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Channel: リニア中央新幹線 南アルプスに穴を開けちゃっていいのかい?
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南アルプス登山道 山梨と静岡とのダブルスタンダート

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”リニア反対派”への苦言を続ける。

例によって、また山梨県編の環境影響評価書の問題であるが、こんな馬鹿げた評価書を放置しておいて、反対も何もないのである。


今回取り上げるのは、「人と自然との触れ合い活動の場」である。


静岡市の二軒小屋ロッヂは、南アルプス南部の主要な登山拠点となっている。ここに来るには、静岡市街地からバスを乗り継いでくるのが主流である。それとは別に、山梨県早川町の新倉から、県境の伝付峠を越えてくるというルートもある。私は歩いたことがないけれども、結構多くの人に利用されているようで、早川町のHPにも掲載されている。

登山ガイド等を参照にすると、早川町新倉の田代入口というバス停で降り、内河内川沿いの車道を進み、車道終点の発電所からは崖っぷちの登山道を進み、やがて川から離れてつづら折りとなり、標高2000mの伝付峠を超え、大井川の二軒小屋に至るというもので、1日がかりのルートらしい。2011年9月の台風15号により大きな被害を受け、現在も復旧作業が続いているとのこと。話の都合上、このルートを「新倉~伝付峠~二軒小屋」としておく。

概略図を掲載しておく。

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新倉~二軒小屋付近拡大
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右端の田代入口のバス停付近が新倉である。

◇   ◇   ◇   ◇   ◇

勘のいい方はお気づきかもしれないが、「新倉~伝付峠」ルートは、リニアの建設工事予定地にあたるのである。

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山梨県編 環境影響評価書より複製・加筆

ルート前半の舗装道路沿いに、斜坑の設置が計画されているのである。この斜坑は、品川~名古屋間で最長の3900mが想定されており、そこから148万立方メートルの発生土が掘り出されるということらしい。といいうわけで、大量のダンプカーの通行が予想されるし、ダンプの他にも重機や資材や燃料を積んだ車両が大量に行き交うのであろう。ちなみに、新倉地区全体では、最大で月11000台前後の車両が稼働するとのこと。何か11000台なのか、詳細は不明である。

その工事による懸念は枚挙にいとまがないが、話の都合上、「人と自然との触れ合い活動の場」という観点に絞る。

登山とは、環境影響評価でいう「人と自然との触れ合い活動」であるから、それに影響を及ぼす可能性のある事項は、環境影響評価の対象にされるべきである。例えば、
●ルートの寸断・変更
●工事用車両の通行による快適性への影響
●視認性(目にはいるもの)の変化
●工事による騒音・振動
●登山口へのアクセスの変化
といった項目である。ところがJR東海は、2013年9月の準備書の段階では、このような事項が登山活動に与える影響については予測・評価を行っていなかった。

というわけで、準備書に対して山梨県知事から次のような意見が出された。
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「笹山1(新倉~伝付峠)と」いうところである。歩行者に影響が出る恐れがあるから、きちんと予測・評価せよというわけで、至極マトモな意見である。

で、JR東海の回答である。珍回答と言うほかない。
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予測・評価は行わないとしているのである。しかし、どのように読んでも理解不可能である。

「工事の進捗により周辺状況が変化すること」「影響が工事期間中に限定されること」が、なぜ予測・評価を行わない理由になるのだろうか? どのように変化するのか示すことが、環境影響評価の目的のはずであろう。

それから、「新倉~田代発電所付近までは登山道のみの使用として整備されているわけではない」という理由もつけているのだが、これは理由になるのだろうか?

訳のわからないことに、同じ登山ルートの静岡県側(伝付峠~二軒小屋)は、環境影響評価の対象にされているのである。
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静岡県編 評価書より複製

上述の通り、新倉の田代入口バス停から伝付峠を経て二軒小屋まで登山道が通じているのだが、静岡県側では環境影響評価の対象、山梨県側では対象外としたのである。この違いは何によるものなのだろうか? 

さらに、新倉~内河内発電所間の舗装路と同様に、工事用車両が通行する林道東俣線を、予測・評価の対象としているのである。

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静岡県編 評価書より複製


大井川沿いの林道東俣線も、登山者送迎用バスよりも、発電所管理や工事関係の車両が多く通行する道である。その林道東俣線が「登山者等の通行に影響を与える可能性がある」として予測・評価対象にあげているのに、峠を越えた山梨側では、同様な道路を予測・評価対象としないのはなぜなのだろうか?

静岡編の評価書での評価結果が妥当であったとはいえない。はっきり言って、デタラメである。それでも、評価対象としただけマシである。山梨では評価対象とするよう念を押されたのに、訳の分からないヘリクツを並べて拒んだのだから。同じ南アルプスの登山ルートなのに、事業者が合理的な理由もなく、勝手に二重基準を設けたとしか言いようがない。

その理由は論理的に説明されるべきである。


別に、登山道への影響など、リニア建設による大規模な環境破壊等に比べれば、些末な問題といえるかもしれない。しかし、環境影響評価の手続きは科学的に行わなければならないと定められているのであり、また、科学的かつ論理的に行うことによって、人々の合意形成を目指す手段でもある。それが非論理的に行われているのであり、しかも誰も是正しようとさえしないのだから、おかしな話であろう。

南アルプス地下のトンネル総延長は100㎞以上!

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南アルプスのトンネル計画について、リニア計画や南アルプスの環境保全に関心を持つ人々はもとより、「リニア反対派」の間でも、いまだに概要が伝わっていないようなので、簡単にまとめてみた。

こちらのリンク先をご覧いただきたい。



ところで、一番の誤解というか、伝わっていないと思われることは、トンネルの長さである。「南アのトンネルは50㎞」とよく言われるが、正しくは違う。

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確かに列車の走行するトンネルの総延長は約52.5㎞であるが、実は作業用トンネルの方が長いのである。現段階(2015年5月)にまで公表された、その他のトンネルの総延長は、事業主体が山梨県となる早川芦安連絡道路を含めると、約74㎞にも及ぶ。したがって合計は126㎞にも及ぶのである。

こんなにたくさん、余計なトンネルを掘るのだから、発生土の量がやたらと多くなっているし、河川流量の減少量も多くなってしまうのである。

つまり、工事による環境負荷がメチャクチャなものになっている理由は、2027年開業に間に合わせるために多数の斜坑を掘らなければならないという、無理やりな工期設定にあるといえる。

大井川の導水路トンネルって何のために造るのだろう?

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大井川の導水路トンネル案についてである。

この導水路案、トンネル湧水を放流することにより流量減少の対策にはなりうるけれども、水が戻ってくるのは本坑トンネルよりはるか下流であって、上流部の生態系への対策には一切役立たない。そのうえ、10万立米ほどの発生土を余計に増やしてしまうし、途中で沢の水を引き込むかもしれないという愚案である。

詳しくは過去のブログ記事をご覧いただきたい。


ところで改めて考えると、この導水路案というものは、何のために打ち出されたのか、よく分からなくなってしまう。

事業認可を受けた後、JR東海は「大井川水資源検討委員会」というものを設置した。そこでの検討結果として導水路案が出されたことを、今年4/14に、県に報告している。それに5月に入ってからは、大井川の流量減少を懸念している下流自治体に対しても、導水路案についての説明を行っている。ということは、単純に考えれば、水資源対策のために計画したと解釈される。

◇   ◇   ◇   ◇   ◇

ただ、分からないのは環境影響評価書における見解との整合性である。

JR東海は、大井川源流部の宿泊施設2地点(椹島ロッヂと二軒小屋ロッヂ)における井戸水位低下のみを、大井川の流量減少ことによる「水資源への影響」として評価書に記載している。下流の水利用についても影響があると考えているのかどうかは、評価書には明記されていないのである。

なお、流量が減少した場合の「水資源」に対する環境保全措置としては、「ポンプで汲み上げるなどを検討」としているだけであって、導水路の「ど」の字も出てこなかった。
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静岡編 環境影響評価書より

また、河川流量が減少することで影響を受けるものとしては、河川に生息する動植物、河川景観といったものがあげられる。しかしJR東海の見解では、流量減少による動植物への影響は、影響範囲はごく一部に限られることから小さいとし、河川景観に与える影響については議題にすらしないというものであった。当然、どちらについても大した環境保全措置は書かれていない。というわけで、生物や景観維持のために造るわけでもなさそうである。

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静岡編 環境影響評価書より


このように、河川流量減少による懸念についての見解は、
●景観への影響は視野の外
●動植物への影響は無視できるから特に対策はしない
●下流の利水に与える影響については明言せず
●井戸の水位は下がるかもしれない
 
というところである(渓流魚については最近、漁協から異論を受けて修正の可能性)

したがって、この評価書によれば、導水路など造る必要はないはずである。宿泊施設2地点の井戸水など、支流に簡易水道用の堰でも作れば簡単に確保できる量であろう。

それに、流量が毎秒2トン減少するというのは、あくまで予測であって、実際に掘ってみたらもっと少なくて済むということだってあるかもしれない(逆も然り)。流量が減少しないのに導水路なと造ったら、ムダに環境破壊を増やすだけに終わってしまう。
というわけで現段階では、そもそも必要かどうかも分からないはずである。「トンネル完成まではポンプで汲み上げる」としているのであるから、完成後に流量が減少したのを確認してから着工すべきである。それに、環境への影響を本気で考えるのなら、こんな導水路を掘るよりも電力会社と水利権交渉を行って渇水期に水を流してもらった方が、まだしも有効である。

◇   ◇   ◇   ◇   ◇

ではなぜ、現時点で必要性があるかどうかさえ不明な導水路案を、環境影響評価手続きの終了後に打ち出したのであろうか?

これは私の勝手な予想であるが、導水路ではなく放水路ではないかという気がするのである。

毎秒2トンという量は、トンネルとしては異例に大きな数字らしいけれども、長さを考えれば極端ではないらしい。トンネル竣工後における湧水量についてまとめた結果、次のような経験式が作成されているらしい。トンネル断面積も地質も無視した、ものすごく大雑把な式であるけれども。
http://mishi.weblike.jp/82_yusui_yosoku.html

(恒常流水量とトンネル湧水量との関係)
Q=0.1×L^2
 (相関係数 0.53)
Q:恒常湧水量(㎥/min)
L:トンネル延長(km)

この式に大井川流域における数字としてL=30を代入すると、式1では1.5㎥/sが導き出される(本坑10.7㎞+先進坑10.7㎞+斜坑6㎞+作業用トンネル数㎞)、。リニアのトンネルは断面積が大きいこと、破砕帯と川との交点をぶち抜くこと、川底に沿った位置にトンネルを伸ばすことを考えると、JR東海の予測した2㎥/sという数値は、これまでの経験則からみても、的外れな数字ではないと思われる。

ローカル色丸出しで恐縮だが、2㎥/sという値は、静岡市を流れる藁科川中流部での、冬場の流量に相当するのである。

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藁科川 奈良間水位・流量観測地点上流側
2015年2月1日撮影
今冬は降水量が多かったから、毎秒2トンよりも少し多いかもしれない。


こんなに大量の水が工事中のトンネル内をドバドバ流れるとしたら、はっきりいって工事を行うことも、トンネルを維持することも物理的に不可能であろう。だからこそ、途中に横穴をあけ、大井川に流してしまおうと考え、それを「導水路」と称してるのではないだろうか? 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇

いずれにせよ、導水路案と環境影響評価手続きとの関係が不明なままである。

「流量が減少したら下流の利水に影響を及ぼすかもしれないから導水路を造る」というのであれば、まずは環境保全措置としての導水路案の位置づけを明記したも環境影響評価書を作り直すべきであろう。

長野県虻川と青木川流量予測結果はどうなった? ―事業者の暴走を容認しているのは誰?―

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「隠れリニア推進派」のレッテルを貼られている以上、リニア反対派への文句を続けたい。当方の主張に不満があるのなら、コメント欄に書き込んでほしいところである。

「リニア反対派」は、リニアのトンネル建設によって河川流量や地下水位が低下する可能性があるとして、さかんに問題視しているようである。しかし、その「リニア反対派」の間からはなぜか全く問題提起されていないのが、伊那山地隧道の建設による河川流量への影響と、これまでの取扱いである。

虻川の問題に言及する前に、山梨実験線で水枯れを引き起こした時の土被りを把握しておこう。一般的にトンネル建設では、地表とトンネルとの厚さを土被りと呼び、これが300m未満になると水枯れの影響が出始める傾向にあるという。山梨実験線のトンネル工事では、谷底からの深さ180m程度の地点を掘ったところ、頭上の川の水を抜いてしまった(上野原市:棚の入沢)。この180mないし300mという数字を念頭においてほしい。

伊那山地隧道は、長さが15300mもあり、南アルプス横断53㎞のうち、西側約三分の一を占める。概要を、東からみてゆこう。

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図1 伊那山地隧道の位置(作者作成) 

リニアは、南アルプス本体部分を大鹿村の日向休という地点で抜け、小渋川の橋梁を渡る。橋梁の西側が伊那山地トンネルの東坑口である。

東坑口から約青木川をくぐりぬけて伊那山地の稜線を抜け、小渋川から3.5㎞の地点で、青木川をくぐり抜ける。土被りはわずかに40mである。しかも中央構造線沿いの破砕帯であり、地質条件は最悪である。破砕帯という部分では、岩が砕かれてボロボロになった水を通しやすい部分と、水を通しにくい粘土層とがセットになっており、地下深くにまで水を引き込んでいる可能性が高い。ゆえに相当な湧水が予想されるのである。特殊な工法が必要になるのではなかろうか。
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図2 青木川とトンネルとの位置関係
青字は川の標高、赤字は軌道の標高、黒字は土被り

村境の稜線をくぐり抜け豊丘村に入ると同時に虻川流域に入る。私が特に問題視しているのは、この虻川流域である。リニア建設による河川流量への影響としては大井川ばかりが注目されるが、手続き上の問題では、富士川町の大柳川が最悪じゃないかと思う。そして大柳川に負けず劣らず問題が大きいのが、伊那山地トンネル頭上の虻川の取り扱いである。大柳川は、知事意見でクローズアップされただけマシである。虻川はほぼ無視されているのに等しいのである。

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図3 虻川流域とトンネルとの位置関係

小渋川側坑口から8.5㎞ほどの地点で、虻川の主要な支流を2本くぐりぬける。どちらも土被りは200m前後であり、地上への影響が懸念される薄さとなる。

大問題なのが小渋川側坑口から10~11㎞の部分。このあたりで虻川本流直下を2回にわたり、土被り100m未満の薄さで掘り進めるのである。土被りが100m未満となる長さは、合わせて800m近い。先の青木川のように、川を直角にくぐり抜ける山岳トンネルというのは、これまでにもいくつか事例があるが、川底に沿ってこれだけの長さをNATM工法で掘り進めた事例など、前代未聞ではないだろうか? この部分には西から斜坑も掘り進められる。これも川に沿った計画であり、湧水量は多くなるであろう。

この区間の拡大図を図4に示す。
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図4 虻川とトンネルとの位置関係 詳細
長野県版環境影響評価書関連図より複製・加筆

まるで巨大な集水パイプである。何を考えて、こんなルート設計にしたのだろう?

以上のように川底をくぐり抜ける部分の土被りが薄いうえ、川底に接する距離が前例のないほど長いわけだから、河川水を大量にトンネル内に引き込んでしまうのではないかと心配される。水が抜ければ利水に影響が出るであろうし、何より川に生息する動植物に対しては回復不可能なダメージを与えてしまう。

それに、虻川は美しい渓谷となしているとのことで、豊丘村のホームページにも景勝地として紹介されている。http://www.vill.nagano-toyooka.lg.jp/02kankou/10abukawakeikoku/abukawa/index.html
川の水が激減してしまったら、渓谷美は失われてしまいかねない。

この伊那山地隧道は、西に向けて一方的な下り勾配である。したがって青木川および虻川から浸み込んだ水は、全て西側出口へと流れ去ってしまう。つまり、事後対応は物理的に不可能である。

◇   ◇   ◇   ◇   ◇

ところがJR東海は、環境影響評価の過程において、この青木川および虻川の流量変化について、公開された形での予測を行っていないのである。

もう少し具体的にみてみたい。

2013年9月の準備書、2014年4月の評価書においては、両河川の水環境については全く取り扱われていなかった。ところが上に述べた通り、両河川については様々な懸念があることから、環境大臣意見ならびに国土交通大臣意見において、きちんと試算を行うよう、意見が出された。これについて2014年8月にJR東海が最終的にまとめた補正版評価書では、「伊那山地の河川(=青木川と虻川)についても数値シミュレーションを行い結果を県に報告し、それに基づいて環境保全措置を施す。」という回答をよこしている。これがその文面である。

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表1 河川流量についての国土交通大臣意見とJR東海の見解 
長野県版環境影響評価書より複製・加筆
左欄が国土交通大臣意見、右欄がJR東海の見解


ところが、それから10か月が経っているが、JR東海がシミュレーション結果を長野県に報告したとも、長野県がそれを公開したとも、具体的な環境保全措置の内容が明らかにされたとも、全く耳にしないのである。それにもかかわらずJR東海は、大鹿村内で今年秋か冬の着工を目指しているという。

大臣意見では、その総論において「環境保全に関するデータを最大限公開し、透明性の確保に努めること」としているため、試算結果は公表されなければならないはずである。

そもそも、評価書に書かれた環境保全措置(環境保全のための諸対策案)が妥当かどうか客観的に検証するためには、試算結果は公表されなければ意味がない。希少動植物の情報とは異なり、非公開にする理由などないはずである。

それでも現段階まで公開されていないということは、

JRはまだ試算をしていない。
JRは試算をしたが県に報告していない。
JRは試算をして県にも報告したが、県が公開していない。

のどれかである。いずれのケースにせよ問題である。

①の場合は試算も行っていないのに着工を既成事実化させようとしていることになり、国土交通大臣意見をも無視することになる。国の行政指導まで無視する悪徳企業と言われても仕方がない。
②の場合は、自ら課した報告責任を放棄して着工しようとしているわけである。国土交通大臣意見に対して示した見解を、自ら破るわけである。
③であったら、試算結果を知りながら、県が情報公開を避けていたことになる。JR東海ではなく県が批判されるべき事態となる。

◇   ◇   ◇   ◇   ◇

さらによく分からないのは、こういう状況を巡る「反対派」の姿勢である。少なくともJR東海が国土交通大臣意見を軽視しているのは明らかであり、それを行政機関が放置しているのも事実である。「リニア反対派」が頻繁に口にする、情報非公開、法律軽視、住民軽視、環境保全の軽視、これに他ならない事態が現実に起きているわけである。

