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Channel: リニア中央新幹線 南アルプスに穴を開けちゃっていいのかい?
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リニア計画はユネスコエコパーク管理運営計画に含まれなければならない

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ユネスコエコパークにおける管理運営計画の基本的理念を定めた「生物圏保存地域世界ネットワーク定款」というものがあります。今回、これをもとに考えてみたいと思います。
生物圏保存地域の愛称がユネスコエコパーク 

先日のブログでも触れましたが、定款においては、ユネスコエコパークは次の3つの機能を組み合わせて、持続可能な発展を図ることが求められています。

①保全機能
⇒景観、生態系、生物種、遺伝的多様性の保全に資すること。
②経済と社会の発展
社会文化的に持続可能で、生態学的にも持続可能な形で経済発展と人づくりを促進する。
③学術的支援
⇒実証プロジェクト、環境教育・研修、保全と持続可能な発展に関する地元の問題、地域的問題、国内問題、世界的問題に関する研究・調査に役立てる。
 

リニア計画が、①や②の機能を著しく損ねるものであることは、このブログで再三指摘した通りです。 

リニア計画は、環境に与えるインパクトはもとより、資金面でも、構造物の規模としても、従事する作業員の数の上でも、南アルプス地域における向こう10年間の最大の経済活動となり、これを無視してユネスコエコパークの管理運営は成り立ちません。

例えば…
河川生態系や河川景観の保全、渓流における遊漁等の利活用、発電用水の適性な取水量など、河川空間の管理について、どんなに立派な計画を立てたとしても、トンネル工事で川の流量が激減してしまったら元も子もなくなってしまいます。

現在、JR東海は有識者を集めて大井川の水資源対策を検討する会議なんてのを催していますが、あくまで上水道への影響緩和が目的であり、生態系への影響は考慮せず、地元住民の声を反映する仕組みを整えておらず、そのうえ大井川流域以外は議題にもあがっておらず、こんなものはパフォーマンスでしかありません。 

登山客等の送迎のために、パーク&ライドを実践して適切な車両の運行計画を作成しても、トンネルの工事用車両が大量に通行して道路を占領してしまえば、全く無意味です。

ユネスコエコパークの理念②に従い、南アルプスの自然環境を活かした経済活動(登山・保養・自然体験・農林業など)によって過疎化対策や地域活性化を促そうとしても、工事によるダンプ公害や騒音によって人が済めなくなってしまったら、あるいは観光客に敬遠されてしまったら、話になりません。

かような懸念を未然に防ぐためには、事業者(JR東海)と行政との協議だけでは不十分であり、地元住民など様々な利害関係者をひっくるめて話し合い、現行のリニア計画を「これならば持続可能な経済活動と言える」というところまでもっていかねばならないと思います。つまり、リニア計画をユネスコエコーパークの管理運営計画の一環に含めなければならないのです。

◇   ◇   ◇   ◇   ◇ 

鉄道会社が、(騒音等の公害問題ではなく)広範囲に及ぶ自然環境の保全問題に直面するというのは、日本国内に限っては、おそらく初めてのことだろうと思います。
リニア計画にはいろいろと前代未聞の事項が多いのですが、この点でもそうなんですね。

それならば、いっそのことリニア計画そのものを、ユネスコエコパークの理念③「実証プロジェクト、環境教育・研修、保全と持続可能な発展に関する地元の問題、地域的問題、国内問題、世界的問題に関する研究・調査に役立てる。」に適合させてしまえばいいのではないのでしょうか

リニア計画という「南アルプス地域における問題」を、自然環境や地元の地域社会に悪影響を与えることなく、クリアできる道を住民とともに模索してゆくことを、ユネスコエコパークの管理運営計画の柱に据えるわけです

当然のことながらJR東海には、発生土処分方法の変更、大幅な工期の見直し、工法の変更、建設費の増額、資金調達の変更、徹底的な情報公開、地元住民との話し合いなどが求められることになります。

はっきり言って負担だらけになります。それでJR東海が「それはムリ」と言うのであれば、その事業計画は、持続可能な経済活動とは言えないこととなり、南アルプスからは退場していただけばよいのです

◇   ◇   ◇   ◇   ◇ 

ここに書いたことは、理想論です。生物圏保存地域世界ネットワーク定款は、条約ではなくあくまでルールであり、関係する国内法を定めているわけではないので、JR東海に強制することはもちろんできません。

※分かりやすく二つの条約の例で考えてみたい。
例えば海洋汚染を防止するためのロンドン条約の場合、その内容を代行するための国内法が設けられている(廃棄物の処理及び清掃に関する法律、海洋汚染等及び海上災害の防止に関する法律)。
 他方、湿地の保全を目的としたラムサール条約の場合、その内容を担保するための特別な法律はなく、自然公園法等で代替しているのが現状であり、それら国内法の隙間を縫えば、いくらでも開発の危機にさらされる。福井県中池見湿地の場合、ラムサール条約で登録され、国定公園に指定されながら、全国新幹線鉄道整備法による北陸新幹線の建設を防げていない。
ユネスコエコパークの性格は後者に近いのである。
 

現状のところJR東海は、環境影響評価書における見解では、「市や県と協議を行ってできる限り整合性を図ってゆく」としており、あくまで「自分達の計画の実現が最優先」という立場です。下画像の赤く囲った部分にあります。

イメージ 1
ユネスコエコパークに関するJR東海の見解
環境影響評価書静岡県編の資料編より複製・加筆 

民間企業なのだから、自社の経営が最優先という考え方は、通常ならば間違っていません。ですので普通の場所なら、(形式的には)これでもOKと言えると姿勢なのでしょう。

しかしここ南アルプスは、ユネスコエコパークに登録された場所です。「景観、生態系、生物種、遺伝的多様性の保全に資すること。」「社会文化的に持続可能で生態学的にも持続可能な形で経済発展と人づくりを促進すること。」がユネスコエコパークの機能であり、基本的な理念です。「持続可能な発展」を実践するためには企業活動にも制限を加えなければ実現不可能―野放図な活動が許されるのなら指定する意味がない―なわけですから、この空間に限っては、JR東海のような考え方は排除されなければなりません。

◇   ◇   ◇   ◇   ◇ 

ところでこんなふうに書くと、「国土交通省はJR東海による事業内容が適切と判断したから認可したのであって、つべこべ言うな。」というような感想を抱かれる方がおられるかもしれません。

はい、その通りなのであります。

というわけで国土交通大臣意見を見てみましょう。
イメージ 2

こんなふうになっています。なお、国土交通大臣意見ですが、これは環境大臣意見をそのまま一字一句変えることなく踏襲したものです。環境省および国交省が出した、政府の公式見解であります。

最後のところ、「本事業の実施が生物圏保全地域登録申請地としての資質を損なうことが無いよう、事業実施に際してh関係地方公共団体と十分に調整し、その意向を尊重すること。」とされています。
環境大臣意見が出されたのはユネスコエコパーク登録申請中であった。  

この意見書を作成したのは、もともと環境省です。その環境省は、(文部科学省とともに)ユネスコエコパーク制度を統括する日本政府の機関でもあります。その環境省から地方公共団体と十分に調整を行い、意向を尊重せよと明言されました。

ところで、生物圏保存地域世界ネットワーク定款には、ユネスコエコパークに求められる登録基準として次のようなことが挙げられています。

【第4条の6】
公的機関、地域社会、私企業が生物圏保存地域の機能の企画立案や実行などについて、適切な範囲で関与、参加できるよう組織的仕組みを設けること
 

先月、静岡市が管理運営計画案を作成・公表しましたが、その内容はこの規定に基づいたものです。つまり、私企業の事業といえども、公的機関や地域社会との協議のうえで持続可能な経済活動となるよう、誘導してゆかなければならない、定款の内容を踏襲したものでした。

環境大臣意見でいう「地方公共団体と十分に調整を行い、意向を尊重せよ」という事項は、静岡市の管理運営計画、ひいては生物圏保存地域世界ネットワーク定款(第4条の6)を守れと言っていることに違いありません。

したがって政府としても、リニア計画をユネスコエコパークの管理運営計画にひっくるめて考えなければならないという見解であるといえるのではないでしょうか


◇   ◇   ◇   ◇   ◇ 

まとめ 

要するに「ユネスコエコパークの理念にそぐわない活動を拒むことができる」ことの根拠は、それなりにあると思います。重要なのは、それを地域住民が知り、行政やJR東海が理念に従った行動をとっているのか、きちんと検証してゆくことであるのだろうと思われます。

リニア計画がユネスコエコパークの理念に沿ったものと皆が納得できるのであれば、何も反対したり懸念を訴えることはないのです。


リニア中央新幹線構想にかかわる年表を作成しました

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リニア中央新幹線構想について、手元にある雑多なメモなどをまとめて年表を作成してみました。

よろしかったら参考になさってください。

リニア中央新幹線整備事業にかかわる年表


日時や内容の確認が可能である情報から優先してまとめてあるため、事業者側、行政側の動きがメインになっていますが、ご了承ください。住民サイドの動きについての整理が遅れていますが、時折追記してゆきますので、時々ご確認いただけると幸いです。

「中京都」構想と利害不一致

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リニア中央新幹線構想について、手元にある雑多なメモなどをまとめて年表を作成してみました。

よろしかったら参考になさってください。

リニア中央新幹線整備事業にかかわる年表




ところで年表を作成していて気付いたのだけども、リニア沿線で最もリニア実現に熱心なのは、どうも愛知県のように思われるのであります。

JR東海によるリニア計画について、国土交通省や政府よりも中京地区の政財界のほうが熱心に後押ししているんじゃないかな?

過去1年ほどの中京地区での主だった動きを並べてみると…

2014年
2月9日   愛知県庁内に、「中京独立戦略本部会議」が設置される。県庁のHPによると、【世界と闘える愛知・名古屋の実現に向けた司令塔として、「中京都」構想をはじめ、愛知県及び名古屋市が共同して取り組むべき施策の立案、推進について協議し、合意形成を図る。】ことが目的であり、その核となるのがリニア中央新幹線だという。12人のメンバーにはJR東海現社長も加わっている。

5月23日
愛知県が「リニアを見据えた鉄道ネットワークの充実・強化に関する検討会議」を設置。第1回目会合を開く。

6月30日
愛知県内瀬戸市の窯業団体が、リニアの工事によって愛知県内で生ずる建設発生土650万立方メートルについて、全量を受け入れて陶土採掘跡地に埋め戻すことを検討していることが、中日新聞にて報じられる。

11月12日
愛知県庁において、「リニア新時代に向けた中京大都市圏づくり勉強会」が開催される。

12月18日
名古屋市の河村市長が、リニア開業を見据えて高さ1000mのタワーや大規模展示場を建設する方針を表明(本気かな?)。

12月27日
日経新聞にて、名古屋鉄道、近畿日本鉄道、三井不動産は名古屋駅に地上50~60階建ての大型複合ビルを建設する計画であることが報じられる。総事業費は約2000億円。

2015年
1月30日
名古屋市と名古屋まちづくり公社、JR東海が名古屋駅周辺の用地取得について協定を結ぶ。同公社がJR東海から委託を受け、地権者らとの交渉にあたる。協定期間は22年3月31日までで、JR東海から同公社への委託費は約23億円。

2月23日
愛知県とJR東海とが、リニア中央新幹線建設に伴う用地取得交渉を委託する協定を結ぶ。県の外郭団体の「県土地開発公社」職員が地権者と交渉し、協定の期間は2020年3月末まで。

2月24日
愛知県庁において「第3回リニアを見据えた鉄道ネットワークの充実・強化に関する検討会議」が開催される。名鉄三河線を強化し、豊田駅とリニア名古屋駅との間を40分で結ぶことなどが提言される。


このほかにも名古屋の好景気を伝える報道が繰り返されており、なんだかリニアバブルといった雰囲気が読み取れます。似たような構想は長野でも山梨でもやっていますが、そもそも経済規模が桁違いですので、リニア計画全般に与える影響と言う点では、やはり愛知・名古屋の力は無視することができないと思います。

◇   ◇   ◇   ◇   ◇

まあ、タワーを造ろうが、中京都を造ろうが、隣県の住民としては「勝手にやれば」としか言いようがございません。


でも、このようにリニア景気に踊らされている人々は、リニア開業の「利」とは、中京圏とは無縁の地域における「害」の上に成り立つというものであることを、御認識なさってくださっているのでしょうか。そのことが気になるのであります。

名古屋・愛知県がもつ「中京都」構想を実現するためには、どうも2027年のリニア中央新幹線名古屋開業が前提なのだそうです。

ところが、その「2027年リニア中央新幹線名古屋開業」を実現させるためには、たいへんな環境破壊と自然破壊とが避けられません(そもそも2027年開業の突貫工事自体が無理なのである)。しかもその影響を受ける地域は、「中京都」とはあまり関係のない場所になります。岐阜県東濃地区のどこかにウラン残土が運ばれてゆくかもしれないし、南木曽町の古い集落であったり、阿智村や大鹿村の山里であったり、静岡市の南アルプスや大井川流域であったり、座間市の水源であったり、川崎市の住宅地であったりするわけです。

「中京都」の実現が、こうした「中京」以外の地域への迷惑押し付けの上に成り立っているということを、審議されている方々は御認識なさっておられるのでしょうか。

NIMBYと位置付けられがちなゴミ処理場等の場合でも、大抵の場合は利害地域が同一の行政単位におさまっていますから、利を得る地域と害を受ける地域とで、互いに顔が見えるかもしれないし、建設予定地が受ける影響について想像を働かせることも可能でしょう。そういう中で意見を交わしてゆくうちに必要性が理解されて、合意を形成する空気が醸成されてくるのだと思います。

しかしリニアでは、高速道路やダム等に比しても、それは困難ではないでしょうか。

利を得る地域は害を受ける地域とは全く別の地域であり、しかも互いの接点が全くない。

「中京都」構想という目標のために、南アルプスに残土を捨ててゆくことや、山里をダンプカーで埋め尽くすことを目の当たりにする人々が、「中京都」構想の意思決定に加わる機会も権利もない。

冒頭のリンク先にある県庁のHPを見渡しても、そういう迷惑の押し付けのうえで初めて実現可能となる「中京都」構想なるものの進め方が、果たして適切かどうかを考える機会もないようです。


ア愛知県や名古屋市の姿勢は、法律や制度のうえでは、JR東海が勝手に進めた事業を契機ととらえて騒いでいるだけだから、別に何の問題もないのだけれども、人間の感情としては、なんだかおかしな話だなあ…と思うのであります。




意味不明な文章で失礼いたしました。

南アルプストンネル工事開始は1年後? 残土はどーすんの?

