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Channel: リニア中央新幹線 南アルプスに穴を開けちゃっていいのかい?
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大井川流量観測―評価書から中央新幹線小委員会の虚構性が見えてきたような―

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前回の続きとなりますので、そちらから続けてお読みください。

前回、国交省はトンネル工事で大井川の流量に影響を及ぼす可能性を予見したうえで事業認可をしたかもしれない、と書きました。

ところで、同じ資料にはその他にも不審な点あります。

JR東海は、旧運輸大臣の指示により、アセスの始まる平成23年より前から、南アルプス地域での流量観測を行っていたと説明しています(前回参照)。その観測地点のうち、静岡県内(=大井川流域)での地点は次の通りです。

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静岡県版 補正評価書資料編より 

表によると、
平成18/19年から調査を継続している地点があります。 

いっぽう、平成18年時点で調査をしていたものの、翌19年ないし20年には中止し、中断期を経て、平成23年渇水域から再開している地点もあります。

どういうわけか、前者は西俣~二軒小屋付近に集中しています。平成23年7月の配慮書で明らかにされる3㎞幅ルート案に近接した地点であり、最終的なトンネル位置(下段図の黒破線)にも一致しています。中には「流量が大幅に減少する」という試算結果の出された地点も含まれています。

分かりやすく、前者を赤後者を黄色、そして配慮書で示されたルート案との位置関係を示すと次の通り。
イメージ 1
上段…平成23年7月公表の環境影響評価配慮書より
下段…平成26年8月公表の補正評価書より 


不自然だと思われませんか?
①平成19年より流量を継続して観測している地点は、なぜかトンネルの位置と一致する。
②トンネルから離れることとなる観測地点では、流量観測を早期に打ち切っていた。


不思議ですよね。まるで、平成19年の時点で4年後に考案するトンネルの位置を予言していたかのようです。流量観測を行う際に、トンネル位置が決まっていなかったのであれば、もっと南側の支流(赤石沢、聖沢等)だって観測していなければならぬはずです。

こんなふうに書くと、
「施行条件等により前もって位置を決めていたのだから、流量観測地点が絞り込まれていても不自然なことはない」という批判が出てきそうです。

しかしですねえ、建設指示を出した時点では、ルートの位置は全くの未定だったはずなんですよ。

中央新幹線小委員会では、幅25㎞の帯としてルートを示した答申を作成し、これに基づいて国交大臣より建設指示が出されました。25㎞幅の中で、環境配慮等により路線の位置を選定してゆくという建前です。

答申には次のように書かれています。
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現時点、つまり答申を出した平成23年5月12日の時点では、「どこを通るべきか決まっていない」としているんですよね。これは、中央新幹線小委員会における環境配慮の審議が大雑把であったことの言い訳にもなっています。


それなのに、審議の始まる前で、あらかじめ路線の位置を決め、流量観測地点の絞り込みを行っていたのだとしたら、この答申は嘘っぱちとなりますし、中央新幹線小委員会の審議は芝居以外の何物でもなくなります。


もっとも、こんなことを突っ込まなくとも、建設指示からわずか10日で25㎞幅から3㎞k幅を絞り込むことが可能であるはずがない。長野を除く6県分の配慮書について、印刷と製本、インターネットへのアップロードだけで数日かかるはず。前もって作成してなければ10日で用意できるはずがない。 


「事業者により実行可能な範囲」を決めたのは国の責任

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本日(1/27)、品川駅にて起工式が行われたらしい。たしか品川駅では2014年12月17日に起工式が行われており、同じ日に名古屋駅でも起工式が行われ、昨年12月18日には山梨県早川町でも「起工式」が行われている。

4回目の起工式なのである。

というわけで、いちいち騒ぐほどのことではないと思うのだけど、なぜか全国紙やらNHKやらが一斉に報じているのである。北陸新幹線や北海道新幹線とか、はたまた高速道路とかでも、こんな扱いをするのだろうか?

おそらくJR東海の広報が、主要マスコミを使って「リニア計画は進めてますよ~皆さま忘れないでね」のアピールをしたのだと思う。

逆に言えば、そこまでしなければ世間的に忘れ去れらてしまうことを、JR東海自身がよ~く承知しているのかもしれない。


ここから本題。

前回、前々回と、JR東海が環境影響評価手続きの最終段階で提出した資料をもとに、「国土交通省およびJR東海は南アルプス地域での河川流量減少を予見したうえで南アルプスルートを選定したのではないか?」という疑問を指摘しました。

何で今さらこんなことを蒸し返すかと言うと、河川への影響を考えるにあたり、計画初期の経緯が重要になってきそうだからです。

ちょっと話が変わりますが、環境影響評価手続きにおいて、次のようなやりとりがありました。

2014年の3月、環境影響評価準備書において、静岡県知事より「環境負荷を小さくするため斜坑計画を見直すこと」という意見が出されました。静岡県内における地上工事を根本的に問う内容でありましたが、これに対して評価書においてJR東海の示した見解は、「平成39年度開業のためには難しい」というものです。

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静岡県編 環境影響評価書より複製・加筆 


同じようなことが、長野県の大鹿村や南木曽町などでも起こりました。一見、事業者側の主張だけをゴリ押ししているかのように見えますが(実際そうなんだけど)、一応、根拠があります。

環境影響評価手続きについて、その内容を定めた「技術指針等を定める主務省令」というものがあります。主務省というのは、該当する事業を管轄する省庁のことであり鉄道事業については国土交通省になります。その国土交通省令()の第29条では次のように定められています。
)正式名称

第二十九条   事業者は、環境影響がないと判断される場合及び環境影響の程度が極めて小さいと判断される場合以外の場合にあっては、事業者により実行可能な範囲内で選定項目に係る環境影響をできる限り回避し、又は低減すること、必要に応じ損なわれる環境の有する価値を代償すること及び当該環境影響に係る環境要素に関して国又は関係する地方公共団体が実施する環境の保全に関する施策によって示されている基準又は目標の達成に努めることを目的として環境の保全のための措置を検討しなければならない。 

下線部にご注意ください。つまり、環境への影響を避けるための措置は、事業者が事業実施を可能とする範囲内でなければならないということになります。事業推進が不可能になるような無理難題は押し付けなくてよいとする”配慮”とも言えます。

ところで、JR東海の進める中央新幹線整備計画というものは、2011年5月に国土交通大臣の出した建設指示に基づいています。

●2027年開業
●南アルプスルート
●事業費5兆4300億円(2011年当時)
」といった前提で国から建設指示が出されているんですね。JR東海は、その枠内で環境保全措置を検討すればよいことになります。
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国土交通大臣による整備計画の決定 

はっきりと「南アルプス中南部を経由」と指示してあります。ということは、南アルプスでのトンネル工事が困難になるような環境保全措置は検討しなくてよいという理屈になります。先ほどの静岡県知事による斜坑計画の再検討要請も、実行可能な範囲を超えているので、端的に言えば、検討しなくてもよいことになります。

さて、河川の流量問題に戻ります。

静岡県の大井川については、毎秒2トンもの河川流量の減少が試算され、しかも根本的な解決策がない。さらに排水のためのトンネル(導水路)を掘ると、別の沢まで涸らしかねないというおかしな話。

(関連事項)

これだけ流量減少が大きく試算されたのは、ひとえにトンネルの位置に問題があると思います。川の真下に1㎞近くにわたって3本のトンネルを掘るとか、そこに4本のトンネルを集中させるとか、川をくぐらせて斜坑を掘るだとか、どう考えても河川への影響を意識した配置だとは思えません。

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上図の二軒小屋付近を拡大
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ですから河川環境を維持するためには、このように水系を無視したトンネル配置を根本から問うことが不可欠となります。

しかし川への影響を小さくするためにトンネル位置の再検討を提案したとしても、上述の通りJR東海が「それはムリ」と判断すれば、それで議論は打ち切りになってしまうでしょう。

したがって、河川流量の問題について深く言及するのであれば、その上位計画である「中央新幹線整備計画」と、それに基づく「建設指示」にさかのぼって考察する必要があると思います。



私の考えでは、河川流量について2011年当時における国の責任問題は、次のように整理されると思います。

●河川流量を観測するよう指示を出しているのに、中央新幹線小委員会におけるルート選定段階において、河川についての議論を行わなかった。
●全幹法に基づいて国の指示した地形・地質調査の内容はいかなるものであったか。
●利水・治水とは無関係に法河川の流量を減少させる行為は河川法の想定外である。法の想定外となりうる事業を国が指示したことになる。

同じような国の責任は、発生土処分計画、エネルギー消費等、様々な懸案についても言えるかと思います。


取材してから報道すべきだと思う

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先日の品川駅起工式に関係して、ここ数日、妙にリニア関連のニュースが流されているようです。いずれも2027年名古屋開業を前提として東京~名古屋間が通勤圏になるとか、品川駅周辺が生まれ変わるとか、名古屋が急速に経済成長を遂げるとか、果ては名古屋が大阪にとって代わるとか、そのように夢のようなことが語られているようです。

日テレNEWS24公式ページ

ハイクラス層のためのパーソナライズ不動産投資情報サービス「ファミリーオフィス」
リニア中央新幹線、品川駅がついに着工。大きく変わる経済圏!今後どうなる? 
https://familyoffice.estate/search_list_magazines/detail/212

産経新聞
「名古屋、大阪も通勤圏内に」 リニア品川駅起工式 
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160127-00000605-san-soci

読売新聞
品川発展の追い風に…リニア駅起工式 
http://www.yomiuri.co.jp/local/tokyo23/news/20160128-OYTNT50035.html

乗りものニュース
三大難所リニア品川駅が着工 走る新幹線の下に 
http://trafficnews.jp/post/48150/


しかしJR東海の事業計画や、沿線とのやり取りを眺めてき者としては、どうも「話題作り」だけが先行しているという感想を否めません。そういう意図があるのでしょうか?

例えば上記の「乗りものニュース」をはじめとして、あちこちのマスコミが、品川駅、南アルプス、名古屋駅が”三大難所”とするJR東海柘植社長の言葉をそのまま引用しています。

確かに「技術的に難工事だから先行して着工」という見方が可能です。けれども、この3か所については土地取得が不要だから起工式を行えたとも言えます。品川駅と名古屋駅は既存の東海道新幹線駅の下ですし、南アルプスの起工式を行った山梨県早川町については、8年前からボーリング調査用として土地を確保しています(しかも無人地帯)。

その他については、現在のところ全く土地は取得していないはずです。

リニアの8割は地下ですが、それでも地上区間の土地は購入しなければなりません。軌道以外にも、必要な土地はたくさんあります。

例えば相模原市と中津川市には車両基地を新設する計画があります。長さ2000m、幅400mという、まるで空港を造れそうな大きさですけど、同じぐらいの規模の公共事業の場合、土地を確保するのに何年もかかるのが常ですから、簡単に話が進むとは思えません。

また、トンネル工事にしろ品川の地下駅にしろ、穴を掘る以上は掘った土を置く場所を確保しなければ、物理的に作業ができません。これについても用地選定⇒環境調査⇒地質調査⇒開発許可⇒土地取得という手順を踏まなければなりませんから、土地を確保するまでだけでも、最短で2年程度はかかります。もしも猛きん類の生息の可能性がある場所ならば、その調査にはさらに1年が必要となります。処分方法が決まっていないのは全区間で5000万立方メートル以上、目星すらついていないもにに限っても、2500~3000万立方メートルはありますけど…。

岐阜県のウラン鉱床なんて、万一掘り当ててしまったら、おそらくどうしようもない…。


したがって「2027年度開業」は、もはや机上の空論となりつつあると思います。 

着工の目途もたっていない、つまり予定通り完成するかどうかも分からないのに、なぜ「2027年開業で名古屋経済が大発展!」みたいなことが書けるのでしょう。

これくらいのことは、地道な取材や検証をするまでもなく、地方紙で報じられているようなことです。要するに在京メディアは取材をしていないし、事業計画を調べてもいないという感想を否めません。これでジャーナリズムとして成り立っているのでしょうか?

それから、在京メディア(テレビ、新聞、鉄道雑誌、ビジネス誌)が報じるリニア関連の記事を眺めていて常に感じることですが、リニア建設のための土地を追われる人々や、生活が大混乱に陥ってしまう人々、それから施設建設で分断される集落といった”地域の目で見たリニア計画”って、ほっとんど顧みられないんですよね…。 


◇   ◇   ◇   ◇   ◇

もっと具体的に考えてみる。

南アルプス静岡県部分の事例である。「三大難関」とされる南アルプスの中枢部分である。

環境影響評価書には、全都県での工事のスケジュールが次のように示されている。1年目=平成26年度に用地買収をしながら工事を開始し、13年目には試運転を開始するつもりらしい。
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静岡における、もう少し詳細な工事計画は次の通り。ちなみに静岡県内の事業予定地は、全て製紙会社1社の社有林なので、ユネスコエコパーク管理運営計画に支障をきたさぬ限りは、用地取得に手間はあまりかからないと思われる。
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上段における「12年目」が、下段でいう「11年目」に相当するものと思われる。まる11年間で工事を終わらせる計画である。

14年目を2027年度末と設定してみると、試運転開始は2026年春頃であり、工事開始はその11年前となっているはずである。評価書の出された2014年8月時点では、2015年度つまり現時点で静岡県内でも着工している段取りであったわけである。

けれども実際には、着工の目途は立ってたっていない。ということは、「2027年度開業」という当初予定は、既に実現が怪しくなっているわけである。

さて、静岡県におけるトンネル本体工事までには、次のような手順が必要になるはず。

まずは、
・事業計画変更の承認(発生土処理、工事用道路、導水路)
・発生土置場における生態系・景観調査(アセスでやっていない)
・発生土置場の地質や地形の調査
・発生土置場周辺の崩壊地・地すべりの実態調査
・導水路計画の妥当性の審議
・河川上流部や沢における生態系への環境保全措置の検討
・林道における登山者等への対策 

これらについて県と市の合意を得たうえで、地元市民の合意も必要となる。それから

・森林法に基づく林地開発許可申請
・河川法に基づく河川への盛土・掘削の許可申請
・静岡市南アルプスユネスコエコパークにおける林道の管理に関する条例への適合性審査
・静岡県県立自然公園条例に基づく指定動植物の採集・損傷の許可申請
・水利権調整
 

などを受けなければならない。そのうえで

・林道改修
・発生土置場の整地
 
宿舎の建設 

から始まり

・工事用道路トンネル(長さ約4500m)の建設 

を終えて、

・斜坑(長さ3100mと3600m) 
を完成させて、初めてリニアの走行するトンネル本体工事に着手することになる。

発生土置場についての諸調査については何年かかるのか分からない。周囲は標高2400m前後の山に囲まれており、その山のてっぺんに測器を設置し、地すべりや崩壊の動向を調べねばならないからである。寒冷地ゆえに気象データの取得も必要となろう。もしも大掛かりな対策工事が必要となるのなら、新たな環境調査が必要となるし、完全にダメな場所なら、発生土処分計画をゼロから見直さなければならない。これらを終えて、当該地の安全性を証明しなければ森林法第10条の2に基づく林地開発許可は出せないのである。
⇒林野庁 林地開発許可制度 


林道改修には1年程度、長大な工事用道路トンネルの完成までには2~3年かかるだろうし、その次に掘り始める斜坑の完成にも3年はかかる。そこまでやってから列車の通るトンネルを掘り始めるわけである。

つまり、静岡でのトンネル本体工事までには、最短でも今から6年程度は必要となる。最短で2022年度から掘り始めて2026年に試運転を始められるはずがない。

同時に、漁協への対策も必要になるし、ユネスコへの説明責任も生じるという。後述の通り、地元住民とのコミュニケーションすら成立していないのに、ユネスコにどうやって説明するのだろう?