それにもかかわらず、今までのところ長野県庁に対して「虻川ないし青木川における試算結果を公表してほしい」という声が強く出されたことはないようである。もしかしたら個人レベルでは出されているかもしれないけど、少なくとも万人の知るところではない。不思議な話である。



最近、「JR東海は強硬姿勢!」という批判を頻繁に聞く。けれども、法律軽視という姿勢を住民側が容認している構図になっているのだから、さっさと着工したい事業者側が強硬姿勢に出るのは当然なんじゃないかと思うのである。

平成26年度静岡市南アルプス環境調査

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先週のことになるが、静岡市が委託して行った「平成26年度南アルプス環境調査」の結果が公表された。9日に公表されたのであるが、その後専門家からの指摘を受けて11日に修正版が公表された。

結果はPDFファイルとしてまとめられており、静岡市役所ホームページで閲覧可能である。

調査項目は、
●トンネルの存在による水資源への影響
●大気質
●水質
●動植物
である。

このうち、トンネルの存在による水資源の影響調査というのは、JR東海が環境影響評価において「大井川の流量が2㎥/s減少する」という予測結果を出したことに端を発している。

浅学菲才の身であり、情けないことであるが、数値シミュレーションの方法や予測結果の妥当性について言及するための知識は持ち合わせていない。このため、以下に述べることは、あくまで一般論として言えることにとどまることをお断りしておく。

このほど静岡市が委託して行った試算は、JR東海の用いたものとは異なるモデル式を用いて行われたそうである。また、JR東海から情報が提供されなかったため、斜坑(非常口)の存在は考慮していないということである。また、本坑に並行して掘られる先進坑についても言及していない。

この条件で試算した結果、全区間でのトンネル湧水量は1.5㎥/s、うち大井川流域において1.2㎥/sに達するという数字が導き出された。

上述の通り、大井川の川沿いに掘られる2本の斜坑の存在を考慮せずに1.2㎥/sの水が湧き出すと試算されたであるから、考慮した場合は、もっと多くなるはずであり、JR東海の試算した2㎥/sという値に近くなることが推察される。つまり、2種類のシミュレーションで、ともに似たような値が導き出されたといえる。

したがって、このほどの市調査の意義というのは、「2㎥/sの減少」が、シミュレーション結果としては「もっともらしい値」であることを示した点にあるのではないかと思うのである。



次に、動植物の調査では、県や国のレッドリスト掲載種などの重要種が46種確認され、JR東海の現地調査では確認されていなかった種が新たに13種見つかったという。なおJR東海の現地調査で確認された重要種は114種であった(と思う)。

この動植物調査の意味であるが、JR東海の調査を補完するという意味も持ち合わせているのであるが、それよりも「完璧な調査はありえない」ことを示したことが重要であると思う。つまり、完璧な調査はもとより不確実なのだから、それを見越して環境保全措置を講ずる必要があるということである。

市の調査では、JR東海が確認できなかった種が新たに13種確認されたわけであるが、逆に、JR東海が確認したにもかかわらず、市の調査で確認できなかった種も70種近くに及んだ。市の調査結果の末尾にも記されている通り、調査対象は生き物であるのだから、調査時の天候、調査年の気候条件によって出現する個体数や時期に変化が生じるのは当然である。それに動員した人数、調査範囲の面積によっても調査結果は左右されるであろう。樹上に生息する昆虫など、簡単に捕獲できるとも思えない。

というわけで、どれだけ調査日時をかけても、完璧な調査をおこなうことは不可能なのである。

だからこそ環境影響評価においては、既存の文献調査や、地元に詳しい人々からの聞き取り調査を徹底したうえで、「生息している可能性の高い種」については適切な環境保全措置を考案することが必要とされる。

◇   ◇   ◇   ◇   ◇

JR東海の作成した評価書では、現地調査で確認された重要種のみ、(比較的)詳しい予測を行い、環境保全措置を講じるという構成になっている。

いっぽうで”文献のみで確認された”という多数の動植物に対しては、ロクな考察もおこなわずに「生息・生育環境は保全される」などという見解を導いているのであるが、こんなことは論理的に不可能である。

JR東海の調査では、現地で確認できず「文献のみで確認された」とするヤマトイワナをめぐり、地元漁協から「実際の生息は確実なのだから環境保全措置を講じるべき」という異論が出て問題が大きくなり、さらに市の調査ではJR東海の調査地域近傍で確認されて混乱の様相を呈し始めている。これなんか、環境保全をロクに考えていなかったことが、混乱の原因であろう。

参考までに、「文献でのみ確認された」植物への予測結果を掲載しておく。

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文献のみで確認された重要な植物種に対する影響評価
環境影響評価書静岡編より 

140種の植物に対し、一律に同じ予測結果が出てくるなんてありえるのですかな?


外来種の侵入対策は? ―南アルプスが南アルプスでなくなってしまう― その1

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リニア建設に伴う環境破壊というと、

トンネル工事に伴う川の流量減少
希少動植物の分布地消滅
大量の工事用車両の通行に伴う生活環境の悪化
騒音・振動
エネルギー消費の増大 

といった問題が頻繁に取り上げられる。これらとに比べると、ほとんど話題に取り上げられることが無いのだけれど、良好な自然環境の残されている地域では、

外来動植物の拡散 

ということに、もっと注意が払われていいと思う。特にユネスコエコパークに登録されているいる南アルプスにおいては、その質の保全という点で、きわめて重要な問題である。

外来の動物・植物ともに重要な問題であるけれど、動物の問題のほうにはあまり調べがついていないので、とりあえず植物の方に偏った内容となっているが、ご容赦願いたい。

現在日本各地に広まっている外来植物の多くは、
●種子を大量につける
●種子が軽量・ごく小型で、風・水・物に付着するなどして散布されやすい
●他の植物の生育しにくい、やせた荒地でも育つ

といった特徴をもつ。キク科植物のように綿毛で風に載って運ばれてきたり、マメ科植物のように地下にバクテリアを共生させて栄養に乏しい地でも生育できるようにしたりと、工事によって生じた裸地やコンクリートの隙間などに真っ先に侵入するために、非常に都合のよい性質を備えているのである。

だから「人やモノの移動が活発、裸地の出現」という2大条件をそろえた、農耕地、造成地、流通施設、道路・線路沿いには、外来種植物がはびこることになる。現在では市街地・農耕地をとわず繁茂しているヒメジョオンやヒメムカシヨモギなどという草は、明治以降の鉄道敷設に伴って生育地を拡大してきたため、鉄道草と呼ばれていたこともあったらしい。
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放棄水田に繁茂する外来種植物の数々
白い花がヒメジョオン
手前に茶色く枯れているのはコバンソウ
その周囲の白っぽく枯れているのはヒメコバンソウ
緑色の葉はアレチノギクかヒメムカシヨモギ(正体不明)
2015年6月20日 静岡市駿河区にて

外来種植物の多くは、輸入穀物に紛れ込むなどして意図せずに運ばれてきたものであるが、中には荒地で育ちやすい性質ゆえに砂防目的で意図的に植えられるものや、近年では観賞用のものが野生化したものもある。
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オオキンケイギク
工事後の緑化用、または観賞用として北米より導入するも各地で野生化して問題化
2015年6月20日 静岡市駿河区にて


昨年1月に当ブログで指摘したことの繰り返しになるが、静岡県版の環境影響評価書によると、静岡県内の現地調査範囲内でみつかった高等植物は756種だという。このうちシダ植物を除く種子植物は686種であり、そのうち、明らかな外来種植物は以下の21種であった。
エゾノギシギシ (タデ科)
オランダミミナグサ (ナデシコ科)
イタチハギ (マメ科)
ハリエンジュ (マメ科)
コメツブツメクサ (マメ科)
ムラサキツメクサ (マメ科)
シロツメクサ (マメ科)
メマツヨイグサ (アカバナ科)
マツヨイグサ (アカバナ科)
アメリカセンダングサ (キク科)
コセンダングサ (キク科)
ダンドボロギク (キク科)
ヒメムカシヨモギ (キク科)
ハルジオン (キク科)
セイタカアワダチソウ (キク科)
ヒメジョオン (キク科)
セイヨウタンポポ (キク科)
コヌカグサ (イネ科)
シナダレスズメガヤ (イネ科)
オオクサキビ (イネ科)

なお、その後の追加調査で、新たな種が確認されているかもしれないし、また在来種に思える種の中にも植林されたはずの樹木が何種があるので、正確な数字は事業者でないと判断できない。とりあえず21種という数字も用いると、外来種植物の割合は3%ということになる。

同様の作業を、山梨県版評価書についておこなってみると、種子植物1186種のうち明白な外来種は約226種であり、その割合は19%である。また、長野県版評価書についておこなってみると、種子植物1200種のうち明白な外来種は約150種であり、割合は約13%であった(数え漏れがあるかもしれない)。

面倒なのでやる気も起きないけれど、東京都、神奈川県、愛知県版ならさらに比率が高いことが、容易に想像される。

これらと比較してみると、やはり静岡県版評価書における3%という数字は、かなり小さいのではないかと思う。

なお静岡県内の調査地点のうち、扇沢源頭の標高2000m地点(発生土置場候補地)で確認された種子植物は196種である。重要種として確認地点を伏せられた種が何種があるから、実際にはおそらく約200種というところであろう。このうち外来種植物は、シロツメグサ、セイヨウタンポポ、コヌカグサの3種である。割合は1.5%にとどまっており、品川~名古屋の全調査区域の中で、最も低い値であることは確実である。

◇   ◇   ◇   ◇   ◇

南アルプスへの外来種植物の搬入をこの程度で食い止めてきたのは、ひとえに一般車両の通行を禁じてきたからに違いない。

リニア中央新幹線の建設工事は10年以上に及ぶ。評価書によれば、その間は大井川源流部の東俣林道を使って、毎日300~500台の大型車両が、大量の物資と人とを乗せて、外部と南アルプスとを行き来することになる。この車両・積荷・ヒトに外来種植物の種子がくっついていたらどうなるだろうか?

工事にともない、表土をはぎとられる場所があちこちに生じることになる。さらに発生土置場という、植物の全くない裸地も広い面積で生じる。むきだしの地表が広い面積で現れることとなる。

そこに大量の種子が、フリカケのようにばらまかれてしまうのである。他の植物が生えていないのだから、外来種植物の種子にとっては競争相手のいない天国である。

高度成長期には、南アルプスでも電源開発や森林伐採が盛んに行われていたが、それでも外来種の侵入は21種に抑えられた。現在は、当時と比較して明らかに平野部や人家周辺の外来種植物は増えているのだから、種子供給源が増えていることになる。冒頭の写真のように市街地郊外には、訳の分からない外国産の植物がうじゃうじゃ生えているのである。工事用車両はそこを通ってくるのだから、種子を大量に付着させてくるに違いない。どこかの河原で採取される砂利(コンクリート材料)なんて、外来種種子のカタマリである。

当時以上に侵入の危険性が高いのは明明白白である。

◇   ◇   ◇   ◇   ◇

さらに困るのは、工事による改変箇所が外来植物の種子供給源となってしまう事態である。

現在の南アルプスの谷沿いにおいて、がけ崩れや倒木跡など、自然に生じる裸地の植生が復元してゆく過程を考えてみる。

裸地には、周囲からの飛散や動物の移動にともない、イタドリ、フジアザミ、ヤマハタザオ、ミヤマハンノキ、ノリウツギ、タラノキといった種類の種子が進入してくる。真っ先に侵入する在来植物のことを先駆性植物とよぶ。先駆性植物が成長し、土壌の流出を防ぎ、土地が安定してきたところでカラマツやアカメガシワなど明るい場所を好む樹木が生え、最終的にブナやミズナラ、高所ならオオシラビソ等の高木の茂る森林へと変わってゆくものと推察される。高校の生物で習う、「二次遷移」といわれる勝ち得である。

ところが、発生土置場等から飛散した外来種植物が、在来の先駆性植物と置き変わったら…その時点でアウトであろう。その場所を占拠し、在来の植物を締め出してしまう。 本来生えていた植物が失われるだけでなく、その植物をエサとしている昆虫にも影響を与えかねない。
 
さらに、そこが二次的な種子供給源となり、川の流れ、風、動物や登山者への付着により、奥へ奥へと運ばれていってしまう…。つまり南アルプスの生態系が、外来種の侵入によって本来の姿を失ってしまうおそれがあるといえる。

◇   ◇   ◇   ◇   ◇

外来種植物のなかには、いったん侵入してしまうと根絶が不可能なものが多い。セイタカアワダチソウなど、1本の株で数万の種子を飛散させ、根から化学物質を放出して他の植物を寄せ付けず、しかも根の切れ端から再生するとなっては、ほとんど無敵である。

最近増えているセダムとよばれる類いも強い生命力をもつ。筆者の個人的な経験であるが、2㎝の切れはしを机の上に放置し、干からびたのを植木鉢にに置いておいたら、そこから復元してしまった。以後、水も肥料もやらないのに、ベランダの隅で6年余りにわたり毎年花を咲かせている。ほとんど不死身である。
イメージ 3
海岸の護岸にびっしりとはびこったセダムの一種(オカタイトゴメ?)
葉に微小な突起があり、原産地不明の園芸種オカタイトゴメと判断した。
2015年6月20日 静岡市駿河区久能海岸にて

このセダム、さらに厄介なことに、見た目が在来種のタイトゴメにそっくりである。こういうのは、外来種なのか在来種なのか、簡単に見分けがつかないのである。イネ科植物にも在来種との見分けのつきにくいものが多い。

こういう種では、うかつに刈ったりして対応することができない。刈ってみたら希少種であった…では困る。

それにここは南アルプスである。むやみやたらに除草剤を散布するわけにもいくまい。

◇   ◇   ◇   ◇   ◇

したがって、
●現在確認されている外来種についてはこれ以上拡散させないこと
●これ以上侵入させないこと

が重要である。

ところが環境影響評価書においては、どちらもマトモに検討しているとは言い難い。

現地調査で確認された外来種植物の数を挙げたが、あれは私が一覧表を眺めて数えたものである。ふつう、こういう作業は事業者がおこなって評価書に記載しておかねばならない。長野版ではどこで何の種が確認されたのかも分からず、評価書としての役割を果たしていないのである。つまり外来種植物の繁茂現況についてさえ整理・公開していないわけで、非常識だと思う。

また、評価書記載の環境保全措置として、タイヤ洗浄を行うことが掲げられている。同じく資料編には、具体例として、国土交通省による富山県の立山カルデラ砂防事業における報告がコピーされている。

タイヤ洗浄は、やらないよりはマシなので、行うこと自体に異論はないが、それでよしとする認識が誤りである。立山カルデラでの報告では、
タイヤ洗浄装置の検証の結果、工事車両等のタイヤによって外来植物が運ばれてくることが一因であると判明し、洗浄装置によって種子の侵入抑制に一定の効果があることが実証された
と結ばれている。つまり、タイヤ洗浄は万能ではない。

当たり前のことで、ダンプカーの車体にもくっついてくるだろうし、何より荷台・積荷に付着してくる場合には、タイヤ洗浄では対応できない。考えてみてほしい。外国から外来種が運ばれてくるの経路は、意図的でなければタイヤ付着ではなく積荷付着である。

トンネル建設には大量のコンクリートが必要である。その材料である砂利やセメントは、平地から遠路はるばる運んでくるのだという。セメント材料(砂利)にくっついている種子にはどうやって対応するのだろう?


続くけど、長くなるのでまた次回。

発生土置場の早急な緑化? ムチャだって

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個人的にいろいろと立て込んでいて、久々の更新になります。
それから昨日(5日)、南アルプス山中にてJR東海が設置した”専門家会議”による、導水路についての現地視察があったようですが、これについて言いたいことがあるのでまた後日。


リニアの建設工事により、南アルプスに外来種の動植物が搬入して生態系を乱すおそれについて、もう少し続けたいと思う。

トンネルを建設するのに必要なコンクリート骨材は、現地で調達するのではなく、南アルプスの外から運び込むのだという。

リニアのトンネルの掘削断面積は107㎡である。そして内空有効断面積(トンネル断面積から設備分を差し引いたもの)は74㎡となっている。ということは、33㎡は壁やガイドウェイで占められる。ガイドウェイ等を除いた30㎡程度がコンクリート壁ということになであろう。静岡県内における掘削延長は9400mということなので、
30㎡×9400m=282000㎥のコンクリートが必要となる。

その他のトンネルについて、本坑と同じ断面構造であると仮定すると、
先進坑⇒掘削断面積55㎡なので壁の断面積は約17㎡
 17㎡×9400m≒160000㎥
斜坑⇒掘削断面積68㎡なので壁の断面積は約21㎡
 21㎡×6600m≒139000㎥
道路トンネル⇒掘削断面積41㎡なので壁の断面積は約12.6㎡
 12.6㎡×8500m≒107000㎥

トンネルの壁を構築するのに必要なコンクリートの量は、688,000㎥という数字が出てきた。

さらに、林道東俣線を舗装する計画である。
舗装の厚さを10㎝とすれば、必要なコンクリートの量は
0.1㎡×35000m×4m≒14000㎥
となる。アスファルト舗装ならまた違った値になるだろうし、舗装下に敷き詰める砕石をどこから調達するのかも分からない。

まあ、ざっと見積もって合計約70万立方メートルというところではないだろうか。

コンクリートの原料は、水、セメント、骨材(主に砂利)である。このうち骨材は、容積比で約3/4を占めるという。というわけで、70万立方メートルのコンクリートを造るのに必要な骨材の量は、約53万立方メートルといったところであろう。

これだけの砂利を、どこかから南アルプス山中へと運び込んでくるわけである。これに外来植物の種子や切れ端が混ざっていたらどーなるんだろう?

きれいに洗って1立方メートルに1粒くらいにまで混入を減らしたとしても、それでも5万粒…?

