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Channel: リニア中央新幹線 南アルプスに穴を開けちゃっていいのかい?
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環境影響評価をやりなおしてください その2

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前回の記事で指摘した通り、静岡県内における事業計画は今年4月以降、次々と変更されています。もっとも静岡だけでなく、長野県内でも変電所計画が突如として浮上するなど二転三転しているようですけど。。。

さて、大規模な工事をおこなうと環境への影響が生じます。環境行政において、それを防ぐための手法が環境保全措置とよばれ、それを考案してゆくために環境影響評価が行われます。

何度も触れていますように、環境影響評価の手続きは、
配慮書…環境面から事業計画を検証
方法書…調査方針を掲載
準備書…調査・評価結果および環境保全措置の方針を報告
評価書…環境保全措置の確定
補正評価書…所轄大臣意見を受けて確定
事後調査計画書…モニタリング計画等

という書類(図書)を作成し、行政機関や公衆等からの審査がされることで進められます。このうち配慮書、方法書、準備書については公衆等からの意見提出と事業者による見解表明を行うことが法律で定められています。言い換えれば、準備書への意見提出を最後に、法律で定められた公衆等からの意見提出の機会はなくなります。
(環境省の説明ページ)

静岡県内版の準備書(2013年9月)では、静岡市内における地上での事業計画は次のようなものだと説明されていました。
イメージ 1
図1 準備書段階での地上工事の計画
環境影響準備書より複製 

そして公衆等はこの説明に基づいて意見提出を行い(2013年10月)、市や県の専門家会議もこの事業計画について意見を提出した(2014年3月)わけです。環境省による意見(2014年6月)も、国土交通大臣による審査・認可も、この事業計画に基づいています。

ところが前回述べました通り、今年2015年4月以降、JR東海は次々と事業計画を変更し始めました。今日(9/27)までに明らかになった変更点を記入すると図2のようになります。
イメージ 2
図2 評価書手続き終了後における静岡市内での地上工事計画の変更
非常口(斜坑)の位置が明らかにされたのは評価書の段階 
道路トンネル新案と導水路の位置は事業認可後に発表   

ハッキリ言って、準備書および評価書の段階とは、まるで異なっています。したがって以前の事業計画に基づいた環境保全措置が現在でも有効なのかどうか、全く分からなくなっています。

元の事業計画自体があいまいなうえ、評価書もメチャクチャであったことから、環境への負荷が増えたのか減ったのか、それも分かりません。

ところで、事業計画の変更と環境影響評価のやり直しについてみてみましょう。

環境影響評価法の規定により、補正評価書を確定するまでに事業計画を「法律で定められた以上の規模」で変更しようという場合は、準備書の作成から手続きをやり直すことと定められています(第28条および第21条、第25条)。

ところが補正評価書が確定した後に事業計画を変更する場合は、アセス手続きの再実施を行うかどうかについては、事業者の自主判断にゆだねられています(第32条)。

したがって本件(リニア静岡版評価書)の場合、一連の事業計画の変更は補正評価書の確定以降に出てきた話ですので、事業者に再手続の義務はありません

また、付帯施設の変更は「法律で定められた以上の規模」に該当しません。リニアを含む鉄道事業の場合、列車の走る軌道部分にかかる一定規模以上の変更のみが、法律での再実施義務となります。ですからどのみち、JR東海にアセスをやり直す義務は、法律上はないと思われます。

しかしだからといって何もしないのはおかしな話でしょう。前回記事を重複しますが、
●改変を受ける場所が変更
●工事用車両の通行台数の場所ごとの変更
●工事の順序やスケジュールの変更
●工事用道路トンネルの位置・規模変更
  ・発生土量の変更
  ・トンネル頭上の沢・地下水への影響
  ・坑口における動植物や景観への影響
●環境保全措置としての工事用道路トンネルの妥当性
●燕沢に発生土を集約した場合の各種予測結果の変更
 ・生態系への影響(そもそも予測していない)
 ・環境保全措置の妥当性
 ・景観への影響(そもそも予測していない)
 ・周辺の崩壊地からの土砂流出へ与える影響(そもそも考慮していない)
 ・工事騒音の増大
 ・緑化計画の変更
●導水路トンネル建設による諸影響についてアセス未実施
 ・発生土量の増加
 ・坑口付近での生態系や景観への影響
 ・頭上の沢への影響
●導水路トンネル計画における論理破綻(⇒2015/6/14ブログ記事)
 ・建設目的が不明
 ・評価書における河川流量についての環境保全措置を否定
●事後調査計画の内容にも変更が生じうる

事業計画変更により、これらの項目が総じて変わります。ただでさえダメダメな評価書が、完全に不信のものとなるわけです。したがって事業認可の前提となった調査結果と環境保全措置、そして事後調査計画も、全面的に修正されねばおかしな話です。JR東海自身が修正不要だと考えている場合でも、その妥当性を確認せねばなりません。


環境影響評価法第1条では、環境影響評価の目的を次のように掲げています。長ったらしいし主語と述語の関係もわかりにくい、いかにも”法律用語”然とした読みにくい文章ですが、重要なので全文を引用します。 

この法律は、土地の形状の変更、工作物の新設等の事業を行う事業者がその事業の実施に当たりあらかじめ環境影響評価を行うことが環境の保全上極めて重要であることにかんがみ、環境影響評価について国等の責務を明らかにするとともに、規模が大きく環境影響の程度が著しいものとなるおそれがある事業について環境影響評価が適切かつ円滑に行われるための手続その他所要の事項を定め、その手続等によって行われた環境影響評価の結果をその事業に係る環境の保全のための措置その他のその事業の内容に関する決定に反映させるための措置をとること等により、その事業に係る環境の保全について適正な配慮がなされることを確保し、もって現在及び将来の国民の健康で文化的な生活の確保に資することを目的とする。 

JR東海が今年に入って行っていることは、赤く記した部分をそっくり否定することなんですよ。このままでは環境影響評価の目的を達成できないんです。


変更後の事業計画や環境保全措置については、公衆等による意見提出の機会が事実上失われているのですから、この点について事業者ならびに行政機関の考え方を確認する必要もあるでしょう。そもそも南アルプスユネスコエコパーク内での経済活動は、市民・事業者・行政との協働でおこなうとされていますし。


またJR東海は、他県の評価書においては、評価書段階までに計画を具体化できなかった施設については、配慮書への環境大臣意見に基づき、改めて調査()をおこなうとしています。これは発生土置場を念頭においたものですが、静岡県内における導水路も道路トンネル新案も、これに該当するはずです。
具体的な位置・規模等の計画を明らかにすることが困難な付帯施設に関する環境保全措置の内容をより詳細なものにするための調査 
9/8ブログ記事 



したがってJR東海が本当に南アルプスの環境保全を適切におこない、一般の人々や地元自治体との合意を得たいという意思をもっているのであれば、環境影響評価法第32条
事業者は、第27条の規定による公告を行った後に、対象事業実施区域及びその周囲の環境の状況の変化その他の特別の事情により、対象事業の実施において環境の保全上の適正な配慮をするために第14条第1項第5号又は第7号に掲げる事項を変更する必要があると認めるときは、当該変更後の対象事業について、更に第5条から第27条まで又は第11条から第27条までの規定の例による環境影響評価その他の手続を行うことができる。 

に基づき、環境影響評価手続きの再実施を行うべきだと思います。


工事用道路トンネル新案と評価書との整合性やいかに?

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JR東海が9月に入って表明した静岡市内での工事用道路トンネル新案について、評価書との整合性という観点から問題点を考えてみたいと思います。

計画の詳細は不明ですが、新聞報道によれば、西俣の斜坑(JR東海は非常口と自称)付近から、燕沢平坦地に向かって長さ4500mほどのトンネルを掘る計画だそうです。

①工事用道路トンネルの建設理由がさらに不明確となるのでは? 
工事用道路トンネルの建設目的は、普通に考えると本体トンネル工事にかかわる車両の通行のためと思えるのですが、JR東海の主張によると、必ずしもそうではないようです。

静岡編評価書の「8-4-1 動物」に対する環境保全措置(環境対策)には、次のような記載があります。
イメージ 1
図1 環境保全措置としてのトンネル建設
評価書より複製 

これに従うと建設目的は、「本体工事にともない地上の林道に大量の工事用車両を走らせると、付近に生息している猛きん類(ワシ・タカ類)の生態に悪影響を及ぼすおそれがあることから、トンネルを掘ってその中に通すことが対策として必要である。」ということです。

環境負担そのものであるトンネル建設を”環境保全措置”と位置付けていることに「?」を抱いておりましたが、本体工事による環境破壊の規模がケタ違いであるため、「大事の前の小事」といった意味合いでのみ成り立っている、無理のある論理です。

とにかくこの論理、非常に重要ですからご注意ください。繰り返しますが、工事用道路トンネルの建設目的は輸送力確保のためではなく、あくまで「猛きん類のための環境保全措置」なのです。

この主張に従うと、今般の計画変更について以下のような疑問が生じます。

イメージ 9
イメージ 2
図2 工事用道路トンネル新旧案対比
イ~ア~オが評価書確定時
このたびイ~カのあたりに変更する計画 


当初、工事用道路トンネルはイ~ア~オのルートで想定されていました。このトンネルが「猛きん類のための環境保全措置」であるのならば、この「イ~ア~オ」ルートの地上付近には猛きん類が生息しており、それへの影響回避であったはずになります。

ところがJR東海は、新しい工事用道路トンネルとして、西俣斜坑口(ウ)と燕沢平坦地(カ)とを直接結ぶルートを表明しました。

既存の林道はウから登山施設の二軒小屋ロッヂを経て「カ」に達しており、以前の案とは異なります。この地上部に猛きん類の生息域がかかっているかどうかは分かりません。

ですから新たな工事用道路トンネルについても、その建設目的として「猛きん類のための環境保全措置」を標榜するのであれば、二軒小屋ロッヂ付近にも猛禽類が生息しており、新トンネル建設はそれへの影響回避である旨をJR東海自らが説明しなければなりません。あるいは、もしも生息域にかかっていない場合には、環境保全措置としての建設理由はおろさねばなりません。

どちらのケースにせよ、改めて環境保全措置としての妥当性が維持されているのかどうか、評価書を更新したうえで説明する必要があると思われます。


②工事工程の大幅変更 

工事用の補助トンネルとはいえ、長さが4500mもあります。以前の案ではトンネルな長さは約3000mを想定していましたから、単純に考えれば、工事期間は1.5倍に延びます。補正評価書作成時の建設理由を引き継いだ場合、このトンネルは、あくまで本体工事にかかわる車両を通すための環境保全措置として造るわけですから、本体着工はその完成後にならなければなりません。

したがって工事工程は大幅にずれるはずです。

補正評価書の時点では、工事の工程は図3のように予測されていましたが、すでに意味をなさなくなっています。これに基づいて試算された工事用車両の通行台数も変更されるので、それによる騒音・振動の発生予測・対策も、変更されなければならないはずです。
イメージ 3
図3 工事工程表
評価書より複製・加筆 


図4が補正評価書における騒音についての予測結果です。
イメージ 4
図4 騒音予測について
評価書を複製 

上部の「オ)予測対象時期」も、「カ)予測条件」も変わる場合は、「キ)予測結果」も変わるはずです。具体的に必要となる環境保全措置も、再検討が必要となるかもしれません。

もしかしたら、騒音予測値はたいして変わらないのかもしれませんが、このような疑念が論理的に存在する以上は、それを払しょくするための再調査が求められるはずです。つまり、評価書の修正が必要になると思われます。

 
③工事用道路トンネル建設に伴う地上環境への影響が不明 
●坑口付近での改変 
図2におけるウ、イ地点付近を拡大したものを図5に掲げます。
イメージ 5
図5 西俣非常口(斜坑)付近の詳細
評価書関連図を複製・加筆 

旧計画での坑口は西俣左岸の標高1460m付近に想定されていました。図5において点線枠で示されているところです。ところが新案では西俣斜坑付近のどこかかから南へトンネルを掘ることになるので、入り口を反対岸に移すことになります。

また、新たなトンネルの南側坑口となる燕沢発生土置場付近でも大幅な工事計画の変更があります。図2でのカ付近を拡大したものを図6に示します。

評価書確定時では、大井川右岸(図6では左手)での改変行為は宿舎建設だけとしていましたが、新案では、新たに坑口および工事施工ヤードを設けることになります。

イメージ 6
図6 燕沢付近の詳細な図
評価書を複製・加筆 

ちなみに工事用道路トンネルの燕沢側出口が設けられる可能性のあるあたりの光景を図7に示します。このあたりの森林を伐採したうえで整地し、施工ヤードを設けるのでしょう。工事施工ヤードは、評価書によれば広さが100m四方程度で、コンクリートプラントや発生土の仮置場、濁水処理施設などを設ける計画となっています。

イメージ 8
図7 燕沢平坦地北側の大井川本流
2014年10月撮影 

評価書では重要な動植物に対し、「確認された場所は改変箇所から相当に離れた場所であったことから生息環境に変化は生じない」という評価結果を示し、具体的な環境保全措置は必要ないとしたものが多数ありました。図8に一例を添えておきます。
イメージ 7図8 「確認された場所は離れた地域だから影響は及ばない」とする例
この説明が今後も成立するのかどうか、きちんと記述内容を修正する必要がある。 

しかし改変予定地が大幅に変更されるとなると、この評価結果については無意味となります。したがって新案では評価結果はどうなるのか、それを改めて示す必要がありますし、変わらないと主張するなら、その根拠を示す必要があります。

●工事用道路トンネル頭上の沢 
新たなトンネル案ではいくつかの沢(JR東海が使用した関連図で河川記号の記された沢は7~8本)をくぐり抜けるため、その流量に影響を及ぼすかもしれません。

特に西俣側坑口を、対岸の同じ標高の場所へ移動させる場合は、坑口から150m程度の位置で悪沢を土被り50m未満でくぐりぬけることになります(図5参照)。この場合、悪沢の流量に与える影響が懸念されるところです。西俣斜坑近くの悪沢については、本体工事によって西俣の流れが減った場合の水の供給源・水生生物の避難場所となりうるので、その環境維持はきわめて大事であると考えられます。

補正評価書の段階では、本体トンネル掘削にともなる河川流量への影響を監視するとして、月一度の計測地点を8か所、常時計測地点を3か所設けるとしていました。しかしこの中に、工事用道路トンネルの建設による影響を受けそうな沢は含まれていません。悪沢とその他2支流について、わずか年2回の調査で済ますとしています。しかも環境影響評価法に基づかない自主的調査という位置づけです。

この事後調査計画で妥当なのか、水生生物への影響を事前に察知して有効な対策を施せる余裕があるのか、改めて検証する必要があるでしょう。



以上のように、道路トンネルの位置を変更するのであれば、評価書を構成している論理が崩れてしまうので、あらためて作成しなおす必要があると考えます。同じことが導水路トンネル、燕沢発生土置き場について言えます、

反対運動の根拠って?

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リニア計画に反対する住民グループが事業認可取り消しを求めて訴訟を起こすそうです。

その訴えの根拠はこちらに掲載されていますが、

リニア新幹線計画に反対し、着工の中止を求める共同アピール
<リニア新幹線沿線住民ネットワーク>
http://d.hatena.ne.jp/stoplinear/20151009/1444411057

リニア新幹線を考える東京・神奈川連絡会

どうも軽々に首肯できないでおります。というのも計画に反対するための根拠について、客観的な立場からの検証が十分にできていないように思われるからです。

【再検討が必要だと思われる点】

●民間事業と公共事業  
この基本的な概念を再確認したうえで、問題提起のあり方を整理することが重要だと思うけど、どうも見過ごされ続けているような気がしてならない。

北陸新幹線や北海道新幹線のような、いわゆる整備新幹線の場合、その事業推進には国と地方自治体が主体的に関わっている。国民・都道府県民・市民の代表が「公共の利益」のために事業を行っているのだから、「我々の代表者」の意思決定について「反対/賛成」を訴えるのは筋の通った話だと思う。

ところが、このリニア計画の意思決定権は、基本的には事業主体&経営主体であるJR東海がもつ。全国新幹線鉄道整備法によれば、事業者と国土交通大臣との協議で決まるとされているけれども、条文をみたところでは、国土交通大臣の地位は、単なる認可機関に過ぎないようである。

ここに、事業主体&経営主体は事業推進にあたって沿線自治体の意見を聴かねばならないという規定はないし、沿線住民の声を聞けという規定もない。沿線から離れたところに住む市民の声なんか、聞く必要もない。

というわけで、事業計画そのものについては、JR東海には住民の声なんて聴く必要なんてないのである。たぶん、法律上の義務もないんじゃないかと思う。公共性が高いとはいえ、民間事業であるリニア計画に反対する根拠はどこにあるのだろうか?

