ウェブ上では、リニア中央新幹線の営業には、原子力発電所の稼働が必要になるのではないかという懸念を頻繁に見かけます。
確かに超電導リニアは、大量の電気を消費します。
2027年に名古屋まで開業した際には27万kw、2045年に大阪まで開業時には72万kWになるという試算がなされており、確かに原子力発電所一機分の出力に相当します。
JR東海の葛西名誉会長(当時は会長)が、浜岡原発の運転停止直後に「原発を再稼働させるべし」という主張を産経新聞にておこなったので、「リニア=原発」というふうに受け止められても仕方ないかもしれません。
しかしながら、「リニアは原発再稼働が前提だから中止すべし」という主張には、どうも首をかしげざるをえません。
確かに電気をバカ食いするわけですが、どうして原発でなければならないのでしょう?
火力発電では動かせないのでしょうか?
昨今、電力会社以外の業者による、火力発電所の増設が相次いでいます。
ちょっと検索しただけでも、例えば栃木県真岡市に神戸製鋼が2020年を目標として120万kwの火力発電所を建設しています。東京ガスによる電力事業の一環であり、最終的にグループ全体で500万kwの発電設備を整備する計画だとか。
http://www.itmedia.co.jp/smartjapan/articles/1409/30/news091.html
http://www.itmedia.co.jp/smartjapan/articles/1409/30/news091.html
静岡県内でも、ガス会社や石油加工業者の共同事業として、清水港に100万kw級のLNG火力発電所の建設が計画されています。http://www.chunichi.co.jp/article/shizuoka/20150107/CK2015010702000082.html
このほかにも製鉄業者、製紙会社などが、次々と参入を計画しているそうです。
リニアの消費電力72万kwなんてのは、火力発電所一か所程度で十分にまかなえます。したがって原発に頼らずとも、2027年の名古屋開業までに27万kw、2045年の大阪開業までの72万kw程度の電力供給なんて簡単にクリアできるはずだと思われませんか?
この疑問、「リニア=原発=反対‼」論を主張する方に伺っても、なかなか納得できる見解をいただけません。
リニアに反対するために原発の話を持ち出す?
原発再稼働反対のためにリニア反対の話を持ち出す?
原発再稼働反対のためにリニア反対の話を持ち出す?
こういう意図がどこかで動いているんじゃないのでしょうか…?
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ここからが本題。
当たり前の話ですが、火力発電所を増設して稼働させれば、化石燃料の燃焼により二酸化炭素が大量に生じます。二酸化炭素というのは言うまでもなく地球温暖化の犯人とされている気体です。
実は二酸化炭素の増加と地球温暖化との因果関係については、まだまだ分からないことがたくさんあります。異論がたくさんありますけど、その話については、ここでは踏み込みません。
(テレビ番組で、「昨今の異常気象は地球温暖化のせい」としたり顔で述べる人がいるが、あれは間違い。地球温暖化は100年、200年という時間単位を経てはじめてその存在がデータとして明らかになる性質の現象であり、たかだか数日単位の気象現象に、その影響をみてとることは科学的に不可能である。)
とにかく地球が温暖化して気候が変動するのは大変な危機という認識が高まり、1992年、ブラジルのリオで開かれた国連地球サミットで、地球温暖化に対して何らかのアクションをとることを定めた、気候変動に関する国際連合枠組条約、通称「気候変動枠組条約」というものが締結されました。
この条約の内容を議論したのが、1997年に京都で開かれた締約国会議(COP)であり、定まった具体的内容のことを、京都議定書とよびます。これは聞き覚えのある方も多いでしょう。
先進国は2008年から2012年の5年間(約束期間)平均で、1990年比で全体として少なくとも5%、日本は6%の、温室効果ガス削減義務を負うというものです。2002年に日本政府は京都議定書を批准し、2005年に発行されました。
この間、温室効果ガス削減のための称して、原子力発電所を増設するだとか、ヨーロッパと比べて不公平だとか、アメリカが批准してないとか、いろいろなゴタゴタがあったことも、ご記憶の方が多いかと存じます。
(なお肝心の日本の削減義務のほうは、民生、運輸、オフィス部門の排出量増加、福島第一原発事故後の火力発電所フル稼働などもあって、結局できず仕舞いで終わってしまいました。。。)
さて、京都議定書を批准したからには、日本政府も温室効果ガスを削減するための義務を負います。そのための政策として、1998年10月に、地球温暖化対策法が制定され、同時期に「エネルギーの使用の合理化に関する法律(通称:省エネ法)」の大幅改正が行われました。
このうち地球温暖化対策法は、温室効果ガスの排出量の多い事業者(特定事業者)に、自らの排出する量を算定し、国に報告させるとともに、抑制対策を立案・実施し、対策の効果を検証し、それ踏まえて新たな対策をとらせるという手続きサイクル(PDCAサイクル)がとることにより、国全体での排出量を削減させようということを定めたものです。
平成18年度から23年度(つまり原発が停止した年)にかけて、国に報告された特定事業者別の温室効果ガス排出量は、こちらのページで確認することができます。http://ghg-santeikohyo.env.go.jp/result
