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Channel: リニア中央新幹線 南アルプスに穴を開けちゃっていいのかい?
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リニア 静岡県版補正評価書の問題点 その2

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現在、静岡市役所において、中央新幹線建設事業に関して市民の声を募集しています。静岡市長の鶴の一声で、「南アルプスを守るために市民の皆様の議論が必要」として、急きょ設けられたものです。
 
10月2日締め切りとなっております。リニアと南アルプスとの関係について、「なんかおかしくない?」「こうやって守るべき」というご意見をお持ちの方、ぜひ意見を出してみましょう。
 
 

 
JR東海の作成した補正評価書の検証を始めて約3週間が経過。一度目を通せば分かると思いますが、評価書というのは実に読みづらいものです。そんなわけで読むのに手間取って、ブログの更新も滞っています。
 
 
それにしてもまあ、よくもこれだけムチャクチャな内容で事業認可を申請したものだなあ…
 
というわけで、前回に引き続き、静岡県版評価書の主だった問題点を並べてみようと思います。今回、新たに追加したものについては赤い字で示しておきます。
 
本日(22日月曜日)、マスコミ向けのリニア体験乗車が行われ、「リニア技術スゲーぞ!」って、なんだかもう開業したかのような騒ぎになってますが、リニア技術以前に、事業認可申請に必要な環境影響評価書を満足に作成できていないという情けない状況であることも、報道してもらいたいものです。
 

【間違い】
●評価書資料編で現地確認されたとする重要な植物種73種が、評価書本編では確認されていないことになっており、環境影響評価の対象となっていない。なお、該当種は全て南アルプス国立公園内指定種というもので、評価書の補正過程で追加されたものであり、全体の補正が間に合っていなかったという壮大な凡ミス(?)とみられる。
 
●工事用車両の通行による猛禽類への影響を低減するために、「環境保全措置」として道路トンネルの設置をおこなうとし、他の環境への影響はないとしている。そのいっぽう、工事用道路トンネルの建設により騒音が生じて猛禽類に影響を与えるおそれがあるから事後調査の対象にするとしている。わけがわからない。
 
●工事用車両の通行が椹島ロッヂ(登山拠点・宿泊施設)に与える影響(視認性)について、「椹島ロッヂは車両の通行する林道から600m離れているから影響は小さい」としている。実際には、椹島ロッヂは林道に隣接しているので、この表現は誤りである。
 
●植生区分の概念について、根本的に誤っている。成立するための気候条件が異なる森林(亜高山針葉樹林と落葉広葉樹林)や、土地条件の大きく異なる場所(河原と斜面上の森林)をいっしょくたにして考えるなんてことはありえない。
 
【ムチャクチャな論理展開】
●生態系の項目において、異なる気候条件や地形条件のもとに成立し、特徴の大きくことなる数種類の森林について、すべてひとまとめにしたうえで、その中から工事予定地と関係のない森林を予測対象にし、改変しないから影響がないという意味不明な論理展開をしている。
 
●南アルプス聖岳や光岳へ向かう登山者は、登山口と、登山拠点である宿泊施設や駐車場との間をつなぐ林道上を歩いて移動している。この林道を、大量の工事用車両が通行する計画である。このため、登山客への影響が懸念されるが、どういうわけかヘリクツをごねて調査対象としていない。
 
●長さ3㎞の工事用トンネルを2本掘り、その中に工事用車両を通すため、騒音が減少し、車両を視認しにくくなるため、猛禽類への影響が緩和されるとし、環境保全措置に位置付けている。長さ3㎞のトンネルを掘るには2~3年の間、地上を大量のダンプカーが通ることになるが、その影響については何も言及していない。そもそも、この工事用トンネルが環境破壊の原因である。
 
●植物の重要種選定基準が、同じ大井川源流域の隣接した場所なのに、どういうわけか調査場所によって異なる。
 
●静岡県内には恒久的な残土捨て場を計画している。それなのに、「他の事業への再利用に回すから環境保全がなされる」としている。
 
【調査不足】
●工事用道路トンネルや斜坑の建設にともなう影響がほとんど扱われていない。合計8~9㎞にもおよび、これだけで県条例に基づくアセス対象の規模なんだけれども。
 
●残土捨て場の存在による景観への影響が十分に予測されていない。これは県知事意見を無視したことになる。
  
【予測・評価内容について検証ができない】
●河川流量が大幅に減少すると大騒ぎになっているが、そもそも実際の川にどれだけの流量があるのか記載されておらず、予測値の妥当性を問うことができない。
 
●工事のアクセス道路となる総延長40㎞近い林道について、改修工事による影響を予測するために動植物の調査をおこない、重要種とされる数十種類について、いずれも影響はないと結論付けている。しかしどこで確認されたのか全くわからず、本当に工事による影響はないのか検証しようがない。
 
●動物や植物の現地調査をどこで行ったのか示していない。そのため適切な場所が選定されたのか不明である。
 
【不自然な調査結果】
●水質予測のために、豊水期と低水期に河川流量を測定しているが、なぜか低水期のほうが流量が多かった地点がある。そのデータについて、検証をすることなく予測の前提としているため、意味不明な予測結果が出ている。
 
●これまで静岡県内および南アルプスでは分布の確認されていない植物が数種現地確認されている。本物だったら保全対象種とすべきであるが、同定の信頼性についての検証をおこなっていない。
 