●リニアは不要不急? 
「反対」とは同様に、「リニアは不要」という主張も多いようである。個人的にも、特に災害リスクの高い南アルプスを通すことで、東海地震発生時のバイパス機能としての存在価値についてはきわめて強い疑問がある。

けれども必要性を判断するのはあくまで事業主体=JR東海なのだから、その意思決定に関われない立場から不要論を唱えるのは、何となく筋違いだと思う。

話の筋からいって、この手の主張は諸手を挙げて推進および誘致を図っている地方自治体に向けて発せられるべきだと思う。

●税金投入の「おそれ」 
とても9兆300億円で完成するとは思えないこの計画。自民党が3兆円を投入することを模索しているように税金投入が現実となる可能性は高いと思う。

これを「おそれ」ととらえるのは「反対派」の人々である。いっぽう関西圏の政財界では、税金をさっさと投入して大阪まで同時開業させろという意見が非常に強い。「おそれ」とは正反対の考え方である。

個人的には税金を投入してまで造ってほしくはないけれども、あくまで個人の考え方である。議論が一度も行われていない以上、税金を投入することを悪いことと断じて「おそれ」と表現できるのだろうか? 私にはそこまで言い切ってしまう勇気はない。

●”10年におよぶ大工事”で生活環境が…
新東名高速道路や中部横断自動車道の建設現場を何度か眺めていた経験からいえば、リニアの建設工事はけっして前代未聞ではない。単純に敷地幅ひとつとっても、新東名はリニアの2倍の規模である。「リニア以上の大工事」が許容範囲として既に完成している以上は、「新東名ならOKなのになぜリニア事業ではダメなのか」という点に答えを用意しない以上、規模の大きさを全面に出して批判の根拠とすることには無理があると思う。
イメージ 1
リニアと交差する中部横断道の工事中の光景
(静岡県静岡市清水区興津川橋梁)
山梨県西部からリニアと交差し、静岡県静岡市清水区とをつなぐ 

リニアよりはるかに巨大な構造物である、こういうものが存在している以上、これぐらいは山梨県民・静岡県民が「許容範囲」と認めているわけである。それでもリニア計画を批判するのであれば、これはOKでリニアはダメという論理を組み立てなければなるまい。 

●「速いけれども早く着かない」から利便性が悪い? 
2年ほど前に、あるジャーナリストの方がブログに書かれ、それがいくつかの雑誌で活字にされて以来、リニアに反対する根拠となっているようである。

東京駅から大阪へ向かう場合、大深度地下と地上・高架という非常に面倒な乗り換えを品川と名古屋とで2度繰り返すから、トータルの時間では大差ないというもの。
でもこれって、「東京駅起点で物事を考えた場合」なんだよなあ…。

確かに東京の業務中心地は大手町・日本橋・銀座あたりであるから、このあたりを出発地・目的地とするなら、東京駅が便利である。だから東京駅起点という考え方なのだろう。

けれども未来永劫大手町や日本橋が業務中心地であるとも言えないわけで、もしかしたらリニア開業後は品川にシフトするかもしれない。・・・っていうか、それを視界に入れた再開発事業が目白押しである。

それに、交通ターミナルとしては、もしかしたら品川の方が優位ではないか?という気もする。

新宿を起点・終点とするなら東京駅・品川駅どちらへも所要時間は大して変わらないし、渋谷だったら品川の方が近い。羽田空港なら品川のほうが近いし、京急、東急沿線からも品川の方が便利だと思う。千葉方面からも、東京駅での総武快速からの”大深度”地下から高架の新幹線への乗り換えを考えれば、もしかしたら品川での”地下同士”乗り換えのほうが便利かもしれない。

そういえば今年3月には宇都宮線・高崎線・常磐線の列車が品川まで直通運転することになったので、北関東方面との乗り換えでも、東京駅の優位性は下がっているような気がする。

この他の事項を含め、どうもリニア計画に懐疑的な立場の専門家やジャーナリストといった人々の意見については、その妥当性を検証することなく、そのまま受け入れてしまっている傾向が強いのではないかと思うところである。

◇   ◇   ◇   ◇   ◇

要するに、反対派グループの方々が反対の根拠としている主張は、どうもいろいろな考え方が可能なものばかりであるような気がするのである。そこから”都合のよい”解釈によって単一の答えだけを導き出し、反対の根拠としているので、推進している側と同様に、どうも説得力に欠けてしまうと感じる。

これまでに出されたアピール文を含め、常々感じているのだけど、同情を誘おうとか怒りをぶつけようといった情緒に頼る雰囲気が強く、推進している側や中立の立場から反論できないような内容とは程遠いような気がする。

裁判を起こすとなると、相手にぐうの音も出せなくさせるような精緻な論理を組み立てることが最も大切だと思うのだけど…。

◇   ◇   ◇   ◇   ◇ 

ところで事業者や行政機関のもつ義務に照らし合わせて、事業計画の再検討を要求するというのも、重要な手法である。っていうか環境問題の集中している南アルプスの静岡県側については、無人地帯が改変予定地域であるため、裁判を起こす資格のある住民が皆無であって差し止め訴訟は馴染まないと思う。 

このブログで「環境影響評価をやりなおせ」と連日指摘しているのはその一環である。

環境問題は、市民のもつ諸権利の侵害に該当する可能性があるし、そもそも諸法律においても環境保全の義務があるのだから、それに疑問がある場合に修正を要求するというのは筋が通った話であろう。それを実現するためのコミュニケーションが全く成立していないのなら、改善を促すのも筋の通った話であろう。だからこそ国土交通大臣意見においても、「住民の意見を尊重すること」なんて、わざわざ書かれているのである。

開発行為に関わる法律での諸認可過程において、認可を行う行政機関がきちんと機能しているか、道路や再開発など行政が主体となって行われる関連事業について、行政が行うべき環境保全義務を果たしているか、これらをチェックすることも重要であろう。行政が主体となる関連事業については、環境問題以外についても監査請求とか情報公開といった形で疑問を提起をすることも可能かもしれない。

ここに述べたことは「リニア計画の進め方の見直し」を要求しているのであって、リニア計画そのものへの「反対」を述べているわけではない。

けれどもやっぱりどう考えても、この計画にはあまりにも問題が多すぎる。だから、全体として実現不可能なんじゃないかと思う。例えば前回指摘した通り、評価書通りにマトモに環境保全を行えば、南アルプスでの工事を2027年までに終わらせるのは論理的に不可能になるのだから、この一点だけでも事業計画は大幅修正につながりうる。

こういった点を「問題」として行政や地域に認知させることが、単純に反対や不要論を叫ぶことよりもずっと大事なんじゃないかと思う。

骨は折れるし地味だけど、「塵も積もれば山となる」のだから。

大井川 JR東海の導水路案につきあう前に!

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大井川の流量が減少するという予測結果にかかわる問題について、ちょっと整理したい。

予測結果に対するJR東海の対応についての問題は、次のように整理されると思う。

①予測結果の公表方法についての問題
②予測結果の妥当性についての問題
③影響を受ける対象が不明確
④対策(環境保全措置)をとるべき対象が不明確
⑤環境保全措置の妥当性
⑥住民不在

①と②については、こちらをご覧いただきたいhttp://rdsig.yahoo.co.jp/blog/article/titlelink/RV=1/RU=aHR0cDovL2Jsb2dzLnlhaG9vLmNvLmpwL2ppZ2l1YThldXJhbzQvMTI4Njk2MzMuaHRtbA--

市や県の専門家会議、あるいは大井川下流域を中心とした地域でリニア計画に疑問をもつ人々のご懸念・議論を見ていると、①~④を素っ飛ばして、どうも⑤にとらわれているような気がしてならない。

例えば導水路案は有効なのか、導水路建設による環境への影響はいかがなものか。トンネル湧水を川に戻しても水質は保全されるのか、大規模施設を狭いトンネル内に設けることが可能なのか、といった具合である。

市民の水源を預かる行政機関としては、何よりも安定した水供給を最優先に考えなければならないから、そうした姿勢に偏るのは理解できるが、もっと自由な立場である一般市民、すなわち人間生活だけでなく自然環境に関わる問題として考える立場としては、もっと広く深く考えるべきだと思うのである。

もちろん、住民が環境保全措置の妥当性を検証することは重要である。けれども、妥当性を検証するためには、そもそも何のための環境保全措置なのか?というところを十分に整理しなければならない。上の③と④である。

環境保全措置とは、環境影響評価の結果に基づいて導き出されるものである。だからその妥当性を検証するためには、技術面や有効性より何よりも先に、環境影響評価書における論理構成上の妥当性を検証しなければならないのである。

後述するが、自ら作成した環境影響評価書の論理構成と、これまで地元に向けて行ってきた説明とを、JR東海自ら無視して出してきたのが導水路案である。アセス手続き中に話題にもしなかった大工事計画を事業認可後に表明したわけで、立派なルール違反である。

だから導水路案について考えるのであれば、技術面・環境面の議論はひとまず横に置き、なによりルール違反を追及せねばなるまい。つまり、これまでの説明との整合性を検証するのが必須というわけである。その作業を省いて導水路案を論ずることは、住民自らJR東海のルール違反に付き合うことを意味してしまう。それはすなわり、大井川の流量減少という問題を、南アルプス全体にかかわる大きな環境問題から、単に利水の問題に矮小化してしまうことに直結してしまうのである。

導水路は、おそらく水利権対策として出してきた案である。「とりあえず下流に水を流して流量の帳尻合わせをすれば、水利権の観点から問題提起される可能性は低い」とでも踏んだのであろう。あるいは国交省あたりから入れ知恵されたのかもしれない。


したがって導水路案の妥当性を論ずる前に、以下の4点を確認することが必要であると考える。

A 導水路案は評価書でいう環境保全措置に該当するのか?

B 保全する対象が曖昧である。

C 導水路自体が無用の自然破壊になるおそれを検討していない。

D 導水路を環境保全措置に位置付けた場合、評価書に記載された内容が大幅に否定されることになる。 

また、これらを追及することにより、環境影響評価書の作り直しを要求する道筋も開けると思うのである。影響を及ぼす範囲をJR東海に公式に再検討させることで、重大な環境破壊が生じた場合に権利侵害を及ぼしうる地域の再確認にもつながるかもしれない。



以下、7/13に書いたブログの再掲・要約である。

A 導水路案は評価書でいう環境保全措置に該当するのか?  
 導水路案は、トンネル工事によって大井川の流量が減少し、水利用に影響が出るケースに対処するために建設されるものと解釈されることから、評価書に記載された水資源に係る環境保全措置に該当するように見受けられる。今年4/14に県庁で開かれた中央新幹線環境保全連絡会議の場においても、JR東海はそのような説明をしている。

図1 導水路案の概要
自作およびJR東海ホームページより

しかし評価書に記載された環境保全措置の内容(図2)には、導水路を設置してトンネル湧水を放流し流量減少に対処するという案は示されていない。そのうえ、現在までに明らかにされている内容は、Dで後述の通り、評価書記載の環境保全措置を否定するものであることから、環境保全措置には該当しないとも解釈されるのである。
図2 環境保全措置の概要
評価書をコピー・加筆


 導水路案が、評価書でいう環境保全措置に該当しない場合は、環境影響評価法の上では施工上の都合で設けられる施設(例えば排水路)という位置づけになり、保全措置としての機能は副次的な扱いとなりかねない。解釈次第で、環境保全のための議論の方向性が左右されるおそれがあるため、この点は整理されるべきではないだろうか。


B 保全する対象が曖昧である。 
 評価書においては、各種の水利用、動物17種、生態系3種について、大井川水系の流量が減少した場合に与える影響を予測している。ところが予測結果において、導水路を必要とするような影響が生じるおそれがあるとは記述していないのである。したがって評価書を文章通り忠実に解釈すれば、導水路を環境保全措置として設置する必要はないことになる。保全対象が曖昧である以上、保全のあり方や有効性をめぐって、水を利用する側や環境保全を求める側とJR東海との間に、認識の齟齬が生じるのではないかと懸念されるところである。その内容についてみてみよう。

【水利用への環境保全措置ではない?】
 評価書においては、水資源にかかる影響評価対象とする地域は「トンネルの工事及び鉄道施設の存在に係る水資源への影響が生じるおそれがあると認められる地域」であると記述されている(図3)。



図3 水資源の調査地域
評価書をコピー

これを受け、JR東海が把握した「調査地域」における水利用の実態としては、水産用水、個人井戸(二軒小屋・椹島両ロッヂ)、発電用取水が挙げられている。一方、島田市など大井川中・下流域における上水道や農業用水等への利用については言及されていない。したがって評価書の上では、中・下流域は「水資源への影響が生じるおそれがあると認められる地域」に該当していないことになる。予測結果(省略)において、流量が減少した場合に水利用に与える影響例として、椹島・二軒小屋の井戸だけを対象とした見解が導かれていることや、法に基づく事後調査は「地下水を利用した水資源に与える影響の予測の不確実性」を理由として行うとしている(図4)ことも、この認識に基づくものと考えられる。


図4 事後調査計画
評価書をコピー・加筆


図4の赤線部をご覧いただきたい。地下水の利用(=井戸)には影響が出るかもしれないから事後調査を行うとしているが、河川水の利用への影響については一切言及していないのである。


このほか、調査地域内における水産用水や発電用取水に及ぼす影響については予測すら行われておらず、扱いが不明のままである。 

 つまり評価書の構成上では、「流量が減少した場合に影響が生じるおそれがある」とJR東海が認めている水利用とは、椹島や二軒小屋の井戸に限定されている可能性が高い。したがって導水路を水利用に係る環境保全措置として設けるのであれば、それは中・下流の水利用への保全措置ではなく、あくまで椹島ロッヂにおける井戸利用のみを保全対象として建設するものと解釈されてしまう(二軒小屋の井戸へも対応できない)。椹島ロッヂにおける水の使用量は不明であるが、水位が低下した場合に導水路を必要とするほどであるとは考えられず、導水路設置の根拠としては不自然である。
 
【動物・生態系への環境保全措置でもない?】
評価書「8-4 動物・植物・生態系」における、水生動物各種(重要な動物17種、生態系3種)に係る予測結果においては、「本種の生息環境である河川の一部で流量が減少すると予測されるものの、同質の環境が広く残されることから生息環境への影響は小さい」という表現が用いられ、流量が減少した場合における環境保全措置については言及されていない。一例を図5に掲げる。すなわち本評価書においては、流量が減少しても影響は小さいのであるから、動物・生態系への環境保全措置という面からも導水路を建設する必要性はないはずである。

図5 河川に生息する動物に対する予測結果(渓流魚のアマゴの例)
評価書をコピー・加筆


Ⅲ 導水路自体が無用の自然破壊になるおそれを検討していない。  
 そもそも、大井川の流量が大幅に減少するという試算は、あくまで予測であり、実際に減少するか否かは、トンネルが貫通するまで不明であるはずである。一方で導水路の建設は、発生土と工事車両の増加という環境負荷要因に直結するほか、頭上の沢の流量や本流の水質等への影響が懸念される。したがって導水路を早期に完成させたにもかかわらず、トンネル完成後にも流量が減少しなかった場合には、無用な自然破壊を増やすだけになってしまう

ところが、JR東海が導水路案の根拠とする「大井川水資源検討委員会」の議事概要・資料によれば、このようなおそれについては全く検討がなされていないようなのである。それにもかかわらず、早期着手が望ましいのだという。これでは、導水路建設が無用な自然破壊につながるおそれを排除できず、問題ではないか


D 導水路を環境保全措置に位置付けた場合、評価書に記載された内容が大幅に否定されることになる。   
 前項と重複するが、導水路の必要性は本坑の貫通まで不明であるはず。そもそも評価書における水資源についての環境保全措置は、「工事期間中はポンプ汲み上げにより流量は減少しない。この間に湧水の状況を監視しながら影響を見定め、適切な環境保全措置を選定する。」という方針(図6)を基本として環境影響評価手続きが終了し、その一環として事後調査が行われているはずである。

図6 環境保全措置の方針
評価書をコピー・加筆


ところが「第2回大井川水資源検討委員会」での審議結果(図7)のように、大量にトンネル湧水が発生することを見込んで早期に導水路建設に着手するのであれば、図6に示された内容が全面的に変更されることになってしまう。


図7 第2回水資源検討委員会議事概要のコピー
JR東海ホームページより 

ご覧のとおり、図7でオレンジの枠で囲った提言は、図6における評価書での環境保全措置の方針とは、全く異なる内容なのである。図7を新たな方針とするのであれば、評価書は否定されることになる。

次に、中・下流域における水利用へ保全措置に位置づけるのであれば、水資源に影響を及ぼすおそれのある地域が評価書作成時点よりも広範囲に及ぶことを、JR東側が認めることとなる。

あるいは、河川に生息する動物・生態系への対策とするのであれば、評価書に記した17種の動物および生態系3種についての予測結果と保全措置とを否定することになる。もう一度、図5のアマゴの項目をご覧いただきたい。影響は小さいのだから、その内容に従う限りでは導水路なんて無用のはずである。

ゆえに、評価書を変更せずに導水路を建設するのであれば、影響が生じないと結論付けられた懸案に対して大掛かりな施設を建設して対応することになり、書面の上では屋上屋を架すことになってしまう。

もしかするとJR東海や大井川水資源検討委員会としては、「万が一に備えて導水路を造っておいた方がよい」という考え方を持っているのかもしれない。それならば、導水路建設による環境負荷と、それによって得られる効果とを見比べて最善策かどうか検討しなければならないはずである。現段階では、Cで指摘したリスクすら検討していないのだから、未然防止策としては不適格であろう。

このほか、少なからず発生土置場の拡大、工事用車両の通行台数の増加、新たな施工ヤードの設置など、評価書における各種予測の前提も変わることになる。



以上のように、導水路を環境保全措置として位置付けた場合には、現在の評価書との間に大幅な矛盾が生のである、それを放置することは好ましくなく、評価書の修正が必要ではないかと思う。




南アルプスでの自然破壊は裁判制度になじまないと思うのだ

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リニア中央新幹線整備事業について、住民グループが差止を求めて行政訴訟を起こす予定なのだそうです。

それで沿線各地から原告の募集をしているようです。

しかしながら、果たしてリニア計画の問題を修正させるために、「訴訟」という手法が有効なのかどうか、どうも分からないのです。特に南アルプスの静岡県側では。

裁判所とは、法制度に照らし合わせて紛争を解決する機関であると認識しております。

それなら、法的な問題がなかったらどうなるのか…?
それ以前に訴訟なんて起こせるのか・・・?