大量の砂利は、ダンプカーで次々運び込み、コンクリートプラントにザーッとぶちまけられることになる。そして水やセメントと混ぜてコンクリートを練り上げることになる。もちろん周囲を壁や屋根で囲まれるだろうけど、2㎜程度しかない綿毛付の種子なんかは、ぶちまけた衝撃で簡単に飛散してしまうだろう。

対策可能なのだろうか?
環境影響評価書には、砂利に種子が混入しているリスクについては全く言及していないのである。

種子だけでなく、最近ではアルゼンチンアリなどという外国産のアリなんかも紛れ込んでいるおそれがあるというが…。

◇   ◇   ◇   ◇   ◇

もうひとつ懸念されるのは、発生土置場の緑化である。

発生土(あるいは残土)といっても正体は土ではなく砕かれた岩である。これに草木を植えても育ちようがないから、何らかの手段によって土壌を作る必要がある。
ど~するんだ?
環境影響評価書には、発生土置場での緑化方針として次の図が掲載されているけれども、

イメージ 1

こんなのは論外である。

種子吹付というのは、工事によって出現した丸裸の地表に、素早く成長する植物の種子を、機械によって吹きつけるという工法である。手っ取り早く緑が回復することから、道路工事や造成地で頻繁に用いられている。手っ取り早く緑が回復するのだが、どーいうわけだか用いられている種子はほとんど外国産のようなのである。

これは静岡市内に最近できた公園&砂防工事の事例である(県と市の事業)。
イメージ 2
日本平一角に、斜面を削って造られた公園なのだが、3月上旬にも関わらず、結構、緑が保たれている。こりゃなんだろうと思って初夏まで待ったら、どうもヨーロッパ原産のカモガヤ(別名オーチャードグラス)なるイネ科の草であった。

建設費を抑えるためなのだろうけど、こういうことを林地のそばで安易に行うべきではないと思う。それでもここは、もともと茶畑だった場所であり、住宅地にも接しているという、人為的影響の強い場所だから、外来種を用いても、まだ許されるかもしれない。だけど、南アルプス山中では絶対にやってはいけないことである!

◇   ◇   ◇   ◇   ◇

ところで、評価書をみた限りでは、どうも緑化についての方針がいまひとつ分からない。いや、緑化に限らずあらゆる項目について言えるんだけど…。

例えば評価書にはこんな記載があった。
イメージ 3

施工ヤード(発生土置場を含む)跡地は、在来種によって早急に緑化することにより、外来種が繁殖するスキを与えないのだという。

書いてあること自体は正論である。

けれども、どうやって実行するんだ? 


小規模な面積を緑化するのであれば、いったんはがした表土を別の場所で保管しておき、盛土後にかぶせて草木を育成するという手法が可能である。もともとその場所にあった土だから、生えてくる草木も、その場にもともと育つ種になり、自然な植生が再現されるというわけである。国立公園内などでは、この手法が用いられる事が多いそうだ。

けれどもJR東海が南アルプスで計画している発生土置場は条件が全く異なる。

発生土置場を緑化する目的は、雨や凍結・融解などにより、発生土が崩れ落ちるのを防ぐためである。したがって安全性の面からは早急に緑化する必要がある。けれどもここは南アルプスの山中であるから、長い年月をかけてでも、元々の植生を復元しなければならない。

この相反する二つの目的を達成しなければならない。はっきり言ってムリであるから、そんな無茶なことをこんな場所でやるほうが間違っている。

ムチャであることをもう少し具体的に考えてみる。

例えば大井川河原(燕沢付近)に計画している「最大高さ50m、最大長さ1000m」の発生土置場について、必要となる面積をざっと試算してみると、発生土360万㎥を盛土するにあたり、勾配30度で盛土すると、表面積は170000㎡ぐらいとなる。サッカー場なら20~25面分ぐらいとなる。(簡略化のため、平均高さ30m、平均長さ700m、平均幅150mで試算)

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この場所はもともと河原であったのだから、表土をはがして盛土表面に張り付けても、あまり緑化効果は期待できない。河原の植生を盛土上に復元しても、安定した状態にはならず、緑化の本来の目的土砂の流出を食い止めることを達成するのは困難であろう。

したがって土壌の育成から始めなければならないのである。

もともとの土壌に乏しい場所の場合、土壌をその場で手作りしなければならない。膨大な量の腐葉土や土をどこかから運び入れなければならないが、そこに外来種植物の種子や病害虫が持ち込まれてしまうおそれがある。

コストさえかければ、高度に処理した腐葉土を購入することも可能だろうが、やろうとしているのは家庭菜園ではなくサッカー場20面以上の緑化である。ただでさえいろいろなコストをケチっている会社であるから、もしかすると東南アジア産の腐葉土なんてのを使いかねない(最近園芸店でよく見かける)。

在来種の緑化のためには、地元産の苗木も手間暇かけて育成しなければならない。木を植えても大きくなるまでには何年もかかるから、それまでの”つなぎ”になる在来種の草を育てなければならない。大面積に播く大量の種子を、地元でどうやって確保するというのだろう?

最近では、「在来種を植えればよい」という要求が高まる一方でコスト削減の要請から、「在来種だけど外国産」という、訳の分からないものが用いられるケースが増えているという。マメ科のメドハギ、コマツナギといった種で横行しているようであるが、地元産だけではとても要求に見合うだけの種子が確保できないから、中国産などの種子を播いてしまうというわけである(食品の世界と同じ)。これが正しい姿なのかどうかは分からないけれども、「ユネスコエコパーク」といういう場では行うべきではないだろう。

それからここは寒冷地である。年の半分近くは土壌が凍ってしまうのだから、凍害にそなえて、丸太やワラなど、様々な資材を持ち込んで土木工事も施す必要がある。こういうものに外来種の種子が混入してくるのではあるまいか?

「在来種による緑化等に努める」と書いてあっても、ハッキリ言ってそれを実行するための方針が全く示されていないのだから、まるっきり信用ができない。ムチャである。

ちなみに南アルプスの聖平という地点で行われている植生復元事業では、土壌流出防止に用いる材木について、地元井川産の杉を熱処理したうえで用いているらしい。果たしてJR東海に、そこまで行う気構えはあるのだろうか?





大鹿村の送電線地下化はムリ? ―静岡ではできたのに?―

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リニアの南アルプス横断トンネルの西側坑口となる長野県大鹿村では、様々な環境破壊が懸念材料にあがっている。

そのうちのひとつに、送電線による景観破壊というものがあげられる。

大鹿村は美しい山里・山岳風景が重要な観光資源となっており、「日本で一番美しい村」連合に加盟しており、また存在全域が南アルプスユネスコエコパークに登録されているということもあり、その景観の保全は重要な課題である。

ところがリニアの建設においては、村内に変電所を設け、送電線を設置するという計画である。送電線は鉄塔を介した高架構造となるため、景観に大きな変化を及ぼしかねない。というわけで、村からは送電線を地下化するよう意見書が出され(知事意見への掲載はされなかった)、現在も村内での対策委員会で議題にあがっているようである。ちなみに評価書においては、「変電所は主要な眺望点(公園)から見えない位置に造るのでフォトモンタージュ(完成予想図)は不要」とし、マトモに扱っていないという、いい加減な記載となっている。

ところで、送電線を設置するのはJR東海ではなく電力会社である。大鹿村の場合は中部電力となる。大鹿村議会委員の方のブログによると、その中部電力は「地下化は難しいので架空線にしたい」と説明しているという。なんでもリニア用の15万4000キロボルトの送電ケーブルは耐用年数が30年程度しかないとか、7万7000キロボルト以下のものと違って特殊なものを使用しているとか、そんな説明らしい。

この話を聞いて、

ん?

と思ったのである。というのも、静岡市郊外において、住民からの要望によって高圧送電線を地下化した事例があるからなのだ。

静岡駅から北へ約11㎞に、「中部電力駿河変電所」がある。そこから東、清水港の北側にある「東清水変電所」まで山越え谷越えて16㎞の送電線を最近敷設したのだけど、そのうち安倍川を越える3㎞弱の区間が地下化されたのである(2013年完成)。

中部電力のホームページ 「275kV駿河東清水線・東清水変電所の完工」

地形図と空中写真で見るとこんなロケーションである。右側の空中写真で示した赤い点線部分に、地下送電線が埋設されているとのこと。

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中央にある橋の西側から撮影した様子。無理矢理合成したのでゆがんでいるけれども、それはご愛嬌。
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安倍川右岸(西岸)にある変電所に深さ64m、内径10mの縦穴を掘り、そこから安倍川を挟んで北北東約2,6㎞にある山の中腹まで、シールド工法でトンネル(内径3m)を掘って、その中にケーブルを敷設してあるらしい。

トンネル自体の工法についてはこちらに報告書が掲載されている。

最初は安倍川に鉄塔を立てて架設する計画であったが、周辺から電磁波への不安、景観阻害、騒音(風切音)への強い懸念が出され、協議の結果、地下化にいたったと記憶している(当時の新聞記事を探し出せませんでした)

何だかわからないけれど、この鉄塔の高さは通常(?)のものの5倍くらいあるように見える。山の中でもわざわざ地上から離しているのには、何か事情があるのだろうか…?

いずれにせよ、大鹿村を所管する中部電力が、静岡市では住民からの要望によって3㎞とはいえ送電線の地下化を実施しているのである。しかもリニア用の15万7000キロボルトよりも容量の大きな27万5000キロボルトである。川をくぐっているのだから、シールド工法とはいえ湿度が高く、環境面でも劣悪なんじゃなかろうか。


静岡市の事例を持ち出したが、よくよく考えれば、自然条件や景観保全条件がとりわけ厳しい北アルプス黒部峡谷でも、関西電力は発電所や送電線など、大部分の施設を地下化しているのである。そこまでのコストをかけてでも実行しなければならないプロジェクトだったのであろう。

大鹿村にて「地下化は難しい」のは、単純な技術面の問題というより、 「JR東海から提示された予算・工期では地下化は難しい」のではあるまいか?

リニア計画は、地元から要望されたものではなくJR東海が「民間事業」として行うとするものである。国民の合意に基づいているわけでもない。村の住民から見れば、そんなものに付き合う義務なんてないはずである。景観保全が求められる村を通させていただく以上、その村の意向に沿うのは当然なんじゃなかろうか?



ご指摘を受け、内容をやや修正しています(7/12朝)。中部電力の説明について、ブログでは当初「地下化は技術的に不可能」としていましたが、正しくは「難しいから架空線にしたい」という説明だったとのことです。

リニア 大井川導水路案は評価書で言う環境保全措置に該当するのかな?

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リニアの南アルプス横断トンネルによる、大井川の流量減少への懸念にまつわる話である。

かなりややこしい内容であるので、環境影響評価書そのものと見比べながらお読みいただけると幸いである。

先日、JR東海の設置した有識者会議「大井川水資源検討委員会」のメンバーが大井川源流部の導水路建設予定地を視察したらしい。詳細は不明であるが、早急に計画を具体化させ、秋にも地質調査等を開始すべきとのこと。

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図1 導水路案の概要
JR東海ホームページより

県庁での審議状況などによると、この導水路案は、JR東海としては「環境保全措置」というつもりなのらしい。ただこの導水路案、地元の専門家はもとより静岡市長からも懸念の声があげられているところである。私自身も妥当性に疑問を持っているので、そのあたりの問題点については過去のブログ記事を参照していただきたい

ところでよくよく調べてみると、環境影響評価書で示された環境保全措置との違いがあまりにも大きく、整合性がとれていないのではないかと思う。主に4点である。

A 導水路案は評価書でいう環境保全措置に該当するのか?
B 保全する対象が曖昧である。
C 導水路自体が無用の自然破壊になるおそれを検討していない。
D 導水路を環境保全措置に位置付けた場合、評価書に記載された内容が大幅に否定されることになる。 

要するに、これを実行した場合は、これまでのJR東海による説明や環境影響評価手続きの内容とは、全く事情が異なってくるというわけである。環境保全措置としての妥当性を議論する前に、このあたりを整理すべきではあるまいか?

◇   ◇   ◇   ◇   ◇

A 導水路案は評価書でいう環境保全措置に該当するのか?  
 導水路案は、トンネル工事によって大井川の流量が減少し、水利用に影響が出るケースに対処するために建設されるものと解釈されることから、評価書に記載された水資源に係る環境保全措置に該当するように見受けられる。今年4/14に県庁で開かれた中央新幹線環境保全連絡会議の場においても、JR東海はそのような説明をしている。

しかし評価書に記載された環境保全措置の内容(図2)には、導水路を設置してトンネル湧水を放流し流量減少に対処するという案は示されていない。そのうえ、現在までに明らかにされている内容は、Dで後述の通り、評価書記載の環境保全措置を否定するものであることから、環境保全措置には該当しないとも解釈されるのである。

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図2 環境保全措置の概要
評価書をコピー・加筆

 導水路が評価書でいう環境保全措置に該当しない場合は、環境影響評価法の上では施工上の都合で設けられる施設(例えば排水路)という位置づけになり、保全措置としての機能は副次的な扱いとなりかねない。解釈次第で、環境保全のための議論の方向性が左右されるおそれがあるため、この点は整理されるべきではないだろうか。


B 保全する対象が曖昧である。 
 評価書においては、各種の水利用、動物17種、生態系3種について、大井川水系の流量が減少した場合に与える影響を予測している。ところが予測結果において、導水路を必要とするような影響が生じるおそれがあるとは記述していないのである。したがって評価書を文章通り忠実に解釈すれば、導水路を環境保全措置として設置する必要はないことになる。保全対象が曖昧である以上、保全のあり方や有効性をめぐって、水を利用する側や環境保全を求める側とJR東海との間に、認識の齟齬が生じるのではないかと懸念されるところである。その内容についてみてみよう。

●水利用
 評価書においては、水資源にかかる影響評価対象とする地域は「トンネルの工事及び鉄道施設の存在に係る水資源への影響が生じるおそれがあると認められる地域」であると記述されている(図3)。

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図3 水資源の調査地域
評価書をコピー

これを受け、JR東海が把握した「調査地域」における水利用の実態としては、水産用水、個人井戸(二軒小屋・椹島両ロッヂ)、発電用取水が挙げられている。一方、島田市など大井川中・下流域における上水道や農業用水等への利用については言及されていない。したがって評価書の上では、中・下流域は「水資源への影響が生じるおそれがあると認められる地域」に該当していないことになる。予測結果(省略)において、流量が減少した場合に水利用に与える影響例として、椹島・二軒小屋の井戸だけを対象とした見解が導かれていることや、法に基づく事後調査は「地下水を利用した水資源に与える影響の予測の不確実性」を理由として行うとしている(図4)ことも、この認識に基づくものと考えられる。


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図4 事後調査計画
評価書をコピー・加筆

図4の赤線部をご覧いただきたい。地下水の利用(=井戸)には影響が出るかもしれないから事後調査を行うとしているが、河川水の利用への影響については一切言及していないのである。

このほか、調査地域内における水産用水や発電用取水に及ぼす影響については予測すら行われておらず、扱いが不明のままである。 

 つまり評価書の構成上では、「流量が減少した場合に影響が生じるおそれがある」とJR東海が認めている水利用とは、椹島や二軒小屋の井戸に限定されている可能性が高い。したがって導水路を水利用に係る環境保全措置として設けるのであれば、それは中・下流の水利用への保全措置ではなく、あくまで椹島ロッヂにおける井戸利用のみを保全対象として建設するものと解釈されてしまう(二軒小屋の井戸へも対応できない)。椹島ロッヂにおける水の使用量は不明であるが、水位が低下した場合に導水路を必要とするほどであるとは考えられず、導水路設置の根拠としては不自然である。
 
●動物・生態系
評価書「8-4 動物・植物・生態系」における、水生動物各種(重要な動物17種、生態系3種)に係る予測結果においては、「本種の生息環境である河川の一部で流量が減少すると予測されるものの、同質の環境が広く残されることから生息環境への影響は小さい」という表現が用いられ、流量が減少した場合における環境保全措置については言及されていない。一例を図5に掲げる。すなわち本評価書においては、流量が減少しても影響は小さいのであるから、動物・生態系への環境保全措置という面からも導水路を建設する必要性はないはずである。

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図5 河川に生息する動物に対する予測結果(渓流魚のアマゴの例)
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Ⅲ 導水路自体が無用の自然破壊になるおそれを検討していない。  
 そもそも、大井川の流量が大幅に減少するという試算は、あくまで予測であり、実際に減少するか否かは、トンネルが貫通するまで不明であるはずである。一方で導水路の建設は、発生土と工事車両の増加という環境負荷要因に直結するほか、頭上の沢の流量や本流の水質等への影響が懸念される。したがって導水路を早期に完成させたにもかかわらず、トンネル完成後にも流量が減少しなかった場合には、無用な自然破壊を増やすだけになってしまう

ところが、JR東海が導水路案の根拠とする「大井川水資源検討委員会」の議事概要・資料によれば、このようなおそれについては全く検討がなされていないようなのである。それにもかかわらず、早期着手が望ましいのだという。これでは、導水路建設が無用な自然破壊につながるおそれを排除できず、問題ではないか


D 導水路を環境保全措置に位置付けた場合、評価書に記載された内容が大幅に否定されることになる。   
 前項と重複するが、導水路の必要性は本坑の貫通まで不明であるはず。そもそも評価書における水資源についての環境保全措置は、「工事期間中はポンプ汲み上げにより流量は減少しない。この間に湧水の状況を監視しながら影響を見定め、適切な環境保全措置を選定する。」という方針(図6)を基本として環境影響評価手続きが終了し、その一環として事後調査が行われているはずである。

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図6 環境保全措置の方針
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ところが「第2回大井川水資源検討委員会」での審議結果(図7)のように、大量にトンネル湧水が発生することを見込んで早期に導水路建設に着手するのであれば、図6に示された内容が全面的に変更されることになってしまう。

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図7 第2回水資源検討委員会議事概要のコピー
JR東海ホームページより 

ご覧のとおり、図7でオレンジの枠で囲った提言は、図6における評価書での環境保全措置の方針とは、全く異なる内容なのである。図7を新たな方針とするのであれば、評価書は否定されることになる。


次に、中・下流域における水利用へ保全措置に位置づけるのであれば、水資源に影響を及ぼすおそれのある地域が評価書作成時点よりも広範囲に及ぶことを、JR東側が認めることとなる。

あるいは、河川に生息する動物・生態系への対策とするのであれば、評価書に記した17種の動物および生態系3種についての予測結果と保全措置とを否定することになる。もう一度、図5のアマゴの項目をご覧いただきたい。影響は小さいのだから、その内容に従う限りでは導水路なんて無用のはずである。

ゆえに、評価書を変更せずに導水路を建設するのであれば、影響が生じないと結論付けられた懸案に対して大掛かりな施設を建設して対応することになり、書面の上では屋上屋を架すことになってしまう。

もしかするとJR東海や大井川水資源検討委員会としては、「万が一に備えて導水路を造っておいた方がよい」という考え方を持っているのかもしれない。それならば、導水路建設による環境負荷と、それによって得られる効果とを見比べて最善策かどうか検討しなければならないはずである。現段階では、Cで指摘したリスクすら検討していないのだから、未然防止策としては不適格であろう。

このほか、少なからず発生土置場の拡大、工事用車両の通行台数の増加、新たな施工ヤードの設置など、評価書における各種予測の前提も変わることになる。


◇   ◇   ◇   ◇   ◇

以上のように、導水路を環境保全措置として位置付けた場合には、現在の評価書との間に大幅な矛盾が生じるため、それを放置することは好ましくなく、評価書の修正が必要ではないかと思う。


近いうちに静岡市役所でも市による専門家会議が開かれるらしいが、そもそも導水路案は環境保全措置といえるのか、実態は単なる排水路じゃないのか、そのあたりを精査していただきたいと強く願う次第である。

大井川河原に巨大盛土&導水路で評価書が有名無実化?

