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Channel: リニア中央新幹線 南アルプスに穴を開けちゃっていいのかい?
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準備書9月公表はおかしいのではないのかな 北陸新幹線の事例から考える

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こういう記事がありました。

『リニアの環境影響評価準備書、9月にも公表(時事通信)』

会員制記事なので中身は分からないけれども、前にも書いた通り、2014年度着工のためにはこのスケジュールでなければ実現不可能ですから、案の定といった感じです。
 
そのいっぽうで、今年秋からは、延伸工事の終わった山梨実験線において、新型車両L0系を用いて最大12両編成で走行実験が行われることになっています。
 
準備書というのは環境への影響を調査・予測・評価し、それをまとめた文書のこと。当然のことながら、列車の走行に関する項目も多々含まれます。
 
これも前に書いたことだけれども、準備書を出してから走行実験を行うっていうのは、あからさまにおかしい。
 
万が一、今後の新型車両12両編成での走行実験で新たな環境への影響が判明し、それへの新たな対応が必要となっても、準備書には反映できなくなってしまい、外部からの法律に基づく意見提出も不可能(事業者側から見れば不要)になってしまいます。
 
しかも環境影響評価法31条の規定により、アセス終了後の事業変更は、特に大きく内容を変える場合を除き、再度のアセスを不要としています。
 
つまり、環境アセスメントの結果を合法的に無視できてしまうのです。これは大きな問題であり、環境アセスメント制度の本質に関わってきます。

というわけで、環境アセスメント終了後に事業内容が変更されることは、大きな混乱を招くようです。
 
事例1 辺野古への米軍基地建設
→使用される航空機の種類が未定であった(アセスの終了近くになってオスプレイ配備計画が浮上)ため、騒音問題に関しての予測や評価が無意味になってしまった。
 
事例2 愛知万博と海上の森
→現地調査の途中で会場予定地だった海上の森でオオタカの営巣が確認され、非難が高まる。そのうえ入場者数予測等も変更され、予定地が変更される。新規予定地に関しては不十分な調査しかおこなえず再調査が必要となり、その予定地も再度変更されるなどして、結果として通常の2倍以上の手間がかかってしまった。当初から複数案を提示していればよかったとされる。
 
事例3 北陸新幹線と中池見湿地
→中池見湿地というのは福井県敦賀市にある湿地。現在の日本では湿地の存在そのものが貴重ですが、その中でも特に良好な水循環が保たれ、数多くの希少な生物が生息し、長年の保護運動の結果ラムサール条約にも登録された稀有な場所。アセス後に、そこを北陸新幹線が貫通することになってしまった。
 
北陸新幹線の事例について、ちょっと経緯を時系列に並べてみます


1992年 大阪ガス㈱による液化天然ガス基地計画が明らかになる。地元自治体も誘致に動く。いっぽう貴重な動植物や珍しい地形が破壊されることに対し、市民から反対の声があがる。
 
1993.10~1996.3 大阪ガスによる環境影響評価
この頃から市民や学者による調査が活発化し、湿地生態系の重要さが広く知られることとなる。
 
1999.5 コスタリカでのラムサール会議分科会にて、中池見湿地の現状が国際的に知られるところとなる。これを受け、福井県知事、敦賀市長が大阪ガスに意見書を提出。
 
1999.10 大阪ガスは工事を10年間延期すると発表。
いっぽう1998~2001年、鉄道建設・運輸施設整備支援機構(以下鉄建機構)による北陸新幹線建設事業の環境盈虚評価が行われる。湿地東側の山中にトンネルを掘るも、問題はないという評価で終了。
 
2002.4 大阪ガスは液化天然ガス基地計画の中止を発表。
 
2004~5 大阪ガスは維持管理費と事業予定地を敦賀市に寄付。敦賀市長は湿地をラムサール条約に登録したいとの意向を表明。こののち保全計画についての協議会が繰り返し行われる。
 
2005 鉄建機構は住宅地への影響を避けるため」「高速走行のため」として予定ルートを150m移動し、湿地を貫くことになる。http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20121110-00000007-mai-soci
 
