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Channel: リニア中央新幹線 南アルプスに穴を開けちゃっていいのかい?
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南アルプス生態系評価の論理展開がものすごくデタラメ その2

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昨日書いた「生態系」の環境影響評価ですが、論理展開そのものの問題点が多岐にわたっており、いくつか重要な問題点を指摘するのを忘れておりました。というわけで、補足して再掲載します。
 
生態系とは何気なく使われている言葉ですが、その概念を言葉で表すのはなかなか困難です。
 
だいたい、こんな感じでしょうか?
 
ある地域(地球全体からほんの小さな一掴みの土という小さなスケールまで)における非生物的な外的要因(大気、水、温度、地質、地形など)と生物、および生物同士の係わり合いをさす概念。
 
う~ん、やっぱり難しいなあ・・・。
 
太陽光・水・二酸化炭素・土壌や水中の養分で植物が育ち、その植物をバッタが食べ、そのバッタをクモが食べ、そのクモを小鳥が食べ、その小鳥をタカが食べ、そのタカの死体や排泄物を昆虫が食べ、その昆虫の排泄物をバクテリアが分解し、また植物が養分として利用する…というような、物質の循環。
 
あるいは日照をめぐる植物同士の静かな争い、異種・同種の動物間におけるエサの奪い合いのような、生物間の競合。
 
あるいはハチが受粉を助けたり、小鳥やネズミが植物の種子を遠くに運んだりするような、異種の生物間での助け合い。

こうした、「ある一定の範囲内における環境と生物、および物同士の係わり合い」ってところでしょうか?
 
当然ながら気候、地形、地質、水分条件によって生息する生物相はガラリと異なります。南アルプスというところは、標高差が大きいために低地から高山まで、日本列島を縮小したように気候帯がそろっており、また谷と尾根とが入り組んで複雑な地形をもち、多様な環境をもっています。それゆえ、実に様々な動植物が分布しています。標高が高くて低温であるがために、氷期の生物も多数残されています。
 
これが、「豊かな生態系」といわれるゆえんです。
 
 
 
環境影響評価制度においても、生態系に与える影響が評価対象となっています。

JR東海は南アルプスにおいて大工事をおこなう計画を立てています。当然のことながら、南アルプスの生態系に大きな影響を及ぼすでしょう。
 
 
ところが準備書の生態系に対する影響評価の項目、一言で言うと…
 
「デタラメ」
 
こんなのを専門家の方々に見せて恥ずかしくないのだろうか…?と、心配になってしまったのでありました。
 
あらかじめ断っておきますが、評価結果が悪いとか、この対策ではダメだということを言いたいのではありません。それ以前の段階として、論理展開がおかしいのです。

先にも述べたとおり、南アルプスでは何千という動植物が険しいな地形とあいまって非常に複雑な関係をつくっています。その生態系は地形・地質・気候によって、あるいはスケールのとり方によって幾通りにも分類できますが、これを全て評価対象とすることは事実上不可能なので、次のA、B、Cのような条件を満たす種や植物群落が影響評価の対象になります。
 
「A.上位性の注目種」
生態系の頂点に立つ捕食者が存続するためには、エサとなる多様な小動物と、その小動物のエサとなるさらに小さな生物や植物が広範囲にわたって健全に生きてゆく環境が不可欠です。したがって食物連鎖上位の動物を保全対象にすることは、広い範囲の環境保全につながるという概念です。ちなみにこのような種のことを、アンブレラ種とよびます。傘のように、様々な種を覆って保全すうるという意味です。
 
「B.特殊性の注目種」
湿地、岩稜、汽水域、湧水、崖、高山、特殊な地質など、他に代替のない自然環境に基盤をもつ生態系を守ろうという概念です。
 
「C.典型性の注目種」
改変の対象地域で広く見られる動植物は、その場所の自然環境を代表しているものであり、それを保全することは、その場所の自然環境の保全につながるという考え方です。
 
これらを総合し、その地の環境を評価・保全しようとするのが、現在の日本で行われている生態系評価の概念です。
 


 
で、準備書を見てみますと、JR東海によれば、南アルプスにおける生態系の影響評価は、次の6つを対象にすればよいのだそうです。
 

わずか
上位性…クマタカ、キツネ
典型性・・・ツキノワグマ、ホンドヒメネズミ、エゾハルゼミ、ミヤコザサ-ミズナラ群集
の6パターンで、改変予定地を含む南アルプスの生態系が評価できる…?

