静岡県における発生土処理計画のが崩れるかもしれない―いずれリニア計画全般を左右する問題に発展するかもしれないという話題です。
南アルプストンネルの静岡工区の発生土360万立米は、坑口近くの大井川沿いに開けた燕沢というところに置き去りにする計画です。険しい南アルプス山中にあって、不自然に開けた土地です。
同じ場所を昭和22年に撮影した写真です。当時、燕沢に木は生えておらず(原因は分からない)、地肌がむき出しになっています。よく見ると、何本か流路と並行する筋が見えています。これは何なのだろうと、ずぅ~っと前から気になってました。
ネット上の画像では不鮮明ですが、かつて県立中央図書館にこの写真の実物が置かれていることを知り、それを使ってで実体視を行ってみたことがあります。
話が少々脱線しますが、実体視というのは航空機から撮影された2枚の写真を使い、重なっている部分が浮き出て見えるようにする見方のことです。、
http://www.jmc.or.jp/faq/photo2.html
http://www.jmc.or.jp/faq/photo2.html
何やら特殊な技法のようですけど、いわゆるステレオグラムと同じです。砂をまぶしたような絵の下に小さい●が間をおいて並んでいて、それが重なるように目玉を動かすと砂嵐の中から何やら浮かんで見える…ってやつです。図書館の閲覧室で、ずっと怪しげな写真とにらめっこしていたわけで、傍から見ればかなりの変人ですね…
話を元に戻しますと、燕沢平坦地について実体視してみると、まず流路の右手は河床よりも高くなっていることが分かりました(これは1:25000地形図でも確認可能)。そして流路から離れるほど階段状に高くなっていて、黒い筋は崖の影であるように見えました。つまり小規模な河岸段丘が局所的に発達しているような感じです。
おそらく燕沢には未固結の岩屑・砂利が分厚く堆積しており、それが大井川によって急速に侵食され、階段状になったに違いありません。ならば、そんな大量の岩屑・砂利がどこからどのように供給されたのでしょう。
燕沢の北西には、標高2880mの千枚岳がそびえています。その東斜面つまり燕沢に面した側は、非常に大きく崩れています。素人目に、そこから崩れてきて堆積したように思われるのですが、核心は持てずにおりました。
ところが最近になって、その疑問を解消してくれる研究成果が発表されたのです!
長谷川 裕彦, 小久保 裕介, 菅澤 雄大
「南アルプス南部,千枚岳東面上千枚沢の岩屑なだれ堆積物」
日本地理学会発表要旨集 2018年度日本地理学会春季学術大会
https://www.jstage.jst.go.jp/article/ajg/2018s/0/2018s_000203/_article/-char/ja/?fbclid=IwAR0tGLtZN9kZClYYilN5kjG28Mz-KQcC7tIhshQdm6kfqu__Q_cu9I-6TiM
「南アルプス南部,千枚岳東面上千枚沢の岩屑なだれ堆積物」
日本地理学会発表要旨集 2018年度日本地理学会春季学術大会
https://www.jstage.jst.go.jp/article/ajg/2018s/0/2018s_000203/_article/-char/ja/?fbclid=IwAR0tGLtZN9kZClYYilN5kjG28Mz-KQcC7tIhshQdm6kfqu__Q_cu9I-6TiM
燕沢の北西にて、大井川に上千枚沢という支流が合流しています。上千枚沢の流域は広大な崩壊地となっており、大井川との合流部には崩れ落ちた大量の岩屑が分厚く堆積しています。その堆積物もやはり階段状をなしており、それについて調査したものです。
抄録より
【リニア中央新幹線南アルプストンネルの掘削に伴って生じる発生土置き場の防災上の問題点を検討するため,南アルプス南部,千枚岳東面の上千枚沢流域において岩屑なだれ堆積物の調査を実施した。その結果,完新世後期に大井川本流を100mおよび80mの厚さで埋積する岩屑なだれが上千枚沢から発生していたことが明らかとなった。】
【リニア中央新幹線南アルプストンネルの掘削に伴って生じる発生土置き場の防災上の問題点を検討するため,南アルプス南部,千枚岳東面の上千枚沢流域において岩屑なだれ堆積物の調査を実施した。その結果,完新世後期に大井川本流を100mおよび80mの厚さで埋積する岩屑なだれが上千枚沢から発生していたことが明らかとなった。】
要旨なので図表等が省かれており、詳細は不明です。しかしどうやら私(ブログ作者)が疑問に感じた燕沢の階段状の高まりは、上千枚沢下流部の階段状地形と同一であるらしい。つまり、かつて大井川を塞ぐような大崩壊が起きており、それを大井川が削り込んでいって、階段状になったと考えてよいかと思います。
※リンク先右上PDFファイルの「上千枚沢下流域の段丘状地形」部分――上千枚沢出合対岸の大井川左岸には…のくだり。
また、この調査結果発表が発表されたのは2018年3月ですが、その後の調査で、大井川をふさぐような大崩壊(岩屑なだれ)は過去2000年間に4回発生していたことも明らかになってきたそうです(2018年12月31日付の中日新聞静岡版)。
リニア工事・葵区残土置き場周辺 過去、岩屑雪崩4回
http://www.chunichi.co.jp/article/shizuoka/tokai-news/CK2018123102000088.html
http://www.chunichi.co.jp/article/shizuoka/tokai-news/CK2018123102000088.html
J
さてJR東海は、上千枚沢で大規模な土石流が発生した場合、発生土置場の有無によってその様相が変わることはないと主張しています。しかしこの試算前提は、上千枚沢にたまった土砂が流れるという前提でシミュレーションしたものであり、過去の巨大崩壊を想定したものではありません。実際に大井川をせき止めるような規模の崩壊が複数回生じていた可能性が高いのですから、そのぐらいの規模を想定してシミュレーションしなければならないでしょう。
そもそもJR東海として、燕沢の階段状地形の成因をどのようにとらえているのか気になるところであります。