Quantcast
Channel: リニア中央新幹線 南アルプスに穴を開けちゃっていいのかい?
Viewing all articles
Browse latest Browse all 483

南アルプスど真ん中に高さ70mの超巨大盛土 ―正気ですか?― 

$
0
0
去る3月28日、静岡県庁で開かれた第6回中央新幹線環境保全連絡会議において、JR東海が静岡県内に想定している巨大発生土置場の計画案を報告しました。

会議の資料が県庁のホームページに掲載されていっるのですが、悪い冗談に思えてくる内容でありました。同時に、こんなアホな見解を述べているぐらいだから、着工はまだまだ遠い先の話では?という気もしました。

発生土置場候補地となっているのは南アルプスのど真ん中、大井川源流の燕沢とよばれる川沿いの平坦地であり、JR東海はこの場所に静岡県内への発生土360万立方メートルの全量を積み上げるとしています。


イメージ 3
図1 南アルプスの位置 

二軒小屋付近の衛星画像

イメージ 2
図2 発生土置場候補地付近の衛星画像 Google Earthより複製 

上記衛星画像で黄色点線で囲ってある範囲が、評価書で示されていた燕沢の発生土置場候補地です。評価書関連図から、同地の詳細な地図を抜粋します。

イメージ 4
図3 燕沢平坦地の地図 環境影響評価書関連図より複製・加筆 

この枠内に、以下のように発生土を積み上げる計画なんだそうです。右が北(上流側)になっているのでご注意。



イメージ 1

図4 燕沢発生土置場の計画案 第6回中央新幹線環境保全連絡会資料より 

以下、疑問点・問題点について。

●評価書で言っていたことと違う 
ここは南アルプスユネスコエコパーク内であり、開発行為については、環境に配慮した持続可能な形が求められる、このルールに対し、JR東海は環境影響評価書で次のように見解を述べていた。

イメージ 5
図5 ユネスコエコパークについてのJR東海の見解 評価書より  

画像が大きいので縮小表示しているが、中段には「発生土置場などの候補地は、電力会社等が使用した工事ヤード跡地や人工林等を選定しており…」と書かれている。ところが図4を改めてご覧いただきたい。巨大盛土は工事ヤード跡地の北側がメインなのである。

●巨大盛土による河道固定の影響は?  
以下に、1948(昭和24)年8月に撮影された空中写真と、それから22年後に撮影されたもの、および2014年6月に撮影された衛星画像を並べる。

イメージ 6
図6 1948年と1970年の空中写真 

イメージ 7













図7 2014年の衛星画像 

現在、JR東海が巨大盛土を想定している部分は森林におおわれている。1970年代でも同様である。

ところが1948年当時ではかなり植生がまばらであり、よく見ると幾筋もの溝状が見える。おそらく頻繁に流路が変わった跡だと考えられる。このように、燕沢平坦地においては、流量が増した際には、水が川幅いっぱいに広がってながれていたものと推定される。つまり、平坦地全体が河川空間なのである。

いっぽう、右岸の急斜面には大規模な崩壊地が広がっている。1948年当時でも明瞭であることから、70年来崩れっぱなしというわけである。また、その深層には巨大な地すべりの存在も推定されている(図8)。これが燕沢平坦地の立地条件である。
イメージ 8
図8 燕沢付近の地すべり分布
 防災科学研究所 地すべり分布図より複製・加筆   

ここにJR東海の案のように盛土を行うと、永久に流路が右岸よりに固定されることになる。したがって大規模崩壊地および地すべりの末端に川の流れを衝突させるような構図となる。すると崩壊地および地すべりの末端を、常に川の流れが削り続けることになる。

イメージとしては、崩れている斜面の下を削り取るようなものである。
よって、
土砂の流出量が増えるのではないか? 
崩壊・地すべりを助長するのではないか?
 
