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Channel: リニア中央新幹線 南アルプスに穴を開けちゃっていいのかい?
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異例づくめの環境大臣意見その2 大臣意見を無視したら…?

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環境大臣意見について続けます。
 
この後、環境大臣意見を踏まえ、国土交通大臣からJR東海に意見が通達されます。勘違いされている方が多いかもしれませんが、環境省が直接にJR東海へ意見を出したわけではないのでご注意ください。
 
国土交通省は鉄道事業を監督し、これまで旧運輸省としてリニアの開発や新幹線の延伸を行ってきたわけですから、環境大臣意見とはニュアンスが異なるかもしれません。とはいえ、環境大臣意見については国交省と環境省との間で協議済みだったでしょうし、既にその内容が広く国民の知るところとなっているわけですから、大幅に変更されることはないでしょう。
 
JR東海が事業を進めたい場合、その国土交通大臣意見を受けて評価書を補正したのちに、補正後の評価書を国土交通省に提出し、事業申請をおこなうこととなります。そこで、国土交通大臣意見をきちんと反映できたか、これで十分な環境保全措置ができているかを審査し、(他の書類審査も併せて)合格と認められれば、事業認可となります。
 
注視すべきはココ!
 
 
 
今現在、JR東海の作成した評価書については、環境省が「問題あり」と見解を示しました。
 
「問題のある評価書」のままで事業を認められるのでしょうか?
 
答えはたぶんノーです。
 
問題のある「補正後の評価書」で所轄官庁が事業認可をした場合、それは行政権の裁量を逸脱しているとして違法性があるとのこと。
 
かつて、東京地方裁判所が、この「裁量権の逸脱又は濫用」と認められるケースを示しています。(平成23年6月9日 新石垣空港設置許可取り消しを求める裁判の判決文の要旨)
 
それによりますと、その判断が事実の基礎を欠き又は社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかであるなど、免許等を行う者に付与された裁量権の範囲を逸脱し又はこれを乱用したものであることが明らかである場合、違法となりうるのだそうです。そして事実の基礎を欠く場合として、手続き上の瑕疵(かし)のために重要な環境情報が収集されないまま評価書が確定するようなケースが考えられるとのこと。
 
これをリニア計画に置き換え、評価書と、それへの環境大臣意見について考えてみましょう。
 
3月末に、準備書に対して出された知事意見には、調査が不足しているとして改めて追加調査を求める声が多数ありました。その中には、河川流量や動植物の分布状況など、1年以上かけて調査しなければならないような、重要な項目も含まれていました。南アルプスにおける河川流量なんて全く現地調査をしていなかった(公表できなかった?)のだから仕方がない
 
 
それにもかかわらず、JR東海はこれら知事意見をほとんど無視して評価書を作成したため、改めて環境大臣から再検討を求められたところです。
 
しかも再検討を求められただけでなく、冒頭から「河川の生態系に不可逆的な影響を与える可能瀬が高い」「本事業の実施に伴う環境影響は枚挙に遑(いとま)がない」「これほどのエネルギー需要が増加することは看過できない」「環境の保全を内部化しない技術に未来はない」と、懸念が次々と書き並べられた、異例の意見でした。
 
現在のところは、明らかに「手続き上の瑕疵(かし)のために重要な環境情報が収集されていない」状況にあります。
 
もしJR東海が今年秋の着工にこだわっているのなら、1年以上かかる再調査なと行うはずがなく、内容をほとんど補正しないまま評価書が確定することになります。
 
補正しないということは、
国土交通大臣意見≒環境大臣意見
および環境大臣意見で再検討を要求された沿線都県知事意見
ならびに公衆等(住民など)からの意見
これらをことごとく無視するということになります。
 
 
つまり、まさに「手続き上の瑕疵(かし)のために重要な環境情報が収集されないまま評価書が確定するケース」になってしまいます。そしてそれを国土交通省に再提出して事業認可を申請する…。
 
こんなのを国土交通省が事業認可したら、それこそ「その判断が事実の基礎を欠き又は社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかであり、免許等を行う者に付与された裁量権の範囲を逸脱し又はこれを乱用したものである」として、違法になってしまうのではないでしょうか?
 

かつて、そういうことはダメと裁判所が見解を示しており、しかもそれは空港と鉄道行政を担ってきた運輸省に対して出されたものですから、同じ轍は踏まないと思うのですがねえ…。

評価書にみるユネスコ・エコパークへの認識

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南アルプスがユネスコの生物圏保存地域、通称エコパークに登録されました。
 
おめでとう
 
とはいっても素直に喜べないのが現在の状況。
 
その南アルプスをぶち抜き、残土を捨て、川の水を抜くリニア計画が進行中…。
 
 
 
エコパーク制度の詳細およびエコパークとリニア計画との非調和性については、今年の元日に別記まとめてありますので、詳しくは下記URLをご覧ください。
http://park.geocities.jp/jigiua8eurao4/SouthAlps/hozen/ecopark.html

これは準備書が出された段階で書いたものですが、当時の不安・懸念は全く払しょくされていないと思います。
 

さて環境影響評価書に「南アルプスエコパークについて」とありましたのでみてみましょう。
イメージ 1
環境影響評価書 静岡県版 資料編をコピー
 
こんな具合です。長野県版・山梨県版ではさらに雑な内容。
 
エコパーク制度を研究されている知人の方に言わせると「非常に腹のたつ」内容とのこと。
 
この文章を書いたのがJR東海本社なのか、子会社のJR東海コンサルタンツなのか、その他のコンサルタント会社なのか存じませんが(誰が担当したのか書きなさいよ!)、冒頭2行で「自然環境上重要な地域である」としながら、その後は伐採・ダム・電源開発と、いかに南アルプスが開発されつくされて自然など残っていないのかを強調するという、意味不明な文章になっています。
 
既に開発されつくしてどこでも破壊していいと判断できるような場所なら、なんでユネスコ・エコパークに登録できたのでしょう? 根本的に認識が誤っている証拠といえるでしょう。
 
◇   ◇   ◇   ◇   ◇
 
 
厳重に保護すべき「核心地域」、核心地域を守るための「緩衝地域」、持続可能な自然の利用をおこなう「移行地域」というように、重要な場所を三段階の保護地域で囲むことに、ユネスコ・エコパークの特徴があります。
 
 
イメージ 2
 
エコパークの登録基準により、緩衝地域が満たしていないければならない条件は、
 ・核心地域のバッファーとしての機能を果たしていること
 ・核心地域に悪影響を及ぼさない範囲で、持続可能な発展のための地域資源を活かした持続的な観光であるエコツーリズム等の利用がなされていること
  ・環境教育・環境学習を推進し、自然の保全・持続可能な利活用への理解の増進、将来の担い手の育成を行っていること
 
となっています。
 
また、移行地域が満たしていなければならない条件は、
 ・核心地域及び緩衝地域の周囲または隣接する地域であること
 ・緩衝地域を支援する機能を有すること
 ・自然環境の保全と調和した持続可能な発展のためのモデルとなる取組を推進していること
となっています。JR東海は、工事は移行地域で行うから問題ないとしています
 
ふつうに考えれば、自然保護が優先され人間活動が抑制されるべき地域で営む産業といえば、受け入れ人数を管理したアウトドア活動や観光、環境教育、持続可能な農林水産業といったところでしょう。これなら現在南アルプス周辺の集落で営まれている農業、林業、観光業を中心とした産業形態や、登山、エコツアー、渓流釣りといった自然の利用方法と大差ないと思われます。

 高度成長期のように、天然林を片っ端から切り倒してゆくような国産材需要も見込まれることはないでしょうし、これ以上の水力発電計画もありません。エコパーク登録に必要となる追加事業も、トイレ・登山道の整備や鹿による高山植物食害対策のようなものかと思います。むしろ利用者へのソフト面での受け入れ態勢が重要かと。
このように現状を維持してゆくような利用・活動形態なら、持続可能な利活用を探ってゆくことができると思います。
 
これに対し、リニアの工事は10年以上、穴を掘り続け、山中に残土を捨て、川の水を抜き、ダンプカーが走り回る…どこが自然環境の保全と調和した持続可能な発展のためのモデルとなる取組なんだ??
 
ちなみに、このブログで再三指摘してきた「標高2000mの残土捨て場」候補地は、移行地域と緩衝地域との境界に位置しており、実際に残土が捨てられた場合、移行地域の役割「緩衝地域を支援する機能を有すること」を達成できなくなってしまいます
 
◇   ◇   ◇   ◇   ◇
 
そもそも評価書の内容は根本的に間違っていることとして、過去の改変とはケタが違うことがあげられます。
●大井川源流部では電源開発で導水トンネルが総延長22㎞ほど掘らてはいますが、その断面積は2~3平方メートル。いっぽうのリニア工事関連のトンネルは、静岡県内だけでも総延長33~34㎞、断面積は40~50倍、出てくる残土の量はたぶん10~15倍。
 
●確かに南アルプスでは広い面積にわたって伐採が行われてきました。しかし伐採をしても、長い年月のうちには森は再生します(再生可能な資源)。ところがリニアの工事で南アルプス山中に捨てられる360万㎥の残土なんていうものは、いつまでたっても醜い姿をさらし続けてしまいます。数十年にわたって、泥の流出、崩壊のおそれ…。つまり、容易に環境が再生できない。標高2000m稜線上の残土捨て場など、大崩壊の危険性すらある。
 
●確かに発電で大井川の水を取水しています。とはいえ、その水は発電機を回し、電力エネルギーとして人々の生活を支える礎となっています。ところがトンネル工事による水枯れは、ただ無意味に川の環境を破壊するだけです。発電用水の取水はいざとなれば止めることができますが、トンネル湧水ではそんなことも不可能。
 
●以上の開発は、「南アルプスがもつ資源」を求めて行われてきたものだけど、リニアについては「邪魔だからぶち抜くだけ」。
 
●確かに長野県の大鹿村での工事は『移行地域』で行われます。同村内では1日最大1700台におよぶ大型工事用車両が通行するとしていますが、これがエコパークの価値や利用にどのような影響を与えると考えているのか、全く言及がない。
 
自らが行おうとしている工事は、これまでの開発とは規模も様式も意味合いも全く異なり、そのうえ完全に不可逆的な破壊であるという自覚が全くないんです。
 
 
今から10年後の2024年、南アルプスの管理状況についてユネスコに報告書を提出することになっています。2024年はリニア建設工事の真っ最中。そこで環境が適切に管理・保全できていなければ、登録が抹消される可能性もあります。
 
 
 ◇   ◇   ◇   ◇   ◇
 

評価書においては、エコパークに指定されるような南アルプスの価値とはどのようなものなのか、それに対して自社のリニア建設工事による自然破壊がどのような影響を与えるのか、どのような対策を考えているのかを示すべきです。
 
ところが、単にこれまでの開発を引き合いに出して自社の正当性を訴えるだけに終始し、しかも工事の影響を必死になって矮小化させようとしたため重要な論点には何も触れておらず、結局何も中身がないという、情けない文章になっています。

南アルプスが国際的な環境保全地域に認定されたことにより、そこで行われる大規模な工事は、必然的に国際的な注目を浴びることになります。JR東海はユネスコという国際機関に対しても説明責任をもつことになりますが、そのことの自覚はできているのでしょうか?
 
悪いけれども、このような認識で工事を進めてもらうのは困ります。困るっていうか、山にも川にも、それを守る人々にも失礼にあたると考えます。
 
 

標高2000m残土捨て場は環境大臣意見にも森林法にも反する

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環境影響評価書に対する環境大臣意見で「発生土置場(=残土捨て場)の選定要件」が示されていましたので、それを検証してみようと思います。
 
環境大臣意見
2.6 廃棄物
(1)発生土
②発生土置場の選定要件
 今後、新たに仮置場の設置場所を選定する場合については、自然植生、湿地、希少な動植物の生息地・生育地、まとまった緑地等、動植物の重要な生息地・生育地や自然度の高い区域、土砂の流出があった場合に近傍河川の汚濁のおそれがある区域等を回避すること
 また、登山道等のレクリエーション利用の場や施設、住民の生活の場から見えない場所を選定するよう配慮するともに、設置した際には修景等を行い、自然景観を整備すること。
 

 まず基本的なことですが、静岡県内の発生土置場については、仮置き場ではなく恒久的なものですから、その選定にはいっそう慎重にならなければなりません。しかしJR東海は静岡県内における残土捨て場候補地について、「過去に伐採された場所や人工林等から選定した」としているだけで、ここに大臣意見で掲げられた要件について検証を行ったのか定かではありません。っていうか、たぶんしてませんな。ですのでkabochadaisukiがJR東海様の代わりに検証させていただきます。
 
今回は、例の標高2000m扇沢源頭の「天空の残土捨て場」について検証してみましょう。
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GoogleEarth衛星画像を複製・加筆
 
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国土地理院地形図閲覧サービスうぉっちずより複製・加筆

(1)自然植生だと思う
この場所、確かに伐採・植林の履歴がありますが、南アルプスの稜線上という土地条件から、人為的な地形改変、農業、居住等が行われた履歴はありません。JR東海が作成した植生区分図においては、同候補地のほぼ全てがシラビソ-オオシラビソ群集に分類されていますが、この群集は、南アルプスの標高2000m前後におけるこの土地本来の自然植生(亜高山針葉樹林)であることから、2次林とはいえ自然植生に近い状況であるのでしょう。
 
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環境影響評価書 静岡県版を複製・調整
 
 また評価書・資料編「表9-1 植物出現種リスト」から植物相を眺めると、オオシラビソ、シラビソ、トウヒ、キタゴヨウといった亜高山帯の極相林を構成する樹種が確認されていること、草本植物にもシラネワラビ、オサバグサ、ゴゼンタチバナ、ハリブキ、カニコウモリ、コイチヨウラン等、亜高山帯の林床に特徴的な種が多いことから、典型的な亜高山針葉樹林の林相を呈しているとみられ、やっぱり自然林とみなせるんじゃないかと思います。 
 
品川-名古屋間でリニア関連の工事が予定されている場所の中では、最も自然状態に近い森林であることは確実であり、こういう言い方をすると語弊がありますが、とりわけ重要度は高いと思います。大臣意見の要件を満たせておりません

(2)希少な動植物の生息・生育地だといえる
 評価書では重要な動植物の分布状況は非公開なので、同地にどんな重要種が確認されているのかは定かでありません。とはいえ、断片的な情報でも「希少な動植物の生息・生育地」に該当しているのは確実です。
 
まず静岡県知事意見によれば、同地にはホテイランという植物の生育が確認されているようです。ホテイランは、静岡県希少野生動植物保護条例で採取・損傷が禁止され、静岡県版レッドデータブックにおいて絶滅危惧ⅠAに、環境省のレッドデータブックでも絶滅危惧ⅠBに指定されている、第一級(?)の希少植物です。これだけで大臣意見は満たせていないことになります。
 
 それからJR東海は、長野県版の評価書では「南アルプス国立公園特別地域内指定種」というものを重要種に選定し、予測評価対象にしているんです(国立公園特別地域内で採取・損傷したら処罰対象になる)。ところがなぜか静岡県版ではこういう対応をとっていないんですね。
 
もし静岡県側でも同様な対応をとれば、評価書の植物出現種リストで確認すると、同地での現地調査で確認された高等植物種のうち39種がこれに該当します。すると、この場所で確認された植物全体のうち約20%は重要な植物で構成されていることになります
 
例えば山梨県、長野、神奈川県では、発見された植物のうち重要な植物の占める割合は3~5%なんです。これらに比べると、扇沢源頭というのは希少な植物種の占める割合がとても高い地域ということになるんですよ。大臣意見の要件を満たせておりません
 
なお、クルマユリ、ホソバトリカブトといった高山性の高茎草本群落、いわゆる「お花畑」を構成する種も確認されています。
 
蛇足ですが、東京都の評価書をみるとシダ類のウラジロってのが「重要な種」に選定されています。ウラジロってのは正月飾りにつけてあるアレです。関東以西なら住宅地の裏山にグチャグチャに生い茂っているような、ごく普通な植物です。東京都はウラジロの分布北限に近くて数が少なく、貴重な種といえるかもしれません。しかし品川-名古屋全体を見渡した場合は、果たして重要な種といえるか微妙です。別に東京都のウラジロを重要種にあげるのが間違っているというわけではありませんが、それならば静岡で普通種にされたクルマユリ、ドロノキ、コイチヨウランなんてのも十分に重要な種に該当すると思います。個体数が比較にならないのです。
 
(3)ユネスコ・エコパーク内における緩衝地域と移行地域の境界にあたる
 先週、南アルプスがユネスコ・エコパークに登録されました。JR東海は「この扇沢源頭はエコパーク移行地域にあたる。移行地域では経済活動が認められているから問題ない。」と主張しています。
 
ところが移行地域では経済活動が認められているものの、同時に「緩衝地域を支援する機能を有すること」という機能が求められます。残土捨て場そのものは確かに移行地域内なのですが、100~200mほど離れた県境を挟んで山梨県早川町側の緩衝地域に接しているんですね。緩衝地域に接した場所で、多数の重要な動植物とともに自然林を大規模に発生土で埋め立てる計画であることから、これでは緩衝地域を支援する機能になっていません。
 
(4)土砂の流出があった場合は大井川の汚濁・荒廃につながる
 この場所は、大井川支流である扇沢の源流、標高2000m付近です。大井川との合流点付近の標高は1520m程度ですが、それよりも400~500mも高いことになります(冒頭の地形図参照)。
 
その扇沢の遷急点(上流側から見て川床の勾配がここを境に急になる点:標高1940m付近)の上流側に発生土を積み上げる計画です。遷急点より下流側の勾配は、1:25000地形図から計測すると30°前後であり、これは、土石流発生の条件となる15~20°を大幅に上回る値です。
 
したがって万一、大雨や地震で残土が流出した際には、必然的に土石流となり、途中で停まることなく大井川まで流れ下ってしまいます。そして扇沢を荒廃させ、大井川本流の汚濁・川床荒廃に結びついてしまいます。必然的に土石流になるというのが問題で、通常、こんな地形条件の場所に残土を積むことは考えられません。大臣意見の要件を満たせておりません
 
なお、「土石流警戒渓流」というものがありますが、もし扇沢の流域に人が住んでいたら、確実にこれに該当します。
 
(5)侵食によって発生土の大崩壊が起こる可能性がある
 この扇沢源頭は、遷急点の上流側であるため、将来的には遷急点の上流側への移動(=侵食)によって下から崩される場所です。また、山梨県側の黒河内流域(早川支流)においても稜線が地すべり滑落崖となっており、北側からも崩されている場所でもあります。
 
つまり、南北両側から崩されつつあります
 
いっぽう南アルプスにおける崩壊は、規模の大きな深層崩壊として一挙に数十m単位で崩れることも珍しくありません。扇沢における侵食(=遷急点の移動)や黒河内水系における谷頭侵食も、その程度の規模で起こりうるのです。盛土基盤が崩された場合は、発生土の崩壊と結びついて大規模土石流につながりかねません。大臣意見どころか森林法や河川法に違反する可能性があります(後述)。
 
(6)「修景等を行い、自然景観を整備すること」は不可能
 何より標高2000mの稜線上ってことで、気候条件が厳しいことが想像されます。
 気象庁の高層気象観測データから推測すると…
・冬季の平均気温は-6~-7℃、夏場で15度と低温である。樹木の成長に適した月平均気温10℃以上となる月は4か月程度しかない。これは北欧とか千島列島あたりの気温条件である。つまり、土壌条件が仮に良好でも成長自体が遅い。
・稜線上だから風がやたらと強い。
・気温差の大きい春と秋、夜間に土壌中の水分が凍結・膨張、日中は融けて流れ出すことを繰り返すことによって土や石が移動してしまい、植物が根をおろしにくい
・東北や北海道の寒冷地とは異なり雪が少ないため、植えた植物は低温の強風に吹きさらされ続けることとなる。
 
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参考 気象庁のホームページより
徳島県 旧剣山測候所(標高1944.8m)
茨城県 館野(つくば市)上空800hPa(約2000m)
における月別平均気温のグラフ
参考に北海道納沙布岬(根室の東)での気温も掲載
 
それにもかかわらず、JR東海は気象観測や既存データ収集もしていません。何も調査していないのに「緑化は可能」などとうそぶいています。標高2000m地点で建設残土を大面積にわたって緑化した事例なんてないと思うのだけどなあ…。
 
それから、緑化の対象は建設残土です。トンネル工事で出てきた残土ですから、岩のカケラです。こんなものにどうやって植物を植えるというのでしょうか。
 
小規模な工事の場合は、いったん表土をはぎ取って別の場所に保管し、工事終了後に表面にかぶせ、植樹するという手法がとられます。ところが扇沢源頭の場合、その面積はたぶん10万㎡近くに及ぶことでしょう。10万㎡の広さで、0.5mの深さで表土をはぎとったら、保管すべき量は5万立米。これを保管するだけで相当に広い仮置場が必要となります。どこに置いておくというのでしょうか。しかも保管期間は10年以上におよびます。扇沢源頭の場合、シベリアあたりと共通のポドゾル土壌だと思われますが、変質しないのでしょうか?
 
