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Channel: リニア中央新幹線 南アルプスに穴を開けちゃっていいのかい?
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リニア取消し訴訟へのバッシングについて思うこと

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テレビや新聞で報道されたのでご存知の方も多いかと思うが、リニア計画に批判的な住民グループが、国土交通省による中央新幹線の事業認可取消しを求め、訴訟を起す予定だそうだ。

(毎日新聞より)
http://mainichi.jp/articles/20160513/k00/00m/040/066000c
2027年に東京・品川−名古屋間の開業を目指すJR東海のリニア中央新幹線について、市民団体「リニア新幹線沿線住民ネットワーク」は12日、東京、神奈川、山梨、長野、静岡、岐阜、愛知の1都6県を中心とした計約740人が国を相手取り、事業認可の取り消しを求める行政訴訟を20日に東京地裁に起こすと発表した。
 リニア中央新幹線の工事実施計画は14年10月、全国新幹線鉄道整備法に基づき、国土交通相が認可。品川−名古屋間を最速約40分で結び、総工費は約5兆5000億円。全長286キロのうち86%をトンネルが占める。
 東京都内で記者会見した弁護団によると、訴状では、地下水脈の破壊や大量の建設土砂が生じる問題などについて環境影響評価が不十分で「事業認可は違法」と主張する。鉄道事業法が求めている経営の適切性や輸送の安全性を欠くという主張も展開する方針。弁護団共同代表の関島保雄弁護士は「予定区間は活断層があり、地震時の安全確保にも疑問がある」と述べた。
 JR東海は「中央新幹線の早期実現に向けて全力を挙げて取り組む」とコメントした。


この報道を受け、ヤフコメなどネット上では、やれ金目当てだの、やれ足を引っ張るなだの、交通の発展を阻害するなだの、早速バッシングが始まっているようである(例:Yahoo!ニュースhttp://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160512-00000040-asahi-soci)。 

アホか?

当ブログ作者は、この住民グループの方々とは直接の関わりはないし、それに何度か指摘している通り、主張に賛同できない点も多くあり、時々厳しいことも書いている。”そもそも論”にこだわることも、共産党色が強いのも気に入らないし、トンチンカンな主張に腹が立つことも多々あるし、そんなことを書くたびに「隠れ推進派」のレッテルを貼られている。何よりも反対派ではなく懐疑派という点が気にくわないらしい。

けれどもれ以上に、バッシングをしている連中の思考回路は理解できないのである

「反対派を批判」しているということは、事業者側の姿勢には問題がないという認識のもとにあるはずである。けれども後で具体例を示すように、それはとんでもない思い込みであろう。

JR東海の進め方は環境や地元への配慮が根本的に欠けているのだから、それを是正させようと考えること自体は、健全な思考だと思う。


◇   ◇   ◇   ◇   ◇ 


ちょっと一例として、南アルプスの発生土処分を例に考えてみたい。バッシングをしている方が当ブログをお読みになっていたら、ぜひ、じっくり考えて頂きたい。

甲府~飯田間の南アルプス区間は、ほぼ全てがトンネルとなる。列車の通る本体の長さは少なくとも52500m。さらに作業用トンネルが多数掘られるため、トンネル総延長は約119000m、約119㎞となる。
イメージ 4


当然、大量の残土が生じる。

残土の掘り出し口は少なくとも16か所(静岡市内は未定)にのぼり、出てくる土の量は約1500万立方メートルとなる。よくある例えで言うと、東京ドーム13杯分に相当する。

で、これを処分することが大きな問題が生じるわけだ。

現在の処分計画について東から順にみてゆくと、
●富士川町では変電所を造るためと称して、大規模な盛土を造成する。
●早川町では残土で早川沿いの谷を埋めつつ、ずっと北(夜叉人峠付近)に新たな長大トンネルを掘り、その東側の芦安村まで運んでいって大規模駐車場を造成する。
●静岡市部分の場合、行き場がないので南アルプス山中に置き去りにする。
●大鹿村や豊丘村の場合、残土運搬のために大量のダンプカーが集落内を通行する。

こちらは南アルプス大井川源流部に計画している発生土処分場予定地の衛星画像である。大崩壊地の直下の河原に高さ70m、幅300m、長さ500mの残土山を築こうというアホな計画である。
イメージ 1
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衛星画像から分かるように対岸は大規模崩壊地である。「河道閉塞⇒大規模土石流」の巨大実験場のような計画となる。こんなのがどうしてマトモと言えるのであろうか?


つまり山岳地域へ大量の発生土を掘り出すことにより、適切なリサイクルをすることは不可能となり、ムチャクチャな処分方法にせざるを得ないわけである。静岡市の場合、森林法や河川法を確信犯的に無視しようという意図すら感じてしまう。

なんでこんなムチャクチャになっているかというと、ひとえに「2027年開業。工費5兆5000億円以内。」という事業計画に合わせなければならないからである。次の評価書コピーが証拠。
イメージ 2

静岡県版環境影響評価書より複製・加筆
同じような主張は大鹿村、南木曽町などあちこちで繰り返されている。


ということは「2027年開業。工費5兆5000億円以内。」自体が、環境保全や地元の意向を考慮していない計画であったと考えざるを得ない。

ちょっと考えてみていただきたい。

南アルプス区間で残土運搬・処分が生活環境や自然環境の破壊をもたらすのは早川町、芦安村、静岡市、大鹿村の4か所。環境に配慮するために、この4市町村内への環境負荷をおさえることは原理的に可能であろう。

単純な話、まず巨摩山地トンネルと伊那山地トンネルを完成させ、それを使って南アルプス本体トンネルからの残土を甲府や飯田へ運べばよいのである。それならば大井川源流に残土を置き去りにすることも、大鹿村や早川町をダンプカーで埋め尽くすこともない。斜坑の数を減らせば、土量や流量減少量も小さくできる。

実際、青函トンネルやドーバー海峡トンネル、あるいはゴッタルド基底トンネル(スイス・イタリア国境)の建設時には、斜坑間の距離は20㎞以上あったのだから、原理としては不可能ではないはず。

イメージ 3

同縮尺で青函トンネルと南アルプスのトンネルとを比較 
国土地理院地形図閲覧サービス「うぉっちず」より複製・加筆 



それなのに工事手順を全く見直さないというのは、やはり環境保全や地元の意向は、JR東海の都合より下に位置付けるとの判断なのであろう

南アルプスでの残土処分という一事例についても、これだけのゴリ押しが行われている。当然、水環境、生態系、景観保全についても同様である。そのほか約200㎞の区間および車両基地候補地などについても、同じように地元の意向を無視したゴリ押しがなされているわけである。岐阜ではマトモな調査抜きでウラン鉱床にトンネルを掘ることまで予定している。放射性物質を含んだ残土なんぞ誰が引き取るんだ? 

こういう事業計画がマトモといえるのであろうか?

「リニア反対派を批判」されている方で、上記の南アルプスでの発生土処分計画が環境・安全上ベストな案であり、ケチをつけるのはもってのほかだとお考えであるのなら、ぜひご説明を願いたい。 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇


バッシングしている連中の中には、黙って従えという人もいるのだろうけど、それでは強引に三峡ダムを建設した中国政府や、大規模開発で少数民族を追い払ってゆくどこぞの開発独裁国家と変わらないように思えてしまう



私としては、そんな計画を目の当たりにして、黙っていろと言う思考のほうがが不健全だと思うのである。


(おまけ)
南アルプス静岡県部分について付言しておくと、

●地権者は特殊東海製紙であり、
●登山施設を運営しているのは子会社の東海フォレストであり、
●水利権が直接侵害されるのは中部電力と東京電力であり、
●下流での水利権を持っているのは県の公益企業団である。
●ユネスコエコパークとして管理運営しているのは静岡市であり、
●林道を管理しているのも静岡市である

住民は一人もいないのだから、個人への金目当てで訴訟を起こすことは不可能である。コメントするならそれぐらい調べておいたほうがいいだろう。



伊那山地水収支解析結果 ~大井川の流量減少は異常に大きくない?

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熊本で地震が起きたり、訴訟の話が具体化したりと、いろいろあったので忘れておりましたが、去る4月18日、JR東海のホームページに、伊那山地における水収支解析、つまりトンネル工事にともなう河川流量への影響の予測結果が公表されました。
http://company.jr-central.co.jp/company/others/chuoshinkansen02.html

これで、甲府~飯田間における主要河川についての予測がひとまず出されたことになります。もっとも、くぐり抜ける河川の数に比して、予測地点が少なすぎるという疑問がありますが。


さて、前々から当ブログで懸念していた豊丘村内を流れる虻川については、年平均で0.776㎥/sから0.668㎥/sへの減少(13%の減少)という予測であり、影響は小さいと結論付けていました。

何も知らなければ「そうなのか」と納得してしまうだろうけど、他の予測地点と比べると、妙に数値が小さいのでは?という印象を受けました。特に2㎥/sの減少が試算されている大井川にくらべ、妙に減少量が小さいような気がします。

この疑問について、ちょっと検証してみました。

地下水がトンネルに吸い込まれ、その隙間を埋めるように川の水が地下に吸い込まれ、表流水が減少するわけです。当然、流域内に掘られるトンネル規模が大きいほど壁の面積は広くなり、そこから湧き出す量は大きくなると予想されます。

というわけで、「単位面積当たりトンネル壁からの湧出量」をざっと見積もってみたいと思います。

各種トンネルの外周長さは以下の通りとします。
本坑…40m
先進坑…25m
斜坑…32m
以上の数字はあくまで推測です。根拠は以下の通り。


トンネル断面積はJR東海資料では次のように計画されている。

これら断面積より外周長さを試算する。
●土木工学の本に掲載されていた、一般的な大断面トンネルの設計図をもとにすると、断面積107㎡での外周長さは、おおよそ40m程度になるらしい。
●先進坑も同様に考え、25mとする。
●斜坑については、九州新幹線のものと同じ断面形状であるとし、外周の長さを32mと仮定する。 


さて、環境影響評価書より、虻川流域内に掘られるトンネルは、本坑が約7200m、斜坑が2本合計2300m程度とみられます。よって地下に掘られるトンネルの壁面積は
本坑:7200m×40m=288000㎡
斜坑:2300m×32m=73600㎡
となります。予想される減少量=湧出量は0.1㎥/s=100ℓ/sですから、壁1㎡あたりに換算すると2.77×10^-4ℓ/s。つまり約0.27mℓとなります。

そして同様に、流量減少量が予測されている他の流域についても試算してみた結果が次の通りです。

東から
大柳川……0.97mℓ
内河内川…0.49mℓ
大井川……2.21mℓ
小河内沢…1.0mℓ
青木川……0.72mℓ
 
虻川………0.27mℓ 
(検証過程については文末に記載)


いかがでしょう?

内河内川以外は、トンネルと川が交差する位置関係になります。

イメージ 2
図 南アルプスでのトンネル 

冒頭で申した通り、筆者が、トンネルの構造上もっとも「単位面積当たりトンネル壁からの湧出量」が多いと見込んでいたのは、実は虻川でした。なにしろ下図のように、100m足らずの土被りで川底を1㎞近くにわたって掘り進める計画ですから。

イメージ 1
図 虻川流域での土被り 

しかしJR東海の試算では最も小さくなった。

この結果を見比べてみると、虻川での値が妙に少ないという疑問は、大井川での値は異常に大きいのではないか?という疑問の裏返しではという気がしてきます。土被りは400m以上あるのに、壁面積あたりで比較すると虻川の8倍もの水が湧きだす勘定になっているのです。

ちなみに30年ほど前に、中部電力が大井川沿いに地下式の赤石発電所を建設した際、止水工事前での最大湧出量は毎分500ℓ(毎秒8333mℓ)だったそうです。これは連続降水量300㎜のときの一時的な状況だったそうです。この地下空間の規模は不明ですけど、手元資料の簡易な図から、壁の総面積は5000㎡程度と推察。すると壁1㎡からの湧出量は約1.7mℓ。これは大雨時であった点を考慮すると、やっぱりJR東海の試算結果は妙な値という気がしてなりません。 


なんでこんな試算結果となったのか、アセス審議会議事録を見てもJR東海は説明していないようですけど、破砕帯の位置や水系を無視したトンネルの位置選定にムリがあったんじゃないかと思います。


なお、JR東海が試算に用いたデータのうち透水係数について、大鹿村内での同じ地層に対し、南アルプス本体トンネルと伊那山地トンネルとで、異なる数値を用いているようです(秩父帯石灰岩、未固結堆積物)。私は門外漢だし、先月27日に開かれた長野県の環境影響評価の審査会でもとくに話題になっていないようですけど、どういうことだろう?


※検証過程
【大柳川:流量減少量0.152㎥/s=152ℓ/s】
①本坑壁面積
 3900m×40m=156000㎡
②斜坑壁面積
 なし
③先進坑壁面積
 なし
④トンネル壁1㎡からの湧出量推定
152ℓ/s÷(①+②+③)≒0.97mℓ/s/㎡

【内河内沢:流量減少量0.17㎥/s=170ℓ/s】
①4000m×40m=164000㎡
②2750m×32m=88000㎡
③4000m×25m=100000㎡
④170ℓ/s÷348000㎡≒0.49mℓ/s/㎡

【大井川:流量減少量2㎥/s=2000ℓ/s】
①10700m×40m=428000㎡
②6600m×32m=211000㎡
③10700m×25m=268000㎡
④2000ℓ/s÷907000㎡≒2.21mℓ/s/㎡

【小河内沢:流量減少量0.5㎥/s=500ℓ/s】
①6500m×40m=260000㎡
②2400m×32m=76800㎡
③6500m×25m=162500㎡
④500ℓ/s÷499300㎡≒1.0mℓ/s/㎡

【青木川:流量減少量0.113㎥/s=113ℓ/s】
①3400m×40m=136000㎡
②700m×32m=22000㎡
③なし㎡
④113ℓ/s÷158000㎡≒0.715mℓ/s/㎡

鉄道構造物等設計標準・同解説 耐震設計 ~断層変位は想定外?

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5月20日、リニア計画に反対する市民団体が、2014年10月に国土交通大臣から出された中央新幹線の事業認可取り消しを求め、東京地裁に提訴しました。
私自身はまだ訴えの全文を読んでおりませんので、訴訟内容にかかるコメントは差し控えたいと思っております。

ところで、訴えには時速500キロでの超高速運転は地震時に危険だとする主張もなされています。いくら耐震設計を強化しようと、断層変位が起これば地表ごと構造物が切断されてしまうので、そこに高速で突っ込んだら大参事になってしまう!というわけです。これが原告個人の権利侵害に該当するかどうかは分かりませんが、とりあえず安全性をめぐり法廷の場で議論がなされることになります。

これまで、超高速運転による地震発生時のリスク増加については、国交省での「密室の審議」のようなところで、何かこう、ごにょごにょとお茶を濁しただけに終わっているみたいなので、大っぴらに議論されるのは初めてとなります。

さて、先日のブログでも指摘した通り、JR東海のホームページに次のようなQ&Aが紹介されています。

Q. 活断層を横切ることが心配です。
A. 昭和49年から当時の国鉄が、また平成2年からは当社と鉄道建設公団が地形・地質調査を行っており、これまで長期間、広範囲にわたり綿密にボーリング調査等を実施し、関係地域の活断層の状況について十分把握しています。
日本の国土軸を形成する新幹線や高速道路といった幹線交通網は、広域に及ぶ長距離路線という性格から、すべての活断層を回避することは現実的ではありません
したがって、中央新幹線のルートの選定にあたっては、これまでの調査に基づき、活断層はなるべく回避する、通過する場合は活断層をできる限り短い距離で通過するようにし、さらに活断層の形状等を十分に調査したうえで、通過の態様に見合った適切な補強を行っていくなど、注意深く配慮して工事計画を策定していきます。

ところで、静岡市内の図書館にて「鉄道構造物等設計標準・同解説 耐震設計」という構造計算のマニュアル本を見つけました。上記JR東海の回答は、この本における活断層への考え方が基本になっているように思えるのです。


以下、この本における活断層に関わる記述をそのまま掲載します。


運輸省鉄道局 監修  (財)鉄道総合技術研究所 編集(1999)
鉄道構造物等設計標準・同解説 耐震設計

3.2 断層の調査
断層の調査は、既存資料により、対象とする路線近傍の断層またはリニアメントの分布位置、その確実度、活動度等に関する情報を収集することにより実施するものとする。ただし、さらに情報が必要な場合は、その目的に応じて調査の対象事項、方法、精度等を検討のうえ、詳細な調査を実施するものとする。

〔解説〕
 日本列島は環太平洋変動地帯に位置し、活断層等で特徴づけられる比較的新しい時代の地質構造が多く知られるなど複雑な地形・地質のもとにある。このような条件下で線状構造物である鉄道の路線選定を行う場合、すべての活断層を把握し、かつ避けることは通常は困難である。また、活断層に関わる調査は調査方法等の基準化や客観的な評価基準の設定が困難であり、個々の断層の調査に費やす時間や経費に比べて十分な調査が必ずしも期待できない現状にあると考えられる。

 このような背景から、耐震設計のための地震動の選定を目的とする場合、断層の調査はまず既存資料の収集、整理により、活断層やその疑いのあるリニアメントの分布位置、確実度および活動度等に関する情報を収集することを基本とし、必要な場合には解説図3.2.1に示すように、目的に応じて調査の事項、方法、精度等を検討のうえ計画、実施することが望ましい。資料調査での範囲は、現段階では路線の片側20~30㎞の幅の範囲とする。
 
 また、次段階の詳細調査では、いくつかの既往事例調査に基づき、現段階では線路の片側10㎞の範囲を基本とし、構造物の重要度を考慮して決定することとする。なお、既存資料調査については、「新編 日本の活断層」等がその基礎的資料となるが、最新の情報や今後の調査結果等を随時追加し、その時点での総合的な評価を行うことが重要である。

 断層の危険度判断の際の評価指標として、従来の特定構造物での検討では特定対象範囲内の調査結果から得られる各断層あるいはリニアメントの確実度、活動度および最終活動期と再来間隔等がその危険度という観点から重要とされている。これらの評価指標については鉄道でも大きな違いはないが、線状構造物であることを考慮すると、さらに解説表3.2.1に示す路線と活断層との位置関係が危険度を工学的に判断するうえで重要となる。調査結果は個別の断層やリニアメント、あるいは調査対象範囲全域の調査結果を目的に合わせて整理することとなる。これらの結果の利用にあたっては、その危険度を主に断層と路線の位置関係、確実度および活動度等から総合的に検討したうえで、工学的に必要とされる場合には適切な耐震構造とすることで対処することが現実的な対応策と考えられる。また、現段階で詳細な活動性、再来期間等が明らかな断層はかなり限られている。ここでは路線と断層との位置関係を把握することを主体に調査するのがよい。



イメージ 1
解説図3.2.1



解説表3.2.1
①直接交差するか
②十分に離隔距離がとれないか
③ある程度の離隔距離が確保できるか


以上、引用おわり。

このマニュアルは、阪神・淡路大震災における鉄道被害を教訓として、JRおよび大手私鉄の技術者、鉄道関係の研究所、大学教授、官公庁職員など総勢数十名からなる大グループで編集されたようです。シロウトゆえに技術的な内容はさっぱり理解できませんが、ひとつ言えることは、断層変位による軌道の破壊は想定していないらしいということ。下線部にご注目ください。ここで断層調査の目的は、揺れの強さを想定するために行われるとされるのです。

リニアはトンネルで活断層を貫きます。しかし断層変位=地面や岩盤がずれ動くことによる被害は、NATM工法での山岳トンネルでは物理的に防ぎようがない。

いっぽうで超電導リニアの営業運転は505㎞/h、急ブレーキで停止する案での距離は計算上6~7㎞になるはず。まさにリニアは急に止まれない

既存の新幹線の最高速度320㎞/h(E5系)から一気に185㎞/h増しています。これまでの鉄道のスピードアップは、せいぜい40~50㎞/h増しにとどまっていました。185㎞/h増しというのは、全世界を見回してもまさに前代未聞のことになります。するとこれまで想定せずともよかったリスクが顕在化するのではないでしょうか?



