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Channel: リニア中央新幹線 南アルプスに穴を開けちゃっていいのかい?
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大井川のヤマトイワナとリニア計画

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南アルプスの大井川源流に生息しているヤマトイワナの保全とリニア計画とをめぐる一連の議論と問題点です。

お断りしますが、作者はヤブ沢でアマゴやタカハヤ、アブラハヤ程度しか釣ったことのないシロートですので、渓流釣り・渓流魚の知識はあんまりありません。そこらへん、どうぞご了承くださいませ。

【要旨】
JR東海は、南アルプスの大井川流域地下に多数のトンネルを建設することにより、流量減少、発生土置場造成などによって大井川の環境を大きく変貌させてしまうにもかかわらず、工事が河川に生息する動植物に与える影響の予測を真剣におこなっておりません。マトモに予測をしていないのであるから、マトモな対策(環境保全措置)を考案することもできておらず、それにもかかわらず事業推進一色であるから、地域の不信を買っておるように見受けられます。

【本文】
Ⅰ 南アルプスにおけるヤマトイワナの現況 

イワナ(岩魚)は、河川の最上流部に生息しているサケ科の渓流魚である。
日本列島に生息するイワナ(学名 Salvelinus leucomaenis)には、地域によって形態的特徴があり、アメマス、ニッコウイワナ、ヤマトイワナ、ゴキという4亜種に区分されている。

このうちアメマスは北関東以北から太平洋北部まで広範囲に生息しており、サケのように海へ降りて大きく成長し、川に戻って繁殖し一生を終える。他方、その他3亜種は渓流で一生を終える。後者は氷期にアメマスが分布域を拡大したものの、その後の温暖化により、本州中部では水温の低い源流部に取り残され、地域ごとに異なる形態的特徴をもつグループに分かれたものと考えられている。

亜種ヤマトイワナの本来の分布域は、本州中部の太平洋側に注ぐ河川(相模川水系から紀伊半島を経て淀川水系(琵琶湖流入河川)まで)の源流部とされている。しかし渓流釣りの対象となることから、減少した分を補うためとしてニッコウイワナの安易な放流が繰り返され、ヤマトイワナと置き換わってしまった事例が相次ぎ、また雑種も多く生じるようになってしまったようである。

北陸・関東以北に分布するニッコウイワナには、半世紀にわたる養殖の実績がある。山沿いの温泉宿などで提供される「イワナの塩焼き」等は、大部分が養殖されたニッコウイワナらしい。その一方でヤマトイワナの増殖は、もともと生息域が狭く、卵を採取するための天然魚自体が少ない、餌を食べないなどの要因によってなかなか困難であり、その技術は確立されているとは言い難い段階であるという。それゆえに本来のヤマトイワナ生息域にもニッコウイワナを安易に放流することが多くなっているとされる。

静岡県内におけるヤマトイワナの本来の生息地は、大井川水系の井川ダム以北と支流寸又川流域、および天竜川支流の気多川上流部と水窪川上流域とされている。概ね標高700m以上の水域である。伊豆や県中部の一部河川でもニッコウイワナが釣れているようであるが、これは放流魚とされている。

大井川流域でのヤマトイワナの生息環境も、他地域での傾向と同じく、乱獲(渓流釣り)、水力発電による流量減少、林道建設による土砂流出等により、減少の一途をたどっている。さらに魚の減少に対し、養殖されたニッコウイワナが放流されたために交雑が進み、純粋なヤマトイワナの生息数減少に輪をかけてしまっている。このため、県においては絶絶滅危惧ⅠB類(IA類ほどではないが、近い将来における絶滅の危険性が高い種)に指定し、保護を呼びかけているところである。

こうした現状に対し、大井川流域では、地元漁協や篤志家、県の水産技術研究所の協働により在来のヤマトイワナを増殖して放流する取組みが続けられている。同時にヤマトイワナの確認されている区域を禁漁にし、保護を図っている。
http://www.pluto.dti.ne.jp/~sugi/giyokiyoo.html
http://fish-exp.pref.shizuoka.jp/04library/news/20060606.html 

なお静岡県だけでなく、神奈川・奈良でも絶滅危惧Ⅰ類に、長野では準絶滅危惧種、山梨では絶滅の恐れのある地域個体群に指定されるなど、自然分布の確認される都道府県のうち岐阜と滋賀以外では、すべてレッドリストに掲載されている。
http://www.jpnrdb.com/search.php?mode=map&q=0503080040192&sort=s 

