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Channel: リニア中央新幹線 南アルプスに穴を開けちゃっていいのかい?
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事後調査計画書 ホントに早期着工するつもりなのだろうか?

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昨日(4日)、JR東海が環境影響評価事後調査計画書を公表しました。
 
これは環境影響評価法第38条に基づく事後調査(モニタリングなど)報告を行うための計画書であり、その作成は法律で作成を義務付けられているわけではありません。しかし東京都、静岡県、名古屋市においては、条例で作成が義務付けられており、それに合わせて山梨県、長野県、岐阜県、愛知県版も作成したのでしょう。
 
で、これを見て驚いたのですが・・・
 
もしかしたら、リニアの着工は相当先なのではないか!?
 
 


 
こちらは、山梨県における水資源についての事後調査計画です。
イメージ 1
 
小さくて申し訳ありませんが、クリックして確認してご覧になってください。
 
右端の四角く囲ったところには、井戸の水位や河川流量を、トンネル工事着手前の1年間にわたって観測するとしています。
 
そして下端の赤線部分には、計測地点は専門家等の助言を踏まえて計画を策定するとしています。なお南アルプスの静岡県側では調査地点候補地を9地点あげており、長野県側は未定となっています。
 
ん? 
 
着工前に1年間調査?
 
その場所は未定?
 
 
????
 
 
リニアについては、2027年開業を実現するために早期に着工しなければならないという話をさんざん聞かされてきました。
 
南アルプスとて例外ではなく、年明けにも着工するという話も伝えられています。
http://www.at-s.com/news/detail/1174133555.html(2014/10/18静岡新聞記事)
 
 
 
ところが、着工する前に1年間事前観測を行うのなら、トンネル工事に取り掛かるのは昨日から1年以上先ということになります。静岡の場合、計画書に対する知事意見が30日後に公表されるのを待たねばならないので、1年一か月以上先となります。
 
場所がまだ決まっていないのなら、それを決める作業も必要となります。今年12月19日に、JR東海がトンネル工事による水問題について専門家会議を開くという話なので、おそらくそれ以降になるのでしょう。
 
「早期着工」「来年着工」という割には、妙に悠長だと思われませんでしょうか?
 
 
 
工学書を読み漁ってみると、トンネル工事における事前の河川流量調査は、環境への影響を把握するだけではなく、工事遂行のうえでも欠かせないものだそうです。すなわち、湧水の傾向、破砕帯の位置などを知るために欠かせないとのこと。その調査地点が、「着工直前」とされる現段階で決まっていないなんて、何か妙ではないでしょうか?
 
スケジュールという面でもおかしな気がします。
 
ルートの概略は、2011年9月の環境影響評価方法書の段階では幅3㎞の帯示され、2013年9月の準備書で確定されました。2年間ありましたから、河川流量調査はこの間に終わらせておくことが可能だったはずです。っていうか、普通のアセスならそうします。わざわざ二度手間にする必要性なんてないからです。でも、なぜか今から調査を開始…。しかも下手をすれば、「アセスで適切な調査が不足している」と訴えられる可能性すらある…。
 
そんな二度手間を行うなんて、全く急いでいないようにも見受けられます。
 
 
また、上記のスケジュールだと、南アルプスのトンネル工事に取り掛かるのは、2016年以降となることにとなります。評価書に掲載された工事計画によると、2025年には試運転を行うということなので、9年で南アルプスを貫通させる計画ということになります。
 
NEXCO中日本が、東海北陸自動車道の建設工事において、長さ10㎞の飛騨トンネルを完成させるのに10年以上かかったそうです。それなのに、長さ25㎞、斜坑や工事用道路トンネルまで合わせると計40㎞にもなる南アルプス本体区間(それぞれの工区は斜坑も含めると推定7~8㎞)、を、たった9年で完成させることなど可能なのでしょうか?
 
 
前回のブログ記事と同様に、急いでいる割には急いでいないように見受けられ、何か妙です。
 
 
 

山梨県早川町が発生土運搬でとんでもないことになりそう

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山梨県内においても工事説明会が開かれています。
 
一番はじめに開かれたのは早川町。南アルプスをぶち抜く25㎞の長大トンネル東側坑口が設けられる町です。
 
11/6 読売新聞記事 
 
2027年開業予定のリニア中央新幹線の着工が認可されたことを受け、JR東海は5日、早川町で事業説明会を開いた。県内では初めての開催で、住民ら約120人が出席。同町では南アルプスを貫くトンネル工事が予定されていることから、工事車両の通行量が増えることを心配する声が多く聞かれ、同社は地元への影響が少なくなるような対策を検討すると説明した。
 
 説明会で同社は、県内の工事について防音シートなどで防音対策を図って実施することや、工事排水の監視など環境保全に取り組むことを強調。同町では、トンネル掘削により計約325万立方メートルの残土が発生し、残土を運ぶダンプなどの車両が多い日で約460台が通過すると説明した
 用地取得に関しては、今後1年かけて地区ごとに再度、説明会を行い、その上で地権者と個別の交渉に入るとした。
 
 「道幅が狭いところが多く、生活できなくなる」、「早川町には静かな環境を求めて観光客が訪れる。目の前を続々とトラックが通ったら、商売がなりたたなくなる」。その後の質疑応答で、住民側から交通量の増加に伴う生活や環境への影響を懸念する意見が出ると、同社の担当者は、住民の車の通行を優先するなど、地元の負担を軽減する方策の検討を約束。環境面では、トンネル工事に伴い、地下水など水環境への影響が出るのではとの質問に対し、担当者は「トンネルの周りに防水シートを設置するなど、地下水への影響を最小限に抑える」と説明し、工事中も井戸水を調べるなど慎重に工事を進める姿勢を示した。
 
 県内の事業説明会は30日まで、沿線10市町で計10回開かれる。
 この日の終了後、同社中央新幹線建設部の奥田純三担当部長は、「これまで以上に地域に関連した具体的な説明ができた。今後も説明会を通じて理解を深めてもらいたい」と話した。
 
下線部のように、ダンプが1日片道460台(評価書では465台)通行することが説明され、「大変だ!」という話になっているようです。
 
しかし、とても465往復では済まないのですけど…。
 
 
イメージ 1
環境影響評価書 山梨県版より複製

記事にあるJR東海担当者の説明は、環境影響評価書において、騒音の予測前提として掲げられている数字です。それによると、リニアの早川橋梁の南側に位置する新倉集落にて、1日最大片道465台となっています。
 
「1日に930台が行き来する=31秒に1台」というわけです。こりゃ大変だ。
 
ところで、静岡・長野・山梨3県での発生土の搬出状況を見くらべていた私としては、この数字に疑問を抱きました。
 
静岡県の二軒小屋付近では、360万立方メートルの発生土の大半をベルトコンベヤで山の上に積み上げ、ダンプの稼働は少ないはずなのに最大片道478台。ちなみに発生土運搬車両の通らない井川集落では最大片道216台。
 
長野県大鹿村では、早川町と同様に3つの斜坑(JR東海は非常口と呼称)が掘られ、合計300万立方メートルが掘り出され、それを村外に搬出するダンプが異常に多いために1日1736台=片道863台。
 
いっぽう早川町内には3つの斜坑が設けられ、大鹿村を上回る322万立方メートルの発生土が掘り出されるのに、通行台数は片道465台。
 
うん? なんだか妙に少なくありませんか?

そうなんです。実は、早川町における片道465台というのは、発生土運搬車両をほとんど計算に入れていないのです。
 
 
片道465台を想定したのはこの場所になります。3つの斜坑の南側にあたる新倉集落という場所です。赤い丸で記した場所です。
イメージ 2
 
早川町の外から町内の3斜坑に通ずる道路は、早川沿いの県道だけです(林道は使い物にならない)。ですので、機械や建設資材を積んだ車両は、すべてこの新倉集落を通過することになります。またJR東海は、新倉集落の南側にある塩島地区に発生土置場を想定しており、そこに4.1万立方メートルの発生土を運び込む計画です。片道465台のうち、発生土を運搬するダンプは、この4.1万立方メートルを運ぶ車両だけです
 
じゃあ、残る322万立方メートルを運ぶ車両はどうなっているのか?
 
実は、評価書にはいっさい書いてありません。いやむしろ、「JR東海としては記載しなくてよい」と言うべきかもしれません。
 
◇   ◇   ◇   ◇   ◇ 
 

そのカラクリを握るのが、「早川-芦安連絡道路」「駐車場整備」という二つのキーワード。
 
「早川・芦安連絡道路」の整備計画というのは、早川沿い最奥の集落となる奈良田温泉から北に向かう林道を拡幅し、夜叉神峠付近に、既存の夜叉神峠トンネル(南アルプス・スーパー林道経由で北岳方面に向かう道)とは別にもう1本、4㎞弱の長大トンネルを掘り、奈良田温泉と芦安温泉との間に、一般車両の通年通行が可能な道路を造ろうというものです。早川町自体、外部へ通ずる道が1本しかなく、大雨や大雪のたびに孤立しがちであったこと、さらに既存の林道は狭いうえ冬季は閉鎖されるため、奈良田温泉自体が町内で孤立することが多々ありましたが、これが完成するとそのおそれが緩和されるとのことで、前々から早川町が早期実現を要請していたそうです。
 
この計画においては、リニアのトンネル掘削で早川町内に出される発生土160万立方メートルを、奈良田温泉の北へダンプ輸送し、渓谷沿いを埋め立てて林道を拡幅するという計画になっています
 
「リニア建設は渡りに船」ってことで山梨県の事業として行われ、今年度末の着工を目指すとか。
 
位置関係はこんな感じです。
イメージ 3
 
また、新夜叉神トンネル(仮称)を掘り終えた後は、リニアのトンネルから生じた残土を新設トンネルを使って南アルプス市へ運搬し、芦安温泉付近の谷を埋め立て、大きな駐車場を建設するという計画が出ています。芦安温泉は南アルプス北部の登山拠点となっており、シーズン中は登山客のマイカーで大混乱するため、その対策という目的なのだそうです。こちらにも100万立方メートル以上の発生土が運び込まれる見込みになっています。
 
というわけで、この二つの工事で300万立方メートル程度の発生土を使う見込みになっています。つまり、早川町内に出される膨大な発生土は、ほとんど二つの事業で飲み込んでしまおうというわけです

全事業費は70~80億円で、そのうち30億円をJR東海が供出することになりそうだということ。残る半分強は山梨県が出します。というわけで、山梨県が事業主体となる計画です。したがって、JR東海によるリニア中央新幹線整備計画とは別事業ということになります。
 
したがって、JR東海のおこなったリニア中央新幹線整備計画の環境影響評価においては、「早川-芦安連絡道路」「駐車場整備」整備に関係する事柄は、いっさい掲載しなくても構わなかったわけです。つまり、3つの斜坑に運び出された発生土の99%におよぶ322万立方メートル分を積んで、新倉より北の「早川-芦安連絡道路」「駐車場整備」建設現場向かうダンプカーは、JR東海のあずかり知らぬことになります
 
途中、下湯山集落、上湯島集落、西山温泉、奈良田温泉、白根三山登山口という、生活空間や観光地・登山拠点を大量のダンプカーが通過していくわけです。運搬量からみて、大鹿村での「1日1736台(片道863往復)」と同じような状況になるに違いありません。深刻なダンプ公害が容易に想像されますが、これはJR東海のあずかり知らぬところ、文句は山梨県に言えという話になるのでしょう。
 
たぶん、1分に2~3台という間隔で通行することとなり、騒音、振動、砂ぼこりに加えて生活車両が通行できない、登山客や観光客に敬遠されるなんて事態も想定されます。
 
ところがこれだけ深刻な事態が想定されるのに、山梨県はアセスも行わずに、今年度末に着工するという話をしています。なぜかというと、山梨県の単独事業としてみた場合、事業規模は山梨県条例でアセスが必要となる基準(林道の拡幅の場合は延長8㎞以上)以下であり、アセスは不要な事業という見方ができるためです。
 
う~ん、ひどい話だよなあ…。しかも、県立自然公園第2種特別地域であり、ユネスコエコパーク緩衝地域に接する地域で計画されているんだけど。
 
 
以上述べたことを地図にまとめると、こんな具合になります。
イメージ 4
基図は国土地理院地形図閲覧サービスうぉっちずより複製、加筆
 
 
 

「早川-芦安連絡道路」…。
 
町民の悲願という話ですけど、町民に計画の全容とリニア工事との関係は知らされて、そのうえで合意を得ているのでしょうか?
 
岐阜県でも同種の道路整備が計画されたものの、地元の反対意見が強く、事業化決定の採決が先送りされたという話がありましたが…。
 
 
◇   ◇   ◇   ◇   ◇
 
ところで、「早川-芦安連絡道路の建設工事現場に向かう車両はJR東海のあずかり知らぬところ」と書きました。このため、JR東海の環境影響評価結果のほうを鵜呑みにすることができない事態になっています(もともとデタラメなんですけど)。
 
最初のほうで、1日465台往復を想定した地点を記した図を掲載しました。あれは、環境影響評価書の騒音予測地点です。その場所では、現況65デシベルから70デシベルに増すが、環境基準70デシベルと一致しているから問題ないという評価結果が書かれています。
 
(参考 横浜市のホームページ 等価騒音レベルの意味)
http://www.city.yokohama.lg.jp/kankyo/mamoru/kanshi/words/laeq.html
イメージ 5
 
そもそも70デシベルというのは都市の幹線道路で使う値であり、それを山間部に当てはめること自体が明らかに間違っています。ふつうの住宅地では、55デシベルが基準です。しかし現状では新倉集落での騒音基準が設定されていないようなので、「これを使うしかない」とJR東海が主張すれば、法的には問題ないかもしれません。
http://www.city.yokohama.lg.jp/kankyo/mamoru/kanshi/stand/car-stan.html
(参考 横浜市のホームページ 騒音規制の説明)
 
また、現況65デシベルというのは、妙に大きな値です。そこで評価書資料編の測定結果を見てみると、夜中で車が通行していないのに57デシベル以上あります。神奈川の評価書と見比べると、川崎の住宅地の夜中よりも大きな値になっており、山里にしては不自然です
 
おそらく、川音などの自然由来の音(暗騒音)を測定しているのでしょう。、「現状でもうるさい場所だから少しぐらい騒音を増やしてもいいだろう」と主張する意図があったかもしれません(静岡の二軒小屋での騒音測定が、まさにこれでした)。というわけで、騒音の測定結果自体が怪しいです
 
これらの問題もさることながら、もっと大きな問題があります。
 
新倉での騒音予測対象にした車両は、リニアの建設工事にかかわる車両、つまりJR東海がカネを払って動かす車両だけです。早川町外(身延のほう)から新倉を通って早川-芦安連絡道路へ向かう工事用車両は、山梨県がカネを払って動かす車両なので、この評価書での騒音予測対象には含まれていないはずです
 
ということは、実際の新倉での騒音は、この70デシベルに、さらに早川-芦安連絡道路へ向かう工事用車両による騒音が追加されることになるわけです。すると、騒音の最低基準70デシベルを超過してしまう可能性があります。70デシベル以上となると、新幹線沿線や首都高速沿いと同じような値になります
 
これが10年以上続くんですけど・・・。
 
(参考 東京都による都内での騒音測定結果)
 
◇   ◇   ◇   ◇   ◇
 
聞くところによると、同じようなリニア工事による甚大な環境破壊の懸念される大鹿村にくらべ、早川町での疑問の声が小さかったのは、どうも計画の全容が町の人々に知らされていなかったためのようです。
 
早川-芦安連絡道路計画の全容とリニア工事との関係について、JR東海はもとより、こちらの事業主体となる山梨県と、「悲願」として早期着工を訴えてきた町役場とが、早急に詳しい説明を行う義務があるのではないでしょうか?