それなのに地震対応についてもこれまでと同じでよいとするのは、ちょっとおかしいんじゃないかと思うのであります。


リニア新幹線は、「主要な経由地 赤石山脈(南アルプス)中南部地域の振興」に資するのか?

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以下に書くことはヘリクツである。

リニア中央新幹線は全国新幹線鉄道整備法に基づいて整備計画が事業認可されたが、その基準を満たしていない 

同法には次のような規定がある。

第一章 総則
(目的)
第一条   この法律は、高速輸送体系の形成が国土の総合的かつ普遍的開発に果たす役割の重要性にかんがみ、新幹線鉄道による全国的な鉄道網の整備を図り、もつて国民経済の発展及び国民生活領域の拡大並びに地域の振興に資することを目的とする。
(定義)

第二条   この法律において「新幹線鉄道」とは、その主たる区間を列車が二百キロメートル毎時以上の高速度で走行できる幹線鉄道をいう。
(新幹線鉄道の路線)

第三条   新幹線鉄道の路線は、全国的な幹線鉄道網を形成するに足るものであるとともに、全国の中核都市を有機的かつ効率的に連結するものであつて、第一条の目的を達成しうるものとする。

つまり高速で走行する新幹線鉄道の整備によって地域の振興に資する(=役立つ、助けになる)ことが全幹法の目的であり、その目的を達成しうる路線でなければ新幹線鉄道たりえないらしい。

このうち第二条の定義についてはクリアしていると思うのだけど、どうも第三条がアヤシイ。

ところで、同法第八条に基づいて作成された整備計画(平成23年5月26日)とは次のようなものである。
イメージ 1

赤線を引いたところに主要な経由地として「赤石山脈(南アルプス)中南部」と明記してある。

この中央新幹線は、「主要な経由地」である「赤石山脈(南アルプス)中南部」には、デメリットしか与えない。

【主だったデメリット】
●大量の残土が出てくる
⇒早川町、富士川町、大鹿村、中川村、豊丘村では搬出のために大量の工事用車両が通行
⇒静岡市では大井川源流部に360万立米を置き去り
●災害誘発の懸念
●河川流量の減少

●生活環境の大幅な悪化
●大規模自然破壊
●立ち退き要請
●景観の破壊
●観光客の減少
●ユネスコエコパークとしての価値・信頼性の低下
●非常口設置で緊急時の地元への負担増
●国立公園区域拡張計画の頓挫

こんなことが想定されているのだが、こんな負担を押し付けて完成させたとしても、単に通過してゆくだけであり、本当に全くメリットがない。

もしかすると推進している側から見れば、
●関連工事による道路整備
●固定資産税の増加?
●甲府・飯田新駅設置による観光客の増加
を「地域振興」の根拠とするのかもしれない。しかし道路整備はリニアの建設目的ではない(必要なら無関係に造ればいい)、観光客の数は全くの皮算用。しかも仮に利益が見込めるとしても、十数年も続く工事による不利益を補って余りあるものなののかはおおいに疑問がある。

さらに静岡市側にいたっては、完全にデメリットだけであろう。

さらに屁理屈をごねて、「東海道新幹線の運転本数が減れば、ひかり号を増発したり静岡空港に新駅を造ったりすることが理屈の上では可能」としても、それは「赤石山脈中南部」の地域振興とは関係がない。

というわけで、「主要な経由地」である南アルプス地域に対しては、どうヘリクツをこねても「地域の振興に資する」ようには見えない。そればかりか「主要な経由地」に不利益のみを押し付ける高速鉄道は、全国新幹線鉄道第一条および第三条に反している! 




以上、ヘリクツでした。

静岡県大井川流域はリニア構想による「地域の振興」の対象とならないのか?

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一昨日あたりから新聞で一斉に報道されているように、何やらリニア計画に対し、安倍総理(というか自民党そのもの)が積極的に後押しすると言い始めており、今後の成長戦略の目玉になるとのことであります。

それから昨日、リニア中央新幹線建設促進期成同盟会総会が都内で開かれ、JR東海の社長を交え、安倍総理の方針を大歓迎していたということです。この同盟会とは沿線の知事から構成されており、JR東海が構想を発表する前から、計画の推進母体となってきたグループです。

こんな状況に至ったのですから、リニア計画は内実ともに政府が濃厚に関わる国家プロジェクトの様相を呈してきたとみています。したがって、リニア計画の「そもそも論」について再考すべき時期が到来したのだろうと思います。

で、当方も「そもそも論」について、勝手にヘリクツを続けます。

で、前回ヘリクツの対象とした全国新幹線鉄道整備法なる法律。

第一章 総則
 (目的)
 第一条   この法律は、高速輸送体系の形成が国土の総合的かつ普遍的開発に果たす役割の重要性にかんがみ、新幹線鉄道による全国的な鉄道網の整備を図り、もつて国民経済の発展及び国民生活領域の拡大並びに地域の振興に資することを目的とする
(定義)
第二条   この法律において「新幹線鉄道」とは、その主たる区間を列車が二百キロメートル毎時以上の高速度で走行できる幹線鉄道をいう。
(新幹線鉄道の路線)
第三条   新幹線鉄道の路線は、全国的な幹線鉄道網を形成するに足るものであるとともに、全国の中核都市を有機的かつ効率的に連結するものであつて、第一条の目的を達成しうるものとする。
 

繰り返しますが、第一条の「地域の振興に資する」でいう「地域」とはどこのことを指すのでしょう?

前回指摘したように、国土交通大臣が決定した整備計画では、中央新幹線の「主要な経由地」としては、甲府市付近、赤石山脈(南アルプス)中南部、名古屋市付近、奈良市付近の名が記されています。

南アルプス中南部は静岡県の大井川源流域になりますから、中央新幹線は静岡県を通過することを前提として事業が具体化してきたことになります。

イメージ 1
図1 南アルプス付近のルート 

しかし当然ながら駅はできないし、静岡県民、特に大井川流域の住民がリニアを使う機会は基本的にない。その代わり大量の残土が置かれ、大井川の水が抜かれてしまいます。このように中央新幹線の建設は、静岡県大井川流域にとっては地域振興とはならないと思います。

現在、全国で新幹線の路線が存在している都道府県は31ありますが、このうち駅が一つもないケースは、東北新幹線の通過する茨城県古河市付近だけです。しかし古河市の場合、古河駅から東北本線の下り電車に乗れば、15分弱で東北新幹線小山駅に着くので、考慮されていないとはいいがたい。信越線分断のうえ長野新幹線安中榛名駅は遠い…という群馬県南西部のケースにしても、静岡県のように物理的に当該新幹線を使えないわけではありません。

リニア開業後には東海道新幹線の運行体制を見直すことで静岡県への「見返り」となる…そんな話もありますが、これとて「取らぬ狸の皮算用」でしょう。すなわち、静岡県が最も期待しているのは「のぞみの静岡停車」なのに、リニア開業後は「のぞみ」廃止の可能性が高い。そもそも、静岡駅に停車する列車が1~2本増えたとして、それが「南アルプス中南部」の地域振興と関係あるのか疑わしい。バスで半日かかるのですから。
飯田もしくは甲府のリニア駅から、赤石岳や伝付峠を越えて静岡県側に下山し、静岡県内で土産物を買って帰る登山者が激増するとでもいうのでしょうか? 

したがって中央新幹線と静岡県との関係は、「地域振興に資さない」初のケースになるといえます。

別に南アルプス山中に「リニア二軒小屋駅」を造ればいいというわけじゃないのですが(そんなものいらない)、それにしても、大井川流域の地域振興を顧みずに大井川流域を通過するルートを決め、振興とは相反するもの―自然破壊だけ―を残してゆくのは、第一条に適合していないのではないかと思うのです。

◇   ◇   ◇   ◇   ◇ 

ところで、上記整備計画にお墨付きを与えた中央新幹線小委員会では、2010年当時、諏訪経由にするか南アルプス経由にするかで審議していたのですが、「南アルプスルート(いわゆるBルート)」については、当時から大井川流域を通過する前提で話が進められていたのでした。このとき、「大井川流域を通らない南アルプスルート」というのはなぜ検討されなかったのでしょう?

現行ルート案では、甲府盆地の南西隅でカーブして南に向かい、伝付峠~大井川(西俣)直下~悪沢岳山腹を経て小河内岳南を抜けるルートとなっています。

南アルプス市で北に曲がるルートはなぜ検討されなかったのでしょう? 

北岳の山腹を抜けるルートにすれば、大井川流域への影響は皆無だし、残土運搬に南アルプススーパー林道を使える。土被りだって大差はない。残土や水枯れ問題も山梨・長野両県内の問題として対処できます。

自然公園法が邪魔だったのでしょうか?

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図2 リニア甲府~飯田間でのルート選定過程
2010年10月20日第9回委員会資料より複製・加筆 

説明が見つからないので理由は不明ですが、図2に示す通り、南アルプスルートは当初より静岡県大井川源流部を通過することを前提としていました。そして結局、赤線で示すルートとなったのです。青線のような、大井川流域を避ける案については計画当初より検討されていなかったことになります。地域振興に資せず環境負荷だけを押し付けることは容易に想定できたのに、その点を検討せずにルートを選定したことについて、同委員会の審議の妥当性は改めて問われるべきだと思います。ちなみに黄色く塗った部分が諏訪湖経由のいわゆるBルート。 

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冒頭に出てきたリニア中央新幹線建設促進期成同盟会に参加しているのは、東京・神奈川・山梨・長野・愛知・岐阜・三重・大阪の各知事です。

新聞報道では「沿線の…」などと形容されていますが、ここに静岡県の意向は反映されていません。

他県の知事が、静岡県の意向を無視して静岡県を残土捨て場にすることを暗黙の了解としているのであれば、実に不愉快なのであります。

南アルプス非常口って静岡県への余計な災害リスクになるのでは?

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全国新幹線鉄道整備法の冒頭部分です。

第一章 総則
 (目的)
 第一条   この法律は、高速輸送体系の形成が国土の総合的かつ普遍的開発に果たす役割の重要性にかんがみ、新幹線鉄道による全国的な鉄道網の整備を図り、もつて国民経済の発展及び国民生活領域の拡大並びに地域の振興に資することを目的とする。
(定義)
 第二条   この法律において「新幹線鉄道」とは、その主たる区間を列車が二百キロメートル毎時以上の高速度で走行できる幹線鉄道をいう。
(新幹線鉄道の路線)
 第三条   新幹線鉄道の路線は、全国的な幹線鉄道網を形成するに足るものであるとともに、全国の中核都市を有機的かつ効率的に連結するものであつて、第一条の目的を達成しうるものとする。
  

リニア中央新幹線もこの法律に基づいて計画が進められています。前回のブログではこれについて、大井川流域(静岡県)の地域振興を顧みずに大井川流域を通過するルートを決め、振興とは相反する自然破壊だけを残してゆくのは、第一条に適合していないのではないかという疑問を投げかけました。

しかしよく考えると、静岡県側への負担は自然破壊だけにとどまらないと思うのであります。

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南アルプスを横断する長さ25㎞の長大トンネルを完成させるにあたり、トンネル頭上の地上からも工期短縮用のトンネルを掘る計画となっています。南アルプストンネル全体では7本、そのうち静岡県区間には2本掘られ、西俣のものは長さ3100m、二軒小屋南のものは長さ3500mの計画です。

土木の世界では、こうした作業用に地上から掘り進めるトンネルのことを斜坑と呼ぶようです。

リニア計画においても、当初は一般的な概念になぞらえて「斜坑」と呼んでいました。図1は2011年9月に公布された環境影響評価方法書です。
イメージ 2
図1 環境影響評価方法書での斜坑という表現 

ところが2013年9月公布の準備書以降は、「非常口」という呼び方に変更しています。
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図2 環境影響評価評価書における非常口という表現 

なぜ変更したのかよく分かりませんが、非常口という扱いにするのなら、これを非常時に使う方針に切り替えたはずです。

わざわざこんなところ()を非常口とするのはきわめて異常な事態、つまり大地震や車両火災で南アルプス地下に緊急停止し、坑口の崩壊や煙の発生により長野・山梨側への避難が困難というケースを想定していることになります。
)文末参照
なお、そんな緊急事態が起きるのなら、リニアと東海道新幹線とが同時被災している可能性があることを示唆していることになる…?
 

さてさて、乗客1000人がゾロゾロと南アルプス山中に出てくる状況をお考えください(最悪の場合は2000人になるかも)。

1000人をJR東海一社で”下山”させられるのでしょうか?

安全確保と誘導、物資の搬送、受け入れ先の確保、当面の必需品の確保、そして”下界”への搬送…常識的に考えれば、どうしても静岡側の公的な救助が不可欠だと思います。なにしろこの「非常口」から静岡市街地までは90㎞くらいあるわけです。

JR東海もそのようなことを示唆しているようであり、静岡県での審議会要旨には次のようなやりとりがありました。
イメージ 1
図3 公的な救助体制が前提? 
第3回静岡県中央新幹線環境保全連絡会議(平成26年11月18日)資料より複製 

でも、これって静岡県民は使えない鉄道に対して、静岡県に救助の要請というか義務が課せられるわけですよね…?

しかも大地震発生の場合、県内全域に大被害が生じることでしょう。しかしヘリコプターや救助隊や食料など、そこに向かうべき支援を「リニアの乗客下山」のために割かねばならない…?

これって、静岡側から見れば、余計な災害リスク・負担に他ならないと思うのです。



静岡県民は使うことが無いのに、その静岡県に自然破壊に加え、乗客の救助・支援といった余計な負担まで背負わせるのは、なにやらオカシイのではないでしょうか。


①西俣の斜坑に出てきても、宿泊施設のある二軒小屋ロッヂまではさらに4㎞程度ある。その二軒小屋ロッヂの定員は68名であり、雑魚寝しても1000人収容可能か疑わしい。11月から4月いっぱいは休業。そして大型バスの入れる畑薙第一ダムまでは約30㎞。 
http://www.t-forest.com/alps/lodge.html
②二軒小屋は標高1350mの高地であり、冬場は氷点下20℃程度にまで冷え込む。
③大地震発生時を想定すると、二軒小屋から静岡の平地にまで移動する道路は寸断されている可能性が高い。
④したがって二軒小屋に出てきてしまったら逆に二次災害の可能性が出てくる。

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上記のような事情を踏まえると、山梨側へ7㎞歩かせた方がよっぽど迅速に非難できる。つまり静岡県内の斜坑は、常識的には、非常口として使えないはずである。それを使わざるを得ないのは、よほど異常な緊急事態である。
 


なお、和53年8月に台風で大井川沿いの橋が流出し、登山者564名が下山できなくなるという事態に陥った。救助のために県と自衛隊のヘリ8機が投入され、全員の搬送に2日かかった。。
http://rdsig.yahoo.co.jp/blog/article/titlelink/RV=1/RU=aHR0cDovL2Jsb2dzLnlhaG9vLmNvLmpwL2ppZ2l1YThldXJhbzQvMTM0NjMwOTkuaHRtbA--

もしかしたら、二軒小屋に近い山梨や長野の警察・消防が救助に向かうかもしれないけど、これとてヘリが使えなければどうしようもない。冬場なら南アとは言え天気は荒れる。2000m級の峠を徒歩で山梨・長野側へ連れてゆくのはきわめて困難であろう。武田信玄の軍勢が標高2000m級の所ノ沢という峠を越えて井川の金山に向かったという言い伝えがあるけど、リニアの乗客1000人が武田軍のような健脚であるはずもない。”雪中行軍”か”あゝ野麦峠”になってしまう。

大井川毎秒2トンの流量減少は法律の想定外じゃなかろうか?

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「発破~!」
どっか~ん
大量の水がドバドバ!
「退避~!」 


トンネル工事ってこんなイメージがありますし、南アルプスではまさしく川のように噴き出すかもしれません。

で、気になるのですが、トンネル内に吹き出した水って、法律上は誰のモノになるんだろう?

それから川の水を減らすのって、法的に問題ないのかな?

ここしばらく、トンネル湧水についての法律上の取り扱いを調べておりました。結論から言うと、さっぱり分からんのですが、統一した見解というか、法的にきちんと整理されていないのが現状らしいのであります。

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大井川における流量予測 環境影響評価書より引用 
位置については後述の資料を参照 



え~、上記の表のように、河川流量が最大2㎥/s減少すると予測されているのであります。ちなみに河川を管理するための法律「河川法」では、農業用水として1㎥/s以上取水するとき、水道・鉱工業用水なら1日2500㎥/s(=0.029㎥/s)、発電用水なら量に関わらず特定水利とされ、その許可については細かい規定があります。

2㎥/s減少とは、数字の上では特定水利の条件を満たしていますから、法的に見ても無視しえないというわけです。


さて平成26年のことですが、参議院にて、「トンネル建設による河川流量減少は河川法に抵触しないのか?」といった質疑がありました。議事録から該当部分を抜き出します。

イメージ 1

赤線の部分が重要になると思われますが、これらについて、いくつか解説書や専門家の見解を紹介したいと思います。

法律等については青線で、本からの引用については赤色で示します。

まずは河川法第二条
第1項
河川は、公共用物であつて、その保全、利用その他の管理は、前条の目的が達成されるように適正に行なわれなければならない。
第2項
河川の流水は、私権の目的となることができない。
 

(解説)
許可の対象となる「河川の流水」の範囲は、河川法上の河川を構成する水である。基本的に流水をいうが、これと一体をなしている水、すなわち表流水と一体となった伏流水も、その占用によって河川の流況に影響を及ぼすものであるから、河川の流水として管理の対象となる、従って、地下水であっても、明らかに伏流水と認められる水以外は河川の流水として考えるべきであろう。

…流水の占用とは、ある特定目的のために、その目的を達成するのに必要な限度において、公共用物たる河川の流水を排他的・継続的に使用することと定義される。(東京都三田用水観光水利権等確認請求事件判決:東京地裁昭和36年10月24日、最高裁昭和44年12月18日)

流水占用の許可は、公水たる河川の流水を許可された範囲内で私的に使用する権利(流水に対する一面的な権利)を付与するものであって、流水を所有する権利(流水に対する全面的な支配権)を付与するものであないことに留意する必要がある。
【河川法研究会編(2006) 「逐条解説 河川法解説」】

河川法第二十四条(土地の占用の許可)
河川区域内の土地を占用しようとする者は、国土交通省令で定めるところにより、河川管理者の許可を受けなければならない。 

第2の3項
この準則において「占用施設」とは、占用の目的である施設をいう。
第7の1項
占用施設は次の各号に規定する施設とする
 二 次のイからホまでに掲げる施設その他の公共性又は公益性のある事業又は活動のために河川敷地を利用する施設
 イ 道路または鉄道の橋梁又はトンネル
第8
工作物の設置、樹木の栽植等を伴う河川敷地の占用は、治水上又は利水上の支障を生じないものでなければならない。この場合、占用の許可は、法第26条第1項又は第27条第1項の許可と併せて行うものとする。
第10
河川敷地の占用は、河川整備計画その他の河川の整備、保全又は利用に係る計画が定められている場合にあっては、当該計画に沿ったものでなければならない。
第11の1項
河川敷地の占用は、河川およびその周辺の土地利用の状況、景観その他自然的及び社会的環境を損なわず、かつ、それらと調和したものでなければならない。

(ブログ作者の考え) 
まずトンネル湧水は果たして大井川の水と言えるのか、という疑問がありましたが、これについては、「地下水であっても、明らかに伏流水と認められる水以外は河川の流水として考えるべき」という解釈に基づき、大井川の水とみなしてよいと思います。そもそもJR東海は、大井川の流量減少が出た試算結果について、「トンネル周辺の水がトンネル内に湧出。その隙間を埋めるように河川水が浸透するとみられる。」という見解を示し、河川流量が減少した場合を想定して環境アセスメントを行っています。

そして河川敷地占用許可準則を文字通りに解釈してみます。すると流量減少の予測されている大井川は次のような特徴にあります。

景観その他自然的及び社会的環境)
ヤマトイワナ等の希少水生生物が生息。
ユネスコエコパークに登録。
(河川の整備、保全又は利用に係る計画)
水返せ運動」の結果として発電用ダムから環境維持流量0.49~1.49㎥/sを放流。
静岡市清流保全条例で保全義務がある。
(河川およびその周辺の土地利用の状況)
発電用に水を使用
渓流釣り場

そして「工作物の設置、樹木の栽植等を伴う河川敷地の占用は、治水上又は利水上の支障を生じないものでなければならない。」という一文に照らし合わせても、発電用水に影響が生じる現計画では、当然に許可はできないはず。

ということは、河川敷地占用許可準則に適合してない?