標高2000m域での緑化など、道路脇の法面や別荘地の修景など小規模なものしか事例がなく、こんな大面積で、しかも建設残土を対象にしたものは皆無です。
 
おそらく、大臣意見の要件を満たせないでしょう。
 


 
それから大臣意見には次のような項目もあります。
 
④発生土置場の適切な管理
 (中略)
 発生土の管理計画の作成に当たっては、内容について関係地方公共団体と協議し、また、住民への説明や意見の聴取等の関与の機会を確保すること。
 
う~ん、この場所、協議も何も、静岡市・静岡県から繰り返し「大規模な土石流や山体崩壊の危険性があるため回避すること」と要求されていたんですね。
 
しかも市と県とが「災害の危険性がある」と判断したのがポイントです。
 
というのも、こういう森林地域において、災害の危険性があるような開発行為をおこなうことは、森林法によって許可してはいけないことになっているのです。
 
(開発行為の許可)
第十条の二  地域森林計画の対象となつている民有林において開発行為をしようとする者は、農林水産省令で定める手続に従い、都道府県知事の許可を受けなければならない。ただし、次の各号の一に該当する場合は、この限りでない。
一~二 
三  森林の土地の保全に著しい支障を及ぼすおそれが少なく、かつ、公益性が高いと認められる事業で農林水産省令で定めるものの施行として行なう場合
 2  都道府県知事は、前項の許可の申請があつた場合において、次の各号のいずれにも該当しないと認めるときは、これを許可しなければならない。
農林水産省令=森林法施行規則で定めるものには「鉄道事業法による鉄道事業者又は索道事業者がその鉄道事業又は索道事業で一般の需要に応ずるものの用に供する施設 」とありますが、これは鉄道施設が対象です。発生土置場は該当せず、許可申請の対象となるでしょう。

⇒つまり、次のようなケースでは開発許可をしてはならないということです。
 
  一  当該開発行為をする森林の現に有する土地に関する災害の防止の機能からみて、当該開発行為により当該森林の周辺の地域において土砂の流出又は崩壊その他の災害を発生させるおそれがあること
  一の二  当該開発行為をする森林の現に有する水害の防止の機能からみて、当該開発行為により当該機能に依存する地域における水害を発生させるおそれがあること。
  二  当該開発行為をする森林の現に有する水源のかん養の機能からみて、当該開発行為により当該機能に依存する地域における水の確保に著しい支障を及ぼすおそれがあること。
  三  当該開発行為をする森林の現に有する環境の保全の機能からみて、当該開発行為により当該森林の周辺の地域における環境を著しく悪化させるおそれがあること。
 
 3  前項各号の規定の適用につき同項各号に規定する森林の機能を判断するに当たつては、森林の保続培養及び森林生産力の増進に留意しなければならない。
 4  第一項の許可には、条件を附することができる。
 5  前項の条件は、森林の現に有する公益的機能を維持するために必要最小限度のものに限り、かつ、その許可を受けた者に不当な義務を課することとなるものであつてはならない。
 6  都道府県知事は、第一項の許可をしようとするときは、都道府県森林審議会及び関係市町村長の意見を聴かなければならない
 
南アルプス一帯の森林は民有林であり、地域森林計画の対象となっています。ですのでここで開発行為を行うためには、この森林法第十条第二項の規定に従わねばなりません。
 
煩雑になるので省きますが、農林水産省令による許可が必要となる開発規模は1ヘクタール以上つまり1万平方メートル以上=100m四方。扇沢源頭の残土捨て場は確実に該当します。
 
それから法律の条文をよくお読みください。開発許可の権限は県知事がもち、許可を行う際には市長の意見を聴かねばなりません。その静岡県知事・静岡市長ともに、この扇沢源頭で残土処分は危険であると認めていることから、許可してはならないことになります。
 
環境大臣意見は、森林法の開発許可制度に則ったものだととらえることもできます。
 
 


 (検証結果)
 
この標高2000mの残土捨て場、計画自体がムチャクチャであるうえ、実行すると市長意見・知事意見・環境大臣意見を全て無視することによって環境影響評価制度の形骸化につながり、それから静岡県希少野生動植物保護条例違反に発展する可能性があります。森林法との適合性も極めて疑わしいところです。
 
万一、積み上げた残土が崩壊したら、川を損傷することによって河川法に違反する可能性もありますし、もしかすると人や財産の損傷(=刑事事件)につながるかもしれない。
 
 
JR東海さま、日本という国が法治国家である以上、この残土捨て場は中止してもらわねばなりませんよ。

千枚岳直下大井川河原の残土捨て場は環境大臣意見にも河川法にも反する?

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環境大臣意見で示された発生土置場(=残土捨て場)の選定要件について、JR東海が静岡県内の南アルプス山中で選んだ候補地が、それを満たしているかどうか検証しています。
 
環境大臣意見
2.6 廃棄物
(1)発生土
②発生土置場の選定要件
  今後、新たに仮置場の設置場所を選定する場合については、自然植生、湿地、希少な動植物の生息地・生育地、まとまった緑地等、動植物の重要な生息地・生育地や自然度の高い区域、土砂の流出があった場合に近傍河川の汚濁のおそれがある区域等を回避すること
  また、登山道等のレクリエーション利用の場や施設、住民の生活の場から見えない場所を選定するよう配慮するともに、設置した際には修景等を行い、自然景観を整備すること。
 
 
前回は扇沢源頭に計画されている残土捨て場(発生土置場)が、環境大臣意見で求められた要件を満たしているかについて検証してみました。今回は、大井川の河原に計画されているもう一つの大規模残土捨て場についてみてみます。
イメージ 1
環境影響評価配慮書より複製・加筆
 
この場所、新聞報道などでは「燕(つばくろ)沢付近」と称されていますが、燕沢は大井川の小支流であり、実際に残土を積むのは大井川の河原です。
 
かつて発電所建設の際に、コンクリート材料の砂利を採取し、コンクリートプラントを設置したことがあったそうです。評価書によると、JR東海としては、これを理由として「過去の改変箇所だから改変してもよい」という判断をしたとのことです。とはいえそれから20年ほどたち、砂利採取跡地も河原と一体化してしているようです。この認識、あとでもう一度論点になりますので要注意。
 
地形図や評価書に示された図から判断すると、幅100m、長さ950mほどの長方形の土地に残土を積み上げることが可能といえそうです。
 
イメージ 3
評価書より複製・加筆
 
この長方形に、盛土の限界(高さ20m、法面勾配30度)で思いっきり積み上げると、計算上は約120万立米の残土を放り込むことが可能となり、これが物理的な限界といえます。静岡県内発生量360万立米の三分の一となります。これはあくまで机上の計算です。
 
 
以上が予備知識。それでは検証にうつります。
 
 

(1)明らかに希少な動植物の生息地・生育地である
評価書では「重要な種」についての分布状況は明らかにされていないため、具体的に何が分布しているか不明ですが、静岡県内でこれまでに刊行された既存資料を総合すると、確実に希少性の高い動植物が集中的に分布している場といえます。

この場所、千枚岳(2879.8m)山頂付近を頂点とする大規模山崩れ(千枚崩れ)の直下であり、大井川の河原でもあるため、大量に砂利が供給されては洪水で流されるということを繰り返しているという場所です。
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国土地理院地形図閲覧サービス「うぉっちず」より複製・調整・加筆
右上隅の「二軒小屋」が、登山拠点の施設。
 
したがってここに生える植物は、土砂の活発な移動に適応したものが中心となっています。ドロノキ(ドロヤナギ)、オオバヤナギといったヤナギ科の樹木、ミヤマタネツケバナ、ヤマハタザオ、カワラニガナ、シナノナデシコといった草などです。評価書の植生区分では、オオバヤナギ‐ドロノキ群集と命名されています。
 
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これらドロノキ、オオバヤナギといった樹木は寒冷な気候条件でなければ育たない種類であり、日本全国を見渡した場合の分布中心は北海道や東北地方の山間部であり、ここ大井川源流の河原が分布の最南端となっています。地形・植生・景観のうえでは、焼岳等からの土砂が梓川をせき止めている北アルプス上高地と似たような環境にあります(上高地の場合はケショウヤナギが代表的)。
 
ここの河原、このような植物の葉をエサとする高山性の希少な蝶の分布域になっていることが、何十年も前からが指摘されています。代表的なのがドロノキの葉を餌とするオオイチモンジ、あるいはミヤマタネツケバナ、ヤマハタザオを餌としているクモマツマキチョウといった種です。この場所はドロノキの分布最南端であると同時に、オオイチモンジの分布最南端ともなっています。これらオオイチモンジやクモマツマキチョウ(ともに重要種に選定)は、氷期に分布域を南に広げ、その後の温暖化とともに南アルプスに取り残されていったと考えられています。つまり南アルプスにおける気候変動の生き証人といえるわけです。
 
なおオオイチモンジは環境省版のレッドデータブックで絶滅危惧Ⅱ類に、静岡県版レッドデータブックで絶滅危惧ⅠAに指定されている、きわめて希少性の高いチョウです。しかも長らく生息情報が絶えていたものの、30~40年ぶりに確認されたのが残土捨て場付近でありました。ここをつぶしたら、完全に南アルプスから絶滅する可能性があります。
 
また。河原を大きく改変する計画ですが、川の中にも何種類かの希少性の高い生物が確認されています。
 
このように、この場所では希少性の高い高山蝶数種をはじめ、確認された動植物に重要種が多く含まれています。
 
したがって、希少性の高い動植物が集中的に分布していることに間違いありません。しかもこれらは「土砂の移動が活発な河原」という特異な条件に依存した種であり、代わりに行くべき場所がないのです。
 
以上のように、明白に環境大臣意見に反しています。
 
【引用した文献資料】
●静岡県自然保護協会 編集(1975)「南アルプス・奥大井地域学術調査報告書」
●杉本順一(1984)「静岡県植物誌」
●宮脇昭ほか 編集(1987)「静岡県の潜在自然植生」静岡県
●諏訪哲夫 編集(2003)「静岡県の蝶類分布目録」静岡県昆虫同好会
●静岡県 編集(2004)「守りたい静岡県の野生生物-県版レッドデータブック」 植物編・動物編
●静岡市や静岡県が環境影響評価準備書に対して提出した意見書
 
 
(2)土砂の流出があった場合は大井川の汚濁・荒廃に直結する
 環境大臣意見では「土砂の流出があった場合」という書き方ですが、この場所は、流出することが必定です。というのも、地図を見て一目瞭然ですけど、ここは河原です。河原である以上、年に1度程度は濁流に見舞われる場所です。しかも土石流のような流れが頻発する場所です。
 
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平成25年11月7日 静岡新聞朝刊
 
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そんな場所に残土を盛りつけたら、増水するたびにえぐられてしまいます(河原での砂利採取後の崖を連想してください)。かといって流出を防ぐためにコンクリートでガチガチに固めてしまったら、川と森との生態系的つながりを分断し、著しく景観を損ねてしまいます。
 
そのうえ川幅を狭めることによって流れを強くし、侵食作用を活発化させるとともに、盛土(残土の山)が土石流をせき止めて上流側の川床を上昇させ、植生の変化とそれによる希少な昆虫の消失、河川水の伏流を招く可能性があります。
 
要するに、河原に残土を大量に積み上げると、川の汚濁どころか地形を変えてしまうのです。これでは環境大臣意見の要件を満たせないだけでなく、河川法に違反する可能性もあります(後述)。
 
 
(3)登山道等のレクリエーション利用の場や施設から丸見えである。
この場所は、林道東俣線沿いになります。この林道は南アルプスの登山基地である二軒小屋ロッヂに通ずる唯一の自動車道です。二軒小屋ロッヂを利用する登山客や観光客は、ここまで送迎バスに揺られてやってきますので、いやがおうでも残土捨て場を目の当たりにすることになります。
 
しかもこの林道東俣線は、評価書の「自然と人との触れ合い活動の場」に選定されており、環境影響評価をおこなったJR東海自らがレクリエーション施設と認めているのです。
 
レクリエーション施設に隣接して大量の残土を積み上げるわけですから、環境大臣意見を全く満たせておりません。
 
 
主に以上の3点、
重要な動植物の生育場所である
土砂の流出が起こるばかりか地形そのものを変えてしまう
レクリエーション施設から目の当たりになる

という観点から、この場所は環境大臣意見を満たせていないと考えられます。

また、河原に大量の残土を積み上げて環境を大きく変えてしまうことは、基本的に河川法によって禁止されています。どのように許可申請を出すというのでしょう?
 

(4)環境大臣意見どころか河川法に違反する?
河川管理のありかたを定めた河川法には、次のような条文があります。
第二十七条  河川区域内の土地において土地の掘削、盛土若しくは切土その他土地の形状を変更する行為又は竹木の栽植若しくは伐採をしようとする者は、国土交通省令で定めるところにより、河川管理者の許可を受けなければならないただし、政令で定める軽易な行為については、この限りでない。
2~3 略
4  河川管理者は、河川区域内の土地における土地の掘削、盛土又は切土により河川管理施設又は許可工作物が損傷し、河川管理上著しい支障が生ずると認められる場合においては、当該河川管理施設又は許可工作物の存する敷地を含む一定の河川区域内の土地については、第一項の許可をし、又は第五十八条の十二、第九十五条若しくは第九十九条第二項の規定による協議に応じてはならない

要するに、河原に残土で盛土をおこなう場合も、木を切る場合も、河川法によって河川管理者の許可を受けねばならないのです。しかも、問題の生じるおそれがある場合は、協議にすら応じてはいけないのです。

ここでいう「河川管理」という言葉には、河川環境の保全という意味合いも持ち合わせています(第1条、第2条)。
 
河川法第27条に照らし合わせてみますと、大量の残土を河原に積み上げる行為は、明らかに河川の環境を大きく損傷し、そのうえ地形そのものを変えてしまい洗掘や河床上昇を誘発してしまう可能性が高いので、現計画のままでは、河川管理者(ここは静岡県?)は、JR東海の申請を許可してはならないはずです。
 
(ちなみに公共事業によるダムや堰などの建設の場合、設置・地形改変の申請を出す側と許認可審査をする河川管理者とが一致することが多い。その場合は内々の協議をすることによって申請は不要になると河川法で定められている。リニアの場合、あくまでJR東海による民間事業であるため、残土を河川に捨てるには河川管理者の許可が必要である。)
 
 

ところで、そもそもJR東海の主張自体にムリがあります
 
●残土を積み上げる場所は、砂利採取跡地・コンクリートプラント跡地だけにとどまるはずがないということです。
かつて採取された砂利の正確な量はわかりませんが、おそらく5万立方立方メートル程度でしょう。発電所と水路トンネル建設だけのために、何十万立米も採取するはずがないからです。
 
(砂利採取量の試算)
二軒小屋付近での水力発電の水路トンネルの長さは約8300m。
仮に水路トンネルの内径を2m、外径2.4mとすれば壁(=コンクリート)の容積は1.15万立方メートル。コンクリートのうち骨材の占める割合は約7割ということなので、使用された砂利は約0.8万立方メートル。このほか発電所自体の建設にも使われたはずであるが、全部合わせても5万立方メートル弱であろう。
 
いっぽう、JR東海がこの場所に捨てようとしている残土の量は、かつて採取された砂利の10倍~20倍を目論んでいるはずです。ということは、今まで改変されていない場所にまで残土捨て場を拡大しなければ入りきりません。
 
冒頭に、JR東海は「かつて改変された場所だから残土捨て場にしてよい」認識だと触れましたが、そんなものは到底守る気はないのです。というより、守って否たら全く処分できません
 
●それから、「評価書 第6章 知事意見への見解」や「第8章 動物」においては、先に述べたオオイチモンジおよびエサとなるドロノキについて、今年度からモニタリングを行うとしています。ということは、重要な種の生息場所であることをJR東海自らが認めていることになります。なぜそんな場所を残土捨て場に選ぶのでしょうか? 環境大臣意見などもとより守る気がないことが明白なのです。

もう、言ってることもやろうとしていることもメチャクチャなのです。
 
 


(検証結果)
千枚岳直下の大井川河原に計画されている残土捨て場については、立地条件が、環境大臣意見で求められた要件を全く満たしていない。そればかりか、河川法に違反する可能性がある。
 
ところで、今回の記載内容はすべて既存資料や地形図に基づいています。ということは、現地調査を行う前、言い換えれば計画段階環境影響配慮書の作成段階で、この程度のことはわかり、生態系保全上の重要性も認識できたはずです。それにもかかわらずこの場所を残土捨て場に挙げたのは、全くの無知か、確信犯的に自然破壊を行おうとしているかのどちらかといえそうです。
 
 

標高2000m稜線上に残土を捨てなきゃリニアは完成できない!