現段階で環境省による全国版のレッドリストには掲載されてはいないものの、全国的にみても数が激減していることがうかがえる。

そこにリニア計画である。

案の定、「ヤマトイワナはいない」と言い張るJR東海に対し、地元から「ヤマトイワナは確実に存在するから保全策を講じてほしい」という強い要求が再三にわたって出されることとなった。

井川漁業協同組合(静岡市葵区)などは1日、リニア中央新幹線計画に伴う大井川源流部の環境調査活動を継続的に実施するようJR東海に申し入れた。森山三千夫組合長らが同区のJR東海静岡環境保全事務所を訪れ、担当者に書面を手渡した。
 要望は3点。調査継続のほか、水質、水量変化を抑えるため土砂の河川流入を最小限にとどめるよう要請し、渓流魚の養殖・放流活動に対する支援も求めた。
 リニア計画における大井川源流部の環境保全では、県指定の絶滅危惧魚種ヤマトイワナの生息をめぐり両者間で認識に差異が生じている。
 JRは自社調査を根拠に「純粋なヤマトイワナはいなかった」とする報告を今年まで2度にわたってまとめた。井川漁協は「長年の活動の中で数多く確認できている」と反論している。
 要望を受けJRは「まずは内容を読ませていただく」とコメントした。
 

この報道の後、JR東海の社長が「適切に対処したい」という記者会見を行っているが、それ以降、具体的な話が出てきていないと記憶している。

環境影響評価の過程において、ヤマトイワナがどのように扱われてきたのだろうか。振り返ってみる。

Ⅱ 環境影響評価における扱われ方 
 
(1)計画段階環境配慮書(2011年6月公表) 
まず、計画段階環境配慮書に提出された静岡市からの意見と、それに対するJR東海の見解である。下段に注目していただきたい。
イメージ 1
図表1 ヤマトイワナにかかる配慮書への静岡市長意見とJR東海の見解
環境影響評価方法書149ページより 

左欄での「大井川の環境に大きな負荷を与えかねない」という懸念に対し、「大井川と交差する部分は土被りが大きく地表面への影響は小さいと考えられる」という見解を述べている。また、ヤマトイワナについては「事前に専門家等から地域の情報を得るとともに、その存在が確認された場合は、必要に応じて専門家の助言等を受け、保全措置を講じる」としている。この概念は重要であるのでご記憶頂きたい。

(2)方法書(2011年9月公表) 
方法書では、”環境に影響を及ぼすおそれがあることから調査対象にすべき項目”を選定する作業が行われる。方法書によれば、トンネルの存在は動物の生態に影響を及ぼすと認めたために、調査・予測対象に選定されている。これについて次のような説明がなされていた。
トンネルの存在に伴う土地の改変及び地下水位等の変化により対象事業実施区域及びその周囲で重要な種及び注目すべき生息地への影響のおそれがあることから選定した。
つまり、環境影響評価が始まる段階において、河川流量が減少した場合は、動物の生態に影響を与えるおそれがあると認識しており、予測対象にしていたのである(当然であるが)。

(3)準備書(2013年9月公表) 
こののち調査・予測・評価が開始され、2013年9月にその結果が準備書として公開された。準備書においては、ヤマトイワナは「文献では生息する可能性が高いとされているが現地調査では確認されなかった」とし、具体的な影響の予測や環境保全措置の検討はなされなかった。 

この見解に、地元の漁協や釣り人、さらには市役所や県庁での専門家審議会でも疑問が出され、話し合いが平行線をたどり始めることになる。

イメージ 2
図表2 ヤマトイワナにかかる準備書に対する静岡県知事意見とJR東海の見解
環境影響評価書より 

(4)評価書(2014年6月)
準備書に対する不信が払われぬまま、内容は変わらずに評価書が作成された。

(5)補正評価書(2014年8月) 
県庁や環境省においてJR東海との間でどのような審議がもたれたのか詳細は不明であるが、「生態系」の項目において、現地で確認されたニッコウイワナと「ヤマトイワナによく似た個体」、およびヤマトイワナの生息環境を対象とした影響の予測・評価がなされた(後述)。 

(5)事後調査計画書(2014年10月) 
ヤマトイワナおよびイワナ類について、評価書においては「影響は小さい」との結論を記述したため、環境影響評価法に基づく事後調査は行わないということである。ただし地元研究者、漁協、市、県より再三にわたって調査の継続と保全を求められているため、法律に基づかない「自主的な調査」を行うこととしている。
 