したがって河川法第24条の敷地占用許可も出せないのだから、トンネル工事は許可してはならないのでは?



分からないといえば、川からトンネルに引き込んだ水の法律上の扱いも分かりません。

JR東海は、トンネルに引き込んだ水を、トンネル交差部より12㎞程度下流へ放流するとしています。川に与える影響自体は、堰から取水して発電機を回し、12㎞下流で放流する水力発電所と変わりありません。

発電所は発電目的だから、河川法に基づいて流水の占用の許可を得ていますが、JR東海の場合は、使用するためではないので、許可は不要というのが冒頭の国会答弁。

けれども川および他の利水関係者に与える影響は、水力発電所の場合と変わりないです。むしろ、調整ができないから余計にたちが悪い。

使うわけでもないのに、川の下から河川水を引き込んでよいのでしょうか?

関係ありそうな、なさそうな一文。
…「地下に浸透した水の使用権は、元来その土地所有者に附従して存するのであるから、土地所有者は事故の所有権の行使上、自由にその水を使用することができるのは当然の条理である、土地所有者にその使用権があるとするならば、その地下浸潤の水利を隣地または近傍地の所有者において幾年間利用してきた慣行があったとしても、そのために地役権を生ずるという道理はない。」と判示する(大判M29.3.27民録2.3.111)。
 憲法29条の財産権の保障の規定を受けて財産権の基本的な事項について定めている民法206条は「所有者は法令の制限内において自由にその所有物の使用、収益、処分をなす権利を有する」と定め、同207条は「土地の所有権は法令の制限内においてその土地の上下に及ぶ」と定めているのを受けて、ある土地内に入った地下水は所有者が土地の所有権に基づき自由に使用できることを根拠にするものである。
 湧水についても「土地より湧出した水がその土地に浸潤してまだ溝渠その他の水流に流出しない間は、土地所有者において自由にこれを使用することができ、その余水を他人に与えなくとも、他人が特約法律の規定または慣習によってこれを使用する権利を有しない限りでは、これに対し何ら異議を述べることはできない、すなわち、この場合における土地所有者の水を使用する権利は絶対に無制限でありる。」(大判T4.6.3民録21.886)と判示する。
 このように、地下の使える範囲内に存在する地下水は私水であって、都市所有者が自由に使用できるとするのが凡例であり、法の解釈である。
【須田 政勝(2006)概説 水法・国土保全法】

井戸や温泉の場合なら、出てきた水や温泉は、その土地の所有者のものになるらしい。けれどもトンネルの場合、湧きだした地点と湧き出す先の土地、双方の所有者は異なるのだから、たぶん、この規定は通用しないでしょう。そもそも河川の地下なら、河川管理者以外は手を付けられないはず。

水循環基本法の基本理念 
第三条  水については、水循環の過程において、地球上の生命を育み、国民生活及び産業活動に重要な役割を果たしていることに鑑み、健全な水循環の維持又は回復のための取組が積極的に推進されなければならない。
 水が国民共有の貴重な財産であり、公共性の高いものであることに鑑み、水については、その適正な利用が行われるとともに、全ての国民がその恵沢を将来にわたって享受できることが確保されなければならない。
 水の利用に当たっては、水循環に及ぼす影響が回避され又は最小となり、健全な水循環が維持されるよう配慮されなければならない。
 水は、水循環の過程において生じた事象がその後の過程においても影響を及ぼすものであることに鑑み、流域に係る水循環について、流域として総合的かつ一体的に管理されなければならない。 
以下略 

水循環基本法3条2項で定める水の高い公共性は、限りある水資源をいかに管理し配分するかの問題意識を踏まえて導出されている。地方公共団体が地下水を管理しえない段階では、土地所有者の効力がそれに及ぶと解したうえで、同法3条3項を民法207条にいう「法令の制限」ととらえ、健全な水循環が維持できないような地下水の利用は認められないとの準則を見出せる。ローカルな水資源である地下水は、その法的性質を一律に規定のものとして扱うのではなく、地域に適した管理システムの構築過程において当該地域の問題として検討されるべきである。かかる解釈が地域特性に応じた施策の策定・実施を求める基本法5条の種子にも合致するのである
【宮 淳(2015) 『地水循環基本法における地下水管理の法理論 ―地下水の法的性質をめぐって―』 地下水学会誌 第57巻第1号 63-72 (同論文の要旨)】


この件についてさらに追及するためには、温泉法や鉱山保安法についても調べねばならなさそうですが、これ以上は頭が回りません。論文の引用だけで中途半端ですが悪しからず。



それから、トンネル湧水は「12㎞下流で川に放流」というのがJR東海の計画であり、そのためのトンネルを導水路と称していますが、これは法律上どのような扱いとなるのでしょうか?
イメージ 2
導水路案。JR東海ホームページより引用。発電施設の位置を記入。 

「トンネルに湧き出した水」は、事業者視点では不要なものですから、それを河川に排除するわけです。つまり事業者にとっては不要物=汚水を川に捨てることになる。扱い・したがって以下のような各法令が関係してくるのでは…?

下水道法 
第二条  この法律において次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
 下水 生活若しくは事業(耕作の事業を除く。)に起因し、若しくは付随する廃水(以下「汚水」という。)又は雨水をいう。
 下水道 下水を排除するために設けられる排水管、排水渠その他の排水施設(かんがい排水施設を除く。)、これに接続して下水を処理するために設けられる処理施設(屎尿浄化槽を除く。)又はこれらの施設を補完するために設けられるポンプ施設、貯留施設その他の施設の総体をいう。 

(解説)
雨水には湧水、雪解け水を含む。 

【逐条解説 下水道法より】

扇状地や旧河川敷の造成地などでよく見られますが、湧き水がドボドボ沸いていて、それを排水しないと水浸しになるような地域があります。そうした地域では、湧水を積極的に排水するために溝やパイプを埋設したりしています(静岡市内だったら駿河区の中島、西島地区、葵区の西奈地区などが該当します。)。リニアの導水路もそのような位置づけになるのでしょう。

これを大量に河川に捨てるのなら、河川法の許可が必要となります。

河川法施行令 
第十六条の五  河川に一日につき五十立方メートル(河川の流量、利用状況等により河川管理者がこれと異なる量を指定したときは、当該量)以上の汚水(生活又は事業(耕作又は養魚の事業を除く。)に起因し、又は附随する廃水をいう。以下同じ。)を排出しようとする者は、あらかじめ、国土交通省令で定めるところにより、次の各号に掲げる事項を河川管理者に届け出なければならない。ただし、当該事業、汚水を排出する施設の設置等又は汚水の排出について、別表上欄に掲げる認可等の処分を受け、又は同欄に掲げる届出をしているときは、この限りでない。
 氏名又は名称及び住所
 汚水を排出しようとする河川の種類及び名称
 汚水を排出しようとする場所
 汚水の排出の方法及び期間
 排出しようとする汚水の量
 排出しようとする汚水の水質
 排出しようとする汚水の処理の方法

けれども、汚水の量とか期間とか水質なんて、トンネル工事の場合は「掘ってみなけりゃ分からない」のだから、あらかじめ申請しようがないはず。

どうするんだろう?

ちなみに水質汚濁防止法も調べましたが、これは事業所からの排水が対象であるため、工事現場からの排水やトンネル湧水は関係ないらしい。 


ナゾだらけなのであります。
事業主体が行政機関の場合、河川管理者との協議のみで工事可能になるようですが(そうしなければダム工事なんて不可能)、”民間事業”のリニア建設では、それも不可能。

これも法律上の落とし穴なんじゃないのかな?

冒頭の国会答弁にあるように「一級河川の流量を、利水目的でもなく2㎥/s減少させる」「トンネル湧水を大量に河川に捨てる」行為は、おそらくどの法律も想定していないのだと思うのであります。

リニアの整備より先に、法律の整備が先決なのでは?

河川法 森林法 市条例 発生土置場はクリアできるのか?

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南アルプスでの巨大開発について、河川法とか森林法の観点から調べているのですが、いろいろと興味深い。常識的な日本語読解能力で法律を解釈する限りでは、とてもじゃないけど現行計画は実現不可能なんじゃないかと思うのです。

前回記事のように、

「流量が利水・自然環境に重大な影響を及ぼしかねないほど減少しかねない。しかも自然環境への影響に対して有効な対策が物理的に不可能。」

こんなことが公式文書(環境影響評価書」で明らかな工事が申請されることは、現行の法体系では想定していないはずです。つまり、普通ならば法的にクリアできるような事業内容に修正させてから事業認可させるけれども、修正した形跡もない。

で、さらにナゾ…というか、法律に照合して疑問がありそうなのは、南アルプスに計画されている発生土置場つまり残土捨て場の扱いです。これなんか考えれば考えるほど、「今の計画のままじゃムリじゃん!」という気がしてくるのであります。



盛土そのものを計画しているのは公有地ではなく民有林部分に限定しているようです。とはいえ、数十年前までは河原であった土地であり、官民境界に明瞭な護岸や堤防が築かれているわけでもない。

そういう曖昧な土地は、河川法第六条1項でいう「河岸の土地」とされ、土地の所有者が誰であるかにかかわらず、河川と一体化した「河川区域」となり、河川管理者の管理下に置かれ、河川法が適用されるそうです。もっとも適用外だとしても、後述の森林法による審査が必要となります。

●河川法第6条
この法律において「河川区域」とは、次の各号に掲げる区域をいう。
 河川の流水が継続して存する土地及び地形、草木の生茂の状況その他その状況が河川の流水が継続して存する土地に類する状況を呈している土地(河岸の土地を含み、洪水その他異常な天然現象により一時的に当該状況を呈している土地を除く。)の区域
 河川管理施設の敷地である土地の区域
 堤外の土地(政令で定めるこれに類する土地及び政令で定める遊水地を含む。第三項において同じ。)の区域のうち、第一号に掲げる区域と一体として管理を行う必要があるものとして河川管理者が指定した区域

河川区域において盛土を行うのなら、第二十七条による(土地の掘削等の許可)が必要になります。また、コンクリート製の巨大な壁なども備える計画ですので、河川法第二十六条による(工作物の新築等の許可)も必要となります。それには民有地だろうと関係はない。

●河川法第26条(部分)
河川区域内の土地において工作物を新築し、改築し、又は除却しようとする者は、国土交通省令で定めるところにより、河川管理者の許可を受けなければならない。河川の河口附近の海面において河川の流水を貯留し、又は停滞させるための工作物を新築し、改築し、又は除却しようとする者も、同様とする。


●河川法第27条(部分)

河川区域内の土地において土地の掘削、盛土若しくは切土その他土地の形状を変更する行為(前条第一項の許可に係る行為のためにするものを除く。)又は竹木の栽植若しくは伐採をしようとする者は、国土交通省令で定めるところにより、河川管理者の許可を受けなければならない。ただし、政令で定める軽易な行為については、この限りでない。

【解説】本条(第26条、第27条)の制限を受けるのは、河川区域内の一切の土地である、すなわち、河川管理者が権原に基づき管理している土地であるか否かにかかわらない。 
『逐条解説 河川法』より

この審査方法について、河川法では特に定めていません。しかし実用上は、旧建設省から出された通達が基準になっているそうです。

●行政手続法の施行に伴う河川法等における処分の審査基準の策定等について
〔平成6年9月30日建河政発第52号〕

位置づけ
本通達は…地方支分局の長または地方公共団体の長が処分超となる場合の策定の指針となるべき準則を占めしたものである…したがって各処分庁は、基本的には本通達をもって自らの審査基準等として取り扱うこと…

この通達における、河川法第26条、第27条にかかわる審査基準とは以下の通りです。 

(5)第26条第1項(工作物の新設等の許可)の審査基準について
河川区域における工作物の新築等の許可を行うに当たっては、以下の基準に該当するかどうかを審査したうえで許可することができるものであること。
  ① 治水上又は利水上の支障を生じるおそれがないこと。
 この場合において、治水上又は利水上の支障の有無を検討するに当たっては、以下に掲げる事項について、それぞれ次に定める基準により、水位、流量、地形、地質その他の河川の状況及び自重、水圧その他の予想される荷重などから総合的に検討すること。
  イ 工作物の一般的な技術基準について、「河川管理施設等構造令」(昭和51年政令第199号)
  ロ 設置について、「工作物設置許可基準」
⇒国土交通省北陸地方整備局千曲川工事事務所ホームページ最下段
http://www.hrr.mlit.go.jp/chikuma/jimusho/permit_application/index.html 
  ハ 土木工学上の安定計算等について、「河川砂防技術基準(案)」
⇒国土交通省ホームページ 
http://www.mlit.go.jp/river/shishin_guideline/gijutsu/gijutsukijunn/index2.html 
  ② 社会経済上必要やむを得ないと認められるものであること。
  ③ 当該河川の利用の実態からみて、当該工作物の設置により他の河川使用者の河川の使用を著しく阻害しないこと。
  ④ 当該工作物の新築等を行うことについての権原の取得又はその見込み、関係法令の許可、申請者の事業を遂行するための能力及び信用など、事業の実施の確実性が確保されていること。

(6)第27条1項(土地の掘削等の許可)の審査基準について
 河川区域における土地の掘削等の許可を行うにあたっては、以下の基準に該当するかどうかを審査したうえで許可することができるものであること。
 ①当該掘削等に係る行為による河川の流水の方向、流速等の変化により、河川管理施設若しくは許可工作物を損傷するおそれや、河川の流水に著しい汚濁を生じさせ、他の河川管理者の河川の使用を著しく阻害するなど、河川管理上著しい支障を生じるものではないこと
 ②…(5)の④に同じ
 

引用が長くなりました…。

現在までにJR東海が県に提出した資料から判断すると、「河川管理上著しい支障を生じるものではないこと」を審査するのに必要な調査を行っているようには見えないのであります。これら審査点は森林法上の問題と重複するので、後に詳述します。

また、河川法第26条、第27条の許可に必要な「関係法令の許可」に該当する事項として、市条例があげられます。いくつかありますが、重要なのは次。

●静岡市南アルプスユネスコエコパークにおける林道の管理に関する条例 
南アルプスがユネスコエコパークに登録されたことを受け、静岡市がその環境保全のために、林道の通行制限を課した条例です。以下、関係部分を抜粋。

(林道の通行許可)
第3条 林道を通行しようとする者は、あらかじめ市長の許可を受けなければならない。ただし、次の各号のいずれかに該当するときは、この限りでない。
(略)
(通行の不許可)
第4条 市長は、前条第1項の規定による許可の申請に係る林道の通行が次の各号のいずれかに該当するときは、これを許可しないことができる。
(1) 林産物の搬出若しくは造林、間伐、伐採等の森林施業又は農作業のための通行に支障を及ぼすおそれがあるとき。
(2) 林道を損傷し、若しくは汚損し、又は林道の通行に危険を及ぼすおそれがあるとき。※
(3) 林道の設置目的に反し、不適切であると認められるとき。※2
(4) 林道周辺の自然環境の保全に支障を及ぼすおそれがあるとき。※3
 

当然のことながら、河原を埋め立てるために工事用車両が通行するのなら第3条に従って許可を得ねばなりません。けれども、普通の日本人の読解力と間隔で判断すると、現行計画は第4条に見事なまでに抵触しているのだから、このままでは許可ができないはずです。それどころかJR東海の計画は林道そのものを残土で埋め尽くしてしまおうとするもの。

どうするつもりなのだろう…?