実にいい加減で乱暴な議論です。

 
いろいろな角度から批判できますが、まず問題なのは

①河川生態系の存在を無視している
水中の生態系は、南アルプスにおいては渓流が対象になりますが、一口に渓流といっても、大井川本流のように比較的規模が大きく河原の発達する渓流、淵と瀬とを繰り返す渓流、両岸が絶壁に囲まれた狭い渓流、土砂の流出の著しい渓流、ごく小さく細々としか水の流れない渓流など、様々な様相があります。
 
また、山岳地帯においては水中と陸上の生態系を切り離して考えることはできません。

寒冷地の河原に特有な河畔林(ドロノキ、オオバヤナギ等)
湿った沢筋に立地する渓畔林(シオジ、サワグルミ等)
川岸の岸壁に特有な植物(サツキ、シダ類等)
川岸の森林で繁殖し、エサを河川に依存する鳥類(ヤマセミ、カワセミ等)
河畔林・渓畔林からの落下昆虫をエサとする渓流魚
河畔林・渓畔林からの落葉をエサとする水生昆虫
その水生昆虫をえさとする大型生物(渓流魚、カワガラス等)
渓流と渓畔林とを行き来する両生類
 
ちょっと思いつくだけでも、かように渓流と森林とのつながりは密接なのです。むしろ、「水辺」という生態系が成立しているともいえるでしょう。
 
JR東海の計画では、静岡県内分360万立方メートルの残土については、大井川の河原6地点を埋めたて、さらに小支流の源流(標高2000m)に捨てるとしています。
 
直接的に川を埋めたてることにより、その場に生息していた生物は死滅してしまいます。そこを行動圏としていた動物にも何らかの影響が出ます。
 
また、準備書「水資源」の項目において、トンネルの掘削により大井川および大支流の流量が大幅に減少するという予測がなされています。川の流量が減少すれば水生生物の生活環境が縮小することは確実です。さらに、渇水時に川が干上がれば、これは壊滅的なダメージとなります。水質悪化による影響も予想されます。
 
このように、直接的・間接的に川の生態系へ与える影響は非常に大きなものが予想されます。それにも関わらず、河川生態系への影響を調査対象としていません。これは不可解です。うがった見方をすれば、評価を行えばあからさまに影響が出ると言わざるを得ないので、議論を避けたようにも見えます。
 
②上位性の種が2種しかあげられていない
準備書で確認された生態系上位の捕食者のうち、周囲で繁殖していそうなものにはこのほかにも…
イヌワシ、オオタカ、ハイタカ、フクロウ、アカショウビン、ヤマセミ、テン、オコジョ、カワネズミなんてのがあります。どうしてクマタカとキツネの2種だけにに収斂できるのか、説明がほしいところです。
 
例えば、イヌワシというのはクマタカと同様に日本の陸上食物連鎖の頂点に立つ猛きん類ですが、そもそも陸上生態系の頂点が狭い範囲に2種いるということは、何らかの住み分けを行っているのに違いなく、単純に1種を守ればいいという話ではないのです。いろいろ調べてみると、どうもクマタカとは生活様式が大きく異なるらしい。というのは、クマタカは大木の繁った深い森林で主に鳥やヘビ類をを狩るのに対し、イヌワシは開けた草原でノウサギ等の狩りをするとのこと。
 
ということは、クマタカを保全対象にするのは森林環境の保全という観点からは正しいけれども、それだけでは開けた環境は守れないかもしれない。イヌワシを加えれば、草原も保全対象になるわけですね。
 
フクロウの保全には、大きなウロの開いた大木が残り、エサとなる野ネズミ類の豊富な森林が不可欠です。また、周知の通り夜行性です。ちょっと考えただけでも、要求される環境の質は、クマタカの求めるものとは異なるのです。
 
また、ヤマセミやカワネズミは渓流の生態系の頂点に立つ動物であり、これらを保全するためには、渓流魚の豊富な河川環境を保つことが不可欠です。
 
つまるところ、上位性の種としてクマタカとホンドギツネの2種を掲げるだけでは、南アルプスの多様な環境を守れないと思われるのです。
 
③特殊な環境に成立する生態系が評価対象にあがっていない
先ほど、環境影響評価では「特殊性の注目種」を評価対象にすることにより、その特殊な環境を保全しようとすると述べましたが、準備書では「特殊性の注目種」があげられていません。
 
工事を計画しているあたりには、特殊な生態系は存在しないのでしょうか?
 
