リニア中央新幹線は、幅およそ50kmの南アルプスを、計3本、総延長約52kmのトンネルで横断するものとみられます。
トンネルの概略
おおよその断面はこんな感じ。
私の概算では、このトンネル工事にともない、計610万立方メートル前後の残土が発生すると予想されます。東京ドーム約5杯に相当します。くわしくはこちらをご覧ください。
(ちなみに横浜市でのアセス審議会では、総延長38㎞の神奈川県内区間で600万立方メートルという試算が出されています。
さて、5ヶ所から搬出されるので、のべ2800日の工事日数で割ると、一ヶ所あたり毎日436立方メートルとなります。
砂岩の密度2.2~2.7t/㎥をかけると、重量にして959~1177トンになります。
10t積み大型ダンプカー107~131台分となります。
さらにコンクリート骨材、建設資材、各種機械、燃料など様々な物資を運び入れることを考えると、さらに多くの車両が通行することになります。
例えば内壁やインバート部分(下方に掘り下げた部分)を構築するためのコンクリート骨材を考えてみます。コンクリート部分の容積は、単純計算で35㎥×52000m=182万㎥。そのうち骨材の占める割合は容積比にして7割前後らしいので、必要なのは127万㎥。これは1坑口・1日あたり91㎥。大型ダンプカー16台分。
こんなふうに考えると、南アルプスを横断するトンネルを造るためには、10年間毎日、大型車両が150回前後も往復しなければなりません。
それは、甲府盆地と伊那谷に面した坑口だけでなく、静岡県最北端で大井川源流部にあたる、標高1400mの二軒小屋という南アルプスど真ん中も同様です。
谷底ですから残土を埋め立てる土地は皆無です。大井川源流部の林道を、大規模な自然破壊のうえ拡幅し、どこかに運び出さねばなりません。
これだけでも大問題ですが、車両の通行も問題です。
工事現場における大型車両の通行は、通常、日没後は禁じられます。
すると1日に通行できるのは8~9時間。1時間あたり17.6往復することになります。あくまで平均ですので、日によってはもっと増えることでしょう。
これはどのような数字なのか?
現在の大井川源流部には細い林道がつけられています。一般車両の通行は禁じられています。中部電力の車両などは通りますが、ある程度は静かな環境が保たれています。
二軒小屋のような険しい山岳地帯で大型車両が多数通行する場所…と考えて思い浮かんだのが北アルプスの上高地。近年、上高地では、マイカーで訪れる観光・登山客の増加に対応して、シーズン中の交通規制を行うようになってきています。
すなわち、入り口で一般車両の進入を禁じ、シャトルバスに乗り換えてもらうという方式です。シャトルバスも一種の大型車両。これがどの程度の頻度で運行されているのでしょうか。
長野県のHPによると10~30分に1本の割合で運行されるということです。7・8月の混雑日には、ツアーバスの運行も規制されるとのこと。
それじゃ、他の山岳観光地はどうなっているのか…少々調べてみました。
世界遺産に登録されて話題沸騰中の富士山の場合は30分間隔で運行される予定になっています。(富士急のHP)。
白山スーパー林道の場合は20分間隔(石川県のHP)。
乗鞍岳(長野県側)の場合は1時間間隔(長野県のHP)。もっとも、タクシーの通行は可能。
尾瀬の場合は20~30分間隔(尾瀬保護財団のHP)。こちらもタクシーやマイクロバスは可能とのこと。
南アルプス北部の南アルプス・・スーパー林道の場合は1日に5往復。
そして今問題視している、南アルプス南部の大井川源流部に至る林道東俣線の場合も1日に5往復。ただし小型の車両(東海フォレストのHP)。もっとも中部電力の車両も通りますが…。
並べてみると
上高地…1時間に2~6往復
富士山…1時間に2往復+タクシー
白山 …1時間に3往復
乗鞍岳…1時間に1往復+タクシー
尾瀬 …1時間に2~3往復+タクシー/マイクロバス
南アルプス・スーパー林道…1日に5往復
上高地…1時間に2~6往復
富士山…1時間に2往復+タクシー
白山 …1時間に3往復
乗鞍岳…1時間に1往復+タクシー
尾瀬 …1時間に2~3往復+タクシー/マイクロバス
南アルプス・スーパー林道…1日に5往復
南アルプス・東俣林道…1日に5往復
どういう検討過程でこの数字になったのかは定かでありませんが、現在の日本では1時間に6往復程度が上限となっているようです。
これに対し、リニア建設で南アルプス南部の山中を通行する大型車両は、最低でも1時間に18往復。さらに上記の山岳観光地は、冬半年は閉鎖されるのに、リニア建設の場合は1年中この値となります。もしも冬場の通行を禁じるのなら、夏場は2倍に増加することになります。
あきらかに各地のマイカー規制中の水準を上回っています。
すなわち各地の基準に照らしあわせてもあからさまに「環境に悪い」!!
現状とは比較になりません。
JR東海は、残土について「適切に対処する」としか方針を示していません。工事用車両の通行についても、「なるべく既存の道路を活用する」といった、通り一遍等なことしか書いてありません。
しかしどう考えても環境に配慮できるような「適切」な処分・輸送方法はありません。
9月には「環境への影響に対する方策」を記載する環境影響評価準備書を公表するとしています。
「環境に配慮」とはどのような内容とするつもりなのでしょうか?