※1 重い車両が次々通行すれば、未舗装の東俣林道は簡単にえぐられる。
※2 第2条では『この条例において「林道」とは、森林の適正な整備及び保全を図る目的で設置された道路並びにこれに附属する工作物、物件及び施設で、南アルプスユネスコエコパークに存するもののうち、市長が管理するものをいう。』としている。リニアを建設するという行為は、森林の整備・保全とは合致しない。
※3 車両の通行だけでも、外来動植物の搬入、ロードキル、騒音、ホコリの巻き上げ、登山者への圧迫などがあげられる。運んできた残土による環境破壊は言うまでもない。
 

より直接的に発生土置場の安全性審査について扱っているのは森林法のようです。盛土計画地そのものは民有林と書きましたが、このあたり一帯は森林法でいう地域森林計画の対象となっています。地域森林計画の対象となっている森林で1ヘクタール(10000㎡)以上の開発を行う場合には、森林法第十条の二に従って都道府県知事より許可を受ける必要があります。

●森林法第十条の二 
  地域森林計画の対象となつている民有林において開発行為(土石又は樹根の採掘、開墾その他の土地の形質を変更する行為で、森林の土地の自然的条件、その行為の態様等を勘案して政令で定める規模をこえるものをいう。以下同じ。)をしようとする者は、農林水産省令で定める手続に従い、都道府県知事の許可を受けなければならない。ただし、次の各号の一に該当する場合は、この限りでない。
一   国又は地方公共団体が行なう場合
二   火災、風水害その他の非常災害のために必要な応急措置として行なう場合
三   森林の土地の保全に著しい支障を及ぼすおそれが少なく、かつ、公益性が高いと認められる事業で農林水産省令で定めるものの施行として行なう場合

2   都道府県知事は、前項の許可の申請があつた場合において、次の各号のいずれにも該当しないと認めるときは、これを許可しなければならない。
一   当該開発行為をする森林の現に有する土地に関する災害の防止の機能からみて、当該開発行為により当該森林の周辺の地域において土砂の流出又は崩壊その他の災害を発生させるおそれがあること。
一の二   当該開発行為をする森林の現に有する水害の防止の機能からみて、当該開発行為により当該機能に依存する地域における水害を発生させるおそれがあること。
二   当該開発行為をする森林の現に有する水源のかん養の機能からみて、当該開発行為により当該機能に依存する地域における水の確保に著しい支障を及ぼすおそれがあること。
三   当該開発行為をする森林の現に有する環境の保全の機能からみて、当該開発行為により当該森林の周辺の地域における環境を著しく悪化させるおそれがあること。
(後略)。  

ふぅ~。。。またも長~い引用でした。

第1項では例外規定があげられています。しかし発生土置場については、すでに県知事意見・国土交通大臣意見において土砂流出・生態系・河川環境・景観に与える影響が懸念されていることから、「森林の土地の保全に著しい支障を及ぼすおそれが少なくい」とは言えません。したがって例外規定には該当しないはずであり、第2項に基づく県知事の審査を受けねばなりません。

その審査において、問題がなければ、県知事から開発許可が得られることになります。

で、問題なのが一と四。
当該開発行為をする森林の現に有する土地に関する災害の防止の機能からみて、当該開発行為により当該森林の周辺の地域において土砂の流出又は崩壊その他の災害を発生させるおそれがあること。

当該開発行為をする森林の現に有する環境の保全の機能からみて、当該開発行為により当該森林の周辺の地域における環境を著しく悪化させるおそれがあること。

この両規定との整合性はまことにアヤシイ。なお、これら審査ポイントは河川法第26条の許可基準とも重複します。

当ブログで何度も指摘している通り、燕沢平坦地には、周辺の崩壊地から大量の土砂が流れ込んでいます。そもそもここに平坦地があるのは、過去の巨大な崩壊の痕跡である可能性が高い。ここに土砂(というか土石流)が一旦堆積し、それを大井川が少しずつ下流へ流してゆく。そういう場所です。


イメージ 2
国土地理院 地理院地図 電子国土Webより引用・加筆 

こんな場所を埋め立てるわけです。

JR東海の案は、中央部分に見えている大井川沿いの平坦地に、南北に分けて残土を積み上げるというもの。北側のものが巨大です。

イメージ 3
第6回静岡県中央新幹線環境保全連絡会議JR東海作成資料より複製 
右が北(上流側)になっていることに留意  

これを上記の写真に合成してみましょう。

イメージ 1

こんなふうになります。ちなみに茶色い線が現在の林道で、JR東海の案では、赤線のように盛土の上へ移設するとのこと。

さて、JR東海の計画通りに残土で山を築いたら、土石流のたまるスペースを決してしまうので、本流に流れ込んだ土石流は、そのまま下流に流されていってしまいます。これは土砂運搬量の増加につながるし、川床の様子も変化するに違いない。土石流の規模が大きかったら、狭まった河原を容易に埋め尽くしてしまうかもしれない。

あるいは、これまで頻繁に流路の変わってきた場所において、川の流れを永久に右岸(画像左手)寄りに固定することになります。すると増水した際には右岸を削ることになるので、土砂の生産量が増してしまう。画像で確認できるように、右岸には崩壊地が広がっていますが、この崩壊を助長するかもしれません。さらに防災科学技術研究所の地すべり分布図では、右岸一帯が巨大な地すべりである可能性も指摘されています。

でもって、残土が高さ70m、幅300m、長さ500mもの規模で積み上げられるのですが、中途半端なのロックフィルダムのようなものであり、どう考えても、それが良好な景観であるとは考えにくい。

それに、危険な場所なら急速緑化せねばならないはず。けれども外来雑草による種子吹付などを行わずして15~20万平方メートルもの緑化が可能なのか、極めて疑問です。けれどもこんな場所に外来雑草を大繁殖させたら、水の流れ、風、動物の移動によって南アルプスの広範囲に広がってしまう。どうするんだろう?

そして環境面における根本的な問題になりますが、川辺林に盛土をして木を植えても、そこに成立する林は川辺林ではない、ということがあげられます。川辺林自体が希少性の高い林分であるのだから、そこを開発するのなら、まずは現存の川辺林の立地状況(植生・土壌条件・現存面積など)を把握しなければなりません。ふつうはアセスで終わらせておくべき事項ですけど、JR東海はそれをやっていないのです。


かように疑問は大量にあります。けれどもJR東海は調査をしていない。

今後行われるであろう調査のマニュアルは以下のようです。


これ全部クリアするのに何年かかるんだろう? 

そもそも調査終了後に安全性が確認されるのでしょうか?

こんな理由で、現状では残土処分地(発生土置場)の安全性を説明する準備すら整っていないし、たぶん、そう簡単には調査も終わらないと思うのであります。


2027年度開業というのは絵に描いた餅なんじゃないのかなあ?

大井川源流域での流量観測結果が初めて公開された

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このほどJR東海より、環境影響評価法に基づく事後調査結果が報告されました。
静岡県についてはこちらのページに掲載されています。

法に基づく事後調査とは、簡単に言えばモニタリングのことです。静岡県では水環境と猛きん類とが対象になっています。

さて、環境影響評価書では実際の河川における流量の調査はほとんど行われていませんでした。それでは困るとの県からの意見を受け、事後調査として機械による連続観測が行われています。このほど、河川流量の実測結果がはじめて公表されたことになります。

これをもとに2年前の評価書を読み返すと、「あの予測は妥当だったのか?」という疑問がふたたびよみがえってきました。

2014年8月確定の評価書では、トンネル工事により大井川の流量は次のように変化するとの予測結果が掲載されていました。
イメージ 2

イメージ 3

ここで「地点番号02 西俣」をご覧ください。これは年間平均流量らしいのですが、工事着手前の流量を3.56㎥/sとし、それがトンネル完成後には2.49㎥/sに減るとしています。

「工事着手前の流量」欄にある解析という言葉に留意してください。これはコンピュータ上ではじき出された現況の流量、つまり降水量や地形・地質条件を入力した結果、現在の「地点02 西俣」では3.56㎥/sの流量があるとしている理論上の数値というわけです。計算の値ですから(解析値)となっているわけです。

アセス終了後の事後調査では、評価書での「地点02 西俣」より約500m下流にて、水位計を設置して流量の連続観測が行われることになりました。その結果が次のグラフになります。なお、こちらの実測地点は地点番号05となっていますので、混乱せぬようご注意ください。

イメージ 1

ラフには評価書での解析値3.56㎥/sのラインを引いておきました。たった8カ月半のデータですが、これにより、解析値がこの付近の流量を適切に示していたかどうか、少しばかり検証することができます(注1)。

で、見比べてみると、実測データでは解析値3.56㎥/sを下回っている日のほうがはるかに多かったことが読み取れます。ざっとみたところ、240日間程度のうち、上回っていたのは30日程度に過ぎなかったようです。特に12月以降は1㎥/s前後で推移しています。

というわけで、少なくともこの240日間に限っては、解析値3.56㎥/sは、実際の西俣での流量を適切に反映していなかったのではないかと思われます。もしかすると単純に数字を合計して日数で割れば、3.56に近い値が出るかもしれませんが、変動の大きな減少に対し、そのようにして平均値を求めることは不適切です。

『頭の体操』
100人がいて、そのうち5人が年収1億円、25人が1000万円、70人が400万円だとする。100人の年収を合計すると10憶3000万円。単純に100人で割ると、100人の平均年収は1030万円となる。けれども1030万円が100人の実態を表しているわけがない。値ごとの頻度が大きく異なるものは、単純に平均値を求めても無意味という好例である。

同様に、河川流量というのは大きく変動する。大雨が降った直後はものすごく大量の水が流れるけど、あとはチョロチョロしか流れていない…日本の河川はそうした傾向がある(河況係数が大きいという)。そうした川の状況を知るためには、もうちょっと工夫することが必要である。

⇒流量観測とデータ処理については過去のブログ記事(2015/1/6)を参考していただきたい)http://blogs.yahoo.co.jp/jigiua8eurao4/13542475.html 


トンネル工事に伴う流量減少量の予測はは約1㎥/s。しかし実際の川では冬季に1㎥/s以下しか流れていないとする観測結果(注2)を考慮すると、流量が減少した場合の影響は、評価書で予測されていた以上に深刻なのかもしれません。

なお、ここの上流にある中部電力西俣取水堰では、別の支流東俣と合わせて常時1.15㎥/sを取水しています。西俣取水堰からの維持流量は0.12㎥/sに過ぎません。だから観測を行うことはもちろん大切なのですが、渇水期の予測値としてこの0.12㎥/sを前提とした試算も行うべきではないのでしょうか。

さて、JR東海による流量減少への保全措置は、具体的には導水路を造ってトンネル湧水を排水するというもの。

しかしその出口はこの観測地点より13~14㎞下流になります。したがって予想以上に流量減少が深刻になろうとも、有効な対策は物理的に不可能。発電用の取水を停止するなどせぬ限り、河川環境を維持できぬような気がするのですが…。



(注1)評価書での予測地点と、事後調査地点とは500mほど離れておりますが、2地点間には目立った支流は流入していません。地形図に名称が記載されている柳沢の流量は、事後調査報告書によると豊水期0.03㎥/s、渇水期は測定限界値未満であったとしており、影響は小さいと判断します(涸れていたということ?)。

熊本地震でトンネルが破壊してしまった

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4月に発生した熊本地震。家屋の倒壊や阿蘇大橋の崩落、熊本城の損傷、大規模な斜面崩壊など各方面に大きな被害が生じました。中には、直接、人的被害にはつながってはいないものの、トンネルが崩落したという、土木工学的に重大な被害も生じています。

被害を受けたのは西原村と南阿蘇村とをつなぐ俵山トンネル。阿蘇山の外輪山に設けられており、今回の地震を引き起こした布田川断層と交差しているようです。Wikipedeaによると完成は平成15年10月とのことで、比較的新しいトンネルになります。

なお、復旧工事が始まるそうです。1日も早い開通を願っています。
(国土交通省 6/28報道発表)


さて、俵山トンネルの被災状況については、これまで何度か土木工学や防災関係者の視察が行われ、その報告が写真とともにネット上にも掲載されています。

いくつかの報告についてリンクを掲載しておきます。


●覆工コンクリートのひび割れ・剥落
日本経済新聞4/28
地震ルポ 誰も報道しなかった「俵山トンネル崩落現場」
http://www.nikkei.com/article/DGXMZO00148090X20C16A4000000/?df=3

●トンネルそのものが破断面を境に左方向へズレたらしい
(公共土木施設の被災状況と斜面崩壊 愛媛県の調査
PDFファイル 約9MB)
http://www.pref.ehime.jp/h40800/2643/hisaitakuti/documents/hisaityousa.pdf#search='%E6%96%AD%E5%B1%A4%E5%A4%89%E4%BD%8D+%E4%BF%B5%E5%B1%B1%E3%83%88%E3%83%B3%E3%83%8D%E3%83%AB'

これらの被害については、国土交通省など複数の機関において軸方向圧縮破壊とした見解が示されています。
http://www.mlit.go.jp/common/001136057.pdf#search='%E4%BF%B5%E5%B1%B1%E3%83%88%E3%83%B3%E3%83%8D%E3%83%AB+%E5%A4%89%E4%BD%8D'

軸方向圧縮破壊…トンネルの長軸方向、つまり出口と入口の双方から逆向きの力がかかり、トンネルがつぶれてしまったようなのです。ちょうどトイレットペーパーの芯を両側から押すような形になります。上記リンク先に掲載されている写真では、側溝のフタが浮き上がっている様子が写っていますが、まさにトンネルの長さが短くなってしまった証拠になります。

言い換えれば、トンネルを掘ってある地山そのものが変形することにより、地山と一体化しているトンネルも変形し、コンクリート構造物が壊れてしまったことになります。


俵山トンネルは熊本地震を引き起こした布田川断層と交差しています。熊本地震の発生メカニズムは正断層成分を含む右横ずれ断層型とされています。この場合、引っ張る力が働くことにより、観察者側から見て反対側の地盤が相対的に右へ動きます。このときトンネルが圧縮されて破壊されるのは下図のような原理となります。

イメージ 2
気象庁ホームページより複製・加筆
熊本地震は赤枠で囲ったタイプで正断層成分を含む型とされる 

青い線の部分を模式的に示すと以下の通り。スペースの都合上、トンネルを左右に描いているので留意していただきたい。 


イメージ 1
灰色部分が岩盤。山岳トンネルの壁は岩盤に固定してあるので、岩盤が動くと一緒にずれ動いてしまう。このため現在の工法では、原理的に変状を防ぐことは不可能。

そういえば、こんな報告もありました。

●副次的な断層変位が発生したとする報告
災害科学国際研究所 「布田川断層帯に正断層も確認:地下深部では斜めずれ,地表では横ずれ断層と正断層が並走」



なお、左側へずれたという報告もされていますが、これは右横ずれとする各種報告とは逆です。う~ん、、、よく分からん。


被害発生の詳細なメカニズムについては、シロウトには判断つきかねます。これから学術論文等に詳細な報告がなされることでしょう。しかし断層変位が起きてしまうと、コンクリート構造物の変状は免れないことが示されたことは確実だと思います



そんなことを考えると、何本もの活断層をトンネルで貫くリニア中央新幹線という構造物は、断層変位に対してのリスクが高いんじゃないのかなぁと思うのであります。

俵山トンネルでの路盤の変状箇所では、垂直方向に30㎝ほど、水平方向に15㎝ほど路面が食い違っているようです。超電導リニアは10㎝浮かんでいるわけですが、このぐらいのズレが突如起こり、そこへ高速で突っ込んだら、段差に衝突してしまいます。そうなったらどうなるのでしょうか。脱線しないとしても、シートベルトもつけていない乗客はどうなるでしょう。緊急ブレーキがかかったとしても、速度が大きいぶん、減速開始が破損個所まで6㎞以内だったらアウト

前にも書きましたけど、現在、鉄道建設時の地震対策マニュアルとなっている「鉄道構造物等設計標準・同解説 耐震設計」では、断層変位による構造物の破壊は想定していません。
(5/25ブログ記事)
http://rdsig.yahoo.co.jp/blog/article/titlelink/RV=1/RU=aHR0cDovL2Jsb2dzLnlhaG9vLmNvLmpwL2ppZ2l1YThldXJhbzQvMTQ3Njg1MzMuaHRtbA-- 

活断層に対する心配に対し、リニア住民向け説明会でJR東海が示している見解や、国会審議で国土交通省担当者による答弁は、このマニュアルに従って断層付近では構造物を強化するというものです。

詳細については
国会会議録検索システム
http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/sangiin/190/0064/main.html
参議院国土交通委員会 平成28年5月26日 第13号
で閲覧頂きたい
 

しかしいくら強固にしたところで、トンネルを掘った山ごと変位するのだから、物理的にはどうしようもない。


既存の新幹線以上に事故リスクの高い列車を走らせるのだから、これまでと同じマニュアルで事業を進めるのは大間違いじゃないのかと思うのです。遭遇率は低いけれども、万一起きてしまったら取り返しのつかない事故となるのだから、そのリスクを計算・公表したうえで社会的に受け入れ可能かどうか、検証する必要があるのではないでしょうか。

直下型地震だけでなく、マグニチュード8以上の東海地震/南海トラフ地震が起きた際、駿河トラフ近傍の南アルプスがどんな地殻変動を起こすかなんて誰にも分かりません。

トンネルは崩壊しないしガイドウェイも破損しない前提だから安全?

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ついに”純粋な民間事業”とは言い難くなってきたリニア計画。経済成長戦略の目玉として、「財政投融資を活用してリニア開業を8年前倒し」なんだそうな。

各方面に評判の悪いマイナス金利でやれることを模索したら、これぐらいしか思いつかなかったのと、関西政財界への選挙対策とを兼ねているのだと思う。「8年前倒し」といっても、それは2020年代後半以降の話。まだまだ10年・20年も先の話なので、喫茶の経済対策と言えるのかい?

さて、お金のことはよく分からないのですが、建設目的と事業内容を精査したうえで、果たして国が資金を提供することが適切な事業なのでしょうか?

リニア中央新幹線の建設の大義として、「大規模地震等の災害に備えて二重系統化」があげられています。東海道新幹線が被災してもリニアがあれば大丈夫!…ってわけです。

けれども、そもそも安全性が十分に確認されているのか、甚だアヤシイと思います。

前回に引き続き、地震絡みの話になります。

このほどの熊本地震では、俵山トンネルでコンクリート壁の大規模な崩落が起こりましたし、2004年の中越地震では、震央に近い魚沼盆地周辺の複数のトンネルで、同様な被害が生じました。

イメージ 3
俵山トンネルの被災状況 国土交通省ホームページより 

トンネルは揺れに強いとはいえ、震源近傍ではコンクリートの剥離した事例が相次いでいるし、熊本地震のように地山そのものが変形するのなら、トンネル構造では対処のしようがない

またリニア中央新幹線の場合、地上区間はほぼ全て「防災・防音フード」で覆われます。頭上に鉄筋コンクリートの重量物が乗っかっているわけで、どこの区間でも天井崩落のリスクつきまとってしまう。

したがって、大地震の際にガイドウェイ内にコンクリート片等が落下するのは当然のこととして想定しておくべきでしょう。

・上記の俵山トンネルのような崩落が起きれば、U字型のガイドウェイはガレキの山に埋もれてしまう。そこに新幹線以上の高速度で突っ込んだらどうなるのか?
・衝突時に車体はともかく乗客は安全なのか?
・ガイドウェイ走行という特殊な走行形式では、通常の鉄道のように排除することが物理的に不可能であるが、それは安全性にどうかかわるのか?

・シートベルト等は不要なのか?

いろいろな疑問があります。


考えてみれば、地表を500キロの速度で移動する乗り物なんて地球上に存在しない。離陸時のジェット機やレーシングカーよりも速い。存在しない以上前例がないのだから、検証は世界に先駆けたものにならなければならないはず。

けれどもマトモに検証された形跡がない。 

超電導リニア技術について、国として審査したのは「超電導磁気浮上式鉄道実用技術評価委員会」という長ったらしい専門家会議です。山梨実験線での実験が報告されていた会議ですが、第18回目(平成21年7月28日)の会議にて、技術評価のとりまとめがおこなわれています。
そのうち、ガイドウェイ内への落下物に対する評価はこちら。

イメージ 1

「列車の安全な走行を脅かす可能性のある事象を発生させない」って、そりゃそうだろうけど、それが全てですか?? 

この会議の7年前に起きた中越地震では、上越新幹線の魚沼トンネルでコンクリートの大規模な崩落が起きました。たまたま列車通過後だから衝突は免れましたが、そういう事態は起こりうるわけです。

それから同じ資料には次のような記載もありました。
イメージ 2


浮上案内コイルというのは側壁につけられたコイルです。列車が通過すると電磁誘導で磁力が発生し、車体側の電磁石との反発で車体を浮かせる仕組みだそうです。


浮上案内コイル1枚(90㎝)欠落までは浮上走行可能…ってことは、2枚以上壊れたらヤバいってことなんだろうか? …胴体着陸? 


