、国内移入種のことも考えねばなりません。日本原産とはいえ本来南アルプスい分布していない植物が大量に侵入したら、それをエサとする、本来南アルプスに生息していなかった昆虫も呼び寄せてしまいます。それはそれで生態系の劣化・破壊に他なりません。しかも国内移入種の場合、遺伝子解析でもしない限り、在来種かどうかの判定すらできないという厄介な点があります。
 
 
リニア中央新幹線計画において、外来植物・移入種の搬入が南アルプスの生態系に与える危険性は、土砂災害を引き起こしかねない残土捨て場や、大井川の大幅な流量減少に比べて目に見えにくい懸念ですす。しかし林道や工事現場周辺が外来植物で埋め尽くされたら、南アルプスの生態系が根本的に破壊されてしまいます。
 
 
長くなりましたので要点をまとめます
・現状では、南アルプスの林道沿いでは外来植物の割合は少ない
・南アルプスという場所である以上、外来種をこれ以上増やしてはいけない
・リニア建設に伴い、人為的に広範囲にわたって裸地が生じる
・そこを大量の砂利や資材を積んだ大型車両が頻繁に出入りする
・大量の人間も出入りする
・これでは裸地が外来種で覆われてしまう
・いったん定着したら根絶は不可能であり、周囲に拡散する
・それは生態系の大きな破壊と南アルプスのもつ価値の低下である
 
しかし見解書で明らかな通り、現段階で現実的で有効な対策は考えられていません。

これでは南アルプスの生態系が南アルプスのものでなくなってしまいます!!

ロードキル 大量のダンプカーが小さな生き物を踏み潰す

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大井川流域の市町が要望書を出したというニュースがありました。大井川の流量減少問題は、リニアが南アルプスを貫く以上は構造的に避けらず、また根本的な対策もとれないと思います。

→昨年暮れに記事を更新しました
「リニアは南アルプスの巨大水抜きパイプ」
http://park.geocities.jp/jigiua8eurao4/SouthAlps/Ooigawa/Ooigawa.html
 
 
さてさて、サンショウウオという両生類のグループがあります。
 
イモリに似た、体長15㎝程度の小さな小さな生き物です。
 
南アルプス世界自然遺産登録推進協議会のHPにアカイシサンショウウオの写真が掲載されていましたので、借用させていただきます。http://www.minamialps-wh.jp/photograph_detail.php?data_category=8&data_id=1018
目玉がくりっとしてかわいいですね。
 
 
普段は水辺近くの森林の落葉の下などでひそみ、雨天時や夜間に這い出て小さな昆虫などを食べて生活しているそうです。初春に穏やかな清流に集まって卵を産み、孵化した幼生は水中で成長し、成体となって川からあがり、森林へと移動します。詳しい調査はあまりなされていないようですが、トウキョウサンショウウオという種類では200mほど移動するとのこと。
 
よって、サンショウウオの生活には清流と、森林との連続性が欠かせないことになります。水辺と森林との連続性を断ち切ったら、この生物は住み場を失ってしまいます。このことは重要なので、頭に入れておいてくださいね。
 
また、ごく小さな生き物であるうえ、水辺から離れて生活することはできないので、移動能力は高くなく、地域ごとに異なる形質をもったグループに分かれているそうです。
 
大井川源流部には、ハコネサンショウウオ、ヒダサンショウウオ、アカイシサンショウウオの3種が分布しているそうです。いずれも数は少なく、ハコネ、ヒダの2種は県版レッドデータブックで絶滅危惧Ⅱ類に、アカイシサンショウウオはⅠB類に選定されています。ⅠB類というのは、絶滅のおそれがかなり高いことを意味しています。
 
私自身、現物を見たことはありませんが、アカイシサンショウウオというのは、2004年に新種と判明したばかりのもので、その分布域は現在のところ赤石山脈南部(静岡・長野)に限定されているようです。すなわち、この地球上で南アルプス南部にしか分布していないわけです。地味な生き物ですが、非常に貴重なんです。
 
 
ところでJR東海作成の環境影響評価準備書によると、リニア中央新幹線の建設工事では、南アルプス山中の林道東俣線を、1日最大480台の大型車両が通行する計画になっています。1日の作業時間を8時間とすると、1時間に60台すなわち1分おきに通行することになります。これが10年余にわたって続きます。
 
大型車両の通行で気になるのが、サンショウウオを含む、小動物の交通事故死です。路上で轢死することからロードキルとよばれます。
 
林道東俣線は、大井川の谷底に沿って、延々35㎞に及びます。トンネルや高架構造はほとんどなく、谷底に近い部分にへばりつくような感じです。ちなみに未舗装です。
 
イメージ 1
静岡県版準備書 関連図を複製・加筆
 
当然ながら、林道より山側の森林と大井川とを行き来する動物は、全てこの林道を横切らねばなりません。
 
サンショウウオ、大丈夫なのでしょうか?
 
ちょっと考えてみました。
 
10tダンプの車体幅は2.5mだそうです。1分おきに通過するのですから、250㎝÷60秒≒4㎝/秒の速度で、一直線に休むことなく渡らないと、ひかれてしまう可能性大です。
 
サンショウウオ類の現物を見たことはありませんが、似たような体つきのイモリから連想するに、秒速4㎝で歩き続けることはできないだろうと思います。たぶん、その半分がせいぜいでしょう。それに舗装されてしまえば、ノロノロ歩いているうちに干からびちゃうかも…。
YouTubeにサンショウウオの歩く動画がありました
 
もともと数が少ない動物ですので、ロードキルによる個体数減少は、種の存続に関わるような重大な事態に直結するような気がいたします。特に分布域が南アルプス南部に限定されているアカイシサンショウウオにとっては一大事なのでは?
 
実際、静岡県版レッドデータブックにも、サンショウウオ類の生息環境をおびやかす要因としてロードキルがあげられています(レッドデータブックの実物は、県内各地の図書館で見ることができます)。
 
この懸念はサンショウウオ類だけでなく、カエル、爬虫類、地表性の昆虫類にも当てはまるのではないのでしょうか?
 
また、こうして路上で轢死した動物の死体がエサとなり、さらに他の動物を路上におびき寄せ、ロードキルを増やす可能性もあります。
 
 
道路建設事業では、当初からロードキルの発生を考慮し、動物の主要な移動経路をできるだけ分断させないようなルートを採用したり、動物の侵入防止策を設けたり、道路下に小動物用のトンネルを掘ったりするような対策をとることがあります(実際に役立っているのかは分かりません)。
 
しかし本リニア建設の場合、既存の林道をそのまま使うため、そうした根本的な対策をとることは一切できません。というわけで、確実にロードキルが頻発します。そしてこれは、前回指摘の外来種と同様、直接的に自然環境を破壊するわけではないけども、間接的に生態系の質を劣化させる大きな要因となります。

前回の外来種対策と同様に、このことも前々から配慮書、方法書への意見として提出してきましたが、マトモに扱ってもらえませんでした。このほど「準備書へ寄せられた意見への見解書」で、ようやくそれらしきものが得られましたが、それがコレ…。
イメージ 2
 
またしても、全く的外れです。
 
雨の日に、体長10㎝にも満たないサンショウウオを運転席から見つけて車を停止させることなんてできるわけないでしょう!!
江戸時代風にモッコでかついで運ぶわけじゃあるまいし。
 
この見解書から察するに、ロードキル対策の対象は、明らかに夜行性の大型哺乳類(シカ、クマ、カモシカ、タヌキ、キツネ、イノシシ等)しか想定していません。小動物(サンショウウオ、カエル、地表性昆虫等)のことは全く無視しているようです。
 
例えば準備書の「重要な両生類(ヒダサンショウウオ)の予測結果」のところを見ても、次のようにロードキルは影響を与える要因として取り上げていません。
イメージ 3
 
『主要な生息地である河川/森林は保全されるから影響は小さい』ってありますね。
 
その河川と森林との連続性を断ち切って、大量のダンプカーが通ることが大きな影響要因なの!!
 
そもそも、冒頭の流量減少のように、川の環境が保全されることさえ疑わしいのに…。

時速500㎞が話題となるリニア中央新幹線計画ですが、足元を秒速数㎝でゆっくりと歩む小さな生き物のことは、全く意に介さないようです。
 
 
イメージ 4
おちおち散歩もできねえや・・・。
静岡市北部の林道で見つけたヒキガエル


ちなみにJR東海によれば、アカイシサンショウウオについては、現地調査では確認されず、「専門家」の指摘によればもっと下流域に分布しているだろうとのこと。現地調査地点・時期・時間・方法が適切だったのか、専門家とはどこのどなたなのか、そうしたことは準備書からは全くわかりません。

大井川流量減少のそもそもの原因/ロードキル ダンプカーが小さな生き物を踏み潰す

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昨日、大井川流域の9市町(川根本町、島田市、牧ノ原市、焼津市、藤枝市、掛川市、菊川市、吉田町、御前崎市)が静岡市と静岡県に対し、「JR東海に対して大井川の流量を減少させないよう評価書に記載させる」ことを旨とした要望書を出しました。
 
要望書を受け取った静岡市の田辺市長も、「静岡市が県中部地区の責任をもった立場」「意見書に反映させる」と述べたそうです
 
特に牧ノ原市の西原市長は強い懸念をご自身のブログでも示されています。
 
西原市長はこの文章の中で「いつ流量減少について予測しだしたのだろう?」「下流域への影響の有無はルート決定前に検討されたのか?」と疑問を投げかけておられます。
 
ルート決定以前に環境配慮を検討する立場にあったのは、国土交通省中央新幹線小委員会という組織です。環境面からBルート(南アルプス迂回ルート)とCルート(南アルプスルート)のルート選定作業をおこなったのは、平成22年10月20日の審議会でした。
 
概要は以下の通りです
委員  「提出された資料が大雑把で、検討のしようがない」
家田委員長「環境面からは、どちらがいいと言えないということですね」
委員 「はい」
 
(作者注)これは意見のすりかえです 
 
別の委員「トンネル構造なら地上はあまり関係ないのではないでしょうか」
国交省官僚「水が涸れたら補償することになっています」
家田委員長「とにかく環境面でどっちかのルートが決定的に問題を持っているという状況にはないということが確認できたという意味で、建設的な結果が得られたんじゃないかと思います
 
というわけで、こんな答申が出されました。
イメージ 1
 
この部分に書いてあることは嘘っぱちです実際にはこれまで注釈をつけたとおりどちらがよいか、提示された資料からは判断できないというのが、どちらも貴重な自然環境が存在しているので環境保全には十分な配慮が必要 となっています。
 
これは意見のすり替えです。 

また、「現段階においては…できるものではなく…対処すべきである」というのは、「審議するための委員会が何の審議もできなかったけれども、とりあえずトンネルを掘るのを事実上認めておくから後は丸投げする」と言っているのにも等しい内容です。単なる責任放棄です。
 
大井川の流量減少を懸念される方、南アルプスの自然破壊を懸念される方には非常に不満の残る
(というか腹の立つ)内容となっています。
 
この環境面からのルート選定については、こちらに全文を写してあります。
5分もあれば読めると思いますので、大井川や南アルプスの環境が心配な方は、ぜひご覧になってください。
 
 
 
 
大井川の流量減少問題は、リニアが南アルプスを貫く以上は構造的に避けらず、また根本的な対策もとれないと思います。

→昨年暮れに記事を更新しました
「リニアは南アルプスの巨大水抜きパイプ」
http://park.geocities.jp/jigiua8eurao4/SouthAlps/Ooigawa/Ooigawa.html
 
 
 
 

さて、昨日取り上げたロードキルは、生態系保全という観点で大きな問題ですので、引き続き掲載しておきます。
 
 
サンショウウオという両生類のグループがあります。
 
イモリに似た、体長15㎝程度の小さな小さな生き物です。
 
南アルプス世界自然遺産登録推進協議会のHPにアカイシサンショウウオの写真が掲載されていましたので、借用させていただきます。http://www.minamialps-wh.jp/photograph_detail.php?data_category=8&data_id=1018
目玉がくりっとしてかわいいですね。
 
 
普段は水辺近くの森林の落葉の下などでひそみ、雨天時や夜間に這い出て小さな昆虫などを食べて生活しているそうです。初春に穏やかな清流に集まって卵を産み、孵化した幼生は水中で成長し、成体となって川からあがり、森林へと移動します。詳しい調査はあまりなされていないようですが、トウキョウサンショウウオという種類では200mほど移動するとのこと。
 
よって、サンショウウオの生活には清流と、森林との連続性が欠かせないことになります。水辺と森林との連続性を断ち切ったら、この生物は住み場を失ってしまいます。このことは重要なので、頭に入れておいてくださいね。
 
また、ごく小さな生き物であるうえ、水辺から離れて生活することはできないので、移動能力は高くなく、地域ごとに異なる形質をもったグループに分かれているそうです。
 
大井川源流部には、ハコネサンショウウオ、ヒダサンショウウオ、アカイシサンショウウオの3種が分布しているそうです。いずれも数は少なく、ハコネ、ヒダの2種は県版レッドデータブックで絶滅危惧Ⅱ類に、アカイシサンショウウオはⅠB類に選定されています。ⅠB類というのは、絶滅のおそれがかなり高いことを意味しています。
 
私自身、現物を見たことはありませんが、アカイシサンショウウオというのは、2004年に新種と判明したばかりのもので、その分布域は現在のところ赤石山脈南部(静岡・長野)に限定されているようです。すなわち、この地球上で南アルプス南部にしか分布していないわけです。地味な生き物ですが、非常に貴重なんです。
 
 
ところでJR東海作成の環境影響評価準備書によると、リニア中央新幹線の建設工事では、南アルプス山中の林道東俣線を、1日最大480台の大型車両が通行する計画になっています。1日の作業時間を8時間とすると、1時間に60台すなわち1分おきに通行することになります。これが10年余にわたって続きます。
 
大型車両の通行で気になるのが、サンショウウオを含む、小動物の交通事故死です。路上で轢死することからロードキルとよばれます。
 
林道東俣線は、大井川の谷底に沿って、延々35㎞に及びます。トンネルや高架構造はほとんどなく、谷底に近い部分にへばりつくような感じです。ちなみに未舗装です。
 
静岡県版準備書 関連図を複製・加筆
椹島ロッジ北東側の残土捨て場候補地一帯の地図
等高線間隔は10m
 
当然ながら、林道より山側の森林と大井川とを行き来する動物は、全てこの林道を横切らねばなりません。
 
サンショウウオ、大丈夫なのでしょうか?
 
ちょっと考えてみました。
 
10tダンプの車体幅は2.5mだそうです。1分おきに通過するのですから、250㎝÷60秒≒4㎝/秒の速度で、一直線に休むことなく渡らないと、ひかれてしまう可能性大です。
 
サンショウウオ類の現物を見たことはありませんが、似たような体つきのイモリから連想するに、秒速4㎝で歩き続けることはできないだろうと思います。たぶん、その半分がせいぜいでしょう。それに舗装されてしまえば、ノロノロ歩いているうちに干からびちゃうかも…。
YouTubeにサンショウウオの歩く動画がありました
 
もともと数が少ない動物ですので、ロードキルによる個体数減少は、種の存続に関わるような重大な事態に直結するような気がいたします。特に分布域が南アルプス南部に限定されているアカイシサンショウウオにとっては一大事なのでは?
 
実際、静岡県版レッドデータブックにも、サンショウウオ類の生息環境をおびやかす要因としてロードキルがあげられています(レッドデータブックの実物は、県内各地の図書館で見ることができます)。
 
この懸念はサンショウウオ類だけでなく、カエル、爬虫類、地表性の昆虫類にも当てはまるのではないのでしょうか?
 
また、こうして路上で轢死した動物の死体がエサとなり、さらに他の動物を路上におびき寄せ、ロードキルを増やす可能性もあります。
 
 
道路建設事業では、当初からロードキルの発生を考慮し、動物の主要な移動経路をできるだけ分断させないようなルートを採用したり、動物の侵入防止策を設けたり、道路下に小動物用のトンネルを掘ったりするような対策をとることがあります(実際に役立っているのかは分かりません)。
 
しかし本リニア建設の場合、既存の林道をそのまま使うため、そうした根本的な対策をとることは一切できません。というわけで、確実にロードキルが頻発します。そしてこれは、前回指摘の外来種と同様、直接的な改変によって自然環境を破壊するわけではないけども、間接的に生態系の質を劣化させる大きな要因となります。

前回の外来種対策と同様に、このことも前々から配慮書、方法書への意見として提出してきましたが、マトモに扱ってもらえませんでした。このほど「準備書へ寄せられた意見への見解書」で、ようやくそれらしきものが得られましたが、それがコレ…。
 
またしても、全く的外れです。
 
雨の日に、体長10㎝にも満たないサンショウウオを運転席から見つけて車を停止させることなんてできるわけないでしょう!!
江戸時代風にモッコでかついで運ぶわけじゃあるまいし。
 
この見解書から察するに、ロードキル対策の対象は、明らかに夜行性の大型哺乳類(シカ、クマ、カモシカ、タヌキ、キツネ、イノシシ等)しか想定していません。小動物(サンショウウオ、カエル、地表性昆虫等)のことは全く無視しているようです。
 
例えば準備書の「重要な両生類(ヒダサンショウウオ)の予測結果」のところを見ても、次のようにロードキルは影響を与える要因として取り上げていません。
 
『主要な生息地である河川/森林は保全されるから影響は小さい』ってありますね。
 
その河川と森林との連続性を断ち切って、大量のダンプカーが通ることが大きな影響要因なの!!
 
そもそも、冒頭の流量減少のように、川の環境が保全されることさえ疑わしいのに…。

時速500㎞が話題となるリニア中央新幹線計画ですが、足元を秒速数㎝でゆっくりと歩む小さな生き物のことは、全く意に介さないようです。
 
 
おちおち散歩もできねえや・・・。
静岡市北部の林道で見つけたヒキガエル


ちなみにJR東海によれば、アカイシサンショウウオについては、現地調査では確認されず、「専門家」による「分布域はもっと下流域だろう」という指摘を受けて保全対象にしないとのこと。現地調査地点・時期・時間・方法が適切だったのか、専門家とはどこのどなたなのか、そうしたことは準備書からは全くわかりません。

南アルプス生態系評価の論理展開がものすごくデタラメ

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今回は、「生態系」という項目。
 
生態系とは何気なく使われている言葉ですが、その概念を言葉で表すのはなかなか困難です。
 
だいたい、こんな感じでしょうか?
 
ある地域(地球全体からほんの小さな一掴みの土という小さなスケールまで)における非生物的な外的要因(大気、水、温度、地質、地形など)と生物、および生物同士の係わり合いをさす概念。
 
う~ん、やっぱり難しいなあ・・・。
 
太陽光・水・二酸化炭素・土壌や水中の養分で植物が育ち、その植物をバッタが食べ、そのバッタをクモが食べ、そのクモを小鳥が食べ、その小鳥をタカが食べ、そのタカの死体や排泄物を昆虫が食べ、その昆虫の排泄物をバクテリアが分解し、また植物が養分として利用する…というような、物質の循環。
 
あるいは日照をめぐる植物同士の静かな争い、異種・同種の動物間におけるエサの奪い合いのような、生物間の競合。
 
あるいはハチが受粉を助けたり、小鳥やネズミが植物の種子を遠くに運んだりするような、異種の生物間での助け合い。

こうした、「ある一定の範囲内における環境と生物、および物同士の係わり合い」ってところでしょうか?
 
当然ながら気候、地形、地質、水分条件によって生息する生物相はガラリと異なります。南アルプスというところは、標高差が大きいために低地から高山まで、日本列島を縮小したように気候帯がそろっており、また谷と尾根とが入り組んで複雑な地形をもち、多様な環境をもっています。それゆえ、実に様々な動植物が分布しています。標高が高くて低温であるがために、氷期の生物も多数残されています。
 
これが、「豊かな生態系」といわれるゆえんです。
 
 
 
環境影響評価制度においても、生態系に与える影響が評価対象となっています。

JR東海は南アルプスにおいて大工事をおこなう計画を立てています。当然のことながら、南アルプスの生態系に大きな影響を及ぼすでしょう。
 
 
ところが準備書の生態系に対する影響評価の項目、一言で言うと…
 
「デタラメ」
 
こんなのを専門家の方々に見せて恥ずかしくないのだろうか…?と、心配になってしまったのでありました。
 
あらかじめ断っておきますが、評価結果が悪いとか、この対策ではダメだということを言いたいのではありません。それ以前の段階として、論理展開がおかしいのです。

先にも述べたとおり、南アルプスでは何千という動植物が険しいな地形とあいまって非常に複雑な関係をつくっています。その生態系は地形・地質・気候によって、あるいはスケールのとり方によって幾通りにも分類できますが、これを全て評価対象とすることは事実上不可能なので、次のA、B、Cのような条件を満たす種や植物群落が影響評価の対象になります。
 
「A.上位性の注目種」
生態系の頂点に立つ捕食者が存続するためには、エサとなる多様な小動物と、その小動物のエサとなるさらに小さな生物や植物が広範囲にわたって健全に生きてゆく環境が不可欠です。したがって食物連鎖上位の動物を保全対象にすることは、広い範囲の環境保全につながるという概念です。ちなみにこのような種のことを、アンブレラ種とよびます。傘のように、様々な種を覆って保全すうるという意味です。
 
「B.特殊性の注目種」
湿地、岩稜、汽水域、湧水、崖、高山、特殊な地質など、他に代替のない自然環境に基盤をもつ生態系を守ろうという概念です。
 
「C.典型性の注目種」
改変の対象地域で広く見られる動植物は、その場所の自然環境を代表しているものであり、それを保全することは、その場所の自然環境の保全につながるという考え方です。
 
これらを総合し、その地の環境を評価・保全しようとするのが、現在の日本で行われている生態系評価の概念です。
 


 
で、準備書を見てみますと、JR東海によれば、南アルプスにおける生態系の影響評価は、次の6つを対象にすればよいのだそうです。
 
イメージ 1

わずか
上位性…クマタカ、キツネ
典型性・・・ツキノワグマ、ホンドヒメネズミ、エゾハルゼミ、ミヤコザサ-ミズナラ群集
の6パターンで、改変予定地を含む南アルプスの生態系が評価できる…?

