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リニアと取水その3 「基準渇水期流量」を基に検討すべきでは?

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環境影響評価書において、リニア建設工事による大井川の流量減少は次のように予測されています。
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コピー1 大井川におけるトンネル完成後の流量予測 (評価書より)


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コピー2 流量予測地点(評価書より) 



イメージ 1
コピー3 大井川渇水期におけるトンネル完成後の流量予測(評価書より) 


年平均(?)では田代ダム付近で2㎥/s程度の減少が予測され、渇水期にも1.8㎥/s程度の減少が予測されており、各方面への影響が懸念されているところです。


ところで見方を変えて、トンネル工事による水の消失ではなく「2㎥/sの取水」を計画している場合を考えてみたいと思います。

河川法施行令第2条第3号によると、規模の大きな取水は「特定水利」とされ、一級河川においては国土交通大臣の許可が必要となります。詳細は省きますが、大雑把には
●発電用水利
●1日2500㎥/s以上の水道または鉱工業用水の取水
●1日につき最大1㎥/s以上の灌漑のための取水
が、特定水利の対象となります。
もしも2㎥/sの取水計画であったら特定水利とされ、国の許可を受けねばならないのです。 

しかしリニア建設の場合、水を使う目的で流量を減らすわけではないため、河川法による取水許可(占用)の申請は不要というのが国土交通省の見解となっています。
(平成26年3月13日 国会答弁より)

さて、水利の許可を申請する際には様々な事項を決めて国に提出する必要があり、当然ながら取水量も定めねばなりません。この取水量の設定方法は水利使用規則というもので定められているようです。重要な部分を国土交通省のホームページより抜粋します。

取水予定地点における河川流量のうち10箇年の渇水流量値を抽出し、そのうち最小値年を基準年とします。
この最小値の渇水流量を基準渇水流量といい、河川維持流量、取水予定量及び関係河川使用者の取水量がこの範囲内に存する必要があります。

基準渇水流量-(河川維持流量+関係河川使用者取水量)-取水予定量≧0

これは、一般に各河川使用者が円満に取水することができる限界の水量であるという河川管理上の経験的事実に基づくものです。すなわち、河川の流量を多めに見積もって次々に新たな水利権を付与してゆけば、各河川使用者が十分に取水することができない日が頻繁に起こり、水利権の優先順位を侵してわれ先に取水するというような水利秩序の混乱が生じ、ついには、干害によって一部河川使用者が致命的な打撃を被ることとなります。(後略)
http://www.mlit.go.jp/river/riyou/main/suiriken/kyoka/index.html

基準渇水流量とは10年に1回程度の渇水年における取水予定地点の渇水流量(年間355日流量)をいいます。

基準渇水流量という言葉にご注意ください。取水量を定める際は、10年間(=約3650日)のうち、3640日はこの値を下回らないという流量を基準に考えなければならないのです。言い換えれば、10年間で10日程度しか起こらないような渇水時を基準にせよということです。

河川水を大規模に取水すると、流量減少によって様々な影響が生じることから、申請の際には、このように綿密な調査のもと、取水量を厳格に設定しているわけです。

さて、ここでJR東海の見解をみてみましょう。第4回大井川水資源対策検討委員会で使用した資料です。
イメージ 3

コピー4 田代ダムへの流量影響予測とJR東海の見解


ついでに、ここで言及されている田代ダムの位置を示しておきます。
イメージ 4
図1 大井川源流の水力発電所 

「田代ダム地点での流量は0.44㎥/sとなり、維持流量0.43㎥/sは確保できる」としていますが、試算根拠は全く不明です。もうちょっと掘り下げて考えると、この0.44㎥/sという数字は、おそらく評価書(コピー4赤枠内を参照)に示されたトンネル完成後の渇水期予想流量から、東京電力の取水上限1.62㎥/sを差し引いたものなのでしょう。

JR東海の説明によると、評価書での予測前提となった現況解析値とは、大井川での平均的な状態をコンピュータ上で再現した値なんだそうです。したがってあくまで平均状態を前提にしており、基準渇水流量については考慮していません。もしも「2㎥/sの取水」を申請する際にこのような試算方法であった場合、許可はできないのです。

さて河川法では、水利の許可申請がなされた場合には、関係する水利使用者との合意ができるまで、その許可はできないとされています。ここでいう使用者とは、取水だけではなく漁業関係者も含まれます。リニアの場合、上述のように取水ではないためこの規定が適用されるか分かりませんが、たぶん、協議を行ったとしても、このような流量予測では協議自体が難航するのではないかと思われます。

大井川では、中部電力が実に大量の水を川から根こそぎ持って行っており、東京電力も元々流量の少ない最上流部で水を取っています。下流では農業用水、上水道の取水も行っています。しかし当然ながら、こうした取水においては、基準渇水流量に照らし合わせて量を定めています。

例えば中部電力二軒小屋発電所は、大井川最上流の東俣堰堤と支流の西俣堰堤から合計1.15㎥/sを常時認可された量として取水し、維持流量は東俣0.11㎥/s、西俣0.12㎥/sと設定しています。この値を決定するには、1978~1988(昭和53~63)年の流量を基にしているそうです。逆に言えば、中部電力は西俣や東俣の基準渇水流量を0.6㎥/s程度としていることになります。

ところがJR東海は、西俣の渇水期流量を1.18㎥/sと設定し、それがトンネル完成後には0.62㎥/sに減るとしている。。。

おかしいですよね?
前提としている流量が異なるのだから、同じ土俵には立ちにくいと思われます。

大井川だけではありません。リニアのトンネルがくぐり抜ける法河川(河川法の適用されている河川)全てにおいて、同じことが言えると思います。南アルプス一帯の小河内川、内河内川、大柳川では、一応流量の予測結果が出されていますが、いずれも基準渇水流量については言及されておらず、これで水利について議論するのは困難だと思われます。長野県南木曽町の蘭川、阿智村の阿智川、豊丘村の虻川、神奈川県の道志川なんぞは予測自体をしていないのだから、そもそも話にならない。
イメージ 5
コピー4 山梨県大柳川の流量予測結果(JR東海ホームページより) 
何を前提にしているのかさえわからない


既存の水利用者との調整が必要であるからには、JR東海は基準渇水量に合わせた予測を行うべきではないでしょうか。


(二軒小屋発電所の記述については以下の文献を参考にした)
中部電力株式会社静岡支店大井川電力センター 編集(2001) 『大井川 文化と電力』

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