この報告書(?)の危ないところは、「ここまでは安全性が確認できた」ではなく、「●●をしたけど大丈夫だった」という論理構成になっていること。これでは”想定”がおそろしく甘くなってしまうし、安全の確保される限界を知ろうともしていない。

実際に起こりうる事故について、起こらないことを前提として、新幹線以上での高速運転を実現させようとする。

しかもその列車を走らせようとするのは東海地震/南海トラフ想定震源域に近接する赤石山脈。

どういう地殻変動が起きてトンネルにどういう影響を及ぼすのか、乗客避難は可能なのか、本当に迂回路足りえるのか、東海道新幹線と同時被災しないのか…

「建設の大義」との整合性だけでも問題だらけなのに、全く検証も経ずに総理大臣自ら「国家プロジェクト」の太鼓判を押してしまった。

・・・いろいろオカシイんじゃないのかなあ

情報発信するのなら、それなりに根拠をきちんと調べるべきである。

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こりゃおかしいよぉ…という話。

先日の参議院選挙の前に、SEALDSという若者グループの代表者である奥田氏がリニアについて”誤報”を流したということで、ネット上でちょっとした騒ぎになっているようである。

なお、リニアに関わらず、彼らの主張には共感できるところもあるけれども、そうでない部分も多々ある。彼らを擁護しようとか批判しようという意図はあんまりない(というか関心もない)。

発端は、7/6に朝日新聞ウェブ版に掲載されたインタビュー記事のようである。該当部分を引用すると

今の政治、本当におかしくなっている。安保法制を通して、国の税金使って軍事費に100億円使うとか、リニアモーターカーに官民で30兆円使うとか。
http://www.asahi.com/articles/ASJ7604JGJ75UTFK01P.html

となっている。しかしJR東海はリニアの東京~大阪間での工事費は9兆300億円と試算している。そして自民党ないし政府がリニア計画に融資しようと目論んでいる額は、そのうち3兆円である(このこと自体の是非は本題ではないので横に置いておく)。よって、リニア計画の概要をご存知の方なら、すぐにこの発言は間違いと気付くことだと思う。そして例によって揚げ足をとる形で、非難の嵐となっているようである。


で、これら掲示板から、さらにツイッターやら何かで次々拡散しているようである。もっとも、これらページにおけるコメントの大半は、事実誤認・思い込み・単なる言い掛かり・悪口の類いであり、読む価値は極めて低い

話を「リニアモーターカーに官民で30兆円使うとか」という話に戻す。なぜ彼がこんな発言をしてしまったのかだけど、思い込みや間違いではなく、おそらくLITERAという情報発信サイトに基づく誤認だったのだと思う。

安倍自民党が赤字必死のリニア新幹線に30兆円投入を公約の怪! 裏に安倍首相のオトモダチと原発利権
http://lite-ra.com/2016/07/post-2382.html
このタイトルだけ読めば、「なにっ、リニアに30兆円だと!?」と思い込んでしまっても仕方がない。ただし情報リテラシーが低いという批判は免れないけど。

該当部分はこうなっている。

それは、リニア中央新幹線の大阪への延伸前倒しや整備新幹線の建設などのために官民合わせて5年で30兆円の資金を財政投融資する、というのだ。
 リニアのために30兆円──!? 社会保障の充実は〈可能な限り行う〉という消極的表現なのに、リニアには30兆円出す、と自民党は言っているのだ。増税延期によって保育所の整備などへの1000億円や年金受給額の低い高齢者への給付金支給のための5600億円などが足りなくなったというが、これだけあればすぐに解決できるではないか。
 一応、選挙公約ではリニアのほかにも〈超低金利奨学金〉や〈開かずの踏切対策〉なども並べているが、眼目がリニアであることは明白だ。
 現に、安倍首相は国会が閉会した6月1日に、リニア中央新幹線の大阪延伸を従来の計画だった2045年から前倒しすると表明し、「新たな低利貸付制度」によってJR東海に公的資金を投入すると決定した。これにより、最低でも3兆円がJR東海に融資されることになるのだという。

リニアへの投資額を30兆円としてあったり3兆円としてあったり、よく分からない記述である。

もう一つヒントがある。6月5日に放送されたNHK日曜討論における、山本太郎氏の発言である。これもネット上に書き起こしが残されているので、ありがたく引用させていただく。http://yamamototaro.org/event1802/

その財政出動という部分を、例えば、JRがリニア(中央新幹線)をやりますというところに対して、30兆円を5年間で突っ込みますなんていうことのお金の回し方はあり得ない訳ですよ。
一民間企業がやる事業に対して、そこまでの突っ込み方はあり得ない。

ふんふん、奥田氏がLITERAもしくは山本太郎氏の言動を鵜呑みにしていたら、「リニアに30兆!?」という発言をしてしまっうのもうなずける。

で、肝心の自民党のホームページで選挙公約を見てみると次のように書かれている。https://special.jimin.jp/political_promise/bank/

リニア中央新幹線の大阪開業前倒し・整備新幹線の建設推進のほか、超低金利奨学金、開かずの踏切対策などの分野を中心に「超低金利活用型財政投融資」を早急に具体化します。その際、今後5年間で官民あわせて30兆円を目途に、十分な政策効果が早期に実現するような事業規模を確保します。

リニア整備や整備新幹線、奨学金、踏切対策など、諸分野に今後5年間で30兆円としている。もちろん、「リニアに30兆円」ではない。ちなみに、自民党ではなく政府の方針としては、「リニアに3兆円」としているようである。

ここから冒頭の奥田氏のインタビューに発展していったわけだけど、総じて考えて、各段階の発言者の意図によって、事実関係がゆがめられていったのだと思う。

自民党・政府
「諸分野に30兆円。うちリニアに3兆円」

6/5 山本太郎氏
おそらくはリニアを公共事業の筆頭と考えて批判するつもりで「リニアに30兆円」

7/2 LITERA
おそらくは安倍政治批判の意図をもって「リニアに30兆円」

7/6 SEALDS奥田氏
深く考えずに「リニアに30兆円」

となったのだと思う。なお、このうちLITERAというサイトは、ゴリゴリの護憲・反自民党といったムードに覆われており、その流れで「リニアに30兆円!」というタイトルを持ってきたのではないか。批判するのは結構だけれども、きちんとした取材・分析に基づいておらず、その内容はジャーナリスト樫田氏のブログなど、ネット上の情報をつぎはぎしただけである印象が強い。

ロクに取材もせずに「リニアの乗り心地は上々!」「リニアで地域活性化」といった、提灯記事を書くのも困りものだけど、これじゃどっちもどっちである。

さらに困った状況も生まれている。

「リニア 30兆円」で検索するとわかるけれど、このLITERAの記事が独り歩きして、情報サイトや個人ブログに出回っているようなのである。


個人ブログなどは枚挙にいとまがない。

で、恥の上乗せというか、SNSで「リニア計画を批判している」グループ内でも、全く内容を疑うことなくこの「リニアに30兆円!?ふざけるな安倍!」といった情報が共有されているようである。何を考えているのだろう…?

【教訓】
批判するのなら、それなりに根拠をきちんと調べるべきである。
情報発信するなら出所・一次資料をはっきりさせるべし。
ネット上で一度広まった誤報はしばらく収まらない。
ちょっとした勘違いが無用な非難を招く


重要な問い「これまでの開発による利便性を享受しているのに、なぜ南アルプスのトンネル工事はダメなのか。」

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先日14日、東京都内にて登山者による「リニアで南アルプスを壊さないで」というイベントが催されたそうです。

その内容については
南アルプスは大丈夫? リニア新幹線を考える登山者の会

ジャーナリスト樫田氏のブログ

にて紹介されています。

登山者が大規模なイベントを開催したということで注目され、マスコミにも取り上げられたようですが、私には次の点に着目しました。

樫田氏のブログから一文だけ引用させていただきます。
今回の集会では、ゲストスピーカーの発言がなかなか考えさせてくれました。
 「サバイバル登山」(極力装備をもちこまず、食料も自給しながらの登山)の第一人者である服部文祥さんはこう発言したのです。
「個人的にはリニアには大反対。でも、複雑な気持ちをもつ。登山家だって林道やトンネルを利用しながら登山している。その利便性を享受しているのに、リニアには反対と周囲に言い切れない」

服部氏の活動には眉をしかめる方も多いようで、失礼ながら私も「山賊かい?」と思っていたのですが、なかなか考えさせられる言葉です。

このイベントと関係あるのかもしれませんが、登山者向けの情報交流サイト「ヤマレコ」においても類似の問いかけがなされておりました。

こちらの方は、「谷川岳のトンネル建設は許され、その利便性を享受しているのに、なぜ南アルプスのトンネル工事はダメなのか。もっともっと利便性がよくなればいいじゃないか?」という問いかけです。

この種の自問と、それへの見解は非常に重要であると思います。それなのに、それが”反対側”からなされぬことについて、前々から非常に気にしておりました。例えばリニア建設など比較にならない規模であった新東名高速道路や、リニアと直交する中部横断道の工事については目立つ反対の声は聞こえなかった。これはなぜ?というわけです。

リニアはNO!でこれはOKなのはなぜ? 
イメージ 1
中部横断道 興津川橋梁(静岡市清水区郊外 2015年2月撮影)
山梨県から静岡県にかけて南北に里山地帯を貫く高速道路である。
用地買収をケチったのか、住居のすぐ横に巨大橋脚がある。

イメージ 2
中部横断道と新東名高速道路とのジャンクション(静岡市清水区郊外 2016年2月撮影)
ここの改変工事だけでリニア中間駅の数倍の規模であろう。左手前が中部横断道、左右に延びるのは新東名。右奥に延びるのは東名高速との接続道路。トラックが転落する事故があった。写真には写っていないが、関連農地整備、河川付け替えの工事も大規模に行われている。

イメージ 3
新東名高速道路の新静岡サービスエリアの巨大盛土。(静岡市葵区 2015年2月撮影)
高さ30m、盛土量300万立米超が上下線それぞれに設けられている。リニア車両基地よりも規模が大きい



これについてしばらく考えておりましたが、私なりの見解は以下の通りです。

◇   ◇   ◇   ◇   ◇

日本中、海でも山でも川でも湖でも、いたるところで大規模な土木工事が行われてきました。自然環境に限らず、美しい街並みや農村・漁村の光景も同じ歩みをたどってきました。干拓・埋め立て事業など、対象となる環境が根こそぎ消えてしまったケースも多々あります

山岳地といえども、立山黒部アルペンルート、谷川岳周辺、南会津、紀伊山地など、ダムやトンネルだらけとなってしまったし、乗鞍岳や富士山のように、一大観光地と化してしまったところも数多くあります。大規模構造物の少ない南アルプスといえども、現実には大小の発電用ダムが造られ続け、南アルプススーパー林道の建設でも大きな反対運動がありました。

過去の大工事は許されて、どうして南アルプスではダメなのか


これまで開発の恩恵を受けてきた人間に、どうして今後の開発を否定する資格があろうか。

この問いかけは、事業を進めたい側が、批判する側が答えられないであろうことを期して用いるレトリックでもあります。例えば福島第一原発事故後において、脱原発の風潮の広まるに対して、「さんざん電気を使ってきたくせに何を今さら?」という声が”推進派”から巻き起こりました。

さて、私はこの種の問いかけは、設問自体が無意味ではないかと思います。第一に利益の享受を理由に今後も同様の事例を踏襲することが求められるのであれば、「考え方を改める」「失敗に学ぶ」ことが許されなくなってしまうからです。

「コモンズの悲劇」という言葉があります1968年にアメリカの生態学者ギャレット・ハーディンがサイエンス誌に投稿した論文に基づく、環境問題や資源問題の基本的概念でそれは以下のような寓話です。

コモンズとは共同の牧草地のことである。みんなが家畜に草を食べさせる。家畜の数が少ないうちなら、やがて草が再生してくる。けれども「これぐらいならいいだろう」として、各人の食べさせる量が増えてくると、やがて草の再生力を上回り、牧草地は荒れ果てる。そして共倒れになる。 

乱獲、環境汚染、資源枯渇を杞憂した寓話です。つまり、際限なく開発や環境汚染や資源奪取が進められることは原理的に不可能であり、どこかでブレーキをかけなければ、マトモな人間社会は維持できなくなります。日本の人口構成を考えると、維持管理を踏まえた社会的な視点からでも同じことが言えるでしょう。ところが「利益を享受している人間には今後の開発について反対する資格がない。」式の考え方が固定化してしまうと、ブレーキについて考える余地がなくなってしまうのです。

土用の丑の日が近づいていますが、そのウナギ資源は減少の一途をたどっています。規制をかけねば、資源は枯渇に陥るでしょう。しかし「これまでも食ってきたんだ。規制などかけるな。」を持ち出してしまい、世論がそれに従ったら、本当に絶滅してしまうかもしれません。将来世代から恨まれること必至でしょう。

第二に、あらゆる事業は、それぞれの自然条件、社会条件、社会的要請、目的、進め方、当時の価値観の下で計画が立案されて行われてきたのであり、「他の開発行為」による恩恵が広く享受されていたとしても、議論の対象となっている当該事業を正当化する理由にはならないことがあげられます。

例えば広島県福山市の鞆の浦架橋計画は、景観破壊の懸念により地元住民から異論が続出して中止となり、トンネル計画に変更された。この場において「他の場所でもやってるから橋でいいじゃん」は、おそらく架橋計画推進の根拠とはなりえなかったでしょう。

あるいは山岳地において、ダム開発を事例に考えてみます。

昭和20年代の日本は、現在では考えられぬような電力事情でした。戦災により施設が疲弊したうえ、復興と朝鮮特需に端を発する需要の高まりに、供給が全く追いついていなかったためです。これに対し、国立公園とされている地域内において、大規模な水力発電計画が持ち上がりました。

主要なものをあげると、尾瀬ヶ原湿原(日光国立公園内)や上高地一帯(中部山岳国立公園内)をダム湖に沈めようというもの、黒部第四発電所計画(同)、熊野川水系(吉野熊野国立公園内)などがあります。現在、尾瀬ヶ原や上高地は水没を免れ、著名な景勝地となっていますが、黒部峡谷や熊野川の峡谷はダムだらけとなりました。日本初の大型ダムである佐久間ダムが完成していた当時、「天竜川でもやっているんだからいいだろう」式の考え方を敷衍していれば、4つとも水没していたはずです。しかし、そうはならなかった。それぞれ、思惑や自然条件や世論が異なっていたからなのでしょう。

 特に尾瀬ヶ原計画はGHQの後押しを受けた商工省が積極的に推進し、自然保護を管轄する厚生省(当時)や文部省に対しては、切羽詰まった電力事情により「コケか生活か」という世論や新聞社の反発が非常に強かったようですし、世論操作のようなことも行われていたようです。必要性と説得力としては、リニア中央新幹線なんぞとは雲泥の差があった

それにも関わらず尾瀬ヶ原は水没を免れ、今では何事もなかったかのように大勢の観光客が訪れる…。これはなぜだろうか? ”日本の自然保護の原点”とされる事例ですので、 「南アルプストンネル反対!」を主張するのであれば、この歴史を学ぶことが重要かと思います。参考文献は文末に記しておきます。

◇   ◇   ◇   ◇   ◇

なお私は、個人的な感情としてはトンネル工事はやめてもらいたいのだけど、感情では議論が成立しないとも考えております。反対する側の心情としては「南アルプスは大事だ」と強調したいのだけど、「トンネルを建設して利便性を高めることは公共の利益」といった価値観と、どちらが優れているのかは、全く分かりません。おそらく永遠に答えは出ないでしょう。だからこそ議論が必要なのであり、そのためにも、単純な反対論は功を奏しないと思います。

よって、以下のような疑問点が解消されるのであれば、トンネル建設やむなしと考えます。


①事業を進めるだけの説得力が不足
②利益の不平等性
③静岡県通過の問題
④「建設の意義」についてルート選定過程において十分に検証していない
⑤進め方に問題が多く、このままでは多方面に迷惑が及ぶ


これら四大問題点について、JR東海なり政府なりが、きちんとした説明・対策を行うのなら、造ればいいじゃんと思うのであります。


以下はこのブログで再三繰り返していることになります。

①事業を進めるだけの説得力が不足 
終戦後から高度成長期にかけては大規模開発のラッシュであった。これは戦後の混乱期に不足していたものを確保するためであった。食糧不足に対しては農地確保のために干拓が、電力不足に対してはダム開発が、木材不足に対しては奥山の伐採…といった具合である。戦後に頻発した水害対策のために造られたダムも多い。高度成長期の終了後も、バブル期の大規模リゾート開発に代表されるように、開発の勢いは日本中に及んだのである。

今、大規模な土木構造物が存在していない地域というのは、過去の開発対象とされなかった地域である。他の地域での開発が進んできた結果、残された”自然豊かな”地域として、多くの人―個人から行政まで―が大事だと考えている場所であるし、だからこそ「ユネスコエコパーク」に登録されたはずである。文化財や街並み保存にも通底する、そのように多くの人が価値を認める場所では、その価値を大きく損ねかねない開発行為は、必要不可欠な最低限なものにとどめるべきである、と私は思う。

リニア中央新幹線計画には「必要性」がどの程度あるのか、説得力のある具体的なデータで示されていないのが実情である。これでは、計画に疑問を持つ側にとっては、必要性が感じられないままであろう。

②利益の不平等性  
過去の工事が、自然や生活環境を犠牲にして進められてきた一方、わずかながらも地元に還元される利益はあった…と思う。っていうか、そうでなければ合意形成は図れないし、利害調整できずに事業を強行したなら、それは諫早湾干拓事業に代表されるように失敗事業の範疇にくくられると思う。

例えば立山黒部アルペンルートの出現により、黒部川や立山の自然環境は、おそらく以前とは大きく様変わりしてしまったに違いない。けれどもその一方、年間100万人の観光客を呼び込む、国内屈指の山岳観光地となったのも事実である。推測の域を出ないけど、観光収入は発電によって得られる利益を上回っているのではなかろうか。

話を南アルプス一帯に向けると、そこを流れる大井川では大規模なダム開発、北部ではスーパー林道建設といった大規模工事がなされた。ダム建設では多くの集落を湖底に沈めたり、資材運搬のために道路や鉄道(JR飯田線、大井川鐡道)を建設するなど、付帯工事による環境破壊も甚大であった。最近では新東名高速道路が静岡県の里山地帯を大々的に破壊して完成したばかりであるし、中部横断道の建設工事はまだ続いている。

けれどもこうして出現したダム湖が地元の観光資源になっているし、道路や鉄道は地元に欠かせない交通手段となっている。電力関係施設が存在することにより、地元経済の一翼を担っているのも事実である。新東名の完成により、東名の渋滞は明らかに緩和されたし、遠方から静岡県内陸部へのアクセスは確実に向上しているようである。

ところがリニア中央新幹線は、南アルプスを計53㎞のトンネルで通過するだけである。上越新幹線の越後湯沢や上毛高原、青函トンネルの奥津軽いまべつに相当するような地元駅はない。地元としての利用価値は極めて薄いし、中部横断道が建設中であることを考えると、リニアが南アルプスへの主要交通手段になるとも考えにくい。ダム湖のように施設を目当てとした観光客も期待できないだろう。けれども環境破壊による負荷は、高速道路建設と変わらない誤解をおそれずに言えば、原発よりも地元への経済的利益は薄いのではないだろうか。

すなわち工事の影響を直接受ける地域へのメリットが希薄だと思うのである。①と重複するが、かように「負担だけ」を地元に押し付ける行為を正当化する説得力は弱いし、そもそもどのような論理でもって許されるのだろうか?