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7月14日に静岡市役所で開かれた市環境影響評価専門家会議において、JR東海は、静岡県内に掘り出される発生土全量を、燕沢付近の大井川河原に集約する案を説明したという。
(静岡新聞記事)

先日の導水路案といい、話が二転三転しているわけで、もうムチャクチャである。国立競技場の問題なんてかわいいものという気がする

この場所における立地条件の問題は、このブログで何度も指摘した通りである。
●河畔林の消失
●土石流をためるスペースの消失
●河道の直線化
●林道東俣線からの景観阻害

これら具体的な問題とは別に、環境影響評価手続きにおける説明や評価書の記載内容が大幅変更されることも問題ではなかろうか

これまでJR東海は、静岡県内に出される発生土約360万立米について、7つの置場を候補地にあげながらも、どこにどの程度運び込むのかは具体的なことは何も明らかにしないまま、環境影響評価手続きを進めてきた。発生土の運搬・処理計画が不透明であったから、評価書の様々な前提もまた、詳細が不明なままだったのである。

環境影響評価手続きにおいては、7つの候補地のうち燕沢と扇沢源頭の発生土置場は規模が大きく示されており、とくに扇沢源頭についてはわざわざ道路トンネルを掘ってベルトコンベヤで運び上げるという説明をしていた。したがって、扇沢源頭に大半を運び上げ、燕沢付近に残る大部分を運び入れるのではないか、そのようなことを推定するしかなかったのである。
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図1 発生土置場の位置
評価書をコピー・加筆 

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図2 大井川源流部における工事計画
評価書記載事項をもとに作成 

ところがここにきて、扇沢に発生土を置くのはやめて燕沢付近に全量を集約するという説明を始めた。扇沢というのは、大井川の谷底よりも500mも高い標高2000mの稜線上であり、そんな場所に発生土を積み上げるのは「壮大な土石流実験」としか言いようのない、あまりにも常軌を逸した計画であったから、扇沢をやめること自体は当然である。

それでは、評価書の様々な前提条件はどうなったというのだろう?


ちょっと考えてみても、以下のような項目が変更されるんじゃないかと思う。
A 工事計画全般
B 二軒小屋ロッヂにおける騒音・振動予測結果
C 燕沢における改変規模の拡大
D 動物・植物・生態系に対する環境保全措置の実効性
E 人と自然との触れ合い活動の場への影響
 

A 工事計画全般 
当たり前だが、これまで数か所に分散するような話をしていたのだから、それを燕沢一か所に集約するとなれば、評価書に書かれている各種の図も、工事の手順も使用される機械や車両の数も、あらゆる工事計画が変わってくる。したがって環境への影響の形態も、必要とされる環境保全措置も変わってくるはずである。

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図3 工事計画概要の変更
茶色の線が発生土の運搬ルート(破線はトンネル内)

B 二軒小屋ロッヂにおける騒音・振動予測結果 
二軒小屋ロッヂは、大井川最上流部に位置する宿泊施設である。荒川岳、伝付峠・早川町、蝙蝠岳・塩見岳方面への登山拠点となっている。渓流釣りの拠点でもある。

登山者・釣り客が利用することから、工事用車両の通行による騒音や振動が心配されるところである。したがってアセスにおいても予測がなされ、二軒小屋ロッヂにおいては53デシベルという試算結果が出された(この数字自体、試算前提が疑わしいのだけどそれは割愛)。これは環境基準以下であるから問題ないという結論である。
しかし燕沢に発生土を集約する場合、この数値は異なってくる。というのも、西俣斜坑(二軒小屋より奥)から掘り出される発生土は、二軒小屋の北側をベルトコンベヤで素通りし、扇沢源頭の発生土置場に運ばれるという条件で評価書が作成されているからである。

つまり新たな案だと、ベルトコンベヤで扇沢へ運ばれるとしていた発生土が、全て二軒小屋を通って燕沢に向かうことになる。ダンプカー輸送の場合、長野版評価書から類推しておそらく1日に500往復は必要となろう。すると、騒音や振動の値は大幅に変わってくるはずである。

西俣斜坑から燕沢までベルトコンベアを敷設するならダンプカー通行に伴う問題は小さくなるが、その場合は道路沿いか河原に、4~5㎞にわたる大規模な敷設工事を施さねばならず、それはそれで、土地の改変や樹木の伐採を伴う新たな環境負荷となるおそれがある。東日本大震災の被災地で、住宅地の造成のためにベルトコンベヤが敷設されているが、それらを見た限り、仮設とはいえ相当に大規模な構造物のようである。

C 燕沢における改変規模の拡大 
「工事に伴う改変区域をできる限り小さくする」ということが、発生土置場が動物の生息地、植物の生育地、生態系、景観に与える影響に対しての環境保全措置として評価書に掲載されている。もちろん、方針としては間違っていない。

ところが、これまで複数の場所に分散して盛土するとしていたものを燕沢一か所に集約するのであるから、燕沢における盛土の規模はこれまでの説明以上に大きくなる可能性が高い。これまでは破壊しないとされていた場所も改変の対象となるかもしれず、環境保全措置としての実効性に疑問がつく。

D 動物・植物に対する環境保全措置 
そのほか動物・植物に対する環境保全措置は表の通りであった。燕沢に発生土を全量集約するのであれば、「?」を付した項目には、その有効性や実効性について、疑わしさが生じてしまうように思われる。
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重要な種の生息地の全体又は一部を回避 
先に述べた「工事に伴う改変区域をできる限り小さくする」と、同じような疑問がある。

側溝及び注意看板の設置 
これは、周辺に希少なサンショウウオなど希少な小動物が多く生息していることから、路上轢死を避けるための手法として掲載されたものである。注意看板なんぞ設置したところで、ダンプカーの運転席から体長5㎝のサンショウウオなど見えるはずもなく、環境保全措置としての効果はきわめて疑わしい。

それはともかく、もしも東俣から燕沢へ、林道を大量のダンプカーが通行するのであれば、側溝や注意看板ごときでは何の意味もなくなってしまう。大鹿村並みの通行台数になれば、20秒足らずの間隔でダンプが行き来することになり、サンショウウオ等が無事に道路を横断することは困難になってしまうのである。

資材運搬等の適正化 
新しい案では、燕沢の発生土置場には2つの斜坑からダンプカーが集結することになる。1本道であるから、適正化なんぞやりようがないのが実情ではあるまいか。
…そもそも環境保全措置というより何より、コストの面から適正化するのが運送業の基本であるから、あえて環境保全措置というほどのものであろうかという疑問がある。

外来種の拡大抑制 
評価書によると、ここでいう施工ヤードとは発生土置場を含むという。そこを速やかに緑化することにより、外来種の植物に、繁茂するスキを与えないという理屈である。

以前指摘した通り、無土壌の発生土(岩のカケラ)に植生を育成するのであれば、まずは土壌を確保しなければならない。360万立米もの盛土をした場合、最低でも表面積は15万平方メートル程度になり、そこに盛る土壌を確保すること自体が大規模な事業である。さらに公園や農地と異なり、在来種植物の種子や苗も確保せねばならない。15万㎡の面積に対し、2㎡四方に1本ずつ植えていったとしても7~8万本は必要である。

こんなこと可能なのだろうか?

●工事用道路トンネルの設置はどうなる? 
「工事用トンネルの設置」というのは、西俣の斜坑から扇沢源頭へ、大井川(東俣)をはさんで2本のトンネルを掘って発生土や資材運搬を行い、地上での通行を減らすことで猛禽類への影響を小さくできるとするものである(ウサンくさい)。位置については図4をご覧いただきたい。

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図4 評価書で記されていた扇沢発生土置場と工事用道路トンネルの位置関係
国土地理院地形図閲覧サービス「うぉっちず」より複製・加筆  

そもそも道路トンネルとは、イヌワシ、クマタカの生息環境への影響回避という名目で建設するとしている。扇沢付近が生息域に該当しているかどうかは、非公開情報なので不明であり、その名目の妥当性については検証のしようがない。

新しい案では、発生土をすべて燕沢(図4では南欄外)へ運び込むということであるから、東側の工事用道路トンネルは不要となる。したがって、環境保全措置として評価書に掲載しておく必要はなくなる。

E 人と自然との触れ合い活動の場への影響 
林道を行き来する工事用車両に対する視認性 
二軒小屋一帯は登山拠点・登山ルートであり、大井川の渓谷を探勝することができることから「人と自然との触れ合い活動の場」に選定されている。そして林道から大井川を眺めた際の景観に、工事用車両の通行が及ぼす影響が、環境影響評価の対象となっている。

評価書におけるJR東海の予測結果では、「配車計画を適切に行う」ことで景観に影響を及ぼさないというものであった。

ところが、上述の通り、西俣の斜坑から燕沢へダンプ輸送するなら、二軒小屋付近の林道東俣線は、ダンプカーで埋め尽くされることになる。繰り返すが1本道であるから、迂回のしようがない。評価書作成時よりも、影響が大きくなるのは避けられない。評価書に記された「影響は小さい」状況ではなくなるのでは?

発生土置場そのものの景観破壊 
さらに問題なのは、この発生土置場そのものが景観に与える影響である。簡単に試算しても、最低でも高さ30m、幅150m、長さ700mは必要であるし、静岡新聞の記事では「最大高さ50m、長さ1000m」なんていう数字があげられている。

準備書に対する静岡県知事意見において、「発生土置場について林道からの景観に与える影響を予測せよ」とされたものの、JR東海は評価書において「適切に配慮する」としただけで、まともに答えていなかった。これだけで不真面目であるといわざるを得ない。このときはまだ扇沢へ分散する可能性があったのだから、当時想定されていたよりも、はるかに巨大な盛土が出現するわけである。ちなみに高さ30mの盛土を至近距離から眺めるとこんな雰囲気であった。

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図5 高さ30mの巨大盛土を間近で眺める
新東名高速道路 静岡サービスエリア(作者撮影) 

南アルプス山中にこれ以上のものが出現するというのは、どう考えても異様な光景であり、確実に景観そ阻害するわけであって、事業者が自主的に適切に配慮してどうにかなるシロモノじゃないのと思う。



前回指摘した導水路案と合わせ、事業計画の内容が評価書作成時と大きく変わってきているのである。評価書の記載事項に矛盾点が多々生じてきており、環境影響評価をやり直さなければならないと思う。



35度の猛暑の中、エアコンのない部屋で文章を考えていたら、話が中途半端になってしまった。評価書絡みの問題点について、もうちょっと続くのであります。

土石流の受け皿に土石を積み上げる愚かさ

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JR東海は大井川源流の燕沢平坦地という場所に静岡県内での発生土360万立米を盛土として処分したい方針なのだそうだ。

前回は評価書との整合性について見てみたが、やはり大きな懸念として、そのような巨大盛土を行った場合の、土砂の移動との関係をあげねばならない。このブログで再三指摘したことであるが、改めて取り上げてみる。

この一帯に合流する沢は、いずれも流域内に大小の崩壊地をかかえている。一帯の地形図とGoogleEarthによる衛星画像を添付しておく。
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図1 燕沢平坦地付近の衛星画像
GoogleEarthより複製・加筆

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図2 燕沢付近の地形図
国土地理院地形図閲覧サービス「うぉっちず」より複製・加筆 

発生土置場候補地の北西側には標高2880mの千枚岳がそびえる。その山頂東側が大きく崩れていて千枚崩れと通称される。燕沢平坦地に流れ込む崩壊地としては、この千枚崩れが最大規模である。崩れた崖の延長は1000m以上におよぶ。そこから崩れた土砂は大井川沿い円錐状にたまり、沖積錐という地形をなしている。

千枚崩れの沖積錐は、大半が森林となっており、現在では安定しつつあるようである。その一方、最近になって拡大しつつある崩壊地もある。

燕沢平坦地南東側にある崩壊地に注目してみよう。図1において、発生土置場の右手にある崩壊地である。
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図3 燕沢平坦地東側における崩壊地の拡大 

上が1976年10月に国土地理院によって撮影された写真、下はGoogle Earthで公開されている最新の衛星画像(2014年6月)である。38年間の間に灰色(=樹木の存在しない)部分が大きく拡大していることがわかる。38年間で崩壊が大規模に進行したのである(より正確に言うと、1995年撮影の写真で、既に大規模に拡大していることから、大部分は20年間の間に崩れたと言える。)

この崩壊地について、同じくGoogle Earthで正面からとらえた画像が図4である。
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図4 燕沢平坦地東側の崩壊地 

崩壊地の下端を拡大すると、巨石がゴロゴロと堆積している状況も一目瞭然である。樹木と比較して、50㎝~1m大のものが多いように思われる。この先、大雨によって土石流として流れ下ることは必定であり、それを見越して下流には砂防ダムが複数設置されている。けれどもすでに埋まっているようである。

なお図3下段の2014年の画像では、矢印で示した大規模崩壊地の南隣にも、新たなさな崩壊地が出現しているのが分かる。

一方、ここを流れる大井川は、大規模な出水のたびに流路が変更しているようである。少々古い写真であるが、終戦後にアメリカ軍によって撮影された写真と、1970年に国土地理院によって撮影された写真とを比較してみよう。
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図5 燕沢平坦地における大井川の流路変更 

黒っぽく写っているのは樹木に覆われた部分、白っぽいのは地表がむき出しの場所、つまり河原あるいは流路跡である。22年間の間に河原が拡大し、流路が左岸より(写真右手)に変更していることがうかがえる。さらに1970年(図5右)と2014年(図3下)とを見比べて分かるように、最近40年の間にも、また流路が変わっている。

この場所では、大井川は頻繁に流路を変えているのである。

2014年に撮影された図1の衛星画像からでは、発生土置候補地西側にも大規模な崩壊地が2か所存在していることがわかる。この場所、1948年の写真(図5左側)でもほぼ同じ形に写っており、この66年の間、ずっと植物が生えてこなかったことがわかる。つまり少なくとも66年間崩れっぱなしだったに違いない

つまりこの燕沢という場所は、高く隆起する南アルプスの山肌が崩れて土砂をつくり、それを大井川が下流に運ぶというプロセスが活発に働いている場所であると考えられる

◇   ◇   ◇   ◇   ◇

ここに大量の発生土を放り込んだら、周囲の山肌から供給される土砂の行き場がなくなってしまうのではないか?

実はこれは、環境影響評価準備書に対する静岡県知事意見でも指摘されたことである。その懸念に対してJR東海は、評価書において次のような見解を示した。
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評価書をコピー

正直、アホかと思う。千枚崩れについて、安全性を保てるようなことを示している。しかし具体的な根拠が全く示されておらず、単なる希望にすぎない。それよりアホなのは、先の衛星画像や空中写真で示した、燕沢に直接流れ下る3本の沢については、何も触れていないのである。この評価書と衛星画像とをよく見比べていただきたい。

リニアの建設工事で静岡県内掘り出される発生土は、全量で約360万立米である。新聞報道では最大高さ50m、長さ1000mとも言われているが、これを平均高さ40mで盛土した場合、周囲の地形条件を考慮すると、必要となる面積は15~16万㎡程度となる(勾配30度と仮定)。

他方、この平坦地の面積は、大雑把に見積もって26万㎡程度である。そのうちざっとみて1/3は川として残さねばならないから、盛土可能なスペースは約17万㎡となる(動植物の生息地としての機能は無視)。

17万㎡の空間に15~16万㎡の盛土を行ったら、残りは1~2万㎡程度であり、もともとの空間の1割にも満たなくなる。つまり、土石流の受け皿としての機能が、現在の1割以下に縮小してしまうかもしれない。

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JR東海の見解では、「工夫すればどうにかなる」としているが、大量の発生土というものが存在する以上、工夫なんてしようがない。盛土を高くすれば、土石流受け皿としての余裕を残すことが可能であるが、すると今度は盛土そのものの安全性が問われることとなる。安全性を高めるためにはコンクリートや鋼材などを多用せざるをえないので、緑化方針、景観や生態系への影響も大きくなってしまう。評価書記載内容やユネスコエコパーク管理運営方針との整合性も何もなくなってしまう。

具体的な方針も立てられないのに、「工夫すればどうにかなる」なんて安易なことは言ってほしくない。

◇   ◇   ◇   ◇   ◇

ところで、「土石流の受け皿」において、その下方に住宅等が存在して災害の恐れがある場合には、砂防事業の一環として堆積物の撤去がなされる。


ふつう、崩壊地の下はスペースを確保しなければならないものであろう。それなのに土石流の溜まり場にわざわざ土石を積み上げるなんて、余りにも非常識である。こんなことをして大井川をメチャクチャにしておいたところで、JR東海はこの先何十年間も責任をとることができるというのだろうか?


