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Channel: リニア中央新幹線 南アルプスに穴を開けちゃっていいのかい?
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JR東海殿 燕沢の生態系についてのアセスを終わらせてくださいな

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前略 東海旅客鉄道株式会社 殿

私はあなた方の作成された静岡県版環境影響評価書の内容について、一部、誤解していたようです。

それは生態系に対する記載事項でございます。
以前、当方のブログにおいて、「南アルプスは複雑な地形をもち、多様な植生が成立しているのにも関わらず、本評価書においては、あらゆる動植物をひとまとめにした、非常に雑な評価しかしていない。あまりにも粗雑すぎて、環境影響評価の体をなしていない!」とまで酷評しておりました。

さらには、準備書に対する意見として書面を提出したこともございました。

お忘れになっているといけませんから、少々、当時の指摘を再現いたしますね。

◇   ◇   ◇   ◇   ◇

環境影響評価においては、生態系というものが評価対象になっています。これはその環境を代表する種の保全を行うことで、同じような環境を利用する多様な生き物を保全しようという考え方に基づいています。御社は専門家チームを結成して環境影響評価書をなさっており、「釈迦に説法」と承知しておりますが、一応、環境省のホームページにおける説明をリンクいたしますね。
https://www.env.go.jp/policy/assess/4-1report/03_seibutsu/2/chap_1_1_1.html#1-1-1

あえてご説明する必要もないと思いますが、南アルプス一帯の対象事業実施区域=改変予定地は、標高差が1000m、南北30㎞にもおよび、山の稜線から谷川まで、非常に多様な環境を含んでいます。

そして地形条件の違いにより、そこに生育する植物の種類にも違いが生じます。その植生については、地形や土壌条件ごとに、「植物群落」として類型化することが可能です。

そして植物相の違いは、それをエサとしている昆虫相の違いにも結び付きます。もしかしたら、昆虫をエサとする捕食動物の種も異なってくるかもしれません。植物のサイズや密度によっても、そこに生息する動物の種類は変わってきます。

こうした生き物のつながりのことを生態系とよびます。そしてご察しの通り、地形および植物群落の区分が、生態系の評価においては重要な意味を持ちます。

例えば、当ブログで2回続けて取り上げている大井川源流部の燕沢付近の平坦地について着目してみましょう。まあ、結局はココの場所の記述が不適切だと感じましたし。

イメージ 6
図1 燕付付近発生土置場候補地の位置
Google Earthより複製・加筆


この場所、周囲は南アルプスの山腹に典型的なミヤコザサ-ミズナラ群集という、いわゆる落葉樹林に覆われています。

イメージ 3
 図2 燕沢付近の発生土置場候補地内外の植生
評価書を複製・編集 

図2右側の植生図を見ると、大部分が「凡例10 ミヤコザサ-ミズナラ群集」に塗られています。そういえばこの植生図、「改変の可能性のある範囲」を示す点線が記入されていませんね。なぜなのでしょう。 

ところが実際に発生土を置けそうな河原のスペースは、頻繁に土石流が流れ込んだり、大井川が流路を変えたりするという、「非常に不安定な河原」という特殊な条件にあります。イメージ 1
 図3 燕沢付近平坦地における大井川の流路変更
国土地理院撮影の空中写真を同ホームページより複製・編集


こういう場所を好んで育つ植物に、ヤナギのグループがあります。例えば静岡市街地の安倍川河原に大きな木が点々と生えていますが、あればコゴメヤナギやアカメヤナギといった大木になる種です。水辺にはナガバノカワヤナギやネコヤナギといった小さな種もあります。

ここ燕沢の場合、ドロノキ、オオバヤナギといったヤナギ科の樹木が疎林を形成しており、河畔林などと通称されています。学術的には、その群落名はオオバヤナギ-ドロノキ群集と呼ばれています。その点は、評価書の8-4-2-22ページに記載されておりましたから、御社も御承知のこととお察しします。

ところでオオイチモンジという高山蝶があります。この蝶は幼虫時代、ドロノキという木の葉だけをエサとしており、成虫となったあとは、開けた場所に生育する花を訪れるそうです。南アルプスに生息するオオイチモンジは、もともと数が非常に少ないのですが、その数少ない目撃情報のあるのが、ここ燕沢付近なんだそうです。ちなみにドロノキの日本列島における分布南限がここ燕沢とその周囲にあたり、オオイチモンジの分布南限も、ここ燕沢付近になるそうです。いやあ、重要な場所じゃありませんか。

今書いたこと、静岡県が編集した「静岡県の自然植生」、静岡市が編集した「南アルプス学術概論」、平成16年版静岡県版レッドリストに書いてあることの要約です。JR東海様は、もちろん目を通しておいでだと思いますけど

というわけで、この蝶を保全するためには、単に確認された場所(あるいは目撃例のある場所)での改変を避けるだけでは無意味であり、河畔林―ドロノキの生育する河原と豊富な花とが存在する環境―とを保存することが必要となります。ゆえに、オオイチモンジは、河畔林を代表する生き物であるといえます。そしてそのことが結果的に、河畔林に暮らす多くの生き物を守ることにつながりますので、これが生態系評価の目的になります。

ですから、生態系の評価においては、改変の予定される場所の地形条件と植物群落とを把握し、それぞれの環境を代表する生き物=注目種を適切に選ぶことが求められます。オオイチモンジは河畔林という特殊な場における注目種であるといえます。このほか、より広範囲な生息地を必要とし、食物連鎖の上位に立つ種を「上位性の種」として選ぶことも必要になります。

まあ、常識ですよね? 

