「中央新幹線(東京都・名古屋市間)環境影響評価書【静岡県】平成26年8月」に基づく事後調査報告書(導水路トンネル等に係る調査及び影響検討結果)
という、バカみたいに長ったらしい題名の報告書について、問題点をまとめました。
【水環境】
●西俣最上流部の小西俣は、林道建設や電源開発の影響を受けておらず、禁漁区に設定されていることからも、生態系保全の上で重要な水系であると思われる。その小西俣では、環境影響評価書には明記されていないものの、トンネル完成後の著しい流量減少が予測されているとみられる。万一流量が減った場合は生態系に重大な影響を及ぼすが、導水路やポンプアップでは水を戻すことができない。西俣取水堰より上流域での詳細な予測結果を公表したうえで、保全や調査の方針を再検討すべきである。
●西俣最上流部の小西俣は、林道建設や電源開発の影響を受けておらず、禁漁区に設定されていることからも、生態系保全の上で重要な水系であると思われる。その小西俣では、環境影響評価書には明記されていないものの、トンネル完成後の著しい流量減少が予測されているとみられる。万一流量が減った場合は生態系に重大な影響を及ぼすが、導水路やポンプアップでは水を戻すことができない。西俣取水堰より上流域での詳細な予測結果を公表したうえで、保全や調査の方針を再検討すべきである。
【要旨】 評価書の表6-3-1(13)では、西俣取水堰上流では、現況の渇水期流量1.18㎥/sが、トンネル完成後には0.56㎥/s減少して0.62㎥/sになるとしている。取水堰のすぐ上流で北から支流の中俣が流入しているが、中俣はトンネル建設の影響を受けにくいであろうから、取水堰での流量減少は、小西俣での減少を強く反映しているとみられる。
取水堰における流域面積約36㎢のうち、小西俣流域は約19㎢(53%)である。流量が流域面積に比例すると仮定すれば、取水堰での流量1.18㎥/sのうち小西俣からは53%にあたる0.63㎥/sが供給されていることになる。また平成28年版の事後調査報告書では、小西俣最下流での平成27年11月の流量は0.407㎥/sであったとしている。小西俣下流での渇水期流量を0.4~0.6㎥/sとみなし、トンネル完成後に0.5㎥/s程度減ると仮定すれば、ほぼゼロになってしまう。
なお評価書の「資料編 水資源」では、小西俣では平成19年から流量観測を続け、調査結果を水資源収支解析の検証に用いたとしていることから、経年データと試算結果自体は存在するはずである。
取水堰における流域面積約36㎢のうち、小西俣流域は約19㎢(53%)である。流量が流域面積に比例すると仮定すれば、取水堰での流量1.18㎥/sのうち小西俣からは53%にあたる0.63㎥/sが供給されていることになる。また平成28年版の事後調査報告書では、小西俣最下流での平成27年11月の流量は0.407㎥/sであったとしている。小西俣下流での渇水期流量を0.4~0.6㎥/sとみなし、トンネル完成後に0.5㎥/s程度減ると仮定すれば、ほぼゼロになってしまう。
なお評価書の「資料編 水資源」では、小西俣では平成19年から流量観測を続け、調査結果を水資源収支解析の検証に用いたとしていることから、経年データと試算結果自体は存在するはずである。
●「表4-1-2-3-5 河川流量の検討結果」は、第4回大井川水資源対策検討委員会(平成27年11月27日)の資料「水収支解析の結果(河川流量)」と同一の値である。後者は山岳トンネル建設後に導水路を設置した場合を想定したものであって、工事用道路トンネルの存在は明記されていない。
その工事用道路トンネルは、西俣支流の悪沢など複数の沢と交差することから、それらの流量を減少させるのではないかと思われる。沢の水が減った場合、影響は西俣から田代ダムを経て道路トンネル南口にまで及んでしまい、本坑や非常口の工事による流量減少に拍車をかけるおそれがある。
その工事用道路トンネルは、西俣支流の悪沢など複数の沢と交差することから、それらの流量を減少させるのではないかと思われる。沢の水が減った場合、影響は西俣から田代ダムを経て道路トンネル南口にまで及んでしまい、本坑や非常口の工事による流量減少に拍車をかけるおそれがある。
●同じく表4-1-2-3-5では、導水路で大井川本流にトンネル湧水を戻しても、放流先の椹島では現状より0.7㎥/s減ったままと予測されている。自然流下で不足する分はポンプアップで対応し、また、水質に問題がある場合には処理を行って放流するとしている。
これでは、自然な水循環と水質保全とを永久に機械で代替させ続けることになる。ユネスコエコパークの目的および審査基準である「持続可能な発展」に合致しない。
これでは、自然な水循環と水質保全とを永久に機械で代替させ続けることになる。ユネスコエコパークの目的および審査基準である「持続可能な発展」に合致しない。
●評価書8-2-4-13ページにおいて、「先進坑が隣接工区とするまでの間は、ポンプによる湧水くみ上げにより流量の減少は生じない」としている。しかし事業認可後に出された山梨・長野両県向けの資料に基づくと、南アルプストンネルの大井川流域での区間11㎞のうち、約2.1㎞は山梨・長野両県側から掘られることになっている。この2.1㎞の区間で湧水が発生した場合は、トンネル貫通まで大井川本流に戻すことができない。工事の途中で大井川の流量は現状を維持できなくなるおそれがあるい
●評価書に係る国土交通大臣意見では、山岳トンネル部の湧水対策として、「河川流量への影響を最小化できるよう水系を回避又は適切な工法及び環境保全措置を講じること」としている。この意見を踏まえて各種トンネルと大井川水系との位置関係について再検討すべきであったが、なされていない。
