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Channel: リニア中央新幹線 南アルプスに穴を開けちゃっていいのかい?
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本当に南アルプスでも安全に避難できるのかな?

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去る3月1日金曜日、秋田新幹線が脱線するという事故がありました(新幹線とはいっても在来線区間)。
 
秋田県内のJR奥羽本線にて、猛吹雪のなかで「こまち25号」が脱線し、乗客130人が6時間にわたって車内に閉じ込められたということです。
 
時速20㎞/h走行での脱線ということで、幸いにも怪我人はありませんでしたが、動かない列車のなかで、水も食べ物もないまま6時間待たされるというのは、けっこうしんどいだろうなあ…と思います。
 
脱線に限らず、列車が緊急停止したときって、けっこう避難に時間がかかるもののようです。
2011年4月7日深夜、宮城県沖でM7.1が地震が発生し、東北新幹線が停止した際には、八甲田トンネル内(長さ26㎞)に停止した車両から乗客を避難させるのに4時間かかったそうです。このときの乗客は15人。
 
2011年5月27日に、北海道のJR石勝線で特急列車が脱線・転覆した状態でトンネル内に停止し、火災が発生して車両が全焼するという事故が起こりました。このときは乗客へのアナウンスがなく、自己判断で非常ドアを開けて命からがら脱出したということです。
 
大事故でなくとも、ダイヤの乱れで駅間に列車が停止し、長時間待たされるなんてことは、首都圏の方なら誰しも経験がおありだと思います。10分くらいならまだしも、20~30分ともなると足は疲れるしトイレに行きたくなったり…。
 
◇   ◇   ◇   ◇   ◇
 
リニア中央新幹線は、先行区間である東京-名古屋286㎞のうち、およそ8割がトンネルになるとされています。おおよそ230kmがトンネルになるということです。
 
先行区間においては、上下線合わせて10本の列車を運行するとされています。名古屋まで47分で到達することを考慮すると、ある瞬間には計8本の列車が路線上に存在することになります。平均すると、30km弱の間隔で存在することになります。
 
ということは、大地震等の際に一斉に停止した際、8本の列車の8割すなわち6~7本の列車がトンネル内に停止することになります。乗車率60%とすれば、3400~4000人の乗客を乗せていることになります。
 
トンネル内に停止した列車から、乗客の避難誘導が迅速におこなえるのでしょうか?

リニア計画を審議した国土交通省中央新幹線小委員会では、この点については全く議題にあがりませんでした。審議の最中に東日本大震災が発生したのにも関わらずにです
 
なお、JR東海のホームページにはこのような質疑が掲載されています。
 
(質問)トンネル内で列車が停止した場合の避難はどうするのですか。移動に制約のある乗客の避難はどうするのですか。
(回答)既に、国内では長さ20kmを超える上越新幹線大清水トンネル等の長大山岳トンネルがあり、万一の際の避難対策についても知見が蓄積されており、中央新幹線においても、それらと同様の対策を講ずることが基本となります。
 避難設備については、都心部の大深度区間においては、トンネルの下部に安全な避難通路を設けると共に、5kmから10kmおきに配置する地上と繋がる立坑内にエレベータ等の昇降装置を設置して、地上までの安全な避難経路を確保します。また、山岳トンネル区間においては保守用通路及び斜坑を避難通路として活用できるように整備します。
 列車には乗務員(複数)を乗車させる考えであり、異常時には乗務員がお客様の避難誘導を行います。
移動に制約のあるお客様については、新幹線と同様に、降車の際に乗務員が補助するほか、周囲のお客様のご協力を得ることも考えています。具体的には、今後検討してまいります。
イメージ 1
 
いかがでしょうか。

 東京、名古屋では、地表からの深さ40~50mのところにトンネルが掘られます。東京都内や名古屋市内の一般的な地下鉄よりも、さらに10~20m深い位置になります。

 リニアの縦坑は5~10㎞おきに設置されることになっていますが、これは1~2㎞おきに駅が設けられる通常の地下鉄に比べると、地上への脱出口の間隔が5倍以上になることを意味し、万一の避難の際には地下鉄の5倍以上の距離をたどらなければならないことになります。大地震の際など、大混乱の中で迅速な避難が可能なのでしょうか?