そんなわけありません。

準備書の【植物】のところにある植生区分図(図2)には、岸壁植生、オオバヤナギ-ドロノキ群集、カワラヨモギ群集、ヤマハンノキ群集なんてのがあります。準備書に説明はないけれども、岸壁植生は当然ながら、崖にしか成立しません。しかも大雑把に「岸壁植生」なんて言ってるけれども、日当たり、水分によって生える植物はまるっきり異なり、その中には特殊な植生も含まれているはずです。
 
それから『宮脇昭 編(1984)静岡県の生態立地図』という資料によれば、オオバヤナギ-ドロノキ群集は、寒冷地で土砂の移動の激しい河原、ヤマハンノキ群集は山崩れの跡地にしか立地しない植生です。とくにオオバヤナギ-ドロノキ群集というのは、静岡県内では大井川源流部にしかなく、全国的に見ても南限であり、さらに絶滅危惧種の高山チョウが発生する場でもあり、生態系保全の観点からは非常に重要な環境です。
 
十分、特殊なんじゃないのかなあ…?
 
 

次は恣意的に議論を避けたとしか思えない、とんでもない問題。
④非改変地域を広く覆う植生を「典型性の注目種」として評価対象にすることにより、直接改変する地域を覆う植生を評価対象から外している
ややこしくてごめんなさい。ちょっと、長くなります。
 
生態系評価の際には、特定の種ではなく、植生を対象することも行われます。植物が陸上生態系における食物連鎖の底辺であるとともに、その場所の地形・地質・気候によって生育する植物相が異なることから、その場の環境を代表していると見なせるからです。当然、生えている植物相が異なれば、それをエサにする生物も、すみかとする生物も、土壌も異なってきます。身近なところでも、原っぱと雑木林とでは、見かける生き物はまるっきり異なりますよね?
 
静岡県において改変が計画されているのは、標高1000~2000mという地域になります。一般的に、標高が1000m高くなると気温は0.6℃低下するので、この範囲では6℃の気温差があることが予想されます。6℃の気温差というは、植物の分布にとっては非常に大きな差となります。
 
水平方向でいえば、東北地方北部と北海道北部との差に相当します。
 
JR東海は気候の経年調査をしていないので(これも問題!)、気象庁の観測データから推測するしかありませんが、おそらく標高1000m付近は津軽海峡あたりに、標高2000mあたりは北海道オホーツク海沿岸あたりの気温に相当すると思われます。中学校や高校の地理の授業で習うケッペンの気候区分でいえば、前者は西岸海洋性気候(Cfb)に、後者は冷帯湿潤気候(Dfb)あるいは高山気候(H)に相当します。
 
実際、JR東海による植生調査でも、標高1000m付近はミズナラ・ブナ・カエデ類・モミ等を中心とした落葉広葉樹林、標高2000m付近ではオオシラビソ・コメツガ・ダケカンバ等からなる常緑針葉樹林であると分類されています。
 
要するに、静岡県内においてリニアの工事が計画されている範囲では、少なくとも2つの全く異なる気候帯/植生帯が含まれているわけです。
 
そして当たり前のことですが、同じ気候帯でも、地形によって生えてくる植物相は全く異なります。地形によって水分条件、日照条件、土壌条件が大きく異なるからです。
そういうわけで、調査範囲の植生は、準備書【植物】では21種に分類されています(図2参照)。JR東海も、21種程度に分類できると判断したわけです。
 
このような予備知識をもって改めて冒頭の準備書コピーを見ると…
 
理解しがたいことに、典型的な植生としては、山腹に立地する「ミヤコザサ-ミズナラ群集」という落葉樹林の一形態しか対象にしていません。そしてこのミヤコザサ-ミズナラ群集は保全されるので、生態系への影響は小さいと結論付けています。

少なくとも21種に分類した南アルプスの植生を、どうしてたった1種に代表させることができるのでしょう? そして、なぜ影響がないと言い切れるのでしょうか。

それは、準備書における次のような論理展開によっています。
(1)ここは南アルプスという山地である
(2)山地に特有な生態系を調査・保全対象とする
(3)調査対象地域(改変予定地より600m以内)の大部分は落葉広葉樹林である
(4)落葉広葉樹林を細分するとミヤコザサ-ミズナラ群集が最大面積である
(5)よって、ミヤコザサ-ミズナラ群集を保全対象とする
(6)調査の結果、ミヤコザサ-ミズナラ群集は(改変対象ではないので)破壊されないことが判明した
(7)したがって南アルプスの生態系は保全される
 
