水資源に影響を及ぼすおそれのある工事を計画している際には、工事をする前に次のような事項を調べろということになっているらしい。
環境影響評価書資料編より
山梨実験線建設時には、実際に川が枯れる事態を招き、補償を行うこととなった。実験線の場合、詳しい数字は分からないけれども、おそらく水枯れの影響を受けたのは、一カ所につき多くて数十人という単位であったと思う。だからこそ事前調査を行うことも、給水車とか井戸掘りで対応が可能であったはず。
そのほか整備新幹線や高速道路など、あちこちのトンネル工事で類似の事態を目似ているが、それでも一カ所につき、影響を与えることになった人数は同じようなものであると思う。
けれども南アルプストンネルの場合、大河川(大井川)の源流域を幅10㎞にわたり完全にくぐり抜けるという特殊な構造であるから、水枯れは下流域全域に及ぶことになる※。こんなおかしな構造のトンネルは、日本国内に先例はない。
というわけで影響を与えるスケールが全く違う。
上水道だけでざっと60万人である。
http://www.oigawakoiki.or.jp/profile.htm(静岡県大井川広域水道企業団)
60万人分の水道の状況なんて事前チェックできるのだろうか?
上の通知を忠実に解釈すれば、事業者であるJR東海は、工場、田畑、店舗、学校、病院、発電…あらゆる施設の水使用の状況を調べておく必要があることになるし、井戸の分布状況なども把握しておく必要もあるみたいだ。
工事の難しさ云々以前に、そもそも南アルプストンネル本体工事に着手することは可能なのだろうか?
疑問がまたひとつ増えた。
※導水路で水を戻しても全体の2/3しか戻ってこないから、未来永劫、ポンプを動かし続けねばならない。かつて北海道にて千歳川放水路が計画された際、掘削によりラムサール条約登録のウトナイ湖が枯渇するおそれがあるとされ、事業主体の北海道開発局が苦し紛れに出してきた対策案がポンプくみ上げであった。非現実的であるとしてボツになったのだが、JR東海の案は同じ発想である。