JR東海が大井川の水資源対策として考案している導水路計画。この導水路案を中部電力木賊堰堤との関係について考察しておりますが、どうも釈然としない。
導水路完成後に木賊堰堤での流量はどうなるか、JR東海は次のように主張しています。
第4回大井川水資源対策検討委員会資料より
注目していただきたいのは、「木賊堰堤における河川維持流量(通年0.37㎥/s)に対して渇水期(12~2月)の流量は1.15㎥/sとなります。」という見解です。
何かヘンなんだよなあ…?
どうもおかしい事項が2点。
釈然としない点① 流量の予測前提は妥当なのか?
ちょっと回りくどくなります。
木賊堰堤での放流義務は、確かに年間を通じて0.37㎥/sであり、これがリニア完成後にもキープできれば、とりあえず現状維持となります。
それを考える上で、ちょっと寄り道。
大井川水利流量調整協議会でのルールによると、どうやら上流の田代ダムが「新たな放流」を行っているときには、その量は取水せずに素通りさせることになっています。これがその協定書のコピー。
田代ダムから新たに放流される水量と同量を、下流の中部電力(株)のダム等および長島ダムから流下させるものとする
「新たに放流される水量」とは、前々回のブログで説明した還元放流というものになるようです。概念がイマイチ分かりにくいのですが、簡単に説明すると次のような感じになります。
田代ダムから環境維持のために下流に流すべき流量は以下の通りである。
・12/6~3/19 0.43㎥/s
ただし、河川流量が0.1㎥/sを超える場合に限り、1.62㎥/s の範囲内で発電取水ができるものとする。
・3/20~4/30 0.98㎥/s
・5/ 1~8/31 1.49㎥/s
・9/ 1~12/5 1.08㎥/s
ただし、河川流量が0.1㎥/sを超える場合に限り、1.62㎥/s の範囲内で発電取水ができるものとする。
・3/20~4/30 0.98㎥/s
・5/ 1~8/31 1.49㎥/s
・9/ 1~12/5 1.08㎥/s
いっぽう、同ダムの最大認可取水量は4,99㎥/sである。河川流量が減ったとき、最大認可取水量まで取水すると、維持流量が確保できなくなる。このため、取水量を減らして維持流量に回す必要が生じる。この減らしたものが還元流量にあたる。つまり、河川に還元した流量という意味合いである。
要するに、冬場や真夏の渇水期に田代ダムが還元放流を行っている間、木賊堰堤では同堰堤の維持流量0.37㎥/sに、田代ダムからの還元流量を上乗せして放流していることになるのです。
その木賊堰堤での放流実績について、2006~2010(平成18~22)年における放流量がインターネット上に公開されています。一部だけですが、重要な部分だけ抜粋します。
ピンクの部分が木賊堰堤の維持流量、黄色が上流の田代ダムからの還元流量です。よく見ると、ピンクの部分は明らかに0.37㎥/sを下回る日があり、日々変動しています。本来、維持流量は常に0.37㎥/sをキープしなければならないのに、それが変動しているということは、維持流量を確保できぬほど流量が減少していることを意味します。グラフにも「維持流量減は河川流量減によるため(取水停止中)」と明記してあります。
したがって黄色の田代ダムからの還元流量を合わせても0.5㎥/s程度しか流れていない日が多いようです。
よって、冒頭のJR東海の見解は、現実の河川の状態を適切に反映していないのではないか?という疑問が生じます。試算前提が現実よりも0.6㎥/s程度多く見積もっているとして、それを差し引いて考えたらどうなるのでしょう? 本当に0.37㎥/sをキープできるのでしょうか?
釈然としない点② 導水路が還元放流を吸い込む?
こちらはJR東海が第4回大井川水資源対策検討委員会で用意した資料です。トンネル建設前の流量、トンネル完成後の流量、導水路建設後の流量が示されています。
第4回大井川水資源対策検討委員会資料より複製・加筆
下から2番目の予測地点にご注目ください。ここが木賊堰堤になりますが、前提流量11.9㎥/sがトンネル完成後には9.87㎥/sに減り、導水路をつくるとさらに0.49㎥/s減って9.38㎥/sになるとしています。
導水路をつくると余計に流量が減る?
この導水路は水力発電所等の水路とは異なり、大井川の河底よりも低い位置を掘り進める計画です。その距離約11㎞。このような位置関係でであるため、地表付近のを吸い込んでしまうのだと思われます。都心や沿岸部の地下鉄を除き、こんな構図の構造物は日本国内には存在しないのではないでしょうか…?
っていうか、水資源対策の導水路が余計に水を奪ってどうするんだよ!?
さて、現在、渇水期における田代ダムの維持放流量は、0.43㎥/sであり、還元放流の最大量もこの値となります。念を入れますが、維持放流と還元放流との関係が分かりにくいのでご注意を。
そして、先に貼っておいた通り、大井川水利流量調整協議会の協定書では、東京電力が還元放流として大井川に流した水は、途中の堰堤やダムで取水せずにそのまま下流にまで流すことと定められています。
しかしJR東海の試算通りなら、東京電力が放流した分は木賊堰堤に到達する前に、そっくり地下の導水路に吸い込まれることになります。
なんかおかしくありませんか?