 また、上越新幹線大清水トンネルの例が挙げられていますが、南アルプスの長大トンネルの場合は、全く条件が異なります。 

20kmを越す大清水トンネルや東北新幹線のトンネルには3~4ヶ所程度の斜坑が設けられており、乗客を誘導すべき距離は2~3km、長くて5kmほどとなります。
 
リニアのルート上で南アルプスの幅は52㎞程度あり、おそらく3本のトンネルで貫かれます。
 
イメージ 4

このうち南アルプス本体の赤石山脈を貫く最長トンネル(23km程度)には、大井川源流の二軒小屋1ヶ所にしか斜坑が設けられないうえ、その斜坑自体が4km程度の長さがあります。片方の坑口がふさがれるなど最悪の場合、トンネルの中を10km以上も歩かなければならないことになります。
 
イメージ 2
東北新幹線岩手一戸トンネル(25.8km)と、南アルプスのトンネル(推定23km)の断面比較
 
 
トンネルの立地条件が上越新幹線等の場合と大きく異なることも大問題です。
 
大清水トンネルの場合、いずれも出入り口や斜坑は平地に設けられています。そばに国道も通っているため、脱出した乗客を比較的迅速に大型バス等で迎えに行くことが可能です。上の例に挙げられている岩手一戸トンネルも同様です。
 
いっぽう南アルプスの長大トンネルは、出入り口も斜坑も険しい山奥に設けられます。
 
大鹿村釜沢の場合、村の中心部までは林道を約4㎞もたどらなければなりません。二軒小屋という場所にいたっては、最寄の集落まで40㎞も離れた秘境です(登山者用のロッジがあるものの、当然、数百人も収容することは不可能)。
 
こんな場所にまで、どうやって大量の乗客を向かえに行くというのでしょう。秘境の温泉宿や登山客が孤立するようなケースでは、少人数ですかからマイクロバスや救助機関の車両あるいはヘリコプターでの輸送が可能ですが、リニアの場合は数百人を輸送しなければなりません。バスが不可欠でしょうが、大型車両が簡単に入れる場所でもありません。
 
さらに、外部に通ずる林道沿いには崩壊地や地すべりがいくつもあり、リニアが一斉停止するような大地震でも起これば確実に数ヶ所で寸断されます。山梨県側の早川の谷も、比高1000mのきわめて急峻な谷底にあり、山崩れが起きれば孤立する可能性があります。なにしろ日本を代表する大断層の中央構造線と糸魚川-静岡構造線に沿った谷が出口で避難経路なのです。そんな場所ですから、避難中に余震で二次災害に巻き込まれる可能性だって大いにあります。
 
イメージ 3
予想される避難経路と周辺の巨大崩壊地
 
かといって小渋川、二軒小屋、早川からの脱出を断念すれば、それは南アルプス全体を横断する52kmもの区間が、出入り口を除いて外部から孤立することを意味します。大地震の際にトンネル内を20kmも歩いて非難しろというのも危険で困難です。

さらに特殊な場所ゆえ、気候も大問題になります。
 
脱出した先の小渋川の谷は標高約800m。しかも谷底なので、冬場は相当に寒いはずです。あくまで推測ですが、おそらく1月の最低気温は月平均でも-7~-8℃、冷え込む日なら-15℃以下にまで下がるのでしょう(長野県南部のアメダス観測値から推定)。さらに二軒小屋は標高1400mの谷底であり、晴れた日の夜間~朝には-20℃くらいにまで下がるはずです。

もともと寒いところを走る路線なら、乗客もそれ相応の服装をしているはずですが、東京-名古屋-大阪を移動する乗客が、スキー場に行くような服装をしているはずがありません。

要するに南アルプスという場所を通る以上、そこでの緊急時は都市生活では遭遇しえないような事態が起こりえるのです。数百人にサバイバルをしいるような事態も、決して想定外ではありません。
 
 
それぞれの坑口に、数千人分の食料、防寒服、毛布、登山靴、ヘルメットおよびザイルやランタンなどを常備しておくというのでしょうか?
 
 
こんな場所を避難路とするのは、明らかに間違っています。わざわざ災害のリスクを高めているようなものです。こんなことが審議対象にもなっていないのも、異常な状況だと思います。
 

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