聞く方も答える方も「何だかな~」な静岡リニア説明会

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昨日18日、静岡にてリニア中央新幹線の工事説明会が開かれました。
 
イメージ 1
 
会場で配られていた評価書あらましの冊子。中身は準備書と対して変わらない。
 
 
18:30に開始。工事説明会というよりは評価書説明会といった印象。ざっと見渡して250~300人ほど。圧倒的に男性が多く、中高年の方ばかりで若い方々は少ない印象。
 
19:10質疑開始。以下、自分のメモをもとに質疑のやりとり概要。
【一人目 焼津市 男性】
説明会の周知が不誠実で不満がある、全く知らされていなかったという怒声。それに応じて会場の所々からも同調の野次。事態収拾まで数分経過。結局質疑らしい質疑にならず。
A.当社のHPに掲載した。県やマスコミにも広報はしたつもり。
(作者注)前日17日朝刊の静岡新聞社会面の記事に、結構大きく扱われていた。大手新聞の県内版については知らない。
 
【2人目 神奈川県相模原市 男性】
リニア反対グループのメンバーとのこと。JR東海の姿勢に不満をぶつける演説開始。質疑になっていない。
 
【3人目 静岡県議会議員 男性】
上に同じ。
 
【4人目 静岡県労働組合評議会 男性】
Q.1 どこにどれだけの発生土を置くのか教えてほしい。それが分からないのは、地元としては理解以前の問題である。扇沢は地すべり、燕沢も大崩壊地であって危険である。
A.扇沢に地すべりのあることは認識しているが、ボーリング調査で岩盤を確認しているので大丈夫だと問題ないと考える。燕沢は崩壊が進んでいるが、最近砂防ダムが設置されてからは土砂の流出が減って安定していると考えている。どこにどれだけ置くかというのはこれから関係機関と打ち合わせを行って決めてゆく。
 
Q.2 南アルプスではユネスコエコパーク登録の次に世界自然遺産登録の構想があるが、リニアの工事によって実現不可能になるのではないか。
A.「環境影響評価書 資料編7 南アルプスユネスコエコパークについて」の説明を読み上げる。
(注)質問は世界遺産登録についてであってユネスコエコパークのことを尋ねたわけではない。つまり答えていない。
Q.3 写真撮影禁止、マスコミ排除など、地元の理解を得ようという姿勢にはみえないが。
A. これで十分と認識している。
 
【5人目 焼津市 男性】
Q.1 地震災害に備えて東海道新幹線の代替機関という位置づけだが、トンネルは大丈夫か?
A. トンネルは地山と一体化しているし、構造物のような揺れの増幅がないからより安全である。
 
Q.2 東海道新幹線の代替機関とするには、リニアの輸送力は小さくないか?
A. 東海道新幹線と分担するので大丈夫。
 
Q.3 無視できない環境被害が生じた場合、補償はどうするのか?
A. 被害を出さないようにアセスをおこない、環境保全措置を考えている。被害は起きない前提で計画を進めているので、仮定の話には答えられない。こうした進め方でよいという国のお墨付きを得ているので大丈夫である。
 
【6人目 浜松市 男性】
Q.1 トンネル湧水をくみ上げて川に戻したら鉱毒被害が生ずる。
A.実際に河川流量が減るかどうかも分からないので、そもそもくみ上げて戻すかどうかは未定。実際に減ったらくみ上げることも考える。ボーリング調査の結果、地質条件から鉱毒被害は生じないと考えているし、トンネル湧水は適切に処理するので問題ない。
 
Q.2 トンネル湧水はものすごく高圧と予測されるが、防水対策でとまるのか?
A.完全に止まるとは考えていないが、透水率を下げることは可能とみている。
 
Q.3 アセス開始以前に流量調査をしていたのであれば、ルート選定時にその結果を考慮することが可能ではなかったのか?
A.アセス開始以前の調査は運輸大臣による調査指示に基づくものである。
(注)全く答えになっていない。質問中に司会者が「要点をまとめてくれ」と発言し、質問が中途半端に終わった印象。
 
【7人目 静岡市 男性】
Q. 県道井川湖御幸線を大量の工事用車両が通行する。生活空間に大量の車両が通行することによって健康被害や地元車両への影響が心配される。
A. 工事量車両の通行ルートは一本だけでなく、複数を考えている。要所には交通誘導員を配置する。アセスで健康被害は生じないと予測している。
(注)県道井川湖御幸線は静岡市中心部から井川ダムに向かう道。途中に標高1200mの峠越えがある。
 
【8人目 静岡市 男性】
Q. 8割がトンネルであるが、地震でトンネルが破断するのでは?
A. 断層はなるべく短く通過する。NATMは地山と一体化するので地震には強い。断層破砕帯はロックボルトの数を増やす。
 
【9人目 島田市議会議員 男性】
Q.1 大井川の流量減少が生じた場合、トンネル湧水を汲み上げて戻すということだが、具体的な工法は?
A. 実際に河川流量が減るかどうかも分からないので、そもそもくみ上げて戻すかどうかは未定。実際に減ったらくみ上げることも考える。青函トンネルの事例からみて不可能ではないと考えている。
 
Q.2 長野県大鹿村では、「地元の理解を得るまで着工しない」という話があったと聞いている。静岡における「地元」とはどこを想定しているのか?
A. 地元を代表する協議会のようなものを想定している。説明会でもご理解をいただく。
 
【10人目 静岡市 男性】
要点の不明瞭な演説。質疑が成立せず。
 
このようなやり取りでありました。殴り書きのメモを基にしているので、不正確な点もあるかもしれませんがご容赦ください。

うんざりというのが正直な印象。
 
質疑が成立していません。
 
 
もとより制限だらけであることは、方法書説明会、準備書説明会および工事説明会で先行した地域の状況をみれば明らかです。そんな中で運よくあてられた人は、その瞬間、まさに地域を代表する人になるのですから、個人的な感傷を爆発させたり、演説で時間を浪費させることは抑えてほしかったなあと思います。
 
静岡新聞の記事だと、質問の手が挙がっていたのに、一方的に閉会させたJR東海の姿勢はいかがなものかというニュアンスで書かれていたけれども、「終了予定時間は20:00」と予め言われていたのにもかかわらず、一人で時間を独占する人の姿勢もどうかと思うのです。
 
質疑開始直後の野次で一時進行がストップし、10人中3人は長々とした演説で終わってしまって具体的な質問や指摘は出てこなかった。この4名だけで大半の時間を費やしていたと思います。
 
もしかしたら鋭い指摘をすることのできた人が11人目、12人目にいたかもしれないと思うと、実に残念です。
 
それからひっきりなしに野次を繰り返す男性が数名。何だありゃ?
 
言いたいことがたくさんあるという思いは皆がもっているのだから、限られた時間を有効に使うために、せめて言いたいことをメモして読み上げるぐらいの配慮は欲しかったと思うのでありました。
 
事情が全く異なると言ってしまえばそれまでだけれど、大鹿村の状況とはえらい違いだなあ…。
http://shuzaikoara.blog39.fc2.com/blog-entry-359.html(大鹿村説明会での状況)
 
静岡市での説明会はこれにて終了。
 
県内では、井川地区と大井川の利水関係者向けの説明会が開かれる予定。

大井川の流量減少で影響を受けるものは何か?

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環境影響評価書において、南アルプス山中を流れる大井川の流量が毎秒2トン減少するという試算結果をJR東海が出し、流域9市2町ではけっこうな騒ぎになっています。
 
毎秒2トンという値は流域62万人の上水源としての水利権とも同じ量であるため、「渇水で市民生活にも影響が出る!」というような声まで出てきています。先日、静岡市で開かれたリニア説明会でもかような意見がだされました。
 
 
ところがへそ曲がりな私としましては、
 
大井川の流量減少=生活用水の枯渇
 
というように、安易に人々の飛びつきやすい問題へと、短絡的に論理飛躍させるのはいかがなものかというような懸念を抱きます。それによって、本質的な問題点が見落とされているように思えてしまうのです。
 
静岡県中部の人なら、みなさんご存知かと思いますが、現在の大井川に水がないのは、ひとえに、中部電力の水力発電用に大量に川から取水され、水は土管の中を流れているからです。
 
すなわち、畑薙第二ダム⇒畑薙第二発電所・井川ダム・奥泉ダム⇒奥泉発電所・大井川ダム⇒(土管)⇒寸又川ダム⇒(土管)⇒横沢川ダム⇒大井川発電所⇒(土管)⇒境川ダム⇒(土管)⇒久野脇発電所・塩郷ダム⇒笹間川ダム⇒川口発電所⇒平野部の利水に分配
 
というように、大井川の水の大半は「ダム⇒土管⇒発電所⇒ダム」を繰り返し、川を流れていないのです。この土管の最下流部(川口発電所)では、一年中、常に毎秒30トンもの水が流れています
 
従って、仮にリニアのトンネル工事で大井川の流量が毎秒1~2トン減少し、渇水期に下流の市民生活に影響が出そうな事態に陥ったとしても、中部電力から期間限定で少々水を分けてもらえば、それで生活への影響はほぼなくなるはずです。
 
大井川の流量減少というものは、正直な話、実際に起こるかどうかトンネルを掘ってみるまでは分かりません。ですのでJR東海としては、必要かどうかも分からないリスクに対し、莫大なコストをかけてトンネルに防水対策を施し、くみ上げ装置を設置・維持するよりも、実際に下流での生活用水に影響が出た際に、その都度電力会社に水を流してもらい、発電量低下に伴う減収分を支払った方がマシと判断するかもしれません(どちらが安く済むかは知りません)。
 
大井川は一級河川なので、水利用について管理しているのは国土交通省です。そしてリニア新幹線計画の元締め(?)も国土交通省です。建設省と運輸省とが統合されたのが国土交通省ですから、鉄道トンネル建設にともなう渇水の水利権調整も上手に処理してくれるでしょう。そもそも莫大な資金力を持った大企業と、川の管理者とが一蓮托生なのですから。
 
あるいは、島田市の大井川扇状地に井戸を何本か掘れば、それだけで十分に生活用水は賄えるはずです。静岡市は安倍川伏流水だけで45万人の生活用水をまかなっていますので。それくらいはJR東海も配慮してくれるでしょう。
 
これでめでたしめでたし
 
 
 
 
 
リニア建設工事
=大井川流量減少 
=生活用水枯渇 
 
 
という懸念を訴えておられる方、これでいいのでしょうか?
 
 

大井川の流量減少=下流での生活用水の枯渇
 
ととらえしまうと、水利用形態を少々変えるだけで問題が解決したことになってしまいます。
 
 
先日、JR東海が静岡県に提出した事後調査計画書()によると、大井川流域において観測機器を設置して常時観測を行うのは3地点、合わせて月一度の頻度で河川流量を定期的に測定するのも、わずかに9地点だけです。通常のトンネル工事に伴うアセスに比較しても、異常に測定地点が少ないように見受けられます。
)「事業終了後の調査」ではなく「業認可調査」という意味
 
参考までに、長野・静岡県境で行われた三遠南信自動車青崩峠道路での、長野県側約2㎞区間における河川流量事後調査地点と、リニアの河川流量事後調査地点とを同じ縮尺で並べておきます。
 
イメージ 1
(リニアについてはこの南方に3地点ある)
 
比較してみると、JR東海による事後調査計画地点は、非常にまばらであることが分かります。三遠南信自動車が特別細かい調査をしていたわけでなく、事後調査のモニタリング地点としては、これで普通なんです。
 
三遠南信自動車…
 静岡側と合わせて5㎞弱⇒水環境モニタリング地点は20地点
リニア…
 静岡県内だけで本坑11㎞+斜坑6.6㎞+工事用道路トンネル5.1㎞
 ⇒22㎞のトンネル建設で水環境モニタリング地点は11地点
 
明らかに少ない‼
 
静岡編の評価書において、トンネル建設で流量に影響を及ぼす可能性のあるとしている範囲は、評価書に示された「高橋の水文学的手法による検討範囲」として示されており、ざっとみたところで40k㎡ぐらいの面積があります。その中には大小何十という沢があり、その支流となる枝沢や湧水を含めれば無数の”水辺”が存在していまずので、その場所ごとに多様な生態系が築かれているわけです。わずか12地点のモニタリングでは、目のとどかない沢が大量に出現します。
 
生態系に与える影響を懸念するのであれば、このように思ってモニタリング体制を疑問視するのが当然です。ところがこの評価書ならびに事後調査計画書では、これでOKなのです
 
なぜか?
 
ひとえに、「河川流量のモニタリングは水資源への影響を見定めるためにおこなうから」です。
 
こちら事後調査計画書をよくご覧ください。
イメージ 2

「事後調査を行うこととした理由」のところには「水資源に与える影響の予測には不確実性があることから、環境影響評価法に基づく事後調査を実施する」とあります。
確かに環境影響評価法には、予測に不確実瀬のある事項について、事業認可後に調査をおこなうよう定めた規定があります。JR東海は評価書において「水資源に与える影響の予測には不確実性がある」と書いたため、それにしたがって水資源のモニタリングをおこなうことにしました

いっぽうでJR東海は、評価書において、流量が減少することによる生態系への影響は小さいと判断しました。それを受けて、河川生態系のモニタリング計画は、上述の通り、非常に雑になっています。それを受けて、河川に生息する動植物のモニタリングをおこなうのは、現段階において決定したのはわずかに3地点だけにとどまっています。流量観測地点と同一箇所であり、水資源調査のついでという扱いです。流量減少の起こるおそれがある範囲は40k㎡以上におよぶのに、調査地点はわずか3地点だけ・・・。これでは影響が出て死滅する生物がいたとしても、それを知ることさえできません
 
ところが一連のアセスにおいては、トンネル工事によって大井川の流量が減少し、それが観測機器によって兆候をとらえることができれば、電力会社に依頼して川への放流量を増やすなどして応急対策をしてもらえれば、それで万事OKというスタンスになっているのです。
 
私が「大井川の流量減少=下流の生活用水がなくなる」と安直に考えてほしくないのはここにあります。
 
すなわち、「大井川の流量減少=下流の生活用水がなくなる」ということは水資源の問題であり、それを憂う声が高まれば高まるほど、事業者としてはそれさえクリアできればよいという姿勢に傾きます。そして水資源の問題についてはある程度、対処方法の目処がつきます。
 
いっぽうで河川流量が減少することによって水辺生態系に与える影響には対処方法がなく、しかも小さな湧水ではほんのわずかな減少が枯渇・生物の死滅につながるなど、より解決困難な問題であるのに、水資源の問題に目を奪われることによっておろそかになりつつあるような危惧を抱きます。そして、事後調査計画書を見たところでは、その危惧は現実になりつつあります。
 
名もない小さな枝沢にだって、サンショウウオのように、その水をよりどころとして暮らす小さな動物がいるし、岩からポタポタと水が染み出ているような場所には、そうした環境を好む植物が生育しています。そういうものの場所さえ、把握しようともしない…。

これは非常マズいことだと思います。月並みな表現ですけど、壊した水循環と水辺生態系は二度と元に戻りませんから。現段階としては、不可逆的な行為への懸念を強めるべきでしょう。

静岡県民はリニア計画に文句を言う法的な権利がない?

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静岡編の環境影響評価書と事後調査計画書を検証していてまたも気になる点がありました。
 
JR東海は、大井川の水について、事後調査つまりモニタリングを行うとしています。その理由について、評価書には次のように書かれていて、これが気になりました。
 
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赤い線を引いたところに、「地下水を利用した水資源に与える影響の予測には不確実性があることから、環境影響評価法に基づく事後調査を実施する」とあります。
 
静岡県でリニア工事によって水資源に影響を与えるとすれば、誰しも大井川を思い浮かべますよね。工事を行うのは大井川の源流であり、しかも評価書には流量が毎秒2トン減るという予測も出ているからです。
 
その大井川の水利用形態は、基本的に、川をダムや堰でせき止めて水を引いてくるという使い方です。つまり、大井川水系でいう”水資源”とは、常識的には河川水を意味するはずです。
 
でも評価書には地下水を利用した水資源と書かれていますよね。
 
う~ん、何だこりゃ。
 
また間違いだろうと、ずうっと見過ごしておりました。
 
ところが改めて評価書を読み返すと…
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調査地域とは、対象事業実施区域及びその周囲で水資源への影響が生じる恐れがあると、JR東海が認める地域であるとしています。
 
これを見過ごしていた…。
 
 
ここでいう「対象事業実施区域及びその周囲で水資源への影響が生じる恐れがあると、JR東海が認める地域」というのは、畑薙第一ダムよりも北側だけをさしています。
 
ゆえに、調査・予測する地点は、畑薙第一ダムよりも上流側にある発電所と、登山施設の井戸2本だけに限られています。
 
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で、流量が予測するという結論が出ているわけですが、
 
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このような環境保全措置を行い、場合によってはポンプでトンネル内への湧水をくみ上げて川に戻すから、流量の減少は最小限にとどめることが可能であり、したがって水資源(つまり水力発電所)への影響は起こらないとしています。
 
ただ、地下水位への影響予測には不確実性があるとしています。ですので冒頭の通り、地下水を利用した水資源つまり井戸への影響を見定めるために、法に基づいてモニタリングをおこなうとしたわけです。
 
冒頭の部分を繰り返します。
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お分かりいただけたでしょうか?
 