●評価書8-2-4-9ページでは、大井川にて流量が大幅に減少するとの予測は遮水工事を行っていない想定下であり、適切な施工方法を実施することにより河川への影響を小さくできるとしている。したがって、完成後に水資源への影響が生じぬケースも想定する必要があるが、その場合、導水路はどのように扱われるのか。
●東から大井川本流に合流する沢(地形図上での名称は燕沢)は、源頭に崩壊地を抱えている。新旧の空中写真の比較によると、その規模は拡大傾向にある。燕沢平坦地への出口には流下した土砂が円錐状に堆積しており、その形状は「図1-11 燕沢付近の発生土置き場における盛土計画」でも明瞭である。谷の出口両側に盛土を行うと、同沢より供給される土砂は左右に広がれずに直接大井川本流に到達しやすくなるので、水質や川床の状況に変化をもたらすおそれがある。
【動物・植物・生態系】
●事後調査報告書によると、工事用道路トンネルの建設に伴い一か月間に4000台以上の車両が通行するとしている。完成までは当然地上を通行することになる。導水路や非常口の工事を同時に進めれば、その台数は2倍以上、つまり8000~9000台になると思われる。これでは本体工事時と変わらない。評価書の「動物 表8-4-1-44(10)環境保全措置の内容」では、「工事用道路トンネルを設置し地上における工事用車両の運行を低減することで、重要な猛禽類の生息環境への影響を低減できる。」と記述していたが、これだけ多くの車両が地上を通行するのであれば、猛禽類への影響は生じるのではないか
●過去の空中写真によれば、燕沢平坦地付近の大井川は十数年おきに流路を変動させてきたとみられる。ドロノキをはじめ河畔林を構成する植物は、こうした変動の激しい河川環境に適応した種であるとされる。しかし盛土後は河川空間が狭められることから、流路沿いでは洪水時に一気に植生が破壊され、逆に流路から離れた部分での擾乱は生じにくくなるなど、現在とは環境が大きく変化すると考えられる。盛土の出現により河畔林を構成する種や林齢はどのように変化するのか予測すべきである。
●評価書および事後調査報告書での生態系についての影響評価は、ホンドギツネやミヤコザサ-ミズナラ群集など南アルプスに広く分布する種・群落を対象としたものであるため、改変による生態系への影響は小さいと結ばれている。これは当前である。発生土を燕沢平坦地に集約する方針を出したのであるから、事後調査報告書においては、改変行為により同地における生態系がどのような影響を受けるのか予測しなければ意味がない。
●生態系におけるヤマトイワナについての評価(4-1-4-3-45ページ)において、流量減少に伴いハビタットの一部が縮小する可能性はあるが、周辺に同質のハビタットが広く分布することから、ハビタットの質的変化は小さいとしている。しかし、その前段で「相当上流部には生息するとされている」と表現するように、生息可能域が縮小していることは把握しているのだから、この評価結果は矛盾している。ヤマトイワナの数少ない生息地とされる西俣上流域での流量減少は、ハビタットの著しい縮小・劣化を意味するため、認識を改めてもらわなければ困る。
【景観について】
「2-2 日常的な視点場における景観変化の予測について」では、発生土置場の完成による景観等の変化に及ぼす影響は小さいとしている。しかしこれまで存在しなかった巨大な盛土が出現し、林道上からは明らかに視界を遮ることになる。容積370万㎥、高さ70m、面積は図上計測で14~15万㎡と、きわめて巨大な規模であり、景観の変化が小さいとする見解には違和感を覚える。景観の予測結果については客観的な評価がなされるべきでる。
「2-2 日常的な視点場における景観変化の予測について」では、発生土置場の完成による景観等の変化に及ぼす影響は小さいとしている。しかしこれまで存在しなかった巨大な盛土が出現し、林道上からは明らかに視界を遮ることになる。容積370万㎥、高さ70m、面積は図上計測で14~15万㎡と、きわめて巨大な規模であり、景観の変化が小さいとする見解には違和感を覚える。景観の予測結果については客観的な評価がなされるべきでる。
【燕沢への巨大盛土計画と周辺との地形との関係について】
●燕沢平坦地において西から大井川に合流する下千枚沢は、その流域に大規模な崩壊地を抱えており、大量の岩屑・倒木を大井川本流に供給しているとみられる。この沢の合流点に正対する形で大規模盛土により川床幅を狭めてしまうと、土石流が発生した際に大井川本流を塞いでしまう可能性が現在よりも高まる。
⇒前々回のブログ記事
●防災科学技術研究所ホームページの地すべり分布図データベースによると、下千枚沢より南側の斜面について、幅約2㎞、比高約1100mに及ぶ大規模な地すべりであると判読されている。実際に地すべりであった場合、盛土後は大井川の流れが地すべり末端に接するように固定されることから、侵食の促進により地すべりの挙動に影響を及ぼすのではないかと懸念される。しかし、これまで一帯の斜面についての情報がない。
防災科学技術研究所作成 地すべり分布図 「赤石岳」図幅より
●図1-11の盛土計画図によれば、盛土の基盤高さは河床から5m程度となっている。一方で資料編「図2-1-6-1 最大水深の比較」によると、土石流が流入する想定の上千枚沢合流点よりも上流で、すでに水位が5m以上になっていると予測している。崩壊が起こらずとも、盛土は増水時に激しい流れに洗われることになり、流出のおそれがある。
どちらも平成29年版事後調査報告書より複製
ところで先週13日には、静岡市長から静岡県知事に、この報告書についての市長意見が送付されています。
「トンネル湧水は河川水が減少した地点に戻せ」という、非常に厳しい意見が出されています。川に戻せるなら導水路は不要といういことになるものの、そもそもJR東海としてはトンネル湧水の排水施設のことを”導水路”と称しているフシがあるので、どう対応するのか見どころです。