万一の事故や火災等に備えて、市、県、警察、消防など関連する行政機関との協議も必要になるはずだけど、無人地帯なのにどうやって対応するのだろう? ヘリコプターを常駐させるのだろうか?


だから、2027年度名古屋開業は、もはや不可能であろう。

なお、お隣の長野県大鹿村の場合は次のような順序になる。
発生土置場の確保

道路改良工事

斜坑掘削

本体工事

当然ながら、各段階で住民の合意を得なければならない。しかしJR東海による調査の不手際、トップダウン式の一方通行な説明会、住民意見は聞かないのに事業者の都合は押し付ける、といった硬直した姿勢が住民の強い怒りを招き、全くコミュニケーションが成立していないという話をよく聞く。昨年8月には工事差止め処分を名古屋地裁に訴えるという事態にまで発展している。

どう考えても住民との合意が得られそうにないのだが、その原因は「超電導リニア方式」という、硬直しきった事業計画に根を持つのは間違いない。

富士川町 第四南巨摩トンネルの大量発生土量はどこから生み出されるの?

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リニア計画の問題を追いかけているジャーナリスト樫田茂樹氏のブログにおいて、早川町内のレポートと同町内における発生土量と運搬車両のナゾがまとめられています。


これを眺め、改めて山梨県内における発生土量を見直してみたところ、早川町の東隣に位置する富士川町内における発生土量について、気になった次第であります。

JR東海は、富士川町と早川町との間に「第四南巨摩トンネル」を計画しています。なお正式名称は”隧道”ですが、ここではトンネルとよびます。

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このトンネルは長さ8627m。山梨県の評価書資料編によると、そのトンネルから東側に181.9万立米、西側に94.2万立米、合計283.3万立米の発生土が掘り出される試算になっています。

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山梨県編評価書 資料編 廃棄物のページより複製
青の枠内が第四南巨摩トンネルからの発生土量
高下地区が東側、早川町青崖地区が西側坑口となる 


評価書に書いてある数字を図示すると以下のような具合になります。

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背景画像は国土地理院地形図閲覧サービス「うぉっちず」より複製・加筆 


この283.3万立米という数字、長野県側で計画されている伊那山地トンネルからの総発生土量290万立米とほぼ同じになります。しかし、長さ15300m・斜坑総延長3000mの伊那山地トンネルと同じ量が、8600m・斜坑1800mのトンネル建設で生じるとは不自然です。

何だかアヤシイので、ちょっと検証してみます。

まずは、断面積と長さから、どれだけの容積を掘るのか見積もります。

トンネル内側の面積は74㎡としていますが、実際に工事を行う際はコンクリート壁の分を余計に掘らなければなりません。これについてJR東海は静岡県の準備書審査会では107㎡と説明しているので、この値を使います。
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南巨摩第四トンネルの長さは8627m。したがって掘るべき容積は8627m×107㎡で約92.3万立米となります。

また、このトンネル建設に先立って長さ1800mび斜坑(非常口)を設ける計画です。前述の資料より、斜坑の掘削断面積は68㎡とされているため、1800m×68㎡で、約12.2万立米となります。

合わせて約104.5万立米。

砕いた岩は不整形になるので、容積が増します。これを「土量の変化率」とよび、岩の種類や工法によって異なりますが、1.1~2.0倍ぐらいになるようです。同じく富士川町内で計画している第三南巨摩トンネルでは、どうやら1.49を使用しているようなので、この値を当てはめると、104.5万立米×1.49で約156万立米。南巨摩第四トンネルからは、これぐらいの発生土が掘り出される勘定となります。

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しかし冒頭に記した通り、評価書によると、ふたつの斜坑から掘り出されるのは283.3万立米になるとのこと。

これはおかしい。残り130万立米はどこから掘り出されるのだろう?

この量を8600mのトンネルだけで掘り出すとすると、断面積は206㎡になってしまいますが、こんなに大きいはずがない。先進坑を設けるにしても、これでは大きすぎます。南アルプストンネルでの先進坑断面積は55㎡としてますので。

第四南巨摩トンネル北側の高下地区では、変電所や保守施設を計画しており、他地域より大量(240万立米)の発生土を運び込んで盛土するとのことなので、そこでの整地によって生じるのかとも考えました。しかし評価書によると、高下地区での切土つまり地上工事による発生土量は4.2万立米。関係がないようです。
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赤枠内が高下地区への発生土量
地上工事での発生土は切土の欄 

あと考えられるのは、高下地区に想定している保守施設がトンネルと一体化した大規模地下構造である可能性ですけど・・・

そんなことは評価書には一行も書いてないよなあ・・・?


南アルプス 発生土置場の大崩壊地の裏には巨大地すべり?

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先日、清水区(旧由比町)の薩埵峠(さったとうげ)へ行ってまいりました。

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写真は薩埵峠から望んだ富士山。安藤広重の東海道五十三次「由比宿」の図案で、あるいは高度成長期ニッポンを象徴する光景としてお馴染みの風景。

さて、その薩埵峠駐車場にて、富士山方向を向いて足元のミカン畑に目を転ずると、こんなものがあります。直径4~5mの円形の施設です。
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金網でフタがしてあり、内部は相当に深いようです。同じようなものが周辺に数か所設けられており、ジャバジャバと水の流れる音の聞こえてくる場所もあります。

これは深礎杭とよばれ、国土交通省による地すべり対策用の巨大な杭なんだそうです。近くにあった看板によると、深さは70mにも達するとのことです。


ところで薩埵峠付近における土砂災害というと、最近では2014年10月の台風18号で発生した、斜面崩壊による東海道本線の寸断を思い出します。1年以上たった現在も、JR東海によって崩壊地の対策工事が行われています。
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東海道本線寸断箇所 2016年2月の現状
斜面に枠をかぶせている。これからモルタルを吹きつけるのかな? 

しかし国土交通省による対策工事の対象となっているのは斜面崩壊ではなく地すべりです。両者は似ているようですけど、異なる減少です。

斜面崩壊は一瞬にして比較的小面積の浅い部分が崩れ落ちるのに対し、地すべりというのは数十mの厚さを盛った山肌が、そのままズルズルと滑り落ちてくる現象をさします。ここ由比の地すべりは比高数百m、幅は数㎞に達します。

こんな看板もあちこちに立てられています。
イメージ 4

このあたりを歩き周ると数㎞四方の範囲内のあちこちで工事の真っ最中。山を挟んで西側の平地でも各所で工事がおこなわれています。何年前から始まったのか、いつまで続くのか、さっぱり分かりません。
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何だかわからないけど急斜面に作業用地を造成中 

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水抜用のトンネル建設現場 


◇   ◇   ◇   ◇   ◇ 

なぜ地すべりの話を持ち出したかというと、どうやら南アルプスでの発生土置場候補地も地すべりとは無縁ではなさそうだからです。

JR東海が360万立方メートルもの発生土を巨大盛土として捨てようとしている大井川源流部の燕沢平坦地。
イメージ 10
燕沢平坦地に計画している発生土置場の想像図
Google Earthより複製・加筆
 左上に崩壊地があるが、これは地すべりではない。 詳細はこちらを参照していただきたい 

この場所、多数の山崩れに囲まれていることから、巨大な盛土で河原の幅を狭めた場合、土砂崩れによる河道閉塞の危険性が指摘されています。しかしこれまで問題にされてきたのは、既存の大規模崩壊地(千枚岳崩壊地)から流出する流出土砂のことでした(例:準備書に対する静岡県知事意見)。

ところが、独立行政法人防災科学研究所の作成した地すべり分布図「赤石岳」によるど、どうも燕沢平坦地西側の斜面は、全体が巨大な地すべりになっているらしいのです。高さにして、実に1000m以上になるようでして、先の由比地区での地すべりは、比高は大きいもので400m程度ですから、2~3倍の規模になります。

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独立行政法人防災科学研究所の作成した地すべり分布図「赤石岳」より一部を複製 
凡例等については同図研究所HPよりダウンロードのうえ参照していただきたい 
http://lsweb1.ess.bosai.go.jp/pdfview/index.html

これに発生土置場候補地を記入しますと・・・

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先にも述べた通り、「地すべり」とは、山腹がジワジワゆっくりと、下方に滑り落ちている状態。その可能性があるところで、川を挟んで反対側に巨大な盛土をしようというわけですが…

もしも地すべりだったら危ないんじゃないのか?
地すべりであった場合を想定すると・・・

●ここの地すべりの下方には、大井川が流れています。滑り落ちてきた地面(移動体)は、川の流れに接することになりますします。そこが流れに削られると、バランスを失ってさらに上部からのしかかってくることになります。これの繰り返しで滑り続けていると思われます。反対側(東岸)に大規模な盛土を行うと、川の流れは必然的に西岸に押しやられることとなります。すると、常に地すべり移動体を削り続けることになるでしょう。地すべりの移動速度を増大させることにつながるのではないでしょうか?

断面をイメージするとこんな感じ。
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直線は750m間隔(Googleで断面図を作成してコピペ) 


●地すべりによって災害の起こる可能性がある場合は、先の薩埵峠の事例でみたような対策工事が必要となるかもしれません。JR東海の行ったアセスとは無関係に、工事区域が無秩序に拡大してゆく可能性があります。

●燕沢に巨大な盛土をおこなう計画を静岡市に説明したのは2015年7月。他方、国土交通省に工事費等を提出したのは2014年8月のことですから、この工事費に地すべり対策費用は含まれないことになります。工事費が膨らむ一因となるかもしれません。

●大規模な地すべりの存在する可能性がある以上、その調査が必要となります。さらに場合によっては対策工事が必要となるし、さらには動植物対策(調査や移植など)も必要となるかもしれない。そうした対応のために、長い時間が必要となるかもしれません。
 ちなみに、今月12日に開業する新東名高速道路では、開業が当初予定より1年遅れましたが、その一因は地すべり対策工事となっています。http://www.c-nexco.co.jp/corporate/pressroom/news_release/3530.html

◇   ◇   ◇   ◇   ◇ 

長々と回りくどく書いてきましたが、まとめます。

JR東海が大量の発生土をお香と計画している燕沢平坦地は、周囲を大小の崩壊地に囲まれていて土砂流出が激しい。それだけでなく、盛土予定地と川をはさんだ対岸には、大規模な地すべりの存在する可能性が指摘されている。このようなb所に大規模盛土を行った場合、地すべり末端を流れる大井川とどのような干渉を起こすのか不明であるし、対策工事が必要となった場合には、各種調査が必要となろう。このため調査が終了するまでは、燕沢平坦地の発生土置場としての妥当性を確認することはできない。よって、静岡県内における着工および開業年は、相当に遅れるのではないか。





リニア計画 大井川・導水路案は利水系統をぶち壊すだけだからやめたほうがいい

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「重箱の隅をつつく」ような話になります。そして、きわめて分かりにくい話でゴメンナサイ。

唐突ですが、東京電力は、大井川上流部の田代川ダムから取水し、早川水系の田代川第二、第一発電所に送り、発電機を回しています。常時認可取水量は1.98㎥/s、最大認可取水量は4.98㎥/sです。二つの発電所の最大出力はそれぞれ22700kWと17400kW。
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大井川水系の利水模式図 環境影響評価書より複製 

今からおよそ90年前の1921(大正10)年2月に、田代川水力電気事業株式会社なる会社に、大井川の水利権が認められました。この水利権は早川電力株式会社⇒東京電力(今の東電とは別物)⇒東京電燈株式会社⇒戦時体制下の日本発送電株式会社と受け継がれ、戦後になって現在の東京電力に引き継がれています。

1921年当初、水利権は2.98㎥/sとして設定されましたが、1963(昭和39)年に山梨県知事、静岡県知事より、4.98㎥/s(最大取水量)への変更が許可されています。
これに先立って大井川の中・下流に発電用のダムが次々とつくられてゆき、大量取水が問題となり、「水返せ運動」が発生してゆくことになります。

取水量としては、中下流域での中部電力によるもののほうがずっと多く、影響が大きいと思われますが、田代川ダムには

①流域外へ放流するので戻ってこない
②もともと流量の少ない源流域では河川環境に与える影響が大きい
 

という事情があり、流域からは問題視されています。

1975年の水利権更新時には、静岡県から山梨県と東京電力に対し、10年余り前の水利権増加分を削減するよう要望が出されました。いっぽう早川には大井川の水が約2㎥/sぶん、増えていることになりますので、水を使う側から見れば、発電や用水としての余裕が増していることになります。この事情が背景にあるがために、山梨県より「早川下流の発電や農業用水に影響する」としいう回答が寄せられています。このときは代替案として、中部電力塩郷堰堤より0.5㎥/sだけ流し、東電が中電に補償を行う案で終結しました。

長くなるため詳細は割愛しますが、粘り強い運動の末、それから30年後に巡ってきた2005年の水利権更新時には、この田代川ダムから環境維持流量として最低限0.43㎥/sを下流に放流すること、水利権の有効期限を30年から10年に短縮することで合意がなされました。

さらに10年を経た昨年末の水利権更新時には、環境維持放流0.43㎥/sを継続すること、より放流量を増やすための調査を行うことで話がまとまっています。
(静岡新聞記事)
http://www.at-s.com/news/article/politics/shizuoka/155418.html

◇   ◇   ◇   ◇   ◇ 

さて話はリニア計画との関係に移ります。

JR東海は環境影響評価において、「南アルプスにトンネルを掘ると田代川ダム付近で大井川の流量が約2㎥/s減少する」という試算を発表しました。これに対し、大井川流域より強い懸念が寄せられましたが、ロクな対策を出さぬままに事業は認可。そして事業認可後になって、「リニアのトンネルから大井川に向けて導水路を掘り、トンネル内へ流入した水を放流する」という対策案を発表してきました。

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JR東海ホームページより複製・加筆 

この導水路案、標高の都合上、その出口は田代川ダムよりもずっと下流になります。したがって東京電力のもつ水利権の保証にはなりません。よって確実に田代川第二・第一発電所の能力は激減します。これは、以前に当ブログで指摘したことです。

ところが、影響を受ける範囲は、どうもこれだけで済まないと思われるのです。いやむしろ、導水路を建設した場合には、大井川水系ではなく早川~富士川水系でも影響が出かねないなど、広い範囲で混乱が起こりそうなのです。

早川の田代川第一発電所より下流には、早川および富士川本流から取水している発電所が4つあります。早川から取水しているのは早川第一、波木井の各発電所、富士川本流から取水しているのは富士川第一、富士川第二の両発電所です。このうち早川第一発電所は東京電力が所有し、残り4地点は日本軽金属株式会社の所有となります。

ちなみに富士川第二発電所は静岡市清水区の旧蒲原地区にあり、旧国道1号線や東海道線の車内からは目と鼻の先となります。
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富士川第二発電所から駿河湾に放流される水 

これら4つの発電所には、それぞれ水利権が設定されていますが、いずれも「早川および富士川の流量には大井川からの2㎥/sが上乗せされている」前提で取水しています。ここから2㎥/sが減少したら、早川~富士川沿いの発電所をはじめとする水利に多少の混乱が及ぶのではないでしょうか…?