環境影響評価法に基づいて行うとしている河川流量モニタリングは、下流の島田市や掛川市など、大井川から水を引いて使っている地域のために行うのではなく、あくまで「登山施設の井戸」のためなのですよ。
 
先日28日、島田市で大井川の利水関係者を対象として、事後調査計画についての説明会が開かれました。これは非公開で行われています。このことについて(当然ながら)批判があるようですが、島田市等は環境影響評価書における”対象事業実施く危機”ではなく、JR東海の認めた「影響がある地域」でもないので、説明を行うのはJR東海の”自主的”な行動となり、住民など無視しても構わないのです。
 
まあ、「しょうがないからつきあってやる」って感じ。
 
◇   ◇   ◇   ◇   ◇
 
「対象事業実施区域」や「調査範囲」については、別な問題に含んでいるかもしれません。
 
かつて小田急線の高架化事業がもめて裁判になったことがあります。この裁判の際、「原告適格があるのはどこの住民か」という判断も、争点になったそうです。結局、最高裁まで突き進んだわけですが、最高裁は高架化事業のアセス根拠となっていた東京都環境影響評価条例でいう「関係地域=対象事業実施区域」に居住する住民に適格を認めたそうです。
 
これ以降、裁判所は、環境問題が裁判の争点となる際、原告適格審査には環境影響評価法・条令の対象事業実施区域の住民に適格を与えることが高齢になっているとのこと。
 
 
静岡県におけるリニアの対象事業実施区域は、南アルプスの山中です。居住する人はゼロです。
 
もしも静岡県民が南アルプスや大井川の流量減少を訴えようと思っても、裁判所がこれまでの慣例を引き継ぐなら、や大井川の水利権を所有する限られた者(農業関係者、法人、自治体等)を除いて誰にも原告適格が与えられず、裁判を起こすことすらできなくなってしまうかもしれません。
 
もっとも、リニア計画の根拠となっている全国新幹線鉄道整備法の第1条は、同法の目的について
この法律は、高速輸送体系の形成が国土の総合的かつ普遍的開発に果たす役割の重要性にかんがみ、新幹線鉄道による全国的な鉄道網の整備を図り、もつて国民経済の発展及び国民生活領域の拡大並びに地域の振興に資することを目的とする。」
 
とうたっており、国民という言葉を2度も使っているので、これに異を唱えるのは国民なら誰でもよいという解釈も成り立つかもしれませんが…
 
 
 
杞憂だといいのですが。
 

 
しかしまあ、ここまで調べて、JR東海とはある意味で、本当にすごい企業だなあ…と痛感しました。
 
本当に静岡および南アルプスのことを、邪魔者か障害物にしか思っていないのでは!?
 
 
 
 

大地震発生時には南アルプス地下に長時間滞在していただけます?

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師走というわけで、いろいろと立て込んでおりまして、久しぶりの更新であります。
 
リニア中央新幹線は、本当に災害リスクそのものじゃないか?と感じるざるを得ないことを、またも発見…。
 
 
南アルプスの自然環境と大井川の水を守ろうと、静岡県庁に中央新幹線環境保全連絡会議というものが設置されました。その議事録や資料を読み返していて、「?」というものを発見いたしました(まあ、そんなものばっかりなんだけど)。
 


 
「東海地震など大災害に備えて東京―大阪間を二重系統化する!」
 
というのが、リニア計画の一大建設理由に挙げられています。
 
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平成23年5月、国土交通省中央新幹線小委員会が国土交通大臣に提出した答申です。リニア計画推進に、国がお墨付きを与えた第一号の文書になります。
 
マスコミ等も、この見解をそのまま流し続けています。
 
ところが南アルプスは東海地震を含む南海トラフ沿いの大地震の想定震源域北縁にあたり、山崩れやら地殻変動といったリスクが避けられないというのは、このブログで何度も繰り返してきたとおりです。
(別ページにまとめたもの)
 
そもそも長さ25㎞もの長大トンネルなので、列車が緊急停止する事態が考えられます。そういう事態を想定したのか、JR東海は、環境影響評価準備書以降、工事用の斜坑のことを非常口と呼ぶようになりました。
 
(”斜坑”と称すると、工事に不可欠な事業者本位の都合で地元に押し付けるというイメージがあるので、それを避けようとしたのかもしれない)
 
ところが、非常口というものも山奥に設けられます。
 
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赤の太い点線がリニアの本坑、ピンクの点線が「非常口」になります。
(国土地理院地形図閲覧サービス「うぉっちず」より複製・加筆)
 
 
このうち静岡県内における「非常口」は、大井川の源流域に2つ計画されています。下の図で太い波線で描かれているものです。
 
静岡県部分を拡大したものです(環境影響評価書より)
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ところがこれ、どちらもトンデモない山奥なのですよ。
 
出口の標高は、南側のものが1350m、北側のものは1550mにもなります。斜坑付近にある水力発電施設での観測によると、冬場は氷点下15度ぐらいにまでは下がるとのこと。
リニア沿線でいうと、愛知県内の最高峰茶臼山(1415m)よりも高く、丹沢山地の最高峰とあまり変わらない標高になります。関東周辺の有名な観光地でいえば、草津温泉、奥日光の戦場ヶ原、北アルプスの上高地ぐらいの標高です。
 
しかも、ここに通じる道をたどって市街地にまで向かうと、優に80㎞はあります。そのうえ、南アルプス山中の約40㎞については、大地震が起きたら確実に道が消滅します。それに、この斜坑に最も近い井川集落は、大地震発生時には一週間程度孤立するおそれがあるとされています。この斜坑は、その井川集落よりさらに30㎞も離れています。ということは、救助の手が及ぶのは、停止から相当に先になってしまいます。
 
リニアの乗客は東京-名古屋-大阪を行き来するわけですから、当然、普段着のはずです。普段着のビジネスマンが1000人も突然冬山に放り出される…?
 
(真冬の上高地に、大手町のビル街を歩く格好で出かける人がいるでしょうか?)
 
こりゃ、大量冬山遭難です。
 
こんなところに脱出してどうするんだ?
 
と、少し事情を知っている方なら疑問に感ずることでしょう。そんな素朴な疑問が、冒頭の中央新幹線環境保全連絡会議で出され、JR東海が見解を示しました。マスコミ報道などまったくなされていないので、おそらくご存知の方はほとんどいないことでしょう。
 
それがこちら。
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(11月18日 第3回会議の資料2よりコピー)
http://www.pref.shizuoka.jp/kankyou/ka-050/assess/rinia/kaigi.html
 
 
うん?
 
先進坑や非常口を活用し、長時間滞在して頂ける安全な空間を設置する予定です・・・
 
 
 
南アルプスの地下にて、乗客1000人が長時間カンヅメ状態になる事態を想定しているのでしょうか? いろいろと疑問が浮かび上がります。
 
率直な疑問として、乗務員は2~3人しかいない状況下、1000人(2編成止まったら2000人)もの乗客をどのように誘導するのでしょうか。パニックを起こさないのでしょうか? 外部との連絡が取れるか分からない、食糧がどの程度備蓄されるのか不明…、非常電源はどの程度持つのか、大地震直後の状況下、いつ救助の手が回るか分からない…
 
これって、大地震に備えるどころか、災害リスクそのものなのでは? 
 
次に、以前と言っていたことが違います。
 
こちらは、冒頭の答申です。このときは、乗客は速やかに避難させるとしていました。これは火災時の想定になっていますが、地震時でもこのように対応するとし、準備書の段階までこの見解が使い回されてきました…。
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なんで言うことがコロコロ変わるんだろう?
 
ところで、青函トンネルでは、斜坑に非常時の滞在場所を設置しているとのことです。もしかすると、それに依拠した見解なのかもしれません。
 
しかしよく考えていただきたいのですが、地下に長時間滞在できるのなら、その間に、東の山梨側か西の長野側から救助に迎えにいけばいいのです。わざわざ静岡県内の、南アルプス山中の「非常口」に乗客を誘導し、冬山遭難救助隊の救助を何日間も待つ必要はないはずです。言い換えると、非常時の滞在場所を設置するぐらいなら、静岡県内の非常口は不要ではないでしょうか。
 
静岡県内の2つの斜坑を「非常口」として使うとは、長野側や山梨側からでは救助に向かえない、間に合わない事態を想定していることになります。長野や山梨から救助に迎えない事態…橋梁崩落とか、連絡道路が大崩壊するとか…、そんなことを考えているのでしょうか?
 
それって、建設目的の二重系統化を否定した想定なんじゃないのかなあ? 
 
 
 
最後にもう一点。「関係自治体にご相談させて…」って、
リニアを利用するわけでもない静岡県が、なぜリニア乗客の避難・救助にかかわらなければならないんだ? 
 

NHKと名古屋 なんかおかしいぞ!

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静岡では、NHKにて金曜日の19:30より、ビゲーション中部という番組が放送されています。NHK名古屋放送局が制作た番組らしく、いつも名古屋か北陸の話題が放送されています。
 
個人的には滅多に見ることのない番組なのですが、本日は
 
『リニアインパクト ~リニア開業で何が変わるのか~』
 
という題した放送でしたので、とりあえず見てみようと考えておりました。
 
この放送内容を知ったのはさる7日の日曜日。19:00前の天気予報を見て、そのままつけっぱなしにしていたら番組予告で流されたのでありました。その予告の際に流されたナレーションが、NHK名古屋放送局の番組紹介欄にそのまま載っているので、コピペさせていただきます。
 
今月、リニア中央新幹線が着工に向け動き出します。13年後には東京と名古屋がわずか40分で結ばれる“リニアインパクト”。経済効果だけでなく、国の構造までも変えると考えられています。一方で、“ストロー現象”によって消費やビジネスが吸い上げられ、東京への一極集中を加速させる懸念もあります。リニア中央新幹線は地域に何をもたらすのか、いま何をすべきなのか考えます。
 
名古屋がメインの番組ですが、静岡でも放送されるのであるから、一応は静岡での懸念事項をそれなりに名古屋方面に伝えてくれるであろう…と考えておりました。
 
「皆様のNHK」ですから。
 
 
で、番組を見てみたのですが…
 
バカにしてんのか?
名古屋放送局!
 
 
 
このブログ、マスコミがリニア計画の問題点を取り上げないことについて時々憂慮してきましたが、今回、初めてキレました。
 
名古屋の番組が名古屋での経済効果を考えるのは別に構わない。
どうやってゼニ儲けにつなげるか、いかに世界の注目を集めるか、いかに名古屋から首都圏への富の流出を食い止めるか、それらをレクチャーするのも構いません。
 
ただ、このリニア中央新幹線というものを建設するためには、当たり前のことですが、大きな工事が必要となります。
 
大きな工事を行うことで、沿線には大きな環境破壊を与えます。しかもその環境破壊を受けるのは、直接リニア開業のメリットとは何の関係もない地域です。
 
すなわち、リニア開業による名古屋の経済効果というものは、「犠牲のうえに成り立つもの」ではないかと思うのであります。利益を受ける地域と被害を受ける地域とが全く一致していないわけです。
 
―この点に限れば、原発よりも性質が悪いんじゃないかと思うこともあります。原発で造った電力は地元でも使うし、それなりに雇用も生み出される…リニアは南アルプスに何かメリットをもたらすでしょうか? 長野県大鹿村の説明会では、リニアは村に何のメリットをもたらすかと尋ねられ、「正直、申し上げられることはありません」という回答をよこしたということです。なお私は原発を賛美しているわけではないので誤解なされぬようお願いします。―
 
リニア中央新幹線というものは、それを宿命として備えているシステムなのですから、一方の「利益を受ける地域」での”利益だけ”を取り上げた番組というのは、被害を受ける地域というものが現実に出現する以上、片手落ちと言うべきでしょう
 
言いたいことを理性的に考えるとこんな具合です。
 
もっと感情的に書くとこうなります。
 
リニア建設によって、静岡では南アルプスや大井川をメチャクチャにされるっていうのに、それに完全に無視して名古屋での経済効果だけを取り上げた番組を、なぜあえて静岡で放送するんだ!?
 
この番組、静岡に流されることは、名古屋放送局の番組製作スタッフも当然知っているはずです。それなのになぜ…?
 
 
今週の8日月曜日、NHKの看板番組「クローズアップ現代」では、残土の処分場が不足している実態をとりあげていました。ほんの少しだけ、リニアの発生土も取り上げられていました。これについて、リニア建設による発生土はインタビューを交えて詳しく取り上げられる予定だったものの、放送直前になって急きょ扱いが小さくなったらしいということを伝え聞いております。
⇒http://shuzaikoara.blog39.fc2.com/blog-entry-364.html
 
私自身は当事者でも何でもないので詳細は不明ですが、確かにNHKは、リニアの問題を避け続けているような気がしてなりません。
 
 
NHkさん、なにかおかしくないですか?
 
 
 
 

南アルプスでのリニア残土は防潮堤造成には使えません

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最近、静岡新聞の投稿欄に、「南アルプスに出されるリニアの残土を海岸に運んで堤防造成に使えばいいのではないか」という意見が散見されます。
 
このような話、Yahoo!知恵袋でもよく見かけるし、リニアを推進すべきだとする方のブログなどでも見かけます。
 
最近は不明ですが、2011年ごろには、静岡県内の市議会・県議会議員でも、このような主張をされている方がおられたようですし、川勝県知事も、2011年時点では「リニアの残土は良質な建設材料になる」とおっしゃっていたので、同じような考え方が根底にあるのかもしれません。
 
南アルプス山中に大量の残土(発生土)を捨てることによる環境破壊を懸念してのことと思われます。確かに、このブログでもさんざん文句を書いてきました。標高2000mの稜線上とか、大規模山崩れ直下とか、どうしてそんな場所に残土を捨てるんだと。ですから、運び出した方がいいんじゃないかという、そのお気持ちは理解できます。
 
しかしですねえ・・・
 
運び出せないのがそもそもの問題なのですよ。

静岡県内に掘り出される発生土は、360万立米と試算されています。
 
お隣長野県大鹿村の場合、村内4か所の斜坑より、300万立米の発生土が掘り出される見込みです。村内に処分場はないので、全量を村外に運び出すことになります。
 
静岡において、「防潮堤工事に使う」ことを実行するのなら、同じ状況になりますよね。
 
大鹿村では、4つの斜坑から一気に集中して掘り出される時期があるため、工事最盛期となる着工後4年目には、1日に863往復、計1736台の大型車両が、村の中心道路を行き来することになります。作業時間を1日8時間とすると、1分間に3台の車両が通行することになります。
 
これはムチャクチャな話です。そもそも山村の道路ですから、中心道路といっても片側1車線です。そこに863往復の大型ダンプや大型トレーラーが入ってくる。道路事情からみて物理的に無理な話でしょう。時速30キロで走行するなら、片側の車線には常に、常に167m間隔で大型車両が並んでいることになります。反対側からも同じ間隔でやってくるわけですので、これでは道を渡ることもままならない。しかもこんなことを押し付けても、村には何のメリットもない。

静岡の話に戻ります。
 
もしも360万立米を海岸まで運ぶなら、南アルプス山中に計画されている残土運搬トンネル1本は不要となるので、運搬量は340万立米程度となります(これでも、大鹿村を上回る量)。この340万立米という量が、南アルプス山中の二軒小屋という場所に掘り出されます。
 
工事期間を仮に9年とします。

★2027年開業のために、2016年に斜坑掘削開始、2024年にトンネル完成と仮定。本当なら評価書に工事日数や工期の詳細を書くべきだけど、何も書かれていないのであくまで予想。土曜日も工事を行うつもりらしいので年間作業日数を290日と仮定。
 
340万立米÷(10年×290日/年)=1172立米/日
ダンプカーの積載容量は5.5立米なので、必要な台数は
1172立米/日÷5.5立米/1台=213台/日

というわけで、10年間毎日、ひたすら同じ量ずつ搬出すると仮定した場合、それだけの日数の間、単純計算で新たに213往復のダンプカーが必要となります。
 
ところで静岡では、冒頭に記したように、発生土は全て南アルプス山中に埋め立てることになっています。ですから、南アルプスへの入り口にあたる井川ダムを通行する工事用車両には、基本的にダンプカーは含まれず、大部分が資材を出し入れする車両に限られます。環境影響評価書によると、その井川集落では、最盛期に1日216往復を予想しています。
 
発生土を海岸にまで運ぶのなら、この216往復の資材運搬車両に、さらに213往復のダンプカーが加わることになります。
 
ですから、「平均毎日400往復」というのが、発生土を海岸まで運び出す場合に必要な台数になるといえるでしょう。

さて、二軒小屋から海岸まで運び出すことを考えます。
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まずは、25㎞先の畑薙第一ダムを目指します。
 