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昨日(10日)、静岡県庁で中央新幹線環境保全連絡会議が開かれました。ウェブ上の検索してみると、静岡新聞・中日新聞・朝日新聞(静岡版)の伝える記事がヒットしますが、このうち朝日新聞の記事は次のようなものでした。

 JR東海は10日、南アルプスで予定しているリニア中央新幹線トンネル工事について、約1年後の着工を想定していることを明らかにした。県庁でこの日開かれた県中央新幹線環境保全連絡会議(会長・和田秀樹静岡大名誉教授)の第4回会合で説明した。
 JRによると、これまでトンネル工事の着手までに1年程度かかるとの説明をしてきたが、着工の目標時期を明示したのは初めて。
 会合では着工時期について委員から質問があり、JRの担当者が「スケジュールは細かいところまでわかっていない状況」と断ったうえで、「1年程度後にトンネル着工まで想定している」と述べた。着工までに一部林道の舗装工事に加え、作業員宿舎や工事ヤードの設置も終える考えを示し、工事発注後には工事説明会を開くという。

引用終わり

1年後?
そんな無茶な…。

と同時に、記事を書いた記者は簡単な疑問が脳裏に浮かばなかったのでしょうか。

トンネル掘削を開始するためには、作業員宿舎や林道の整備だけでなく、発生土置場が不可欠です。

これ、どーすんのよ!?



JR東海が、静岡県の大井川源流部に掘り出すと想定している発生土量は約360万立方メートル。東京ドーム3杯分に相当します。これを南アルプス山中7地点・計8か所に分散して積み上げる=捨てる主張しています。

イメージ 1
図1 発生土置場候補地の位置
環境影響評価書より複製・加筆
このうち南から2つ目の発生土置場は2か所に分散する計画

このうち、標高2000mの稜線上に位置する扇沢という場所には、地形から推定して5割~7割程度を捨てようとしているとみられます(図1で一番上側の発生土置き場)。

で、この扇沢については、このブログで何十回も繰り返したように、大井川本流から500mも高い、急峻な支流の源流という場所であるため、大雨や大地震によって、万一崩れだしたら巨大土石流となってしまいます。扇沢は、平均勾配が30度以上ある
急な谷側であるため、その上に発生土を積み上げることは、滑り台の上に砂を積み上げるようなものなのです。


イメージ 3
図2 扇沢の残土捨て場(発生土置き場)候補地付近を拡大
国土地理院地形図閲覧サービス「うぉっちず」より複製・加筆

イメージ 2
図3 Google Earthより複製・加筆
図2の左側から扇沢方面を俯瞰した様子

このようにおかしな計画であるため、環境影響評価準備書への意見で、静岡市長・静岡県知事から回避を要請されていましたが、結局はJR東海が無視したままで、国交省による事業認可となりました。

したがって現計画どおりに、JR東海が1年後にトンネル工事に取り掛かるためには、この扇沢に発生土を置くことが必要となります。

そしてその場合には、森林法という法律に基づいて、林地開発許可というものを得なければなりません。おさらいになりますが、昨年6/18のブログ記事を引用し、森林法についてみてみます。

(開発行為の許可)
第十条の二 地域森林計画※1の対象となつている民有林において開発行為をしようとする者は、農林水産省令で定める手続に従い、都道府県知事の許可を受けなければならない。ただし、次の各号の一に該当する場合は、この限りでない。
 一~二 略
三  森林の土地の保全に著しい支障を及ぼすおそれが少なく、かつ、公益性が高いと認められる事業で農林水産省令で定めるものの施行として行なう場合
  2  都道府県知事は、前項の許可の申請があつた場合において、次の各号のいずれにも該当しないと認めるときは、これを許可しなければならない
※1 扇沢付近の森林は、特殊東海製紙という民間企業が所有する林であり、静岡県の地域森林計画の対象となっている。 
※2 農林水産省令=森林法施行規則で定めるものには「鉄道事業法による鉄道事業者又は索道事業者がその鉄道事業又は索道事業で一般の需要に応ずるものの用に供する施設 」とあるが、これは鉄道施設が対象。発生土置場は該当せず、許可申請の対象となるはずである。

すなわち、以下のケースに該当する場合には開発許可をしてはならないということです。
 
  一  当該開発行為をする森林の現に有する土地に関する災害の防止の機能からみて、当該開発行為により当該森林の周辺の地域において土砂の流出又は崩壊その他の災害を発生させるおそれがあること。
   一の二  当該開発行為をする森林の現に有する水害の防止の機能からみて、当該開発行為により当該機能に依存する地域における水害を発生させるおそれがあること。
   二  当該開発行為をする森林の現に有する水源のかん養の機能からみて、当該開発行為により当該機能に依存する地域における水の確保に著しい支障を及ぼすおそれがあること。

   三  当該開発行為をする森林の現に有する環境の保全の機能からみて、当該開発行為により当該森林の周辺の地域における環境を著しく悪化させるおそれがあること。
 
  3  前項各号の規定の適用につき同項各号に規定する森林の機能を判断するに当たつては、森林の保続培養及び森林生産力の増進に留意しなければならない。
  4  第一項の許可には、条件を附することができる。
  5  前項の条件は、森林の現に有する公益的機能を維持するために必要最小限度のものに限り、かつ、その許可を受けた者に不当な義務を課
することとなるものであつてはならない。
  6  都道府県知事は、第一項の許可をしようとするときは、都道府県森林審議会及び関係市町村長の意見を聴かなければならない。
 
つまり、南アルプス一帯の森林は民有林であり、地域森林計画の対象となっていまするため、ここで開発行為を行うためには、この森林法第十条第二項の規定に従わねばなりません。そして下線を引いた箇所から明らかな通り、災害を起こすおそれのある開発行為、環境悪化をもたらすおそれのある開発行為については、許可をしてはならないと定められているのです。

それから法律の条文をよくお読みください。開発許可の権限は県知事がもち、許可を行う際には市長の意見を聴かねばなりません。その静岡県知事・静岡市長ともに、この扇沢源頭で残土処分は危険であると認めていることから、許可してはならないことになります。
◇   ◇   ◇   ◇   ◇

この場所を使用できない場合(使用させてたまるか)、JR東海は、大井川河原の燕沢とよばれる地点に運び込むという案を、昨年8月の段階で示唆しています。 図1でいえば、上から2番目の楕円で示された発生土置場になります。
(静岡新聞記事)

しかし燕沢というのは土石流が堆積してできた平坦地であり、こんな場所に巨大な盛土を行うことも、やはりあまりにクレイジーです。

イメージ 6
図4 燕沢付近の地形
国土地理院地形図閲覧サービス「うぉっちず」より複製・加筆

記事には「関係者によると、燕沢の盛り土の高さは50メートル前後、延長1キロ程度になる見込み。擁壁を設置するなどの対策が必要になるが、JRによると50メートル級の盛り土は技術的に問題ないとされる」と書かれていますが…

マジで?


高さ30mでもこんな規模になります。(新東名高速道路 静岡SAエリアの盛土)

イメージ 4

写真右手の光っているのが川で、そこから左手の斜面は、全て盛土になります。地形図から判断すると高さは30~35m程度。真ん中に自動車が小さく写っています。

で、長さ1㎞の盛土というのはこんな感じ。
イメージ 5
新東名高速道路 静岡(SA下り車線)
上野写真とは逆方向から撮影

写真はトンネル坑口の上から撮ったもので、奥に見えている山まで全て盛土になっています。この場所には350万立方メートルの発生土を埋めたということなので、南アルプスの燕沢に計画している発生土置場もこのぐらいの規模を想定しているのでしょう(なお、神奈川県相模原市の鳥屋地区に計画している車両基地も、このぐらいの規模になると思われます)。

こんなのを南アルプス山中につくるの?

静岡SAはもともと谷津田だったところだけど、燕沢は土石流が積み重なった地です。

そんな場所に巨大盛土を行ったら、盛土が頻繁に発生する土石流を受け止め、大井川本流をせき止めてしまいます。そんな状況となったら、生態系も、下流への土砂運搬形態も、メチャクチャになってしまいます。また、ユネスコエコパークにおける開発行為というのは、持続可能性が必須条件なのですが、その観点からも、きわめて愚かしい計画だと言わざるを得ません。

◇   ◇   ◇   ◇   ◇


JR東海のいう「1年後を目途に着工したい」というのは、これらクレイジーな発生土置場を南アルプス山中に築き上げることを前提としているのです。はっきり言って、ムチャクチャです。




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リニア中央新幹線に関わる年表を作成しております。よろしかったらご覧ください。

南アルプス・トンネル工事業者の入札開始だそうです

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さる13日、JR東海が、南アルプスを横断するトンネルのうち、山梨県区間7.7㎞(早川町)について、工事を行う業者の入札を始めたとのこと。

南アルプス区間約50㎞のうち、最長の25㎞トンネルは、東から山梨県早川町、静岡県静岡市、長野県大鹿村にまたがっているけれど、このうち早川町で、真っ先に工事を行う業者が決まることになる。

静岡県区間(静岡市)については、先日JR東海自身が1年後の掘削開始を公言し始めたけれども、実際には発生土処分、大井川の流量問題、ユネスコエコパーク制度との整合性など、問題がどんどん増えてきて、それに対してJR東海自身がきちんとした回答を示そうとしないので、問題がこじれそうな気配なのである。

長野県区間(大鹿村)についても、大量のダンプカー通行による日常生活へのshん酷な影響、川の流量調査をめぐる問題、ボーリング調査をめぐるトラブル、協定を結びたい行政側とそれを拒むJR東海との”あつれき”と、やはち問題が泥沼化しそうな雰囲気。また、大鹿村から残土を運び出す、おびただしい量のダンプカーが通行することになる、隣の中川村でも、やはり住民の間に懸念が広まり、JR東海に対する批判が強まっているそうだ。

こうした中、早川町だけでドンドン事業計画が進んでゆくのは、発生土処分が、山梨県による道路建設という別の事業にすり替わって、事実上解決されたことになってしまったことに大きな要因があるのだろうと思う。

ところで、南アルプスというひとつの山岳について、事業の進捗具合が自治体の境界で異なってゆくことは、環境配慮や、地元との合意形成の上で疑問があるように感じてしまう。


イメージ 2

南アルプス部分拡大


イメージ 1

というのも…

静岡市ではリニア計画をユネスコエコパークの管理運営計画に沿ったものに改めてゆこうとする動きが行われている。大鹿村でも、住民の生活を守ることを第一として環境保全をめぐる動きがあり、これもユネスコエコパークの管理運営の一端を担うともいえる。

南アルプスユネスコエコパークは、3県10市町村に分かれているものの、その管理運営はバラバラにおこなわれてよいはずがなく、一定の共通ルールが定められるべきである。それを実現しようとしているのが、静岡市の作成した管理運営計画(案)になるそうだ。http://www.city.shizuoka.jp/deps/seiryuu/pabukome_alps.html

けれども早川町のほうでは、適切な環境保全が可能かどうか、よくわからない段階で事業計画が進んでおり、静岡市や大鹿村では協議中であっても早川町側ではトンネル掘削を開始…なんて事態が生じてしまうかもしれない。

そのような事態となったら、いくら協議を行おうとも、トンネル位置や斜坑の位置、発生土の取り扱いなどを見直すことは不可能になってしまい、環境保全を図ることなど物理的に不可能になってしまう。つまりそれでは、南アルプス全体を一括した管理など難しくなってしまう。

また、こうした進め方を、工事に懸念を抱く住民の側から見れば、あたかも一端で工事を既成事実化させて残る地域にも早期着工を促すように見えるわけで、不安を余計に膨らませることと思う。

南アルプス区間が一番の難工事になるとともに、用地買収が一番簡単であるから、真っ先に着工したいという考え方が生まれたのだろう。けれども、環境保全という観点からは、南アルプス区間は最後まで手をつけず慎重に調査や協議がおこなわれるべきで、住民・行政ともそのような形を望んでおり、その方向でなければ合意形成はあり得ないのに、それに応じようとしないのは、なぜなのだろう?


リニア中央新幹線 東京~名古屋での残土&汚泥はこれぐらい?

