前回の続きです。
南アルプスの大井川源流に360万立方メートルもの残土(注)を山積みにしようというJR東海の計画。
(注)国土交通省の行政用語では、建設工事で生じた土・ズリは、リサイクル可能な資材という概念のもとに、建設発生土という呼び方をする。このブログでは、なるべくその言葉を使ってきた。けれどもこのほど県に報告した下記計画ではリサイクルしないわけだから、JR東海にとっても地元にとっても不要物以外の何物でもない。というわけでゴミ扱いという意味合いを込め、このブログでは今後、残土と呼ぶことが多くなると思う。
第6回中央新幹線環境保全連絡会議 資料より複製
先日、この計画を静岡県に説明した際の資料には、「土石流発生時の数値シミュレーション」なるものが掲載されています。一部を抜粋しておきます。
第6回中央新幹線環境保全連絡会議 資料より複製
なんでも、大規模な土石流が生じても、「発生土置場の有無による椹島ロッヂ付近への影響に違いはない」とのこと。
話の成り行きを知らない人が見たら、「ふーん。安全なんだ。」と納得してしまうと思うのですが、ところがこれ、論点をすり替えているように思えるのです。もちろん、夏山シーズンには大勢の登山客が利用する場所ですから、その安全性を保証することは大切です。その意味で、椹島ロッジへの影響の有無を考えるのは当然でしょう。
しかしこの数値シミュレーションとは、環境影響評価準備書への県知事意見に対する見解という位置づけとしています。その県知事意見というのは次のようなもの。
第6回中央新幹線環境保全連絡会議 資料より複製
ご覧の通り県知事意見では、「環境影響の拡大が懸念される」として、検討を行うべしとしているのでありました。つまり安全面ではなく環境面に与える影響を念頭に置いていたわけです。環境影響評価の過程であったから、環境影響を問う内容であったことは適切です。
それなのにJR東海の行ったシミレーションなるものは、この問いかけに全く答えていないのです。
(県知事意見)
●盛土によって土砂流出の様相が変化すると考えられるが、河川環境への影響はどうなるのか?
●盛土によって土砂流出の様相が変化すると考えられるが、河川環境への影響はどうなるのか?
●平坦地の成因を確認せよ
(JR東海見解)
大規模な崩壊が起きても椹島ロッジへの影響は変わりません。
大規模な崩壊が起きても椹島ロッジへの影響は変わりません。
おかしくないですか!?
論点がかみ合っていないんですよ。
そもそも論点がずれているので、深く追及すること自体がナンセンスかと思いますが、とりあえずJR東海の示したシミュレーション結果にツッコミを入れておきます。
JR東海の予測は、「燕沢付近に流入する支流の上流部で突発的に崩壊が起こり、それが土石流となって大井川に流入したら?」という想定です。すなわち、安全性(?)の保証という観点で出したのだと思いますが、それでも次のような点が疑問として残ります。
●発生土置場近傍で大井川本流の川岸が崩壊する事態は考えていない。
⇒発生土置場の対岸は大規模崩壊地&推定地すべりである。
⇒発生土置場の対岸は大規模崩壊地&推定地すべりである。
●発生土置場が水の流れをどのように変化させるのか予測していない。
●発生土置場自体が、大井川本流の砂礫運搬に与える長期的な影響は予測していない。
●盛土する地盤の強度がわからない。
●河道変遷を調べていない。
今の段階で把握していないのなら、まだ数年は着工するつもりがないのかもしれない。
Google Earthより複製・加筆