●騒音の測定地点のうち一か所が川の堰堤近傍であったため、調査結果に川の音が大きく現れていた。こうした自然由来の音は暗騒音としてノイズ扱いされ、本来は調査地点を変えなければならないが、なぜかこれをそのまま試算の前提に使っている。そのため、「もともとうるさい場所だったので工事用車両の通行による影響は小さい」という妙な結論が導き出されている。
 
●山奥の林道において大量の工事用車両の通行が計画されており、林道の改修も計画されているため、動植物への影響が懸念されている。このため各種動植物の生息状況調査が行われたが、ところがどういうわけだか鳥類調査だけ行われていない。
 
【おかしな予測・評価方法】
●大量の工事用車両が林道を通る計画である。これが希少猛禽類に与える影響について考慮したのか不明である。
 
●イワナ類等の水生生物について、生息環境の改変は最小限にとどめるから影響は小さいと結論付けている。しかし河川流量減少による影響は無視している。
 
●生態系の項目において、直接破壊される森林や河原の生態系が調査対象になっていない。

【おかしな環境保全措置】
●工事従事者への教育・講習
 ⇒教育されるべきはこんな評価書をつくったJR東海のほう‼
 
●大井川の水がトンネルを通じて東隣の早川方面へ2㎥/s減少するとの予測に対し、トンネル内へ湧きだした水をくみ上げて対応するとしている。しかしこれを実行すると、現在大井川から早川へ導水している発電所の出力を上回るエネルギーが必要となるので、くみ上げるだけムダである。
 
●同じく、大井川の水が2㎥/s減少した場合、井戸を掘ってまかなうという案も館合えているらしい。2㎥/sもの水を井戸でまかなえば、その分、井戸周辺で川の水が減ってしまう。つまり、水の消える場所が変わるだけで、環境保全措置としての意味がない。
 
●河川流量を減少させないための対策として、「適切な構造及び工法の採用」「地下水等の監視」とがあげられ、いずれも効果の不確実性はないとしている。しかし山梨実験線でのトンネル工事において、河川流量を減少させる可能性を予測しておきながら、それを回避することができなかったとしており、施された環境保全措置は功を奏さなかったはずである。
 
●総延長40㎞近い林道を、毎日400往復前後の大型車両が通行するため、小動物がひかれてしまうおそれがある、もとより個体数の少ないサンショウウオ類等にとっては個体群の存続にかかわる一大事である。これについての対策として、「運転手の努力にまかせる」というトンデモ案が出されている。ちっぽけなカエルやサンショウウオを運転席から見つけ、直前でブレーキをかけるなんてできるわけない。
 
●外来植物の侵入対策として、工事用車両のタイヤを洗浄するとしている。しかしこれだけでは、積荷に付着して侵入するケースに対応できず効果が弱い。もっと有効な案を考えるよう、準備書段階でも指摘されているのに対応していない。
 
●現地調査で見つけられなかった植物について、「生育場所の改変を最小限におさえるから影響は回避できる」としている。見つけていない植物の生育場所をどうやって判断するのだろう?
 
●自然林に残土を積み上げて緑化するとしているが、どういうふうに緑化するつもりなのか何も書かれていない。
 
●着工前の1年間、河川流量の調査をおこない、着工後に流量監視をおこなうための基礎データにするという。たった1年間の調査なので、その年の降水量が平年から大きく外れていたとしても、そのデータが「通常時」として扱われることになる。
 
【国土交通大臣意見を無視】
●JR東海のあげた発生土置場のうち、特に規模の大きな2か所については、国土交通大臣意見で求められた選定要件を全く満たしていない。
 
●河川流量への影響を最小化するために「水系を回避」することも検討するよう求められたが、何も検討していない。
 
 
面倒だからいちいち評価書を複製しませんが、こんな具合でヘンな記述がたくさんあるのです。こりゃ、マズいですよ。
 
何がマズいって、自然環境に取り返しのつかない悪影響を及ぼすだけじゃなく、そういう行為を進める事業者(=JR東海)が、自ら工事を行おうとしている場所が環境保全上特に重要な場所であるという認識、そして自らがおこなう行為がとてつもない環境破壊を引き起こすという認識、どちらも持ち合わせていないってことです。
 
ヘタクソな環境影響評価書というのは、これまでにもたくさん作られてきました。しかし、それが原因で事業認可が否認されなかった例はありません。というのも、通常は事業者と担当行政庁との間で審議をおこない、事業認可が可能になるよう、評価書を補正してゆくからです。ところがこのリニア計画の場合、知事意見はもとより国土交通大臣(=環境大臣)からの意見すら検討していない。こんなのはほとんどありません。環境問題どころか法律違反の可能性もある…。例外だったのは諫早湾干拓事業ぐらいのものですが、その後、大々的な環境破壊と混乱を引き起こしたのは周知の事実…。
 
本当に真剣に南アルプスの自然環境が重要なものだと認識し、それでもなおリニアの工事が必要なものだとして十二分な事前調査と学習を行い、万全の環境対策をとるというのなら、こんな論理破綻したアホな評価書なんぞ作成しないでしょう。
 
こういった点は評価書の問題点です。いわば、環境保全策に関する問題点です。静岡県の場合、これに加えて発生土置場(=残土捨て場)の安全性という大問題があります。これについても問題が多々あるのですが、書いているヒマがないのでまたの機会に。

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