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リニア中央新幹線の建設工事にともなう建設副産物の発生量(環境影響評価書より)

建設発生土 (単位:万立方メートル)
東京都     600
神奈川県    1140
山梨県     672
静岡県     360
長野県     974
岐阜県    1280
愛知県     650

合計      5676

汚泥 (単位:万立方メートル)
東京都      151
神奈川県     225
山梨県      42
静岡県      22
長野県      80
岐阜県      36
愛知県      122

合計       678

建設発生土5672立方メートル+汚泥678立方メートル
6354万立方メートル


東京ドームの体積が124万立方メートルゆえに、ドーム51杯とも試算されるこの量。これってどのぐらいだろう…と思っていたら、このぐらいなのだそうです。




イメージ 2


イメージ 1

国土地理院ホームページより引用

おととしの11月に噴火を開始した小笠原諸島の西ノ島。どんどん大きくなっていく様子が記録されていますが、国土地理院の推定によると、今年3/1時点で島の体積は6446万立方メートル。リニア建設による建設副産物の合計と同じぐらいになります。


350万立方メートルの巨大盛土

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先日の投稿と重複しますが、JR東海は、南アルプス山中に掘り出す大量の発生土をめぐり、そのうち静岡県内に掘り出す360万立方メートルについて、現在のところ、大井川源流域の7地点・計8か所に分散して捨てるという計画を立てています。

このうち標高2000mの扇沢源頭については、災害誘発の危険性があり、あまりにも問題が大きいため、おそらくは中止…というより県が許可しないと思われます。
もし県が認可したら、それはそれで市民・県民からの差し止め訴訟の対象にもなりうるだろうと思います。「残土崩壊・山崩れ⇒河床荒廃⇒災害の恐れ」という可能性がありますので。

もしも、扇沢源頭を中止した場合には6地点に分散させることになりますが、6地点のうち5地点は規模が小さく、また、発電所建設時の発生土が既に積まれているため、合計しても30~40万立方メートルが限界だとみられます。したがっておよそ300万立方メートル超という大量の発生土を、残る1地点に集中させることになります。

その候補地が、大井川沿いの平坦地である燕沢とよばれる地点です。図1ですと、上流側から2番目の発生土置場となります。

イメージ 1
図1 発生土置場の位置
環境影響評価書より複製・加筆 

もともと、環境影響評価準備書の段階から、燕沢だけは楕円で示されており、大規模なものを想定していることが予想されていました。

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図2 燕沢付近発生土置場候補地
環境影響評価書 関連図より複製、スケールを加筆

準備書で示された楕円を、長辺約950m、短辺125mの長方形とみなし、30度の勾配で発生土を積み上げてゆくと、おおよそ120万立方メートルの規模となります。私としては、これぐらいが物理的な限界だろうと考え、それでもとてつもない環境破壊を引き起こすおそれを懸念しておりました。

しかしながら前述の通り、JR東海としてはこの場所に長さ1000m、高さ50mの規模での盛土を想定しているとか…。
http://www.at-s.com/news/detail/1141962488.html

マジですか?





◇   ◇   ◇   ◇   ◇



2012年に開業した新東名高速道路

静岡県内区間だけで、のべ4600万立方メートルという、リニアをはるかに上回る膨大な量の発生土が生じました。この発生土を処分するにあたり、日本道路公団およびNEXCO中日本は、道路の盛土区間や、サービスエリア(SA)、インターチェンジの造成、関連工事(農地・工業用地造成)に転用したということです。

巨大な盛土構造となっている静岡SAもそのうちの一つ。
間近で見たらどんな感じなのだろうと、先月、ちょっと様子を見に行ってきました。

地図ではこの位置になります。静岡市街地西郊の、低山に挟まれた谷を2つまたぐように埋め立てています。
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図3 写真撮影箇所
国土地理院地形図閲覧サービス「うぉっちず」より複製・加筆
図中の矢印付き番号は写真撮影箇所と方向
北向きが上り方面


盛土エリアは南北2か所であり、南側の盛土エリアには350万立方メートルが盛られており、北側エリアは、それより小さいようです。

まずは小さい方の北側エリアへ向かいました。こちらは上り車線用のサービスエリアとなっています。

幹線道路(この道自体、新東名の工事に関連して拡幅されている)を南に曲がると、集落の向こう側から、枯草に覆われた斜面がのしかかるように迫っている光景が目に入ってきました。

写真①
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中央に小さな丘がありますが、その両側に見えている枯草の斜面が、全て盛土になっています。実に高いです。もう少し近づいてみましょう。

写真②
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住宅の向こうに高い土手が見えます。10年くらいまえまでは、こんな巨大土手は存在せず、向こうの山の麓までは手前道路と同じ高さで茶畑が広がっていたのですが、跡形もありません。土手の上側に、サービスエリア内を走っている自動車が見えます。

中央の標識の通り左折すると、土手をのぼってサービスエリアおよびスマートインターチェンジに向かうことができます。その斜面上の道路から眺めるとこのような光景が広がっていました。

写真③
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右手に白く光っているのは、かつて盛土の下を流れていた川で、付け替えられてこの位置になりました。この川より左手は、全て盛土になります。


◇   ◇   ◇   ◇   ◇

次に、南側エリアに向かいました。

川沿いを進んで行くと、枯草に覆われた高い土手が見えてきました。この土手が盛土になります。地形図から推察すると、やはり高さは30~40mになりそうです。そしてやはり同様に、土手の斜面を登って盛土中のトンネルに吸い込まれてゆくゆく坂道があり、これを進んでゆくと、サービスエリアおよびスマートインターチェンジに接続します。

写真④
イメージ 4


まず気になったのが、写真左手に映っている小型砂防ダムの連なりです。近づくとこんな感じです。

写真⑤
イメージ 3


ここの谷間は、もともと茶畑や水田として利用されており、その中を小川が流れていました。その小川ごと、谷間を30m以上の厚さで埋め立ててしまったため、盛土の上に川を付け替えなければならず、侵食防止のために、こんな異様な構造にする必要が出てきたのだと思います。

砂防ダムの最下段には、盛土の下に開けられた穴から水がドボドボ流れ出していました。
写真⑥
イメージ 5


もともとは、小魚の豊富で牧歌的な姿であった小川の現状であって、見るも無残に思えます。なお、ここより下流側一帯も大規模に改修されており、護岸がコンクリートブロックでガチガチに固められ、動植物の姿は貧弱に見えます(写真割愛)。上流部がこれだけ改変されてしまうと、下流側での出水状況も変わるのでしょうか?

砂防ダム群の上はこんな状況です。

写真⑦
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3mほどの深さの溝が設けられ、一応、川としての構造がなされています。その中は、枯草(たぶんツルヨシやアメリカセンダングサ)で埋め尽くされていますが、違和感を抱きました。

静岡市では昨年10月5~6日に、台風18号の通過により、24時間400㎜前後の大雨が降り、中小河川ではどこでも、このような草はきれいさっぱり流されてしまっています。
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(参考 静岡市内の東名高速道路下を流れる吉田川 2014/10/12撮影)

それなのに、こうして草が立ったまま残されているのは妙な感じです。ということは、大量の雨が降っても水はほとんど盛土の下に浸透してしまい、表面を流れる量はごくわずか(少なくとも草をなぎ倒すほどではなかった)になるということではないでしょうか。ここの盛土の材料はトンネル工事で生じた岩クズですから、当然と言えば当然なんですけど。

ここから1㎞以上南下し、ようやく盛土区間の端近くまでたどり着きます。そこから北側を見渡すとこのような光景となります。

写真⑧

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矢印のあたりまで全て建設発生土の盛土であり、人家も田畑も川も、その下になっています。なお、矢印先端の奥には、写真①で示した下り車線の盛土があります。



◇   ◇   ◇   ◇   ◇


かつて静岡県立図書館に置いてあったパンフレットを見たときのメモ(何の資料だったか失念)によると、大きいほうの南側(下り車線)のエリアには、約350万立方メートルの建設発生土が盛られたそうです。地形図で確認すると、長さ1300m程度、高さ30m前後と、まさにJR東海が南アルプス山中に計画している発生土置場と同サイズになります。

また、神奈川県相模原市鳥屋地区に計画している車両基地も、360万立方メートルの発生土を使うということなので、同じような規模になるかと思われます。



JR東海は、これに匹敵する巨大盛土を南アルプス山中で造成すると言っているのですが…(つづく)

南アルプス山中でこんなふうに残土運搬

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前回の記事では300万立方メートル級の大規模な盛土の様子をご覧いただきました。

JR東海は南アルプス山中に掘り出す大量の発生土について、標高2000mの稜線上というクレージーな場所に捨てられない場合、大井川河原の燕沢という場所に、ああした巨大な盛土として処分する方針です。

燕沢の発生土置場候補地の問題について詳しく考察する前に、簡単に、南アルプス大井川上流域での発生土処理のイメージをつかんでください。

こちらは南アルプス山中の画像。

イメージ 1

Google Earthの画像が更新されており、これまで雲のかかっていた南アルプスについても、鮮明な画像が入手できるようになりました。

これは昨年6月の画像に加筆したものです。人里離れた山奥、それも3000m級の山々に囲まれた本州で一番山深いような場所に、このようにして360万立方メートルの発生土を運搬し、標高2000mの稜線上(扇沢源頭)と、大井川の河原(燕沢)に捨てようというわけです。
イメージ 2

なお、あちこちの山肌に、樹木のような形状で灰色になっている部分が見られるが、これらはいずれも大規模な山崩れです。燕沢の周囲は、ぐるりと山崩れに囲まれているのが一目瞭然。


次回以降、燕沢発生土置場候補地の問題点について考察してみようと思います。なお、扇沢源頭のほうの問題点については、過去のブログ記事をご覧になってください。


半世紀以上崩壊が拡大し続けている場所に残土をぶち込む?

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今回から、燕沢付近平坦地の発生土置場候補地の立地条件について考察してみようと思います。衛星画像①で、左下の大井川沿いの平坦地がその候補地です。右端の扇沢発生土置場候補地が使えない場合、300~350万立方メートルの発生土を、全て燕沢付近平坦地に集約させて捨てる方針なのだそうです。

衛星画像①
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なお、新聞報道等では、発生土置場候補地となっている大井川沿いの平坦地のことを燕沢と呼んでいるように見受けられますが、地形図では、大井川に流入する沢に燕沢という記載があり、やや混乱があるようです(このブログでも混同しています…)。そこで今後は、燕沢とする場合は支流の沢をさし、JR東海が発生土置場にしようと考えている平坦地については、「燕沢付近平坦地」と呼ぶことにします。

発生土置場候補地「燕沢付近平坦地」の西側には、標高2880mの千枚岳がそびえています。千枚岳には山小屋があり、南アルプス第3の高峰・悪沢岳(3141m)へ向かう拠点として、またお花畑が見られるとして知られています。

その千枚岳の東側斜面には、山頂すぐ下の標高2770m付近を頂点として大きな崩壊が生じています。これは千枚崩れと称され、その様子は衛星画像でも明らかです。
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イメージ 1
衛星画像②

地形図を見ると、千枚崩れから流出する上千枚沢が大井川に合流する地点では、等高線が同心円状に描かれています。千枚崩れから崩れ落ちた膨大な礫が、山のふもとに急勾配の円錐状に積み重なっているわけです。このような地形を沖積錐とよびます。

衛星画像では、沖積錐の大部分は木々に覆われていますが、沖積錐を貫くように木の生えていない部分があり、この部分では、現在でも土砂の移動が活発であるため、樹木が生育できないのです。

地形図をよく見ると、沖積錐の中央は谷となっているから、現在は千枚崩れから供給される礫()が堆積する速度よりも、上千枚沢が沖積錐を削る速度が上回っているのでしょう。こうして、大井川本流へと礫が供給されているわけです。また、沖積錐を大井川本流が削り、削った礫を下流に流す作用も働いているとみられます。
礫…れき 直径2㎜以上の岩石のこと。)

衛星画像によると、この一帯の崩壊地は千枚崩れだけでないことも分かります。その北側および南側の斜面は全体として崩れていますし、大井川をはさんで対岸にも、かなり大きな崩壊地を流域にもつ沢が3本流入しています。この他にも小規模な崩壊地が散見されます。

「燕沢付近平坦地」付近をクローズアップした画像です。

イメージ 2
衛星画像③

このように、「燕沢付近平坦地」付近の大井川本流へは、周囲の高い山々から大量の礫が供給されているのです(ちなみに千枚崩れから流れ出す沢およびその対岸南側の沢2本は、いずれも砂防ダムが連続して設置されている。)。

崩れ落ちた礫は、大井川の流れによって下流に運ばれることになります。ところが大井川本流が礫を下流へ運ぼうとしても、すぐ南側には川幅の狭い部分があるため、ここより下流には運ばれにくくなります。要するに礫が詰まりがちなわけでして、詰まった部分が「燕沢付近平坦地」に当たるわけです。

◇   ◇   ◇   ◇   ◇

ところで、国土地理院のHPでは、過去に撮影された空中写真(航空機から精密なカメラによって撮影された地表の写真)を閲覧することができます。

「燕沢付近平坦地」について、立地条件を考察しようと、過去の空中写真を見比べていて気になった点があります。

発生土置場候補地に流れ下る燕沢の上流、衛星画像②で点線で囲んだところに崩壊地があります。衛星画像③の右下に映っているのと同一です。衛星画像①では、千枚崩れがあまりにも巨大なため小さく見えますが、それでも幅が300~400m、長さ700~800mに達する大規模なものとみられます。

この場所、40年近く前には、これほど大きくはなかったようなのですよ。同じぐらいのスケールにして、1976年撮影と2014年撮影のものとを比較してみましょう。

こんな感じです。
イメージ 3

はい。38年の間に、崩壊地が著しく拡大しているのが一目瞭然です。

掲載は省きますが、1949年の空中写真では小さな崩壊が発生し始めています。1995年撮影の空中写真では、2014年に近い大きさにまで崩壊が拡大しています。つまり、この場所は現在に至るまで70年以上にわたり崩壊が拡大し続けていると考えられます。

JR東海は、この燕沢の直下に、長さ1000m、高さ50mもの巨大な発生土置場を設けようとしているわけです。評価書の中でJR東海は、「燕沢付近平坦地」の安定性について見解を述べていますが、、この崩壊地については何も言及していません。これでは、全く話になりません。

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大井川の水がなくなるなら早川から引っ張ってくればいい??