JR東海殿 燕沢の生態系についてのアセスを終わらせてくださいな

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前略 東海旅客鉄道株式会社 殿

私はあなた方の作成された静岡県版環境影響評価書の内容について、一部、誤解していたようです。

それは生態系に対する記載事項でございます。
以前、当方のブログにおいて、「南アルプスは複雑な地形をもち、多様な植生が成立しているのにも関わらず、本評価書においては、あらゆる動植物をひとまとめにした、非常に雑な評価しかしていない。あまりにも粗雑すぎて、環境影響評価の体をなしていない!」とまで酷評しておりました。

さらには、準備書に対する意見として書面を提出したこともございました。

お忘れになっているといけませんから、少々、当時の指摘を再現いたしますね。

◇   ◇   ◇   ◇   ◇

環境影響評価においては、生態系というものが評価対象になっています。これはその環境を代表する種の保全を行うことで、同じような環境を利用する多様な生き物を保全しようという考え方に基づいています。御社は専門家チームを結成して環境影響評価書をなさっており、「釈迦に説法」と承知しておりますが、一応、環境省のホームページにおける説明をリンクいたしますね。
https://www.env.go.jp/policy/assess/4-1report/03_seibutsu/2/chap_1_1_1.html#1-1-1

あえてご説明する必要もないと思いますが、南アルプス一帯の対象事業実施区域=改変予定地は、標高差が1000m、南北30㎞にもおよび、山の稜線から谷川まで、非常に多様な環境を含んでいます。

そして地形条件の違いにより、そこに生育する植物の種類にも違いが生じます。その植生については、地形や土壌条件ごとに、「植物群落」として類型化することが可能です。

そして植物相の違いは、それをエサとしている昆虫相の違いにも結び付きます。もしかしたら、昆虫をエサとする捕食動物の種も異なってくるかもしれません。植物のサイズや密度によっても、そこに生息する動物の種類は変わってきます。

こうした生き物のつながりのことを生態系とよびます。そしてご察しの通り、地形および植物群落の区分が、生態系の評価においては重要な意味を持ちます。

例えば、当ブログで2回続けて取り上げている大井川源流部の燕沢付近の平坦地について着目してみましょう。まあ、結局はココの場所の記述が不適切だと感じましたし。

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図1 燕付付近発生土置場候補地の位置
Google Earthより複製・加筆


この場所、周囲は南アルプスの山腹に典型的なミヤコザサ-ミズナラ群集という、いわゆる落葉樹林に覆われています。

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 図2 燕沢付近の発生土置場候補地内外の植生
評価書を複製・編集 

図2右側の植生図を見ると、大部分が「凡例10 ミヤコザサ-ミズナラ群集」に塗られています。そういえばこの植生図、「改変の可能性のある範囲」を示す点線が記入されていませんね。なぜなのでしょう。 

ところが実際に発生土を置けそうな河原のスペースは、頻繁に土石流が流れ込んだり、大井川が流路を変えたりするという、「非常に不安定な河原」という特殊な条件にあります。イメージ 1
 図3 燕沢付近平坦地における大井川の流路変更
国土地理院撮影の空中写真を同ホームページより複製・編集


こういう場所を好んで育つ植物に、ヤナギのグループがあります。例えば静岡市街地の安倍川河原に大きな木が点々と生えていますが、あればコゴメヤナギやアカメヤナギといった大木になる種です。水辺にはナガバノカワヤナギやネコヤナギといった小さな種もあります。

ここ燕沢の場合、ドロノキ、オオバヤナギといったヤナギ科の樹木が疎林を形成しており、河畔林などと通称されています。学術的には、その群落名はオオバヤナギ-ドロノキ群集と呼ばれています。その点は、評価書の8-4-2-22ページに記載されておりましたから、御社も御承知のこととお察しします。

ところでオオイチモンジという高山蝶があります。この蝶は幼虫時代、ドロノキという木の葉だけをエサとしており、成虫となったあとは、開けた場所に生育する花を訪れるそうです。南アルプスに生息するオオイチモンジは、もともと数が非常に少ないのですが、その数少ない目撃情報のあるのが、ここ燕沢付近なんだそうです。ちなみにドロノキの日本列島における分布南限がここ燕沢とその周囲にあたり、オオイチモンジの分布南限も、ここ燕沢付近になるそうです。いやあ、重要な場所じゃありませんか。

今書いたこと、静岡県が編集した「静岡県の自然植生」、静岡市が編集した「南アルプス学術概論」、平成16年版静岡県版レッドリストに書いてあることの要約です。JR東海様は、もちろん目を通しておいでだと思いますけど

というわけで、この蝶を保全するためには、単に確認された場所(あるいは目撃例のある場所)での改変を避けるだけでは無意味であり、河畔林―ドロノキの生育する河原と豊富な花とが存在する環境―とを保存することが必要となります。ゆえに、オオイチモンジは、河畔林を代表する生き物であるといえます。そしてそのことが結果的に、河畔林に暮らす多くの生き物を守ることにつながりますので、これが生態系評価の目的になります。

ですから、生態系の評価においては、改変の予定される場所の地形条件と植物群落とを把握し、それぞれの環境を代表する生き物=注目種を適切に選ぶことが求められます。オオイチモンジは河畔林という特殊な場における注目種であるといえます。このほか、より広範囲な生息地を必要とし、食物連鎖の上位に立つ種を「上位性の種」として選ぶことも必要になります。

まあ、常識ですよね? 

ところが御社の作成された評価書では、このような概念を全く一顧だにしないような記述がみられ、私としては、実に理解に苦しんでおりました。

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評価書を複製 

ご覧になってお分かりいただけると存じますが、注目種に選ばれているのは、行動圏が広い動物(ホンドキツネ、ツキノワグマ、クマタカ)と、改変しない場所に分布するもの(ミヤコザサ-ミズナラ群集、エゾハルゼミ、ヒメネズミ)ばかりなのですよ。改変予定地とあまり関係のない種だけが選ばれているように見受けられます。

例えば図2の植生図で、改変予定地を示す点線が記入されていないと指摘しましたけど、実際に記入してみます。するとほら…

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図4 改変予定地と植生との関係 

右側の赤枠内では、川に沿って細く青っぽく塗られた「オオバヤナギ-ドロノキ群集」が、かなりのウエイトを示すことが一目瞭然ではないですか。確かに赤枠全体に占める割合では、斜面下部のミヤコザサ-ミズナラ群集のほうが広いようですけど、発生土は平坦地=川沿いに置くわけですから、オオバヤナギ-ドロノキ群集のほうが、改変を受ける度合いは大きいはずでしょう。でも、これは調査対象に選ばれていないんですよね。

何でこんな無意味なことをしているのかな?と思って評価書をよく読むと、こんなことが書かれておりました。

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なんと!

山地の生態系」をひとまとめにして予測・評価をおこなったのですか。

確かにまあ、ドロノキの周囲で一生を終えるオオイチモンジと異なり、行動圏が広く、多様な環境を利用するツキノワグマなどの生き物にとっては、山地全体を生息域として工事の与える影響を予測することが大事です。

とはいえ、改変する場所がその種にとってどのような意味を持っているのか、この評価書では全く言及していません。「ツキノワグマが燕沢とどのように利用しているのか?」こんな誰でも思いつくような疑問にさえ、全く触れていませんね。燕沢平坦地と河川生態系との関わりについても全く言及していません。だから改変した場合の影響が全く分からなくないままになっています。
 
けれどもねぇ…、この見解では、オオイチモンジのように特定の環境(河畔林)に頼り、行動圏の狭い生き物への評価がなされてないという重大な問題があります。

ツキノワグマにとっては、燕沢の河畔林が消失したとしても、ほかの場所に移動することが可能です。けれどもここ燕沢のドロノキのみに依存しているオオイチモンジにとっては、種の存続に関わる大問題ではないでしょうか?

オオイチモンジの他にも、サンショウウオ類、カエル類、アカショウビン(水辺の鳥)、各種の水生昆虫、渓流魚など、河畔林がなければ生きてゆけなくなる動物はたくさんいます。河畔林の木陰でしか生育できない植物もあるかもしれません。

こういう種類が、すべて無視されていませんか? 

(たとえ話)
高齢化の進んだ住宅地にある食料品店Aが閉店することを考えてみる。最寄りの食料品店Bまでは4㎞ほど離れているとする。マイカーを持っている人ならば、遠くの店Bにまで買い出しに行けるから、影響は小さいかもしれない。運転のできない高齢者などにとっては死活問題である。
JR東海の主張は、マイカーを持っている人だけに注目して「まあ大丈夫だろう」と言っているようなものである。

というわけで環境影響評価の体をなしていないように思われ、前述の通り、再三の批判を繰り返していたのであります。これについてはまことに失礼ながら、正直アホかと思いました

◇   ◇   ◇   ◇   ◇

しかしですね、先月になって「燕沢に静岡県内の発生土360万立方メートル全てを集約する」というお話を、御社がなさったと聞いて合点がゆきました。

評価書を最終的に完成させた昨年8月の段階では、発生土置場の候補地が7か所あげられていました。このとき、それぞれの候補地の地質条件等には不明な点が多く、どこにどれだけの量を運び込むことができるのかについて、全く想定できていなかったのでしたよね?

したがって発生土を盛土した場合に「ドロノキ-オオバヤナギ群集は現状○○㎡から何%消失する…」というように、具体的な数値で影響の大きさを示すことは不可能であったのでしょう。それゆえ、植生ごとの詳細な生態系評価を行わずに、「各植生区分を抱合した山地の生態系として設定」なされたのでしょう。

そうですよね?

そうでなければ、JR東海という日本を代表するトップ企業が、こんな非論理的でアホなことを公的文書で表明されるとは思えませんもの。

さて、燕沢に360万立方メートルの発生土を積み上げるという「具体的な」数字が出てきたわけです。具体的な数字に基づいて予測を行うことが可能となりました。

中途半端に終わらせた生態系の影響評価を最後までやりとげてくださいな。



そうそう。

6月に、品川駅での入札が不調に終わったというスクープ報道がなされました。難工事ゆえに御社の予定価格よりも建設会社の示した価格が上回ってしまったということだそうですね。
http://diamond.jp/articles/-/72797

先日、南アルプスのトンネルの長野側について、入札を開始されたというニュースを目にいたしました。先だっては山梨側でも入札が開始されておりますね。

けれども、南アルプス全体での工事計画が全く定まっていない現状で、どうやって見積もりを出させようというのでしょうか?

環境への影響をきちんと予測していないということは、建設業者としても、環境対策の費用について適切な見積もりを行うことが困難であるのを意味するのではないかと危惧いたします。北陸新幹線中池見湿地と同じケースでありますまいか?

南アルプスの西俣、燕沢、二軒小屋付近 写真をご提供いただけますと助かります

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残暑見舞い申し上げます



暑い!


涼しいところへ行きたい!


ヒマがない!


こんな毎日であります。


JR東海がぶっ壊そうとしている南アルプスの現況を確かめに行きたいのですが、なかなか実行できないでおります。行くだけで1日、調べて歩いて1日か2日、帰りに1日。3日以上は必要…。

う~ん、、、

ネットで検索していたら、つい先日、リニアの南アルプス横断トンネルの想定ルート頭上を、山梨県早川町新倉~伝付峠~静岡市二軒小屋~西俣上流部までたどっていった記録が、登山情報サイト「ヤマレコ」に投稿されておりました。


【大井川源流西俣調査】南アルプスに囲まれた大井川源流へ尾根の下見と水遊び♪

ヤマトイワナ生息域で禁漁区に設定されながら、リニアのトンネル出現により、流量が年平均で3割減少、冬場は半減すると予測されている西俣の写真もあります。天然魚ヤマトイワナと思しき魚の写真もあります。

それから、フライフィッシングの情報ページにも、二軒小屋周辺の大井川本流(常設釣り場)の写真と動画が掲載されていました。

うーん、素晴らしく美しい、水量豊富な川です。ここが消える/残土で埋め立てられるかと思うと、はっきり言ってムカつきます


こういう写真、いっぱい欲しい・・・。

というわけで、もしもこの夏、

南アルプス南部に登山または渓流釣りに行かれた方で、

なおかつ現地の写真や動画を撮影されていて、

「リニア計画おかしいんじゃない?」と思われて、

さらに「撮影した写真や動画をリンクしてもいいよ」という広いお心をお持ちの方、

もしもこのブログをご覧になっておられましたら、下のコメント欄へご一報いただけますと、まことに助かります。


それから、下記画像で発生土置場候補地と記した燕沢の写真をご提供いただけますと、まことに助かりますので、重ねてお願い申し上げます。

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大井川のヤマトイワナとリニア計画

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南アルプスの大井川源流に生息しているヤマトイワナの保全とリニア計画とをめぐる一連の議論と問題点です。

お断りしますが、作者はヤブ沢でアマゴやタカハヤ、アブラハヤ程度しか釣ったことのないシロートですので、渓流釣り・渓流魚の知識はあんまりありません。そこらへん、どうぞご了承くださいませ。

【要旨】
JR東海は、南アルプスの大井川流域地下に多数のトンネルを建設することにより、流量減少、発生土置場造成などによって大井川の環境を大きく変貌させてしまうにもかかわらず、工事が河川に生息する動植物に与える影響の予測を真剣におこなっておりません。マトモに予測をしていないのであるから、マトモな対策(環境保全措置)を考案することもできておらず、それにもかかわらず事業推進一色であるから、地域の不信を買っておるように見受けられます。

【本文】
Ⅰ 南アルプスにおけるヤマトイワナの現況 

イワナ(岩魚)は、河川の最上流部に生息しているサケ科の渓流魚である。
日本列島に生息するイワナ(学名 Salvelinus leucomaenis)には、地域によって形態的特徴があり、アメマス、ニッコウイワナ、ヤマトイワナ、ゴキという4亜種に区分されている。

このうちアメマスは北関東以北から太平洋北部まで広範囲に生息しており、サケのように海へ降りて大きく成長し、川に戻って繁殖し一生を終える。他方、その他3亜種は渓流で一生を終える。後者は氷期にアメマスが分布域を拡大したものの、その後の温暖化により、本州中部では水温の低い源流部に取り残され、地域ごとに異なる形態的特徴をもつグループに分かれたものと考えられている。

亜種ヤマトイワナの本来の分布域は、本州中部の太平洋側に注ぐ河川(相模川水系から紀伊半島を経て淀川水系(琵琶湖流入河川)まで)の源流部とされている。しかし渓流釣りの対象となることから、減少した分を補うためとしてニッコウイワナの安易な放流が繰り返され、ヤマトイワナと置き換わってしまった事例が相次ぎ、また雑種も多く生じるようになってしまったようである。

北陸・関東以北に分布するニッコウイワナには、半世紀にわたる養殖の実績がある。山沿いの温泉宿などで提供される「イワナの塩焼き」等は、大部分が養殖されたニッコウイワナらしい。その一方でヤマトイワナの増殖は、もともと生息域が狭く、卵を採取するための天然魚自体が少ない、餌を食べないなどの要因によってなかなか困難であり、その技術は確立されているとは言い難い段階であるという。それゆえに本来のヤマトイワナ生息域にもニッコウイワナを安易に放流することが多くなっているとされる。

静岡県内におけるヤマトイワナの本来の生息地は、大井川水系の井川ダム以北と支流寸又川流域、および天竜川支流の気多川上流部と水窪川上流域とされている。概ね標高700m以上の水域である。伊豆や県中部の一部河川でもニッコウイワナが釣れているようであるが、これは放流魚とされている。

大井川流域でのヤマトイワナの生息環境も、他地域での傾向と同じく、乱獲(渓流釣り)、水力発電による流量減少、林道建設による土砂流出等により、減少の一途をたどっている。さらに魚の減少に対し、養殖されたニッコウイワナが放流されたために交雑が進み、純粋なヤマトイワナの生息数減少に輪をかけてしまっている。このため、県においては絶絶滅危惧ⅠB類(IA類ほどではないが、近い将来における絶滅の危険性が高い種)に指定し、保護を呼びかけているところである。

こうした現状に対し、大井川流域では、地元漁協や篤志家、県の水産技術研究所の協働により在来のヤマトイワナを増殖して放流する取組みが続けられている。同時にヤマトイワナの確認されている区域を禁漁にし、保護を図っている。
http://www.pluto.dti.ne.jp/~sugi/giyokiyoo.html
http://fish-exp.pref.shizuoka.jp/04library/news/20060606.html 

なお静岡県だけでなく、神奈川・奈良でも絶滅危惧Ⅰ類に、長野では準絶滅危惧種、山梨では絶滅の恐れのある地域個体群に指定されるなど、自然分布の確認される都道府県のうち岐阜と滋賀以外では、すべてレッドリストに掲載されている。
http://www.jpnrdb.com/search.php?mode=map&q=0503080040192&sort=s 

現段階で環境省による全国版のレッドリストには掲載されてはいないものの、全国的にみても数が激減していることがうかがえる。

そこにリニア計画である。

案の定、「ヤマトイワナはいない」と言い張るJR東海に対し、地元から「ヤマトイワナは確実に存在するから保全策を講じてほしい」という強い要求が再三にわたって出されることとなった。

井川漁業協同組合(静岡市葵区)などは1日、リニア中央新幹線計画に伴う大井川源流部の環境調査活動を継続的に実施するようJR東海に申し入れた。森山三千夫組合長らが同区のJR東海静岡環境保全事務所を訪れ、担当者に書面を手渡した。
 要望は3点。調査継続のほか、水質、水量変化を抑えるため土砂の河川流入を最小限にとどめるよう要請し、渓流魚の養殖・放流活動に対する支援も求めた。
 リニア計画における大井川源流部の環境保全では、県指定の絶滅危惧魚種ヤマトイワナの生息をめぐり両者間で認識に差異が生じている。
 JRは自社調査を根拠に「純粋なヤマトイワナはいなかった」とする報告を今年まで2度にわたってまとめた。井川漁協は「長年の活動の中で数多く確認できている」と反論している。
 要望を受けJRは「まずは内容を読ませていただく」とコメントした。
 

この報道の後、JR東海の社長が「適切に対処したい」という記者会見を行っているが、それ以降、具体的な話が出てきていないと記憶している。

環境影響評価の過程において、ヤマトイワナがどのように扱われてきたのだろうか。振り返ってみる。

Ⅱ 環境影響評価における扱われ方 
 
(1)計画段階環境配慮書(2011年6月公表) 
まず、計画段階環境配慮書に提出された静岡市からの意見と、それに対するJR東海の見解である。下段に注目していただきたい。
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図表1 ヤマトイワナにかかる配慮書への静岡市長意見とJR東海の見解
環境影響評価方法書149ページより 

左欄での「大井川の環境に大きな負荷を与えかねない」という懸念に対し、「大井川と交差する部分は土被りが大きく地表面への影響は小さいと考えられる」という見解を述べている。また、ヤマトイワナについては「事前に専門家等から地域の情報を得るとともに、その存在が確認された場合は、必要に応じて専門家の助言等を受け、保全措置を講じる」としている。この概念は重要であるのでご記憶頂きたい。