(6)静岡市による独自調査(2015年7月公表) 
静岡市が地元専門家に依頼して行った南アルプスの環境調査において、リニア工事予定地周辺よりヤマトイワナが確認された。
⇒http://www.city.shizuoka.jp/041_000012.html


Ⅲ 環境影響評価における諸問題 
以上のような過程を経て今日にいたり、この度の異論提出である。JR東海は事業をおこなうための法的な許可を受けたものの、地元の信頼を得ることには失敗しているように思わざるを得ない。その理由を自分なりに整理してみると、
(1)地元専門家の話を聞いていない
(2)環境影響評価を単なる手続きにとどめている
(3)環境影響評価の論理構成
(4)環境保全措置が不十分
以上のような問題があると考えられる。それぞれについて、具体的に考えてみたい。

(1)地元専門家の話を聞いていない 
まず配慮書で記述されている通り、JR東海は静岡市からの懸念に対し、「事前に専門家等から地域の情報を得るとともに、その存在が確認された場合は、必要に応じて専門家の助言等を受け、保全措置を講じる」という見解を述べていた。ところが事業認可後の2015年5月になり、そのヤマトイワナを保護・管理している人々から、JR東海の主張に対して異論が出されたのである。

また、配慮書に対する静岡市意見は、市と静岡市南アルプス世界自然遺産登録学術検討委員会との連盟で出されたものである。その後の準備書に対する静岡市長意見、静岡県知事意見も同様なプロセスを経て提出されたものである。この委員会は市内の大学教授や生物研究NPOの代表から構成されており、まさにJR東海が言う「専門家からの地域の情報」そのものであったが、いずれの意見書でも、再三にわたってJR東海の見解に疑問を呈しているしたがってこの4年の間、地元専門家の意見を真剣に聞き入れていなかったと判断せざるを得ない。

(2)環境影響評価を単なる手続きにとどめている 
環境影響評価においては文献調査や聞き取りを重視し、生息の予測される種については現地確認されずとも保全措置を講ずるべきである。考えてみれば当然のことで、年数回の現地調査で全ての種を現地確認することは不可能であるし、そもそも「絶滅のおそれのある種」なのだから、簡単には見つけられないはずである。 

ところがJR東海は、現地確認された種についてのみ、事業による影響の予測・評価と対策の考案を行うという姿勢をとっている。すなわちJR東海が一貫して続けてきた主張は「確認されたのはほとんどがニッコウイワナであった。一部にヤマトイワナの外見的特徴に近い個体(交雑種)がみられた。」として、純粋なヤマトイワナは生息していないから環境影響評価の対象としないとするものであった。

この見解が地元専門家・関係者の不信を買うことになった最大の要因であろう。専門書を紐解くと、ヤマトイワナとニッコウイワナの判別は、体側の白い斑点の有無で行うという。一般的には白斑のあるのがニッコウイワナとされているが、ヤマトイワナのなかにも、時々少数の白斑を持つものがあるという。だから外見的特徴だけでは完璧な判別は不可能らしい。正確性を期すのであれば、DNA鑑定なども必要になるとされるが、ヤマトイワナのDNA解析自体が進んでいないという実情もあるそうだ。

JR東海は完璧な判別にこだわっているようであるが、実は完璧な区別は困難でありナンセンスでもある。また、仮に交雑種であったとしても、それが存在する以上は純粋種も生息している可能性があるはずである。だから「ヤマトイワナの外見に近い個体」がいるのであれば、予防的に適切な影響評価を行い、保全措置を考案しておくべきであった。

(3)環境影響評価の進め方に問題 
補正評価書においては生態系の項目において、現地確認されたニッコウイワナと「ヤマトイワナの外見的特徴に近い個体」を対象にしてそのハビタット(生息環境)への予測をおこなっている。ヤマトイワナについては補足的な扱いである。しかしながら非論理的な表現や論理破綻している部分があちこちにみられる。