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JR東海の考えている、燕沢付近平坦地への発生土計画についての考察を続けようと考えていましたが、トンデモない話がまた出てきため、そちらについて考えようと思います。

3月10日に、静岡県庁で第4回中央新幹線環境保全連絡会議が開催され、このほど、その際の議事録が公開されました。http://www.pref.shizuoka.jp/kankyou/ka-050/assess/rinia/kaigi.html


議事録によりますと、冒頭で、JR東海が昨年12月に自主的に開いた大井川水資源検討委員会の報告がなされたようです。会議の名称が2種類ありますのでご注意ください。

大井川水資源検討委員会で、流量が減少した場合の対策として、

「毎秒2トンが早川へ流出するのなら、その分を早川から大井川へ引っ張ってくればいい」

という案が出されたとの報告が中央新幹線環境保全連絡会議にておこなわれ、これに対して静岡県中央新幹線環境保全連絡会議のメンバーから「大変よろしい」とお褒めの言葉があったようです。

これがその部分。
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あ、ありがたいって…
ホントですか?



ちょっと冷静に考えていただきたい。。。

具体的なことは全く分からないので、あくまで推測の域を出ません。しかし、推測するにしても、これまたとんでもない計画のように思われるのですが…

アセスにおいては、大井川の二軒小屋取水堰付近において、毎秒2トンの流量減少が予測されました。
イメージ 2

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⇓ 拡大
イメージ 1
環境影響評価書を複製・加筆

この二軒小屋の標高は、おおよそ1350mです(図中では地点05の標高は1390mとしているが、水を運び入れるべき貯水池の標高は1350m程度)。ここに東隣の早川から導水路トンネルで水を引っ張ってくるのなら、早川での取水口は、標高1360mぐらいに設けなければなりません。

地図で早川の川底が標高1360mとなる地点を探すと、二軒小屋から20㎞も北の、北岳や鳳凰三山にはさまれた場所になります。登山や渓流釣りをなさるの方には、広河原山荘の下流2㎞ぐらいといえば通じますでしょうか?

断片的な情報から導水路トンネルの位置を推測すると、このようになります。

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まあ、確かにこのように水を引っ張ってくれば、毎秒2トンの流量減少をおぎない、下流部での利水への影響はなくなるでしょう。ただし早川水系の水力発電所は使い物にならなくなりますが。。。

っていうか。。。

う~ん・ ・ ・ ・ ・。
早川に住んでいる動植物への影響はどうなるんだ?
20㎞ものトンネルを掘ったら、また途中で水を引き込むんじゃないのか?
20㎞ものトンネルを掘ったら、余計な発生土がさらに数十万立方メートル増えるんじゃないのか?

っていうか、それ以前に
自然破壊を自然破壊で解決することって、それって解決なのか?? 

これ以上、穴を増やしてどーする!! 

ちなみに、早川の標高1360m付近は南アルプス国立公園第3種特別地域内であり、ユネスコエコパーク緩衝地域でもあります。

それから、「環境保保全連絡会議」という場において、このように環境への影響を全く考えていない環境保全措置(変な言葉)を賛美する委員というのは、果たして適切な人選といえるのか、はなはだ怪しいような気がいたしました。




導水路建設で大井川の流量減少問題は解決?

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話がややこしくて申し訳ありません。

JR東海が4月2日、第2回大井川水資源検討委員会を都内で開き、大井川で流量が減少した場合の対策案として、トンネルから導水路で大井川本流に戻す案をまとめたそうです。

なお、昨日の投稿記事「早川から引っ張ってくればいい」というのは、3/10に静岡県庁で開かれた中央新幹線環境保全連絡会議の場における話です。その案は第2回大井川水資源検討委員会のほうでボツになったようです。前回記事はなかったことになりますので、削除いたします。「ナイス!」をおしてくださった方、ごめんなさい。

一部新聞記事を引用します。
JR東海は2日、リニア中央新幹線の南アルプストンネル工事に伴う大井川の流量減少対策として、トンネル本線から静岡市葵区の椹島(さわらじま)まで長さ約12キロの導水路のトンネルを建設する方針を明らかにした。導水路によって県内のトンネル本線内の湧水を全て大井川に戻すことができるとし、「中下流域への影響は全くなくなる」と説明している。

しかしながら、これって水資源への対策にはなりうるものの、川にすむ生き物や川の景観に与える影響については全く解決できないのではないでしょうか?


前回に続き、環境影響評価書での流量試算結果を掲載します。

イメージ 1
図1 対象地域の位置 
拡大
図2 大井川源流域における流量減少予測
環境影響評価書を複製・加筆

大井川源流部では、図をみてわかるように、「西俣取水堰上流」より下流側全般にわたり、流量が減少するとの予測がなされました。特に二軒小屋より下流側では、毎秒2立方メートルの減少が予測され、これは下流域62万人の水利権と同値であったため、大騒ぎとなりました。

この問題に対する案として、4/2にJR東海が示したのは、「トンネルの途中から横穴(導水路)を掘り、トンネル中に湧き出た水を大井川本流に自然流下させる。
というものでした。

イメージ 2
図3 4/2JR東海発表の導水路案
周囲の赤い文字は作者が記入

確かにこの案なら、大井川本流に水が戻ってきます。下流域での水利権も回復できるでしょう。

めでたし、めでたし…

って、そんなわけがない!!

図2と図3とを見比べてください。図2において、流量減少の予測される区間の上流端は、西俣取水堰のさらに上流であると述べました。また図2で示された予測値は年平均流量であり、渇水期(冬場)は、これよりもさらに流量が減ります。

これに対し、JR東海は導水路で水を戻すと主張しているわけですが、戻ってくるのは西俣取水堰より16㎞も下流の椹島ロッヂ付近になります。流量減少がどこから始まるのか正確には不明ですが、少なくとも16㎞の区間には水を戻せないのです。さらに、斜坑(非常口)の掘削により支流の悪沢や蛇抜沢(いずれも悪沢岳の北側)等の流量を減少させた場合にも、戻すことはできません。

また、導水路のトンネル側取水口(?)は、標高1130m付近になります。この位置ですと、大井川流域からトンネルへ染み出す水の、おそらく半分程度しか自然流下しません。大井川流域区間におけるトンネルの最低位は標高約970mですので、160m程度はポンプで汲み上げなければなりません。1立方メートル/秒で160mくみ上げた場合、常時2000~2500kWのエネルギーを消費し続ける必要があります。

それから断面積6平米(内径2.5m程度)で長さ12㎞の導水路トンネルを掘った場合、12万立方メートル程度の発生土が余計に生じます。発生土の処理が大問題になっているのに、新たに増えるわけです。 


当然のことながら、川には魚やサンショウウオや水生昆虫など、様々な動物が生息しています。美しい渓流というのも、南アルプスの重要な景観要素です。それらをぶち壊す可能性が高いわけですが、この導水路案では全く解決できません。

例えば、この一帯に生息している渓流魚のアマゴに与える影響について、JR東海は評価書において次のように記していました。

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環境影響評価書静岡県編より複製・加筆 

アマゴというのはサケ科の渓流魚で、ヤマメのそっくりさんです(赤い斑点があるのがアマゴでないのがヤマメ)。きれいな水にしか住めないし、多くの個体を存続させてゆくためには、深い淵や瀬や枝沢といった多様な環境と、エサとなる豊富な昆虫の存在が欠かせません。したがって河川流量が減少することは、そのまま生息地が縮小することを意味します。

評価書においては、河川流量が減少した場合の影響について「鉄道施設の存在により、河川の一部で流量が減少するものの、本種の生息環境への影響は小さい」と述べています。

いっぽう上記の導水路案ですと、16㎞以上にわたって水を戻せない区間が生じます。また支流の沢まで流量の減少が及ぶ可能性があります。すなわち、流量の減少するのは「一部」ではなく「大半」となる可能性が高く、「影響が小さい」とは言えなくなるかもしれません。

ついでながら、冒頭の新聞記事によれば「重要種を移植すればいい」程度に考えているようですが、
●重要種といってもその生態は多様であり、十把一絡げに移植できるわけがない。渓流魚を捕えるヤマセミや渡り鳥のアカショウビンなんて移植できるのかい?
●重要種はもともと個体数が少ない
●移植先での生態系のかく乱(生息密度が変われば餌や生息場所をめぐる争いが生じる)
●そもそも本流16㎞分の代替地など存在しない 
という問題があげられます。

もっとも、アマゴというのは簡単に養殖できる魚である。山里で、つかみ取りコーナーや釣堀に放流されていたり、土産物屋で甘露煮や塩焼きにして売っているように、量産することも可能である。下手をすると、「養殖池で増やしてゆき、減ったら放流するから問題はない」という見解を出さないとも限らない…。 

さらに思いつくままに書きあげます…

このあたり一帯はユネスコエコパークに登録されています。静岡市では、大井川の清流もユネスコエコパークを構成する重要な景観要素と位置付けており、また、清流保全条例によって、清流の維持を市の責務としてかかげています。

ところが導水路案ですと、16㎞以上にわたって水の涸れた河原をさらけ出したままになる恐れに対し、なんら解決になりません。

ユネスコエコパークといえば、その中での開発行為には「持続可能性」が求められます。 ところが川の流れを断ち切ることは、持続不可能な開発に他なりません。

どのように整合性を図るつもりなのでしょう…?



とまあ、いろいろ書きましたが、しかしおそらく、「環境保全措置」としてはこれで十分です。

環境影響評価において、河川の流量が減少した場合に対策を講ずる必要のある対象としてJR東海が認めたものは、下流の利水だけです。生態系への影響は、基本的には対象外という扱いです。したがって下流にに水を流しさえすれば、万事解決という解釈が成り立つからです。上記リンク先JR東海のHPの資料において、生態系に与える影響について全く言及していないのはその証左です。

県の環境保全連絡会議の議事録を見た限りでは、「早川から引っ張ってくればよい」程度の認識(前回記事参照)であるようなので、生態系への影響は話題にもならないのでしょう。

リニア計画はユネスコエコパーク管理運営計画に含まれなければならない

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ユネスコエコパークにおける管理運営計画の基本的理念を定めた「生物圏保存地域世界ネットワーク定款」というものがあります。今回、これをもとに考えてみたいと思います。
生物圏保存地域の愛称がユネスコエコパーク 

先日のブログでも触れましたが、定款においては、ユネスコエコパークは次の3つの機能を組み合わせて、持続可能な発展を図ることが求められています。

①保全機能
⇒景観、生態系、生物種、遺伝的多様性の保全に資すること。
②経済と社会の発展
社会文化的に持続可能で、生態学的にも持続可能な形で経済発展と人づくりを促進する。
③学術的支援
⇒実証プロジェクト、環境教育・研修、保全と持続可能な発展に関する地元の問題、地域的問題、国内問題、世界的問題に関する研究・調査に役立てる。
 

リニア計画が、①や②の機能を著しく損ねるものであることは、このブログで再三指摘した通りです。 

リニア計画は、環境に与えるインパクトはもとより、資金面でも、構造物の規模としても、従事する作業員の数の上でも、南アルプス地域における向こう10年間の最大の経済活動となり、これを無視してユネスコエコパークの管理運営は成り立ちません。

例えば…
河川生態系や河川景観の保全、渓流における遊漁等の利活用、発電用水の適性な取水量など、河川空間の管理について、どんなに立派な計画を立てたとしても、トンネル工事で川の流量が激減してしまったら元も子もなくなってしまいます。

現在、JR東海は有識者を集めて大井川の水資源対策を検討する会議なんてのを催していますが、あくまで上水道への影響緩和が目的であり、生態系への影響は考慮せず、地元住民の声を反映する仕組みを整えておらず、そのうえ大井川流域以外は議題にもあがっておらず、こんなものはパフォーマンスでしかありません。 

登山客等の送迎のために、パーク&ライドを実践して適切な車両の運行計画を作成しても、トンネルの工事用車両が大量に通行して道路を占領してしまえば、全く無意味です。

ユネスコエコパークの理念②に従い、南アルプスの自然環境を活かした経済活動(登山・保養・自然体験・農林業など)によって過疎化対策や地域活性化を促そうとしても、工事によるダンプ公害や騒音によって人が済めなくなってしまったら、あるいは観光客に敬遠されてしまったら、話になりません。

かような懸念を未然に防ぐためには、事業者(JR東海)と行政との協議だけでは不十分であり、地元住民など様々な利害関係者をひっくるめて話し合い、現行のリニア計画を「これならば持続可能な経済活動と言える」というところまでもっていかねばならないと思います。つまり、リニア計画をユネスコエコーパークの管理運営計画の一環に含めなければならないのです。