以下、ドシロウトの戯言・杞憂と思ってお読みください。疑問に思われた点などございましたら、ぜひコメント欄へお願いします。

◇   ◇   ◇   ◇   ◇ 

●JR東海のやっていることはいろいろとメチャクチャであるが… 
このブログで常々書いている通り、JR東海の作成した環境影響評価書はデタラメだらけのシロモノです。こんなアホな評価書で事業認可した国土交通大臣の行為は、評価書の審査を適切におこなっていないから、その認可処分の取り消しを求める!それに山崩れの直下の河原を発生土で埋めってようというクレイジーな計画もある。こんなもの許されるはずもない!!

といった具合に、争点にしたいようなところは山ほどあります。

が、誰が原告となって訴えることができるのだろう・・・?

●原告適格の壁  
リニアの問題を調べているうえで気づいたのですが、裁判を起こすには、当事者適格の審査があるようです。「訴えられる側と訴える側、双方がその紛争の当事者たり得るか?」ということを審査するわけです。訴えられる側、つまり被告は全国新幹線鉄道整備法に基づいてJR東海に事業認可を下した国土交通大臣となります。あるいは森林法に基づく林地開発許可を取り消そうというのなら知事になります。

問題は原告の側。

リニアのルート上やその近傍、工事用車両の通行ルート、それから発生土置場や車両基地など関連施設予定地周辺に生活する関係者が、平穏な生活や経済活動を脅かされるとして取消しを求めて訴えを起こす場合、原告としての適格が認められる可能性があります。

しかし、最大級の自然破壊の起こる南アルプスの静岡県側の場合、この理論は通用しません。

なぜかというと、いくらメチャクチャに自然を大破壊しようと、土石流を起こそうと、「直接の権利侵害を受ける原告」が存在しないように思われるからです

ちょっと話題が変わりますが、一般的に、森林地域で開発を行うためには森林法に基づき、土地の改変についての許可が必要となります。この場合において「直接の権利侵害を受ける範囲」の捉え方が、訴訟を起こす原告適格の考え方として重要になると思われます。

過去に、岐阜県でのゴルフ場開発計画において、森林法の林地開発許可申請が出され、これに不服をもった近傍の住民から取消しを求めた裁判がありました。最高裁までもつれこんでおり、この際に最高裁の示した見解が重要であると思われます。

要旨を抜粋します。
周辺住民等の原告適格について、許可要件を定める法の規定(森林法第10条の2 第2項1号・1号の2)は、

①土砂の流出・崩壊・水害等の災害による被害が直接的に及ぶことが想定される近接地域の住民の生命・身体の安全等を個々人の個別的利益としても保護する趣旨を含むとして、生命・身体に対する被害想定地域内の住民に適格を認めた。
②これらの規定から、周辺住民の生命・身体の安全等の保護に加えて周辺土地の所有権等の財産権までを個々人の個別的利益として保護する趣旨は読み取れないとして、開発区域内とその周辺の立木所有者、開発区域の下流で取水して農業を営む者の適格を否定した。

【最三小判13年3月13日 判時1747号81頁】
越智敏弘(2015)「環境訴訟法」日本評論社 より
 

同書によれば、この見解は森林法の守備範囲を狭くとらえすぎているようにも見受けられるとされ、ややすっきりしない印象であったようです。とはいえ、法律の規定上はこのような解釈が可能であり、いったん最高裁によって示された以上は、その後も引き継がれているのでしょう。

で、この最高裁の見解に事業計画を照らし合わせてみると、どう考えても、一般市民に原告としての適格があるようには見えないのです。

以下、上記の原告適格の例を参照にして、南アルプス静岡県側における計画について考察してみます。

●発生土置場は”危険ではない”? 
JR東海は、大井川上流部の燕沢平坦地に360万立方メートルの発生土を積み上げ、大井川の河原を埋め立ててしまおうという計画をたてています。
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周囲は大規模な崩壊地で囲まれていますから、がこんなことを実行したら、周囲からの土石流をため込んで大井川本流をせき止めてしまい、湖を出現させたうえで大規模な土石流が発生するような事態が懸念されます。そのあたりは、このブログで何度も指摘してきたとおりです。

とてつもなくアホな計画です。

しかし、人命や財産に影響を及ぼす可能性のある「災害」は、おそらく起こりません

燕沢平坦地は無人地帯のど真ん中です。下流側で最寄りとなる井川集落までは30~40㎞あり、万が一に燕沢発生土置場が全量が流出しようと、井川集落に影響を及ぼす可能性はまずないでしょう。まして、下流の島田市民には無関係の問題ですし、流域ですらない静岡市街地の住民には全く関係がない。
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図 燕沢発生土置場候補地・畑薙第一ダム・井川集落との位置関係 

しかも井川集落の上流には畑薙第一ダムという巨大な発電用ダムが存在しているため、これで洪水流(あるいは土石流)を受け止めることが可能でしょう。畑薙第一ダムの貯水量は1億立米あり、発生土が流入したとしても、堆砂数年分程度に過ぎません。それに、仮に燕沢発生土置場が川をせき止め、湖を出現させようになっても、理論上は、東電の放水路を使って富士川流域に排水することが可能です。

大地震で畑薙第一ダムや東電の導水路が壊れ、なおかつ燕沢で土石流が生じたらどうなるんだ?という疑問を抱く方もおられるかもしれませんが、そこまで想定するのなら、リニアとは別問題となります。

したがって仮に発生土が大流出しても、”災害”にはなりえない。直接的な被害を受ける人間がいないのであれば、この視点より訴えを起こす資格をもつ住民は皆無であると思われるのです。

静岡市の安倍川源流で1707年に生じた「大谷崩れ」では、1億立方メートル以上という桁違いの土石流が生じましたが、この際でも流れ下った距離は10~15㎞であったとされています。

大量の水を含んだ場合は、もっと長距離を流れ下ることもあります。1847年に長野市付近で起きた善光寺地震では、地震動によって生じた地すべりが千曲川をせき止めて湖を出現させ、地震後20日たってから一気に流れ下り、高さ20mにもおよぶ津波のような超大洪水となり、流域の村々を消し去ってしまうという事態が起こりました。しかし燕沢の場合は、川の規模からみて、千曲川ほどの巨大土石流を起こすほどの水がたまることは考えにくいと思われます。水がたまりそうになったら、発電用水路で水を抜くことも原理上、可能です。

●自然環境破壊は裁判になじまない
南アルプスの生態系や景観の破壊はどうなるのだろう?と誰しも思うところです。

過去の裁判では、豊かな自然環境や景観を楽しむ権利を「自然享有権」とし、それが侵されるおそれがあるとして開発を差止めようとしたケースもいくつかあったようですが、今のところ全く認められていないようです。したがって地域外に居住する登山者や釣り人に、訴訟を起こす権利は存在しないと思われます。

自然保護を訴える側からみれば、「これだから日本の裁判所は…」と不満を述べたくなるところですけど、よくよく考えてみれば豊かな自然環境や景観を”楽しむ権利”というのは、そうした嗜好をもつ人々の間でしか通用しない考え方です。そんなものはどうでもいいから開発してしまえと思う人もいるわけで、どちらが正しいのかなんて、法律に照らし合わせて物事を審査することが目的とされる裁判制度にはなじまないのでしょう。

南アルプスの場合、これとて、「権利を侵害される人間がいない」という理由で、訴えが棄却されるのではないかと懸念されます。

自然環境の破壊によって法的権利を侵害される場合は、原告としての資格が認められる可能性があります。例えば海岸の埋め立ての場合、自然を破壊する行為が漁場の消失・水質悪化・生態系の破壊につながり、漁獲量の減少という被害に結びつく可能性があります。良好な景観を売りにしていた観光業者においても、ダメージを受けかねません。これは営業利益の侵害とされるそうです。

ところが南アルプスの場合、無人地帯なのだから、自然破壊にともなって収入に悪影響を受ける人は皆無であり、やはり原告となりうる人物はいません(地権者である特種製紙の場合は当事者たりえますが)

●「自然の権利訴訟」は門前払い 
前項に関係しますけど、自然破壊行為そのものを争点にしたいケースにおいて、アメリカなどでは、ぶっ壊されそうな山とか湖や、そこに生息する生き物といった自然物を原告とした裁判が成立した例があるようです。こうした訴訟を「自然の権利訴訟」と呼ぶそうです。

しかし日本では当事者能力がないと判断され、今までのところ、成立したことはないようです(アマミノクロウサギ裁判、ムツゴロウ裁判、オオヒシクイ裁判など)。”自然物”は、訴訟関係の諸法律で定められた諸規則に従うことができないのだから、原告に適さないといった判断がなされているようです。

というわけで、仮に南アルプスとかヤマトイワナとか悪沢岳を原告としても、裁判自体が門前払いになってしまうでしょう。

物言わぬ自然の声を代弁したい気持ちは心情のうえでは分かるけれども、”ゲゲゲの鬼太郎”や”もののけ姫”の世界ではなく、人間の世界での物事を扱うのが裁判所なのだから、しょうがない…。

●大井川の流量減少も裁判のネタにはなり得ない 
下流域の住民が「市民の飲み水がなくなってしまう!」と訴えることが認められる可能性ですけど、これもあり得ないでしょう。

今のところ、JR東海は「導水路トンネルを設けて下流に水を流す」としています。とりあえずは、この案により下流での流量は、とりあえずは維持されることになります。すると水利権の侵害は起こり得ません。住民から見れば水質が気になるところかもしれませんが、島田あたりより130㎞も上流でのことなので、取水地点に来るまでに希釈されて問題は物理的に起こりえないでしょう。そもそも、現状でさえ、島田市に流れている水は、水力発電用トンネルを何十㎞も流れ下ってきたものですから。。。


◇   ◇   ◇   ◇   ◇

裁判を起こせば、否が応でも注目度が高まる!という思惑もあるようですが、それは原告適格が認められた場合の話です。

以上のとおり、裁判の場では、自然破壊を直接的に問うことが困難であり、南アルプスにおいては法的な問題は発生していないという見解を示される可能性が高いと感じます。訴訟というかたちで厳密に法律解釈の場に持ち込んでしまうと、かえって実際に起こりうる自然破壊という問題が、論点から外されてしまうのではないでしょうか。

また、「南アルプスの保全を求めた訴えは却下された」と報道された場合の、世論の受け止め方もきになります。
そういう報道がなされたのなら、世論は

「南アルプスでの自然破壊は起こらない」
「住民はムチャな主張ばかりする」

という方向にたなびきかねません。リニア推進をうたったマスコミも、かような論調に傾倒するでしょう。「法的な問題は起きていない」というのと「自然破壊が起こらない」とは全く別問題であるわけですが、前者を強調するだけに終わるのでは非常に困ります。


法体系が自然環境の保全に十分に機能していないのが現状であるのなら、自然保護をめぐる議論の場は法廷の外においたほうがいいのではないのでしょうか?

すでに大井川流域での工事に事業着手?

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さる27日、山梨県早川町においてリニアの工事説明会が開かれた

(産経新聞記事)
平成39年に東京・品川-名古屋でリニア中央新幹線の開業を目指すJR東海は27日、工事10+ 件の概要や安全対策について、沿線住民向けの初めての説明会を山梨県早川町で実施した。
 JR東海によると、同町から静岡市北部を経て長野県南部に抜ける全長約25キロの南アルプストンネルのうち、約7・7キロ区間の山梨工区が同町を通る。ことし12月ごろに着工し、25年秋ごろの終了を目指す。
 この日、町民会館に集まった住民は約70人。工事で発生する土砂の置き場を同町内に設ける計画や、工事用車両の通行量が1日当たり最大で350台を超えると見積もっていることなどを説明した。
 同社は用地買収や工事の契約締結が済んだ工区から、ほかの自治体でも同様の説明会を行う。 

聞くところによると、なんでも地元関係者限定であり、報道関係はシャットアウトという状況なのだったそうな。

何をそんなにコソコソやらなければならないんだ?
聞かれちゃマズいことでもあるのかな?

それはともかく、物事の順序としておかしいのである。工事説明会とは、着工を決定事項とした工事の説明である。報道では、12月には用地整備などに取り掛かり、来年春にはトンネル掘削に取り掛かる方針ということであるが、発生土はどうするんだ? 

環境影響評価書によると、早川町内へは329万立方メートルの発生土が掘り出される。今回工事の説明対象となった南アルプス側からは232万立方メートルである。

このうち早川芦安連絡道路というJR東海&山梨県との協働事業の関連道路工事に160万立方メートルを使用する計画であるが、これについては、まだ環境調査すら行われておらず、事業開始は早くとも2年は先となる。

どーも、JR東海としては「山梨県の事業だからウチはあずかり知らぬ」という態度らしい。というころは、調査結果次第でルートや盛土量を減らすなんてことは十二分にありえる。そのような場合、早川町内へ掘り出した発生土は途端に行き場がなくなる。工事手順が変更されたり新たな仮置場が必要となるかもしれない。

それに残る70万立方メートル前後については、目途すらたっていないはずであろう。

発生土の行き場が別事業扱いであって未確定なのに、全量を処分可能という皮算用で着工を決めるとは、どういう了見なんだ? 



さて気になるのは、今回、説明会の対象となった山梨工区の長さである。記事では7.7㎞と書かれている。

また、今年8月に入札の開始された長野工区については、大鹿村釜沢の坑口から約8.4㎞だという。


早川の坑口から7.7㎞、釜沢から8、4㎞とはこの区間である。
イメージ 1
図1 工区の設定
静岡県編評価書を複製・加筆 

東からは、早川と大井川との分水嶺をくぐりぬけ、大井川流域に約1㎞入っていることになる。西からは、小渋川と大井川との分水嶺をくぐり抜け、大井川流域に1㎞弱入っていることになる。

したがって大井川流域をくぐりぬける部分約11㎞のうち、約2㎞は流域外から掘り出すことになる。静岡県側への説明は一切行われぬままに、静岡県部分での工事が開始されることになった

こういう進め方はおかしいのではあるまいか?


それに、これまでの説明との整合性も気にあるところである。JR東海は、評価書では次のようなことと述べていた。赤枠内に注目していただきたい。

イメージ 2
図2 水環境にかかる環境保全措置の方針
静岡県編評価書のコピー 



工事がどのような順序で進められるのか、現時点で全く見通しはたっていない。今の状況だと、よりトンネル標高の低い早川の方からサッサと掘り進め、大井川流域からの斜坑よりも先に大井川流域内へ到達する可能性がある。大井川流域内であっても、山梨工区で湧出した水は全て早川町へ、長野工区で湧出した水は全て大鹿村へ流れて行ってしまうはずである。その場合に万一大井川の流量に減少をきたしたとしても、大井川流域の地上とトンネルとはつながっていないのだから、地上に水を戻す方法はない。

イメージ 3
図3 流域と工区との関係
静岡県編評価書を複製・修正のうえ加筆
左が東、右が西となっているので注意していただきたい 


もっとも、大井川流域の地下に計画されているトンネル総延長のうち、流域外から掘るのは約14%である()。分水嶺直下は土被りが1000m以上と分厚い区間でもある。流域外への湧出が大井川の流量に与える影響は小さいかもしれないが、もしかしたら地上とつながる破砕帯をぶちぬくなどして想定外の影響がでるかもしれない。どうなるのか分からないのである。

※試算根拠
本坑…11000m、先進坑11000m、斜坑2本で6600m、合計28600m。
山梨・長野側から掘り進めるのは本坑・先進坑合わせて約4000m。
4000m÷28600m≒0.139
つまり約14% 

だから評価書赤枠内の想定は、論理的に成り立たない可能性があるわけだ。実際に環境への影響があるかどうかという問題以前に、評価書の論理がまたも崩壊してしまったのである。

この評価書、修正すべき理由がまた増えた。。。






南アルプスを守る・・・本当に裁判は有効なのか?