③静岡県を通過の問題 
リニアは大井川最上流部を10㎞にわたってくぐり抜ける。ここは静岡県静岡市である。無人地帯ゆえ、当然駅はできないが、一方で工事用の斜坑2本と工事用道路トンネルが掘られる。駅のできない静岡県内に計33㎞のトンネルが掘られ、360万立方メートルの残土が置き去りにされる。

この残土を大井川の河原に山積みにする計画である。ところが河床変動の激しい場所であるし、周囲は山崩れ・地すべりだらけである。河道閉塞や流路変動にともなう崩壊の助長など、土砂災害の誘発が懸念されるところである。

また、これだけトンネルを掘るため、大井川の流量が年平均で2㎥/s減少するという試算結果が環境影響評価書に記載された。この大井川は、水力発電用に大量に取水され続けた歴史をもつ。河原砂漠となった惨状から、地元より長年の「水返せ運動」が続けられ、1989年、中電・塩郷ダムからの放流を、冬季は3㎥/s、夏季は5㎥/s放流させることが実現した。また、最上流部(リニアトンネル頭上)の田代ダムから早川水系に導水している流量についても、2005年に年間最低0.49/sを本流に流すことが決まった。リニアのトンネル工事にともなう流量減少は、一連の「水返せ運動」の努力を無に帰してしまうおそれがあるといえる。

その他、乗客避難誘導の義務が課せられる、工事車両が大量に出入りするのに道路改良は行わない、リニア開業後は東海道新幹線”のぞみ”廃止など、不利益ばかりである。

駅ができず、リニア開業のメリットが皆無な静岡県において、リニア建設にともなう大々的な自然破壊だけを押し付けるのは間違っているのではなかろうか。

⑤「建設の意義」についてルート選定過程において十分に検証していない 
リニアの建設目的は「大災害に備えて二重系統化」である。しかしルート選定にあたり、東海地震/南海トラフ大地震が発生した際、南アルプスがどのような地殻変動を起こすのか、一度も考慮されていない。これまでの項目と関係するが、大々的な負担を押し付けて建設し、いざ大地震が起きた際に東海道新幹線と同時被災してしまったら、全くのムダになってしまう。

⑤進め方がメチャクチャなので、このまま進めると問題が起こる。 

キリがないので要点のみ箇条書き

●環境影響評価書問題点が実に多い。

●地元住民とのコミュニケーション不成立のままの事業推進。

●発生土処分方法未定のまま入札開始

●流量減少は河川法の想定外

●大井川の発生土置場設置による自然破壊と災害誘発のおそれ。

●大井川の発生土置場の調査には長期間かかるはずで、とても2027年開業はムリのはず。

●緊急時の乗客避難・救助が困難となることが予想される。

●ユネスコエコパーク管理運営計画との整合性がとれていない。

●国立公園拡張計画との整合性が不透明。



参考文献

【自然保護や開発への考え方】
・姫野雅義(2001)「住民投票が市民を鍛える―吉野川河口堰をめぐって」(筑紫哲也編(2001)「政治参加する7つの方法」講談社現代新書 所収)
・平川秀幸(2010)「科学は誰のものか 社会の側から問い直す」 NHK出版
・原科幸彦(2011)「環境アセスメントとは何か ―対応から戦略へ」 岩波新書

【戦後日本の電源開発と国立公園制度との関係】
・日本自然保護協会(2002)「自然保護NGO半世紀のあゆみ―日本自然保護協会五〇年誌」 平凡社
・村串仁三郎(2011)「自然保護と戦後日本の国立公園」 時潮社



最後になりますが、環境影響評価において、山梨県内でミヤイリガイ(カタヤマガイ)が確認されなかったことに安どしております。寄生虫である日本住吸血虫の中間宿主となっているこの貝。撲滅運動により病気の発生はなくなりました。その一方で、レッドリストに記載されるという妙な事態となっています。残った数少ない生息地のひとつは甲府盆地。人の手で意図的に絶滅せざるを得なかったこの貝が、もしもリニアのアセスで確認されたとしたら、自然保護上の大問題となっていたに違いありません。

「リニア反対派」の方がよく使う「生き物の命は大切。だから自然を壊すな!」というフレーズ。これが、全く通用しないことも世の中にあるのです。


なぜ情報は常に後出し? ―第四南巨摩トンネルってどういう構造なんだ?―

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以前当ブログにて、山梨県内に建設される第四南巨摩トンネル(8627m)について、トンネルの規模の割に発生土量が多すぎることから、大規模な地下空間を併設する計画ではなかろうか?という指摘を投げかけました。

2016年2月4日
「富士町 第四南巨摩トンネルの大量発生土量はどこから生み出されるの?」
http://rdsig.yahoo.co.jp/blog/article/titlelink/RV=1/RU=aHR0cDovL2Jsb2dzLnlhaG9vLmNvLmpwL2ppZ2l1YThldXJhbzQvMTQ1MzgxMDguaHRtbA--

かいつまんで説明すると

・第四南巨摩トンネルは山梨県富士川町高下と早川町青崖との間に計画されており、環境影響評価書と事業認可申請書類によれば本坑長さ8627m、斜坑(非常口)長さ1800mである。
・静岡県への説明では、本坑断面積は106㎡、斜坑断面積は68㎡、土量変化率は1.5程度と想定されている。これを用いれば発生土量は156万立米の程度となるはず。
・ところが評価書では、第四南巨摩トンネルからの発生土量は283.3万立米とされている。
・130万立方メートル分の土はどこから掘り出される? 

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図1 第四南巨摩トンネルからの発生土量の検証 

といった疑問です。トンネルの東側には保守基地が設けられるため、これと一体化した大規模な地下空間が設けられるのではないか、と結びました。

さて今月21日、この第四南巨摩トンネル西側(早川町側)2600m分について、施工業者が決定したというニュースが入ってきました。

建設通信新聞 2016年7月21日
西松・青木あすなろ・岩田地崎JVに/リニア第四南巨摩トンネル(西工区)

http://www.kensetsunews.com/?p=69980

ここにJR東海柘植社長のインタビューが載せられていましたが・・・。

工事範囲に本線トンネルのほかに保守基地への連絡坑を含み、トンネル内に本線から保守基地への分岐装置を設ける必要があるため、トンネルの最大断面積が約300㎡以上と大きな断面積を必要とする区間がある」とし、「高度な施工技術を必要とする工事

とあります。

おぉっ、予測が見事に的中!

当たったけど全然嬉しくない!! 


最大断面積300㎡以上。

バカでっかいですねえ…。リニア本線のトンネル断面に比べ、約3倍の規模となります。仮に最大高さ10mの長方形とすると幅は30m。地下鉄駅のような規模です。

位置関係等は図2、図3をご覧ください。

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図2 第四南巨摩トンネルの位置
事業認可申請書類の形式に従い、トンネルではなく隧道と記した。

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図3 第四南巨摩トンネルの概要 
国土地理院 地理院地図 電子国土Webより引用・加筆
赤点線が本線トンネル。紫の点線は保守基地への連絡路の予想位置。左上は同縮尺で示した東海道新幹線浜松工場の引込線。リニアの連絡路は異常に規模の大きいことが分かる。詳細は本文を参照頂きたい


で、例によって大きな疑問。

●環境影響評価結果は妥当だったのか? 
今回の工事契約は早川町側のもの。その早川町内での事業計画について、環境影響評価書では本坑と斜坑とを設けるとしているものの、同町内にてトンネルが分岐するとは記していません。

いっぽう保守基地を併設するとしている富士川町についても、トンネルで通過する、保守基地を設けるとしているものの、トンネルが大規模になるとは書いてありません。

図3に保守基地の位置が記されています。
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図4 富士川町高下地区の詳細図
環境影響評価書関連図より複製・加筆。 
中央付近の太点線は工事用道路予定ルートで図中東西に延びる青い線が小柳川。黒の破線がトンネル区間で実践が地上区間。

保守基地は第四南巨摩トンネル東口よりさらに600m北東に離れた場所に計画されています。けれども分岐地点はここより6~7㎞南西側。本線とは別に、第四南巨摩トンネルと保守基地とを結ぶ連絡路が長々と造られるはず(図3:紫の点線)なのに、その位置や構造は全く記されていません。

第四南巨摩トンネルを全体として超大断面にして連絡路を併設するのか、それとも連絡路専用にもう一本トンネルを掘るのか、それも分かりません。

ちょっと試算。
富士川町高下坑口での発生土量は181.9万㎥である。高下地区には北隣りの第三南巨摩トンネル南坑口も設けられるが、第三トンネルからの発生土は、さらに北の南アルプス市畦沢斜坑から出すとしている。したがって高下地区の181.9万㎥は、全て第四トンネルから掘り出される。

第四トンネル高下側工区は延長6000mであるから、発生土量から推察される平均断面積は181.9万㎥÷6000m÷1.5=202㎡となる。単純な半円形と仮定すると幅22m程度となる。

リニアは通常のレール式鉄道と異なり、ジョイントの構造が非常に大規模となる。普通のレール式なら、レールをちょっとずらすだけで切り替えが可能だけれども、リニアの場合、高さ2mもあるガイドウェイを出したり引っこめたりしなければならない。

保守基地は下り線の東側に設けられるので、上り線と基地をつなぐには、下り線をものすご~~~く複雑な構造で渡る必要がある。このために拡幅部分が6000m以上にも及ぶ必要が生じたのだろう。
ちなみに、東海道新幹線の浜松工場付近にも、分岐のために3線を設ける必要から敷地幅が拡幅している箇所がある。図上で拡幅部分の距離を調べると850~900m程度である。図3をご覧いただきたい。

単に分岐するだけでも新幹線よりずっと大きな施設が必要なのである。ガイドウェイ方式を採用することにより、構造物がむやみに大きくなってしまったことになる。

本題に戻ります。

そもそも評価書では存在自体が触れられていなかった大規模地下空間。ナゾだらけのトンネルですが、評価書の各種予測項目において、その存在や規模は考慮されていたのでしょうか? 

トンネルの規模が大きくなれば、湧き出す水の量は多くなるだろうと思われます。

例えば環境影響評価の終了後に、1年半を経てようやく出された「巨摩山地における水収支解析」というもものがあります。第四南巨摩トンネルの掘削工事により、大柳川では河川流量が0.751㎥/sから0.728㎥/sに減ると試算していますが、この試算を行うにあたり、トンネルの規模や構造をどのような前提のもとに行ったのか、それは全く分かりません。
(参考 昨年12/27 当ブログ記事)

特に評価書によると、大柳川支流の清水沢が大柳川下流地区の水源になっているようですが、第四南巨摩トンネルがくぐり抜けるものの、試算すらしていない。試算すらしていないのに、さらに今頃になってトンネル規模の大きいことが判明したのだから、これでは信用しようという方がムリ。

また、本線と保守基地との連絡路が、高下地区側の坑口と保守基地との間にある小柳川を、橋梁で越えるのかトンネルでくぐるのか、これも不明です。

環境影響評価における騒音、動植物、地下水位・河川流量・景観といった項目については、工事が地上か地下かで影響の度合いは大きく異なります。けれども全く見当がつかないから、評価書に記された各種の予測結果や環境保全措置が妥当かどうかも分かりません。

●トンネル規模や構造について、どのように地元や行政に伝えられていたのか?
隣県の住民であるので軽々に言及できませんが、少なくとも公式文書のうえでは全く触れられてこなかった話です。

今後、地元向け説明会を開催したうえで着工する方針だそうですが、住民の合意が得られるのかなあ・・・?

特に環境影響評価準備書の審査過程において、山梨県行政が分岐トンネルの存在を把握していたのかどうかについては、ハッキリさせておく必要があると思います。

・・・そういえば保守基地には変電所も併設される計画。その変電所に向けて、どこかから送電線を引っ張ってくる必要が生じます。これも説明されているのでしょうか?

●南アルプスユネスコエコパークの外から中へ発生土を運び込む? 
今回の工区は、早川町内の工事というタテマエですが、実際には富士川町側に400mほど入っています。そして保守基地の設けられるのはさらに6㎞先の富士川町内。
早川町はユネスコエコパーク登録地域ですが富士川町は外。

ユネスコエコパーク登録地域外に設ける施設のために、登録地域内から迎え掘りし、発生土を登録地域内に運び込んで処分する構図となります。何だかおかしいのでは…?

◇   ◇   ◇   ◇   ◇

おおげさではなく正体不明なトンネルです。戦隊モノの秘密基地じゃあるまいに、なぜ計画している案を公表しないのだろう?

静岡市 平成27年度南アルプス環境調査

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静岡市の行った平成27年度南アルプス環境調査の結果が公表されました。

調査の目的としては、「静岡市では、南アルプスユネスコエコパーク地域内で計画されている中央新幹線建設事業の工事実施にあたり、現在の自然環境の状況等を調査しました。」とされています。

これにより、これまで南アルプスでの分布が確認されていなかった昆虫が新たに見つかるなどしています。

ところで、こうなってくると「JR東海の調査は何だったのか?」という疑問が湧いてきますし、これをもって「JR東海の調査は杜撰」と言いたくもなります。実際、リニア計画に疑問をもつ方の間では、これをもって批判材料とする向きも多いようです。

けれども、ここはちょっと冷静になる必要があります。別にJR東海(に委託されたコンサルタント業者の下請け)を擁護する気は全くございません。

まず、今般の調査で新たな種が確認されたからといって、一概にJR東海の調査の精度を否定できるものでもありません。例えば「重要な植物」に限っても、JR東海調査での確認種は27種、平成26年度静岡市調査では17種、昨年度静岡市調査では23種ですので、この数字によれば、JR東海の調査が一番丁寧ということになります。

ここで強調したいのは、完璧さを求めることは、もとより無理であるということです

例えば、動植物というものは、毎年必ず同じ場所に同程度の数が出現するとは限りません。腐生植物やキノコなどの場合、その年の気象条件によって発生数が大幅に変動します。

昆虫の場合も、気温によって成長速度が変わるものが多いので、その年の気候条件によっては、調査日に成虫が発生していないことも考えられます。幼虫時代を地中や樹木内部で暮らすものや、背の高い木の梢で過ごすものは、成虫にならないと存在を確認することが困難でしょう。同じことは、特的の時期でなければ種の判定の難しいイネ科やカヤツリグサ科の植物にもいえます。

また、昆虫の出現数については、風や雨や日照など、調査日の天候によっても左右されます。

つまり、調査に完璧さを求めることは、もともと無理難題といえます。



それゆえ、既存の調査結果により、分布している可能性の高いと判断される動植物については、具体的な環境保全措置を考案すべきでしょう。南アルプスではこれまで何度となく調査がおこなわれ、結果が蓄積されてきたわけですが、何のためかというと、こういう開発行為に際して保全に役立てるためのはずです。

そこで、どのような種を選定するかを考えるために、既存調査を活用し、現地調査を併用して準備書で案を出し、審議や意見提出を受け、評価書で保全措置を示す…という手続きが定められているのだと、私は解釈しています。

ところがJR東海作成の環境影響評価書では、事業者がとるべきこのような態度を、事実上否定しています。すなわち、現地調査で確認された種にのみ、具体的な環境保全措置を講ずるというものです。

ところがこのような考え方だと、現地で実際に見つからなかった生物については、具体的な保全措置をとらないことになってしまいます。それゆえ、工事を始めた結果、いつの間にか姿を消してしまった…なんてことがあるかもしれない。

それから市の調査では、景観への影響をJR東海とは異なる手法で予測しなおしています。

JR東海の調査では、「主要な眺望点」つまり展望台などから、対象となる改変予定地が見えるかどうか、という論法です(静岡県版の場合。他県は異なる。)。つまり「点」に限ったものなので、他に見える可能性のある場所があるかどうかは検討もつかない。

これに対し静岡市の調査は、該当改変予定地が視認できる可能性のある範囲をコンピュータ上のシミュレーションによって抽出し、その場所から主要な点に着目して視認性を検討するというもの(カシミール3Dを応用したようなもの)。

後者の場合、予測が2段階となっているぶん情報量が多く、JR東海の手法よりも優れていると思います。

その他、JR東海がサボっていた植生調査も行われました。

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JR東海の調査不足を、市が補完せざるをえない不思議な状況。

JR東海には、きちんとした環境影響評価書を作り直してほしいのであります。
(環境影響評価法第32条では、事業者は環境影響評価手続きをやり直すことができるとしている。あくまで事業者の善意によるのだけど。)


論理破綻じゃないの? 南海トラフ大地震と名古屋以西ルートからみるリニア整備計画

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リニア計画にGOサインが出たのは2011(平成23)年の5月。この月は中旬にあわただしく次のようなことが決定されました。

・国土交通大臣がJR東海を中央新幹線(東京-名古屋間)の営業・建設主体に指名(20日)。
・中央新幹線を基本計画から整備計画に格上げ(26日)。
・JR東海に建設を指示(27日)。
一連の手続きは全国新幹線鉄道整備法に基づいており、その根拠は鉄道部会中央新幹線小委員会の提出した答申(12日)によります。

さてその答申では、中央新幹線整備の意義として、第一に「東海地震沿線における大災害に備えて二重系統化」をあげており、こうした観点から整備計画とするのがふさわしいと判断したことになっています。
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国土交通省 中央新幹線小委員会 答申 

それから2年余り経った平成26年6月3日には、国土強靭化基本計画が閣議決定されました。環境影響評価手続きの途中にもかかわらず、事業認可を前提にしており、妙な話でありました。

これは、国土強靭化法(正式名称:強くしなやかな国民生活の実現を図るための防災・減殺等に資する国土強靭化基本法)に基づき、大規模インフラ整備をはじめとして大災害に備えよというものですが、想定している災害として、第一に南海トラフの大地震があげられています。そして具体例として、リニア中央新幹線整備による交通の二重系統化を掲げています。該当部分を抜粋します。

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さらに古くなりますが、JR東海自身も、東海地震等に備えることを事業推進の意義としていました(平成22年5月10日第3回小委員会資料:図略)。

つい最近になって経済対策が建設促進の理由として盛り込まれましたが、それは、過去の経緯から考えると、副次的な意義しか持ち合わせていないようにも見えます。

ゆえに、これまでの政府およびJR東海の公式発表をつなぎ合わせると、リニア整備の最大の大義は、「南海トラフ大地震に備えて二重系統化」ということになるのでしょう

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ところで、肝心の地震発生時の想定という観点からは、リニア計画の妥当性についての審議はおこなわれてきたのでしょうか?

言い換えれば、リニア中央新幹線のルートや走行システムは、南海トラフ大地震の際には被害を免れ、東海道新幹線と同時被災するリスクは極力低くなるようなものとなっているのでしょうか?