(ア)ハビタット評価手法に疑問
JR東海は、生態系に与える影響について、ハビタットに与える影響によって予測するという論理を用いている。ハビタットとは一般にはなじみの薄い言葉であるが、生息環境と訳されることが多い。その生息環境の「質」が、事業によってどのように変化するのか予測するのが基本である。
 対象となるのはイワナ類という魚である。イワナ類が生きながらえてゆくための生息環境には、
・豊富なエサ
・豊富な流量
・良好な水(水質、水温、溶存酸素など)
・洪水時の避難場所
・渇水時の避難場所
・捕食者から隠れる場所
・産卵場所の確保
・交雑する可能性のある放流魚の有無
など、様々な条件が必要である。こうした条件が、事業(工事)によってどのような変化するのか、それを行うのがハビタット評価である。

けれどもJR東海の用いた予測手法とは、ニッコウイワナ・イワナ類においては、改変のある可能性のある面積を川の長さで割っただけであった。
イメージ 3
図表3 ニッコウイワナ・イワナ類のハビタット図
評価書より 

この予測結果には、実際の魚の分布状況も河川環境も全く考慮されておらず、何ら意味のあるものではない。さらにヤマトイワナの評価については、予測手法自体が示されていなかった。まさに机上の空論なのである。 
(っていうか、マジで愕然とした)

(イ)生息環境が広く残されるのか? 
前項で示した通り、JR東海の用いているハビタットとは、「生息環境」というよりも「分布の可能性のある区域」という意味に近い。

ところで、「ハビタット(生息環境)の一部が改変を受ける可能性はあるが、周囲に同質のハビタットが広く分布することから、縮小・消失の程度は小さい」という表現が用いられている。これをもとにして、イワナ類に対して具体的な環境保全措置は講じられないことになっている(イワナ類に限ったことではないが)。

ここで思い起こしてほしいのは、大井川源流部のヤマトイワナは生息地が限られ、個体数も少ないがために「絶滅の恐れのある種」に指定されてており、そのために重要な種に位置付け、影響評価を行っているということである。冒頭部分で「現地調査では確認されなかった」としているが、それは分布域がごく限られていることの何よりの証であろう。記載内容が矛盾しているのである。「同種の生息環境が広がっているから影響は小さい」と述べるであれば、何よりも「同種のハビタットが広く分布している状況」を具体的に説明しなければならないはずである。

(ウ)流量減少の影響を無視 
河川流量が予測と同程度に減少した場合は、生息可能なエリアが大幅に縮小することが予測される。たとえ水が枯渇しなくとも、生息可能な個体数の減少、夏季の水温上昇、流速減少による底質の変化など、生息条件はよくない傾向に向かうことは間違いない。

この懸念に対し評価書においては、「一部の河川では流量が減少すると予測する。このため、ハビタットの一部が減少する可能性はあるが、周辺に同質のハビタットが広く分布することから、縮小の程度は小さい」としている。
しかし流量の減少すると予測された範囲と、生息の可能性があるハビタットとの位置関係が不明であり、「縮小の程度は小さい」ことを客観的に裏付けることはできないままである。

(エ)発生土置場造成による影響について言及していない 
地上における最大の改変行為は、現計画では大井川の河原への大規模発生土置場の設置であるが、これによるイワナ類への影響について、具体的な記述がなされていない。

河原に大量の発生土を盛土すれば、盛土による直接的な河川空間の消失だけでなく、発生土の流出のおそれ、河畔林消失による落下昆虫(イワナのエサ)の減少、改修による流況の変化など、予想される影響は多岐にわたる。容易に想定される影響について触れずに「ハビタットは保全されると予測する」と結論付ける見解については、強い疑問がある。

特に、2015年7月になって燕沢付近の平坦地に発生土を集約するという案を示したが、評価書作成時よりも影響は大きくなることが予想される。
⇒前々回のブログ記事

(3)評価書の論理構成に疑問 

(ア)環境保全措置が不十分
評価書「動物」のページにおいては、「文献のみで確認された種」(=ヤマトイワナ)に対する予測結果として次のように記述されている。
イメージ 4
図表4 ヤマトイワナに対する環境保全措置
評価書より複製 

かし非常に抽象的であり、あまり意味がないと言わざるをえない。「一般的な環境保全措置」というのは次表のうち赤く囲ってある部分である。(なお、ヤマトイワナだけでなく図表4に名の見えているカジカについても同じことが言える。)

イメージ 5
図表5 ヤマトイワナに対する一般的な環境保全措置
評価書より複製・加筆 

①、②については前述の通り改変箇所とハビタットとの関係で説明されていない現状では単なる努力目標に過ぎない。③については、燕沢に発生土を集約するという新たな計画が浮上した以上は実効性が薄い。④は環境保全措置として検討する以前に、河川法や川の水質基準として守らなければならない項目である。

