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Channel: リニア中央新幹線 南アルプスに穴を開けちゃっていいのかい?
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南アルプスルートという災害リスク

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前回の記事で、掲載しようとしていた図を貼り付けるのを忘れておりました。再度貼りなおし、内容も少々書き加えます。
 

リニア中央新幹線は、東海地震や南海トラフ巨大地震が発生したときにも東京-名古屋-大阪の行き来を確保することが、建設の大目標なのだそうです。というわけで、以下の内容は東海地震・南海トラフ巨大地震を念頭に置いたものとなっています。
 
リニア中央新幹線は、先行区間である東京-名古屋286㎞のうち、およそ8割がトンネルになるとされています。おおよそ230kmがトンネルになるということです。
 
先行区間においては、上下線合わせて10本の列車を運行するとされています。名古屋まで47分で到達することを考慮すると、ある瞬間には計8本の列車が路線上に存在することになります。平均すると、30km弱の間隔で存在することになります。
 
ということは、大地震等の際に一斉に停止した際、8本の列車の8割すなわち6~7本の列車がトンネル内に停止することになります。乗車率60%とすれば、3400~4000人の乗客を乗せていることになります。
 
トンネル内に停止した列車から、乗客の避難誘導が迅速におこなえるのでしょうか?

リニア計画を審議した国土交通省中央新幹線小委員会では、この点については全く議題にあがりませんでした。審議の最中に東日本大震災が発生したのにも関わらずにです
 
なお、JR東海のホームページにはこのような質疑が掲載されています。
 
(質問)トンネル内で列車が停止した場合の避難はどうするのですか。移動に制約のある乗客の避難はどうするのですか。
(回答)既に、国内では長さ20kmを超える上越新幹線大清水トンネル等の長大山岳トンネルがあり、万一の際の避難対策についても知見が蓄積されており、中央新幹線においても、それらと同様の対策を講ずることが基本となります。
 避難設備については、都心部の大深度区間においては、トンネルの下部に安全な避難通路を設けると共に、5kmから10kmおきに配置する地上と繋がる立坑内にエレベータ等の昇降装置を設置して、地上までの安全な避難経路を確保します。また、山岳トンネル区間においては保守用通路及び斜坑を避難通路として活用できるように整備します。
 列車には乗務員(複数)を乗車させる考えであり、異常時には乗務員がお客様の避難誘導を行います。
移動に制約のあるお客様については、新幹線と同様に、降車の際に乗務員が補助するほか、周囲のお客様のご協力を得ることも考えています。具体的には、今後検討してまいります。
 
イメージ 1
 
いかがでしょうか。国土交通省中央新幹線小委員会資料とありますが、実質的に、何の審議もしていません。

 東京、名古屋では、地表からの深さ40~50mのところにトンネルが掘られます。東京都内や名古屋市内の一般的な地下鉄よりも、さらに10~20m深い位置になります。

 リニアの縦坑は5~10㎞おきに設置されることになっていますが、これは1~2㎞おきに駅が設けられる通常の地下鉄に比べると、地上への脱出口の間隔が5倍以上になることを意味し、万一の避難の際には地下鉄の5倍以上の距離をたどらなければならないことになります。大地震の際など、大混乱の中で迅速な避難が可能なのでしょうか?

 また、上越新幹線大清水トンネルの例が挙げられていますが、南アルプスの長大トンネルの場合は、全く条件が異なります。

20kmを越す大清水トンネルや東北新幹線のトンネルには3~4ヶ所程度の斜坑が設けられており、乗客を誘導すべき距離は2~3km、長くて5kmほどとなります。
 
リニアのルート上で南アルプスの幅は52㎞程度あります。そしてここを横断するために、南アルプスを構成する巨摩山地、赤石山脈(南アルプス本体)、伊那山地という3つの山脈に、それぞれ10㎞超の長大トンネルが掘られるものと思われます。
 
イメージ 2
 
このうち赤石山脈を貫く最長トンネル(23km程度)には、大井川源流の二軒小屋1ヶ所にしか斜坑が設けられないうえ、その斜坑自体が4km程度の長さがあります。片方の坑口がふさがれたり、火災が発生したときなど最悪の場合、トンネルの中を10km以上も歩かなければならないことになります。イメージ 3
東北新幹線岩手一戸トンネル(25.8km)と、南アルプスのトンネル(推定23km)の断面比較

 
一般的にトンネル構造は揺れに強いものです。しかし東海地震、あるいは南海トラフの連動地震は、南アルプスにおいては直下型地震になります。震動が激しいだけでなく、トンネルを掘った山地自体が変形しますので、トンネルの壁などに大きな力がかかり、大きな損傷を受けるおそれはないのでしょうか。
 
 
 
トンネルの立地条件が上越新幹線等の場合と大きく異なることも大問題です。一番上に掲げた、JR東海作成の資料では、「外に出るまで」しか考えていません。
 
大清水トンネルの場合、いずれも出入り口や斜坑は平地に設けられています。そばに国道も通っているため、脱出した乗客を比較的迅速に大型バス等で迎えに行くことが可能です。上の例に挙げられている岩手一戸トンネルも同様です。
 