相対的に大きな富士川の流量からみれば、2㎥/sの減少は小さいように見えますけど、最下流の北松野観測所における流量は年平均で15㎥/s程度しかないらしいので、そこからの2㎥/s減少となれば、影響は無視できないのかもしれません。
(国土交通省水文水質データベース)

いっぽうJR東海の計画する導水路出口より下流には、とりあえず2㎥/sの水が回ってきます。東電が取水する分を、JR東海がリニア用のトンネルと導水路を用いて大井川本流に迂回させた構図になります。

ややこしくなってきたので、先の利水模式図に田代川第一発電所より下流での発電所と、JR東海の計画している導水路とを記入しておきます。
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単純に考えれば、大井川下流の住民からみれば、早川に流れ込んでいた分が返ってくるのですから、それはそのまま流してほしいところ。しかしおそらくは、そっくり中部電力の発電所に取水されるのでしょう。

なぜなら、導水路を建設しても、導水路出口より上流で取水している中部電力の発電所には、水を回せぬままであり、その分、中部電力の得る発電能力は回復できないためです。しかも導水路は大井川の河床よりも低い位置に建設されるため、これ自体が0.5㎥/sの水を吸い込むという試算もなされています。それならば、下流で2㎥/sの余裕が生じるのなら、それを自社の下流の発電所に回したいと考えるのが自然なはず。最終的には、最下流部の上水道や農業用水へと巡ってきますけど、河川環境の維持にはつながりにくいでしょう。

以上のように、導水路で2㎥/sのトンネル湧水を大井川に放流すると、計算上は、発電能力の増す発電所と減る発電所が出現します。その増減を見積もってみました。
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導水路建設後の田代川ダム周辺での利水系統の変化 
これをもとにして発電所の出力変化を試算
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試算結果をご覧のとおり。ポンプアップによす電力消費を加味すれば、大井川の水を使用する発電所全体では、12000kW程度の出力低下となりました。もうちょっと詳しくみると、中部電力は10000kW程度のプラス、特種製紙は少々のプラス、東京電力は18000kW程度のマイナス、日本軽金属は3900kW程度のマイナスとなっています。利害が分かれそうです。

さらに、これに農業用水や上水、それから漁協の利害関係を加えると、さらに話がややこしくなりますし、河川環境の問題を加味すると、ホントに訳が分からなくなります。

それならば導水路など建設せずに、トンネルへの流入量2㎥/sは早川に垂れ流したまま早川~富士川筋の水利に回し、大井川の流量減少時には田代川ダムからの取水量を減らすよう、JR東海が責任をもって東京電力と協議を行ったほうがよいのでは・・・?

こうすれば、影響を受ける発電所は中部電力の二軒小屋発電所と東京電力の田代川第二・第一発電所の3地点だけで済みます。余計な残土や導水路への水の吸い込みといった環境負荷も防げますし、トンネルを掘ったが流量減少は起こらなかった場合に導水路が無駄な環境破壊となるリスクを回避することもできます。


参考にしたもの
中部電力株式会社静岡支店大井川電力センター 編集(2001) 『大井川 文化と電力』
中川根町史編さん委員会 編集(2006)  『中川根町史』
本川根町史編さん委員会 編集(2003)  『本川根町史』
日本ダム協会 編集(2014) 『ダム便覧』


だからJR東海の環境アセスメントは信頼できない ―岐阜県 土壌汚染未報告問題―

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既にご存知かもしれませんが、一昨日、岐阜県のリニア建設予定地において、井戸などから環境基準以上の濃度の有害物質が検出されたものの、JR東海が県に報告をしていなかったという発表がありました。

新聞報道の一部を引用します。

リニア工事 基準超す水銀検出 JR東海、県に報告せず /岐阜
毎日新聞2016年2月23日 地方版
 県は22日、リニア中央新幹線工事に伴いJR東海が2012〜14年に実施した地下水調査などで基準値を超す総水銀などが検出されていたにもかかわらず県に報告していなかったと発表した。県は要綱で有害物質による汚染を確認した際は報告するよう求めているが、JR東海は「要綱を承知していなかった」としている。県はJR東海を注意し、経緯や再発防止策を報告するよう指示した。 


これは、ひょっとしたら「要綱を承知していなかった」ではすまされない問題かもしれません。と同時に、行政による監視の限界が露呈した事態と言えそうです。

こちらは岐阜県庁の報道発表資料です。
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岐阜県庁ホームページ 報道発表資料より複製 


ここで注目していただきたいのは、「平成24~26年に実施した調査結果」のうち、井戸水調査の2地点です。瑞浪市大鍬町地内という地点ではふっ素が、多治見市北丘町地内という地点では総水銀が、それぞれ基準値を超過して検出されたものの、JR東海は県の担当部署への報告を怠ったとされています。

両地点について、採水年月日をご覧ください。瑞浪市大鍬町ではH25.1.31に、多治見市北丘町ではH25.1.29に行ったとしています。

ところで、JR東海は環境影響評価の過程において、地下水の水質調査を行っています。問題の井戸についても現地で採水調査を行っており、環境影響評価書によれば、その日付は「平成25年1月29日~平成25年2月15日」とされています。

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 環境影響評価書 岐阜県編 地下水の水位及び水質8-2-3-17ページより複製・加筆 


したがって、この報告漏れのあった採水調査とは、環境影響評価として行われていたと思われます

それでは結果について、環境影響評価書ではどのように扱われていたのでしょうか? 

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環境影響評価書 岐阜県編 地下水の水位及び水質8-2-3-20~21ページより複製・調整・加筆


まずは瑞浪市大鍬町に着目してみます(赤枠)。

評価書の表によると、この井戸では自然由来のふっ素が1.1㎎/L検出されたと記載されています。基準値は0.8㎎/L以下と併記してあるので、基準値超えであったことが分かります。

したがって瑞浪市大鍬町については、基準値超えという結果について評価書という形で公表自体はしていたものの、県の適切な部署(県事務所環境課)への報告は怠っていたことになります。これについては冒頭の報道通り、報告漏れ、つまり「うっかりミス」の範囲でくくられるかもしれません。

次に多治見市北丘町に着目します(青枠)。

ここについては、上段の表8-2-3-8(1)では水温やOHなどの調査結果が記されています。しかし下段の表8-2-3-8(3)「自然由来の重金属等」には記載がありません。どういうことなのかな?と思って、評価書の別ページに目を移すと、次のような表がありました。

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この多治見市北丘町については、、「自然由来の重金属等」の調査を行っていないとしているわけです。

しかし、岐阜県の報道発表資料によれば、採水調査によって基準値以上の総水銀が検出されたことになっていますよね・・・?

 

水質の分析調査をしていないはずの井戸で、水質調査の結果、基準値以上の総水銀が検出されていた? 

意味が分かりません 

現時点で言えることは、JR東海は現地調査を行った事実そのものを、評価書には記述していなかったことになります。うっかりミスなのか、意図的なのか、判断はつきませんが、どちらにせよ、事実とは異なる結果を評価書に記載していたことになります。

これは極めてひどい事態だと思います。なぜなら次のようなことが考えられるためです。

①ここ岐阜県では、リニアのトンネルはウランを含む鉱床を貫く。地元より多大な懸念が寄せられていることに対し、JR東海は、「ウラン鉱床は回避できるから問題はない」「ウランを含む部分は掘らない前提で工事を進める」「モニタリングを適切に行う」としている。
ウランが検出されても同じような姿勢をとるのではないか? 

②事後調査として、水環境や大気環境などのモニタリングを行い、万が一影響が生じた場合は速やかに報告をして対策を講じるとしている。
速やかに報告を行っていないことが露呈した。 

ほかの項目でも、ほかの県でも、同じようなことがたくさんあるのではないか?
例えば、JR東海は重要な動植物について「現地調査で見つからなかったから対策は不要」という姿勢を貫いている(例:静岡県大井川のヤマトイワナ)。このたびの問題は、その現地調査結果自体の信頼性を失わせるものである。
都合の悪い事実は伏せているのではないか?  

環境影響評価の過程で事業者が事実と異なる報告をしていても、行政機関にはそれを見抜くことができなかったことが判明した。 
結局、環境影響評価制度は事業者を性善説とみなして進められるため、事業者の都合によって情報を操作されてしまう可能性を否定できない。行政や審議会の有識者には、それを見過ごさぬ能力が求められるのだけど…。

大井川 水返せ運動と電源開発とよそ者リニア・導水路案

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大井川での導水路計画について、話が混乱してきたため、改めてまとめようと思っておりましたが、岐阜県のほうでJR東海がおかしなことをしていたため、そちらに話題が移りました。

導水路計画のあらましについては前々回記事を参照。

大井川導水路計画のおかしな点・メリット・デメリット 

①おかしな点
●環境影響評価手続きの過程では明らかにされてこなかった。 
ゆえに、環境影響評価法に基づく手続きは経ていない。導水路建設にかかる環境への影響についてはきちんと調査されていないし、公衆等からの公式な意見聴取も、静岡市や県の要綱に基づく環境影響評価審査会での審議も経ていない。

●実現不可能な案との比較で出されたものである。  
導水路案は、JR東海が自主的に設置した「大井川水資源対策検討委員会」と称する有識者会議において、妥当と判断されたとことを建設の根拠としている。しかし同委員会においてJR東海が提案した他の水資源対策案は、

1.堆砂除去による既存ダムの容量確保、
2.ダム新設による水資源確保
3.リニアのトンネル出口の早川より長大導水路で大井川に水を戻す 

という、実現性の乏しいものばかりであった。いっぽう、半世紀にわたり大井川における水資源問題で取りざたされてきた、既存ダムからの放流量の調整は、全く検討されていない。


②メリット 
●JR東海としては、トンネル本体に湧出した水を自然流下させるのであれば、くみ上げ費用は不要となる。よって工事費を節約できる。
●理論上、完成すれば大井川下流での水使用への影響はなくなる。
⇒ただし、電力会社の意向次第。

③デメリット 
●水力発電所の出力維持にはならず、水利権をもつ電力会社の動向が不明となる 
1.東京電力のもつ田代川第一、田代川第二発電所は、渇水期には全く発電できなくなる。それより下流で早川の水に大井川の水を合わせて(行政用語で注水とよぶ)発電している早川第一発電所、および日軽金(株)の所有する波木井、富士川第一、富士川第二発電所も出力低下の可能性がある。

⇒JR東海には、出力低下に対し、多額の補償金を払う必要が生じる。また、新たに富士川水系全体での利水系統を調整する必要が生じる。

⇒早川町内にある水力発電所からの固定資産税はどうなるのだろう?

2.最上流部にある中部電力二軒小屋発電所も、出力は大幅低下が予想される
が、導水路はこれの維持に寄与しない。

3.導水路をつくると、中部電力のもつ赤石発電所の発電能力はかえって低下する。
⇒導水路出口は、同発電所が大井川より取水している木賊取水堰よりも下流となる。しかも、導水路建設によって同取水堰への流入量は0.5㎥/s減るとの試算である。

●以上のように導水路出口より上流には水を戻せない。したがってこの区間における川の自然環境の保全には、何ら役立たない。 

導水路出口より上流の環境維持のために水をポンプで汲み上げるのであれば、きわめてバカバカしい状況が生じる。 
⇒東京電力は大井川の水を早川に落として電力を得ている。その真下で、JR東海は大井川の水が早川に堕ちないように、電気を使ってポンプで汲み上げる。

●静岡県が得ている各発電所からの水利使用料が減る 
⇒水利使用料は発電能力に比例する。出力が低下すれば、その分減額される。
『資源エネルギー庁のHPより引用』
水力発電に利用した河川水の使用料として、事業者から納付される水利使用料(流水占用料)が都道府県の収入となります。下記に1年間に納付される水利使用料の計算式を示します。
揚水発電所以外:1,976円×常時理論水力+436円×(最大理論水力-常時理論水力)
http://www.enecho.meti.go.jp/category/electricity_and_gas/electric/hydroelectric/support_living/effort003/ 

●発生土量が増える 
⇒断面積は10~20㎡、延長11400mを計画しているという。すると発生土量は25万立方メートル程度になると見込まれる。

●工事規模の拡大 


以下、ブログ作者が勝手に考えた内容になります。

大井川から早川へ引水する田代ダムが建設されたのは1925年である。以降、電力会社の統廃合を経て、戦後に成立した現在の東京電力が、大井川の水利権を受け継ぐ。

この時代は国策として全国各地で電源開発が進められてゆく。大井川においては1952年電源開発基本計画に従い、井川、畑薙第一、畑薙第二、笹間、塩郷と、10年程度の間に次々とダムがつくられていった。

1960年の塩郷ダム完成にともない、大井川中流域では完全に水が流れなくなり、ダムの堆砂問題も相まって、「水返せ」運動が活発化してゆく。真っ先に問題視されたのは、流域外へ水を流している田代ダムである。

東電が水利権を受け継いだ当初、許可されていた取水量は2.92㎥/sであった。その後1955年、高度経済成長に伴う電力需要のひっ迫により、東京電力は取水量を4.99㎥/sに増やすことの許可を静岡県、山梨県に申請し、1965年に認可されることになったのである。

地元からの声に対し、1975年、当時の静岡県知事より山梨県・東京電力に対し、取水量を元に戻すよう要望が出される。しかし東京電力は不可能と回答。山梨県も早川流域での利水が既成事実化していることを根拠に不可能という見解。代替として中電が毎秒0.5トンを放流し、東電が中電に費用を払うことで妥協している。

その後、電力会社や建設省への陳情を重ね、独自に調査を依頼するなど1980年代に入って運動が本格化。1989年の中電の水利権更新時には環境維持目的で放流をさせることが実現する。

2005年の東電・田代川ダムの水利権更新時にも、東京電力に対し、田代川ダムからの法流量を、年間最低でも1㎥/sを維持するよう要請。しかし東電は0.1㎥/sが限界という回答を続ける。最終的に、
・渇水期にも最低0.43㎥/sを放流すること
・水利権の更新期間を30年から10年に短縮すること
・今後も放流量を増加させるべく努力を継続すること
で妥協し、現在にいたっている。

さて、ここに割って入ってきたのがリニア計画である。環境影響評価書によれば、リニアのトンネルを掘ると、田代ダムへの流入量は年平均で2㎥/s、渇水期でも1.83㎥/s減るとの試算がなされている。この数字は、地元が半世紀にわたって東京電力に求めてきた環境維持流量とほぼ同量である。そして東京電力は一貫して不可能として突っぱねてきた値でもある。

