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Channel: リニア中央新幹線 南アルプスに穴を開けちゃっていいのかい?
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リニア準備書 大井川の流量減少への環境保全措置策はなし

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大井川だけでなく、案の定、山梨県での審議会でも、南アルプスにおける水環境の項目について「データ不足」という声があがってきました。当然でしょう。審議するための材料が書かれていないのですから。データ不足という点については、次回触れようと思います。
 
さて、環境影響評価というものは、大雑把に言うと、大規模な事業をおこなう前に、事業者がその事業が環境に与える影響を予測し、「環境の保全のための措置」を生み出してゆく制度です。
 
そして事業者の考えた「環境の保全のための措置」で環境が守られるかどうかを審議する権利が、自治体や環境省だけでなく、地元住民をはじめとする国民みんなにあります。
 
その審議をおこなうために、事業者による調査・予測結果と「環境の保全のための措置」を示した文書のことを準備書と言います。
 
というわけで、「環境の保全のための措置」は準備書で中心をなす最も重要な要素です。法律でも、それを掲載するよう義務付けられています。
 
法律を一部抜粋http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H09/H09HO081.html
第十四条  事業者は、第十二条第一項の規定により対象事業に係る環境影響評価を行った後、当該環境影響評価の結果について環境の保全の見地からの意見を聴くための準備として、第二条第二項第一号イからワまでに掲げる事業の種類ごとに主務省令で定めるところにより、当該結果に係る次に掲げる事項を記載した環境影響評価準備書を作成しなければならない
(一~六は省略)
七  環境影響評価の結果のうち、次に掲げるもの
イ 調査の結果の概要並びに予測及び評価の結果を環境影響評価の項目ごとにとりまとめたもの(環境影響評価を行ったにもかかわらず環境影響の内容及び程度が明らかとならなかった項目に係るものを含む。)
ロ 
環境の保全のための措置(当該措置を講ずることとするに至った検討の状況を含む。)
ハ ロに掲げる措置が将来判明すべき環境の状況に応じて講ずるものである場合には、当該環境の状況の把握のための措置
ニ 対象事業に係る環境影響の総合的な評価
 
ほらね。
 
さて、そもそも調査方法自体がはなはだ疑わしい(前回参照)ものの、それでも流量が大幅に減少すると予測された大井川の場合、どのような「環境の保全のための措置」がしめされているのでしょうか?
 
静岡県版準備書「水資源」のページを見てみましょう。
 
イメージ 1
 
赤く囲った、「工事排水の適切な処理」から「薬液注入工法における指針の遵守」までの5つは、環境影響評価の結果とは何の関係もなく、どんな工事でも守らねばならない約束事です。わざわざ「検討の状況」なんて書く必要はありません
 
その下には「地下水等の監視」というものがありますが、「工事着手前に地下水の水位を監視し把握」って、おいおいおい、それをやって、この場所の地下水の状況について調べて対策を練るのが環境アセスメントでしょ!! ←これ、意見を提出してから気付きました…。
 
全体的にヘンなのであります。
 
まあそれでも、表の下のほうの2つ「応急措置の体制整備」「代替水源の確保」がとりあえず環境保全措置に該当すると思います。
 
2ページ先の表8-2-4-8に、この2つの効果についての説明があります。全文を引用します。

「応急措置の体制整備」
地下水等の監視の状況から地下水位低下等の傾向が見られた場合に、速やかに給水設備等を確保する体制を整えることで、水資源の継続的な利用への影響を低減できる。
 
「代替水源の確保」
他の環境保全措置を実施したうえで、水量の不足等重要な水源の機能を確保できなくなった場合は、代替措置として、水源の周辺地域においてその他の水源を確保することで、水資源の利用への影響を代償できる。なお、本措置については、他のトンネル工事においても実績があることから確実な効果が見込まれる。
 
で、川の流量が減少するという予測結果が出ているのだけど、具体的に何をするの??
 
これじゃあ、具体的に何を対策として考えているのか、さっぱり分かりませんね。要するに、準備書は環境保全措置を示す文書なのに、それが何にも書かれていないわけです。これでは準備書としての必要な条件を満たしているとはいえません

JR東海のよくわからない予測結果によれば、大井川の流量は2立方メートル/秒減少する(前回参照)とされています。2立方メートル/秒という量は、(降水量にもよりますが)流域面積数十平方キロメートル程度の川の流量に相当し、どこかから川を一本ひっぱってこなければ確保できないような量です
 
「代替措置として、水源の周辺地域においてその他の水源を確保する」なんてできるわけないじゃないですか!!
 
だいたい、この「環境保全措置」というものは、リニアの通る全都県で同じ文面が使い回されています。要するに、一般論を並べただけで、大井川の自然条件や社会条件なんて全く考慮していないわけです
 
「他のトンネル工事での実績」というのは山梨実験線で水枯れを引き起こした笛吹市等を念頭においているのだと思いますが、川の規模も地形も必要となる流量もくらべものになりません。
 
 
 
◇   ◇   ◇   ◇   ◇
 
 

それでも工事をしたいのなら、最終的に評価書において何かしら具体的な案を考え、環境省(形の上では国土交通大臣)からお墨付きを得ねばなりません。JR東海は何を考えるのでしょう?
 
案として出されそうなものを考えてみました。

①トンネル内湧水を自然に流下させて川に戻す
トンネル渇水が起きたときは、トンネル内に湧出した水を代替水源にあてるような措置をとることがあります。
イメージ 2
トンネル湧水を農業用水に用いている例です。東海道新幹線の由比トンネル西側坑口の光景です。茶色い鉄管にトンネル湧水が流されています。中央の白い帯はあふれた地下水。
 
 
ところがリニアのトンネルは、東側の早川(山梨県早川町)から、西側の小渋川(長野県大鹿村)まで、10.7㎞にわたって大井川流域を完全に横断し、地表には現れません。源流部の川底近くに掘られ、まさに水抜きパイプとなる斜坑も、本坑トンネルに向かって下り勾配となるので、そこへ湧出した水は下へ下へと流れ下ってゆく一方です。
イメージ 3

トンネル・斜坑と交差する大井川川底の標高1350~1600m
斜坑口の標高1350mと1550m
大井川流域におけるトンネル本坑の水平位置
 最低所…大井川と早川との分水嶺直下 標高約920m
 最高所…大井川と小河内川との分水嶺直下 標高約1200m
 
こうして、斜坑およびトンネル本坑に湧出した水は、分水嶺をくぐって全て早川流域へと流れ去ってゆきます。これではトンネル湧水を直接代替水源にすることはできません。

もしもトンネル内への湧水を大井川へ戻すのなら、大井川・早川分水嶺直下のトンネル(標高920m前後)から、下り勾配で大井川下流側の標高900m前後の地点へ向けて導水トンネルを掘らればなりません。しかし大井川の川底が900mとなるのは、直線距離で20㎞以上も下った畑薙第一ダム下流となります。導水トンネルを掘ったら、長さは20㎞以上となってしまいます。導水トンネル自体が新たに支流の枯渇を引き起こすとともに、大量の残土が生まれることになります。しかも、水が戻ってくるまでの区間への対策にはなりません。というわけで、根本的な解決にはなりません。
 
②トンネル内への湧水をポンプでくみ上げる
一見、有効そうでムリな方法。
 
東京の地下鉄でもっとも湧水の激しいのは、地下鉄銀座線だそうです。そこに据えられたポンプの能力は、「2つのポンプで1~1.5㎥/秒の水を15~25mの高さにまでくみ上げる」のだそうです(梅原淳 「毎日乗っている地下鉄の謎」より)。
 
ということは、2㎥/秒の湧水を400~500mくみ上げるためには、そのポンプが40台以上も必要ってことになるのでしょうか? いずれにせよ、川を1本、高度差400~500mを重力に逆らってくみ上げねばならず、強力なポンプが多数必要となります。当然、24時間フルに動かし続けねばなりません。ベラボウな電気代がかかるとともに、余計な保守点検が必要となります。そのポンプは永久に、遠い将来、仮にリニアが廃線になってもJR東海が責任をもって管理し続けるのでしょうか?
 
2㎥/秒の水を400~500mの落差で一直線に落とせば、数千~1万kw程度の水力発電が可能。逆に言えば、その量の水をくみ上げるのにはこれ以上の電力が必要。
 
実はポンプでくみ上げ続けるのは、簡単そうに見えて非現実的なのです。北海道の千歳川放水路建設計画で、掘削によってラムサール条約登録のウトナイ湖への湧水が消滅すると懸念されたときに、事業者の北海道開発局が対策案として出し、批判をあびてボツになったのが、まさにこれでした。自然な水循環を人工的な動力で生み出そうとするところに無理があります。
 
③田代川発電所の水を買い取る
東京電力が二軒小屋から早川へ送水して発電している田代発電所の水を、JR東海が買い取って大井川に戻すとか…。これをやるなら、不要となる水力発電施設を、早川流域に至るまで全てJR東海に撤去・整理してもらわねばなりません。いくらかかるのだろう? また、取水堰より上流側の流量減少には対応できません。
 
④ダムを造る
→どうしようもない自然破壊とムダ金つぎ込みの連鎖。
 
◇   ◇   ◇   ◇   ◇
 
要するに、大井川流域の流量減少問題に対しては、抜本的な対策案も解決方法もないのです。準備書の記載内容が具体性に欠けているのも、案を考えていないのではなく、現実的な解決策が出せないのだと思います。
 
 
これは、谷底の高さの異なる、富士川・大井川・天竜川という異なる3つの流域を1本のトンネルで貫くことに起因する、根本的な欠陥です。そしてその欠陥が生み出されてしまったのは、「一直線で結ばなければ存在意義のない超電導リニア」という走行システムによります。

リニアのアセス準備書 水環境調査データは 「ないないづくし」

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環境影響評価というものは、大雑把に言うと、大規模な事業をおこなう前に、事業者がその事業が環境に与える影響を予測し、「環境の保全のための措置」を生み出してゆく制度です。
 
そして事業者の考えた「環境の保全のための措置」で環境が守られるかどうかを審議する権利が、自治体や環境省だけでなく、地元住民をはじめとする国民みんなにあります。
 
その審議をおこなうために、事業者による調査・予測結果と「環境の保全のための措置」を示した文書のことを準備書と言います。
 

さて、水環境に関する、準備書記載内容のおかしな点です。まだまだ続きます。
 
静岡県部分を流れる大井川では、予測方法の妥当性自体がなぞめいているものの、それでも流量が2立方メートル/秒減少するという予測結果が出されています。
 
トンネル工事で「流量が2立方メートル/秒減少する」というのは、けっこうな量です。2立方メートル/秒というのは、それだけである程度の河川に相当する量です。
 
試みに調べてみたら、東京都内を流れる善福寺川が0.36立方メートル/秒、新宿区内の神田川で3.23立方メートル/秒なんだそうだ。(東京都のどこかの部署の作成した資料より)
 
全然ピンときませんね。ごめんなさい。
 
それはともかく、なんでこんなに水を引き込んでしまうのだろうと疑問に思うのですが、それについての説明が準備書にはほとんどありません。
 
とにかく、説明も資料もおそろしく不十分なのですよ。
 
申し分程度に地質断面図が2枚貼り付けられていました。
 
それがこれ。
 
まずは静岡県版準備書8-2-2地下水より
 
 
 
イメージ 2
 
 
それから2枚目、 静岡県版準備書「資料編」より
 
イメージ 1
 
 
あとは、方法書のときから使用されている、国が作成した平面上の地質図がありましたが、それは省略。
 
「超」がつくほど大雑把のように見受けられます。
 
図5-1-2-2は試算のもととした図らしいのですが、別ページの注釈によれば、「水平方向に100m×100m、垂直方向に25m」の解像度で試算をおこない、そのモデルとなった図とのこと。ということは、水平スケールで100m未満のものは、この図には示されていないと考えられます。幅数数十mで地表からつながる水脈が存在してても、この図には表現できていないのでしょう。この図で表現できないということは、試算のモデル式では表現できないということを表すのだと思います。いわば、天気予報でスケールの小さな現象であるゲリラ豪雨を上手に予測できないようなものです。
 
とにかく、どこがどういう種類の岩石で、どこにどのくらいの規模のひび割れ(断層)が入っていて、どこに水を通しやすい部分があり、それが地表とどういう関係にあるのか、川の流量に影響を及ぼすのはどの部分か、肝心なことが一切分からんのですよ。
 
計算を行う際に、実際の地形・地質データを全てコンピュータ上で再現することはなかなか困難ですので、ある程度簡略化することはしかたがありません。その簡略化を補完するために、あるいは客観的に検証するためには、実際のボーリング調査や地上での各種調査の結果を併記することが欠かせないはずですが、そうした資料は見当たりません。
 
準備書の別のページには、「国鉄時代からボーリング調査を行っている」と書かれているので、具体的なデータ(柱状図)はJR東海が所有しているはずですが。
 
それから準備書には下のような表に「次の条件で試算した」と書かれていますが、ここに具体的にどんな数値を入力したのかもよくわかりません
イメージ 3
 
これでは、専門的な知識を持った方でも、トンネル工事による流量への影響はもとより、この地域の水循環についての概要把握すら難しいと思います。
 
さらに準備書には、この地質図の下に、地質条件云々を並べて「影響は少ない」と無理矢理結論付ける説明書き(略)があるのですが、その文章が長野県版準備書とまったく同じものなのです。同じ南アルプスとはいえ、大井川流域(静岡)と小渋川流域(長野)とでは地形も、地質も、断層の位置も、岩のひび割れ方も、川の流量も、トンネルの位深さも、み~んな異なるはずなのにどういうこと?
 
これでは「信用しろと」いうほうがムリです。

この準備書、水環境についてはこの地質断面図の他に、地域全体の水環境を見回す図面・表のたぐいは全く記載されていません。国土地理院作成の作成した5万分の一地形分類図という大雑把な図が、目的も不明なままに「地形の状況」として引用されているだけです。5万分の一地形分類図では基本的に50m未満のスケールは表現することはできず、これでは不十分です。
 
どのくらいの降水量があるのか、積雪、蒸発量、地形、植生の状況などといった、この地域の水環境に関する基本的な説明もありません。
 
トンネルの構造、作業用トンネルの地中における位置、規模、構造、あるいは工法についても詳しい説明がありません。
 
そればかりか、どこから水が湧き出し、どこに沢が流れているかという基本中の基本的なことも記載されていません。
 
ないないづくしなのです。
 
これが、各地の審議会で問題視されている「データ不足」というものなのです。
 
静岡、山梨県だけでなく長野県でも「データ不足」という話が出てきました。
 
「そんな難しいことを細かく書いたって意味がないだろ」と思われる方もおられるかもしれませんが、そうじゃないんですね。準備書に対して審査をおこなうのは役所に呼ばれた一握りの専門家だけではありません。地質学、地形学、水文学の専門家なんて全国に何万人もいるだろうし、専門業者もたくさんあります。独学で専門知識を身につけた方もおられるかもしれません。
 
環境影響評価において一般の人々から意見を受け付ける制度が設けられている背景には、このような第三者の専門家による検証を受け付ける意味もあるのです。そのためにも徹底的な情報公開が求められます(一般からの意見提出は終わりましたが)。
 
こと大井川の水環境に関して言えば、直接的にJR東海と審議できるのは静岡市役所と静岡県庁だけですが、流量減少で影響を受けるのは下流域全体におよびます。その人々が環境アセスメントの妥当性を検証するためにも、欠かせない情報であるはずです。

JR東海は「影響は小さい」「回避できている」としていますが、それを検証する材料すら不十分なのが、この準備書なのです。
 

山梨県富士川町の大柳川の環境はなぜ調査をしていないのだろう?