ところが御社の作成された評価書では、このような概念を全く一顧だにしないような記述がみられ、私としては、実に理解に苦しんでおりました。

イメージ 2
評価書を複製 

ご覧になってお分かりいただけると存じますが、注目種に選ばれているのは、行動圏が広い動物(ホンドキツネ、ツキノワグマ、クマタカ)と、改変しない場所に分布するもの(ミヤコザサ-ミズナラ群集、エゾハルゼミ、ヒメネズミ)ばかりなのですよ。改変予定地とあまり関係のない種だけが選ばれているように見受けられます。

例えば図2の植生図で、改変予定地を示す点線が記入されていないと指摘しましたけど、実際に記入してみます。するとほら…

イメージ 5
図4 改変予定地と植生との関係 

右側の赤枠内では、川に沿って細く青っぽく塗られた「オオバヤナギ-ドロノキ群集」が、かなりのウエイトを示すことが一目瞭然ではないですか。確かに赤枠全体に占める割合では、斜面下部のミヤコザサ-ミズナラ群集のほうが広いようですけど、発生土は平坦地=川沿いに置くわけですから、オオバヤナギ-ドロノキ群集のほうが、改変を受ける度合いは大きいはずでしょう。でも、これは調査対象に選ばれていないんですよね。

何でこんな無意味なことをしているのかな?と思って評価書をよく読むと、こんなことが書かれておりました。

イメージ 4

なんと!

山地の生態系」をひとまとめにして予測・評価をおこなったのですか。

確かにまあ、ドロノキの周囲で一生を終えるオオイチモンジと異なり、行動圏が広く、多様な環境を利用するツキノワグマなどの生き物にとっては、山地全体を生息域として工事の与える影響を予測することが大事です。

とはいえ、改変する場所がその種にとってどのような意味を持っているのか、この評価書では全く言及していません。「ツキノワグマが燕沢とどのように利用しているのか?」こんな誰でも思いつくような疑問にさえ、全く触れていませんね。燕沢平坦地と河川生態系との関わりについても全く言及していません。だから改変した場合の影響が全く分からなくないままになっています。
 
けれどもねぇ…、この見解では、オオイチモンジのように特定の環境(河畔林)に頼り、行動圏の狭い生き物への評価がなされてないという重大な問題があります。

ツキノワグマにとっては、燕沢の河畔林が消失したとしても、ほかの場所に移動することが可能です。けれどもここ燕沢のドロノキのみに依存しているオオイチモンジにとっては、種の存続に関わる大問題ではないでしょうか?

オオイチモンジの他にも、サンショウウオ類、カエル類、アカショウビン(水辺の鳥)、各種の水生昆虫、渓流魚など、河畔林がなければ生きてゆけなくなる動物はたくさんいます。河畔林の木陰でしか生育できない植物もあるかもしれません。

こういう種類が、すべて無視されていませんか? 

(たとえ話)
高齢化の進んだ住宅地にある食料品店Aが閉店することを考えてみる。最寄りの食料品店Bまでは4㎞ほど離れているとする。マイカーを持っている人ならば、遠くの店Bにまで買い出しに行けるから、影響は小さいかもしれない。運転のできない高齢者などにとっては死活問題である。
JR東海の主張は、マイカーを持っている人だけに注目して「まあ大丈夫だろう」と言っているようなものである。

というわけで環境影響評価の体をなしていないように思われ、前述の通り、再三の批判を繰り返していたのであります。これについてはまことに失礼ながら、正直アホかと思いました

◇   ◇   ◇   ◇   ◇

しかしですね、先月になって「燕沢に静岡県内の発生土360万立方メートル全てを集約する」というお話を、御社がなさったと聞いて合点がゆきました。

評価書を最終的に完成させた昨年8月の段階では、発生土置場の候補地が7か所あげられていました。このとき、それぞれの候補地の地質条件等には不明な点が多く、どこにどれだけの量を運び込むことができるのかについて、全く想定できていなかったのでしたよね?

したがって発生土を盛土した場合に「ドロノキ-オオバヤナギ群集は現状○○㎡から何%消失する…」というように、具体的な数値で影響の大きさを示すことは不可能であったのでしょう。それゆえ、植生ごとの詳細な生態系評価を行わずに、「各植生区分を抱合した山地の生態系として設定」なされたのでしょう。

そうですよね?

そうでなければ、JR東海という日本を代表するトップ企業が、こんな非論理的でアホなことを公的文書で表明されるとは思えませんもの。

さて、燕沢に360万立方メートルの発生土を積み上げるという「具体的な」数字が出てきたわけです。具体的な数字に基づいて予測を行うことが可能となりました。

中途半端に終わらせた生態系の影響評価を最後までやりとげてくださいな。



そうそう。

6月に、品川駅での入札が不調に終わったというスクープ報道がなされました。難工事ゆえに御社の予定価格よりも建設会社の示した価格が上回ってしまったということだそうですね。
http://diamond.jp/articles/-/72797

先日、南アルプスのトンネルの長野側について、入札を開始されたというニュースを目にいたしました。先だっては山梨側でも入札が開始されておりますね。

けれども、南アルプス全体での工事計画が全く定まっていない現状で、どうやって見積もりを出させようというのでしょうか?

環境への影響をきちんと予測していないということは、建設業者としても、環境対策の費用について適切な見積もりを行うことが困難であるのを意味するのではないかと危惧いたします。北陸新幹線中池見湿地と同じケースでありますまいか?

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