実にいい加減で乱暴な議論です。

 
いろいろな角度から批判できますが、まず問題なのは

①河川生態系の存在を無視している
水中の生態系は、南アルプスにおいては渓流が対象になりますが、一口に渓流といっても、大井川本流のように比較的規模が大きく河原の発達する渓流、淵と瀬とを繰り返す渓流、両岸が絶壁に囲まれた狭い渓流、土砂の流出の著しい渓流、ごく小さく細々としか水の流れない渓流など、様々な様相があります。
 
また、山岳地帯においては水中と陸上の生態系を切り離して考えることはできません。

寒冷地の河原に特有な河畔林(ドロノキ、オオバヤナギ等)
湿った沢筋に立地する渓畔林(シオジ、サワグルミ等)
川岸の岸壁に特有な植物(サツキ、シダ類等)
川岸の森林で繁殖し、エサを河川に依存する鳥類(ヤマセミ、カワセミ等)
河畔林・渓畔林からの落下昆虫をエサとする渓流魚
河畔林・渓畔林からの落葉をエサとする水生昆虫
その水生昆虫をえさとする大型生物(渓流魚、カワガラス等)
渓流と渓畔林とを行き来する両生類
 
ちょっと思いつくだけでも、かように渓流と森林とのつながりは密接なのです。むしろ、「水辺」という生態系が成立しているともいえるでしょう。
 
JR東海の計画では、静岡県内分360万立方メートルの残土については、大井川の河原6地点を埋めたて、さらに小支流の源流(標高2000m)に捨てるとしています。
 
直接的に川を埋めたてることにより、その場に生息していた生物は死滅してしまいます。そこを行動圏としていた動物にも何らかの影響が出ます。
 
また、準備書「水資源」の項目において、トンネルの掘削により大井川および大支流の流量が大幅に減少するという予測がなされています。川の流量が減少すれば水生生物の生活環境が縮小することは確実です。さらに、渇水時に川が干上がれば、これは壊滅的なダメージとなります。水質悪化による影響も予想されます。
 
このように、直接的・間接的に川の生態系へ与える影響は非常に大きなものが予想されます。それにも関わらず、河川生態系への影響を調査対象としていません。これは不可解です。うがった見方をすれば、評価を行えばあからさまに影響が出ると言わざるを得ないので、議論を避けたようにも見えます。
 
②上位性の種が2種しかあげられていない
準備書で確認された生態系上位の捕食者のうち、周囲で繁殖していそうなものにはこのほかにも…
イヌワシ、オオタカ、ハイタカ、フクロウ、アカショウビン、ヤマセミ、テン、オコジョ、カワネズミなんてのがあります。どうしてクマタカとキツネの2種だけにに収斂できるのか、説明がほしいところです。
 
例えば、イヌワシというのはクマタカと同様に日本の陸上食物連鎖の頂点に立つ猛きん類ですが、そもそも陸上生態系の頂点が狭い範囲に2種いるということは、何らかの住み分けを行っているのに違いなく、単純に1種を守ればいいという話ではないのです。いろいろ調べてみると、どうもクマタカとは生活様式が大きく異なるらしい。というのは、クマタカは大木の繁った深い森林で主に鳥やヘビ類をを狩るのに対し、イヌワシは開けた草原でノウサギ等の狩りをするとのこと。
 
ということは、クマタカを保全対象にするのは森林環境の保全という観点からは正しいけれども、それだけでは開けた環境は守れないかもしれない。イヌワシを加えれば、草原も保全対象になるわけですね。
 
フクロウの保全には、大きなウロの開いた大木が残り、エサとなる野ネズミ類の豊富な森林が不可欠です。また、周知の通り夜行性です。ちょっと考えただけでも、要求される環境の質は、クマタカの求めるものとは異なるのです。
 
また、ヤマセミやカワネズミは渓流の生態系の頂点に立つ動物であり、これらを保全するためには、渓流魚の豊富な河川環境を保つことが不可欠です。
 
つまるところ、上位性の種としてクマタカとホンドギツネの2種を掲げるだけでは、南アルプスの多様な環境を守れないと思われるのです。
 
③特殊な環境に成立する生態系が評価対象にあがっていない
先ほど、環境影響評価では「特殊性の注目種」を評価対象にすることにより、その特殊な環境を保全しようとすると述べましたが、準備書では「特殊性の注目種」があげられていません。
 
工事を計画しているあたりには、特殊な生態系は存在しないのでしょうか?
 
そんなわけありません。

準備書の【植物】のところにある植生区分図(図2)には、岸壁植生、オオバヤナギ-ドロノキ群集、カワラヨモギ群集、ヤマハンノキ群集なんてのがあります。準備書に説明はないけれども、岸壁植生は当然ながら、崖にしか成立しません。しかも大雑把に「岸壁植生」なんて言ってるけれども、日当たり、水分によって生える植物はまるっきり異なり、その中には特殊な植生も含まれているはずです。
 
それから『宮脇昭 編(1984)静岡県の生態立地図』という資料によれば、オオバヤナギ-ドロノキ群集は、寒冷地で土砂の移動の激しい河原、ヤマハンノキ群集は山崩れの跡地にしか立地しない植生です。とくにオオバヤナギ-ドロノキ群集というのは、静岡県内では大井川源流部にしかなく、全国的に見ても南限であり、さらに絶滅危惧種の高山チョウが発生する場でもあり、生態系保全の観点からは非常に重要な環境です。
 
十分、特殊なんじゃないのかなあ…?
 
 

次は恣意的に議論を避けたとしか思えない、とんでもない問題。
④非改変地域を広く覆う植生を「典型性の注目種」として評価対象にすることにより、直接改変する地域を覆う植生を評価対象から外している
ややこしくてごめんなさい。ちょっと、長くなります。
 
生態系評価の際には、特定の種ではなく、植生を対象することも行われます。植物が陸上生態系における食物連鎖の底辺であるとともに、その場所の地形・地質・気候によって生育する植物相が異なることから、その場の環境を代表していると見なせるからです。当然、生えている植物相が異なれば、それをエサにする生物も、すみかとする生物も、土壌も異なってきます。身近なところでも、原っぱと雑木林とでは、見かける生き物はまるっきり異なりますよね?
 
静岡県において改変が計画されているのは、標高1000~2000mという地域になります。一般的に、標高が1000m高くなると気温は0.6℃低下するので、この範囲では6℃の気温差があることが予想されます。6℃の気温差というは、植物の分布にとっては非常に大きな差となります。
 
水平方向でいえば、東北地方北部と北海道北部との差に相当します。
 
JR東海は気候の経年調査をしていないので(これも問題!)、気象庁の観測データから推測するしかありませんが、おそらく標高1000m付近は津軽海峡あたりに、標高2000mあたりは北海道オホーツク海沿岸あたりの気温に相当すると思われます。中学校や高校の地理の授業で習うケッペンの気候区分でいえば、前者は西岸海洋性気候(Cfb)に、後者は冷帯湿潤気候(Dfb)あるいは高山気候(H)に相当します。
 
実際、JR東海による植生調査でも、標高1000m付近はミズナラ・ブナ・カエデ類・モミ等を中心とした落葉広葉樹林、標高2000m付近ではオオシラビソ・コメツガ・ダケカンバ等からなる常緑針葉樹林であると分類されています。
 
要するに、静岡県内においてリニアの工事が計画されている範囲では、少なくとも2つの全く異なる気候帯/植生帯が含まれているわけです。
 
そして当たり前のことですが、同じ気候帯でも、地形によって生えてくる植物相は全く異なります。地形によって水分条件、日照条件、土壌条件が大きく異なるからです。
そういうわけで、調査範囲の植生は、準備書【植物】では21種に分類されています(図2参照)。JR東海も、21種程度に分類できると判断したわけです。
 
このような予備知識をもって改めて冒頭の準備書コピーを見ると…
 
理解しがたいことに、典型的な植生としては、山腹に立地する「ミヤコザサ-ミズナラ群集」という落葉樹林の一形態しか対象にしていません。そしてこのミヤコザサ-ミズナラ群集は保全されるので、生態系への影響は小さいと結論付けています。

少なくとも21種に分類した南アルプスの植生を、どうしてたった1種に代表させることができるのでしょう? そして、なぜ影響がないと言い切れるのでしょうか。

それは、準備書における次のような論理展開によっています。
(1)ここは南アルプスという山地である
(2)山地に特有な生態系を調査・保全対象とする
(3)調査対象地域(改変予定地より600m以内)の大部分は落葉広葉樹林である
(4)落葉広葉樹林を細分するとミヤコザサ-ミズナラ群集が最大面積である
(5)よって、ミヤコザサ-ミズナラ群集を保全対象とする
(6)調査の結果、ミヤコザサ-ミズナラ群集は(改変対象ではないので)破壊されないことが判明した
(7)したがって南アルプスの生態系は保全される
 
この通りです。
私は専門家でも何でもありませんが、一目見て評価対象のすり替え、つまり論点をぼかして逃げていると直感しました。どうしてこんな姑息でなことをするのか、まったくもって理解不可能です。

この論理展開において、(1)から(2)に移る部分で河川生態系が無視されていたのはさきほど指摘したとおり。

次に(2)から(3)へ移る部分。準備書より転載した図1を見ると、確かに調査範囲の植生としては落葉広葉樹林が大半ですが、二軒小屋北東側の稜線(残土捨て場候補地)の調査地域は、亜高山針葉樹林で覆われています。少なくともこの残土捨て場については、針葉樹林が典型的な植生のはずです。
イメージ 2
図1 【生態系】のところで使用されている生態系区分の図 静岡県版準備書より
図2と比較すると非常に大雑把
何より縮尺が異なる(基図は1:5万 図2の基図は1:2.5万)
 
前述の通り、落葉広葉樹林と亜高山針葉樹林とは、全く異なる性質の森林です。植物相のみならず、生息する動物も土壌も全くなります。生態系を論ずる際に、その違いを無視することは、あってはならないはずです。
 
その次に(3)→(4)→(5)の論理展開がムチャクチャおかしい。

一例として、二軒小屋ロッジ南側に計画されている最大の残土捨て場について考察してみましょう。
 
準備書の「植物」のところにから転載した植生図(図2)では、調査地域内の大半が、オオバヤナギ-ドロノキ群集、ジュウモンジシダ-サワグルミ群集、ミヤマクマワラビ-シオジ群集という河畔林、渓畔林の植生で示されています。特に、残土が捨てられて直接破壊される植生は、ほとんどが河畔林、渓畔林です。その他にも何種類にも細分されています。
イメージ 3
図2 【植物】のところにある植生区分図 静岡県版準備書より
 

ところが同じ準備書でも「生態系」のところで用いた図1だと、改変予定地は「山地の生態系」を示す緑色一色で塗りつぶされていました。それゆえ(4)の「落葉広葉樹林を代表するのはミヤコザサ-ミズナラ群集である」という論法で、河畔林、渓畔林をミヤコザサ-ミズナラ群集に置き換え、評価対象にしています。

つまり、生態系保全の観点からは、あえて大雑把な図を使用することにより、本来、調査・保全・対象とすべき植生を議論の俎上に載せないようにしているとみられるのです。

なぜミヤコザサ-ミズナラ群集を調査・保全対象としたいのか…?
 
繰り返しますが、渓畔林・河畔林というのは渓流沿いにしか成立せず、また樹林の構成種が多様であり、希少価値の高い森林です。先にも述べたとおり、水辺の生態系という性質もあります。とくにオオバヤナギ-ドロノキ群集は前述の通り、生態系保全の観点からは非常に重要な環境です。
 
工事では確実にこの渓畔林・河畔林が破壊されますが、それを「破壊され保全できない」と準備書に明記すれば、確実に大きな批判を招きます。
 
そのいっぽう、ミヤコザサ-ミズナラ群集というのは植生図からも明らかな通り、山腹に立地する森林です。工事を予定しているのは谷底ですから、これは工事で破壊される可能性はあまりありません。着工しても、「保全できる」と言い張ることができます。
イメージ 4
ミヤコザサ-ミズナラ群集に対する評価結果 改変はほとんど行われないので保全できるとしている。
工事と関係ない場所の森林だから当たり前!!
 
よって、保全対象をミヤコザサ-ミズナラ群集にすり替えることにより、いかにも保全措置がとれているかのように見せかけているのではないでしょうか。
 
⑤改変を計画している場所しか評価対象にしていない
JR東海の調査・評価は、改変を計画している場所から600m以内という枠組みでしかおこなっていません。というわけで、その周囲とのつながりや、工事が周囲に与える影響は考慮されていません。
 
これもおかしなことです。
 
動物の行動範囲は数km四方におよぶのに、どうして600mの範囲での評価でよしとするのでしょう?
 
トンネル工事で河川の流量が減少した場合、その影響は地上の改変場所とは無関係に広がります。それなのになぜ地上の工事予定地で評価対象地域が決まるのでしょう?
 
評価対象地域が南ア山中に点々と並んでいますが、工事が始まれば、それらの地域を結んで大量のヒト・モノ・車両が行き来することになります。離れた地域同士の間へ、そのの影響は出ないのでしょうか?
 
 



このように、「南アルプスの生態系への影響は小さい」という結論を導き出すために、都合のよい解釈変更を繰り返し、きわめて作為的な論理展開を用いているように思えてなりません。
 
こうした生態系評価の論理展開のおかしさは、山梨県での準備書審査でも問題視されていて、
JR東海は準備書で、東部・御坂地域、巨摩・赤石地域など6エリアに区分けして生態系と注目種をまとめたが、委員からは「生態系は沢ごとに異なる。詳細なエリアの調査結果を出すべきだ」との指摘が相次いだ。
(11/23山梨日日新聞)
http://www.sannichi.co.jp/linear/news/2013/11/23/14.html
「現状の資料では議論の俎上に載せられない」(12/11同新聞)
http://www.sannichi.co.jp/linear/news/2013/12/11/15.html
 
というように報じられています。
 
これは悪質だと思います。少なくともこの生態系に関する部分については、環境影響評価をやり直すべきです

南アルプス生態系評価の論理展開がものすごくデタラメ その2

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昨日書いた「生態系」の環境影響評価ですが、論理展開そのものの問題点が多岐にわたっており、いくつか重要な問題点を指摘するのを忘れておりました。というわけで、補足して再掲載します。
 
生態系とは何気なく使われている言葉ですが、その概念を言葉で表すのはなかなか困難です。
 
だいたい、こんな感じでしょうか?
 
ある地域(地球全体からほんの小さな一掴みの土という小さなスケールまで)における非生物的な外的要因(大気、水、温度、地質、地形など)と生物、および生物同士の係わり合いをさす概念。
 
う~ん、やっぱり難しいなあ・・・。
 
太陽光・水・二酸化炭素・土壌や水中の養分で植物が育ち、その植物をバッタが食べ、そのバッタをクモが食べ、そのクモを小鳥が食べ、その小鳥をタカが食べ、そのタカの死体や排泄物を昆虫が食べ、その昆虫の排泄物をバクテリアが分解し、また植物が養分として利用する…というような、物質の循環。
 
あるいは日照をめぐる植物同士の静かな争い、異種・同種の動物間におけるエサの奪い合いのような、生物間の競合。
 
あるいはハチが受粉を助けたり、小鳥やネズミが植物の種子を遠くに運んだりするような、異種の生物間での助け合い。

こうした、「ある一定の範囲内における環境と生物、および物同士の係わり合い」ってところでしょうか?
 
当然ながら気候、地形、地質、水分条件によって生息する生物相はガラリと異なります。南アルプスというところは、標高差が大きいために低地から高山まで、日本列島を縮小したように気候帯がそろっており、また谷と尾根とが入り組んで複雑な地形をもち、多様な環境をもっています。それゆえ、実に様々な動植物が分布しています。標高が高くて低温であるがために、氷期の生物も多数残されています。
 
これが、「豊かな生態系」といわれるゆえんです。
 
 
 
環境影響評価制度においても、生態系に与える影響が評価対象となっています。

JR東海は南アルプスにおいて大工事をおこなう計画を立てています。当然のことながら、南アルプスの生態系に大きな影響を及ぼすでしょう。
 
 
ところが準備書の生態系に対する影響評価の項目、一言で言うと…
 
「デタラメ」
 
こんなのを専門家の方々に見せて恥ずかしくないのだろうか…?と、心配になってしまったのでありました。
 
あらかじめ断っておきますが、評価結果が悪いとか、この対策ではダメだということを言いたいのではありません。それ以前の段階として、論理展開がおかしいのです。

先にも述べたとおり、南アルプスでは何千という動植物が険しいな地形とあいまって非常に複雑な関係をつくっています。その生態系は地形・地質・気候によって、あるいはスケールのとり方によって幾通りにも分類できますが、これを全て評価対象とすることは事実上不可能なので、次のA、B、Cのような条件を満たす種や植物群落が影響評価の対象になります。
 
「A.上位性の注目種」
生態系の頂点に立つ捕食者が存続するためには、エサとなる多様な小動物と、その小動物のエサとなるさらに小さな生物や植物が広範囲にわたって健全に生きてゆく環境が不可欠です。したがって食物連鎖上位の動物を保全対象にすることは、広い範囲の環境保全につながるという概念です。ちなみにこのような種のことを、アンブレラ種とよびます。傘のように、様々な種を覆って保全すうるという意味です。
 
「B.特殊性の注目種」
湿地、岩稜、汽水域、湧水、崖、高山、特殊な地質など、他に代替のない自然環境に基盤をもつ生態系を守ろうという概念です。
 
「C.典型性の注目種」
改変の対象地域で広く見られる動植物は、その場所の自然環境を代表しているものであり、それを保全することは、その場所の自然環境の保全につながるという考え方です。
 
これらを総合し、その地の環境を評価・保全しようとするのが、現在の日本で行われている生態系評価の概念です。
 


 
で、準備書を見てみますと、JR東海によれば、南アルプスにおける生態系の影響評価は、次の6つを対象にすればよいのだそうです。
 

わずか
上位性…クマタカ、キツネ
典型性・・・ツキノワグマ、ホンドヒメネズミ、エゾハルゼミ、ミヤコザサ-ミズナラ群集
の6パターンで、改変予定地を含む南アルプスの生態系が評価できる…?

実にいい加減で乱暴な議論です。

 
いろいろな角度から批判できますが、まず問題なのは

①河川生態系の存在を無視している
水中の生態系は、南アルプスにおいては渓流が対象になりますが、一口に渓流といっても、大井川本流のように比較的規模が大きく河原の発達する渓流、淵と瀬とを繰り返す渓流、両岸が絶壁に囲まれた狭い渓流、土砂の流出の著しい渓流、ごく小さく細々としか水の流れない渓流など、様々な様相があります。
 
また、山岳地帯においては水中と陸上の生態系を切り離して考えることはできません。

寒冷地の河原に特有な河畔林(ドロノキ、オオバヤナギ等)
湿った沢筋に立地する渓畔林(シオジ、サワグルミ等)
川岸の岸壁に特有な植物(サツキ、シダ類等)
川岸の森林で繁殖し、エサを河川に依存する鳥類(ヤマセミ、カワセミ等)
河畔林・渓畔林からの落下昆虫をエサとする渓流魚
河畔林・渓畔林からの落葉をエサとする水生昆虫
その水生昆虫をえさとする大型生物(渓流魚、カワガラス等)
渓流と渓畔林とを行き来する両生類
 
ちょっと思いつくだけでも、かように渓流と森林とのつながりは密接なのです。むしろ、「水辺」という生態系が成立しているともいえるでしょう。
 
JR東海の計画では、静岡県内分360万立方メートルの残土については、大井川の河原6地点を埋めたて、さらに小支流の源流(標高2000m)に捨てるとしています。
 
直接的に川を埋めたてることにより、その場に生息していた生物は死滅してしまいます。そこを行動圏としていた動物にも何らかの影響が出ます。
 
また、準備書「水資源」の項目において、トンネルの掘削により大井川および大支流の流量が大幅に減少するという予測がなされています。川の流量が減少すれば水生生物の生活環境が縮小することは確実です。さらに、渇水時に川が干上がれば、これは壊滅的なダメージとなります。水質悪化による影響も予想されます。
 
このように、直接的・間接的に川の生態系へ与える影響は非常に大きなものが予想されます。それにも関わらず、河川生態系への影響を調査対象としていません。これは不可解です。うがった見方をすれば、評価を行えばあからさまに影響が出ると言わざるを得ないので、議論を避けたようにも見えます。
 
②上位性の種が2種しかあげられていない
準備書で確認された生態系上位の捕食者のうち、周囲で繁殖していそうなものにはこのほかにも…
イヌワシ、オオタカ、ハイタカ、フクロウ、アカショウビン、ヤマセミ、テン、オコジョ、カワネズミなんてのがあります。どうしてクマタカとキツネの2種だけにに収斂できるのか、説明がほしいところです。
 
例えば、イヌワシというのはクマタカと同様に日本の陸上食物連鎖の頂点に立つ猛きん類ですが、そもそも陸上生態系の頂点が狭い範囲に2種いるということは、何らかの住み分けを行っているのに違いなく、単純に1種を守ればいいという話ではないのです。いろいろ調べてみると、どうもクマタカとは生活様式が大きく異なるらしい。というのは、クマタカは大木の繁った深い森林で主に鳥やヘビ類をを狩るのに対し、イヌワシは開けた草原でノウサギ等の狩りをするとのこと。
 
ということは、クマタカを保全対象にするのは森林環境の保全という観点からは正しいけれども、それだけでは開けた環境は守れないかもしれない。イヌワシを加えれば、草原も保全対象になるわけですね。
 
フクロウの保全には、大きなウロの開いた大木が残り、エサとなる野ネズミ類の豊富な森林が不可欠です。また、周知の通り夜行性です。ちょっと考えただけでも、要求される環境の質は、クマタカの求めるものとは異なるのです。
 
また、ヤマセミやカワネズミは渓流の生態系の頂点に立つ動物であり、これらを保全するためには、渓流魚の豊富な河川環境を保つことが不可欠です。
 
つまるところ、上位性の種としてクマタカとホンドギツネの2種を掲げるだけでは、南アルプスの多様な環境を守れないと思われるのです。
 
③特殊な環境に成立する生態系が評価対象にあがっていない
先ほど、環境影響評価では「特殊性の注目種」を評価対象にすることにより、その特殊な環境を保全しようとすると述べましたが、準備書では「特殊性の注目種」があげられていません。
 
工事を計画しているあたりには、特殊な生態系は存在しないのでしょうか?
 
そんなわけありません。

準備書の【植物】のところにある植生区分図(図2)には、岸壁植生、オオバヤナギ-ドロノキ群集、カワラヨモギ群集、ヤマハンノキ群集なんてのがあります。準備書に説明はないけれども、岸壁植生は当然ながら、崖にしか成立しません。しかも大雑把に「岸壁植生」なんて言ってるけれども、日当たり、水分によって生える植物はまるっきり異なり、その中には特殊な植生も含まれているはずです。
 
それから『宮脇昭 編(1984)静岡県の生態立地図』という資料によれば、オオバヤナギ-ドロノキ群集は、寒冷地で土砂の移動の激しい河原、ヤマハンノキ群集は山崩れの跡地にしか立地しない植生です。とくにオオバヤナギ-ドロノキ群集というのは、静岡県内では大井川源流部にしかなく、全国的に見ても南限であり、さらに絶滅危惧種の高山チョウが発生する場でもあり、生態系保全の観点からは非常に重要な環境です。
 
十分、特殊なんじゃないのかなあ…?
 
 

次は恣意的に議論を避けたとしか思えない、とんでもない問題。
④非改変地域を広く覆う植生を「典型性の注目種」として評価対象にすることにより、直接改変する地域を覆う植生を評価対象から外している
ややこしくてごめんなさい。ちょっと、長くなります。
 
生態系評価の際には、特定の種ではなく、植生を対象することも行われます。植物が陸上生態系における食物連鎖の底辺であるとともに、その場所の地形・地質・気候によって生育する植物相が異なることから、その場の環境を代表していると見なせるからです。当然、生えている植物相が異なれば、それをエサにする生物も、すみかとする生物も、土壌も異なってきます。身近なところでも、原っぱと雑木林とでは、見かける生き物はまるっきり異なりますよね?
 