いずれも、確かに「一般的な環境保全措置」である。つまりどんな土木工事でも行われているようなことである。「工事の行われた場所では渓流魚は減る」という傾向がある以上、これだけでヤマトイワナの保全が達成できるかというと、はなはだ疑わしい。

それより何より、河川流量が減少した場合の環境保全措置が全く見当されていないという問題がある。

「ヤマトイワナの主な生息環境は上流部」としているが、評価書の「水資源」の項目によると、直接地上を改変する場所より4㎞以上も上流(西俣取水堰)にまで、流量減少が及ぶ可能性があることがうかがえる。
イメージ 6
図表6 大井川源流域における流量減少の予測結果
評価書より複製


これが現実となった場合、どうするのであろうか? 

評価書では、河川流量については”水資源”の項目で扱われている。”水資源”とは利水のことである。その水資源の項目においては、水資源に対する様々な環境保全措置を実行することによって”水資源”への影響は生じないのだという。水資源に対する環境保全措置とは、トンネルへの防水シートや覆工の設置、それから最近出された導水路建設案である。

ところが導水路を建設したところで、水が戻されてくるのは「ヤマトイワナの主な生息環境」よりもずっと下流である。地元専門家の間では生息の可能性があるとされる支流についても同様である。流量が減少してしまったら、先の①~⑥の環境保全措置など全く無意味である。
イメージ 7
図表7 JR東海の考案した導水路案

なお、事業認可後に出された事後調査計画書によると、工事中のモニタリングで流量減少が確認された場合、その箇所における魚類のモニタリングを実施する計画であるという。ただ、減少の確認された場所でヤマトイワナが確認された場合、どのように対応するつもりでいるのか、全く不明のままである。

(イ)渓流釣り場は「人と自然と触れ合い活動の場」ではないのか?
評価書の「人と自然と触れ合い活動の場」において、二軒小屋ロッヂおよび椹島ロッヂという宿泊施設があげられている。そこでの利用の形態について、主に登山、周辺散策、釣り客の利用があるとされている。このうち登山客や周辺散策客が利用する登山道や林道については、登山ルートや林道東俣線を調査地点として選んでいるが、釣り客の利用が想定される渓流釣り場については、調査地点が選ばれていない。これは不自然である。 

釣り場というのは、「人と自然との触れ合い活動の場」として、一般的に環境影響評価の対象に選定されるものである。

大井川上流域においては、ヤマトイワナの生息情報について、地元漁協や保全に取り組む釣り人有志が、再三にわたって異議を唱えてきたと書いた。漁協があり、釣り人がいるのであるから、当然のことながら、この一帯は重要な渓流釣り場になっているのである。http://ff-db.jp/special/field_of_month/201501/

釣りの対象は専ら放流魚であるが、魚種に関わらず「人と自然との触れ合い活動の場」に選定されるべきであろう。


Ⅳ むすび 
準備書の段階から「現地確認できなかったが、各種の情報により生息している可能性が高いため環境影響評価の対象とし、具体的な環境保全措置を講ずる」という姿勢を貫いていれば、問題は大きくならなかったはずである。

流量減少を起こしてしまった場合は、ヤマトイワナの存続大きなダメージを与えてしまいかねない。とはいえ、流量が減少した場合の根本的な保全方法は存在しない。「増殖したうえで移植」という手法もないことはないが、そのためには移植先候補地の環境やイワナ類の生息状況を徹底的に調べなければならない。けれどもおそらく技術的・時間的に困難であろう。それに移植という小手先の保全策は、持続可能性を求めたユネスコエコパークの理念と合致しているとも言い難い。

個人的な見解であるが、ヤマトイワナへの影響は回避不可能と判断し、だからこそ過小評価しようとして乗り切ろうとし、隠し切れなくなって問題をこじれさせたのではなかろうか。

大井川のヤマトイワナの場合、地元の漁協や有志団体が管理・保全している渓流魚であったため、JR東海の見解が不適切であったことが分かりやすかった。しかしヤマトイワナだけではない。静岡県内については、注目度は小さいものの、高山蝶など一部の昆虫類、サンショウウオ類、ラン類等について同様の疑念があるし、他県についても表沙汰になっていないだけであって、同じようなことが多々あるのであろう。

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