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冷や水をかけるのが趣味?と思われてしまうかもしれない。
疑問・批判等がございましたら、ぜひコメントしていただきたい。


リニア中央新幹線整備事業について差止訴訟を起こす予定らしいけれども、やっぱり、南アルプスを争点にしたがっているようなのだ。

10月30日 東京新聞記事のコピペ
訴訟を準備しているのは市民団体「リニア新幹線沿線住民ネットワーク」で、南アルプスを貫くトンネル工事などによる沿線の自然環境への影響について、JR東海がまとめた環境影響評価は不十分な内容だと主張。  
http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2015103001002064.html

この記事、静岡新聞でもそっくり同じものだったから、共同通信などから配信されたものかもしれない。

それはさておき、前々回指摘したように、南アルプスでの環境影響評価がメチャクチャであることは大問題である。けれども、それは事業認可を覆すような問題とは言い難く、しかも原告適格が皆無であるのだから裁判で問える性質ではないと思う。

残念ながら日本の法体系では、自然を謳歌する権利(自然享受権)は認められていないようである。したがって無人地帯の南アルプスにおける自然破壊は、どれほどメチャクチャであろうと誰も原告にはなり得ない。何かしら生物を絶滅させても、学術上重要な場所や美しい景観をぶっ壊しても、特別に法律や条令などで保全されている地域でない限り、それを第三者が差し止める法的な術はないようなのである。

(一例)
文化財保護法に基づいた史跡指定が解除されることになり、それに反対する研究者から差止めを求める訴訟が起きたことがある。けれども保全によって得られる利益は公益に吸収される(つまり公益より一段下と位置付けれられる)と判断され、そのうえ文化財保護法には研究者の権利を明文化していないという理由より、原告適格を否定され、訴えが退けられたということである。 

類似の「訴え退け」は枚挙にいとまがないようである。

ちょっと考えてみても、自然保護を目的として工事差止めを訴え、それが認めらたケースというのは思いつかない。長良川河口堰、アマミノクロウサギ裁判、諫早湾干拓、辺野古基地移設、圏央道高尾山トンネル、新石垣空港…みんな原告敗訴であったり訴えが退けられたりしている。

いっぽうで、自然破壊の懸念の強かった大型プロジェクトを中止・内容変更に至らしめた事例というと、裁判の手法に拠ったものが多いような気がする。愛知万博、千歳川放水路、藤前干潟埋め立て、北陸新幹線と中池見湿地、新石垣空港と白保サンゴ礁、小笠原空港計画、長野五輪会場変更…


いくつかの環境法関係の本を読み比べてみた観想であるが、自然環境を保全する手法としては、日本の裁判制度は全く機能していないというのが、大方の専門家の見解が一致しているらしいのである。

裁判所というのは、もとよりこういう場所、言ってみれば「事業者のホーム」なのだから、そこに持ち込んで争おうというのは、環境を守る術として適切なのかどうか、私には分からない。以前も触れたように、JR東海や国土交通省が、事業推進について法的な問題がないことをPRするだけの場に終わってしまうリスクもあると思う。

◇   ◇   ◇   ◇   ◇ 

J法律書をにらめっこしていううちに、R東海が南アルプスルートにこだわった最大の理由は、社会的トラブルを避けるためではないかと思うようになった。もしかしたら、所用時間や建設費の問題は二の次なのかもしれない。

中央新幹線のルートについては、JR東海は当初より南アルプス貫通ルートを主張していたが、期成同盟会が諏訪経由ルートを主張していたため、国土交通省中央新幹線小委員会においては”お義理”のような感じで木曾谷ルートを含めた3ルートを比較検討した。で、やはり予定通り南アルプスルートになったわけである。

諏訪湖ルートでも所要時間は数分しか変わらない。これだけの大プロジェクトであるから、数分の差で初期投資が回収できなくなるようなアホな試算はしていないはずである。いっぽう建設費は南アルートのほうが安いと試算されたものの、未知の事項(地質、環境保全コストなど)があまりにも多いし、南アの隆起速度や南海トラフ地震発生を考慮すると、維持コストだって未知数である。トータルの事業費予測は、はっきりいって未知数であると感ずる。

それにも関わらず南アルプスルートである。

こちらの場合、地元市町村さえ黙らせて着工してしまえば、上記のように第三者より文句を言われるおそれは低い。川の水を消そうが、発生土をそこらに捨てようが、希少種を絶滅させようが、誰かの権利侵害を侵すわけではないので法的な責任を問われる筋合いがない。これこそ最大の利点であろう。

南アルプスルートでの沿線人口は1万人にも満たず、裁判を起こせる原告適格のある人数は本当に少ないはずである。失礼を承知で書かせていただくと、物の数にも入らないと判断したに違いない。

そんな企業が一番おそれている、もしくは嫌がっているのは、裁判ではなく、逃げ隠れできない協議の場であると思う。マトモに理詰めで攻めていったら(?)、こんな事業は実現できないんだから。

◇   ◇   ◇   ◇   ◇ 

南アルプスのもつ自然環境について

1 恩恵
2 学術的に貴重
3 観光資源
4 土地を提供すれば金になる
5 邪魔な障害物
6 ゴミ捨て場

など、いろいろな解釈が可能であろう。価値観が多様であるのだから、どれが正論なのかは、簡単に結論を下すことができない。だからこそ議論の場が必要であると思うけど、議論の場として見た場合、裁判というシステムは機能不全であると思う。
自然保護が法廷で扱えない以上は、法廷以外の場で扱うべきである。その一つの場が、南アルプスユネスコエコパーク制度だと思う。

ユネスコエコパークという制度の基本理念は次のようなものである。

 生物圏保存地域(ユネスコエコパーク)とは、「UNESCOの『人間と生物圏(MAB)計画』の枠組に基づいて国際的に認定された陸上・沿岸・海洋生態系の区域、または、これら区域の集合体」をいう。保存地域の推薦は各国政府により行われ、各保存地域は、一連の最低基準を満たすとともに、ネットワークに加入するには一連の最低条件を遵守しなければならない。
 各生物権保存地域の機能は3項目存在しており、それぞれ相互補完的な機能を果たしている。具体的には、まず、遺伝資源、生物圏、生態系、景観を守るという「保全機能」があり、ついで、持続可能な経済発展・人材育成を促進するという「経済と社会の発展」機能があり、さらに、実証プロジェクト、環境教育・研修、保全や持続可能な成長の地域的、国内的、世界的問題に関する研究や実験を支援するという「学術的支援」機能がある
 

【生物圏保存地域 セビリア戦略と世界ネットワーク定款 2012.8.21 仮訳版 文部科学省ホームページより】

自然環境の保全と持続可能な利活用を目的として、南アルプスはユネスコエコパークに登録されたはずである。

そこで前代未聞の巨大開発が行われようとしているのだが、現状のように「事業者と行政だけで話を進めよう」っていうのは明らかにユネスコエコパーク制度の理念に反しているわけである。アンダーラインを引いた部分に基づき、地元の住民やNPO、関心のある利用者、専門家が参加した話し合いの場が当然設けられるべきであろう。

リニア計画を進めるJR東海や、南アルプス最大の地権者・特殊東海製紙の一方的な進め方に懸念があるのなら、是正させるための場として、協議の場の設置を行政に提案・要求するのも正論だと思うのだ。

けれども現段階において、山梨・長野・静岡3県ともに、住民参加型でユネスコエコパークの管理運営を話し合う場が設けられたという話も、設置を求める動きが行われているという話も聞かない。

自分のことを棚に上げてこんなことを言う資格はないと思うけれども、あえて言わせていただくと、リニア計画に異を唱えるのであれば、現行制度で何ができるのか、もっといろいろな手法を考えるべきだと思うのである。






最近、ヘンな姿勢を続けているせいか顎関節が痛いし肩こりもひどいし、パソコンの画面を眺めていると後頭部が痛くなってくる…というわけで更新が滞っています。

リニア反対グループはどうして情報発信しないのだろう?

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JR東海によるリニア建設事業の進め方や、問題点を放置したまま事業推進に猪突猛進となっている行政に疑問が募る一方です。先日は日刊建設工業新聞という業界紙にて、リニア着工を「30年来の夢の実現。町民こぞって歓迎!」とする早川町長のインタビューが掲載されていました。

そのいっぽう、早川町在住の方からは不安や反発の声が個人的に伝わってきており、町行政と町民との間で意識の乖離が生じているのではないかと思われるところです。

その一方で、リニア計画に対する反対運動のあり方にも疑問が募る一方です。

例えば…

静岡県でも複数の市民団体が結成されて反対運動を起こしており、事業中止を求めた訴訟を起こす計画だそうで、時折集会が開かれているようです。

ところがこの反対運動というものについて、残念ながら、実態が伝わってきません。どういう経緯なのか赤旗では取り上げられてはいるようですけど、地元の静岡新聞で取り上げられることはほとんどありません。それに、ホームページなどを設けてもいないようでして、自らの情報発信は積極的になされていないようです。

某SNSにおいては情報提供がなされているようですが、SNSの性格上、もとより顔を見知った仲間内でしか情報のやり取りがなされないでしょうから、積極的に仲間を増やそうという意思は弱いのかもしれません。つまり、ふつうの県民としては、何をしているのか知る術がほとんどないのです。

断片的な情報では、浜岡原発の廃炉や運転再開中止を求めて活動しているグループが、そのままリニア反対に移行しているようでもあります。他方、南アルプスの自然破壊が問題になっており、それを理由として反対運動を起こしているのにも関わらず、従前より動植物の調査・研究を行っている既存の団体やNPOとは、あまり交流がないようです。

静岡のグループは、昨2014年8月の、JR東海への事業認可前後から急に動き出したようですけど、それまでの環境影響評価手続きにおいて、彼らがどのような意思表明を行ってきたのかも、まったくわかりません。配慮書(2011年6月)や準備書(2013年9月)への意見提出という、”自然保護を訴える市民団体”として、一番強い関心を持たねばならぬ時期に何をやっていたのかわからないというのは、実に残念です。…というか、正直な印象として奇妙なんですけど。

いくら反対の声をあげても、何をやっているのか正確な情報を発信しない限りは、ふつうの人々にその行動が理解されないだろうと懸念しているところであります。


それに最近は、南アルプスの環境保全というよりも、安倍政権批判をリニア批判に結び付けようという論法が目立つようになっいるという印象も受けます。確かにまあJR東海の葛西名誉会長と安倍総理との関係は気になるところですし、そうした面からも考える必要があるかもしれません。けれども、これでは普通の人には近寄りがたいのではないでしょうか…? 

まして静岡においては、評価書の論理破たんなど具体的な問題点が明確になっているのに、そちらに目を向けずして、なぜ安倍批判を前面に出さねばならないのだろう…? 

当方のブログで、地元静岡の住民運動についてほとんど言及しないのは、こうした多くの疑問がぬぐえないためであります。



こんな調子でいいのかなあ…?




ご意見・ご批判はコメント欄へどうぞ 



温室効果ガス排出量

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ここのところ、夕方以降、肩~首~歯が痛くなる…というわけで、更新が滞っています。ガチガチに凝ってます。。。

えー、フランスのパリというと、まさに同時多発テロの衝撃的なニュース一色ですが、そのパリにおいて、今月30日からフランス・パリで、気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)および京都議定書第11回締約国会議(CMP11)が開催されます。

http://www.jccca.org/trend_world/conference_report/cop21/
こちらの情報については疎いのですが、2020年以降の、新しい温暖化対策の枠組みを話し合うことになっているようです。

さて、我らが日本政府は、温室効果ガスの排出量を、2030年までに2013年に比べて26%削減することを目標に掲げております。

というわけで、国の行う様々な事業についても、温室効果ガス排出量の削減が求められております。

最近、石炭火力発電所のアセスにおいて是正が求められるというニュースが相次ぎましたが、これもその一環というわけです。
内閣には地球温暖化対策推進本部なんていうものも設けられています。https://www.kantei.go.jp/jp/singi/ondanka/
その他、クールビズだのサマータイム制度だの、雀の涙のような(?)努力で、何とか削減目標をを達成しようとしているらしい。

しかしですねえ、その政府がリニア中央新幹線の整備計画を後押ししているわけです。電気バカ食いである超電導リニアの推進を国が後押しするってぇのは、温室効果ガス削減の点から見ると、なんだかミョーな話じゃないかと思うわけですよ。

例えば、平成10年に制定された地球温暖化対策の推進に関する法律ってのがあるんですが、これの第三条(国の責務)に反しているような気がします。

一部を抜粋しますね。
第三条   
2   国は、温室効果ガスの排出の抑制等のための施策を推進するとともに、温室効果ガスの排出の抑制等に関係のある施策について、当該施策の目的の達成との調和を図りつつ温室効果ガスの排出の抑制等が行われるよう配意するものとする。
3   国は、自らの事務及び事業に関し、温室効果ガスの排出の量の削減並びに吸収作用の保全及び強化のための措置を講ずるとともに、温室効果ガスの排出の抑制等のための地方公共団体の施策を支援し、及び事業者国民又はこれらの者の組織する民間の団体温室効果ガスの排出の抑制等に関して行う活動の促進を図るため、技術的な助言その他の措置を講ずるように努めるものとする。 

青く表示した部分に照らし合わせると、リニア推進ってヘンじゃないですか? まあ、「努めるものとする」という書き方なので、努力目標にすぎないって言えば、その通りなんだけど。

また、平成25年には交通政策基本法というものが平成25年に制定されましたけど、そこでは環境問題を念頭において次のような条文が設けられています。

(交通による環境への負荷の低減)
第四条   交通に関する施策の推進は、環境を健全で恵み豊かなものとして維持することが人間の健康で文化的な生活に欠くことのできないものであること及び交通が環境に与える影響に鑑み、将来にわたって、国民が健全で恵み豊かな環境の恵沢を享受することができるよう、交通による環境への負荷の低減が図られることを旨として行われなければならない。 

ここで定められた国の責務を放棄しとるんじゃないのでしょうか?

電気バカ食い
=温室効果ガス大量排出 

である超電導リニアは、やっぱ、政策として推進しちゃマズいんじゃないのかな?

「超電導リニアによる中央新幹線の実現」というのは、東海道新幹線からの乗客シフトを前提として成り立っている計画です。その東海道新幹線に比して一人当たりの二酸化炭素排出量は、環境影響評価書によると約4,1倍としています。もっと一人当たり排出量の多い航空便からの乗客シフトがあるとはいえ、それは全乗客数の1割しか見込んでいない。

そんなわけで、もしもリニアが大阪まで開業すると、東京~大阪間における全旅客輸送にともなう二酸化炭素排出量は、現在よりも1割増えるという試算になっています。
イメージ 1
環境影響評価書より複製 

リニア推進すべし!という方々の主張を見ると、「より排出量の多い航空機よりは環境にやさしい」という論調で書かれていることがありますが、これはJR東海自身が否定しているわけです。

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期成同盟会ホームページより複製

例えば期成同盟会のページにはこんなことが書いてあるけれども、こんなのはデタラメなんですよ。子供向けページとはいえ、子供だましにもなっとらんわけです。こんなもん、堂々と掲げて恥ずかしくないのかい? 

この理屈で推進するのなら、航空機が大半のシェアをもっている地域でなければ成り立たないし、それと同時に、温室効果ガス排出以外の環境破壊にも目をむけ、削減のための手法として妥当かどうかも検証しなければならないはずです。

さて、この評価書について環境省は「これほどのエネルギー需要が増大することは看過できない」としました。しかしながら国土交通省は認可し、その後は国の成長戦略に位置付けられるようになります。

つまりは、2030年までの温室効果ガス排出量を26%削減させるのが国全体の目標であるはずなのに、日本の大動脈における二酸化炭素排出量は現状の10%増しを容認し、それどころか政府一丸となって後押ししていることになります。

発電のために温室効果ガスを出す側について厳しい姿勢をとるのは理解できますが、エネルギー(電気)を使う側についてはどうでもいいってのは、なんだかおかしくないのかなあ?



…時々、国会においてリニア計画推進上の問題点について話題になることがあるる。けれども、「JR東海は住民の声を聞いていない」とか、「説明会の方法が悪い」とか、枝葉末節的な話ばかりのようである。

そういう具体的な問題は国会ではなく地方議会のレベルで扱うべきであると思う。国会というのは国政を議論する場であるのだから、政策としてみたリニア計画の問題点を話し合うべきなんじゃないのだろうか? 

国として温室効果ガス削減をうたいながら、その目標と著しく乖離した交通政策を推進していることの矛盾点を追及してもらいたいところである。

なぜリニア反対は”左翼”なのか?

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半年に1度程度という頻度で、「黙れ、左翼!」といったコメントが寄せられることがあります。何だか知らないけれども、リニア計画に疑問を呈することは「左翼」なのらしいです。

ところで”左翼”って何なのでしょう?

手元にある新明解国語辞典によると
〔左の翼の意〕右翼の反対
①軍隊・艦隊・座席などの左端(に並んだもの)。
②〔フランス革命時〕、フランス国民議会で、急進派のジャコバン党が議長席から見て左側の堰を占めたことから〕急進的・革命的な思考傾向(の団体や分子)。
③〔野球で〕本塁から見て外野の左方(を守備する選手)。レフト。
となっております。 

たぶん、①と③は全く関係がないでしょう。残る②についても、どうしてリニア計画に疑問を呈することが「急進的・革命的な思考傾向」に該当するのか、さっぱりわかりません。

っていうか、リニア計画は日本の交通体系やら経済圏やら人の移動を一変させる一大事業なのだから、あからさまに急進的であり、それを推進させるべしという考え方こそ、私としてはまさしく「左翼的思考」なのだと思うのであります。同時に私なんぞ、「そんなに世の中を急激に変えてどーする?」という思考回路であるので、きわめて保守的です。保守的というのは”右翼”なのではないでしょうか?