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リニアは、山梨県富士川町(旧鰍沢町)から静岡県北端を経て、長野県飯田市へと抜けていく計画です。この間に長短6本のトンネルを想定しています。
 
今回のブログを読んでいただくにあたって、ちょっと南アルプス部分での路線のおさらい。

《路線の概略》
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Googleの地図を複製、評価書をもとに加筆

山梨県富士川町最勝寺(標高280m)から丘陵地帯のトンネルに入る。
 1本目のトンネルは長さ約850~900m。
 三枝川で一瞬地上(乗車時間にして約6秒)に出て、2番目のごく短いトンネル(または切り通し)を通り、もう一度川を渡って3番目のトンネル(長さ約2600m)に入る。
ちなみに、1本目のトンネル坑口となる丘陵と盆地との境目がA級と判断される市之瀬断層であり、糸魚川-静岡構造線系の活動領域。

 富士川町の高下集落付近で地上に出て、350mほど(約2.5秒)地上を走行した後、4番目のトンネルに入る。

これは長さ約8500mと長大であり、大柳川の上流域をごく薄い土被りでくぐりぬけ、早川町新倉にいたる。
 早川の橋梁は長さ350m程度(約2.5秒で通過)、高さ約170mと、とてつもなく高くなる。
 
早川の橋梁を渡ると5番目のトンネルに入る。

これが南アルプス本体の赤石山脈を貫く長大トンネルである。
この長大トンネルは長さが約24900mあり、早川流域から上り勾配(推定00.3パーミリ)で大井川流域をくぐり抜け、静岡・長野県境からは下り勾配(推定0.4パーミリ)となり、小河内沢の下をくぐり、長野県大鹿村日向休という地点で小渋川の谷底に出る。

 転付峠付近での土被り1000m前後、大井川上流部で450m前後、悪沢岳北方から小河内岳付近までが1000~1400mとなっている。 非常口(斜坑)は4本計画され、このうち早川町内河内川、大井川源流部2本については、それぞれ3㎞強の長さである。

小渋川の橋梁は長さ約250m、高さ70m程度である。
これを渡る(1~2秒)と6番目のトンネルに入る。

これは長さ15000mほどであり、途中で中央構造線を貫く。青木川、虻川といった川を、50m程度とごく薄い土被りでくぐりぬける。青木川を越えた付近から勾配は0.02パーミル程度になる。豊丘村・喬木村境の壬生沢川という川で地上に出る。500mほど地上を通り(約3.5秒)、7番目の短いトンネル(約100m)で河岸段丘を抜け、天竜川橋梁にいたる。
 
ちなみに最勝寺から天竜川の間、地上を走行するのは合わせて16~17秒程度。


まあこんなふうに、長さ54㎞の青函トンネル並みの規模になります。青函トンネルよりも斜坑は短いものの、本坑の断面積が大きいので、発生する残土の量は似たようなものでしょう(根拠はない)
 
さてさて、南アルプス本体を貫くトンネルに着目します。
 
このトンネル、延長は25㎞ですが、それを掘るために多数の作業用トンネルを掘ります。トンネルを掘るためのトンネルってわけです。トンネル頭上の地上から本坑に接続するのが斜坑、本坑に沿って先に掘られるのが先進坑と呼ばれます。作業用トンネルとはいえ、斜坑、先進坑ともに、2車線の道路トンネル並みの規模が想定されています。
 
評価書によると、新倉~釜沢25㎞区間で発生する残土の量は合わせて823万立方メートル。ただし評価書には残土発生の内訳が示されていません。別の資料を用いて、各種トンネルからどのように残土が発生するのか、簡単に見積もってみましょう。参考にするのは静岡県における準備書審議会で使用され、静岡県庁のHPで公開されている次の資料です。
 
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この資料をもとに考えると…。
 
【本坑(リニアの通る本体部分)】
断面積は107㎡。上記資料では残土の増え率を1.49と仮定しているらしいので、
107㎡×25000m×1.49≒399万立方メートル
 
【斜坑】
評価書より、斜坑の長さは東から順に
新倉(あらくら) 2700m
内河内沢 3900m
二軒小屋南 3100m
西俣 3500m
釜沢東 2000m
釜沢北 400m
大蔵(わぞ) 900m
合計16700m。断面積は68㎡、斜坑ではなぜか土量の変化率を1.69としているため68㎡×16700m×1.69≒192万立方メートル
 
【工事用道路トンネル】
上記資料より59万立方メートル
 
【先進坑】
合計量823万-399万-192万-59万=173万
173万立方メートル(これから試算すると、先進坑の長さは22㎞程度)
 
 
おかしな話です。残土の合計量は823万立方メートルなのに、そのうちリニアの通る本坑部分からの量は399万立方メートル、つまり48%に過ぎないのです。残り424万立方メートル(52%)は、トンネルを造るためのトンネルから発生しているのです。必ずしも必要かどうかわからない、作業用トンネルからの発生量が過半数を占めるんですね。
 
アホくさ・・・
 
 
 
 
さて、ここからが本題。
 
静岡県内へは360万立方メートルの残土を排出するとしています。その残土を処分するため、JR東海は南アルプス山中の標高2000m稜線上(扇沢源頭)に大量の残土を捨てるというトンデモ計画をたてています。
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大井川の谷底から400~500mも高い位置であるため、残土が崩れたら必然的に土石流になるし、それ以前に残土の盛土基礎となる山地自体にひび割れが確認されているため、荷重をかけると変形して大崩壊を引き起こすおそれが指摘されています。絶滅危惧種の動植物を埋め立てるのも問題だし、どっからこんな狂気の沙汰で出てきたのかも不明(詳しくは前々回記事参照
 
というわけで、静岡市長意見、静岡県知事意見、南アルプス学術検討委員会(エコパークや世界遺産登録構想にむけた専門家会議)から再三にわたって中止するよう要請が出されています。
 
ところがJR東海はことごとく無視して評価書を作成しました。
 
環境大臣意見では残土捨て場の選定について地元と協議するよう求めていますが、おそらくこの先、国土交通大臣意見でも完全に無視され、それを受けてJR東海は再度無視するのでしょう

というのも、この狂気の計画をやめさせると、おそらく南アルプス横断トンネルを掘ることはできなくなるからです。
 
この扇沢の残土捨て場ですが、標高1950mから2050mまで、すり鉢状の谷を埋め立ててゆくと、容積の上では、おそらく350万立方メートル程度まで受け入れることが可能とみられます。
 
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(地形図、トレーシングペーパー、方眼紙があれば確認することが可能ですので、おヒマな方はチャレンジなさってください。方眼付きトレース用紙があれば楽です。この図は評価書からコピーしましたが、プリントアウトすると縮尺が不明になるので計測には地形図を使用)
 
扇沢源頭にこれだけの容量があるからこそ、余計な残土を大幅に増やしながらも斜坑を2本掘って工期を短縮させることが可能であり、なおかつ2027年開業にこぎつけることが可能だと判断したのでしょう。
 
とはいえ、この残土処分計画はあまりにも狂気じみています。環境保全上の問題だけでなく、知事・市長意見の完全無視という形による環境影響評価制度の形骸化、そしておそらく森林法や河川法にも抵触し、実際に災害をおこしたら犯罪にあたるかもしれません。
 
こんなバカな話を見抜けなかった国土交通省中央新幹線小委員会というのは何をしていたんだ? 職務怠慢ではあるまいか? 税金ドロボー…
 
 
標高2000m地点をやめる場合を考えてみます。
 
 
ここをやめると、ここへ向かう道路トンネル1本が不要となるため、静岡県内への残土発生量は340万立方メートル程度となります。340万立方メートルの残土を、評価書に示された残る6地点(正確には7地点)の残土捨て場候補地で受け入れられるものでしょうか。
 
答えはノーです。
 
1:25000地形図で残土捨て場候補地の面積を計測しましたが、6か所合わせた最大受け入れ可能量はおぞらく110万立方メートル程度とみられます。それぞれの場における環境保全を考えると、さらに少なくなるはずです。
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イメージ 6JR東海が示した残土捨て場候補地での、物理的な受け入れ可能な量の推定値。
地形図からKabochadaisukiが試算。
 
前回のブログで大井川河原の大規模捨て場を取り上げましたが、おそらくあそこに捨てられるのは最大60万立方メートル程度でしょう。この量は西俣斜坑とそこへ通ずる道路トンネルからの発生量とほぼ同量です。というわけで、西俣斜坑を掘ったら、本坑にたどり着いた時点で大井川河原の大規模捨て場は満杯となります。
 
JR東海は二軒小屋の南側にもう1本斜坑を計画していますが、この斜坑そのものの残土発生量は36万立方メートル程度。こちらの斜坑を掘ると、やはり本坑にたどり着くまでに、下流側5地点の残土捨て場もほとんど満杯になります。
 
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仮に二軒小屋南側の斜坑を断念して40~50万立方メートルの余裕ができたとしても(事業者にとってより重要なのはトンネル中間に近い西俣斜坑のはず)、それで掘れる本坑+先進坑はわずかに2㎞程度。2㎞の本坑を掘るために6.6㎞の西俣斜坑+道路トンネルを掘るなどというのも、工期の設定上はありえない。

ややこしい書き方をして申し訳ありませんが、要するに、標高2000mの残土捨て場を中止すると、残土200~250万立方メートルの行き場がなくなってしまうんですね。

かといって200~250立方メートルの残土を大井川に沿って下流側へ運び出すことも不可能です
 
通常、公共事業における建設残土の運搬距離は50㎞以内とするよう、国土交通省から基準が示されています。ところが地形図をいくら眺めても、この二軒小屋から50㎞以内の場所には、これだけの量を受け入れるだけの平坦地が全く存在しないのです。
 
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平坦地を求めると、80~90㎞先の静岡市街地郊外や大井川中流域まで行かねばなりません。昨年秋に、東京都内における直轄事業では70㎞でもOKとする見直しがなされたようですが、それよりさらに長い距離となります。しかも70㎞というのは関東平野を想定したもの。ヘアピンカーブの連続する当地では物理的に不可能です。ダンプカーの大量の通行により、平坦地への途上にある井川~玉川集落や川根本町方面で、多大なダンプ公害をこうむることにもなります。
 
かといって昭和30年代の井川・畑薙両ダム建設時のように、大井川鐡道井川線を利用するのも非現実的です。
 
斜坑から井川駅まで50~60㎞ありますから、残土を駅まで運ぶこと自体が道路容量からみてまず困難でしょう。
 
評価書では、井川方面へは残土を運び出さない前提で、井川集落付近での大型車両通行台数を216台/日としています。同じようなロケーションにある長野県大鹿村の場合、235万立方メートルの残土を運び出す予定の県道253号(赤石岳公園線)で1566台/日の通行台数を想定しています(長野版評価書より)。したがって、鉄道搬出・ダンプ搬出どちらにせよ、もしも200~250万立方メートルの残土を井川以南へ搬出する場合、井川集落内での大型車両の通行台数は同様に1500台/日程度となるはずです
 
このため井川集落内の生活道路をダンプカーが埋め尽くしてしまいます。しかも、斜坑から井川集落までの林道東俣線を延々30㎞にわたって整備・拡張する必要があるため、環境影響評価書を全面的に書き換えなければならなくなります。井川集落の生活破壊、林道拡幅による景観破壊、河川の汚濁、林道沿いに確認されている多数の絶滅のおそれのある動植物への影響、登山利用を困難にするなど、現在の評価書では不問にされている新たな問題が噴出します。
 
というわけで、静岡県内で残土処分場を新たに求めるとなれば、井川ダムに放り込むか、井川集落に立ち退きを迫るぐらいしか物理的に土地を確保することができません。いずれにせよ非現実的です。

じゃあ、静岡県内での斜坑設置をあきらめたらどうなるか…?
 
静岡県内9.6㎞の本坑+先進坑からの残土発生量は223万立方メートル。これを山梨県早川町側と長野県大鹿村側とで折半する必要に迫られます。
 
長野県大鹿村では、村内へ出される計300万立方メートルの残土(前述の残土にさらに別の斜坑からの残土が加わる)を運び出すため大量のダンプカーの通行が必要となり、そのほかのトラック等を含め、1日に1700台以上の大型車両が通行するという試算が出されました。これに対して大きな批判・懸念が生じていますが、そこへさらに110万立方メートルの残土が追加されれば、残土運搬のダンプカーは36%増加してしまいます。ムチャクチャな計画がさらにムチャクチャになります。
 
しかも、工期も相当に長くなります。25㎞を2方向から掘ると、それは青函トンネル海底部分と同規模となり、掘削に20年程度かかっちゃうかもしれません。

長々書いてきましたが、要するに、標高2000mの残土捨て場を中止すると、残土の行き先が全くなくなるため、南アルプス横断25㎞トンネルのうち静岡県側地上からの工区(9.6㎞)での掘削が不可能になり、長野側・山梨側へ排出することも極めて困難になるんです。したがって2027年開業は不可能となり、現在の事業計画のもとでのトンネル工事は不可能となるんです
 
 
だから、国土交通省が扇沢残土捨て場を否定することはないし、JR東海がけっして撤回することもなり。そうにらんでおります。
 
 
 
逆に言えば、標高2000mに残土を捨てるようなムチャクチャなことをしないと、このトンネルは完成できません。あまりにも狂気じみていることから、リニア計画全体のアキレス腱となるでしょう。なにより、代わりの案を出しようがないというのが最大の弱点。

土石流/リニア反対意見に見る懸念

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(7/11 追記)
最近、「某大手鉄道会社社長がヨーロッパで、10年前に日本経済のためにインドあたりで戦争が起きてほしいと発言していた。発言者はJR東海の葛西会長だ」という話がfacebookから広まってネット上に出回り、そのせいか拙ブログのアクセス数も妙に増えています。https://www.facebook.com/photo.php?fbid=721821097877245&amp%3Bset=a.417886121604079.73054558.100001480848971&amp%3Btype=1
 
しかし、これって根拠がはっきりしているのでしょうか? 葛西会長ならいかにも言い出しそうですが、あれだけゼニ勘定に聡い人物が、インドでの戦争を要望するはずがないと思うのです。インドで戦争(印パ紛争? カシミール紛争? どういう事態?)が起きたら、スズキ現地工場の暴動どころではない事態となり、日系企業が大ダメージを受けるだけで何ら得ることがないことは、たぶんわかってるのではないかと。そのうえ印パ戦争が勃発したら、葛西会長の大嫌いな中国がパキスタンに武器輸出してぼろ儲けするかもしれない(パキスタンに中国の給油基地があります)。そんな事態を望むはずもないのでは?
 
しかも10年前なら、インドではなくアフガンに米国が侵攻し、その少し前ならNATOが旧ユーゴを空爆しており、実際に戦争が起きていた大変な状況だったはずです。ユーゴからほど近い中欧でそんな話が出るのか・・・。そう考えると、胡散臭く感じます。創作の可能性は否定できないと思います。
 
この方は安倍総理や集団的自衛権行使容認の解釈改憲への批判としてこの話を持ち出しておられます。私も安倍総理のやっていることにはムチャクチャ腹が立ちます。とはいえ、根拠があるのかないのか分からない、あるいは裏の取りようのない話を広めるのはマズいと思います
 
それから、少なくとも、これとリニアとを無理やり絡めることのないよう、くれぐれも注意したいと思います。また、このブログではリニア絡みや環境政策・交通政策は別として、基本的に政治批判につながるような内容には言及しない方針ですので、そこのところはよろしくお願いします
 

すでに繰り返し報道されているため、皆様ご存知かと思いますが、集中豪雨に見舞われた長野県南木曽町で、土石流による災害が発生しました。
 
土石流というものは、地表を構成する礫や砂や泥が、グチャグチャに混じりあって一体となって急勾配の谷を流れ下る現象です。
 
土石流発生の要因は、①流れ下る土石と②勾配です。大量の水があると発生しやすくなりますが、乾燥した状態でも地震動によって発生ることもあるため、水の存在は必ずしも不可欠ではないようです。
 
上記リンク先で確認していただきたいのですが、発生域、流下域、停止域とを分けて考えることがポイントです。

一般に土石流は、統計上、川床の勾配が15度以上になると発生しやすくなるそうです。下り始めて、勾配が10度未満になると堆積・減速し始め、3度未満になると停止するといわれています。もちろん、泥水ははるか下方まで到達します。
 
被災地について、国土地理院の地形図で確認してみます。
 
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この梨子沢、A地点を境に下流と上流とで勾配が異なります。A地点より集落付近までは約2700m、標高差は400mほどです。川床の勾配は角度にすると8度程度です。逆にA地点より上流側は約27~28度です。
 
土石流はおそらくA地点よりも上流側で発生したのでしょう(午後7時のNHKニュースでは2か所で崩落が発生したとのこと)。一帯は花崗岩でできた山地ですが、花崗岩は風化するとボロボロの砂状になるという特性があるため、川床には砂礫や巨石がたまっていたに違いありません。そしてA地点よりも下流側に到達したところで減速しつつ、集落まで進んで行ってしまったのでしょう。減速したといっても、家々を押し流し、橋を破壊するだけの力はもっています。
 
◇   ◇   ◇   ◇   ◇

リニアのことを考えているせいで、即座に連想したのが、JR東海が南アルプス扇沢源流(標高2000m)に想定している巨大残土捨て場。比較のために、同じ縮尺の地形図を貼り付けておきます。
 
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JR東海は、他の残土捨て場候補地の面積から推定すると、この場所に200~250万㎥の残土を捨てる計画であると見受けられます(前回ブログ参照)。おおよそ東京ドーム2杯分という、とてつもない量になります。
 
こちらの扇沢は、850mの距離で400mの標高差を流れ下ります。この間の勾配は27度。土石流発生の目安を大幅に上回ります。先に見た梨子沢でいえば、A地点より上流の、土石流が発生する付近の勾配に相当します。
 
というわけで、扇沢源流に大量の残土を積み上げることは、土石流発生の要件である①流れ下る土石、②勾配、どちらも人為的にそろえることと同じ意味をもちます。

しかも大井川との合流点まで平坦地は全くなく、20度以上の勾配を保っているためため、もし残土が崩れたら大井川まで到達してしまいます。量にもよりますが、大量に崩れれば大井川本流をせき止めてしまうかもしれません。大量の残土が川をせき止めた場合、崩壊残土が水圧に耐えられなくなったり、侵食で崩れ始めた途端、一機に巨大土石流となって下流に押し寄せます。今度は大量の水があるため、河床勾配とあまり関係なく、高速ではるか下流側へ流れ下ることでしょう。人為的に大災害を起こす要因を作り上げるというわけです
 
 
おそらく現在、国土交通省内で環境影響評価書の審査が大詰めを迎えているところです。残土捨て場候補地については、鉄道関係の部署ではなく、砂防・河川・建設副産物リサイクル関係の部署が担当するものと思われます。「国民生活を災害から守る」ための国土交通省が、こんな「土石流の実験」のような話を認めるとは思いたくもありませんが…。
 


話が全く変わりますが、最近(というか前から?)どうも、リニア反対の声に疑問を抱きます。このことは、キチンとさせないといけないと思うのでで、批判にさらされるのを覚悟のうえで書きます。

『疑問》反対意見に筋が通っているのか? 筋が通っていなかったらそれはJR東海や国交省と同じ穴のムジナではないか?
どうも気になるのですが、ひたすら
「500キロ走行は危ないから」
「地下走行は危ないから」
「磁界がヤバいから」
「電気をいっぱい食うから」
「南アルプスに穴をあけるから」
「自宅の下を通るのが気に食わないから」
「原発再稼働を前提としているから」
「巨大土管が目障りだから」
「赤字になるのは目に見えてるから」
「政府とつながってるから」
ということを繰り返すのみで反対の根拠としているような人が多いように見受けられます。極端なところでは、「JR東海の会長が戦争をしたがってるからリニア反対」という意味不明なものも…。これはまあ、戯言の一種だとは思いますが、しかしそれぞれの主張について具体的な論拠をあげずに反対するだけでは、説得力もないし、ふつうの人々の関心を呼び起こせるとも思えません。単なるストレス発散に終始してしまいます。
 
例えば「危ない」というのは、誰だってなんとなくイメージできますが、具体的にどのように危ないと考えられるのか、どなたか検証されているのでしょうか?
・物理的にどういうことが言えるのか
・一口に危険性といっても、事故そのものの危険性、車両の構造上の危険性、地下からの脱出困難、南アルプス山中からの脱出困難などいろいろ
・地下走行の安全性について、事業者や所轄官庁はどのように考えてきたのか
・そもそも安全性の所轄はどこになるのか⇒国土交通省なのか、消防庁なのか、自治体なのか、警察なのか…?
・安全性については法律上、どのような縛りがあるのか
⇒ちょっと調べただけでも、
建築基準法、消防法、鉄道事業法、大深度地下の公共的使用に関する特別措置法、バリアフリー法、建築物における衛生的環境の確保に関する法律、その他まあ、いろいろあるわけで、これら法律に照らし合わせてどういう問題があると予見されるのか?
 
 
環境問題についても無数の切り口があるわけで、そこのところが整理できていないと、何が問題なのかもはっきりしないし、どうすればよいのかの道筋も立てられないんじゃないのかな?
◎問題発覚後でも対応可能な問題なのか?
◎問題発覚後では対応が不可能であり、事前に回避することが原則の問題なのか?
 
◎工事期間中の問題なのか?
◎永久に続く問題なのか?
 
◎局所的な問題か?
◎広範囲に及ぶものか?
 
◎類似事例があるのか?
◎未知の問題か?
 
◎環境影響評価書に示された環境保全措置で対応可能といえるのか?
 
◎生活環境破壊なのか?
◎自然破壊なのか?

◎生活環境・自然環境両方にまたがる問題なのか?
 
◎影響を受けるものは何か?
 
◎目に見える被害か、見えない被害か?
 
◎懸念される被害というものは、多くの人が実感・共感できるものなのか?
 
