ついに”純粋な民間事業”とは言い難くなってきたリニア計画。経済成長戦略の目玉として、「財政投融資を活用してリニア開業を8年前倒し」なんだそうな。
各方面に評判の悪いマイナス金利でやれることを模索したら、これぐらいしか思いつかなかったのと、関西政財界への選挙対策とを兼ねているのだと思う。「8年前倒し」といっても、それは2020年代後半以降の話。まだまだ10年・20年も先の話なので、喫茶の経済対策と言えるのかい?
さて、お金のことはよく分からないのですが、建設目的と事業内容を精査したうえで、果たして国が資金を提供することが適切な事業なのでしょうか?
リニア中央新幹線の建設の大義として、「大規模地震等の災害に備えて二重系統化」があげられています。東海道新幹線が被災してもリニアがあれば大丈夫!…ってわけです。
けれども、そもそも安全性が十分に確認されているのか、甚だアヤシイと思います。
前回に引き続き、地震絡みの話になります。
このほどの熊本地震では、俵山トンネルでコンクリート壁の大規模な崩落が起こりましたし、2004年の中越地震では、震央に近い魚沼盆地周辺の複数のトンネルで、同様な被害が生じました。
俵山トンネルの被災状況 国土交通省ホームページより
トンネルは揺れに強いとはいえ、震源近傍ではコンクリートの剥離した事例が相次いでいるし、熊本地震のように地山そのものが変形するのなら、トンネル構造では対処のしようがない。
またリニア中央新幹線の場合、地上区間はほぼ全て「防災・防音フード」で覆われます。頭上に鉄筋コンクリートの重量物が乗っかっているわけで、どこの区間でも天井崩落のリスクつきまとってしまう。
したがって、大地震の際にガイドウェイ内にコンクリート片等が落下するのは当然のこととして想定しておくべきでしょう。
・上記の俵山トンネルのような崩落が起きれば、U字型のガイドウェイはガレキの山に埋もれてしまう。そこに新幹線以上の高速度で突っ込んだらどうなるのか?
・衝突時に車体はともかく乗客は安全なのか?
・ガイドウェイ走行という特殊な走行形式では、通常の鉄道のように排除することが物理的に不可能であるが、それは安全性にどうかかわるのか?
・シートベルト等は不要なのか?
いろいろな疑問があります。
考えてみれば、地表を500キロの速度で移動する乗り物なんて地球上に存在しない。離陸時のジェット機やレーシングカーよりも速い。存在しない以上前例がないのだから、検証は世界に先駆けたものにならなければならないはず。
けれどもマトモに検証された形跡がない。
超電導リニア技術について、国として審査したのは「超電導磁気浮上式鉄道実用技術評価委員会」という長ったらしい専門家会議です。山梨実験線での実験が報告されていた会議ですが、第18回目(平成21年7月28日)の会議にて、技術評価のとりまとめがおこなわれています。
そのうち、ガイドウェイ内への落下物に対する評価はこちら。
「列車の安全な走行を脅かす可能性のある事象を発生させない」って、そりゃそうだろうけど、それが全てですか??
この会議の7年前に起きた中越地震では、上越新幹線の魚沼トンネルでコンクリートの大規模な崩落が起きました。たまたま列車通過後だから衝突は免れましたが、そういう事態は起こりうるわけです。
それから同じ資料には次のような記載もありました。
浮上案内コイルというのは側壁につけられたコイルです。列車が通過すると電磁誘導で磁力が発生し、車体側の電磁石との反発で車体を浮かせる仕組みだそうです。
浮上案内コイル1枚(90㎝)欠落までは浮上走行可能…ってことは、2枚以上壊れたらヤバいってことなんだろうか? …胴体着陸?
この報告書(?)の危ないところは、「ここまでは安全性が確認できた」ではなく、「●●をしたけど大丈夫だった」という論理構成になっていること。これでは”想定”がおそろしく甘くなってしまうし、安全の確保される限界を知ろうともしていない。
実際に起こりうる事故について、起こらないことを前提として、新幹線以上での高速運転を実現させようとする。
しかもその列車を走らせようとするのは東海地震/南海トラフ想定震源域に近接する赤石山脈。
どういう地殻変動が起きてトンネルにどういう影響を及ぼすのか、乗客避難は可能なのか、本当に迂回路足りえるのか、東海道新幹線と同時被災しないのか…
「建設の大義」との整合性だけでも問題だらけなのに、全く検証も経ずに総理大臣自ら「国家プロジェクト」の太鼓判を押してしまった。
・・・いろいろオカシイんじゃないのかなあ。