この通りです。
私は専門家でも何でもありませんが、一目見て評価対象のすり替え、つまり論点をぼかして逃げていると直感しました。どうしてこんな姑息でなことをするのか、まったくもって理解不可能です。

この論理展開において、(1)から(2)に移る部分で河川生態系が無視されていたのはさきほど指摘したとおり。

次に(2)から(3)へ移る部分。準備書より転載した図1を見ると、確かに調査範囲の植生としては落葉広葉樹林が大半ですが、二軒小屋北東側の稜線(残土捨て場候補地)の調査地域は、亜高山針葉樹林で覆われています。少なくともこの残土捨て場については、針葉樹林が典型的な植生のはずです。
図1 【生態系】のところで使用されている生態系区分の図 静岡県版準備書より
図2と比較すると非常に大雑把
何より縮尺が異なる(基図は1:5万 図2の基図は1:2.5万)
 
前述の通り、落葉広葉樹林と亜高山針葉樹林とは、全く異なる性質の森林です。植物相のみならず、生息する動物も土壌も全くなります。生態系を論ずる際に、その違いを無視することは、あってはならないはずです。
 
その次に(3)→(4)→(5)の論理展開がムチャクチャおかしい。

一例として、二軒小屋ロッジ南側に計画されている最大の残土捨て場について考察してみましょう。
 
準備書の「植物」のところにから転載した植生図(図2)では、調査地域内の大半が、オオバヤナギ-ドロノキ群集、ジュウモンジシダ-サワグルミ群集、ミヤマクマワラビ-シオジ群集という河畔林、渓畔林の植生で示されています。特に、残土が捨てられて直接破壊される植生は、ほとんどが河畔林、渓畔林です。その他にも何種類にも細分されています。
図2 【植物】のところにある植生区分図 静岡県版準備書より
 

ところが同じ準備書でも「生態系」のところで用いた図1だと、改変予定地は「山地の生態系」を示す緑色一色で塗りつぶされていました。それゆえ(4)の「落葉広葉樹林を代表するのはミヤコザサ-ミズナラ群集である」という論法で、河畔林、渓畔林をミヤコザサ-ミズナラ群集に置き換え、評価対象にしています。

つまり、生態系保全の観点からは、あえて大雑把な図を使用することにより、本来、調査・保全・対象とすべき植生を議論の俎上に載せないようにしているとみられるのです。

なぜミヤコザサ-ミズナラ群集を調査・保全対象としたいのか…?
 
繰り返しますが、渓畔林・河畔林というのは渓流沿いにしか成立せず、また樹林の構成種が多様であり、希少価値の高い森林です。先にも述べたとおり、水辺の生態系という性質もあります。とくにオオバヤナギ-ドロノキ群集は前述の通り、生態系保全の観点からは非常に重要な環境です。
 
工事では確実にこの渓畔林・河畔林が破壊されますが、それを「破壊され保全できない」と準備書に明記すれば、確実に大きな批判を招きます。
 
そのいっぽう、ミヤコザサ-ミズナラ群集というのは植生図からも明らかな通り、山腹に立地する森林です。工事を予定しているのは谷底ですから、これは工事で破壊される可能性はあまりありません。着工しても、「保全できる」と言い張ることができます。
ミヤコザサ-ミズナラ群集に対する評価結果 改変はほとんど行われないので保全できるとしている。
工事と関係ない場所の森林だから当たり前!!
 
よって、保全対象をミヤコザサ-ミズナラ群集にすり替えることにより、いかにも保全措置がとれているかのように見せかけているのではないでしょうか。
 
⑤改変を計画している場所しか評価対象にしていない
JR東海の調査・評価は、改変を計画している場所から600m以内という枠組みでしかおこなっていません。というわけで、その周囲とのつながりや、工事が周囲に与える影響は考慮されていません。
 
これもおかしなことです。
 
動物の行動範囲は数km四方におよぶのに、どうして600mの範囲での評価でよしとするのでしょう?
 
トンネル工事で河川の流量が減少した場合、その影響は地上の改変場所とは無関係に広がります。それなのになぜ地上の工事予定地で評価対象地域が決まるのでしょう?
 
評価対象地域が南ア山中に点々と並んでいますが、工事が始まれば、それらの地域を結んで大量のヒト・モノ・車両が行き来することになります。離れた地域同士の間へ、そのの影響は出ないのでしょうか?
 