◎法律や制度では、どのように規制されているのか?
 
◎環境影響評価制度で取り扱える問題なのか?
 
◎その問題はどこの行政機関が対応するのか
※南アルプス標高2000m残土捨て場に着目すると
残土そのもの⇒国土交通省
残土ではなく汚泥⇒環境省
残土中の有害物質⇒環境省、厚生労働省
森林開発許可⇒静岡県と静岡市
河川汚濁⇒国土交通省
環境影響評価⇒環境省
環境影響評価の事後調査⇒静岡県
県条例で保全されている希少植物を損傷⇒静岡県
林道整備⇒静岡市
残土崩壊の危険性⇒どこ?
所轄行政機関はこんなふうに細分化されているらしく、国交省や環境省に文句をつけたってどうにもならないだろう。しかもここでいう「国土交通省」に、鉄道事業関係の部署は関係がないらしい。
 
◎被害を回避するためにはどのような対応策が考えられるのか?

◎その対応策は、現在の事業計画内でも十分にとれそうなものか?
 
こういうところを自問しつつ、問題点を整理することが必要なんじゃないのかな?
 

場合によってはJR東海のほうから「悪質なクレーマー」として逆に非難されてしまうかもしれません。都合のいい記事を書いてくれるライターを使って、反対派住民への非難をおこなうことなど朝飯前でしょう。それは極端だとしても、共感を得られにくい主張を繰り返すと、フツーの人から余計におかしな目で見られてしまうかもしれない。
 
 
 
下手をすると、リニア計画への批判が反対派封殺の手段になりかねないってことです。「みんなの夢を阻害するだけ」なんてレッテルを貼られたら最悪なのでは…?
 
そうならないようにするにはどうしたらよいのか、そこのところをよく考える必要があるんじゃないのかな?
 
 
何だかとりとめのない話になってしまいましたが、批判がありましたらどうぞコメント欄へ。

リニア反対派の声がおかしなことになりつつある懸念 (ご意見どうぞ)

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前回も書きましたが、最近、リニア反対派の人々の中でも、「声の大きな人々」について非常に憂慮しています。「お前も同じ穴のムジナだろ」というご指摘は承知のうえですので、ご批判がございましたら、どうぞよろしくお願いします。m(_ _)m
 
◇   ◇   ◇   ◇   ◇

リニア計画にまつわる問題には、主だったところで環境破壊、健康被害、財政的問題、地域の将来像、ライフスタイル、行政手続き等、非常に多岐にわたります。どこれもこれも、重要なテーマであり、そのことは百も承知です。
 
ところがこれらのうち、一般人が公式な手続きとして携われるのは、環境影響評価(アセス)手続きのある環境問題ぐらいなものです。これとて建前上になりがちですが、その他は一方通行的に行政が意見聴取するパブリックコメントが行われる程度にすぎません。
 
また、鉄道事業法、全国新幹線鉄道整備法、環境影響評価法に基づく事業認可に必要な数十種類の書類のうち、作成に一般人が関われ、事前に内容を閲覧可能となるのも環境影響評価書だけです。
 
万一裁判沙汰になったときに、一番の争点になるのもたぶん評価書とその作成過程です(具体例として新石垣空港、圏央道、小田急高架化、大阪地下鉄延伸工事など)。”民間事業”ですから、公金拠出差止とか、そういうことは言えませんし(環境問題がらみで、森林法、河川法上の問題は問えるかもしれませんが)。
 
あるいは環境問題が起こるか否か、起こっても対策可能かを考えるうえでも、評価書の精査は不可欠です。というか、住民サイドにとって、環境影響評価書が作成されることの意義はこのためでしょう。

環境問題とひとくちに言っても、
●事前予測が可能かどうか
●問題判明後でも対策可能か、あるいは問題判明後では対策が物理的に不可能ゆえ事前回避を原則とすべきか、
とで、とるべき対策=環境保全措置は大きく異なります。
 
それから対策が容易そうなものから並べるとこんな具合でしょうか?
①事業者の技術的努力でどうにかなりそう
②カネでどうにかなる
③一時的な我慢でどうにか勘弁してもらう
④工事期間中の長期にわたり我慢してもらう
⑤事業者が対策費をケチらなければどうになりそう
⑥事業予定地の変更が必要
⑦ルートの再検討が必要
⑧事業そのものの再検討が必要
 
起こりうる問題が、現在事業者が考えている事業計画および環境保全措置で回避または影響の最小限化が可能かどうか、環境影響評価書はそれを探るための唯一の手がかりといってよいでしょう。
 

というわけで、アセスの過程ならびに評価書が非常に重要なんです。
 
で、このリニア計画ですが、現段階で評価書については環境大臣が「おおいに懸念がある」と見解を公表したという、きわめて異例の状況です。
 
環境大臣意見で懸念を表明され、全く無修正で事業認可した事例など、1997年の環境影響評価法施行以降、おそらく皆無です。ヘタクソなバックパスをして、キーパーが空振りしたような状況です。
 
ところが…リニア批判をしている人たちが、このことを理解しているかどうかというと、甚だ疑わしいんじゃないかと最近強く感じるようになり、憂慮しているところです。
相手チームのヘタクソなバックパスがゴールに向かっているのを見て、守備陣がクリアしに行こうとしているのを、攻撃陣が指をくわえて眺めているような印象を受けます。
 
リニア反対派の人たちのfacebookグループを見てみても、アセスならびに評価書が議論の俎上にあがった形跡はありません。
 
「ムカつく」「経営者が気に食わない」「危ない」「原発反対」「政府の陰謀」とか、そういう何の意味もない中傷に終始していると言わざるを得ません。
 
私も何度か、準備書や評価書についてきちんと検証すべきと指摘したけれども、無視されるか、あるいは「ロクなことが書いてないから読む必要がない」と返されてしまい、閉口いたしました。「ロクなことが書いていない」こと自体が、行政手続き上の大きな問題点なんですけれども、どうも理解されていないような気がいたします。すなわち問題点を問題として認識していない…。
 
http://d.hatena.ne.jp/stoplinear/
こちらの反対派グループも、環境影響評価手続き上の問題点をきちんと検証しているかというと、よく分かりません。全然、更新されていないし…。
 
◇   ◇   ◇   ◇   ◇
 
「JR側、行政側が情報を出さない」という主張もよく聞きますが、では具体的にどういう情報が不足しているのか、そういうことは検証されているのでしょうか?
 
情報不足と言っても、「超電導リニア方式に由来しない心配事」については、類似事例を参考にすることによってある程度予想をつけて問題点を具体化することは可能だと思います。そういう検証作業をは行われているのでしょうか? 逆に、情報不足・説明不足な点をまとめれば、立派な批判につなげられないでしょうか?

「環境影響評価法なんぞ難しくて分からん」
「専門的知識がないとどーしようもない」
「何も言わないマスコミが悪い」

ということも事実でしょうが、それでも2011年5月の「建設指示」以来、3年の月日が経っています。いろいろなことを懸念してリニア反対を訴えながら、その間にそれらの問題についての知識を得ようとしないのはおかしな話です。確かに各種法律の条文、無数にある規制や基準、行政手続きの在り方、物理公式、生態系、水循環なんて一般人にとって意味不明に等しいものですが、一つのことでも1年間追及していれば、それなりに知識は身に付くと思うのですが…。

何が問題なのか分からないのに問題だらけとして反対・非難するのは、単なる悪質クレーマーになってしまいます。本人の意識とは関係なく、「リニア反対は悪質クレーマーだ」というレッテルを貼られてしまうかもしれません。そういう事態を回避し、何が問題でそれを解決するにはどうしたよいといえるのか、そこのところを冷徹に考える段階に来ていると思います。事業認可は数か月後に迫ってますので…。
 

批判・反論、いくらでもどうぞ。

評価書への国土交通大臣通知 リニア計画を批判するなら評価書を読んでくれ!!

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環境影響評価書に対する国土交通大臣意見がJR東海に通知されました。
手続き上、JR東海は国土交通大臣意見を勘案して評価書の内容を補正し、そこで、環境影響評価手続きが終了します。
 
その後、全国新幹線鉄道事業法や鉄道事業法の手続きに基づいて事業認可申請をおこなうこととなります。つまり全国新幹線鉄道事業法や鉄道事業法で必要とされた書類や図面を国土交通省に提出し、審査を受けます。
 
この際、環境影響評価法第33条の規定に基づき、JR東海の作成した補正版評価書が十分に環境に配慮しているかも審査されます。全国新幹線鉄道整備法には環境審査規定が存在しないため、評価書の審査でそれを代行するという意味あいです。このため第33条は「横断条項」とよばれます。
 
第三十三条  対象事業に係る免許等を行う者は、当該免許等の審査に際し、評価書の記載事項及び第二十四条の書面に基づいて、当該対象事業につき、環境の保全についての適正な配慮がなされるものであるかどうかを審査しなければならない。
 
第3項 当該免許等を行う者は、対象事業の実施による利益に関する審査と前項の規定による環境の保全に関する審査の結果を併せて判断するものとし、当該判断に基づき、当該免許等を拒否する処分を行い、又は当該免許等に必要な条件を付することができるものとする。
 
この33条は「総合的な判断」であり、その判断は事業による様々な効果(リニアの場合、事業者の主張する経済効果や二重系統化による災害時の代替路)と天秤にかけて行われるため、簡単に認可されるのでしょう。
 
すなわち、国土交通大臣が「十分に環境配慮をおこなっているとみられる」と判断すれば、環境面についての審査はクリアできることになります。補正版評価書がダメだとして認可の出なかった事業はほとんど存在しません(例外的に愛知万博)。
 
ところが、重大な環境への悪影響が予想されることが明らかな評価書に基づいて事業認可をしてしまうと、それは違法となる可能性があります。 
 
実際、裁判において、評価書の内容が不適当であり、そんな評価書で事業認可をした行政側の審議過程を重視し、事業認可を取り消された例がいくつかあります(圏央道あきる野IC建設問題等)。事業認可取り消しには至らなかったものの、やはり「問題のある評価書に基づいて事業認可を行うことは、行政権の濫用にあたる」という見解を示した例もあります(新石垣空港建設問題、小田急高架化事業問題)。
 
 
この国土交通大臣意見、前文に科学技術立国がどうたらこうたらとか、いろいろリニア計画を絶賛していますが、内容はほぼ全面的に先月出された環境大臣意見をそのまま用いており、最後に環境大臣意見の前文が載っています。
 
この環境大臣意見は、全面的に懸念を打ち出したきえわめて異例の内容であり、とてもじゃないけれどもこのままでは事業認可を出せないと書きました。
 


(6/6 環境大臣意見について書いた文章をそのまま再掲します。
中央新幹線建設事業に対する環境大臣意見が出されました。
ぱっとみたところは簡単に見え、新聞報道などではこれで大丈夫なのかと「?」マーク付きで報じられていますが、実は異例の内容です。
 
まず、全体で12ページあります。これ自体が異例のことなんです。
 
例えば、リニアに相当する規模の事業の環境影響評価で出された環境大臣意見は、平成13年の北海道新幹線(250.7㎞)に対するものが最後です。工事の規模自体はリニア(新設約244㎞)とほぼ同じですが、同時に行われた北陸新幹線・九州新幹線への意見と合わせ、たった1~2ページ程度しかありません。
 
あるいは最近(今年5/1)評価書の出された道路建設事業『都市計画道路阿久根薩摩川内線(18㎞)』への大臣意見も、たったの1ページ半。
 
それから火力発電所建設の場合はこんな具合。
http://www.env.go.jp/press/press.php?serial=18109
(今年2/21 石狩湾新港発電所建設計画)
 
成田新高速鉄道建設事業の場合も、やはり1~2ページ程度。
http://www.env.go.jp/press/press.php?serial=6395
(平成17年9/28)
これらに比べると、12ページというのは異例の分量だと言えます。

ここから先は、リニアへの意見と合わせ、上のリンク先にある過去の意見例をご覧になってからお読みください。
 
さて、リニア評価書への環境大臣意見に移ります。
 
まず、冒頭1ページにわたり、前文が設けられ、そこで
ほとんどの区間はトンネルで通過することとなっているが、多くの水系を横切ることとなることから、地下水がトンネル湧水を発生し、地下水位の低下、河川流量の減少及び枯渇を招き、ひいては河川の生態系に不可逆的な影響を与える可能性が高い
 
本事業の実施に伴う環境影響は枚挙に遑(いとま)がない
 
これほどのエネルギー需要が増加することは看過できない
 
環境の保全を内部化しない技術に未来はない
 
 
等と、懸念が書き並べられています。
 
普通、このように懸念を書き並べた前文が環境大臣意見に添えられることはありません。
 
私、リニアのことを調べるために、過去の大臣意見例50~60件程度に目を通しましたが、本件のように冒頭で懸念を長々と表明したものには出くわしませんでした。
 
というのも、常識的には準備書への対応により、評価書が作成された段階では、懸念事項は基本的に対応されているとみなされるからなんですね、
 
それなのにあえて前文を書き加えて、そこで計画全般への懸念を表明したのです。
 
これはつまり、この事業(=リニア建設)を、この評価書のまま始めた場合、環境への非常に大きな悪影響を与えることが確実視された。よって、このまま着工させてはならないと、環境省が国土交通省に正式に通達したという意味です。同時に、これが政府の公式見解です。
 
本当に異例のことで、評価書としては失格の烙印を押されたに等しい内容なんです。
 
大臣意見は、具体的な指摘事項に乏しいように見えますが、評価書は法律上、知事意見つまり地域ごとの具体的な指摘事項を勘案して作成されたものという扱いであり、それに対する大臣意見では、知事意見と重複する内容は基本的に省かれるためです。
 
しかしJR東海は知事意見を無視しているんですね、この点については、前文および末尾にある「関係する地元自治体の意見を十分勘案することが必要」という部分で、「知事意見に大してはマトモに答えさせなければならない」ということを、国交省に対して求めています。国交省は、これを反故にすることはできません。っていうか、おそらくは環境省内において、打ち合わせ済みなのでしょう。
 
上に掲げたそのほかの大臣意見例では、こんな当然のことは求めておらず、わざわざ書かれることも異例なんです。
 
 
とにかく異例づくめなんです。
 
ところで、ネットで新聞報道を見渡してみると、リニア計画に反対している人々からは一斉に「落胆の声があがった」かのように書かれています。実効性がないとする論評も見受けられます。
 
でも環境影響評価制度の仕組みに照らし合わせてみると、これは最大限の見直し要求なんです。
 
 
 
重要なポイントはいろいろありますが、南アルプスの場合、水環境の部分が特に重要になります。
 
(4ページより)
地下水位の低下並びに河川流量の減少及びこれに伴い生ずる河川の生態系や水生生物への影響は、重大なものとなるおそれがあり、また、事後的な対応措置は困難である。
 
山岳トンネル部の湧水対策は、(略)特に巨摩山地から伊那山地までの区間においては、本線及び非常口のトンネル工事実施前に、三次元水収支解析を用いてより精度の高い予測を行い、その結果に基づき、地下水位及び河川流量への影響を最小化できるよう水系を回避又は適切な工法及び環境保全措置を講じること。
 
この部分、非常に重要です。
 
平地の工事の場合、あらかじめつくっておいた壁をはり付けながら掘り進めるシールド工法が用いられるため、川底でも問題なくトンネルを掘ることができます。
 
ところが南アルプス等の山地の場合、 山岳工法(NATM工法)がという工法で工事が進められます。その場合、先に小断面のトンネル(先進坑:とはいっても2車線道路並み)を掘ってあらかじめ周囲の地下水を抜いておき、水が減ったところで薬液を注入して岩盤中の隙間を埋め、本坑を掘るという手順をとります。それからコンクリートを塗り固め、防水シートを張り、また塗り固めて内壁を構築する。要するに、地下水を流れ出るだけ流れさせて、止まったところで本坑の掘削を進め、これを繰り返すわけです。こんな工法ですから、川の水が減ることは不可避というよりも、減らすことが前提になっているようなものです。
 
このNATM工法を採用する以上、おそらく川の水を減らすことは避けられません。これは「適切な工法」とはいえません。そして、すでに南アルプスを流れる大井川水系では大幅に流量が減少するという予測が出ています(前回のブログ記事参照)。長野側の小河内沢でも同様です(それどころか山梨県富士川町の大柳川や長野県豊丘村の虻川については、予測自体をしていない)。水枯れ対策に有効な工法はありません。川の水が減った場合、環境を元に戻すことも不可能です(事後的な対応措置は困難という記述に注意)。
 
すると、大臣意見の通り「水系を回避」すなわちルートを変えるしか残された道はありません。
 
ここでトンネルの位置を300m以上ずらすと、環境影響評価をやり直さねばならなくなります。
 
つまりこの大臣意見は、暗にアセスやり直しを求めているとも解釈できるのです。
 
それから水絡みで8~9ページ。
水系ごとに、流量の少ない源流部や支流部も含めて複数の調査地点を設定し、工事の実施前から水生生物の生息状況、河川の流量及び水質について調査を行い、その結果に基づき予測、評価を実施し、適切な環境保全措置を講じること」とあります。
 
「工事の実施前」「予測、評価」という言葉があるように、事後調査ではなく事前に調査・予測・評価をおこなえということです。今からこれを行うためには1年以上かかります。したがって、JR東海が誠実に対応した場合、今から1年半は事業申請を出せません。かといってやらずに事業申請を出したら、環境大臣意見さえ無視したということで、国交省としても事業認可は与えられません。
 
こんなのが大臣意見で出されることはまずありません。

こうやって深読みしていくと、なかなか厳しい意見であると思われませんか?
 
 
「問題のある評価書」のままで事業を認められるのでしょうか?
 
答えはたぶんノーです。
 
問題のある「補正後の評価書」で所轄官庁が事業認可をした場合、それは行政権の裁量を逸脱しているとして違法性があるとのこと。
 
かつて、東京地方裁判所が、この「裁量権の逸脱又は濫用」と認められるケースを示しています。(平成23年6月9日 新石垣空港設置許可取り消しを求める裁判の判決文の要旨)
 
それによりますと、その判断が事実の基礎を欠き又は社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかであるなど、免許等を行う者に付与された裁量権の範囲を逸脱し又はこれを乱用したものであることが明らかである場合、違法となりうるのだそうです。そして事実の基礎を欠く場合として、手続き上の瑕疵(かし)のために重要な環境情報が収集されないまま評価書が確定するようなケースが考えられるとのこと。
 
これをリニア計画に置き換え、評価書と、それへの環境大臣意見について考えてみましょう。
 
3月末に、準備書に対して出された知事意見には、調査が不足しているとして改めて追加調査を求める声が多数ありました。その中には、河川流量や動植物の分布状況など、1年以上かけて調査しなければならないような、重要な項目も含まれていました。南アルプスにおける河川流量なんて全く現地調査をしていなかった(公表できなかった?)のだから仕方がない
 
 
それにもかかわらず、JR東海はこれら知事意見をほとんど無視して評価書を作成したため、改めて環境大臣から再検討を求められたところです。
 
しかも再検討を求められただけでなく、冒頭から「河川の生態系に不可逆的な影響を与える可能瀬が高い」「本事業の実施に伴う環境影響は枚挙に遑(いとま)がない」「これほどのエネルギー需要が増加することは看過できない」「環境の保全を内部化しない技術に未来はない」と、懸念が次々と書き並べられた、異例の意見でした。
 
現在のところは、明らかに「手続き上の瑕疵(かし)のために重要な環境情報が収集されていない」状況にあります。
 
もしJR東海が今年秋の着工にこだわっているのなら、1年以上かかる再調査なと行うはずがなく、内容をほとんど補正しないまま評価書が確定することになります。
 
補正しないということは、
国土交通大臣意見≒環境大臣意見
および環境大臣意見で再検討を要求された沿線都県知事意見
ならびに公衆等(住民など)からの意見
これらをことごとく無視するということになります。
 
 
つまり、まさに「手続き上の瑕疵(かし)のために重要な環境情報が収集されないまま評価書が確定するケース」になってしまいます。そしてそれを国土交通省に再提出して事業認可を申請する…。
 
こんなのを国土交通省が事業認可したら、それこそ「その判断が事実の基礎を欠き又は社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかであり、免許等を行う者に付与された裁量権の範囲を逸脱し又はこれを乱用したものである」として、違法になってしまうのではないでしょうか?
 