もちろん、あらゆる資料に目を通したわけではありませんが、調べた限りでは、マトモに検証されているようには思われないのです。

例えば、南アルプスがリスクだらけであるのるのは、このブログで何度も指摘している通りです。

【南アルプスルートにおけるリスク】
●安政東海地震では、鰍沢町一帯での家屋倒壊率は駿河湾沿岸の沼津市等と同等であり、震度7相当であったと推定されている。
●甲府盆地南部一帯は、東海/南海トラフ地震発生時には液状化減少が発生する可能性が高いとされている。
●震源域が狭かった昭和東南海地震でも、南信濃村の水準点は20㎝程度の隆起を起こしたので、駿河湾まで震源域となる東海/南海トラフ地震発生時に、南アルプスがどのような地殻変動が起こるのか分からない。
●南アルプス横断トンネルの坑口・斜坑(非常口)に通じる道路は、地すべりや崩壊地に取り囲まれているため、寸断されるおそれがある。
●南アルプス横断トンネル内に列車が停止した場合、乗客の非難・誘導が困難となる。
●地震発生時の列車の位置によっては、自動停止システムにより列車が”着地”する前に、強い地震動が到来するおそれがある。

走行システム上の疑問点についてはこちらをご覧ください。

安政東海地震の被災状況によれば、南アルプスを通すとなると、現行リニア計画には、このような疑問点が自ずと浮かび上がります。ところが上述の答申を出した中央新幹線小委員会では、過去の東海地震についての審議は一度も行っていない。過去の検証をしていないのに、地震対策を建設の意義とするのは間違っていると思うのであります。

さて、もっと視野を広くとると、さらにおかしな話が浮かび上がってきます。

特に名古屋付近のルートに着目すると、わざわざ現行東海道新幹線と同時被災するリスクを高めているようにすら思えるのです。

政府の中央防災会議が使用している南海トラフ大地震での各種予測を見てみましょう。なお上段は南海トラフの巨大地震、下段は従来の3連動地震の想定震度です。

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中央新幹線の計画路線を記入
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内閣府 防災情報のページ
「南海トラフの巨大地震による津波高・震度分布等(平成24年8月29日)」より複製・加筆
名古屋以西では、現行東海道新幹線よりも震度想定の大きな地域を通過することになる。

図は省略しますが、地震動、液状化、地盤沈下量といった各種想定によると、濃尾平野はいずれも大きな影響が出るとされています。これはひとえに、軟弱・低湿という自然条件に由来します。なおこの条件により実際に大災害につながった事例としては、濃尾地震、伊勢湾台風などがあげられます。

また、愛知県庁のホームページにも、南海トラフの最大級の地震を想定した、より詳細な情報が提供されていますが、それによると、名古屋駅より西側一帯は全域が「液状化の危険性が極めて高い」という想定になっていますし、そのうえ木曽川河口左岸では、津波想定では最悪3m前後の浸水深が予測されています。

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愛知県庁ホームページより複製・加筆 

煩雑になるため掲載は省きますが、三重県庁による被害想定でも、木曽三川の河口から伊勢平野にかけて、同様に液状化や津波による浸水が想定されています。

計画路線としての中央新幹線は、名古屋駅から西では、奈良市を経て、大阪に向かうとされています。このルートでは、必ず木曽三川の河口部を通らなければなりません。東海/南海トラフ地震で「震度6以上+液状化リスク+津波リスク」のある地域を通すことが、なぜ東海/南海トラフ地震対策になるのか、私にはさっぱり理解できません。南アルプスと同様に、同時被災のリスクがあるのでは?

そもそも当然ながら、南海トラフ大地震は、太平洋岸沖合の南海トラフが震源断層となるので、大まかには太平洋に近いほど影響を強く受ける傾向にあります。だったらなぜ、東海/南海トラフ地震対策路線を南海トラフに近づける必要があるのでしょうか? 

もしかすると政府ないしJR東海は、名古屋以西の建設目的としては、東京~名古屋間とは異なるもの、つまり経済効果のみを掲げるのかもしれません。しかしその場合、東側では南海トラフ大地震対策を掲げながら、西側ではそれを考慮せずとすることになりますから、地震時には直通不可能となることを視野に入れて二重系統化させることなります。これでは何のために地震対策を銘打って独立した路線をつくるのかわからなくなり、超電導リニア方式とする根拠を自ら否定することとなるでしょう。

⇒実は、「大阪まで一斉開業させるべし」と主張する交通政策専門家でも、この論理破綻は気にされているようです。
http://rtpl.ce.osaka-sandai.ac.jp/ByRail/?p=295

◇   ◇   ◇   ◇   ◇ 

さらに過去を振り返ると、運輸省が全国新幹線鉄道整備法に基づき、東京~甲府~名古屋~奈良~大阪を通る中央新幹線を計画路線として決定したのは1973(昭和48)年の11月。

いっぽうで、駿河湾大地震説(いわゆる東海地震)が世間に広まったのはそれより後の1976(昭和51)年であり、その発生を念頭においた大規模地震対策特別措置法が思考されたのは1978(昭和53)年6月15日のことです。したがって政策としての中央新幹線構想は元来、東海地震を念頭においたものとはいえないのではないでしょうか?

まして東日本大震災を教訓とし、南海トラフにおける巨大地震対策への取り組みが始まったのはここ数年であり、上述の被害想定等が政府から公表されたのは平成24年8月のこと。中央新幹線を大地震対策を主要な根拠として整備計画に格上げしたというのは、いま考えてみても、後付けの理由であったように思えるのです。

国土強靭化基本計画という政策との整合性がアヤシイものを、国として重要な政策の一環と位置付けるのは、論理的に無理があるんじゃないのかなぁと思うのでありました。


こんなことを再考する必要があると感じた理由として、最近降ってわいた「財政投融資」という制度があります。

ところでこの制度、ごく普通の一庶民としては、はじめて聞いた言葉。

いったい何なんだ?と思って調べてみると、財務省のホームページに説明がありました。
といっても、一読しただけではなかなか全容をつかめません(笑)

詳細については勉強中ですが、南アルプスの問題を考え続けている人間としては、このような記述が気になりました。

財政投融資とは、
1 租税負担に拠ることなく、独立採算で
2 財投債(国債)の発行などにより調達した資金を財源として、
3 政策的な必要性があるものの、民間では対応が困難な長期・固定・低利の資金供給や大規模・超長期プロジェクトの実施を可能とするための投融資活動(資金の融資、出資)です。
 
http://www.mof.go.jp/filp/summary/what_is_filp/index.htm

3の「政策的な必要があるもの」というところが、妙に引っかかるのであります。リニア計画とは、「東海/南海トラフ大地震に備えて二重系統化」の論理破綻に見るように、目的と手段の観点から、果たして十分に説明責任を果たしてきたのだろうかと。

ホントに東海/南海トラフ大地震を考慮してたのか? 基本計画路線決定過程の新聞記事より

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「東海道新幹線沿線に潜在する大規模災害に備えて新幹線を二重系統化する」
これがリニア中央新幹線整備計画の意義として、いの一番に掲げられ、平成23年5月に、整備路線へと格上げされました。
その後、政府は「国土強靭化基本計画」において、南海トラフ大地震への備えとして二重系統化を推進することを意思表明。そして最近、国が財政投融資という制度を利用して資金を貸し付けることも決定。

しかしながら、本当に東海/南海トラフ大地震への備えとして有効なルートなのかというと、いろいろな観点で疑問があります。以上が前回のブログ記事のあらまし。

じゃあ、東海/南海トラフ大地震への備えとして有効なルートが選定されてきたのか、過去の手続き状況を調べてみようじゃないかと思ったのでありました。

本当は計画路線決定時の政府内の議事録などが必要になるのでしょうが、簡単には入手不可能。そこで次善の策として、当時の新聞記事を拾い集めてまいりました。


朝日新聞 昭和45年(1970年)4月13日 夕刊
10年後目標に建設 第二東海道新幹線構想 新方式列車で時速500キロ 
 国際鉄道連合会(UIO)主催の「世界鉄道首脳者会議」が13日から東京で始ったが、同日午前9時から、東京港区の東京プリンスホテルでおこなわれた開会式あいさつで磯崎国鉄総裁は「1980年ごろには東海道新幹線の輸送能力は限度に達すると予想される。そのころまでに東京-大阪間に、もうひとつの新幹線を建設したい。それは在来方式によらない超高速の(続きはこちらhttp://park.geocities.jp/jigiua8eurao4/SouthAlps/Shizuoka-news/1970-4-13.html

朝日新聞 1972(昭和47)年11月19日 朝刊
 鉄道先導で列島改造 国鉄再建で運輸省構想 
  新幹線を大拡充 10年間で6000~7000キロ建設 運賃4月から値上げ  
 総選挙後に予定される国鉄運賃値上げ、新財政再建対策について、運輸省は18日までに、その大筋の構想をまとめた。その骨子は①運賃値上げは48年4月とし、幅は旧計画(旅客23.4%、貨物24.6%)を上回らない②48年度から10年間に、延べ6000-7000キロの新幹線網を…

朝日新聞 昭和48年(1973)年5月24日 朝刊
55年度までに優先建設 第二東海道新幹線 運輸省が構想 現在車改造し時速260キロ  
  運輸省は、東海道地域の増大する旅客需要を裁くためには、いまの新幹線電車の改良型による第二東海道新幹線を…

朝日新聞 1973(昭和48)年9月22日 朝刊
西日本縦断新幹線を計画 東北など5線はルート内定 
 東京-本州中部-大阪-四国北部-大分 60年メドに完成
 九州東・日本海線も 首相と鉄建審 鈴木会長一致
 
 田中首相と自民党の鈴木総務会長(鉄道建設審議会会長)は21日午前、将来の全国新幹線網建設について話し合った結果、すでに建設が決まっている北海道、東北、北陸、九州、長崎の5新幹線のルートを内定するとともに、新たに東京を起点として中部地方-大阪-四国北部-九州を結ぶ”西日本縦断新幹線”と…

朝日新聞 昭和48年(1973)年9月28日 夕刊
全国新幹線網 主要閣僚 一斉に批判 ”独走”首相、不在の閣議 
  ヨーロッパを旅行している田中首相のる手中に開かれた28日の閣議…

朝日新聞 昭和48年(1973年)10月5日 朝刊
新・新幹線網 「追加線」も結局諮問? 政府自民 首相帰国待ち調整へ 

朝日新聞 昭和48年(1973)年10月12日 朝刊
十新幹線も建議 首相・運輸相一致 

朝日新聞 昭和48年(1973年)10月16日 朝刊
新幹線網 10線も直ちに諮問か あす鉄建審 批判と参院選からむ 
 新谷運輸相は15日、自民党本部で鉄道建設審議会会長である鈴木善幸自民党総務会長と会い、“西日本縦断新幹線”など…

朝日新聞 昭和48年(1973年)10月17日 朝刊 
自民内に微妙な影 全国新幹線網計画 強気で走る首相周辺 福田氏は根強く批判 
http://park.geocities.jp/jigiua8eurao4/SouthAlps/Shizuoka-news/1973-10-17a.html
朝日新聞 昭和48年(1973年)10月17日 夕刊
五新幹線計画を答申 鉄建審 
http://park.geocities.jp/jigiua8eurao4/SouthAlps/Shizuoka-news/1973-10-17b.html
朝日新聞 昭和48年(1973年)10月26日 夕刊
「首相も12路線了承」 新幹線の新計画 
http://park.geocities.jp/jigiua8eurao4/SouthAlps/Shizuoka-news/1973-10-26.html

朝日新聞 昭和48年(1973年)10月30日 夕刊 
 東京-鹿児島7時間 新・新幹線網を鉄建審で説明 収支見通し 黒字まで長時間 
 鉄道建設審議会(会長、鈴木善幸自民党総務会長)は30日午前、運輸省会議室で総会を開き、さきに新谷運輸相から文書で諮問のあった12路線の新・新幹線基本計画について…
http://park.geocities.jp/jigiua8eurao4/SouthAlps/Shizuoka-news/1973-10-30.html

朝日新聞 昭和48年(1973年)11月1日 朝刊
12新幹線 鉄建審小委が了承 付帯決議 緊急度考え段階的に 
http://park.geocities.jp/jigiua8eurao4/SouthAlps/Shizuoka-news/1973-11-1.html

朝日新聞 昭和48年(1973)年11月2日 朝刊
常磐・釧路・紀勢も 新幹線 将来へ備え調査へ 
http://park.geocities.jp/jigiua8eurao4/SouthAlps/Shizuoka-news/1973-11-2.html

朝日新聞 昭和48年(1973)年11月3日 朝刊
「12新幹線」本決まり 鉄建審答申 
http://park.geocities.jp/jigiua8eurao4/SouthAlps/Shizuoka-news/1973-11-3.html

朝日新聞 昭和49年(1974年)3月28日
中央新幹線早める 運輸省方針 55-56年の開通目標 
http://park.geocities.jp/jigiua8eurao4/SouthAlps/Shizuoka-news/1974-3-28.html

朝日新聞 昭和49年(1974年)7月17日 朝刊
中央(山岳部分)四国(海底部分)新幹線 調査開始を指示  
 徳永運輸相は16日、基本計画の決まっている12新幹線のうち、中央新幹線の山岳部分と四国新幹線の海底部分について調査を…
http://park.geocities.jp/jigiua8eurao4/SouthAlps/Shizuoka-news/1974-7-17.html

朝日新聞記事ばかりですが、市内の図書館に置いてあった新聞縮刷版で、古いものが手に取れる場所に置いてあったのが朝日新聞だけだったということで、他意はありません。他の新聞も比較すべきですが、全て閉架だったので…。 



さてブログ作者なりに整理すると

●運輸省は、昭和55年頃になると東海道新幹線の輸送力が限界になるとして、輸送力増強のため第二東海道新幹線を建設する必要があると主張。

●当時の田名角栄内閣は、日本列島改造構想に基づき、国鉄の再建計画の中に、建設の内定していた5新幹線(北海道、東北、北陸、九州2路線)に加えて、さらに中央新幹線を含む12路線を追加することを(選挙の関係もあって)主張。

両者の折衷案が、全国新幹線鉄道整備法に基づく、基本計画路線としての中央新幹線ではなかったのか?

こんな感じだったのではないでしょうか?



この間の新幹線関係の記事を読んでも、東海地震なんて言葉は一言も出てこないので、基本計画路線として中央新幹線を決定するにあたり、東海地震を念頭においていたとは、ちょっと考えにくい。 

特に昭和47年11月の記事、48年9月22日の記事、49年3月と7月の記事にご注目くださいね。

東海/南海トラフ大地震を考慮せずに決定した可能性の高い路線を、大地震時の迂回路に位置付けて政策決定するのなら、大地震時でも迂回路足りえることを説明する必要があるんじゃないのかなあ?


東京-名古屋間の42.8㎞=山梨実験線建設にかかわる新聞記事一覧

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高度成長期におけるリニア関係の記事を並べたついでに、現在のリニア構想に直接かかわっている山梨実験線建設に関係する新聞記事も集めてまいりました。
既成事実として42、8キロの路線を建設してしまったわけですが、どのような過程を経てきたのか考える一助となれば幸いです。
(ひたすら打ち込み続けたので誤記があるかと思います。また、タイトルを紫色で表示したのは26日以降に追加した記事です。)



読売新聞 昭和61年(1986年)10月29日 朝刊
国鉄消えても「リニア」は消えず 
  国鉄の分割・民営化を図る関連法案が衆院を通過した28日、お先真っ暗だった国鉄のリニア・モーターカー(磁気浮上式鉄道)の前途に、逆に光が見えてきた。
http://park.geocities.jp/jigiua8eurao4/SouthAlps/Shizuoka-news/1986-10-29.html

運輸大臣による中央新幹線および四国新幹線の地形・地質調査指示(1974年)の後、約10年間、リニアや中央新幹線関係の記事は目立たなくなる。名古屋新幹線訴訟、東北・上越新幹線への都内での大反対運動、成田新幹線頓挫、国鉄ストライキ頻発、なりより国鉄解体と、それどころではなかったのだろう。 

朝日新聞 昭和62年(1987年)10月17日 朝刊
大宮-成田、東九州など 5ルートの構想 リニア鉄道 
  新しい高速鉄道体系として開発中の…
http://park.geocities.jp/jigiua8eurao4/SouthAlps/Shizuoka-news/1987-10-17.html

朝日新聞 昭和62年(1987年)12月14日 夕刊
運輸相、リニア実用化に前向き
http://park.geocities.jp/jigiua8eurao4/SouthAlps/Shizuoka-news/1987-12-14.html

読売新聞 昭和63年(1988年)1月22日 朝刊
リニア2年後実用化へ 石原運輸相 札幌と山梨に実験線
http://park.geocities.jp/jigiua8eurao4/SouthAlps/Shizuoka-news/1988-1-22.html

読売新聞 昭和63年(1988年)11月25日 夕刊
中央リニア新幹線建設 特別立法策定へ 運輸相表明
http://park.geocities.jp/jigiua8eurao4/SouthAlps/Shizuoka-news/1988-11-25.html

朝日新聞 昭和63年(1988年)11月28日 夕刊
リニア”独走”で対立深刻 JRグループ 実現急ぐ東海に東日本など反発  「共有財産」総研も困惑の色 
http://park.geocities.jp/jigiua8eurao4/SouthAlps/Shizuoka-news/1988-11-28.html

日本経済新聞 平成元年(1989年)2月4日 朝刊
リニア新実験線の着工 国・JR負担で早期に 運輸省首脳語る 
http://park.geocities.jp/jigiua8eurao4/SouthAlps/Shizuoka-news/1989-2-4.html

日本経済新聞 平成元年(1989年)2月21日 朝刊 
リニア実験線 建設負担に難色 JR東日本の住田社長 
http://park.geocities.jp/jigiua8eurao4/SouthAlps/Shizuoka-news/1989-2-21.html

日本経済新聞 平成元年(1989年)4月5日 
中立的機関主導で リニア実験線で提言 企画庁研究会 
http://park.geocities.jp/jigiua8eurao4/SouthAlps/Shizuoka-news/1989-4-5.html

日本経済新聞 平成元年(1989年)5月24日 朝刊
リニア実験線 山梨に建設を 期成同盟会が要望 
http://park.geocities.jp/jigiua8eurao4/SouthAlps/Shizuoka-news/1989-5-24.html

中日新聞 平成元年(1989年)8月8日 朝刊
(一部を抜粋)リニア新実験線決定 東海の各界 歓迎と期待
http://park.geocities.jp/jigiua8eurao4/SouthAlps/Shizuoka-news/1989-8-8Chuunichi.html

読売新聞 平成元年(1989年)8月2日 朝刊
リニア新実験線 来年度60億円要求へ 運輸省方針 建設地 山梨へ 
http://park.geocities.jp/jigiua8eurao4/SouthAlps/Shizuoka-news/1989-8-2.html

日本経済新聞 平成元年(1989年)8月8日 朝刊
リニアカー そろり発信 「山梨県に実験線」正式決定 検討委  
運輸省は7日、超電導磁気浮上式鉄道検討委員会(委員長、松本嘉司東京理科大教授)を開き、山梨県をリニアモーターカー(磁気推進式列車)の新実験線建設地として正式に選定…
http://park.geocities.jp/jigiua8eurao4/SouthAlps/Shizuoka-news/1989-8-8.html

この記事は詳しく書かれています。


日本経済新聞 平成元年(1989年)8月12日朝刊
社説 リニア建設で欠けた議論 
http://park.geocities.jp/jigiua8eurao4/SouthAlps/Shizuoka-news/1989-8-12.html


朝日新聞 平成2年(1990年)2月6日 朝刊
リニア新幹線 地形と地質 全線調査へ 
http://park.geocities.jp/jigiua8eurao4/SouthAlps/Shizuoka-news/1990-2-6.html