上述の通り、導水路を建設しても、田代ダムへの流入量は増えない。東京電力は、これまでの地元への説明との整合性を考えると、この流入量減少を受け入れることはできないはずである

先に述べた通り、田代ダムから取水した水の行き先である早川町内の発電所の受ける損失も、無視できない数字であろう。

長くなるから詳細は省くが、中部電力のもつ二軒小屋・赤石両発電所についても、同様のことが言える。西俣・東俣・木賊堰堤からの水は、最終的には大井川本流に戻るので下流での水利用には直結しない(東電が取水するけど)。しかし堰堤直下での渓流魚への影響はかなり大きいので、ユネスコエコパーク移行地域という事情も踏まえ、環境保全の観点からは、維持流量を増やすべきである。

しかし中電としても、取水量を減らすことは避けたいのがホンネであろう。両発電所は運転開始から20年程度しか経っていないのである。特に赤石発電所は、支流の赤石沢に造った中規模ダムに、木賊堰堤から大井川本流の水を引いて貯め、発電に供している、かなり大掛かりな施設である。

リニアのトンネル&導水路は、これら堰堤付近での流量減少に拍車をかけることになる。導水路自体が木賊堰堤への流入量を余計に減らすのであるから、中電としてはおそらく認めがたいはずだし、河川の自然環境も余計に悪化しかねない。

それにこんな案を受け入れれば、やはりこれまで地元からの放流量増量を突っぱねてきたことの説明がつかなくなる。

過剰に取水して河川環境も生活環境も荒らし続けているとはいえ、中部電力は、大井川流域に根差しているのもまた事実である。地元への密着度という点では、おそらくJR東海の比ではない。電力関係施設はそれなりに地元経済に寄与しているし、”ダムのおかげでできた”道路や施設もたくさんある。大井川鐡道井川線と中部電力との関係も重要であろう。大井川流域には「中電様」という言葉もあった。早川町や旧川根三町や井川地区において、JR東海は単なるヨソ者に過ぎないのではなかろうか。

導水路案というのは、長年にわたる電力会社と地元との交渉が醸し出した、複雑かつ微妙な緊張関係を無視した、「苦し紛れの珍妙な案」ではないかと思う。

たぶん、割って入る余地は少ない。


取水施設とリニアは共存できるのか? その1 西俣堰堤

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リニアのトンネル建設により、大井川の流量減少が予測されています。JR東海は、本坑の途中からトンネルを分岐させ湧水を流し、大井川の下流側に放水する”導水路案”で、下流の流量減少に対応できるとしています。
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大井川上流域を拡大
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 図1 大井川源流部の水力発電施設 

理論的にはこれで下流の流量減少は防げるものの、しかし導水路出口より上流の流量維持には結びつかず、また、直接的・間接的に、余計な環境破壊をもたらすのではないかという疑念がぬぐえません。特にトンネルの頭上には水力発電施設が多数配置されており、流量減少がこれらを管理する電力会社の意向にどのように関わってくるのか、全く読めない点が心配です。

さて、環境影響評価書によると、図の上端左側に位置する西俣堰堤付近でも、次のように流量が減ると試算されています。

年間
3.97㎥/s⇒3.41㎥/s
12~2月
1.18㎥/s⇒0.62㎥/s

西俣堰堤は、リニアの本坑よりも500m程度高い位置にあり、ここに水を戻すことは不可能です。流量減少が生じた場合、導水路とかポンプくみ上げといった対策を取りようがない。

この数字をどう解釈すればいいのでしょう?

そして河川環境や発電所への影響にはどのようなものがあるのでしょうか?

大井川の最上流部には二軒小屋発電所があります。間ノ岳から南に流れている東俣と、悪沢岳を時計回りに迂回して南東に流れる西俣との二河川より取水し、その合流点付近に落として発電しています。この二軒小屋発電所で使用している水量が公開されているため、これをもとに西俣堰堤付近における流量を見積もってみたいと思います。

参考にするのは静岡県がまとめた「図表で見るしずおかエネルギーデータ」という資料。推定方法を説明します。

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表1 西俣堰堤における推定流量の算出方法 

Aの月使用流量とは、一ヶ月間での水の総使用量です。これが入手した資料。
一ヶ月の数値から月平均での秒単位での取水量を求めるために、一月の日数と一日の秒数(86400秒)とで割ります。これがB
こうして求めた平均使用量は、西俣・東俣両堰堤からの合計ですので、西俣堰堤の流域面積が占める割合0.57をかけると、西俣堰堤からの取水量の推定値が求まります。これがCです。
さらに同堰堤に設定されている維持放流量0.12㎥/sを加えると、同堰堤付近における流量の推定値Dが出ます。


同様に、データを入手することのできた平成16年から平成23年の8年間について試算した結果がこちらになります。
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表2 二軒小屋発電所使用水量から推定した西俣堰堤における推定流量(単位:㎥/s) 

なお、西俣堰堤の下流にある田代ダムでの実測に基づく流量グラフ(省略)と比較し、電力会社側の都合で取水量を減らしていると考えられる月は除外しています(緑色の空欄)。

◇   ◇   ◇   ◇   ◇

以下、試算結果についての考察
 流量は年による変動が大きい。したがってJR東海の言う「現在の渇水期流量1.18㎥/s」は、流量の豊富な年と乏しい年とを単純に平均化した値ではないかと思われる。つまり流量の少ない年のことは考慮していない。

 特に冬の渇水期には、推定流量が0.6㎥/s程度にまで減る月も現れた。これらの月については、下流の田代ダムでの実測流量も極端に小さく計測されており、流量低下は電力会社側の都合による取水停止ではなく自然要因によると思われる。

 ちなみに平成20年2月~3月について気象条件を調べてみると、顕著な寒冬ではなく、冬型気圧配置が持続したわけでもなかったが、南アルプス方面に降水をもたらした低気圧は本州南岸を通過することが多く、館野850㍱の気温から判断すると、2月いっぱいは雨ではなく雪になっていたようである。降水が雪となって積もる一方であったから、川の流量増加には結びつかなかったのであろう。

 JR東海の予測では、渇水期には0.56㎥/s程度の減少が予測されている。これが現実となった場合、極端に流量が減少し、現在の維持流量0.12㎥/sの確保すら危うくなるのではないだろうか。流量が極端に減れば、川が凍結するおそれもあり、川に生息する生物への影響が懸念される。

 また、トンネル工事により流量が減少すれば、渇水期には西俣堰堤からの取水はできなくなる可能性がある。するとこの期間の発電は東俣堰堤からの取水だけに頼ることになり、発電能力は半減してしまう。この出力低下をどこか別の発電所で補う必要が生じるが、それは新たな環境負荷につながってしまう。

さらには、この下流にある田代ダムの維持流量について東京電力が説明したところによると、寒冷地の水力発電所は、常に一定量の水を流していないと凍結による被害を受けてしまうそうである(それにより、田代ダムは冬季も1.62㎥/sの取水を許可されている)。すると、西俣堰堤もまた、一定程度の水を流していなければならず、渇水だからといって取水を極端に減らすことは困難になる。すると、現在の維持流量0.12㎥/sをキープできるか、やはり疑わしくなる。

どうするのだろう?


参考 

【二軒小屋発電所 諸元】
最大認可出力 26000kW
取水位標高 1716m、放水位標高 1416.5m
有効落差 323.8m
最大使用水量 11.00㎥/s
常時使用水量 1.15㎥/s
東俣堰堤流域面積 36.0㎡
西俣堰堤流域面積 37.1㎡

【田代ダム取水量】
第13回大井川水利流量調整協議会 東京電力提出資料


リニアと大井川取水施設2 リニアと田代ダムは共存できないのでは?

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大井川の水を早川水系に送って発電している東京電力田代ダム。リニア中央新幹線のトンネルは、このダムのすぐ上流を通過する計画です。今回は、このダムとリニア建設後の河川流量について考えたいと思います。

トンネル建設により流量減少が予測されたことに対し、JR東海は大井川の水が早川に流出せぬよう、新たに導水路トンネルを掘り、ポンプ揚水を組み合わせて対策としています。

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図1 大井川源流部の水力発電所施設 

これを矛盾といいます。もしくはムダ。 

環境影響評価書によると、田代ダム地点での流量は、トンネルが完成すると次のように変化すると予測されています。

年間(注)
12.1㎥/s⇒9.99㎥/s
渇水期(12~1月)
4.08㎥/s⇒2,25㎥/s
 

”年間”で2.02㎥/s、渇水期は1.83㎥/s減るとの予測です。

(注)河川流量の年間分布は直線ではなく指数関数に近い曲線で表現される(流況曲線)。このため単純な平均値では無意味である、河川工学や水文学では豊水流量、平水流量、渇水流量というように区分して取り扱う。JR東海の示す年間流量とは何を表すのか不明であり、妥当とは言えない。 
以下に、静岡県中部を流れる藁科川の奈良間地点における、2012年の流況曲線を掲げる。同地点における流域面積は、田代ダム地点での流域面積とほぼ同じである。

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そもそもこの流量の予測前提は、妥当なのでしょうか?


◇   ◇   ◇   ◇   ◇ 


ここから取られた水は県境の尾根をトンネルでくぐり抜け、早川水系に落とされて発電機を回しています。このブログで先日触れたように、田代ダムに対しては、流域自治体から過去40年にわたり取水量を減らしてほしいと要望されており、2006年1月1日をもって、環境維持のための放流がなされることとなりました。

この維持流量について、適正な量を定めるための協議会が設置されています。大井川水利流量調整協議会というもので、議事録などはネット上では公開されていないようですが、第13回目の会合だけは、資料が県庁ホームページに掲載されています。

その中には、維持放流による環境改善効果を検証するために東京電力が提出した、平成18~22年の5年間における田代ダム地点での流量・取水量・放水量のグラフが掲載されています。非常に重要な資料であり、リニア建設による大井川への影響を気にかけている方は、必ず目を通しておく必要があると思われます。


◇   ◇   ◇   ◇   ◇

そのグラフを検証する前に、まずは予備知識。

田代ダムの取水量は、2005(平成17)年に協議会との間で協定が結ばれ、翌2006(平成18)年1月1日から現在に至るまで、次のように定められている。
・12/6~3/19  0.43㎥/s
ただし、河川流量が0.1㎥/sを超える場合に限り、1.62㎥/s の範囲内で発電取水ができるものとする。
・3/20~4/30  
0.98㎥/s
・5/ 1~8/31  1.49㎥/s
・9/ 1~12/5  1.08㎥/s

【最大認可取水量】
取水してよい上限量。
【維持流量】
河川環境を維持するために必要な流量。この量を常にダムから放流しておく義務がある。
【還元流量】
河川流量が減ったとき、最大認可取水量まで取水すると、維持流量が確保できなくなる。このため、取水量を減らして維持流量に回す必要が生じる。この減らしたものが還元流量。つまり、河川に還元した流量という意味合い。還元を実行している間は、河川流量自体がかなり減っていることを意味する。
 


◇   ◇   ◇   ◇   ◇ 


さて、こちらがそのグラフです。この5年間のうち、冬から春先の渇水がひどかった2008(平成20)年のものと、12月にやたらと降水量の多かった2010(平成22)年とを掲載します。

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図2 田代ダムにおける平成20年と平成22年の年間流量
第13回大井川水利流量調整協議会資料より複製 

重要な問題点をふたつ述べます。

●渇水期の流量は4.08㎥/sを下回っていることが多い。 
これを見ると、渇水期の流量は4.08㎥/sに達していないことが分かります。東京電力によると、この5年間の毎年の最小流量は次の通りであり、取水上限1.62㎥/sまで取水すると維持流量0.43㎥/sを確保できなくなるため、河川へ返納(還元放流)している日もあるとしています。その日数は多いとしてでは30日前後に及ぶとしています。
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表1 平成18~22年における田代ダムでの年間最低流量 
第13回大井川水利流量調整協議会資料より複製  

ということはJR東海の試算は全くの的外れなのか?

平成20年と平成22年それぞれ12月に着目すると、平成22年のほうでは一次的にやたらと流量が多くなっている日が目につきます。こうした数年に一度程度の、妙に降水量の多い年の値を単純に足し合わせて平均化を試みると、おそらく4.08㎥/sという数値に近くなるものと考えられます。したがってJR東海の試算自体はおかしくないが、これを現況流量の代表値とすることには疑問があります。つまり、渇水年のことを考慮できていない。

「重大な環境への悪影響を未然に予測し対策をたてる」というアセスの主旨に踏まえれば、この表現は不適当ではないかと思われます。


●ここから2㎥/s程度減ったら流れが途絶える? 
評価書では、年間(?)では2㎥/s程度、渇水期には1.8㎥/s程度、流量が減少すると予測されています。平成20年のグラフに、この減少量を当てはめてみます。

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図3 リニア完成後の田代ダムにおける流量想像図


するとこうなります。複雑な地下水流動のメカニズムを一切無視し、単にグラフをずらしただけであり、信頼性には欠けます。けれども現在明らかにされている情報では、これが一般人にできる検証の限界ということでご容赦ください。

で、ずらした結果について考察しますと、
○冬の渇水期には現在の維持流量0.43㎥/sすら下回ってしまった。
○8月後半にも維持流量を割り込む可能性がある。

○渇水期の3か月間、取水は不可能となる。
○取水可能な間も5カ月間程度は取水量を減らす必要がある。
○現在の最大認可取水量4.99㎥/sを確保できるのは年間4か月程度。
こんなことが言えそうです。


◇   ◇   ◇   ◇   ◇ 


これが実際に起こるとすれば、本当にマズい状況じゃないかと思います。

冬場にここまで流量が減少すれば、川の流れが凍結してしまうかもしれません。水生動物がどうなるのか、ちょっと想像がつきませんし、渓流魚や水生昆虫に依存する捕食者にも影響が出るかもしれません。それに上流で凍結すれば、下流での流量も激減してしまうかもしれない。

JR東海は導水路を造ることで環境対応が可能としていますが、導水路の出口は田代ダムより10㎞も下流。前回ブログで指摘した西俣からそこまで、長距離にわたって川が荒廃してしまうかもしれない。

逆に夏場も心配です。この2008(平成20)年は、5カ年の内では流量が最小であったものの、極端に降水量が少なかったわけでもなさそうです。大井川沿いのアメダス観測点井川における同年の年間降水量は2487.5㎜。平年(1981~2010)の3110㎜よりも少ない年でした。けれども、西日本中心に水不足に見舞われた2005(平成17)年は、もっと少ない2004㎜となっています。

2005年は空梅雨だったのですが、リニア完成後にこのような年が再来したら、夏場の流量減少はもっとひどくなると考えられます。すると水温は容易に上昇し、冷たい水を好む渓流魚や水生昆虫の生育に影響が出るかもしれません。

それから、これは環境問題とは別問題ですけど、こんな状況が予想されている事業を、東京電力は受け入れられるのでしょうか?