静岡県において改変が計画されているのは、標高1000~2000mという地域になります。一般的に、標高が1000m高くなると気温は0.6℃低下するので、この範囲では6℃の気温差があることが予想されます。6℃の気温差というは、植物の分布にとっては非常に大きな差となります。
 
水平方向でいえば、東北地方北部と北海道北部との差に相当します。
 
JR東海は気候の経年調査をしていないので(これも問題!)、気象庁の観測データから推測するしかありませんが、おそらく標高1000m付近は津軽海峡あたりに、標高2000mあたりは北海道オホーツク海沿岸あたりの気温に相当すると思われます。中学校や高校の地理の授業で習うケッペンの気候区分でいえば、前者は西岸海洋性気候(Cfb)に、後者は冷帯湿潤気候(Dfb)あるいは高山気候(H)に相当します。
 
実際、JR東海による植生調査でも、標高1000m付近はミズナラ・ブナ・カエデ類・モミ等を中心とした落葉広葉樹林、標高2000m付近ではオオシラビソ・コメツガ・ダケカンバ等からなる常緑針葉樹林であると分類されています。
 
要するに、静岡県内においてリニアの工事が計画されている範囲では、少なくとも2つの全く異なる気候帯/植生帯が含まれているわけです。
 
そして当たり前のことですが、同じ気候帯でも、地形によって生えてくる植物相は全く異なります。地形によって水分条件、日照条件、土壌条件が大きく異なるからです。
そういうわけで、調査範囲の植生は、準備書【植物】では21種に分類されています(図2参照)。JR東海も、21種程度に分類できると判断したわけです。
 
このような予備知識をもって改めて冒頭の準備書コピーを見ると…
 
理解しがたいことに、典型的な植生としては、山腹に立地する「ミヤコザサ-ミズナラ群集」という落葉樹林の一形態しか対象にしていません。そしてこのミヤコザサ-ミズナラ群集は保全されるので、生態系への影響は小さいと結論付けています。

少なくとも21種に分類した南アルプスの植生を、どうしてたった1種に代表させることができるのでしょう? そして、なぜ影響がないと言い切れるのでしょうか。

それは、準備書における次のような論理展開によっています。
(1)ここは南アルプスという山地である
(2)山地に特有な生態系を調査・保全対象とする
(3)調査対象地域(改変予定地より600m以内)の大部分は落葉広葉樹林である
(4)落葉広葉樹林を細分するとミヤコザサ-ミズナラ群集が最大面積である
(5)よって、ミヤコザサ-ミズナラ群集を保全対象とする
(6)調査の結果、ミヤコザサ-ミズナラ群集は(改変対象ではないので)破壊されないことが判明した
(7)したがって南アルプスの生態系は保全される
 
この通りです。
私は専門家でも何でもありませんが、一目見て評価対象のすり替え、つまり論点をぼかして逃げていると直感しました。どうしてこんな姑息でなことをするのか、まったくもって理解不可能です。

この論理展開において、(1)から(2)に移る部分で河川生態系が無視されていたのはさきほど指摘したとおり。

次に(2)から(3)へ移る部分。準備書より転載した図1を見ると、確かに調査範囲の植生としては落葉広葉樹林が大半ですが、二軒小屋北東側の稜線(残土捨て場候補地)の調査地域は、亜高山針葉樹林で覆われています。少なくともこの残土捨て場については、針葉樹林が典型的な植生のはずです。
図1 【生態系】のところで使用されている生態系区分の図 静岡県版準備書より
図2と比較すると非常に大雑把
何より縮尺が異なる(基図は1:5万 図2の基図は1:2.5万)
 
前述の通り、落葉広葉樹林と亜高山針葉樹林とは、全く異なる性質の森林です。植物相のみならず、生息する動物も土壌も全くなります。生態系を論ずる際に、その違いを無視することは、あってはならないはずです。
 
その次に(3)→(4)→(5)の論理展開がムチャクチャおかしい。

一例として、二軒小屋ロッジ南側に計画されている最大の残土捨て場について考察してみましょう。
 
準備書の「植物」のところにから転載した植生図(図2)では、調査地域内の大半が、オオバヤナギ-ドロノキ群集、ジュウモンジシダ-サワグルミ群集、ミヤマクマワラビ-シオジ群集という河畔林、渓畔林の植生で示されています。特に、残土が捨てられて直接破壊される植生は、ほとんどが河畔林、渓畔林です。その他にも何種類にも細分されています。
図2 【植物】のところにある植生区分図 静岡県版準備書より
 

ところが同じ準備書でも「生態系」のところで用いた図1だと、改変予定地は「山地の生態系」を示す緑色一色で塗りつぶされていました。それゆえ(4)の「落葉広葉樹林を代表するのはミヤコザサ-ミズナラ群集である」という論法で、河畔林、渓畔林をミヤコザサ-ミズナラ群集に置き換え、評価対象にしています。

つまり、生態系保全の観点からは、あえて大雑把な図を使用することにより、本来、調査・保全・対象とすべき植生を議論の俎上に載せないようにしているとみられるのです。

なぜミヤコザサ-ミズナラ群集を調査・保全対象としたいのか…?
 
繰り返しますが、渓畔林・河畔林というのは渓流沿いにしか成立せず、また樹林の構成種が多様であり、希少価値の高い森林です。先にも述べたとおり、水辺の生態系という性質もあります。とくにオオバヤナギ-ドロノキ群集は前述の通り、生態系保全の観点からは非常に重要な環境です。
 
工事では確実にこの渓畔林・河畔林が破壊されますが、それを「破壊され保全できない」と準備書に明記すれば、確実に大きな批判を招きます。
 
そのいっぽう、ミヤコザサ-ミズナラ群集というのは植生図からも明らかな通り、山腹に立地する森林です。工事を予定しているのは谷底ですから、これは工事で破壊される可能性はあまりありません。着工しても、「保全できる」と言い張ることができます。
ミヤコザサ-ミズナラ群集に対する評価結果 改変はほとんど行われないので保全できるとしている。
工事と関係ない場所の森林だから当たり前!!
 
よって、保全対象をミヤコザサ-ミズナラ群集にすり替えることにより、いかにも保全措置がとれているかのように見せかけているのではないでしょうか。
 
⑤改変を計画している場所しか評価対象にしていない
JR東海の調査・評価は、改変を計画している場所から600m以内という枠組みでしかおこなっていません。というわけで、その周囲とのつながりや、工事が周囲に与える影響は考慮されていません。
 
これもおかしなことです。
 
動物の行動範囲は数km四方におよぶのに、どうして600mの範囲での評価でよしとするのでしょう?
 
トンネル工事で河川の流量が減少した場合、その影響は地上の改変場所とは無関係に広がります。それなのになぜ地上の工事予定地で評価対象地域が決まるのでしょう?
 
評価対象地域が南ア山中に点々と並んでいますが、工事が始まれば、それらの地域を結んで大量のヒト・モノ・車両が行き来することになります。離れた地域同士の間へ、そのの影響は出ないのでしょうか?
 
⑥使用している地図が大雑把
生態系評価の際に使用している図の基図は、国土地理院作成の五万分の一地形図、植物の図で使用しているのは、同二万五千分の一地形図です。
 
地形図は正確な地図ですが、この生態系評価の項目で使用するには不適当です。生態系の基盤となる植生は、ほんのわずかな土壌水分や地形の影響で異なることがありますが、そうした状況を縮尺の都合上、表現することができないからです。また、改変予定地と植生との位置関係も伝わってきません。
 
紙の地図で表現できるものは、せいぜい図上で1㎜程度までです。二万五千分の一地形図では、図上で1㎜のものは実際のスケールで25mに、五万分の一地形図では同じく50mとなります。逆に言えば、これよりスケールの小さなものは表現できなくなります。したがって、仮に小さな流れに沿って特異な植生と生態系とが成立していても、その幅が20m足らずであれば、地形図では表現できなくなります。崖なんかも、真上から見ればごく幅が狭く、地形図での表現は困難です。
 
基となる地図がないのかと言えば決してそんなことはなく、例えば山岳地域では都道府県や林野庁の作成する森林基本図というものがあります。これは五千分の一で作成されており、図上1㎜=5mですので、非常に細かく地上の様子を表現することが可能です。さらによくよく考えれば、「国鉄時代から南アルプスの調査を行ってきた」らしいので、詳細な地図を作成しているはずです。
 
準備書の【関連図】と称する図では、縮尺が一万分の一になっていますが、こうした図を編集したのではないのでしょうか。
 
いずれにせよ、JR東海が入手している地図を基にすれば、より詳細な植生区分図を作成できたはずです。それなのに、なぜあえて地形図を採用して大雑把な植生区分図としたのでしょう?
 
⑦結局、南アルプスの自然環境全般をどの程度に把握しているのかがわからない
 
街外れにある小さな丘のような場所をちょっと想像してください。北向き斜面より南向き斜面のほうが、日当たりが良好です。てっぺんと麓では、麓のほうが湿っています。それによって、生えている植物が異なります。子供が走り回って踏みつける場所と、誰も足を踏み入れない場所とでは、草の生えている量が異なります。そんなことで、見られる昆虫や野鳥も異なります。
 
ちっぽけな丘でも植生を決定付ける要素はいろいろあるわけです。

この静岡県版準備書が扱っているのは、南アルプスという日本の生物多様性を象徴するような場所です。南アルプスという場所を考慮し、生態系の基礎となる植生を決定付ける要素を思いつくままに並べても・・・

標高による気温の違い
地質・地形による土壌条件の違い
地形による日当たり具合の違い
地形による土壌の水分条件
地形による風の当たり具合の違い
積雪の深さ
凍結・融解による土壌への影響
表層物質(土や石)の移動
山崩れの影響
伐採の影響の強弱
伐採からの経過年
かようにいろいろあるわけです。
 
ところが冒頭の準備書コピー「注目種の選定とその理由」を見ても、評価対象とした6つの動植物が、この南アルプスの多様な環境をどのように代表しているのか、さっぱりわかりません。
 
つまり、南アルプスがどのような自然環境にあるのかという肝心な点が、準備書からはまったく見えてこないのです。これでは生態系保全をおこなうと言ったって、実施主体であるJR東海が、その対象のことをどれほど認識しているのか疑わしいと感じます。
 



このように、「南アルプスの生態系への影響は小さい」という結論を導き出すために、都合のよい解釈変更を繰り返し、きわめて作為的な論理展開を用いているように思えてなりません。
 
準備書への意見として提出しましたが、見解書で寄せられた回答は、この準備書の既述をそのまま繰り返しただけでした。
 
こうした生態系評価の論理展開のおかしさは、山梨県での準備書審査でも問題視されていて、
JR東海は準備書で、東部・御坂地域、巨摩・赤石地域など6エリアに区分けして生態系と注目種をまとめたが、委員からは「生態系は沢ごとに異なる。詳細なエリアの調査結果を出すべきだ」との指摘が相次いだ。
(11/23山梨日日新聞)
http://www.sannichi.co.jp/linear/news/2013/11/23/14.html
「現状の資料では議論の俎上に載せられない」(12/11同新聞)
http://www.sannichi.co.jp/linear/news/2013/12/11/15.html
 
というように報じられています。
 
これは悪質だと思います。少なくともこの生態系に関する部分については、環境影響評価をやり直すべきです

大井川へのくみ上げポンプは壮大なエネルギー浪費!?

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昨年9月の公表された環境影響評価準備書【静岡県版】の問題点を、ここ二月ほどつづっておりますが、まだ半分くらいか書き終えていません。まだまだ言いたいことがありますが、ちょっと気付いたことがあったので、大井川の流量減少問題に戻ります。
 
JR東海の試算によれば、南アルプスにリニアのトンネルを掘ると、トンネル頭上になる大井川源流部で2立方メートル毎秒(=2㎥/s=毎秒2t)の流量が減少するという結果が出され、準備書に記載されました。
 
これ、ホントなのかな?という疑問は今もって拭えません。
そもそもトンネル内に2㎥/sもの水が流れたら、トンネルそのものが川となり、工事など到底不可能のように思えます。
 
試算の信頼性に対する検証すらしていないので、なんとも言えません。
 
とにかくこの「2㎥/s減少」に対し、流域から強い懸念が出され、これまで地域との対話を拒絶してきたJR東海も、対応を迫られるようになってきました。
 
大井川の流量減少に対しては、「トンネル内への湧水をくみ上げる」という案を出しています。
 
これって、ものすごくエネルギーを消費するのだろうなあ・・・と思って、シロウトなりに調べてみました。
 
工学の専門家の方、上下水道やポンプを扱っている方で、「間違っているんじゃない?」と思われたら、どうぞご指摘ください。

JR東海の予測によると、2㎥/sの流量減少が試算されているのは、大井川の西俣・東俣合流点(標高1390m)付近から下流側です。これより上流側の、西俣斜坑口上流側(標高1550m)でも、約1㎥/sの減少が試算されています。これよりさらに上流側の、標高1710m付近にある中部電力の西俣取水堰堤付近でも、0.56㎥/sの減少を予測しています。
 
イメージ 1
 
水が減って市民生活に影響の及ぶことばかりがクローズアップされている感がありますが、この無人地帯では、真っ先に影響を受けるのは、動植物です。イワナやアマゴは本流を支流を行き来して生活しているので、流れが途切れたり川が浅くなって水温が上昇したら住めなくなってしまいます。サンショウウオなどの生活場も失われてしまいます。水辺の植物分布と、それに依存する動物の生活にも影響が出るでしょう。
 
このような流量減少による様々な影響に対応するのなら、東俣との合流点上流側に1㎥/s、西俣取水堰上流側にも1㎥/sを、常時くみ上げ続ける必要があろうかと思います。単に下流の水利用を考えるだけなら、二軒小屋斜坑口まででよいのですが、生態系への影響を考えると、こうした対策が必要でしょう。
 
 
しかしトンネル完成後、永久に休むことなくポンプを動かし続けねばなりませんから、たいへんなエネルギー消費になろうかと思います。
 
どのくらいのエネルギーを要するのでしょう?
 
流量減少が、川のどの付近でどのくらいになるのか、斜坑による影響が大きいのか、本坑による影響が大きいのか、あるいは縦横に掘られるトンネルのどの深さへの漏出が大きいのか、詳しいことはよく分かりませんが、大まかな傾向はつかめると思います。
 
とりあえず以下のケースを想定してみました。、
①大井川の流域界直下から東俣との合流点上流側まで標高差約500mを1㎥/sの吐出し量でくみ上げる、
②西俣斜坑の下端から西俣取水堰までの標高差約600mも1㎥/sの吐出し量でくみ上げる
次の2枚の図のようなイメージです。
 
イメージ 2
準備書記載の図を調整・加筆
 
イメージ 3
西俣にトンネル湧水をくみ上げるイメージ
以上の仮定のもとで、簡単にエネルギー消費を見積もってみました。
 
ポンプを動かすのにに必要な理論上の動力は、次の式で算出されるそうです。(水道工学ハンドブックによる)
 
イメージ 4
 
 
以上の条件より、①、②の値を上式に代入したところ、次のような結果が出ました。
イメージ 5

その結果、1万7325kWという値がでました。
 
これ、相当に大きな数字です。30Aで契約している一般家庭約5800世帯分に相当します。
 
 
ところで、この大井川最上流部には、平成の初め頃に中部電力が水力発電所を3ヶ所建設しました。
 
それらの出力は次の通り
二軒小屋発電所 最大認可出力26000kW 常時認可出力2100kW
赤石発電所   最大認可出力39500kW 常時認可出力kW
赤石沢発電所  最大認可出力19000kW 常時認可出力1500kW
 
この場合は右側の常時認可出力にご注目ください。水力発電所はピーク時の発電に対応させるため、ある程度水をために一気に大量に流して出力を大きくします。発電能力といわれるのはそのときの値です。JR東海が計画しているポンプは休むことなく動かし続けなければならないので、比較するなら右側の常時出力となります。
 
二軒小屋・赤石沢の両発電所の常時認可出力が合わせて3600kWですので、ポンプの消費エネルギーは4.8倍にも及びます。
 
実は、先ほどのポンプの電力消費の式は、水力発電出力の計算式とほとんど同じものです。すなわち
 
重力加速度×流量×水の密度×有効落差×機械の効率
 
これが水力発電の出力を求める式だそうです。
 
話が脱線するようですが、ちょっと頭の体操。
 
2㎥/sの流れがあるとします。このうち0.4㎥/sは流し続け、1.6㎥/sを650m上方に22時間くみ上げて貯水槽にため、2時間で一気に下に落とすとします。
 
こういう揚水発電を考えると、
常時出力約3800kW、最大出力約190000kWもの発電が可能となります。
 
 
2時間だけですが、大井川水系最大の発電能力をもつ畑薙第一発電所の出力(最大認可出力137000kW/常時認可出力1400kW)を上回ります。さらにこの2時間だけですが、リニアを4本くらい走らせることも可能でしょう。
 
 
 
 
何が言いたいのかというとトンネルからポンプで水をくみ上げた場合、そのエネルギー消費は大井川源流部一帯に造られた水力発電所の総出力を確実に上回り、発電所をつくった際の自然への負荷が壮大なムダになってしまいかねないということです
 
かつての発電所も、相当に大井川源流部を破壊して造られました。沢登りの愛好家から名渓とうたわれた赤石沢にダムが造られたり、大井川の河原に残土を捨てたり、取水で谷川の流量が減ったりしています(ここで取水された水は大井川本流に戻されるので下流への影響はない)。
 
こうして南アルプスの自然を破壊して得られた水力発電エネルギーが、ただ水をくみ上げるだけに使われたら、それは単に自然をぶっ壊しただけの存在に変わってしまいます。
 
リニアをつくるために、間接的に、広範囲の沢をぶっ壊したともいえるかもしれません。

いずれにせよ、ポンプによるくみ上げだけで大量のエネルギーを消費します。しかも、大いなる川の源をポンプという人工的動力に付け替えようというのは、あまりにも自然を冒涜していると思います。 
 
※水力発電所のデータは、中部電力編纂「大井川 電力と風土」による

リニア環境アセス準備書 静岡県版の問題点を振り返る

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昨年11月頃より、リニア中央新幹線の環境影響評価準備書・静岡県版の問題点を書き続けています。あまりにひどい内容であり、問題点が多方面にわたっていて何が何だか分からなくなってきたので、ちょっとここで整理。
 
私の気付いたこと
静岡市・県の審議会で問題視されている点
準備書に寄せられた意見・質問
をまとめてあります。
 
1.調査・評価方法のおかしさ・疑問
 (1)騒音の現地調査…川のそばで調査されたとみられ、川音が現地の騒音とされている
 (2)大井川の流量について、予測において用いられた式で示した理論上の現況値と、実測値との間に大きな差がある 
 (3)現地調査において、これまで南アルプスでは記録されていない植物が複数”確認”されている
 (4)大量の車両の通行する林道東俣線沿いで生物相の調査が行われたが、なぜか鳥類だけ対象から外されている
 (5)現地調査の最中に林道の改修工事を行っている
 (6)用いられた地図が縮尺が不適当であり、詳細な様子が分からない
 (7)県境で工事を予定しているが、動植物を保全対象とする基準が県によって異なる
 (8)各種予測式や試算結果に対し、その妥当性の検証が行われていない
 (9)合理的な説明もなく、環境影響評価の対象地域は改変予定地から600m以内に限定されている。
 
2.客観的に準備書を審査するのに必要な、最低限の資料が開示されていない
 (1)土壌に関するデータ
 (2)群落組成表
 (3)ボーリング調査結果
 (4)猛きん類の飛行ルートや餌場、営巣木など、希少動物の行動パターンと改変予定地との位置関係
 (5)希少植物の確認地点と改変予定地との位置関係
 (6)動植物ごとの、それぞれの生息環境に関するデータと事業との関係
 (7)微地形に関するデータ
 (8)湧水、流水の分布
 (10)改変箇所の選定過程
 (11)各種現地調査の時間・場所・期間・人数等の情報
 (12)現時点で想定している工事内容の詳細
 (13)東俣林道沿いでの生物調査結果
 
3. 本来は評価対象にされるべきものが、ヘリクツによって(■)、あるいは説明もなく(▲)評価対象より外されている
 (1)河川や谷の生態系(■)
 (2)残土捨て場の存在が環境全般に与える影響(▲)
 (3)南アルプス国立公園、奥大井県立自然公園で採取・損傷の禁じられている動植物(▲)
 (4)工事用道路トンネル(長さ約10㎞?)の存在が環境に与える影響(▲)
 (5)方法書において「重要な種」にあげられた動植物のうち、合計一月足らずの現地調査で確認されなかったもの全て(■)。ヤマトイワナ、アカイシサンショウウオ等、地元としては当然生息しているという認識にある希少動植物もしかり。
 (6)登山者に対する騒音の影響(▲)
 (7)リニア供用時の温室効果ガス排出量(■)
 
4. 理由を説明したデータや具体的な対策を記載していないのに、主観的な判断で「影響はない/小さい」という評価に至っている。
 (1)イヌワシ、クマタカをはじめとする希少動植物に与える影響
 (2)斜坑、工事施工ヤードの存在が景観に与える影響
 (3)残土中に有害物質が含まれる可能性
 (4)360万立方メートルの残土の処分方法
 (5)大井川の流量減少が環境全般に与える影響
 (6)リニアの走行によるエネルギー消費の詳細
 (7)川の濁り 
 
5. 環境影響評価の”標準手法”に選定されていないため、明らかに環境に悪影響が出ることや安全性に疑問のあることに対し、丁寧な説明がない
 (1)残土捨て場の安全性…ひとつは谷底より600mも高い伝付峠北方稜線上の地すべり。もうひとつは千枚岳東面の巨大崩壊地直下
 (2)外来種搬入対策が示されていない
 (3)ロードキル(動物の路上轢死)対策が示されていない
 (4)工事・作業員用の水源
 (5)無人地帯で大人数が長期間住み続けること
 (6)地形・気候条件、求められる水準から、工事終了後の緑化が甚だしく困難であること
 (7)ユネスコ・生物圏保存地域(エコパーク)登録に与える影響
 (8)エコパークに登録された場合の利用者、登山者、釣り客に対する配慮
 (9)未舗装の東俣林道を改修することによる影響
 (10)10年余の工事期間中に起こりうる災害への対策
 (11)トンネル運用後における、緊急時の非難・救助体制
 (12)南アルプスの隆起速度に関する認識が、地形学の定説とかけ離れた過小評価となっている。
 
6.環境保全対策に非現実的な案が多い
 (1)工事規模を徐々に大きくすることによって猛きん類の馴化を図る
→工期が示されていないので実現性が疑わしい。そもそも可能かどうかもわからない。
 (2)発生残土360万㎥は9割リサイクルする
→可能なら残土捨て場は不要なはず。そもそも具体的な案が示されていない。
 (3)”環境に配慮して”合計10㎞の作業用道路トンネルを掘る
→残土の増加、水脈の切断など明らかに環境への大きな負担
 (4)希少な植物を移植する
→移植先の生態系に与える影響が考慮されていないし、菌類と共生するラン類などは移植可能かどうかもわからない。
 (5)大井川の流量減少が起きた場合はポンプでくみ上げる
→恒久的なものではないし、常時2万kW近い電力を消費する。
 (6)標高2000mの残土捨て場を緑化する
→気候を考慮していない。
 (7)残土捨て場からの流出を防ぐために巨大な壁をつくる
→明らかに景観を損ねる

7.環境影響評価の進め方そのものの問題
 (1)あらゆる面において、どのような検討過程を経て計画が決定されてきたのかが分からない。
 (2)パブリックコメント、配慮書、方法書、準備書各段階において寄せられた意見がどのように反映されたのか分からない。
 (3)一般市民の意見を受け付ける機会がほとんどなかった(何かあれば事務所に来いというが、平日の日中しか開いていない)。
 (4)詳細な事業計画がいつまでたっても開示されない
 (5)工事は東京-名古屋286㎞に及ぶが、その中で南アルプスという場所が環境保全上どのような位置づけにあると見なしているのか、さっぱりわからない。
 


1月21日火曜日午後6時~8時30分に、県条例に基づき、リニア中央新幹線計画の環境影響評価に対する公聴会が開かれます。
詳しくはこちら(県庁のホームページ)

静岡市長意見/どこにつくるか分からない3400mのトンネルがある

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静岡新聞の夕刊一面に大きく掲載されているのでご存知の方も多いかと思いますが、リニア中央新幹線環境影響評価準備書に対する静岡市長意見が、県知事に出されました。http://www.city.shizuoka.jp/deps/kankyou-soumu/shichoiken.html
 
静岡県でリニアの工事を計画しているのは静岡市内だけなので、静岡市の意見は県の意見を代弁しているともいえます。
 
「○○に配慮すること」
「モニタリングをすること」
など、着工ありきのありきたりな意見だな…と思って眺めてましたが、後半部分に

「生息確認のある重要種については必要な調査を実施すること」
扇沢源頭部での残土処理は回避すること
「燕沢付近の残土処分場について環境影響評価をおこなうこと」
「斜坑等の掘削及びそれに伴う発生土処理による自然環境への影響を低減するため、施行上の安全を確保した上で、斜坑等の計画について再検討すること
必要な場合は計画の見直しも含めてユネスコエコパークの登録実現を積極的に支援すること」

とありました。
 
扇沢源頭部での残土処理計画は、12/8のブログ記事で指摘した「標高2000m!天空の残土捨て場」のことです。道路トンネルを掘ることにより数十万立方メートルの残土をわざわざ増やし、その何倍もの残土を谷底から600mも高い山の上の地すべり地帯に捨てようという、メチャクチャな計画ですが、これに「ノー!」が突きつけられました。
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この計画にはノー
 
規模や事業計画からみて、JR東海としてはここに少なくとも100万立方メートル(3割弱)を捨てようとしていたと思われますが、その計画が明確に否定されたわけです。
 
また、二軒小屋南側の大井川川床に広がる土石流堆積地も残土捨て場候補地に挙げていましたが、規模や構造に注文がついたうえ、環境影響評価をやりなおすことが求められました。どういうわけか環境影響評価をおこなっていないので、当然です。
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アセスやりなおし!
 
