環境影響評価制度というものは、環境保全対策方法をまとめた評価書という文書を作成することを最終的な目標としています。
で、事業者は評価書を作るために、下調べとしていろいろと調査をおこないます。調査には、文献資料の調査、現地調査、数値予測など様々な手法が用いられます。
その調査結果をまとめ、環境保全対策の案をまとめた文書のことを準備書と言います。いわば、評価書の下書きです。
準備書に記載された案で環境保全が適切に行えるか、ということが、現在問われていることになります。
一般市民の人々も、この審査に関わる権利があり、事業者であるJR東海に意見を述べることができます。
ただ、勘違いしてはいけないのは、準備書というのはあくまで環境保全対策案を記した文書であり、それに対しての意見はあくまで環境保全という観点に限られます。これは環境影響評価法十八条で定められていることです。
計画の賛成・反対を問うものではない
地域振興や、経営面に対する意見も的外れ
というわけです。
一応JR東海の「意見受付フォーム」には事業そのものに対する意見も受け付けているようです。しかし法律で明らかな通り、事業者であるJR東海としては、計画そのものの是非や、経営面の懸念に対してはマトモに返事をしなくてもよいことになります。
おそらくリニア計画に疑問を抱く人々は、
「ああ、JR東海の経営が心配だ。もし倒産したらどうしよう~!」なんてことはあんまり考えておらず、
「おいおい、こんなものができちゃって生活できるのかよ」とか、
「うちらの水源の沢はどーなるんだ?」
「あそこの沢には岩魚がいるけど、工事で水が涸れたらどうなるんだ?」
「こんな山奥をダンプカーが何百台も通れるわけないだろ!」
という、生活に密着した不安や自然環境破壊への疑問が根底にあるものだと思います。
その疑問をそのままJR東海にぶつければよいわけです。この準備書の内容で解消できるか、という視点で読め下せばなお良し。
さて、環境省のホームページに、環境影響評価準備書の見方、読み方、そして意見提出方法についてまとめられたページがあります。
「アセス助っ人 準備書を採点する」
これが意見を考えるうえで参考になります。ぜひこのページをご覧になって、意見を提出していただきたいと思います。
JR東海意見受け付けフォーム
締め切りは11月5日です。
私の提出した準備書(静岡県版)への意見概要
以下、
記載内容不足で、環境保全ができているかどうか判断することができないという点については赤く
事業内容の不透明さは青で、
記載内容の矛盾は緑で
調査・評価・環境保全対策の不十分さは紫で
で示します。
(1)環境影響評価法においては、準備書に「環境の保全のための措置」を記載し、その内容に対して意見を受け付けるよう義務付けられている。しかし本準備書においては「環境の保全のための措置」を検証するために不可欠な、当然開示されるべき情報が不足している。南アルプス内における残土処分の検討、山梨・長野側を含め多数の斜坑や作業用トンネルの建設を予定しているなど、方法書段階では公衆等に対して明らかにされていなかった計画も初めて準備書にて出されている。残土処分方法、山梨リニア実験線における今後の走行実験結果の取り扱いなど、いまだ事業内容の大幅な変更につながる要素も多い。調査内容が不十分であると思われる項目も多岐にわたる。したがって本準備書は、準備書としての用件を満たしているとはいえない。
(2)今後の山梨実験線における走行実験結果の扱いがどう計画に反映されるのか不透明である。今後の計画変更による混乱を避けるためにも、今後の実験結果をアセスに反映させるべきである。
(3)大型車両の通行ルートとして、井川ダムから川根本町方面へ向かう道路が示されている。町の中心を10年以上にわたり大型車両が通行し、生活環境への影響は大きいと考えられるが、同町を対象にした環境影響評価は行われていない。これはおかしい。
(4)あらゆる面にわたり、環境配慮上の検討過程が不明である。これは環境影響評価制度で定められた義務の放棄である。
(5)斜坑や工事用道路トンネル、残土置き場等の規模や構造が不明。それなのに流量の予測ができている。これでは正確さに疑問が残る。
(6)騒音、振動、流量など数値計算に基づく予測結果全般に対し、単一の試算結果だけを表示し、評価の根拠としているが、こういう試算において単一の値がでるというのはありえない。上限、下限を示すべきである。