といったことが想定される。

おそらく今後の大きな課題になるものと思われる。

●川をふさぐ心配
ところで、改めて図4と図7を見比べて頂きたい。
盛土が最も流路に張り出した地点の対岸の斜面には、衛星画像でも明瞭な、大規模な崩壊地がある。単純に考えて、ここがちょっと大きく崩れただけで川をせき止めてしまう!! 今までは、少々崩れても流路が変更するスペースがあった。だからこそ河道が頻繁に変わっていたわけである。そのスペースを消してしまう。

●生態系への影響は?
ここでドロノキという樹木の扱いも懸案となっている。ヤナギ科の落葉高木で、ポプラに近い種類とされている。寒冷地の流路変動の激しい礫床河川に特有な樹木であり、大井川の燕沢付近が、日本列島における分布南限とされている。

これだけでも貴重な存在に位置付けられるが、さらに重要性を高めているのがオオイチモンジというチョウ(蝶)である。

オオイチモンジも寒冷地に生息する種であり、本州中部の高山に分布しているのは、氷期に北から南下してきたものの残りとみられている。北海道ではやや普通らしいが本州での生息数は少ないようで、環境省のレッドリストで絶滅危惧Ⅱ類に指定されており、、静岡県のレッドリストでは絶滅危惧ⅠA類と最も保全が急がれる種に指定されている。静岡県の場合、1960年代に確認されたのを最後に全く生息情報が絶えており、絶滅したものと懸念されていたが、最近、二軒小屋付近の某所で40年ぶりに確認されている。

このオオイチモンジの幼虫は、ドロノキの葉をエサとしている。よってオオイチモンジの存続にはドロノキの存続が欠かせないわけである。

JR東海の案のように巨大な盛土をおこなうと、完全に流路は固定されることになる。現在、ドロノキの生育している範囲も、河床変動の影響を受けにくくなるものと考えられる。すると洪水で森が破壊されることはなくなり、より安定した土地条件を好む樹木が侵入して林床は暗くなり、河原を好むドロノキは育ちにくくなるかもしれない。そうすれば、オオイチモンジの生息可能な条件が失われることにつながってしまう。
JR東海の見解は、大規模盛土の造成が生態系に与える影響を考えていないのではあるまいか?

⇒この懸念は、上高地におけるケショウヤナギの研究事例をもとに考えたものである。同地では砂防工事による河道固定により、ケショウヤナギの存続が危ぶまれているらしい。




こんな案では、おそらく許可できないと思う。

JR東海の説明資料には、「官民境界から10mセットバックした」とされている。
これ以上のことは書いていないので、これをもって何を言わんとしていたのかは不明であるが、もしかしたら「私有地(=特殊東海製紙社有林)だから河川区域には影響を与えず問題ない」という考えなのかもしれない。

すると森林法における林地開発許可がカギを握るのであろう。
http://www.rinya.maff.go.jp/j/tisan/tisan/con_4.html
(開発行為の許可)
森林法第十条の二
 
2 都道府県知事は、前項の許可の申請があつた場合において、次の各号のいずれにも該当しないと認めるときは、これを許可しなければならない。
一   当該開発行為をする森林の現に有する土地に関する災害の防止の機能からみて、当該開発行為により当該森林の周辺の地域において土砂の流出又は崩壊その他の災害を発生させるおそれがあること。
一の二   当該開発行為をする森林の現に有する水害の防止の機能からみて、当該開発行為により当該機能に依存する地域における水害を発生させるおそれがあること。
二   当該開発行為をする森林の現に有する水源のかん養の機能からみて、当該開発行為により当該機能に依存する地域における水の確保に著しい支障を及ぼすおそれがあること。
三   当該開発行為をする森林の現に有する環境の保全の機能からみて、当該開発行為により当該森林の周辺の地域における環境を著しく悪化させるおそれがあること。 

いろいろと違反しているようだから、これでは許可できないと思うのである。

Viewing all articles
Browse latest Browse all 483

Trending Articles



<script src="https://jsc.adskeeper.com/r/s/rssing.com.1596347.js" async> </script>