⑥使用している地図が大雑把
生態系評価の際に使用している図の基図は、国土地理院作成の五万分の一地形図、植物の図で使用しているのは、同二万五千分の一地形図です。
 
地形図は正確な地図ですが、この生態系評価の項目で使用するには不適当です。生態系の基盤となる植生は、ほんのわずかな土壌水分や地形の影響で異なることがありますが、そうした状況を縮尺の都合上、表現することができないからです。また、改変予定地と植生との位置関係も伝わってきません。
 
紙の地図で表現できるものは、せいぜい図上で1㎜程度までです。二万五千分の一地形図では、図上で1㎜のものは実際のスケールで25mに、五万分の一地形図では同じく50mとなります。逆に言えば、これよりスケールの小さなものは表現できなくなります。したがって、仮に小さな流れに沿って特異な植生と生態系とが成立していても、その幅が20m足らずであれば、地形図では表現できなくなります。崖なんかも、真上から見ればごく幅が狭く、地形図での表現は困難です。
 
基となる地図がないのかと言えば決してそんなことはなく、例えば山岳地域では都道府県や林野庁の作成する森林基本図というものがあります。これは五千分の一で作成されており、図上1㎜=5mですので、非常に細かく地上の様子を表現することが可能です。さらによくよく考えれば、「国鉄時代から南アルプスの調査を行ってきた」らしいので、詳細な地図を作成しているはずです。
 
準備書の【関連図】と称する図では、縮尺が一万分の一になっていますが、こうした図を編集したのではないのでしょうか。
 
いずれにせよ、JR東海が入手している地図を基にすれば、より詳細な植生区分図を作成できたはずです。それなのに、なぜあえて地形図を採用して大雑把な植生区分図としたのでしょう?
 
⑦結局、南アルプスの自然環境全般をどの程度に把握しているのかがわからない
 
街外れにある小さな丘のような場所をちょっと想像してください。北向き斜面より南向き斜面のほうが、日当たりが良好です。てっぺんと麓では、麓のほうが湿っています。それによって、生えている植物が異なります。子供が走り回って踏みつける場所と、誰も足を踏み入れない場所とでは、草の生えている量が異なります。そんなことで、見られる昆虫や野鳥も異なります。
 
ちっぽけな丘でも植生を決定付ける要素はいろいろあるわけです。

この静岡県版準備書が扱っているのは、南アルプスという日本の生物多様性を象徴するような場所です。南アルプスという場所を考慮し、生態系の基礎となる植生を決定付ける要素を思いつくままに並べても・・・

標高による気温の違い
地質・地形による土壌条件の違い
地形による日当たり具合の違い
地形による土壌の水分条件
地形による風の当たり具合の違い
積雪の深さ
凍結・融解による土壌への影響
表層物質(土や石)の移動
山崩れの影響
伐採の影響の強弱
伐採からの経過年
かようにいろいろあるわけです。
 
ところが冒頭の準備書コピー「注目種の選定とその理由」を見ても、評価対象とした6つの動植物が、この南アルプスの多様な環境をどのように代表しているのか、さっぱりわかりません。
 
つまり、南アルプスがどのような自然環境にあるのかという肝心な点が、準備書からはまったく見えてこないのです。これでは生態系保全をおこなうと言ったって、実施主体であるJR東海が、その対象のことをどれほど認識しているのか疑わしいと感じます。
 



このように、「南アルプスの生態系への影響は小さい」という結論を導き出すために、都合のよい解釈変更を繰り返し、きわめて作為的な論理展開を用いているように思えてなりません。
 
準備書への意見として提出しましたが、見解書で寄せられた回答は、この準備書の既述をそのまま繰り返しただけでした。
 
こうした生態系評価の論理展開のおかしさは、山梨県での準備書審査でも問題視されていて、
JR東海は準備書で、東部・御坂地域、巨摩・赤石地域など6エリアに区分けして生態系と注目種をまとめたが、委員からは「生態系は沢ごとに異なる。詳細なエリアの調査結果を出すべきだ」との指摘が相次いだ。
(11/23山梨日日新聞)
http://www.sannichi.co.jp/linear/news/2013/11/23/14.html
「現状の資料では議論の俎上に載せられない」(12/11同新聞)
http://www.sannichi.co.jp/linear/news/2013/12/11/15.html
 
というように報じられています。
 
これは悪質だと思います。少なくともこの生態系に関する部分については、環境影響評価をやり直すべきです

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