畑薙第一ダムまでの道路は、林道東俣線といって、静岡市の管理している林道です。一般車両の通行は禁止されています。幅員は4mであり、ダンプカーのすれ違いは困難です。しかも未舗装で四六時中路肩が崩壊していますが、そんな条件であるため、動物が平気で横断しているし、路肩にも希少な植物が分布しています。。途中、二軒小屋ロッヂ、椹島ロッヂという登山施設があり、登山口との間を行き来する登山客が歩いています。ここまで約1時間半
 
畑薙第一ダムから先は、県道60号線を通って、さらに26㎞先の井川ダムを目指します。
 
前半はやはりヘアピンカーブの連続する崖際の道です。後半は井川集落内を進みます。大型車両ですので、井川ダムまで26㎞の距離でもやはり1時間ほどかかります。ここまで2時間半
 
井川集落を過ぎ、ダムサイトまで行けば、道路が二手にわかれます。県道60号線をそのまま進めば、ヘアピンカーブの連続する峠道を経て40~50㎞先の静岡市街地に向かい、大井川沿いに進めば、大井川川沿いのヘアピンカーブの道を進み、80㎞ほど進んで島田市街へ到達します。ちなみに井川ダムと静岡市街地を行き来するバスの所要時間は2時間半ですので、ダンプカーでもこのぐらいかかるのでしょう。海岸までもう少し距離がありますから、井川ダム~海岸は最短で3時間程度
 
といいうわけで、海岸までは片道5時間以上かかるとみられます
 
 
また、夜間に山道や静岡市街地を走行することはできないので、発生土を運び出すダンプカーは、全て午前中に二軒小屋を発たねばなりません。したがってものすごく車両が集中するはずです
 
午前中に資材を出し入れするトレーラー等が100往復として、そこにさらにダンプカーが200往復⇒幅員4mの東俣林道で、半日にダンプカーや大型トレーラーが300往復
 
物理的に不可能なのです。物理的に不可能なうえに、井川集落がダンプ公害に巻き込まれてしまうことになります。
 
また、こんなことを実行するなら、林道東俣線を大規模に拡幅する必要が生じます。延長25㎞にわたって山肌を削り取るか、川岸を埋め立てるかせねばなりません。
 
これはこれで、大規模な自然破壊・景観破壊となってしまいます。川と森とを25㎞にわたって完全に寸断してしまうことになるので、生態系の破壊という点では、残土処分場建設よりも悪質かもしれません。
 
★大井川鐡道を使って運び出せば…と思う方もいらしゃるかもしれませんが、どのみち井川駅までは大量のダンプカーで運ばねばなりません。したがって林道東俣線を拡幅せねばならない、井川集落内を通行せねばならない、という点は変わらず、環境保全という点では無意味なのです。
 


以上のように、南アルプス山中に出した発生土を海岸まで運び出すことは不可能です。運び出そうとすると、別の環境破壊をもたらしてしまうのです。
 
JR東海自身、運び出せないことは百も承知なので、稜線上や山崩れ直下に捨てるというとんでもない案を、本気で打ち出してきたわけです。
 
ですから、問われるべきは、「どうやって処分するか」ではないのです。
 
南アルプス山中に掘り出してもいいのか?ということが問われねばなりません。
 

導水路トンネル? 河川生態系対策には一切役立たない!

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今日の静岡新聞朝刊に、このような記事が掲載されていました。
 
 JR東海は19日、リニア中央新幹線の南アルプストンネル工事に伴う大井川の流量減少問題の有識者会議「大井川水資源検討委員会」(委員長・今田徹国土技術研究センター技術顧問)の初会合を都内で開き、工事で発生する湧水を下流に向かって自然流下させる導水路トンネルなどの環境対策を検討していくことを決めた。
 会合は非公開で行い、終了後にJR東海が記者会見した。
JR側の説明によると、標高差を利用して湧水を下流に流す導水路トンネルについて、委員から最も現実的な手法と評価された。
 トンネルの非常口内に横穴を掘削し、くみ上げた湧水を上流部に戻すポンプアップや、新たな水源を確保して影響が出た地域に導水する手法の検討も進める。
(後略)
 
な、なにぃ?
 
導水路が最も現実的な手法だって?
 
これ、何も対策にはならないんですよ。
 
川の水が失われるのは、トンネル内へ大量の地下水が湧き出し、地下水の抜けた隙間に、河川水が引き込まれるためです。ですから当然のこと、河川流量の減る可能性が最も高いのは、トンネル頭上の川です。
 
環境影響評価書より、流量減少の予測結果をコピーしておきます。
 
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図1 リニアのトンネルと大井川流域の関係
国土地理院地形図閲覧サービス「うぉっちず」より複製・加筆
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図2 大井川の流量減少予測
環境影響評価書を複製・加筆 
 
しかしながら当たり前のことですが、導水路を造ったところで、流量の減った場所へは戻せないんですよ。
 
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図3 JR東海作成の導水路イメージ図 
 
JR東海が当日の会議で配布した資料では、導水路トンネルはこんなイメージで示されています。しかし、この案では全く意味がありません。この案だと、取水口(?)となるトンネルとの接合点は、標高1150m付近になります。断面を見ると、無味なのは一目瞭然。
 
図4が、トンネルに沿った断面図です。イメージ 3
 
図4 リニアの南アルプス横断トンネル
通常の地図と異なり、左手が東になっていることに留意
環境影響評価書より複製・加筆
 
 
大井川流域からトンネル内に出てくる地下水は、大部分が東の早川流域へと流れてゆきます。図3では、このうち標高1150mよりも上側区間からの湧水しか戻せません。
 
全量を戻すためには、早川との分水嶺直下から戻さなければなりません。
 
JR東海の作成した縦断面図によると、大井川と早川との分水嶺直下におけるトンネルの標高は、978mとなっています(図3の赤点線のうち一番下のもの)。トンネル頭上における大井川の河床の標高は1350m前後です。したがって導水路に勾配をつけて自然に大井川に戻すのならば、導水路トンネルの出口は大井川河床の標高が950m程度となる、ずっと下流方にしなければなりません
 
地形図を眺めると、畑薙第一ダムの貯水池の水面標高が約945m。だから、導水路トンネルの出口は畑薙第一ダムにもってこなければなりません。
 
図示するとこうなります。
イメージ 4
図5 導水路トンネルの推定位置
基図は国土地理院地形図閲覧サービス「うぉっちず」を使用。複製・加筆。
 
分水嶺直下から畑薙第一ダムの貯水池まで、直線距離で約17kmあります。ということは、トンネルの頭上の川で水がなくなってしまうというのに、水が戻ってくるのは、流量減少の予測されている西俣取水堰より25㎞も下流になってしまうのです
 
これでは、川の水がなくなって生態系に深刻な影響が生じても、何も対策になりません。

また、こういうことを実行するなら、(ただでさえデタラメな)環境影響評価書の記載事項が、さらに無意味となります。
 
例えば、環境影響評価書においては、渓流魚のイワナについては、「鉄道施設の存在により、本種の生息環境である河川の一部で流量が減少すると予測されるものの、同質の環境が広く残されることから、本種の生息環境への影響は小さい。」と書いてあります。
 
「同質の環境が広く残されることから、影響は小さい」と主張しているわけです。しかし、導水路トンネルによって流量減少に対応するとなると、水が戻ってくるのはトンネルからはるかに下った畑薙第一ダムとなります。流量減少が起こると予測されているのは西俣取水堰上流側よりも下流側の全域ですから、畑薙第一ダムまでの約30~40kmの区間には、水が戻せず、流量は減ったままになります。したがって、生息環境は確実に縮小し、評価書の記載内容は書き換えなければならなくなります。
 
その評価書の図に、導水路トンネルを記入してみると図6のようになります。
イメージ 5
図6 JR東海の主張する「イワナ類のハビタット(生息環境)と導水路トンネルとの位置関係 
環境影響評価書を複製・加筆
 
もちろん、流量減少の予測されている区間にも支流が流れ込むので、完全に流れが途絶えることはないでしょう。しかし流量が減れば、その分、(イワナに限らず)生物の生息環境は確実に縮小します。淵が浅くなったり、水温が上昇したり、流れの勢いが変わることで川底に泥がたまりやすくなったりするかもしれません。渇水期に流れの途切れる可能性も、これまでよりは高くなります。こうしたことが積み重なり、確実に生息環境を悪い方向へと向かわせます。
 
それから、この流量減少区間30~40kmの間には、大井川から水を取水し、再び大井川に落として発電している、中部電力の水力発電所が3ヶ所あります。その水力発電所で使う水も不足したままになります(もっとも、これとて大井川の水を取水しているため、環境に負荷を与えているのには違いありませんけど)。水力発電所の位置は図5に記入してあります。
 
それから、17kmものトンネルを掘れば、無駄な残土も生じます。
最大毎秒2トンの水を流すための導水路トンネルの直径を、一般的な水力発電用トンネルと同等の2mと仮定すると、掘削すべき直径は2.3m程度。すると断面積は約4.2㎡。
 
17000m×4.2㎡×土量変化率1.7=121380?。
約12万立米の残土が余計に出現します。現在の計画でも360万立米の発生土について搬出が不可能であるため、標高2000mの稜線上とか、山崩れ直下の河原とか、そういう危険な場所に投棄するというムチャクチャなことを考えているのに、そこへさらに余計に12万立米を追加することになる・・・。当然のことながら、工事に使用する機械やダンプカー等工事車両も増えます。
 

以上のように、導水路トンネル案というのは、
①水の減った区間の生態系には全く対策にならない。
②水力発電所での利水への対策にもならない。
③残土が増える。
④工事規模がさらに拡大。
という点で、実行してはいけない案だと考えます。環境保全どころか、明らかに自然破壊の連鎖です
 
ところで、なんでこんな問題のある案を真剣に考えているかというと、JR東海は、環境影響評価書の中で、流量減少が与える影響というのは、水資源に与える影響という観点でしか捉えていないためです。
 
下流での利水が心配という流域の声⇒とりあえず下流まで水を送ればいいだろう⇒他の環境破壊を起こしても下流には関係ない
こういう論理です。

それから新聞記事では、
●防水型トンネルは無理
●ポンプで汲み上げる方法を考える
●井戸によって対策

といったようなことを「有識者」が議論していたと書かれています。
 
このうち「防水型トンネルは無理」というのは、JR東海が国土交通大臣意見(=環境大臣意見)における、環境省からの提案に難色を示したときの見解です。それから流量の減った場合の「ポンプくみ上げ案」、「井戸案」は、どちらも今年4月の環境影響評価書に書かれていた案です。いずれもJR東海が既に出した見解であり、それを今一度確かめていただけのように見受けられます。
 
ちなみにポンプくみ上げだと、概算で1万キロワット級のエネルギーが必要となり、大井川から早川へ導水している田代川第一・第二発電所の出力と同等になってしまい、水利用とエネルギー利用の観点から、全くの無駄になります。それに、斜坑より上流側での流量減少には役立ちません。
 
簡単な計算
ポンプを用いて、2?/sの吐出量で400m揚水するための理論動力Pは、水の密度×重力加速度×吐出量×揚水する高さで求められる。
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実際に必要な動力としては、さらにポンプ効率、伝動装置効率、原動機効率を除することによって求められる。ポンプの種類によってこれらの数値は異なるが、仮に合わせて0.7を除するとすれば11200kWとなる。このように、ポンプを稼動させるためには10000kw以上のエネルギーが必要になるものと思われる。
 
井戸の場合、どこに設けるのか不明ですけど、利水への対策なのだから、水を使っている現場に設けるのでしょう。大井川の水を利用している島田市とか掛川市とか。したがって生態系への対策には全く役立ちません。
 
お集まりになった「有識者」の方々には失礼になりますが、「大井川水資源検討委員会」などと大層な名称をつけてはいるものの、JR東海の意向を確認するだけの、形だけの会議にしか感じられません。
 
最後に、静岡県の方へ。。。
 
こんな案を真剣に考えている会議を放置しておけば、大井川も南アルプスも、本当にメチャクチャになってしまいます!
 

大井川流量調査結果―こういうのを「情報隠ぺい」と言うんじゃないのかなあ?

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前回は、大井川の流量減少が起きた場合の対策としてJR東海が表明した導水路建設案は、生態系への対策としては全く無意味であることを指摘しました。
 
ところで、これは工事終了後における万一の場合の話。
 
工事が始まっていない現段階では、先のことはもとより、JR東海がこれまで行ってきたという河川流量調査が、適切かどうか、よく検証しなければなりません。
 
2013年9月、環境影響評価準備書において、トンネル工事により大井川の流量が大幅に減少するという試算結果が出されました。
 
試算結果について、このブログでは、試算の前提とした現況解析値が疑わしいうえ、その妥当性を検証するための根拠、つまり現実の河川流量が評価書に記載されておらず、評価書として不適切であるという指摘を何度もしています。
 
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図1 河川流量予測地点
環境影響評価書を複製・加筆
 
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表1 河川流量予測結果
環境影響評価書を複製・加筆
赤く囲ったのが、「大井川の流量が毎秒2トン減る」という騒ぎの発端となったもの
 
 
環境影響準備書や評価書というものを作成するのは、事業者の予測結果や環境保全措置が妥当かどうか、住民や自治体が検証するためです。それが検証できないつくりになっているので、これでは無意味と言わざるを得ません(ところが日本のアセスは事業者性善説にたっているので、どんなに内容が悪かろうと、強制的に修正させることができない)。
 
自らの河川流量観測結果に信頼を持てないのか何だか知りませんが、JR東海は、着工前の1年間、毎月1度、トンネル近傍の河川において河川流量の測定を行うとしています。この観測結果をもって、工事中のモニタリング基礎とするそうです。
 
ところが1年間の観測では、たまたまその年が通常よりも降水量が大幅に異なっていた場合でも、その値が「通常の値」として認識されてしまいます。しかも、月に一度の観測では、年間変動を把握できるはずがありません。
 
(例えば今年の12月は、頻繁に低気圧が通過したため、太平洋側でも降水量が多く、南アルプス周辺でも平年の2倍となっている。河川流量が例年より多い可能性があるし、春の雪解け水も多いかもしれない。) 
 
それゆえ、今年11月18日に県庁で開かれた中央新幹線環境保全連絡会議においても、このような疑問を念頭において、「複数年間にわたって観測を行うべきではないか」という質問が出されました。
 
これに対するJR東海の見解は、いろいろと驚くべきものでした。
 
県庁のホームページより、質疑結果を貼り付けます。
 
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表2 静岡県中央新幹線環境保全連絡会議(平成26年11月18日) 質疑
 
質問は、流量の変動を把握するために、複数年間の調査を行うべきではないかというものです。それに対しJR東海は、「平成18年から調査を続けているため流量の変動は把握している。だから追加調査は不要である。」という見解を述べたのです。
 
???
 
平成18年から観測している?
 
 
ならば、把握している状況を示してくれと思うのが普通の感覚ですけど、冒頭に述べたとおり、現実の河川流量は、環境影響評価書をいくら見回しても載っていません。流量観測結果を把握していると言っているのに、その結果が、これまで一度も公表されていないのです。
 
「把握している」といっても、そのデータを公表しないことには、本当に把握しているのかどうかさえ、疑われても仕方がありません。繰り返しになりますが、環境影響評価手続きでは、そうした観測結果を明らかにして、事業者がどのように環境配慮しているのかを公表し、環境保全の見地からの意見を受けつけるものなのに、公表もしないで「把握している」と言っても、まったく無意味なのです。
 
これでは「情報隠ぺい」と言われても仕方がないでしょう
 
◇   ◇   ◇   ◇   ◇
 
さて、南アルプスルートを選定すれば必ず大井川をトンネルで潜り抜けることになるので、関係者なら誰しも、何となく川に影響が出そうだなと思うはず。
 
JR東海は、いつから、大井川への流量に与える影響を検討し始めたのだろう?
流量の問題に関心を持ったとき、真っ先に抱く疑問ではないでしょうか?
 