現在は、渇水期に1.62㎥/sまでの取水が認められていますが、これは発電機能維持のために最低限必要な量であるという、東電側の主張を考慮したものです。ところがリニア完成後には、これは数か月間にわたって確保できなくなる。今まで大井川水利流量調整協議会に対して続けてきた説明によれば、絶対に受け入れられないはずの損失になります。



田代ダム付近における流量減少は、現在JR東海が計画している導水路案では全く対応できません。河川環境の悪化も東電の損失も、物理的に防ぎようがない。

・・・役に立たない導水路を造って余計に環境負荷を増やし、さらに出力の激減する発電所&ダムを維持するために、河川流量の確保に苦慮するくらいなら、導水路なんぞ造らず、いっそのことダムを撤去したほうが合理的ではないかとも考えられます。 早川町の財政にも影響が及ぶかもしれませんけど・・・。

リニアと取水その3 「基準渇水期流量」を基に検討すべきでは?

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環境影響評価書において、リニア建設工事による大井川の流量減少は次のように予測されています。
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コピー1 大井川におけるトンネル完成後の流量予測 (評価書より)


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コピー2 流量予測地点(評価書より) 



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コピー3 大井川渇水期におけるトンネル完成後の流量予測(評価書より) 


年平均(?)では田代ダム付近で2㎥/s程度の減少が予測され、渇水期にも1.8㎥/s程度の減少が予測されており、各方面への影響が懸念されているところです。


ところで見方を変えて、トンネル工事による水の消失ではなく「2㎥/sの取水」を計画している場合を考えてみたいと思います。

河川法施行令第2条第3号によると、規模の大きな取水は「特定水利」とされ、一級河川においては国土交通大臣の許可が必要となります。詳細は省きますが、大雑把には
●発電用水利
●1日2500㎥/s以上の水道または鉱工業用水の取水
●1日につき最大1㎥/s以上の灌漑のための取水
が、特定水利の対象となります。
もしも2㎥/sの取水計画であったら特定水利とされ、国の許可を受けねばならないのです。 

しかしリニア建設の場合、水を使う目的で流量を減らすわけではないため、河川法による取水許可(占用)の申請は不要というのが国土交通省の見解となっています。
(平成26年3月13日 国会答弁より)

さて、水利の許可を申請する際には様々な事項を決めて国に提出する必要があり、当然ながら取水量も定めねばなりません。この取水量の設定方法は水利使用規則というもので定められているようです。重要な部分を国土交通省のホームページより抜粋します。

取水予定地点における河川流量のうち10箇年の渇水流量値を抽出し、そのうち最小値年を基準年とします。
この最小値の渇水流量を基準渇水流量といい、河川維持流量、取水予定量及び関係河川使用者の取水量がこの範囲内に存する必要があります。

基準渇水流量-(河川維持流量+関係河川使用者取水量)-取水予定量≧0

これは、一般に各河川使用者が円満に取水することができる限界の水量であるという河川管理上の経験的事実に基づくものです。すなわち、河川の流量を多めに見積もって次々に新たな水利権を付与してゆけば、各河川使用者が十分に取水することができない日が頻繁に起こり、水利権の優先順位を侵してわれ先に取水するというような水利秩序の混乱が生じ、ついには、干害によって一部河川使用者が致命的な打撃を被ることとなります。(後略)
http://www.mlit.go.jp/river/riyou/main/suiriken/kyoka/index.html

基準渇水流量とは10年に1回程度の渇水年における取水予定地点の渇水流量(年間355日流量)をいいます。

基準渇水流量という言葉にご注意ください。取水量を定める際は、10年間(=約3650日)のうち、3640日はこの値を下回らないという流量を基準に考えなければならないのです。言い換えれば、10年間で10日程度しか起こらないような渇水時を基準にせよということです。

河川水を大規模に取水すると、流量減少によって様々な影響が生じることから、申請の際には、このように綿密な調査のもと、取水量を厳格に設定しているわけです。

さて、ここでJR東海の見解をみてみましょう。第4回大井川水資源対策検討委員会で使用した資料です。
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コピー4 田代ダムへの流量影響予測とJR東海の見解


ついでに、ここで言及されている田代ダムの位置を示しておきます。
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図1 大井川源流の水力発電所 

「田代ダム地点での流量は0.44㎥/sとなり、維持流量0.43㎥/sは確保できる」としていますが、試算根拠は全く不明です。もうちょっと掘り下げて考えると、この0.44㎥/sという数字は、おそらく評価書(コピー4赤枠内を参照)に示されたトンネル完成後の渇水期予想流量から、東京電力の取水上限1.62㎥/sを差し引いたものなのでしょう。

JR東海の説明によると、評価書での予測前提となった現況解析値とは、大井川での平均的な状態をコンピュータ上で再現した値なんだそうです。したがってあくまで平均状態を前提にしており、基準渇水流量については考慮していません。もしも「2㎥/sの取水」を申請する際にこのような試算方法であった場合、許可はできないのです。

さて河川法では、水利の許可申請がなされた場合には、関係する水利使用者との合意ができるまで、その許可はできないとされています。ここでいう使用者とは、取水だけではなく漁業関係者も含まれます。リニアの場合、上述のように取水ではないためこの規定が適用されるか分かりませんが、たぶん、協議を行ったとしても、このような流量予測では協議自体が難航するのではないかと思われます。

大井川では、中部電力が実に大量の水を川から根こそぎ持って行っており、東京電力も元々流量の少ない最上流部で水を取っています。下流では農業用水、上水道の取水も行っています。しかし当然ながら、こうした取水においては、基準渇水流量に照らし合わせて量を定めています。

例えば中部電力二軒小屋発電所は、大井川最上流の東俣堰堤と支流の西俣堰堤から合計1.15㎥/sを常時認可された量として取水し、維持流量は東俣0.11㎥/s、西俣0.12㎥/sと設定しています。この値を決定するには、1978~1988(昭和53~63)年の流量を基にしているそうです。逆に言えば、中部電力は西俣や東俣の基準渇水流量を0.6㎥/s程度としていることになります。

ところがJR東海は、西俣の渇水期流量を1.18㎥/sと設定し、それがトンネル完成後には0.62㎥/sに減るとしている。。。

おかしいですよね?
前提としている流量が異なるのだから、同じ土俵には立ちにくいと思われます。

大井川だけではありません。リニアのトンネルがくぐり抜ける法河川(河川法の適用されている河川)全てにおいて、同じことが言えると思います。南アルプス一帯の小河内川、内河内川、大柳川では、一応流量の予測結果が出されていますが、いずれも基準渇水流量については言及されておらず、これで水利について議論するのは困難だと思われます。長野県南木曽町の蘭川、阿智村の阿智川、豊丘村の虻川、神奈川県の道志川なんぞは予測自体をしていないのだから、そもそも話にならない。
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コピー4 山梨県大柳川の流量予測結果(JR東海ホームページより) 
何を前提にしているのかさえわからない


既存の水利用者との調整が必要であるからには、JR東海は基準渇水量に合わせた予測を行うべきではないでしょうか。


(二軒小屋発電所の記述については以下の文献を参考にした)
中部電力株式会社静岡支店大井川電力センター 編集(2001) 『大井川 文化と電力』

リニアと取水④ ダム維持放流をリニア導水路が飲み込む?

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JR東海が大井川の水資源対策として考案している導水路計画。この導水路案を中部電力木賊堰堤との関係について考察しておりますが、どうも釈然としない。

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導水路完成後に木賊堰堤での流量はどうなるか、JR東海は次のように主張しています。


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第4回大井川水資源対策検討委員会資料より

注目していただきたいのは、「木賊堰堤における河川維持流量(通年0.37㎥/s)に対して渇水期(12~2月)の流量は1.15㎥/sとなります。」という見解です。

何かヘンなんだよなあ…?

どうもおかしい事項が2点。

釈然としない点① 流量の予測前提は妥当なのか? 
ちょっと回りくどくなります。

木賊堰堤での放流義務は、確かに年間を通じて0.37㎥/sであり、これがリニア完成後にもキープできれば、とりあえず現状維持となります。

それを考える上で、ちょっと寄り道。

大井川水利流量調整協議会でのルールによると、どうやら上流の田代ダムが「新たな放流」を行っているときには、その量は取水せずに素通りさせることになっています。これがその協定書のコピー。
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田代ダムから新たに放流される水量と同量を、下流の中部電力(株)のダム等および長島ダムから流下させるものとする

「新たに放流される水量」とは、前々回のブログで説明した還元放流というものになるようです。概念がイマイチ分かりにくいのですが、簡単に説明すると次のような感じになります。
田代ダムから環境維持のために下流に流すべき流量は以下の通りである。
・12/6~3/19  0.43㎥/s
ただし、河川流量が0.1㎥/sを超える場合に限り、1.62㎥/s の範囲内で発電取水ができるものとする。
・3/20~4/30  0.98㎥/s
・5/ 1~8/31  1.49㎥/s
・9/ 1~12/5  1.08㎥/s
いっぽう、同ダムの最大認可取水量は4,99㎥/sである。河川流量が減ったとき、最大認可取水量まで取水すると、維持流量が確保できなくなる。このため、取水量を減らして維持流量に回す必要が生じる。この減らしたものが還元流量にあたる。つまり、河川に還元した流量という意味合いである。 

要するに、冬場や真夏の渇水期に田代ダムが還元放流を行っている間、木賊堰堤では同堰堤の維持流量0.37㎥/sに、田代ダムからの還元流量を上乗せして放流していることになるのです。

その木賊堰堤での放流実績について、2006~2010(平成18~22)年における放流量がインターネット上に公開されています。一部だけですが、重要な部分だけ抜粋します。

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ピンクの部分が木賊堰堤の維持流量、黄色が上流の田代ダムからの還元流量です。よく見ると、ピンクの部分は明らかに0.37㎥/sを下回る日があり、日々変動しています。本来、維持流量は常に0.37㎥/sをキープしなければならないのに、それが変動しているということは、維持流量を確保できぬほど流量が減少していることを意味します。グラフにも「維持流量減は河川流量減によるため(取水停止中)」と明記してあります。

したがって黄色の田代ダムからの還元流量を合わせても0.5㎥/s程度しか流れていない日が多いようです

よって、冒頭のJR東海の見解は、現実の河川の状態を適切に反映していないのではないか?という疑問が生じます。試算前提が現実よりも0.6㎥/s程度多く見積もっているとして、それを差し引いて考えたらどうなるのでしょう? 本当に0.37㎥/sをキープできるのでしょうか?


釈然としない点② 導水路が還元放流を吸い込む? 
こちらはJR東海が第4回大井川水資源対策検討委員会で用意した資料です。トンネル建設前の流量、トンネル完成後の流量、導水路建設後の流量が示されています。

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第4回大井川水資源対策検討委員会資料より複製・加筆


下から2番目の予測地点にご注目ください。ここが木賊堰堤になりますが、前提流量11.9㎥/sがトンネル完成後には9.87㎥/sに減り、導水路をつくるとさらに0.49㎥/s減って9.38㎥/sになるとしています。

導水路をつくると余計に流量が減る?

この導水路は水力発電所等の水路とは異なり、大井川の河底よりも低い位置を掘り進める計画です。その距離約11㎞。このような位置関係でであるため、地表付近のを吸い込んでしまうのだと思われます。都心や沿岸部の地下鉄を除き、こんな構図の構造物は日本国内には存在しないのではないでしょうか…?
 っていうか、水資源対策の導水路が余計に水を奪ってどうするんだよ!? 

さて、現在、渇水期における田代ダムの維持放流量は、0.43㎥/sであり、還元放流の最大量もこの値となります。念を入れますが、維持放流と還元放流との関係が分かりにくいのでご注意を。

そして、先に貼っておいた通り、大井川水利流量調整協議会の協定書では、東京電力が還元放流として大井川に流した水は、途中の堰堤やダムで取水せずにそのまま下流にまで流すことと定められています。

しかしJR東海の試算通りなら、東京電力が放流した分は木賊堰堤に到達する前に、そっくり地下の導水路に吸い込まれることになります。


なんかおかしくありませんか?

南アルプスのど真ん中に高さ70mの超巨大盛土

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取り急ぎお知らせ

去る3月28日、静岡県庁にて第6回中央新幹線環境保全連絡会議が開かれ、JR東海より大井川源流部に想定している燕沢発生土置場についての説明がなされました。

盛土は
高さ70m⁉ 

こんな感じらしい



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林道を発生土の山の上に付け替えて木で囲むから、林道を通る人が眺める光景に影響は生じない?

アホか!

盛土で川の流路を固定することによる侵食様態の変化は全く考慮せずに安全宣言!? 

手抜きだろ!? 
っていうか、河川法違反じゃないの? 

 

後日、改めて検証いたします。



静岡市民の方にしか伝わらないと思いますけど、駅南の八幡山よりデカいのであります。

 


南アルプスど真ん中に高さ70mの超巨大盛土 ―正気ですか?― 

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去る3月28日、静岡県庁で開かれた第6回中央新幹線環境保全連絡会議において、JR東海が静岡県内に想定している巨大発生土置場の計画案を報告しました。

会議の資料が県庁のホームページに掲載されていっるのですが、悪い冗談に思えてくる内容でありました。同時に、こんなアホな見解を述べているぐらいだから、着工はまだまだ遠い先の話では?という気もしました。

発生土置場候補地となっているのは南アルプスのど真ん中、大井川源流の燕沢とよばれる川沿いの平坦地であり、JR東海はこの場所に静岡県内への発生土360万立方メートルの全量を積み上げるとしています。


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図1 南アルプスの位置 

二軒小屋付近の衛星画像

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図2 発生土置場候補地付近の衛星画像 Google Earthより複製 

上記衛星画像で黄色点線で囲ってある範囲が、評価書で示されていた燕沢の発生土置場候補地です。評価書関連図から、同地の詳細な地図を抜粋します。

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図3 燕沢平坦地の地図 環境影響評価書関連図より複製・加筆 

この枠内に、以下のように発生土を積み上げる計画なんだそうです。右が北(上流側)になっているのでご注意。



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図4 燕沢発生土置場の計画案 第6回中央新幹線環境保全連絡会資料より 

以下、疑問点・問題点について。

●評価書で言っていたことと違う 
ここは南アルプスユネスコエコパーク内であり、開発行為については、環境に配慮した持続可能な形が求められる、このルールに対し、JR東海は環境影響評価書で次のように見解を述べていた。

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図5 ユネスコエコパークについてのJR東海の見解 評価書より  

画像が大きいので縮小表示しているが、中段には「発生土置場などの候補地は、電力会社等が使用した工事ヤード跡地や人工林等を選定しており…」と書かれている。ところが図4を改めてご覧いただきたい。巨大盛土は工事ヤード跡地の北側がメインなのである。

●巨大盛土による河道固定の影響は?  
以下に、1948(昭和24)年8月に撮影された空中写真と、それから22年後に撮影されたもの、および2014年6月に撮影された衛星画像を並べる。

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図6 1948年と1970年の空中写真 

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図7 2014年の衛星画像 

現在、JR東海が巨大盛土を想定している部分は森林におおわれている。1970年代でも同様である。

ところが1948年当時ではかなり植生がまばらであり、よく見ると幾筋もの溝状が見える。おそらく頻繁に流路が変わった跡だと考えられる。このように、燕沢平坦地においては、流量が増した際には、水が川幅いっぱいに広がってながれていたものと推定される。つまり、平坦地全体が河川空間なのである。

いっぽう、右岸の急斜面には大規模な崩壊地が広がっている。1948年当時でも明瞭であることから、70年来崩れっぱなしというわけである。また、その深層には巨大な地すべりの存在も推定されている(図8)。これが燕沢平坦地の立地条件である。
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図8 燕沢付近の地すべり分布
 防災科学研究所 地すべり分布図より複製・加筆   

ここにJR東海の案のように盛土を行うと、永久に流路が右岸よりに固定されることになる。したがって大規模崩壊地および地すべりの末端に川の流れを衝突させるような構図となる。すると崩壊地および地すべりの末端を、常に川の流れが削り続けることになる。

イメージとしては、崩れている斜面の下を削り取るようなものである。
よって、
土砂の流出量が増えるのではないか? 
崩壊・地すべりを助長するのではないか?
 