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私は静岡市民ですが、地形図を眺めていて、リニア建設による水環境破壊という点で心配になったのが、山梨県富士川町の旧鰍沢町地区を流れる大柳川という川。
 
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図1 山梨県版準備書より転載 中央にうっすらと「大柳川」とあります。
 
この川、上流部は滝の連続する美しい渓谷になっており、図1で示されたとおり、県立公園にも指定された景勝地となっているようです。そのごく浅い直下でトンネル工事が計画されており、掘られればおそらく流量が減少するだろうに、どういうことか調査すらしていないんですよ。
 
ちょっと、ここを通る長大トンネル(約8.5㎞)について見てみましょう。下の地図2で、大柳川の流域におけるトンネルと川との関係について西から東に向かって眺めてみます。
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図2 大柳川流域における谷とトンネルとの位置関係
国土地理院 電子地図ポータルより複製、加筆
 
図2の、御殿山と記載のあるところの北方で、大柳川の支流(地形図では無名だが雁木沢というらしい)の谷底に接します。谷底の標高は地形図から判断すると900~950m、トンネルの標高は縦断面図(図3)から推定して610m程度です。土被りは300m程度になります。山岳トンネルの工事では、土被りが300mを下回ると渇水が起こりやすくなるとされているので、微妙な深さです。
 
ちなみに山梨県上野原市において、山梨リニア実験線延伸工事で川の枯渇を引き起こした場所では、谷底とトンネルとの厚さ(土被り)は180m程度でした。この180mという数字を覚えておいてください。
 
ここから600mほど東で、大柳川本流をくぐります。谷底の標高は680m程度。トンネルの標高は600m程度。土被りは80m程度になります。谷底とトンネルとの厚さが山岳トンネルとしては非常に薄く、大々的な湧水が予想されます。大規模な湧水が起きれば、川の流量にも大きな影響を与えかねません。このあたりは滝が連続し、温泉もあるようですが、大丈夫なのでしょうか。
 
大柳川の東では、十谷集落を流れる沢の源頭をくぐります。土被りは220m前後と見られます。これも微妙な深さです。(図には無記入)
 
さらに東で、大柳川の支流・清水沢と、その支流・屋敷沢(どちらも地形図では無名)をくぐります。トンネルの標高は530m前後、どちらも谷底とトンネルとの厚さは50~80m程度と見られ、やはり山岳トンネルとしては非常に薄いものです。2つの沢は下流で合流し、不動滝(1:25000地形図で滝記号はあるものの名前は未記入)を経て大柳川に注ぐようです。「富士川町 不動滝」で検索すると、動画や写真が出てきます。流量豊富で豪快な滝のようですが、トンネルが掘られれば流量が減少し、やせ細ってしまうのではないのでしょうか。
 
屋敷沢を抜け、さらに2㎞ほど北東に進み、別の流域である小柳川の岸でトンネルを抜けて地上に出ます。地上に出るあたりの標高は460mほどです。
 
以上のように、リニアのトンネルは大柳川流域を完全に横断します。その間おおよそ5.3㎞。本流の大柳川はじめ、そのほかにも主な支流を3~4本くぐりぬけます。そして、いずれも非常に土被りが薄い。このことを考えると、河川に流出するはずの水をトンネル内に大量に引き込んでしまう可能性が高いのではないのでしょうか。

しかもこのトンネル、西から東へ下り一辺倒の構造になっています。ということは、大柳川流域でトンネル内に引き込まれた水は、すべて東側坑口の小柳川へと流れ下ってしまいます。万が一川の流量が減少しても、何らかの動力を用いない限り、大柳川流域に戻すことはできません。
 
イメージ 3
図3 トンネル縦断面
上は地形図より作成 下は準備書より転載・調整・加筆

 
 
果たして、大柳川の渓谷は守られるのでしょうか?
 
地図を眺めていると、こういう事態が心配されるわけです。
 
それに対して、JR東海はどのような調査・予測・評価・対策をするつもりなのか…と思って山梨県版の環境影響評価準備書を見たのですが…
 

あれ

どこにもない!?
 

何にも調査してないじゃん!!

冗談でも誇張でもなく、本当に大柳川について調査をしていないんですよ!
 
 
 
わずかに井戸と湧水と温泉の場所を少しずつ挙げただけ。
 
ウソだとお思いでしたら、JR東海のホームページをご覧になってください。http://company.jr-central.co.jp/company/others/prestatement/yamanashi/y_honpen.html
 
第8章の「地下水の水質と水位」「水資源」が該当するはずですが、本当に何にも調査をしていません。何にも調査をしていないのに、「地下水位への影響は小さいと予測する」という一文が結論として示されているだけです。
 
水環境への直接的な影響を調査していないわけですから、「人と自然との触れ合いの場」という項目においても扱われていませんし、植物、生態系の調査もしていません。わずかにトンネル真上で沢の動物調査をおこなったようですが、詳細は不明です。

こんないい加減な環境影響評価準備書が、いままで存在したのでしょうか?
 
「データ不足」というレベルじゃないです。
 
マジでおかしいですよ、コレ。
 
また、同じ富士川町内の土録という集落付近で、小河川(名前分からず)の上流部を100m程度という浅い土被りで通過することになっています。トンネル内に河川水を引き込んだ場合は、北隣の別流域(三枝川?)に流出してしまうことになってしまいます。ここも大柳川同様、何の調査も行われていません。
 
もうすぐ「公衆等からの意見の概要」がJR東海から関係市町村に送付され、市町村はそれから120日以内に知事宛の意見を出さねばなりません。静岡市民ですが、富士川町の関係者の方々には、「JR東海は大柳川をはじめとする富士川町内の河川について調査をしていない」という事実を重く受け止めていただきたいと思っております。
 

(追記)この週末、名古屋開業で経済効果がどうたらとか、アメリカに売るだとか何とか、そういった妙に景気のよいリニア絡みの記事が出てきたようですが、そんなことを言う前に、いっぺんこの準備書に目を通して、果たして実現可能なシロモノかどうか、自分の頭で考えてみていただきたいと思うのであります。

なんで長野県の青木川と虻川は調査対象になっていないのかな?

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前回取り上げた山梨県富士川町とまったく同じ状況なのが、南アルプス西側の長野県大鹿村を流れる青木川と、豊丘村を流れる虻川という川。
 
特に虻川には滝が多く、美しい渓谷となっており、景勝地となっているようです。リニア中央新幹線は、これらの川の流域を、長さ15300mの長大トンネルで貫く計画になっていますが、大丈夫なのでしょうか。
 
山梨実験線のトンネル工事では、谷底からの深さ180m程度の地点を掘ったところ、頭上の川の水を抜いてしまいました。一般的にトンネル建設では、地表とトンネルとの厚さを土被りと呼び、これが300m未満になると水枯れの影響が出始める傾向にあるようです。この180mないし300mという数字を念頭においてください。
 
ちなみに土被りは「つちかぶり」と読んでいましたが、「どかぶり」と読むようです。リニア説明会の録音テープではじめて知りました。
 
イメージ 1
図1 伊那山地を貫く長大トンネル
長野県版準備書より複製・加筆
 
 
さて、この長大トンネルについて、東側から眺めてみます。
 
南アルプス本体の長大トンネルを抜けると、大鹿村内で小渋川を長さ250mほどの橋梁で渡り、ふたたびトンネルに入ります。このトンネルが今回注目しているトンネルです。ちなみに、この橋梁が架けられる地点は蛇紋岩という非常にもろい岩でできており、何ゆえわざわざここにトンネル坑口を設けるのか地元の専門家や長野県の環境影響評価準備書審議会で疑問視されています。
 
さてこのトンネルは、小渋川から約3.5㎞進んで、中央構造線に沿いを侵食して流れる青木川をくぐりぬけます。中央構造線沿いだけあって岩がボロボロになって隙間が多くなっていることに加え、土被りはわずか40m程度と、異常に薄くなっているため、大量の湧水が予想されます。
イメージ 2
図2 青木川付近
国土地理院 電子地図ポータルより複製・加筆 図1の右上部分に相当 
青字は谷底の標高赤字はトンネル・軌道の標高黒字は土被り
 

青木川をくぐりぬけて伊那山地の稜線を抜け、小渋川から6.3㎞程の地点で、虻川源流をくぐります。このあたりは土被りが大きいので、さほど問題ないでしょう、
 
小渋川側坑口から8.5㎞ほどの地点で、虻川の主要な支流を2本くぐりぬけます。どちらも土被りは200m強であり、地上への影響が懸念される薄さとなります。
 
大問題なのが小渋川側坑口から10~11㎞の部分。このあたりで虻川本流直下を約1㎞にわたり、土被り100~50mの薄さで通過します。川を直角にくぐり抜ける山岳トンネルというのは、これまでにもいくつか事例があるようですが、川底に沿って1㎞も掘り進めた事例など国内にあったのでしょうか? まるで砂漠地域の横井戸(カナート)のようです。
 
イメージ 3
図3 虻川・壬生沢川流域でのトンネルと谷底との関係
国土地理院 電子国土ポータルより複製・加筆
青い線は地形図上で記された川、水色の線はその他の主な沢
 
以上のように川底をくぐり抜ける部分の土被りが非常に薄いうえ、川底に接する距離が前例のないほど長いわけですから、河川水を大量にトンネル内に引き込んでしまうのではないかと心配されます。
 
 
しかも例によってこのトンネルは、東から西へ向かって下り一辺倒です。青木川と虻川の水を引き込んでしまっても、川に戻すことはできません。西側坑口で、壬生沢川という別の川に流れ去ってしまいます。
イメージ 4
図4 伊那山地のトンネル縦断面
準備書より複製・調整
黄緑色黄色橙色の部分は、それぞれ土被り300~200m200~100m100m未満を示す
 
さて、以上のように青木川、虻川では流量の減少が心配され、壬生沢川では流量の増加が予想されるわけですが、このような環境の変化に対し、準備書ではどのように調査・予測・評価・対策がなされているのでしょうか?
 
というわけで長野県版準備書に目を通しました。
(以下、前回の表現を使いまわし)
 

あれ
どこにもない!?



 
何にも調査してないじゃん!!
 
冗談でも誇張でもなく、本当に青木川、虻川ともに水環境の調査をしていないんですよ!
 
わずかに、川の近くにあるため池の位置と水道の取水源を図示しただけ。

第8章の「地下水の水質と水位」「水資源」が該当するはずですが、本当に何にも調査をしていません。何にも調査をしていないのに、「地下水位への影響は小さいと予測する」という一文が結論として示されているだけです。
 
環境影響アセスメントというのは、事業の実施や工事にともなって、環境にどのような影響を及ぼすかを調査・予測し、対策を生み出してゆく一連の流れをさします。ちゃんと法律にも書いてあります。
 
 
環境影響評価法による「環境影響評価」の定義。

第二条  この法律において「環境影響評価」とは、事業
(特定の目的のために行われる一連の土地の形状の変更(これと併せて行うしゅんせつを含む。)並びに工作物の新設及び増改築をいう。以下同じ。)の実施が環境に及ぼす影響(当該事業の実施後の土地又は工作物において行われることが予定される事業活動その他の人の活動が当該事業の目的に含まれる場合には、これらの活動に伴って生ずる影響を含む。以下単に「環境影響」という。)について環境の構成要素に係る項目ごとに調査、予測及び評価を行うとともに、これらを行う過程においてその事業に係る環境の保全のための措置を検討し、この措置が講じられた場合における環境影響を総合的に評価することをいう。
 
本当に工事によって流量に影響が出るかどうかは分かりません。しかしが起こるのかわからないから調査するのが環境影響評価なのに、調査自体を放棄しているのですから、これは環境影響評価とはよべないと思います。
 


 
 
南アルプス横断長大トンネル群(長さ計52㎞)の周辺には数多くの川がありますが、トンネル工事が河川流量に与える影響の予測をおこなっているのは、発電用に取水している大井川本流と主要な支流である西俣、水環境に強い懸念の出された長野県大鹿村の小河内川と小渋川の計4本だけ。
 
前回とりあげた大柳川、今回取り上げた青木川と虻川はもとより、その他数十本の河川は、いずれも調査対象になっていません。どの川に影響が及ぶかということも触れていない。
 
JR東海は一部の川については事後調査をおこなうとしていますが、事後調査で万事OKなら、そもそも環境影響評価という事前調査の制度は不要なはずです。根本的に認識が間違っています。
 
こんないい加減な環境影響評価準備書が、いままで存在したのでしょうか?
 
「データ不足」というレベルじゃないです。 

マジでおかしいですよ、コレ。

準備書意見へのトンチンカンな見解

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先日11月5日まで環境影響評価準備書に対する意見が受け付けられ、それについてJR東海が意見概要をとりまとめ、本日(25日)夕方、沿線自治体に送付されました。
 
これより120日以内に、沿線の市町村ごとに意見を知事に提出し、知事はJR東海に意見を提出することになります。
 
意見は2539通、意見総数14046件だったとのこと。
 
この数は、国内の環境影響評価制度としては異例の多さだと思われます。
 
さて、意見概要とJR東海の見解について、静岡県版だけざったと目を通しましたが…
 
 
意見と見解がかみ合っていない
 
のです。
 
分かりやすいところで、南アルプスの隆起速度について、「準備書で引用されている資料とJR東海の認識が間違っている」という意見が複数寄せられたのにも関わらず、このほどの「見解」でも、その不適当とされた準備書の内容をそっくりそのまま繰り返し掲げています。
 
意見「Aに基づく認識は間違っている」
JR東海の見解「Aに基づいてますから問題ありません」
 
こんな感じです。見解が間違っている以前に、やりとりがかみ合っていません。
 
 
あくまで私の推測ですが、あらかじめ寄せられる意見を想定しておき、それに対する回答もあらかじめ用意してあったのではないのでしょうか。だから、見当違いな見解を示してしまっている…。
 
そういえば、「南アルプスの自然環境は貴重なものである」という意見に対し、なんだか開き直りのように「過去の電源開発で15㎞の用水トンネルも掘られているし~」みたいなことも書かれています。
 
おいおい、比べ物にならないでしょう!
 
たしかに畑薙第一ダム以北には発電用水路トンネルが、総延長25㎞にわたって掘られています。
 
しかしリニアの建設工事では、トンネル本体に並行して掘られる先進ボーリング坑だけで長さ25㎞! これだけで中部電力が過去に掘った発電用水路の総延長に相当します。これに断面積10倍程度の斜坑と作業用道路トンネルが総延長数十㎞(詳細不明)、そして断面積25倍程度の列車の通るトンネルが掘られるわけです。そして360万立方メートルの残土を山中に捨てるわけで、環境に与える影響は全く比べ物になりません!!
 
「『道路マニュアル』を参考にしたから問題はないと認識している」というような表現も目立つけれども、そんなものを知っている人はまずいないし、方法書の段階でそんなものに準拠するという話は一言も出ていなかったし、それが南アルプスのような場所にも通用するかもわからないわけで、何の回答にもなっていません。
 
 
そして相変わらず「適切に対策をとります」という具体性に欠けた表現だらけ。
 
その他細かいことを挙げればキリがありませんが、そのうち準備書の問題点と合わせて触れようかと思います。
 
 


 
準備書への意見は、一般の人々が事業計画に対して関わることのできた、最後の機会でした。それに対してマトモに回答していないということは、この計画に一般の人々の考えは全く反映されない-するつもりもない-ことを意味してしまいます。
 
同時に静岡県版準備書へは、静岡県内の大学教授、NPO、アマチュア研究家など南アルプスの自然環境に関する専門家の声が多数寄せられています。それに対してもマトモに返答していないということは、南アルプスの自然環境など重要だと思っていないことの現われです。

南アルプストンネル総延長は130㎞? 

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リニア中央新幹線の南アルプス横断トンネル計画
 
山梨、静岡、長野3県に分割されて環境影響評価がなされているためか、全体を見回した論評や新聞記事を見かけません。
 
どういうトンネル構造で、どういう工事が行われるのか、どのくらい周知されているのかな?
 
全国版のニュースや新聞ではサラッと「南アルプスを通過し…」なんて報道のされ方をしているけれども、とんでもない工事計画なのですよ。
 
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赤点線が列車の通るトンネル
紫点線が、現在判明している作業用トンネルの位置
緑の点が、準備書に記載された斜坑口
 
なによりも、列車の通るトンネルを掘るために、それよりもさらに多くのトンネルを掘る必要があるんですね。総延長でどの程度になるのでしょう?
 
まず、列車の通る本坑トンネルは、東から
最勝寺-三枝川のトンネル 900m
畔沢集落奥のトンネル 50m
畔沢集落奥-小柳川のトンネル 2600m
巨摩山地(小柳川-早川)のトンネル 8500m
赤石山脈(早川-小渋川)のトンネル 25000m
伊那山地(小渋川-壬生沢川)のトンネル 15300m
阿島集落付近のトンネル 100m
 
となっています。準備書をもとに地形図上で計測すると合わせて52,450mあります。
 
で、このトンネルを掘るために、さらにたくさんの作業用トンネルが掘られます。なお、これらについては、準備書においても、いまだに長さ・規模・構造が明らかにされていないという問題があります。残土発生量や河川流量の予測を行っているわけですから、全く未定ということはないはずです。準備書段階でもこういう情報を出さないのはおかしな話です。
 
とりあえず斜坑が11本、作業用道路トンネルを2本想定しているということです。このうち静岡市二軒小屋の作業用道路トンネルについては、構造は不明ですが、準備書に点線で位置が示され、長さは2500m、2900mとみられます。
 
また、山梨県早川両岸の斜坑は、おそらく山の中腹に開けられる坑口への通路になると思われ、(12.5パーミリ勾配とすると)長さはそれぞれ1000m程度とみられます。長野県大鹿村の上蔵地区に計画されている斜坑も、同様に長さは1100m程度とみられます。
 
以上のように計13本の斜坑・作業用道路トンネルのうち、5本については、合計8500mほどになります。
 
残る8本については推定ですが、確実に2500m以上となるのものが4本(早川町内河内川、静岡市二軒小屋2本、大鹿村釜沢)あり合計15000mは上回るはずです。
 
さらに、列車の通る本坑トンネルのうち、長いもの3本には、これに並行するかたちで先進ボーリング坑が掘られます。これはトンネルボーリングマシン(TBM)という機械で、前方の地質確認のために、本坑に先立って掘られるものだそうです。完成後は避難通路にするとのこと。東海北陸自動車道の飛騨トンネルの事例では直径4.5mということだったので、単線の鉄道トンネル並みです。3本の長大トンネルに並行するということなので、この先進ボーリング坑の長さは約48800mとなります。
 
 
以上のトンネルを合計すると、南アルプスに掘られるトンネルの総延長は、最低でも124950mとなります。ゼロが多くて読みづらいですね、124.95㎞です。
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幅52㎞の南アルプスを横断するために、それよりも余計に70㎞以上ものトンネルを掘らねばならないのです。
 
ところで南アルプスでの大工事を心配する声に対し、このほど公表されたJR東海の見解書には
 
「南アルプスでは昭和から平成初めにかけて電源開発が行われたから…」
 
といった言い方が使いまわされています。「電源開発がおこなわれたから」何だろう?と思うのですが、リニア建設はそれに比べればマシという意味合いなのでしょうか?
 