今年1月に静岡市で開かれた公聴会において、牧之原市長も、このような疑問を述べておられました。
 
公聴会の様子はYouTube動画でご覧になれます。
 
 
さて、今年8月の補正評価書には、こんな図があります。
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河川流量を予測するに使用したモデル式の、再現性を確認するための図と称しているものです。再現性つまり河川をコンピュータ上で表現したとき、その仮想の河川に流れている流量が、現実の河川流量を、どれほど的確に表しているかを検証するための図です。縦軸が計算上の流量、横軸が現実に観測した流量になります。
 
そもそも、この図そのものが、どうしようもないシロモノなのですが、逐一詳しく取り上げるとキリがないので、それは横に置いておきます。
【具体的な問題点】調査地点が不明。相関性が観測年によって異なるのか地点によって異なるのか判断できない。年2回の調査で何が分かるのか不明。対数目盛を使用しているために誤差が小さく見える…といったところ。 
 
一番の問題は右側の凡例にあります。一番上のところ、「平成18年」とありますよね。つまり平成18年の時点で、河川流量を観測し、その結果と試算結果との整合性と検証していたわけです。
 
評価書が公表された時点では、環境影響評価手続き開始以前の調査結果が載っているが、これは何なのだ?という疑問がありましたが、県庁での質疑結果は、これへの回答となったのです。

これは、きわめて悪質な態度ではないでしょうか?

環境影響評価手続きが始まるまでのおさらいです。
 
昭和48年11月 基本計画線に決定
昭和49年7月 運輸大臣から国鉄に対して地形・地質等調査を指示(この後、2度にわたって貯砂結果が提出される)
昭和62年11月 運輸大臣から日本鉄道建設公団に対し、南アルプス部の地形・地質調査を指示。
平成18年 大井川にて流量観測・試算を開始
平成19年4月 JR東海が中央新幹線構想を公表
平成20年10月 地形・地質等調査結果を提出
平成21年12月 需要予測・建設費等の調査結果を提出
同年       前原国土交通大臣が中央新幹線小委員会に諮問。建設の是非、ルート、営業主体・建設主体の指名等を審議。
平成23年5月 国土交通大臣がJR東海に対し、超電導リニア方式・南アルプスルートによる中央新幹線の建設を指示
同年   6月 JR東海が計画段階環境配慮書を公表、環境影響評価手続きが始まる。
同年   9月 環境影響評価方法書を公表
成25年9月 環境影響評価準備書を公表 大井川の流量が減少するという予測結果が初めて出される
平成26年8月 事業認可。8年前から大井川で流量観測を行っていたことが明らかになる。

平成18年というのは、まだ「調査指示」の段階であり、JR東海が「自社による超電導リニア方式の中央新幹線事業の実現」を公表する前のことです。
 
ルートを検討する交通政策審議会中央新幹線小委員会が開かれたのは平成21年12月であり、国土交通大臣より建設指示の出されたのは平成23年5月でした。それから同年6月に計画段階環境配慮書を作成して環境影響評価手続きが始まり、平成25年9月の準備書において、はじめて「大井川の流量が毎秒2トン減る」という試算結果が明らかにされたのです。
 
大井川での流量観測と試算結果は、平成18~21年の4年間に得ていたわけです。その予測結果を公表したのは事業認可の1年前、その事実を明かしたのは3か月前、しかし観測結果はいまだ未公開ということになります。
 
◇   ◇   ◇   ◇   ◇
 
以上のように、大井川での観測データとモデル式の試算結果は、ルート選定の場であった中央新幹線小委員会に提出・公表し、議論の材料とすることが、タイミング的には可能であったはずです。
 
この中央新幹線小委員会では、3度のパブリックコメントが行われていたので、大井川に関するデータが明らかにされていれば、それを資料として流域自治体等から「ルート選考にあたっては河川流量への影響を考慮すべき」と意見提出を行うことも可能であったはずなのです。
 
もしかすると、国交省あるいはJR東海としては、この段階では環境配慮をおこなう法的義務がなかったとして、データを提出しなくてもよかったという言い訳を考えているのかもしれません。(全国新幹線鉄道整備法では計画段階での環境配慮を求めていない。ただし生物多様性基本法には計画段階の環境配慮義務がある。両法の力関係については知りません。)
 
しかし環境影響評価の第一段階である計画段階環境配慮書の段階において、既に得ていた、きわめて重要なデータを公表しなかったというJR東海の姿勢は絶対に責められるべきです。この時点では、まだルートは幅3㎞と曖昧であったため、データを公表することによって、より河川流量への影響の少ないルートを、流域との合意を得ながら選定することがかのうであったはずなのですよ。
 
また、その先の方法書において、より適切な予測手法を求めることだって可能だったのです。「当社はこのような地点で、このような手法で流量を観測し、このような試算式を用いて予測を行っている。これから環境影響評価として、これまでと同じ方法で調査・予測を行うが、いかがだろうか?」というように。
 
JR東海は、当初から環境に配慮すると主張していましたが、これでは環境に配慮していないどころか、二重の情報隠ぺいと言われてもしかたがないでしょう

以上のように、大井川の河川流量調査については
①JR東海は平成19(2007)年に中央新幹線構想を公表する前の平成18(2006)年から流量に与える影響を検討していたが、影響を及ぼすという試算結果を公表したのはそれより7年先の平成25(2013)年9月であった。

②具体的なデータは環境影響評価手続きを経た今でも非公開のままである。

③おそらくJR東海が取得したデータは、役に立たないシロモノであろう。

④今後も適切な調査を行うつもりはない。
 
ということが言えると思います。



中央新幹線環境保全連絡会議は、これから先も継続して開かれる予定です。この場において、この大問題を、ぜひ追及していただきたいと思います。

河川流量 ―年2回の調査で何が分かるのですかな?―

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今年最初の投稿になります。
新年早々、無味乾燥&ややこしい話で恐縮ですが、よろしくおつきあいのほど願います。
 


 
前回触れたとおり、JR東海は河川流量について、年2回の調査を行うことで年間変動を把握したと主張しています。それから各県の評価書において、事後調査(事業認可後の調査)で、トンネル着工前の1年間、同様な調査を行うともしています。
 
ところが水文学や河川工学の本を少し読めばわかるのだけれども、これは原理的に不可能なのです。河川の水環境について書かれた本の基本中の基本のことなのですが…。
 
というわけで、今さらながらですが、河川流量というものにおさらいしてみます。
 
【河川流量というもの】 
まず基本的な知識として、流量というものについて説明します。
流量とは、ある地点を1秒間に流れる水の量です。
 
ある程度大きな川の場合、大雑把にいえば、
 
流量=川の断面積×流速(その地点での流れの速さ)
 
で表されます。断面積は㎡、流速はm/sですので、両者をかけると、流量の単位は㎥/s(立方メートル毎秒)となります。
 
断面積は測量を行って、川幅と水深を求めることで判明します。図1のように、流れの方向に直角に、一定の間隔Xごとに深さhを求めれば、台形の面積を求めることで各々の区画ごとの面積が判明します。これらを合計すれば、断面積が求められるわけです。
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図1 河川断面積の求め方
 
また、流速はプロペラのついた器具で測ります。同じ地点でも、底の方、川岸近く、水面付近は摩擦が加わるため終息は小さい傾向にあるため、何か所か測定して平均値を求めるといった作業が行われます。
 
ところで、連続して観測する必要がある場合(例えば水防の観点)、常に流速を測り続けることは困難です。そのため、流量測定とともに水深=水位をを測定し、水位と流量との関係をグラフによって把握し、その後は機械で水位を自動観測すれということが行われています。流量と水位との関係を示したグラフを、水位-流量曲線とよびます。川岸に設けられている水位計というものは、こうした目的の装置なのです。

なお、大きな石がゴロゴロしていているような場所では、以上のような手段で流量を測定することが不可能です。
 
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写真 どこにでもある沢(静岡市清水区興津川支流)

例えば写真のような沢の場合、流れが幾重にも分かれ、それぞれが段差だらけなので、測量によって断面積を求めることも、流速を測定することもできないからです。こうした沢の場合、石をどけて流れを均一にしたうえで小さな堰を設置するといった作業が必要です。この堰だって、JIS規格で定めら形式にせねばなりませんし、出水後はきちんと作り直すことが必要になります。はっきりいって、大変な労力がいります。
 
南アルプスをはじめ、リニアのトンネルがくぐり抜ける沢には、このように段差の大きな流れが多数含まれていると思われます。現場の地形に応じて適切な流量測定体制を整えていたのか、あるいは今後どうするのか、評価書では適切な情報が掲載されていないため、実態は不明のままです。
 

【流量の年間変動】 
それでは、このように観測された河川流量について、実際のデータをみてみましょう。
 
取り上げるのは、静岡市を流れる安倍川支流の藁科川という川の、奈良間という地点での流量観測データです。できるなら大井川上流部のデータが欲しいのですが、一般には公開されていないため、簡単に入手できる藁科川で代用します。なお、JR東海が南アルプスで流量観測を行っていたとする地点での流域面積と、この奈良間での藁科川の流域面積はほぼ同じであるため、参考にはなるかと思います。
データの出所は国土交通省の水文水質データベースhttp://www1.river.go.jp/
 
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表1 藁科川 奈良間における2012年の日平均流量 
 
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図2 藁科川と奈良間観測所の位置
 
表1は、2012年における、日平均流量の年間推移です。単純に日平均流量を合計し、365日で割ると、年間の平均流量は10.61㎥/sという値になります。
 
表では何も分かりませんので、これを折れ線グラフにしてみます。
 
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図3 藁科川(奈良間)における2012年の流量推移
 
 
グラフを見ると、ドッと増えたかと思うとグンと減っており、変動が激しかったことがわかります。つまり、普段は少ないように見受けられ、単純に365で割っただけの平均流量は、川の通常の流れを表していないようにも見受けられます。
 
そこで「年間○○日はこれだけの流量がある」ことを知るために、グラフを描き替えます。一番大きな値を左端に移し、右に向かうにつれてだんだんと小さくするようにするのです。こうして描かれた曲線を、流況曲線と呼びます。流況曲線を作成することは、河川の流れを知るための基本中の基本作業です。
 
こちらが奈良間における流況曲線です。
 
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図4 藁科川(奈良間)における2012年の流況曲線
 
実は、流況曲線というものは河川管理(治水、利水など)に必要な、次のような値を知るために作成されます。
 
豊水流量1年のうち、95日はこれより小さくなることのない流量
平水流量1年のうちでこれよりも多い日数と小さな日数とが等しくなる流量
低水流量…1年のうち275日はこれより小さくなることのない流量
渇水流量…1年のうち355日はこれより小さくなることのない流量
最大流量…1年間で最も大きな流量
最小流量…1年間で最も小さな流量
 
2012年の各値は次の通りです。
豊水流量…10.13㎥/s
平水流量…6.30㎥/s
低水流量…3.67㎥/s
渇水流量…1.01㎥/s

最大流量…191.19㎥/s
最小流量…0.73㎥/s
 
先に述べた、単純に流量を365日で平均した10.61㎥/sという値は、川の平均的な値を示しているわけではないことが分かります。台風による一時的な増水が、平均値を押し上げているためです。
 
また、最大流量と最小流量との比を河況係数とよび、流量の変動の大きさを見積もるときの目安にします。この値は約262です。最も多いときは最も少ないときの262倍に達するわけです。
 

【流量の年変動】 
もうちょっと期間を長くとって、データの公開されている2005~2013年の各年について、それぞれの値を比較してみましょう。
 
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表2 奈良間における2005~2013年の流量に関する諸数値

過去9年間において、最も流量が小さくなったのは2006年の0.63㎥/sという値です。この年は、前年12月にほとんど降水がなかったため、年始にひどい渇水になったのです。また、最も流量が大きくなったのは2011年の378.75㎥/sという値であり、これは9月の台風15号によるものでした。過去9年間での平水流量は4.95㎥/sであり、これが、この地点での最も平均的な値といえます。
 
それから各年・各月の平均流量を求めてグラフ化すると次のようになります(太い線)。
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図5 奈良間における月別平均流量(2005~2013年) 
 
冬場の流量は小さく、梅雨時にかけて増加し、8月にはいったん小さくなり、9月の台風シーズンに再び大きくなるということが分かります。
 
2012年の値だけを見ていたのでは、こうした変動については全くわかりませんね。
 
 

【JR東海の河川流量調査に対する認識は非論理的】 
さて、ここで改めて、静岡県庁での審議会で示された、JR東海の河川流量調査に対する認識を確認してみましょう。
 
JR東海は、事後調査(事業認可後の調査)として、トンネル着工前の1年間、河川の流量を観測するとしています。1年間ではデータが足りず、複数年間の連続観測を行うべきではないかという意見に対し…
 
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表2 静岡県中央新幹線環境保全連絡会議(平成26年11月18日) 質疑資料
 
このように、「年2回の調査で河川流量を把握している」という見解を示しました。
 
もうお分かりかと思いますが、この見解は明らかに誤りなのです。年2回だけの調査では流況曲線を作成することは不可能なのですから。月一回の調査でも、1年足らずでは不十分でしょう。
 
JR東海の主張通り、「年2回の調査」を行っていたことを考えます。
環境影響評価書で、流量調査日が特定できたのは、豊水期調査日が平成24(2012)年8月9日前後、渇水期調査日が同年12月4日頃でした。
この両日、藁科川の奈良間では、流量は次のような値でした。
 
(豊水期)8月9日…3.05㎥/s
(渇水期)12月4日…6.33㎥/s
 
豊水期よりも渇水期のほうが流量が多いことになっています。この年はたまたま11月の下旬にまとまった降水があったために、12月でも流量が多かったのですが、「年2回の調査」だけでは、これが「通常の値」として認識されることになってしまいます
 
当然のことながら、最大流量も最小流量も平水流量も平均流量も河況係数も分かりません。つまり、河川流量の状況を知るためのデータ処理さえできないのです。
 
つまりこの2回だけの調査では、なんら得るところがないのです。
 
それに、環境影響評価においては、生態系への影響を考えねばなりません。流量だけでなく水位、水温の変化だって把握せねばならない重要なデータです。こうしたデータも、年2回だけでは何も分かることはありません。、
 
それなのにJR東海は、「年2回の調査で流量の変動傾向も把握している」としていますね。表現が悪いかもしれませんが、とんだ嘘つきに他なりません。
 
 


)これ、静岡県だけではありません。東京~愛知の全都県で、同じような見解を示しています。 


 

何やら、税金を投入して名古屋~大阪間を2027年に同時開業させるという話を聞きました。そういう話を出したのは国土交通省の鉄道関係の部署かと思います。そのいっぽう、上記のような河川流量の観測・調査手法を定めているのも国土交通省です。引用してきた藁科川のデータだって、出所は国土交通省なんですから。
 
その国土交通省が、きわめて非科学的かつ非論理的なことを言っている事業者に、多額の税金を投入するというのは、あるべき姿勢を誤っているのではないのでしょうか。

大井川水資源検討委員会資料

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冷え性でして、そのうえ暖房の効かない部屋にいるので、指先がやたらと冷たくなってしまい、しもやけができてしまったり、キーボードをたたくのが非常に億劫になり、更新が滞っています。
 


 
えーと、リニア計画の話です。
 
国土交通省から事業認可を受け、品川駅と名古屋駅で”着工”してから一月後の昨年12月19日、東京都内にてJR東海主催の「第1回 大井川水資源検討委員会」なる会合が開かれました。
http://company.jr-central.co.jp/company/others/oigawa_committee/index.html
(JR東海のホームページ) 
 
南アルプスの長大トンネル掘削に伴い、大井川の流量が大幅に減少するとJR東海自らが予測し、流域に不安が広がりました。県のほうで中央新幹線環境保全連絡会議という専門家会議を設置して対応していますが、それとは別にJR東海側が主体となって設置した専門家会議です。
 
トンネル工学の専門家などが集って「どうやったら流量減少を抑え、水資源への影響を小さくできるか」という議論をしていたそうですが、議事録は公開されていないので詳細不明です。
 
この第1回会合でJR東海が提案し、専門家から現実的な案として検討すべしとされた「導水路建設案」「ポンプアップ案」について、当ブログではどちらもムダという指摘をしました。
(12/20 当ブログ記事)
 
 
ところで、この大井川水資源検討委員会には、いろいろな資料が提出され、それがインターネット上でPDFファイルとして公開されています。

その中でも気になるのがこれ。
イメージ 1
JR東海ホームページ掲載資料を複製・加筆
赤く細い線が、たぶん断層破砕帯=水の通り道
 
地質平面図です。解像度の都合や凡例の不表示により、細かいところまでは目が行き届きませんが、少なくとも環境影響評価書に掲載されたものよりは詳しいつくりになっているようです。
 
どうも、川と2本断層(岩の割れ目)とが交わっていて地下に大量の水を引き込んでいそうな点を、わざわざトンネル(本坑・斜坑ともに)でぶち抜くようだし、扇沢の発生土置場の方には地すべりらしきものが描かれています。
 
ここにある各種調査は、どうも平成23年6月に始まった環境影響評価によるものではなく、国鉄時代の調査、独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構による調査を合わせ、平成20年までに作成されていたようです。
 
イメージ 2
環境影響評価書を複製 
 
ということは、この地質図については計画段階環境配慮書(平成23年6月)や、環境影響評価方法書(平成23年9月)に掲載することが可能であったはずです。

自分も含め、一般人にとっては難解なものですけど、それでもアセスの始まった時点で詳細な調査結果が公表されていれば、専門家が検証することや、市や県の審査会議において議論の材料とすることが可能であったことになります。市や県の審査会ですから公開で審議が行われますし、住民や関係する行政機関からの指摘を議論に反映させることも可能であったわけです。
 
希少動植物のように、生息地の情報が公開されると乱獲のおそれがあるものならば、非公開にせねばなりませんが、地質の情報を公開されて困ることなど、あるはずがありません。「環境に配慮している」のであれば、なぜオープンな議論が可能であった段階で、こうした重要な資料を公開しなかったのでしょう? 
 