(2)方法書(2011年9月公表) 
方法書では、”環境に影響を及ぼすおそれがあることから調査対象にすべき項目”を選定する作業が行われる。方法書によれば、トンネルの存在は動物の生態に影響を及ぼすと認めたために、調査・予測対象に選定されている。これについて次のような説明がなされていた。
トンネルの存在に伴う土地の改変及び地下水位等の変化により対象事業実施区域及びその周囲で重要な種及び注目すべき生息地への影響のおそれがあることから選定した。
つまり、環境影響評価が始まる段階において、河川流量が減少した場合は、動物の生態に影響を与えるおそれがあると認識しており、予測対象にしていたのである(当然であるが)。

(3)準備書(2013年9月公表) 
こののち調査・予測・評価が開始され、2013年9月にその結果が準備書として公開された。準備書においては、ヤマトイワナは「文献では生息する可能性が高いとされているが現地調査では確認されなかった」とし、具体的な影響の予測や環境保全措置の検討はなされなかった。 

この見解に、地元の漁協や釣り人、さらには市役所や県庁での専門家審議会でも疑問が出され、話し合いが平行線をたどり始めることになる。

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図表2 ヤマトイワナにかかる準備書に対する静岡県知事意見とJR東海の見解
環境影響評価書より 

(4)評価書(2014年6月)
準備書に対する不信が払われぬまま、内容は変わらずに評価書が作成された。

(5)補正評価書(2014年8月) 
県庁や環境省においてJR東海との間でどのような審議がもたれたのか詳細は不明であるが、「生態系」の項目において、現地で確認されたニッコウイワナと「ヤマトイワナによく似た個体」、およびヤマトイワナの生息環境を対象とした影響の予測・評価がなされた(後述)。 

(5)事後調査計画書(2014年10月) 
ヤマトイワナおよびイワナ類について、評価書においては「影響は小さい」との結論を記述したため、環境影響評価法に基づく事後調査は行わないということである。ただし地元研究者、漁協、市、県より再三にわたって調査の継続と保全を求められているため、法律に基づかない「自主的な調査」を行うこととしている。
 
(6)静岡市による独自調査(2015年7月公表) 
静岡市が地元専門家に依頼して行った南アルプスの環境調査において、リニア工事予定地周辺よりヤマトイワナが確認された。
⇒http://www.city.shizuoka.jp/041_000012.html


Ⅲ 環境影響評価における諸問題 
以上のような過程を経て今日にいたり、この度の異論提出である。JR東海は事業をおこなうための法的な許可を受けたものの、地元の信頼を得ることには失敗しているように思わざるを得ない。その理由を自分なりに整理してみると、
(1)地元専門家の話を聞いていない
(2)環境影響評価を単なる手続きにとどめている
(3)環境影響評価の論理構成
(4)環境保全措置が不十分
以上のような問題があると考えられる。それぞれについて、具体的に考えてみたい。

(1)地元専門家の話を聞いていない 
まず配慮書で記述されている通り、JR東海は静岡市からの懸念に対し、「事前に専門家等から地域の情報を得るとともに、その存在が確認された場合は、必要に応じて専門家の助言等を受け、保全措置を講じる」という見解を述べていた。ところが事業認可後の2015年5月になり、そのヤマトイワナを保護・管理している人々から、JR東海の主張に対して異論が出されたのである。

また、配慮書に対する静岡市意見は、市と静岡市南アルプス世界自然遺産登録学術検討委員会との連盟で出されたものである。その後の準備書に対する静岡市長意見、静岡県知事意見も同様なプロセスを経て提出されたものである。この委員会は市内の大学教授や生物研究NPOの代表から構成されており、まさにJR東海が言う「専門家からの地域の情報」そのものであったが、いずれの意見書でも、再三にわたってJR東海の見解に疑問を呈しているしたがってこの4年の間、地元専門家の意見を真剣に聞き入れていなかったと判断せざるを得ない。

(2)環境影響評価を単なる手続きにとどめている 
環境影響評価においては文献調査や聞き取りを重視し、生息の予測される種については現地確認されずとも保全措置を講ずるべきである。考えてみれば当然のことで、年数回の現地調査で全ての種を現地確認することは不可能であるし、そもそも「絶滅のおそれのある種」なのだから、簡単には見つけられないはずである。 

ところがJR東海は、現地確認された種についてのみ、事業による影響の予測・評価と対策の考案を行うという姿勢をとっている。すなわちJR東海が一貫して続けてきた主張は「確認されたのはほとんどがニッコウイワナであった。一部にヤマトイワナの外見的特徴に近い個体(交雑種)がみられた。」として、純粋なヤマトイワナは生息していないから環境影響評価の対象としないとするものであった。

この見解が地元専門家・関係者の不信を買うことになった最大の要因であろう。専門書を紐解くと、ヤマトイワナとニッコウイワナの判別は、体側の白い斑点の有無で行うという。一般的には白斑のあるのがニッコウイワナとされているが、ヤマトイワナのなかにも、時々少数の白斑を持つものがあるという。だから外見的特徴だけでは完璧な判別は不可能らしい。正確性を期すのであれば、DNA鑑定なども必要になるとされるが、ヤマトイワナのDNA解析自体が進んでいないという実情もあるそうだ。

JR東海は完璧な判別にこだわっているようであるが、実は完璧な区別は困難でありナンセンスでもある。また、仮に交雑種であったとしても、それが存在する以上は純粋種も生息している可能性があるはずである。だから「ヤマトイワナの外見に近い個体」がいるのであれば、予防的に適切な影響評価を行い、保全措置を考案しておくべきであった。

(3)環境影響評価の進め方に問題 
補正評価書においては生態系の項目において、現地確認されたニッコウイワナと「ヤマトイワナの外見的特徴に近い個体」を対象にしてそのハビタット(生息環境)への予測をおこなっている。ヤマトイワナについては補足的な扱いである。しかしながら非論理的な表現や論理破綻している部分があちこちにみられる。

(ア)ハビタット評価手法に疑問
JR東海は、生態系に与える影響について、ハビタットに与える影響によって予測するという論理を用いている。ハビタットとは一般にはなじみの薄い言葉であるが、生息環境と訳されることが多い。その生息環境の「質」が、事業によってどのように変化するのか予測するのが基本である。
 対象となるのはイワナ類という魚である。イワナ類が生きながらえてゆくための生息環境には、
・豊富なエサ
・豊富な流量
・良好な水(水質、水温、溶存酸素など)
・洪水時の避難場所
・渇水時の避難場所
・捕食者から隠れる場所
・産卵場所の確保
・交雑する可能性のある放流魚の有無
など、様々な条件が必要である。こうした条件が、事業(工事)によってどのような変化するのか、それを行うのがハビタット評価である。

けれどもJR東海の用いた予測手法とは、ニッコウイワナ・イワナ類においては、改変のある可能性のある面積を川の長さで割っただけであった。
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図表3 ニッコウイワナ・イワナ類のハビタット図
評価書より 

この予測結果には、実際の魚の分布状況も河川環境も全く考慮されておらず、何ら意味のあるものではない。さらにヤマトイワナの評価については、予測手法自体が示されていなかった。まさに机上の空論なのである。 
(っていうか、マジで愕然とした)

(イ)生息環境が広く残されるのか? 
前項で示した通り、JR東海の用いているハビタットとは、「生息環境」というよりも「分布の可能性のある区域」という意味に近い。

ところで、「ハビタット(生息環境)の一部が改変を受ける可能性はあるが、周囲に同質のハビタットが広く分布することから、縮小・消失の程度は小さい」という表現が用いられている。これをもとにして、イワナ類に対して具体的な環境保全措置は講じられないことになっている(イワナ類に限ったことではないが)。

ここで思い起こしてほしいのは、大井川源流部のヤマトイワナは生息地が限られ、個体数も少ないがために「絶滅の恐れのある種」に指定されてており、そのために重要な種に位置付け、影響評価を行っているということである。冒頭部分で「現地調査では確認されなかった」としているが、それは分布域がごく限られていることの何よりの証であろう。記載内容が矛盾しているのである。「同種の生息環境が広がっているから影響は小さい」と述べるであれば、何よりも「同種のハビタットが広く分布している状況」を具体的に説明しなければならないはずである。

(ウ)流量減少の影響を無視 
河川流量が予測と同程度に減少した場合は、生息可能なエリアが大幅に縮小することが予測される。たとえ水が枯渇しなくとも、生息可能な個体数の減少、夏季の水温上昇、流速減少による底質の変化など、生息条件はよくない傾向に向かうことは間違いない。

この懸念に対し評価書においては、「一部の河川では流量が減少すると予測する。このため、ハビタットの一部が減少する可能性はあるが、周辺に同質のハビタットが広く分布することから、縮小の程度は小さい」としている。
しかし流量の減少すると予測された範囲と、生息の可能性があるハビタットとの位置関係が不明であり、「縮小の程度は小さい」ことを客観的に裏付けることはできないままである。

(エ)発生土置場造成による影響について言及していない 
地上における最大の改変行為は、現計画では大井川の河原への大規模発生土置場の設置であるが、これによるイワナ類への影響について、具体的な記述がなされていない。

河原に大量の発生土を盛土すれば、盛土による直接的な河川空間の消失だけでなく、発生土の流出のおそれ、河畔林消失による落下昆虫(イワナのエサ)の減少、改修による流況の変化など、予想される影響は多岐にわたる。容易に想定される影響について触れずに「ハビタットは保全されると予測する」と結論付ける見解については、強い疑問がある。

特に、2015年7月になって燕沢付近の平坦地に発生土を集約するという案を示したが、評価書作成時よりも影響は大きくなることが予想される。
⇒前々回のブログ記事

(3)評価書の論理構成に疑問 

(ア)環境保全措置が不十分
評価書「動物」のページにおいては、「文献のみで確認された種」(=ヤマトイワナ)に対する予測結果として次のように記述されている。
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図表4 ヤマトイワナに対する環境保全措置
評価書より複製 

かし非常に抽象的であり、あまり意味がないと言わざるをえない。「一般的な環境保全措置」というのは次表のうち赤く囲ってある部分である。(なお、ヤマトイワナだけでなく図表4に名の見えているカジカについても同じことが言える。)

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図表5 ヤマトイワナに対する一般的な環境保全措置
評価書より複製・加筆 

①、②については前述の通り改変箇所とハビタットとの関係で説明されていない現状では単なる努力目標に過ぎない。③については、燕沢に発生土を集約するという新たな計画が浮上した以上は実効性が薄い。④は環境保全措置として検討する以前に、河川法や川の水質基準として守らなければならない項目である。

いずれも、確かに「一般的な環境保全措置」である。つまりどんな土木工事でも行われているようなことである。「工事の行われた場所では渓流魚は減る」という傾向がある以上、これだけでヤマトイワナの保全が達成できるかというと、はなはだ疑わしい。

それより何より、河川流量が減少した場合の環境保全措置が全く見当されていないという問題がある。

「ヤマトイワナの主な生息環境は上流部」としているが、評価書の「水資源」の項目によると、直接地上を改変する場所より4㎞以上も上流(西俣取水堰)にまで、流量減少が及ぶ可能性があることがうかがえる。
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図表6 大井川源流域における流量減少の予測結果
評価書より複製


これが現実となった場合、どうするのであろうか? 

評価書では、河川流量については”水資源”の項目で扱われている。”水資源”とは利水のことである。その水資源の項目においては、水資源に対する様々な環境保全措置を実行することによって”水資源”への影響は生じないのだという。水資源に対する環境保全措置とは、トンネルへの防水シートや覆工の設置、それから最近出された導水路建設案である。

ところが導水路を建設したところで、水が戻されてくるのは「ヤマトイワナの主な生息環境」よりもずっと下流である。地元専門家の間では生息の可能性があるとされる支流についても同様である。流量が減少してしまったら、先の①~⑥の環境保全措置など全く無意味である。
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図表7 JR東海の考案した導水路案

なお、事業認可後に出された事後調査計画書によると、工事中のモニタリングで流量減少が確認された場合、その箇所における魚類のモニタリングを実施する計画であるという。ただ、減少の確認された場所でヤマトイワナが確認された場合、どのように対応するつもりでいるのか、全く不明のままである。

(イ)渓流釣り場は「人と自然と触れ合い活動の場」ではないのか?
評価書の「人と自然と触れ合い活動の場」において、二軒小屋ロッヂおよび椹島ロッヂという宿泊施設があげられている。そこでの利用の形態について、主に登山、周辺散策、釣り客の利用があるとされている。このうち登山客や周辺散策客が利用する登山道や林道については、登山ルートや林道東俣線を調査地点として選んでいるが、釣り客の利用が想定される渓流釣り場については、調査地点が選ばれていない。これは不自然である。 

釣り場というのは、「人と自然との触れ合い活動の場」として、一般的に環境影響評価の対象に選定されるものである。

大井川上流域においては、ヤマトイワナの生息情報について、地元漁協や保全に取り組む釣り人有志が、再三にわたって異議を唱えてきたと書いた。漁協があり、釣り人がいるのであるから、当然のことながら、この一帯は重要な渓流釣り場になっているのである。http://ff-db.jp/special/field_of_month/201501/

釣りの対象は専ら放流魚であるが、魚種に関わらず「人と自然との触れ合い活動の場」に選定されるべきであろう。


Ⅳ むすび 
準備書の段階から「現地確認できなかったが、各種の情報により生息している可能性が高いため環境影響評価の対象とし、具体的な環境保全措置を講ずる」という姿勢を貫いていれば、問題は大きくならなかったはずである。

流量減少を起こしてしまった場合は、ヤマトイワナの存続大きなダメージを与えてしまいかねない。とはいえ、流量が減少した場合の根本的な保全方法は存在しない。「増殖したうえで移植」という手法もないことはないが、そのためには移植先候補地の環境やイワナ類の生息状況を徹底的に調べなければならない。けれどもおそらく技術的・時間的に困難であろう。それに移植という小手先の保全策は、持続可能性を求めたユネスコエコパークの理念と合致しているとも言い難い。

個人的な見解であるが、ヤマトイワナへの影響は回避不可能と判断し、だからこそ過小評価しようとして乗り切ろうとし、隠し切れなくなって問題をこじれさせたのではなかろうか。

大井川のヤマトイワナの場合、地元の漁協や有志団体が管理・保全している渓流魚であったため、JR東海の見解が不適切であったことが分かりやすかった。しかしヤマトイワナだけではない。静岡県内については、注目度は小さいものの、高山蝶など一部の昆虫類、サンショウウオ類、ラン類等について同様の疑念があるし、他県についても表沙汰になっていないだけであって、同じようなことが多々あるのであろう。

地元との合意を得ようとしない不思議な企業

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何でも南アルプスを横断するトンネル工事を請け負う業者が決定したそうである。

一部引用
着工したのは同トンネルの東端にあたる山梨県側の工区7.7キロ。今年3月から公募型の入札手続きを進めていたが、大成と佐藤工業、錢高組の3社によるJVが施工者に決まり、26日付で契約した。 
(産経新聞)

そういえば去る8月7日、南アルプス横断の長大トンネルのうち、長野県大鹿村側の工区についても、工事業者の入札が開始されたばかりである。
(JR東海ホームページ)

山梨側と合わせ、南アルプス横断25㎞のトンネルについては、半分以上の区間について、工事請負業者を決定するところまで計画が進められていることになりますな。
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けれども工事の具体的な内容とか環境保全策といったものについては、ほとんど決まっていないのが現状。決まっていないというよりも、地元との合意が全く成立しそうにない、と言った方が正しいかもしれない。

例えば発生土処分。

南アルプスを横断する約25㎞のトンネル本体と、その関連トンネルからは、合計約827万立方メートルの発生土が生じる。早川町側へ232万立米、静岡市へ360~370万立米、大鹿村へ235万立米である。
(過去記事等まとめページ)

これらについて、どこへ、どう運んで、どう処分するのか、地元住民・行政との間で具体的な話し合いは進んでいないはずである

大鹿村側には伊那山地のトンネル等からもさらに70万立米が出され、合計は305万立米になる。これらを村外に搬出するため、さらにその他資材運搬等のために、1日最大1700台以上の車両が通行するという試算がアセスにおいて出された。これだけの台数を通してしまうと道路沿いの環境に甚大な影響を与えてしまうし、そもそも現地の道路事情から物理的に不可能という話も聞く。

そこでJR東海としては、ダンプ通行台数を減らすために、村内に発生土の仮置場を設けるという提案を行い、村の対策委員会でもその案を検討しているようだけれども、村の住民としてはJR東海の事業のために仮置場(=迷惑施設)を受け入る義務もないのだから、あまり進展はないようである。

仮置場候補地として浮上した場所には、村中心を流れる小渋川の上流部という地点も含まれている。土石流になるというリスクを考えた場合、河原に発生土を置くのは避けるべきであろう(その旨は国土交通大臣意見でも述べられている)。砂防法や森林法で開発の規制されているはずの場所であるし、そもそも砂防ダムの上でもある。南アルプス山中であることから、付近に猛きん類など希少性の高い動植物が生息しているかもしれない。

…そういえば長野版評価書では、JR東海自身が、ユネスコエコパーク登録地域内には極力、仮置場を設けないと公約したはずである。
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長野県版 評価書より 

そういう説明がなされたはずなのに、ユネスコエコパーク登録地域内に複数の仮置場候補地が挙がっている(=大鹿村内は全域が登録地域)のだから、実におかしな話なのである。

それでも、工事入札が開始され、山梨側では請け負う業者も決まったのである。

(補足)
山梨県早川町にも大量の発生土が出される。地形的に行き場はないはずであるが、山梨県による道路整備事業の建設資材に転用するということで話がまとまっている。JR東海と建設費を折半し、南アルプス北部の夜叉人峠付近で、トンネル新設を含む大規模な道路整備を行うという計画であるが、アセスは行わず、詳細な事業計画も不明のまま、事業化が決定されている。このため早川町における発生土処分計画はクリアしたことになり、工事見積もりが行えたのだと考えられる。
ブログ過去記事⇒http://blogs.yahoo.co.jp/jigiua8eurao4/13376466.html


◇   ◇   ◇   ◇   ◇

ところでトンネル工事の工期や工法を見積もる場合、ズリ処理、つまり発生土の処分計画を考えることが欠かせないそうだ。掘削⇒覆工⇒発生土搬出というサイクルをいかに効率よく行うかにより、工期や工費が大きく左右されるわけである。もちろんトンネルそのものの工事だけでなく、仮置場・最終処分場までの運搬費用、発生土の造成費、環境対策費用など、様々な要素が左右される。

つまり、このサイクルを見積もって工事費を算出するためには、発生土の処分計画について、ある程度メドをつけておかなかったはずである。

…と思っていたら案の定、現在浮上してきている候補地に発生土を置けるという前提で工事入札を開始したのだという。
(大鹿村大9回リニア対策委員会)

そもそも発生土置場については、アセスを行ってから使用可能かどうか決定するとしているのに、それが使える前提とされているのはどーいう料簡だ?