南アルプスルートの地形図に引かれた水路トンネルの青点線を眺めながら、いつか必ずこれを引き合いに出すのだろうなぁ…と思っていたら、予想通りでした。
 
リニア建設と電源開発とでは、環境に与える影響のケタが違うのです。
 
南アルプスでの電源開発について調べてみました。
 
どこまでを南アルプスと見なすのかは人によると思いますが、とりあえず、大井川の畑薙第一ダムより上流側、山梨県の早川水系、長野県天竜川左岸を南アルプスと見なします。
 
大井川の最上流部、畑薙第一ダムより上流には、昭和50年代半ばから通産省による水力発電所建設の調査が行われ、中部電力により平成2年に着工、平成7年までに工事が完了しました。東俣、西俣、木賊(とくさ)、滝見、赤石沢、聖沢の6つの取水堰、赤石ダム(高さ58m)、二軒小屋、赤石沢、赤石の3発電所が建設され、それらを結ぶ水路トンネルの総延長は22,291mに及びます。

いっぽう、山梨県の早川流域にも数多くの取水堰や発電所が造られ、それらを結ぶ水路トンネルの総延長は約77,000mに達します。

遠山川水系、小渋川水系にも発電所があり、それらの総延長は32,000m程度になるようです。
 
合わせて130㎞近くにも及びます。
 
リニアのトンネル総延長とだいたい同じくらいですね。

しかしですねえ、水路トンネルと、列車や大型ダンプカーの通るトンネルとでは、掘削断面積が比較にならんのですよ
 
発電用水路トンネルは直径1.5~4m程度で掘削断面積10㎡弱。
 
かたやリニアの場合…

トンネルの掘削断面積は推定で115㎡(有効内空断面積74㎡+コンクリート壁)
道路トンネル・斜坑の掘削断面積は推定34~40㎡(九州新幹線の事例)
 
というわけで、発生する残土の量も桁違いです。ちょっと試算。
 
水路トンネルの断面を直径3mとみなすと、断面積は7㎡。これに総延長130,000mを掛けると約92万㎥。地下発電所の整地等を考えて約100万㎥を追加。岩が砕かれると体積が増すことを考慮(土量の変化率)すると160~180万㎥といったところでしょう。
 
いっぽうのリニアは、早川、二軒小屋、大鹿村に出される分だけで約960万㎥。これに甲府盆地側、伊那谷側に出されるのを加えると1300万立方メートルにはなるでしょう。7倍は出るわけです。
 
総延長130㎞の発電用水路網は、3県それぞれ戦前から平成の初めにかけて、70~80年間をかけて拡大され続けたものです。いっぽうリニアの場合、10年程度の突貫工事となり、工事が自然環境や人々の生活に与える影響ははるかに深刻となります。残土だけに限ってみても、電源開発70年分の残土の7倍の量を、狭い範囲で10年という期間で掘り出すわけですから・・・。
 
 
そして根本的な違いとして、電源開発は南アルプスが包蔵していた水力を求めて南アルプスを傷つけたという面があるのに対し、リニアの場合は「邪魔だからぶち抜く」だけ。同じ自然・環境破壊でも、目的が全く異なるのですよ。南アルプスの山里に与えるメリットも全くないし。

大井川をこれ以上痛めつけるな!!

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前回書いたように、南アルプス奥地に大小さまざまなトンネルが縦横に掘られ、その結果として、大井川はじめ多くの川の流量が減少するという予測結果が出されています。
 
大井川上流域では、本流で2立方メートル/秒の流量が減少すると、JR東海自身がはじき出しています。もっとも、予測の前提とした理論上の解析値による現況値と、現地調査による現況値が大きく異なるなど、数値の見方自体がよくわからないのですが。
 
さて、このほどの「見解書」ではどのような回答をよせているのでしょうか?
 
水環境については「水質」、「地下水位」、「水資源」と3項目に分かれていますが、一番大きな問題となっている流量を扱っている「水資源」のところを見てみます。これが見解書です。
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準備書への意見に対するJR東海の見解書
緑線部分は「今後決める」ということでよく分からないところ

これとてやはり、疑問だらけなのです。
 
第一に、山梨実験線における水枯れに関するものです。
 
準備書への意見として、山梨実験線の延伸工事で川の枯渇を引き起こしたことに対して強い懸念が寄せられました。それに対して見解書では、「破砕帯等の一部においては水位が減少する可能性があると予測していたと回答しています。上の見解書コピーの、疑問①の部分です。
 
しかし山梨県上野原市での水枯れ発生を伝えた2011年12月27日付け山梨日日新聞の記事には、
『JR東海は「現時点での原因特定は困難だが、トンネル工事が周辺の河川の流量に影響を与える可能性がある」として、工事終了後に因果関係を調査する方針
 
と書かれています。見解書にある「予測していた」とは矛盾しています。本当は予測できていなかったのか、予測していたことを否定していたのか、どちらかです。
 
書いてあることがアテにならないのです。
当時の山梨日日新聞は、静岡県立中央図書館に保存してあるので、静岡県民で興味のある方は、どうぞ足を運んでご覧になってください。
 
 
第二に、流量減少について強い懸念・心配が寄席られているのに対して出された「上流域での流量減少は大したことがない」という見解について、疑問というか憤りすら覚えます。
 
静岡県在住の方や、ダム問題に関わっておられる方はご存知かも知れませんが、大井川では「水返せ運動」というものがありました。
 
大井川は全長168㎞(一級河川区間)ですが、流域面積は1280平方キロメートルと、それほど大きくありません(多摩川くらい)。しかし標高差3000mを流れ下るため、その落差が注目され、大正時代から水力発電の適地として利用され続けてきました。ダムだらけであり、本流は送水管の中を流れて、特に旧川根町(現島田市)の塩郷堰堤より下流では全く水のない「河原砂漠」とよばれるほどの有様でした。
 
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川に全く水がなくなり、生き物は死滅し、河原には砂埃が舞い、川霧が発生しなくなって特産のお茶栽培にも影響が出て、昭和40年頃から「川に水を返せ!!」という運動が巻き起こりました。しかし水利権を有する中部電力、東京電力とも全く譲らず、運動は活発化。
 
四半世紀もの間、粘り続けた運動がようやく実を結んだのが1989年。ここにきて水利権更新のおりに、ようやく塩郷ダムから3~5立方メートル/秒の水が流されることになりました。
 
今、大井川鐵道のSLに乗って大井川を流れると、水が流れているのが目に映ります。それはこの長い運動の末に獲得した光景なのです。とはいえ、これでも往時の姿には程遠い状況。今年のように空梅雨の年には干上がってしまうこともあります。
 
ただ付言しておきますと、ダムで取水された水はムダに使われているわけではありません。合計65万7500kWの発電をおこない、そのあと島田市、菊川市、掛川市など60万人余りの上水道、牧の原大茶園はじめとする農業用水、東海工業地域の工業用水へとフルに使われています。
 
ようやく戻ってきた流量は3~5立方メートル/秒
リニア建設にともなう流量減少が2立方メートル/秒
しかもただ垂れ流すだけ
 
これでも「下流への影響は少ない」と言えるのでしょうか?
 
見解書では、2立方メートル/秒の「減少分はトンネル湧水として排出される」と書いてありますが、どこへ排出されるのかは書いてありません。まあ路線断面図を見れば、東側坑口の早川方面ということがわかりますが…。これを「河川に戻すなどの恒久対策を実施いたします」とも書いてあります。
 
できっこないんですよ、コレ。
 
以前にも書いたとおり、大井川・富士川流域界でのトンネル標高は約950mほど。それに対して頭上の斜坑付近での大井川の標高は1350m。
 
どうやって汲み上げるのでしょうか?

2立方メートル/秒の水を400mの落差で真っ直ぐ落とせば、数千kW程度の発電能力があります。中部電力の赤石発電所並みです。水槽にためて一気に大量に落とせば、2万kW程度は可能になります。逆にいえば、これをポンプで汲み上げるためにはそれ以上の動力が必要になります
 
ベラボウな電気代がかかります。参考までに検索してみると、青函トンネルには12台のポンプがあり最大2.15立方メートル/秒を汲み上げることが可能であり、フルに稼動しているかどうか分からないけれども電気代は1日230万円とか290万円とかいう数字が出てきます。
 
ただ汲み上げるだけなのに年間8億円以上?
 
しかもポンプが停まると同時に川も涸れてしまいます。全然「恒久対策」ではないのですよ。未来永劫、JR東海が責任を持って管理し続ける保証はないし、そもそも「大井川の水源はポンプで、JR東海が生殺与奪の権利を持つ」だなんてものすごく不自然です。

また、そこはユネスコ・エコパーク登録予定地です、JR東海は「工事を行うのは経済活動の認められる移行地域だから問題ない」という見解を示していますが、それは持続可能な自然の利活用というのが大前提です。「ポンプという動力源を用いて水を汲み上げる」というのは、明らかに持続不可能なものです。→エコパーク登録基準
 
これも以前に触れましたが、ラムサール条約登録湿地の北海道ウトナイ湖で、近傍に巨大な千歳川放水路が計画され、地下水流動の遮断が心配されたのに対して事業者(北海道開発局)が苦し紛れに出し、「ムチャクチャ」といわれてボツになった案が、まさにコレ(放水路計画はその後中止)。
 
トンネルから下流側に送水トンネルを掘るというのもムリです。直線でも22㎞も必要になり、しかもそこまでの区間には水が戻りません。
 
 
それに「やむを得ず補償…」というような内容も書かれていますが、基本的にカネの問題ではありません。カネを払えば川が死なずにすむのですか?
 
 
ところで、見解書の水環境に関係する部分における最大の問題点は、次の点にあると思います。
川の水が減って、真っ先に影響を受けるのは川に住む様々な動植物です。当然、この視点からの意見も寄せられており、意見概要にもまとめられています。

水深が浅くなれば、水生生物の住める空間は減少するのでは?
瀬切れが頻発すれば、水生生物の移動が困難になるのでは?
流量が減れば水温が上がるのでは?
流量が減れば、淵が埋まりやすくなるのでは?
沼沢地が減れば、植物の分布状況も変わるのでは?
 
ところが、流量減少が生態系に与える影響に関する意見に対しては、水環境のところにも、動物・植物・生態系のところにも何の見解も載せられていません。これが一番の問題だと思います
 
 
ブログを書いていて気になったのですが、この環境影響評価準備書を書いた人々は、本当に流域の事情をご存知なのでしょうか?

南アルプスをゴミもとい残土捨て場に見なすプロセスはどーなってるの?

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南アルプス貫通計画の大問題
 
残土
ざんど
 
について触れようと思います。
 
残土というのは、建設工事に伴って発生する不要な土のことです。正確には土ではなく岩のカケラですけど。
 
リニア中央新幹線計画において、南アルプスを横断する総延長52㎞のトンネルを掘るために、おそらく余計に70㎞程度の作業用トンネルが掘られます。そのため、通常のトンネル工事では考えられないような、異常な量の残土が発生します。
 
静岡県環境影響評価審査会の議事録によると、静岡県内10.7㎞のトンネルを掘るために6.2㎞の斜坑を掘るそうです。さらに本坑と同調の先進ボーリング坑と道路トンネルも5.6㎞掘るので、合わせて3.2㎞。作業用トンネルが列車の通るトンネルの3倍の長さ。実にバカバカしい。
 
準備書には明記されていませんが、南アルプス山中である山梨県早川町に300万立方メートル、静岡県静岡市二軒小屋に360万立方メートル、長野県大鹿村に300万立方メートルが発生することが説明会で話されたと、伝わってきています。その他、南アルプス東側の甲府盆地側と西側の伊那谷側に出される量を加えれば、合計1200~1300万立方メートル程度になるのでしょう。
 
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ちょっと参考までに…。

静岡市郊外に、国道1号線の丸子藁科トンネルというものがあります。長さ約2㎞の2車線構造で、幅はリニアのトンネルと同程度です。この掘削工事に伴って発生した残土の量は約20万立方メートルです。単純に2㎞を26倍すれば520万立方メートルであり、これと比べると、リニアの長大トンネルがいかに余計な残土を生み出しているかお分かりになると思います。
 
 
さて、静岡市内の大井川源流部すなわち南アルプスど真ん中に排出される360万立方メートルについてです。およそ東京ドーム3杯分になります。静岡市内の八幡山の体積よりも大きな量です。駿府公園に囲いを作って積み上げたら、高さ22mにもなります。
 
以前にも書きましたが、JR東海は準備書の中で「努力目標」のようなかたちで「9割を再資源化する」と述べています。と同時に7ヶ所の残土捨て場を設けることを提示しています。
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どちらも環境影響評価準備書【静岡県】より
なお、残土を処分する場所のことを準備書では「発生土置き場」と表現していますが、実際には利用価値のない廃棄物として永久に捨て置くことになっているので、私は「残土捨て場」と呼ぶほうが適切だと思っています。
 
「建設残土のリサイクル」とは、要するに、谷を埋め立てて盛土構造にしたり、他の公共事業に転用するということです。高速道路や新幹線の盛土区間には、トンネル区間や切土区間から出された残土が用いられています。
 
しかしリニア中央新幹線というのは、品川-名古屋の8割がトンネル構造であり、残る2割も全て高架橋です。盛土区間は存在しないので、リニア建設に再利用することは不可能です。なにより静岡県内で行われるのはトンネル工事だけであり、域外への搬出も行わないので、再利用なんてできっこありません。なにゆえ、できもしないのに「9割再資源化」なんて書くのでしょう
 
そもそも、9割再利用が可能なら、7ヶ所もの残土捨て場を挙げる必要はないはずです。
 
それゆえに、ほぼ全量を南アルプス山中に捨てることになります。これにより、前代未聞の自然破壊あるいは災害の誘発まで予想されます。JR東海の事業計画と環境対策では、とてもこの自然破壊を緩和できるものではありません。
 
ところで、残土を減らせば環境への影響は小さくなるはずです。大井川はじめ早川、小渋川という南アルプス山中に斜坑や坑口を設けず、残土の排出をしなければ、南アルプスの環境への影響は、水資源を除いてほぼクリアできます。このことは当然検討されるべきだし、できないならできないなりの理由を丁寧に書けばいいわけです。一般人の側としては、納得できなければその旨を意見書として提出すればいい。そういうやりとりを行うのが環境影響評価制度です。
 
「極力環境への影響を小さくする事業計画を生み出す」ことが環境影響評価の目的ですから、多様な複数案を検討することは当然のことです。そしてその検討経緯を準備書において掲載することも、当然守られるべき義務として、運輸大臣令で示されています。
 
第三十条(要旨)  事業者は、環境保全措置についての複数の案の比較検討、実行可能なより良い技術が取り入れられているかどうかの検討その他の適切な検討を通じて、事業者により実行可能な範囲内で対象鉄道建設等事業に係る環境影響ができる限り回避され、又は低減されているかどうかを検証しなければならない。
第三十一条 3事業者は、位置等に関する複数案のそれぞれの案ごとの選定事項についての環境影響の比較を行ったときは、当該位置等に関する複数案から第一種鉄道建設等事業に係る位置等を決定する過程でどのように環境影響が回避され、又は低減されているかについての検討の内容を明らかにできるよう整理しなければならない。
正式名称「鉄道の建設及び改良の事業に係る環境影響評価の項目並びに当該項目に係る調査、予測及び評価を合理的に行うための手法を選定するための指針、環境の保全のための措置に関する指針等を定める省令」(平成十年六月十二日運輸省令第三十五号)
まるで最近のAKB48の歌のタイトルのように、バカみたいに長い名称であります。)
 
 
ところが、準備書においては、その検討経緯は全く記されていません。これは南アルプスに限らず、ほぼ全区間で共通してみられる特徴です。わたくし自身、配慮書、方法書、準備書と3度にわたってこのことを意見として送りましたが、全く答えてもらえないんですね。見解書にあったのは次のような一文だけ。
 
非常口(山岳部)については、営業時の万が一の場合の避難経路としての機能面や、肯定面、地形条件の面、環境要素等の制約条件の面から設置位置を検討し、トンネルの長さや土被りなどの条件などから静岡県内における非常口(山岳部)は2箇所計画いたしました。
中央新幹線(東京都・名古屋市間)環境影響評価準備書に対する意見の概要及び当該意見についての事業者の見解【静岡県】25ページより
 
これでは具体的な検討経緯は全くわかりません。
 
答えになってねぇっつーの!!
どういう検討経緯だったかっていうのを書いてくれ!!
って言っても、もう回答はない…。

膨大な残土を南アルプス山中に排出すれば、多方面にわたり大きな影響が出ます。とはいえ、おそらくJR東海はハナっから南アルプスをゴミ捨て場か埋立地としか考えていなかったのだと思いますが、それでも周囲を納得させるには、ゴミ捨て場だという結論を導き出すための論理展開が必要なはずです。
 