といったことが想定される。

おそらく今後の大きな課題になるものと思われる。

●川をふさぐ心配
ところで、改めて図4と図7を見比べて頂きたい。
盛土が最も流路に張り出した地点の対岸の斜面には、衛星画像でも明瞭な、大規模な崩壊地がある。単純に考えて、ここがちょっと大きく崩れただけで川をせき止めてしまう!! 今までは、少々崩れても流路が変更するスペースがあった。だからこそ河道が頻繁に変わっていたわけである。そのスペースを消してしまう。

●生態系への影響は?
ここでドロノキという樹木の扱いも懸案となっている。ヤナギ科の落葉高木で、ポプラに近い種類とされている。寒冷地の流路変動の激しい礫床河川に特有な樹木であり、大井川の燕沢付近が、日本列島における分布南限とされている。

これだけでも貴重な存在に位置付けられるが、さらに重要性を高めているのがオオイチモンジというチョウ(蝶)である。

オオイチモンジも寒冷地に生息する種であり、本州中部の高山に分布しているのは、氷期に北から南下してきたものの残りとみられている。北海道ではやや普通らしいが本州での生息数は少ないようで、環境省のレッドリストで絶滅危惧Ⅱ類に指定されており、、静岡県のレッドリストでは絶滅危惧ⅠA類と最も保全が急がれる種に指定されている。静岡県の場合、1960年代に確認されたのを最後に全く生息情報が絶えており、絶滅したものと懸念されていたが、最近、二軒小屋付近の某所で40年ぶりに確認されている。

このオオイチモンジの幼虫は、ドロノキの葉をエサとしている。よってオオイチモンジの存続にはドロノキの存続が欠かせないわけである。

JR東海の案のように巨大な盛土をおこなうと、完全に流路は固定されることになる。現在、ドロノキの生育している範囲も、河床変動の影響を受けにくくなるものと考えられる。すると洪水で森が破壊されることはなくなり、より安定した土地条件を好む樹木が侵入して林床は暗くなり、河原を好むドロノキは育ちにくくなるかもしれない。そうすれば、オオイチモンジの生息可能な条件が失われることにつながってしまう。
JR東海の見解は、大規模盛土の造成が生態系に与える影響を考えていないのではあるまいか?

⇒この懸念は、上高地におけるケショウヤナギの研究事例をもとに考えたものである。同地では砂防工事による河道固定により、ケショウヤナギの存続が危ぶまれているらしい。




こんな案では、おそらく許可できないと思う。

JR東海の説明資料には、「官民境界から10mセットバックした」とされている。
これ以上のことは書いていないので、これをもって何を言わんとしていたのかは不明であるが、もしかしたら「私有地(=特殊東海製紙社有林)だから河川区域には影響を与えず問題ない」という考えなのかもしれない。

すると森林法における林地開発許可がカギを握るのであろう。
http://www.rinya.maff.go.jp/j/tisan/tisan/con_4.html
(開発行為の許可)
森林法第十条の二
 
2 都道府県知事は、前項の許可の申請があつた場合において、次の各号のいずれにも該当しないと認めるときは、これを許可しなければならない。
一   当該開発行為をする森林の現に有する土地に関する災害の防止の機能からみて、当該開発行為により当該森林の周辺の地域において土砂の流出又は崩壊その他の災害を発生させるおそれがあること。
一の二   当該開発行為をする森林の現に有する水害の防止の機能からみて、当該開発行為により当該機能に依存する地域における水害を発生させるおそれがあること。
二   当該開発行為をする森林の現に有する水源のかん養の機能からみて、当該開発行為により当該機能に依存する地域における水の確保に著しい支障を及ぼすおそれがあること。
三   当該開発行為をする森林の現に有する環境の保全の機能からみて、当該開発行為により当該森林の周辺の地域における環境を著しく悪化させるおそれがあること。 

いろいろと違反しているようだから、これでは許可できないと思うのである。

発生土置場の環境への影響 ―なんで質問にマトモに答えないの?

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前回の続きです。

南アルプスの大井川源流に360万立方メートルもの残土(注)を山積みにしようというJR東海の計画。
(注)国土交通省の行政用語では、建設工事で生じた土・ズリは、リサイクル可能な資材という概念のもとに、建設発生土という呼び方をする。このブログでは、なるべくその言葉を使ってきた。けれどもこのほど県に報告した下記計画ではリサイクルしないわけだから、JR東海にとっても地元にとっても不要物以外の何物でもない。というわけでゴミ扱いという意味合いを込め、このブログでは今後、残土と呼ぶことが多くなると思う。   

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第6回中央新幹線環境保全連絡会議 資料より複製

先日、この計画を静岡県に説明した際の資料には、「土石流発生時の数値シミュレーション」なるものが掲載されています。一部を抜粋しておきます。

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第6回中央新幹線環境保全連絡会議 資料より複製

なんでも、大規模な土石流が生じても、「発生土置場の有無による椹島ロッヂ付近への影響に違いはない」とのこと。

話の成り行きを知らない人が見たら、「ふーん。安全なんだ。」と納得してしまうと思うのですが、ところがこれ、論点をすり替えているように思えるのです。もちろん、夏山シーズンには大勢の登山客が利用する場所ですから、その安全性を保証することは大切です。その意味で、椹島ロッジへの影響の有無を考えるのは当然でしょう。

しかしこの数値シミュレーションとは、環境影響評価準備書への県知事意見に対する見解という位置づけとしています。その県知事意見というのは次のようなもの。

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第6回中央新幹線環境保全連絡会議 資料より複製 

ご覧の通り県知事意見では、「環境影響の拡大が懸念される」として、検討を行うべしとしているのでありました。つまり安全面ではなく環境面に与える影響を念頭に置いていたわけです。環境影響評価の過程であったから、環境影響を問う内容であったことは適切です。

それなのにJR東海の行ったシミレーションなるものは、この問いかけに全く答えていないのです。

(県知事意見)
●盛土によって土砂流出の様相が変化すると考えられるが、河川環境への影響はどうなるのか?
●平坦地の成因を確認せよ

(JR東海見解)
大規模な崩壊が起きても椹島ロッジへの影響は変わりません。
 

おかしくないですか!?
論点がかみ合っていないんですよ。




そもそも論点がずれているので、深く追及すること自体がナンセンスかと思いますが、とりあえずJR東海の示したシミュレーション結果にツッコミを入れておきます。

JR東海の予測は、「燕沢付近に流入する支流の上流部で突発的に崩壊が起こり、それが土石流となって大井川に流入したら?」という想定です。すなわち、安全性(?)の保証という観点で出したのだと思いますが、それでも次のような点が疑問として残ります。

●発生土置場近傍で大井川本流の川岸が崩壊する事態は考えていない。
⇒発生土置場の対岸は大規模崩壊地&推定地すべりである。
●発生土置場が水の流れをどのように変化させるのか予測していない。
●発生土置場自体が、大井川本流の砂礫運搬に与える長期的な影響は予測していない。
●盛土する地盤の強度がわからない。
●河道変遷を調べていない。

今の段階で把握していないのなら、まだ数年は着工するつもりがないのかもしれない。


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Google Earthより複製・加筆 



東海地震発生時に超電導リニアは安全停止できるのかな? ―リニアが災害リスクを高めるのでは?―

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当ブログ、地震やトンネル事故の起こるたびに訪問される方が増加します。やっぱり「リニア=危なくない?」というイメージが付きまとうのでしょうか。

リニア建設のタテマエとして、東海地震対策があげられています。しかしそのルートは東海地震の想定震源域の北縁を通ります。近すぎじゃないのでしょうか? 共倒れにならないのでしょうか?

そんな疑問があるので、以前、「リニアは東海地震対策になるのか?」と、勝手に試算したことがあります。それをもう一度掲載してみようと思います。

あくまで私の考えに基づく計算であり、本当に妥当な数字なのかは定かでありません。「おかしくない?」と思われた場合、ご指摘いただけると幸いです。



幕末の嘉永六年十一月四日(1854年12月23日)に発生した東海地震(M8.4)を例にとってみます。この地震では東海道を中心に甲州街道沿い、北陸南部、近畿にまで揺れによる大被害が発生し、銚子~土佐に大津波が来襲しています。

 

リニアの路線が位置する甲府盆地も震度6~7の揺れに襲われ、特に南アルプス長大トンネル坑口が設けられる鰍沢地区(現富士川町)で家屋倒壊が特にひどくなりました。一帯の家屋倒壊率は7割に達し、これは震源域真上の静岡県沿岸部と同程度です。

理科年表によると、震央(最初に岩盤の破壊が生じた位置を地表に投影した点)は、遠州灘の34°N、137.8°Eになっています。ここからリニア中央新幹線の南アルプスルートまでは約160kmです。

カタカタと縦に揺れる最初の地震動(P波)は、約7km/sで進むため、リニア路線が揺れ始めるのは、岩盤が壊れ始めてから約23秒後になります。そして、ユッサユッサという建造物を壊す大きな揺れ(S波)は4km/s程度で進むため、S波がリニア路線に到達するのは約40秒後となります。
 
実際には、岩盤の破壊そのものが断層(駿河トラフ)に沿って北に進みながら、さらに震動を発し続けるため、揺れが増幅してゆき、S波が到達する前にも次第に揺れが大きくなってゆきそうです。
 
地震発生時に走行中のリニアが緊急停止するシステムは、気象庁の緊急地震速報と同じシステムですので、最初の岩盤破壊発生からブレーキをかけ始めるまでに数秒かかります。東北地方太平洋沖地震で海底緊急地震速報が発表されたのは、最初の岩盤破壊から約8秒後でした。リニアの自動減速が開始されるまでに要する時間をこの程度と仮定すると、減速開始からS波到達までの猶予は32秒ほどとなります。
 (上記前提だと震央から最も近い陸上の観測点は静岡県御前崎。距離は約75㎞なので、P波が到達するまでに約11秒。ただし気象庁は海底地震計を設置しているため、最短で8秒程度で発信できると過程。JRも海底地震計を設置しているようですが、詳細が分かりません。ごめんなさい。)

さて、500km/hで走行中のリニアが停止するまでの所要時間は、新聞報道によると90秒だそうです。すると、減速時の加速度は-1.543ms/sとなります。
 
停止するまで一定の加速度で減速し続けるとすれば、減速中の速度の変化は、次の式で表されます。
 
速度V=138.89m/s-1.543ms/s×t 
 
t秒後(単位はs)には、138.89m/sから、秒速1.543ms/s×tぶん、減速しているという意味です。90秒後には速度0(ゼロ)、すなわち停止します。高校の数学や物理で習う内容ですので、詳しくは参考書などをご覧ください。

というわけで、南アルプスルート付近で揺れ始めるタイミングと、リニアの減速状況が試算できます。その結果は以下のとおり。
 0秒後 遠州灘海底で岩盤が壊れ始め、地震が発生する
 8秒後 138.89m/s=500km/hで走行中のリニアが減速開始
 23秒後 南アルプス~甲府盆地南部のリニア路線にP波到達。揺れ始める
 このときリニアは115.75m/s=416.6km/h
32秒後 リニア路線にS波到達。大きく揺れ始める。
  このとき89.5m/s=322.1km/h
61秒後 大揺れの中、44.4m/s=160km/hとなり、車輪走行となる。国内の狭軌路線で最速のレベル
72秒後 普通列車なみの27.8m/s=100km/hとなる
90秒後 停止
 
東日本大震災のときの東北新幹線は、揺れの到達する前に300㎞/h走行から減速を開始し、試運転中の1列車を除いて無事に停まれました。

しかしリニアの場合、400㎞/hの浮上走行でゆれに見舞われ、320㎞/hまで減速したところでS波に遭遇し、大揺れに襲われてしまいます。着陸した時点でも160㎞/hの速度があり、京成スカイライナーや特急はくたかなど、国内の狭軌路線での最速レベルです。もちろん、「山梨県南部付近を走行中」という悪条件が重なる場合にかぎりますが。



さて先の式を時刻 t について積分すると、減速開始後に進んだ距離も求められます(計算過程は後述)。 
 
例えば、大きく揺れ始めるS波が到達する時刻 t=32 から、停止する時刻 t=90 まで定積分すると、その間に進んだ距離が求められます。計算すると、2595.9m走行し続けることになります。
 
つまり、安政東海地震が再来し、8秒後に減速を開始したら、震度6以上の揺れの中を、58秒間、2600mにわたって走り続けてしまうことになります。しかも40秒間は時速100キロ以上を保ち、最初の20秒間は在来の新幹線と同等の速度です。
 
リニアの速度と進んだ距離をグラフにしたのがこちら。青い右下がりの直線がリニアの速度、右上がりの緑色の曲線が減速開始から進んだ距離を表します。


S波到達から40秒間は在来線普通列車以上の速度を保っています。路線の全てがトンネル、シェルター構造であり、頭上を重量物が覆っているわけですが、この40秒間の間にそれら構造物が落っこちてきたり、あるいはガイドウェイが倒壊するようなことはないのでしょうか。
 
200㎞/h以上の速度で落石や土砂崩れにクラッシュしたらどうなるのでしょうか。ドイツの実験線で大事故が起きたときは200㎞/hだったそうです。
 
車輪が出た際に、ガイドウェイ内に障害物が落下していたらどうなるのでしょうか。

東海道新幹線よりも震央より離れている分、地震波の到達までに余裕があるものの、速度を増している分、停止までの距離はかかってしまう…。意味があるのかないのか・・・?