というわけで、おそらく半分近い残土の行方が定まらなくなりました。事実上、残土捨て場の選定作業および環境影響評価のやり直しが必要となります。JR東海が、何の協議もなく一方的に「南アルプス山中に残土を捨てる」と言い出したわけですから、こうなることは当然といえば当然です。
 
残土捨て場が決まらない限り、南アルプスでのトンネル工事をおこなうことはできません。
 
それから、方法書段階で保全対象にあげておきながら現地調査で”見つからなかった”として保全対象から外された多くの動植物について、再調査を求めています。生物相手の調査ですから、適切な時期にならねば何もできません。
 
昨日は日本経済新聞が「リニア新幹線建設、今夏から順次着手なんて記事を出していたようですが、本当に沿線事情を取材して書いたのでしょうか?
 
 



さて、最近、南アルプスの工事計画についておかしな点に気付きました。
 
先週末(?)、昨年12月26日に開催された、静岡県の環境影響評価審査会の資料が公開されました。議事録はまだのようです。
 
ここにある「資料3」の中で、JR東海がはじめて残土発生量の試算について触れています。

よく読んでみると…
 
 
ヘンなんですよ。その資料3から該当部分をコピーして貼り付けます。

赤く囲った部分に、「工事用道路(トンネル)8500m」とあります。
 
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静岡県での審議資料より
右下の青枠については後日触れます。
 
準備書を見ると、西俣の斜坑口から東俣までと、そこから東の稜線上の残土捨て場にむけて2本のトンネルを計画していることになっています。ちなみに大型車両が通行するだけでなく、残土運搬のベルトコンベヤも設置するそうです。
 
これです。
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準備書よりコピー
拡大するとこんな感じ
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国土地理院地形図閲覧サービスうぉっちずよち複製・加筆
右上の残土捨て場候補地が、市長意見で否定されたところ。沢Aが扇沢。
 
地図上で長さを調べてみると、
西側のトンネル…約2150m
東側のトンネル…約2950m
合計約5100m
 
ん?
 
あと3400mはどこ?
 
準備書のどこを見渡しても、この2本以外に道路トンネルを掘るなどと書いていません。
 
ひょっとしたら道路トンネルを複線で掘るのかとも思いましたが、それなら合計12000mになります。
 
もしかして5100mのうちトンネル区間は4400mで、それが複線になるとか…? でも、それなら途中の地上区間で動植物等の調査を行わねばならなくなりますが、アセスではそんなことをしていないので違います。
 
蛇行している林道をショートカットするのかとも思いましたが、そもそも「舗装や崩土除去など”最低限”の改修」と書かれているので、もし林道改修でトンネルを掘るのなら、準備書がウソということになります。
 
ナゾなのです。
 
準備書でも明らかにしていない、所在地不明なトンネル工事を計画している?
 
まるで幽霊のような実態のないトンネル計画なのです。
 
どこに何をつくるのか分からない(公開していない)状態で環境影響評価などしても、何の意味もないと思うのであります。

南アルプス山中ムチャクチャ残土処分計画に明確なNO!

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ちょっと間が空きましたが、22日に提出された静岡市意見について、主に残土に対する視点から、再度考えたいと思います。
 
県知事に提出された静岡”市”の意見とはいえ、静岡県内でリニアが通過するのは静岡市だけであることから、これは静岡県内の意見を集約しているともいえます。
 
また、静岡市で事業が予定されているのは全て南アルプス山中であり、南アルプスにおける環境配慮に対するJR東海の姿勢が問われたともいえます。
 
2010年後半、リニア計画の是非を審議していた国土交通省中央新幹線小委員会においては、「南アルプスにおける事業計画の是非について環境面からは問わない」というきわめて無責任な態度がとられていましたので、これが初めての審査になりました。

結論から言いますと、静岡市の意見書では、「JR東海は審査に対して非協力的であり、調査も十分とは言えず、そのうえ現計画では南アルプスや大井川の自然環境、ユネスコ・エコパーク登録計画に与える影響が非常に大きく、このまま認めることはできない」と、明確に「ノー」を突きつけた形となっています。
 
ここで最も大きな問題として取り上げられているのが、やはり大量の残土の扱いです。JR東海の示した処理方法が、あまりにも常識から外れた、ムチャクチャの極みといえるような内容だからです。

静岡県内で計画されている残土処分方法は、次の2通りです。
①大井川最上流部の西俣(標高1550m)に斜坑を設け、地下350m付近の本坑から残土を運び出す。掘り出された残土は、長さ約2150mの道路トンネルを通り、標高1450mまで下ったところで東俣を渡り、再び長さ約2950mのトンネルを通って標高2000mの稜線に運ばれ、扇沢の源頭に捨てられる。
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国土地理院地形図閲覧サービス「うぉっちず」より複製・加筆
 
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Google Earthより複製・加筆
 
②二軒小屋付近(標高1350m)に斜坑を設け、地下350m付近の本坑から残土を運び出す。掘り出された残土は、そこから下流の大井川の川岸7地点(実質的に二軒小屋すぐ下流の1地点)に捨てられる。
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環境影響評価準備書より複製・加筆
 
 
このうち、①の案には明確に「ノー」が突きつけられました。

●谷底から600mも高い地点に持ち上げることにより、残土のもつ位置エネルギーが増大して不安定となる
●侵食のすすむ沢の源頭に置けば、下から崩されやすい。
●それだけでなく残土の重さで山肌自体が大崩壊するおそれ
●捨てに行くための道路トンネル建設自体が大量の残土を出す。
 
という理由からです。そもそも、何を考えればこんなムチャクチャな案が出てくるのか、いまだに理解できません。静岡市民に身近な話に例えると、第二東名の工事で出た残土を、由比の地すべり地帯にそびえる浜石岳山頂に運んで捨てるような話です。
 
あるいは、砂場でトンネルを掘って遊んでいた子供が、滑り台の上に砂を持っていくような・・・

ちなみに意見書ではこのように書かれています。
南アルプスの稜線部には、第四紀以前に形成されたとかんがえられる小起伏面が残存しており、扇沢源頭部もそのひとつである。この小起伏面は、山梨県側からも静岡県側からも地すべり・崩壊による侵食が進み、面積が縮小しつつある不安定な領域である、そこに、重量物である発生土を積み上げることは重力不安定を促進し、発生土を含めた山体崩壊を促進するおそれがあり、下流部に重大な影響を与えかねない。また、発生土の運搬のために講じよう道路トンネル(トンネル)を設置することは、発生土の増加や新たな環境変化を生むこととなるため、同地での発生土の処理は回避すること。

この残土捨て場は、地形図で推測すると、高さ55m程度の壁を築けば、その内側に約100万㎥、全体の約30%の残土を放り込むことが可能です。わざわざ道路トンネル分の残土を増やしながらも捨てに行くわけですから、これくらいの目論見があるのでしょう。
 
 
扇沢での受け入れ可能な容積は約100万㎥と見られますから全体の1/3です。それが使えなくなったわけです。
 
JR東海の試算では、静岡県内では掘削容積233万㎥で、そこから生じた残土をほぐすと1.54倍に体積が増し、358万立方メートルとなるそうです。これが、準備書に書かれた「残土360万㎥」の実態です。
 
ほぐした残土(岩のカケラの場合)を捨てる際、締め固めると体積が1~2割縮みます。言い換えれば、捨てる際の残土容積は、元の掘削容積の1.3倍程度になります。
 
文章で書くとややこしいですが、『鰹節を削るとボール一杯に容積が増すけれども、小さな袋に押し込めば容積は縮む。でも元の鰹節よりは大きな容積。』ってイメージしてください。残土処分に必要な受け入れ容積は、上から押さえた状態での残土容積となります。
 
扇沢の残土捨て場が使えなくなると、東側の道路トンネルを掘る必要がなくなるので、全体の掘削容積は220万㎥程度となります。220万㎥を捨てるのに必要な容積は、大雑把に見積もって300万㎥程度です。

また、②についても、根本的な見直しを迫っています。
 
JR東海は、二軒小屋ロッジ下流の平坦地にも大きな残土捨て場を想定しています。
この残土捨て場は、準備書ではわざわざ楕円で書かれており、相当に広くすることを見込んでいると考えられます。地形図から推定して、川の流下方向に950m、幅100m、面積95000平方メートルほどの平坦面がとれます。ここに、残土を高さ15m(一般的な盛土の上限)で積み上げれば、約142万㎥、全体の約47%の処分が、計算上では可能です。
 
ところが例によって、この場の立地条件が大問題。
 
すぐ北西側にそびえる標高2880mの千枚岳東面には、比高500mにおよぶ巨大な崩壊地があります。そこから流れ下った土石流が、大井川を埋め立てて形成されたのが、この平坦地なのです。現在でも土石流が頻発し、土砂が堆積しつつある場所です。
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国土地理院地形図閲覧サービス「うぉっちず」より複製・加筆
 
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Google Earthより複製・加筆
 
したがって残土を盛ることによって河原を狭めれば、崩壊地から流れ下る土砂をせきとめ、上流側の川床上昇を引き起こしてしまいます。土砂が厚く堆積すると、川の伏流と生態系の破壊につながり、さらには堆積土砂による大規模な土石流を誘発する可能性もあります。
 
そんなわけで、意見書でも、
「本事業において、同地に大量の発生土を置き、その保護のために擁壁を築くとすれば、自然環境と景観に影響を及ぼすため、新たな環境影響評価が必要である」
と書かれています。
 
明確に否定したわけではありませんが、JR東海は残土置き場には擁壁を築くと話していることから、環境影響評価のやりなおしを求めていることを意味しています。

以上のように、①を否定、②の見直しを求めたことにより、約30%の残土の行き場がなくなり、約50%の残土処分もどうなるか分からなくなりました。よって、全体の80%の行き先が定まらなくなりました。
 
 

ところで全国紙の地方版で、このことをちょっぴりと報じています(毎日新聞も報じているようですが、会員制なので読むことができません)。
 
産経新聞http://sankei.jp.msn.com/region/news/140123/szk14012303200001-n1.htm
静岡市長「万全の対応を」 リニア新幹線 知事に意見書提出
『工事の際に発生する残土の置き場については、専門家会議の答申に基づき、2カ所の場所や構造の見直しを求めた。流域市町が心配する大井川の水量減は「毎秒2トンの減少は大きな変動」として、代替水源の位置や方法を具体化するよう要望した。』
 
読売新聞
http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/shizuoka/news/20140122-OYT8T01075.htm
『JR東海が発生土置き場の候補地として示した7か所のうち、標高約2000メートルにある扇沢(おうぎさわ)地区については斜面が崩壊する恐れがあるとして撤回を求めた。毎秒2トンの水量減少が予測される大井川上流の水資源対策では、現状の水質、水量を確保するための具体策を評価書で明らかにすることを要求した。』
 
朝日新聞
http://www.asahi.com/articles/ASG1Q3HR0G1QUTPB003.html
『南アルプス山岳トンネル(全長20キロ、県内10キロ)の工事が環境やユネスコエコパーク登録に与える影響に強い懸念を示したうえ、保全措置の徹底を求める内容だ。残土候補地1カ所については、計画の撤回を求めている。撤回の要求は異例だ。』
 
とあります。
ここにはありませんが、中日新聞の静岡版でも似たような扱いでした。
 
各社とも扇沢源頭での処理を回避するよう求めたことに触れたものの、「7ヶ所のうち2ヶ所の見直し」というように、あまり計画に与える影響ははないように書かれていますが、それは全く違います。

7ヶ所のうち、大井川下流側の4ヶ所には、25年ほど前に水力発電所建設で出た残土が既に捨てられており、これ以上はたいして捨てられないのです。地形図から推測すると、厚さ10~15mで残土を盛り付けても、受け入れ可能な量はせいぜい30万㎥程度。全体の1割しかありません。
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JR東海が準備書において、残土捨て場候補地と挙げた大井川沿いの地点
国土地理院地形図閲覧サービス「うぉっちず」およびGoogle Earthより複製・加筆
 
一覧表にするとこんな感じ。あくまで、私kabochadaisukiの試算ですが、大まかな傾向を考える程度ぐらいには使えると思います(本来ならJR東海が示すべき内容!)。
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左側2地点は、現時点では残土捨て場として使用することを拒否されました。
 
静岡県での工事は他県とは異なり、出てきた残土を捨てることがメインとなります。その候補地のほぼ全てについて見直しを求めたわけですから、現時点ではJR東海に対し、「貴社の計画では環境保全は不可能である」と突きつけたといえるのです。
 
静岡意見内での残土捨て場の見直し要請は、南アルプス貫通計画の根本的な見直しと同義であることに、マスコミ各社は気付かないのでしょうか?

ちなみに静岡新聞だと、意見書についてはっきりと「残土処理計画について抜本的な見直しを迫る内容となっている」と書かれています。
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1月22日 静岡新聞夕刊3面より
 

静岡市意見に従って残土捨て場の代替地を求めようにも、JR東海は7ヶ所の残土捨て場以外の候補地を全く示していませんし、準備書の各評価は域外に搬出しない前提で書かれています。そのため、何をするにも新たな環境影響評価が必要となります。
 
意見書では、このような問題を踏まえたうえで、「斜坑等の計画について再検討すること」とまで言及しています。
 
また、長野県版の準備書に、「大鹿村では1日1700台の大型車両が通行」という荒唐無稽な予想を書いていますが、これは静岡県内で斜坑を2本掘る前提の台数です。静岡県側で斜坑の数や残土搬出量を変えれば、この台数も増加するはずです。県境をまたいで整合性をとらねばなりません。

いずれにせよ、計画の見直しは必至です。現計画を認めることはできないというのが地元の総意なのです。

一部が改変されるものの、周辺に同様の環境は広く残されることから、生息環境は保全される…?

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このところ、リニア沿線地域で環境影響評価の一環として公聴会が開かれています。これは環境影響評価法に基づく制度ではなく、各地の条例に基づくものです。
 
静岡市でも、21日に初めて県条例に基づいて公聴会が開かれています(私は都合が悪くて足を運べませんでした。平日夜ではなく土・日の昼間にしてくれればいいのに)。
 
新聞報道(といってもネット上ですが)を見てみると、「反対意見相次ぐ」という書き方をしていることが多いようですが、これは若干本質からずれたとらえ方だと感じます。
 
環境影響評価の各図書(配慮書・方法書・準備書)への意見提出と同じく、公聴会はあくまで環境保全に対する意見を公述する場であり、事業の反対・賛成を問う場ではないからです。本来なら、「不安を訴える声が相次いだと」とでもすべきでしょう。
 
とはいえ、環境破壊を懸念するというよりも、「リニア反対」を念頭において発言する人も多かったに違いありません。
 
(環境悪化に対する不安や環境影響評価のあり方に疑問のある人々が意見を述べる場ですから、「環境悪化など気にせず諸手をあげてバンザイ!」という人は、わざわざそんな場へ発言なんぞするために赴かないはずです)

着工直前(by日本経済新聞)であるのにも関わらず、反対・批判意見ばかりが噴出する、事業推進のうえでは非常に険悪な状況を生み出してしまったのは、この計画を進めてきた事業者であるJR東海自身と後押ししてきた自治体、無責任な国にあるといえます。
 
ちょっと調べれば誰しも疑問を抱くような計画なのに、そのことを公述する機会など、JR東海が計画を発表してから6年間、まったくなかったからです。

私の考えでは、リニア計画の本質的な問題は次の点にあると思います。
 
超電導リニア方式の中央新幹線整備計画は、超高速運転により東京-大阪を1時間7分で結ぶことが可能であるものの、その際立った特殊さゆえ、非常に環境や社会への対応性が悪い。
 
すなわち超高速運転のために、また、3大都市を最短で結ぶために、沿線の社会事情・自然環境に構わずほぼ一直線にルートを定めねばならないし、途中駅に停車する列車もごく限られる。
 
ゆえに、自然環境・生活環境の破壊を回避するという概念、沿線にメリットをもたらすという概念を、そもそも持ち合わせていない。
 
これが、超電導リニア技術が宿命として抱える問題点というか欠陥だと思うのであります。こればかりは、技術開発をしてもどうにもなりません。

超電導リニア技術を世に送り出すにあたり、国(旧国鉄/旧運輸省/国土交通省)は、この技術が宿命として、「環境への影響を回避したり沿線へのメリットを重視するという概念を持ち合わせていない」という宿命については、いっさい審査の対象としていません。
 
沿線自治体も同様、リニア技術がいかなるものかという点をロクに検証もせず、住民意識はカヤの外にして「沿線ナントカ学者会議」やら期成同盟会やなんかを設置し、推進一色に染まってしまいました。
 
計画に疑問を抱く声はほとんど拾い上げられていないんですね。
 
一番、時間をかけて熟慮せねばならないところを無視して計画を認可したがゆえに、今になって、本質が問われることとなってしまったと言えるでしょう。
 
相変わらず「リニア中部圏地域づくりフォーラム」なる行政イベント(国土交通省中部地方整備局・主催)が名古屋で開かれるそうですが、そろそろ夢から覚めて現実と向き合ってはいかがでしょうか?
 


さて現実に戻り、環境影響評価準備書【静岡県版】の問題点について書きます。
 
今回取り上げるのは、動植物に対する環境影響評価です。
 
南アルプスには何千という動植物が分布していますが、それらを全て保全対象にすることは不可能なので、”重要な種”を事業者が選び、影響評価の対象とします。
 
この選定過程に、よく分からない三重基準を用いて、どうも少なくさせようとしていたんじゃないかという疑念があるのは、以前指摘したとおりです。
 
しかも事前の既存資料調査で「生息しているかもしれない」という動植物を多数あげておきながら、実際に評価対象としたのは現地調査で確認された一部の種のみとなっています。
 
たった数回の調査だけで、評価対象を決定してしまうのですから、きわめて乱暴な議論です。常識的に考えて、数が少なくて見つかりにくいような生物だからこそ、”重要な種”なのではないのでしょうか。この点は、静岡市意見においても「文献確認種についても生息を前提に環境保全措置を講ずること。特に生息情報のある種については、必要な調査及び環境保全措置を講ずること」とと述べられています。
 
まず、そのこと自体が疑問なのですが、その先にある影響評価の内容もまた、おかしいのです。
 
影響評価においては、工事がその”重要な種”に与える影響を予測し、影響が出るであろうと予測される場合は、保全措置を考えることとなっています。
 
で、準備書を見てみますと、改変予定地で確認されたものに対して
生息環境である○○は、工事作業により一部が改変されるものの、周辺に同様の環境は広く残されることから、生息環境は保全される。
という表現が使いまわされています。だから保全措置は不要なんだとか。

一例として両生類のヒダサンショウウオに対する影響評価を貼り付けておきます。線を引いた部分ですね。
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全く同じ表現が、JR東海による現地調査で確認された重要な動物84種のうち実に83種で使いまわされています()。使われていない1種は、上空を通過しただけと思われるハヤブサだけ。植物でも21種のうち13種で使われています。
 
準備書を読むと、重要種の中には、「ヒガシニホントカゲ」というものも含まれている。希少種でもなんでもなく、農村の石垣なんかでよく見られる、尾の青いトカゲである。
 
県版レッドデータブックで部会注目種に指定されていることから、重要種に位置づけたと思われるが、これは重要種の選定作業にあたり、レッドデータブックの中身を読まず、機械的に拾い上げただけの証拠だと思う。このトカゲ、県内全域に分布していると思われていたが、近年、伊豆半島に生息しているものは別種のオカダトカゲであることが判明し、どうも静岡県東部が分布の境界になっているらしいことがわかった。県内の分布状況が特異であることから、レッドデータブックに掲載されたのである。
 
私自身としては、南アルプスにおける分布状況は分からないけれども、こうした種については、地域状況に照らし合わせて、本当に重要種に位置づけるのが適当かどうかの検証作業を行うべきであろう。その作業をおこなっていないあたり、やはり手抜きの調査だと言わざるを得ない。
 
環境影響評価では定番の書き方のようですが、実にいい加減です。
 
まず、そもそもの疑問ですが、本当に周辺に同様の環境は広く残されるのでしょうか? 一番肝心な点が、全く述べられていません。
 
そして「周辺に同様の環境は広く残されることから、生息環境は保全される」ことが、なぜその種の存続につながると言えるのでしょう?
 