(7)粉じん、騒音、振動について、「工事施行ヤードと直近の登山ルートの拠点となる施設が約900m離れていることから、環境影響は極めて小さいと予測する」と結論付けている。きわめて主観的な判断であるうえ、具体的な数字が一切示されておらず、検証しようがない。
(8)大気環境全項目について、現地調査地点、予測地点ともに少ない。
(9)騒音の現地調査地点の選定がおかしい。どうやら滝か堰堤のそばで測定しているようである。こんなデータをもとにした現状との比較など無意味である。
(10)建設機械による騒音と、車両の通行に伴う騒音とを分けて評価している。重なるケースを想定していない。
(11)水環境について、調査・予測地点があまりにも少なく、流水や湧水がどのように分布しているかという基本的な情報についての整理もおこなわれていない。現地調査自体も年2回しか行われておらず、得られたデータがその地域の環境を表現できているかどうか疑わしい。
(12)流量予測に用いられた予測式が妥当かどうかの検証が行われていない。
(13)水環境予測の前提に用いられた地質断面図が不明瞭。
(14)トンネル掘削により大井川源流域での流量の減少が予想されているが、有効な対策を出していない。
(15)大井川源流に残土置き場を造成するが、それにともなう水質汚染を予測していない。
(16)「水資源」の項目では流量が減少すると予測しているのに、水質については減少しない前提で試算している。
(17)動植物の調査結果については確認種リストが掲げられているだけで、調査地点も、どこで何が見つかったのかという実態も、改変予定地との位置関係も全く分からない。これで影響がないと結論付けられても検証しようがない。
(18)2014年6月に、川をつぶして仮設道路がつくられたが、そのあとにその場所で水生生物の調査をおこなっている。
(19)大量の大型車両が通行する林道東俣線沿いで生物調査を行ったとしているが、なぜか鳥類だけ調査をしていない。
(20)動物への影響を回避するために作業用道路トンネルをつくるとしているが、この建設自体が大量の残土を発生させたり川を汚したりと、大きな負荷を生み出す。その妥当性について検討していない。
(21)ロードキル(動物の交通事故死)対策を講じていない。
(22)水生生物の調査範囲は改変予定地から600m以内と狭すぎる。トンネル工事にともなって流量減少が起きたら、その影響は地表の改変箇所とは無関係に広がるはずである。
(23)このあたりの河川がどういう環境(地形、川底の状況、水深、植生など)にあるか、調査していない。
(24)南アルプス国立公園では採取・損傷を禁じられている指定動植物というものがあり、長野の準備書ではそれが重要種に位置づけられているが、静岡県では対象外である。同じ南アルプス国立公園の周辺なのに、長野と静岡で植物の重要種の選定基準が大幅に異なる。奥大井県立自然公園内においても同様の制度があるが、準備書では対象外となっている(神奈川県では県立公園内指定種を重要種に選定)。現地調査で確認された植物のうち90種はこれに該当する。
(25)「地域を代表する植生」として、改変予定地とは関係のない山腹の植生を調査対象とし、影響は少ないと結論付けている。改変予定地の河川、谷底等の植生は評価対象外である。
(26)外来植物の搬入対策がなされていない。
(27)景観調査地点が4ヶ所しかない。そのうえ他県で用いられている予想図も出されていないのに「影響はない」と結論付けられている。
(28)残土は90%は本事業内でリサイクルするといっているが、物理的にありえないし、域外に搬出すると、この準備書の記載内容を大幅に書き換えなければならなくなる。
(29)山梨県境の標高2000m前後の山のてっぺんに残土を積み上げるという、ムチャクチャな計画が出されている。
(30)南アルプスの隆起量について、論文を都合よく解釈変更している(前回記事)。
(31)イヌワシ、クマタカへの対策として「徐々に工事の規模を大きくしてゆけば慣れる」という都合のいい対策が出されている。そもそも「2027年開業」と言っている時点で、ありえない対策である。
(32)静岡・山梨の県境をまたいで調査をしているが、その結果は山梨県版準備書には未記載。
(33)主要な「人と自然との触れ合いの場」として椹島・二軒小屋ロッジ(宿泊施設)を例に上げ、「登山・釣り客の利用がある」と書いているが、工事による釣り場への影響は評価対象外となっている。
南アルプスの環境を維持できないのなら、計画全般の再検討を求める