新年早々、こんな文句ばかり文章にしたためていて、なんとも陰湿な正月でございます。
さて、本題に入ります。
明治時代、
「鉄道草」
と呼ばれた草がありました。
新しく線路が敷かれた地域にきまって生えてくる、これまで誰も見たこともない、不思議な草のことをこう呼んだそうです。
文明開化のしるしとされたこともあったそうです。
その草には、様々な種類があり、「ヒメムカシヨモギ」「ヒメジョオン」などという和名がつけられました。
これらは、北アメリカ原産のキク科植物です。幕末~明治の開港にともない北アメリカから輸入された物資について日本に伝播し、鉄道網の拡大とともに全国に広がり、元々荒地を好む性質とあいまって、線路沿いを席巻してしまったのです。現在では都会の空き地、土手、緑地などに大量に生えています。名前はマイナーですが、誰しも一度は見たことがあると思います。手元に適当な写真がないのが残念ですが・・・。
このように海外から持ち込まれた、本来その地に生えていない植物のことを外来種といいます。なお、生物の分布に国境で仕切ることに意味はなく、九州にしか生えていない植物が関東に広まったら、それだって生態系のうえでは異質であり、移入種とよばれます。
現在日本各地に広まっている外来植物の多くは、
種子を大量につける
種子が軽量・ごく小型で、風・水・物に付着するなどして散布されやすい
他の植物の生育しにくい、やせた荒地で育つ
種子が軽量・ごく小型で、風・水・物に付着するなどして散布されやすい
他の植物の生育しにくい、やせた荒地で育つ
という性質をもっています。鉄道草とよばれたヒメムカシヨモギやヒメジョオンは典型例で、種子は1㎜にも満たないうえ、風に乗りやすいよう小さな冠毛がついています。そのため貨物や乗り物に付着したり、風に飛ばされたりして、広範囲へ簡単に運ばれてゆきます。
そして荒地-養分が少ない、石だらけなど普通の植物の生育に適さない-にたどり着くといち早く出芽し、大量に繁茂し、在来植物の生育する場を占領してしまいます。そこが新たな種子供給源となり、また周囲へと広がってゆきます。
このような植物には、
キク科植物(オオアレチノギク、セイタカアワダチソウ、センダングサ類、セイヨウタンポポ、ダンドボロギク、ノゲシ、ブタクサなど実に多様)
アブラナ科植物(菜の花、クレソンなど)
タデ科(エゾノギシギシなど)
アカザ科(アリタソウなど)
マツヨイグサ類、
クマツヅラ属(アレチハナガサなど)
イネ科(シナダレスズメガヤ、ネズミムギ、オオクサキビ、イヌムギ、カモガヤ、メリケンカルカヤなど実に多様)
メリケンガヤツリ
など、実に多様な種類があります。静岡市内の東海道線沿いや清水港周辺を歩いただけで、簡単に100種類は見つかるでしょう。
外来植物の目から日本列島を見つめると、明治維新以降、こうした伝播・繁茂に適した環境が着々と広げられてきたに違いありません。
つまり交通網の拡大というのは、
工事に伴う荒地の出現
工事に伴う大量の物資の搬入
完成後の大量のヒト・モノの移動
交通路沿いの開発と新たな荒地の出現
工事に伴う大量の物資の搬入
完成後の大量のヒト・モノの移動
交通路沿いの開発と新たな荒地の出現
という面がありますが、これはいずれも外来植物の繁茂にとってふさわしい環境が拡大の一途をたどってきたことを意味します。
外来植物の生える土地が増えた分、在来植物の生える土地が減ったことは、いうまでもありません。そしてそれは、在来植物をエサとしていた昆虫の減少や、あるいは外来種をエサにすることのできる一部の種の増加(キャベツをえさにするモンシロチョウが典型例)につながり、生態系の破壊と、郷土景観の喪失に直結します。
さて、リニア中央新幹線計画と外来植物という関係に目を向けます。
JR東海の作成した静岡県版準備書によると、静岡県内の現地調査範囲(南アルプス)でみつかった高等植物は756種だそうです。このうちシダ植物を除く種子植物は
686種。
686種。