 
 
準備書に詳しい説明はありませんが、私なりに考えますと、3通りの解釈が可能です。
①周辺の同様の環境にも、同じ種が数多く分布しているから
②周辺の同様の環境に移動してくれるから
③周辺の同様の環境に移動させることができるから

移動することのできない植物や、移動能力に乏しい微小な動物(巻貝など)に対しては①、動物には両方の意味で解釈しろということなのでしょう。
 
しかしながら、①はあからさまにヘンです。なぜなら、同様な環境ならばどこにでも分布しているような生物なら、わざわざ”重要な種”に位置吹ける必要はないからです。個体数が少ないから絶滅危惧種等に指定されているという当たり前の前提条件が無視されています。
 
それに、たとえ実際には周辺に多く分布していたとしても、その状況を説明するような資料は掲載されておらず、説得力が全くありません。
 
②のおかしいところは、その動物が生息するのに必要な環境が、周辺にどの程度存在するのか、また、その動物の移動能力と適応能力からみて移動は可能か、という点からの説明がなされていないことです。
 
例にあげたサンショウウオの場合、種が存続してゆくためには、産卵に適した適度な流速と大きさの石を備えた小さな清流と、それに連続した森林という環境が欠かせません。そういう場所が、本当に周辺にも広く分布しているのか、水辺から離れることができず、そのうえヨチヨチ歩きのサンショウウオがそこまで移動してくれるのか、そんなことは全く言及していません。
 
絶滅のおそれのあるような重要種というのは、たいてい生息環境の変化に弱く、適応能力が低いと考えるべきです
 
フクロウ類、コウモリ類は、大きなウロの空いた大木が多数存在することが大前提。特に樹洞性のコウモリは、樹洞でしか繁殖できないそうです。
 
イワナやカジカの存続には、清澄な水と隠れ家、エサとなる昆虫の存在、渇水時や増水時に避難場所となる枝沢の存在といった条件が必要です。
 
チョウやガの場合、幼虫が特定の植物しか食べない種があります。幼虫の越冬場所が必要なものもあるでしょう。
 
イヌワシ、クマタカの場合は、営巣するための大木や崖、エサとなる動物が豊富な生態系、広大な狩場、そしてむやみに人が近づかない環境など、非常に厳しい条件が必要です。
 
83種あれば、83種ぞれぞれの生息に適した環境に関する説明が必要なところですが、準備書からは、具体的なことが全く見えてきません。
 
 
③についても、なかなかうまい具合に話は進みません。
例えば、植物のラン類の場合、特定の菌類が存在しないと発芽できない種が多く(つまり移植困難)、なかなか移植は困難です。こういう技術的な問題以前に、果たして移植することで移植先の生態系を乱すことにつながらないのかという議論も欠かせません。トキやコウノトリの野生復帰だって、あれだけ試行錯誤を繰り返したのですよ・・・。

ところで、サンショウウオの資料を出したついでに・・・
 
ちょっと渓流に生息する動物(サンショウウオ、ヤマトイワナ、カジカとか)について考えます。
 
南アルプスという場は地形の変動が激しいため、土石流や山崩れで沢ごと消滅してしまう危険性もあります。これは過去から繰り返されてきた自然の営みです。それでもサンショウウオ等が絶滅せずに生き残ってきたのは、沢と沢とが連続したネットワークを形成していたからです。どこか1つの沢で絶滅しても、また長い年月をかけて別の沢から移動してきて分布域を回復させる…こんなことが何千年も繰り返されてきたのでしょう。いってみれば、局地的な災害が起きても全滅しないように各地にストックを分散させてきたようなものです。
 
重要種、すなわち個体数の少ない生物というのは、その機能が種全体で弱まっていると言えます。
 
機能の弱まった種に対し、災害の起こりやすい場所で、人為的に一部の生息域を破壊・分断してしまうと、全体のネットワークの寸断となり、個体群の孤立化を招き、分布の縁辺部からますます数が減ってゆくのではないか、懸念してしまいます。
 
準備書でいう「周辺に同様の環境は広く残されることから、生息環境は保全される」というのは、事業者の勝手な願望なのではないのでしょうか

リニア計画 環境保全を求める沿線からの声はJR東海に届かないらしい

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環境保全に対するJR東海の姿勢がよ~く分かるニュースがありました。
 
長野県大鹿村で、リニアの工事が計画されている周辺地域で絶滅のおそれの高いミゾゴイが営巣していることが指摘され、問題視されています。
 
以下、信濃毎日新聞の記事を一部コピー。

リニア中央新幹線計画をめぐり、JR東海は31日、県庁で開いた県環境影響評価技術委員会会合で、下伊那郡大鹿村の計画路線近くで確認されたサギ科の渡り鳥ミゾゴイ(絶滅危惧2類)について、工事着手前に生息状況を目視で調査すると明らかにした。木曽郡南木曽町が求めた作業用トンネルを2本設置する計画の見直しと、大鹿村が要請した村内全区間の路線地中化については、2027年開業目標に間に合わせる必要性などからともに難色を示した。
 
 ミゾゴイなど希少な動植物に関する審議は、生息地保護のため非公開。JR東海は会合後の取材に、地元住民に今月聞き取り調査を行い、目撃地点を確認したところ、リニア工事用地から約600メートル以内の生息に影響が及ぶ場所ではなかった―と説明。4月にもまとめる環境影響評価書の作成までの目視調査は見送る一方、地元の懸念が根強いこともあり、大鹿村とも相談して工事着手前での実施を決めたとした。
 
以上、引用終わり。

すっごくおかしな話です。

ちょっと、環境影響評価の手続きをおさらいしてみます。
 
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現地調査や各種シュミレーション等により、事業による環境への影響を予測・評価をおこない、対策を考えます。一連の作業をまとめた文書を準備書とよびます。
 
この準備書に対しては、一般市民からの意見、沿線市町村からの意見(知事経由)を踏まえた知事の意見が寄せられ、事業者はそれに応じて内容を書き換えることになります。リニア計画の場合、知事意見の提出期限は3月25日となっています。
 
準備書を書き換えたものを評価書と呼びます。
 
評価書については環境省による審査が行われ、その審査結果は環境大臣意見として所轄大臣(リニアの場合は国土交通大臣)に提出され、そして事業の許認可審査となります。

事業者の作成した準備書や評価書の記載内容では環境対策ができていないと判断された場合、環境影響評価法の規定に従って再調査を求められることもあります。
 
例えば愛知万博の際には、準備書の審査の最中に工事予定地で希少種のオオタカの営巣が見つかり、それへの影響が避けられないと判断されて事業予定地変更を求められ、さらに対策として出した別の事業予定地についても調査が不十分と判断され、結局、評価書が2度出されました。
 
《愛知万博における準備書改訂の流れ》
1998年3月 環境影響評価実施計画書(準備書に相当)の公表。調査計画が不十分であるとして、日本自然保護協会、日本野鳥の会、世界自然保護基金が共同意見を提出する。
 
1999年2月 事業者である2005年日本国際博覧会協会が準備書を公表。
 
1999年4月30日 準備書審査の最中に事業(つまり万博会場)予定地とされた海上の森(かいしょのもり)において、希少種のオオタカの営巣が地元住民によって確認される。県と事業者も2週間後に確認。
 
1999年9月 新しい会場計画を協会事務局が作成。環境への影響は避けられないとする内容。
 
1999年10月 事業者は会場予定地を若干変更した案を代替案としてまとめ、評価書として公表する。短期間で変更したため当然調査内容は不十分であり、しかも変更内容がわずかであったため、評価書検討委員会(通産省が設置)は、オオタカ等への影響は避けられないと判断する。博覧会国際事務局も計画を批判。このため、事業者はさらなる変更を求められる。
 
2001年12月 事業者が修正評価書を公表。会場予定地を大幅に変更することで決着。
 
この愛知万博においては、海上跡地に大規模な団地を造成しようとか、裏でいろいろな思惑がうごめいていたようですが、とりあえず準備書審査によって会場変更に至った経緯のあらましはこんな感じです。

つまり、準備書の審査によって事業内容が変更することがありうるわけです。っていうか、環境影響評価は環境への影響がどのようなものか調べ、事業に反映させようとするのが目的なのですから、当然な話です
 
 
 
とすると、JR東海の姿勢はあからさまにおかしい
 
どういうわけか知らないけれど、すでに準備書を書き直す日程が定まっているなんて、環境影響評価の趣旨からすればありえないはずなのです。
 
大鹿村のミゾゴイのみならず、各地から調査や事業計画の根本的な見直しを求める声があがっています。
 
●水環境調査のやりなおし(山梨県富士川町、静岡県静岡市)
●残土捨て場の変更(静岡県静岡市)
●斜坑計画の見直し(静岡県静岡市、長野県南木曽町)
●動植物調査のやり直し(静岡県静岡市)
●工事用道路計画の変更(静岡県静岡市、長野県大鹿村)
●ルートの地下化(岐阜県可児市、長野県大鹿村)
●景観調査のやりなおし(静岡県静岡市)
 
知事は、これら市町村意見を反映させて、3月25日までに、JR東海に知事意見として提出します。このような声に応えるためには環境影響評価のやり直しが必然であり、1年半はかかります。不十分とされた項目について方法書段階からやりなおさねばなりません。そして当然適切な期間をとらねばならず、ムリにやったところで愛知万博の二の舞になるだけです。
 
というわけで、評価書を4月に作成することは不可能なはずです。
 
しかし記事には「4月にもまとめる環境影響評価書の作成までの目視調査は見送る」と書かれています。すなわち再調査や事業内容の変更には応じられないことを意味しており、「市町村意見は無視する」と公言しているのと変わりありません
 
実際、静岡市の場合、先日お知らせしたように、南アルプス標高2000mの地すべり真上に残土を捨てるという、あまりに非常識な計画を回避するよう求めていますが、JR東海はそれについても「今のところ計画を変更する予定はない」と答えているそうです(30日中日新聞静岡版より)。
 
何か、4月にまで間に合わせなければならない特別な事情でもあるのでしょうか?
 
「2027年開業目標に間に合わせる必要性などから難色を示した」と記事にありましたが、沿線(少なくとも静岡県)の人々がそんなスケジュールを頼んだのでも、やれと命じたわけでもありません。勝手に事業計画を立てて、一方的に調査を行い、「環境に影響が出ようともおたくらの言うことには耳を傾けることはしない」と述べているのです。こりゃあヘンですよ。
 
1997年に環境影響評価法が施行されて以降、いろいろ問題点がありながらも、それなりに環境影響評価の内容はマシになってきました。少なくとも1997年以前の閣議アセスとよばれた時代よりは、よくなっているようです。
 
ところがリニア中央新幹線の環境影響評価と、事業者であるJR東海の姿勢は、あからさまに時代錯誤です(神奈川県や山梨県の審査会でもこの声が出ている)。1997年以降の環境影響評価では、1,2を争うほどいい加減な内容ではないでしょうか。

エコパーク登録のために南アルプス国立公園拡張の早期実現を!

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唐突ですが、22年前のブラジルでの話から始まります。
 
1992年、ブラジルのリオデジャネイロで国連会議が開かれました。地球規模での環境保全がテーマとなったため、通称地球サミットとよばれます。この場において、生物多様性条約の調印が開始されました。当然、日本国もこの条約を批准しています。
 
この条約には、批准国が守る原則だけが書かれており、各国は条約の原則に従って国内の制度を整備してゆくことで効力を発揮することに特徴があります。
 
以下、それを受けた流れです。
 
1993年12月21日 生物多様性条約が発効。日本政府も締結。
 
1995年 政府は同条約6条「生物の多様性の保全及び持続可能な利用を目的とする国家的な戦略若しくは計画を作成し、又は当該目的のため、既存の戦略又は目的を調整し、特にこの条約に規定する措置で当該締約国に関連するものを考慮したものになるようとする」という内容に沿って生物多様性国家戦略を作成。この中で、国立・国定公園のあり方について見直しを公表する。
 
2000年12月 生物多様性国家戦略に基づき、環境大臣より中央環境審議会に対し、「自然公園の今後のあり方について」を諮問。http://www.env.go.jp/nature/ari_kata/
 
2004年2月 マレーシアで開かれた第7回生物多様性条約締約国会議(COP7)において、保護地域作業計画が決議される。これは代表的な生態系を網羅した保護地域ネットワークの確立を目標としており、このために「2009年までに、国あるいは地域レベルのギャップ分析により抽出された保護地域を選定する」という目標が掲げられる。
 
2007年11月 環境省は、保護地域作業計画(2004年決議)に基づき、第3次生物多様性国家戦略において、国立・国定公の総点検をおこなうとし、これより作業が開始される。生物多様性の保全上重要な地域と保護地域とのギャップの分析が中心作業となる。これは2004年のCOP7で掲げられた国際目標実現に向けた行動でもある。
 
2010年10月4日 環境省は国立・国定公園総点検事業の結果、10年以内を目標として南アルプス国立公園などの区域拡張や、新たな国立・国定公園設置をおこなう方針を決定。http://www.env.go.jp/park/topics/review.html(環境省)
この発表では、南アルプス地域について、次のような評価が与えられている。上の環境省発表より、一部を複製して添付する。詳しくはリンク先をご覧いただきたい。
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以上のように様々な観点から、国内の生物多様性保全のために重要な地域を探し出し、そのうち、既存の制度による保護のなされていない地域を抽出し、今後の国立・国定公園の拡張候補地としたのである。
 
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このように政府として、南アルプス一帯の自然環境は国内でも突出して優れていると判断したわけである。
 
同年10月下旬 以上の国立・国定公園の新規指定・拡張方針の決定が、名古屋市で開催された第10回生物多様性条約取締役国会議{通称COP10)にて報告される。つまり、国際目標を実行したことの報告でもある。
 COP10では2020年に向けて20の行動目標がまとめられている(愛知ターゲット)。そのうち目標11では
生物多様性と生態系サービスにとって重要な地域を中心に、陸域および内陸水域の少なくとも17%、沿岸域および海域の少なくとも10%を、効果的な保護区制度などにより保全する。
http://www.wwf.or.jp/activities/2012/07/1076623.html(WWFジャパン)
という項目があり、国立・国定公園の拡張を実行に移すことは、愛知ターゲットの実現という意味合いをもつ。
 
2013年8月 国内で31番目となる慶良間国立公園の設置が決まったが、これも国立・国定公園総点検事業の結果を受けたものである。
 
つまり、生物多様性の保存に向けた国際的取り組みの一環として、南アルプス国立公園区域を拡張する方針が打ち出されていたのです。

唐突に、なぜこんな話を持ち出したかというと、エコパーク登録を推進するためには欠かせない政策だと思うからなのです
 

ご存知のとおり、現在、南アルプスをユネスコ・エコパークに登録しようという運動があり、今年6月にもその可否が明らかになります。
 
詳しくはこちらにまとめてあります。
 
注意していただきたいのですが、エコパークに登録することで自然保護が行われるのではありません。逆に、自然保護計画がきちんと整備されている場所が、エコパークとして国際的な自然保護地域と認められるのです
 
したがってエコパークに登録するためには、、法律などの規制によって自然環境を保全し、乱開発を制限することが求められます。登録後も10年おきに審査が行われますので、長期的な管理体制が整っていなければなりません。また、保護の中心となる地域が適切に管理されるよう、それを包み込む広範な範囲を保護せねばなりません。http://risk.kan.ynu.ac.jp/gcoe/J-BRNet.html(日本ユネスコ国内委員会MAB計画分科会)
 
ところが南アルプスは、まさに日本を代表する山岳地域でありながら、国立公園等の保護区域が異常に狭いという状況にあります。ちなみに日本列島にある標高2500m以上の山々のうち、何も保全対象になっていないのは、南アルプス南部の静岡県側(蝙蝠岳、徳右衛門岳、笊ヶ岳・布引山など)だけです。
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これは半世紀前、南アルプスが国立公園に制定される際、大井川流域の広大な山林が林業の施行対象(静岡市/東海パルプ、本川根町/林野庁)となっており、伐採に規制がかかることから交渉がうまくゆかなかったただめだそうです。
 
国立公園区域が狭いのを補完するかのように、
 
大井川源流原生自然環境保全地域(自然環境保全法)
南アルプス光岳森林生態系保護地域(林野庁の保護林)
南アルプス巨摩県立自然公園(山梨県条例)
早川渓谷自然環境保全地域(山梨県条例)
笊ヶ岳自然環境保全地域(山梨県条例)
奥大井県立自然公園(静岡県条例)
 
という保護地域が設けられていますが、いずれも稜線や渓流沿いの狭い帯状範囲が飛び地状に指定されるのにとどまり、広範囲の環境保全を保障するものではありません。

国内推薦するにあたり、どのような検討がなされたのかは不明ですが、少なくとも現状では、適切な自然保護体制が取られているのは南アルプスの一部地域に限られており、地域全体としては、あるいは長期的に見ても環境保全の保障が十分になされていないといえます。これは、登録に際しては不利な条件でしょう。
 
国内でのエコパーク登録事例については不勉強なのでよく分かりませんが、世界自然遺産の例では、保全管理計画を大幅に強化することを、毎回、登録条件とされています。例えば白神山地の場合、登録地域を1.7倍に拡張することを求められ、そのために森林生態系保護地域を大幅に拡張することで決着をみました。
 
(注)森林生態系保護地域は林野庁の保護林であり、国民の利用も目的とした国立公園とは異なり、一般人の立ち入りは禁止となっている。このため地元住民から大きな不満が出て、問題となっている。
 
したがって、南アルプスの長期的かつ有効な環境保全措置として、国立公園地域を拡張し、自然公園法による網をかぶせて守ることが一番有効だと思いますす。国策として南アルプス全体の環境保全を計画しているのですから、願ってもないことです。

国立公園特別地域に指定されますと、開発には規制がかかります。とはいえがんじがらめになるのではなく、基本的に規制の対象とされるのはムチャクチャな乱開発です。林業が全面的に禁止されるわけでも、渓流釣り/狩猟/山菜採りが禁止されるわけでもありません(もちろん、地域を限って禁止することは法的に可能)
 
国立公園区域制定の交渉に失敗してから50年、もはや天然林を乱伐するような需要のある時代ではありません。地権者としても、国立公園に制定されたところで、とりたてて困るようなことはないと思います。富士山麓や箱根や阿蘇のように、ふつうに人の生活だって認められていますし、尾瀬ヶ原のように、私有地でありながら国立公園で最も規制の厳しい特別保護地域に指定されているような場所も数多くあります(尾瀬ヶ原は東京電力の土地)。紀伊半島の吉野熊野国立公園のように、登録地の民有林でふつうに林業が営まれている例もあります。

自然保護団体などからは、「日本の自然公園法の規制はザル」と酷評されていますが、それでも何もないよりははるかにマシです。
 
もし仮に…
あちこちにトンネルを開けたり、
残土を標高2000mの場所に積み上げたり、
大規模に谷底を埋め立てたり、
トンネル工事で川の流量を減少させたり、
希少な植物を重機や残土で踏み潰したり、
林道をダンプカーで占拠して国立公園利用者を締め出したり、
大騒音を出したり

するようなムチャクチャな計画が持ち上がっても、それぞれの行為に対し、その都度、自然公園法に基づく審査が必要となり、基準を満たしていないものは却下できます。要するに、エコパーク登録で求められる、長期的で確実な自然保護制度となるわけです。
 
もっとも、日本を代表する自然景観を有する山岳地域において、そんな荒唐無稽な計画を立てているなんて馬鹿な話があるわけないと思いますが。
 
 
エコパーク登録を確実なものにするためにも、国立公園指定を急ぐべきだと思います。
 
 
 
 
(追記)
愛知でCOP10の開かれている最中の10月20日 国土交通省のとある委員会が、南アルプスをぶち抜く某トンネル構想について自然環境面から審議。審議のマネをしただけで、何も話し合いはもたれないのに「環境面からルートの選定はできない」という結論が出される。
 
そして同年12月15日、同小委員会は南アルプスにトンネルを掘っても構わないとする内容の中間取りまとめ案を公表する。以上のような、南アルプス国立公園拡張計画に関する審議は全く行われていない。
 
環境省が諮問した専門家審議会が3年間にわたって審議を続け、その結果として「南アルプス一帯はわが国において突出した景観を生態系を有するため、その国立公園指定区域を拡張すべきである」と結論付けたが、中央新幹線小委員会は10分程度(たぶん)のムダ話で「他の場所と比べて優れているかどうか分からないから、べつにトンネル掘っても構わないよね」という結論に至っている。詳しくはこちらを参照していただきたい。http://park.geocities.jp/jigiua8eurao4/chuuoushinkansen-environmental-shingi.html
 
トンネル計画と南アルプスエコパーク構想との関係
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「リニアは環境アセスメントがほとんど不要」というのが環境省の見解らしい!?

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今頃、とんでもないことに気付きました。
 
なんとリニア中央新幹線整備計画は、事実上、大部分の環境アセスメントが不要になっているようなのです。
 

環境省は2011年7月15日、中央新幹線計画段階環境影響評価配慮書に対する環境大臣意見を提出しました。http://www.env.go.jp/press/file_view.php?serial=17908&hou_id=14026(PDFファイル)
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この意見では、列車の走行する軌道以外の施設(付帯施設)については、「評価書作成までの間に位置等を明らかにすることが困難な場合は環境保全措置を評価書に記載し、事後調査を行う必要がある」と述べています。事後調査とは、着工後に、評価書に示した保全措置が適切になされて環境に著しい影響を与えていないか確認するだけのことであり、これを行うことを約束すれば、付帯施設に関しての環境影響評価手続は自動的に終了することになります
 
つまり、事業認可までに行われる環境影響評価手続においては、付帯施設の位置・規模・構造を明らかにする必要も、その建設工事や存在による環境への影響を調査・予測・評価する必要もないということになります。
 
環境大臣意見でいう付帯施設とは、橋梁、トンネル、斜坑、縦坑、工事用道路、施行ヤード、残土捨て場、変電所、保守基地など、軌道以外に建設する、ありとあらゆるものが含まれています。大臣意見を忠実に解釈すれば、これら全てについて、許認可前のアセス対象とする必要がなくなります。それゆえ、どんなに準備書・評価書の記載内容に不足・不備があっても、認可することとなります。
 
静岡県での地上工事(残土捨て場、施行ヤード、斜坑、工事用道路など)は全て付帯施設の建設のために行われますので、それらは全てアセス不要という見方もできます。また長野県大鹿村や南木曽町で、斜坑の数の多いことによる懸念が訴えられていますが、斜坑は付帯施設なので、現段階で事業者(JR東海)は耳を傾けなくてもよいことになります。
 
沿線住民や市町村、あるいは準備書の審議会の場で、「残土の処分方法を示せ」「具体的な場所や構造が明らかにならないと審議すらできない」という声が相次ぎ、JR東海への批判が強まっています。事業による環境への影響を審査するための資料が準備書なのであり、その記載内容が不足しているのですから、至極当然な主張です。しかし環境大臣意見に照らし合わせてみれば、それは的外れな主張であり、情報を出さないJR東海の姿勢は、論理的にも社会通念上としても好ましくありませんが、間違ってはいません。むしろ、アセス不要とされた斜坑や一部残土捨て場の情報を出したことは、ほめられるべきと見なすこともできます(内容は問題だらけなのですが)。
 
付帯施設について、環境大臣意見で「許認可審査にアセスは不要」とはいっても、その工事や存在が環境に与える影響は甚大です。付帯施設がなければ軌道は造れないわけですし、おそらく軌道の出現よりも大きな影響を及ぼすことでしょう。こんなのが無視されていいわけありません。
 
例えば残土捨て場の建設は、法律に基づくアセス対象事業ではありませんが、一定規模以上になれば、都や県条例に基づくアセス対象となります。リニアの残土捨て場は、残土発生量からみて条例アセス対象となる可能性があります。
 
というわけで、環境大臣意見が骨抜きならば条例で対応できるのでは?と思いましたが、そうもいかないようです。
 
環境影響評価法には次のような条文があり、同法を条例との関係を規定しています。
 
(条例との関係)
第六十一条  この法律の規定は、地方公共団体が次に掲げる事項に関し条例で必要な規定を定めることを妨げるものではない。
一  第二種事業及び対象事業以外の事業に係る環境影響評価その他の手続に関する事項
二  第二種事業又は対象事業に係る環境影響評価についての当該地方公共団体における手続に関する事項(この法律の規定に反しないものに限る。)
 
何のことだかさっぱりわからない文章ですが、環境省はこの条文について、公式に次のように解説しているそうです。
 
法律によるアセスメントが実施される事業について、条例で「環境影響評価に関する一連の手続」を定め、法律によるアセスと条例に基づくアセスの両方の実施を義務付けことはできない畠山武道「自然保護法講義」北海道大学出版会p.293より
 
つまり、環境影響評価法に従ってアセスを行う事業に対し、条例によって追加的にアセスを行わせるのは違法であり、できないということです。
 
以上のことをまとめると、次のような結論となります。

リニア中央新幹線整備計画(法アセス対象事業)では、斜坑、工事用道路、残土捨て場、変電所など付帯施設が多数建設される。環境に与える大きさという意味では、本線の建設よりも大きいかもしれない。これらは、たとえ単独で行われれば条例アセス対象事業となる規模であっても、配慮書への環境大臣意見では法アセス対象事業の付帯施設とみなされ、許認可審査に際して詳細な調査・予測・評価はもとより、位置や規模を明らかにする必要すらないとされている。
 
したがって、現段階でリニア中央新幹線整備計画に伴う環境への影響を審議する情報が不足しているのは当然であり、事業者であるJR東海を批判しても無意味で的外れである。そして、どれほど情報が不足していても、国による許認可審査では不問である。

このように、「とりあえず認可を与えてから対策を練ればよい」「着工後に調査すればよい」というのは、四半世紀前の東北・上越新幹線とか長野新幹線を計画していた頃の閣議アセスとよばれる進め方です。

いっぽう配慮書において環境大臣意見を提出するというのは、計画の早期段階から環境配慮を促そうという新しい試みであり、このリニア中央新幹線整備計画が第一号となりました。その第一回目において、四半世紀前のアセス手法をよみがえらせ、いきなり手抜きを奨励してしまったように見受けられます。
 
環境省のこの意見は、非常に無責任だと思います。そのうえ、環境影響評価制度のあるべき姿をねじ曲げています。

南アルプスをどんなにメチャクチャにしても事業認可の審査には関係がない?

