リニアの南アルプス横断トンネルの西側坑口となる長野県大鹿村では、様々な環境破壊が懸念材料にあがっている。
そのうちのひとつに、送電線による景観破壊というものがあげられる。
大鹿村は美しい山里・山岳風景が重要な観光資源となっており、「日本で一番美しい村」連合に加盟しており、また存在全域が南アルプスユネスコエコパークに登録されているということもあり、その景観の保全は重要な課題である。
ところがリニアの建設においては、村内に変電所を設け、送電線を設置するという計画である。送電線は鉄塔を介した高架構造となるため、景観に大きな変化を及ぼしかねない。というわけで、村からは送電線を地下化するよう意見書が出され(知事意見への掲載はされなかった)、現在も村内での対策委員会で議題にあがっているようである。ちなみに評価書においては、「変電所は主要な眺望点(公園)から見えない位置に造るのでフォトモンタージュ(完成予想図)は不要」とし、マトモに扱っていないという、いい加減な記載となっている。
ところで、送電線を設置するのはJR東海ではなく電力会社である。大鹿村の場合は中部電力となる。大鹿村議会委員の方のブログによると、その中部電力は「地下化は難しいので架空線にしたい」と説明しているという。なんでもリニア用の15万4000キロボルトの送電ケーブルは耐用年数が30年程度しかないとか、7万7000キロボルト以下のものと違って特殊なものを使用しているとか、そんな説明らしい。
この話を聞いて、
ん?
と思ったのである。というのも、静岡市郊外において、住民からの要望によって高圧送電線を地下化した事例があるからなのだ。
静岡駅から北へ約11㎞に、「中部電力駿河変電所」がある。そこから東、清水港の北側にある「東清水変電所」まで山越え谷越えて16㎞の送電線を最近敷設したのだけど、そのうち安倍川を越える3㎞弱の区間が地下化されたのである(2013年完成)。
中部電力のホームページ 「275kV駿河東清水線・東清水変電所の完工」
地形図と空中写真で見るとこんなロケーションである。右側の空中写真で示した赤い点線部分に、地下送電線が埋設されているとのこと。
中央にある橋の西側から撮影した様子。無理矢理合成したのでゆがんでいるけれども、それはご愛嬌。
安倍川右岸(西岸)にある変電所に深さ64m、内径10mの縦穴を掘り、そこから安倍川を挟んで北北東約2,6㎞にある山の中腹まで、シールド工法でトンネル(内径3m)を掘って、その中にケーブルを敷設してあるらしい。
トンネル自体の工法についてはこちらに報告書が掲載されている。
最初は安倍川に鉄塔を立てて架設する計画であったが、周辺から電磁波への不安、景観阻害、騒音(風切音)への強い懸念が出され、協議の結果、地下化にいたったと記憶している(当時の新聞記事を探し出せませんでした)。
何だかわからないけれど、この鉄塔の高さは通常(?)のものの5倍くらいあるように見える。山の中でもわざわざ地上から離しているのには、何か事情があるのだろうか…?
いずれにせよ、大鹿村を所管する中部電力が、静岡市では住民からの要望によって3㎞とはいえ送電線の地下化を実施しているのである。しかもリニア用の15万7000キロボルトよりも容量の大きな27万5000キロボルトである。川をくぐっているのだから、シールド工法とはいえ湿度が高く、環境面でも劣悪なんじゃなかろうか。
静岡市の事例を持ち出したが、よくよく考えれば、自然条件や景観保全条件がとりわけ厳しい北アルプス黒部峡谷でも、関西電力は発電所や送電線など、大部分の施設を地下化しているのである。そこまでのコストをかけてでも実行しなければならないプロジェクトだったのであろう。
大鹿村にて「地下化は難しい」のは、単純な技術面の問題というより、 「JR東海から提示された予算・工期では地下化は難しい」のではあるまいか?
リニア計画は、地元から要望されたものではなくJR東海が「民間事業」として行うとするものである。国民の合意に基づいているわけでもない。村の住民から見れば、そんなものに付き合う義務なんてないはずである。景観保全が求められる村を通させていただく以上、その村の意向に沿うのは当然なんじゃなかろうか?
ご指摘を受け、内容をやや修正しています(7/12朝)。中部電力の説明について、ブログでは当初「地下化は技術的に不可能」としていましたが、正しくは「難しいから架空線にしたい」という説明だったとのことです。