昨年9月の公表された環境影響評価準備書【静岡県版】の問題点を、ここ二月ほどつづっておりますが、まだ半分くらいか書き終えていません。まだまだ言いたいことがありますが、ちょっと気付いたことがあったので、大井川の流量減少問題に戻ります。
JR東海の試算によれば、南アルプスにリニアのトンネルを掘ると、トンネル頭上になる大井川源流部で2立方メートル毎秒(=2㎥/s=毎秒2t)の流量が減少するという結果が出され、準備書に記載されました。
これ、ホントなのかな?という疑問は今もって拭えません。
そもそもトンネル内に2㎥/sもの水が流れたら、トンネルそのものが川となり、工事など到底不可能のように思えます。
試算の信頼性に対する検証すらしていないので、なんとも言えません。
とにかくこの「2㎥/s減少」に対し、流域から強い懸念が出され、これまで地域との対話を拒絶してきたJR東海も、対応を迫られるようになってきました。
大井川の流量減少に対しては、「トンネル内への湧水をくみ上げる」という案を出しています。
これって、ものすごくエネルギーを消費するのだろうなあ・・・と思って、シロウトなりに調べてみました。
工学の専門家の方、上下水道やポンプを扱っている方で、「間違っているんじゃない?」と思われたら、どうぞご指摘ください。
JR東海の予測によると、2㎥/sの流量減少が試算されているのは、大井川の西俣・東俣合流点(標高1390m)付近から下流側です。これより上流側の、西俣斜坑口上流側(標高1550m)でも、約1㎥/sの減少が試算されています。これよりさらに上流側の、標高1710m付近にある中部電力の西俣取水堰堤付近でも、0.56㎥/sの減少を予測しています。
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水が減って市民生活に影響の及ぶことばかりがクローズアップされている感がありますが、この無人地帯では、真っ先に影響を受けるのは、動植物です。イワナやアマゴは本流を支流を行き来して生活しているので、流れが途切れたり川が浅くなって水温が上昇したら住めなくなってしまいます。サンショウウオなどの生活場も失われてしまいます。水辺の植物分布と、それに依存する動物の生活にも影響が出るでしょう。
このような流量減少による様々な影響に対応するのなら、東俣との合流点上流側に1㎥/s、西俣取水堰上流側にも1㎥/sを、常時くみ上げ続ける必要があろうかと思います。単に下流の水利用を考えるだけなら、二軒小屋斜坑口まででよいのですが、生態系への影響を考えると、こうした対策が必要でしょう。
しかしトンネル完成後、永久に休むことなくポンプを動かし続けねばなりませんから、たいへんなエネルギー消費になろうかと思います。
どのくらいのエネルギーを要するのでしょう?
流量減少が、川のどの付近でどのくらいになるのか、斜坑による影響が大きいのか、本坑による影響が大きいのか、あるいは縦横に掘られるトンネルのどの深さへの漏出が大きいのか、詳しいことはよく分かりませんが、大まかな傾向はつかめると思います。
とりあえず以下のケースを想定してみました。、
①大井川の流域界直下から東俣との合流点上流側まで標高差約500mを1㎥/sの吐出し量でくみ上げる、
②西俣斜坑の下端から西俣取水堰までの標高差約600mも1㎥/sの吐出し量でくみ上げる
①大井川の流域界直下から東俣との合流点上流側まで標高差約500mを1㎥/sの吐出し量でくみ上げる、
②西俣斜坑の下端から西俣取水堰までの標高差約600mも1㎥/sの吐出し量でくみ上げる
次の2枚の図のようなイメージです。
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準備書記載の図を調整・加筆
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西俣にトンネル湧水をくみ上げるイメージ
以上の仮定のもとで、簡単にエネルギー消費を見積もってみました。
ポンプを動かすのにに必要な理論上の動力は、次の式で算出されるそうです。(水道工学ハンドブックによる)
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以上の条件より、①、②の値を上式に代入したところ、次のような結果が出ました。
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その結果、1万7325kWという値がでました。
これ、相当に大きな数字です。30Aで契約している一般家庭約5800世帯分に相当します。
ところで、この大井川最上流部には、平成の初め頃に中部電力が水力発電所を3ヶ所建設しました。
それらの出力は次の通り
二軒小屋発電所 最大認可出力26000kW 常時認可出力2100kW
赤石発電所 最大認可出力39500kW 常時認可出力0kW
赤石沢発電所 最大認可出力19000kW 常時認可出力1500kW
二軒小屋発電所 最大認可出力26000kW 常時認可出力2100kW
赤石発電所 最大認可出力39500kW 常時認可出力0kW
赤石沢発電所 最大認可出力19000kW 常時認可出力1500kW
この場合は右側の常時認可出力にご注目ください。水力発電所はピーク時の発電に対応させるため、ある程度水をために一気に大量に流して出力を大きくします。発電能力といわれるのはそのときの値です。JR東海が計画しているポンプは休むことなく動かし続けなければならないので、比較するなら右側の常時出力となります。
二軒小屋・赤石沢の両発電所の常時認可出力が合わせて3600kWですので、ポンプの消費エネルギーは4.8倍にも及びます。
実は、先ほどのポンプの電力消費の式は、水力発電出力の計算式とほとんど同じものです。すなわち
重力加速度×流量×水の密度×有効落差×機械の効率
これが水力発電の出力を求める式だそうです。
話が脱線するようですが、ちょっと頭の体操。
2㎥/sの流れがあるとします。このうち0.4㎥/sは流し続け、1.6㎥/sを650m上方に22時間くみ上げて貯水槽にため、2時間で一気に下に落とすとします。
こういう揚水発電を考えると、
常時出力約3800kW、最大出力約190000kWもの発電が可能となります。
2時間だけですが、大井川水系最大の発電能力をもつ畑薙第一発電所の出力(最大認可出力137000kW/常時認可出力1400kW)を上回ります。さらにこの2時間だけですが、リニアを4本くらい走らせることも可能でしょう。
何が言いたいのかというと、トンネルからポンプで水をくみ上げた場合、そのエネルギー消費は大井川源流部一帯に造られた水力発電所の総出力を確実に上回り、発電所をつくった際の自然への負荷が壮大なムダになってしまいかねないということです。
かつての発電所も、相当に大井川源流部を破壊して造られました。沢登りの愛好家から名渓とうたわれた赤石沢にダムが造られたり、大井川の河原に残土を捨てたり、取水で谷川の流量が減ったりしています(ここで取水された水は大井川本流に戻されるので下流への影響はない)。
こうして南アルプスの自然を破壊して得られた水力発電エネルギーが、ただ水をくみ上げるだけに使われたら、それは単に自然をぶっ壊しただけの存在に変わってしまいます。
リニアをつくるために、間接的に、広範囲の沢をぶっ壊したともいえるかもしれません。
いずれにせよ、ポンプによるくみ上げだけで大量のエネルギーを消費します。しかも、大いなる川の源をポンプという人工的動力に付け替えようというのは、あまりにも自然を冒涜していると思います。
※水力発電所のデータは、中部電力編纂「大井川 電力と風土」による