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Channel: リニア中央新幹線 南アルプスに穴を開けちゃっていいのかい?
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穴だらけ 残土だらけ 南アルプスは公園の砂場じゃないんだから!

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あさって18日に、リニア中央新幹線の環境影響評価準備書が公表されるそうです。
 
これまで、2年前に公表された方法書に示された調査内容と、それに対する自治体・一般市民の意見をもとに調査・環境への影響の予測が行われており、その予測結果と対応策とを記載した文書のことを準備書とよびます。
 
ところがこのリニア計画においては、準備書公表時点では具体的工事箇所や工法などは明らかにされておらず、この準備書段階になってはじめてわかるという変則的な進め方となっています。
 
この準備書に対しても、一般市民等が意見を出すことができます。っていうか、環境影響評価手続きでは、これが意見提出の最後の機会となります。変則的な進め方なので、事業内容を知ったあとで意見を出せるのはこの準備書だけとなってしまいました。

さて、リニアは南アルプスを3本のトンネルで貫きます。JR東海が方法書でしめした位置だと、あわせた長さは約52㎞あります。
イメージ 1
JR東海の環境影響評価方法書より
 
イメージ 3
南アルプス付近
 
このうち静岡県内のたった10㎞の区間で300万立方メートルの残土が発生するとのこと。
単純に5.2倍すると1500万立方メートル以上になります。
 
東京ドーム12杯分。
クフ王のピラミッド6.5個分。
東京の地下鉄何路線分になるのでしょう?

ふつう、大規模工事で出される残土は別目的に転用されます。それゆえ国土交通省では廃棄物ではなく「建設発生土」とよぶそうです。

静岡ローカルな話ですと
 
新東名高速道路のトンネル・切り取り区間(静岡市周辺だけで数百万立方メートル)→巨大な盛土へ転用
国道1号線丸子藁科トンネル(20万立方メートル)→焼津港の埋め立て
大谷川放水路(200万立方メートル)→周辺農地のかさ上げ
長島ダム(160万立方メートル)→集落移転先の造成
 
に使われたそうです。
 
ところが南アルプス区間では、リニアの建設に使われることも、他の事業に使われることもありません。

それでも平地に面した山梨県南アルプス市側、長野県豊丘村側は、まだ使い道がありそうです。
 
問題が深刻なのは南アルプス山中の山梨県早川町、静岡県静岡市大井川源流、長野県大鹿村の3地点。ここではただの邪魔な廃棄物に他なりません。
 
それぞれに最大で300万立方メートル程度掘り出されるのでしょうが、これをどうするのでしょう?
 
300万立方メートルというのは、10t積み大型ダンプカーのべ50万台分。
 
2027年開業を目指し、作業日数を10年・年間240日で掘り出すと、大型ダンプカーが毎日208往復することになります。10年間毎日、日中1時間に52台通り続けるのか、特定の時間に数珠つなぎになって通るのかわかりませんが、現在の通行台数(1日数台というレベル)から比べると、きわめて異常な事態となります。道路事情からこれだけの車両が通行するのは困難ゆえ、新たな道路建設-目的は残土を運ぶだけ-という無用の自然破壊も引き起こします。
 
大井川源流部は一般車両の通行を禁止されているがために静かな環境が残されているわけですが、これでは鉱山になってしまいます。
 
そして掘り出したところで、3地点とも険しいV字谷であり、埋め立てに適した平地がありません。ムリに谷に埋めれば大雨の際に土石流となって容易に崩れてしまいます。それにV字谷は容量が狭いため、300万立方メートルを埋めるとなると、処分場がいくつもいくつも必要となってしまい、とんでもない環境破壊となります。
 
