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大井川河原に巨大盛土&導水路で評価書が有名無実化?

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7月14日に静岡市役所で開かれた市環境影響評価専門家会議において、JR東海は、静岡県内に掘り出される発生土全量を、燕沢付近の大井川河原に集約する案を説明したという。
(静岡新聞記事)

先日の導水路案といい、話が二転三転しているわけで、もうムチャクチャである。国立競技場の問題なんてかわいいものという気がする

この場所における立地条件の問題は、このブログで何度も指摘した通りである。
●河畔林の消失
●土石流をためるスペースの消失
●河道の直線化
●林道東俣線からの景観阻害

これら具体的な問題とは別に、環境影響評価手続きにおける説明や評価書の記載内容が大幅変更されることも問題ではなかろうか

これまでJR東海は、静岡県内に出される発生土約360万立米について、7つの置場を候補地にあげながらも、どこにどの程度運び込むのかは具体的なことは何も明らかにしないまま、環境影響評価手続きを進めてきた。発生土の運搬・処理計画が不透明であったから、評価書の様々な前提もまた、詳細が不明なままだったのである。

環境影響評価手続きにおいては、7つの候補地のうち燕沢と扇沢源頭の発生土置場は規模が大きく示されており、とくに扇沢源頭についてはわざわざ道路トンネルを掘ってベルトコンベヤで運び上げるという説明をしていた。したがって、扇沢源頭に大半を運び上げ、燕沢付近に残る大部分を運び入れるのではないか、そのようなことを推定するしかなかったのである。
イメージ 1
図1 発生土置場の位置
評価書をコピー・加筆 

イメージ 3
図2 大井川源流部における工事計画
評価書記載事項をもとに作成 

ところがここにきて、扇沢に発生土を置くのはやめて燕沢付近に全量を集約するという説明を始めた。扇沢というのは、大井川の谷底よりも500mも高い標高2000mの稜線上であり、そんな場所に発生土を積み上げるのは「壮大な土石流実験」としか言いようのない、あまりにも常軌を逸した計画であったから、扇沢をやめること自体は当然である。

それでは、評価書の様々な前提条件はどうなったというのだろう?


ちょっと考えてみても、以下のような項目が変更されるんじゃないかと思う。
A 工事計画全般
B 二軒小屋ロッヂにおける騒音・振動予測結果
C 燕沢における改変規模の拡大
D 動物・植物・生態系に対する環境保全措置の実効性
E 人と自然との触れ合い活動の場への影響
 

A 工事計画全般 
当たり前だが、これまで数か所に分散するような話をしていたのだから、それを燕沢一か所に集約するとなれば、評価書に書かれている各種の図も、工事の手順も使用される機械や車両の数も、あらゆる工事計画が変わってくる。したがって環境への影響の形態も、必要とされる環境保全措置も変わってくるはずである。

イメージ 2
図3 工事計画概要の変更
茶色の線が発生土の運搬ルート(破線はトンネル内)

B 二軒小屋ロッヂにおける騒音・振動予測結果 
二軒小屋ロッヂは、大井川最上流部に位置する宿泊施設である。荒川岳、伝付峠・早川町、蝙蝠岳・塩見岳方面への登山拠点となっている。渓流釣りの拠点でもある。

登山者・釣り客が利用することから、工事用車両の通行による騒音や振動が心配されるところである。したがってアセスにおいても予測がなされ、二軒小屋ロッヂにおいては53デシベルという試算結果が出された(この数字自体、試算前提が疑わしいのだけどそれは割愛)。これは環境基準以下であるから問題ないという結論である。
しかし燕沢に発生土を集約する場合、この数値は異なってくる。というのも、西俣斜坑(二軒小屋より奥)から掘り出される発生土は、二軒小屋の北側をベルトコンベヤで素通りし、扇沢源頭の発生土置場に運ばれるという条件で評価書が作成されているからである。

つまり新たな案だと、ベルトコンベヤで扇沢へ運ばれるとしていた発生土が、全て二軒小屋を通って燕沢に向かうことになる。ダンプカー輸送の場合、長野版評価書から類推しておそらく1日に500往復は必要となろう。すると、騒音や振動の値は大幅に変わってくるはずである。

西俣斜坑から燕沢までベルトコンベアを敷設するならダンプカー通行に伴う問題は小さくなるが、その場合は道路沿いか河原に、4~5㎞にわたる大規模な敷設工事を施さねばならず、それはそれで、土地の改変や樹木の伐採を伴う新たな環境負荷となるおそれがある。東日本大震災の被災地で、住宅地の造成のためにベルトコンベヤが敷設されているが、それらを見た限り、仮設とはいえ相当に大規模な構造物のようである。

C 燕沢における改変規模の拡大 
「工事に伴う改変区域をできる限り小さくする」ということが、発生土置場が動物の生息地、植物の生育地、生態系、景観に与える影響に対しての環境保全措置として評価書に掲載されている。もちろん、方針としては間違っていない。

ところが、これまで複数の場所に分散して盛土するとしていたものを燕沢一か所に集約するのであるから、燕沢における盛土の規模はこれまでの説明以上に大きくなる可能性が高い。これまでは破壊しないとされていた場所も改変の対象となるかもしれず、環境保全措置としての実効性に疑問がつく。

D 動物・植物に対する環境保全措置 
そのほか動物・植物に対する環境保全措置は表の通りであった。燕沢に発生土を全量集約するのであれば、「?」を付した項目には、その有効性や実効性について、疑わしさが生じてしまうように思われる。
イメージ 4

