何でも南アルプスを横断するトンネル工事を請け負う業者が決定したそうである。
一部引用
着工したのは同トンネルの東端にあたる山梨県側の工区7.7キロ。今年3月から公募型の入札手続きを進めていたが、大成と佐藤工業、錢高組の3社によるJVが施工者に決まり、26日付で契約した。
着工したのは同トンネルの東端にあたる山梨県側の工区7.7キロ。今年3月から公募型の入札手続きを進めていたが、大成と佐藤工業、錢高組の3社によるJVが施工者に決まり、26日付で契約した。
(産経新聞)
そういえば去る8月7日、南アルプス横断の長大トンネルのうち、長野県大鹿村側の工区についても、工事業者の入札が開始されたばかりである。
(JR東海ホームページ)
山梨側と合わせ、南アルプス横断25㎞のトンネルについては、半分以上の区間について、工事請負業者を決定するところまで計画が進められていることになりますな。
けれども工事の具体的な内容とか環境保全策といったものについては、ほとんど決まっていないのが現状。決まっていないというよりも、地元との合意が全く成立しそうにない、と言った方が正しいかもしれない。
例えば発生土処分。
南アルプスを横断する約25㎞のトンネル本体と、その関連トンネルからは、合計約827万立方メートルの発生土が生じる。早川町側へ232万立米、静岡市へ360~370万立米、大鹿村へ235万立米である。
(過去記事等まとめページ)
これらについて、どこへ、どう運んで、どう処分するのか、地元住民・行政との間で具体的な話し合いは進んでいないはずである。
大鹿村側には伊那山地のトンネル等からもさらに70万立米が出され、合計は305万立米になる。これらを村外に搬出するため、さらにその他資材運搬等のために、1日最大1700台以上の車両が通行するという試算がアセスにおいて出された。これだけの台数を通してしまうと道路沿いの環境に甚大な影響を与えてしまうし、そもそも現地の道路事情から物理的に不可能という話も聞く。
そこでJR東海としては、ダンプ通行台数を減らすために、村内に発生土の仮置場を設けるという提案を行い、村の対策委員会でもその案を検討しているようだけれども、村の住民としてはJR東海の事業のために仮置場(=迷惑施設)を受け入る義務もないのだから、あまり進展はないようである。
仮置場候補地として浮上した場所には、村中心を流れる小渋川の上流部という地点も含まれている。土石流になるというリスクを考えた場合、河原に発生土を置くのは避けるべきであろう(その旨は国土交通大臣意見でも述べられている)。砂防法や森林法で開発の規制されているはずの場所であるし、そもそも砂防ダムの上でもある。南アルプス山中であることから、付近に猛きん類など希少性の高い動植物が生息しているかもしれない。
…そういえば長野版評価書では、JR東海自身が、ユネスコエコパーク登録地域内には極力、仮置場を設けないと公約したはずである。
長野県版 評価書より
そういう説明がなされたはずなのに、ユネスコエコパーク登録地域内に複数の仮置場候補地が挙がっている(=大鹿村内は全域が登録地域)のだから、実におかしな話なのである。
それでも、工事入札が開始され、山梨側では請け負う業者も決まったのである。
(補足)
山梨県早川町にも大量の発生土が出される。地形的に行き場はないはずであるが、山梨県による道路整備事業の建設資材に転用するということで話がまとまっている。JR東海と建設費を折半し、南アルプス北部の夜叉人峠付近で、トンネル新設を含む大規模な道路整備を行うという計画であるが、アセスは行わず、詳細な事業計画も不明のまま、事業化が決定されている。このため早川町における発生土処分計画はクリアしたことになり、工事見積もりが行えたのだと考えられる。
ブログ過去記事⇒http://blogs.yahoo.co.jp/jigiua8eurao4/13376466.html
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ところでトンネル工事の工期や工法を見積もる場合、ズリ処理、つまり発生土の処分計画を考えることが欠かせないそうだ。掘削⇒覆工⇒発生土搬出というサイクルをいかに効率よく行うかにより、工期や工費が大きく左右されるわけである。もちろんトンネルそのものの工事だけでなく、仮置場・最終処分場までの運搬費用、発生土の造成費、環境対策費用など、様々な要素が左右される。
つまり、このサイクルを見積もって工事費を算出するためには、発生土の処分計画について、ある程度メドをつけておかなかったはずである。
…と思っていたら案の定、現在浮上してきている候補地に発生土を置けるという前提で工事入札を開始したのだという。
(大鹿村大9回リニア対策委員会)
そもそも発生土置場については、アセスを行ってから使用可能かどうか決定するとしているのに、それが使える前提とされているのはどーいう料簡だ?
