残土問題の続きを書こうと思ってましたが、大井川の渇水問題に関連し、流量調査・予測の妥当性について、さらに追記して書きます。
8日金曜日静岡新聞夕刊の記事です。
この記事は、準備書で、大井川上流部の流量が2立方メートル/秒減少するいう予測がでていたことに対し、大井川から取水している様々な団体から懸念の声がJR東海に提出されたというものです。
一部抜粋。
JR東海の予測結果は、リニア完成後に大井川上流部で流量が現況から毎秒約2トン減少するという内容。毎秒2トンは、上水道を7市約63万人が利用する大井川広域水道企業団の水利権量と同じだ。
毎秒約2トン減少というのは、準備書「水資源」のところにある表に基づきます。
でも本当に「2トン/秒」の減少なのか、準備書の記載内容だと分からないのですよ。
準備書の「水資源」の表(下の表・上段)を見ると、例えば田代ダム(二軒小屋の取水堰)の下流側で現況9.03㎥/秒が7.14㎥/秒に減少すると予測されています。記事はこの記載に基づきます。下に貼り付けた図の青く囲った部分に当たります。
ところがこの表、よく見ると現況の流量のところに(解析)という文字が添えられています。
これは、流量を予測する計算の前提として用いた、理論上の値のことをさすんですね。トンネル工事終了後の流量も、当然この解析値が前提となっています。
それじゃあ、本当の流量はどうなんだ?と思って準備書を見回してみると、「水質」というところに実際に現地で測った値が載せられていました。
で、「水質」のところで、先ほどと同じ田代ダム下流側の流量実測値を見てみると、1.2~1.3㎥/秒という値になっています。
?
実際の流量は1.2~1.3㎥/秒程度なのに、計算の前提とした値は9。03㎥/秒?
詳細な説明は準備書を見ていただかないと難しいので省きますが、他の地点についても同様な傾向にあります。全体として、解析値は実測値の5~7倍となっています。
なんかおかしくありませんか?
この準備書を読むにあたっては、本当は
「現況9.03㎥/秒が7.14㎥/秒に2㎥/秒ぶん減少する」
ではなく「2~3割の減少」と解すべきであり、「現況1.3㎥/秒が1㎥/秒にまで減少」することを意味しているんじゃ・・・?
はたまた、解析値は実測値より8.7㎥/秒ほど多く見積もられているから、工事終了後の予測値7.14㎥/秒もその程度多く見積もっており、本当は0㎥/秒になることを意味しているのでは…?
表 JR東海の準備書より、流量の実測現況値と現況解析値
図 水質調査・予測地点と水資源調査・予測地点
「解析値」は取水による流量減少を無視しているのかとも思いましたが、この予測地点上流側での取水による流量減少は、最大でも4.99㎥/秒(東京電力:田代ダム)であり、しかも取水時間は限られているため、8.7㎥/秒の差には結びつきません。
(※さらに奥の取水堰は、調査地点の上流側で本流に戻されるため、調査地点の流量には関係ない)
やっぱり、解析値が実測値を表現できていないと思わざるを得ません。このような前提条件での予測が、果たして妥当なものなのでしょうか?
さらにわけの分からないことに、長野県版準備書では水資源の予測においても実測値を用いています。それなのになぜか大井川では解析値を用いているのです。これはいったいどういうことなのでしょう?
まさか、流量の激減を隠すつもりなのでは・・・?
この表からは、別な角度からも、現地調査の信頼性を疑うようなことが垣間見えます。
大井川のように太平洋側を流れる河川の流量は、一般的に梅雨時や台風シーズンに多く、冬場は少なくなります。流量の多い時期を豊水期、少ない時期を低水期といいます。
ところが、表下段の「地点番号03 西俣川」という地点(緑の下線部)では、冬場の低水期のほうが、流量が多いという妙な調査結果が示されています。
JR東海の調査では、夏場は流量が大きく、冬場は大きいという前提に基づき、夏・冬の年2回しか調査をおこなっていません。太平洋側の川なら、確かにそうした傾向にあるのは当然ですが、調査した日が、その川のその時期の状況を適切に表しているという保証はどこにもありません。この2回の調査をもって、夏場の調査結果を豊水期の代表値、冬場の調査結果を低水期の代表値と見なしてしまうから、こんな妙な結果になったのです。
なお、この逆転については、夏場は水力発電をフルに稼動させるため、取水の影響が強く出ていたためだと思われます。
流量逆転の理由は何であれ、これでは大井川上流域の流量変動を把握しているとは言えません。最低でも1年間の継続的調査は欠かせないはずです。
より規模の小さい道路建設のアセスでも、流量の年間測定は常識的に行われています。9兆円の事業計画に比してムチャクチャ経費がかかるわけでもなく、自記水位計を据えておくだけで十分なはずです。ウソだとお思いでしたら、こちらのアセス評価書をご覧ください。長さ4km弱のトンネル工事ですが、きちんと行われています。なぜ、JR東海はそんな最低限のことも省くのでしょうか?
大井川は「ダム銀座」と知られ、発電用水、農業用水、水道用水、工業用水として大量に取水されています。いっときは「河原砂漠」とまで言われ、長年の「水返せ」運動により、細々ではあるものの、ようやく流れを取り戻したという歴史があります。
それでも、これらの水は主に流域で使うという目的で取水されているものです。水が減ってもまだ納得がゆきます。それに対しトンネル工事による渇水はただダラダラ隣の山梨県側へ流れ出すだけであり、流域にとっては迷惑以外の何物でもありません。
膨大な残土、ひどく荒らされる谷、そして渇水…
リニアは静岡県に対して何をもたらすのでしょうか?
一方、大井川から赤石山脈をはさんで西側の長野県大鹿村を流れる小河内川でも、流量予測をめぐって問題が発覚しました。準備書公表時点では「流量は3割減少する」とされていたものが、意見提出締め切りの5日になって突如「5割減少する」と変更されました。http://www.shinmai.co.jp/news/20131106/KT131105ATI090043000.php(信濃毎日新聞)
JR東海は「データの入力を誤った」とし、こっそりとホームページの準備書記載コーナーで訂正しただけ。川の水が半減すれば、生活用水にも生態系にも多大な影響が及びますが、アセスの根幹に関わることを公表すらしていない…、これでは信頼しろというほうがムリです。
そういえば、このタイミングで関西の自治体トップの方々から2027年大阪同時開業を実現してくれという要望が出されましたが、それはすなわち、「こんなムチャクチャな工事を、デタラメな環境影響評価でも構わないから着工せよ」ということなのでしょうか?