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前回の記事を少々書き直します。
 
と、思いつつ、いくらなんでもこんなバカな話はないと思ったりもしています。
 
なぜなら、こんなことがまかり通ったら、冗談ではなく南アルプスはもとより、リニア沿線一帯に、メチャクチャな環境破壊を引き起こしかねないからなのです。
 
①配慮書に対する環境大臣意見
環境省は2011年7月15日、中央新幹線計画段階環境影響評価配慮書に対する環境大臣意見を提出しました。
http://www.env.go.jp/press/file_view.php?serial=17908&hou_id=14026(PDFファイル)
この意見は、環境影響評価(アセス)の第一歩として、国が最初に出した意見となります。
 
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この意見では、列車の走行する軌道以外の施設(付帯施設)については、「評価書作成までの間に位置等を明らかにすることが困難な場合は環境保全措置を評価書に記載し、事後調査を行う必要がある」と述べています。事後調査とは、着工後に、評価書に示した保全措置が適切になされて環境に著しい影響を与えていないか確認するだけのことであり、これを行うことを約束すれば、付帯施設に関しての環境影響評価手続は自動的に終了することになります。
 
つまり、事業認可までに行われる環境影響評価手続においては、「位置等を明らかにすることが困難な場合」という条件をつければ、付帯施設の位置・規模・構造を明らかにする必要も、その建設工事や存在による環境への影響を調査・予測・評価する必要もないということになります。
 
環境大臣意見でいう付帯施設とは、橋梁、トンネル、斜坑、縦坑、工事用道路、施行ヤード、残土捨て場、変電所、保守基地など、軌道以外に建設する、ありとあらゆるものが含まれています。大臣意見を忠実に解釈すれば、後述するように、これらについてどんなに準備書・評価書の記載内容に不足・不備があっても、認可することとなります。
 
②環境大臣意見のもたらす混乱
準備書についての各地の審議会議事録を見てみると、具体的な環境保全措置や工事計画をたずねられた際に、JR東海側の出席者から「それは事業を進めながら考えてゆきたい」と回答し、出席委員から「これでは審議しようがない」と不満が洩れる場面が目に付きます。事業による環境への影響を審査するための資料が準備書なのであり、その記載内容が不足しているのですから、至極当然な主張です。また、準備書の説明会においても、住民からの質問に対して同様の回答をする場面が目立っています。
 
このようなJR東海の姿勢に批判が高まっていますが、環境大臣意見に照らし合わせてみれば、合点がゆきます。環境大臣がそれでOKと言っているのです。情報を出さないJR東海の姿勢は、論理的にも社会通念上としても好ましくありませんが、論理的には間違っていません。むしろ、アセス不要とされた斜坑や一部残土捨て場の情報を出したことは、ほめられるべきと見なすこともできます(内容は問題だらけなのですが)。

③条例でも対応できない?
付帯施設について、環境大臣意見で「許認可審査にアセスは不要」とはいっても、その工事や存在が環境に与える影響は甚大です。付帯施設がなければ軌道は造れないわけですし、おそらく軌道の出現よりも大きな影響を及ぼすことでしょう。こんなのが無視されていいわけありません。
 
例えば残土捨て場の建設は、法律に基づくアセス対象事業ではありませんが、一定規模以上になれば、都や県条例に基づくアセス対象となります。リニアの残土捨て場は、残土発生量からみて条例アセス対象となる可能性があります。
 
というわけで、環境大臣意見が骨抜きならば条例で対応できるのでは?と思いましたが、そうもいかないようです。
 
環境影響評価法には次のような条文があり、同法を条例との関係を規定しています。
 
(条例との関係)
第六十一条  この法律の規定は、地方公共団体が次に掲げる事項に関し条例で必要な規定を定めることを妨げるものではない。
一  第二種事業及び対象事業以外の事業に係る環境影響評価その他の手続に関する事項
二  第二種事業又は対象事業に係る環境影響評価についての当該地方公共団体における手続に関する事項(この法律の規定に反しないものに限る。)
 
何のことだかさっぱりわからない文章ですが、環境省はこの条文について、公式に次のように解説しているそうです。
 
『法律によるアセスメントが実施される事業について、条例で「環境影響評価に関する一連の手続」を定め、法律によるアセスと条例に基づくアセスの両方の実施を義務付けことはできない』
畠山武道「自然保護法講義」北海道大学出版会p.293より
 
つまり、環境影響評価法に従ってアセスを行う事業に対し、条例によって追加的にアセスを行わせるのは違法であり、できないということです。

④残土処分計画がメチャクチャでもリニア計画は認可されるらしい
いろいろ調べていて初めて知ったのですが、鉄道事業法には、事業認可の審査の際に、環境配慮を義務付けていません。そのかわりに、環境影響評価法三十三条一号の規定が、その役割を果たしているそうです。

(免許等に係る環境の保全の配慮についての審査等)
第三十三条  対象事業に係る免許等を行う者は、当該免許等の審査に際し、評価書の記載事項及び第二十四条の書面に基づいて、当該対象事業につき、環境の保全についての適正な配慮がなされるものであるかどうかを審査しなければならない。
2  前項の場合においては、次の各号に掲げる当該免許等(次項に規定するものを除く。)の区分に応じ、当該各号に定めるところによる。
一  一定の基準に該当している場合には免許等を行うものとする旨の法律の規定であって政令で定めるものに係る免許等 当該免許等を行う者は、当該免許等に係る当該規定にかかわらず、当該規定に定める当該基準に関する審査と前項の規定による環境の保全に関する審査の結果を併せて判断するものとし、当該基準に該当している場合であっても、当該判断に基づき、当該免許等を拒否する処分を行い、又は当該免許等に必要な条件を付することができるものとする。
 
これまた意味不明な文章ですが、公害関連の法律書を読みますと、この規定が存在することにより、「環境大臣・国土交通大臣が環境影響評価書の内容を審査し、適切な環境配慮がなされていると判断すれば、当該鉄道事業計画は、環境配慮の面においては、審査をクリアできる」という意味合いを持つそうです。
北村喜宣(2013)『環境法 第2版』弘文堂より
 
この部分、非常に重要ですので、よくご理解ください。評価書がリニア計画の許認可審査に必要な文書なのです。

その評価書に記載すべき内容について、環境省はアセスの開始と同時に、「付帯施設(つまりほとんどすべての施設)についての事前の調査・予測・評価・住民への情報提供・自治体での審議は、評価書作成までにできなければしょうがない。事後調査でOK」と言っちゃったのです。
 
ですから、評価書作成までに事前の調査・予測・評価・住民への情報提供・自治体での審議(つまり通常のマトモなアセス)は不要と言い切っていると解釈が可能なのです。
 
ということは、付帯施設(ほとんどすべての施設)については、評価書審査=事業認可審査の際に、国は不問に付すということになります。
 
 
⑤南アルプスをメチャクチャにすることが分かってても事業認可?
以上のように、付帯施設について様々な懸念があっても、それは付帯施設の問題である限り、事業認可の審査には直接的に関係がないと解釈できるのです。
 
それゆえ…
標高2000mに残土を運び上げようと
あるいは残土処分について何も考えていなくても、
斜坑をやたらに掘って川を枯らす懸念があっても、
斜坑や残土処分について住民の質問に答えなくても、
自治体審議会に全く情報を出さなくとも、
残土にウランが含まれていようとも
工事用道路が地すべり地帯に造られようと
工事用道路や残土処分場が動植物の生息地を破壊しようと
 
評価書審査=許認可審査では基本的に問われないと思われます。環境大臣がそう言っちゃったのです。
 
ちょっと静岡県での地上工事を考えてみます。
 
静岡県つまり南アルプス山中には、
2本の斜坑(合計6600m)
2本の工事用道路(合計8800m?)
残土捨て場7ヶ所(計360万立方メートル?)
作業員宿舎2ヶ所(計700人)
工事施行ヤード2ヶ所
が設けられる計画になっています。
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これらは環境大臣意見に従えば、いずれも”付帯施設”です
 
それゆえ、これらの工事にどれほど強い懸念を地元が訴えたところで、すでに環境省は事業認可の判断材料にしないことを宣言したことになっているとみられるのです。
 
JR東海がこ~んなムチャクチャな残土処分計画を出し
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静岡市が「大崩壊を引き起こしかねない」として回避を求めていますが、たとえ県知事意見で全面的に採用して回避を求めても、事業認可には関係ないのです。そして前述の通り、県条例でアセスを求めることもできません。あとは、JR東海の裁量次第という、きわめて異常な事態なのです。
 
 
⑥結論
以上、私の感ずる懸念をまとめると、次のような結論となります。
リニア中央新幹線整備計画(法アセス対象事業)では、斜坑、工事用道路、残土捨て場、変電所など付帯施設が多数建設される。環境に与える大きさという意味では、本線の建設よりも大きいとみられる。これらは、たとえ単独で行われれば条例アセス対象事業となる規模であっても、配慮書への環境大臣意見では法アセス対象事業の付帯施設とみなされ、許認可審査に際して詳細な調査・予測・評価はもとより、位置や規模を明らかにする必要すらないとされている。そして事業認可の審査対象とはなっていない。
 
したがって、現段階でリニア中央新幹線整備計画に伴う環境への影響を審議する情報が不足しているのは当然であり、事業者であるJR東海を批判しても無意味で的外れである。そして、どれほど情報が不足していても、国による許認可審査では不問である。残土をどこに捨てようと、斜坑をどこに掘ろうと、そんなことは事業認可の後で決めればよいことになっている。
 
 
取り越し苦労だといいのですが…。

手抜きアセスが可能なのは運輸省令に基づいている?

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加筆を加えてどんどん長くなってゆきますが、どうぞご容赦ください。
 
土曜日は大雨(静岡は雨です)と強風に見舞われ、一日中ひきこもって環境影響評価制度について調べておりました。というわけでいろいろな疑問が次々湧いてきて、一度にまとまらないので、小出しにしている次第です。今回、「⑤環境大臣意見は運輸省の意向?」を書き加えました。
 
朝日新聞の記事(?)には「詳細データの開示を求めても応じないJR東海の姿勢に「これでは評価もできない」と委員たちは戸惑い、怒る。JR東海よ、これでいいのか? 」とありますが、JR東海だけが悪いのではありません。旧運輸省、それを引き継いだ国土交通省、手をこまねいていた環境省、そして国会議員、知らなかった国民、みーんな悪いんです。たぶん。
 
 
①配慮書に対する環境大臣意見
環境省は2011年7月15日、中央新幹線計画段階環境影響評価配慮書に対する環境大臣意見を提出しました。
http://www.env.go.jp/press/file_view.php?serial=17908&hou_id=14026(PDFファイル)
この意見は、環境影響評価(アセス)の第一歩として、国が最初に出した意見となります。
 
 
この意見では、列車の走行する軌道以外の施設(付帯施設)については、「評価書作成までの間に位置等を明らかにすることが困難な場合は環境保全措置を評価書に記載し、事後調査を行う必要がある」と述べています。事後調査とは、着工後に、評価書に示した保全措置が適切になされて環境に著しい影響を与えていないか確認するだけのことであり、これを行うことを約束すれば、付帯施設に関しての環境影響評価手続は自動的に終了することになります。
 
つまり、事業認可までに行われる環境影響評価手続においては、「位置等を明らかにすることが困難な場合」という条件をつければ、付帯施設の位置・規模・構造を明らかにする必要も、その建設工事や存在による環境への影響を調査・予測・評価する必要もないということになります。
 
環境大臣意見でいう付帯施設とは、橋梁、トンネル、斜坑、縦坑、工事用道路、施行ヤード、残土捨て場、変電所、保守基地など、軌道以外に建設する、ありとあらゆるものが含まれています。大臣意見を忠実に解釈すれば、後述するように、これらについてどんなに準備書・評価書の記載内容に不足・不備があっても、認可することとなります。
 
②環境大臣意見のもたらす混乱
準備書についての各地の審議会議事録を見てみると、具体的な環境保全措置や工事計画をたずねられた際に、JR東海側の出席者から「それは事業を進めながら考えてゆきたい」と回答し、出席委員から「これでは審議しようがない」と不満が洩れる場面が目に付きます。事業による環境への影響を審査するための資料が準備書なのであり、その記載内容が不足しているのですから、至極当然な主張です。また、準備書の説明会においても、住民からの質問に対して同様の回答をする場面が目立っています。
 
このようなJR東海の姿勢に批判が高まっていますが、環境大臣意見に照らし合わせてみれば、合点がゆきます。環境大臣がそれでOKと言っているのです。情報を出さないJR東海の姿勢は、論理的にも社会通念上としても好ましくありませんが、論理的には間違っていません。むしろ、アセス不要とされた斜坑や一部残土捨て場の情報を出したことは、ほめられるべきと見なすこともできます(内容は問題だらけなのですが)。

③条例でも対応できない?
付帯施設について、環境大臣意見で「許認可審査にアセスは不要」とはいっても、その工事や存在が環境に与える影響は甚大です。付帯施設がなければ軌道は造れないわけですし、おそらく軌道の出現よりも大きな影響を及ぼすことでしょう。こんなのが無視されていいわけありません。
 
例えば残土捨て場の建設は、法律に基づくアセス対象事業ではありませんが、一定規模以上になれば、都や県条例に基づくアセス対象となります。リニアの残土捨て場は、残土発生量からみて条例アセス対象となる可能性があります。
 
というわけで、環境大臣意見が骨抜きならば条例で対応できるのでは?と思いましたが、そうもいかないようです。
 
環境影響評価法には次のような条文があり、同法を条例との関係を規定しています。
 
(条例との関係)
第六十一条  この法律の規定は、地方公共団体が次に掲げる事項に関し条例で必要な規定を定めることを妨げるものではない。
一  第二種事業及び対象事業以外の事業に係る環境影響評価その他の手続に関する事項
二  第二種事業又は対象事業に係る環境影響評価についての当該地方公共団体における手続に関する事項(この法律の規定に反しないものに限る。)
 
何のことだかさっぱりわからない文章ですが、環境省はこの条文について、公式に次のように解説しているそうです。
 
『法律によるアセスメントが実施される事業について、条例で「環境影響評価に関する一連の手続」を定め、法律によるアセスと条例に基づくアセスの両方の実施を義務付けことはできない』
畠山武道「自然保護法講義」北海道大学出版会p.293より
 
つまり、環境影響評価法に従ってアセスを行う事業に対し、条例によって追加的にアセスを行わせるのは違法であり、できないということです。

④残土処分計画がメチャクチャでもリニア計画は認可されるらしい
いろいろ調べていて初めて知ったのですが、鉄道事業法には、事業認可の審査の際に、環境配慮を義務付けていません。そのかわりに、環境影響評価法三十三条一号の規定が、その役割を果たしているそうです。

(免許等に係る環境の保全の配慮についての審査等)
第三十三条  対象事業に係る免許等を行う者は、当該免許等の審査に際し、評価書の記載事項及び第二十四条の書面に基づいて、当該対象事業につき、環境の保全についての適正な配慮がなされるものであるかどうかを審査しなければならない。
2  前項の場合においては、次の各号に掲げる当該免許等(次項に規定するものを除く。)の区分に応じ、当該各号に定めるところによる。
一  一定の基準に該当している場合には免許等を行うものとする旨の法律の規定であって政令で定めるものに係る免許等 当該免許等を行う者は、当該免許等に係る当該規定にかかわらず、当該規定に定める当該基準に関する審査と前項の規定による環境の保全に関する審査の結果を併せて判断するものとし、当該基準に該当している場合であっても、当該判断に基づき、当該免許等を拒否する処分を行い、又は当該免許等に必要な条件を付することができるものとする。
 
これまた意味不明な文章ですが、公害関連の法律書を読みますと、この規定が存在することにより、「環境大臣・国土交通大臣が環境影響評価書の内容を審査し、適切な環境配慮がなされていると判断すれば、当該鉄道事業計画は、環境配慮の面においては、審査をクリアできる」という意味合いを持つそうです。
北村喜宣(2013)『環境法 第2版』弘文堂より
 
この部分、非常に重要ですので、よくご理解ください。評価書がリニア計画の許認可審査に必要な文書なのです。

その評価書に記載すべき内容について、環境省はアセスの開始と同時に、「付帯施設(つまりほとんどすべての施設)についての事前の調査・予測・評価・住民への情報提供・自治体での審議は、評価書作成までにできなければしょうがない。事後調査でOK」と言っちゃったのです。
 
ですから、評価書作成までに事前の調査・予測・評価・住民への情報提供・自治体での審議(つまり通常のマトモなアセス)は不要と言い切っていると解釈が可能なのです。
 
ということは、付帯施設(ほとんどすべての施設)については、評価書審査=事業認可審査の際に、国は不問に付すということになります。
 
 
⑤南アルプスをメチャクチャにすることが分かってても事業認可?
以上のように、付帯施設について様々な懸念があっても、それは付帯施設の問題である限り、事業認可の審査には直接的に関係がないと解釈できるのです。
 
それゆえ…
標高2000mに残土を運び上げようと
あるいは残土処分について何も考えていなくても、
斜坑をやたらに掘って川を枯らす懸念があっても、
斜坑や残土処分について住民の質問に答えなくても、
自治体審議会に全く情報を出さなくとも、
残土にウランが含まれていようとも
工事用道路が地すべり地帯に造られようと
工事用道路や残土処分場が動植物の生息地を破壊しようと
 
評価書審査=許認可審査では基本的に問われないと思われます。環境大臣がそう言っちゃったのです。
 
ちょっと静岡県での地上工事を考えてみます。
 
静岡県つまり南アルプス山中には、
2本の斜坑(合計6600m)
2本の工事用道路(合計8800m?)
残土捨て場7ヶ所(計360万立方メートル?)
作業員宿舎2ヶ所(計700人)
工事施行ヤード2ヶ所
が設けられる計画になっています。
 
これらは環境大臣意見に従えば、いずれも”付帯施設”です
 
それゆえ、これらの工事にどれほど強い懸念を地元が訴えたところで、すでに環境省は事業認可の判断材料にしないことを宣言したことになっているとみられるのです。
 
⑥環境大臣意見は運輸省令に従ったまで?
なぜ環境大臣意見が、環境影響評価(以下アセス)をこれほど骨抜きにしているのだろうと思ったのですが、調べてゆくうちに「主務省令」というものに行き当たりました。
 
こんなことを知ったところで、何か事態が改善するわけもないのですが・・・。
 
1997年(平成9年)に環境影響評価法が交付され、1999年から全面施行されました。その間に作成された主務省令というのが、キーワードになっているようです。
 
環境影響評価法には次のような条文があります。
(環境影響評価の項目等の選定)
第十一条  事業者は、・・・(中略)・・・事業の種類ごとに主務省令で定めるところにより、対象事業に係る環境影響評価の項目並びに調査、予測及び評価の手法を選定しなければならない
ここに主務省令という言葉があります。これは、アセスを行うための標準的な手法を、それぞれの事業分野ごとに、所轄行政機関が定めたものです。
 
リニア計画の場合は鉄道建設事業ですので、国土交通省が所轄官庁となります。ただし、これが定められたのは平成10年なので、運輸省令という呼び方になっています。正式には
『鉄道の建設及び改良の事業に係る環境影響評価の項目並びに当該項目に係る調査、予測及び評価を合理的に行うための手法を選定するための指針、環境の保全のための措置に関する指針等を定める省令
(平成十年六月十二日運輸省令第三十五号)』
という、バカみたいに長ったらしい名前がついています。
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H10/H10F03901000035.html
 
行政関係では「技術指針等を定める主務省令(鉄道)」とよばれているようです。面倒なので主務省令/鉄道で通します

で、その主務省令/鉄道には、環境に影響を与える要因となるモノ(影響要因)と、影響を受けるために調査・予測・評価対象とすべきモノ(影響要素)とが一覧表にまとめられています。リニア計画において、JR東海が行っているアセス項目も、この一覧表にしたがって行われています。
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一覧表には、影響要因として
鉄道施設(地表式又は掘割式)の存在
鉄道施設
(嵩上式)の存在
列車の走行(地下を走行する場合を除く)
列車の走行(地下を走行する場合に限る)
の4種が挙げられています。ここでいう「鉄道施設」という言葉が、本質的な問題を含んでいると思います。
 
「鉄道施設」という言葉については、主務省令では定義がありません(たぶん)。しかし鉄道建設について定めた鉄道事業法の施行規則で、事業認可の際に図面等が必要となる「鉄道施設」が列挙されており、それのことを指しているのだと思われます。
 
「鉄道施設」について鉄道事業法施行規則から拾い上げますと
一 鉄道線路
 (一般、土工、土留擁壁、橋りょう、トンネル及び落石覆い設備、踏切道、軌道)
ニ 停車場
 (駅、信号場、操車場)
三 車庫及び車両検査修繕施設
 (車庫、車両検査修繕施設)
四 運転保安設備
 (信号保安設備、保安通信設備、踏切保安設備)
五 変電所等設備
 (変電所、配電所、開閉所、巻上所、リニアモーター式普通鉄道の動力発生装置の地上設備、浮上式鉄道の浮上設備、アンナ相装置の地上設備及び動力発生装置の地上設備)
六 電路設備
( 送電線路、配電線路及びき電線路、電車線路)
となっています。
 
基本的にアセスに関連するようなのは一~三でしょう。
 
詳しくは一覧表に「鉄道施設」の一覧があるので、これを眺めていただければ分かりますが、トンネルという言葉はあるものの、長大トンネルを掘るために必要な作業用トンネル(斜坑、横坑、縦坑)については挙げていません。鉄道事業法ですから当然といえば当然ですが、トンネルから出た残土の処分場とか、工事作業員宿舎とか工事用道路といったものも、「鉄道施設」には含まれていません。
 
ということは、主務省令/鉄道でアセス対象の「影響要因」としている「鉄道施設」には、各種作業用トンネル、残土捨て場、工事用道路などは基本的に含まれておらず、アセス対象としなくても構わないという解釈が成り立ちます。
 
それからこの主務省令/鉄道には、影響要素ごとに評価手法が掲げられています。残土については「建設工事に伴う副産物」という扱いであり、予測の標準的な手法としては、「建設工事に伴う副産物の種類ごとの発生の状況の把握」としか書かれていません。よって、大量の残土をどういうふうに処分すべきか調査せよというところまでは言及していないのです。

冒頭に記したとおり、環境大臣意見で「付帯施設については、評価書作成までに位置等が決まらない場合は必要な調査を後で行うことを約束すればよい」としたことには、この主務省令が背景にあったのではないのでしょうか
 
主務省つまり旧運輸省が、鉄道建設事業においてアセス対象とすべきと選んだのは、あくまで鉄道の走行に関連した部分でした。そのように運輸省が決めた以上、環境省は口出しできないのでしょう。
 
JR東海も環境省も、マニュアル通りにやっているわけです。現在の状況にいろいろ問題がありますが、法的にはおそらく問題ありません。付帯施設にまつわる諸問題は、事業認可の際には取り扱われないのでしょう。
 
 それにしても、この運輸省令はリニア計画に対応できていないと思う。特に残土の扱いである。運輸省令を制定した頃、国内で大量の残土が出るような鉄道建設といえば、地下鉄や上越新幹線であった。前者はそのまま臨海部の埋め立て工事に、後者は周囲の国道・在来線を使うなどして適切な処理が可能であった。ところが、リニアはそうはいかない。想定外なのであろう。
 
⑦というわけで・・・。
環境大臣意見では「位置を明らかにするのが困難な場合」としています。というのがまた問題で、おそらくは構造、規模など多様な意味を含んでいるのでしょう。また、「事後調査」を「着工後に適切に対応していきたい」と同義とすると、次のようなやりとりが想定できます。
 
どこに残土捨て場を設けるのか。それが分からねば審議ができない。
 →「位置等を明らかにするのが困難なので答えられない。着工後に適切に対応していきたい」
残土処分場の構造が全く分からないのでどのような影響が出るのか分からない
 →「位置等を明らかにするのが困難なので答えられない。着工後に適切に対応していきたい」
宿舎からの排水対策が不明である
 →「現段階で構造を明らかにするのが困難なので答えられない。着工後に適切に対応していきたい」
残土捨て場からの流出対策を知りたい。
 →「現段階で構造を明らかにするのが困難なので答えられない。着工後に適切に対応していきたい」
斜坑や残土処分場が景観に与える影響を調べるべき
 →「現段階で構造を明らかにするのが困難なので答えられない。着工後に適切に対応していきたい」
こんなのを含めて残土処分計画を根本的に見直してほしい
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 →「現段階で詳細な計画を明らかにするのが困難なので答えられない。着工後に適切に対応していきたい」
 
おおっ、まさに審議会や説明会でのやりとりそのもの!