う~ん。。。
発生土処分について、住民との間ではロクに話し合いが成立していないのに、施工業者には、既に既定路線として説明がなされていたことになる。
それにこの先、発生土の仮置場、または最終的な処分場候補地を公表したのち、そこが不適切であったと判断されても、工事費や工事手順が決まってしまっている以上は、容易に変更できなくなるんじゃなかろうか?
住民の感覚からみるとおかしな話じゃないのかなあ?
こんなことをやっていて信頼を得られるはずがあるまい。
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説明会の様子が分かっている大鹿村を例に出したが、トンネルの中央となる静岡市側とて状況は同じである。
静岡市に出される発生土360~370万立米について、JR東海は大井川の河原に超巨大盛土として積み上げるということを計画しているが、ここは大規模崩壊地の直下であり、絶滅の恐れのある高山蝶の数少ない目撃情報のある地でもある。安全性、環境面に加え、河川法や森林法といった法的な面からも、ここに置けるかどうかは定かでない。
JR東海が発生土360万立方メートルを積み上げようとしている場所
上記の発生土置場候補地内で今月行われた学術調査を伝える記事
(2015.8.15 静岡新聞)
すなわち、おおいに問題のある場所である。けれども(容積の面から)代替地は皆無なので、ここに置けないとなったら、静岡市部分における発生土処分計画は根本的な見直しが必要となる。
それにもかかわらず、早川側・大鹿側における発生土処分計画が、決定してしまえば、中間の静岡に出される発生土の量も360万立米という数字のまま、事実上確定してしまうことになる。根本的な環境保全策は発生土量の見直しであるが、その道は閉ざされることになる。
発生土の他にも…住民の意識聴取、河川流量の減少問題、景観問題、生態系保全、ユネスコエコパークとの整合性と国際社会への説明義務…住民との合意成立も環境配慮も放置されたまま、工事内容は秘密裏に進められていると感じが拭えない。
こんな進め方しかできないというのなら、実に情けないんだけど・・・。
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社会的に大きな影響を与える事業を完成させるのであれば、カネや技術面でクリアするだけでなく、その影響を受ける社会の合意を取り付けなければならないと思う。
けれど、こんな進め方をしておいて、住民の信頼を得られるはずがない。
JR東海の社員はロボットよろしく「決まったことです。ご理解ください」を繰り返すのだけど、JR東海の社員が地元住民の気持ちを理解しようと努めているようには見えない。もっとも”ロボット”には人の気持ちを察する感情はないのだが。
最近、リニア反対グループによって山梨県内で立木トラストが開始されたというし、大鹿村では工事の中止を求めて裁判所へ訴えが届けられたという。予備知識もなくそうした報道を聞けば、「またプロ市民が騒ぎやがって…」という感想を抱く人がおられるかもしれないけど、こんな手法を用いなければ対話が成立しないのが実情なのである。
平成に入ってから新幹線建設でこういうことが行われるのは異例であり、それだけ不信感を引き起こしていることの現れだと思う(このグループが南アトンネル早川側工区の工事内容について文句を受けないのが不思議なんだけど)。
何だか分からないけれども、JR東海は地元の合意を得るための道を、わざわざ閉ざしているように見えて仕方がないのである。
こんなことばっかり繰り返しているこの計画、事業着手に向けた動きは着々と進んでいるけれども、ひいき目に見たとしても、計画倒れに終わるのではないかという気が拭えないのである。