リニア中央新幹線の南アルプス横断トンネルは、大井川を潜り抜けます。列車の通るトンネルだけでなく、作業用の斜坑も川の下に掘られます。
そういうわけで大量に大井川の水が抜けてしまうとJR東海自身も予測しているわけですが、川の水を大量に減らすことは法律上で問題ないのでしょうか?
(もっとも、予測値自体がアテにならないのですが)
というわけで、シロウトなりに調べてみました。
河川は、河川法という法律で管理されています。河川は公共用物とされており、国や都道府県が管理しています。基本的に国が管理するのが一級河川、都道府県の管理するのが二級河川です。大井川は一級河川であり、国土交通省が管理しています。
地下深くとはいえ、好き勝手にトンネルをほることはできないようです。地下深くでも、河川法が適用されるようです(後述)。
リニア計画では、静岡県の大井川上流部にて様々な工事が想定されていますが、どうも河川法に照らし合わせると、わけのわからない状況を招くのではないかと思うのであります。
大井川源流部では次のような工事が計画されていますが、それぞれの行為について、河川法の関連すると思われる部分を整理しておきます。あくまで素人の判断ですので、間違っているかもしれません。間違いに気付かれた際には、どうぞご指摘くださいませ。
①流量を減らす・流れの向きを変える
→「流水の占用」…法第23条、施行規則第11条
②トンネルや残土捨て場を設ける
→「土地の占用」…法第24条、施行規則第12条、事務次官通達「河川敷地の占用許可について」
③トンネルを掘る
→「土石の採取」…法第25条、施行規則第13条
④トンネル工事、残土捨て場の壁を造る
→「工作物の新築等」・・・法第26条、施行規則第15条
⑤大量の残土を河原に盛土として捨てる
→「土地の掘削等」・・・法第27条、施行規則第16条
→「流水の占用」…法第23条、施行規則第11条
②トンネルや残土捨て場を設ける
→「土地の占用」…法第24条、施行規則第12条、事務次官通達「河川敷地の占用許可について」
③トンネルを掘る
→「土石の採取」…法第25条、施行規則第13条
④トンネル工事、残土捨て場の壁を造る
→「工作物の新築等」・・・法第26条、施行規則第15条
⑤大量の残土を河原に盛土として捨てる
→「土地の掘削等」・・・法第27条、施行規則第16条
一連の行為は、次の二点に大別されます。
第一に、トンネルを多数掘って地表の水を吸い込み、早川水系に放流することによって、大井川水系の流量を大幅に減らすこと。
第二に、トンネル工事で発生した大量の残土を河川に盛土として捨てること。
どちらも、現在の準備書記載内容では、許可してはならない(できない)と思うのであります。
『トンネルを多数掘って地表の水を吸い込み、早川水系に放流することによって、大井川水系の流量を大幅に減らすこと』について、河川法の面から検証してみたいと思います。
そもそも「トンネルを掘って川の水を吸い込んで減らす」というのは、河川法においてどのような行為にあたるのでしょうか?
農業・上水道・工業・発電・養魚などの目的で、河川の流水を排他的かる独占的に継続して使用することを「河川の占用」と呼ぶそうです。これをおこなえる権利のことを、水利権とよびます。
(流水の占用の許可)
第二十三条 河川の流水を占用しようとする者は、国土交通省令で定めるところにより、河川管理者の許可を受けなければならない。
第二十三条 河川の流水を占用しようとする者は、国土交通省令で定めるところにより、河川管理者の許可を受けなければならない。
トンネル工事で水を減らす場合は、流水を使うために川の水を減らすのではありません。したがって「河川の占用」とよべるのかどうかすら、定かでありません。
もし「河川の占有」に該当すると判断されれば、これは水利利用と見なされることになります。減少幅(取水量)は推定2㎥/sと非常に大きいので、「特定水利利用」とよばれ、国土交通省の許可を得ねばなりません。そのためには、河川法施行規則第11条にしたがって様々な書類を作成する必要があります。
第十一条 水利使用に関する法第二十三条 の許可又は法第二十四条 、第二十六条第一項若しくは第二十七条第一項の許可(法第二十三条の二 の登録の対象となる流水の占用に係る水利使用に関する許可を除く。)の申請は、別記様式第八の(甲)及び(乙の1)による申請書の正本一部及び別表第一に掲げる部数の写しを提出して行うものとする。
2 前項の申請書には、次に掲げる図書を添付しなければならない。
一 次に掲げる事項を記載した図書
イ 水利使用に係る事業の計画の概要
ロ 使用水量の算出の根拠
ハ 河川の流量と申請に係る取水量及び関係河川使用者の取水量との関係を明らかにする計算
ニ 水利使用による影響で次に掲げる事項に関するもの及びその対策の概要
(イ) 治水
(ロ) 関係河川使用者(法第二十八条 の規定による許可を受けた者並びに漁業権者及び入漁権者を除く。)の河川の使用
(ハ) 竹木の流送又は舟若しくはいかだの通航
(ニ) 漁業
(ホ) 史跡、名勝及び天然記念物
ホ 略
2 前項の申請書には、次に掲げる図書を添付しなければならない。
一 次に掲げる事項を記載した図書
イ 水利使用に係る事業の計画の概要
ロ 使用水量の算出の根拠
ハ 河川の流量と申請に係る取水量及び関係河川使用者の取水量との関係を明らかにする計算
ニ 水利使用による影響で次に掲げる事項に関するもの及びその対策の概要
