年内のブログ更新はやめようと思ってましたが、妙なニュースがありますので言及してみます。
本日(昨日?)JR東海が、来年10月にリニア中央新幹線の建設を開始する方針であることを公表したかのようなニュースが流されました。
朝日新聞の記事を読んでみると、あたかも決まったかなのようなニュアンスで書かれています。
でも、冷静に考えると妙なんですよ。
というのも、スケジュール的には「ありえない」話だからです。
現在は、沿線都県で環境影響評価の審議を行っている最中です。
準備書に対する一般市民からの意見提出が締め切られたのは11月5日で、JR東海がそれに対する見解書を出したのが11月25日。
環境影響評価法により、見解書の交付から、沿線知事によるJR東海への意見提出は120日以内。それゆえ提出されるのはおそらく来年3月末。静岡県の場合も、その頃まで審査会を開催する予定になっています。
知事意見を受け、JR東海は準備書を書き換え、評価書という文書を作成します。
その評価書に対しては、さらに環境省による審査が行われます。これについては、期限は特に定められていません。
環境省の見解は、環境大臣の意見として、許認可権をもつ国土交通大臣に提出されます。それから45日以内に、その意見を国土交通大臣意見として、JR東海に送付することとなっています。
JR東海はその後、国土交通大臣意見を受けて、さらに評価書を修正せねばなりません。
一般的に、知事意見から評価書修正まで半年はかかります。というわけで、評価書が確定するのはどんなに早くても夏頃になるのでしょう。
評価書手続きが終わると、環境影響評価が終わることになります。当然ながら評価書手続きが終わるまでは、事業内容が変更する可能性があります。それゆえ、設計、測量、鉄道事業法上の手続き、用地買収、保安林解除・農地転用など土地に関する手続きなどは、評価書が確定するまでできないはずです。そして今度は鉄道事業法に基づく許認可審査も行わねばなりません。
夏から10月までのたった2~3ヶ月で、これらの手続きが終了するものでしょうか?
また、内容に不備の多い評価書や、問題の多い事業の場合は知事意見や環境大臣意見で再調査を要求されることもあり、評価書が確定するのにさらに数年を要することもあります。例えば愛知万博の場合は、アセスに通常の倍の4年かかった末に、事業用地の変更に至りました。
リニア計画の場合、あまりにも準備書に不適切・不十分な点が多く、各地の審査会で厳しい評価を受けていることは、沿線自治体での審議議事録からも明らかです。さらに残土処分については、処分地の候補地すらあがっておらず、それを決めた後に、その地におけるアセスを行う必要もあります。
岐阜県でウランを含む残土が発生した場合の対応、南アルプスにおける残土の取り扱い、大井川における流量減少など、一直線で走れないリニア方式である以上回避不可能な問題も、何ら解決されていません。とても現段階で着工できるメドはたっていません。
というわけで、
あらかじめ事業内容は確定済み-つまりアセスはただの儀式に過ぎない-でなければ、10月着工は不可能だと思うのですが。このぐらいは、環境影響評価の手続きについて少し調べれば分かることです(静岡新聞では「計画は流動的」としています)。それなのに、なぜ朝日新聞はあたかも着工が決まったのかのような書き方をしたのでしょうか?
あくまで私の推測ですが、記者がJR東海の関係者から「とんとん拍子で進めば来年10月の東海道新幹線開業50周年に合わせて着工できるかもしれないな」といったことを聞き、それを「来年秋に着工」と、あたかも決定事項のように報じたのではないのでしょうか。
いずれにせよ、こういう記事の書き方は「ミス・リード」とよばれるものに類するのではないのでしょうか?