つまり、審議会や説明会でのJR東海の対応がおかしいのも、国が定めたマニュアル通りにやっているからなのです。
⑧結論
ここ数日の間に生じた疑念。
●リニア建設計画の環境配慮面での審査は、環境影響評価書によって行われる。
●環境影響評価書で取り扱うべき内容は、旧運輸省が作成した「技術指針等を定くめる主務省令(鉄道)」によって定められている。
●主務省令(鉄道)でアセス対象にすべきとされているのは、鉄道の運行に必要な設備だけであり、残土処分場や作業用道路、作業用トンネルなど付帯施設は含まれていない
●したがって、付帯施設は基本的にアセス対象にする必要がない
●ゆえに、付帯施設について事後調査としろというのが、環境省の精一杯の姿勢である。
●だから、付帯施設の建設によって南アルプスでムチャクチャな残土処分を行おうと、残土処分方法が決まっていなくても、事業認可には直接関係がない。
●だからといって、県条例によってアセスを行わせることもできない。
 
最近あちこちでリニア計画のアセスがひどいという声があがってきたのは、たぶん、こんなところが背景にあるのだろうと思います。
 

 
 

リニア準備書は「配慮書への環境大臣意見」に答えていないのでは?

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ここ数回、「リニア計画の環境影響評価は不備が非常に多くても事業認可に対してあまり問われない」ということを書きました。
 
環境影響評価配慮書に対する環境大臣意見の内容からも、おそらく、制度的にはそうなっていることが伺えます。
 
ところが改めてJR東海作成の準備書を見てみると、そのあまり強いことを求めていない環境大臣意見の水準をも満たしていないようなんですね。
 
 
 
もう一度、環境影響評価配慮書に対する環境大臣意見を見てみますと、次のようなことも書かれています。http://www.env.go.jp/press/press.php?serial=14026
 
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すなわち、「南アルプス国立公園の拡張候補地として検討が進められている地域については、環境に配慮した地下構造形式を基本にし、可能な限り付帯施設の設置も避けるべき」とあります。
 
事業者であるJR東海は、この大臣意見を受けてから方法書を作成し、調査・予測をおこなって準備書にまとめ、具体的な事業計画と調査結果を発表しました。したがって準備書に記載された事業計画には、この大臣意見が考慮されていなければならないことになります。この点は環境影響評価法第五条にも書かれている、事業者が守らなくてはならないルールです。
 
環境大臣意見で言う「南アルプス国立公園の拡張候補地として検討が進められている地域」が、正確にどの範囲を指しているのかは明確でありませんが、以前の国立公園総点検事業の資料から考えると、山梨県早川町、静岡市北部、長野県大鹿村一帯が該当するはずです。
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環境省のホームページより複製 詳しくは先日のブログ記事を参照
 
JR東海の事業計画では、この「南アルプス国立公園の拡張候補地として検討が進められている地域」の中で、様々な付帯施設を建設することとなっています。
 
早川町、静岡市、大鹿村内で計画されている付帯施設は、
先進ボーリング坑  (本坑に並行 断面積56平方メートル 長さ約25000m
作業用道路トンネル (断面積41平方メートル 長さ8500m
斜坑 (7~8本 推定合計長さ15000m)
作業員宿舎2ヶ所
残土捨て場 (少なくとも静岡市7ヶ所、早川町1ヶ所 静岡市だけで360万立方メートル
変電所 1ヶ所
 
となっています。さらに残土捨て場や作業用道路を土砂災害から保護するために、砂防ダムのようなものも多数設置されることでしょう。
 
また、早川を渡る橋りょうは長さ350~400m、高さ170mと、異常に高いものが計画されています。
 
さて、こうした内容の書かれた準備書について…
 
先日までと書いてある内容が矛盾するようですが、以下の理由により、環境大臣意見を勘案するという面からは、現段階でリニア計画を環境配慮面から認可してはならないと思うのであります。

①環境大臣意見に答えているかどうか判断できない
3種の作業用トンネルの合計長さは48.5㎞に達し、列車(リニア)の走行する本線よりも長くなるうえ、それだけでおそらく400万立方メートル以上の残土を掘り出します。
もし国立公園特別地域でこのような工事を計画した場合、自然公園法によって規模やデザイン等に厳しい規制がかかり、それゆえに工法や工期にも制限がかかります (だから一般的に大規模開発には一定の抑制力がはたらくわけです。公共事業には無力)。つまり、けっして規模の小さなものではなく、国立公園内では認められないような計画です。
 
そういうものをたくさん建設することを計画していますので、「南アルプス国立公園の拡張候補地として検討が進められている地域では可能な限り付帯施設の設置も避けるべき」という環境大臣意見を考慮したものなのかどうか、問われなければなりません。
 
可能な限り避けることとができたかどうかを、環境省なり市民なりが客観的に審査するためには、事業計画の原案と環境に配慮して修正した案とを比較しなければなりません。この点については、どなたも異論ないと思います。
 
リニア計画の場合、配慮書への環境大臣意見を受けて作成された方法書の段階では、事業計画がほぼ白紙でした。そして準備書になってはじめて事業計画が出されました。ということは、(順序の上では)方法書作成以後にJR東海内部に事業原案が生み出され、調査の過程で様々な案を比較検討し、準備書に記載された事業計画が、最終的な修正案となっているはずです。実際、静岡市での準備書説明会でも、この準備書記載案以外に変更はないという話を聞きました。
 
事業計画の推移
左…配慮書・方法書の段階
右…準備書の段階
いきなり事業計画だけが描かれていて、「可能な限り」付帯施設を減らせたのかどうか判断できない。
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ところが、準備書をすみずみまで見渡しても、単一の案つまり「修正後の案」しか掲載されておらず、検討の経緯は明らかにされていません。
 
したがってこの準備書からは、大臣意見を受けて「可能な限り付帯施設の設置も避ける」ことができたのかどうか、客観的に審査することができないのです。

②「環境に配慮した地下構造形式」となっていない
JR東海の計画では、リニアの通る部分は全て地下構造となっています。しかし上記の通り、リニアの通る25㎞の本坑を掘るために、それ以上に長くトンネルを掘り、そのうえ大量の残土を「南アルプス国立公園の拡張候補地として検討が進められている地域」に捨てることとなっています。こうした工事計画について、環境への影響が非常に懸念されています(騒音、生態系・景観の破壊、水質汚染、災害誘発のおそれ)。実際、静岡市からは、事業計画の大幅な見直しを求められています。
 
今のところ、JR東海はこうした構造・計画にせざるを得ない理由を説明していません。
 
おそらく、技術的には斜坑を設けなくともトンネルを貫通させることは可能でしょう。それにもかかわらず斜坑を多数設けたり南ア山中に残土を捨てたりするのは、技術的に必然的な理由からではなく、工期短縮・建設費削減のためでしょう(技術的に必要な行為ならば、環境に配慮した工事は絶対にできないことを証明することになる)。
 
けっして環境に配慮した構造・工事計画とは言えません。
 
また、トンネルを掘ることにより大井川や小河内川の流量を大幅に減らすことを、JR東海自身が予測しています。斜坑や残土捨て場の問題は付帯施設と言い逃れできるかもしれませんが、流量減少は本坑自体の存在も大きな要因となります。
 
そのうえ、大井川や小河内川で流量減少をもたらした場合、トンネル出入り口との位置関係から、川に水を戻すことができません。河川生態系に深刻なダメージを与えかねないのに、構造的な理由から有効な対策ができないのです。
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このように水環境への影響や対策の可能性という観点だけからでも、本坑自体も「環境に配慮したトンネル構造」になっていません
 
さらに小河内川の場合、国立公園特別地区に指定されている範囲においても流量を減少させる可能性があります。国立公園内において河川の流量に増減をもたらすことは、自然公園法で禁止されている行為ですが、これに抵触するのではないのでしょうか。
 
 
以上のように、JR東海が作成した準備書は、環境大臣意見に答えておらず、環境影響評価に環境省から課せられた条件を満たしていないのではないのでしょうか。
 
 
この後、3月末までに沿線の知事からJR東海に意見書が出され、JR東海は準備書を修正して環境影響評価の結果を評価書としてまとめます。その評価書においても、このような環境大臣意見に答えていなければ、環境省はこの事業を認可してはならないと思います。

南アルプス小河内沢の流量減少は自然公園法違反にはならないのかな?

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静岡の人間が長野県側のことにまで首を突っ込むのはどうかと思いますが、同じ南アルプスの一部ということで気になったことを書きます。
 
環境省は、JR東海の中央新幹線・環境影響評価配慮書に対する環境大臣意見(2011年7月)で、「南アルプス国立公園については路線位置選定の際に回避することを検討し、回避が困難な場合は環境に配慮した地下構造形式とすべき」としました。
 
で、JR東海は「南アルプス国立公園をトンネルで潜り抜けるから地上への影響はない」という準備書を作成したわけです。
 
でも本当にそうなのか{????」なのです。
 
リニアのトンネルは、南アルプスの長野県部分で、小河内沢という川を串刺しにするようにくぐりぬける計画になっています。
小河内沢の位置については次の地図をご覧ください。
 
※地図では小河内となっていますが、小河内です。ごめんなさい。清水区内の川の名と間違えました。
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上は環境影響評価配慮書の図を、下の図は準備書の図を複製・加筆
 
この小河内沢の真下を、100~300mという非常に浅い土被りで通過するため、トンネル頭上を流れる川の流量に影響を及ぼす可能性があり、JR東海が環境影響評価で流量への影響を試算したところ、「小河内沢の中間地点で流量が半減する」という結果が出ました。
 
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環境影響評価準備書より転載・加筆
 
 
JR東海としては、川の流量が半減するのにも関わらず、「水力発電への影響は水系全体としての影響は小さいから問題ない」と結論付けています。川は水力発電のために流れているわけでなく、流量減少の影響は多方面に及ぶのに、そのほかの影響は完全に無視している、何とも強引、ムチャクチャな論法です。長野県庁での準備書審議会でも、おおいに疑問がもたれています。
 
 
◇   ◇   ◇   ◇   ◇
 
 
ところで、今回疑問に思って取り上げたのは、この小河内沢の流量減少にともなう各種の具体的な影響ではありません(もちろん心配ですが、それは横に置いておきます。そもそも足を運んだこともないのにそんなことを論ずる資格はございません)。
 
自然公園法に照らし合わせておかしくないかい?
ということです。 
 
この小河内沢の上流部は南アルプス国立公園特別地域に指定されています。「流量が半減する」と予測した地点から2.5㎞ほどさかのぼったあたりより上流側一帯です。上記の図で赤く塗りつぶした部分が相当します。
 
流量減少がどの範囲にまで及ぶのか、準備書では触れていませんし、そもそもシミュレーションをおこなったのかどうかもわかりません。
 
断面図を見ると、国立公園内で小河内沢を潜り抜ける部分では、谷底からトンネルまで、約300m程度となっています。地上への影響が出るかどうか、微妙な深さです。このぐらいの厚さでは、岩盤に亀裂が少なければ問題はないのでしょうが、破砕帯(巨大な亀裂で岩が粉々になっている)が地上から地下までつながっていれば、川の水を大量に吸い込んでしまうかもしれません。
 
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黄緑色…土被り(トンネルから地表までの厚さ)300~200m黄色…200~100m橙色…100m未満
 
なお、JR東海が長野県での第2回準備書審議会で提出した地質断面図によると、断層と川底とが一致しているようです。この断層が川からの水で満たされていたら、突破したとたんに川の水を抜いてしまうかも…。
 
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長野県のホームページより複製・加筆
点線がトンネルの位置 またも小河内川となっていますが、小河内です。
 
したがって現時点では「流量減少が国立公園特別地域内にまで及ぶのかどうかは分からない」という状況です。
 
「影響が出る/出ない」と断言できないことにご注意ください。
 
これでは工事許可をしてはいけないのではないのでしょうか?
 
というのも、仮にトンネルを掘って国立公園内を流れる部分においても流量減少をもたらしてしまった場合、法的にわけのわからない状況になってしまうように思われるからなのです。
 
国立公園制度については自然公園法という法律で定められています。
 
リニア計画のように、トンネルを特別地域の外側からその下に掘ることは、自然公園法施行規則11条16項で認められています。ところがその途中で川の水を抜いてしまったらどうなるのでしょうか?
 
どうやら法律では、そのような事態は想定していないようなのです。
 
法律の文章は非常に読みづらいのですが、とりあえず検証してみます。
(特別地域)
第二十条  環境大臣は国立公園について、都道府県知事は国定公園について、当該公園の風致を維持するため、公園計画に基づいて、その区域(海域を除く。)内に、特別地域を指定することができる。
 
この第二十条の3項と4項には、次のような規定があります。
 
3   特別地域(特別保護地区を除く。以下この条において同じ。)内においては、次の各号に掲げる行為は、国立公園にあつては環境大臣の、国定公園にあつては都道府県知事の許可を受けなければ、してはならない。ただし、非常災害のために必要な応急措置として行う行為又は第三号に掲げる行為で森林の整備及び保全を図るために行うものは、この限りでない。
一~四は略
五  河川、湖沼等の水位又は水量に増減を及ぼさせること
六~十八も略

4  環境大臣又は都道府県知事は、前項各号に掲げる行為で環境省令で定める基準に適合しないものについては、同項の許可をしてはならない。
 
要するに、『国立公園特別地域内を流れる川の流量に増減をもたらす場合は、環境省の許可を得ねばならない。そして環境省は、その申請が基準を満たしていなければ許可をしてはならないということです。勝手に流量に影響を与えてしまえば、自然公園法違反となり、処罰の対象となるうえ、第34条に基づき、現状の回復を命じられることでしょう。
 
さてその基準とは次の通りです。
自然公園法施行規則 第十一条
18  法第二十条第三項第五号 に掲げる行為-(中略)- の環境省令で定める基準は、第十一項第ニ号の規定の例によるほか、次のとおりとする。
 一  次に掲げる基準のいずれかに適合するものであること。
  イ 学術研究その他公益上必要と認められること。
  ロ 地域住民の日常生活の維持のために必要と認められること。
    【地域住民が自己の用に供するため引水する行為等】
  ハ 農業又は漁業に付随して行われるものであること。
 ニ  水位の変動についての計画が明らかなものであること。
    【当該行為により水位又は水量が現状と異なることとなる時期及びその範囲並びに変動量に関する計画が明らかになっているもの
 三  特別保護地区又は次に掲げる地域であつて、その全部若しくは一部について史跡名勝天然記念物の指定等がされていること若しくは学術調査の結果等により、特別保護地区に準ずる取扱いが現に行われ、若しくは行われることが必要であると認められるものに支障を及ぼすおそれがないものであること。ただし、(略)届出をして現に行われているものであり、かつ、従来の行為の規模を超えない程度で行われるものにあつては、この限りでない。
 イ 野生動植物の生息地又は生育地として重要な地域
 ロ 優れた天然林又は学術的価値を有する人工林の地域
 ハ 優れた風致又は景観を有する河川又は湖沼等
※なお第1号ロと第2号には、【】内に示したような行為が例としてあげられています。自然公園法の行為の許可基準の細部解釈及び運用方法より
 
自然公園法施行規則第十一条第18項の基準を満たさない申請については、環境省は許可をしてはいけません。
 
これが例えば水力発電や養魚などのために川から取水する場合、「これだけの量をこの期間取水する」という申請を環境省に出せばいいわけです。環境省が自然公園法施行規則第11条18項に照らし合わせて問題ないと判断すれば、許可されます。
 
ところがリニアのトンネル工事で水を抜いてしまう場合、事前の予測は不可能(というかしていない)ですので、あらかじめ申請をおこなうことは、たぶんできません。申請・許可手続をせずに水を抜いてしまえば、これは自然公園法違反となってしまうかもしれませんかといって、原状回復を命じることも物理的に不可能です。
 
 

以上、わけのわからないと感じたことです。
 
もう一度まとめますと
「環境省の許可なく河川流量を変えてはならない。許可を受けるためには基準を満たしていなければならない」と自然公園法で定められている国立公園特別地域で、「事前に河川流量に影響が出るか予測することができず、基準を満たせるかもわからない」という工事を行うことは、法律上、可能なのか?
という疑問です。
 
自然公園法施行規則第十一条第18項の基準を見ても分かるように、流量の増減をもたらす行為としては水道用水や農業用水、水力発電などを想定しているのであって、まさか下にトンネルを掘って水が吸い込まれるかもしれないなんて事態は想定していないようなんですね。そもそも、そんな工事はこれまで前例がない()わけでして…。
 
)だからこそ、民間による国立公園特別区域内での大規模開発は免れてきた。しかし自然公園法第64条によれば、事業主体が都道府県知事や国の場合は、この規制を適用しないとしている。したがって国立公園内で大規模な公共事業を行い、川の流量を大幅に増減させるようなことも行われていた。事業主体が旧国鉄または独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構であれば、国の事業なので、事前の協議を行うことにより大きな問題にはならないと思われる。
 
こういう問題に対し、例えば国から建設指示を受けた場合は例外とするなどの規制緩和、すなわち法律を変えようなんて妙なことが起きないよう願いたい。そんなことをすれば、国立公園制度など存在しないも同然になってしまうし、湖沼や温泉の底にパイプを設けて湖水・温泉を盗むようなことも可能になってしまう。
 
これって、どうなのでしょう?
 
もっとも、現在までに表面化してこないということは、何の問題もないという認識のもとで計画が進められている証拠なのかもしれませんが…。
 

南アルプス大量水抜き このまま事業認可したら河川法に違反しちゃわないのかな?

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リニア中央新幹線の南アルプス横断トンネルは、大井川を潜り抜けます。列車の通るトンネルだけでなく、作業用の斜坑も川の下に掘られます。
 
そういうわけで大量に大井川の水が抜けてしまうとJR東海自身も予測しているわけですが、川の水を大量に減らすことは法律上で問題ないのでしょうか?
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(もっとも、予測値自体がアテにならないのですが)
というわけで、シロウトなりに調べてみました。
 
河川は、河川法という法律で管理されています。河川は公共用物とされており、国や都道府県が管理しています。基本的に国が管理するのが一級河川、都道府県の管理するのが二級河川です。大井川は一級河川であり、国土交通省が管理しています。
 
地下深くとはいえ、好き勝手にトンネルをほることはできないようです。地下深くでも、河川法が適用されるようです(後述)。
 
リニア計画では、静岡県の大井川上流部にて様々な工事が想定されていますが、どうも河川法に照らし合わせると、わけのわからない状況を招くのではないかと思うのであります。
 
大井川源流部では次のような工事が計画されていますが、それぞれの行為について、河川法の関連すると思われる部分を整理しておきます。あくまで素人の判断ですので、間違っているかもしれません。間違いに気付かれた際には、どうぞご指摘くださいませ。
 
①流量を減らす・流れの向きを変える
 →「流水の占用」…法第23条、施行規則第11条
②トンネルや残土捨て場を設ける
 →「土地の占用」…法第24条、施行規則第12条、事務次官通達「河川敷地の占用許可について」
③トンネルを掘る
 →「土石の採取」…法第25条、施行規則第13条
④トンネル工事、残土捨て場の壁を造る
 →「工作物の新築等」・・・法第26条、施行規則第15条
⑤大量の残土を河原に盛土として捨てる
 →「土地の掘削等」・・・法第27条、施行規則第16条

一連の行為は、次の二点に大別されます。
 
第一に、トンネルを多数掘って地表の水を吸い込み、早川水系に放流することによって、大井川水系の流量を大幅に減らすこと。
第二に、トンネル工事で発生した大量の残土を河川に盛土として捨てること。

どちらも、現在の準備書記載内容では、許可してはならない(できない)と思うのであります。

『トンネルを多数掘って地表の水を吸い込み、早川水系に放流することによって、大井川水系の流量を大幅に減らすこと』について、河川法の面から検証してみたいと思います。
 
そもそも「トンネルを掘って川の水を吸い込んで減らす」というのは、河川法においてどのような行為にあたるのでしょうか?
 
農業・上水道・工業・発電・養魚などの目的で、河川の流水を排他的かる独占的に継続して使用することを「河川の占用」と呼ぶそうです。これをおこなえる権利のことを、水利権とよびます。
 
(流水の占用の許可)
第二十三条  河川の流水を占用しようとする者は、国土交通省令で定めるところにより、河川管理者の許可を受けなければならない。

トンネル工事で水を減らす場合は、流水を使うために川の水を減らすのではありません。したがって「河川の占用」とよべるのかどうかすら、定かでありません。
 
もし「河川の占有」に該当すると判断されれば、これは水利利用と見なされることになります。減少幅(取水量)は推定2㎥/sと非常に大きいので、「特定水利利用」とよばれ、国土交通省の許可を得ねばなりません。そのためには、河川法施行規則第11条にしたがって様々な書類を作成する必要があります。
 
第十一条  水利使用に関する法第二十三条 の許可又は法第二十四条 、第二十六条第一項若しくは第二十七条第一項の許可(法第二十三条の二 の登録の対象となる流水の占用に係る水利使用に関する許可を除く。)の申請は、別記様式第八の(甲)及び(乙の1)による申請書の正本一部及び別表第一に掲げる部数の写しを提出して行うものとする。
2  前項の申請書には、次に掲げる図書を添付しなければならない。
 一  次に掲げる事項を記載した図書
  イ 水利使用に係る事業の計画の概要
  ロ 使用水量の算出の根拠
  ハ 河川の流量と申請に係る取水量及び関係河川使用者の取水量との関係を明らかにする計算
  ニ 水利使用による影響で次に掲げる事項に関するもの及びその対策の概要
   (イ) 治水
   (ロ) 関係河川使用者(法第二十八条 の規定による許可を受けた者並びに漁業権者及び入漁権者を除く。)の河川の使用
   (ハ) 竹木の流送又は舟若しくはいかだの通航
   (ニ) 漁業
   (ホ) 史跡、名勝及び天然記念物
  ホ 略
 二  工作物の新築、改築又は除却を伴う水利使用の許可の申請にあつては、工事計画に係る次の表に掲げる図書
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 三  略
 四  河川管理者以外の者がその権原に基づき管理する土地、施設若しくは工作物を使用して水利使用を行う場合又は河川管理者以外の者がその権原に基づき管理する工作物を改築し、若しくは除却して水利使用を行う場合にあつては、その使用又は改築若しくは除却について申請者が権原を有すること又は権原を取得する見込みが十分であることを示す書面
 五  水利使用に係る行為又は事業に関し、他の行政庁の許可、認可その他の処分を受けることを必要とするときは、その処分を受けていることを示す書面又は受ける見込みに関する書面
 六  略
 七  その他参考となるべき事項を記載した図書

実に多方面に及ぶ内容ですが、このうち赤く記した部分は、トンネル工事という性格上、「掘ってみなければ分からない」ので、正確なことを申請しようがないと思われる項目です。提出すべき書類に不備があるであろうことが確実なのですが、どうするつもりなのでしょう?

