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Channel: リニア中央新幹線 南アルプスに穴を開けちゃっていいのかい?
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大臣様、実行不可能で環境負荷の原因となる環境保全措置は適切なのですか?

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(お詫び)
一昨日、新石垣空港設置許可取り消しを求める裁判の判決文で、裁判所が「大臣の認可行為が違法となるケースとしていくつかの例をあげた」と書きました。しかしあの例は、裁判所の示したものではなく原告側が考えたものでありました。大変、失礼いたしました。記事は削除しました。お詫び申し上げます。
 


さて、本題に移ります。
 
先日も触れましたが、リニアの認可を伝えるニュースの中に、次のような一文がありました。
 
太田国交相はこの日の閣議後会見で、南アルプスを貫く長大トンネル工事や温室効果ガス増大などの環境影響について、「国交相意見で求めた環境への措置について、JR東海がすべて(対策を)行うと言っていることを確認した」と述べ、影響は抑えられるとの認識を示した。

国土交通大臣が、会見の場においてこんなことを述べていたわけですが、評価書に書かれている環境保全措置が、実は実行することができないものであったらどうなるのでしょう?
 
無意味かつ有害な環境保全措置であるのにもかかわらず、その点を見過ごしてもいいのかな? ということです。環境影響評価書静岡県編には、そうした点がいくつも見受けられます。一例をあげて、考えてみたいと思います。
 
 
環境影響評価法第33条
当該免許等の審査に際し、評価書の記載事項及び第二十四条(注 国土交通大臣意見)の書面に基づいて、当該対象事業につき、環境の保全についての適正な配慮がなされるものであるかどうかを審査しなければならない。』
 
これを念頭において、以下の文章をお読みください。なお今回、読みやすさを考えて「です・ます調」はやめます。
 
なお、問題にしているのは図に示したあたりになります。静岡市の最北部、南アルプス第3の高峰、標高3142mの悪沢岳の麓になります。
 
イメージ 5
 
 

 
次の「表 8-4-1-44(10) 環境保全措置の内容」は、「静岡県編環境影響評価書 8-4-1動物」において、事業者(JR東海)が行うとしている環境保全措置の一例である。 
 
イメージ 1
現地調査の結果、対象事業実施区域において確認された希少猛禽類のうち、イヌワシとクマタカの2種に対し、その保全のために「工事用道路トンネルを設置」するとしたものである。その効果は、「工事用道路トンネルを設置し地上における工事用車両の運行を低減することで、重要な猛禽類の生息環境への影響を低減できる」というものとしている
 
同じく評価書の資料編より、その工事用道路トンネルを示した図を転載する。図中、灰色で記された2本の太い点線がそれである。
 
 
 
イメージ 6
 
 
地形図上で計測すると、西側のもの(アーイ間)は約2200m、東側のもの(アーオ間)は約3000mの長さがある。アーイ間の工事用道路トンネルの先には、ウ地点において作業員宿舎の設置や、リニアの通る本坑へと通ずる長さ3500mの斜坑(非常口:ウーエ間)の掘削が計画されていることに留意していただきたい。
 
どちらもトンネル頭上に狭く崩れかけた未舗装の林道があるが、「工事用道路トンネルを設置することが環境保全措置になる」というのであれば、そこに大型車両を大量に通すと、猛禽類への影響が大きいと判断したのであろう
 
猛禽類の生息場所は保護のために非公開であるが、常識的に考えて、「影響を避けるために工事用道路トンネルを掘って車両を通す」というのなら、猛禽類は、工事用トンネル頭上の林道近傍で確認されているはずである。そうでなければ、環境保全措置とは言えないからである。この地理概念が重要であるので、注意していただきたい。
 
だが、ここで大きな疑問が生じる。工事用道路トンネル自体の建設工事のための車両はどこを通るのか?という点である。
 
西側(ア-イ間)の工事用道路トンネルについて考察してみる。
 
仮にア地点側からのみ掘削を開始すれば、地上(猛禽類推定生息地)を車両が通ることはない。これなら影響はほぼ皆無であり、猛禽類に対する環境保全措置として成り立つ。
 
仮に月100mのペース(かなり速い掘削速度)で掘っていったら、アーイ間を掘り終えるのには2200m÷100m/月で、22か月つまり2年弱かかる。それからウ地点までの道路整備と、伐採作業と整地および作業員宿舎を建設、沈砂池の設置を行うと、また数か月かかる。それからようやく斜坑の掘削にとりかかれるわけだが、3500mを月100mのペースで掘り下げていったら、本坑のエ地点まで35ヵ月つまり約3年かかることになる。
 
つまり、工事用道路トンネルが「猛禽類に対する環境保全措置」として意味をなすためには、「本稿の掘削開始まで5~6年かかる」ことが前提となる
 
ところが、これは実行不可能である。
 
2015年にア地点から掘り始めたとすると、エ地点に達するのは2020年となる。それから地質確認兼排水用の先進坑を掘りはじめ、ある程度掘り進めてから、本坑を掘削することになる。
 
しかしリニアの名古屋開業は2027年を予定し、その前に2年間の試運転等が計画されているので、2025年までに南アルプスのトンネルは完成されていなければならない。県内のトンネル区間は10.7㎞×2本あり、そのうちエ地点を起点とする工区が何㎞になるか不明だが、たった5年で完成できるはずがない
 
