3/14 一部追加記入
山梨県が早川町に出される329万㎥の発生土の大半を処分し、合わせて道路建設も可能な”一石二鳥”として事業計画を決定した早川芦安連絡道路。南アルプスの山深くに位置する早川町と甲府盆地とを直結する道路であり、交通不便な同町にとっては長年の悲願だったそうで、目的自体はまことに結構なのですが、どうも調べると疑問に感ずるところが多々あります。
この計画は、早川町最北端と甲府盆地側の南アルプス市芦安地区とを結ぶ全長4980mの道路を建設するというもので、うち3750mがトンネルとなっています。
添付画像1 早川芦安連絡道路とリニア南アルプストンネルとの位置関係
疑問①新設する道路に盛土構造が適切なのか?
山梨県は、早川芦安連絡道路の盛土部分と、駐車場造成には合わせて160万立米を充てると見込んでいます。詳細な数字は不明ですが、当時の報道によると、駐車場に100万立米を用いるということなので、道路は60万立米程度を見込んでいるものと思われます。
山梨県は、早川芦安連絡道路の盛土部分と、駐車場造成には合わせて160万立米を充てると見込んでいます。詳細な数字は不明ですが、当時の報道によると、駐車場に100万立米を用いるということなので、道路は60万立米程度を見込んでいるものと思われます。
(山梨日日新聞2014/2/16 芦安山岳館HPより)
けれども、最近の山梨県議会の様子では、どうやらそんなにたくさん使えるかどうか、アヤシクなってきたようなのです。
(山梨県議会 こごし議員のブログ)
http://kogoshitomoko.seesaa.net/
http://kogoshitomoko.seesaa.net/
なんでも残土が盛土に使えるかどうか調べる前に、盛土化可能という前提で事業計画を決定したらしい。で、調べてみたら盛土にするには不適当な箇所があると判明したということです。
しかも、そんな計画の進め方だから、いまだに建設費の全容が分からないというおまけまで付いているそうな。
なんのこっちゃ?
②そもそも道路建設にリニア残土が必要なのか?
総延長4980mの早川芦安連絡道路計画のうち、3750mがトンネルで、地上区間は1230mです。トンネルを掘れば、当然残土が増えることになります。
総延長4980mの早川芦安連絡道路計画のうち、3750mがトンネルで、地上区間は1230mです。トンネルを掘れば、当然残土が増えることになります。
設計図から推測すると、トンネル断面積は56㎡程度と見受けられます。するとトンネルの長さは3750mなので、計算上、発生土量は30~35万立米ぐらいとみられます。
56㎡×3750m×1.5=315,000㎥
このほか斜面を切り崩すこともあるだろうから、便宜上35万立米としておきます。なおリニア工事に伴う早川町への発生土量は329万立米なので、1割増すことになりますね。
当然、リニアを着工する前に、早川芦安連絡道路からの残土35万立米を処分しなければなりません。一般的には、事業内で盛土に転用することになるでしょう。
仮に地上区間1230mのうち半分を盛土にすると仮定します。この場合、35万立米もあれば、道路幅を8m・盛土勾配30°としても、計算上、平均高さを約15mにすることが可能です。地図を見たところ、地上区間のほとんどは山腹に取り付けられるので、盛土構造になりそうなのは橋の取り付け部分だけでしょう。
道路盛土ならこれでも余るぐらいじゃないかと思うのですが、さらにリニア残土60万立米をも使う必要があるのでしょうか?
仮に地上区間の半分を95万立米の盛土にするなら、道路幅8mに対し盛土底面幅は63m、平均高さ27.4mと、ありえないような規模になってしまう・・・。
それにどうしても早急な道路整備のために盛土材料が必要だというのなら、中部横断道からの残土を使えばいいのではないでしょうか。 現在、中部横断道から掘り出された残土が、富士川沿いや早川沿いに大量に積み上げられているのですが…?
③自然保護上の規制
早川芦安連絡道路は、ユネスコエコパーク登録地域の中でも、環境保全のレベルが3段階のうち真ん中の緩衝地域に計画されています。経済活動を全面否定するものではないものの、その内容はアウトドア活動や学習・研究などに限られています。つまり既存の施設を活用することがメインであり、新たな開発は自粛せねばなりません。
当のJR東海も、さすがにそのあたりは承知していて、環境影響評価書では「緩衝地域はトンネルで通過する」としています。
ところが山梨県の計画だと、緩衝地域内に大規模な盛土を行うことになります。山梨県行政はJR東海よりも環境保全意識が低いと言わざるをえません。これは許されるものではないでしょう。地元のために道路が必要なら、緩衝地域外に設けるべきだと思います。
添付画像4 南アルプスユネスコエコパークと早川芦安連絡道路
静岡市市役所ホームページより 複製・加筆
さらに、道路の地上区間は緩衝地域であるだけでなく南アルプス巨摩自然公園の第3種特別地域にも指定されています。そのため工作物の設計には細かな規定が定められているようです。そこに、改変区域が大きくなる盛土構造で道路を造るのは条例のうえでもムリなのでは・・・?
④2027年名古屋開業が不可能となるスケジュール
とりあえず発生土を道路造成で使えると仮定しても、スケジュールについての疑問が残ります。
とりあえず発生土を道路造成で使えると仮定しても、スケジュールについての疑問が残ります。
早川町内に出てくる発生土は329万立米ですから、早川芦安連絡道路に転用できるのは18%となります。次の駐車場造成では100万立米だから約30%です。
言い換えれば、道路を造り終えた時点でリニア早川町内工区は18%しか掘れないし、駐車場を造成し終えた時点でも48%までしか掘れない。
添付画像1にあるように、早川芦安道路の当初事業計画は、平成26年(2014年)度着工、31年(2019年)度完成でした。しかし現状では、どうみても今年中の着工はムリでしょう。仮に来年度に着工して順調に工事が進んだとしても、完成は平成35年(2023年)頃となります。2023年になっても、リニア早川町内工区は18%しか掘れていないのです。
そこから1~2年かけて、突貫工事で100万立米を掘り出し駐車場造成地に運び終えたとしても、まだ半分以上(52%)が残っています。この時期(2025年頃)、JR東海の工事工程表では、すでにガイドウェイ設置や電気工事を終えて試運転を開始している見込みなのでした。
実際には、早川芦安連絡道路の工事に取り掛かる前に、リニアの工事現場と早川芦安連絡道路とをつなぐ林道の拡幅整備が必要ですので、さらに着工は遅れることになります。また、近傍の中部横断自動車道のように、トンネルからの残土に基準値越えの重金属等が検出されるような事態となったら、工事は大幅に遅れることとなりますし、盛土として容易に使えなくなってしまいます。
2027年名古屋開業は不可能なのでは?