以下、平成23年度の状況に基づいて記述します。
特定事業者は、工場・オフィス・学校など点から排出する特定排出事業者、ヒト・モノを輸送するための移動する点から排出する特定輸送排出者とに二分されています。
事業者の総数からみて当然と言えば当然ですが、圧倒的に特定排出事業者からの排出が大部分占めます(事業者数が11086:1381)。
特定輸送排出者は、貨物輸送、旅客輸送、航空輸送の3者に分類されます。3者全体からの排出量は2990万トンで、日本全体での排出量6億3700万トンの2.2%になります。なお以下の記述では、排出量についてはいずれもCO2換算量で示します。
このうち特定旅客輸送事業者とは、鉄道、バス、タクシー、海運等の事業者をさし、163社が該当しています。特定旅客輸送事業者全体での排出量は523万トンとなっています。この163社のうち、最も排出量の多いのはJR東日本で194万トン、次いでJR西日本で159万トン、3番目がJR東海で122万トンです。
この122万トンという数字、果たして多いのか少ないのか…
日本全体での約0.2%になります。
確かに単純な排出量という点では、鉄鋼メーカーや化学メーカーなどには、もっと多い事業者もいくつかあります。ぱっと目についたところでは、一番多いのが多分JFEスチールの5604万トン、JX日鉱日石エネルギー1149万トン、宇部興産771万トン、日新製鋼716万トン、株式会社トクヤマ628万トン、日本製紙462万トン、東京電力375万トン、旭化成ケミカルズ326万トン、コスモ石油284万トン…
このように、重化学工業や電力会社では、100万トン以上の排出をおこなっている企業がいくつかあります。また、分野ごとに子会社を独立させている企業も多数にのぼりますので、系列企業全体としては数百万トン台での排出をおこなっているケースもあります。
こういう企業と並べてみると、確かにJR東海の排出量は多いけれども、突出しているとは言えないかもしれません。
とはいえJR東海の排出量122万トンは、空運・貨物輸送を含めた特定輸送事業者の中では5番目(一番はJALの316万トン、次いでANAの207万トンだが海外就航便も含む)、特定旅客輸送事業者に限れば3番目です。特定輸送事業者全体での4%、特定旅客輸送事業者全体での約23%を占め、無視できない数字ともいえます。
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そんなわけで、地球温暖化対策法とは別に、エネルギーの使用の合理化に関する法律(省エネ法)という法律では、運輸部門にかかわる事業者全体で、エネルギー消費の年平均原単位を1%ずつ設定するという目標が定めてられています。
難しく書きましたが、要するに運輸業界全体としてエネルギー消費の効率化を実現しなければならないと法律で定めたわけです。
とーぜんのことながら、JR東海という企業も、運輸業界というものの筆頭にあるわけです。
そのJR東海が、これから12年をかけて、超電導リニアというおそろしくエネルギー効率の悪い乗り物※を導入しようとしており、所轄官庁である国土交通省も、国としてそれを認めてしまいました。
※環境影響評価書によると、現在の東海道新幹線N700系の消費電力は約14000kw(評価書から試算)ですが、超電導リニアの場合は43800kwになります。乗車時間は半分以下になるのに消費電力は3倍以上と大きくなるわけで、エネルギー効率という点からは、確かに悪い。リニアが開業するまでに、東海道新幹線の主力は700系よりもエネルギー消費の少ないN700Aに移るので、リニアのエネルギー効率の悪さはさらに顕在化します。
超電導リニアは、飛行機よりはCO2排出量が少ないという触れ込みです。しかし環境影響評価書によると、仮に東京―大阪の航空便が全廃し、乗客が全てリニアもしくは新幹線に移行したとしたケースでも、現況の1割増しになるとのこと(これをJR東海は、現状と変わらないと主張)。
確かに、航空機利用客が全てリニアに移行し、そのうえで現況より輸送客数が2割増すのなら、”一人当たり”の排出量は現状維持か微減と言えるかもしれません。ただ1企業としてのJR東海による、乗客一人当たり排出量は確実に増加し、鉄道業界全体としても、やはり増加することになります。
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評価書に対する環境大臣意見において、温室効果ガスの排出量について大幅に削減するよう、上記のように書かれた背景には、このような事情があります。
とはいえ国土交通省はあっさりと事業認可をいたしました。
各社に温室効果ガスの排出量削減と省エネの徹底を求めているのにも関わらず、どーして、JR東海という企業に対しては、エネルギー効率のムチャクチャに悪い技術を導入させようとしているのでしょうか?
しかも、それを「国策」として推し進めるとは、国内外に示した温室効果ガス排出量削減公約にも反するのではないのでしょうか?
リニアの電力消費の問題は、このあたりに行き着くのではないかと思うのであります。
1/30までです。
市役所での意見募集ですから、基本的には静岡市民を対象としたものだと思いますが、意見提出に資格は明記されておらず、将来的に3県10市町村での共通の管理計画に発展させてゆくことを視野に入れているそうなので、関係市町村の方でも意見を提出しても構わないと思います。また、「ユネスコエコパークへのお客様・利用者としての視点」という主旨の意見なら、どなたが出しても構わないでしょう。