◇   ◇   ◇   ◇   ◇ 

鉄道会社が、(騒音等の公害問題ではなく)広範囲に及ぶ自然環境の保全問題に直面するというのは、日本国内に限っては、おそらく初めてのことだろうと思います。
リニア計画にはいろいろと前代未聞の事項が多いのですが、この点でもそうなんですね。

それならば、いっそのことリニア計画そのものを、ユネスコエコパークの理念③「実証プロジェクト、環境教育・研修、保全と持続可能な発展に関する地元の問題、地域的問題、国内問題、世界的問題に関する研究・調査に役立てる。」に適合させてしまえばいいのではないのでしょうか

リニア計画という「南アルプス地域における問題」を、自然環境や地元の地域社会に悪影響を与えることなく、クリアできる道を住民とともに模索してゆくことを、ユネスコエコパークの管理運営計画の柱に据えるわけです

当然のことながらJR東海には、発生土処分方法の変更、大幅な工期の見直し、工法の変更、建設費の増額、資金調達の変更、徹底的な情報公開、地元住民との話し合いなどが求められることになります。

はっきり言って負担だらけになります。それでJR東海が「それはムリ」と言うのであれば、その事業計画は、持続可能な経済活動とは言えないこととなり、南アルプスからは退場していただけばよいのです

◇   ◇   ◇   ◇   ◇ 

ここに書いたことは、理想論です。生物圏保存地域世界ネットワーク定款は、条約ではなくあくまでルールであり、関係する国内法を定めているわけではないので、JR東海に強制することはもちろんできません。

※分かりやすく二つの条約の例で考えてみたい。
例えば海洋汚染を防止するためのロンドン条約の場合、その内容を代行するための国内法が設けられている(廃棄物の処理及び清掃に関する法律、海洋汚染等及び海上災害の防止に関する法律)。
 他方、湿地の保全を目的としたラムサール条約の場合、その内容を担保するための特別な法律はなく、自然公園法等で代替しているのが現状であり、それら国内法の隙間を縫えば、いくらでも開発の危機にさらされる。福井県中池見湿地の場合、ラムサール条約で登録され、国定公園に指定されながら、全国新幹線鉄道整備法による北陸新幹線の建設を防げていない。
ユネスコエコパークの性格は後者に近いのである。
 

現状のところJR東海は、環境影響評価書における見解では、「市や県と協議を行ってできる限り整合性を図ってゆく」としており、あくまで「自分達の計画の実現が最優先」という立場です。下画像の赤く囲った部分にあります。

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ユネスコエコパークに関するJR東海の見解
環境影響評価書静岡県編の資料編より複製・加筆 

民間企業なのだから、自社の経営が最優先という考え方は、通常ならば間違っていません。ですので普通の場所なら、(形式的には)これでもOKと言えると姿勢なのでしょう。

しかしここ南アルプスは、ユネスコエコパークに登録された場所です。「景観、生態系、生物種、遺伝的多様性の保全に資すること。」「社会文化的に持続可能で生態学的にも持続可能な形で経済発展と人づくりを促進すること。」がユネスコエコパークの機能であり、基本的な理念です。「持続可能な発展」を実践するためには企業活動にも制限を加えなければ実現不可能―野放図な活動が許されるのなら指定する意味がない―なわけですから、この空間に限っては、JR東海のような考え方は排除されなければなりません。

◇   ◇   ◇   ◇   ◇ 

ところでこんなふうに書くと、「国土交通省はJR東海による事業内容が適切と判断したから認可したのであって、つべこべ言うな。」というような感想を抱かれる方がおられるかもしれません。

はい、その通りなのであります。

というわけで国土交通大臣意見を見てみましょう。
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こんなふうになっています。なお、国土交通大臣意見ですが、これは環境大臣意見をそのまま一字一句変えることなく踏襲したものです。環境省および国交省が出した、政府の公式見解であります。

最後のところ、「本事業の実施が生物圏保全地域登録申請地としての資質を損なうことが無いよう、事業実施に際してh関係地方公共団体と十分に調整し、その意向を尊重すること。」とされています。
環境大臣意見が出されたのはユネスコエコパーク登録申請中であった。  

この意見書を作成したのは、もともと環境省です。その環境省は、(文部科学省とともに)ユネスコエコパーク制度を統括する日本政府の機関でもあります。その環境省から地方公共団体と十分に調整を行い、意向を尊重せよと明言されました。

ところで、生物圏保存地域世界ネットワーク定款には、ユネスコエコパークに求められる登録基準として次のようなことが挙げられています。

【第4条の6】
公的機関、地域社会、私企業が生物圏保存地域の機能の企画立案や実行などについて、適切な範囲で関与、参加できるよう組織的仕組みを設けること
 

先月、静岡市が管理運営計画案を作成・公表しましたが、その内容はこの規定に基づいたものです。つまり、私企業の事業といえども、公的機関や地域社会との協議のうえで持続可能な経済活動となるよう、誘導してゆかなければならない、定款の内容を踏襲したものでした。

環境大臣意見でいう「地方公共団体と十分に調整を行い、意向を尊重せよ」という事項は、静岡市の管理運営計画、ひいては生物圏保存地域世界ネットワーク定款(第4条の6)を守れと言っていることに違いありません。

したがって政府としても、リニア計画をユネスコエコパークの管理運営計画にひっくるめて考えなければならないという見解であるといえるのではないでしょうか


◇   ◇   ◇   ◇   ◇ 

まとめ 

要するに「ユネスコエコパークの理念にそぐわない活動を拒むことができる」ことの根拠は、それなりにあると思います。重要なのは、それを地域住民が知り、行政やJR東海が理念に従った行動をとっているのか、きちんと検証してゆくことであるのだろうと思われます。

リニア計画がユネスコエコパークの理念に沿ったものと皆が納得できるのであれば、何も反対したり懸念を訴えることはないのです。

南アルプス巨大残土捨て場における過去70年間の地形変遷

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(前々回記事と合わせてお読みください)


JR東海から、南アルプスの大井川源流部に掘り出す発生土360万立方メートルについて、燕沢付近の平坦地に集め、最大高さ50m、長さ1000mもの巨大な盛土にしてしまおうという案が出されています。この先どうなるのか全く予断を許しませんが、とりあえず、その燕沢付近の平坦地という場所の立地条件について、前回に引き続いて考えたいと思います。

今回は、過去の空中写真を用いいます。なお空中写真とは、航空機から精密なカメラによって撮影された写真のことです。国土交通省国土地理院のHPで公開されており、それを活用させていただきました。

なお、読みづらさを軽減するため、「です・ます調」は改めます。

環境影響評価書より、燕沢付近平坦地の地図も貼り付けておきます。
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空中写真① 1949年8月
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国土地理院のHPから入手できた最も古い空中写真である。この白黒写真では、木々の生い茂っているところは黒く、地表がむき出しになっているところは白く写っている。灌木や草の茂っているところは灰色である。

右上隅(北東)より曲がりながら左下へ伸びている筋が大井川本流である。中央上より南南東に伸びた白い筋は、千枚崩れ(前回記事参照)を源にもつ上千枚沢であり、その合流点南側で、川幅の広がっているのが「燕沢付近の平坦地」にあたる。JR東海は、ここに高さ50m、長さ1000mの巨大盛土として、発生土を残土処分するつもりらしい。

発生土置場候補地として囲んだ範囲の南側半分に注目していただきたい。黒い部分に白い筋が何本も走っているのが分かる。白いところは木のないところであるから、筋状に地表がむき出しになっているのである。常識的に考えれば、谷底に成立した森林を、川の流れがなぎ倒した跡であろう(伐採の跡という可能性を完全に否定することはできないけれど)。つまり、森林となっている場所でも、時には水の流れが押し寄せるのである。

空中写真② 1957年10月
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写真①より8年を経て撮影されたものである。川の位置、谷底の森の位置に大差はないが、谷底の森の色が、①よりも濃くなっていることがわかる。この8年の間に、木々の成長が進んだことがうかがえる。

空中写真③ 1970年10月
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写真③より13年後に撮影されたものである。なお、写真の範囲や縮尺が変わっていることにご注意いただきたい。
 発生土置場候補地付近では、21年前に黒々と木々の茂っていた場所は、白っぽく写っており、だだっ広い河原になっていることがわかる。川の流れは燕沢平坦地の中央付近で左岸寄り(写真上では右手)となり、蛇行地点では中州を形成している。蛇行地点の右岸は広い河原となっており、植生はまばらである。数条の溝状の筋が見受けられることから、21年の間には、川の流れが頻繁に変わっていた可能性が高い。なお、写真上部の山肌は、広く伐採されてしまっている。

空中写真④ 1976年10月
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6年後に撮影されたものである。写真の解像度が向上し、詳細な様子が判読できるようになったため、燕沢付近の平坦地を拡大して表示している。

左右に分かれていた流れのうち、右手の流れはほとんど消えかけており、ほぼ1本の流れになって、右岸寄りに移行している。1970年の写真でだだっ広い河原だった場所は、草に覆われている。この解像度では木か草か正確な判別は難しいが、おそらく草地になっているのであろう。

空中写真⑤ 1995年10月

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写真④より19年経った状況である。流れはさらに右岸よりに移行し、山の裾野を洗うように流れている。燕沢平坦地の北側では、1992年から1994年にかけて、水力発電所建設工事にともなってに砂利採取がおこなわれたため、人為的に流路が付け替えられたものと思われる。のっぺりとした灰色の部分が砂利採取跡地である。いっぽう砂利採取の行われていない流路沿いや平坦地の最下流部は黒っぽくなっており、この19年の間に、植生が回復しつつあることがうかがえる。

2014年6月 Google Earthによる衛星画像
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最新の衛星画像である。
砂利採取跡地の南側半分は、背の低い樹木に覆われている。砂利採取跡地の北側半分は、草がまばらに生えている。1995年の時点で、草木が成長途上にあった川岸や平坦地最下流部には、背の高い樹木が茂り、森林を形成しているようである。つまり、この間19間は、河道が安定していたことがうかかがえる。

◇   ◇   ◇   ◇   ◇

環境影響評価書によると、JR東海が燕沢付近の平坦地を発生土置場にしようとしている理由は、「過去に砂利採取をおこなっているから原生林ではない」とのことだそうである。

その砂利採取跡地は、過去の空中写真を見比べて分かる通り、1957年過ぎまでは森林が成長し、1976年にかけて川の流れの変化によって破壊され、1995年以降は、(砂利採取の影響を受けていない場所では、)再び森林が成長傾向にあるようである。つまりこの燕沢平坦地は、川が流れを自由に変え、その都度植生を破壊し、また草木が侵入して成長し、森林を形成するというプロセスが繰り返されているといえるのではないだろうか

一部は砂利採取による改変を受け、浅い窪地となっているものの、おそらく次の大増水でふたたび濁流に見舞われ、礫が流入するとともに木々をなぎ倒し、一面の河原へと戻るのだろう。

こういう場所に生育する樹木はヤナギ科、カツラ、フサザクラ、サワグルミ、シオジなど、土砂の移動や洪水に強い性質をもったものがメインであり、環境影響評価の調査結果からも、そのような樹種が確認されているようである。

かような森林を、河畔林とか川辺林というらしい。静岡県内で、こういう森林が立地しているのは大井川源流部だけのようである。

JR東海は、この場所における地形学的な立地条件と、そのように不安定な空間における生態系の特徴については、全く言及していないのである。かなり特殊な空間であるのに、これでは不十分ではないかと思うのである。


もう一度1970年と2014年の写真とを見比べていただきたい。発生土置場候補地つまり残土捨て場は、川そのものなのである。


この話はまだ続きます。

流量減少で影響を受けるのは水資源だけじゃないぞ!!

