Quantcast
Channel: リニア中央新幹線 南アルプスに穴を開けちゃっていいのかい?
Viewing all articles
Browse latest Browse all 483

大井川 河川流量予測式の検証作業を求めるべきでは?

$
0
0
南アルプスにリニア中央新幹線のトンネルを建設すると、「南アルプスの静岡県部分を流れる大井川の流量が毎秒2トン減少する」という準備書の記載内容が波紋を呼び、大騒ぎとなっています。
 
ところが、この「毎秒2トン」という数字について、JR東海はもとより県とか市とか、しかるべき機関が検証をおこなったという話は寡聞にして聞きません。
 
何だか分からないけれども、同じ静岡県版準備書の「水資源」のページにあった計算上の現況値と、「水質」のページにあった実測に基づく現況値とが、まるっきり異なる値を示しています。
 
イメージ 1
 
イメージ 2
 
これらの図についての詳細はこちらをご覧になっていただきたいのですが、まずはこのモデル式なり観測の状況なりを、きちんと検証すべきだと思います。そうしなければ、まったく話になりません。
◇   ◇   ◇   ◇   ◇
 
 
長野県では、この”解析値”と実測値との相関性を調べているようで、その結果が県の第2回準備書審議会で出され、その後にインターネット上に公開されています。そもそも常識的に考えて、そういう資料があるのになぜ準備書に載せなかったのでしょう?
 
それがこちら。
イメージ 4
 
イメージ 3
ちょっと本題から外れますが、この資料によれば、流量の観測は平成19年から行っていたことになっています。平成19年(2006年)といえば、JR東海がリニア構想を発表する前年であり、環境影響評価の始まった平成23年より4年も前のことです。
 
アセス開始以前に調査を始めていたことになります。
 
これは違法ではないけれども、環境影響評価の手続として考えると非常におかしな話です。各種調査をおこなう方法を記載した図書を方法書と呼び、これに対して自治体や住民からの意見を受け付けるのが、環境影響評価の手続だからです。JR東海の姿勢は、この制度をないがしろにしたことになります。そういう批判があがるのをおそれて、準備書には記載しなかったのでしょうか?
 
さて本題に戻ります。
 
この図は、長野県内の小渋川流域において、予測式が実際の河川流量をうまく表現できているかを検証するためのものです。X軸(横方向)が実際に観測された流量、Y軸(縦方向)に計算上の流量となっています。Y=Xの直線上なら観測値:計算値=1:1で正確に再現できていることを意味します。
 
なお、目盛をよく見ると、対数表示になっていますのでご注意ください。目盛が右・上に向かうにつれて10倍になっています。値に大きな差がある事象を一枚の図で表示するための目盛です。
 
色別(つまり季節・年毎)に見ると、右上がりの一直線上にあり、相関関係はあるようです。ただし相関関係はあるものの、それが即、上手に予測できていることを意味するわけではありません。全体としてY=Xの直線よりも下側に偏っています。すなわち計算上の流量は、実際に観測された流量より少なく出ている傾向にあることがうかがえます。
 
それから、相関関係は年ごとにバラつきがあり、「H20渇水期」「H21渇水期」はY=Xの直線に沿っているものの、「豊水期」とされたものはおしなべてばらついています。

つまり、渇水期の予測はよい傾向にあり、豊水期の再現性は悪いことが伺えます。
 
河川水のうち、降水の影響を受けず、恒常的に流れている成分については比較的良好に再現できているものの、降水の影響を受けやすい浅い地層中の地下水の影響が予測できていないということかな?
 
それとも渇水期の状況を上手に再現するように予測式がつくられたということなのでしょうか?
 