一般の人々にとっては貴重な大自然の宝庫である南アルプスを、強引にでも単なるゴミ捨て場と見なすためには、つぎのようなプロセスがJR東海の車内社内で働いているはずです。
 
 
南アルプスルートでも環境保全上、問題がないかどうか
問題ないという判断
南アルプスに斜坑が必要かどうかという検討

設けるべきという判断

残土を南ア山中に排出してもよいかどうかの検討

排出しても大丈夫だという判断

排出した残土を域外に運び出すか、南アルプス山中に捨てるかの検討

南アルプス山中に捨てるという判断

残土捨て場候補地の選定

7つの候補地を抽出

環境保全措置の検討

環境保全措置を記載
 
 
 
 
こういう意思決定にかかわるプロセスが公表されないということは、複数案の検討など眼中になく、最初から結論が出ており、それに合わせて環境影響評価(アセスメント)をおこなったを疑わざるをえません。
 
まあ、「直線しか走れない超電導リニア」というものの概念自体が、「複数案の検討余地なし」なんだけど。
 
 
こうした結論の決まっている環境アセスメントのことを、「合わすメント」と呼ぶそうな。
 
続きます。

標高2000m! 天空の残土捨て場

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今回の問題はあまりにもクレイジー。
 
 
庭に穴を掘ったときに、出てきた土をわざわざ屋根に運んで積んでおく人はいないと思いますが、それを巨大な規模でおこなおうとしているのがこのリニア計画。
 

JR東海の作成した環境影響評価準備書によれば、静岡県内では南アルプス山中の7ヶ所に残土を捨てる計画になっています。
 
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準備書 「図4-2-1-3 水環境に係る測定位置図」 を複製・加筆
 
7ヶ所の残土捨て場のうち、6地点は大井川源流部の河原や谷底を埋め立てることが計画され、残る1ヶ所については、「標高2000mの山のてっぺん」というとんでもない場所が挙げられています(地図中太赤線で囲ったところ)
 
はじめてこの話を知ったときには思わず「じぇじぇじぇ!」と叫んでしまいました(ウソです)。
 
今回、この山のてっぺんに計画されている残土捨て場について触れます。なお、準備書では「発生土置き場」という呼び方をしていますが、実際には永久にその場に捨て置くことになるので、私は「残土捨て場」と呼びます。
 
南アルプスの最高峰は山梨県の北岳(3192m)です。そこから間ノ岳、農鳥岳と3000m級の高山を経て、南に向かう尾根が伸びています。白根三山の南側ということで、白根南嶺とも呼ばれることがあります。この稜線は山梨・静岡の県境をなし、標高2000m弱の転付峠まで下ったあと、さらに生木割、笊ヶ岳、布引山と2500m級の峰々を起こし、はるか静岡市街地の浅間神社にまで延びています。登山道が整備されておらず、訪れるひともまばらな稜線だそうです。当然、私も足を運んだことはありませんが、登山記録や植生調査などによればオオシラビソやカラマツなどの針葉樹からなる、うっそうとした森に覆われているようです。
 
この転付峠のやや北方に、標高2000m程度で、稜線の幅が広く、起伏のやや緩やかな部分があります。その昔、早川町の奈良田温泉から大井川源流部に向かう樵や猟師の道があったため、奈良田越ともよばれる場所の近くです。このような地形を山頂平坦面とよびます。山頂平坦面の成因については、隆起する前の平地の名残がそのまま持ち上げられたためだとか、あるいは山頂が重力でつぶれかけていることがあげられますが、この場については詳しい調査結果がないので、なんとも言えません(後述)。

地形図で地形を確認してみましょう。
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国土地理院地形図閲覧サービス うぉっちず より複製・加筆
沢Bについては後日触れます。
 
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環境影響評価準備書 静岡県版 関連図を複製・加筆

一帯の稜線は標高2000~2120mで、幅500m程度の、起伏の緩やかな台地状をなしています。そこを深さ50~130m程度の、緩やかで浅い谷が2本南に下り、合流して西へ曲がったところで一気に標高差400mを下って大井川に注いでいることがわかります。この沢を沢Aとしておきます。
 
この一帯が、残土捨て場に挙げられています。
 
◇   ◇   ◇   ◇   ◇
 
準備書を見ると、大井川支流の西俣に設けられる斜坑付近がら掘り出される残土が、ここに向かうように見受けられます。
 
残土は地下400~500m付近から標高1550mの斜坑口まで掘り出され、そこから500mほど下流側の坑口から長さ2.5㎞のトンネルに入り、いったん標高1450mの東俣(大井川本流)に出て橋で渡り、川の東岸から急勾配のトンネル(長さ2.9㎞・標高差600m)を駆け上って、山上の標高2050m地点に排出され、捨てられるとみられます。準備書によれば、この間の約6㎞は、「環境に配慮して」ダンプカーではなくベルトコンベアーによって運ぶのだとか。
 
Google Earthによる現地の航空写真(衛星画像?)に、工事関係箇所を加筆したものがこちら。
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南から北を見たようす
 
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西から東をみたようす
 
残土は大井川の谷底からは400~500mも高い、急な谷川の源流に積み上げられるわけです。「屋根の上に庭の土を捨てるようなもの」という印象を受けます。
 
残土は静岡県内には360万立方メートルが排出されると準備書に書かれています。ただしこれは砕いてほぐした量です。実際に積み上げれば締め固められて容積は小さくなるため、おそらく300万立方メートル程度に縮まると思われます。
 
わざわざトンネルを掘って残土を増やしてまで捨てに行く計画ですから、相当な量の残土を捨てるつもりなのでしょう。道路トンネルの掘削断面積を34平方メートル(※)とすると、5400mの長さでは18万立方メートル以上の残土が生じます。
 
※九州新幹線・筑紫トンネル斜坑では、同様にベルトコンベアを併設。断面積31㎡で覆工の厚さは15㎝である。地質を考慮し、覆工を30㎝と仮定すると断面積34㎡とみなした。
 
少なくとも、この18万立方メートルの何倍もの残土を捨てるはずです。
 
おそらくは、台地上を削る、沢A源流部の浅い部分を埋め立てるつもりなのでしょう。谷に残土をできるだけ多く捨てる場合、古墳のように積み上げるよりも、谷に仕切りをつくり、その上流側に捨てたほうが効率的です。というよりも、谷の規模が小さいので、そうしなければ何十万立方メートルも捨てることができません。
 
 
そこで地形図に示した通り、緑色の線の位置に壁(ダム)を築くことを考え、この谷に捨てることの可能な残土の量と、ダムの規模を予測してみました。おそらく地図に記した緑色の太線で仕切れば、ダム上流側の受け入れ容量が最大になると思われます。
 
ダムの容積(残土受け入れ容量)…90.6万立方メートル
ダムの高さ…約55m
ダムの壁の長さ…約200m
残土表面積…約46000平方メートル
残土奥行き…約375m
 
うん、これで全体の3割は処分できるぞ!
めでたし、めでたし
 
…って、そんなことを言ってる場合じゃありません!
 
まず、この壁(ダム)の規模がハンパじゃありません。
 
大井川流域でいえば、笹間川ダムよりも大規模です。こんなものが山の稜線近くに出現したら、ダム本体の存在自体が、物理的にきわめて不安定です。
 
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(参考)笹間川ダム 高さ46.8m、堤の長さ140.8m
Wikipediaより
 
ここの谷のように、下流が急で上流が緩やかな谷は、全体として不安定であり、上へ上へと侵食が進んでゆきます。侵食というのは、水の流れが谷を深く刻んでゆくということです。
 
侵食してゆく先に大量の残土が積んであったら…。ダム堤ごと崩れ去ってしまわないのでしょうか。
 
しかもこの沢Aは、水平距離750mで標高差390mを一気に下っています。平均勾配は0.5以上で、角度で表現すると30度近くもあります。いったん崩れだしたら、大井川本流までノンストップで崩れ去り、本流を堰き止めてしまう危険性すらあります。
 
いつかは必ず大雨や地震に見舞われます。数十年あるいはそれ以上のスパンで安全性が保たれる保証はありません。災害にまで結びつかなくとも、恒常的な土砂の流出を招き、川の濁り・荒廃を増幅させかねません。
 
さらにおそろしいのが、この山頂平坦面が地すべり起因だった場合です。
 
山が高く隆起すると、そうした状況は不安定なので、斜面を引きずり落とそうという力が働きます。その結果、稜線に並行する亀裂(小規模な正断層)が入り、谷側は崩れ始めて地すべりとなります。亀裂が入った稜線は複雑な地形となり、複数の稜線をもつ多重山稜とよばれ、その間の窪地は線状凹地とよばれます。
 
隆起の活発な南アルプス一帯にはこのような多重山稜があちこちにあり(間ノ岳、上河内岳、転付峠、山伏、七面山等が有名)、それに起因すると見られる巨大な崩壊地もあちこちにあります(大谷崩れ、ナナイタガレ、赤薙、ボッチ薙など)。
 
この残土捨て場候補地となっている、稜線上の浅い谷の成因については、詳細な調査が行われているのかどうか存じませんが、地すべり起因の線状凹地である可能性は高いとみられます。じっさい、防災科学技術研究所が作成した地すべり地形分布図には、この平坦地を地すべり地形と判定しています。
イメージ 4
 
もしそんなところに大量の残土を積み上げたら…
 
ただでさえ山肌は崩れ始めているのです。ダム堤と残土の重さを支えられず、山肌ごと崩れ去ってしまうおそれはないのでしょうか
 
そのような崩壊が起これば、数百万立方メートル規模の巨大な規模となります。無人地帯とはいえ、下流2㎞ほどの地点に登山基地(二軒小屋ロッジ)があり、人的被害が懸念されますし、長期にわたる渓流の荒廃と植生の破壊、水力発電所の破壊、ダム湖への流入、景観の荒廃を招き、前代未聞の大規模な人災および自然破壊となります。

準備書では、この山頂平坦面の成因については、一言も触れていません。先の地すべり地形分布図の存在についても言及してません。こういう危険性を認識しているのかどうかも、客観的には検証できないのです。
 
あまりにムチャクチャ・無謀な計画なので、地元の専門家グループや日本自然保護協会からは「土石流の原因をわざわざつくるようなもの」と非難されています。
 
日本自然保護協会の意見書
http://www.nacsj.or.jp/katsudo/kokuritsu/2013/11/post-22.html(問題点5)
南アルプス・ユネスコエコパーク登録検討委員会
http://www.city.shizuoka.jp/000154109.pdf(2ページ目)

こんなことを、環境省・国土交通省は認可するのでしょうか?
 
 
続きます

「標高2000m天空の残土捨て場」は環境影響評価をほとんどしてない…

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JR東海が考案した、「南アルプス標高2000mの山上に建設残土を大量に捨てる」というムチャクチャな計画のメチャクチャさについて続けます。 
 
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南アルプス大井川最上流部に設けられる「天空の残土置き場」関連図
国土地理院地形図閲覧サービスウオッちずより複製・加筆
 
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準備書記載事項をGoogle画像に加筆
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環境影響評価準備書に加筆
緑色の太線は、ここにつくられるであろう「残土捨て場の巨大ダム(詳細は前回記事参照)」この線で稜線上の谷を仕切ればり、その上流側に全量の3~4割にあたる90万立方メートル程度の残土を放り込める。黒い点線は生物相の調査範囲。山梨県側にまたがっているが、その結果は山梨県版準備書に記載なし。
 
 
こんな計画について、JR東海はどのような環境影響評価をおこなったのか、環境影響評価準備書を見てみますと・・・。
 
実はこの残土捨て場候補地については、どういうわけか環境影響評価がほとんど行われていないのです。
 
一応、トンネル坑口から「半径600m」という範囲で動植物の調査だけは行われているようです。
 
しかしその内容は実にいい加減。まず結果が全く整理されていません。5㎞以上離れた斜坑口や20㎞以上離れた別の残土捨て場候補地での調査結果とごちゃ混ぜにして、確認された動植物を一覧リストに並べただけです。というわけで、ここでどのような動植物が確認されたのかは、客観的に知ることはできません
 
また、残土捨て場自体は静岡県側に設けるのでしょうが、調査範囲は山梨県側にまたがっています。当然ながら動物の行動に県境は関係ありません。ところが、保全対象とする希少動植物の選定については静岡県側の基準のみをあてはめ、なおかつ調査結果は静岡県版準備書にしか掲載されていません。これもおかしな話です。山梨県側で発見され、本来なら山梨県側で重要種に選定されるべきものが混ざっている可能性があります。
 
なお、その一覧リストを眺めてみると、高山のお花畑でみられるような、いわゆる高山植物に該当するようなものも含まれています。調査範囲で最も標高の高い場所ですから、ここで見つかったのかもしれません。高山植物は、アセスで保全対象とする「希少な動植物リスト」に入れなくてよいのかな?
 
残土で埋め立ててしまえば、そこにあった植物や、移動能力の低い小動物は根絶やしになってしまいますし、それらを拠り所にしていた鳥や哺乳類も影響を受けます。生態系への影響も懸念されますが、その点は何も調査されていません
 
その他の項目-気象条件、水環境、土壌条件、景観-については何も調査されていません。ここを残土捨て場に選んだ経緯も説明されていません。
 
ちょっと、思いつく懸念を書き上げてみますと・・・。
 
まず水環境についてですが、残土を源流に捨てれば、その下流側の沢Aに影響が出ます。前回書いた大崩壊のような事態にいたらなくとも、工事の過程で必ず川が濁りますし、終了後も残土が流出したり、濁りが恒常的に生じるのは確実です。
 
また、大井川の谷底からこの残土捨て場まで長さ2900mのトンネルが掘られますが、途中で沢Bをごく浅い土被りで潜り抜けます(もしかすると橋かも)。これにより、頭上の沢Bの流量に対する影響が予想されますが、流量も生物相も、何も調査されていません。小規模な沢ですから生き物は少ないのかもしれませんが、調査自体をしていないので何がいるのかもわかりません。おかしな話です。

景観の調査を行っていないことも問題です。前回指摘したように、効率よく残土を捨てるためには、高さ55m、長さ200m程度の巨大なダムが必要となります。大井川中流の支流笹間川に、笹間ダムというものがありますが、これよりさらに大規模になります。Wikipediaに笹間ダムの写真がありましたので、借用して貼り付けて起きます。
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こんなものが山のてっぺんにできたら、異様な光景だと思うのですが、景観に与える調査については、なにも行われていません。そもそも、どこから見えて見えないのか、そんなことも分かりません。

 
 
この残土捨て場設置による環境への影響については、どのような影響がでるのか分からないというよりも、知ろうともしていないのがJR東海の姿勢です。
 
 

また、気象観測を行っていないという点で、次のような懸念も持ちました。
 
こんな場所、緑化できるのか?
 
JR東海は、準備書において、「残土捨て場は緑化をおこなう」としています。しかしトンネルからの残土の特徴として、発生する残土は全て岩のカケラであり、植物が根をおろすことができません。石ころの山を土に変えて緑化するというだけで、困難な話です。
 
(もしかすると処分場建設前に土壌をはぎとり、後で残土を覆うために保管しておくのかもしれません。そのためには保管用の広大な土地が必要になるはずですが、そんなスペースを確保するようなことは準備書に一行も書かれていません。)
 
そしてなにより標高2000mという高地です。こういう高地における大面積の緑化というのは、スキー場やロープウェイ駅周辺の小規模な緑化を除き、あまり成功例がないんじゃないのかな?
 
規模の大きな緑化というと…南アルプス・スーパー林道とか、富士山スカイラインとか、失敗した事例ばかりが思い浮かびますが。
 
まず気象条件について、平地での常識が通用しません。ところがJR東海は、ここでの気象観測をおこなっていません。非常に特殊な気象条件下であるゆえに、まずはそれを把握するのが必要なのではないのでしょうか?
 