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大慌てでつづったので、読み返したらミスが多数ありました。15日以降に訂正を繰り返してますので、ご了承ください。


本日(14日)、静岡県庁で開かれた中央新幹線環境保全連絡会議において、大井川における流量減少問題に対し、JR東海が環境保全措置として「導水路トンネルを建設する方針である」との報告をおこなったとのことです。しかしこの案については、いろいろと問題が多く、解決に至らないと思うのであります。


(1)大井川流量減少問題の推移 

2013年9月に公表されたリニア中央新幹線の環境影響準備書において、南アルプスをぶち抜くトンネルと、縦横に掘られる作業用トンネルの建設により、大井川本流で約2㎥/sの流量減少が試算結果が公表されました。この数字は、下流域62万人の水利権とほぼ同値であるとともに、四半世紀に及んだ「水返せ運動()」で実現した河川環境維持流量とも同程度の値であったため、大きな問題となりました。
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図1 当時の静岡新聞記事(2013年11月8日)。

これに対してJR東海は、「適切な措置をとることにより利水への影響は生じない」としながらも、具体的な対策は示さないまま環境影響評価は終了しました。その後、JR東海は”自主的に”専門家を招集して「大井川水資源検討委員会」を設置し、4/2の同会議に提出した3案の中から「導水路案が適切である」とのお墨付きをもらったとして、このたびの県への報告となったのでありました。


)大井川の水返せ運動
大井川は南アルプスから流下するため、標高差が大きく、水力発電の適地である。このため、戦前より多数の水力発電所が設置されてきた。大部分の発電所は、堰やダムで水を取水し、緩勾配の導水路で下流側へ送水し、標高差が大きくなった地点で本流に落とし、発電を行うという仕組みである。本流で落とした地点のすぐっ下流には別の堰・ダムが設置されており、再び下流の堰・ダムへ導水路で送水することを繰り返しているため、本流にはほとんど水が流れていない。また、最上流部の二軒小屋では、東京電力が分水嶺をくぐって富士川水系の早川に送水して発電を行っている。

特に、中流の中川根町にある塩郷堰堤下流では、1年を通じてまったく水のない状況が続き、「河原砂漠」と呼ばれる有様であった。粉塵が巻き起こり、霧が発生しなくなって茶の品質に影響がですなどし、行政・住民が一丸となった「水返せ」運動が始まったのである。2005年にかけて四半世紀以上にわたる粘り強い水利権交渉が続けられ、ようやく毎秒3トンが戻ってきたのである。リニアの建設による「毎秒2トンの減少」は、これを無に帰してしまうおそれがある。

(2)流量減少予測 

だけどなあ…

これ、水資源の解決にはなるかもしれないけど、本質的な環境問題の解決にはならんのですよ…

まずは、大井川源流部で行われるトンネル工事の様子をみてみましょう。

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図2・3 大井川源流部の概念図

山梨・長野・静岡県境にそびえる間ノ岳(3190m)から南に流下する東俣(ひがしまた)と、荒川中岳(3143m)から時計回りに半円を描いて南東に流れる西俣とが二軒小屋という地点にて合流し、大井川と名を改め、駿河湾まで160㎞あまりを流れ下ります。

つまり二軒小屋とその周りは、まさに大井川源流地帯なのですが、そこにリニアのトンネル約11㎞と、並行する先進坑、2本の斜坑、合わせて30㎞近いトンネルが縦横に掘られる計画となっており、水を抜きまくってしまうという事態が予測されているわけです。

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図4 トンネルの位置
環境影響評価書をコピー

上記のモノクロの図4には、本線トンネルと斜坑(非常口)の位置が記されています。右下の注記に「掘削時の地質把握のために、本坑に平行な位置に、断面の小さい先進坑を掘削する」とありますね。「断面の小さい」とはいっても、断面積は55平方メートルであり、ふつうの2車線道路ぐらいの規模があります。本線トンネルと先進校はそれぞれ10.6㎞、斜坑は3.5㎞と3.1㎞ですので、合計27.8㎞になります。このほか、先進坑と本線トンネルとの連絡通路や、水抜坑も掘られるのでしょう。

次に、JR東海による流量の試算結果を記します。
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図5 流量予測結果
環境影響評価書をコピー

「地点05 二軒小屋取水堰上流」において、流量が現況12.1㎥/sから9.98㎥/sにまで2.12㎥/s減少するという結果が出されました。これが、「毎秒2トン減る!」という騒ぎになった発端になります。なお、流量減少は二軒小屋から始まるのではありません。上流側の西俣でも減少するという結果が出ていることにご注意ください。「西俣取水堰上流」でも15%の減少が予測されています(これは年平均であり、渇水期には48%の減少という試算結果)。試算自体がアヤシイのですが、それについては過去記事をごらんください


(3)川で暮らす生き物への対策にはならない 

で、「水が減って困るなら、戻せばいいだろ!」

として、このたびJR東海が県に報告したのが導水路案になります。

こんな案です。

図6 JR東海発表の導水路案
周囲の赤い文字は作者が記入


確かにこの案なら、大井川本流に水が戻ってきます。下流域での水利権も回復できるでしょう。

めでたし、めでたし…

って、そんなわけがない!!

導水路の出口の位置にご注意ください。図5において、流量減少の予測される区間の上流端は、西俣取水堰のさらに上流であると述べました。

これに対し、JR東海は導水路で水を戻すと報告しているのですが、戻ってくるのは西俣取水堰より16㎞も下流の椹島ロッヂ付近になります。流量減少がどこから始まるのか正確には不明ですが、少なくとも16㎞の区間には水を戻せないのです。さらに、斜坑(非常口)の掘削により悪沢や蛇抜沢(いずれも悪沢岳の北側)といった支流の流量を減少させた場合にも、戻すことはできません

当然のことながら、川には魚やサンショウウオや水生昆虫など、様々な動物が生息しています。美しい渓流というのも、南アルプスの重要な景観要素です。それらをぶち壊す可能性が高いわけですが、この導水路案では全く解決できません。

例えば、この一帯に生息している渓流魚のアマゴに与える影響について、JR東海は評価書において次のように記していました。


アマゴというのはサケ科の渓流魚で、ヤマメのそっくりさんです(赤い斑点があるのがアマゴでないのがヤマメ)。きれいな水にしか住めないし、多くの個体を存続させてゆくためには、深い淵や瀬や枝沢といった多様な環境と、エサとなる豊富な昆虫の存在が欠かせません。したがって河川流量が減少することは、そのまま生息地が縮小することを意味します。

評価書においては、河川流量が減少した場合の影響について「鉄道施設の存在により、河川の一部で流量が減少するものの、本種の生息環境への影響は小さい」と述べています。

いっぽう上記の導水路案ですと、16㎞以上にわたって水を戻せない区間が生じます。また支流の沢まで流量の減少が及ぶ可能性があります。すなわち、流量の減少するのは「一部」ではなく「大半」となる可能性が高く、「影響が小さい」とは言えなくなるかもしれません。

もっとも、アマゴというのは簡単に養殖できる魚である。山里で、つかみ取りコーナーや釣堀に放流されていたり、土産物屋で甘露煮や塩焼きにして売っているように、量産することも可能である。下手をすると、「養殖池で増やしてゆき、減ったら放流するから問題はない」という見解を出さないとも限らない…。 

(4)環境影響評価の過程では知らされていなかった 

そもそも、導水路トンネルを建設するという案は、環境影響評価の過程では全く知らされていませんでした。

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これが環境影響評価書の記述ですが、ポンプくみ上げについては示唆しているものの、導水路の「ど」の字も見当たりません…。

上述の通り、流量減少が生態系に与える影響についてはロクに解決できませんし、余計な環境負荷も生じます。

まず、導水路のトンネル側取水口(?)は、標高1130m付近になります。この位置ですと、大井川流域からトンネルへ染み出す水の、おそらく半分程度しか自然流下しません。大井川流域区間におけるトンネルの最低位は標高約970mですので、160m程度はポンプで汲み上げなければならないわけです。1立方メートル/秒で160mくみ上げた場合、常時2000~2500kWのエネルギーを消費し続ける必要があります。

それから断面積6平米(内径2.5m程度)で長さ12㎞の導水路トンネルを掘った場合、12万立方メートル程度の発生土が余計に生じます。発生土の処理が大問題になっているのに、新たに増えるわけです。 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇

さらに、このあたり一帯はユネスコエコパークに登録されています。静岡市では、大井川の清流もユネスコエコパークを構成する重要な景観要素と位置付けており、また、清流保全条例によって、清流の維持を市の責務としてかかげています。

JR東海の試算が現実になった場合、長い区間にわたって水の涸れた河原をさらけ出し、景観を著しく損ねるおそれがありますが、導水路案ではなんら解決になりません。

ユネスコエコパークといえば、その中での開発行為には「持続可能性」が求められます。 ところが川の流れを断ち切ることは、持続不可能な開発に他なりません。

どのように整合性を図るつもりなのでしょう…?


(5)慎重な対応を望みます  
導水路がいつ建設されるのかわかりませんが、これは最終手段の一案としておくべきでしょう。

そもそもおかしな話として、JR東海はこれまで、「毎秒2トン流量が減少するというのは最悪の資産結果」とし、防水シートや薬液注入などの工法で大幅に抑えることが可能としてきました。

したがって、もしも本坑の建設後にも、これまでのJR東海の主張通りに流量が減少しなかった場合、この導水路は不要ということになります。しかしもし先に導水路を建設してしまっていたら、ムダに環境負荷を増やしただけということになってしまいます。これはきわめて愚かな話であり、絶対にやってはいけないことでしょう。

現在のところ、この導水路案を県や静岡市が了承したという話にはなっていません。自然破壊に対して有効な対策になっているとは言えない案であると思います。

…慎重な対応を願っております。


土石流堆積地に大規模盛土をしたらどうなるのか?

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リニアが時速600キロで走ろうが、JR東海がギネス申請しようが、そんなこととは全く関係のないのがこのブログ。


えー、そのギネス申請しようとしているJR東海が、南アルプス山中の大井川源流の河原に計画している、超巨大発生土置場(残土を大規模に盛土して”処分”)についての懸念の話題に戻ります。

話が飛び飛びですので、位置や計画概要の確認意味もかねて、前々回記事からお読みください。
http://blogs.yahoo.co.jp/jigiua8eurao4/13812317.html


発生土を巨大な盛土として処分しようとしているのは、大井川源流の、燕沢という沢が流れ込むあたりの、河原が広がっている場所になります。

前々回までのブログ記事では、過去の空中写真により、燕沢付近平坦地における大井川の流れの様子ご覧いただきました。要点をまとめると、特徴は次のようになります。

●この付近には、その流域に崩壊地をもつ小支流が5~6本流入しており、頻繁に土石流が流れ込んでいるとみられる。

●この付近の大井川本流の勾配は、周囲の支流に比べて相対的に緩やかであり、急峻な支流から流れ込んだ土石流は大井川の河原に堆積することとなる。

●平坦地の上側には千枚岳から崩れ落ちた大量の礫が円錐状に堆積しており、砂礫の供給源となっている可能性がある。

●流路が頻繁に変わっている。

●流路が変わるとともに、河原における植生の様子も頻繁に変わっている。すなわち、「無植生⇒まばらな草原・灌木林⇒高木林⇒洪水による植生の破壊」という変遷が短いサイクルで繰り返されているとみられる。

●平坦地のすぐ下流側で川幅が狭くなっており、流下する土砂をせき止めている可能性がある。つまり狭窄部が砂防ダムのような位置づけとなっているかもしれない。

JR東海は、かような場所を発生土置場にしようと考えています。もう一か所の大規模発生土置場候補地である扇沢源頭(標高2000m稜線上)が使えない場合は、こちら燕沢付近平坦地に、最大高さ50m、長さ1000mにわたって積み上げ、残土として処分する可能性を示唆しているところです。

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図1 燕沢付近平坦地の地図 
環境影響評価書より

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図2 南アルプス大井川源流での発生土処分計画


ど、どーなるのでしょう???

シロウト考えですけど…

盛土容積を300万立方メートル、長さ1000m、平均高さ30~40mと仮定すれば、幅は75~100mとなります。いっぽう現在の燕沢付近における河床幅は100~150mです(林道と対岸との距離)。したがって発生土を積み上げたら、川幅は半分程度に狭められることになります。
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図3 発生土置場のイメージ(作者の想像)

ここに土石流が流下したら…?

土石流というのは、大量の石や砂礫が、水を仲立ちとしながら重力によって急勾配の谷底を滑り落ちる現象です。もともと谷底に大量の砂礫が堆積しているような沢、あるいは流域内に崩壊地の多い沢で頻発します。

谷から平地に出る地点では、引きずり落ちる力よりその場にとどまろうとする力が上回るため、堆積が始まります。先端がストップしたら、後ろから滑り落ちてくる後続部分は流路が阻害されるため、首を振るように流路を変更するなどし、全体として円弧状に堆積することとなります。昨年夏の広島や、一昨年秋の伊豆大島での空撮映像を御記憶の方も多いでしょう。「土石流」と入力し、画像検索をすれば、その様子を写した写真もたくさんヒットします。

JR東海の計画では、大井川の岸を数百メートル~1000mにわたって高さ数十mで盛土するわけです。交差部については、当然、ある程度の余裕をもって設計されるのでしょうが、いくつかの小支流の出口を狭める形になります。燕沢付近平坦地に流れ込む小支流は、いずれも土石流を頻繁に流し込んでいます。

特に左岸の崩壊地は、ここ40年程度の間に規模が拡大しています(3/30ブログ記事参照)。だから砂像ダムを複数設置)。衛星画像でも、運ばれてきた大きな石がゴロゴロしているのが明瞭に写っています。

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図4 燕沢付近の詳細画像
図1の地図で、「大井川」と注釈のあるあたりを拡大
右下の沢から砂礫が流下していて、道路はそれをよけて緩くカーブしている。大き目の石(わだちと比較して30~50㎝程度?)がゴロゴロしているのが分かる。反対側の斜面からも、大量の砂礫が流下しているのが明瞭。

もし今後大規模な崩壊が生じて土石流となった場合、盛土によって川幅が狭められているのですから、これまで河原に薄く広がっていた土石流堆積物は、盛土間の流路を通って大井川本流の流路へダイレクトに流れ込み、本流がせき止められるかもしれません。

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図5 土石流堆積地に盛土したら…?

本流をせき止めた場合、その上流側に大量の水をためこみ、やがて大規模な土石流として一気に流れ下る事態が想定されます…。

あくまで「懸念」の域をでませんが、こうしたリスクは確実に増すと思います。そのあたりの危険性はどのように考慮しているのでしょうか?

