環境影響評価において、当然のことながら、動植物の保全が重要なテーマとなります。
しかし、何らかの改変を行う以上、全ての動植物種を保全対象にするというのは不可能なので、特に重要な種を選択して、それに対して保全策を考えるということが行われます。
重要な種の選定基準について特に定まってはいませんが、一般的に
①全国的に絶滅のおそれがあるもの(環境省版レッドデータブック掲載種)
②都道府県レベルで絶滅のおそれがあるもの(都道府県版レットデータブック掲載種)
③国立・国定・都道府県立の各自然公園において採取・損傷が禁じられているもの
④天然記念物(国・都道府県・市町村による指定)
⑤絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律で指定された種
⑥都道府県・市町村の条例で特に指定された種
②都道府県レベルで絶滅のおそれがあるもの(都道府県版レットデータブック掲載種)
③国立・国定・都道府県立の各自然公園において採取・損傷が禁じられているもの
④天然記念物(国・都道府県・市町村による指定)
⑤絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律で指定された種
⑥都道府県・市町村の条例で特に指定された種
だいたいこんなものが選定基準に用いられています。
ここで、南アルプスの両側の長野・静岡両県の環境影響評価準備とにおける、植物の重要種選定について見てみます。
JR東海作成の環境影響評価準備書を複製・加筆
ここで注目していただきたいのは、長野県版において赤く囲ってある、「国立・国定公園特別地域内指定植物図鑑」というものです。
自然公園法という法律では、該当する自然公園の特別地域において、種を指定して採取・損傷を禁止することができます(以下、このような種のことを指定種と表記します)。この指定種が掲載された図鑑のことを「国立・国定公園特別地域内指定植物図鑑」とよびます。
こちらの環境省のページに詳しい説明があります。
http://www.env.go.jp/park/doc/data/plant.html
http://www.env.go.jp/park/doc/data/plant.html
長野県版の環境影響評価準備書では、これを採用することにより、南アルプス国立公園特別区域内で環境大臣により採取・損傷を禁じられているものを、重要な種に選定し、保全対象にしようとしたわけです。
長野県側においては、国立公園区域に工事予定地はかかっていません。それにも関わらずこの指定種を保全対象にしたというのは、
A. 国立公園内への影響を考慮した
B. 将来的な南アルプス国立公園地域の拡張計画を考慮した
C. ユネスコ・エコパーク登録計画に配慮した
D. 専門家あるいは審議過程で指摘された
E. コンサルタント会社の意気込み
B. 将来的な南アルプス国立公園地域の拡張計画を考慮した
C. ユネスコ・エコパーク登録計画に配慮した
D. 専門家あるいは審議過程で指摘された
E. コンサルタント会社の意気込み
こうした理由によるのでしょう。ただし準備書のどこを見渡しても、重要種の選定過程についての説明がないので詳細は分かりませんが…。
なお、長野県における現地調査結果では、指定種はほとんど見つかっておらず、保全措置は全くとっていないという、いい加減なオチがついています。
このことを頭に入れて、右側の静岡県版準備書を見ると、どういうわけか、この指定種は重要種に位置づけられていないのです。
静岡県側と長野県側とでは、どちらも
南アルプス国立公園に隣接する地域
将来的に国立公園拡張の予定されている地域
エコパーク登録申請中の地域
将来的に国立公園拡張の予定されている地域
エコパーク登録申請中の地域
で工事を計画している状況に違いはありません。それなのに、なぜ長野県側では指定種を重要種に位置づけ、静岡県側では位置づけないのでしょうか?
この二重基準により、同じ指定種であるものの長野県側では保全対象になっているのに、静岡県側では保全対象となっていない植物が、実に73種もあります。
同じ南アルプスです。生物に県境は全く関係ありません。それなのに10㎞しか離れていない長野県側坑口と静岡県側斜坑とで重要種の選定理由が異なることに、どのような合理的理由があるのでしょう?
指定種については、さらなる疑問があります。
残土捨て場候補地の一部は、奥大井県立自然公園特別地域にかかっています。奥大井県立自然公園特別地域においても、県条例により採取・損傷の禁じられている指定種があります。
ところが準備書においては、奥大井県立自然公園特別地域における指定種を重要種に選定していません。他県ではどうだろうと思って調べてみたら、神奈川県版の準備書においては、県立丹沢大山自然公園における指定種を重要種に選定していました。
二重基準ならぬ三重基準です。
この疑問について準備書への意見としてたずねましたが、見解書には「選定理由については準備書に記載していあります」という意味不明な回答が書かれているだけでした。
どこを見渡しても書いていないから質問したの!!
というわけで、他県の準備書と比較してみた限り、本来なら重要種に選定されるべき南アルプス国立公園指定種と、奥大井県立自然公園指定種とが、ごっそりと抜け落ちていると言わざるを得ません。
というわけで、静岡県における確認植物リストから、南アルプス国立公園・奥大井県立公園指定種なのに重要種に選定されていない91種を並べておきます。
静岡県版準備書 資料編より作成
だいたいゴゼンタチバナ、オサバグサ、イワオウギ、ハリブキ、ツバメオモト、タカネフタバランなどは標高2000m級の山に行かねば見られない種類であり(主に亜高山帯の植物)、ミネウスユキソウなどというのは完全な高山植物です。こんなものが鉄道建設によって影響を受けるおそれがあり、しかも保全対象にあがってないなんてきわめて異常です!!
マニアが盗掘したら罰金モノなのに、JR東海が残土で埋めてしまうのはOKというのはどういうこっちゃ?。