気温や風に関しては現地調査が必要ですが、降水量に関しては、既存の資料でも代用できるはずです。半径10㎞以内にも、奈良田、湯島、新倉(以上早川水系)、千枚(大井川水系)といった国土交通省管轄の無人雨量観測点があり、その記録は「雨量年報」という資料で公表されています。だけどもそんな簡単な資料調査もしていない…。工事やら緑化やらをおこなうつもりなら、現地の気候特性を知ることは当然のことだと思うのですが。
 
というわけで、以下は現地の気候を推測したうえでの懸念。
 
かつて徳島県に「剣山」という測候所がありました。剣山山頂に設けられ標高は1944.8m。富士山頂の次に高いところで観測をおこなっていた場所です。ちょうど残土捨て場とおなじくらいの標高であり、同じく山のてっぺん近くという立地条件です。気象条件を探るにはよい例でしょう。
 
で、剣山の観測記録をみると、やっぱり寒いんですね。1、2の平均気温は-7℃程度、であり、12~3月には日中でも-10℃未満という日が何度も訪れています。特に寒いときには記録は-20°未満になるようです。
 
標高2000m付近の気温を推測するために、気象庁の観測データを貼り付けておきます。
 イメージ 5
月別平均気温 気象庁のHPより作成
剣山(1944.8m)1971~2000年の平均値
茨城県つくば市館野800hPa(上空約2000m)
北海道ノシャップ岬(12m 地点名は納沙布)
 
ただ、寒冷地における植物の生育には、冬の温度よりも夏の温度のほうが重要となります。剣山の7、8月の気温は15℃程度です。日本列島の平地で、夏場にこれだけ低温な地域はありません。北海道の根室地方や低山地でも夏場はもう少し高温になります()。
 
北海道で最も標高の高いアメダス観測点「ぬかびら温泉郷(標高540m)」における8月の月平均気温は17.6度)
 
 
 
 
この、植物の生育にとって必要な温度条件を表す目安として”暖かさの指数(温量指数)”というものがあります。これを剣山を例に計算すると38.5となります。また、気象庁による茨城県つくば市館野の高層気象観測データによれば、上空2000mの温量指数は36.6という値になります。したがって、南アルプスの標高2000m地点でもこのくらいの数字になるのでしょう。日本列島の平地で、夏の気温が最も低いのは根室半島あたりだと思われますが、ここの先端にあるノシャップ岬の温量指数は43です。南アルプス標高2000mの世界は、(平地に例えると)北海道より北方領土に近い気候であると思われます。

それから山の中腹ではなく稜線ですから、風当たりが非常に強いと思われます。
 
ちなみに参考までに記しますと、館野では54m/s、剣山では55m/sというのが10分間平均風速の観測記録。地上では、台風に直撃された沖縄の島でも観測されないような値です。
 
これは極端な条件ですが、それでも前述の茨城県館野上空2000mでは、冬場は月平均で10m/s以上の風が吹いており、週に一度程度は20m/s以上の暴風が観測されています。例えば今年の1月4日午前9時は、「西北西の風22m/s、気温-15.3℃」という極寒の気象条件でした。剣山でも、たとえば寒波に見舞われた2001年1月14~16日は、3日間に渡り気温が-10℃未満、平均風速10m/s以上となっています。さらに両地点とも、冬場は月に5回程度は、湿度10%未満の乾燥に見舞われます。
 
南アルプス標高2000mでも、このような低温・乾燥の強風に見舞われるに違いありません。
 
北アルプスや東北・北海道の山々では、植物は大量の雪に覆われて寒風・乾燥から保護されます。ところが南アルプスは太平洋側なので、年によっては地表がむき出しのまま、-10℃以下の低温にさらされることになります。

南アルプス深南部とか安倍川源流部の標高2000m前後の稜線では、笹原の中に針葉樹木が立ち枯れしている光景がありますが、ああした光景は、一帯の稜線が、寒冷地に適応した針葉樹でも強風・低温・乾燥により、育ちにくいことを示唆しているのだと思います。
 
とはいえ標高が高いですから、大雪に見舞われることもあるのでしょう。数年に一度は南岸低気圧の通過により、関東・甲信で大雪が降り、都内で大騒ぎとなります。このとき静岡県の山間部(井川や御殿場)では、50㎜以上の降水が観測されます。南アルプス山中のデータがないのでなんとも言えませんが、このぐらいの降水量を雪に雪となれば、日降雪量50~100㎝に相当します。
 
というわけで、ここで緑化を行うためには
●-20℃、風速30m/s、異常な乾燥という過酷な気象条件に耐えられる
●全く土がない状態でも良好に育つ
●ドカ雪にも耐える
●春の凍結・融解による土壌移動に耐えられる
●短い夏の間に育つ
●農薬や肥料を使わなくとも育つ(源流だから水質保全のため使えない!)

こういう条件を満たせねばなりません。安易に外来種を撒くと、南アルプスの高山地帯へと拡散してしまいます。
 
このような条件を満たす植物は、フジアザミ(キク科)、コマツナギ(マメ科)、ミヤマハンノキ(カバノキ科)といった、ごく一部の種に限定されるように思われます。広い面積を一気に緑化するほど種子を確保することができるのでしょうか。しかも当然、現地に自生しているものから種子を確保せねばなりません。寒冷地に適応した外来雑草(北米原産の牧草の類)をつかうなど論外です。こんな南アルプスのど真ん中に寒冷地適応の外来種をまいたら、高山植物が駆逐されてしまう危険性があります。
 
リニアの走行とは全く関係のない難問ですが、このような厳しい条件を満たし、速やかに緑化できるのでしょうか?
 
個人的には、春に苗木を植えたところで冬場に凍結するか、乾燥で枯れるかして、暴風や春先の融解、大雨で全てダメになってしまうような気がします。いつまでたっても醜い裸地のままで、そのうちに侵食・崩壊し、台風や地震で大崩壊してしまうのではないのでしょうか・・・?
 
 
 
残土捨て場については、ほかの場所にもクレイジーな点がありますが、それは次回に。


ここまで書いていて思い出しましたが、JR東海は冬場も工事をおこなうとしています。こんな極寒の条件でも工事を続けるのでしょうか。まるでシベリア鉄道建設の強制労働のようですが…。

山崩れに残土を放り込む…? 大井川埋め立て計画のムチャクチャさ

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JR東海は、リニア中央新幹線の南アルプス長大トンネルから発生する大量の残土のうち、静岡県内分360万立方メートルについては、南アルプス山中に捨てる計画を出しています。静岡県内であげられた7ヶ所の残土捨て場のうち、1つは前回指摘した「標高2000m天空の残土捨て場」というあまりに無謀な場所です。
 
他の候補地も、それに負けず劣らずムチャクチャな場所です。
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環境影響評価準備書 静岡県版より複製・加筆
 
今回取り上げるのは、上の図で太い枠線で囲んだ、大井川谷底の平坦地です。
 
静岡新聞やテレビ静岡のニュースで、静岡市の市議会議員が視察に訪れ、専門家から土砂災害の危険性を指摘されたと報じられた場所です。
 
 
静岡新聞記事を貼り付けておきます(11月7日朝刊)。
イメージ 2
確かに崩壊地と、そこから崩れ落ちた岩が見えていますね。
 
他の残土捨て場は円で示しているものの、ここだけは大きな楕円形で示しています。準備書にあった詳細な図がこちら。
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環境影響評価準備書 静岡県版より複製

準備書に示された楕円の大きさと平坦地の幅から考えると、おおよそタテ900m、幅150mほどの長方形が確保できます。ということは、底面積は900m×150mで135000㎡となります。仮に10~15mの厚さで残土を盛り付ければ135~200万立方メートルを収容することができます。
 
前回登場の「天空の残土捨て場」には90万立方メートル程度を放り込むことができるので、合わせて220~290万立方メートル程度を捨てることができ、8割以上の処分が可能となります。JR東海としてはここを残土捨て場の本命と考えているのでしょう。
 
 
…。
 
900m×150mって、でかいですね。
 
サッカー場が120m×90mですから、19面分あります。

で、例によってここの立地条件がムチャクチャなのです。
 
ちょっとお考えください。
 
ここは南アルプスど真ん中で、大井川の最上流部です。ふつう山奥では、谷底は狭く険しいイメージがありますが、どうしてこんな場所に平坦地があるのでしょう?
 
結論から言いますと、ここは周囲をぐるりと大小の崩壊地に囲まれており、四方から土石流が流れ込んで谷を埋め立てたために、平坦になっているのです。
 
地形図で広範囲を眺めてみます。
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国土地理院 地形図閲覧サービス ウオッちず より複製・加筆
 
赤く囲ったのが、地形図でも示されている主要な崩壊地です。地形図に表示されるようなものは、普通の土砂崩れよりも大規模です。そしてそこから土石流として崩れ落ち、堆積している場所を黄色く塗りつぶしてあります。
 
北西隅(左上)にある崩壊地が特に大規模であり、ここは標高2879.8mの千枚岳の東面、高度2600m付近から標高差500m以上にわたって崩れ落ちています。南アルプス一帯でも有数の大規模な崩壊地であり、砂防ダムの設置など砂防工事もおこなわれています。
 
今回もGoogle Earthの画像を貼り付けます。
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地形図と同じような方角で見下ろした図
 
 
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千枚岳付近上空から東南東を俯瞰したようす
手前右側の白い部分が、千枚岳山頂。雲に覆われている。
 
新聞の写真にある土砂崩れと比較すると、規模がぜんっぜん違うでしょ? それから、周囲の崩壊地からの土砂が、残土捨て場をめがけるように崩れ落ちているのもお分かりいただけるかと思います。
 
土石流堆積地ということは、再び土石流に見舞われる危険性が高いことを示唆します。土石流というものは通常の水の流れよりも破壊力・侵食する力が強く、残土の盛土やコンクリート壁など容易に崩してしまいます。
 
それゆえ、再び大規模な土石流が発生した場合、残土を巻き込んで規模が非常に大きくなるおそれがあるわけです。また、川幅が残土の盛土で狭められていれば、土石流によって閉塞されやすくもなり、大井川本流の大規模な土石流・鉄砲水を誘発する可能性もあります。
 
そうなった場合、下流側にある登山基地への人的被害も懸念されますし、長期的な河川荒廃も招きます。ダムの堆砂にもつながります。
 
なにより、一生懸命砂防工事をおこなっているのは、こうした事態を避けるためです。土砂の流出を防ぐための工事をおこなっている場所の直下に、あえて残土を積み上げる・・・。
 
おかしくありませんか?

この平坦地が土石流によって形成されていることは、JR東海が作成した準備書に、国の調査結果を引用して掲載している図()にも掲載されています。さらに準備書への意見でも寄せられています。 
いちいちここに取り上げませんが静岡県版準備書の「図4-2-1-7(1)地形分類図」にありますので、興味のある方はご覧ください。ただし、非常に見づらいです。)
 
それなのにここを残土捨て場にしたということは、
①地形図の読解力が皆無。
②危険性がないと判断。
③危険性はあるけど回避可能と判断。
④危険性は承知しているけど無視。
 
こんなところなのでしょうが、見解書でさえも説明が全くないので何もわかりません。

それに、こんな場所で大規模に谷底を残土で埋め立てれば、たいへんな自然破壊です。

●河川生態系の直接的な破壊と下流域への悪影響
●河畔林(河原に立地する特殊な林)の消滅
●南アでは絶滅していたと思われていた高山チョウが、半世紀ぶりに見つかった場所らしいが、それが消滅する。
●景観の確実な破壊
●水質の悪化
●騒音による動物の繁殖への影響
 
こんな自然破壊による影響が懸念されます。
 
ところが輪をかけて悪いことに、この残土捨て場設置にともなう上記のような懸念に対し、JR東海はほとんど環境影響評価をおこなっていません。
 
わずかに動植物相の調査をおこなったようですが、その結果は全く整理せず、他の場所で見つかったものとごちゃ混ぜにして一覧リストを作成しただけです。それゆえ、この場所に何が生息しているのかすら、準備書の書面からは判断することができません。そのほかには「適切な対策をとるので水質に影響はない」と何の具体性も根拠もないことが書かれているだけ。

JR東海はこの場所について全く調査をしてないので、何に影響が出るのか出ないのか、それすらさっぱりわからないのです。何も環境影響評価もしていないのに、ここを残土捨て場とほぼ決定したんですね。
 
「ずさん」というレベルを超え、環境影響評価の体をなしていないと思います。

大井川の水源はポンプになるのかな?

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「トンネル建設により大井川の流量が2㎥/s減少する」
 
という予測を出たことに対し大井川流域から強い懸念が出されました、それに対し、このほどJR東海が説明会を開き、「トンネル内に湧き出した水を川に汲み上げて戻すので心配はない」と述べたそうです。
 
本日の静岡新聞朝刊を貼り付けます。
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ムチャだっつ-の!!
 
 
単純に考えればOKに見えますが、よく考えると多くの問題があろうかと思います。
①くみ上げるために大変なエネルギーを消費し続ける
②恒久的なものではない
③支流への対策にはならない
④エコパーク登録への障壁となる
⑤自然な川の流れを人工的な動力に変えようとする傲慢さ
 
斜坑やトンネル内に湧き出した水は、勾配にしたがって山梨県側へと流れてゆきます。詳しい説明がないので確証はありませんが、常識的に考えて、減少する2㎥/s分は、ここへと向かうはずです。それを汲み上げようというわけです。
 
トンネルは、斜坑口から400mほど下方を通ります。トンネルの平面位置と、トンネル断面の概略図を貼り付けます。
 
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トンネルの位置。斜坑トンネルの位置については詳細な説明がないので推定
 
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南アルプス横断トンネルの概要
 
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大井川流域付近での拡大図
 
ということは、400mの高低差を、重力に逆らってくみ上げなければなりません。しかも温泉のくみ上げ等とはくみ上げる量のケタが異なり、相当に強力なポンプが必要になります。
 
ちょっとお考えください。地下深くからいくつものポンプを経由して地表に湧水を上げるわけです。最後の数十mでは、地下深くから集まってきた2㎥/s近い量を一気にくみ上げねばならなくなります
 
こんな感じでしょうか。
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Wikipediaより借用した、栃木県日光・華厳の滝です。さかさまにしてあります。この滝は上流の水力発電所によって流量が調整されており、通常は2㎥/s程度だそうです。
 
ということは、大井川に2㎥/sの水を戻すためには、この滝を逆流させなければならないわけです。ポンプを大量に設置するか、揚水発電所のような強力ものが必要になるんじゃないのでしょうか。
 
おそろしくムダなエネルギー消費だと思われませんか?

ただでさえ、列車の走行に莫大な電力を消費するのに、こんなところで余計にエネルギーをくう…。

しかもこのポンプは、24時間未来永劫いっときも休ませることができません。
 
川の規模の小さな上流部や下流部のダム直下の区間では、通常の流量が2㎥/s以下の区間があります。例えばJR東海の現地調査でも、工事予定地に近い部分で確認されています。そうした区間では、流量減少により流れが途切れてしまい、生物が根絶やしになってしまうおそれがあるからです。言わば、ポンプが大井川の心臓になるわけです。それゆえ、恒久的な対策とはいえません。

どこへくみ上げるのか分かりませんが、普通に考えれば斜坑口へとくみ上げるのでしょう。ということは、流量減少が斜坑口より上流側や小さな支流にも及んでいた場合はどうするのでしょう? 地上にもパイプを縦横にめぐらせ、中継ポンプをいくつも置き、あちこちに分配するというのでしょうか? 異様な光景でしょうね。

また、一帯はユネスコ・エコパーク(生物圏保存地域)への登録申請地域です。JR東海は、「工事をおこなうのは経済活動の認められる移行地域だから問題はない」という見解を示しています。
 
しかし移行地域で認められる経済活動というのは、「自然環境の保全と調和した持続可能な発展」であると、日本ユネスコ国内委員会の定めた審査基準に書かれています。http://risk.kan.ynu.ac.jp/gcoe/JapaneseBR-Criteria.txt

「ポンプが止まったら川の流れが途切れる」というのは、どう考えても「自然環境の保全と調和した持続可能な発展」と矛盾しています。
 
「ポンプくみ上げ方式」は、間違いなくエコパーク登録への障壁となるでしょう。

類似事例として何度も引用しますが、25年ほど前、北海道の千歳川において巨大な放水路を建設する計画が持ち上がりました。石狩川に合流して日本海に注ぐ千歳川の水を、洪水時には太平洋側に流そうという壮大な計画であり、たいへんな大工事であることから大反対運動が巻き起こりました。
 
その反対理由のひとつとして、放水路近傍にあるウトナイ湖と周辺湿地に与える影響があげられます。地面を掘り下げて放水路を造ると地下水位が下がり、ウトナイ湖と周辺湿地が乾燥化することが心配されたのです。
 
ウトナイ湖は渡り鳥の中継地点であり、また多様な動植物が分布する場所です。その自然環境の貴重さから、ラムサール条約に登録して保全しようという動きも並行して起こりました(1991年登録)。
 
このあたりの経緯、南アルプスにおけるリニア計画とエコパーク登録計画との関係によく似ていますね。
 
「地下水位が下がる」という懸念に対し、放水路建設を計画していた北海道開発局が苦し紛れに出した案が、「ポンプで地下水をくみ上げる」というものでした。
これもリニア計画と全く同じですね。
 
結局この案は「あまりにも不自然」という批判を浴び続け、ボツになります。
 
何も計画が進まないまま、洪水対策も何も行えないという妙な状況が続き、政府からも計画見直しの声が次第に高まり、最終的に放水路計画は中止となり、堤防改良や遊水地等の複合的な対策がとられることになりました。

なお、一連の詳しい経緯は、「市民が止めた!千歳川放水路計画-公共事業を変える道すじ-」という本にまとめられており、静岡市の図書館でも手にとることができます。技術的な面、環境や社会への大きな影響の避けられない巨大公共事業を、市民の手で止めたという点で画期的な出来事となりました。
http://www.gasho.net/mk/information/hosuiro_book.htm

JR東海が大井川源流で行おうとしている案は、かつて北海道においてボツになった案とよ~く似ていることを知っておいていただきたいと思います。
 
 
 
最後にどうしても「ポンプくみ上げ方式」の納得のいかない点。
 
「大河・大井川の源流はJR東海が設置したポンプ」
って、受け入れられます?
 