何となく思い付きで書きます。

当方の勝手な妄想をお許し願えれば、開発行為に対してなんとな~く、日本国内では

環境保護を訴える=左翼
開発を優先=右翼

という分類パターンが蔓延しているんじゃないかと思う。けれども、これは言葉の意味合いからみて誤っているわけである。

ちょっと考えてみていただきたい。

左翼的な思考=自然保護や環境保全に好意的かというと、そんなことは全く当てはまらない。逆に「右翼」「保守」を自称していれば騒音や大気汚染への耐性ができるかというと、たぶんありえない。

そもそも左翼思考が行き着く社会主義においては、個人の価値観やら伝統的な風習などはことごとく否定され、全ては政府の”科学的な判断”によって統制されることになる。その判断がデタラメな場合、取り返しのつかない大失敗を引き起こしうるわけなのだ。だから左翼的思考を突き詰めることは怖いと思う。

世界第二位のアラル海を消滅させるという巨大な自然破壊を引き起こしたのは、旧ソ連が打ち立てた自然改造計画の結果であるし、チェルノブイリ原発の大事故なんて言及するまでもあるまい。毛沢東時代の中国では「農業はターチンに学べ」の掛け声のもと、黄土平原を一面段々畑に開墾させ、その結果、ムチャクチャな土壌流出を招く結果となったりしている。ソ連崩壊後、原子力潜水艦を日本海に沈めていたなんて話もあった。

他方、日本において近代的な自然保護制度を進めてきたのは、”左翼的思考”かというと、けっしてそんなことはない。例えば史跡名勝天然記念物制度というものがあるけど、これなんかは明治維新後、欧米の価値観の導入によって急激に失われつつあった旧跡や城、それから銘木や景勝地を守るために設けられたものである。当時は、旧幕時代の御留め山や、飛砂防止のための松原などを、二束三文で薪に売り払ってしまったりする話が横行していたのである。

「近代的(=西洋的)な価値観から伝統的な風景を守るべき」という、保守的な考え方が根底にあったわけである。といって何でもかんでも保守的=右翼的思考でいいかというと、もちろん、そんなことはあるまい。

人類の歴史は自然破壊の歴史でもある。西アジアから地中海に広がっていた森林は、ローマ帝国時代にはあらかた消失して現在のような岩だらけの景観に移行していたという。

日本に目を転じると、稲作の普及とともに原生林は姿を消してゆき、二次林つまり今でいう里山のような景観が広がっていった。仏教の伝来にともなう社寺仏閣の造成、都の造成、たたら製鉄などによって森林破壊は急激に進み、土壌流出および洪水や干ばつが頻発することとなる。そのため平安時代初期の大同元年(806年)には、山城国において伐採禁止令が出されるが、これこそ世界最古の自然保護法ともよばれる。

時代は下って江戸時代になると、木曽五木の資源保護を目的とした尾張藩のように、「木を切ったら打ち首」といった、極めて厳しい制度をしく地域も出てきた。この時代、信仰に根差して動物を大切にし、山岳地域などを神域として手を付けない価値観も、まだまだ強かったわけである。

かように、日本人が自然を保護するために受け継がれてきた価値観や社会の仕組みを一変させたのが、まさに”文明開化”=”西洋的価値観の導入”であったわけである。どっちかというと、先進的な考え方の導入によって環境破壊が進んでいったように思える。戦後の急激な自然破壊や公害についても、科学や技術という新しい価値観が根底にあるのだから、やっぱり新しい物好き=左翼的思考が根底にあるといえるだろう。

じゃあ、なぜ「自然保護を訴える=左翼」という考え方が敷衍しているのだろう?と思うところだけど、これは多分、保守を自称する自民党が自然破壊やら公害をまき散らす企業と癒着していること、それに対峙する社会党やら共産党が、1970年代の反公害闘争や自然保護運動にくっついてしまったことが原因なのだろう。1970年代というと、成田空港紛争やら大学紛争やら、その後に生を受けた者としては、対立の仕組みのよく分からない揉め事が頻発していた時代でもある。

これら、あらゆるタイプの大衆運動をひっくるめて「左翼」と一括りする考え方が浸透してしまい、今に引き続いて日本の特殊な状況を生み出したのではあるまいか? 

この図式は日本の自然保護や環境保全政策にとって、きわめて不幸なことだと思う。不毛なイデオロギー対立に移行し、肝心の環境保全を議論することができなくなっちゃっているからである。この点、欧米と日本との間で続く不毛なクジラ・イルカ論争に似ている。

こういう不問な対立から、どうやったら脱出できるのだろう?

実際、リニアの反対運動をのぞいてみても、やっぱり共産党がどーたらこーたらとか、〇×労働組合とか、そういう言葉が目についてしまう。不毛な対立が、ここも引き継がれている。

…当方としては、くだらん対立なんかどうでもいいのだけど。





グダグダ書いてきたけど、リニア計画の進め方は、どーも旧社会主義国っぽい。旧ソ連の自然改造計画を彷彿させてしまうのだ。

山梨実験線環境調査報告書を見たい!

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山梨県庁の県民情報センターに保管されている山梨実験線環境影響調査報告書というものを見たい
 

リニアにおける環境への影響を気にするのであれば、これを検証することが不可欠だと思います。

例えば水環境に関する問題。実験線のトンネル建設にともない、笛吹市や上野原市の複数の箇所で沢や井戸が枯渇する事態となっているようです。この実験線建設に先立ち、環境への影響を見定めるためとして作成されたものが、山梨実験線環境影響調査報告書にあたります。

これは法律や条令などの制度内で作成された正式な環境アセスメント文書ではなく、おそらくは自主的に作成されたものと推察します。その報告書において、トンネル掘削にともなってどのような影響が生じると予測し、どのような対策ととるとしていたのか? それを検証することは、リニア計画の今後を占うための極めて重要な作業だと思います。

正式なアセス文書ではないためか、山梨県の公立図書館には納められおらず、各地のリニア説明会においては、山梨県庁にあるとかJR東海が所有しているとか、当事者でさえどこにあるのかも分からない状況だったようですが、山梨県庁が保管していて、手続きを踏めば公開されるようなんです。


⇒山梨県 県民情報センターのページ
リンク先の「行政資料目録検索」にある「M 環境」というところをクリックすると、PDFファイルが表示され、そこには次のように掲載されています。
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山梨県県民情報公開センターのページより複製 

そう。ちゃんと山梨県庁に置いてあるんですよ!!





【補足説明】 

じつは以前、当方のブログにおいて「品川~名古屋間286㎞のおよそ15%はアセス適用外?」として、山梨実験線環境影響調査報告書の情報提供を呼びかけたことがあります。

最近、リニア計画の問題点を取材しているジャーナリストの樫田氏のブログにおいて、この話題が取り上げられていましたので、改めて思い出したという次第です。


この山梨実験線環境影響調査報告書というものは、同実験線建設に先立ち、環境への影響を調べるとして、平成2年(1990年)に

〇財団法人鉄道総合技術研究所(鉄道総研)
〇東海旅客鉄道株式会社(JR東海)
〇独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構(鉄建機構)の3者共同で作成されたもののようです。

ご承知の通り、山梨実験線42.8㎞区間は、現在そのまま中央新幹線の路線の一部に組み込まれています。品川~名古屋間286㎞のおよそ15%に相当します。

現在、環境影響評価手続きは、特に規模の大きい事業については法律にしたがって、それより規模の小さい事業については各都道府県の条例に従って進められることになっています。対象となる事業の種類は、法律や条令によってあらかじめ定められています。

中央新幹線整備事業については、2011年から2014年にかけて、環境影響評価法に従って中央新幹線の環境影響評価が行われ、建設工事・施設の存在・列車の走行にともなう環境への影響が予測されることとなりました。ところが山梨実験線区間は既存の実験線をそのまま営業路線に転用することとなったため、建設工事および施設の存在による環境への影響については取り扱われておりません。

環境影響評価制度と山梨実験線の沿革について、ちょっと確認してみます。

1973(昭和48)年 全国新幹線鉄道整備法に基づく基本計画路線として中央新幹線が選定される。
1979(昭和54)年 整備5新幹線に関する環境アセスメントの運輸大臣通達(準備書段階から)
1984(昭和59)年 国が関与する大規模事業を対象にアセスメントを行うことを閣議決定(閣議アセスメントとよばれる)。
1987(昭和61)年 国鉄民営化。リニア研究は財団法人鉄道総合技術研究所(鉄道総研)が継承。
1990(平成2)年 鉄道総研・東海旅客鉄道株式会社(JR東海)・独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構(鉄建機構)が「山梨実験線環境影響調査報告書」を作成。山梨リニア実験線着工。
同年        山梨県環境影響評価等指導要綱が公布
1997(平成9)年 3月山梨リニア実験線先行区間18.4㎞完成、走行実験開始。
同年         環境影響評価法(以下アセス法)成立。
1998(平成10)年 6/12 アセス法施行。技術指針等を定める主務省令(鉄道)制定。アセスメントのマニュアル。
2000(平成12)年 JR東海、鉄道総合技術研究所、鉄建機構に対し、地形・地質等の調査を指示。
2007(平成19)年 1月 山梨リニア実験線の延伸工事開始。JR東海が中央新幹線構想を発表。
2009(平成21)年 1月 「山梨実験線の建設計画」の変更について国土交通大臣の承認。
2011(平成23)年 5月 超伝導リニア方式による中央新幹線の建設指示。6月中央新幹線(東京・名古屋間)について環境影響評価開始。
2013(平成25)年 8月 山梨実験線完成。試験運転の再開。
 

山梨実験線は、結果的に営業路線に組み込まれることになったものの、建設時はあくまで実験施設の扱いでした。旅客輸送を目的とした新幹線鉄道の建設ではないため、1984年閣議決定の閣議アセスメントの対象にはなっておりません。またその後の延伸工事においても、やはり実験施設であったため環境影響評価法や県条例の適用も受けておりません。

よく分からないままに”環境調査報告書”が作成され、実験線が完成し、結果としてあちこちで水源を破壊してしまった。。。この水枯れについては、現在の評価書資料編には、次のように「あらかじめ予測していた」と書かれています。ところが具体的にどのような対策をとるつもりでいたのか、生態系への影響はどのように見込んでいたのか、地元にはどのように説明して合意を得たのか、何よりなぜ防げなかったのか、そういったことが全く分かりません。特に①や⑧は、2007年以降の延伸工事にともなって生じた事例です。現在の建設技術でも防げなかったわけですよ。


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評価書より複製・加筆 


このように、よく分からないままに作成された「アセスもどき」が、果たして環境保全に十分なものだといえるのか、改めて検証する必要があると思います。 



大井川導水路案 なんかオカシイら~?

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大井川の河川流量がリニアのトンネル工事で減るという予測がアセスで示され、問題となっています。それについて昨日(11/30)、静岡県庁にて開かれた中央新幹線環境保全連絡会議で、JR東海がトンネルと大井川とを結ぶ導水路案を提示したそうです。

とりあえず、この計画の位置関係を示します。

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資料1 南アルプスの位置 
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資料2 導水路ルート案とその効果?
第4回大井川水資源検討委員会資料を複製  

トンネルの標高1150m付近から南にトンネルを分岐させ、11㎞ほど下流で大井川本流に接続させ、トンネル内に出てきた湧水を流そうという構想です。、

この導水路案、JR東海が自主的に設けた大井川水資源検討委員会なる”有識者会議”にて決定されたものです。大井川水資源検討委員会という名称からみて、水資源対策という位置づけなのでしょうけど、これまでの説明や環境影響評価手続きの流れから見ると、実に奇妙な話なのです。

「水を流してくれるのなら一件落着」ってわけにゃいかんのですよ。

「トンネルの建設によって大井川の流量が減少するかもしれない」という懸念に対し、地元の自治体や住民などからの意見を受けて、「わが社はこういう対策をとります」という方針を記したものが環境影響評価書です。そして環境影響評価法により、その評価書が事業認可を受けるために必要な図書とされています。つまり地元自治体、国、そして住民に対して事業者の環境対策を公約したものになります。

導水路案というのは、それをあっさりと否定しているような気がするのですよ。言い換えれば環境影響評価手続き自体を否定していることにもなってしまいます。

というわけで、環境影響評価書との整合性を検証すると、次のような疑問が生じるのであります。


【疑問1】 
環境影響評価書においては、導水路案について河川環境各項目()に関わる環境保全措置の手法としては全く言及していない。したがってこのほどの導水路案が、環境保全措置に該当するのかどうか不明である。
)水資源 、地下水位、動物・植物・生態系、人と自然との触れ合い活動の場、景観 

【疑問2】 
評価書においては、同書に記載された範囲の環境保全措置を実施することによって、河川環境各項目への影響は回避できるとしている(資料3を参照)。したがって、導水路を建設する根拠は評価書には示されていない。それにもかかわらず導水路が必要であると主張するのであれば、
A 評価書に記載された環境保全措置では回避できない環境への影響が生じることを、JR東海が認めた?
B 環境保全措置ではなく建設工事のために必要。つまり導水路ではなく湧水処理のための排水路という位置づけ?
 
ということになる。Aなら評価書の否定だし、Bなら単なる工事規模の拡大に他ならない

【疑問3】  
 評価書においては、同書に記載された範囲の環境保全措置を実施することによって河川環境各項目への影響は回避できるとし、そのうえで流量の観測を行い、水利用に影響が生じた場合には、新たな案を検討するという方針が示されている。事後的な対応が可能という見解である(資料3参照)。
 いっぽう大井川水資源対策検討委員会においては、工事中の湧水も導水路によって排水すべきという方向で議論が進められてきた。つまり本坑の完成に先立って導水路を建設する方針である。事前に導水路を造ってしまえという見解である。
 このように、大井川水資源対策検討委員会で示された案は、評価書の案を否定するものである。

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資料3 静岡編 環境影響評価書より複製・加筆 



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資料4 JR東海HPより第2回大井川水資源対策検討委員会 議事概要を複製・加筆 



【疑問4】 
また、評価書の記述に従えば、同署に記載された範囲の環境保全措置を実施することによって河川流量への影響を回避できることも想定されていることとになる。
 導水路は、長さ11㎞以上のトンネルを新たに掘るというものである。新たに発生土が10~20万立方メートル増加するし、ダンプカーの通行台数だって増える。頭上の枝沢を涸らしてしまうかもしれない。けれども、余計な環境負荷をかけておいて、造ってみたけど不要な施設であったらシャレにならない。
 要するに、未然防止のための措置としては、余計な環境負荷を増やすリスクが大きいと思う。大井川水資源対策検討委員会の資料を見た限りでは、そのリスクについての評価がなされていない。

【疑問5】
仮に導水路で大井川にトンネル湧水を自然流下させたとしても、そこより上流は流量が戻らない。アセスでの予想範囲内だけでも、その区間は15㎞に及ぶ(資料2参照)。特に西俣取水堰~東俣合流点の約7㎞は激減したままとなる。この区間で生物に影響た生じた場合、JR東海は移植で対応をとる方針を示しているが、どこまで、どの種類の、どれだけの数に影響が生じうるのか全く調査していない段階では、その妥当性を検証することすらできない。適切な移植先が見つかるかどうかも分からない。
下の写真のような渓谷美が失われたとしても、導水路案では対策にならないのである。
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資料5 導水路頭上(二軒小屋非常口下流)の大井川 
2014年10月に撮影されたもの 

【疑問6】 
仮に導水路で大井川にトンネル湧水を戻しても、自然流下できるのは減少分2㎥/sのうち約1.3㎥/sであり、残る0.7㎥/sはポンプで汲み上げることが必要であるという。
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資料6 第4回大井川水資源検討委員会資料 
このポンプくみ上げには、少なく見積もっても1000kWのエネルギーが必要である。

水の密度×重力加速度×くみ上げる流量×くみ上げる高さ
1000㎏/㎥×(9.82m/s^-2)×0.7㎥/s×150m=1000kW
実際には摩擦による損失があるので、必要なエネルギーは3割ぐらい多いらしい。  

また、本日の静岡新聞記事によれば、場合によっては斜坑にまで揚水することも検討しているのだという。その場合、必要なエネルギーは2倍となる。大井川源流部の二軒小屋水力発電所の常時出力(2100kw)に相当してしまう。

南アルプスユネスコエコパーク移行地域内において、多くのエネルギーを用い、人工的な動力源によって河川環境を維持することは、移行地域における開発行為に資して求められる条件「自然資源の持続的な利活用」に該当するのか、甚だしく疑問である。



細かく見てゆけば他にもツッコミどころがありますが、キリがないのでここらへんでやめておきます。

確かに水資源対策という視点では有効なのかもしれませんが、いずれにせよ、環境影響評価書の変更が必要ではないかと思います。

南アルプス巨大残土置き場はこんな感じなのかな? ―勝手な想像図―

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静岡県内に掘り出す発生土を、南アルプス山中に置き去りにするという報道が静岡新聞においてなされたのは、2013年9月6日のことでした。http://park.geocities.jp/jigiua8eurao4/SouthAlps/Shizuoka-news/2013.9.6.jpg

環境影響評価手続きで準備書の公表される前のことです。

準備書は9月18日に公表。そこではじめて、県内には360万立方メートルの発生土が掘り出されること、そして発生土置場候補地として、後にJR東海自ら回避することになる燕沢源頭を含め、7地点を計画していることが示されていました。しかし、どこにどれぐらいの発生土を処分する方針なのか、それぞれの受け入れ容量をどの程度と見込んでいるのか、それぞれの箇所においてどのような環境への負荷が生じ。環境保全措置を検討しているのか、具体的なことは全く明らかにされぬままでした。

というわけで、環境影響評価とは名ばかりで、結局、具体的な環境保全措置は示されることなく、懸念ばかりが残ったまま終了し、事業認可となりました。

その後、事業認可を受けて1年経ってから「扇沢発生土置場をやめて発生土は全て燕沢平坦地に集約する」という話が出てきました。新聞報道によれば、長さ1000m、最大高さ50mという、途方もなく巨大な規模を想定しているとのこと。で、このほど11月30日の中央新幹線環境保全連絡会議の場において、県にその案が示されたということです。

360万立方メートル全てを一か所に集約する?
どういうつもりなんだ?
どういう状況になるんだ?