大井川におけるアセス開始以前の流量調査と全く同じ問題です。
(12/24 当ブログ記事) 
 
なぜ、情報の公開が後出しになり続けるのでしょうか…?

マスコミ批判をする前に

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ここ1週間ほどの間に、リニア報道に関して、マスコミに対して「リニアについて異論封じ込めの圧力がかかっているのでは?」という指摘が相次ぎました。
 
(リテラ 1/15)
 
(Yahoo!ニュース:週刊プレイボーイ)
 
私自身、ものの見事に問題点をスルーし続けるマスコミの姿勢に、かなりイラついていることは事実です。しかしまあ、裏事情については何にも分からないので、立ち入ったことは書きません。
 
あくまで個人的な見解ですけど、日本人には、「日本の鉄道界・鉄道技術は世界トップだ! それにケチをつけるような報道は見聞きしたくもない!」という意識があり、そういう視聴者の潜在的なイメージに合わせてマスコミが報道を行っているということもあるのではないでしょうか?
 
世界一のシンカンセン!
世界一精密なダイヤ!
世界一のトンネル掘削技術!
 
まあ、確かにすごいんですけど。。。

ところで理由はともあれ、マスコミがだらしないという面は確かでしょう。
 
リニア計画というのは、あからさまに問題だらけです。
 
「南アルプスの標高2000mに残土を運び上げる」
「ウラン鉱床を貫く」
「環境影響評価書が間違い・矛盾だらけである」
「環境大臣意見は前例のない長文であった」
「JR東海は知事意見や大臣意見をも無視している」
「説明会での質疑はきわめて制限されたもの(一人3問・再質問禁止)」
「JR東海自己負担の前提なのに、用地買収の窓口は自治体(人件費はどこから?)」
「社長自らリニアはペイしないと発言」
「エネルギー(つまり電気)消費量は現行の東海道新幹線の4倍以上に増える」
 
これだけ問題がある大型事業というのは、あまり前例がないです。長良川河口堰や愛知万博などは足元にも及ばず、諫早湾干拓事業だって、ここまでひどくはなかったんじゃないのかな? 
 
これらが放置されているのは紛れもない事実なんですけど、今のところテレビで放送されたことは一度もないと記憶しています。それでもって、問題点がロクに検証されないまま、事業はズルズルと一方的に進み、このままでは本格工事が始まってしまう…
 
こういうのを見過ごしているのだから、マスコミの姿勢は批判されてもしかたないでしょう。

ところで、
 
事業の問題点が報道されない 
ことは、確かに重大な問題ですけど、
問題のある事業で困ることを積極的に発信しない  
ことも、同様に困ったことだと、最近感じています。
 
計画に疑問があるとしても、それを表に発信しようという動きがない限り、世間的には問題が存在しないkとと同義になってしまうんじゃないのでしょうか。
 
 
特に気になるのが、ネットという極めて利便性の高いものがあるのに、それを使って情報を発信しようという動きがなかなか見られないことです。リニア沿線の中で、ネットを使って積極的に問題点を発信しようとしているのは、岐阜県の東濃地域ぐらいなものでしょう。
 
リニア反対グループのホームページやブログが開設されていますが、どういうわけなのか開店休業状態です。愛知や東京についてはほとんど情報が見つかりませんし、静岡や神奈川についての情報もあまり見つかりません。facebookにリニアを考えるグループが開設されているものの、あくまでグループ内での相互やり取りにとどまっているので、情報発信には寄与していないと思われます。
 
 
確かに、情報を整理して発信することは骨の折れる作業です。しかし、リニアに関する詳しい情報がマスコミ経由では発信されず、ネットに頼らざるを得ない現状を考えると、ネット上での情報発信の弱い現況では、懸念を示す声は皆無とみられてしまっても仕方のないのでは…?
 
 
 


 
1/30までです。
 
市役所での意見募集ですから、基本的には静岡市民を対象としたものだと思いますが、意見提出に資格は明記されておらず、将来的に3県10市町村での共通の管理計画に発展させてゆくことを視野に入れているそうなので、関係市町村の方でも意見を提出しても構わないと思います。また、「ユネスコエコパークへのお客様・利用者としての視点」という主旨の意見なら、どなたが出しても構わないでしょう。
 

原発の問題と結び付ける前に…

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ウェブ上では、リニア中央新幹線の営業には、原子力発電所の稼働が必要になるのではないかという懸念を頻繁に見かけます。
 
確かに超電導リニアは、大量の電気を消費します。
 
2027年に名古屋まで開業した際には27万kw、2045年に大阪まで開業時には72万kWになるという試算がなされており、確かに原子力発電所一機分の出力に相当します。
 
JR東海の葛西名誉会長(当時は会長)が、浜岡原発の運転停止直後に「原発を再稼働させるべし」という主張を産経新聞にておこなったので、「リニア=原発」というふうに受け止められても仕方ないかもしれません。
 
しかしながら、「リニアは原発再稼働が前提だから中止すべし」という主張には、どうも首をかしげざるをえません。 
 
確かに電気をバカ食いするわけですが、どうして原発でなければならないのでしょう?
 
火力発電では動かせないのでしょうか?
 
昨今、電力会社以外の業者による、火力発電所の増設が相次いでいます。
ちょっと検索しただけでも、例えば栃木県真岡市に神戸製鋼が2020年を目標として120万kwの火力発電所を建設しています。東京ガスによる電力事業の一環であり、最終的にグループ全体で500万kwの発電設備を整備する計画だとか。
http://www.itmedia.co.jp/smartjapan/articles/1409/30/news091.html 
 
静岡県内でも、ガス会社や石油加工業者の共同事業として、清水港に100万kw級のLNG火力発電所の建設が計画されています。http://www.chunichi.co.jp/article/shizuoka/20150107/CK2015010702000082.html 
 
このほかにも製鉄業者、製紙会社などが、次々と参入を計画しているそうです。
 
リニアの消費電力72万kwなんてのは、火力発電所一か所程度で十分にまかなえます。したがって原発に頼らずとも、2027年の名古屋開業までに27万kw、2045年の大阪開業までの72万kw程度の電力供給なんて簡単にクリアできるはずだと思われませんか?
 
この疑問、「リニア=原発=反対‼」論を主張する方に伺っても、なかなか納得できる見解をいただけません。
 
リニアに反対するために原発の話を持ち出す?
原発再稼働反対のためにリニア反対の話を持ち出す?
こういう意図がどこかで動いているんじゃないのでしょうか…?
 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇
 
 
ここからが本題。
 
当たり前の話ですが、火力発電所を増設して稼働させれば、化石燃料の燃焼により二酸化炭素が大量に生じます。二酸化炭素というのは言うまでもなく地球温暖化の犯人とされている気体です。
 
実は二酸化炭素の増加と地球温暖化との因果関係については、まだまだ分からないことがたくさんあります。異論がたくさんありますけど、その話については、ここでは踏み込みません。
 
(テレビ番組で、「昨今の異常気象は地球温暖化のせい」としたり顔で述べる人がいるが、あれは間違い。地球温暖化は100年、200年という時間単位を経てはじめてその存在がデータとして明らかになる性質の現象であり、たかだか数日単位の気象現象に、その影響をみてとることは科学的に不可能である。)
 
とにかく地球が温暖化して気候が変動するのは大変な危機という認識が高まり、1992年、ブラジルのリオで開かれた国連地球サミットで、地球温暖化に対して何らかのアクションをとることを定めた、気候変動に関する国際連合枠組条約、通称「気候変動枠組条約というものが締結されました。
 
この条約の内容を議論したのが、1997年に京都で開かれた締約国会議(COP)であり、定まった具体的内容のことを、京都議定書とよびます。これは聞き覚えのある方も多いでしょう。
 
先進国は2008年から2012年の5年間(約束期間)平均で、1990年比で全体として少なくとも5%、日本は6%の、温室効果ガス削減義務を負うというものです。2002年に日本政府は京都議定書を批准し、2005年に発行されました。
 
この間、温室効果ガス削減のための称して、原子力発電所を増設するだとか、ヨーロッパと比べて不公平だとか、アメリカが批准してないとか、いろいろなゴタゴタがあったことも、ご記憶の方が多いかと存じます。
 
(なお肝心の日本の削減義務のほうは、民生、運輸、オフィス部門の排出量増加、福島第一原発事故後の火力発電所フル稼働などもあって、結局できず仕舞いで終わってしまいました。。。)
 
さて、京都議定書を批准したからには、日本政府も温室効果ガスを削減するための義務を負います。そのための政策として、1998年10月に、地球温暖化対策法が制定され、同時期に「エネルギーの使用の合理化に関する法律(通称:省エネ法)」の大幅改正が行われました。
 
このうち地球温暖化対策法は、温室効果ガスの排出量の多い事業者(特定事業者)に、自らの排出する量を算定し、国に報告させるとともに、抑制対策を立案・実施し、対策の効果を検証し、それ踏まえて新たな対策をとらせるという手続きサイクル(PDCAサイクル)がとることにより、国全体での排出量を削減させようということを定めたものです。
 
平成18年度から23年度(つまり原発が停止した年)にかけて、国に報告された特定事業者別の温室効果ガス排出量は、こちらのページで確認することができます。http://ghg-santeikohyo.env.go.jp/result
 
以下、平成23年度の状況に基づいて記述します。
 
特定事業者は、工場・オフィス・学校など点から排出する特定排出事業者、ヒト・モノを輸送するための移動する点から排出する特定輸送排出者とに二分されています。
 
事業者の総数からみて当然と言えば当然ですが、圧倒的に特定排出事業者からの排出が大部分占めます(事業者数が11086:1381)。
 
特定輸送排出者は、貨物輸送、旅客輸送、航空輸送の3者に分類されます。3者全体からの排出量は2990万トンで、日本全体での排出量6億3700万トンの2.2%になります。なお以下の記述では、排出量についてはいずれもCO2換算量で示します
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このうち特定旅客輸送事業者とは、鉄道、バス、タクシー、海運等の事業者をさし、163社が該当しています。特定旅客輸送事業者全体での排出量は523万トンとなっています。この163社のうち、最も排出量の多いのはJR東日本で194万トン、次いでJR西日本で159万トン、3番目がJR東海で122万トンです
 
この122万トンという数字、果たして多いのか少ないのか…
日本全体での約0.2%になります。
 
確かに単純な排出量という点では、鉄鋼メーカーや化学メーカーなどには、もっと多い事業者もいくつかあります。ぱっと目についたところでは、一番多いのが多分JFEスチールの5604万トン、JX日鉱日石エネルギー1149万トン、宇部興産771万トン、日新製鋼716万トン、株式会社トクヤマ628万トン、日本製紙462万トン、東京電力375万トン、旭化成ケミカルズ326万トン、コスモ石油284万トン…
 
このように、重化学工業や電力会社では、100万トン以上の排出をおこなっている企業がいくつかあります。また、分野ごとに子会社を独立させている企業も多数にのぼりますので、系列企業全体としては数百万トン台での排出をおこなっているケースもあります。
 
こういう企業と並べてみると、確かにJR東海の排出量は多いけれども、突出しているとは言えないかもしれません。
 
とはいえJR東海の排出量122万トンは、空運・貨物輸送を含めた特定輸送事業者の中では5番目(一番はJALの316万トン、次いでANAの207万トンだが海外就航便も含む)、特定旅客輸送事業者に限れば3番目です。特定輸送事業者全体での4%、特定旅客輸送事業者全体での約23%を占め、無視できない数字ともいえます。
 
◇   ◇   ◇   ◇   ◇
 
そんなわけで、地球温暖化対策法とは別に、エネルギーの使用の合理化に関する法律(省エネ法)という法律では、運輸部門にかかわる事業者全体で、エネルギー消費の年平均原単位を1%ずつ設定するという目標が定めてられています。
 
難しく書きましたが、要するに運輸業界全体としてエネルギー消費の効率化を実現しなければならないと法律で定めたわけです。
 
とーぜんのことながら、JR東海という企業も、運輸業界というものの筆頭にあるわけです。
 
そのJR東海が、これから12年をかけて、超電導リニアというおそろしくエネルギー効率の悪い乗り物を導入しようとしており、所轄官庁である国土交通省も、国としてそれを認めてしまいました。

環境影響評価書によると、現在の東海道新幹線N700系の消費電力は約14000kw(評価書から試算)ですが、超電導リニアの場合は43800kwになります。乗車時間は半分以下になるのに消費電力は3倍以上と大きくなるわけで、エネルギー効率という点からは、確かに悪い。リニアが開業するまでに、東海道新幹線の主力は700系よりもエネルギー消費の少ないN700Aに移るので、リニアのエネルギー効率の悪さはさらに顕在化します。
 
超電導リニアは、飛行機よりはCO2排出量が少ないという触れ込みです。しかし環境影響評価書によると、仮に東京―大阪の航空便が全廃し、乗客が全てリニアもしくは新幹線に移行したとしたケースでも、現況の1割増しになるとのこと(これをJR東海は、現状と変わらないと主張)。
 
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確かに、航空機利用客が全てリニアに移行し、そのうえで現況より輸送客数が2割増すのなら、”一人当たり”の排出量は現状維持か微減と言えるかもしれません。ただ1企業としてのJR東海による、乗客一人当たり排出量は確実に増加し、鉄道業界全体としても、やはり増加することになります。
 
◇   ◇   ◇   ◇   ◇
 
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評価書に対する環境大臣意見において、温室効果ガスの排出量について大幅に削減するよう、上記のように書かれた背景には、このような事情があります。
 
とはいえ国土交通省はあっさりと事業認可をいたしました。
 
各社に温室効果ガスの排出量削減と省エネの徹底を求めているのにも関わらず、どーして、JR東海という企業に対しては、エネルギー効率のムチャクチャに悪い技術を導入させようとしているのでしょうか?
 
 
しかも、それを「国策」として推し進めるとは、国内外に示した温室効果ガス排出量削減公約にも反するのではないのでしょうか?
 