 
自然な水循環を切断し、ポンプという人工的な動力によってかろうじて命脈を保たせる…。あまりにも不自然です。

静岡市民文化会館でリニア計画を問う講演会が開かれます

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9月に環境影響評価準備書が出されて以降、
 
南アルプスの標高2000mの稜線に残土を捨てる
南アルプス山中の巨大山崩れ直下に大量の残土を捨て、大井川を埋め立てる
大井川の流量を毎秒2t減らす
静かな山里の生活道路を1日1700台以上の大型車両で占領する
南アルプスに総延長100㎞程度のトンネルを縦横に掘る
環境アセスメントがアセスメントの体をなしていない
沿線住民とのコミュニケーションが不成立
自治体での審査会においてさえコミュニケーションが不成立
 
という乱暴さ・荒唐無稽さが目立つようになってきた、JR東海によるリニア中央新幹線計画。
 
どうしてこんなふうになっちゃってるんだ?と思うわけですが、その根底には、この計画そのものが大変なムリを多く抱え、さらに審査すべき国がまともに機能していなかったことがあります。
 
そのようなリニア計画の無謀さについて警鐘を鳴らし続けてきた千葉商科大学大学院大学の橋山禮次郎客員教授の講演会が、明日22日(日)午後3時より、静岡市民文化会館で開かれます。

詳しくはこちらをご覧ください
(静岡市議会議員まつや清氏のブログ)
http://blog.goo.ne.jp/matsuya-kiyoshi/e/32672e19ff848b5f419995663661ada9
 

疑問・不安だらけの「リニア新幹線を考える会」

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昼過ぎまで出かけていたので見ておりませんが、本日お昼のテレビ番組で、リニア建設による水環境への不安について取り上げられていたようです。
 
そのためか、休日には珍しく、カウント数が増えておりまして、驚いています。大井川の流量減少問題につきましては、こちらに別途まとめてあります
 
さて本日午後、静岡市の市民文化会館において、「リニア新幹線について考える」という、千葉商科大学客員教授の橋山禮次郎氏の講演会が開かれるという話を目にし、参加してまいりました。
 
「リニア計画は絶対に失敗する」というお話でしたが、その内容については、今回あえて書きません。
 
それより別角度で気になることがありました。「ネット上で騒いでいるだけの人間が何言ってるんだ!」というお叱りを受けそうですが、あえて書かせていただきます。
 
 

部屋がどこだかわからずウロウロしていて、「ここか?」と入ったと同時に入り口で面食らってしまったのですが、資料代500円を渡すと同時に、何の説明もなく氏名・住所・電話番号の記述を求められました。
 
あれは一体どういうことだったのでしょう?
 
なんで単なる「講演会」だか「学習会」だかに、氏名・住所・電話番号が必要なんだろう?
 
講演が終わる際に「参加者一同による決議文」なるものが読み上げられました。なんでも25日に静岡市役所に「リニア建設の凍結を求める」と直談判に向かうようですが、その賛同者として名前が使われてしまったのでしょうか?
 
私自身、国交省への意見書と、アセスの文書へと、合わせて5回意見書を送っていますが、あれは自分の意思に基づいた行為です。こちらの身分を明かしたあて先も、国土交通省とJR東海と、はっきりわかっています。リニア計画でやっていることは信用ならないけど、一応相手の所在地もはっきりしています。おかしなことに使われたら、抗議することも理論上は可能です。社会のルールとしては、筋が通っています。
 
ところが今回はといいますと、どこの誰に何のために書いたのかがさっぱりわからない(書いてしまったほうも悪いけど)
 
本人の意思とは関係なく何かに使われることは心外ですし、何より後々妙な手紙が送られてきたり、何か変わったことに使われ、家族や身の回りの人々を妙なことに巻き込むのではないかと、たいへん心配…っていうか、家に帰ってきてからおっかなくなってきました。
 
心配しすぎでしょうか?
 
それにこれも腑に落ちないのですが、なぜだか「憲法改正反対のDVD発売中」とか「原発メーカーに訴訟を」とか、全然南アルプスとかリニアとは関係のないチラシも渡されました。
 
どういうこっちゃ?
 
さらによく分からないことに、「リニアのことはよく分からないけれども、とりあえず反対」という発言をする人もよく知らないのに反対するなよ!!
 
「リニアの夢に対する代替案は何か?」と大声で話し続ける人もいたけれども、どーも、打ち合わせ済みぽかったし…。
 
 
話が二転三転するけれども、どうも、「講演会」が、終了時には「反対集会」へと化けていたらしい。
 
悪いけれども、なんだか、怪しげなセールスに引っかかったような、後味の悪さを感じえません。
 
 
JR東海の強引な進め方と、似たものを感じます…。
 
確かにリニア建設はムチャクチャな計画ですし、南アルプスの環境を根本的に破壊するわけで、心配するのは自然なことです。とはいえ、これでは「反対のための反対運動」に終始し、ふつうの人々の共感・支持を得るのは難しいのではないかとかえって心配になったのでありました。
 
そしてふつうの人々の共感を得られぬ限り、「反対するのは一部の特別な人だけ」というレッテルをぬぐえないかの思うのであります。そういうレッテルを貼ることで、批判の声を最小化することも可能だよな…とも思いました。

残土は南アルプスから運び出せないので山中に捨てるのでは?

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「ナゾの記名問題」とは別に、どうしても拭えない違和感。
 
「反対運動で騒ぎ立てることだけが目的なのではなかろうか??」
という疑念です。
 
確かにマスコミの注目度は高いと言えず、この問題を取り上げるために騒ぎたくなる気はわかります。ネットの片隅で文句を垂れることしかできない私には、絶対にできないことです。しかしそれでマスコミが取り上げてくれるかどうかは分からないし、もし取り上げてくれるとしても、ローカル新聞のベタ記事か、読む人のほとんどいないような左派系マイナー雑誌ぐらいに終始してしまうと思います。
 
そうなったらそうなったで、「可笑しな連中がわけの分からないリニア反対論を振りかざしている」というニュースネタにもなりうるし、あるいはネット上で嘲笑の対象(もうなりかけてるけど)となり、かえって計画を進める人々にとって都合のよい状況が生まれるのではないのでしょうか?
 
それと同時に、ごく普通な人々の共感を得ることは、絶望的になってしまうのではないのでしょうか?
 
リニアの問題を考えるうえで、「環境破壊や実用性が疑問視されながらも強引に進められた大規模公共事業」の事例を簡単に調べてみました。
 
最終的に自然破壊を回避・最小限におさえることのできた大型公共事業として、吉野川稼動堰計画(徳島)、千歳川放水路計画(北海道)、愛知万博(愛知)などがあげられますが、いずれも、問題点・疑問点をごく普通の市民の間で共有できるよう、たいへんな努力をしていたということが共通点としてあげられます。

◇   ◇   ◇   ◇   ◇
 

気を取り直して、残土捨て場の話題に戻ります。

(話があちこち飛んですみません)
 
静岡県内の南アルプス山中に計画された残土捨て場候補地7つのうち2つを見てみました。
 
ひとつは標高2000mの稜線上で、山が崩れ始めている可能性のある”超”危険な場所。こんなところに大量の残土を積み上げるのは、わざわざ山崩れの原因をつくっているようなものです。
イメージ 5
 
もう1つは、四方を山崩れに囲まれ、そこからの大規模土石流が大井川を埋め立てて形成された平坦地。こちらも残土を積み上げるのは、わざわざ土石流の原因を作るような話です。
イメージ 1
 
残りは5ヶ所です。
 
イメージ 2
 
このうち、図で下方にある4ヶ所は、大井川川岸にあるかつての残土捨て場です。約20年前に中部電力が水力発電施設を建設した際の残土が盛り付けられています。
 
ところがこれらの場所、規模がそれほど大きくありません。準備書でも大雑把な図しか示していないので正確な値ではありませんが、地形図からざっと見積もって、4ヶ所合わせて3万平方メートル程度といったところです。仮に10mの厚さで盛り付けても合計30万立方メートルと、全体の1割程度しか受け入れられません。これでは斜坑の残土さえ入りきらないでしょう。
 
そのうえ、これらの旧残土捨て場も盛土から20年が経ち、木々が育ち始め、あるいは動物が戻り、ようやく周囲の環境と調和しつつあるところです。それをすべて破壊し、また土壌の育成から始めなければならない(単なる伐採ではないので)のもバカバカしい話。一概に「残土の上に残土を盛るなら影響は少ないだろう」と言えないのです。

残る最後の一ヶ所は、これまた何でこんな場所を選んだのかよくわからない場所です。南アルプス南部の赤石・悪沢・聖岳の登山拠点となっている椹島ロッジの北東側、大井川の川岸があげられています。
地形図を見ると等高線が円弧状に並んだ緩傾斜地になっており、平らではありません。川に向かって坂になっています。そのため、そのまま盛り付けても大した量は捨てられません。
 
イメージ 3
準備書より複製
 
おそらくは、大井川や林道に沿って高さ10m以上の壁を築き、その山側に残土を放り込むのでしょう。そうしなければ残る数十万立方メートルを捨てることができません。
 
これまた例によって、災害に対しては条件のよくない場所のように見受けられます。地形図を見ると、円の中心に、水平距離1700m程度で標高差1100mを一気に流れ下る急な谷があります。この緩傾斜地はおそらく、この谷が土石流を繰り返して形成された崖錐(がいすい)とよばれるものに違いありません。植生に覆われていることから、ここ暫くの間は流路が固定されているようですが、大雨の際に残土がえぐられる可能性はないのでしょうか。
 
すぐ下流に登山拠点の椹島ロッジがあり、土石流を誘発した場合の影響なないのでしょうか?
あるいはそれを防ぐために沢の改修をおこなった場合、生態系への影響はどうなるのでしょうか?
 
そんなものができれば確実に景観に影響を与えます。そしてそこにいた生物は根絶やしになってしまいます。ところが例によって生物相調査以外に環境影響評価をおこなっていません
 
以上見てきたように、残土捨て場候補地7ヶ所のうち、大半の残土を放り込むであろう2地点は、非常に危険かつ大規模な自然破壊が避けられず、旧残土捨て場4地点はたいして受け入れることができず、最後の1地点も自然破壊が避けられません。
 
結局のところ、苦し紛れ(?)に出してきた残土処分計画があまりにもムチャクチャなのです。南アルプスの環境保全-南アルプスであろうとなかろうと-を考えると、到底、受け入れられる内容ではありません。
 
ところで、「南アルプスの環境を保全するという」ことを考えると、誰しもまず初めに残土を南アルプス内から運び出すことが思い浮かぶことでしょう。
 
ところがJR東海は、そのことは全く議論の対象として取り上げていません。普通、複数の案が考えられる場合、どこかで何かしら意思決定の過程があるはずですが、何の説明も脈絡もなく「南アルプス山中に残土を捨てる」という結論が出されているのです。

「南アルプス山中に残土を捨てないようにしてほしい」という当然過ぎる意見が、配慮書、方法書、準備書の3段階でそれぞれ出されていました。それに対しJR東海は、「適切に処分いたします」というかみ合わない回答を繰り返すだけ。今まで一度も、マトモにコミュニケーションが成立していないんですね。
 
 
何の説明もないので推測するしかありませんが、搬出は不可能と判断したのでしょう。
 
大井川から赤石岳をはさんで西側、長野県大鹿村では、村内に300万立方メートルの残土が掘り出されるようです。
 
大鹿村内は、大井川源流域よりも谷の規模が小さく、また平坦地は生活地域となっているため、村内に残土を捨てるような土地は物理的に存在しません。そこで、全ての残土を村外に搬出する計画になっています。村外に通ずる道路は1本であり、村内7ヶ所の工事現場から村外に向かう大型車両は、全てこの道に集結します。
 
その台数、実に1日1700台以上。これは工事に使う資材や機械等を運搬する車両も含まれています。
1日の作業時間を8時間とすれば、村内の生活道路を10年間にわたり17秒間隔で大型車両が通行することになり、日常生活が困難になってしまいます。これはこれで実にムチャクチャな計画です。それでもJR東海としては、「騒音の予測値は環境基準を下回っているので計画的に通行させれば問題はない」という見解を出しています。あたかも、人が生活しているのを無視しているかのような見解です。
 
なお、大鹿村では説明会の際に「先に飯田方面から村内にトンネルを掘り、それを使って南アルプス本体トンネルからの残土を運び出してほしい」という意見が出されたものの、「時間がかかるからムリです」と一蹴されたとか。
 
住民の生活<<自社の事業
という構図が見えてきます。
 
さて、南アルプス山中から残土を平地まで運ぶことを考えてみます。静岡の方しか交通事情が飲み込めないかもしれませんが、ゴメンなさい。
 
大井川源流域から南アルプスの外へ搬出する場合、大井川沿いの林道東俣線を通って井川集落を経て40㎞先の井川ダムまで行き、そこから大井川沿いの狭い道を通って下流の川根本町・島田市方面に運ぶか、大井川鐵道井川線に積み込んで金谷方面へ鉄道輸送を行うか、静岡市街までヘアピンカーブの県道を40㎞以上運ばねばなりません。少なくとも井川ダムまでの40㎞、鉄道輸送を行わない場合は平地までの80㎞が、大鹿村と同じ条件になります
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静岡県側の場合、準備書によれば「残土を域外に搬出しない」前提で、車両の通行台数は最大480台程度と見込まれています。そして残土発生量は360万立方メートルと、大鹿村の1.2倍です。
 
こうしたことを考えると、もし大井川源流部から全ての残土を域外に搬出する場合、1日2000台程度の大型車両が通行しなければならなくなります(1日1000往復)。
 
1日2000台って、ものすごい台数です。1日の作業時間を8時間とすると、1時間に250台つまり14秒に1台という異常な状況になります。南アルプス山中が、都心のバスターミナルのような状況になるわけです。
 
林道ですから、時速20キロ程度しか出せません。そこで14秒間隔で行き来しているとなると、工事現場から井川ダムまでの約35㎞の間には、常に448台、78mおきに車両が存在していることになります。
 
こんな状況は、環境への影響うんぬん以前に、物理的に不可能な話です。それゆえ南アルプス山中に捨てることとしたのでしょう。
 
以上は私の推論。
 
残土を捨てることによる大規模な自然破壊が生じ、しかもそれに対して環境影響評価を行っておらず、さらには大規模な山崩れや土石流の誘発が懸念されます。これは非常に大きな問題です。それと同時に、こうしたムチャクチャな計画の意思決定過程を全く説明しない-一般市民はもとより市や県での審議会においても-JR東海の姿勢に、強い不信感を抱きます。

前にも書きましたが、環境影響評価というものは、事業者が行うべき環境配慮を、社会との関わりとの中で生み出してゆく制度です。だから公開文書や説明会、意見を3度受け付けることが、法律で義務付けられているわけです。社会と関わるというのが重要で、それがなければ単なる「自主努力」にしかなりません。そして事業者の環境配慮案を知るためには、どうしてそのような案を生み出すにいたったのかを知らさねばなりません。
 
標高2000mとか山崩れ跡地とか、そういった異常な場所に残土を捨てるという意思を決定するまでに、何段階もの判断を繰り返しているはずです。
 
南アルプスルートでも環境保全上、問題がないかどうか

問題ないという判断

南アルプスに斜坑が必要かどうかという検討

設けるべきという判断

残土を南ア山中に排出してもよいかどうかの検討

排出しても大丈夫だという判断

排出した残土を域外に運び出すか、南アルプス山中に捨てるかの検討

南アルプス山中に捨てるという判断

残土捨て場候補地の選定

7つの候補地を抽出

環境保全措置の検討

環境保全措置を記載
 

この一連の意思決定過程が明らかにされない限り、JR東海のおこなっていることは「環境影響評価」の名に値しないと思います。
 
こういう姿勢が一向に改善しないため、県議会が直接JR東海から意見を聞くことにしたそうです。一時は議会に承知するという話もありましたが、結局、非公開の「勉強会」という形になりました。これでは県民に情報が伝わらない状況は全く変わらないと思うのですが…。とにかくJR東海には、「なんで南アルプス山中に斜坑が必要になったのか」というところから、丁寧に説明していただきたいところです。

動植物リストの信頼性/世界遺産に対する県知事のご認識

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最近、静岡市の田辺市長がリニア計画に関して、「世界遺産のみならずエコパークとの両立も難しいのではないか」という懸念を表明されました。

また、静岡市の自民党市議団から市長に、「エコパークや世界自然遺産登録を阻害するような計画は認められない」という意見書が出されました。
 
静岡市としては、市政全体としてリニア計画に対する懸念が深まるばかりのようです。
 
その一方で静岡県の川勝平太知事が、「リニアと世界遺産との両立は可能」などおっしゃっているらしいけれども、どういうお考えなのか、どこまで本気なのか、さっぱり分かりません。
 
かつて富士山を世界自然遺産に登録しようとした際、ゴミが多くて却下されたことをお忘れでしょうか? 東京ドーム3杯にもなるリニアの残土は「ゴミ」のレベルではないと思うのですが。
 
ニュージーランドに世界自然遺産テ・ワヒポウナムという地域があります。ミルフォード・サウンドと呼ばれるフィヨルドを中心とした、険しい山と海とが入り組んだ、非常に美しい景観を誇る地です。
 
ここは山々によって市街地から隔てられており、たどり着くためには、大きく迂回せねばなりません。そこで長さ11㎞のトンネルを掘って3時間以上の時間短縮をさせようという計画が持ち上がりました。
が、今年7月に中止となりました。
 
AFP通信の記事を貼り付けさせていただきます。
世界遺産地域へのトンネル建設却下、ニュージーランド
7月17日(水)19時58分配信
ニュージーランド政府は17日、同国の南島(South Island)で世界遺産に指定されている地域に全長11キロのトンネルを建設する計画を、環境への影響が大きすぎるとして却下した。

 トンネル建設会社「ミルフォード・ダート(Milford Dart)」が申請したのは、クイーンズタウン(Queenstown)のスキー場から、国連教育科学文化機関(ユネスコ、UNESCO)の世界遺産に登録されているフィヨルド「ミルフォードサウンド(Milford Sound)」をつなぐルート上のトンネル建設計画で、バスや自動車で観光客を輸送する時間の短縮を目的としていた。
 
 しかし同国のニック・スミス(Nick Smith)環境相は、環境と安全の観点からこの申請を却下。「国立公園は特別な場所であり、アスパイアリング山(Mount Aspiring)とフィヨルドランド(Fiordland)国立公園のような絶景はほとんどない」と報道陣に語った。
 
 スミス環境相は、トンネルを建設した場合に国立公園内に捨てられるがれきの量が50万トンに上るとし、ニュージーランドで最も有名なハイキングコース「ルートバーントラック(Routeburn Track)」を破壊することになると説明した。またこれだけ長いトンネルが、申請された予算1億4200万ドル(約140億円)だけで完成できるかという点にも疑問を呈した。
 
 計画に反対していた環境活動家らはこの決定を歓迎している。
 
以上、引用終わり
 
中止となったのは残土処分への懸念。
 
なんでも50万トンが発生する見込みだったそうです。
 
多いようですが「たったの50万トン」です。
 
リニアの場合、南アルプス全体で少なくとも1000万立方メートルの残土が出ます。これに砂岩の比重2.5を掛ければ2500万トン。南ア山中に捨てる静岡県内分だけでも900万トンにのぼります。
 
ニュージーランドの18倍です。
 
50万トンで世界自然遺産に懸念が生じるのなら、900万トンではどれだけ自然を破壊するのでしょう?
 
