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Channel: リニア中央新幹線 南アルプスに穴を開けちゃっていいのかい?
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導水路建設で大井川の流量減少問題は解決?

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話がややこしくて申し訳ありません。

JR東海が4月2日、第2回大井川水資源検討委員会を都内で開き、大井川で流量が減少した場合の対策案として、トンネルから導水路で大井川本流に戻す案をまとめたそうです。

なお、昨日の投稿記事「早川から引っ張ってくればいい」というのは、3/10に静岡県庁で開かれた中央新幹線環境保全連絡会議の場における話です。その案は第2回大井川水資源検討委員会のほうでボツになったようです。前回記事はなかったことになりますので、削除いたします。「ナイス!」をおしてくださった方、ごめんなさい。

一部新聞記事を引用します。
JR東海は2日、リニア中央新幹線の南アルプストンネル工事に伴う大井川の流量減少対策として、トンネル本線から静岡市葵区の椹島(さわらじま)まで長さ約12キロの導水路のトンネルを建設する方針を明らかにした。導水路によって県内のトンネル本線内の湧水を全て大井川に戻すことができるとし、「中下流域への影響は全くなくなる」と説明している。

しかしながら、これって水資源への対策にはなりうるものの、川にすむ生き物や川の景観に与える影響については全く解決できないのではないでしょうか?


前回に続き、環境影響評価書での流量試算結果を掲載します。

イメージ 1
図1 対象地域の位置 
拡大
図2 大井川源流域における流量減少予測
環境影響評価書を複製・加筆

大井川源流部では、図をみてわかるように、「西俣取水堰上流」より下流側全般にわたり、流量が減少するとの予測がなされました。特に二軒小屋より下流側では、毎秒2立方メートルの減少が予測され、これは下流域62万人の水利権と同値であったため、大騒ぎとなりました。

この問題に対する案として、4/2にJR東海が示したのは、「トンネルの途中から横穴(導水路)を掘り、トンネル中に湧き出た水を大井川本流に自然流下させる。
というものでした。

イメージ 2
図3 4/2JR東海発表の導水路案
周囲の赤い文字は作者が記入

確かにこの案なら、大井川本流に水が戻ってきます。下流域での水利権も回復できるでしょう。

めでたし、めでたし…

って、そんなわけがない!!

図2と図3とを見比べてください。図2において、流量減少の予測される区間の上流端は、西俣取水堰のさらに上流であると述べました。また図2で示された予測値は年平均流量であり、渇水期(冬場)は、これよりもさらに流量が減ります。

これに対し、JR東海は導水路で水を戻すと主張しているわけですが、戻ってくるのは西俣取水堰より16㎞も下流の椹島ロッヂ付近になります。流量減少がどこから始まるのか正確には不明ですが、少なくとも16㎞の区間には水を戻せないのです。さらに、斜坑(非常口)の掘削により支流の悪沢や蛇抜沢(いずれも悪沢岳の北側)等の流量を減少させた場合にも、戻すことはできません。

また、導水路のトンネル側取水口(?)は、標高1130m付近になります。この位置ですと、大井川流域からトンネルへ染み出す水の、おそらく半分程度しか自然流下しません。大井川流域区間におけるトンネルの最低位は標高約970mですので、160m程度はポンプで汲み上げなければなりません。1立方メートル/秒で160mくみ上げた場合、常時2000~2500kWのエネルギーを消費し続ける必要があります。

それから断面積6平米(内径2.5m程度)で長さ12㎞の導水路トンネルを掘った場合、12万立方メートル程度の発生土が余計に生じます。発生土の処理が大問題になっているのに、新たに増えるわけです。 


当然のことながら、川には魚やサンショウウオや水生昆虫など、様々な動物が生息しています。美しい渓流というのも、南アルプスの重要な景観要素です。それらをぶち壊す可能性が高いわけですが、この導水路案では全く解決できません。

例えば、この一帯に生息している渓流魚のアマゴに与える影響について、JR東海は評価書において次のように記していました。

イメージ 3
環境影響評価書静岡県編より複製・加筆 

アマゴというのはサケ科の渓流魚で、ヤマメのそっくりさんです(赤い斑点があるのがアマゴでないのがヤマメ)。きれいな水にしか住めないし、多くの個体を存続させてゆくためには、深い淵や瀬や枝沢といった多様な環境と、エサとなる豊富な昆虫の存在が欠かせません。したがって河川流量が減少することは、そのまま生息地が縮小することを意味します。

評価書においては、河川流量が減少した場合の影響について「鉄道施設の存在により、河川の一部で流量が減少するものの、本種の生息環境への影響は小さい」と述べています。

いっぽう上記の導水路案ですと、16㎞以上にわたって水を戻せない区間が生じます。また支流の沢まで流量の減少が及ぶ可能性があります。すなわち、流量の減少するのは「一部」ではなく「大半」となる可能性が高く、「影響が小さい」とは言えなくなるかもしれません。

ついでながら、冒頭の新聞記事によれば「重要種を移植すればいい」程度に考えているようですが、
●重要種といってもその生態は多様であり、十把一絡げに移植できるわけがない。渓流魚を捕えるヤマセミや渡り鳥のアカショウビンなんて移植できるのかい?
●重要種はもともと個体数が少ない
●移植先での生態系のかく乱(生息密度が変われば餌や生息場所をめぐる争いが生じる)
●そもそも本流16㎞分の代替地など存在しない 
という問題があげられます。

もっとも、アマゴというのは簡単に養殖できる魚である。山里で、つかみ取りコーナーや釣堀に放流されていたり、土産物屋で甘露煮や塩焼きにして売っているように、量産することも可能である。下手をすると、「養殖池で増やしてゆき、減ったら放流するから問題はない」という見解を出さないとも限らない…。 

さらに思いつくままに書きあげます…

このあたり一帯はユネスコエコパークに登録されています。静岡市では、大井川の清流もユネスコエコパークを構成する重要な景観要素と位置付けており、また、清流保全条例によって、清流の維持を市の責務としてかかげています。

ところが導水路案ですと、16㎞以上にわたって水の涸れた河原をさらけ出したままになる恐れに対し、なんら解決になりません。

ユネスコエコパークといえば、その中での開発行為には「持続可能性」が求められます。 ところが川の流れを断ち切ることは、持続不可能な開発に他なりません。

どのように整合性を図るつもりなのでしょう…?



とまあ、いろいろ書きましたが、しかしおそらく、「環境保全措置」としてはこれで十分です。

環境影響評価において、河川の流量が減少した場合に対策を講ずる必要のある対象としてJR東海が認めたものは、下流の利水だけです。生態系への影響は、基本的には対象外という扱いです。したがって下流にに水を流しさえすれば、万事解決という解釈が成り立つからです。上記リンク先JR東海のHPの資料において、生態系に与える影響について全く言及していないのはその証左です。

県の環境保全連絡会議の議事録を見た限りでは、「早川から引っ張ってくればよい」程度の認識(前回記事参照)であるようなので、生態系への影響は話題にもならないのでしょう。


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