重要な種の生息地の全体又は一部を回避 
先に述べた「工事に伴う改変区域をできる限り小さくする」と、同じような疑問がある。

側溝及び注意看板の設置 
これは、周辺に希少なサンショウウオなど希少な小動物が多く生息していることから、路上轢死を避けるための手法として掲載されたものである。注意看板なんぞ設置したところで、ダンプカーの運転席から体長5㎝のサンショウウオなど見えるはずもなく、環境保全措置としての効果はきわめて疑わしい。

それはともかく、もしも東俣から燕沢へ、林道を大量のダンプカーが通行するのであれば、側溝や注意看板ごときでは何の意味もなくなってしまう。大鹿村並みの通行台数になれば、20秒足らずの間隔でダンプが行き来することになり、サンショウウオ等が無事に道路を横断することは困難になってしまうのである。

資材運搬等の適正化 
新しい案では、燕沢の発生土置場には2つの斜坑からダンプカーが集結することになる。1本道であるから、適正化なんぞやりようがないのが実情ではあるまいか。
…そもそも環境保全措置というより何より、コストの面から適正化するのが運送業の基本であるから、あえて環境保全措置というほどのものであろうかという疑問がある。

外来種の拡大抑制 
評価書によると、ここでいう施工ヤードとは発生土置場を含むという。そこを速やかに緑化することにより、外来種の植物に、繁茂するスキを与えないという理屈である。

以前指摘した通り、無土壌の発生土(岩のカケラ)に植生を育成するのであれば、まずは土壌を確保しなければならない。360万立米もの盛土をした場合、最低でも表面積は15万平方メートル程度になり、そこに盛る土壌を確保すること自体が大規模な事業である。さらに公園や農地と異なり、在来種植物の種子や苗も確保せねばならない。15万㎡の面積に対し、2㎡四方に1本ずつ植えていったとしても7~8万本は必要である。

こんなこと可能なのだろうか?

●工事用道路トンネルの設置はどうなる? 
「工事用トンネルの設置」というのは、西俣の斜坑から扇沢源頭へ、大井川(東俣)をはさんで2本のトンネルを掘って発生土や資材運搬を行い、地上での通行を減らすことで猛禽類への影響を小さくできるとするものである(ウサンくさい)。位置については図4をご覧いただきたい。

イメージ 5
図4 評価書で記されていた扇沢発生土置場と工事用道路トンネルの位置関係
国土地理院地形図閲覧サービス「うぉっちず」より複製・加筆  

そもそも道路トンネルとは、イヌワシ、クマタカの生息環境への影響回避という名目で建設するとしている。扇沢付近が生息域に該当しているかどうかは、非公開情報なので不明であり、その名目の妥当性については検証のしようがない。

新しい案では、発生土をすべて燕沢(図4では南欄外)へ運び込むということであるから、東側の工事用道路トンネルは不要となる。したがって、環境保全措置として評価書に掲載しておく必要はなくなる。

E 人と自然との触れ合い活動の場への影響 
林道を行き来する工事用車両に対する視認性 
二軒小屋一帯は登山拠点・登山ルートであり、大井川の渓谷を探勝することができることから「人と自然との触れ合い活動の場」に選定されている。そして林道から大井川を眺めた際の景観に、工事用車両の通行が及ぼす影響が、環境影響評価の対象となっている。

評価書におけるJR東海の予測結果では、「配車計画を適切に行う」ことで景観に影響を及ぼさないというものであった。

ところが、上述の通り、西俣の斜坑から燕沢へダンプ輸送するなら、二軒小屋付近の林道東俣線は、ダンプカーで埋め尽くされることになる。繰り返すが1本道であるから、迂回のしようがない。評価書作成時よりも、影響が大きくなるのは避けられない。評価書に記された「影響は小さい」状況ではなくなるのでは?

発生土置場そのものの景観破壊 
さらに問題なのは、この発生土置場そのものが景観に与える影響である。簡単に試算しても、最低でも高さ30m、幅150m、長さ700mは必要であるし、静岡新聞の記事では「最大高さ50m、長さ1000m」なんていう数字があげられている。

準備書に対する静岡県知事意見において、「発生土置場について林道からの景観に与える影響を予測せよ」とされたものの、JR東海は評価書において「適切に配慮する」としただけで、まともに答えていなかった。これだけで不真面目であるといわざるを得ない。このときはまだ扇沢へ分散する可能性があったのだから、当時想定されていたよりも、はるかに巨大な盛土が出現するわけである。ちなみに高さ30mの盛土を至近距離から眺めるとこんな雰囲気であった。

イメージ 6
図5 高さ30mの巨大盛土を間近で眺める
新東名高速道路 静岡サービスエリア(作者撮影) 

南アルプス山中にこれ以上のものが出現するというのは、どう考えても異様な光景であり、確実に景観そ阻害するわけであって、事業者が自主的に適切に配慮してどうにかなるシロモノじゃないのと思う。



前回指摘した導水路案と合わせ、事業計画の内容が評価書作成時と大きく変わってきているのである。評価書の記載事項に矛盾点が多々生じてきており、環境影響評価をやり直さなければならないと思う。



35度の猛暑の中、エアコンのない部屋で文章を考えていたら、話が中途半端になってしまった。評価書絡みの問題点について、もうちょっと続くのであります。


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