川勝知事は、このことをご存知なのでしょうか?
 


 
さて、環境アセスメントの話に移ります。今回から生物・生態系調査について触れます。

とはいえ私自身、動植物に関心が強いものの、南アルプスで調査をしたわけでもなく、詳しいことはいえないので、準備書記載内容や記載方法におけるおかしな点を示すにとどめようと思います。
この動植物に関する部分も、一言でいうと
 
 
なんですよ。決してオーバーな表現ではなく、通常のアセスの水準にもおよんでいないのです。
例えば調査結果の一覧表。
 
こんな感じで確認された動植物リストが掲げられています。
イメージ 1
 
っところで静岡県内におけるリニア建設の工事は、
標高1000m前後の畑薙第一ダム上流側の残土捨て場候補地
標高1300m前後の大井川の川底
標高1350m前後の二軒小屋付近
標高1550mの西俣上流部の坑口
標高2000mの白根南嶺の残土捨て場
 
というように、垂直方向にして標高差1000mの範囲に及びます。
また、水平方向には南北30㎞の範囲に及び、これらの地点を結んで大量のダンプカーやトラックが行き来します。
 
イメージ 2
工事が計画されているのは、
大井川の広い河原
支流の小さな谷川
土石流の堆積した緩傾斜地
急な山肌
川岸の崖
亜高山帯の稜線
など、様々な環境です。
 
何が言いたいのかと言いますと、工事は点や線でなく非常に広い範囲で行われるということです。
 
そこには様々な自然条件の場所が含まれていて、その環境に応じて非常に多様な種が生育しているのに、それを十把一絡げにしてリストを作成しても、何の意味もないのです。
 
一覧表を見渡すと、例えばイヌガヤ(裸子植物)、ムクノキ(ニレ科)という樹木の名が見えます。これらは静岡市街地周辺の低山や河川敷に多く生えている暖地系の植物です。そのいっぽうでダケカンバ(カバノキ科)、イワオウギ(マメ科)、クルマユリ(ユリ科)、マルバダケブキ(キク科)のように、高山植物といって差し支えないようなものも一緒くたに並べられています。
 
これらの種が一緒の場所に生えている可能性は、まずありません。おそらく前者は調査地点で最も標高の低い場所、後者は最も標高の高い場所で見つかったのでしょう。全く別な場所で見つかったものをごちゃ混ぜの一覧表にして、何の意味があるのでしょうか?
 
事業者としてはこのリストにより「これだけの種を把握しているぞ」ということを主張したいのかもしれません。しかし、客観的にその把握状況を知るためには、あるいは現地の生物相を知るためには、「どこで何がどれだけ見つかったのか」という情報が欠かせません。それなのにそうした情報は皆無です。
 
最低限、調査地点ごとのリストを作成すべきです。
 
それからこのリスト、南アルプスに自生しているものも、植林されたものも、外来種も、みんなごちゃ混ぜになっています。こういうまとめかたも、よろしくありません。
 
こんなメチャクチャなリストを作ったのはコンサルタント会社なのか、取りまとめたJR東海コンサルタンツという会社なのか、それも分かりません。というわけで、どこに責任があるのかも分からない…。

ついでに言うと、このリストが信頼できるのだろうか? という疑問も拭えません。
 
「静岡県植物誌」という、古ぼけた本があります(静岡市内の図書館に置いてあります)。この本は、静岡県内における高等植物の分布状況を集大成したもので、県内で植物相を研究する際には欠かせない大著です。
 
私自身、植物観察に興味がありまして、そんなわけで、この本にお世話になっております。
 
ところで、リニアの準備書の植物リストに、「ミヤマシシガシラ(シダ植物)」「シライヤナギ(ヤナギ科)」という名があります。この2種、静岡県植物誌で見かけた記憶がありません。そんなわけで同書の索引を見ても、やっぱり載っていない。
 
「?」と思って、専門的な図鑑で調べてみると、ミヤマシシガシラの分布域は日本海側の雪が多い山地に、シライヤナギの分布は関東北西部の山地に限定されるようです。
 
また、静岡県内に分布する動植物のリスト「静岡県野生生物目録」の最新版にも、この2種の名は見当たりません。http://www.pref.shizuoka.jp/kankyou/ka-070/wild/mokuroku.html

どういうこっちゃ?
 
可能性としては
①このほどの環境影響評価で、この2種が南アルプスに分布していることが初めて確認された
②他の種類と間違えた
の、どちらかだろうと思います。
 
①だったら大変な事態です。主要な分布域から遠くとり残されたように生育している個体であり、間違いなく絶滅危惧種にランクされ、厳重な保全が求められます。
 
②だったら、このリスト全般の信頼性にかかわります。
 
私は②である可能性が高いと思います。と申しますのも、シダやヤナギ類は、類似種が非常に多く、高度な分類能力が求められるからです。特にヤナギ類は、1年のうち花のついているわずかな期間でしか判別が不可能であり、日本産の樹木のなかではハイレベルな同定能力とタイミングが必要です。
 
同じように、ハイレベルな同定能力とタイミングとが求められるものとして、植物ではイネ科やスゲ属等が挙げられます。微小な昆虫類、夜行性動物(特にコウモリ)については言うまでもありません。 こうした種の信頼度にも関わってきます。保全上、重要な種が見落とされていないでしょうか?
 
本アセスではどのように同定したのか、詳しい説明を求めたいところです。それから、きちんと標本が残され、専門家が鑑定できる状況が整えられているのでしょうか?
 
動植物に対する環境影響評価において、基礎となるべき確認生物リストでさえ、このように疑問点がたくさんあります。植物以外は門外漢なので目を通していませんが、他にも同じような問題点が多いのではないのでしょうか?
 


手元に、ミヤマシシガシラによく似たシシガシラの写真がありましたので、ついでに貼り付けておきます。
イメージ 3
このシシガシラなら、静岡の街外れでもごくふつうに見かけます。これは日本平で撮影したものです。ミヤマシシガシラは、葉柄や軸が紫色になるとのこと。

長野県の高山植物は保全対象なのに静岡のものは残土で生めてよいという判断

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環境影響評価において、当然のことながら、動植物の保全が重要なテーマとなります。
 
しかし、何らかの改変を行う以上、全ての動植物種を保全対象にするというのは不可能なので、特に重要な種を選択して、それに対して保全策を考えるということが行われます。
 
重要な種の選定基準について特に定まってはいませんが、一般的に
 
①全国的に絶滅のおそれがあるもの(環境省版レッドデータブック掲載種)
②都道府県レベルで絶滅のおそれがあるもの(都道府県版レットデータブック掲載種)
③国立・国定・都道府県立の各自然公園において採取・損傷が禁じられているもの
④天然記念物(国・都道府県・市町村による指定)
⑤絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律で指定された種
⑥都道府県・市町村の条例で特に指定された種
 
だいたいこんなものが選定基準に用いられています。
 
ここで、南アルプスの両側の長野・静岡両県の環境影響評価準備とにおける、植物の重要種選定について見てみます。
イメージ 1
JR東海作成の環境影響評価準備書を複製・加筆 
 
ここで注目していただきたいのは、長野県版において赤く囲ってある、「国立・国定公園特別地域内指定植物図鑑」というものです。
 
自然公園法という法律では、該当する自然公園の特別地域において、種を指定して採取・損傷を禁止することができます(以下、このような種のことを指定種と表記します)。この指定種が掲載された図鑑のことを「国立・国定公園特別地域内指定植物図鑑」とよびます。
 
こちらの環境省のページに詳しい説明があります。
http://www.env.go.jp/park/doc/data/plant.html
 
長野県版の環境影響評価準備書では、これを採用することにより、南アルプス国立公園特別区域内で環境大臣により採取・損傷を禁じられているものを、重要な種に選定し、保全対象にしようとしたわけです。
 
長野県側においては、国立公園区域に工事予定地はかかっていません。それにも関わらずこの指定種を保全対象にしたというのは、
 
A. 国立公園内への影響を考慮した
B. 将来的な南アルプス国立公園地域の拡張計画を考慮した
C. ユネスコ・エコパーク登録計画に配慮した
D. 専門家あるいは審議過程で指摘された
E. コンサルタント会社の意気込み
 
こうした理由によるのでしょう。ただし準備書のどこを見渡しても、重要種の選定過程についての説明がないので詳細は分かりませんが…。
 
なお、長野県における現地調査結果では、指定種はほとんど見つかっておらず、保全措置は全くとっていないという、いい加減なオチがついています。
 
このことを頭に入れて、右側の静岡県版準備書を見ると、どういうわけか、この指定種は重要種に位置づけられていないのです
 
静岡県側と長野県側とでは、どちらも
 
南アルプス国立公園に隣接する地域
将来的に国立公園拡張の予定されている地域
エコパーク登録申請中の地域
 
で工事を計画している状況に違いはありません。それなのに、なぜ長野県側では指定種を重要種に位置づけ、静岡県側では位置づけないのでしょうか?
 
この二重基準により、同じ指定種であるものの長野県側では保全対象になっているのに、静岡県側では保全対象となっていない植物が、実に73種もあります。
 
同じ南アルプスです。生物に県境は全く関係ありません。それなのに10㎞しか離れていない長野県側坑口と静岡県側斜坑とで重要種の選定理由が異なることに、どのような合理的理由があるのでしょう?

指定種については、さらなる疑問があります。
 
残土捨て場候補地の一部は、奥大井県立自然公園特別地域にかかっています。奥大井県立自然公園特別地域においても、県条例により採取・損傷の禁じられている指定種があります。
 
ところが準備書においては、奥大井県立自然公園特別地域における指定種を重要種に選定していません。他県ではどうだろうと思って調べてみたら、神奈川県版の準備書においては、県立丹沢大山自然公園における指定種を重要種に選定していました。
 
二重基準ならぬ三重基準です。
 
この疑問について準備書への意見としてたずねましたが、見解書には「選定理由については準備書に記載していあります」という意味不明な回答が書かれているだけでした。
 
どこを見渡しても書いていないから質問したの!!

というわけで、他県の準備書と比較してみた限り、本来なら重要種に選定されるべき南アルプス国立公園指定種と、奥大井県立自然公園指定種とが、ごっそりと抜け落ちていると言わざるを得ません。
 
というわけで、静岡県における確認植物リストから、南アルプス国立公園・奥大井県立公園指定種なのに重要種に選定されていない91種を並べておきます。
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静岡県版準備書 資料編より作成
 

だいたいゴゼンタチバナ、オサバグサ、イワオウギ、ハリブキ、ツバメオモト、タカネフタバランなどは標高2000m級の山に行かねば見られない種類であり(主に亜高山帯の植物)、ミネウスユキソウなどというのは完全な高山植物です。こんなものが鉄道建設によって影響を受けるおそれがあり、しかも保全対象にあがってないなんてきわめて異常です!!
 
マニアが盗掘したら罰金モノなのに、JR東海が残土で埋めてしまうのはOKというのはどういうこっちゃ?。

「リニアは来年秋に着工?/国立公園指定動植物の取り扱いが県によって違うのはなぜ?

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年内のブログ更新はやめようと思ってましたが、妙なニュースがありますので言及してみます。
 
本日(昨日?)JR東海が、来年10月にリニア中央新幹線の建設を開始する方針であることを公表したかのようなニュースが流されました。
 
朝日新聞の記事を読んでみると、あたかも決まったかなのようなニュアンスで書かれています。
 
でも、冷静に考えると妙なんですよ。
 
というのも、スケジュール的には「ありえない」話だからです。
 
現在は、沿線都県で環境影響評価の審議を行っている最中です。
 
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準備書に対する一般市民からの意見提出が締め切られたのは11月5日で、JR東海がそれに対する見解書を出したのが11月25日。
 
環境影響評価法により、見解書の交付から、沿線知事によるJR東海への意見提出は120日以内。それゆえ提出されるのはおそらく来年3月末。静岡県の場合も、その頃まで審査会を開催する予定になっています。
 
知事意見を受け、JR東海は準備書を書き換え、評価書という文書を作成します。
 
その評価書に対しては、さらに環境省による審査が行われます。これについては、期限は特に定められていません。
 
環境省の見解は、環境大臣の意見として、許認可権をもつ国土交通大臣に提出されます。それから45日以内に、その意見を国土交通大臣意見として、JR東海に送付することとなっています。
 
JR東海はその後、国土交通大臣意見を受けて、さらに評価書を修正せねばなりません。
 
一般的に、知事意見から評価書修正まで半年はかかります。というわけで、評価書が確定するのはどんなに早くても夏頃になるのでしょう。
 
 
評価書手続きが終わると、環境影響評価が終わることになります。当然ながら評価書手続きが終わるまでは、事業内容が変更する可能性があります。それゆえ、設計、測量、鉄道事業法上の手続き、用地買収、保安林解除・農地転用など土地に関する手続きなどは、評価書が確定するまでできないはずです。そして今度は鉄道事業法に基づく許認可審査も行わねばなりません。
 
夏から10月までのたった2~3ヶ月で、これらの手続きが終了するものでしょうか?
 
また、内容に不備の多い評価書や、問題の多い事業の場合は知事意見や環境大臣意見で再調査を要求されることもあり、評価書が確定するのにさらに数年を要することもあります。例えば愛知万博の場合は、アセスに通常の倍の4年かかった末に、事業用地の変更に至りました。
 
リニア計画の場合、あまりにも準備書に不適切・不十分な点が多く、各地の審査会で厳しい評価を受けていることは、沿線自治体での審議議事録からも明らかです。さらに残土処分については、処分地の候補地すらあがっておらず、それを決めた後に、その地におけるアセスを行う必要もあります。
 
岐阜県でウランを含む残土が発生した場合の対応、南アルプスにおける残土の取り扱い、大井川における流量減少など、一直線で走れないリニア方式である以上回避不可能な問題も、何ら解決されていません。とても現段階で着工できるメドはたっていません。
 
というわけで、
あらかじめ事業内容は確定済み-つまりアセスはただの儀式に過ぎない-でなければ、10月着工は不可能だと思うのですが。
 
 
このぐらいは、環境影響評価の手続きについて少し調べれば分かることです(静岡新聞では「計画は流動的」としています)。それなのに、なぜ朝日新聞はあたかも着工が決まったのかのような書き方をしたのでしょうか?
 
あくまで私の推測ですが、記者がJR東海の関係者から「とんとん拍子で進めば来年10月の東海道新幹線開業50周年に合わせて着工できるかもしれないな」といったことを聞き、それを「来年秋に着工」と、あたかも決定事項のように報じたのではないのでしょうか。
 
いずれにせよ、こういう記事の書き方は「ミス・リード」とよばれるものに類するのではないのでしょうか?
 