う~ん。。。

発生土処分について、住民との間ではロクに話し合いが成立していないのに、施工業者には、既に既定路線として説明がなされていたことになる。 

それにこの先、発生土の仮置場、または最終的な処分場候補地を公表したのち、そこが不適切であったと判断されても、工事費や工事手順が決まってしまっている以上は、容易に変更できなくなるんじゃなかろうか?

住民の感覚からみるとおかしな話じゃないのかなあ?


こんなことをやっていて信頼を得られるはずがあるまい。

◇   ◇   ◇   ◇   ◇ 

説明会の様子が分かっている大鹿村を例に出したが、トンネルの中央となる静岡市側とて状況は同じである。

静岡市に出される発生土360~370万立米について、JR東海は大井川の河原に超巨大盛土として積み上げるということを計画しているが、ここは大規模崩壊地の直下であり、絶滅の恐れのある高山蝶の数少ない目撃情報のある地でもある。安全性、環境面に加え、河川法や森林法といった法的な面からも、ここに置けるかどうかは定かでない。

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JR東海が発生土360万立方メートルを積み上げようとしている場所 

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上記の発生土置場候補地内で今月行われた学術調査を伝える記事
(2015.8.15 静岡新聞) 


すなわち、おおいに問題のある場所である。けれども(容積の面から)代替地は皆無なので、ここに置けないとなったら、静岡市部分における発生土処分計画は根本的な見直しが必要となる。

それにもかかわらず、早川側・大鹿側における発生土処分計画が、決定してしまえば、中間の静岡に出される発生土の量も360万立米という数字のまま、事実上確定してしまうことになる。根本的な環境保全策は発生土量の見直しであるが、その道は閉ざされることになる。

発生土の他にも…住民の意識聴取、河川流量の減少問題、景観問題、生態系保全、ユネスコエコパークとの整合性と国際社会への説明義務…住民との合意成立も環境配慮も放置されたまま、工事内容は秘密裏に進められていると感じが拭えない。

こんな進め方しかできないというのなら、実に情けないんだけど・・・。

◇   ◇   ◇   ◇   ◇ 


社会的に大きな影響を与える事業を完成させるのであれば、カネや技術面でクリアするだけでなく、その影響を受ける社会の合意を取り付けなければならないと思う。
けれど、こんな進め方をしておいて、住民の信頼を得られるはずがない。

JR東海の社員はロボットよろしく「決まったことです。ご理解ください」を繰り返すのだけど、JR東海の社員が地元住民の気持ちを理解しようと努めているようには見えない。もっとも”ロボット”には人の気持ちを察する感情はないのだが。

最近、リニア反対グループによって山梨県内で立木トラストが開始されたというし、大鹿村では工事の中止を求めて裁判所へ訴えが届けられたという。予備知識もなくそうした報道を聞けば、「またプロ市民が騒ぎやがって…」という感想を抱く人がおられるかもしれないけど、こんな手法を用いなければ対話が成立しないのが実情なのである。

平成に入ってから新幹線建設でこういうことが行われるのは異例であり、それだけ不信感を引き起こしていることの現れだと思うこのグループが南アトンネル早川側工区の工事内容について文句を受けないのが不思議なんだけど)。


何だか分からないけれども、JR東海は地元の合意を得るための道を、わざわざ閉ざしているように見えて仕方がないのである。

こんなことばっかり繰り返しているこの計画、事業着手に向けた動きは着々と進んでいるけれども、ひいき目に見たとしても、計画倒れに終わるのではないかという気が拭えないのである。


南アルプストンネル山梨工区の早期着工は不可能?

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南アルプストンネルの山梨側工区が落札されたことを受けて、新聞各紙は「リニア本格着工」という報道をしていました。けれどもこれって、いわゆるミスリードじゃないのでしょうか。

というのも、「発生土処分がどうなるのか、いまいち確定していない」ということが見落とされているからです。

先日のブログでこのように書きました。

山梨県早川町にも大量の発生土が出される。地形的に行き場はないはずであるが、山梨県による道路整備事業の建設資材に転用するということで話がまとまっている。JR東海と建設費を折半し、南アルプス北部の夜叉人峠付近で、トンネル新設を含む大規模な道路整備を行うという計画であるが、アセスは行わず、詳細な事業計画も不明のまま、事業化が決定されている。このため早川町における発生土処分計画はクリアしたことになり、工事見積もりが行えたのだと考えられる。
ブログ過去記事⇒http://blogs.yahoo.co.jp/jigiua8eurao4/13376466.html


リニアのトンネル掘削により、早川町には合計329万立方メートルの発生土が生じます。東京ドーム2.7杯分になります。これについて、山梨県が計画している「早川芦安連絡道路」の建設工事に転用することで、処分することができるという大きな構想があります。
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早川芦安連絡道路構想というのは、南アルプス北部の夜叉人峠トンネル付近に、新たに長さ4㎞弱の道路トンネルを建設しようというものです。災害発生時の早川町の孤立防止、南アスーパー林道のバイパス機能が求められているそうです。また、新トンネル完成後は、その東側の芦安山岳館付近に大規模な駐車場を造成しようという話もあります。

こちらについては山梨県が事業主体となるので、JR東海によるアセス対象ではありません。そのため、事業計画の詳細な内容や環境への影響等が、いまいち不明なままです。

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リニアのトンネル工事で生じた発生土を、夜叉人峠付近での盛土や芦安温泉付近での駐車場造成に転用しようというのが、この構想のミソです。

リニアのトンネル内で生じた発生土を外に運び出すところまでがJR東海の事業であり、それを運搬して道路盛土&駐車場造成に使うのが山梨県の事業になります。

◇   ◇   ◇   ◇   ◇ 

その早川芦安連絡道路の環境調査については、今年1月に入札が公示されたようです。http://www.njss.info/offers/view/4949600/

その後の情報はリサーチ不足の折、不明ですけど…。けれども、常識的に考えた場合、一般的な環境アセスメントと同様に騒音や振動、水質、動植物や生態系、景観等が対象になると思われます。

ところで動物調査といえば、早川芦安連絡道路の建設予定地付近では、イヌワシやクマタカをはじめとする希少な猛きん類の生息が確認されており、繁殖している可能性があります。リニア本体工事でも、早川町内の改変予定地内外でイヌワシの繁殖が確認されていますから。
環境省 平成16年8月31日 希少猛禽類調査(イヌワシ・クマタカ)の結果について
http://www.env.go.jp/press/press.php?serial=5218 

官民を問わず、猛きん類の生息している可能性の高い地域で大規模な開発を行う場合、十分な調査を行うことが求められます。「法律上の義務ではないけどそういうことをやるべし」という、政府からの通達であります
環境庁作成 猛禽類保護の進め方
https://www.env.go.jp/nature/yasei/raptores/protection.html 

ですから当然のこと、今年1月に入札の公示された早川芦安連絡道路の環境調査においても、猛きん類調査がおこなわれるものと推察します。

「猛禽類保護の進め方」によれば、例えばイヌワシの場合、2営巣期(=1.5年以上)の調査機関が求められています。冬の訪れとともに、巣作りや求愛行動など繁殖行動を開始するため、12月が調査開始となるケースが多いようです。

今年の冬の訪れとともに調査を開始した場合、終了するのは2017年の終わりごろとなります。その後、調査結果を受けて環境保全策の必要性の有無や、必要な場合はその方法を検討しなければなりません。猛きん類だけではなく、その他にも希少な動植物が確認された場合は、それなりの対策が求められます。

工事計画が具体化するのはその後です。したがって早川芦安連絡道路が着工できるようになるのは、早くとも2018年の半ば以降でなければおかしいはずです。

調査結果によっては、工事計画がかなりの制限を受ける可能性もあります。事実、岐阜県で計画されているリニア関連の道路整備事業は、オオタカの営巣が指摘されたことにより、今年夏より追加調査が行われています。もしもイヌワシやクマタカの営巣が近傍で確認されでもしたら、事業計画自体が白紙に戻る可能性もあります。

◇   ◇   ◇   ◇   ◇ 

ところがリニア中央新幹線についての山梨県版評価書を見ると、早くも1年目にはトンネル掘削に着手する予定になっています(内河内川斜坑)。

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山梨県版評価書の資料編を複製・加筆
ここでいう「1年目」とは、平成26年度を示している。
青崖地区…斜坑の予定地。早川の谷底。84.2万立米+94.2万立米の発生土が出される予定。
内河内川…こちらも斜坑の予定地。早川支流内河内川沿いの谷底。147.5万立米の発生土が出される予定。 

評価書の別の部分では、工事は平成26年度に着工するとしています(山梨編評価書3-46ページ)。ですから「2年目」とは、平成27年度つまり今年度を意味します。上記の表ですと…内河内川の斜坑では、早くも1年目に「掘削・支保工」を行うとしていますね。支保工とは、掘削したトンネルの壁が崩れないように補強する工事のことです。

本命の発生土処分=早川芦安連絡道路の着工は、2018年半ば以降にならないと決まらないのに、なぜか今年度中にはトンネル掘削が行える前提で評価書が書かれていたことになるわけです。

それから冒頭で述べたように、このたび南アルプストンネルの山梨県側工区の施工業者が決まったとのことですが、こちらのほうも、2016年着工というスケジュールを前提としているはずです。

早川町内には、塩川という地区に発生土置場が想定されていますが、受け入れ可能量は4万立方メートルとされており、斜坑588m分しかありません(斜坑断面積68㎡)。2018年までの2年分を受け入れる容積はありません。ですのでここは有力な処分場になっていないはずです。 

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ついでながら、早川芦安連絡道路が完成した後は、芦安山岳館付近で大規模な駐車場造成を行うとしています、別にこの駐車場構想自体に文句をつけるつもりはありません。けれども、それだけ大規模な造成工事を行う条件がそろっているのでしょうか?

夜叉人峠一帯を源流とする御勅使川(みだいがわ)は、暴れ川として有名です。川の名称は、洪水に見舞われた際、都から勅使が派遣されたためだとも、「乱れ川」がなまったものだともいわれています。戦国時代、武田信玄が甲府を守るために大規模な工事を施したことで、治水史上にも名を残しています。

明治以は、国直轄による砂防工事が始まり、一帯は砂防ダムだらけのはずです。土木遺産にも指定されているようです。

一生懸命に土砂の流出を抑えようとしているところに、数十万立米単位で盛土を計画しているわけで、なんだか妙な気がします。安全性をめぐり、計画が二転三転するかもしれません。

JR東海&山梨県のリニア計画は、ここでの大規模造成が可能という前提でもあります。




・・・発生土処分は、事前調査すらしていない他の事業ゆえ不確実な要素が多いのに、それらが全てクリアできる前提で掘削工事を開始?

これって、何かおかしくないでしょうか?
そして、「早期着工」は、スケジュール上、ありえないのではないでしょうか?

付帯施設と環境アセスメント -住民意見提出を回避させたじゃあるまいな?ー

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何でも後回し  

ということが生み出した問題点について、今一度、考える必要があると思います。


【要旨】
リニアの付帯施設(発生土置場、変電所等)については、本来であればアセス手続きにおいて、一般市民等の検証を受けなければならなかった。しかしアセス手続き中に計画を具体化できないとして事後調査に切り替えることにより、一般市民等からの意見提出の機会が失われてしまっている。法的には問題ないとしても、環境保全上あるいは社会通念上、これはおかしくないだろうか?


この問題点については、環境影響評価制度をおさらいする必要がありますが、ここで説明しますと長くなりますので、こちらをご覧ください。
⇒【環境省 環境アセスメントガイド】
http://www.env.go.jp/policy/assess/1-1guide/index.html

ええと、環境影響評価法では、一般市民から「環境の保全の見地からの意見」を提出する機会を3度定めています。

配慮書作成時
方法書作成時
準備書作成時

です。それは住民にとってどんな意味を持つのか?
いろいろと考えられますが、とりあえず
●問題発見・問題提起
●情報の提供
●自己の権利防衛
●公益の保護
●事業活動の監視
●合意形成のための参加
 
といったところでしょう。環境保全という範囲に限定されますが、事業への住民参画を法律で定めているわけです。事業による環境保全策について住民が参画する権利を法律が定めている…この点は重要です。

リニア中央新幹線計画は、環境影響評価法に基づいて環境影響評価手続きが進められ、配慮書段階(2011年6月)、方法書(2011年9月)、準備書段階(2013年9月)の各段階において、一般の住民からの意見が聴取され、事業者の見解が示されました。まあ、ロクな回答がなかったわけですが、今日の指摘はそこではありません。
環境影響評価手続きにおいては、リニア建設計画のうち、JR東海の直接関係する事業によって影響を受ける可能性のある場所のうち、おそらく半分程度しか明かされませんでした。
すなわち、

発生土置場(静岡県と山梨県早川町塩島を除く)
発生土の仮置場
関連する道路工事
一部の変電所

については、候補地はおろか、事業計画自体も挙げられていませんでした。

で、これらについてどうしたのかというと、「具体的な位置・規模等の計画を明らかにすることが困難な付帯施設に関する環境保全措置の内容をより詳細なものにするための調査」として法第14条7のハを適用し、後回しにしたわけです。
…チンプンカンプンですよね。。。

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事業者がおこなった調査・予測・評価結果および環境保全措置についてまとめたものが準備書です。この記載項目について、環境影響評価法第14条7のハでは、これらと並んで次のようなことを書くよう定められています。

法第14条7のハ(要旨)
環境の保全のための措置が将来判明すべき環境の状況に応じて講ずるものである場合には、当該環境の状況の把握のための措置を準備書に記載しなければならない

分かりにくい表現ですけど、ここでいう「将来判明すべき環境の状況に応じて講ずるもの」とは、一般的には、例えば移植した植物がうまく育たなかった場合など、問題が将来的に判明したとき等にとるべき対策のことをさします。「当該環境の状況の把握のための措置とは、その植物の生育具合を見定めるための方法を指します。

つまり、この規定は、正体発生するかもしれない問題を監視するための方法を準備書に書かなければならないとしているのです。この監視体制のことを事後調査とよびます。いわゆるモニタリング調査のたぐいであり、河川の流量調査、井戸の水位、騒音の監視なども含まれます。

ですけど本件リニア計画の場合、通常とは異なった解釈が行われています。

「環境の保全のための措置が将来判明すべき環境の状況に応じて講ずるものである場合には、当該環境の状況の把握のための措置を準備書に記載しなければならない」

「将来になって場所が決まってからその場所の環境の状況は判明する。その場所の環境の状況に応じて環境保全措置が決まるから、その環境の状況を把握するための手法を準備書に記載しなければならない。」

というように読み替えられているのですね。これはJR東海の解釈ではなく、配慮書への環境大臣意見で述べられた内容に基づきます。計画当初より、環境影響評価手続きの中では事業計画の全貌が見えてこない事態が想像されたために、「全く環境配慮ができない最悪のケース」を回避するための布石であったと思われます。

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とはいえ法律の範囲内であったとしても、事業者に課せられた義務や住民サイドという面から見ると、どうもノープロブレムとは言い難い。。。


というのも、事後調査において住民参画については一切法律で規定していないということがあげられます。繰り返しになりますが、通常の環境影響評価において事後調査が対象とするのは、事業着手後のモニタリング計画を主眼としているからです。そこでは環境影響評価は終了していますから、住民による意見提出は終わっているはずなのです。

けれども本件リニア事業の場合、「場所が決まっていないからアセスのやりようがない」ものを、拡大解釈によって全て事後調査の対象にしてしまいました。

JR東海は、発生土置場など環境影響評価の過程では位置等を明らかにすることのできなかった付帯施設については、次のような事後調査を行う方針であると公表しました。

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(長野版 事後調査計画書)

長くなるので省略しましたが、一応、環境影響評価と同じように環境の把握のための調査をおこない、その結果を公表するとしています。ところが住民および一般市民の参画については一切示していません

これによって生じているおかしな話。

9/4、長野県の南信州新聞に次のような記事が掲載されました。まあ長野だけでなく他地域でも似たような状況かと思われますが。

本紙の調べでは、大鹿村の298万立方メートルは、同村の10万立方メートルの他、松川町の窪地埋め立てなど3カ所で620万立方メートル、駒ケ根市内の市道改良で3万立方メートル、中川村内の県道改良で13万立方メートルの活用が検討されており、候補地の受け入れ量が発生量を大幅に上回っている。
 豊丘村は窪地2カ所の埋め立てで、喬木村は工業団地の整備で村内発生分を処理できる見通し。搬出経路としては、長沢田村線や竜東一貫道路が予想される。 

記事からでは、行政とJR東海だけで話が進められているように見受けられます。関係する市町村のホームページ等を見渡しても、一般市民等の関与を求めるような呼びかけにはたどり着くことができません。これでは住民不在とされてもしかたがないでしょう。

けれども、もしも準備書の段階で発生土置場候補地について触れていたのであれば、その場所の妥当性、工事計画、調査手法・結果の妥当性、環境保全措置について、環境影響評価法に基づき、住民および一般市民が意見を提出することができていたはずです。例えば「候補地になっている場所に希少な生物が生息しているのに現地調査で見落とされている」といったことを指摘することができます(例:静岡県版準備書)。

前述の通り、これは地域の環境保全のために一般市民がもつ権利です。

けれども事後調査に振り替えることより、一般市民はその権利を行使する機会がはく奪され、行政もそれを容認していると言わざるを得ない状況になってしまっています。


見方を変えれば、JR東海は、本来は受け付けなければならないはずの住民意見提出を回避することができた、と解釈することもできます。もしも発生土置場について内々に候補地を挙げておきながら、意図的にこれを狙っていたとすれば、極めて悪質…。

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いずれにせよ、JR東海の示した方針、および現在の進め方では、事業者と行政機関、土地所有者だけで話が進んでしまい、客観的な指摘の入る余地はありません。これでは「推進する側にとって都合のよい論理」だけで進めることが可能となってしまいます。

環境は、特定の人だけが所有するものではありません。ゆえに環境をどのように保全してゆくかという議論は、様々な価値観・利害をもつ人々意見を突き合わせることによって、はじめて結論が導き出せるものだと思います。「内輪の論理」で進めてはダメでしょう。

というわけでJR東海様へ。

発生土置場候補地の調査について、「けっして住民意見提出を回避することを目的として事後調査対象としたわけではない」とご主張されるのであれば、今後公開されるであろう調査結果について、意見提出の機会を保証すべきであると考えますが、いかがでしょうか?