このうち外来種はどのくらいかな…と思って一覧表を見渡すと、全く分類していないんですね。環境影響評価で在来種と外来種・栽培種とを分けることは常識であり、南アルプスという場所を考えると、非常識ともいえるいい加減さです。
というわけで非常に不親切なのですが、一応、拾い上げてみました。結果は以下の通りでした。
エゾノギシギシ
オランダミミナグサ
イタチハギ
ハリエンジュ
コメツブツメクサ
ムラサキツメクサ
シロツメクサ
メマツヨイグサ
マツヨイグサ
アメリカセンダングサ
コセンダングサ
ダンドボロギク
ヒメムカシヨモギ
ハルジオン
セイタカアワダチソウ
ヒメジョオン
セイヨウタンポポ
コヌカグサ
シナダレスズメガヤ
オオクサキビ
オランダミミナグサ
イタチハギ
ハリエンジュ
コメツブツメクサ
ムラサキツメクサ
シロツメクサ
メマツヨイグサ
マツヨイグサ
アメリカセンダングサ
コセンダングサ
ダンドボロギク
ヒメムカシヨモギ
ハルジオン
セイタカアワダチソウ
ヒメジョオン
セイヨウタンポポ
コヌカグサ
シナダレスズメガヤ
オオクサキビ
確実な外来種は以上の21種。このほか植林されたものかどうか不明なものとしてスギ、ヒノキ、サワラ、カラマツの4種があります。なお、イタチハギ、ハリエンジュ、シナダレスズメガヤの3種は、砂防工事のために意図的に植えられたものだと思われます。
とりあえず21種という値を用いると、外来種の割合は3%となります。これは、1地点の環境アセスメントとしては、おそらく、けっこう低い割合だと思います。
例えば同様の作業を隣県の山梨県版準備書について行ってみますと、種子植物1186種のうち、外来種は約226種(数え漏れがあるかと思います)。その割合は19%に達します。面倒なのでこれ以上は調べていませんが、東京都、神奈川県、愛知県ではもっと割合が多くなるのでしょう。
これと比較すると、やはり静岡県内で工事が計画されている地域では、現状ではまだそれほど外来植物が入り込んでいないと言えます。
外来種の搬入をこの程度で何とか食い止めてきたのは、ひとえに一般車両の通行を禁じてきたからに違いありません。
リニア中央新幹線の建設工事は10年以上に及びます。
現在の計画では、その間は大井川源流部の東俣林道を使って、毎日300~500台の大型車両が大量の物資と人とを乗せて、外部と南アルプスとを行き来することになっています。
こんな事態は南アルプスにとってはじめてです
現在は山梨県版準備書で明らかな通り、平野部や人家周辺は外来種だらけなのですから、かつての電源開発や森林伐採の行われた時代に比べて種子供給源がたくさんあります。そこを通って、これまでになく大量の車両・人・モノが入り込むのですから、これでは、確実に大量の外来植物が外部から南アルプスへと運び込まれます。
そして工事にともない、表土をはぎとられる場所があちこちに生じます。さらに残土捨て場という植物の全くない裸地も広い面積で生じます。こうした場所は、外来植物にとっては天国です。
もうちょっと具体的に想像してみますと・・・。
準備書の植物リストから推測するに、現在の南アルプスにおいてがけ崩れや倒木によって生じた裸地に真っ先に侵入する在来植物は、おそらくフジアザミ、ヤマハタザオ、ミヤマハンノキ、ノリウツギといった種類です。こうした植物を先駆性植物とよびます。が土壌の流出を防ぎ、土地が安定してきたところでカラマツなど明るい場所を好む樹木が生え、やがてブナやミズナラ、高所ならオオシラビソ等に変わってゆくのでしょう。
リニアの工事の場合、まず、畑薙第一ダムから斜坑までの約35㎞の東俣林道沿いにおいて、路肩の整備によって現存の植生が剥ぎ取られます。整備後の林道を頻繁に大型車両が通過することにより、林道沿いの裸地が外来種だらけとなるに違いありません。さらに作業用ヤードでは、頻繁にダンプカーがコンクリート骨材をや何かを降ろしてゆくため、その周辺も外来種だらけとなるでしょう。
