南アルプスを横断する50㎞以上の長大トンネル群。当然のことながら、トンネルを掘れば残土が発生します。
道路トンネルだろうと地下鉄だろうと、トンネルを掘れば当然のことです。ただ、リニア計画の場合は南アルプスという特殊な場所ゆえに問題が非常に大きくなります。
この残土、今まで530万㎥程度と見込んでいましたが、どうやらさらに多くなりそうです。
JR東海が作成した環境影響評価方法書には、断面の形状はこのように示されていました。
これをもとにして下図のように掘削断面積を100㎡程度と見込んでいました。
しかし平成22年11月12日、国土交通省の第11回中央新幹線小委員会に、独立行政法人鉄道建設運輸施設整備支援機構が提出した資料「中央新幹線の建設に要する費用に関する検証(主としてトンネル区間」を見ますと、このようになっています。
注 内空有効断面積…トンネル内側の断面積からガイドウェイや設備分の断面積をのぞいたもの
JR東海が方法書で示した図では省略されていた、路盤より下側の部分も示されています。高速道路など、幅10m程度よりも大きなトンネルを掘る場合には、底面も逆アーチとし、強度を増すように設計することが多いようです。こうした構造をインバートと呼ぶそうです(英和辞典だとそのまま逆アーチの意味)。リニアのトンネルは新幹線トンネルよりも断面積が大きいため、逆アーチになっていたんですね。
というわけで、本当の掘削断面積には、このインバート部分も加わります。
これをもとに、断面積の推定をやり直しました。
トンネル断面はけっして単純なものではなく、複数の円や楕円を組み合わせた複雑なものです。断面図でも外周部分は曲線や直線がいくつも組み合わさっています。しかし、大雑把な断面積の推定ですから、単純に2つの円をつなぎ合わせたものと見なしました。
また、コンクリート壁の厚さは60㎝と仮定していました。ところが「土木工学ポケットブック」という資料によりますと、新幹線トンネルでインバート構造を用いるような条件では70㎝、底面の舗装厚さも50㎝にするとのこと。そこで今回はこの条件に従います(南アルプスの地質条件ではこれでも薄いかもしれません)。
試算をおこなううえで作成した概略図はこちら。
その結果、断面積は約115㎡という数字が出てきました。
ですから断面積×トンネル長さ
115㎡×52000m=5980000㎥
そして二軒小屋斜坑からの残土
31㎡×4000m=124000㎥
合わせて6,104,000㎥
読みにくいですね。610万4000㎥です。今までの試算より1割増となりました。
これを甲府盆地の旧鰍沢町、山梨県早川町新倉、静岡市二軒小屋、長野県大鹿村釜沢、長野県伊那谷の5ヶ所から掘り出すので、1坑口につき1220800㎥。ナゴヤドーム一杯分。
10年間、年間作業日数280日で掘り出すと1日につき436㎥。
毎日、重量にして959~1177トン、大型ダンプカー107~131台分の残土が発生し続ける…。
こんなに大量の残土をどうするつもりなのでしょう。
二軒小屋斜坑は市街地まで自動車で半日もかかる南アルプスのど真ん中です。残土を埋め立てることも運び出すことも、どちらも困難です。なにより、無人地帯であり、人手のあまり入っていない、原生的な空間の残る場所です。そんな場所へナゴヤドーム一杯分の残土…どこが「環境に配慮した」計画なのでしょうか。
さらに内壁やインバート部分を構築するためのコンクリート原料も大量に搬入しなければなりません。必要なコンクリートの量は、単純計算で35㎥×52000m=1664000㎥。同様に試算するとダンプカー30~40台分。
その他、各種建設資材も搬入しなければなりません。
結局、ダンプカーなど大型車両が、10年間、毎日150往復前後しなければ、このトンネルを掘ることはできません。
こんな工事を「環境に配慮して」進めることが可能なのでしょうか?
なお関数電卓と定規とコンパスがあれば、高校数学で大雑把な数字が出てきますので、お時間のある方はお確かめください。