 

ちょっと重要な補足説明
 
環境影響評価制度を知るうえで、これは是非知っておいていただきたいのですが、
①環境省が事業中止や大幅変更を求めることは法律上できない。
②環境影響評価法の枠内で取り扱われる項目には限界がある。
ということです。この2点ははっきりさせておかねばならないんですが、新聞記事を見ると、新聞記者から反対派の方まで、謝って認識されているようです。
 
①について
環境影響評価法第1条に、「この法律は、土地の形状の変更、工作物の新設等の事業を行う事業者がその事業の実施に当たりあらかじめ環境影響評価を行うことが環境の保全上極めて重要である…」という表現があります。すなわち、環境影響評価は、あくまで事業を実施することが前提であり、そのうえで事業者の自主的な配慮を促すための制度であるため、中止を求めることはできません。
 
②について
環境影響評価の進め方や評価項目は主務省令というもので定められており、ここから外れた要求を環境大臣が行うことは、環境影響評価法に抵触してしまうのです
 
例えば静岡の場合、標高2000m地点に発生土置き場を計画しており、これによる自然破壊ばかりか災害誘発の危険性も懸念され、県知事意見で回避を求められています。このブログで何十回も繰り返してきたことです。また、長野県側では地すべり密集地帯での工事が計画されており、やはり県知事意見で再考を求められています。
 
ところが、主務省令には、「地形・地質に起因する安全性の問題」を取扱う規定はありません。したがってもし仮に環境大臣意見でこれらの計画に対し、「地形条件が危険だから回避すること」としたら、法律から外れた意見になってしまう可能性があります。それゆえ、環境省からこれらについて回避を要求することは困難だと思われます。ただし前述のとおり、関係する地元自治体の意見を十分勘案することという一文がありますので、これに基づき、知事意見を再考せよと命じていることになっているといえます。
 
なお主務省令では「地質・地形について予測評価の対象とすること」とありますが、これは天然記念物や景勝地のように珍しい地形を保全することが目的であり、地形災害を対象にしたものではありません。それからリニアにおいては「磁界」が調査項目となっていますが、これは主務省令に含まれていません。JR東海が自主的に選定したものです。
 
以上 再掲 終わり


 
以上のように、かなり厳しい内容なのです。新聞やテレビでは「具体的な変更は要求していない」「このまま事業認可の見通し」という書き方をしていますが、これはいわゆるミス・リードというものでしょう。すなわち事業認可は確定的だという世論に誘導しかねないということです。
 

とはいえ、こののち、JR東海が補正版評価書を作成したら、そこで環境影響評価手続きは終了です。いままでのパターンからして、ひと月もしないうちに出してくるのでしょう。当然、知事意見はもとより国土交通大臣意見にもまともに答えないに違いありません。そしてそんな補正版評価書でも、国土交通省は「事業者の実行可能な範囲での環境保全措置はとられている」として事業認可する可能性は高いでしょう。
 
放っておけば、自然な流れとしてこうなります。そしてテレビや新聞報道の通り、秋に着工することになります。
 
この流れを変えるためには、何らかの手段をもって行政の行動に待ったをかけねばなりません。地道に訴える、裁判、公害等調整委員会…
 
いずれにせよ、公共事業ではなく民間事業である以上、この手の紛争で俎上に上がりがちな費用対効果や建設費のことは基本的に問えないと思われます。環境問題が争点になることでしょう。そして「現段階の評価書はあからさまにダメ」というレッテルを国土交通省が貼りました。
 
次に出される補正版評価書が、「現段階の評価書はあからさまにダメ」からどれだけ進歩しているかが、この先の重要なポイントとなります。もしリニア計画の流れを変えたいのであれば、この点を見逃してはいけません。最大の争点です。よって、それを見定めるために現段階の評価書と知事意見・国土交通大臣意見とを十二分に検証しておく必要があると考えます。
 

南アルプス標高2000m残土捨て場ってこんなイメージかな?

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最近、やたらと忙しくて久しぶりの更新です。
 
イメージ 1
 
とーとつですが、手前の河原から、矢印の先にある稜線まで大量の土砂を運び上げるという話を聞いたらどう思われますか?

普通の感覚なら、耳を疑うと思います。何考えているんだ?と、疑問に思うに違いありません。
 
こんなことを「日本を代表する技術者達が考えている」と聞いたらどう思われますでしょうか?
 
 
◇   ◇   ◇   ◇   ◇
 

静岡県北部の南アルプス山中では、こんなことをJR東海という一流企業が「国家的プロジェクト」と称して実行しようとしています。
 
最初にお断りしておきますが、この写真、南アルプスではありません。静岡市街地郊外の安倍川河川敷から、東側の山並みを撮影したものです。
 
JR東海が南アルプスを横断するリニアの長大トンネルを建設するに当たり、南アルプス山中の扇沢という、大井川の谷底から400~500mも高い、急峻な谷側の源流(標高約2000m地点)に、大量の建設残土を積み上げようという計画を立てています。正確な量は不明ですが、おそらく東京ドーム2杯程度にななるかと思います。
イメージ 2
 
 
言葉や地図でムチャクチャさを何度も繰り返し指摘しましたが、どうも実感としては伝わりにくいと思い、何とか分かりやすく伝える方法はないものかと逡巡しておりました。できれば現地の写真があればいいのですが、かといって現地にまで様子を見に行くには、最低でも二泊三日程度は必要なので、簡単に行くこともできません。
 
というわけで、市街地から近いところに似たような地形-比高400~500m程度の急な谷川の上側に平坦地がある-はないものかと地形図とにらめっこし、「なんとなく似ているな」と思ったのが冒頭の写真の場所です。静岡市民以外の方々には地理的概念が把握しづらいと思いますが、なにとぞご容赦ください。JR東海のムボウさを感じ取っていただければ、それで十分であります。
 
こちらが地形図。静岡市街地から北へ約10㎞、静岡市民ならおなじみの竜爪山から安倍川に至る一帯です。写真で右下に写っている大きな橋は安倍川にかかる竜西橋といいます。
イメージ 3
国土地理院地形図閲覧サービス「うぉっちず」より複製・加筆
 
地図中、「しゃくし沢」と記したのが検証対象の沢です。写真左下の建物そばに「しゃくし沢橋」という橋がかかっていたので名称は「しゃくし沢」だと思うのですが、地元のロッククライマーの間では「沢口沢」とよばれているようです。どっちなんだろう?
 
この「しゃくし沢」、安倍川との合流点付近の標高は120m程度で、下流部は緩やかな勾配ですが、合流点より水平距離にして800mほどさかのぼった標高200m付近から急に勾配を増し(このあたりにワサビ田がある)、標高450m付近より上は平均勾配60度以上の急勾配となり、標高610m付近より上流側は再び緩やかとなっています。
 
地形図にある急勾配の部分は、実際には岩の露出した崖となっており、ロッククライミングが行われているそうです。写真中で矢印の下に写りこんでいる灰褐色のものが、その岩肌でしょう(何度か様子を見に行ってみましたが、ワサビ田=私有地なのでそこで引き返し、結局、詳細は不明)
 
えー、本題に戻りますと、この沢の標高200m付近から610m付近まで、水平距離は約750mですので、勾配は28度程度となります。
 
改めて写真をご覧ください。写真中に記入した矢印の先が「平均勾配28度、比高410mの谷川の上」にあたるわけです。
 
 

この勾配、南アルプスで発生土置場候補地にあげられている扇沢とほぼ同じです。
扇沢の場合、水平距離850mで標高差は400mですので、平均勾配は25~26度と試算されます。
イメージ 5
国土地理院地形図閲覧サービス「うぉっちず」より複製・加筆
 
2枚の地形図は、右下の拡大ボタンを押すと同じ縮尺で示されます。見比べてみてください。
 
 
あらためて写真を見直します。前述の通り、撮影した安倍川河原は標高120m。写真中の矢印で記した白っぽいのは、くだんの崖です。なのでこの部分は標高550~600m付近。その上の稜線が標高610mほどになります。
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ですから、扇沢の上に発生土を運び上げるっていうのは、この写真で置き換えると、手前の河原から稜線上まで東京ドーム2杯分の土砂を運び上げるようなものといえるのではないのでしょうか?
 
理論的にどうこう言う以前に、発想としておかしくありません? 崩れるんじゃないのか?って考えるのが常識だと思うのですが。
 
こちら、右下の白い建物の裏手100mほどのところで撮影した沢の内部。直径1~2mの石がゴロゴロしていて、上流の急勾配部分から土石流として流れ下ってきたのに違いありません。つまり源流部で崩壊が起きた場合、30度近い勾配があれば、2㎞くらいの距離なら簡単に届くわけです。
 
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南アルプス扇沢の場合、発生土置場から大井川本流までは1㎞もありません。この「しゃくし沢」よりもっと短いので、発生土が崩れた場合は簡単に大井川を閉塞してしまうでしょう。そうしたらもっと巨大な土石流を引き起こすおそれがあります。
 
 
 

この時期、涼を求めて安倍奥・玉川・井川方面へ川遊びや渓流釣りに出かける方も多いかと思います。その際、安倍川沿いの県道から竜爪山を見上げて、「南アルプスでは、JR東海が河原からあの稜線上に残土を運ぶようなことをするつもりなんだ」って連想していただければ幸いです。

リニア中央新幹線環境影響評価書 南アルプス静岡県側での疑問点 一覧図

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おとといと昨日、静岡県が設けた中央新幹線環境保全会議のメンバーが、JR東海の担当者を交えて、大井川源流部の工事予定地を視察して回ったそうです。
静岡新聞の記事へリンク 
 
リニア計画の環境影響評価書は、はっきりいってどうしようもないシロモノだということをさんざん指摘してきました。そんなわけで、もしも自分も一緒に視察に訪れることができたならぜひJR東海担当者に実物を指し示して聞いてみたい!ということをまとめてみたらこんな感じになりました。
 
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容量が2.5メガバイトほどあって巨大ですので、どうぞご了承ください。
 

「勘案」という言葉

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「国土交通大臣意見は抜本的な計画見直しを求めておらず、事業者であるJR東海は、この秋にも事業に着工するとみられる」
 
先月18日、国土交通大臣意見がJR東海に通知された際、マスコミ各社からはこんなニュアンスの記事が一斉に流されました。
 
私は、これはあからさまなミス・リード、つまり世論を着工ありきの方向へ誘導させるものだと考えております。というのも、国土交通大臣意見はそんなに軽々しい内容ではなかったからです。
 
国土交通大臣意見は、水環境、発生土、生態系、温室効果ガス等に触れたあと、末尾はこう締めくくられています。
 
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「事業実施に当たっては、地元自治体の意見を十分勘案、環境影響評価において重要である住民への説明や意見の聴取等の関与の機会の確保についても十全を期すこと。」
 
ここにある「地元自治体の意見を十分勘案し」という表現がミソです。単に「配慮しなければならない」というわけではありません。
 
言葉遊びのようですが、環境影響評価における法律用語上、「勘案」という言葉は特別な意味を持っているようです。
 
【環境庁環境影響評価研究会(1999)『逐条解説 環境影響評価法』ぎょうせい】という、当時の環境庁が作成したマニュアル本によれば、次のように説明されているとのこと。
 
「勘案」は行政主体からの意見に対する受け手の姿勢を、「配意」は国民一般からの意見に対する受け手の姿勢を表したものである。行政主体は、それぞれの行政分野において責任ある立場から意見を述べるから、受け手はそれを十分慎重に受け止めて事業計画に反映することを検討する必要がある。一方、国民からの意見は多様であるから、そのなかの有用な環境情報を事業計画に反映させればよい。
この部分、【北村喜宣(2013)『環境法』弘文堂】より引用。
 
 
 
国土交通大臣意見では、今後の評価書補正作業において、関係する自治体からの意見を十分慎重に受け止めて事業計画に反映することを求めているのです。大臣意見は行政指導という扱いであり、法的な拘束力はないとされていますが、自ら述べた意見ですから、簡単に反故にしてもらっては困ります。

関係自治体からの意見

どのようなものがあったのでしょうか?
 
準備書の出来がきわめて悪かったために、全都県で合わせて731項目もあったとのこと(日本自然保護協会しらべ)。その中にはデータの供出、再評価、追加調査、立地場所の再検討など様々なものがあり、なかには、
河川流量を調査して評価書に記載せよ
動植物の調査をやりなおせ
といったものもありました。これらについて真剣に検討するなら再調査が不可欠であり、調査期間後のデータ処理期間を考えると、評価書の補正が終了するまで1年半は必要となります。
 
また、
斜坑(非常口)の数を再検討(長野県・静岡県)
発生土置場の回避要請(静岡県)
というのもありました。これらについて真剣に受け止めるなら、環境影響評価を一からやり直すことが必要となります。
 
 
この国土交通大臣意見の文脈は、準備書から評価書を作成するときに定められた手続きにそっくりです。つまり、環境影響評価法第21条で定められた、準備書から評価書を作成するときと同様の手続きを再び求めていると言えます
 
環境影響評価法第21条要旨(筆者作成)】
事業者は、関係都道府県知事から準備書について環境の保全の見地からの意見が述べられたときは、これを勘案するとともに、準備書について環境の保全の見地からの意見を有する者からの意見に配意し、準備書の記載事項について検討を加え、環境影響評価書を作成しなければならない。
 
ほらね、そっくりでしょ。
 
意見書は、一見すればマスコミ各社のように「たいしたことは述べていない」ともとれますが、言葉を一字一句検証してゆくと、「準備書から評価書を作成するときと同様に、評価書を作り直すことを求めている」とも解釈することが可能なのです。
 
これは環境影響評価での意見としては異例の内容です。今後、なんらかの事態で事業者の環境保全措置や許認可手続きが俎上に上がった際、補正評価書が大臣意見を十分反映しているかどうかが争点になりますが、この「勘案」という言葉に従い、都県知事意見を反映しているかどうかということまで訴求できるかもしれません。
 



こっから先は単なる妄想の世界。
 
おそらく国交省や環境省の担当者は、JR東海の作成したリニアの評価書があまりにもずさん・手抜きであることに当惑し、このまま事業認可してしまえば大きな混乱を引き起こして泥沼化することを見抜いたのでしょう。だから本来ならば「全面的にやり直せ」とでも言いたかったに違いありません。行政とJR東海とが癒着できるレベルを超えていますので。大げさではなく、このまま着工させれば訴訟のネタが生じるんじゃないかと。水利権侵害、日照権侵害、評価書審査に必要な環境情報の不足、許認可権の濫用…
 
しかし一方、厳しい意見を述べていた沿線知事自ら、手続きの迅速化と早期着工を声高に訴え(特に神奈川・山梨・愛知)、関西からは同時開業を望む声が高まり、国会のセンセイ方からは「アベノミクスの一環」に位置付けるなんて話も出てくる。要するに「アセスなんぞ骨抜きにせよ」って要望も強まる一方。
 
「どうすんべ~!」ってことで、どちらにもとれる意見書を、苦心の作として作り出したのではないでしょうか
 
この意見書をどう解釈するかということが、国民にも求められていると思います。マスコミ各社は事業を進めるのに都合のよい解釈をなさりましたが、そうでない真逆の解釈だって十二分に可能です。

部分的な環境アセスメント逃れ? 山梨県のリニア関連道路工事

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山梨県側の残土運搬用トンネル(?)について気になりました。
 
山梨県では建設発生土が676万㎥発生するそうです。東京ドーム5杯半に相当します。
 
なお「建設発生土が発生」と書くと、言葉が重複してしまいますが、お役所(国交省)が「工事で発生した土は残土ではない!有効な資源だ!」と主張するために、こういう妙な言葉を生み出したようです。
 
面倒なので、この先は残土で通します。
 
このうち240万㎥については、富士川町高下地区で計画している変電所の造成工事に回す計画なのだそうです。それから4.1万㎥については、早川町内の発生土置場に積み上げるのだそうです。
 
残り426万㎥の行き先は未定でしたが、このうち早川町内へ出される約300万㎥のうち約半分について、「早川・芦安連絡道路」の整備に使うという話が急浮上してきました。具体的な量は明記されていないものの、山梨県版の評価書にも、活用先の具体例としてその名があがっています。

「早川・芦安連絡道路の整備計画」というのは、早川町奈良田温泉から北に向かう林道を拡幅し、夜叉神峠付近に、既存の夜叉神峠トンネルとは別にもう1本、4㎞弱の長大トンネルを掘り、奈良田温泉と芦安温泉との間に一般車両の通年通行が可能な道路を造ろうというものです。既存の林道は狭いうえ冬季は閉鎖されるため、奈良田温泉は孤立することが多々ありましたが、これが完成するとそのおそれが緩和されるとのことで、前々から早川町が早期実現を要請していたそうです。
 
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「リニア建設は渡りに船」ってことで山梨県の事業として行われ、全事業費は70~80億円で、そのうち30億円をJR東海が供出することになりそうだということ。それから今年度末の着工を目指すとか。
http://www.sannichi.co.jp/linear/news/2014/02/27/15.html
(山梨日日新聞の記事)
 
また、早川・芦安連絡トンネルを掘り終えた後は、リニアのトンネルから生じた残土を新設トンネルを使って運搬し、芦倉温泉付近の谷を埋め立て、大きな駐車場を建設するという計画もあるようです。芦倉温泉は、南アルプス北部の登山拠点となっており、シーズン中は登山客のマイカーで大混乱するため、その対策という目的なのだそうです。
(これも山梨日日新聞2/16)
 
というわけで、この二つの工事で300万立方メートルの残土を使い切るのだそうです。
 
これって、なんだか妙な話じゃないでしょうか?
 
 
私が指摘したいのは、この道路整備&駐車場建設計画に反対するとか、そういうことではありません。そもそも静岡の人間ですから、そんなことに首を突っ込むつもりは毛頭ございません。
 
今年度末をめどに着工するってことは、事前のアセスはやらないってことです。

結構、大規模な工事なんですが、一切、事前のアセスが行われないので、それは手続きとしておかしくないか?
 
4月に公表された評価書では、この早川・芦安連絡道路整備予定地については、対象事業実施区域に含まれておらず、なんらアセスは行われていません。
 
道路整備&駐車場建設計画については、一応、山梨県が事業主体となっています。
 
山梨県の単独事業としてみた場合、事業規模は山梨県条例でアセスが必要となる基準(林道の拡幅の場合は延長8㎞以上)以下であり、アセスは不要な事業という見方ができます。
 
ですが、事業費の約4割をJR東海が出し、しかもリニア中央新幹線建設事業から生じた残土を大量に処分・運搬するために造られるという性格も持ち合わせています。ですので見方によっては、リニアの建設工事の一環ともとれます。しかも、これを造らなければ残土を物理的に処分することができず、本体工事を進められません。リニア建設に不可欠な事業の一部に対し、山梨県が40~50億円を払うという見方もできます
 
既存の林道を拡幅するためにリニアのトンネルから出た残土を使い、また、新夜叉神トンネルを掘り終えた後は、残土を新設トンネルを使って運搬するわけですから、リニアの本体工区から、残土を満載した大型ダンプカーが大挙、奈良田温泉を通ってその北へ向かうこととなります。当然、現状よりは車両の通行台数が増えます。
 
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工事用車両の通行に伴う騒音や振動は、環境影響評価の主要な評価項目です。たとえば評価書でも、この早川町内のトンネル坑口から同町内大原野地区(地図下端)に計画されている発生土置場までの間の道路において、現状の騒音状況を調べ、車両の通行台数と工事期間中の騒音値を予測しています。その結果、1日465台の車両が通行するものの、規制値と同じ70㏈になるから問題ないと結論付けています(規制値と同じなら問題大有りですが)。
 
ところが「早川・芦安連絡道路の整備計画」に関係する場所での騒音は一切予測がなされていません。大原野地区では4.2万立米の残土処分と、そのほか本体工事のための車両が1日465台通行する予測になっていました。しかし奈良田温泉方面には、その80倍の残土が運ばれる計画です。どれだけの車両が通行するというのでしょう?
 