したがって、おそらくア地点一方からでの掘削では時間がかかりすぎるとしてイ地点からも掘りはじめ、工期を半分に短縮しようとするのに違いない。同時に、ウ地点からの斜坑掘削も行うつもりでいるのであろう。
 
事実、評価書の表3-2-1を見ると、1年目からA地区(西側の斜坑つまりウ-エ)で掘削工事を進めるとしている。ここから掘り出した発生土は、地上の林道を通って搬出しなければならないはずである
イメージ 2
少々分かりにくいが、上から3段目に「インバート工」という項目がある。これは、土被りの大きい大断面トンネルにおいて、トンネルの断面を円形に近づけて強度を高めることを目的として、トンネル底部を円弧状に掘り下げるものである。逆アーチともいえる。これは本坑の掘削で用いられるものである。表では4年目からインバート設置をおこなうとしていることから、このときまでに斜坑は掘り終えてあり、先進坑もある程度は掘ってあることになる
 
つまり、3年程度の間に、ア-イのトンネル建設と、ウにおける各種工事と、ウ-エのトンネル建設とを終えていなければならないので、3種の工事は同時進行で行っているはずである
 

お気づきであろうか?
 
環境保全措置として「工事用道路トンネルを掘って、その中に工事用車両を通すことで猛禽類への影響を低減できる」としておきながら、実際には工事用道路トンネルの完成前から、その工事用道路トンネル掘削現場と斜坑からの発生土を積んだダンプカーが、大量に林道を通るのである。すなわち、現計画において工事用道路トンネルを設置するという行為は、環境保全措置として全く意味をなさないのである
 
もう一度「表 8-4-1-44(10)」を掲げる。そこには効果の不確実性はないと断言しているが、これは真っ赤なウソなのである。
イメージ 3

環境保全措置としての工事用道路トンネルの問題点は、これだけではない。「表 8-4-1-44(10)」にには「他の環境への影響はない」とも書かれている。
 
だが、これもウソである。当たり前だがトンネルを掘れば発生土が生じ、その運搬や発生土置場の拡大によって新たな環境負荷が生じるからである
 
イメージ 4
 
昨年、県の環境影響評価準備書の審査会においてJR東海が提出した資料によると、工事用道路トンネルを掘ることにより59万立方メートルの発生土が生じるとしている。県内発生分の16%を占める。県内に示された7地点の発生土置場候補地のうち、一つか二つは、この工事用道路トンネルからの発生土で占められるのに違いない

以上のように、評価書の記載事項から環境保全措置としての「工事用道路トンネルの設置」の妥当性を検証すると、環境保全措置としての意味はなく、そのうえ環境への影響を大きくするものである。
 
環境保全措置としての「工事用道路トンネルの設置」問題がこれだけにとどまらない。
 
少々長くなるが、環境影響評価を行う際のマニュアル(主務省令)を引用する。
第二十九条 事業者は、環境影響がないと判断される場合及び環境影響の程度が極めて小さいと判断される場合以外の場合にあっては、事業者により実行可能な範囲内で選定項目に係る環境影響をできる限り回避し、又は低減すること、必要に応じ損なわれる環境の有する価値を代償すること及び当該環境影響に係る環境要素に関して国又は関係する地方公共団体が実施する環境の保全に関する施策によって示されている基準又は目標の達成に努めることを目的として環境の保全のための措置(以下「環境保全措置」という。)を検討しなければならない。
 事業者は、前項の規定による検討に当たっては、環境影響を回避し、又は低減させる措置を検討し、その結果を踏まえ、必要に応じ、損なわれる環境の有する価値を代償するための措置(以下「代償措置」という。)を検討しなければならない。

第三十条 事業者は、前条第一項の規定による検討を行ったときは、環境保全措置についての複数の案の比較検討、実行可能なより良い技術が取り入れられているかどうかの検討その他の適切な検討を通じて、事業者により実行可能な範囲内で対象鉄道建設等事業に係る環境影響ができる限り回避され、又は低減されているかどうかを検証しなければならない。
 
実行するつもりもなく、意味もなく、さらにそれを行うことで新たな環境負荷を生み出す行為を「環境保全措置」と称しているのであるから、事業者(JR東海)は、この主務省令第29条を第30条に基づいた検証を行っていない(または不十分)な検証しかしていないことになる。
 



ここで法律の条文に改めて目を通してみましょう。
 
環境影響評価法第33条 
 対象事業に係る免許等を行う者は、当該免許等の審査に際し、評価書の記載事項及び第二十四条(注 国土交通大臣意見)の書面に基づいて、当該対象事業につき、環境の保全についての適正な配慮がなされるものであるかどうかを審査しなければならない。
 
という規定に忠実に従って、評価書をくまなく審査すれば、環境保全措置としての「工事用道路トンネルの設置」のもつウソ(善意に解釈すれば間違い)に気づくはずです。素人の私が気付くのですから、国土交通省に採用されるような優秀なお方なら、即座に見抜けることでしょう。
 
それにも関わらず事業認可したということは、国土交通大臣は、評価書のウソ(もしくは間違い)には目をつむったことになるのではないでしょうか。
 
さらに太田大臣は「JR東海が環境保全措置を適切に行うと言っている」からOKという見解を示していますが、そもそも無意味どころか環境破壊の要因となるのですから、これを環境保全措置と位置付け安易に実行させること自体が問題ではないでしょうか。それを見過ごしたことも大問題です。
 
平気でこういうことをしてはいけないんじゃないのかな?

 

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