2011.2~ 環境省による中池見湿地の越前加賀海岸国定公園編入のための現地調査
 
2012.3.27 環境省は越前加賀海岸国定公園特別地域に指定
 
2012.6.29 国土交通省は北陸新幹線(金沢-敦賀間)の着工認可。お墨付きを与えたのはリニアによる南アルプスぶち抜き計画にお墨付きを与えたときと同じ人物。2005年に行われていた予定ルートの変更については、「若干」の変更であるため環境影響評価法31条で定めた再アセスの基準以下であり、国交省整備新幹線小委員会、鉄建機構ともに問題はないという認識を示す。
 
2012.7.2 ラムサール条約に登録(水源地となる湿地東側の山も含む)。
 
2012.7.25 鉄建機構は湿地東側の山で環境調査をおこなうことを表明。しかし調査結果にかかわらずルート変更はおこなわないと発言。批判が高まる。http://www.fukuishimbun.co.jp/localnews/super_expless/36788.html
2012.秋~年末 市民、日本自然保護協会、環境省などの調査により湿地生態系の豊かさが再確認され、鉄建機構に計画の見直しを求める声が強まる。
 
2013.6.8 この日の報道では、事業主体の鉄道建設・運輸施設整備支援機構は「調査」をおこなう方針であると表明。ただし、それが、関係者と事業主体だけによる調査で終わるのか、環境影響評価法32条に基づいて、自主的に環境影響評価を最初からやり直すのか、定かではない。


 
中池見湿地では、こういうゴタゴタが続いているわけです。国定公園に指定したりラムサール条約への登録をしたわけですが、今までのところ自然環境の保全には何の役にも立っていないわけで、果たして有効性があったのでしょうか。
 
 

それはともかく、リニア新幹線では今後も走行実験が行われるわけですから、その結果次第では路線の位置や規模や構造が「若干」アセス時よりも変更されることも理論上はありえます。その結果として大きな自然破壊につながっていく可能性も、実際に北陸新幹線という事例があることから否定できないように思われます。事業を進める側にしても、無用な混乱を増幅させるだけのような気がします。
 
2014年前半、環境アセスメントが終わった
2014年後半、アセスで問題なしとして着工にいたった
2016年頃、走行実験が終わり、あらたな問題点が判明した
2017年頃、新たな問題点に対処するために、路線の構造等を変える必要が出てきた。環境への負担は増大することとなったが、再調査は不要と判断された。問題視する声は無視され、事態が泥沼化した…。
こんな感じです。
 
 
ものすごくおかしな話だと思いませんか?
 
これでは環境アセスメントなど全く意味がありません。北陸新幹線の事例など、環境影響評価法の隙間をぬって、アセス抜きで自然破壊を強行するようなものです。
 
 
このような懸念を抱くのですが、最近行われている各地の説明会でも、この手の質問があがったという話は全く聞きません。私の杞憂なのでしょうか。リニアの通る岐阜県東濃地区には、”東海丘陵要素”と称される珍しい植生を有する湿地が点在しており、国定公園への編入も議論されているそうですが、中池見湿地の事例は他人事ではないと思います。

とにかくリニアに関して言えば、本当に環境配慮をするつもりがあるのなら、L0系12両での走行実験結果を準備書に反映させるべきだと思います。
 
 
(注)ひょっとしたら、走行実験結果を適切に反映させて環境対策をとれば、それでいいじゃないかと思われる方もおられるかもしれません。
 
しかしなぜ私がアセスにこだわるかと申しますと、それはアセスが、住民とJR東海とが、環境保全という範囲に限定されるものの、法的に設けられた、相互に意見をやり取りできる数少ない機会だからです。ただでさえ住民不在・情報非開示のこの計画では唯一の機会と言っていいかもしれません。単なる説明会とは違って発言時間に制限がないこと、事業者側も説明を求められること、文書として後に残ることも重要です。単なる説明会や環境規制とは、これらの点が根本的に異なります。
 

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