環境影響評価の準備書審査の過程で静岡市長からも、このような点が強い懸念事項としてJR東海に意見提出されました。その後、評価書において「適切に対処するから心配ない」という見解がJR東海から出され、事業認可に至りましたが、今までのところ、「適切な対処」とはいかなるものか、全く示されていません。それなのに「今年中には着工する」という方針ばかり伝えてきております。

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図6 燕沢平坦地の安全性に対するJR東海の見解
千枚崩れという古い崩壊地にばかり着目しており、崩壊が現在も進行中であるその他の中小規模の荒廃渓流については言及していない。


4/21になって、山梨実験線での時速600キロ走行をギネス申請するなんて報道されてますけど、、そんなヒマがあるなら残土の取り扱いについてきちんとした説明をしろと思うのであります。


(蛇足)

ということは、これまでとは異なる知見が得られたことになるわけです。

いっぽう、リニアの環境への影響を予測した結果(環境影響評価準備書)が公表されたのは、2013年の9月18日のことであり、最終的な結果は2014年8月29日に評価書として取りまとめられました。このときの内容をもとにして、事業認可されたことになります。

つまり営業運転に必要なデータを取得したのは、アセスが終了してからということになります。

順序が逆なんじゃないのかな?

土石流の堆積場を盛土で埋めてしまったら? その2

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JR東海による燕沢付近の巨大発生土置き場計画ですが、どう考えても土砂災害もしくは河川荒廃を引き起こすのではないかと思うのであります。

前回は、左岸の沢を巨大盛土で塞いだらどうなるだろうということを考えました。盛土によって沢の出口を狭めたら、これまで河原に堆積していた砂礫が、そのままダイレクトに河道に流れ込み、川を塞いでしまうのではないかという疑問を抱きました。

衛星画像や地形図を見ると、この発生土置場候補地の右岸(写真では左手)からも、源頭に大規模な崩壊地をもつ沢が2本流入しています。その上流側には、広範囲の斜面が全般的に崩れている箇所もあります。これら右岸の崩壊地との関係についても考えてみようと思います。



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図1 衛星画像 
GoogleEarthから複製。加筆

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図2 環境影響評価書のコピー

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図3 全体的な工事個所の位置関係

衛星画像によると、この崩壊地から大井川本流へ流れ下る沢には、少々緑の部分が見受けられます。70年前の空中写真と比較してみても緑の部分が増えているようであり、この間は比較的安定していたのでしょう。
(前々回記事参照)
http://blogs.yahoo.co.jp/jigiua8eurao4/13812317.html

ところがそれでも、大規模な崩壊地をもつことには変わりません。源頭すなわち沢の一番上流の部分は崖になっており、後方への侵食が続いていることがうかがえます。

ところで川沿いでは、水の力によって岸が削られることにより、下からの支えを失ってバランスが崩れ、広い範囲がズルズルと崩れ落ちていることがよくあります。このような河川の作用を側刻(そっこく)と言います。上の衛星画像でいうと、Aの部分で、特に側刻が活発なようです。裸地が広がっていますが、約40年前の写真と比べ、明らかに拡大しているからです(前々回記事参照)。

JR東海の計画によると、巨大盛土(最大で高さ50m、長さ1000mを想定)は右岸よりに計画されているようです。そのため、これを実行したら、川の流れは必然的に右岸よりになります。また、大雨の際には、これまで河原いっぱいに広がって流れていた濁流が、右岸側に集中して流れることになるので、これまでよりも強い力で右岸を削ることになるでしょう。

側刻するスピードが増すことにより、新たな崩壊を助長するような気がします
衛星画像のAの示した部分はもとより、B・Cの崩壊地の間でも即刻が活発になるように思われます。ここで側刻が進めば、現在は安定を保って緑に覆われているその間の斜面が全体的に崩れてしまうことはないのでしょうか?

また、BやCの沢は土石流を頻繁に起こしていると見られます。現在のところ、河原の幅が広いために本流全体を埋めてしまうことはなく、河原に堆積した砂礫は、徐々に下流に流されてゆくことになります。とこが、その対岸を分厚く盛土で覆ってしまったら、流れ込んだ土石流の行き場がなくなります。容易に川をせき止め、より規模の大きな土石流を誘発するかもしれません。

このような、侵食と堆積が激しく進んでいる場所に、大量の盛土を行うという話は、聞いたことがありません。本当にどうするつもりなのでしょうか?

環境影響評価書では、こんなこと一言も書いていないのですけど。。。
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図4 環境影響評価書(静岡編)よりJR東海による燕沢付近発生土置場についての見解

こういう低レベルな争いから卒業しませんか?

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実は最近、某ソーシャルネットワークサービスのリニア関連グループで、さんざんにボロクソに非難されているのである。何だか知らないが、「反対派」の主張の妥当性について反証を書き込むたびに”炎上”しそうになり、「お前は反対派の面をかぶった推進派」認定をされてしまったのである(笑)。

そんなくだらんことに時間を費やし、更新が滞っております。ヤマトイワナの問題とか、書きたいことは山のようにあるのだけど。

一か月間ほど叩かれ続けてきて悟ったのだけど、はっきり言って

リニア反対派 
リニア推進派 
ってのは、実は瓜二つなんじゃないかと思う。

1.主張の根拠がデタラメでも構わない
【反対グループ】
 ・理屈も理由も根拠もいらないから、とにかく反対を叫べばよい。理屈など考えるだけムダである。
 ・規則や制度の概念を理解しようとしない
【推進派】
 ・建設目的などどうでもいいからさっさと造るべし。

2.理論に行き詰まると抽象的概念でごまかす。
【反対グループ】
 ・利権があるから反対!
 ・原発再稼働のために計画しているに違いない!
 ・いらないから反対!
 ・大企業が市民を圧迫!
【推進派】
 ・夢の超特急だから進めるべし
 ・世界一を目指せ!
 ・国民に夢と希望を与える
 ・技術立国としての誇りである

3.異論を排除
【反対グループ】
 ・反問を行う者は「推進派」認定
 ・特定の政党・政治団体に依拠
【推進派】
 ・審議過程における疑問提示や問題指摘はとりあえず無視、もしくは先送り。

結局のところ、【反対グループ】も【推進派】も、それぞれ同じ考えの仲良しグループの中でお茶を濁しているだけではないだろうか?

反対派の人々は、時に「〇〇審議会は推進派ばっかり~!」と指摘するわけだけれども、その逆はどうなのだろうか?


◇   ◇   ◇   ◇   ◇

インターネットで各種ブログやホームページ、ツイッター等を検索していて気になったのだけど、「リニア反対の根拠」として挙げられているものには、妥当性の疑わしいもの、根も葉もないこと、検証しようのないことなど、玉石混合なのである。

原発再稼働のためにリニア推進
⇒想像の域を出ていない
リニア推進のために原発再稼働
⇒火力発電で動かせば問題はないのか? 
⇒静岡県清水港に200万kw級の火力発電所が計画されていることを御存じないのだろうか?http://www.itmedia.co.jp/smartjapan/articles/1502/02/news029.html
リニア計画をつぶすには打倒安倍政権!?
⇒政府としてリニア計画を検証・建設指示したのは民主党政権時代
⇒維新の党だってリニア推進一色
東海地震対策なら北陸新幹線を使えばよい
⇒セブンイレブンとローソンとで業務提携しろと、客がレジ係に無責任に言っているようなもの(政府方針の検証という意味なら妥当な主張)
JR東海は非民主的
⇒民間事業が民主主義に基づかねばならない義務ってあるの?
JRを再編成せよ
⇒再編成が終わるころにはとっくに完成してそう
品川発着は面倒だから利便性が低い
⇒だからこそ上野東京ラインが設定されたり、品川・田町の再開発が行われている
とんでもない前代未聞の巨大開発
⇒構造物や工事の規模という点なら、新東名高速道路のほうがはるかに大規模。発生土はリニアの2~3倍。
大深度地下の諸問題
⇒武蔵野貨物線、神田川の地下遊水地等の事例を検証すべき
こんな地下ばかりの鉄道!
⇒東北・北海道新幹線の盛岡~函館間、上越新幹線の高崎~長岡間、北陸新幹線の長野~富山間もトンネル率は7割前後。


こういう、よくわからない人々はごく一部であり、きちんとした議論を行える人のほうが大多数である(と思う)。けれども、妙な人々のほうが往々にして”声”が大きいのであり、実際、目立つのである。私としては、「批判している連中はこーゆー妙な奴らばかり」というレッテル貼りをされるのが、一番恐ろしいのだけど。。。

◇   ◇   ◇   ◇   ◇

私としては、こういう問題について「反対」という立場は、実は奇妙だと思う。当ブログ主kabochadaisukiとしては、リニアについては「懐疑派」である。トンデモない計画であり、いろいろとムカつくし、このままでは大問題が発生するのは目に見えている。けれども、その大問題をクリアできるというのなら、別に文句を言う筋合いはないのである。

だから「おいおいJR東海さん、あんたらの言ってることっておかしくない?」と、4年間もこのブログでしつこく書いているわけである。問題をクリアできずに着工するのは明らかに間違っているわけで、それは是正してもらわないと困るし、どうやっても解決できないというのであれば、計画自体をあきらめてもらうのも一つの解決方法であろう。

そういうことを協議する場さえ、現段階はつくられていないのだけれども、「反対派」の人々の間には、そんなものを求めること自体ムダだという意見まであるようだ。

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昨年だったと思うが、漫画家の小林よしのり氏が、SAPIOの「ゴーマニズム宣言」で原発(安全保障だっけかな?)をめぐる議論について書き下ろした際に、「問題を議論するのに左翼だの保守だのイデオロギーに拠った主張は無意味である」というような主張をされていた記憶がある(お暇な方がいらっしゃったら、いつの号であったか調べていただけると幸いです)。

原発(安全保障?)の大問題を考えるのに、左翼も保守もクソもないわけだけど、結局、原発反対=左翼、原発推進=保守という、くだらない対立から脱却できておらず、何も議論が深まらないことを憂いていたわけである。

リニアだって同じ事ではなかろうか。

保守(を自称している)某政党を支持していれば、リニアの建設残土の大問題に目をつむることができるわけでもないだろうし、建設残土について心配するのは左派政党を支持する人に限られるわけでもないだろうに、なぜだか知らないけれども、「リニアに反対するのは左翼・リベラル」という構図が定着しつつあるようである。

実にバカバカしいのである。

リニア計画に”反対”している人は、リニアの問題は国家の一大事だという。そんなに深刻な問題について真剣に考えてゆくためには、政治信条だの支持政党だのは無関係ではないだろうか? 

「リニア問題については○○党」みたいな構図を「反対派」が率先して築くのは、結局のところ、疑問の声を矮小化することにつながり、推進している連中を喜ばせるだけじゃないのだろうか?

「世の中の人々はリニアの問題を認識していない!」と叫んでいるのだけど、その主張の裏側に妙な政治色がくっついたら、それこそ「大多数の人々」の関心は得られにくくなるんじゃなかろうか?




そんなことを、つくづく感じている今日この頃。これでまた、非難ごうごうなんだろうなぁ―

「リニアは原発再稼働前提だから反対!」から卒業しませんか?

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前回同様、”リニア反対派”にまつわる大いなる疑問である。お気を悪くされる方が多いと思われるし、批判も多々あろうが、それは承知の上で、あえて苦言を述べさせていただく。

いろいろと情報を収集したみたところ、リニアに反対する人々のうち、きわめて大多数の人が「原発の再稼働につながるから反対」という主張をされているような印象を受ける。

実はこのブログでも、浜岡原発の停止した4年前の時点では「原発を使うんじゃないか」と心配していたのである。

けれども、冷静に考えるとおかしくないだろうか?

なぜ原発由来の電気でなければ動かない?

「リニア反対派」の人々が、なぜ原発問題に固執するのか、よく考えれば考えるほど、分からないのである。原発を使わなければ問題ないのだろうか?

おそらくは、管元総理が浜岡原発の停止を要請したのと前後し、JR東海の葛西会長(当時)が、浜岡原発停止直後に「原発を動かさなければ日本の活路は開けない」といった趣旨の主張を産経新聞に寄せ、その後も同紙と読売新聞、およびWEDGE(JR東海傘下の出版社が作成して新幹線のグリーン車に配布してある雑誌)で、繰り返し、同じような主張を繰り返していたことが根底にあるのだろう。

けれども、「リニアのために原発を動かせ」とは明記していない。当たり前のことだけど、発電の仕組みにかかわらず、電気は電気なので、必要な出力さえあれば、リニアは動かせる。葛西氏の一連の言動は、これは同氏の考え方、もう少し広く見て、政財界に共通した見方であると考えるのがふつうであろう。

あまり知られていないようだけれども、現在、静岡県静岡市清水区の清水港に、製油会社等が共同出資し、200万kw級の火力発電所を建設する計画が進められている。2021年稼働を目指しており、発電した電気は、東京電力と中部電力に売却する予定なのだそうだ。すでに環境影響評価手続きも開始されているのである

(自分はリニアのことで手一杯で、こちらの火力発電所については不勉強なのだけど、東海地震の津波が想定され、そのうえ市街地に隣接した場所に、そんなバカでかい発電所を造って安全性はどうなのだろうという疑問はある。温排水が内湾に放流されることの、生態系への影響も気になるところである。日本平から眺めた富士山の景観への影響も気になる。)

リニアの消費電力は、東京-名古屋開業の2027年で27万kw、東京-大阪間開業の2045年で74万kwと試算されている(国交省発表)。これについて検証した産総研の阿部氏の論説(岩波の雑誌「科学」所収)によれば、この結果はまあ妥当とみられ、ピーク出力は100万kw程度であろうとのことである。

ということは、この”清水港火力発電所”が稼働すれば、リニアの電力消費など、十二分に供給可能なのである。


そもそも、この”清水港火力発電所”計画の有無にかかわらず、リニアが電気をバカ食いするのは2045年以降である。「その頃には日本の人口は大幅に減少するからリニアの需要は見込めない」のが”リニア反対派”の主張の一部なのだけど、全く同じ理由で、「将来は電力消費も減少に向かうから原発不要!」という主張も”原発反対派”の方々の口から頻繁に出されるところである。

矛盾していないだろうか?