つまり工事によって生じる裸地には、頻繁に外来種の種子がふりかけのようにばらまかれ、在来の先駆性植物の生えてくる間がないと思われるのです。しかも延々35㎞もの区間におよびます。
先駆性植物がカモガヤ、エゾノギシギシ、シナダレスズメガヤ、セイタカアワダチソウなど、強力な繁殖力をもった外来種に変わったら…その時点でアウトです。その場所を占拠し、本来の在来植物を締め出してしまいます。そして川の流れ、風、動物や登山者にくっついて、奥へ奥へと運ばれていってしまう…。
さらに、こうした場所が恒久的な外来植物の種子供給源となり、工事終了後にも、周辺においてがけ崩れや洪水で自然に生じた裸地へと、次々と伝播していってしまうに違いありません。
しかも、これらの植物については、いったん侵入してしまうと根絶が不可能なのが現状です。セイタカアワダチソウなど、1本で数万の種子を飛散させるんですから…。かといって、こんな南アルプスの山奥に、強力な除草剤をばらまくわけにもいかない…。
私、配慮書の段階から3回この点を意見書として問いましたが、マトモに取り扱ってもらえません。
準備書への意見に対し、ようやく見解書で回答らしきものが得られましたが、それは次の通り。
まったくもって、的外れです。
「工事終了後、外来種の植物が入り込まないよう…」
工事が終了するまで10年かかるんです。その間に工事現場周辺が外来種だらけになるのは目に見えています。その対策を求めているんです!
こちら、工事中の新東名高速道路の写真ですが
まわりを散歩していたら、オオマツヨイグサ、ヒメムカシヨモギ、オオアレチノギク、セイタカアワダチソウ、アメリケセンダングサ、シナダレスズメガヤ、カモガヤ、ネズミムギ、イヌムギ、アレチハナガサ、オッタチカタバミなど、実に多種多様な外来植物が繁茂しておりました。目に付く在来種はマメ科のクズばかり。このクズとて、在来種とはいえ強力な繁殖力をもち、他の植物の生育を阻害し、生態系を貧弱にするという厄介な性質をもっています。
いずれにせよ、外来種は工事の最中から大量に生えてくるんです!!
「タイヤの洗浄」とも書かれていますが、これとて厳重な管理をおこなわない限り、洗車場が種子供給源となります。1日400回も洗浄をしていれば水の使用量もバカにならない(水道などない場所!!)し、その処理も必要となりますが、全く言及していません。
また、種子がくっつくのはタイヤだけであるわけありません。荷台にだって、大量の建設資材やセメント材料にだって付着しているでしょう。特にセメント骨材はどこかの河原から運んでくるのでしょうが、現在の日本において河原の砂利というのは、外来植物のかたまりみたいなものです。
搬入する骨材すべてを洗浄するか熱処理でもしない限り、ダンプカーの荷台を傾けた瞬間に、砂ぼこりとともに大量に飛散してしまいます。
700人もの作業員が入れば、その靴の裏や荷物にもくっついてくるでしょう。
近所に生えていたセイタカアワダチソウ、マツヨイグサ類(正確な種類は不明)、ノゲシ、アメリカセンダンガウサの種子の写真を貼り付けておきますが、こんな1㎜にも満たない、ごく小さく軽いものの侵入を拒むことなど可能だと思いますか?
さらに、南アルプスのように原生的な自然環境を残している地域の場合、国内移入種のことも考えねばなりません。日本原産とはいえ本来南アルプスい分布していない植物が大量に侵入したら、それをエサとする、本来南アルプスに生息していなかった昆虫も呼び寄せてしまいます。それはそれで生態系の劣化・破壊に他なりません。しかも国内移入種の場合、遺伝子解析でもしない限り、在来種かどうかの判定すらできないという厄介な点があります。
リニア中央新幹線計画において、外来植物・移入種の搬入が南アルプスの生態系に与える危険性は、土砂災害を引き起こしかねない残土捨て場や、大井川の大幅な流量減少に比べて目に見えにくい懸念ですす。しかしこれが現実となったら、南アルプスの生態系が根本的に破壊されてしまいます。
これでは南アルプスの生態系が南アルプスのものでなくなってしまいます!!