本日(1/27)、品川駅にて起工式が行われたらしい。たしか品川駅では2014年12月17日に起工式が行われており、同じ日に名古屋駅でも起工式が行われ、昨年12月18日には山梨県早川町でも「起工式」が行われている。
4回目の起工式なのである。
というわけで、いちいち騒ぐほどのことではないと思うのだけど、なぜか全国紙やらNHKやらが一斉に報じているのである。北陸新幹線や北海道新幹線とか、はたまた高速道路とかでも、こんな扱いをするのだろうか?
おそらくJR東海の広報が、主要マスコミを使って「リニア計画は進めてますよ~皆さま忘れないでね」のアピールをしたのだと思う。
逆に言えば、そこまでしなければ世間的に忘れ去れらてしまうことを、JR東海自身がよ~く承知しているのかもしれない。
ここから本題。
前回、前々回と、JR東海が環境影響評価手続きの最終段階で提出した資料をもとに、「国土交通省およびJR東海は南アルプス地域での河川流量減少を予見したうえで南アルプスルートを選定したのではないか?」という疑問を指摘しました。
何で今さらこんなことを蒸し返すかと言うと、河川への影響を考えるにあたり、計画初期の経緯が重要になってきそうだからです。
ちょっと話が変わりますが、環境影響評価手続きにおいて、次のようなやりとりがありました。
2014年の3月、環境影響評価準備書において、静岡県知事より「環境負荷を小さくするため斜坑計画を見直すこと」という意見が出されました。静岡県内における地上工事を根本的に問う内容でありましたが、これに対して評価書においてJR東海の示した見解は、「平成39年度開業のためには難しい」というものです。
静岡県編 環境影響評価書より複製・加筆
同じようなことが、長野県の大鹿村や南木曽町などでも起こりました。一見、事業者側の主張だけをゴリ押ししているかのように見えますが(実際そうなんだけど)、一応、根拠があります。
環境影響評価手続きについて、その内容を定めた「技術指針等を定める主務省令」というものがあります。主務省というのは、該当する事業を管轄する省庁のことであり鉄道事業については国土交通省になります。その国土交通省令(注)の第29条では次のように定められています。
(注)正式名称
第二十九条 事業者は、環境影響がないと判断される場合及び環境影響の程度が極めて小さいと判断される場合以外の場合にあっては、事業者により実行可能な範囲内で選定項目に係る環境影響をできる限り回避し、又は低減すること、必要に応じ損なわれる環境の有する価値を代償すること及び当該環境影響に係る環境要素に関して国又は関係する地方公共団体が実施する環境の保全に関する施策によって示されている基準又は目標の達成に努めることを目的として環境の保全のための措置を検討しなければならない。
下線部にご注意ください。つまり、環境への影響を避けるための措置は、事業者が事業実施を可能とする範囲内でなければならないということになります。事業推進が不可能になるような無理難題は押し付けなくてよいとする”配慮”とも言えます。
ところで、JR東海の進める中央新幹線整備計画というものは、2011年5月に国土交通大臣の出した建設指示に基づいています。
●2027年開業
●南アルプスルート
●事業費5兆4300億円(2011年当時)
」といった前提で国から建設指示が出されているんですね。JR東海は、その枠内で環境保全措置を検討すればよいことになります。
国土交通大臣による整備計画の決定
はっきりと「南アルプス中南部を経由」と指示してあります。ということは、南アルプスでのトンネル工事が困難になるような環境保全措置は検討しなくてよいという理屈になります。先ほどの静岡県知事による斜坑計画の再検討要請も、実行可能な範囲を超えているので、端的に言えば、検討しなくてもよいことになります。
さて、河川の流量問題に戻ります。
静岡県の大井川については、毎秒2トンもの河川流量の減少が試算され、しかも根本的な解決策がない。さらに排水のためのトンネル(導水路)を掘ると、別の沢まで涸らしかねないというおかしな話。
(関連事項)
これだけ流量減少が大きく試算されたのは、ひとえにトンネルの位置に問題があると思います。川の真下に1㎞近くにわたって3本のトンネルを掘るとか、そこに4本のトンネルを集中させるとか、川をくぐらせて斜坑を掘るだとか、どう考えても河川への影響を意識した配置だとは思えません。
上図の二軒小屋付近を拡大
ですから河川環境を維持するためには、このように水系を無視したトンネル配置を根本から問うことが不可欠となります。
しかし川への影響を小さくするためにトンネル位置の再検討を提案したとしても、上述の通りJR東海が「それはムリ」と判断すれば、それで議論は打ち切りになってしまうでしょう。
したがって、河川流量の問題について深く言及するのであれば、その上位計画である「中央新幹線整備計画」と、それに基づく「建設指示」にさかのぼって考察する必要があると思います。
私の考えでは、河川流量について2011年当時における国の責任問題は、次のように整理されると思います。
●河川流量を観測するよう指示を出しているのに、中央新幹線小委員会におけるルート選定段階において、河川についての議論を行わなかった。
●全幹法に基づいて国の指示した地形・地質調査の内容はいかなるものであったか。
●利水・治水とは無関係に法河川の流量を減少させる行為は河川法の想定外である。法の想定外となりうる事業を国が指示したことになる。
同じような国の責任は、発生土処分計画、エネルギー消費等、様々な懸案についても言えるかと思います。