同量の残土を運搬するために、長野県大鹿村では1日1700台以上の車両が通行するという予測になっていましたが…。

また、道路を拡幅すれば、その周辺に分布している動植物は直接的な影響を受けます。林道沿いとはいえ、車両の通行は制限され、また山深い場所ですから、もしかするとレッドリストに掲載されているような希少種が分布しているかもしれません。猛禽類が近傍に営巣していたら、後々えらいことになります。ところが、動植物についても何も調査していません。ですので、何が分布しているのかも分からないまま、着工してしまいます。
 
それから早川の渓谷沿いで、残土を用いて道路拡幅を行います。ですので、川に濁りが生じたり汚水が流されるかもしれません。ですので影響を予測して環境保全措置を講ずる必要もあるでしょう。
 
静岡県の場合、道路拡幅までは行わないものの、大量の大型車両の通行する計画の大井川沿いの林道で、一応は動植物の調査を行っているので、環境への影響を考慮するのであれば、同様の手続きを踏むべきでしょう。
 
 

繰り返しますが、これがJR東海の事業なら、様々な項目について調査・予測・評価が必要となります。ところが建設費の出所が変わったがために、アセスは不要となっています。
 
なんだか妙じゃありませんか?
 
 
同じリニアのトンネル坑口から出た残土を積んで…、
JR東海の計画した発生土置場へ向かうダンプカー通行はアセスの対象。
山梨県が計画した道路拡幅現場へ向かう、数十倍のダンプカー通行はアセス対象
 
同じリニアのトンネルから掘り出した残土を運搬するダンプカーでも、行き先が異なるだけで扱いがこんなに異なるのです。
 
環境影響評価は環境への影響を予測・評価して環境保全策を考案するために行われるものですが、今回指摘した場所については、それを行う/行わないという判断は、環境への影響の大小ではなく、建設費の出所によって決まったわけです。
 
意地の悪い見方をすると、本来ならリニア建設工事の一環としてアセスを行うべきものを、分割して山梨県による事業に位置付け、アセスを不要としたのかもしれません。

 
工事の計画されている一体は、いちおうはユネスコ・エコパークに登録されている場所であり、駐車場建設もその利活用に関連しているのですが、このような進め方は、エコパークの概念とは相いれないように思われます。
 

 
静岡県(南アルプス南部・大井川源流部)における評価書の疑問点
さらに追加中
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南アルプス「非常口」は土石流が駆け抜けた非常識な場所? 空中写真から考える

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とにかくまあ、調べれば調べるほど、疑問点が出てくるリニア計画。
 
今回は「非常口」の妥当性についての疑問。
 
非常口にとカッコを付けたのには理由があります。
 
南アルプス本体を横断する25㎞のトンネルを掘る際に、工期を短縮するために、本体トンネル途中の地上から作業用トンネルを掘ります。この作業用トンネルを斜坑と言います。JR東海も環境影響評価の始まった当初(方法書段階まで)は斜坑と呼んでいましたが、「非常時に脱出するために必要なもの」として、どういうわけか環境影響評価準備書以降は、「非常口」と称しています。
 
斜坑については、前々から必要最小限にしてくれという要望が出ています。当然のことで、これを掘るだけで残土が大幅に増し(静岡県内への残土発生源の2割は斜坑)、工事用道路を造ったり川の流量への影響が出たりして、本体工事以上に環境への影響が大きくなってしまうからです。しかも目的は工期短縮のためで、環境および地域への配慮という意味合いはありません。そういう事業者本位で設けられる斜坑というものに対し、「これはお客様の安全性のためにも必要なものなんですよ」という意味合いをつけて、いかにも必要不可欠なものというイメージを持たせるために、呼び方を改めたのでしょう。
 
なるほど、非常口なんですか。
 
それなら非常時にも絶対に安全でなければなりませんね。
 
非常時…列車(リニア)が25㎞のトンネルど真ん中付近に停まってしまった際を想定しているのでしょう。そして列車が長時間停止し、なおかつ横坑(平行して掘られる先進坑)や本坑の出入口より斜坑を優先して非常口に使うような「非常事態」を考えると、大地震のときしか思い当りません。

 
南アルプス本体を横断する25㎞のトンネルには、非常口=斜坑が7本掘られ、そのうち静岡県には西俣(長さ3500m)と二軒小屋南側(長さ3100m)とに2本設けられる計画となっています。
 
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環境影響評価書より転載・加筆
 
 
そのうち、二軒小屋南側に計画されている斜坑は、非常時にも安全かどうかというと、かなり怪しいと思われます。
 
今回は、この二軒小屋南側の斜坑について、立地条件を検討してみたいと思います。
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これは航空機から撮影した写真で、地理学や測量の分野では空中写真とよびます。終戦後の昭和27年8月11日に、二軒小屋上空から地上を撮影した写真です(ちなみに、当時日本を占領していたアメリカ軍が日本全国をくまなく撮影したものの一部)。土地条件や変遷を知るためには欠かせない重要な資料で、国土地理院のホームページから閲覧できます。http://mapps.gsi.go.jp/maplibSearch.do
 
さて、やや不鮮明ですが、ちょっと詳細に見てみましょう。
 
夏場に撮影された写真なので、一帯の山肌は黒々としており、木々が葉を生い茂らせていることがうかがえます。逆に白っぽいところは木の生えていない場所で、右上から左下に伸びている線が大井川、上から大井川に交わっているのが上千枚沢となります。画像中の「川」の字の左手には、2か所、羽毛のような形状に白い部分が広がっていますが、これは大きな崩壊地です。なお、JR東海が計画している発生土置場(残土捨て場)は、この崩壊地直下となります。
 
画像右上の、大井川の左岸(画像中では右手)で灰色に映っている部分に、非常口を設けるとしています。灰色というのは植生がまばらというわけです。夏場なのに木の葉が茂っていないということは、木が生えていないことを意味しています。伐採されたのか、何らかの原因で森林が消滅したのか、この写真だけでは判断できません。
 
もう少し解像度のいい空中写真を見てみましょう。
 
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こちらは2年後の昭和29年3月1日に、同じくアメリカ軍が撮影した空中写真です。
この付近は谷底での標高は1300~1500m、稜線では2000m以上もありますから、3月はまだまだ冬です。木々が葉を落としており、なおかつ太平洋側ですから積雪は少なく、地表の様子が分かりやすくなっています。
 
詳しく見ると、木の生えているところは斑点模様に写って、ガサガサした色合いに見えます。葉を落とした落葉樹(ミズナラやカエデなど)の幹や、冬でも葉を落とさぬ針葉樹(ウラジロモミやツガなど)とが入り混じっているのでしょう。
 
夏場の写真で灰色に見えた(=木々のまばらだった)場所は、全体としてのっぺりとした灰色に写っています。ということは、やはり大きな木が全くないことがうかがえます。さらによく見ると、斜面の傾斜方向(右の稜線から左の大井川谷底へと向かう)に多数の暗い色の筋が認められます。これは水の流れが、地面を削って作った幾筋もの溝だと思われます。ということは、この場所は単に木が生えていないだけでなく、地表がむき出しで容易に侵食される場所であると考えられます。つまり、固まっていない砂利が厚く堆積し、頻繁に水が流れている可能性が高い。
 
すなわち、土石流の堆積した場所である可能性が高いと考えられるわけです。こうした地形を沖積錐(ちゅうせきすい)とよびますが、それに該当する可能性があります。植生に覆われていないことから、堆積して間もないのでしょう。
 
また、その尾根側(右手)には、楕円形をした白っぽい領域があります。ここも無植生なわけですが、尾根上であることから、沖積錐に土砂を供給した場所、言い換えれば山肌の崩れた跡なのではないでしょうか。

というわけで、空中写真から判断すると、非常口の予定地には、70年ほど前に土石流が押し寄せた可能性があるわけです。

ちょっと小さいですが、手元に実際の山崩れの写真があるので掲載します。15年くらい前、安倍川の上流部でたまたま見つけたものです。
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(参考) 安倍川上流でのがけ崩れ
崩落した土砂の表面には水の流れた跡が筋状に残ることに注目
 
上のほうで崩れ、下の方に、円錐状に崩土が堆積してますね。これを真上から見たら、空中写真の構図となるのではないでしょうか? なお、これはほぼ垂直に落ちているため円錐状に堆積してますが、もし勾配がやや緩く、大量の水を含んていたら、崩土は土石流となって前方へ進んでゆくはずです。
 
さて、二軒小屋斜坑予定地に戻ります。
 
この場所の地形図を確認してみましょう。国土地理院の地形図ではなく、JR東海が評価書に掲載した1:10000図を借用します(基図は林野庁作成の森林基本図?)。
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空中写真で「山崩れの跡かな?」と思った場所には、ご丁寧にガケ記号が袋状に描かれており、あからさまに山肌が大きく崩れ落ちたことを示しています。そして「非常口」を示す円は、その崖の下の緩い傾斜地にあります。この緩い傾斜地こそ沖積錐であり、何度も何度も(とはいってもおそらく数十年~100年に一度という間隔で)土石流が堆積してできたのでしょう。
 
この沖積錐上は、最新の衛星画像では、既に緑の木々に覆われています。半世紀を経て森林が復活したわけです。おそらく、現地に足を運んでも、生えている木々の種類や樹齢、または詳細な地表の凹凸に注意しない限り、土石流の痕跡には気づかないかもしれません。しかし斜面上方の崩壊地は、まだ地肌が露出しています。植物が根をおろせないことを示し、すなわち、いまだに土砂が動いていいるわけです。
 
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Google Earthより複製・加筆
 
また、この部分を3D表示するとこんな具合になります。 
 
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ということは、この後も土石流に襲われる可能性が相対的に高いというわけです。大雨によって引き起こされるかもしれないし、大地震で上部の崩壊地が再び大きく崩れ落ちて発生するかもしれない。
 
一時的な使用に過ぎない工事用トンネルならまだしも、「非常口」と称するものを、なぜ非常時に災害に見舞われる可能性のある場所に造るのでしょうか? よくわからんです。
 
もっとも、非常口予定地は土石流堆積地とみなした私の判定がまちがっているかもしれません。しかしその頭上に山崩れの跡があるのは明白な事実であり、潜在的に大地震などの際には危険となることは確実です。
 
そういう危険性があると思うのですが、この場所の立地条件についてJR東海は、何ら説明をしていません。
 
地形図をよく見ると、沖積錐の上部に小さな砂防ダムが5つ記載されています。ところが沖積錐の上につくられているってことは、沖積錐自体を成長させるような大きな土石流については、全く無意味だってことです。もし非常口を守るために砂防工事が必要なら、この沖積錐より上流側(右手)に、高さ数十m、幅100m近い、巨大なものをつくり、さらに床固工なども併設せねば意味がないでしょう。ところが、そんなものを造るなんてことは環境影響評価書には一行も書かれておらず、実行したら、工事用道路の新設など、自然破壊の連鎖となります。
 
 
(今日のむすび)
●JR東海は、非常口の設置は必要最小限のものとしている。その非常口の予定地は、70年ほど前に土石流が流下した可能性がある。また、その上方には大きな崩壊地がある。非常口を使用するような大地震の際には、この非常口が土石流に襲われるのではないだろうか。
 
空中写真だけでは詳しいことは分からないが、現地踏査、詳細な地形図、周辺の伐採履歴などは調べており、これらを開示することによって、非常口の立地条件について検証することができる。
 
ここは南アルプスという、無用な自然破壊は禁ずべき場所であるし、評価書でも、必要最小限な改変しか行わないとしている。際限なく防災工事を増やすようなことは絶対に避けねばならない。したがって、その立地条件の妥当性については慎重に判断する必要があろう。併せて、環境影響評価における環境保全措置の実効性を確認するためにも、この場所の立地条件ならびに選定過程についての情報を公開すべきである。
 

どなたが制作されたのか存じませんが、最近 (8/8)おもしろい動画がYouTubeに掲示されていたので紹介します。
 
リニア中央新幹線がやって来る ヤァ!ヤァ!ヤァ!」
 
(kabochadaisukiの注釈)
●東京-大阪間での乗客一人当たりの二酸化炭素排出量は、現行の東海道新幹線N700系では7.1㎏であるのに対し、リニアは29.3㎏と4.1倍になると試算されている(環境影響評価書資料編)。走行時間は約半分、走行距離は552.6㎞から438㎞に短縮されることを考えると、おそろしくエネルギー効率が悪い。
 
●東京-大阪9兆300億円の建設費には、金利と消費税は含まれておらず、最近の建設作業員不足も考慮されていない。
 

最近、世論誘導型?のリニア記事が目立ちますが・・・。

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何やら、唐突にブログのカウンターが増えてびっくりしました。
 
何だろう?と思って調べてみたら、こんな記事が出回っていたんですね。
 
 
 JR東海が2027年の開業を目指して東京(品川)―名古屋間に整備するリニア中央新幹線が、9月中にも着工される見通しになった。

 政府は6月に閣議決定した新たな成長戦略で、リニア中央新幹線について「早期整備・活用を図る」方針を打ち出しており、実現すれば、東京―名古屋間を最速40分で結ぶことになる。

 JR東海は環境影響評価(環境アセスメント)書の最終版を国土交通省や沿線自治体に近日中に示し、工事実施計画の認可を国交省に申請する方針を固めた。国交省は工事方法などを記した計画の妥当性などを審査し、9月中にも認可する見通しだ。

 同社は認可後、速やかに各地に工事事務所を設置し、沿線に対する工事計画の説明や用地取得の手続きを始める。地下の構造が複雑な品川、名古屋の両ターミナル駅や、3000メートル級の山々が連なる南アルプスの工事を優先的に進める考えだ。
 
これこそまさに、世論を「リニア着工は既成事実」という方向へ持っていこうという意思が働いているんじゃないのかな?
 
あからさまに、手続き上ヘンですよ。
 
冒頭部分。 「JR東海が2027年の開業を目指して東京(品川)―名古屋間に整備するリニア中央新幹線が、9月中にも着工される見通しになった。」
 
現在は、環境影響評価手続きの途中です。7月18日に、国土交通大臣がJR東海の作成した環境影響評価書に対する意見書を提出し、それを受けて、JR東海が評価書の補正作業を行っている最中です。
 
この作業が終わったのち、JR東海は補正版評価書を公表することになります。
 
補正版評価書を作成・公表しないと、事業認可申請は出せません。
 
事業認可申請をおこなうためには、次のような事項を記した書類が必要です(全国新幹線鉄道整備法の規定による)
 
●路線名
●工事の区間
●線路の位置(縮尺二十万分の一の平面図及び縮尺横二十万分の一、縦四千分の一の縦断面図をもつて表示すること。)
●線路延長
●停車場の位置
●車庫施設及び検査修繕施設の位置
●工事方法
●最小曲線半径
●最急勾配
●軌道の中心間隔
●軌条の種類
●枕木の種類及び間隔
●道床の構造
●施工基面の幅
●軌道及び橋梁の負担力
●停車場における本線路の有効長
●列車の制御方式
●通信設備の概要
●電車線の電気方式
●電車線の吊架方式、種類及び太さ
●饋電線、送電線及び配電線(低圧のものを除く。)の架設方式、種類及び太さ
●発電所及び変電所の概要
●建設工事に伴う人に対する危害の防止方法
●その他工事の実施に関し必要な事項
●工事予算(第一号様式)
●工事の着手及び完了の予定時期
 
●線路平面図(縮尺五万分の一のもの)
●線路縦断面図(縮尺横二万五千分の一、縦二千分の一のもの)
●停車場平面図(縮尺二千五百分の一のもの)
●停車場設備表(第二号様式)
●車庫施設及び検査修繕施設の概要を示す表(第三号様式)
●橋梁、隧道その他の主要な建造物の概要を示す表
●連動図表
●通信回線図
●電車線路標準装柱図
●饋電系統図、送電系統図及び配電系統図(低圧のものを除く。)
●変電所単線結線図
●運転保安設備の概要を示す書類
●車両の概要を示す書類
●予定運行図表
●特殊な設計がある場合には、その概要を示す書類
●建設工事の工程表

以上のような事項を記した書類を国土交通省に提出します(全国新幹線鉄道整備法第9条)。
 
国土交通省は、これらの書類を審査するとともに、補正版評価書が、先に述べた国土交通大臣意見を勘案(勘案という言葉の意味については8/4ブログ記事をご覧ください)できているか、きちんと環境保全措置が講じられるといえるのかを検討しなければなりません。これは、環境影響評価法第33条の規定です。
 
読売新聞の記事は、まだ補正版評価書も公表されていないのに、これら全国新幹線鉄道整備法第9条と、環境影響評価法第33条の審査が、今から一月少々で終了する見通しとなったと報じているわけです。
 
どこから、誰がそんな話を作り上げたんだ?????
 
調査・報道に求められる、5W1HつまりWhen(いつ)、Where(どこで)、Who(だれが)、Wha(何を)、How(どのように)、Why(なぜ)が全く分からず、記事として失格のように思われます。国土交通省に取材したのか、JR東海に取材したのか、記者による推測なのか、いろいろ総合的に記者がまとめた推論なのか、それすら分かりません。起承転結もできてませんし。
 
もうまもなく補正版評価書が出されそうだというなら、そういう記事を書けばいいのになあ?
 
 
そういえば、先週12日にも、中日・東京新聞が似たような記事を書いておりました。
 
さらに、先週16日土曜日の夜7時のNHKニュースでは、わけのわからないリニア関連のニュースが流されていました。
 
 
唐突に、マスコミ各社が出所不明の怪情報を流し出した感があります。「リニア着工は既成事実だ!」という世論を作り上げたい人々が、どこかで暗躍しているのかもしれません。裏をかえせは、そんなことをコソコソやらないと建設できないシロモノなのかな?
 
まさか、こちらのYouTube動画への対抗策じゃあるまいし・・・。
https://www.youtube.com/watch?v=u-cLZ2m6324&feature=player_detailpage#t=0
 

 
なお、9月あるいは10月着工というのは基本的に不可能です。着工といっても、品川や名古屋駅の地下を掘り下げる準備をする程度なのでしょう。
 
というのは、いくらリニアとはいえ、どこでも好き勝手に穴を掘ってはいけないからです。地上区間や地下浅い場所、縦穴では土地を購入しなければなりませんが、用地買収は(建前上)事業認可を受けてから始まります。それから、用地買収の不要な大深度地下を使用するには国や都県の許可が必要ですが、その使用許可手続きもまだ終わっていません。県によっては環境影響評価の事後調査計画書の作成が義務づけられていたり、保安林の解除手続き、林地開発許可の申請、河川法の工事申請、水利権調整など、「着工」までのハードルはまだまだあります。
 
記事では「南アルプスから優先的に工事を始める見込み」だなんて書いてあるけれども、一番手続きが残っているのは南アルプスです。行政上の手続きがたくさんあるうえ、水、残土、生態系、残土運搬など一番問題があるのも南アルプス。
 
 
 
こういう事実を一切無視して、あたかも10月からトンネル工事が始まるかのような記事を書くのは悪質だと思います。
 
 

NATM工法でも地下水はドボドボ抜ける? 新東名高速道路のトンネル

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リニア中央新幹線は、地上の河川の配置とは無関係にトンネルを一直線に掘るため、大井川はじめあちこちの川で、流量の減少が懸念されます。
 
このような懸念に対し、JR東海は、環境影響評価書でこのように対策をとるとしています。
イメージ 1

NATM工法をとることで、地下水の湧出量を減らし、河川流量への影響も小さくできるとしていますね。
 
NATM工法。
 
果たして効果はいかほどのものか?
 