河川管理者である国土交通省は、この書類を受けて、許可の是非を審査します。さらに法38~40条に基づき、すでに河川の水を使用している関係者(水道を取水している大井川流域の市町村、農業用水、工業用水、中部電力、東京電力など)と協議せねばなりません。
 
今の大井川中・下流部は、渇水期には5~6㎥/s程度の水しか流されていません。500m近い川幅に、ひざ下程度の流れしかないのが現状です(これでも以前よりはマシになったのですが)。このような状況で、さらに2㎥/sの取水(実際には排水)が簡単に認められることはないでしょう。電力会社に3㎥/sの放流を認めさせるだけでも、四半世紀におよぶ長い苦闘の歴史があったわけですから…。
 
 
 

さて、流量を減らすのが「流水の占用」ではない場合、川の下を掘らせてもらう権利を取得する申請が必要となります(法24条)。
(土地の占用の許可)
第二十四条  河川区域内の土地(河川管理者以外の者がその権原に基づき管理する土地を除く。以下次条において同じ。)を占用しようとする者は、国土交通省令で定めるところにより、河川管理者の許可を受けなければならない。
 
この24条に関連し、河川の占用の許可を与える際の基準が定められています。「河川敷地の占用許可について 平成11年8月5日建設省河川発第67号建設事務次官通達」といいます。
 
トンネルを川の下に掘る際にも土地を使用する許可が必要という根拠は、この通達に基づいています。そしてこの通達には、「工作物の設置を伴う河川敷地の占用は、利水上の支障を生じさせないものでなければならない」とされています。
 
トンネルという工作物を設けると大幅に流量が減るとJR東海自身が予測し、それゆえ流域から利水上の支障が出る可能性が大きいとして強い懸念が生じているわけです。したがってこの基準に合致していない-占用の許可を与えてはならない-のではないのでしょうか。
 

以上は大井川を念頭に置いたものです。長野県大鹿村を流れる小河内沢でも、ほぼ同じ状況になりえます。
 
さらにもっと問題があるのは、山梨県富士川町を流れる大柳川と、長野県大鹿村を流れる青木川、豊丘村を流れる虻川です。いずれも一級河川であり、河川法の適用されている川です。工事の申請手続きを行うためには以上に述べた一連の手続が必要になるはずですが、環境影響評価準備書では、工事が流量に与える影響はおろか、現状調査すらしていません。工事認可の大前提がなされていないわけです。
 

以上のように、「川の流量を減らす」というのは、法律上でも非常に厳しい規制がかかっているのです。JR東海が作成した環境影響評価準備書記載の計画ですと、許可をすることはできない・あるいはできないのではないのでしょうか?
 
また別の機会に述べようと思っていますが、残土を河川敷に盛土として捨てる行為、そこへ大規模な壁を造る行為にも、河川法上での許可が必要になります。ところが、この計画では、、必要な申請条件が整えられるとは考えられません。
 
河川法、および前回記した自然公園法を守れるかどうかきわめて疑わしく、法律違反となりかねない準備書ですが、これをそのまま評価書とし、事業認可するとなれば、認可した側(国土交通省の鉄道関連の部署)の責任をも問われるのではないのでしょうか?

リニア長大トンネル 南アルプス大量水抜きは河川法に違反するのではないか? その2

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前回、南アルプスを流れる大井川(静岡市)や小河内沢(大鹿村)の水を大量に減らすことは、河川法に違反するのではないか?ということを書きましたが、ややこしくて分かりにくいと感じたので、フローチャートにしてまとめてみました。
 
●大井川(一級河川)、小河内沢(天竜川水系の一級河川)は、その管理に河川法の適用されている法河川である。法河川で勝手に大量に水を減らすことは、河川法で禁じられた行為である。
リニア中央新幹線計画において、南アルプスを横断する長大トンネルの建設によりこれらの川の水が大量に減少すると、JR東海自身が環境影響評価準備書において試算結果を公表している。ただし、あくまで試算であり、正確なところは掘ってみるまでは誰にもわからない。
 
以上のような事業特性・予測を踏まえて河川法に照らし合わせてみると、着工させられないのではなかろうか?
 
 
 
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以下、解説(前回と同じ)

河川は、河川法という法律で管理されています。河川は公共用物とされており、国や都道府県が管理しています。基本的に国が管理するのが一級河川、都道府県の管理するのが二級河川です。大井川は一級河川であり、国土交通省が管理しています。
 
トンネルは地下深くに掘られるとはいえ、好き勝手に川の下を潜り抜けることは禁じられています。地下深くでも、河川法が適用されるようです(後述)。
 
リニア計画では、静岡県の大井川上流部にて様々な工事が想定されていますが、どうも河川法に照らし合わせると、わけのわからない状況を招くのではないかと思うのであります。
 
大井川源流部では次のような工事が計画されていますが、それぞれの行為について、河川法の関連すると思われる部分を整理しておきます。あくまで素人の判断ですので、間違っているかもしれません。間違いに気付かれた際には、どうぞご指摘くださいませ。
 
①流量を減らす・流れの向きを変える
 →「流水の占用」…法第23条、施行規則第11条
②トンネルや残土捨て場を設ける
 →「土地の占用」…法第24条、施行規則第12条、事務次官通達「河川敷地の占用許可について」
③トンネルを掘る
 →「土石の採取」…法第25条、施行規則第13条
④トンネル工事、残土捨て場の壁を造る
 →「工作物の新築等」・・・法第26条、施行規則第15条
⑤大量の残土を河原に盛土として捨てる
 →「土地の掘削等」・・・法第27条、施行規則第16条

一連の行為は、次の二点に大別されます。
 
第一に、トンネルを多数掘って地表の水を吸い込み、早川水系に放流することによって、大井川水系の流量を大幅に減らすこと。
第二に、トンネル工事で発生した大量の残土を河川に盛土として捨てること。

どちらも、現在の準備書記載内容では、許可してはならない(というかできない)と思うのであります。

『トンネルを多数掘って地表の水を吸い込み、早川水系に放流することによって、大井川水系の流量を大幅に減らすこと』について、河川法の面から検証してみたいと思います。
 
そもそも「トンネルを掘って川の水を吸い込んで減らす」というのは、河川法においてどのような行為にあたるのでしょうか?
 
農業・上水道・工業・発電・養魚などの目的で、河川の流水を排他的かる独占的に継続して使用することを「河川の占用」と呼ぶそうです。これをおこなえる権利のことを、水利権とよびます。
 
(流水の占用の許可)
第二十三条  河川の流水を占用しようとする者は、国土交通省令で定めるところにより、河川管理者の許可を受けなければならない。

トンネル工事で水を減らす場合は、流水を使うために川の水を減らすのではありません。したがって「河川の占用」とよべるのかどうかすら、定かでありません。
 
もし「河川の占有」に該当すると判断されれば、これは水利利用と見なされることになります。減少量は、現在の試算で推定2㎥/sと非常に大きいのですが、この量を取水するとすれば「特定水利利用」とよばれ、国土交通大臣の許可を得ねばなりません。そのためには、河川法施行規則第11条にしたがって様々な書類を作成する必要があります。
 
第十一条  水利使用に関する法第二十三条 の許可又は法第二十四条 、第二十六条第一項若しくは第二十七条第一項の許可(法第二十三条の二 の登録の対象となる流水の占用に係る水利使用に関する許可を除く。)の申請は、別記様式第八の(甲)及び(乙の1)による申請書の正本一部及び別表第一に掲げる部数の写しを提出して行うものとする。
2  前項の申請書には、次に掲げる図書を添付しなければならない。
 一  次に掲げる事項を記載した図書
  イ 水利使用に係る事業の計画の概要
  ロ 使用水量の算出の根拠
  ハ 河川の流量と申請に係る取水量及び関係河川使用者の取水量との関係を明らかにする計算
  ニ 水利使用による影響で次に掲げる事項に関するもの及びその対策の概要
   (イ) 治水
   (ロ) 関係河川使用者(法第二十八条 の規定による許可を受けた者並びに漁業権者及び入漁権者を除く。)の河川の使用
   (ハ) 竹木の流送又は舟若しくはいかだの通航
   (ニ) 漁業
   (ホ) 史跡、名勝及び天然記念物
  ホ 略
 二  工作物の新築、改築又は除却を伴う水利使用の許可の申請にあつては、工事計画に係る次の表に掲げる図書
 三  略
 四  河川管理者以外の者がその権原に基づき管理する土地、施設若しくは工作物を使用して水利使用を行う場合又は河川管理者以外の者がその権原に基づき管理する工作物を改築し、若しくは除却して水利使用を行う場合にあつては、その使用又は改築若しくは除却について申請者が権原を有すること又は権原を取得する見込みが十分であることを示す書面
 五  水利使用に係る行為又は事業に関し、他の行政庁の許可、認可その他の処分を受けることを必要とするときは、その処分を受けていることを示す書面又は受ける見込みに関する書面
 六  略
 七  その他参考となるべき事項を記載した図書

実に多方面に及ぶ内容ですが、このうち赤く記した部分は、トンネル工事という性格上、「掘ってみなければ分からない」ので、正確なことを申請しようがないと思われる項目です。提出すべき書類に不備があるであろうことが確実なのですが、どうするつもりなのでしょう?

河川管理者である国土交通省は、この書類を受けて、許可の是非を審査します。さらに法38~40条に基づき、すでに河川の水を使用している関係者(水道を取水している大井川流域の市町村、農業用水、工業用水、中部電力、東京電力など)と協議せねばなりません。
 
今の大井川中・下流部は、渇水期には5~6㎥/s程度の水しか流されていません。500m近い川幅に、ひざ下程度の流れしかないのが現状です(これでも以前よりはマシになったのですが)。このような状況で、さらに2㎥/sの取水(実際には排水)が簡単に認められることはないでしょう。電力会社に3㎥/sの放流を認めさせるだけでも、四半世紀におよぶ長い苦闘の歴史があったわけですから…。
 
 
 

さて、流量を減らすのが「流水の占用」ではない場合、川の下を掘らせてもらう権利(土地の占用)を取得する申請が必要となります(法24条)。
(土地の占用の許可)
第二十四条  河川区域内の土地(河川管理者以外の者がその権原に基づき管理する土地を除く。以下次条において同じ。)を占用しようとする者は、国土交通省令で定めるところにより、河川管理者の許可を受けなければならない。
 
この24条に関連し、河川の占用の許可を与える際の基準が定められています。「河川敷地の占用許可について 平成11年8月5日建設省河川発第67号建設事務次官通達」といいます。
 
トンネルを川の下に掘る際にも土地を使用する許可が必要という根拠は、この通達に基づいています。そしてこの通達には、「工作物の設置を伴う河川敷地の占用は、利水上の支障を生じさせないものでなければならない」とされています。
 
トンネルという工作物を設けると大幅に流量が減るとJR東海自身が予測し、それゆえ流域から利水上の支障が出る可能性が大きいとして強い懸念が生じているわけです。したがってこの基準に合致していない-占用の許可を与えてはならない-のではないのでしょうか。
 

以上は大井川を念頭に置いたものです。長野県大鹿村を流れる小河内沢でも、ほぼ同じ状況になりえます。
 
さらにもっと問題があるのは、山梨県富士川町を流れる大柳川と、長野県大鹿村を流れる青木川、豊丘村を流れる虻川です。いずれも一級河川であり、河川法の適用されている川です。工事の申請手続きを行うためには以上に述べた一連の手続が必要になるはずですが、環境影響評価準備書では、工事が流量に与える影響はおろか、現状調査すらしていません。再調査しようにも流量調査には最低1年は必要ですので、今年秋に着工ならできないことになります。工事認可の大前提がなされていないわけです。
 

以上のように、「川の流量を減らす」というのは、法律上でも非常に厳しい規制がかかっているのです。JR東海が作成した環境影響評価準備書記載の計画ですと、許可をすることはできない・あるいはできないのではないのでしょうか?
 
また別の機会に述べようと思っていますが、残土を河川敷に盛土として捨てる行為、そこへ大規模な壁を造る行為にも、河川法上での許可が必要になります。ところが、この計画では、、必要な申請条件が整えられるとは考えられません。
 
河川法、および前回記した自然公園法を守れるかどうかきわめて疑わしく、法律違反となりかねない準備書ですが、これをそのまま評価書とし、事業認可するとなれば、認可した側(国土交通省の鉄道関連の部署)の責任をも問われるのではないのでしょうか?

拝啓 国土交通省様 このアセス内容で事業認可するととんでもない事態になりますよ

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長野県の信濃毎日新聞によれば、なんでも環境影響評価において調査空白地域があるのにもかかわらず、JR東海は4月にも評価書を作成するつもりなのだそうです。
 
それから何の記事だったのかは失念しましたが、10月の東海道新幹線開業50周年に合わせてリニアを着工する計画とかいう話もあるようです。
 
いずれにせよ、このようにとにかく急いでいるスケジュールになっています。何がそんんあにJR東海を駆り立てているのか、皆目見当が付きません。あちこちの審議会議事録を見てみると「2027年開業のためにはこのスケジュールしかない」という説明をしているようですが、2027年開業というのは自主的に定めた目標であり、どこかからそうしろという命令が下ったわけじゃあるまいし。
 
仮に10月着工に間に合わせるためには、やはり4~5月には評価書を作成しなければならなくなります。そのためには、「非常に問題点が多い」と指摘されている現在の準備書および事業計画が、ほとんど修正・追加アセスを行わずにそのまま評価書に記載されることとなります。そして環境省がどれほど厳しい意見を出そうとも、国土交通大臣がそれを認可するという皮算用になっていることになります。
 
環境影響評価書についての国土交通大臣の審査…
 
環境影響評価法では次のように定められています。
(免許等に係る環境の保全の配慮についての審査等)
第三十三条  対象事業に係る免許等を行う者は、当該免許等の審査に際し、評価書の記載事項及び第二十四条の書面に基づいて、当該対象事業につき、環境の保全についての適正な配慮がなされるものであるかどうかを審査しなければならない。
2  前項の場合においては、次の各号に掲げる当該免許等(次項に規定するものを除く。)の区分に応じ、当該各号に定めるところによる。
一、二 略
三  免許等を行い又は行わない基準を法律の規定で定めていない免許等(当該免許等に係る法律の規定で政令で定めるものに係るものに限る。=全国新幹線鉄道整備法) 当該免許等を行う者は、対象事業の実施による利益に関する審査と前項の規定による環境の保全に関する審査の結果を併せて判断するものとし、当該判断に基づき、当該免許等を拒否する処分を行い、又は当該免許等に必要な条件を付することができるものとする。

非常に読みにくい文章ですが、要約すると、「環境保全に関する審査結果と事業による利益とを総合的に考えて事業の認可の是非を決定する」という意味です。
 
ここでいう「環境保全に関する審査」は、条文にもあるように「評価書の記載事項及び第二十四条の書面(環境大臣意見)に基づいて」行われることとなっています。
 
ここのところは重要で、「許認可権者(国交省)は、一般住民、市町村、知事意見を考慮せよ」とは書かれていません。それらは直接・間接的に事業者に出されており、事業者はそれによって準備書を補正して評価書を作成するため、評価書は既に一般住民、市町村、知事意見を考慮したものになっているはずだという性善説になっているのです(現実的に考えて、そんなことが可能なはずがあるわけないのですが)。
 
鉄道事業の許認可をおこなうのは環境省ではなく国土交通省(の鉄道関係の部署)です。
 
お役所、特に国の機関というのは杓子定規なので、一般住民・市町村・知事からどんなに強い懸念が出されていたとしても、「法律では、環境大臣意見や評価書記載内容以外の懸念事項を考慮せよとは書いてない」とか何とか言い逃れしてすることが可能です。
 
結局のところ、その他の事業認可の諸基準と合わせて「総合的に判断した」とかなんとか言って、事業認可を自動的に出すのでしょう。

が、そうはいっても、このリニア計画の環境影響評価はあまりにもお粗末です。たぶん、日本の環境アセスメント史上に名を残す、悪しき代表例となるでしょう。数人の環境アセスメント専門家からも、「ここまでひどいのは見たことがない」という話が伝わってきています。
 
仮に百歩譲ってリニア中央新幹線が将来の日本にとって必要不可欠な事業であろうとも、あまりにムチャクチャな評価書で事業認可をすると、(財政的な面を除いても)自然環境・生活環境のみならず、JR東海、認可した方々のためにならないともいえます。

現在の準備書掲載内容からみて、確実に起こるであろう問題
《南アルプスの山梨・静岡・長野3県共通》
●大井川、小河内沢、虻川、大柳川、内河内川の流量が減少。しかし現実的な対応ができない。さらに河川法の想定外の事態となる。
●河川の水質悪化。
●騒音によりミゾゴイ、イヌワシ、クマタカ、ブッポウソウ等の希少鳥類がいなくなってしまう。
●残土の処分方法が未確定のまま見切り発車。行き先を失った残土が南アルプス山中にあふれる。
《静岡県》
●千枚岳直下の大井川河川敷に盛られた残土が、千枚岳大崩壊地からの土砂を受け止め、川床上昇を招く。トンネル工事による減水とあいまって流れが伏流し、魚類の生息域を分断、植生の変化、食草を絶たれた高山蝶などの昆虫などの減少を招き、生態系を破壊。
●標高2000mに残土捨て場を設けても、気候・地形・土壌から緑化ができず、いつまでも裸地を呈し続け、景観的にも醜悪な姿をさらし続ける。そのうえ地すべり地帯でもあり、大雨、地震で大崩壊を起こしかねない。
●大井川中下流域にまで流量減少の影響が及び、冬季・夏季渇水期に流れが途絶。水生生物の減少を招く。大渇水の際には数十万人の生活や企業活動にも影響。
●大井川源流に沿って工事現場に向かう東俣林道が崩壊し、工事関係者が孤立する危険性がある。
●大量のダンプカーが出入りすることにより、大井川源流部一帯の林道沿いと河原は外来種の植物に埋め尽くされる。
●大量のダンプカーがひっきりなしに通行することにより、サンショウウオなど川と森林とを行き来していた生物が大量に轢死。
●林地開発許可をめぐり自治体とJR東海とが対立。
《山梨県》
●標高2000mの残土捨て場は静岡・山梨県境での工事だが、アセスでは静岡側でしか取り扱っていない。建設に起因する問題が山梨県側で問題になる。
●河川水位だけでなく地下水位も低下。井戸や簡易水道の枯渇が相次ぐ。

《長野県》
●大鹿村は1日1700台の大型車両に埋め尽くされ、村外に通ずる1本道をふさぎ、日常生活が困難となり、おおげさでなく村の存続の危機となる。
●保安林解除をめぐりトラブル発生。
●リニア本線が通らないことから”事業実施対象区域”から外されアセス対象にされていない長野県中川村で、大量の車両通行が問題化。
●河川水位だけでなく地下水位も低下。個人宅・事業所の井戸や簡易水道の枯渇が相次ぐ。
以上のことは確実に起こります。
 
確実ではなく「おそれ」があるものについては…
●残土から有害物質が発生した場合には搬出作業が行えなくなるため、全ての作業が中断となる。
●工事が原因となり人口流出
●登山客・観光客離れ
●小日影鉱山跡周辺からの残土から有害物質を検出
●ユネスコに対してエコパーク登録を推薦した地域での大工事を認めることにより、日本の環境行政についての不信感が国際的に広まる
 
もう少し広い範囲、長い期間で眺めると…
●エコパークは、登録から10年後に、環境が適切に保全されているか見直されることになっている。順調なら今年登録であるから、見直しは2024年、リニアの建設工事の最中である。以上のような環境破壊が実際に引き起こされたら登録取り消しとなりかねない。
●大鹿村を中心に山崩れが頻発。
●標高2000mの残土捨て場や河原の残土捨て場が数十年に一度の大雨で大出水し、大規模土石流を招きかねない
●様々な方面から事業の差し止めを求める訴訟や公害調停を求める声が上がり泥沼化。
●人々の個人的なつながり、集落同士のつながり、市町村単位、県単位で亀裂を生み出す。諫早湾干拓事業のように、環境破壊に起因して地域社会を大分断する事態を招きかねない。
●豪雨・大地震により標高2000mの残土捨て場が崩壊し大規模土石流が発生。二軒小屋ロッジの宿泊客を飲み込むみ、大人災となる。
●残土捨て場、作業用道路など条例対象となりうる規模の建設事業でも、付帯設備と見なせば事前アセスを免れるという新手のアセス逃れの前例となる。
●計画段階環境配慮事項については別段何もしなくてよいという見本となる。
●住民とのあつれき、自然破壊を強引に推し進めるというイメージがJR東海に定着し、企業イメージが急速に悪化。リニア技術についても「生活環境・自然環境との調和が不可能」というイメージが広まる。リニア技術はもとより、新幹線についても海外輸出の道を自ら閉ざす。
●大問題の評価書であることを承知のうえで事業認可をした国の責任問題。
 

あくまで南アルプスを中心とした範囲での、環境影響評価からみえてくる問題・懸念ですが、今の事業計画のままだと、オーバーではなく、こういう事態が起こりえます。
 
これに加え、その他の都県での残土処分、岐阜県でのウラン鉱床通過の問題、可児市内での遺跡通過問題、阿智村や座間市での水資源問題、南木曽町での斜坑問題…JR東海は、すべてにおいて答えを示していません。

この環境影響評価は、法的にもかなりグレーゾーンな内容なのですよ(方法書確定以前の現地調査開始のタイミング、情報非公開など)。オーバーではなく訴訟のネタにはなりえるし、公害等調整委員会に出動してもらわなければならないかもしれない。
 
かつて裁判でアセスのあり方が争点となったことがあり、「評価書における環境影響評価の判断の過程に看過しがたい過誤等があり、判断がこれに依拠してされたと認められる場合には、上記判断は不合理であり、裁量権の逸脱があるものとして違法と解すべき」という見解を裁判所が示したことがあります。
(大阪地裁判決 平成18年3月30日:西大阪延伸線建設事業/この事業の認可が撤回されたわけではない)
 
沿線自治体からも強い懸念が示されている以上、現在のまま事業認可するのは、「裁量権の逸脱」となりかねません。

そんな事態になったところで責任をとっていただけるのですか?
 
整備新幹線の事業計画については事業者が主役ではなく国土交通大臣が主役であると、全国新幹線鉄道整備法に明記されています。
 
第七条  国土交通大臣は、第五条第一項の調査の結果に基づき、政令で定めるところにより、基本計画で定められた建設線の建設に関する整備計画を決定しなければならない。
2  国土交通大臣は、前項の規定により整備計画を決定しようとするときは、あらかじめ、営業主体及び建設主体(機構を除く。)に協議し、それぞれの同意を得なければならない。整備計画を変更しようとするときも、同様とする

全国新幹線鉄道整備法に基づいて事業を行う以上は、JR東海が決定権を握った事業ではないはずです。
 
国土交通省様、事業認可を出せないとする根拠はいくらでもありますよ。
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