リニアの電力消費の問題は、このあたりに行き着くのではないかと思うのであります。
 

(お知らせ)現在、静岡市では、「南アルプスユネスコエコパーク管理運営計画(静岡市域版)(案)」に対するパブリックコメントの受付を行っています
 
1/30までです。
 
市役所での意見募集ですから、基本的には静岡市民を対象としたものだと思いますが、意見提出に資格は明記されておらず、将来的に3県10市町村での共通の管理計画に発展させてゆくことを視野に入れているそうなので、関係市町村の方でも意見を提出しても構わないと思います。また、「ユネスコエコパークへのお客様・利用者としての視点」という主旨の意見なら、どなたが出しても構わないでしょう。
 

南アルプス ユネスコエコパーク管理計画案 パブリックコメント

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現在、静岡市では、「南アルプスユネスコエコパーク管理運営計画(静岡市域版)(案)」に対するパブリックコメントの受付を行っています。 
 
1/30(金曜日)までです。
 
静岡市役所での意見募集ですから、基本的には静岡市民を対象としたものだと思いますが、意見提出に資格は明記されておらず、将来的に3県10市町村での共通の管理計画に発展させてゆくことを視野に入れているそうなので、関係市町村の方でも意見を提出しても構わないと思います。また、「ユネスコエコパークへのお客様・利用者としての視点」という主旨の意見なら、どなたが出しても構わないのではないでしょうか。

別にリニア中央新幹線を念頭に置いたわけではありませんが、無関係ではありません。そもそも、リニア計画のようなムチャクチャな乱開発を、どうやって南アルプスの自然環境を守ってゆける事業内容に軌道修正させてゆくかということが、管理運営計画の重要なポイントになります。

またユネスコエコパークは世界自然遺産と異なり、持続可能な発展を実践してゆくという点に特徴があります。それを実現することが可能な計画案なのかを、見定めなければなりません。

そんなわけで、管理計画案に関係してくる
生物圏保存地域セビリア戦略
生物圏保存地域のためのマドリッド行動計画
静岡市環境基本条例
静岡市環境基本計画
静岡市清流条例
静岡市生物多様性地域戦略
静岡県土等採取等規制条例
南アルプス国立公園管理計画書

など、いろいろな規則や計画に目を通しております(そんなわけで今月はブログ更新が滞っています)。



「エネルギーの使用の合理化に関する法律」「地球温暖化対策法」

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どうもこのリニア計画というもの、複数の行政機関(など)がこれまでに考案してきた環境保全目標に、いろいろと反しているように思われるのであります。国立公園拡張計画とか、ユネスコエコパークとか。その中でも妙だと思うのがエネルギーの使用の合理化に関する法律(省エネ法) というもの。

先日も触れましたこの法律、いろいろな事業者に対して地球温暖化対策と省エネを推進するためのものです。法律をつくったのは通産省(経済産業省)ですが、運輸業界あてには国土交通省を経由して通達されています。その国土交通省のホームページには、制度説明のファイルで次のように掲載されていました。

はい。鉄道業界においても、エネルギー消費の原単位を年率1%ずつ減らすよう、求めています。「省エネを呼びかけてるよ~!」とする、国土交通省のタテマエになります。「省エネルギー型車両の導入」なんてのもありますね。

しかし超電導リニア方式の中央新幹線というものは、省エネとは縁の遠い乗り物です。前にも掲載しましたが、温室効果ガスの排出量は、2045年の大阪開業時には、現行(2005年)に比べて1.15倍に増加するとのこと。

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環境影響評価書よりコピー


温室効果ガスの排出量が増えるということは、電力の消費量が現在の東海道新幹線に比べて大きくなることを意味します。詳しくは環境影響評価書をご覧になっていただきたいのですが、一人当たり電力消費は4倍以上になるとのこと。移動時間が半分になるのにエネルギー消費が4倍以上になるのでは、エネルギー消費の原単位はやたらと増えていることになります

これ、どうも最上段の「省エネ法」の規定に反しているように思えてならないんですよ。

確かに超電導リニアは、航空機よりはエネルギ消費の原単位は小さく、1/3程度です。しかしリニアの乗客の8割以上は東海道新幹線からのシフトを想定しているので、仮に航空機を全廃させても、全体としての消費量は変わらないんですよ。しかも省エネ法でいう削減は事業者ごとに求めているので、JR東海による消費が激増することは、本末転倒なのです(別に罰則規定があるわけではない)。

だから、省エネ法の観点からみれば、国土交通省は簡単にこの事業を認めてはならなかったのではないでしょうか。せめて付帯事項をつけるべきではなかったかと。

◇   ◇   ◇   ◇   ◇

私、リニア計画を原発再稼働に結び付けて批判する声には、どうも論理に飛躍が大きすぎると思うので賛同しかねます。

しかしこの省エネ法と、セットになっている地球温暖化対策法とを考え合わせると、どうも原発と結びつきそうなものが見て取れます。

省エネ法とは別に、地球温暖化対策法という法律では、温室効果ガスの排出量削減を呼びかけています。京都議定書が根底にあり、国際公約のための法律という意味合いも持ちます。

もちろん、鉄道業界を含む、運輸業界も対象となっています。
(国土交通省のページ)

やはり国として鉄道業界に対しても、前期省エネ法に基づく省エネの呼びかけとともに、地球温暖化対策法に基づく温室効果ガスの排出量削減を呼びかけているわけです。その手前、軽々に温室効果ガス大量放出の乗り物を認可するわけにはいきません。

で、ここで思い浮かぶのが「地球温暖化対策に原発を…」と言っていた話。

速い話、原発が動いていて火力発電の比率が低い状況なら、化石燃料の消費が減らせるので、リニアの走行による温室効果ガスの排出量も少なくて済むっていうわけです。「省エネ法の精神には反するけど地球温暖化対策法は遵守できる」ってわけです。これならば、リニアを監督する国土交通省の体面も、ある程度守られるかもしれません。

もっとも、体面は守られるけど安心と環境は守れませんが。



ユネスコエコパークとリニア新幹線計画 JR東海の見解はおかしいのでは?

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先月、静岡市が南アルプスユネスコエコパーク管理計画案に対するパブリックコメントが募集しておりました。今回、この南アルプスユネスコエコパークとリニア計画との整合性について、考察してみようと思います。

とはいっても、いまいち知名度の低いこの言葉。そもそも「ユネスコエコパークって何?」というところから始めなければならないと思います。

1970年以降、国連機関であるユネスコが長期的な事業計画として「人間と生物圏計画(MAB計画)」というものを開始しました。この計画において、「持続可能な自然環境と生物資源の利用能力を高めることが重要」であることが認識されるようになり、それを実現するために、1976年以降、国際的に保障された自然保護地域が設けられることになりました。

この自然保護地域のことを生物圏保存地域とよびます。2014年6月の時点で、119か国、631地域が登録されています。日本では昨年登録の決まった南アルプスと只見をはじめ志賀高原、白山、大台ケ原、綾、屋久島の計7地域が登録されています。この呼び名は堅苦しいということで、日本国内ではユネスコエコパークと呼ぶことが公式に決定されています。

生物圏保全地域の機能としては、
①保全機能
遺伝資源、生物種、生態系、景観を守る
②経済と社会の発展
持続可能な経済発展・人材育成
③学術的支援
実証プロジェクト、環境教育・研修、保全や持続可能な成長の地域的・国内的・世界的問題に関する研究や実験の支援

が掲げられています。以上のように、持続可能な利用能力を高めることが目的にありますので、厳重な現状保存のための世界自然遺産とは、意味合いも目的も異なります。その地域の自然を保全しながら持続可能で賢く活用してゆこうという取組みを実践する場というイメージだと思われます。
 
◇   ◇   ◇   ◇   ◇

ユネスコエコパークにおいては、前記の目的を達成するために、3通りの保護地域を設けることに特色があります。すなわち、
 
●地域を代表する自然環境が残され、それを厳重に保護する核心地域
●核心地域の周囲又は隣接する地域であり、核心地域のバッファーとしての機能を果たす緩衝地域
●緩衝地域を取り囲み、非登録地との間に設けられる移行地域

の3地域です。地域の宝である核心地域を緩衝地域と移行地域とで守り、そのうち移行地域において、持続可能な経済活動を実践してゆこうというわけです。
 
ユネスコエコパークについては、国、地方自治体、市民や団体、地元住民それぞれが、それぞれの立場にたって保全のための活動を行ってゆくことが期待されます。昨年末に静岡市が管理運営計画案を定め、先月いっぱいパブリックコメントを受け付けていましたが、これは、それぞれが担う役割・方針を示したものでありました

◇   ◇   ◇   ◇   ◇

ここで、JR東海のユネスコエコパーク移行地域に対する認識を、環境影響評価書をもとに見てみます。

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注目していただきたいのは赤く囲った部分です。次のように書かれています。

工事の実施段階には静岡市と情報交換に努め、できる限り本事業とユネスコエコパーク計画との整合を図る予定であり、「緩衝地域を支援する機能」や「自然環境の保全と調和した持続可能な発展のためのモデルとなる取組の推進」を阻害しないように計画できるものとしている

これなんですけど、かなり自分勝手で都合のよい解釈だと思います。


市と情報交換をしたうえで「緩衝地域を支援する機能」や「自然環境の保全と調和した持続可能な発展のためのモデルとなる取組の推進」を阻害しないように計画する方針としていますね(ちなみに山梨版評価書だと、ここの「静岡市」の部分が「南アルプス市や早川町」、長野県版評価書だと「大鹿村」になっています。)。

これ、きわめて自己中心的なのですよ。

静岡市部分の南アルプスは無人地帯であり、経済活動というと登山と水力発電ぐらいなものです。長野県大鹿村や山梨県早川町は小さな山村であり、どちらも1100人前後の人口しかありません。経済活動の規模は、とても小さなものです。

かたやリニア。5兆5000億円のリニア建設費のうち、南アルプスでの工事費がいくらになるか知りませんが、おそらく「兆」の単位になるのでしょう。仮に1兆1000億円として工期が11年なら、毎年1000億円規模の事業を行っていることになります。大鹿村や早川町の経済活動の規模とは桁違いです(町・村予算の数十倍)。確実に向こう10年間は、リニア建設が南アルプス地域における最大の経済活動になるわけです

環境破壊についてはこのブログで再三指摘してきたとおりですし、作業用を含めると総延長60㎞近いトンネルをエコパーク登録地域内に掘るのですから、物理的にもとてつもない規模になります。工事作業員も、村の人口に匹敵するような人数になるわけです(静岡市側では最盛期700人が常駐する計画)。

したがって物理的な規模、環境に与える影響は当然のことながら、経済規模という面でも、リニア中央新幹線整備事業が、ユネスコエコパーク内における最大の事業となります

ユネスコエコパークにおいては、「自然環境の保全と調和した持続可能な発展のためのモデルとなる取組の推進」を実践するのがその存在意義です。それゆえ、その中で行われる巨大開発の事業がそれを実行しなければ意味がないし、事業主体は、「持続可能な発展のためのモデル」を自ら率先して実践しなければならないのですよ。

JR東海の言う「阻害しないようにする」という見解は的外れ、あるいは曲解なのです

また、青い線を引いた部分には次のように書かれています。

・本事業における非常口や発生土置き場などの概ねの候補地は、過去に伐採され電力会社が使用した工事ヤード跡地や人工林等を選定しており、ユネスコエコパーク計画においてはすべて居住や持続可能な資源管理活動が促進・展開される「移行地域」に含まれている。
・路線の一部は核心地域や緩衝地域を通過するが、南アルプスではすべてトンネル構造とすることから地表部は改変しない。

両方を合わせると、あたかも、地下・移行地域なら開発行為は何をやっても構わないだろうという見解が感じとれますが、これはおそらく誤っています。ユネスコエコパークにおける活動についての提言であるユネスコのセビリア宣言によると、移行地域における活動としては、

①農業活動
②定住
地域社会、運営団体、科学者、NGO、文化活動に関する団体そして経済活動に関わる団体が相互に連携し、持続可能な形で行われる開発

とされているのです。リニアの建設工事は開発行為ですから③に照合してみますと、「中央新幹線建設・運用」という経済活動を行いたい団体(JR東海)は、地域社会や運営団体、科学者、NGOなどと相互に連携し、持続可能な形で行わなければならないということになります。

JR東海の見解は、このルールにまったく触れていません。
もうちょっと付言すると、例えば「地域社会との連携」という点ですと、
●一方通行の説明会(しかも質問は一人3つまで)
●地元への事前連絡もせずに関係工事(大鹿村)
●事業計画に市民が関われない
●環境影響評価の過程での質問・意見に回答しない
ということが横行しております。少なくとも、地域社会との連携は一切行われていません

法律上の問題はないと思われますが、少なくともユネスコエコパークの理念からは、著しく外れているのではないでしょうか。この点については、もう少し考察してみようと思います。

◇   ◇   ◇   ◇   ◇

南アルプスはユネスコエコパークに登録されました。ゆえに、ここで行われる大規模な開発行為は、一定のルールに従ってもらわねばなりません。それができない―あるいはするつもりがない―のであれば、開発を行う資格がないと言えるのではないでしょうか。


なお、静岡市南アルプスエコパーク管理運営計画(案)や、セビリア戦略等の資は、静岡市のホームページにて閲覧できます。
http://www.city.shizuoka.jp/deps/seiryuu/pabukome_alps.html


ユネスコエコパーク理念 「地域社会と連携した持続可能な”開発”」といえるのか? 

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今回も、リニア計画とユネスコエコパークの理念との整合性について続けます。

ユネスコエコパークの移行地域内では、「経済活動」をおなうことが認められています。JR東海は、これを根拠として、リニア中央新幹線の地上工事をおこなうとしています。

ところがユネスコエコパークにおける行動規範をまとめたセビリア宣言によると、移行地域における活動として認められているのは次のようなものです。

①農業活動
②定住
③地域社会、運営団体、科学者、NGO、文化活動に関する団体そして経済活動に関わる団体が相互に連携し、持続可能な形で行われる開発。
 

前回、簡単に触れましたが、あらためて3番について考えてみたいと思います。

本題に入る前に、ちょっと「開発」という言葉について思案。手元にある学研の漢和辞典『漢字源』によりますと、開発という言葉について

土地などを切り開いたり資源を取り出したりして産業をおこし、役立つようにする。 

という説明がなされています。同時に「開封」という言葉と同じ意味をもっているとも説明されています。この開封という言葉には「手紙や封印されたものの封を解く」という意味があります。つまり「開発」という言葉には、その土地が秘めている価値を利用するという意味合いが強いのではないかと思います。

南アルプスのユネスコエコパーク内でも、これまでいろいろな事業がなされてきました。規模の大きなものでは次のようなものがあります。

A. 森林伐採
B. ダム建設
C. 水力発電所建設
D 観光施設の設置
E. 林道建設
 

Aの森林伐採は、南アルプスの山々に生えている木を、製材やパルプ原料にするために行われるものです。
Bは水資源を利用するためです。
Cは、南アルプスがもつ豊富な水と落差を利用して水力発電を行い、電力を得るためです。包蔵電力を得るためとも言います。
Dは、南アルプスの有する雄大な景観や高山植物を「観光資源」として利用するためのものです。
そしてそれらの目的を達成するために道路が必要となり、Eののように林道が建設されました。言い換えれば

Aは森林開発、Bは水資源開発、Cは電源開発、Dは観光開発という言い方ができます。つまり、これまで南アルプスで行われてきた様々な事業は、南アルプスが持っている様々な”価値”を利用しようという目的で行われたのです。すなわち、開発という言葉の意味と合致していると言えます。

ですが、このほどJR東海の計画しているリニア中央新幹線計画というのは、別に南アルプスに用があって工事を行うわけではありません。大量の残土を捨てていったり、川の流れを大幅に変えたり、ダンプで山里を埋め尽くしたりする内容ですけど、それを行うことによって、南アルプスの利用価値が高まるわけではありません。

確かにトンネルを掘ってリニアを通すことにより、東京と名古屋とを行き来する時間は短縮され、時間的価値を生み出す事業ではありますが、時間的価値というものを南アルプスが有しているわけではないでしょう。単にルート上に位置しているだけですから。

要するに、「その土地が秘めている価値を利用する」という意味合いは皆無であり、本来の”開発”の意味とは若干異なるのではないのかな、と思うのであります。
ユネスコエコパークの移行地域内で行ってよい事業は「持続可能な形で行われる開発行為」でありますが、リニア建設は開発行為ですらない―単なる破壊行為と言える―のではないでしょうか?