NATMとは、New Austrian Tunnel Method=新オーストリア工法の略語。機械で岩に穴を掘り、掘ったらすぐにデッカイ鉄の棒を岩盤に打ち込み、周り一面をコンクリートを吹きつけ、防水シート等を貼り、さらに分厚くコンクリートで塗り固めてゆくという工法なのだそうです。
 
というわけで、NATM工法はもとより最新の土木技術を投入して建設された(であろう)、新しいトンネルの様子を見に行ってまいりました。2008年に完成した、新東名高速道路の伊佐布トンネル(工事中は清水第四トンネル)です。日本道路公団【途中からNEXCO中日本)が5兆円のプロジェクトとして造ったわけですから、最新技術の固まりなのでしょう(たぶん)。
(参考)
 
イメージ 3
国土地理院地形図閲覧サービス「うぉっちず」より複製・加筆
 
 
伊佐布トンネルは長さ2520m、静岡市の清水区と葵区の境をなす、標高400m前後の山地に掘られました。上下線2本掘られ、それぞれ掘削断面積が200平方メートルに達する巨大なトンネルです。
 
なおリニアのトンネルは、掘削断面積は107平方メートルで、南アルプスの場合、横に並行して断面積58平方メートルの先進坑が掘られます。併せて斜坑も7本掘られ、掘削容積としては、この伊佐布トンネルとは比較になりません。
イメージ 2
ちなみにこちらは、開業前の2011年8月14日、清水区側の坑口を撮影したものです。
 
 
この伊佐布トンネルは地形図から判断すると、東(清水側)坑口の標高は約200m、西(静岡側)坑口の標高は約170mで、トンネル内に湧出した水は、すべて西側へ流れてゆき、川に流されています。こちらの川は長尾川といいます。というわけで、この長尾川に行ってきました。
 
 
こちらが西側の様子。上下線の間に造られた橋から、新東名を見上げています。新東名の路盤までの高さは40m以上あり、私の撮影場所から川底までも30mほどあります。写真左下に黒く細長いものが写っていますが、これが、トンネル湧水の排水口です。
 
イメージ 4
 
 
橋から川を見下ろすとこんな具合です。
 
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木が生い茂って分かりにくいですが、砂防ダムの直下の4か所で、水が注ぎこんで泡立っているのが確認できると思います。このうち右端の流れは、伊佐布トンネル内に湧き出した地下水です。
 
 
 
ここでは降りられないので、ずっと下流側から川の中をジャボジャボ上ってきて撮影したのがこちら。
イメージ 6
 
イメージ 7
 
結構な勢いがあるように見えます。残念ながら、動画のアップがうまくできません。
 
本当なら流量を計るべきですが、一人だったし何も用意してこなかったので残念ながら撤退。容量の分かっているポリバケツとストップウォッチがあれば大雑把な値は測定可能ですので、興味のある方はチャレンジなさってください。ただし堰堤直下ということで水深が1m以上あり、足場を組むか立ち泳ぎをしなければ難しいかも…。、
 
この写真や動画を撮影したのは今月16日です。静岡では、今年の6月以降少雨が続いており、気象台における5/1~8/17の降水量は545.5㎜と、平年値924㎜の60%しか降っていません。特に6月の月降水量97㎜というのは、1940年の観測開始以来、6月として過去2番目に少ない値でした。
 
ということは、撮影時のトンネル湧水量は、降雨で増えているというようなことはなく、1年を通して、これぐらいは流れ続けているように見受けられます。

上に掲げた地形図をご覧になって分かる通り、伊佐布トンネルは特に大きな川を潜り抜けているわけではありません。それでもこれだけの地下水漏出があるのです。しかも竣工したのは6年前。それ以来、止まらないわけです。
 
 


 
この伊佐布トンネルは、掘削断面積約200平方メートルだそうです。計算の簡略上、断面を半円とすると、周囲の長さは58mになります。長さ2520m上下線2本ですから、伊佐布トンネルの表面積(?)は29万2320㎡となります。
 
いっぽうリニアの工事で大井川流域の地下に想定されているのは、掘削断面積107㎡の本坑9400m、55㎡の先進坑9400m、68㎡の斜坑(非常口)6600mです。同様に半円と考えると、大井川の地下に想定されているトンネルの表面積は、合計約90万7300㎡となります。
 
大井川の地下に縦横にトンネルを掘り、しかも伊佐布トンネルの3倍の表面積をもつ。ということは、同じ工法をとったとしても3倍以上の地下水が流れ出してしまうのではないでしょうか…?

評価書の補正がなされていない。これで事業認可したら違法かも。

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リニアは今秋着工!
 
…って、へんな報道が飛び交っています。

この先、国土交通省において、環境影響評価法第33条に基づく補正後の環境影響評価書の審査、および全国新幹線鉄道整備法第9条に基づく事業計画等の審査が行われます。
 
これをクリアして、初めて事業認可がなされます。事業認可が終わってから用地確保がなされ、それから各種土地改変の申請等がなされ、そこでOKが出て、はじめて着工となるはずです。そりゃまあ、品川駅構内の隅でちょこちょこ仕切りを設置するぐらいでも「着工」かもしれませんが。

さて、先月18日に環境影響評価書に対する国土交通大臣意見が出され、様々な項目について再検討が要求されました。環境大臣意見で出された「重大な懸念がある」という言葉をそのまま引用し、知事意見を勘案せよというものもありました。これを受けてJR東海が評価書の補正作業を行っていたはずですが、知事意見では1年以上を要するような調査(生物相、水環境など)を再度要求するものもあり、まともに対応していたら、たった一月程度で評価書の補正が終了しているわけがありません。
 
というわけで、たった一月で出された補正評価書は、何も変わっていないシロモノであろうことが、容易に想像されます。
 
日本政府として、「重大な懸念がある」という見解が示された評価書です。十分な補正がなされていなかったら事業認可をしてはいけません。

ところで、行政手続き上、評価書というのは次のような意味を持つとされています。

かつて沖縄県の新石垣空港設置許可の是非を問われた裁判で、東京地方裁判所が環境影響評価制度について次のような見解を述べたそうです(平成23年6月9日)。
 
まず、環境影響評価というものは、事業の許認可を判断するための情報を提供するために行われるとされました。
 
そして、その判断が違法となるのは、「その判断が事実の基礎を欠き又は社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかであるなど、免許等を行う者に付与された裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものであることが明らかである」場合であるとしています。そして、「事実の基礎を欠く」場合として、手続き上の瑕疵(かし)のために重要な環境情報が収集されないまま評価書が確定したことをあげています。
 
 
リニアの環境影響評価書について考えてみると、「事実の基礎を欠く」ものが非常に多いのではないでしょうか?
 
たくさんありますが、自分で目を通した南アルプスに関係する部分で、特に大きな争点となりそうな河川流量関係でいえば…
●静岡県の大井川における、実際の流量を記載していない。
●同じく大井川における、トンネル工事の影響について、渇水期の予測地点が少ない。
●山梨県を流れる河川については、流量の現地調査も工事の影響予測も全くしていない。
●長野県の青木川、虻川もトンネルでくぐり抜け、流量への影響が考えられるが、全く評価対象としていない。
 
これは、準備書の時点から問題となっていた項目です。さきほど30分ほどの短時間でざっと目を通したところでは、本日公表された補正後評価書においても直されていません
 
これでアセス結果が固まってしまったのです。評価書における以上のような点は、現地の環境に関する情報を提供するためには不十分と言えるのではないでしょうか?
 

また、かつて大阪地方裁判所は、次のような見解を示したことがあります。(西大阪延伸線事業認可事件:平成18年3月30日)
 
本件評価書における環境影響評価の判断の過程に看過し難い過誤等があり、被告の判断がこれに依拠してされたと認められる場合には、被告の上記判断は不合理であり、裁量権の逸脱があるものとして違法と解すべき
 
要するに、「環境への影響が大きいと言える結果に対し、ヘリクツをごねて無理やり影響は小さいと言いくるめてしまったらダメよ」というわけです。
 
大井川の流量で考えますと、補正後評価書におけてもトンネル工事に伴う毎秒2トンの流量減少を、影響は小さいと結論付けています。
 
確かに梅雨時や台風シーズンなら、毎秒2トンの減少でも大きな影響はないかもしれません。ところが、元々流量の少ない冬~春先の渇水期の場合はいかがでしょうか? 上記記述とややかぶりますが、静岡県の調査(っていうか中電の報告)では、冬季の流量は毎秒2トン程度とされています。毎秒2トンの流れから毎秒2トンも減ったら、ほとんど干上がってしまいます。こんな状況となったら、河川生態系は消滅し、利水にも影響が出ます。
 
これでは渇水期における重大な影響を無視して「影響は小さい」と結論づけていることになります。「判断過程の看過し難い過誤」と言えるのではないでしょうか?
 
また、この予測の妥当性については、十分な検証がなされているとは言い難い状況であると思います。このほど初めて予測結果の検証用に相関図が掲載されました、
イメージ 1
 
この図表は、右・上に移動するたびに目盛が10倍に増えるという特殊な形式をとっています。その点にご注意ください。
おそらく、計算流量と実測流量との誤差は、絶対値としては一定の範囲内におさまっていると思われます。しかし誤差の範囲が一定ということは、実際の流量が大きいときには大したことがなくとも、流量の小さいときには、大きな誤差ということになります。実測流量5㎥/sのときの0.5㎥/sの誤差と、実測流量0.6㎥/sのときの0.5㎥/sの誤差とでは、意味合いは全く異なりますね。
 
先に述べたとおり、流量減少の影響が大きくなるのは流量がもとより小さいときです。その重要なときにアテにならないのでは困るわけですが、JR東海は「これで良し」としちゃったわけです。これでも国土交通省がOKというのなら、それだって、「看過し難い過誤」にあたるのではないでしょうか?
 
さらに言えば、「知事意見を勘案せよ」という国土交通大臣意見にも全く答えていないし、「最新の手法による流量予測のやり直し要請」にも答えていない…。
 
 
 
まだごく一部にしか補正後評価書には目を通していませんが、かようなポイントに注目していけば、十二分に「問題あり」といえるシロモノであると見受けられます。修正されないままで事業認可をしたら、国土交通省は違法性を問われるんじゃないでしょうか?
 

リニア新幹線 静岡県版補正評価書の信じがたい間違え

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ふっふっふっ…
前略 JR東海さま
御社の作成されました補正版・環境影響評価書の静岡県版に、信じられないような間違いを見つけましたぞ!!
 
 
冗談ではなく、植物に関する項目まるまる間違いという、とんでもない間違いなのであります。
国土交通省の審査担当者の方には、このミスを見過ごすことなどございませんよう、くれぐれもご注意願います。
 
間違いは、「8-4-3植物」というところでございます。
 
●間違いの概要
 8-4-2植物の表8-4-2-8、表8-4-2-13、表8-4-2-15によれば、文献調査及び現地調査により確認された重要な植物は540種であったとしている。表8-4-2-17(1)によれば、このうち29種が現地調査で確認されたとして、予測対象とされている。また、現地で確認されたなかった140種については表8-4-2-17(2)において予測対象とされている。しかし残る371種については、本評価書においてどのように扱われているのか不明である。
 特に73種の植物種については、資料編の「表9-1-1-2 高等植物確認種一覧」において、現地で確認されていると明記されているのにも関わらず、本編の「表8-4-2-8 高等植物に係る重要な種確認一覧」においては、現地で確認されていないことになっており、そのため何ら予測・評価がなされておらず、環境保全措置についても検討されていない。
 
●説明
 
(話がややこしいので、できればこちらのJR東海のホームページから、「評価書本編8-4-3植物」,
「資料編9 植物」という部分をダウンロードし、見比べながら読んでくださるとありがたいです。)
 
静岡県版の補正版評価書(以下、評価書と記述)の記載によりますと、静岡県内の文献調査と現地調査により、工事を計画している範囲に生育しているであろう重要な植物」は、540種だそうです。「重要な植物」というのは、いろいろな選定基準に照らし合わせてみて、保全上、重要であると考えられるため、対策(環境保全措置)の検討が必要な種類という意味です。
 
コピーが面倒なのでいちいち表を複製しませんが、その内訳は、高等植物(種子植物とシダ植物)が534種(評価書の表8-4-2-8)、蘚苔類(コケの類)が3種(評価書の表8-4-2-13)、キノコ類が3種(表8-4-2-15)となっています。

それでですね、評価書の「表8-4-2-8 高等植物に係る重要な種確認一覧」ではこの540種のうち29種は現地調査で確認されたので、予測対象種に選定しています。つまり工事や構造物の出現によってどういう影響を及ぼし、どういう対策をとるべきかを検討しているんです。この29種については、評価書において確認個体数や生育条件等を説明し、やや詳しく扱っています。
 
また、現地で見つからなかった残り411種のうち140種については、「現地調査で確認できなかったが、文献調査において対象事業実施区域及びその周囲に生育する可能性が高いと考えられる」として、とりあえず予測対象種に選定しています(評価書 表8-4-2-17(2))。ただ、評価書内での扱いは雑で、十把一絡げに「影響は小さい」と結論付けられています。
 
じゃあ、残る371種はどうなっているの?

この371種を環境影響評価の対象としなかった理由については、評価書では何も語っていません。
 
これだけでも重大な記載ミスです。
 


ところが問題はこれだけにとどまりません。
 
先ほど述べた「表8-4-2-8 高等植物に係る重要な種確認一覧」というものについて、一部分をここに掲げてみます。
 
イメージ 1
 
青く囲ったところに、ヒメスギランという名前がありますね。これは原始的なシダの一種で、長いモールのような姿をした奇妙な植物です。まあ、どんな姿をしているかは、この際どうでもいいいです。で、表の「確認状況」の欄を見ると、「現地」のところに〇はついておらず、現地調査では確認されていなかったことになります
 
 
じゃあ、「現地で確認されていないけれども予測対象とした140種」の中に含まれているか?と思い、予測対象種の一覧表8-4-2-17(2)を確認してみますと、ここにもヒメスギランの名はありません
イメージ 2
 
つまり、ヒメスギランは現地調査では見つからず、話の展開上は文献調査でも生育している可能性は低いと判断され、予測対象種に選定されなかったと解釈できます。

ここからが大問題。

評価書には、本編に書ききれなかったデータが収められている資料編というものがあります。その資料編には、現地調査で実際に確認された植物のリストが掲載されています。
 
で、そこを確認してみると…
イメージ 3

はっきりとヒメスギランの名が掲載されているじゃありませんか!!

 
どういうことなのでしょうか?

資料編で現地確認されたとするヒメスギランが、別の表では現地で確認されていないことになっている・・・。
 
資料編の「表9-1-1-2 高等植物確認種」には、確認地域と時期ごとに●がつけてあることから、こちらのほうが信頼性は高いといえます。ということで、重要種であるヒメスギランは現地調査で実際に確認されているものの、何らかの事情で「表8-4-2-8 高等植物に係る重要な種確認一覧」からは漏れたと推測されます。
 
このような意味不明の記載をされている植物種はヒメスギランにとどまりません。ヒメスギランの他にも、
 
ヒモカズラ、ヤマハナワラビ、クモノスシダ、ウサギシダ、ミヤマウラボシ、シナノナデシコ、レイジンソウ、ホソバトリカブト、ミヤマハンショウヅル、ミヤマカラマツ、シナノオトギリ、オサバグサ、ミヤマハタザオ、ミヤマタネツケバナ、ミヤママンネングサ、トガスグリ、ダイモンジソウ、クロクモソウ、シモツケソウ、モリイチゴ、イワキンバイ、ミネザクラ、イワシモツケ、イワオウギ、ウスバスミレ、ヒメアカバナ、ゴゼンタチバナ、ヤマイワカガミ、イワカガミ、ウメガサソウ、シャクジョウソウ、ギンリョウソウ、コバノイチヤクソウ、ベニバナイチヤクソウ、ジンヨウイチヤクソウ、サラサドウダン、ウスギヨウラク、ウラジロヨウラク、アズマシャクナゲ、ミツバツツジ、サツキ、トウゴクミツバツツジ、リンドウ、ツルアリドオシ、トモエシオガマ、クガイソウ、イワタバコ、キンレイカ、ヤマホタルブクロ、タニギキョウ、タカネコンギク、カニコウモリ、ミネウスユキソウ、マルバダケブキ、カイタカラコウ、アカイシコウゾリナ、ツバメオモト、イワギボウシ、コオニユリ、クルマユリ、クルマバツクバネソウ、タマガワホトトギス、エンレイソウ、シロバナエンレイソウ、ミヤマヌカボ、コイチヨウラン、エゾスズラン、オニノヤガラ、ミヤマウズラ、ミヤマモジズリ、タカネフタバラン、コケイラン
 
と、なんと合計73種にもおよびます。ヒモカズラとヤマハナワラビについては、上に掲げた表のコピーでも間違いが確認できますので、よくご覧になってください。
 
 
「表9-1-1-2 高等植物確認種」によれば、静岡県内の現地調査で確認された高等植物は759種で、そのうち現地で確認された重要な高等植物種は本来は102種であるのに、本編の「表8-4-2-8 高等植物に係る重要な種確認一覧」ではなぜか29種しか確認していないという意味不明な記述になっているんです。
 
別の見方をすると、「表8-4-2-8 高等植物に係る重要な種確認一覧」では、重要な種は540種生育している可能性があるとし、そのうち29種だけが現地確認したとしていましたが、残る73種についてはウソをついて確認されていなかったことにしちゃっているともいえます。
 
73÷540≒13.5というわけで、約14%の重要な植物種が記載漏れ?という言い方もできます。
 
なお、これらの種はいずれも『国立公園特別地域内指定植物図鑑掲載種』という条件で重要種に選定されています。この選定条件は、4月に公表された一度目の評価書では採用されておりませんでした。したがって、環境省か国土交通省、あるいは静岡県庁か静岡市から「これを重要種の選定要件にすべき」と指摘され、急きょ変更したものの、全体の補正が間に合わなかったといったところでしょう。
 
 
いずれにせよ、先ほども述べたように、高等植物の環境影響評価は「表8-4-2-8 高等植物に係る重要な種確認一覧」に基づいています。その表が全面的に信頼できないということは、静岡県版補正評価書の植物に係る記載内容は全面的にデタラメということになります。
 

こういうことを書くと、「そんなことリニアには関係ないよ」と思われる方がおられるかもしれません。しかし、この植物リストの間違いは、影響が小さい/大きいとか、そういう性質の問題ではなく、「事業認可に必要な評価書という書類の記載内容が大幅に誤っている」という大問題なのです。
 
これでも評価書の記載内容は妥当だとして事業認可をするのなら、国土交通省は許認可審査の役割を放棄したこととなり、あからさまな環境影響評価法違反になってしまいます。
 

なぜ山梨県大柳川での流量をアセス対象にしない? 知事意見・大臣意見を無視

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私は静岡市民ですが、地形図を眺めていて、リニア建設による水環境破壊という点で心配になったのが、山梨県富士川町の旧鰍沢町地区を流れる大柳川という川。
 
 
 
 
この川、上流部は滝の連続する美しい渓谷になっており、図1で示されたとおり、県立公園にも指定された景勝地となっているようです。そのごく浅い直下でトンネル工事が計画されており、掘られればおそらく流量が減少するだろうに、どういうことか調査すらしていないんですよ。
 
ちょっと、ここを通る長大トンネル(約8.5㎞)について見てみましょう。下の地図2で、大柳川の流域におけるトンネルと川との関係について西から東に向かって眺めてみます。
 
図2 大柳川流域における谷とトンネルとの位置関係
国土地理院 電子地図ポータルより複製、加筆
 
図2の、御殿山と記載のあるところの北方で、大柳川の支流(地形図では無名だが雁木沢というらしい)の谷底に接します。谷底の標高は地形図から判断すると900~950m、トンネルの標高は縦断面図(図3)から推定して610m程度です。土被りは300m程度になります。山岳トンネルの工事では、土被りが300mを下回ると渇水が起こりやすくなるとされているので、微妙な深さです。
 
ちなみに山梨県上野原市において、山梨リニア実験線延伸工事で川の枯渇を引き起こした場所では、谷底とトンネルとの厚さ(土被り)は180m程度でした。この180mという数字を覚えておいてください。
 
ここから600mほど東で、大柳川本流をくぐります。谷底の標高は680m程度。トンネルの標高は600m程度。土被りは80m程度になります。谷底とトンネルとの厚さが山岳トンネルとしては非常に薄く、大々的な湧水が予想されます。大規模な湧水が起きれば、川の流量にも大きな影響を与えかねません。このあたりは滝が連続し、温泉もあるようですが、大丈夫なのでしょうか。
 
大柳川の東では、十谷集落を流れる沢の源頭をくぐります。土被りは220m前後と見られます。これも微妙な深さです。(図には無記入)
 
さらに東で、大柳川の支流・清水沢と、その支流・屋敷沢(どちらも地形図では無名)をくぐります。トンネルの標高は530m前後、どちらも谷底とトンネルとの厚さは50~80m程度と見られ、やはり山岳トンネルとしては非常に薄いものです。2つの沢は下流で合流し、不動滝(1:25000地形図で滝記号はあるものの名前は未記入)を経て大柳川に注ぐようです。「富士川町 不動滝」で検索すると、動画や写真が出てきます。流量豊富で豪快な滝のようですが、トンネルが掘られれば流量が減少し、やせ細ってしまうのではないのでしょうか。さらに、準備書の記載を見ると、このあたりの滝は周辺集落の生活用水として利用されているようです。生活への影響は大丈夫でしょうか?
 