かといって域外に運び出すとなると、最終処分場まで数十㎞にわたり「大型ダンプカーが10年毎日208往復」という”ダンプ公害”を受け入れなければならなくなります
 

なお「残土」と書きましたが、トンネル工事で実際に出されるのは土ではなく岩の破片です。業界用語ではズリと呼ぶそうです。
 
残土野山には植物を植えて緑化せねばなりませんが、岩の破片を積んだだけなので簡単なことではありません。まずは土壌改良剤や化学肥料を用いて土をつくらねばなりません。
 
ちなみに静岡空港の盛土緑化の際には、1000平方メートルあたり200kgの土壌改良剤や化学肥料を用いたそうです。
 
静岡空港周辺は一面が茶畑であり、大量の肥料が使用されていますので、空港周辺に多くまいても周辺の水環境への負荷はそれほどではなかったかもしれません。
イメージ 2
静岡市郊外 新東名高速道路の盛土区間
工事で発生した残土=岩ズリが積まれている
 
ところが、リニアのトンネル坑口周辺には、農地や集落はわずかしかなく、水質は良好です。特に大井川源流については、山小屋や発電所以外に人はおらず、昭和初期までの焼畑農耕以外に農業の行われたこともありません。水に関しては、全く汚染されていません。
 
そういう非常に清澄な場所に、のべ数十トンの肥料と投入したら…? 今まで肥料などの影響を受けたことのない生態系に、どのような影響が及ぶのか、予測ができるのでしょうか。JR東海はこの点も評価対象としているのでしょうか?
 
残土処分をつくるためには、そこまでの道路を整備する、砂防ダムを併設する、下流方の河床で護岸工事、遊水地の設置など、さまざまな付随工事が必要となります。
 
水といえば、トンネル工事による河川-特に大井川-の流量に対する影響も懸念されます。
 
山岳トンネルを掘る際には、トンネル周囲の水は徹底的に抜かれます。そうしないと工事ができないからです。ゆえに、しばしば水枯れを引き起こします。リニアの実験線でも問題になっています。
 
この際、トンネル内への湧水を河川に放流し、代替水源にするという対策がとられることがあります。
 
南アルプスにおいては、列車の通るトンネル本体のほか、作業用にいくつものトンネルが掘られ、静岡県部分だけでも2本の斜坑が設けられるそうです。斜坑といっても大型ダンプカーの通る広さが確保されており(九州新幹線の事例だと幅が6.4m)、普通の道路トンネルと同じ規模で、長さも数㎞あります。
トンネルは大井川の谷底下方を通り、斜坑も多くの支流をくぐるため、大量の湧水が発生し、もしかすると河川流量の減少を招くかもしれません。
 
その際、トンネル内の湧水を代替水源にすることはできません。
 
このトンネルは、早川流域(富士川水系)から大井川流域をくぐり、小渋川流域(天竜川水系)へと掘られます。トンネル頭上の大井川流域の標高は、最も低いところで1300mほど。それに対し早川坑口の標高は600m前後と、はるかに低くなっています。それゆえ、大井川流域で生じたトンネル湧水は、斜坑からの湧水も含め、全て早川側へ流れ出してしまいます。
 
イメージ 5
南アルプス本体のトンネル想像図
赤線が本坑、紫の線が斜坑の推定位置(ただし作者の勝手な予測に基づく)
国土地理院 電子国土ポータルより複製・加筆
 
イメージ 4
Googleより作成
 
実は国内において、このように全くつながっていない3つの流域を1本の山岳トンネルで貫いた例はありません。
つまり大井川流域で水枯れを引き起こした場合、有効な対策はなく、国内に前例もないわけです。ポンプでくみ上げれば一時的な対応は可能でしょうが、抜本的な対策にはなりません。

トンネル掘削にともなう残土処分にしろ水枯れ懸念にしろ、どちらも環境への影響は不可逆的であり、一度壊したら元には戻れません。
 
残土と水のほかにも…

動物が大型車両にひかれる
外来種の動植物が持ち込まれる
川が汚れる
騒音が10年続く
景観の破壊
 
 
こんなことが確実に起こるわけで、どう考えても自然環境への多大な悪影響が避けられません。その点について、準備書ではどのような解釈で「環境への影響は小さいと判断される」と記載されるのか、中止せねばなりません。
 
南アルプスは国立公園とはいえ、そこいらの児童公園のお砂場ではありません。

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