まあ、これは言葉遊びのようなものであって、ここで終了します。

◇   ◇   ◇   ◇   ◇ 

さて昨年11月の「建設認可」の後、JR東海は実際の工事に向けた準備を加速させています。

●用地買収に向けての説明会
●用地買収に向けての測量
●用地取得を県に委託(県の業務として税金を投入してJR東海の代行)
●工事のためのボーリング調査

こんなことがどんどん進められ、事業開始が既成事実化さつつあるようです。

長野県大鹿村では、ボーリング調査が24時間体制で始まったそうです。当初は地権者との話だけで始まりそうだったものの、「さすがにそれはおかしい」という指摘があり、周辺数戸への説明を一方通行的に行い、調査を開始したとのことです。

(長野県大鹿村村会議員の方のブログ)
http://blog.goo.ne.jp/akimtl1984/e/10b26b24ac895b14398b442657899b19 

事業認可の昨年秋以降、この大鹿村では、村役場からJR東海に対し、環境保全のための協定を結びたいという提案を行っています。ところがJR東海は、環境保全措置については環境影響評価書に従って忠実に行ってゆくから、協定を結ぶつもりはないという見解を示し、結局、平行線をたどったままになっています。

その評価書では、JR東海自身、関係自治体と協議を行ってゆくと明記していますし、国土交通大臣意見においても、そのような指導がなされています。評価書に従って事業をおこなうつもりであるなら、くだんのボーリング調査においても、事前に村と協議のうえで行わなければならないはずです。

同村では、2008年に協議も打診もないままボーリング調査が行われ、それがそのまま今般の事業計画に結びついてゆき、巨大な環境破壊()が既成事実化されつつあるという経験があります。そのため、JR東海に対する不信感はかなり強いわけで、そういうことを繰り返しては住民の不安が募る一方であるからこそ、協定の締結を要望したのです。

大鹿村の主な環境破壊
●大型車両が村の中心道路を最大1日850往復以上通行する。
●村内に斜坑が4本掘られ、工事現場だらけとなる
●300万立米の発生土が掘り出されるが行き先が未定
●鉱毒によって閉山された鉱山付近をリニアのトンネルがぶち抜く
●川の水が大幅に減少する可能性がある
●南アルプス赤石岳をのぞむ山里の景観がぶち壊される
●中央構造線の存在によって地すべりの密集している地域であり、新たな崩壊を誘発する懸念
(詳細)



JR東海はそれを突っぱねて「評価書が協定代わり」という主張を繰り返し、さらに評価書をも無視するようなかたちでボーリング調査を開始してしまいました。ただでさえデタラメな評価書の信頼をさらにおとしめる行為であり、わざわざ住民の不安と不信感をあおるような、きわめて愚かしい進め方だと言わざるを得ません。

ところで、大鹿村でボーリング調査をおこなった地点は、リニアの長大トンネルの斜坑が掘られる地点のそばです。そしてそこは、ユネスコエコパークの移行地域に含まれます。繰り返しになりますが、移行地域で行ってよい経済活動の形は、『地域社会、運営団体、科学者、NGO、文化活動に関する団体そして経済活動に関わる団体が相互に連携し、持続可能な形で行われる開発。』とされています。

JR東海の進め方は、地域社会との連携しているとはとても言えません、真逆です。ユネスコエコパークの基本理念に完全に反していると断言せざるを得ません。

この基本理念を定めたセビリア宣言は、別に条約でも法律でもないルールに過ぎないので、当然のことながら事業者や該当地域に遵守義務はありません。ですけど、これが守られなければ、南アルプスをユネスコエコパークに登録した意味がないのも、また事実です。

ユネスコエコパークというのは環境省と文部科学省とが国際社会に向けて、その地域ではルールに従ってゆくことを国際的に公約した場所でもあるので、登録したそばから、ルールを破っているのでは、先が思いやられます。

このJR東海という事業者、ホントにユネスコエコパークの概念を理解しているのでしょうか

ユネスコエコパークとの整合性 ”持続可能”な開発か?①

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南アルプスは昨年6月にユネスコエコパークに登録されています。その環境の保全は、一国の枠を超えて、国際的な責務といえます。

ユネスコエコパークの移行地域内では、「経済活動」をおなうことが認められています。JR東海は、これを根拠として、リニア中央新幹線の地上工事をおこなうとしています。

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環境影響評価配慮書より複製・加筆 

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環境省のホームページより複製・加筆 

(移行地域という言葉の意味についてはこちらの記事を参照) 

http://blogs.yahoo.co.jp/jigiua8eurao4/13628960.html



ところがユネスコエコパークにおける行動規範をまとめたセビリア宣言によると、移行地域における活動として認められているのは次のようなものです。


①農業活動
②定住
③地域社会、運営団体、科学者、NGO、文化活動に関する団体そして経済活動に関わる団体が相互に連携し、持続可能な形で行われる開発。
 


持続可能性 



が、「経済活動」を行う上での必須条件です。

持続可能な開発という概念は、世界各国で公害、エネルギー涸渇、自然破壊が共通課題となった1970年代から、国際的に認知され始めたようで、1992年のブラジル・リオデジャネイロで開かれた国連会議を経て、日本の環境基本法の基本理念にも取り込まれるに至っています(第1条、第3条、第4条)。

sustainable developmentという言葉が「持続可能な”開発”」と訳されていますが、developmentという言葉と日本社会の実情に合わせると、むしろ「持続可能な”発展”」と訳すべきではないかという指摘もあります。

いずれにせよ、「持続可能」という概念を簡潔に説明しますと、現在ある自然環境や天然資源を、現在の世代で使い果たしてしまうのではなく、将来世代も利用可能な形で受け継ぐようにするというようなところではないかと思います。

もうちょっと具体的に言えば、
●動植物の乱獲を行わないようにする
●動植物の生息地を必要以上に破壊しない
●水・空気・食糧といった自然から受ける恩恵を将来にも受け継がせる
●有限な資源の使用量を少なくする

といったところでしょう。まるで道徳の授業のような美辞麗句ですけど…。

えー、そもそもリニア計画というのは、この概念に真っ向から逆らっているのではないかと思います。

最も端的に現れているのはエネルギー消費の点です。日本の大動脈である東京~名古屋~大阪において、旅客の輸送手法を、現在よりもエネルギー効率のはるかに悪いタイプに切り替えようというわけですから、これは有限な天然資源の浪費ともいえます。化石燃料由来のエネルギー消費を抑えようというのが「持続可能な開発/発展」の基本概念ですから、それとは遠くかけ離れています。

ゆえに国の環境政策の基本である環境基本法の概念から全く外れたことを、全国新幹線整備法という法律を根拠として国策として認めてしまったわけで、この点については疑問があります。
詳細な説明は先般の記事をご覧になってください。 


さて、持続可能な開発ないし発展」を実践しようという場がユネスコエコパークなのですが、このほど、実に皮肉な事態となっています。

昨日(2月14日)、南アルプス東側の山梨県北杜市においてユネスコエコパークの登録証授与式が執り行われました。

式では、ユネスコエコパークを構成する長野県大鹿村の大鹿歌舞伎も披露されました。

同じ日、南アルプス西側に位置する大鹿村内では、JR東海によるボーリング調査が24時間体制で開始されました。これはまだ試験段階だそうですが、伝え聞くところによると、集落からはやや離れた場所でありながら、相当な騒音が生じているということだそうです(マスコミではまだ報じられていません)。

何よりも調査が住民との事前協議を行わずして開始されそうになったということで、不信感が漂っている中での調査開始であり、「騒音+不信感+今後の不安」ということで、住民の方々はたいへんなストレスを感じておられるそうです。

「調査の試験」という段階でこれだけの騒音とストレスを感じておられるのですから、本格的に工事が始まり、重機やダンプカーが24時間体制で轟音をとどろかせれば、本当に人の住み続けることのできない事態に陥ってしまうかもしれません。騒音という環境破壊によって集落が消滅の危機に陥るわけですから、「持続不可能」ということになります。そしてユネスコエコパークの理念なんぞ、吹き飛んでしまいます。

ユネスコエコパーク認証式の行われている傍らで、その理念を揺るがす事態が、早くも起こりつつあるのです。

持続可能性という点については、まだまだたくさん問題がありますので、次回に続きます。

◇   ◇   ◇   ◇   ◇ 

ところで南アルプスユネスコエコパークを構成する市町村のうち、リニアが貫通するのは南アルプス市、早川町、静岡市、大鹿村、飯田市です(飯田市内でリニアの工事が行われるのはユネスコエコパーク登録地域から離れた区域)。

このうち飯田市は市内に駅が建設されることにより、音頭をとってリニア計画を推進しています。

リニアの事業というものが、飯田市内で完結する事業であるのならば、どれほど積極的に推進されても構いません。しかしそうではなく、迷惑だけをこうむる自治体もあるのです。それにもしかすると、その積極性がユネスコエコパークの存続に致命的なダメージを生み出すかもしれません。登録地域内での事業推進は慎重にならねばならないのに、飯田市の登録地域外での工事が優先的に進められれば、既成事実として後戻りできなくなってしまうおそれがあるからです。

かように複数の市町村にわたって利害が一致しない事業であるのに、ひとつの市だけで積極的になることは、いろいろと危うさをはらんでいるのではないかと思われます。


南アルプスユネスコエコパークとの整合性 持続可能な開発か?② 自然環境編

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ユネスコエコパーク移行地域内における、経済活動の条件とされている「持続可能
発展」という視点からリニア計画の内容について引き続き考えてみます。
持続可能性という理念につきましては、前回記事を参照してください。 

前回は、長野県大鹿村における「社会的な持続可能性への影響」という観点でしたが、今回は主として静岡市側における「自然環境の持続可能性への影響」について考察します。

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図1 南アルプスユネスコエコパークとリニア工事予定地
環境省ホームページより複製・加筆 

静岡県側のユネスコエコパーク登録地域内では、総延長約22㎞のトンネルを掘り、そこから発生する360万立方メートルもの発生土を南アルプス山中に捨てる計画です。

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図2 静岡県内における工事計画
環境影響評価書(静岡県編)より複製 


一連の事業により、まず大井川の流量が大幅に減るという事態が懸念されています。

河川流量の減少これこそ、持続不可能の筆頭にあげられる事項でしょう(なお、長野側や山梨側でも同様の懸念がある)。

本来は川に湧き出している地下水の流れ、あるいは川から地下深くに流れ込んでゆく流れ、そうした流れを地下深くのトンネルに引き込んでしてしまえば、地表を流れる水の量は減ってしまいます。

山地の地下水は、縦横に複雑に入った岩の隙間を伝っています。そこにトンネルを掘ることは、水の流れる無数のパイプを破壊することに他なりません。それを破壊してトンネルに水を集めてしまうのですから、その流れを復元することは物理的に不可能です。流れを復元できなければ、川における生物の営みを、現在の世代で断ち切ってしまうことになります。

復元不可能な破壊…これでは、「持続可能な発展」とは言えません。 

(なおこの点、礫や砂の層に含まれている平地の地下水の構造とは大きく異なります。平地の地下にある帯水層は、面としての広がりをもつので、線的に流れを寸断しても、長期的には水位が回復する可能性があります。) 

また、これに対してJR東海が示した環境保全措置までも持続不可能なものです。

とりあえずJR東海は、「トンネルに湧出した水をポンプでくみ上げる」「トンネル途中から導水路トンネルを掘って下流側に流す」の2案を検討しているようです。ところが、
●ポンプくみ上げ案は、本来自然物である水循環を人工的な動力源に置き換えることになる(毎秒2トンなら1万キロワットは必要)。そのうえ坑口より上流側への対策にはならない。
●導水路トンネル案は、当然ながら導水路トンネルの出口より下流側に水を流すことになる。
●両案とも放流地点より上流側における生態系の保全には、何ら役立たない。 

という根本的な問題があります。人工的な動力源を用いて水の流れを復元したとしても、それは既に”不”自然であり、ポンプが停まると同時に流れが絶えてしまいます。生命維持装置をつけて延命しているようなものであり、「持続可能」とは言えません。

◇   ◇   ◇   ◇   ◇ 

発生土置場についても考察してみます。

JR東海は現在のところ、標高2000mの稜線上と、大井川の河原6地点とに分けて発生土を捨てる計画としています。


残る大井川河原6地点のうち、最大面積の候補地は、標高1300m付近に広がる燕沢という地点です。この場所、環境影響評価書において長さ1000m、幅100~150m程の楕円で示されています(図1の下部)。

標高1300mの南アルプス山中にもかかわらず、広大な面積を想定しています。なぜこんな広い平坦地が深い山中にあるかというと、複数の山崩れが大井川を埋め立て、そこを大井川の流れがならしつつ、土砂を下流側に運び去ってゆくからだと推察されます(地形図や空中写真からの推察。正確な調査報告書があるのかどうかは分からない。)。

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図3 燕沢付近発生土置場候補地と崩壊地との位置関係 
国土地理院地形図閲覧サービス「うぉっちず」より複製・加筆 

かような土地条件より、土砂災害を増長させるおそれがありますが、ここではユネスコエコパークの理念との整合性について考察します。

この場所、生態学的な視点でいうと、オオバヤナギ、ドロノキといった樹種を主体とする「河畔林」あるいは「渓畔林」とよばれる林が広がっているようです。オオバヤナギ、ドロノキともにヤナギ科の木で、「寒冷な気候、土砂の移動が活発な河原」という条件でのみ育つそうです。このほか、環境影響評価書の記載内容から推察するに、サワグルミ、シオジ、カツラといった河畔林、渓畔林に特有な樹種、シナノナデシコ、カワラニガナといった河原に特有な草花が分布しているようです。


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図4 燕沢発生土置場候補地付近の植生図
環境影響評価書(静岡県編)より複・加筆 


こうした条件を満たす土地というのは、北海道や東北地方の山地には比較的多くみられるようですが、本州中部では上高地など一部に限られています、その中でも南アルプスの大井川源流部が最も南になるそうです。

また、この河畔林を生活の場とする、希少性の高い高山蝶が数種類分布しており、それらの生息南限地にもなっているようです(静岡県版レッドリストより)し、サンショウウオなど、水辺に特有な動物の生息地ともなっています。

このように、生物地理上、結構重要な場所であると思われます・

こうした場所を大量の発生土で埋め立てたらどうなるのでしょう?

林は盛土によって直接的に消滅します。

これに対しJR東海は、評価書のユネスコエコパークに関わる記述の中で「工事終了後は現状復旧することを原則とする」としており、具体的(とは言えないが)な環境保全措置としては、「発生土の盛土には速やかに緑化を行うことで環境への影響は小さくできる」としています(図5)。

しかし仮に森林を復元できたとしても、本来の河畔林を復元することはおそらく不可能です。なぜなら河畔林の存続に必要な、「土砂が移動していること」と「高い地下水位」とを同時に盛土の上に再現することは、ほぼ不可能だからです。

そもそも「現状復旧」としていますが、土砂や川が動いているのですから、「現状」は常に変動しているのです。そこを考慮していないのですから、この記述は片手落ちです。

なお技術的には、盛土の上に河畔林の構成樹種を育てること自体は可能でしょう。発生土の上に難透水性の粘土層を設け、その上に厚く砂利を敷き、そこへ苗を植え、下草刈り等の管理を続けてゆけば、もしかしたら育つのかもしれません。しかしそれでは単なる庭木のような扱いであり、植生の復元とはいえません。

それに単純に植生を復旧させればよいというものでもありません。

サンショウウオなどの小動物が暮らしてゆけるのでしょうか?
土壌に含まれる微小な生物の営みを復元できるのでしょうか?
川と森との生き物のつながりは保たれるのでしょうか?
川幅を狭めることにより、水と砂の流れ方も変わってしまいますが、それをどのように制御するのでしょうか?

以上のような理由により、川辺林を持続させながら発生土置場を造成することは、不可能であると考えます。延々と続いてきた自然の営みを断ち切ってしまうことになりますから、「持続可能な発展」とは言ないでしょう

さらに、一連の大規模な工事により、景観は一変します。山のどてっぱらにトンネルが掘られ、河原に高さ数十mの巨大な盛土が出現するのですから。したがって景観を後世に伝えてゆくことも不可能になり、やはり「持続可能」とは言えません

◇   ◇   ◇   ◇   ◇ 

 
なお、当ブログにおける河畔林・渓畔林についての記述は、あくまで懸念であります。地形図や専門書と事業計画とを見比べると、必然的に浮かび上がるような懸念です。ところが環境影響評価書においては、このような懸念について、ほとんど言及していません。特に燕沢付近の発生土置場候補地については、生態系の評価をおこなっていません。

行おうとしている事業が生態系の持続可能性に与える影響について検証するためには、何よりも、対象地域の生態系を知ろうとすることが重要です。それすらしていないのですから、話になりません。

また環境影響評価書における、JR東海としてのユネスコエコパークについての見解を見ると、移行地域における経済行為は「持続可能な発展」が不可欠であること自体は、知識としては、承知しているようです。

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図5 JR東海のユネスコエコパークについての見解
環境影響評価書(静岡県編)を複製・加筆 

ところがこの見解を最後まで見渡してみても、「持続可能とはどういうことか」という点については、何ら言及しておりません。

ここに書いてある交通安全対策とか、エコドライブとか、タイヤの洗浄とか、そんなのはユネスコエコパークとは関係なく、どこの工事現場でもやってもらわなければ困る、ごくごく当たり前のことです。そこいらのガス工事や電話線の交換工事で、無駄にエンジンを吹かしてスピード違反し、周囲に砂利をばらまいてゆく業者なんていないでしょう。

本事業において「持続可能」という条件との整合性を図るためには、対象事業実施区域の自然環境を知り、事業計画をどのように改めてゆくかということが、真っ先に求められます。それについて一切言及していないのでは、この事業はユネスコエコパークの理念とは合致しないと言わざるを得ません



なお、渓畔林・河畔林についての記述については、主に以下の書籍を参考とした。
川那部 浩哉、 水野 信彦 監修、中村 太士 編 (2013)『河川生態学』
近田 文弘(1981) 『静岡県の植物群落』
崎尾 均、 山本 福壽 編(2002) 『水辺林の生態学』
南アルプス総合学術検討委員会 編(2010) 『南アルプス学術総論』
宮脇 昭、 藤原 陸夫、奥田 重俊 編(1994)『日本植生便覧』


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