360万立方メートルの盛土というのは相当な規模になります。環境への影響は甚大であると想像されますが、しかし例によって、具体的な情報は全く示されておりません。

そこで、「長さ1000m高さ50m」という情報をもとに、試行錯誤を繰り返し、地図上で想像図を描いてみました。専用のソフトがあれば、簡単に数字を出すことができると思いますが、そんなものは持っていないので全て手作業です…。

まず、とりあえずは位置関係から。

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図1 南アルプス横断トンネル 

図1の中央やや右手に二軒小屋とあり、その左下に緑で塗った地点が、問題となっている燕沢平坦地です。西に標高3161mの荒川岳(悪沢岳)がそびえています。二軒小屋をはさんで斜坑が2地点設けられ、そこから掘り出された発生土が、全て燕沢平坦地に向かうことになります。

その燕沢付近の詳細な地形図はこちら。

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図2 燕沢平坦地の地形図
環境影響評価書より複製・加筆 


で、盛土をすると、こんな感じになるんじゃないかと。





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図3 燕沢発生土置場想像図 

燕沢付近はやや広い谷になっておりますが、
●その谷底の半分を埋める
●盛土長さ1000m
●大井川に接する部分には最大高さ10mの垂直な擁壁を築く
●擁壁より上側には法勾配30度で盛る
●平坦地の中ほどには左岸(図右手)より土石流の頻発する沢が流入しているので、その沢の部分は埋めずに残す。

この条件で積み上げてゆくと、谷底から50~60m積み上げていったところで、ちょうど360万立方メートル程度の容積が確保できます。沢を挟んで南側半分は、標高1275~1285mを基盤として上面は1320~1330mに、北側半分は、1285~1315mを基盤として1340mにまで積み上げると想定しています。真上から見た面積は約19万平方メートルとなりました。

なお、図の右上から左下に延びている灰色の太い線は林道東俣線です。これは分厚い盛土の下になりそうですので、付け替えが必要となるでしょう。大井川本流の直線化工事も必要となるかもしれません。

盛土の基底部分の幅を少々広げれば(川の方に前進させれば)、高さは10m程度低くなるかしれません。また、沢の部分を暗渠にしてしまえば、全体の容積を小さくできると思います(土石流が詰まるけど)。それでも大きな違いはないでしょう。っていうか、こうでもしなけりゃ、360万立方メートルの容積は確保できません。「あてずっぽうで文句を言うな!」というお叱りを受けるかもしれませんので、念のため、試算根拠を末尾に記しておきますね。

ちなみに、Googleの衛星画像に加筆するとこんな具合(面倒なので沢の部分も塗りつぶしています)。

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図4 燕沢発生土置場想像図(Googleの衛星画像に加筆)  

もう、生態系の保全も、景観の維持も、ユネスコエコパークの理念も、土砂災害リスクも、ナ~ンにもありません。

こうして想像図を作ってみると、燕沢発生土置場について「林道東俣線からの景観に与える影響を予測せよ」という知事意見に対し、的外れな回答をよこしていた理由が分かりました。林道ごと消滅してしまうのだから、景観も何もないのでしょう。 

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図5 準備書における景観予測についての静岡県知事意見とJR東海の見解 

ハッキリ言って、

ムチャクチャ!! 




(図3について)

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評価書の関連図(ブログ本文中の図2)の実物は、1:10000縮尺である。これに1㎜枠の方眼をかけると、1つのマスは100平方メートルとなる。このマス目の数を数えると面積がわかる。これが方眼法という手法である。



360万立方メートルの発生土を市街地に積み上げたら?

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南アルプスの大井川源流に捨てようとしている発生土を静岡市街地に積み上げたら…?


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なんでも今月18日に、南アルプス横断トンネルの早川町側で、トンネル起工式を行うそうなのだ。

そちら側に掘り出す320万立方メートルもの発生土処分について、最終的な処分方法も確定していないのに、ことリニアに関してJR東海お得意の”見切り発車”である。

山梨県側に出す発生土が320万立方メートルで済むのかどうか、実はアヤシイと思う。というのも、どう考えたって静岡側での取り扱いがムチャクチャだからである。

JR東海は、静岡県側に掘り出す発生土360万立方メートルについては、すべて大井川沿いの燕沢とよばれる平坦地に積み上げて残置する計画である。これを山の麓に積んでゆくと、既存の林道まで分厚い盛土の下になるのは、前回示した想像図の通り。
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この360万立方メートルという量。単純に計算すれば東京ドーム3杯となるけど、全く実感がわかない。というわけで、平地に持って来たらどうなるのだろうかと、新たに想像図を描いてみた。

ところで、盛土を積み上げる際には、国土交通省によるのか、土木学会によるのか、建設業界のルールなのか、ちょっとよく分からないけれども、設計基準が定められている。

(参考)盛土設計基準
国土交通省北陸地方整備局による(PDFファイル)
http://www.hrr.mlit.go.jp/gijyutu/kaitei/sekkei_r/pdf/3.pdf#search='%E7%9B%9B%E5%9C%9F+%E8%A8%AD%E8%A8%88'

盛土の容積に関係する事項としては、、
●盛土の法面勾配の標準は高さ:奥行=1:1.8
●高さ5mを超える場合は、高さ5mごとに”犬走り”と呼ばれる幅1.5mの段を設けなければならない

といったことが定められているようだ。この前提で高さ50mまで積むことを考えると、その断面は図Aのようになる。


イメージ 1
図A 盛土勾配

つまり50mの高さにまで積み上げるためには、最低でも103.5mの幅が必要である。

この先、面倒なので計算過程は省くけれど、この勾配をもとに50mの高さで360万立方メートルを積み上げると、図Bのような感じになる。
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図B 360万立方メートルの発生土を正方形の敷地に高さ50mで積み上げた場合


計算が面倒であったが、敷地は319mになるようだ。これで容積が360万立方メートルである。それを静岡市街地に持って来たらどうなるのだろう…?と思って、GoogleEarthの「ポリゴン機能」から推定したのが冒頭の図である。

もうちょっと遠くからとらえるとこんな感じ。
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図C 発生土と八幡山の比較

右の黒っぽい部分は標高64mの八幡山である。ちなみに八幡山の容積を1:10000地形図から方眼法によって推測すると、約180万立方メートルであった。南アルプスに吐き出される発生土は八幡山の2倍(注)にも及ぶのである。

(注)
八幡山の体積については、地形図から計測すると約179万立方メートルという数字が出た。ところがこの山は木で覆われているので、遠くから眺めると実際の体積よりも大きく見えていることになる。面積を大雑把に7万㎡とし、木の高さを10mと見積もると、見た目のボリュームは70万立米増しの250万立米ぐらいとなる。というわけで、見た目で比較すると、リニアの発生土は八幡山の1.4倍ぐらいといえるのではなかろうか。 

静岡ローカルな話でごめんなさい。





トンネル2㎞を掘ってから起工式?

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本日、南アルプス横断トンネルの起工式が早川町にて行われたそうです。

ふーん。。。

既に2㎞もトンネルを掘ってあるのに、何を今さら「起工式」なんだろう?


JR東海は今頃になって早川町向けに”評価書もどき”を出してきましたが、そこには次のような写真が添えられています。
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これは早川町新倉の工事予定地の現状です。写真①の右手にトンネルが掘られていますが、これは「試掘した跡」だそうです。試掘というのはトンネルの設計を決めるために必要な地質調査のことですけど、結構な規模に見えます。近くの電柱と比較すると、高さ・幅とも4~5mはありそうに見えます。

換気ダクトなのか排水施設なのか分かりませんけど、でっかいパイプ状のものもつけられています。

この試掘調査についてインターネットで調べてみると、2008年から始まっていたようです。

日経ケンプラッツより一部記事を転載します。

道路沿いに間口50~60mほど、山に向かって奥行き10mほどが囲われていた。掲示を見ると、施工者であるJV(共同企業体)を構成する大成建設、名工建設、銭高組のほか、発注者の東海旅客鉄道(JR東海)、早川町に本社を置く保坂建設と、計5つの社名が確認できる。工事名は「中部山岳地区早川町内 水平ボーリング用作業坑掘削」だ。
 JR東海は以前から、周辺で垂直ボーリング調査や既設導水路トンネルの施工履歴調査を進めてきた。2008年2月28日に掘削を始めた水平ボーリング調査は、最終的な確認という位置づけだ。現場の南側部分で実施していた。国交省が求めた規模を越えて山の奥まで水平ボーリングを進めることで、トンネルをより効率的・経済的に施工できるよう備える。そのためには新たに作業坑を掘削する必要がある。作業坑は内空断面積が30㎡、延長が2km、NATM(ナトム)工法で築く。  

(出典) 日経ケンプラッツ
 「リニア新幹線、南アルプスのボーリング調査現場はいま…(2008/12/1) 」

ボーリング調査に必要だとして、トンネルが掘られたという経緯ですね。断面積30㎡というと、九州新幹線など整備新幹線で本体工事に使われ建設された斜坑と同じ大きさになります。いっぽうリニアの作業トンネル(斜坑=JR東海は非常口と呼称)は、断面積は倍以上の68㎡を予定しているとのことなので、今後さらに拡幅し、本体工事用に転用するつもりなのでしょう。

ここ青崖(せいがん)地区に予定されている非常口の長さは、評価書によれば2.5㎞ということですので、すでに75%は掘り進めたことになります。もう完成しちゃったのかな?

◇   ◇   ◇   ◇   ◇ 

ところで中央新幹線計画の建設指示が出されたのは2011年の5月。環境影響評価(以下アセス)が開始されたのは同年6月です。

ということは、試掘坑は、アセス手続き開始の3年以上前から始められていたことになります。考え方によっては、アセス開始前に事実上の着工をしていたと言えなくもありません。したがって青崖非常口については、その立地にあたって適正な環境調査が行われていたのかどうか、疑問が生じます。…もしかすると「やった」と主張するのかもしれませんが、少なくともその真相は現時点では不明です。

試掘の行為自体はあくまで「調査」であり、その工事について環境影響評価手続きを経ていないことは、法的には問題はありません。さらに現場内外においては、2011年以降に現地調査が行われており、形式上は必要な手続きを経ています。

しかし既に改変されてからの現地調査でもあります。もしも貴重な動植物が分布していたとしても、その生息地をつぶしてしまっていたのかもしれません。付近に営巣していた猛きん類を追っ払ってしまった後という可能性だって否定できません。
評価書には環境保全措置として「貴重な動植物の生息場所を避けて改変する」とか「改変地域をなるべく小さくする」とは書いてあっても、その前提がアセス開始時点で崩されていたのかもしれないのです。

このように問題があるわけですが、それはひとえに全国新幹線鉄道整備法という旧態依然とした法律にその根源があるのではないでしょうか。

【全国新幹線鉄道整備法 第五条】
国土交通大臣は、前条の規定により基本計画を決定したときは、独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構その他の法人であつて国土交通大臣の指 名する ものに対し、建設線の建設に関し必要な調査を行うべきことを指示することがで きる。
 

とあります。それなら…

①国土交通大臣が「必要な」調査について環境配慮を怠れば、ルートは環境配慮と関係なく決定してしまう。
②ここでは「基本計画を決定したときは…必要な調査を命じることができる」とあるが、斜坑や工事道路など付帯施設を、アセスのずっと前に建設することが可能となる。それを建設認可後に転用できるのであるから、立地に関して環境配慮が不必要になる。

ということになります。これは事業の位置や規模の検討段階において環境配慮を求めた環境影響評価法第三条の二「計画段階配慮事項についての検討」と矛盾するのではないでしょうか。
http://www.env.go.jp/policy/assess/1-1guide/2-2.html

もっとも計画段階環境配慮の義務が生じたのはリニアの建設指示の後なので、JR東海の姿勢を問うことは困難かもしれませんが、将来のために二つの法律の関係は整理されるべきだと思います。

◇   ◇   ◇   ◇   ◇ 

とまあ、既成事実の積み重ねで「起工式」に至ったわけですが、これは昨年の12月17日に品川駅での起工式からちょうど1年を経たということで、新たなる既成事実づくりのパフォーマンスに過ぎないのでしょう。

実際には、例えば早川町に掘り出す発生土326万立方メートルについて、160万立方メートルの大口受け入れ先は山梨県営の別事業であり、その計画自体がどうなるかは今後の現地調査次第あって不明ですし、残りの行き先は全くの未定。

ちなみに326万立方メートルを野積みするとこんなイメージになります。
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326万立方メートルを早川河川敷に野積みしたイメージ
1:1.8勾配で高さ50mまで積んでゆくと、盛土敷地は長さ710m、幅207mとなる。 


県境を越えた静岡や大鹿側では、様々な懸案が何も解決しておらず、つまり南アルプス全体としての発生土処分計画は何ら方向性すら定まっていないのに「適正に解決できる見込み」と、完全なる見切り発車となっております。
おかしな会社だなあ…。

アクセス数が増えているついでに、南アルプストンネルの構造について概要を記しておきます。
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次表が南アルプス区間で計画されているトン炎るになります。 赤く囲ったのが、今回「起工式」を行った南アルプストンネルと、その作業用トンネルになります。

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本坑自体は長さ25㎞ですが、先進坑、斜坑(非常口)、工事用道路トンネル、導水路を全て合わせると57.8㎞になります。

それから発生土量です。同様に、南アルプストンネルから出される発生土については赤く囲っており、総量は837万立方メートルです。そのうち360万立方メートルは南アルプスど真ん中の大井川源流部に置き去りにする計画であります。
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国はリニアの温室効果ガス排出量について検証したのか?

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(12/24 追加)
本日、JR東海のホームページにて、山梨県巨摩山地における河川や流量に与える影響の予測結果が公表されました。湧水には影響が出ないとするものの、大柳川と南川では流量が2割以上減少するとの予測。
【大きな疑問】
●この予測は準備書に対する県知事意見(2014年3月)で評価書に記載するよう求められたのに、なぜ1年半以上も経って方出されたのか?
●河川流量等は平成18年から観測していたとするが、それならばなぜデータをアセスの過程で配慮書や準備書に記載しなかったのか?
●大柳川における流量の2割減少は、果たして影響が小さいと言えるのか?
●水資源への影響は小さいとしているが、河川生態系に与える影響については言及していない。


温室効果ガス排出の問題が、世界的な話題になったついでに。

中央新幹線計画において、電力消費量の多いことが問題になっています。

リニア計画に懸念を抱く人々の間では、とにかく原子力発電所の問題と結び付けて考えようとする傾向が強いようですけど、そちらに思考を向かわせる前に、火力発電主体の現状では、二酸化炭素排出量の増えることにも目を向けねばなりません。つまり、原発とは無関係に、エネルギー消費の増えること自体が問題ということです。けっして私の主観ではなく、アセスにおける環境大臣意見においてもその点は言及されていることです。

◇   ◇   ◇   ◇   ◇

ところで評価書によれば、超電導リニア方式は「結構省エネ技術に優れている」という建前になっています。ちょっと検証してみましょう。

評価書によると、東京~大阪間における輸送機関別の二酸化炭素排出量は、次表のように変化するとされています。
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現状(下段左)では、全体の排出量40万トンのうち航空機が30万トンと77%を占めており、鉄道(=新幹線)は6万トンと15%程度。「航空機に比べてはるかに省エネ」とする所以です。

これが2045年になると、リニアがなくとも自然に旅客数は増えます(下段中)。それが、リニアを開業した場合(下段右端)、新たな利用者獲得による総旅客数が増えるのに伴い、二酸化炭素排出量は増えます。けれども「旅客をエネルギー効率の悪い航空機から超電導リニアにシフトさせる。」ことにより、一人当たりの排出量は現状よりも減ることになっています。

整理すると、乗客が増えても航空機からのシフトで総排出量は減殺され、旅客一人当たりの排出量は次のようになります。

現状(2005年) 
総排出量40万トン÷総旅客数1200万人≒33.3㎏/一人

リニア無しの2045年 
総排出量43万トン÷総旅客数予測1300万人≒33㎏/一人

リニア開業時(2045年) 
相排出量予測43万トン÷総旅客数予測1600万人≒27㎏/一人

(旅客数は評価書のグラフから目分量で読み取ったもの)

この結果より、次のような理屈が成立します。

2045年には、東京~大阪間の旅客数は現状の1200万人から1300万人まで増えると予測される。すると必然的に二酸化炭素排出量の増加が予想される。ここに新たな高速鉄道を導入するにあたり、それを超電導リニアにすればさらに1600万人程度まで増やすことができるうえ、それだけ増えても二酸化炭素排出量は「リニア無しで1300万人のケース」と変わらない。さらに一人当たりの排出量も減らすことが可能である。 

なるほど、2045年に総排出量がどのみち増加するのであれば、その増加分でより多くの乗客を運ぶ超電導リニア方式は優れているという考え方ができます。言ってみれば、航空会社から二酸化炭素の排出権をJR東海側に渡すような感じです。

事業者の論理としては正論であり、環境保全上は強い疑問があるものの、だからといって強制力を課して排出量削減を命じるようなことはできません。将来のことですから、排出源取引などで削減措置をとることも、原理としては可能です。

国交省もこんな見解で「JR東海は努力している」とみなし、事業認可したのでしょう。

◇   ◇   ◇   ◇   ◇ 

けれどもこの理屈については、議論の余地があるかと思います。なぜなら、いくらJR東海が”努力している”といっても、それはあくまで超電導リニア方式を前提とした話だからです、したがって次のような根本的な事項が無視されているといえます。

2045年には、利用者数は現状の1200万人から1300万人まで増えると予測される。すると必然的に二酸化炭素排出量の増加が予想される。ここに新たな高速鉄道を導入するにあたり、総排出量を現状以上に増やさぬための施策について検討する必要がある 

そう。二酸化炭素排出量の増加が予想されるのであれば、それを減らすことを第一に考えなければならないのです。それを審査するのは国、つまり国土交通省の役割のはず。

排出量が多いのは、ひとえに超電導リニアという走行形式によります。このように鉄道としては排出量増加に結び付く走行形式を導入する以上は、そのデメリットを補って余りある環境保全上の利益を生み出せるかどうか、あるいはどうして排出量増加に目をつむることができるのか、検証しなければなりません。

超電導リニア方式を採用することを国の施策として決定したのは2011年5月の国土交通省中央新幹線小委員会によります。これはアセスの開始前になります。ところが、この委員会で提示された資料からでは、二酸化炭素排出量についての議論は全く行われていなかったように見受けられます。

最終的に国土交通大臣に提出された答申(2011年5月12日)では、
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こんな記述がなされています。とりあえず国としては、超電導リニア方式は、在来型新幹線方式に比してエネルギー消費の面で劣ることは認めているようです。そのほか信頼性や環境対策など様々な面で在来型新幹線のほうが優れているとしながらも、「速いから」の一点張りで超電導リニアを採用したとのこと。 

けれども、この答申を作成した委員会の会合では、具体的な資料による議論はなされていないようです。例えば平成22年4月15日の第2回小委員会では、「技術事項に関する資料について」という資料が配布されていますが、ここで触れられた環境問題とは、騒音・振動と磁界についてのみです。それ以前に国として超電導リニアシステムの技術的検証を行った第18回「超電導磁気浮上式鉄道実用技術評価委員会」での報告書でも、やはり環境対策については騒音・振動と磁界が対象であり、温室効果ガス排出量やエネルギー消費については全く触れていません。
 
これでは、なぜ超電導リニア方式による温室効果ガス排出増について目をつむることができるのか、何も分かりません。これって、必要な審査が欠如していたってことじゃないのかな?