「新幹線でも直下型地震に見舞われたら同じだろ」

という声が聞こえてきそうですが、スピードが増していることで、衝突時の衝撃や、停止するまでの距離が増しているのは否定しようがないと思います。ガイドウェイにはまって走行するため、落下物を横に押しのけることもできません。さらに超伝導リニアは高速化のために車体をとことん軽量化しているそうですが、強度はどうなっているのでしょう。ちなみに中央新幹線小委員会での議事録によると、リニアにシートベルトを設ける予定は今のところないとのこと。
 

「トンネルなら安全だ」

というお声もあろうかと思いますが、岩盤条件の悪い断層(地層の切れ目という意味であり、地震を起こす活断層とは別の概念)や地すべり地帯のトンネルは、直下型地震で崩れやすいことも事実です。実際、伊豆大島近海地震では伊豆急行線のトンネルが、新潟県中越地震では上越新幹線のトンネルが崩落しています。

⇒土木学会の報告書 (PDFファイル:要領が大きいので注意)

南アルプスの場合、割れ目だらけ、地すべりを通る、大量の湧き水があるなど、地盤条件は最悪です。さらに3~4㎜/年という日本最速の隆起速度と、日本最大の土被り(トンネルから地表までの厚さ)1400mという、前例のない条件も加わります。下からは隆起にともなう圧力が、上からは山の重さによる圧力がトンネルに加わり、常にトンネルを押しつぶそうという力がかかり続けるのです。これによりコンクリートの劣化が早まる恐れはないのでしょうか。
 
膨大な圧力が加わり続けたコンクリート壁に微細なヒビが入り、水が染み込んで劣化し、大地震の際に大きな塊となってはがれ落ち、そこへ減速中のリニアが時速200キロで突っ込む…

大丈夫なのかしら。



そうそう。

南アルプス長大トンネルというと、乗客非難をどうするんだ?という大問題もありますよね。JR東海は、「地震時にお客様には地下にとどまっていただきます」なんて言っているけど、要するに南アルプス地下カンヅメが前提らしいのです。
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南アルプスの工事用トンネルを”非常口”としている以上、静岡の行政は真冬の大地震時にリニア乗客が南アルプス山中にゾロゾロ脱出してくる事態を想定して救助・避難する計画をたてておく義務があると思うのですが、それって大量山岳遭難じゃありませんかね…? 1年半たっても詳細は分からないままなんですけど。



それから南アルプス山中の残土の山が災害を招くんじゃないかという懸念もありますな。
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川をはさんで巨大な崩壊地と向かい合う残土の山。高さ70m、幅300m、長さ500mなり。

地震で残土自体が崩れなくとも、対岸が崩れたら川をせきとめてしまうだろ!?

河道閉塞の後に巨大土石流が起きたら、JR東海は責任をどうとるんだ?



一応、こういう危険性は全て最小化できる自信があるからこそ計画が持ち上がっているのでしょう。
 
しかしそれがどのような内容なのか、つまり東海地震ではこのような事態が予想され、ここまでは対策がとれるという話はほとんど聞こえてきません。まして、それを踏まえて計画の是非を問うようなことは全く行われていません。それなのに、「東海地震を想定すると迂回路としてのリニア中央新幹線が必要」という声がありました。たぶん、熊本での新幹線脱線を受けて、またあがってくるんじゃないのかな?




高さ70m残土山の向かいは大規模崩壊地 ―あっちが崩れたら川が埋まっちゃうじゃん―

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JR東海が大井川上流部の川沿いに計画している「残土の山」についての話題です。

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図1 大井川上流部に計画されている残土の山
Google Earthより複製した図にJR東海資料(図2)を合成。黄色の部分が発生土(残土)の山。南北2か所に積み上げ、北側のものは最大幅300m、長さ450~500m、高さ65~70m。残土山の対岸が巨大な崩壊地となっていることに注意。 

ここに360万立方メートルもの残土を、文字通り山積みするにあたり、JR東海が周辺の地形・地質条件や川の流路変動をどのように考慮しているのか、繰り返しますが、皆目見当がつきません。

やっぱりこの計画は無謀だし、もしかしたら実現させる気がないのかもしれないなんておかしな考えも浮かんでしまう…。

JR東海の計画では、盛土の設計はこうなっています。
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図2 発生土置場の計画
JR東海ホームページより複製。下の断面図では、ふつうの地図概念と異なり、右が西となっている。

 
現在、210mほどある谷底の平坦地(河道・河原・河畔林を含む)を、幅165mにわたって盛土するとのこと。2割を残して残土で埋め尽くすということになります。

いっぽう川を挟んで対岸には大規模な崩壊地があります。Googleの衛星画像で一目瞭然だし、1947(昭和22)年に撮影された空中写真でも明瞭。半世紀以上にわたって崩れっぱなしとなっています。なお防災科学研究所による空中写真判読では、一帯が大規模な地すべりとなっている可能性も指摘されています。
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図3 1947(昭和22)年当時の燕沢平坦地
国土地理院ホームページより複製・加筆。当時日本を占領していたアメリカ軍が撮影したもの。平坦地の上流側半分は厚さ数mの未固結層であり、大井川が微小な段丘を形成しながら下刻していると思われる。南側半分では流路後が網目状となっていることにも注意。

ところで、崩れ落ちた土砂は、平坦地に到達すると運動エネルギーを失い、移動を停止して堆積することになります。その結果、崩壊地の下方には円錐状の高まりが生じます。

真下には川が流れています。そこに土砂が崩れてきて小山が生じるのだから、川の流れはそこを避けて流れることとなる。けれども固まっていないから、流れの勢いが増すたびに削られ、下流に流されてゆく。そして次第に平坦になってゆく。こうしたプロセスが現在でも続いていることは、過去の空中写真を比較すれば明白です。

が、JR東海はそこに「巨大残土の山」を築く計画です。平坦地の幅は現在の2割にまで狭められることになります。すると単純に考えれば、崩壊した土砂は盛土に行く手を阻まれ、川の流れを塞いでしまうのではないでしょうか?

どのくらいの崩壊土量で河道閉塞が起こりうるのか、ちょっとごく簡単に計算してみたいと思います。

残土置き場の計画断面図と地形図より、
右岸斜面の勾配を45°
盛土の勾配を30°
右岸と盛土との間の長さ(河底の幅)50m

とします。
この場合、沖積錐の勾配を安息角の30°とすると、体積8.9万立方メートルの沖積錐が出現すれば、川はふさがれることになります。

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図4 幅50mの川幅を埋め立ててしまう山崩れの規模 


つまり本来なら川が迂回するためのスペースを残土で埋め立ててしまうことで、簡単に川がふさがれてしまうわけです。

9万立方メートルの山崩れ…。

この程度の崩壊は、赤石山脈の一帯では数年に一度は起きていると思われます。
最近では平成25年4月23日以降に、静岡県浜松市天竜区で崩壊土量5~7万立方メートルほどの地すべりが起こり、次第に直下の川を塞ぎそうになったため、対策工事が行われたという事例があります。テレビで全国放送されたため、ご記憶の方もおられるかと存じます。


「春野町 地すべり」で検索すると、いろいろと画像が出てきます。YouTubeに動画も公開されています。

また平成23年の秋には、台風15号の通過に伴う豪雨により、浜松市旧水窪町の山奥で巨大な崩壊が起きています。崩壊土量は150万立方メートルと推定され、谷を埋め立ててしまっています。ただし源流部ゆえに流量は少なく、下流への影響は出ていません。土石流等の危険性も低いため、そのままにされています(無人地帯ゆえに発生日時は不明)、
http://www.jsece.or.jp/event/conf/abstruct/2012/pdf/T1-04.pdf#search='%E6%B5%9C%E6%9D%BE+%E6%B0%B4%E7%AA%AA+%E5%B4%A9%E5%A3%8A'

人命が犠牲となった大災害としては昭和36年6月29日に長野県大鹿村で起きた「大西山崩れ」があげられます。崩壊土量は370万立方メートル、崩壊深度は平均25m、幅280m、奥行き440mとされています。

今般の熊本地震において、南阿蘇村で大規模な山崩れが起きていますが、やはり赤石山脈一帯においても、過去の大地震においては、大規模な崩壊が相次いでいます。中には安政東海地震時の七面山崩れ8山梨県早川町)や宝永地震時の大谷崩れ(静岡市)のように、崩壊土量が数千万立方メートルとなる事例もありました。


このような事態となれば、たまった水と崩壊度とが一挙に流れ下り、大規模な土石流となる可能性があります。最寄りの井川集落までは40㎞近く離れているため人命・財産への影響はまずないでしょうが、河川環境の悪化は確実。

もちろん南アルプスは、自然現象としての河道閉塞や大規模土石流が起きてきた場所です。過去には数千万立方メートル単位の崩壊が起きたこともあり、そうした履歴のうえに現在の景観が成立しているわけです。むしろ、それが南アルプスの特徴とも言えるでしょうし、たかだか1回の河道閉塞ごときで河川環境が壊滅することはありえないでしょう。長い年月の後には自然は回復するとてつもない力を秘めています。

けれども、わざわざ人為的に大土石流を招いて環境を著しく悪化させかねない計画については、今一度その是非を考え直す必要があるはずです。

リニア新幹線と活断層リスクの考え方 ―危ないと騒ぐだけじゃ無意味―

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今回の熊本地震により、南阿蘇村と熊本市方面とをつなぐ俵山トンネルが崩落してしまったという報道がなされました。

現時点ではどのように損傷したのか不明ですが、国土交通省によると「覆工が崩落した」ということです。今回の地震を引き起こした布田川断層帯に近接しており、断層運動がトンネル損傷にどのように関わっているのか、今後の詳しい調査を待ちたいと思います。

⇒4/27
「日経コンストラクション」に、崩落現場の一部について、写真が掲載されました。

ところで、もしも活断層が動いてしまい、地表断層が出現した場合、そこを横断する構造物は破断してしまいます()。リニアの場合、活断層はトンネルで通過する箇所が大半のようです。トンネルは周囲の岩盤と一体化しているため、揺れ自体には強いものの、岩盤そのものの破壊が起きれば、一緒に請われます。北伊豆地震(1930年)発生時の丹那トンネルのように、断層変位でスパっと切断されなくとも、周りの岩塊ごとコンクリートが崩落してくる事態も考えられます(伊豆大島近海地震:伊豆急行線稲取トンネル)。

ガイドウェイを塞いだ岩に500㎞/hで突っ込んでしまったらどうなるのでしょう…?

シロウト考えでは、原型をとどめずバラバラに吹っ飛んでしまうような、そんな気がします。一度の事故で、何百人もの命が奪われてしまうかもしれない。航空機よりも多くの乗客を乗せているぶん、犠牲者の数は大きな海難事故に相当してしまうかもしれない。

といいうわけで、「活断層が危険だからリニア計画はやめろ」という声が、以前より一部の人々からあがっているようです。

しかし活断層の動くリスクに基づいてリニア計画の中止・再検討を求めることについては、まずはその理論自体の妥当性を吟味する必要があると思います。

「活断層が動いたら危ない」のは、既存の新幹線も同じです。ところが今のところリニアと活断層を結び付けて危険性を叫ぶ主張は見受けられるけれども、これを新幹線にあてはめて考える方は、「リニア反対派」のなかでも見受けられません。むしろ「地震対策なら北陸新幹線で十分」とする向きが多いようでが、北陸新幹線ルート上の活断層を危険視することはまずない。

これはおかしいのではないでしょうか?

それならば、「リニアが500㎞/hで直下型地震に遭遇するリスクは見過ごせないが300㎞/hの新幹線の場合は容認できる」根拠を説明しなければなりません。

ドイツで起きた高速鉄道の脱線衝突事故、スペインでの転覆事故をみて明らかな通り、500㎞/hどころか200㎞/hでも大参事です。そういえば、今日は11年前にJR福知山線で脱線衝突事故が起きた日。120㎞/hのスピードであっても大参事は免れない。

したがって「活断層が危険だからリニア計画はやめろ」とするのなら、既存の新幹線(どころか大多数の幹線鉄道)にもそれなりの対応を迫らねばならないのではないでしょうか?

けれども・・・

例えば、東海道・山陽新幹線の場合、活断層のリスクを考えると、相模川から静岡駅あたりまでの間、および岐阜羽島から姫路の間なんてずっと徐行しなければならなくなります。上述の北陸新幹線なんて、全線にわたって徐行しなければなりません。
イメージ 1
図 東京~大阪間の活断層分布 産業技術総合研究所HPより複製 
東京から大阪に線路を引くのなら、絶対に数十本の活断層と交差してしまう。特に
●北陸新幹線のほぼ全線
●東海道・山陽新幹線の神奈川中部~静岡間、名古屋以西
●リニア中央新幹線のほぼ全線
は活断層の密集地域である。 100㎞/h超での走行を実施している各地の特急列車や関西・中京地区の新快速だって危ないことには変わりない。 
なお静岡県中部~愛知県東部に既知の活断層は報告されていないが、ここでは近い将来にマグニチュード8クラスの東海地震が直下型で起こるという巨大リスクがある。また、首都圏では堆積層が分厚く地下構造も複雑であるため、調査が進んでいない。首都直下型地震のリスクはこの図からでは読み取れない。 

東京駅から下り東海道新幹線に乗り、相模川の鉄橋を越えたあたりで「当列車は間もなく、国府津―松田断層、丹那断層、富士川河口断層を通過いたします。断層活動に備え、静岡市付近までは時速50㎞で走行いたします。」なんてことをやっていたら、たぶん苦情が殺到するでしょう。

活断層が危険であることは事実であるものの、それは数千年に一度の頻度です。「○○断層は平均1200年間隔で動いている。前に動いたのは古文書によれば1000年くらい前。近い将来動くかもしれない!」と言っても、次にいつ動くのかは神のみぞ知るところです。

ヤバいとはいえ、おおかたの人間にとって新幹線が活断層のズレに直撃するのは文字通り「杞憂」。新幹線が高速運転を取りやめたら存在意義自体が問われるし、おそらく大きなデメリットと社会的混乱は避けられないでしょう。

「ぶつかったら運が悪いとあきらめるしかない」
「気になるなら乗らなければいいだけ」
と考えている人がほとんどではないでしょうか。

ちなみにJR東海のホームページには次のようなQ&Aが掲載されています。
http://company.jr-central.co.jp/company/others/assessment/faq/q13.html
Q. 活断層を横切ることが心配です。
A. 昭和49年から当時の国鉄が、また平成2年からは当社と鉄道建設公団が地形・地質調査を行っており、これまで長期間、広範囲にわたり綿密にボーリング調査等を実施し、関係地域の活断層の状況について十分把握しています。
日本の国土軸を形成する新幹線や高速道路といった幹線交通網は、広域に及ぶ長距離路線という性格から、すべての活断層を回避することは現実的ではありません
したがって、中央新幹線のルートの選定にあたっては、これまでの調査に基づき、活断層はなるべく回避する、通過する場合は活断層をできる限り短い距離で通過するようにし、さらに活断層の形状等を十分に調査したうえで、通過の態様に見合った適切な補強を行っていくなど、注意深く配慮して工事計画を策定していきます。

これも同じ概念に基づくのでしょう。この回答では、現実的でないことは分かるけれど、なぜそれが許容範囲なのかは分からない。だから質問者が是非を判断することもできない。

けれども人命がかかっている以上、見過ごせないリスクであることは事実。おそらく鉄道会社、関係省庁や保険会社などでは、リスクを計算しているのではないかと思います。表には出てきませんが。

というわけで私からの一提案。

数値化可能なデータ(リニアの運行本数、速度、乗客数、断層の活動頻度、変位量など)をもとに、活断層のズレに伴う事故の発生確率を、不十分とはいえ数値化する試み自体は可能だと思います。

同じ試算を既存の各新幹線についても行い、リニアと比較するのです。また、他の交通機関での事故発生率などと比較することにより、活断層リスクは許容できるリスクか否か、ある程度検討をつけることができると思います。

「危ない!」とするだけでなく、どのように危ないのかを可視化してみてはいかがでしょうか。ついでに言えば、高速鉄道網を拡大することにより、乗客一人あたりのリスクは変わらずとも、国内全体でのリスクは微小ながら増大しているはずです。

さらに余談

「断層変位という自然災害をもとに計画に反対する」
というのは
「災害に備えて対策が必要」
というのと同じく、「とにかく災害を考えろ!」という発想に基づいているわけだ。

けれど、あまりに災害!危険!と主張して主張を押し通そうというのは、「危ないと主張すればいくらでも名目が成り立つ」という昨今の世情と同じじゃないかと思う。
1000年に一度の大津波に備えて」万里の長城みたいな大堤防をつくったり、「500年に一度の大水害に備えて」スーパー堤防を造ったり、「津波避難に有効」として海辺に野球場をつくったり(浜松市)、「大災害に備えて憲法改正が必要」とするのと論拠は同じじゃないでしょうか。



(注)吊橋構造、盛土構造、可動式に設計された高架構造の場合は絶えられる可能性がある。2002年11月にアラスカで起きたマグニチュード7.9のデナリ地震では、地表断層の出現にともない、大規模な変位が起きた。ところが断層を横切るパイプラインは、垂直方向に0.75m、水平方向4.2mの変位にも破断することなく機能を保った。建設時に、断層が活動することを見込んで可動式としていたためである。
http://jsaf.info/pdf/journals/AFR028_123_131.pdf#search='%E3%83%87%E3%83%8A%E3%83%AA%E5%9C%B0%E9%9C%87+%E3%83%91%E3%82%A4%E3%83%97%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%B3'
したがって地上の構造物ならば、知恵(とカネ)をしぼって構造物を岩盤から離して変位を吸収させることにより、深刻な被害を免れることができるかもしれない。しかし山岳トンネルの場合、「地山と一体化」していることが逆にアダとなり、被害を免れることは原理的にできないのではなかろうか。

リニアは活断層を突っ切るから反対⇒富士川河口断層帯と交差する東海道新幹線も廃止すべきでしょうか?

