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Channel: リニア中央新幹線 南アルプスに穴を開けちゃっていいのかい?
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リニア準備書 大井川の流量減少への環境保全措置策はなし

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大井川だけでなく、案の定、山梨県での審議会でも、南アルプスにおける水環境の項目について「データ不足」という声があがってきました。当然でしょう。審議するための材料が書かれていないのですから。データ不足という点については、次回触れようと思います。
 
さて、環境影響評価というものは、大雑把に言うと、大規模な事業をおこなう前に、事業者がその事業が環境に与える影響を予測し、「環境の保全のための措置」を生み出してゆく制度です。
 
そして事業者の考えた「環境の保全のための措置」で環境が守られるかどうかを審議する権利が、自治体や環境省だけでなく、地元住民をはじめとする国民みんなにあります。
 
その審議をおこなうために、事業者による調査・予測結果と「環境の保全のための措置」を示した文書のことを準備書と言います。
 
というわけで、「環境の保全のための措置」は準備書で中心をなす最も重要な要素です。法律でも、それを掲載するよう義務付けられています。
 
法律を一部抜粋http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H09/H09HO081.html
第十四条  事業者は、第十二条第一項の規定により対象事業に係る環境影響評価を行った後、当該環境影響評価の結果について環境の保全の見地からの意見を聴くための準備として、第二条第二項第一号イからワまでに掲げる事業の種類ごとに主務省令で定めるところにより、当該結果に係る次に掲げる事項を記載した環境影響評価準備書を作成しなければならない
(一~六は省略)
七  環境影響評価の結果のうち、次に掲げるもの
イ 調査の結果の概要並びに予測及び評価の結果を環境影響評価の項目ごとにとりまとめたもの(環境影響評価を行ったにもかかわらず環境影響の内容及び程度が明らかとならなかった項目に係るものを含む。)
ロ 
環境の保全のための措置(当該措置を講ずることとするに至った検討の状況を含む。)
ハ ロに掲げる措置が将来判明すべき環境の状況に応じて講ずるものである場合には、当該環境の状況の把握のための措置
ニ 対象事業に係る環境影響の総合的な評価
 
ほらね。
 
さて、そもそも調査方法自体がはなはだ疑わしい(前回参照)ものの、それでも流量が大幅に減少すると予測された大井川の場合、どのような「環境の保全のための措置」がしめされているのでしょうか?
 
静岡県版準備書「水資源」のページを見てみましょう。
 
イメージ 1
 
赤く囲った、「工事排水の適切な処理」から「薬液注入工法における指針の遵守」までの5つは、環境影響評価の結果とは何の関係もなく、どんな工事でも守らねばならない約束事です。わざわざ「検討の状況」なんて書く必要はありません
 
その下には「地下水等の監視」というものがありますが、「工事着手前に地下水の水位を監視し把握」って、おいおいおい、それをやって、この場所の地下水の状況について調べて対策を練るのが環境アセスメントでしょ!! ←これ、意見を提出してから気付きました…。
 
全体的にヘンなのであります。
 
まあそれでも、表の下のほうの2つ「応急措置の体制整備」「代替水源の確保」がとりあえず環境保全措置に該当すると思います。
 
2ページ先の表8-2-4-8に、この2つの効果についての説明があります。全文を引用します。

「応急措置の体制整備」
地下水等の監視の状況から地下水位低下等の傾向が見られた場合に、速やかに給水設備等を確保する体制を整えることで、水資源の継続的な利用への影響を低減できる。
 
「代替水源の確保」
他の環境保全措置を実施したうえで、水量の不足等重要な水源の機能を確保できなくなった場合は、代替措置として、水源の周辺地域においてその他の水源を確保することで、水資源の利用への影響を代償できる。なお、本措置については、他のトンネル工事においても実績があることから確実な効果が見込まれる。
 
で、川の流量が減少するという予測結果が出ているのだけど、具体的に何をするの??
 
これじゃあ、具体的に何を対策として考えているのか、さっぱり分かりませんね。要するに、準備書は環境保全措置を示す文書なのに、それが何にも書かれていないわけです。これでは準備書としての必要な条件を満たしているとはいえません

JR東海のよくわからない予測結果によれば、大井川の流量は2立方メートル/秒減少する(前回参照)とされています。2立方メートル/秒という量は、(降水量にもよりますが)流域面積数十平方キロメートル程度の川の流量に相当し、どこかから川を一本ひっぱってこなければ確保できないような量です
 
「代替措置として、水源の周辺地域においてその他の水源を確保する」なんてできるわけないじゃないですか!!
 
だいたい、この「環境保全措置」というものは、リニアの通る全都県で同じ文面が使い回されています。要するに、一般論を並べただけで、大井川の自然条件や社会条件なんて全く考慮していないわけです
 
「他のトンネル工事での実績」というのは山梨実験線で水枯れを引き起こした笛吹市等を念頭においているのだと思いますが、川の規模も地形も必要となる流量もくらべものになりません。
 
 
 
◇   ◇   ◇   ◇   ◇
 
 

それでも工事をしたいのなら、最終的に評価書において何かしら具体的な案を考え、環境省(形の上では国土交通大臣)からお墨付きを得ねばなりません。JR東海は何を考えるのでしょう?
 