評価書に対する国土交通意見にも、このような一文がありますよね?
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乾燥堆肥の大量搬入 ―南アルプスは誰のモノ?―

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慌てて書いたので文章がまとまっていません。思いついたことをダラダラ書いてます。

本日、南アルプスの静岡県側、つまり大井川源流域に、土地所有者の特種製紙という企業が、大量の乾燥堆肥を搬入しているという報道がなされました。
(静岡新聞 平成27年9月13日朝刊)
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この乾燥堆肥は、同社の製紙工場から排出された汚泥を原料として生産されるものであり、リニアのトンネル掘削によって生じた発生土を緑化するために用いるとしているそうです。南アルプス山中の大井川源流に汚泥起源の堆肥を大量搬入…理屈云々以前に、直感として、ちょっとそれってどうなのよ?という疑問が頭をよぎりました。

っていうか、発生土自体の処分方法が決まってないのに、どうして早くも搬入してるのだろう? 

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大量の乾燥堆肥を仮置きするのは、この図で「発生土置場候補地」として黄色の点線で囲った範囲になるようです。

大井川の源流域一帯は、特種製紙という企業の一大所有地となっています。江戸時代は幕府の直轄地だったものが、明治維新後に所有者が二転三転し、最終的に当時の大実業家・大倉喜八郎の手に渡ったようです。

製紙用・製材用として昭和の終わりにかけて大規模な伐採が続けられてきましたが、ここ四半世紀ほどの間は、伐採は控え、本来の森林環境が戻りつつあります。
現在、南アルプスにおける登山施設や送迎バスの運営を行っているのは、特種製紙傘下の東海フォレストという企業になります。

で、その社有林に大量の乾燥堆肥を搬入する計画であるとのことです。

現在のところ、大井川源流域では農業は全く行われておらず、山小屋を除くと人工的な水質汚濁の原因となる物質は排出されていないはずです。つまり人工的な水質汚濁はほとんど皆無といっていいでしょう。そこへあえて化成肥料(尿素配合)を大量に運び込むという話になっています。

堆肥1万7000立方メートルとなるとダンプカー3000台分に相当します。ホームセンターで販売されている40リットル入りの袋なら42万5000袋に相当します。これを運搬すること自体、”ある程度”の環境への影響につながると思うのですが、どうなのでしょう? JR東海による環境影響評価での想定に含まれているのかどうかも分かりません。 

同社の南アルプス社有林については、山林経営が赤字ゆえ、是が非でもリニア計画に協力したいという話を伝え聞きます。今般の堆肥搬入計画もその一環を担ってますし、その他にも観光開発や農業をおこなうといった計画のあることも、新聞では伝えられています。万事について「勝手に決まっちゃっている」感が否めません。
 
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土地所有者が自らの土地で何をしようが、法律の範囲内であれば問題ない。この考え方は、おそらく間違ってはいないでしょう。

しかし同時に、その行為によって起こりうる影響が、土地所有者による責任を負えることの可能な範囲を超えてしまうおそれがある場合でも容認できるのか?という点も忘れてはいけないと思います。

ハッキリいって、ここで行われる行為は、社会的な影響が大きいと断言します。
すなわち、

●広い範囲にわたって良好な環境が残されている。
●生態系や景観の保全上重要な場所である。
●一級河川大井川の水源地帯である。
●全国から登山者が集まる。
●保全上、重要な場所として国立公園区域の拡張計画がある。
 

という場所ゆえ、そこで行われる大規模な経済活動は、社会的な影響が大きいと考えます。それゆえ、南アルプスの環境とその恵みは、誰のモノでもない公共財といわれるものに相当する部分が大きいと言えるでしょう。

なお細かい話になりますが、影響を受ける可能性のある環境について土地所有者の権利は及ばない事項もあるようです。一例をあげますと、野生動物は無主物であって誰の所有物でもない、という法律上の規定があります。
民法239条1項:所有者のない動産は、所有の意思をもって占有することによって、その所有権を取得する。 
だから、保全上特に重要な動物については、たとえ土地所有者であっても好き勝手にすることはできず、その処遇には社会的な議論をおこなう余地があると思います。 
また、河川法により、河川の水も所有の対象にすることはできません。  

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一帯は南アルプスユネスコエコパークに登録されています。そもそもユネスコエコパークは、事業者、住民、行政の総意に基づく管理と運営によって自然環境を持続可能な形で利活用していこうという制度であり、土地所有者の意向のみで環境に影響を及ぼしかねない行為を実施することは、その目的とはかけ離れていると言えます。っていうか、それが通用するのなら、登録した意味がありません。

ゆえに、今や南アルプスで行われる、ある程度以上の諸行為には、社会的な合意や説明責任が求められると思います。静岡市による南アルプスユネスコエコパークの管理運営計画にも、その旨が明記されています。

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静岡市作成 南アルプス管理運営計画より


市や県、あるいは環境省には、事業者・土地所有者と住民(というか関心のある日本国民全般)との間をとりもつコーディネーターとしての役割が強く求められると思うのであります。

南アルプス乾燥堆肥大量搬入計画 ―静岡市清流条例・セビリア戦略との整合性ー

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南アルプス大井川源流域に大量の感想堆肥を搬入する計画について、南アルプスユネスコエコパーク制度という面から、もう少し考えたいと思います。

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大量の乾燥堆肥を置こうとしている付近の大井川
リニア本体工事が始まると、右手の森林は発生土の下となる

2014年10月に南アルプスを訪れた方より写真を提供して頂きました


乾燥堆肥を搬入しているのは南アルプス大井川源流域の土地を所有する特種東海製紙という企業です。同社の製紙過程で生じた汚泥を乾燥させたものに化成肥料である尿素を混ぜ、堆肥として販売しているようです。一般には流通していないとのことで、直接農家や造園業者などに販売されているのかもしれません。それを17000立方メートル、ダンプカー3000台に相当する量を搬入するとの計画だそうです。

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2015年9月13日 静岡新聞 

乾燥汚泥そのものである場合は産業廃棄物であり、これを運搬・処分する場合には産業廃棄物処理法の適用を受けます。しかし本事例については商品価値のある堆肥に加工しているため、同法の適用は受けません。また、川の水質への影響も気になるところですが、河川法や水質汚濁防止法の適用も受けないと思われます。

とはいえ全く法制度上の問題ないとは思えず、後述の通り、静岡市の条例に引っかかるのではないかと思われます。

南アルプスの大井川源流部は人が定住した記録はなく、昭和30~40年代まで焼畑が営まれていた以外に、農業のおこなわれていた記録もないようです。焼畑では焼いた草木を肥料にしますから、人里から肥料を持ち込むようなことはしていなかったと思われます。したがって大井川源流部においては、今になって史上初めて、大量の肥料が持ち込まれる事態になるものと思われます。

このたび搬入を計画しているのは17000立方メートルとのこと。市販されている40リットル入りの袋なら実に42万5000袋に相当します。

ちなみに、ブログ作者がプランター用に購入してきた牛糞堆肥の袋には、使用量の目安として「10アールに50~100袋」と書かれていました。乾燥堆肥なるものの成分や使用量など詳しいことは全く不明ですが、この比率をそのまま42万5000袋に当てはめますと425~850ha、すなわち4.25~8.5平方キロメートルとなります。ちなみに大井川中流域の川根本町の農地面積は、平成22年で677ha。
https://www.town.kawanehon.shizuoka.jp/profile2/sangyou.asp
これまで農業の行われてこなかった地域に、突如として広大な農園が出現するの同じような意味をもつのではないでしょうか? 

1万7000立方メートルもの量が、どのように置かれるのか全く分かりません。土嚢に入れて積み上げるのでしょうか? まさか野積みするなんてことはないと思いますが…。

保管場所とされている燕沢平坦地とは大井川の河原です。雨で成分が流出したり、洪水が起きた場合に流出するおそれはないのでしょうか? また厚さ5mで平積みしても3400平方メートルと、広い面積が必要となります。これによる景観への影響はいかなるものでしょうか。
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衛星画像の中央下部の灰色部分に乾燥堆肥を置くもよう
将来的には発生土を積み上げ、その上に乾燥堆肥を用いて緑化する計画 

そして最終的にはJR東海が掘り出した大量の発生土を覆土する際に用いられることになる計画ですが、ここで雨ざらしになった後に、河川の水質に与える影響はどのようなものがあるのでしょうか?

っていうか、そもそも燕沢に発生土を置くことが決まったわけでもないし、そこでのJR東海による環境保全措置も全く不透明(評価書で環境への影響がほとんど言及されていない)であるのに、なぜ工事終了後(10年以上後)を見込んで搬入することができれいるのでしょう?

影響がま~~~ったく見通せないのに、汚染の原因物質だけが大量に搬入されています。

しかもこの話、市や市民の全くあずかり知らぬところで行われています。
状況が判明した経緯も

登山者⇒静岡市議会議員⇒静岡市役所に問い合わせ⇒静岡新聞で詳細を報道

というような形でした。県による確認が行われたとのころですが、どのタイミングで行われたのか定かでありません。市による反応も実に鈍いようです。


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ところで静岡市には、水源地帯の環境保全を目的にした静岡市清流条例というものがあります。

第1条 この条例は、静岡市環境基本条例の基本理念にのっとり、日本有数の清流である安倍川、藁科川及び興津川に代表される清流を次の世代へ継承するため、その保全に関する基本原則を定め、並びに市民、事業者及び市の責務を明らかにし、その3者の協働により、清流をそれぞれの共有の財産として保全することを目的とする。 

ここでいう「清流」とは第2条で「その流域の豊かな自然環境が保持され、かつ、市民に様々な恩恵を与え、住民生活及び周辺の生態系との調和が保たれた河川」と定義されており、静岡市ユネスコエコパーク管理運営計画によれば、大井川源流域も含まれているとされています。

また、「協働」という言葉についても第2条において、「市民、事業者及び市が、それぞれ自らの果たすべき役割及び責務を自覚して、自主性を相互に尊重しながら、協力し合い、又は補完し合うこと」とされています。

この協働の内容については次のように定められています。

第7条 市民の責務
市民は、第3条から前条までに定める清流の保全に関する基本原則にのっとり、清流を保全するよう、その生活において自ら努めるとともに、事業者及び市との協働に配慮しなければならない。

第8条 事業者の責務
事業者は、基本原則にのっとり、清流を保全するよう、その事業活動において自ら努めるとともに、市民及び市との協働に配慮しなければならない。

第9条 市の責務
市は、基本原則にのっとり、清流の保全に関する総合的な施策を策定し、市民及び事業者との協働によりその実現に努めなければならない。
 

これら第7~9条の規定に従えば、「大量の堆肥を大井川沿いに置く」という行為については、大井川の水質に影響を及ぼしかねないことから、市民・事業者・市の協働によって清流保全のための行動を起こさねばならないはずです。

また、第12条および施行規則では、「清流」の水源地帯を「重点区域」に指定し、面積2000平方メートル以上の開発行為を行う事業者は、市との間に清流の保全に関する協定を締結するよう努めなければならないとされています。義務ではなく努力目標であるのがビミョーなところですが、特殊な場所である以上、協定が締結されるべきであると考えます。

さらに

第18条 重点区域において、その事業活動のため肥料又は農薬を使用する者は、清流の保全のため、その適正な使用に努めなければならない。 

という規定もありますから、堆肥大量搬入および使用による環境(水質)への影響がどのようなものであるか、予測されるべきではないでしょうか(というか、本来はJR東海が評価書において行うべきであった)。

このように清流条例に従えば、けっして地権者が一方的に大量の堆肥を搬入することは好ましくなく、その計画については市が仲立ちとなった市民との協働でなければならないと思われます

また、清流条例だけではありません。

一帯は南アルプスユネスコエコパークの移行地域に登録されています。移行地域においては「経済活動」が認められているため、この方針に沿った農業・林業を営むことについては問題がないと考えられます。おそらく特種東海製紙が、移行地域内へ乾燥堆肥を大量搬入することを正当化する場合、この概念を理由に挙げると思われます。JR東海が移行地域内でのリニア建設を正当化しているのも同じ理由です。

ところが移行地域のもつ本当の意義・目的に照らし合わせると、こうした考え方は、一面しか見ていないように思えます。

移行地域における活動については、ユネスコ 「生物圏保全地域 セビリア戦略と世界ネットワーク定款」 には次のようにうたわれています。
各生物圏保存地域は、3種類の要素を具備する必要がある。つまり、保護地域…(中略)…緩衝地域、…(中略)…、柔軟な移行地域(具体的には各種の農業活動や定住等。地域社会、運営団体、科学者、非政府系団体、文化団体、経済団体その他の関係者が相互に連携して、この地域の資源を管理したり持続可能な形で開発を行う)。 

つまり、南アルプス移行地域で行われる行為は、事業者・行政だけでなく地域社会や様々なNGOなどとの協働によって計画されねばならないとしているわけです。静岡市清流条例の基本的理念と一致しています。

この認識、まったく共有されていないように思われます…。

◇   ◇   ◇   ◇   ◇ 

現在のところ、このユネスコエコパーク移行地域内への乾燥堆肥大量搬入計画については、「事業者・市・市民」との協働」というかたちになってはいません。静岡市はユネスコエコパークの管理運営については次のような体制を構築するとしていますが、現在進行形で環境へ悪影響を及ぼしかねない行為が進んでいるのに、対処できないのであれば、看板倒れに終わります。
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この堆肥ごときに対応できないのであれば、その後に控えている超ド級の自然破壊-リニア本体工事-への対応も難しかろうと思われます。本当に環境を守り、ユネスコエコパークを運営していくつもりがあるのか、事業者・市・市民それぞれに問われていると思います。

事業計画を大幅変更するのなら環境アセスメントをやりなおしてください。

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環境影響評価をやり直してくださいな 

本日静岡市役所で開かれた環境影響評価専門家会議において、JR東海の担当者から、大井川沿いの平坦地「燕沢」に、静岡県内での発生土(360万立方メートル以上)を集約する案についての説明がなされたという。そして本線トンネルから掘り出された発生土を運搬するために、新たに道路トンネルを建設する必要があるのだという
(25日の静岡新聞記事)


26日の新聞報道によると、これまで西俣~扇沢に計画していた道路トンネルの位置を変更し、西俣斜坑~燕沢(約4500m)にするのだという。工事用トンネルの長さが6割程度に減るので環境負荷が減るのだとか。

26日の静岡新聞 



冗談ではない。

おい、東海旅客鉄道株式会社さんよ。
アンタらの庭じゃないんだぞ!

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このあたりぶっ潰すんだって。。。
(昨年10月に南アルプスを訪れた方よりご提供いただきました。上千枚沢合流点付近の工事施工ヤード予定地) 


とまあ、キレそうになったわけだ。勝手にいじくり回すのが実に気に食わないのだけど、もうちょっと冷静に考えてみよう。



環境影響評価が終了し、事業認可を受けたのは昨年8月のことでした。それをもとにして11月4日に事後調査計画書が県へ提出されました。このあと、静岡県内においては、環境影響評価の結果を含めて事業計画の変更が相次ぎました。

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環境影響評価の間は、発生土について上記地図に示したA~Gの7地点に分散して処するとしており、その前提で評価書が作成されました。しかし山の稜線上にあるA地点を中止し、大井川沿いのB地点(燕沢平坦地)に全量を集約しようと言い始めたのです。このため発生土運搬のために、新たな工事用トンネルを掘るともしています。図中では東西2本の工事用道路トンネルが計画されていますが、これらは中止し、新たに西俣斜坑と燕沢と直結するトンネルを掘るのだそうです。

ところで今年に入ってから、コロコロと話が変わり続けています。

①扇沢の発生土置場の使用を中止し、全量を燕沢平坦地に集約する案を表明(2015/4/15)。
②前項に伴い、道路トンネルの位置・規模の変更計画を表明(同/9/25)。

の他にも、

③JR東海の調査では確認されなかったとされるヤマトイワナ(絶滅危惧ⅡB)について、地元漁協の調査から異議が出され(同4/30)、市の委託調査によっても生息が確認される(同6/9)。
④トンネル内に発生する湧水を大井川に流すためとして、長さ12㎞の導水路トンネルの建設計画を表明(同4/14)。
 

こんな具合です。たった5か月間の出来事です。特に④については、大井川における河川流量への環境保全措置の方針として評価書に書かれた内容を全面的に否定するわけでして、評価書の信頼性が根本的に疑われます。


これら変更にともなう、環境影響評価書の記載事項の変更は次のように多岐にわたるはずです。

●工事用車両の通行台数の場所ごとの変更
●工事の順序やスケジュールの変更
●工事用道路トンネルの位置・規模変更
 ・発生土量の変更
 ・トンネル頭上の沢・地下水への影響が不明
 ・坑口における景観への影響
●環境保全措置としての工事用道路トンネルの妥当性
●燕沢に発生土を集約した場合の諸予測結果の変更
 ・生態系への影響(そもそも予測していない)
 ・環境保全措置の妥当性
 ・景観への影響
 ・周辺の崩壊地からの土砂流出へ与える影響
 ・工事騒音の増大
●導水路トンネル建設による諸影響についてアセス未実施
 ・発生土量の増加
 ・坑口付近での生態系や景観への影響
 ・工事用車両の通行台数
 ・頭上の沢への影響
●導水路トンネル計画における論理破綻(⇒2015/6/14ブ
ログ記事
 ・建設目的が不明
 ・評価書における河川流量についての環境保全措置を否

●ヤマトイワナについての環境保全措置が論理破綻
 ・「いないこと」を前提に話を進めていた
●事後調査計画の内容にも変更が生じうる


静岡県内での地上工事は、発生土の運搬と発生土置場の造成が大半ですから、それを全面的に変更することは、地上で発生する環境負荷の予測結果がほぼ全面的に変わることを意味するのです。

環境影響評価法の施行規則により、評価書が確定した後にアセスを再実施するかどうかの判断は事業者に委ねられます。

しかし事業認可の前提となった環境影響評価書の記載事項がほぼ全面的に変更されるわけです。しかも、変更後の事業計画については住民・地元専門家等からの意見提出の場は設けられないままとなってしまいます。

JR東海には、自主的なアセス再実施が求められると思います。
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