いっぽう南アルプスの長大トンネルは、出入り口も斜坑も険しい山奥に設けられます。
 
大鹿村釜沢の場合、村の中心部までは林道を約4㎞もたどらなければなりません。二軒小屋という場所にいたっては、最寄の集落まで40㎞も離れた秘境です(登山者用のロッジがあるものの、当然、数百人も収容することは不可能)。
 
こんな場所にまで、どうやって大量の乗客を向かえに行くというのでしょう。秘境の温泉宿や登山客が孤立するようなケースでは、少人数ですかからマイクロバスや救助機関の車両あるいはヘリコプターでの輸送が可能ですが、リニアの場合は数百人を輸送しなければなりません。バスが不可欠でしょうが、大型車両が簡単に入れる場所でもありません。
 
さらに、外部に通ずる林道沿いには崩壊地や地すべりがいくつもあり、リニアが一斉停止するような大地震でも起これば確実に数ヶ所で寸断されます。山梨県側の早川の谷も、比高1000mのきわめて急峻な谷底にあり、山崩れが起きれば孤立する可能性があります。なにしろ日本を代表する大断層の中央構造線と糸魚川-静岡構造線に沿った谷が出口で避難経路なのです。そんな場所ですから、避難中に余震で二次災害に巻き込まれる可能性だって大いにあります。
 
イメージ 5
この図は南アルプスにおける巨大な崩壊地の分布を示しています。いずれも崩壊土砂の量が数百万立方メートル以上もあります。現在も崩壊が続いています。これら巨大崩壊地からの土砂流出は、人の力で制御できるものではありません。まして東海地震でも起これば、再び大規模な崩壊が起こりえます。
 
事実、図の右側にある大谷崩れは1703年元禄関東地震と1707年宝永地震で、七面山崩れは1854年の安政東海地震で大規模に崩壊したとされています。一帯においては、大地震時の土砂災害リスクが高いことは明白なはずです。なお南アルプス山中は無人地帯なので、過去の巨大地震発生時の詳細な様子はわかっていません。
 
そして新たに追加した図です。
 
イメージ 4
 
こちらは防災科学研究所の「地すべりデータベース」の図にリニアのルート、トンネルから外部への通路を加筆したものです。黒く塗られているのが、地すべり地形と判断されるものです。地すべりというのは、山の斜面がじわりじわりとゆっくり滑ってゆく現象のことです。大地震や集中豪雨が起きた際に、土砂災害が最も起こりやすい場所といえます。南アルプス長大トンネルからの避難経路沿いには、数多くの地すべりが分布していることが一目瞭然です。
 
このように、トンネル坑口付近およびトンネルに達する林道沿いは、大地震の際に土砂災害に見舞われる可能性が非常に高いはずです。かといって小渋川、二軒小屋、早川からの脱出を断念すれば、それは南アルプス全体を横断する52kmもの区間が、出入り口を除いて外部から孤立することを意味します。大地震の際にトンネル内を20kmも歩いて非難しろというのも危険で困難です。

さらに特殊な場所ゆえ、気候も大問題になります。
 
脱出した先の小渋川の谷は標高約800m。しかも谷底なので、冬場は相当に寒いはずです。あくまで推測ですが、おそらく1月の最低気温は月平均でも-7~-8℃、冷え込む日なら-15℃以下にまで下がるのでしょう(長野県南部のアメダス観測値から推定)。さらに二軒小屋は標高1400mの谷底であり、晴れた日の夜間~朝には-20℃くらいにまで下がるはずです。
 
上記の通り、林道が寸断されれば数日間にわたって二軒小屋に足止めされるか、あるいは数十kmを歩かなければなりません。-10℃以下の谷底で、果たして耐えられるものなのでしょうか?

もともと寒いところを走る路線なら、乗客もそれ相応の服装をしているはずですが、東京-名古屋-大阪を移動する乗客が、スキー場に行くような服装をしているはずがありません。

要するに南アルプスという場所を通る以上、そこでの緊急時は都市生活では遭遇しえないような事態が起こりえるのです。数百人にサバイバルをしいるような事態も、決して想定外ではありません。
 
 
それぞれの坑口に、数千人分の食料、防寒服、毛布、登山靴、ヘルメットおよびザイルやランタンなどを常備しておくというのでしょうか?
 
 
こんな場所を避難路とするのは、明らかに間違っています。わざわざ災害のリスクを高めているようなものです。
 
そして、なぜ東海地震時の災害リスクが非常に大きな場所に、「東海地震に備えるために必要」とされるリニア中央新幹線を通すのでしょうか?
 
冒頭に掲げた建設目的は、南アルプスという場所が抱える東海地震時の災害リスクを評価したうえでなければ成り立たないはずです。それゆえ、こんなことが審議対象にもなっていないのは、異常な状況だと思います。

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