環境影響評価において、当然のことながら、動植物の保全が重要なテーマとなります。
しかし、何らかの改変を行う以上、全ての動植物種を保全対象にするというのは不可能なので、特に重要な種を選択して、それに対して保全策を考えるということが行われます。
重要な種の選定基準について特に定まってはいませんが、一般的に
①全国的に絶滅のおそれがあるもの(環境省版レッドデータブック掲載種)
②都道府県レベルで絶滅のおそれがあるもの(都道府県版レットデータブック掲載種)
③国立・国定・都道府県立の各自然公園において採取・損傷が禁じられているもの
④天然記念物(国・都道府県・市町村による指定)
⑤絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律で指定された種
⑥都道府県・市町村の条例で特に指定された種
②都道府県レベルで絶滅のおそれがあるもの(都道府県版レットデータブック掲載種)
③国立・国定・都道府県立の各自然公園において採取・損傷が禁じられているもの
④天然記念物(国・都道府県・市町村による指定)
⑤絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律で指定された種
⑥都道府県・市町村の条例で特に指定された種
だいたいこんなものが選定基準に用いられています。
ここで、南アルプスの両側の長野・静岡両県の環境影響評価準備とにおける、植物の重要種選定について見てみます。
JR東海作成の環境影響評価準備書を複製・加筆
ここで注目していただきたいのは、長野県版において赤く囲ってある、「国立・国定公園特別地域内指定植物図鑑」というものです。
自然公園法という法律では、該当する自然公園の特別地域において、種を指定して採取・損傷を禁止することができます(以下、このような種のことを指定種と表記します)。この指定種が掲載された図鑑のことを「国立・国定公園特別地域内指定植物図鑑」とよびます。
こちらの環境省のページに詳しい説明があります。
http://www.env.go.jp/park/doc/data/plant.html
http://www.env.go.jp/park/doc/data/plant.html
長野県版の環境影響評価準備書では、これを採用することにより、南アルプス国立公園特別区域内で環境大臣により採取・損傷を禁じられているものを、重要な種に選定し、保全対象にしようとしたわけです。
長野県側においては、国立公園区域に工事予定地はかかっていません。それにも関わらずこの指定種を保全対象にしたというのは、
A. 国立公園内への影響を考慮した
B. 将来的な南アルプス国立公園地域の拡張計画を考慮した
C. ユネスコ・エコパーク登録計画に配慮した
D. 専門家あるいは審議過程で指摘された
E. コンサルタント会社の意気込み
B. 将来的な南アルプス国立公園地域の拡張計画を考慮した
C. ユネスコ・エコパーク登録計画に配慮した
D. 専門家あるいは審議過程で指摘された
E. コンサルタント会社の意気込み
こうした理由によるのでしょう。ただし準備書のどこを見渡しても、重要種の選定過程についての説明がないので詳細は分かりませんが…。
なお、長野県における現地調査結果では、指定種はほとんど見つかっておらず、保全措置は全くとっていないという、いい加減なオチがついています。
このことを頭に入れて、右側の静岡県版準備書を見ると、どういうわけか、この指定種は重要種に位置づけられていないのです。
静岡県側と長野県側とでは、どちらも
南アルプス国立公園に隣接する地域
将来的に国立公園拡張の予定されている地域
エコパーク登録申請中の地域
将来的に国立公園拡張の予定されている地域
エコパーク登録申請中の地域
で工事を計画している状況に違いはありません。それなのに、なぜ長野県側では指定種を重要種に位置づけ、静岡県側では位置づけないのでしょうか?
この二重基準により、同じ指定種であるものの長野県側では保全対象になっているのに、静岡県側では保全対象となっていない植物が、実に73種もあります。
同じ南アルプスです。生物に県境は全く関係ありません。それなのに10㎞しか離れていない長野県側坑口と静岡県側斜坑とで重要種の選定理由が異なることに、どのような合理的理由があるのでしょう?
指定種については、さらなる疑問があります。
残土捨て場候補地の一部は、奥大井県立自然公園特別地域にかかっています。奥大井県立自然公園特別地域においても、県条例により採取・損傷の禁じられている指定種があります。
ところが準備書においては、奥大井県立自然公園特別地域における指定種を重要種に選定していません。他県ではどうだろうと思って調べてみたら、神奈川県版の準備書においては、県立丹沢大山自然公園における指定種を重要種に選定していました。
二重基準ならぬ三重基準です。
この疑問について準備書への意見としてたずねましたが、見解書には「選定理由については準備書に記載していあります」という意味不明な回答が書かれているだけでした。
どこを見渡しても書いていないから質問したの!!
というわけで、他県の準備書と比較してみた限り、本来なら重要種に選定されるべき南アルプス国立公園指定種と、奥大井県立自然公園指定種とが、ごっそりと抜け落ちていると言わざるを得ません。
というわけで、静岡県における確認植物リストから、南アルプス国立公園・奥大井県立公園指定種なのに重要種に選定されていない90種を並べておきます。
静岡県版準備書 資料編より作成
(12/31訂正)カントウタンポポは長野県版準備書では、同県版レッドデータブック記載種として重要種に選定されているが、静岡県では普通種である。よって注意されたい。
だいたいゴゼンタチバナ、オサバグサ、イワオウギ、ハリブキ、ツバメオモト、タカネフタバランなどは標高2000m級の山に行かねば見られない種類であり(主に亜高山帯の植物)、ミネウスユキソウなどというのは完全な高山植物です。こんなものが鉄道建設によって影響を受けるおそれがあり、しかも保全対象にあがってないなんてきわめて異常です!!
マニアが盗掘したら罰金モノなのに、JR東海が残土で埋めてしまうのはOKというのはどういうこっちゃ?。