屋敷沢を抜け、さらに2㎞ほど北東に進み、別の流域である小柳川の岸でトンネルを抜けて地上に出ます。地上に出るあたりの標高は460mほどです。
 
以上のように、リニアのトンネルは大柳川流域を完全に横断します。その間おおよそ5.3㎞。本流の大柳川はじめ、そのほかにも主な支流を3~4本くぐりぬけます。そして、いずれも非常に土被りが薄い。このことを考えると、河川に流出するはずの水をトンネル内に大量に引き込んでしまう可能性が高いのではないのでしょうか。

しかもこのトンネル、西から東へ下り一辺倒の構造になっています。ということは、大柳川流域でトンネル内に引き込まれた水は、すべて東側坑口の小柳川へと流れ下ってしまいます。万が一川の流量が減少しても、何らかの動力を用いない限り、大柳川流域に戻すことはできません。
 
図3 トンネル縦断面
上は地形図より作成 下は準備書より転載・調整・加筆

 
 
果たして、大柳川の渓谷は守られるのでしょうか?
 
地図を眺めていると、こういう事態が心配されるわけです。
 
それに対して、JR東海はどのような調査・予測・評価・対策をするつもりなのか…と思って山梨県版の環境影響評価書を見たのですが…
 

あれ

どこにもない!?
 

何にも調査してないじゃん!!

冗談でも誇張でもなく、本当に大柳川について調査をしていないんですよ!
 
 
 
わずかに井戸と湧水と温泉の場所を少しずつ挙げただけ。
 
ウソだとお思いでしたら、JR東海のホームページをご覧になってください。http://company.jr-central.co.jp/company/others/prestatement/yamanashi/y_honpen.html
 
第8章の「地下水の水質と水位」「水資源」が該当するはずですが、本当に何にも調査をしていません。何にも調査をしていないのに、「地下水位への影響は小さいと予測する」という一文が結論として示されているだけです。
 
水環境への直接的な影響を調査していないわけですから、「人と自然との触れ合いの場」という項目においても扱われていませんし、植物、生態系の調査もしていません。わずかにトンネル真上で沢の動物調査をおこなったようですが、詳細は不明です。

こんないい加減な環境影響評価準備書が、いままで存在したのでしょうか?
 
「データ不足」というレベルじゃないです。
 
マジでおかしいですよ、コレ。
 
また、同じ富士川町内の土録という集落付近で、小河川(名前分からず)の上流部を100m程度という浅い土被りで通過することになっています。トンネル内に河川水を引き込んだ場合は、北隣の別流域(三枝川?)に流出してしまうことになってしまいます。ここも大柳川同様、何の調査も行われていません。
 
 
 

ところで、ここまでの文章は、昨年11/18に、準備書への疑問というかたちで書いたものです。それから今年4月に評価書が公表され、先日、補正版評価書が国土交通省に提出されました。
 
この間、私の疑問と同様に、山梨県知事意見では大柳川の流量予測をおこなうことと意見が出され、さらに国土交通大臣意見では巨摩山地(大柳川流域)で三次元水収支解析による精度の高い予測を行うよう求められました。
 
したがって本来であれば、このほどの補正版評価書においては大柳川における予測結果が書かれていなければなりません。
 
ところが、補正版評価書でも記載内容がほとんど変わっておらず、大柳川流域におけるトンネル工事による河川流量への予測はなされていないんですよ。
 
というわけで、山梨県知事意見・国土交通大臣意見をともに無視したことになります。
 
 
 
 
 
ところが本来なら補正されているはずなのに、
 
 

山梨県 大柳川の流量予測はどうなっている?

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前回の続き+要点まとめ。
 
 
私は静岡市民ですが、地形図を眺めていて、リニア建設による水環境破壊という点で心配になったのが、山梨県富士川町の旧鰍沢町地区を流れる大柳川という川。
 
 
 
 
この川、上流部は滝の連続する美しい渓谷になっており、図1で示されたとおり、県立公園にも指定された景勝地となっているようです。そのごく浅い直下でトンネル工事が計画されており、掘られればおそらく流量が減少するだろうに、どういうことか調査すらしていないんですよ。
 
ちょっと、ここを通る長大トンネル(約8.5㎞)について見てみましょう。下の地図2で、大柳川の流域におけるトンネルと川との関係について西から東に向かって眺めてみます。
 
図2 大柳川流域における谷とトンネルとの位置関係
国土地理院 電子地図ポータルより複製、加筆
 
図2の、御殿山と記載のあるところの北方で、大柳川の支流(地形図では無名だが雁木沢というらしい)の谷底に接します。谷底の標高は地形図から判断すると900~950m、トンネルの標高は縦断面図(図3)から推定して610m程度です。土被りは300m程度になります。山岳トンネルの工事では、土被りが300mを下回ると渇水が起こりやすくなるとされているので、微妙な深さです。
 
ちなみに山梨県上野原市において、山梨リニア実験線延伸工事で川の枯渇を引き起こした場所では、谷底とトンネルとの厚さ(土被り)は180m程度でした。この180mという数字を覚えておいてください。
 
ここから600mほど東で、大柳川本流をくぐります。谷底の標高は680m程度。トンネルの標高は600m程度。土被りは80m程度になります。谷底とトンネルとの厚さが山岳トンネルとしては非常に薄く、大々的な湧水が予想されます。大規模な湧水が起きれば、川の流量にも大きな影響を与えかねません。このあたりは滝が連続し、温泉もあるようですが、大丈夫なのでしょうか。
 
大柳川の東では、十谷集落を流れる沢の源頭をくぐります。土被りは220m前後と見られます。これも微妙な深さです。(図には無記入)
 
さらに東で、大柳川の支流・清水沢と、その支流・屋敷沢(どちらも地形図では無名)をくぐります。トンネルの標高は530m前後、どちらも谷底とトンネルとの厚さは50~80m程度と見られ、やはり山岳トンネルとしては非常に薄いものです。2つの沢は下流で合流し、不動滝(1:25000地形図で滝記号はあるものの名前は未記入)を経て大柳川に注ぐようです。「富士川町 不動滝」で検索すると、動画や写真が出てきます。流量豊富で豪快な滝のようですが、トンネルが掘られれば流量が減少し、やせ細ってしまうのではないのでしょうか。さらに、準備書の記載を見ると、このあたりの滝は周辺集落の生活用水として利用されているようです。生活への影響は大丈夫でしょうか?
 
屋敷沢を抜け、さらに2㎞ほど北東に進み、別の流域である小柳川の岸でトンネルを抜けて地上に出ます。地上に出るあたりの標高は460mほどです。
 
以上のように、リニアのトンネルは大柳川流域を完全に横断します。その間おおよそ5.3㎞。本流の大柳川はじめ、そのほかにも主な支流を3~4本くぐりぬけます。そして、いずれも非常に土被りが薄い。このことを考えると、河川に流出するはずの水をトンネル内に大量に引き込んでしまう可能性が高いのではないのでしょうか。

しかもこのトンネル、西から東へ下り一辺倒の構造になっています。ということは、大柳川流域でトンネル内に引き込まれた水は、すべて東側坑口の小柳川へと流れ下ってしまいます。万が一川の流量が減少しても、何らかの動力を用いない限り、大柳川流域に戻すことはできません。
 
図3 トンネル縦断面
上は地形図より作成 下は準備書より転載・調整・加筆

 
 
果たして、大柳川の渓谷は守られるのでしょうか?
 
地図を眺めていると、こういう事態が心配されるわけです。
 
それに対して、JR東海はどのような調査・予測・評価・対策をするつもりなのか…と思って山梨県版の環境影響評価書を見たのですが…
 

あれ

どこにもない!?
 

何にも調査してないじゃん!!

冗談でも誇張でもなく、本当に大柳川について調査をしていないんですよ!
 
 
 
わずかに井戸と湧水と温泉の場所を少しずつ挙げただけ。
 
ウソだとお思いでしたら、JR東海のホームページをご覧になってください。http://company.jr-central.co.jp/company/others/prestatement/yamanashi/y_honpen.html
 
第8章の「地下水の水質と水位」「水資源」が該当するはずですが、本当に何にも調査をしていません。何にも調査をしていないのに、「地下水位への影響は小さいと予測する」という一文が結論として示されているだけです。
 
水環境への直接的な影響を調査していないわけですから、「人と自然との触れ合いの場」という項目においても扱われていませんし、植物、生態系の調査もしていません。わずかにトンネル真上で沢の動物調査をおこなったようですが、詳細は不明です。

こんないい加減な環境影響評価準備書が、いままで存在したのでしょうか?
 
「データ不足」というレベルじゃないです。
 
マジでおかしいですよ、コレ。
 
また、同じ富士川町内の土録という集落付近で、小河川(名前分からず)の上流部を100m程度という浅い土被りで通過することになっています。トンネル内に河川水を引き込んだ場合は、北隣の別流域(三枝川?)に流出してしまうことになってしまいます。ここも大柳川同様、何の調査も行われていません。
 
 
 

ところで、ここまでの文章は、昨年11/18に、準備書への疑問というかたちで書いたものです。それから今年4月に評価書が公表され、先日、補正版評価書が国土交通省に提出されました。
 
この間、私の疑問と同様に、山梨県知事意見では大柳川の流量予測をおこなうことと意見が出され、さらに国土交通大臣意見では巨摩山地(大柳川流域)で三次元水収支解析による精度の高い予測を行うよう求められました。
 
したがって本来であれば、このほどの補正版評価書においては大柳川における予測結果が書かれていなければなりません。
 
ところが、補正版評価書でも記載内容がほとんど変わっておらず、大柳川流域におけるトンネル工事による河川流量への予測はなされていないんですよ。
 
というわけで、山梨県知事意見・国土交通大臣意見をともに無視したことになります。


 
以下、まとめ
 
 
 
リニアの第四南巨摩トンネル(JR東海による仮称)は、大柳川流域を完全に横断する。100m未満の浅い土被りで本流・支流を3度くぐり抜けるため、地下水を大量にトンネル内へ引き込むおそれがあり、河川流量を大きく減少させるおそれがある。ひいては水資源や生態系へに対して不可逆的な影響を及ぼすおそれがある。
 
したがってトンネルの工事および存在による河川流量の予測および評価をおこなうべきであるが、環境影響評価結果を記した準備書においては、定性的な予想結果を記すにとどまっている。つまり、具体的に現在の流量や湧水量および予測値を示すのではなく、「対策をとるから問題はない」という記述だけである。これは予測というよりも想像、意地悪く言えば単なる願望である
 
イメージ 2
山梨県版準備書よりコピー
何ら具体的な記載がない
 
このため、準備書に対する山梨県知事意見において、新たに大柳川を調査・予測地点に加え、その結果を評価書に記載するよう求められたが、4月公表の評価書においても、記載内容に変化はなく、8月公表の補正版評価書においても記載がなかった。
イメージ 1
環境影響評価準備書に対する山梨県知事意見 24ページより
 
いっぽう4月公表の評価書に対する国土交通大臣意見においては、大柳川流域を含む巨摩山地から伊那山地にかけての区間では、精度の高い予測をおこなうよう求めている。これは行政指導であるため、常識的には従っているはずであり、したがって大柳川における流量予測は行われているものの、その結果は何らかの理由によって補正版評価書に記載されていないとみるのが自然である。
 
大臣意見は予測結果を評価書に補正版評価書に記載するよう求めているわけではないが、山梨県知事意見および環境影響評価法第25条の規定を勘案し、本来は載せなければならない重要な事項である。
 
そもそも、補正版評価書に予測結果が掲載されていなければ、許認可審査担当者である国土交通大臣は、トンネル工事による環境への影響の程度を把握することもできないし、環境保全措置の妥当性も検証することができないはずである(水資源に関係する情報は、希少動植物の生息情報のように非公開にする理由はないので、公開されないままで審査材料とされることはあってはならない)。
 
山梨県でリニア計画に疑問を持つ方がおられるのなら、「大柳川流域における流量予測結果が評価書に掲載されていない」ことを、「評価書審査のための環境情報の不足」としておおいに問題視すべきであろう。
 
 
なお、第四南巨摩トンネルは大柳川流域を完全に横断し、途中に斜坑も設けられないことから、河川流量を減少させてしまった場合、トンネル内への湧水を川に戻すことが物理的に不可能である。

静岡版評価書 ひどいぞ…

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現在、静岡市役所において、中央新幹線建設事業に関して市民の声を募集しています。静岡市長の鶴の一声で、「南アルプスを守るために市民の皆様の議論が必要」として、急きょ設けられたものです。
 
10月2日締め切りとなっております。リニアと南アルプスとの関係について、「なんかおかしくない?」「こうやって守るべき」というご意見をお持ちの方、ぜひ意見を出してみましょう。
 
 

ところで、先月26日に補正評価書が公示されてから2週間以上、ずっと静岡版評価書の内容を検証しているのですが、それにしてもひどい。細かく見てゆくと何十もの問題点が見つかるのですが、主だったものをあげてみます。
 
 
【間違い】
●評価書資料編で現地確認されたとする植物73種が、評価書本編では確認されていないことになっている。
 
【ムチャクチャな論理展開】
●生態系の項目において、異なる気候条件や地形条件のもとに成立し、特徴の大きくことなる数種類の森林について、すべてひとまとめにしたうえで、その中から工事予定地と関係のない森林を予測対象にし、改変しないから影響がないという意味不明な論理展開をしている。
 
●南アルプス聖岳や光岳へ向かう登山者は、登山口と、登山拠点である宿泊施設や駐車場との間をつなぐ林道上を歩いて移動している。この林道を、大量の工事用車両が通行する計画である。このため、登山客への影響が懸念されるが、どういうわけかヘリクツをごねて調査対象としていない。
 
●長さ3㎞の工事用トンネルを2本掘り、その中に工事用車両を通すため、騒音が減少し、車両を視認しにくくなるため、猛禽類への影響が緩和されるとし、環境保全措置に位置付けている。長さ3㎞のトンネルを掘るには2~3年の間、地上を大量のダンプカーが通ることになるが、その影響については何も言及していない。そもそも、この工事用トンネルが環境破壊の原因である。
 
●植物の重要種選定基準が、同じ大井川源流域の隣接した場所なのに、どういうわけか調査場所によって異なる。
 
【予測・評価内容について検証ができない】
●河川流量が大幅に減少すると大騒ぎになっているが、そもそも実際の川にどれだけの流量があるのか記載されておらず、予測値の妥当性を問うことができない。
 
●工事のアクセス道路となる総延長40㎞近い林道について、改修工事による影響を予測するために動植物の調査をおこない、重要種とされる数十種類について、いずれも影響はないと結論付けている。しかしどこで確認されたのか全くわからず、本当に工事による影響はないのか検証しようがない。
 
【不自然な調査結果】
●水質予測のために、豊水期と低水期に河川流量を測定しているが、なぜか低水期のほうが流量が多かった地点がある。そのデータについて、検証をすることなく予測の前提としているため、意味不明な予測結果が出ている。
 
●これまで静岡県内および南アルプスでは分布の確認されていない植物が数種現地確認されている。本物だったら保全対象種とすべきであるが、同定の信頼性についての検証をおこなっていない。
 
●騒音の測定地点一か所が川の堰堤近傍であったため、調査結果に川の音が大きく現れていた。こうした自然由来の音は暗騒音としてノイズ扱いされるので調査地点を変えなければならないが、なぜかこれをそのまま試算の前提に使っている。そのため、「もともとうるさい場所だったので工事用車両の通行による影響は小さい」という妙な結論が導き出されている。

【おかしな環境保全措置】
●工事従事者への教育
 
⇒教育されるべきはこんな評価書をつくったJR東海のほう‼
 
●大井川の水がトンネルを通じて東隣の早川方面へ2㎥/s減少するとの予測に対し、トンネル内へ湧きだした水をくみ上げて対応するとしている。しかしこれを実行すると、現在大井川から早川へ導水している発電所の出力を上回るエネルギーが必要となるので、くみ上げるだけムダである。
 
●同じく、大井川の水が2㎥/s減少した場合、井戸を掘ってまかなうという。2㎥/sもの水を井戸でまかなえば、その分、井戸周辺で川の水が減ってしまう。つまり、水の消える場所が変わるだけで、環境保全措置としての意味がない。
 
●河川流量を減少させないための対策として、「適切な構造及び工法の採用」「地下水等の監視」とがあげられ、いずれも効果の不確実性はないとしている。しかし山梨実験線でのトンネル工事において、河川流量を減少させる可能性を予測しておきながら、それを回避することができなかったとしており、施された環境保全措置は功を奏さなかったはずである。
 
●総延長40㎞近い林道を、毎日400往復前後の大型車両が通行するため、小動物がひかれてしまうおそれがある、もとより個体数の少ないサンショウウオ類等にとっては個体群の存続にかかわる一大事である。これについての対策として、「運転手の努力にまかせる」というトンデモ案が出されている。ちっぽけなカエルやサンショウウオを運転席から見つけ、直前でブレーキをかけるなんてできるわけない。
 
●外来植物の侵入対策として、工事用車両のタイヤを洗浄するとしている。しかしこれだけでは、積荷に付着して侵入するケースに対応できず効果が弱い。もっと有効な案を考えるよう、準備書段階でも指摘されているのに対応していない。
 
【国土交通大臣意見を無視】
●JR東海のあげた発生土置場のうち、特に規模の大きな2か所については、国土交通大臣意見で求められた選定要件を全く満たしていない。
 
 
面倒だからいちいち評価書を複製しませんが、こんな具合でヘンな記述がたくさんあるのです。こりゃ、マズいですよ。
 
何がマズいって、自然環境に取り返しのつかない悪影響を及ぼすだけじゃなく、そういう行為を進める事業者(=JR東海)が、自ら工事を行おうとしている場所が環境保全上特に重要な場所であるという認識、そして自らがおこなう行為がとてつもない環境破壊を引き起こすという認識、どちらも持ち合わせていないってことです。
 
本当に真剣に南アルプスの自然環境が重要なものだと認識し、それでもなおリニアの工事が必要なものだとして十二分な事前調査と学習を行い、万全の環境対策をとるというのなら、こんな論理破綻したアホな評価書なんて作らないはずですから。
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