環境影響評価において、当然のことながら、動植物の保全が重要なテーマとなります。
 
しかし、何らかの改変を行う以上、全ての動植物種を保全対象にするというのは不可能なので、特に重要な種を選択して、それに対して保全策を考えるということが行われます。
 
重要な種の選定基準について特に定まってはいませんが、一般的に
 
①全国的に絶滅のおそれがあるもの(環境省版レッドデータブック掲載種)
②都道府県レベルで絶滅のおそれがあるもの(都道府県版レットデータブック掲載種)
③国立・国定・都道府県立の各自然公園において採取・損傷が禁じられているもの
④天然記念物(国・都道府県・市町村による指定)
⑤絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律で指定された種
⑥都道府県・市町村の条例で特に指定された種
 
だいたいこんなものが選定基準に用いられています。
 
ここで、南アルプスの両側の長野・静岡両県の環境影響評価準備とにおける、植物の重要種選定について見てみます。
JR東海作成の環境影響評価準備書を複製・加筆 
 
ここで注目していただきたいのは、長野県版において赤く囲ってある、「国立・国定公園特別地域内指定植物図鑑」というものです。
 
自然公園法という法律では、該当する自然公園の特別地域において、種を指定して採取・損傷を禁止することができます(以下、このような種のことを指定種と表記します)。この指定種が掲載された図鑑のことを「国立・国定公園特別地域内指定植物図鑑」とよびます。
 
こちらの環境省のページに詳しい説明があります。
http://www.env.go.jp/park/doc/data/plant.html
 
長野県版の環境影響評価準備書では、これを採用することにより、南アルプス国立公園特別区域内で環境大臣により採取・損傷を禁じられているものを、重要な種に選定し、保全対象にしようとしたわけです。
 
長野県側においては、国立公園区域に工事予定地はかかっていません。それにも関わらずこの指定種を保全対象にしたというのは、
 
A. 国立公園内への影響を考慮した
B. 将来的な南アルプス国立公園地域の拡張計画を考慮した
C. ユネスコ・エコパーク登録計画に配慮した
D. 専門家あるいは審議過程で指摘された
E. コンサルタント会社の意気込み
 
こうした理由によるのでしょう。ただし準備書のどこを見渡しても、重要種の選定過程についての説明がないので詳細は分かりませんが…。
 
なお、長野県における現地調査結果では、指定種はほとんど見つかっておらず、保全措置は全くとっていないという、いい加減なオチがついています。
 
このことを頭に入れて、右側の静岡県版準備書を見ると、どういうわけか、この指定種は重要種に位置づけられていないのです
 
静岡県側と長野県側とでは、どちらも
 
南アルプス国立公園に隣接する地域
将来的に国立公園拡張の予定されている地域
エコパーク登録申請中の地域
 
で工事を計画している状況に違いはありません。それなのに、なぜ長野県側では指定種を重要種に位置づけ、静岡県側では位置づけないのでしょうか?
 
この二重基準により、同じ指定種であるものの長野県側では保全対象になっているのに、静岡県側では保全対象となっていない植物が、実に73種もあります。
 
同じ南アルプスです。生物に県境は全く関係ありません。それなのに10㎞しか離れていない長野県側坑口と静岡県側斜坑とで重要種の選定理由が異なることに、どのような合理的理由があるのでしょう?

指定種については、さらなる疑問があります。
 
残土捨て場候補地の一部は、奥大井県立自然公園特別地域にかかっています。奥大井県立自然公園特別地域においても、県条例により採取・損傷の禁じられている指定種があります。
 
ところが準備書においては、奥大井県立自然公園特別地域における指定種を重要種に選定していません。他県ではどうだろうと思って調べてみたら、神奈川県版の準備書においては、県立丹沢大山自然公園における指定種を重要種に選定していました。
 
二重基準ならぬ三重基準です。
 
この疑問について準備書への意見としてたずねましたが、見解書には「選定理由については準備書に記載していあります」という意味不明な回答が書かれているだけでした。
 
どこを見渡しても書いていないから質問したの!!

というわけで、他県の準備書と比較してみた限り、本来なら重要種に選定されるべき南アルプス国立公園指定種と、奥大井県立自然公園指定種とが、ごっそりと抜け落ちていると言わざるを得ません。
 
というわけで、静岡県における確認植物リストから、南アルプス国立公園・奥大井県立公園指定種なのに重要種に選定されていない90種を並べておきます。
静岡県版準備書 資料編より作成
(12/31訂正)カントウタンポポは長野県版準備書では、同県版レッドデータブック記載種として重要種に選定されているが、静岡県では普通種である。よって注意されたい。
 

だいたいゴゼンタチバナ、オサバグサ、イワオウギ、ハリブキ、ツバメオモト、タカネフタバランなどは標高2000m級の山に行かねば見られない種類であり(主に亜高山帯の植物)、ミネウスユキソウなどというのは完全な高山植物です。こんなものが鉄道建設によって影響を受けるおそれがあり、しかも保全対象にあがってないなんてきわめて異常です!!
 
マニアが盗掘したら罰金モノなのに、JR東海が残土で埋めてしまうのはOKというのはどういうこっちゃ?。

本年は南アルプス国立公園制定50周年でございます

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あけましておめでとうございます
 
本年もよろしくお願いいたします。
 
平成26年は
 
南アルプス国立公園制定50周年
ユネスコ・生物圏保存地域(エコパーク)審査
 
という大きな節目の年でございます
 
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南アルプス国立公園誌
昭和39年の南アルプス国立公園制定に際して発行されました
 
 
つつがない一年でありますよう願っております
 
 
 

環境省 「第1回南アルプス国立公園指定50周年記念事業実行委員会」の開催結果についてhttp://kanto.env.go.jp/pre_2013/1224a.html
 
南アルプスエコパーク登録構想について私がまとめたページ(本日更新)

外来種!! 南アルプスが南アルプスでなくなってしまう!

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新年早々、こんな文句ばかり文章にしたためていて、なんとも陰湿な正月でございます。
さて、本題に入ります。

明治時代、
 
「鉄道草」
 
と呼ばれた草がありました。
 
新しく線路が敷かれた地域にきまって生えてくる、これまで誰も見たこともない、不思議な草のことをこう呼んだそうです。
 
文明開化のしるしとされたこともあったそうです。
 
その草には、様々な種類があり、「ヒメムカシヨモギ」「ヒメジョオン」などという和名がつけられました。

これらは、北アメリカ原産のキク科植物です。幕末~明治の開港にともない北アメリカから輸入された物資について日本に伝播し、鉄道網の拡大とともに全国に広がり、元々荒地を好む性質とあいまって、線路沿いを席巻してしまったのです。現在では都会の空き地、土手、緑地などに大量に生えています。名前はマイナーですが、誰しも一度は見たことがあると思います。手元に適当な写真がないのが残念ですが・・・。
 
このように海外から持ち込まれた、本来その地に生えていない植物のことを外来種といいます。なお、生物の分布に国境で仕切ることに意味はなく、九州にしか生えていない植物が関東に広まったら、それだって生態系のうえでは異質であり、移入種とよばれます。
 
現在日本各地に広まっている外来植物の多くは、
種子を大量につける
種子が軽量・ごく小型で、風・水・物に付着するなどして散布されやすい
他の植物の生育しにくい、やせた荒地で育つ

という性質をもっています。鉄道草とよばれたヒメムカシヨモギやヒメジョオンは典型例で、種子は1㎜にも満たないうえ、風に乗りやすいよう小さな冠毛がついています。そのため貨物や乗り物に付着したり、風に飛ばされたりして、広範囲へ簡単に運ばれてゆきます。
 
そして荒地-養分が少ない、石だらけなど普通の植物の生育に適さない-にたどり着くといち早く出芽し、大量に繁茂し、在来植物の生育する場を占領してしまいます。そこが新たな種子供給源となり、また周囲へと広がってゆきます。

このような植物には、

キク科植物(オオアレチノギク、セイタカアワダチソウ、センダングサ類、セイヨウタンポポ、ダンドボロギク、ノゲシ、ブタクサなど実に多様)
アブラナ科植物(菜の花、クレソンなど)
タデ科(エゾノギシギシなど)
アカザ科(アリタソウなど)
マツヨイグサ類、
クマツヅラ属(アレチハナガサなど)
イネ科(シナダレスズメガヤ、ネズミムギ、オオクサキビ、イヌムギ、カモガヤ、メリケンカルカヤなど実に多様)
メリケンガヤツリ

など、実に多様な種類があります。静岡市内の東海道線沿いや清水港周辺を歩いただけで、簡単に100種類は見つかるでしょう。
 
外来植物の目から日本列島を見つめると、明治維新以降、こうした伝播・繁茂に適した環境が着々と広げられてきたに違いありません。
 
つまり交通網の拡大というのは、
工事に伴う荒地の出現
工事に伴う大量の物資の搬入
完成後の大量のヒト・モノの移動
交通路沿いの開発と新たな荒地の出現
 
という面がありますが、これはいずれも外来植物の繁茂にとってふさわしい環境が拡大の一途をたどってきたことを意味します。
 
外来植物の生える土地が増えた分、在来植物の生える土地が減ったことは、いうまでもありません。そしてそれは、在来植物をエサとしていた昆虫の減少や、あるいは外来種をエサにすることのできる一部の種の増加(キャベツをえさにするモンシロチョウが典型例)につながり、生態系の破壊と、郷土景観の喪失に直結します。

さて、リニア中央新幹線計画と外来植物という関係に目を向けます。
 
JR東海の作成した静岡県版準備書によると、静岡県内の現地調査範囲(南アルプス)でみつかった高等植物は756種だそうです。このうちシダ植物を除く種子植物は
686種。
 
このうち外来種はどのくらいかな…と思って一覧表を見渡すと、全く分類していないんですね。環境影響評価で在来種と外来種・栽培種とを分けることは常識であり、南アルプスという場所を考えると、非常識ともいえるいい加減さです。
 
というわけで非常に不親切なのですが、一応、拾い上げてみました。結果は以下の通りでした。
エゾノギシギシ
オランダミミナグサ
イタチハギ
ハリエンジュ
コメツブツメクサ
ムラサキツメクサ
シロツメクサ
メマツヨイグサ
マツヨイグサ
アメリカセンダングサ
コセンダングサ
ダンドボロギク
ヒメムカシヨモギ
ハルジオン
セイタカアワダチソウ
ヒメジョオン
セイヨウタンポポ
コヌカグサ
シナダレスズメガヤ
オオクサキビ
 
確実な外来種は以上の21種。このほか植林されたものかどうか不明なものとしてスギ、ヒノキ、サワラ、カラマツの4種があります。なお、イタチハギ、ハリエンジュ、シナダレスズメガヤの3種は、砂防工事のために意図的に植えられたものだと思われます。
 
とりあえず21種という値を用いると、外来種の割合は3%となります。これは、1地点の環境アセスメントとしては、おそらく、けっこう低い割合だと思います。
 
例えば同様の作業を隣県の山梨県版準備書について行ってみますと、種子植物1186種のうち、外来種は約226種(数え漏れがあるかと思います)。その割合は19%に達します。面倒なのでこれ以上は調べていませんが、東京都、神奈川県、愛知県ではもっと割合が多くなるのでしょう。
 
これと比較すると、やはり静岡県内で工事が計画されている地域では、現状ではまだそれほど外来植物が入り込んでいないと言えます。
 
外来種の搬入をこの程度で何とか食い止めてきたのは、ひとえに一般車両の通行を禁じてきたからに違いありません。
 
リニア中央新幹線の建設工事は10年以上に及びます。
 
現在の計画では、その間は大井川源流部の東俣林道を使って、毎日300~500台の大型車両が大量の物資と人とを乗せて、外部と南アルプスとを行き来することになっています。
 
こんな事態は南アルプスにとってはじめてです

現在は山梨県版準備書で明らかな通り、平野部や人家周辺は外来種だらけなのですから、かつての電源開発や森林伐採の行われた時代に比べて種子供給源がたくさんあります。そこを通って、これまでになく大量の車両・人・モノが入り込むのですから、これでは、確実に大量の外来植物が外部から南アルプスへと運び込まれます。
 
そして工事にともない、表土をはぎとられる場所があちこちに生じます。さらに残土捨て場という植物の全くない裸地も広い面積で生じます。こうした場所は、外来植物にとっては天国です。
 
もうちょっと具体的に想像してみますと・・・。

準備書の植物リストから推測するに、現在の南アルプスにおいてがけ崩れや倒木によって生じた裸地に真っ先に侵入する在来植物は、おそらくフジアザミ、ヤマハタザオ、ミヤマハンノキ、ノリウツギといった種類です。こうした植物を先駆性植物とよびます。が土壌の流出を防ぎ、土地が安定してきたところでカラマツなど明るい場所を好む樹木が生え、やがてブナやミズナラ、高所ならオオシラビソ等に変わってゆくのでしょう。

リニアの工事の場合、まず、畑薙第一ダムから斜坑までの約35㎞の東俣林道沿いにおいて、路肩の整備によって現存の植生が剥ぎ取られます。整備後の林道を頻繁に大型車両が通過することにより、林道沿いの裸地が外来種だらけとなるに違いありません。さらに作業用ヤードでは、頻繁にダンプカーがコンクリート骨材をや何かを降ろしてゆくため、その周辺も外来種だらけとなるでしょう。
 
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つまり工事によって生じる裸地には、頻繁に外来種の種子がふりかけのようにばらまかれ、在来の先駆性植物の生えてくる間がないと思われるのです。しかも延々35㎞もの区間におよびます。
 
先駆性植物がカモガヤ、エゾノギシギシ、シナダレスズメガヤ、セイタカアワダチソウなど、強力な繁殖力をもった外来種に変わったら…その時点でアウトです。その場所を占拠し、本来の在来植物を締め出してしまいます。そして川の流れ、風、動物や登山者にくっついて、奥へ奥へと運ばれていってしまう…。
 
さらに、こうした場所が恒久的な外来植物の種子供給源となり、工事終了後にも、周辺においてがけ崩れや洪水で自然に生じた裸地へと、次々と伝播していってしまうに違いありません。
 
しかも、これらの植物については、いったん侵入してしまうと根絶が不可能なのが現状です。セイタカアワダチソウなど、1本で数万の種子を飛散させるんですから…。かといって、こんな南アルプスの山奥に、強力な除草剤をばらまくわけにもいかない…。
 



私、配慮書の段階から3回この点を意見書として問いましたが、マトモに取り扱ってもらえません。
 
準備書への意見に対し、ようやく見解書で回答らしきものが得られましたが、それは次の通り。
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まったくもって、的外れです。

「工事終了後、外来種の植物が入り込まないよう…」

工事が終了するまで10年かかるんです。その間に工事現場周辺が外来種だらけになるのは目に見えています。その対策を求めているんです!
 
こちら、工事中の新東名高速道路の写真ですが
 
イメージ 2
まわりを散歩していたら、オオマツヨイグサ、ヒメムカシヨモギ、オオアレチノギク、セイタカアワダチソウ、アメリケセンダングサ、シナダレスズメガヤ、カモガヤ、ネズミムギ、イヌムギ、アレチハナガサ、オッタチカタバミなど、実に多種多様な外来植物が繁茂しておりました。目に付く在来種はマメ科のクズばかり。このクズとて、在来種とはいえ強力な繁殖力をもち、他の植物の生育を阻害し、生態系を貧弱にするという厄介な性質をもっています。
 
いずれにせよ、外来種は工事の最中から大量に生えてくるんです!!
 
「タイヤの洗浄」とも書かれていますが、これとて厳重な管理をおこなわない限り、洗車場が種子供給源となります。1日400回も洗浄をしていれば水の使用量もバカにならない(水道などない場所!!)し、その処理も必要となりますが、全く言及していません。
 
また、種子がくっつくのはタイヤだけであるわけありません。荷台にだって、大量の建設資材やセメント材料にだって付着しているでしょう。特にセメント骨材はどこかの河原から運んでくるのでしょうが、現在の日本において河原の砂利というのは、外来植物のかたまりみたいなものです。
 
搬入する骨材すべてを洗浄するか熱処理でもしない限り、ダンプカーの荷台を傾けた瞬間に、砂ぼこりとともに大量に飛散してしまいます。
 
700人もの作業員が入れば、その靴の裏や荷物にもくっついてくるでしょう。

近所に生えていたセイタカアワダチソウ、マツヨイグサ類(正確な種類は不明)、ノゲシ、アメリカセンダンガウサの種子の写真を貼り付けておきますが、こんな1㎜にも満たない、ごく小さく軽いものの侵入を拒むことなど可能だと思いますか?
 
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さらに、南アルプスのように原生的な自然環境を残している地域の場合、国内移入種のことも考えねばなりません。日本原産とはいえ本来南アルプスい分布していない植物が大量に侵入したら、それをエサとする、本来南アルプスに生息していなかった昆虫も呼び寄せてしまいます。それはそれで生態系の劣化・破壊に他なりません。しかも国内移入種の場合、遺伝子解析でもしない限り、在来種かどうかの判定すらできないという厄介な点があります。
 
 
リニア中央新幹線計画において、外来植物・移入種の搬入が南アルプスの生態系に与える危険性は、土砂災害を引き起こしかねない残土捨て場や、大井川の大幅な流量減少に比べて目に見えにくい懸念ですす。しかしこれが現実となったら、南アルプスの生態系が根本的に破壊されてしまいます。

これでは南アルプスの生態系が南アルプスのものでなくなってしまいます!!
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