予測式は、偏微分方程式という複雑な数式です。前にも書きましたが、これが適切といえるのか、私の脳ミソではよく分かりません。ただ、うろ覚えの知識で推測しますと、この式は岩盤中に仮想の地下水面を想定し、トンネル工事や降水によって水面が上下方向にどのように変動するかをコンピュータ上で再現するというような意味だと思います。
イメージ 5
もし渇水期の状況を再現するように予測式がつくられ、降水など外部の影響をうまく再現できていないとすれば、トンネル工事という外部からの影響予測についても、上手に再現できないのではないかという不安があるような気がします(専門家ではないのでうかつなことは言えませんが)。
 
 
それから、ここを例にするだけではなく、実際にトンネルを掘って水枯れを起こした山梨実験線の川も例にすればいいのに…

式の意味はともかく、この相関図については、これ以上のことは何も分かりません。一番の疑問は、どのプロットがどこの観測地点を示しているのか分からないということです。
 
たとえば「H21豊水期(茶色の)」では、観測:試算において1:1と正確に当てた場所もあれば、1:0.07と大外れの場所もあります。1:0.07となると、試算は実際の1/14となり、全く実態を反映できていないことになります。
 
また、もう少し客観的に見定めるためには、降水量と流量の関係なども提示する必要があります。まだまだ資料不足という印象はぬぐえません
 
さらに、「流量と実際の河川空間との関係がよく分からない」という問題もあります。
 
こうして流量予測の検証を行うのは、ひとえにトンネル工事による影響を予測するための、環境アセスメントの一環だからです。工事の影響ということを考えた場合、同じ流量であっても、浅くて流れの速い場所と、深くて緩やかな場所とでは、トンネル工事で水位が減少した場合の影響の受け方が大きく異なるのではないのでしょうか。
 
《流量=断面積×流速》ですので、流量を観測する場合は必ず河川断面の測量を行います。したがって水位(水深)も調べているはずです。この水位に関するデータも合わせて出してもらわないと、その河川がどのような環境にあるのか、よくわからないのです。
 

それでも、長野県においてはこうした資料を出しているだけマシでしょう。静岡県の場合、この手の資料が全く出されていません。もしかしたら審議会の場では出ているのかもしれませんが、少なくとも公開されてはいません(非公開にする理由もなかろうに)。
 
◇   ◇   ◇   ◇   ◇

静岡の場合、トンネルを掘った場合における流量の予測値だけが出され、そこで「2㎥/sの減少」という値が示され、大騒ぎになっているところです。
 
しかしながら、これはそのまま鵜呑みにしてよい数字なのでしょうか?
 
「2㎥/sの流れ」というものを冷静に考えてみます。単位を見て分かるとおり、1秒あたり2㎥が流れるということです。すなわち、幅2m、深さ1mの排水溝を、秒速1m(かなり速いです)で水が流れていることになります。幅4m、深さ50㎝でも、幅8m、深さ25㎝でも同じことですが…。(注 実際には摩擦の影響があるのでこうはならない)
 
この数字からイメージできるように、「2㎥/sの流れ」というのはちょっとした川に相当します。JR東海の予測では、これだけの流れがトンネル内に生じることになるわけですので、もし実際にそのような状況となったら、トンネル自体を維持できるのか、甚だ疑わしいところです。
 
というわけで、非現実的な気もします。
 
で、その予測の妥当性を知りたいところだけれども、検証作業については全く行っていないわけです。

現在、大井川源流部において予測値と実測値とを比較できるのは2地点(二軒小屋取水堰下流と東俣)だけです。この2地点について、さきほどの長野県側における相関図に当てはめてみると、次のようになります。
 
イメージ 6
印が大井川の2地点です。大騒ぎのもととなったのは上側ので、試算値は実測値の7倍と、かけ離れた値を示していることが分かります(実測値:試算値=1:7)。ちなみに「9㎥/sの流れ」とは幅18m、深さ50㎝程度、流速1m/sという川となります。そもそも源流部に、こんなに水があるのかな? 

ともかく、これじゃあ信頼できません
 
先日、静岡県の環境影響評価審査会の答申がまとまり、県知事に提出されました。これを微調整して知事意見として提出されることになりますが、一見したところ、「流量予測の検証作業をおこなえ」とは書いてないようです。
 
「予測式の再現性について検証作業を行い、評価書に記載すること」という一文を入れるべきだと思うのですが…。
 

Viewing all articles
Browse latest Browse all 483

Trending Articles



<script src="https://jsc.adskeeper.com/r/s/rssing.com.1596347.js" async> </script>