ここから先はkabochadaisukiの妄想ゾーンに突入します。文章は支離滅裂になります。

「リニアのために原発が必要」というのは、原発反対運動とリニア反対運動とをリンクさせて盛り上げようという、それぞれの活動家の脳裏にある思いが生み出したんじゃないのだろうか?

特に「リニア反対」の声は小さいので、原発反対の声の力を借りたいという思惑があるだろうことは容易に想像できる。

もちろん「リニアは電気をバカ食いする」のは事実であり、そのために原発を動かすんじゃないかという不安が広がったとしても不思議じゃない。けれども冷静に現状を考えれば、原発再稼働とリニア計画とを結びつける根拠はかなり希薄なのであり、簡単に矛盾が露呈してしまうであろう。利権があるのに違いないとか、そういう想像はいくらでも膨らむけど、安直に非論理的なことは言っちゃいけないと思うのである。

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一方で、ふつうの人々がリニア計画に抱く素朴な疑問として、「われわれが省エネに励んでいても、なんでそんな電気バカ食いが許されるんだ?」ということもあるであろう。

これについては、深く考えてみる価値があると思う。

地球温暖化対策や省エネは、政府が、目標やルールを法律や諸制度で定めている。特に地球温暖化対策は、国際公約でもある。リニアを含む交通機関も例外ではなく、

環境基本法
交通政策基本法
地球温暖化対策の推進に関する法律
エネルギーの使用の合理化に関する法律

といった法律で諸制度が定められている。

非常に大雑把に言えば、「鉄道も省エネ化が必要!」ということが、政策としてこれらの法律で定められているのである。

一方で、東京-大阪を結ぶ国の大動脈を、国策として「省エネ型の東海道新幹線」から「エネルギー浪費の超電導リニア」に置き換えることは、これら諸制度と著しくかけ離れているんじゃなかろうか?

「リニアは飛行機よりは省エネ」という主張も一部にみられるが、環境影響評価書では、「東京-大阪の航空便利用客を全廃しても、今とCO2排出量は変わらない」という試算結果が出された。
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この温室効果ガス排出量予測は、「原発が動いている」ことが前提である(平成20年に作成された係数を使用)。今後、原発が動かない場合、もしくは上記のように火力発電所を新規に増設した場合には、将来のリニアの動力源はほぼ全て火力発電に頼ることとなり、温室効果ガス排出量はこの試算よりも増える可能性がある再生可能エネルギーがどうなるかは知りません)。

だからこそ、環境大臣意見では、この点について批判が出された(環境大臣意見は2027年までの事業計画に対するもの)


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環境影響評価書に対する環境大臣意見のコピー


けれども国交省はこの試算結果や環境大臣意見には目をつむって建設にGOサインを出し、さらに政府の成長戦略にもリニア計画を明記しているわけで、明らかに省エネ政策とは逆行しているように思われる。

この矛盾は、十二分に批判根拠足りえると思うし、追及されるべきである。原発再稼働云々が問題ではなく、電気をバカ食いすること自体が問題なのである。

リニア計画に”怒る”前にすべきことがあるような?

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「リニア反対の面をかぶった推進派」認定をされてしまったからには、徹底的に悪役に徹しようと思うのである。



山梨のブロガーさんのページで教えて頂いたのだけれど、山梨において、「沿線住民・怒りの集会@山梨」というものが開かれるらしい。

この名称を見たとき、正直なところ、冗談かと感じてしまったのである。

山梨で「怒り」…?

JR東海がメチャクチャな進め方をしていて、行政もそれを制御できないのであるから、沿線各地で「怒り」を覚える人が大勢出てくるのは当然であろう。私だってその一人である。

けれども、どうも、山梨という言葉が引っかかるのである。

リニアに”反対”している方々の反対根拠のなかで、大きなウェイトを占めるのは環境破壊と進め方の強引さであると思う。

で、この2点を住民との関わりにおいて扱うのが環境影響評価制度なのだけれど、品川~名古屋において、一番ムチャクチャな進め方をしたのは山梨県であり、それについて、現在に至るまで何ら争点になっていないということは、大方の方々がそのような進め方を容認なさっているのかもしれない、と考えたからである

(もしかしたら、地域レベルでは問題視されているのかもしれないけれど、全く情報が流れてこない以上は、事業を進める側としては、問題の声は無いに等しいのである。)

ムチャクチャな進め方というのは、

A.大柳川の流量予測調査問題
B.早川芦安連絡道路

の2点である。どちらもこのブログで何度か指摘したので、詳細はそちらをお読みいただきたい。大雑把にまとめると次のようなものである。

A.大柳川の流量予測調査問題 

大柳川は、富士川右岸の支流である。位置等の詳細は、リンク先をご覧いただきたい。

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説明すると冗長になるので、要点を箇条書きでまとめると、

・リニアの第4巨摩隧道(長さ8627m)は、山梨県富士川町において大柳川流域を浅い土被りで通過する。
・このため、河川流量に影響を及ぼす可能性がある。大柳川は県立自然公園に指定されるように、渓谷美を売り物とした景勝地であるため、流量が減少したら、渓谷美や生態系に影響を及ぼす心配がある。もちろん水利にも影響があろう。
・しかしJR東海は、環境影響評価準備書において、河川流量への影響予測を行っていなかった。
・このため、準備書に対する山梨県知事意見において、大柳川の流量予測をおこない、その結果を評価書に掲載するよう求められた。

ここまでは常識的な対応である。問題はこの後である。
・しかしJR東海は、評価書でも予測結果を掲載せずに事業認可申請をおこない、国土交通大臣もこれを認めた。
・このJR東海の姿勢に対し、山梨県知事から目立った指摘は、現在に至るまでなされていない。
・私の知っている範囲では、「リニア反対派」から一連の過程についての指摘もなされていない。

といった経過である。要するに、
①JR東海が知事意見を無視
②国土交通大臣がそれを容認
③山梨県知事もそれを黙認
④県民・県議会からの指摘もない
というわけである。環境影響評価手続き上の大問題を、4重にわたって放置しているのである。これでは、「山梨県民は大柳川渓谷なんて、どうでもいいと思っている」と事業者・行政側に判断されても、弁解の余地はないであろう


B.早川芦安連絡道路 
(お断りしておくが、道路の必要性について言及するつもりは全くない。事業計画の進め方に大問題があるのである。)


山梨県の早川町は、南アルプスをぶち抜く長大トンネルの東側にあたる。くだんの道路計画は、同町最北端と芦安温泉との間にある夜叉人峠付近に、長さ4㎞弱のトンネルを掘り、道路盛土にリニアの発生土を使い、道路完成後は、それを使って芦安温泉付近までリニアからの発生土を運び、谷を埋め立てて大規模駐車場を建設しようというものである。総事業費70~80億円のうち山梨県が過半、JR東海が30億円を出すという。

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Google Earthより複製・加筆

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JR東海が建設費を出し、リニアの建設発生土を使用するからリニア計画とは切っても切れない関係なのだが、事業主体は山梨県であるためリニアとは別事業扱いとなり、環境影響評価を行わなくてすむことになってしまったのである。

静岡市や大鹿村では、処分方法をめぐって継続審議になっている発生土の問題が、この道路事業にすり替えることにより、解決してしまったのである。だからこそ、早川町では工事入札にまで話が進んでいるのであろう。

奈良田温泉や芦安温泉付近では、大量のダンプカーが通行することで、大変な状況になることが予想されるが、これはJR東海の環境影響評価では全く扱われていないのである。ちなみに早川芦安連絡道路計画は、全て南アルプスユネスコエコパークの登録地域内である。

このような進め方は、環境保全を率先しなければならないはずの行政機関の責任放棄であるし、ユネスコエコパークの理念から逸脱しているし、そもそもどういう環境への影響があるのか、全く分からないままに工事が進められてしまう。

リニア計画の進め方に「怒り」を覚えるのであれば、このような進め方こそ、怒りの対象にされるべきであろう。けれども、このような進め方についても、「リニア反対派」の人々からは、一向に問題視する声は上がっていないようである。

◇   ◇   ◇   ◇   ◇

大柳川でのアセス手続き軽視も、早川芦安連絡道路のムチャクチャな進め方でも、OKということなのだろうか? 表立った批判の声があがらないということは、事業者や行政から見れば、「何も問題はない」のと同じであろう。

それとも、リニア本体工事はムカつくけれども、関連する道路工事は大歓迎ということなのだろうか?

こんなわけで、山梨という場において、「怒り」を訴えることが妥当なのかどうか、よく分からないのである。



◇   ◇   ◇   ◇   ◇

こんな書き方をしたのは、南アルプスの環境を守るために、お願いだから、山梨県の方々に奮起していただきたかったからです。上述の通り、大鹿村や静岡市では、環境を守るために現在も協議が続けられています。ところが、山梨県側でムチャクチャな進め方で着工してしまうと、協議なんぞ全く無意味になってしまいます。これでは、環境保全など叶うはずもございません…。


”環境破壊から手続き無視まで”  大柳川はどーでもいいのですか?

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当方は「隠れリニア推進派」認定を受けたのであるから、「リニア反対派」への文句を続けたい。

こんな問題を放置しておいて、反対もヘッタクレもないのである。


改めて山梨県の大柳川について説明したいと思う。

繰り返しになるが、リニア中央新幹線の第4南巨摩隧道は、山梨県富士川町において、大柳川の流域を浅い土被りでくぐり抜ける。

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 拡大
イメージ 7大柳川の位置

JR東海が国交省に提出した縦断面図から推定した、トンネルの土被りである。土被りとはトンネル上端から地表までの厚さである。ご覧の通り、トンネルと大柳川本流・支流の谷底における土被りは50m前後である。山梨実験線で水枯れを引き起こしたときは、土被りは150~200mであったから、それよりも条件はずっと悪いのである。よって、河川流量を大幅に減らす可能性が高い。

いっぽう、トンネルとが交差するあたりの大柳川は、険しい渓谷に滝が連続し、温泉も湧出しており、山梨県立南アルプス巨摩自然公園に指定された景勝地となっている。富士川町のホームページを見ると、遊歩道や吊橋や公園の整備された、重要な観光地であるようだ。
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富士川町のホームページより複製

また、環境影響評価書には記載されていないものの、大柳川の水は、流域の農業用水として利用されているらしい。

トンネルの建設により、大柳川の流量が減少したら、観光資源である滝がやせ細ったり、農業用水の利用に影響をきたすかもしれない…と考えるのが自然である。けれどもJR東海は、2013年9月発表の環境影響評価準備書では、具体的な予測結果を公表していなかった。数値シミュレーションを行っていないのに、「適切な対策をとるから影響は最小限にとどめられる」としただけなのである。これでは予測ではなく単なる願望である。

これが実物。
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環境影響評価準備書を複製・加筆

読んでみてわかるように、具体的な数字はいっさい載っていないのである。というわけで、こんな記載内容では、その影響が小さいとする主張の妥当性を検証することすらできない。それゆえ2013年3月に山梨県知事からは、次のような意見が出された。

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準備書に対する山梨県知事意見を複製・加筆

大柳川についてもキチンと調査・予測を行い、結果を評価書に記載せよというわけである。至極マトモな意見である。

こののち翌2014年6月に、JR東海は準備書を修正して評価書を作成し、知事意見への見解を示した。それがこちら。
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???

準備書での予測結果の記述内容が不十分であるから、きちんと予測を行って評価書に記載せよ」という意見に対し、「予測結果は準備書に書いてある」という見解である。

お気づきであろうか?

オウム返しになっているだけで、全く回答になっていないのである。

けれどもこの記述のままで環境影響評価が終了し、国土交通大臣も「適切に配慮すればよい」旨の見解を示して事業認可となってしまった。

環境影響評価制度における県知事意見というものは、行政指導という扱いであり、けっして法的強制力はもっていない。だから、それに従わなかったといっても、純然たる違法行為ということはできないであろう。けれども同法第33条では、事業者が適切なる環境配慮を行っているか否かを判断して事業認可しなければならないと定められているから、県知事意見にすら答えていない評価書に基づいて事業認可することは、国土交通大臣に付与された権利の濫用というべき大きな問題と言えるのではないか。

国土交通大臣の姿勢も問題であるが、それ以上に問題なのは山梨県行政の姿勢である。自らJR東海に課した意見書が無視されているのに、そんなことは等の昔のことと忘れてしまったのか、現在に至るまで、何一つ情報提供を求めていないのである。もしかしたら把握しているのかもしれないけど、少なくとも一般に公開されてはいない。

以上のように、大柳川の流量については、単なる環境破壊という枠を超えて、行政指導無視、権利濫用、行政の怠慢、情報非公開という4点がセットになっているのである。それなのに、今の今まで、この問題を指摘する声は寡聞にして聞かないのである。これはどうしたことなのだろう?




付言すると、リニアの巨摩南第四隧道は西側に向かった上り一辺倒であり、大柳川流域でトンネル内に漏出した地下水は、全て標高の低い北隣の小柳川流域の坑口へと流れ出す。そして大柳川流域に斜坑は掘らない。ゆえに、万が一流量が減少した場合、減った流量を戻すことは物理的に不可能である

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