◇   ◇   ◇   ◇   ◇ 

1995年に発効した京都議定書に基づき、温室効果ガス排出慮を削減するための法整備が進められました。その代表的なものが「地球温暖化対策の推進に関する法律」です。

国・事業者・国民の責務を定めた法律ですが、そこでは国の責務として次のような規定があります。
第三条
第2項
 国は、温室効果ガスの排出の抑制等のための施策を推進するとともに、温室効果ガスの排出の抑制等に関係のある施策について、当該施策の目的の達成との調和を図りつつ温室効果ガスの排出の抑制等が行われるよう配意するものとする
第3項
  国は、自らの事務及び事業に関し、温室効果ガスの排出の量の削減並びに吸収作用の保全及び強化のための措置を講ずるとともに、温室効果ガスの排出の抑制等のための地方公共団体の施策を支援し、及び事業者、国民又はこれらの者の組織する民間の団体(以下「民間団体等」という。)が温室効果ガスの排出の抑制等に関して行う活動の促進を図るため、技術的な助言その他の措置を講ずるように努めるものとする。
 

これによれば、国のかかわる事業については、温室効果がガスの削減のための措置を検討じなければならないとされています。東京~大阪という国の大動脈を担う高速鉄道について、その走行形式を決定するという事項は、これに当たるのではないでしょうか。

けれども何も検討をしていない。 

というわけで、改めて振り返ると、超電導リニア方式の採用にあたり、適切な審査を経ていなかったのではないかと思います。


大柳川の水 やばいんじゃないの?

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山梨県の巨摩山地での水収支解析結果が24日になって公表されました。水収支解析とは、トンネルを掘った際の地下水変動を予測し、近傍の湧水や河川流量にどのような変化を及ぼすか見通しを立てるというものです。
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図1 大柳川の位置
図の右端「第四巨摩隧道」が交差する川 


イメージ 2
図2 大柳川の地図 

トンネルをぶち抜けば水が出るということで、湧水や河川流量が減るかもしれない…この懸念は前々から指摘されていたはずです。たぶん図2のように流れて行ってしまうはず。ところが環境影響準備書においてJR東海は、なぜか具体的な数字を示すこともなく、「影響は小さくできる」と結論付けていました。

具体的な拠り所もなく、漠然と「影響を小さくできる」としても、それでは何の信頼もおけません。そこで2014年3月に出された準備書に対する山梨県知事意見では、巨摩山地から流出する「大柳川と南川」と名指ししたうえで、「評価書に予測結果を記すこと」と明記していました。JR東海は素直のに応じぬままに事業認可を受け、結局、1年9ヵ月もたってからの公表となりました。

で、知事意見に応じないのはおかしいってことで、このブログで再三批判してまいりました。そこで結果がようやく出されたのですから、検証してみました。

【結論】
大柳川、マジでやばいんじゃないの?

JR東海は余禄結果を次のようにまとめています。これによると、
1、湧水への影響はほとんどない。
2.河川流量は2割程度減少するがたいしたことがない。
ということで、影響は小さいとしています。

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私の頭では、試算の手法についてとやかく言う知識は持ち合わせておりません。しかし、河川流量への影響が小さいとする結論を導いた論理には、報告書の構成からみて不審な点があります。


●疑問1 
「大柳川では2割減少」としている予測地点は、トンネルより3.5㎞ほど下流の農業用取水堰である。大柳川には、トンネルとの交差部分からここまで流下する間に、トンネルの影響を受けない範囲からの水が加わっている。ならばトンネルとの交差部分に近い部分での減少率は、もっと大きい可能性がある。 


大柳川の流れは、トンネルで水を取られてから予測地点まで流下する間に、この8250㎡の範囲から水の供給を受けることになります。具体的な地名をあげれば、右岸(南側)の支流(梨木沢、味噌根沢)から水が加わった分を差し引けば、本流筋の減少はもっとひどいはず。

どのくらいになっているのか、机上の空論ですが、簡単に見積もってみます。


国土地理院の地形図閲覧サービス「うぉっちず」では、画面上で面積を見積もる機能が用意されています。非常にありがたい機能ですね(注)。これを利用します。

(注)これまで面積を求めるには、地形図にトレーシングペーパーで輪郭を写し取り、プラニメーターという特殊な道具を用いて測定するか、それがなければ方眼紙をあててマス目を数えるという非常に面倒な作業が必要でした。30分はかかっていた作業が1分で完了し、しかも自由に範囲を変更できるようになったので、実にありがたい。


まず、流量予測している地点をAとします。このA地点における流域面積は25650㎡という結果が出ました。このうちトンネルより下流で、なおかつトンネルによる減水を受けにくいとされる範囲の面積は、JR東海の資料から大雑把に、8000~8500㎡平方キロメートルと見積もられます。間をとって8250㎡とします。また、この領域をSとしておきます。図3において、緑色の点線で囲った範囲です。
イメージ 1
図3 流量予測地点とトンネルが水を引き込む範囲との関係
水収支解析結果より作成 
Bの右上で領域Sと水を引き込む範囲が交錯しているが、これは作者の作図ミス。

A地点での現況流量は0.88㎥/sとなっています。まず、このとき地点最も水が減っているであろうB地点での流量を見積もりましょう。

ここで、流量は流域面積に比例すると仮定します。つまり、「水を集める範囲が広いほど流れる水の量は多い」ということにしておきます。


領域Sはおおよそ8250㎡なので、Aでの流域面積の3割となります。現状0.88㎥/sの3割が領域Sからの供給とすると、0.26㎥/sと見積もられます。差し引くと、B付近での現況流量について0.62㎥/sという値になります。

ここにトンネルができると予測地点では0.728㎥/sに減少するという予測になっています。Bに至るまでにで水が吸い取られ、そこからA地点まで0.26㎥/sが加わった値です。領域Sはトンネルの影響を受けない。ということは、0.728㎥/sから0.26㎥/sを差し引いて、B付近の流量は0.464㎥/sにまで減っていることが推定されます。

0.62㎥/sが0.464㎥/sになる

これって、現況の3/4にまで減ることになっちゃいます。

やばいんじゃないの?

河川流量の頻度分布は一次関数ではなく指数関数で表されるため、本来は「年間○○日はこの流量を維持している」というような表現をせなばなりません。しかしリニアの評価書は、どこの県でもそうした説明を欠いているので、「現況値」がどのような意味をもつのか、正確には分かりません。静岡県内でのやり取りによると、JR東海の予測において現況値とは年間平均を意味しているとのことでしたが、やっぱり意味不明。

その点は横に置いといても、やっぱり年平均で「3/4にまで減るの」はヤバイでしょう。冬の渇水期や空梅雨にはもっと減るはずですから。

予測地点に農業用水の取水堰を選択したこと自体は、水資源への影響を見定めるという観点より、間違ってはいません。しかし河川の水の価値は、農業用水だけでなく、景観や生態系維持など様々な角度で論じられるべきです。

大柳川とトンネルとが交差する地点のすぐ下流は「大柳渓谷」とよばれる景勝地になっているようです。その渓谷美が大きくダメージを受けてしまうのではないでしょうか? 


もっとも、これはあくまで机上の理論。しかも推定に推定を重ねたシロートの予測。全くアテにならないと言われても反論の余地はありません。この予測の前提は「各支流の比流量は一定」ですけど、実際には谷の深さ、森林の状態、土壌条件、地質などを考慮せねばなりませんが、全て無視しています。JR東海のおこなったシミュレーションには、これらの要素は考慮されているものでしょう。
けれども、一番影響を受けそうな「トンネル頭上付近の大柳川本流」の流量について、JR東海は一言も語っていないのだから、こうやってムチャな推測を重ねるしかない。


●疑問その2 
大柳川における予測地点のすぐ下流で北から支流(清水沢)が流入している。周囲の集落における飲料用水は、この清水沢にも依存していると評価書には記載されているが、そこに与える影響は示されていない。 

流量予測結果を公表したのはこの地点です。図2をよく見ると、そのすぐ下流で北から沢が流入しています。清水沢といって、合流点のすぐ上には滝があり、検索してみるとちょっとした名所になっているとのこと。

この清水沢流域を、リニアのトンネルがごく小さな土被りでくぐりぬける計画になっています。トンネルの谷底からの深さ(土被り)は、縦断面図からは50m未満になりそうです。この数字、実際に河川の枯渇を招いた山梨実験線棚の入沢よりも小さい。したがって清水沢の流量に影響を及ぼす可能性が考えられます。
イメージ 5

図4 大柳川支流清水沢とトンネルとの位置関係 
事業認可申請書類より複製・加筆 


いっぽう環境影響評価書によると、この清水沢からは大柳川中下流地域の飲料用水が取水されているそうです。

上水源となっている沢で、水の減少が容易に想像されるのですから、そこでの予測は重要なはず。

けれどもこのたびの「水収支解析結果」では、清水沢に与える予測結果は示されていません。何かおかしくないでしょうか?


●疑問3 
大柳川のトンネル交差部や清水沢での予測は「やっているはず」 

図を複製するのが面倒なので、いちいち引用はしませんが、解析結果の資料によると。両地点ともに予測の妥当性を検証するためとして、シミュレーション自体は行っているとしています(同資料の表3と図5)。だったらその予測結果も示すべきでしょう。

●疑問4 
なぜ公表がこんなに遅い?

同じく解析結果の表3と図5によれば、流量の観測は平成18年から始めていたとのこと。だったらシミュレーション結果は、知事に指摘されるまでもなく準備書に載せることができていたはず!  




なお、もしもこのブログをJR東海か行政関係の方がご覧になっていて「わけのわかんねえホザくんじゃねえ!」とお感じになったら、ぜひトンネル頭上での試算結果も示してくださるよう、それからなぜ公表が遅れたのかご説明くださるよう、よろしくお願いいたします。

ナゾのマスコミ大攻勢 ―JR東海は、実は焦ってるんじゃないのか? 

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新年早々、ものすご~く不可思議な状況になっております。このブログを始めて間もなく5年になりますが、こんな事態は初めてです。

昨晩(1/3)、夕飯を食べながらNHKを見ていたら、「今年は日本の高速鉄道にとって節目の年。北海道新幹線が函館まで延伸。そしてリニア中央新幹線の南アルプストンネルが本格着工!」って感じでニュースが流れてきました。

そのニュースの原稿らしきものがネットで公開されていました。NHKの記事はすぐに消されるので、全文をコピーします。

NHK   01月01日 06時42分
11年後の開業を目指す東京・名古屋間のリニア中央新幹線の南アルプストンネルについて、JR東海はことし3月ごろからまず「非常口」の掘削を開始し、リニアモーターカーが走るトンネル本線の掘削工事は秋ごろから始める見通しです。
南アルプスを貫くリニア中央新幹線のトンネルは、山梨、静岡、長野の全長25キロのうち、山梨側の7.7キロの区間が先月18日に工事に入り、現在は山梨県早川町で資材置き場の整備などを進めています。
初めてとなるトンネルの掘削は、ことし3月ごろから緊急時に避難路となる「非常口」を斜めに掘り進む工事が行われます。
「非常口」の掘削は早川町内の2か所で進められ、本線が通る予定の地点に達したあと、ことし秋ごろから将来リニアモーターカーが走るトンネル本線の掘削に入るということです。
南アルプストンネルは、最も深い所で地上から1400メートルに達するうえ、周辺の地層が複雑に入り組み、地下水脈の場所もはっきり分からないことから、建設計画上の難所とされています。
JR東海は「地域の人たちと連携を取り、安全に工事を進めていきたい」としています。
リニア中央新幹線を巡っては、山梨県内の区間で建設予定地の地権者がおよそ1300人に上り、一部の区間で用地取得の交渉が進められていますが、山梨県はことしはさらに広い範囲で交渉を本格化させたいとしています。
 

何だか分からないけど、年が明けてから唐突にその他のマスコミも、ネットでリニアの南アルプストンネル工事のニュースを流しているようなんですね。それも判を押したかのように、ほとんど同じ内容なのである。

リニア中央新幹線(東京・品川―名古屋)を建設中のJR東海は12月18日、ルート中で最難関とされる南アルプストンネル(総延長25キロ)の起工式を開いた。山岳トンネルとしては日本最長で、工期に10年もかける。2027年開業を目指すリニア建設の肝とも言える場所で、計画通りの費用と時間で完成できるかを占う工事ともなる。 

東洋経済オンライン 1月4日(月)6時0分配信
27年開業なるか? リニアの行く手阻む最難関 
2027年の開業を目指す「リニア中央新幹線」。品川~名古屋間約286kmのうち、工事の最難関といわれている南アルプストンネルの工事が2015年12月18日、山梨県側の「山梨工区」で始まった。(中略)
山岳トンネルは「掘ってみないとわからない」部分が多いといわれ、計画よりも工事期間が延びた例は決して少なくない。南アルプストンネルの工期が延びれば、必然的にリニアの開業時期にも影響することになる。
 

デイリー新潮 1月3日(日)7時0分配信 
超ド級の難工事 リニア「深さ1400m」の攻防 
黒部ダム建設を題材にした石原裕次郎主演の『黒部の太陽』然り、青函トンネルの難工事を描いた高倉健主演の『海峡』もまた、大自然とヒトの攻防をスクリーンに蘇らせた大作である。中でも工期が10年にも及ぶ南アルプストンネルだ。12月18日、山梨県早川町でJR東海が主催した起工式を機に、本格的な掘削を進める。 

Yahoo!乗りものニュース 1月2日(土)13時50分配信
リニア“最大の難所”南アルプストンネル、真の懸念は 高速鉄道の未来占う  
2015年12月18日、JR東海はリニア中央新幹線で“最大の難所”とされる長さ25km19mの南アルプストンネルにおいて工事を開始。これにより「超電導リニア」を用いた“新世代の高速鉄道”建設が、いよいよ本格的に始まりました。
…南アルプストンネルで予定されている工期は10年。その進捗が中央新幹線、そして海外への展開も考えられている新世代の高速鉄道「超電導リニア」の将来を占う、としても過言ではありません。 

こんな感じです。ほぼ全ての記事に
●昨年12月18日に起工式を行った
●最大の懸案は南アルプスのトンネル工事である
●南アルプスのトンネル工事では難工事が予想される
●工事が遅れれば全体の計画に影響する

という要素が共通しています。そしてNHKを除く4本の記事は、全てYahoo!のページで報じられています。 

これ、ひょっとしてどっかの誰かが起草した文章を、そのまま使い回してるんじゃないのかな?って思うほど、内容が似通っています。

しかも単に内容が共通しているだけじゃなく、南アルプスの事情を調べてこの記事を書いているわりにはあまりに無知であり、逆に不自然に思えます。このように、コピーのような記事が出回るのは、たぶんリニアの建設指示の出された2011年5月以降、初めてのことでしょう。

◇   ◇   ◇   ◇   ◇


例えばトンネルを掘るのなら、まずは発生土(残土)の行き先を決めなければなりません。それが決まってないのだから、今は技術がどうのこうの言う前の段階です。

例えばこんなアホな現計画が実現するはずない。
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静岡県大井川源流 燕沢にJR東海が計画している発生土置場の想像図
JR東海は設計図を公表していないので、これまでの情報より作者が推定。

この燕沢発生土置場については、河川法や森林法に基づいて許可申請を出すにあたり、安全性を証明しなければならない。そのためには周囲の山崩れ・地すべりの挙動、河床変動、地盤調査、積雪観測などをしなければならない。それに具体的な環境影響評価は事後調査として後回しにしたから、それだって適切に行う必要がある。ここに発生土を集約することを表明したのは昨年9月以降であるから、これら調査は全て今後の予定。というわけで、今年中に本格着工できるはずがない 

そして大量の残土の行き先を決めたとしても、次には大量のダンプカーを走らせるにあたり、地域の合意を得なければなりません。ところが現時点で、住民とのコミュニケーションが成立しているとは言いがたい。
無断で測量を開始したり(富士川町)、事前通告なくボーリング調査内容を24時間に変更する(大鹿村)、安全面より回避すべしと地元住民から要求された燕沢に発生土を集約すると公表(静岡市)…なんてことをしていたのだから、当然と言えば当然なんだけど。 

水が噴き出すというのは、言い換えれば地上の水を引き込むこと。評価書で大井川水系や小河内沢など、南アルプス山中の渓流を壊す可能性を指摘しておきながら、いまだに有効な環境保全措置を出していない。この点だってクリアしなければならない。

静岡市の南アルプス林道管理条例とか、同市の清流保全条例とか、南アルプスユネスコエコパーク管理運営計画、ユネスコへの説明責任…これらに整合させるつもりがあるのかいな?