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活断層についての続きになります。

最初にお断りしておきますが、筆者は「断層変位が起きればどんな構造物も耐えられない。よって活断層を貫くリニア中央新幹線は危険極まりなく、中止すべきである。」という主張には軽々に賛同することができません。

というのも、仮にこの主張通りに活断層対策を見直すとすれば、実現するかどうかすら疑わしいリニアよりも、現に乗客を乗せて営業運転している列車のほうを先に考える必要があるわけで、後述の通り、そうなれば社会的な大混乱が生じかねないからです。

「活断層を貫く」という視点でとらえれば、何より「危ない」のは東海道新幹線が突っ切っている富士川河口断層帯だと思います。
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赤線が活断層と推定される部分  


断層群というように、1本の断層ではなく、入山断層、大宮断層、安居山断層など、南北にのびる複数の断層の総称です。東海道新幹線が突っ切っているのは2本で、富士川鉄橋で交差している入山瀬断層と、由比川付近で交差している入山断層になります。

この断層群、いわゆる内陸地震を引き起こすものとは異なり、どうもフィリピン海プレートと陸側プレートとの境界になっているらしい、というのが近年の定説。ただし全体像もはっきりしておらず、政府の地震調査研究推進本部では次のような評価をしております。
http://www.jishin.go.jp/main/yosokuchizu/katsudanso/f043_fujikawa.htm
●地形学的な証拠からだと隆起速度は国内でも最大級。活動については次の2ケースを想定。
a.150~300年に1度活動。西側の相対的隆起は1~3m。
地震発生確率⇒30年以内に、10%~18%
b.1300~1600年に一度活動。西側の相対的隆起は10m程度。
地震発生確率⇒30年以内に、2%~11% もしくはそれ以下
●どちらにせよ動いたらマグニチュード8クラス
●東海地震と連動する可能性が高い
●1854年の安政東海地震では南部が活動した可能性がある

東海道新幹線が貫く活断層としては丹那断層が有名ですけど、リスクとしてはこちらのほうがヤバいと思います。

断層を境にして、一瞬で1~3mも隆起するのなら、新幹線の鉄橋は壊れてしまうでしょう。落橋しなくとも、レールは脱線防止ガードもろとも、大幅に変形してしまうでしょう。そこに突っ込んでしまったら大変。

ちょっと試算。
①今後30年間に富士川河口断層が動く確率
0.14

②断層活動時、新幹線の列車が断層の手前3250m以内に存在している確率
0.11
(120㎞/hで脱線すると大事故になると想定。新幹線の急ブレーキは90秒で完全停止するらしい。すると285㎞/hから120㎞/hまで減速するには52秒かかり、その間に約3250m進む。この3250mを危険区間とする。断層の手前3250m以遠でブレーキをかければ大事故は免れるという設定である。換言すれば、断層の手前3250mは危険であり、ここを285㎞/hで通過するには41秒かかる。1日に通過する列車を150往復=300本とすると、1日86400秒のうち12311秒は、断層の手前に列車が存在していることになる。12311s÷86400s=0.11

というわけで、
③今後30年以内に、富士川河口断層が動いたところに列車が突っ込む確率
①×②=0.015

つまり1.5%

これって、かなり高い数字じゃないのかなあ・・・・?

なお、ここでは考慮してませんが、富士川河口断層は東海地震=南海トラフ大地震と連動する可能性が高いようです。その場合、複数の列車が同時に被災するために、事項に遭遇する確率は増します。

だからといって静岡~新富士間で徐行させたら、東京~大阪間の所要時間は大幅に伸びるわけで、社会的な損失が生じるのは確実。「300年に1度の地震?そんなもんリスクのうちに入るか?」などと苦情が殺到するのも目に見えています。

1%で大事故が起きるかもしれない確率…許容できるものなのでしょうか?

これはまあ、シロウトのあてずっぽうな試算ですけど、JR東海は後述のマニュアルに従って試算を行っているはず。断層変位についてのリスク試算結果を公表してもいいんじゃないのかなあ?

なお、リニア中央新幹線は富士川河口断層の迂回ルートとしては不十分である。同断層群は、これまで駿河トラフの大地震すなわち東海地震と連動して活動してきた可能性が高いとされている。駿河トラフの地震では、リニアルートとなる南アルプスから甲府盆地南部まで大幅な地殻変動や地震動が想定されており、東海道新幹線もろとも同時被災する可能性が高いからである。

◇   ◇   ◇   ◇   ◇

まあ、以上は遊びとして切り捨てても構いませんが、疑問に感じたのは次の話。

JR東海のホームページに次のようなQ&Aが紹介されていると、前回のブログで指摘しました。

Q. 活断層を横切ることが心配です。
A. 昭和49年から当時の国鉄が、また平成2年からは当社と鉄道建設公団が地形・地質調査を行っており、これまで長期間、広範囲にわたり綿密にボーリング調査等を実施し、関係地域の活断層の状況について十分把握しています。
日本の国土軸を形成する新幹線や高速道路といった幹線交通網は、広域に及ぶ長距離路線という性格から、すべての活断層を回避することは現実的ではありません
したがって、中央新幹線のルートの選定にあたっては、これまでの調査に基づき、活断層はなるべく回避する、通過する場合は活断層をできる限り短い距離で通過するようにし、さらに活断層の形状等を十分に調査したうえで、通過の態様に見合った適切な補強を行っていくなど、注意深く配慮して工事計画を策定していきます。



これはどういう根拠に基づくんだ?と思って調べていたのですが、どうやら【鉄道構造物等設計標準・同解説 耐震設計】というマニュアルの要約のようです。で、その実物を目にする機会があり、パラパラ眺めていたのですが、どうやら断層運動による変位によって構造物が被害を受ける事態は想定外であるらしいです。

このマニュアルは、阪神・淡路大震災での鉄道被害を受けて、旧運輸省やJR、私鉄の代表者、大学教授などにより編集されたようです。しかし活断層については、当然ながら詳細な調査を行うこととしているものの、その目的は基本的に耐震設計つまり揺れへの対策を設計するものとしており、地表断層が生じてトンネルや橋をちょん切るような事態については、どこを眺めても掲載されていないのです。

今のところ、国内では断層変位による顕著な被害は「ごくまれ」にしか起きていないため、想定しなくてもよいという判断なのかもしれません。実際、明治以降の地震で、断層変位で主要な道路や線路が大被害を受けたのは、1930年の北伊豆地震、1970年の伊豆大島近海地震ぐらいなものです。被害・リスクの大きさからみても、土砂災害や津波のほうがずっと危ないし、何より断層変位については現実的に対応する技術がない…そんな判断がなされているのでしょう。

しかし1999年には、台湾の集集地震、トルコのコジャエリ地震で、断層変位によって橋や堰がぶった切られる事態が相次ぎました。富士川河口断層が動くのはそう遠くない未来かもしれない…。

けっして対岸の火事ではないとも思うのですが。

◇   ◇   ◇   ◇   ◇

さて、現状では断層変位は「不可避のリスク」としてタブー視されているようですが、これは間違っているのではないでしょうか? 

例えば飛行機には常に墜落というリスクがつきまといます。さらに搭乗の際にシートベルトを着用したり救命胴衣のつけ方を教えられたりして、乗客は「事故のリスクがある」ことを意識せざるを得ない。

富士山に登る際には、常に噴火という”低い”リスクがあり、それに備えてヘルメットを携行することが求められています。それによって登山者は「富士山は活火山である」ことを意識することになる。

墜落にしろ噴火にしろ、どちらも実際に起きたら人命は危機に陥ります。利用者はそれを承知のうえで、飛行機に乗るなり富士山に登るわけです。大型施設の避難経路図、ハザードマップ、PL法…利用者・住民にリスクを知らせる試みは多方面で行われています。

けれども新幹線に乗る際に、「断層変位が起きたところに突っ込んだら助からない」ことを意識する人なんぞまずいないでしょうし、そもそもそんなリスクがあること自体、全く教えられない。

これでは「嫌なら乗るな」とも言えないし、万一の際の責任所在も不明になってしまうのでは・・・?

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最後にリニアの話になりますが、スピードが増している分、新幹線以上に、小さな事故が人命につながりうるのに、あいかわらず「リスクはない」という前提で事業が進められております。国土交通省の「超電導磁気浮上式鉄道実用技術評価委員会」の資料を見ても、速度が増すことによるリスク変化については全く議題にしていないんですよ。「

時速500キロでの衝突実験なんてやっていないません(たぶん)。木っ端みじんになることを前提にしてるんでしょうか?

このままリニアを実用化することは、人命を実験台にさらすような気がするわけなので、これは間違っていると思いますよ。

リニアは急にとまれない

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以前より気になっていますが、直下型地震に対するリニアの安全性って、在来新幹線と比較してどんなものでしょう?

宣伝文句では「リニアは浮上しているから揺れに強い」「脱線しない」としていますが、リスクは何も揺れに限りません。断層変位で軌道が変形するとか、トンネルの崩落、落石・土砂崩れ、液状化による軌道のゆがみ…いろいろな要素が考えられるわけです。いずれにせよ、できる限り短距離・短時間で停止しなければなりません。


現在の新幹線では、揺れを感知して自動的にブレーキをかけるシステムが整備されています。気象庁の緊急地震速報と同じメカニズムだそうです。

その自動ブレーキ、新幹線では完全停止まで90秒かかるとのこと。そして超電導リニアでも同じく90秒で停止するそうです。


JR東海のリニア、地震時は新幹線並みの時間で停車
(日本経済新聞 2011/4/14 22:25)
 JR東海は14日、2027年に首都圏と中京圏の間で開業を目指しているリニア中央新幹線について、大地震の初期微動を検知して最高時速500キロメートルから緊急停止する際、90秒前後で停止可能な設計であることを明らかにした。同270キロメートルの東海道新幹線の約2倍のブレーキ力を作動させ、新幹線とほぼ同じ時間で停止できるという。
 急減速で乗客にかかる重力加速度は新幹線より大きいが「座席にシートベルトがなくても乗客の安全を確保できる水準」(同社)としている。


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ここで計算。

非常ブレーキをかけることを考える。

在来新幹線がV=300㎞/h=79.2m/sから90秒で停止する場合、減速時の加速度が一定であるのなら、停止までに要する距離は3564mである。
停止までの平均速度v=39.6m/sで90秒走るから39.6m/s×90s=3564m

この3564mが停止までに要する距離であり、危険な距離である。
(厳密には、減速時は等加速度運動ではないらしいので、もうちょっと停止までの距離は長くなり、4㎞弱とのこと

同じことを超電導リニアについても試算してみる。
V=505㎞/h=140.3m/s
v=70.15m/s

であるから、停止までの距離は6314mとなる。

停止時のブレーキが強化されていても、速度が増している分、停止するまでの距離は長くなっているのである。まあ、当たり前である。そして期間箇所の通過時間も同じであるから、危険区間に列車が存在している確率も同じである。


仮に、軌道の損傷した箇所の手前5㎞で非常ブレーキをかけるとする。このときは、上述の通り在来型新幹線なら1㎞以上手前で停止させることが可能であるが、リニアの場合はそこへ突っ込んでしまう。しかも計算上、時速230㎞/hのままである。
イメージ 1

図 新幹線とリニアについて、軌道の損傷個所の手前5㎞でブレーキをかけたときの停止地点を比較。 オレンジ色が減速区間


いっぽうリニアも在来新幹線も、橋梁やトンネルなどの構造物のつくりは同じだという。すると耐震性能は同じである。外部構造が同じであり、停止までの距離が長いのなら、リニアのほうが危険性が高いのは明白である。

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考えていただきたいのですが、リニア中央新幹線の軌道は、8割がトンネルであり、残る地上区間はほぼ全てコンクリートフードで覆わています。在来新幹線の架線柱の比ではない重量物が乗っかっているのだから、「地震発生時の落下」というリスクがどこにでも付きまとっているわけです。。さらにガイドウェイにはまりこんでいる構造上、障害物が落下しても在来新幹線のように排障器で押しのけることは不可能であり、乗り上げてしまう可能性はより高いでしょう。

その際に乗客が受ける衝撃は検証されているのでしょうか?

 冒頭記事では、シートベルトもいらないとしていますが、シロウト考えでは、石に乗り上げただけで乗客は前の座席に突っ込んでいきそうな気がするんですけどねぇ…。

少なくとも国土交通省の超電導磁気浮上式鉄道実用技術評価委員会では、衝突時の安全確保に関する審議は行われていないように思えます



別にまあ、だからといって「危ないからリニア反対!」ののろしを上げようというつもりではございません。私が言いたいのは、地震発生時や衝突時の検討がマトモになされていないのに「在来新幹線よりも地震に強い!」として推し進めるのは、あまりにもアヤシイということです。

ちなみに、在来線でのブレーキは600m以内で停止するように設定されているとのこと。すると新幹線は原理上、それは不可能なので、線路内に人や車両が入れない構造にすることで、制動距離を長くすることが認められているそうです。けれどもリニアは新幹線以上に速度が増しているのだから、新たな規則が必要なんじゃないのかなあ?


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