案として出されそうなものを考えてみました。

①トンネル内湧水を自然に流下させて川に戻す
トンネル渇水が起きたときは、トンネル内に湧出した水を代替水源にあてるような措置をとることがあります。
イメージ 2
トンネル湧水を農業用水に用いている例です。東海道新幹線の由比トンネル西側坑口の光景です。茶色い鉄管にトンネル湧水が流されています。中央の白い帯はあふれた地下水。
 
 
ところがリニアのトンネルは、東側の早川(山梨県早川町)から、西側の小渋川(長野県大鹿村)まで、10.7㎞にわたって大井川流域を完全に横断し、地表には現れません。源流部の川底近くに掘られ、まさに水抜きパイプとなる斜坑も、本坑トンネルに向かって下り勾配となるので、そこへ湧出した水は下へ下へと流れ下ってゆく一方です。
イメージ 3

トンネル・斜坑と交差する大井川川底の標高1350~1600m
斜坑口の標高1350mと1550m
大井川流域におけるトンネル本坑の水平位置
 最低所…大井川と早川との分水嶺直下 標高約920m
 最高所…大井川と小河内川との分水嶺直下 標高約1200m
 
こうして、斜坑およびトンネル本坑に湧出した水は、分水嶺をくぐって全て早川流域へと流れ去ってゆきます。これではトンネル湧水を直接代替水源にすることはできません。

もしもトンネル内への湧水を大井川へ戻すのなら、大井川・早川分水嶺直下のトンネル(標高920m前後)から、下り勾配で大井川下流側の標高900m前後の地点へ向けて導水トンネルを掘らればなりません。しかし大井川の川底が900mとなるのは、直線距離で20㎞以上も下った畑薙第一ダム下流となります。導水トンネルを掘ったら、長さは20㎞以上となってしまいます。導水トンネル自体が新たに支流の枯渇を引き起こすとともに、大量の残土が生まれることになります。しかも、水が戻ってくるまでの区間への対策にはなりません。というわけで、根本的な解決にはなりません。
 
②トンネル内への湧水をポンプでくみ上げる
一見、有効そうでムリな方法。
 
東京の地下鉄でもっとも湧水の激しいのは、地下鉄銀座線だそうです。そこに据えられたポンプの能力は、「2つのポンプで1~1.5㎥/秒の水を15~25mの高さにまでくみ上げる」のだそうです(梅原淳 「毎日乗っている地下鉄の謎」より)。
 
ということは、2㎥/秒の湧水を400~500mくみ上げるためには、そのポンプが40台以上も必要ってことになるのでしょうか? いずれにせよ、川を1本、高度差400~500mを重力に逆らってくみ上げねばならず、強力なポンプが多数必要となります。当然、24時間フルに動かし続けねばなりません。ベラボウな電気代がかかるとともに、余計な保守点検が必要となります。そのポンプは永久に、遠い将来、仮にリニアが廃線になってもJR東海が責任をもって管理し続けるのでしょうか?
 
2㎥/秒の水を400~500mの落差で一直線に落とせば、数千~1万kw程度の水力発電が可能。逆に言えば、その量の水をくみ上げるのにはこれ以上の電力が必要。
 
実はポンプでくみ上げ続けるのは、簡単そうに見えて非現実的なのです。北海道の千歳川放水路建設計画で、掘削によってラムサール条約登録のウトナイ湖への湧水が消滅すると懸念されたときに、事業者の北海道開発局が対策案として出し、批判をあびてボツになったのが、まさにこれでした。自然な水循環を人工的な動力で生み出そうとするところに無理があります。
 
③田代川発電所の水を買い取る
東京電力が二軒小屋から早川へ送水して発電している田代発電所の水を、JR東海が買い取って大井川に戻すとか…。これをやるなら、不要となる水力発電施設を、早川流域に至るまで全てJR東海に撤去・整理してもらわねばなりません。いくらかかるのだろう? また、取水堰より上流側の流量減少には対応できません。
 
④ダムを造る
→どうしようもない自然破壊とムダ金つぎ込みの連鎖。
 
◇   ◇   ◇   ◇   ◇
 
要するに、大井川流域の流量減少問題に対しては、抜本的な対策案も解決方法もないのです。準備書の記載内容が具体性に欠けているのも、案を考えていないのではなく、現実的な解決策が出せないのだと思います。
 
 
これは、谷底の高さの異なる、富士川・大井川・天竜川という異なる3つの流域を1本のトンネルで貫くことに起因する、根本的な欠陥です。そしてその欠陥が生み出されてしまったのは、「一直線で結ばなければ存在意義のない超電導リニア」という走行システムによります。

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