(イ) 治水
(ロ) 関係河川使用者(法第二十八条 の規定による許可を受けた者並びに漁業権者及び入漁権者を除く。)の河川の使用
(ハ) 竹木の流送又は舟若しくはいかだの通航
(ニ) 漁業
(ホ) 史跡、名勝及び天然記念物
ホ 略
二 工作物の新築、改築又は除却を伴う水利使用の許可の申請にあつては、工事計画に係る次の表に掲げる図書
三 略
四 河川管理者以外の者がその権原に基づき管理する土地、施設若しくは工作物を使用して水利使用を行う場合又は河川管理者以外の者がその権原に基づき管理する工作物を改築し、若しくは除却して水利使用を行う場合にあつては、その使用又は改築若しくは除却について申請者が権原を有すること又は権原を取得する見込みが十分であることを示す書面
五 水利使用に係る行為又は事業に関し、他の行政庁の許可、認可その他の処分を受けることを必要とするときは、その処分を受けていることを示す書面又は受ける見込みに関する書面
六 略
七 その他参考となるべき事項を記載した図書
四 河川管理者以外の者がその権原に基づき管理する土地、施設若しくは工作物を使用して水利使用を行う場合又は河川管理者以外の者がその権原に基づき管理する工作物を改築し、若しくは除却して水利使用を行う場合にあつては、その使用又は改築若しくは除却について申請者が権原を有すること又は権原を取得する見込みが十分であることを示す書面
五 水利使用に係る行為又は事業に関し、他の行政庁の許可、認可その他の処分を受けることを必要とするときは、その処分を受けていることを示す書面又は受ける見込みに関する書面
六 略
七 その他参考となるべき事項を記載した図書
実に多方面に及ぶ内容ですが、このうち赤く記した部分は、トンネル工事という性格上、「掘ってみなければ分からない」ので、正確なことを申請しようがないと思われる項目です。提出すべき書類に不備があるであろうことが確実なのですが、どうするつもりなのでしょう?
河川管理者である国土交通省は、この書類を受けて、許可の是非を審査します。さらに法38~40条に基づき、すでに河川の水を使用している関係者(水道を取水している大井川流域の市町村、農業用水、工業用水、中部電力、東京電力など)と協議せねばなりません。
今の大井川中・下流部は、渇水期には5~6㎥/s程度の水しか流されていません。500m近い川幅に、ひざ下程度の流れしかないのが現状です(これでも以前よりはマシになったのですが)。このような状況で、さらに2㎥/sの取水(実際には排水)が簡単に認められることはないでしょう。電力会社に3㎥/sの放流を認めさせるだけでも、四半世紀におよぶ長い苦闘の歴史があったわけですから…。
さて、流量を減らすのが「流水の占用」ではない場合、川の下を掘らせてもらう権利を取得する申請が必要となります(法24条)。
(土地の占用の許可)
第二十四条 河川区域内の土地(河川管理者以外の者がその権原に基づき管理する土地を除く。以下次条において同じ。)を占用しようとする者は、国土交通省令で定めるところにより、河川管理者の許可を受けなければならない。
第二十四条 河川区域内の土地(河川管理者以外の者がその権原に基づき管理する土地を除く。以下次条において同じ。)を占用しようとする者は、国土交通省令で定めるところにより、河川管理者の許可を受けなければならない。
この24条に関連し、河川の占用の許可を与える際の基準が定められています。「河川敷地の占用許可について 平成11年8月5日建設省河川発第67号建設事務次官通達」といいます。
トンネルを川の下に掘る際にも土地を使用する許可が必要という根拠は、この通達に基づいています。そしてこの通達には、「工作物の設置を伴う河川敷地の占用は、利水上の支障を生じさせないものでなければならない」とされています。
トンネルという工作物を設けると大幅に流量が減るとJR東海自身が予測し、それゆえ流域から利水上の支障が出る可能性が大きいとして強い懸念が生じているわけです。したがってこの基準に合致していない-占用の許可を与えてはならない-のではないのでしょうか。
以上は大井川を念頭に置いたものです。長野県大鹿村を流れる小河内沢でも、ほぼ同じ状況になりえます。
さらにもっと問題があるのは、山梨県富士川町を流れる大柳川と、長野県大鹿村を流れる青木川、豊丘村を流れる虻川です。いずれも一級河川であり、河川法の適用されている川です。工事の申請手続きを行うためには以上に述べた一連の手続が必要になるはずですが、環境影響評価準備書では、工事が流量に与える影響はおろか、現状調査すらしていません。工事認可の大前提がなされていないわけです。
以上のように、「川の流量を減らす」というのは、法律上でも非常に厳しい規制がかかっているのです。JR東海が作成した環境影響評価準備書記載の計画ですと、許可をすることはできない・あるいはできないのではないのでしょうか?
また別の機会に述べようと思っていますが、残土を河川敷に盛土として捨てる行為、そこへ大規模な壁を造る行為にも、河川法上での許可が必要になります。ところが、この計画では、、必要な申請条件が整えられるとは考えられません。
河川法、および前回記した自然公園法を守れるかどうかきわめて疑わしく、法律違反となりかねない準備書ですが、これをそのまま評価書とし、事業認可するとなれば、認可した側(国土交通省の鉄道関連の部署)の責任をも問われるのではないのでしょうか?