◇   ◇   ◇   ◇   ◇ 

要するに、JR東海の視点にたって南アルプストンネル工事での最大の懸案は何かを考えてみると、それはすなわち、ムチャクチャな環境破壊に起因して地元の信頼と合意を得ていない!ということに尽きるはずです。現状では工事が難航するんじゃなくて、工事に取り掛かる準備自体ができないのだから。昨年7月には山梨県内で立ち木トラストが始まり、8月には大鹿村の住民から、リニアに絡む一切の工事禁止を求める仮処分を名古屋地裁に申し立てが行われたし、今年中には事業認可取り消しを求める訴訟が行われるという話も聞きます。

…こんなこと、評価書を何時間もかけて読むとか何百人にも取材するとか、そんなことをしなくとも、役場に電話1本をかければすぐにわかる話でしょう。

何社もの記者がそれをせず、コピペのような記事を一斉に報じているのです。これは不自然と言うべきではないでしょうか。

◇   ◇   ◇   ◇   ◇ 

さらに輪をかけて不自然なのはNHKの姿勢。NHKは、以前は「リニア中央新幹線と環境問題」と題した番組を放送していていました。南アルプスでの工事に伴う環境保全上の問題も取り上げています。

2014年11月05日 くらし☆解説 「リニア中央新幹線建設と環境問題」 

それから、、クローズアップ現代で、リニアの残土問題を取り扱っていました。

2014年12月18日 クローズアップ現代”建設残土”が家を襲う 

このクローズアップ現代では、「放送直前に某所より圧力がかけられリニア問題に割く時間を減らした」という噂があるのですが、冒頭の放送内容と関係あるのでしょうか?

◇   ◇   ◇   ◇   ◇ 

完全に想像になりますが、もしかしたら昨年12月18日の起工式に際し、事業者からマスコミ各社に対し、年明けに一斉報道するよう依頼がなされたんじゃないのかなあ…? 

マスコミ各位 以下の内容に留意して正月明けに報道を願います

●2027年開業を目指すリニア最大の難関は南アルプスのトンネル工事です!
●とにかく大変な工事で、これが遅れたら大変!
●土被り1400m! いつ水が噴き出すか分からない!
●難工事に挑むのは大成建設!
地元との合意形成とか環境保全とか、そんなのは全然懸案じゃないから、書かないでね
リニアを造ろうとしている会社より 

って感じで。

地元での反発の高まりを隠そうとしているんじゃないか?と勘ぐってしまうのである。 






リニア・大井川導水路案の盲点? ―水力発電所はどうなる?―

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リニア建設に伴う大井川の流量減少問題についての話です。

アセスにおいて川の流量が減少するとの予測が示され、問題となっています。今のところは下流域の農業・工業・上水道への影響と、源流域に生息する水生生物や景観への影響とが、大きな問題となっています。

環境影響評価手続きの中でJR東海が考案した対策は、
●施行時に防水シートを設置する
●薬液注入を行う
といったところです。どちらもトンネル工事によって一般的に行われており、それが役に立たない場合もあることは、山梨実験線で現実となっています。

事業認可を受けた後、JR東海は導水路を建設することを提案してきました。これはリニアの通るトンネルの途中から大井川に向けてトンネルを分岐させ、トンネル内に湧き出た水を放流するというものです。
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導水路案 JR東海ホームページより複製 

しかしこの案については、発生土の増加など新たな環境負荷が生じるうえ、導水路出口より上流側における河川環境(生態系・景観・釣り場・ユネスコエコパーク構成要素としての価値)の保全には役立ちません。

ところで流量減少による影響は以上のように指摘されておりますが、全く話題にあがっていない事項が一点あります。

それは発電用水

◇   ◇   ◇   ◇   ◇ 

導水路出口より上流には、
西俣(にしまた) 
東俣
(ひがしまた) 
田代川
(たしろがわ) 
木賊
(とくさ) 
の各堰堤が設けられており、いずれも大井川水系から取水して発電しています。このうち田代川堰堤は東京電力、その他は中部電力のものです。アセスにおいては、このうち東俣を除く各堰堤の集水域において大幅な流量減少が予測されました。

しかし環境影響評価書においては、環境保全措置および法に基づく事後調査(監視)の対象としたのは登山施設の井戸水位だけであって、取水堰については何ら言及していません。影響を受けるのが電力会社2社だけだから構わないのでしょうか?

西俣堰堤から取られた水は、東俣堰堤からの取水と合わせて二軒小屋発電所に送られ、西俣に放流されています。両堰堤から合わせて常時1.15㎥/s、最大11.0㎥/sが取水されており、常時認可出力は2100kW、最大認可出力は26000kWとなっています。

田代川堰堤は、二軒小屋発電所の下流にあります。ここから取水された水は、県境をくぐり、田代川第一、第二の、二か所の発電所を経て早川に放流されます。認可取水量は4.99㎥/s、両発電所を合わせた常時認可出力は11400kW、最大認可出力は40100kWあるようです。

木賊堰堤は田代川堰堤より約4,5㎞下流の大井川本流に位置します。ここから取水された水は大井川支流に設けられた赤石ダムに貯められ、赤石発電所に送られます。赤石発電所の最大使用水量は28㎥/s、最大認可出力は40500kWです。赤石ダムは多くの沢からの水を集めていますが、その2/3以上は木賊堰堤からの取水でまかなわれているようです。

導水路では、これら3か所の取水堰には水を回せません。水力発電施設と減水区間および導水路の位置関係を図示しますと次のようになります。
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導水路と発電用水取水堰との位置関係 

導水路の起点の標高は1150mぐらいで出口は1130mを想定していますが、西俣堰堤は標高1710m、田代川堰堤は標高1392m、木賊堰堤は標高1170mなので、原理的に戻せないんですね。 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇ 

水力発電所は落下する水の力によってタービンを回し、発電します。ということは流量が減ったら発電能力が低下することになります。

この図に書かれた流量の値は、年間の平均的なものだそうです。しかし問題がより深刻なのは渇水期。渇水期の流量減少については、JR東海は次のように試算しています。
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例えば田代川堰堤については、評価書では渇水期流量を現況4.08㎥/sと見積もり、これが2.28㎥/sに減ると試算しています。しかし例年、渇水期ピークの流量は取水せずとも2㎥/s程度に落ち込んでいるため、そこからトンネルへ2㎥/s漏水してしまうと、その間は取水量が大幅に減ったり、場合によっては全く発電できなくなるかもしれません()。

中部電力の西俣取水堰についても、JR東海は渇水期流量が、現況の1.18㎥/sから0.62㎥/sに減少すると予想。現在の取水量は不明ですが、流域面積を考慮して0.5㎥/s程度でしょう。この予測が現実になれば、西俣取水堰は長期にわたって取水できなくなります。すると二軒小屋発電所の能力は半減します。

)評価書の渇水期流量は平均値で試算しているようです。ということは、渇水のピーク時には、より流量減少が著しくなるはずです。例えば現況の田代川堰堤での渇水期流量を4.08㎥/sと見積もっていますが、平均値とすれば、暖冬で雨の多い年と、厳冬で降水自体が少なく、降っても雪だった年とを合わせたものですから、厳冬年にはより流量は少なくなるはずです。実際、堰を管理する東京電力の資料によると、年間2週間から一月程度は2㎥/s程度にまで減少するとしています。
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さらに東京電力には、環境維持のため最低0.43㎥/sは下流に流す義務があります。すると東京電力が発電に使える水は激減します。

◇   ◇   ◇   ◇   ◇

こんな事態が予想されますが、電力会社はどのような対応をとるのでしょう?

杞憂かもしれませんが、「他の地点からの取水を増加させ発電能力を強化する」といったことは考えられないでしょうか。

大井川水系内で取水を強化させたら、長年の「水返せ運動」で確保した河川環境維持流量が減らされてしまうかもしれません。大井川の中・下流域は、もとより発電用に水を取られており、「本流は土管の中を流れている」などと例えられます。1970年代は、下流の塩郷堰堤より下流では渇水期に全く水のなくなるという有様でした。30年以上におよぶ粘り強い運動の結果として、最終的には2005年に、各堰堤・ダムより「河川環境維持流量」を獲得することに成功し、水が流されることになりました。これが減らされてしまうことはないのでしょうか?

ちなみにダムの堆砂を除去して貯水能力を回復させるという案は、JR東海は「堆砂の処理等の理由で実現困難」としています。発生土は平気で大井川源流部に置き去りにするのになあ…。 

あるいは、流量減少の及ばない流域にて新たな電源開発を模索するなんてことはないでしょうか?

例えば畑薙第一ダム以北での電源開発に先立っては、結果的に開発対象とならなかった沢も、取水堰設置の候補地に挙げられていたそうです(信濃俣河内、仁田河内沢、上河内沢、所の沢、倉沢)。これら日の目を見なかった計画が復活するなんてことはないでしょうか。

発電用水が減少し、原理的に対策が不可能ゆえ何らかの影響が出ることが予想されるのですから、水を減らすJR東海としては、どのように対応してゆく方針であるのか、きちんと説明する義務があるように思われるのですが…? 

最後に感情的になりますが、電力会社が「発電能力が低下しても構わない」と考え、新たな取水を行わないと判断なさっても、、どうも簡単に納得しがたいと感じます。既存の発電施設を建設するにあたり、取水堰やダムによる河川生態系の分断、道路建設、発生土の処分といった具合で、それなりに大きな自然破壊を伴っています。こうした自然破壊を侵してまで造られた以上は、その施設は有効に使用すべきでしょう。

リニア建設による流量減少は、その犠牲を無駄にしかねないと思われるのです。



(調べていて湧いてきた疑問)
●河川水を何らかの目的のために使用する際には、河川管理者から「流水の占用の許可」を受けなければならない。電力会社は河川法第二十三条の二(流水の占用の登録)に基づき、大井川の水を占用することが認められている。
●河川水をトンネル内に引き込むことは、水を減らすことには違いないが、水を使用する目的ではないため、占用の許可の対象とはならないという。
●トンネルは適切な法手続きを経て建設されるため、河川法施行令第十六条の四第一号第一項で禁じられている「みだりに河川の損傷する行為」にも該当しないという。
(参議院国土交通員会 平成26年3月13日)

すなわちトンネル構造なら地表水を抜いても問題ないということになる。それでは、因果関係が分からなければ、あるいは地上での影響が明らかにならなければ、許可を得ずに”地下から取水”しても構わないのだろうか?

適切な法手続きを経て着工して流量減少を引き起こした場合、国土交通省に法的な責任が及ぶのであろうか? 「流量が減少する」という予測を前提に建設を認めたのだから、「想定外であった」とは言えなくなるはず。

山梨実験線にみるように、トンネル工事にともない小さな沢が枯れ、簡易水道が使えなくなるといった被害は過去にも生じていたであろう。しかし、「一級河川において占用の対象でもないのに2㎥/sの減少」という事態については、おそらく前例がない。これは河川法が想定する範囲外の問題であろう。河川管理者(国土交通省)は、どのように水利権を調整するのであろうか?

訳が分からない・・・。

国土交通省は大井川水枯れを予見したうえで南アルプスルート選定?

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リニア計画における環境配慮や情報公開の妥当性を、根本から疑ってしまう話です。以前、「南アルプスは裁判に馴染まないんじゃないか?」と書きましたが、この疑問については、焦点を当てるべきかもしれません。

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環境影響評価書においては、南アルプス区間の大井川はじめ大柳川(富士川町)、小河内川(大鹿村)で大幅な流量の減少が予想されました。

現時点までにJR東海が考案した対策は、トンネルから大井川に向けて湧水を流すための導水路を建設し、下流の水資源対策とする案を除くと、施行時に防水シートを設置する、薬液注入を行うといった工法の提示にとどまっています。「薬液注入」で検索すると、トンネル工事のみならず、土木工事に広く用いられていることが分かります。特別な環境保全措置でなく、一般的な工法の範疇を出ないようです。

大井川の導水路案については、導水路出口より上流側における河川環境(生態系・景観・釣り場・ユネスコエコパーク構成要素としての価値)および発電用水の保全には役立たないため、根本的な対策にはなりません。
⇒そればかりか、発生土の増加、改変区域の増大、導水路頭上での沢への影響など、余計な環境負荷も加わる。 

このままでは、トンネル近傍の河川環境と水資源に対し、不可逆的な被害を与える可能性が高いわけです。
⇒回避可能なら山梨実験線での水枯れなんておきなかったはず。 

これだけ広範囲に影響が及ぶのであれば、公益を害すると言っても過言ではないような気がします。

ところで、
 
いつから予見されていたのでしょう? 

そして、

ルート選定過程において考慮されていたのでしょうか? 

振り返ってみましょう。

大井川での流量予測結果を公表したのは、平成25年9月18日公表の環境影響評価準備書においてです。それまではほとんど論点にされておらず、準備書が公開されて初めて大騒ぎになりました(⇒当時の静岡新聞)。ところがこの試算結果については、単に数字が羅列されていただけであり、詳細は全く不明でした。その後、県知事意見を踏まえ、翌平成26年4月23日の評価書において、大井川水系4地点に対する渇水期における試算結果が公表されました。しかし、相変わらず詳細が不明なシロモノであり、試算結果と実測流量との整合性を示したグラフが出されたのは8月29日の補正評価書。つまりは事業認可申請と同じタイミング。

そのグラフがこちら。
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静岡版補正評価書 資料編「水資源」のページより複製・加筆 

ここで注目していただきたいのは、河川流量を観測していた時期です。一番古いデータは「平成18年豊水期」となっています。

ん?

何か妙ではありませんか?

JR東海が取締役会で中央新幹線構想を公表したのは平成19年4月26日

つまりリニア構想の発表前から大井川での流量観測をしていたんですよ。

また、平成26年11月18日に静岡市で開かれた工事説明会で、この流量観測とは、旧運輸大臣による調査指示に基づくものであることを、JR東海の担当者が説明しています。
⇒当時のブログ記事
http://rdsig.yahoo.co.jp/blog/article/titlelink/RV=1/RU=aHR0cDovL2Jsb2dzLnlhaG9vLmNvLmpwL2ppZ2l1YThldXJhbzQvMTM0MDU3MDMuaHRtbA--
(このときJR東海側は録音をしていたので、記録は残っているはず。)

運輸大臣から調査指示が出されたのは、さらに19年も前の昭和62年2月。この間、ずっと調査をしてたのでしょうか…? 

関連事項について時系列に並べてみます。

S62年 2月    運輸大臣が日本鉄道建設公団に対し、甲府~名古屋市間での地質・地形調査を指示。
H18年 豊水期  JR東海は大井川水系での流量観測を行っていた。
H19年 4月26日 JR東海はリニア構想を発表。
H20年10月22日 JR東海は地質・地形調査報告書を国土交通省に提出。
H22年 2月24日 前原国土交通大臣は交通政策審議会へ諮問。鉄道部会中央新幹線小委員会が発足。
    10月20日 第9回中央新幹線小委員会にて、沿線における環境・地形・地質の状況について審議。この日の提出資料に大井川での流量観測結果や利水状況について言及されたものは用意されていない。
H23年 5月27日 南アルプスルートでの中央新幹線の建設指示。 
    6月 7日 配慮書を公表。アセスの開始。
    9月27日 準備書の公表。試算結果を公表。
H25年 9月18日 準備書の公表。大井川において”河川流量”が大幅に減少するとの試算結果が明らかになり、流域に強い懸念が生じる。
H26年 4月23日 評価書を公表。大井川における渇水期での試算結果が明らかになる。
     8月29日 補正評価書が公告され、アセス手続きが終了。少なくとも平成18年から河川流量を観測していたことが判明する。
    10月27日 事業認可。
    11月18日 静岡市での工事説明会において、流量観測とは旧運輸省の指示で行われていたことが判明。
H27年 4月27日 JR東海は大井川において導水路を建設する意向を発表。


一連の流量観測が、トンネル掘削上の難易度に関係すると予見して行われたのか、あるいは流量減少により水利権や河川法等の問題が起こると予見して行われたのか、それはわかりません。

しかしJR東海あるいは国は、南アルプスにトンネルを掘るにあたり、トンネル工事と河川との間に、何かしら関係があると予見していたことだけは事実です。そうでなかったら手間とコストのかかる流量観測なんてやるはずがない。

その事実および観測結果を早期に明らかにしていれば、ルート選定のための重要な情報として活用することが可能であったはずです。A,B,Cの3ルートを審査していた中央新幹線小委員会において、ルート選定のための情報として提供することも可能であったし、また、そうすることべきだった。そのために国が流量観測を指示したはずでしょう。

当時の資料を貼りつけますが、こんな安っぽいパンフみたいなもので実質的な審議なんてできるはずがない。

なぜ河川流量や水資源に関する情報が1行も出ていない?
流量観測結果はどこに行った? 
 

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第9回中央新幹線小委員会(平成22年10月20日)資料 

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第2回中央新幹線小委員会(平成22年4月15日)資料 

また、山梨県富士川町の大柳川についても全く同じことが言えます。要点を時系列に書き並べます。
・少なくとも平成18年から流量観測を継続。
・準備書においては、早川町の内河内川だけ試算結果を公表。大柳川などそのほかの河川については結果を公表していない
・準備書への知事意見では「富士川町内の大柳川・南川についても評価書に試算結果を記載すべし」との内容
・しかし答えないまま事業認可
・事業認可から1年以上を経た平成27年12月になり大柳川についての試算結果を公表。同時に、平成18年の時点で流量観測を行っていたことが判明。

さらに、長野県大鹿村の小渋川流域でも、少なくとも平成19年から流量観測を継続しています。


これらの事実から、結局、国は大井川はじめ南アルプスの川に甚大な影響を及ぼすことを予見したうえで南アルプスルートを選定し、アリバイ的な「小手先の対策」でごまかせば良いと考えていたと考えざるを得ません。 
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