朝日新聞 平成2年(1990年)2月6日 夕刊
中央新幹線の経営主体 「JR東海の方向」 運輸相 
http://park.geocities.jp/jigiua8eurao4/SouthAlps/Shizuoka-news/1990-2-6b.html

日本経済新聞 平成2年(1990年)6月9日 朝刊
始動するリニア新実験線 運輸省などルート決定 43キロ、年内着工へ 93年度から走行実験 
運輸省と鉄道総合技術研究所(JR総研)、日本鉄道建設公団、東海旅客鉄道(JR東海)は8日、山梨県に建設するリニアモーターカー新実験…
http://park.geocities.jp/jigiua8eurao4/SouthAlps/Shizuoka-news/1990-6-9-Nikkei.html

非常に詳しい記事です 

朝日新聞 平成2年(1990年)6月22日 夕刊
「リニア」の中央新幹線 JR東海で了解 運輸省 
http://park.geocities.jp/jigiua8eurao4/SouthAlps/Shizuoka-news/1990-6-22.html

読売新聞 平成2年(1990年)8月28日 夕刊
リニア実験車が事故 宮崎で5月末 磁力消え 側壁に衝突 

朝日新聞 平成2年(1990年) 11月28日 夕刊 
リニア、本格浮上 新実験線に着手
http://park.geocities.jp/jigiua8eurao4/SouthAlps/Shizuoka-news/1990-11-28.html

朝日新聞 平成3年(1991年)2月6日 夕刊 
リニア本体工事発注
http://park.geocities.jp/jigiua8eurao4/SouthAlps/Shizuoka-news/1991-2-6.html

朝日新聞 平成3年(1991年) 7月21日 朝刊 
リニア 浮かぬ顔 改良多く「予算足らぬ」 距離半減案も出る  
http://park.geocities.jp/jigiua8eurao4/SouthAlps/Shizuoka-news/1991-7-21.html

91年10月3日、宮崎実験線で車両の炎上事故が発生する。これにより当面の間走行実験は不可能となる。車体上部が完全に燃え尽きてしまい、火災への懸念が強まることとなった。


朝日新聞 平成3年(1991年)11月28日 朝刊
「リニアより新幹線」 山梨県民の61%回答 

読売新聞 平成4年(1992年)7月15日 朝刊 
リニア実験線 18.4キロを先行建設 
http://park.geocities.jp/jigiua8eurao4/SouthAlps/Shizuoka-news/1992-7-15.html

実験線の完成はこの後2度先延ばしされ、実際に走行実験が開始されたのは平成9年(1997年)のことであった。当初予定より4年遅れたことになる。火災事故以降、次の延伸工事に至るまでの15年くらいの間、「新型車両登場」「速度記録」といったベタ記事以外にリニア関連および中央新幹線の記事は紙面から消える。

日本経済新聞 平成18年(2006年)9月26日 朝刊 
リニア延長、年度内着工
http://park.geocities.jp/jigiua8eurao4/SouthAlps/Shizuoka-news/2006-9-26.html

このニュースは、毎日新聞ではベタ記事扱い、読売新聞、朝日新聞、中日新聞では報じていない。世間の関心が遠ざかっていたのであろう。 

JR東海の進め方をユネスコエコパーク制度から考えてみた

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長野県での南アルプストンネル工事をめぐり、JR東海が場当たり的な説明を貫き通した挙句、行政にすら事情を知らせずに発生土置場を選定したり、トンネル工事を10月に始めるという表明をしたりと、今まで以上にメチャクチャな状況になっているようです。

信濃毎日新聞
県内10月にも工事開始 リニア南アトンネル 
http://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20160826/KT160825ATI090041000.php

朝日新聞 長野県版
リニア残土搬送地 JR明示 町は困惑「決まっていない」 
http://tozansyarinia.seesaa.net/upload/detail/image/160830E69C9DE697A5E696B0E8819E-thumbnail2.jpg.html

私の知る限りでは、JR東海は、関係する地域の住民が自社の計画についてどのように考えているかを調べた形跡はないようです(ちなみに用地買収は全て自治体に丸投げ)。それなのに「ご理解いただきました。では工事を始めます」では、一方的という指摘を受けても致し方ないだろうと思うのであります。

混乱の極みにあるのが大鹿村内での説明会。

信濃毎日新聞
「住民理解」への協議揺らぐ 大鹿村釜沢のリニア関連説明会 
http://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20160830/KT160829ATI090012000.php

聞くところによると、26日に行われた大鹿村内での集落別工事説明会では、別集落の人物を参加させる/入れないで対象集落の住民とJR東海担当者とが対立し、JR東海の一方的判断で対象集落の自治会長を排除して説明会を強行するという、奇妙なことをやっていたそうです(そのうえ、その後の村での対策委員会でも審議内容をめぐり紛糾しているとか)。

これについてはリニア計画に反対している市民グループ「リニア新幹線沿線住民ネットワーク」が29日付で抗議声明を出したようです。

JR東海は、地区ごとの説明会では、住民と土地所有者だけに参加資格があるとしています。どこの県でも同じようですから、住民との取り決めに基づくのではなく、JR側の一方的な主張なのでしょう。けれどもこのような方式だと、様々な知識を持ったJR東海側のやりたい放題になることは容易に想像がつきます。JR側は土地取引などの専門チームを構成しているでしょうが、対峙する住民側は、専門家どころか友人や親戚を同居させることもままならぬようなので。

詳細な事情を知らぬ者としては、これ以上の言及は避けますが、住民の理解を得ようという姿勢は全く感じられないし、まして合意形成など論外もっとも、全国新幹線鉄道整備法第10条とか11条を振りかざせば、こんなものでは済まないのですが… 

そんなJR東海ですが、このゴタゴタのあった前日、社長がこんなことをおっしゃっていたようです。

「国の不介入「文書に」 JR東海社長、リニアで要望」 
朝日新聞デジタル 8月26日(金)5時20分配信
 国から低利融資を受け、リニア中央新幹線の大阪延伸を最大8年前倒しするJR東海の柘植康英社長は25日の記者会見で、「経営の自主性を国と結ぶ約定や契約で定めていきたい」と話した。財政投融資制度による支援を背景にルートや料金などに介入されるのを避けるため、文書での確約を国に求める。
  柘植氏は「経営の自由を束縛されることは受け入れられない」と強調。「国にも十分理解を頂いている」としつつ、長期にわたる工事中に政権が代わっても約束がほごにされないようにしたい考え。具体的な文言は今秋をめどに調整する。
  国土交通省鉄道局の担当者は取材に「不介入を文書に盛り込む具体的な話はしていない」と話した。 

これに対し、リニアの大阪同時開業のために関西地域の推進運動に関わっていた関西地区の大学の先生は次のようなコメントを出しておられました。
http://rtpl.ce.osaka-sandai.ac.jp/ByRail/?p=5241

リニアは全国新幹線鉄道整備法法に基づくため国策以外の何物でもない。 
カネさえ出せば何事も事業者の自由になるわけではない。 
公的資金を使う以上、その目的や条件を考慮する必要がある。 

おそらくこの先生は、リニアを早く大阪まで開業させたいというお考えから、国策として早期全通すべしとの思いでコメントを出されたと解釈しますが、国策であるのなら、公共事業としての責任つまり地域社会の維持、地域振興、利害調整、それからもちろん環境保全―地域の事情に合わせた―なんかを十分に考え、最大限の”公共の福祉”(ないし、不幸の最小化)を追求せねばならないはずです。国策なのに「関西のためにはよ造れや」ではダメでしょう。

◇   ◇   ◇   ◇   ◇ 

ところでご理解とか、地域振興といった言葉で思い出しましたが、ここ大鹿村は、南アルプスユネスコエコパークの登録地域。そんなところで”国策”リニアを建設するわけです。

JR東海は、「移行地域内では経済活動が認められるから工事をおこなえる」というような主張を続けています。

イメージ 2
ユネスコエコパークについてのJR東海の見解
環境影響評価書 長野県編より複製・調整 

特に赤く囲った部分にご注目ください。ここには、次のように書いてあります。
「工事の実施段階には大鹿村と情報交換に努め、できるかぎり本事業とユネスコエコパーク計画との整合性を図る予定であり、「緩衝地域を支援する機能」や「自然環境の保全と調和した持続可能な発展のためのモデルとなる取組の推進」を阻害しないように計画できるものと考えている。

ユネスコエコパーク計画とは、管理計画のことだと解釈します。その管理計画との整合性を図るとか、阻害しないようにと書いてありますから、JR東海としてはリニア建設事業は、ユネスコエコパーク計画の外部に位置付けており、自らは当事者ではないと主張しているわけです。(じっさい、管理体制が整えられつつある静岡市側でも、特種製紙や中部電力と異なりJR東海は全く関わりがない)。

これはおかしい。

リニアの建設工事は、着工から完成まで10年近くを要し、何百人もの作業員を動員し、工事に関係する地域には否応なく負担が押し付けられることとなりますし、構造物の出現、河川の流量減少など、復元不可能な自然への影響も予想されるところです。一度、大々的に破壊した森林を元に戻すにも数十年という時を要するでしょう。財政的に見ても、構成自治体である大鹿村や早川町の年間予算の何十倍もの金額が投じられることになります。

言い換えれば、今後数十年の間は、経済的にも物理的にも、地元の意図とは無関係に、ユネスコエコパーク登録地域内における最大規模の事業であり続けるのです。

そんな最大事業がユネスコエコパーク管理計画の枠外に置かれるのなら、管理も保全も何もできなくなってしまいます。事業者の意思決定が不透明である以上は、ユネスコ本部への報告および照会にも返答することが困難になってしまうでしょう。そんなわけで、当事者意識が全くないのは困ります。関わるのをを避けているのではないかと疑ってしまいます。

また、環境影響評価書にはユネスコエコパーク登録審査基準として下段に表を掲げていますが、なぜか経済活動について重要な部分がカットされています。この部分を貼り付けます。
イメージ 1
生物圏保存地域(ユネスコエコパーク)審査基準
文部科学省ホームページより複製・調整  

赤く囲ったのが経済活動に際して肝心な部分。特に(5)のところ。
・生物圏保存地域の管理方針や計画の作成及びその実行のための組織体制が整っていること。
・組織体制は、自治体を中心とした構成とされており、土地の管理者や地域住民、農林漁業者、企業、学識経験者及び教育機関等、当該地域に関わる幅広い主体が参加していること。
・生物圏保存地域が有する価値を確実に保全管理していくための包括的な保全管理体制が整っていること
 

ふつうの読解力でこの基準を読めば、ユネスコとしては、登録地域において住民が地域の環境を将来にわたり保全してゆくために、移行地域内での経済活動に積極的に関わってゆくことを求めていると、解釈できると思います。

そういう制度なのだから、その登録地域内の最大事業―リニア中央新幹線整備計画―のあり方について、「当該地域に関わる幅広い主体が参加し」、「管理方針や計画の作成及びその実行のための組織体制」を築くのは当然だと思います。

その事業に登録地域内の住民が参画できないとするJR東海の考え方は、登録地域における環境保全の概念を真っ向から否定していると言わざるを得ません。まして”国策”に位置付けられるべきとする事業が国際ルールや公共精神を失ったらシャレにならない。

これは本当におかしい。

JR東海が、住民排除を画策するのであれば、そもそも住民参画を定めた以下の組織に文句を言うべきではないでしょうか?

国連教育科学文化機関
United Nations Educational Scientific and Culture Organization

あるいは、「ユネスコエコパークはリニア計画には合致しない!邪魔だ!」として、関係市町村および文部科学省、環境省、ユネスコ国内委員会などに登録抹消を呼びかけるべきかもしれません。

◇   ◇   ◇   ◇   ◇ 

もっとも、ユネスコエコパークの概念など持ち出さずとも、環境保全に住民を積極的に参画させるのは当然のことでしょう。

JR東海は、環境に配慮しながら工事を進めるという言い方を繰り返しています。しかし守るべき、あるいは望む環境というものは、個々人によって大きく異なると考えるのが常識です。

例えばリニア建設工事の騒音を「発展への槌音」などとしてあまり気にしない人もいれば、その工事自体を嫌う人にとっては、例え環境基準以下であっても耐えがたい苦痛になるかもしれない。工事をなるべく早く安く済ませたいなら、なるべく対策費用を抑えたいので、そこで住民との軋轢が生じる。

騒音のように環境基準が定められている事項であっても、基準をただ守っているだけでは万全とは言えないのです。(そもそも山奥の大鹿村に、都市の幹線道路用の基準を当てはめて適合しているとするJR東海の主張には無理がある。) 

まして生物および生態系といった基準を定めようのない事項については、杓子定規で定められるはずがない。景観なども、受ける印象は個々人の価値観でバラバラでしょう。

だからこそ話し合いの場において、保全すべき環境の姿について議論し、一定の合意を得るべきであると私は考えます。っていうか、物事を決めるための常識なんじゃないのかな? 北陸新幹線では、それがある程度は機能した(かも)

ゆえに合意形成を目指さずして「環境を保全してゆく」という表現を用いている以上、JR東海が守ろうとしている環境の姿とは、あくまで「JR東海の都合に合わせた環境像」ということになるのでしょう。

こんな会社に義理立てする必要はないんじゃないのかな?

最高裁判決 大鹿村美しい村づくり条例 ユネスコエコパーク

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、「守るべき環境の姿」とはどういうものかを考えようと、環境問題について書かれた本を本を読んでいたら、次のような裁判判決文に遭遇しました。火力発電所建設をめぐって争われた裁判について、札幌地方裁判所が昭和55年10月14日に出した判決文です。次のような表現が用いられています。

環境は、…その認識および評価においては住民個々に差異があるのが普通であり、これを普遍的に一定の質をもったものとして、地域住民が共通の内容の排他的支配権を共有すると考えることは、困難である。

つまり、環境を守れといったって、守るべき環境の質や水準といったものは、一人一人異なるのが普通であるのだから住民の主張する基準に合わせねばならないとするのは難しいと言っているわけですね。

この場合は訴えを起こした住民の求める水準に合わせるのは難しいとしているわkで、もちろん環境を破壊する側にとっても同様です。したがって次のように結んでいます。

人の社会活動と環境保全の均衡点をどこに求めるか、環境汚染ないし破壊をいかにして阻止するかという環境管理の問題は、すぐれて、民主主義の機構を通して決定されるべき

守るべき水準を定めるのは容易でないから、民主主義つまり話し合いの機構を通じて決めるべし、つまり話し合えというわけです。

こうした見解が日本の裁判所における基本的な解釈となっているようでして、いっとき話題となった国立市でのマンション景観問題における最高裁判決でも、次のように述べられています。

「景観利益は、これが侵害された場合に被侵害者の生活妨害や健康被害を生じさせるという性質のものではないこと、景観の保護は、一方において当該地域における土地・建物の財産権に制限を加えることとなり、その範囲・内容等をめぐって周辺の住民相互間や財産権者との間で意見の対立が生ずることも予想されるのであるから、景観利益の保護とこれに伴う財産権等の規制は、第一次的には、民主的手続により定められた行政法規や当該地域の条例等によってなされることが予定されている。」

裁判の経緯
住民が高層マンションが景観を乱すとして、一部撤去を求めて訴訟を起こす。一審は住民の訴えを認めるが、高裁、最高裁は認めず敗訴が確定。
良好な景観に近接する地域内に居住する者が有するその景観の恵沢を享受する権利(景観利益)は、法律上保護に値するものと解するべきである。ある行為が「景観利益」に対する違法な侵害に当たるかどうかは、少なくとも刑罰法規や行政法規の規制に違反するものなど、社会的に容認された行為としての相当性を欠くことが求められる。
本件では、事業着手時点で条例による規制がなかったこと、公序良俗違反や権利の濫用に該当するなどの事情はうかがわれないことを理由に、景観利益を違法に侵害する行為には当たらないと解釈され、住民の訴えは棄却された。
(詳細)
http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=32819

この見解に従えば、JR東海の事業活動も、「民主的手続により定められた行政法規や当該地域の条例等に」従うべきでしょう(当たり前)。

リニア計画で揺れている長野県大鹿村には、「大鹿村美しい村づくり条例」があります。http://www3.e-reikinet.jp/ooshika/d1w_reiki/423901010005000000MH/423901010005000000MH/423901010005000000MH.html

(目的)
第1条 この条例は、雄大な南アルプスを背景とした、四季折々の美しい景観や生物が生き生きと活動する自然、中央構造線が刻んだV字谷を縫って流れる清冽な川の流れに沿って広がる田園や傾斜地に点在する集落、多くの史跡や寺院、先人より受け継がれてきた伝統文化によって、育まれた大鹿村の美しい景観を村民が一体となって守り育てるとともに、「日本で最も美しい村」を標榜とする大鹿村の地域特性を生かした美しい村づくりに必要な事項を定め、自然と人とが共生して大鹿村の原風景を次の時代へ継承していくことを目的とする。
第5条 事業者は、その事業活動の景観に与える影響が大きいことにかんがみ、その責任において景観形成を図るために必要な措置を講じなければならない
2 事業者は、村が実施する景観形成のための施策に協力しなければならない。
 

最高裁判決のいう、「民主的手続により定められた行政法規や当該地域の条例等」とは、まさにこれを指します。 

JR東海はこの条例に従う義務があるはずです。これまでの説明会で、同条例について問題提起があったのかは分かりませんが、住民から今一度、JR東海の見解を問いただしておくべきだと思います。

今のところ、環境影響準備書への意見で求められた橋梁の地下化はもとより、その後の説明会で求められた電線の地下化でさえ拒んでいるわけですが、・・・「必要な措置」なんてやってませんよね?

◇   ◇   ◇   ◇   ◇ 

ところで上記の最高裁判決における「景観利益の保護とこれに伴う財産権等の規制は、第一次的には、民主的手続により定められた行政法規や当該地域の条例等によってなされる」という一文に、「第一義的には」という表現があります。

景観の保全には、必ずしも法や条令が万全ではないことを考慮しているのでしょう。

すなわちこの判決が取り扱っていた景観保全について考えても、高さや色などは規制可能であっても、元来は価値観に起因する事項であるから、細かく規制することは難しい。未解明の水循環、生態系といった複雑な事象になると基準を設けることはより困難ですし、南アルプスが有する「静けさ」「奥深さ」「豊かさ」などといった抽象的概念になると、そもそも規制すること事態が論理的に不可能です。

けれども規則がないからといって好き放題に開発することが許されるのなら、ユネスコエコパークに登録した意味がなくなってしまう。

それならば民主的手続き(話し合い)により保全すべき環境像を描くというプロセスが不可欠のはずです。それをないがしろにしているのがJR東海の進め方。

JR東海は「説明会」「ご理解」という言葉を用いていますが、こうした考え方が、一方的な立場を象徴しているといえるでしょう。説明とは、あらかじめ決まった事業者の意思を伝えるだけであり、一方通行です。でも住民としては理解はできても納得はできない。なぜ納得できないのかというと、それはムチャの多い事業計画を一方的に押し付ける進め方であるから。

つまり常識的に考えても、上記の裁判判決を忠実に解釈しても、あるいはユネスコエコパーク制度(前回ブログ参照)に従っても、

事業者案の提示⇒地元から対案の提示⇒代替案の提示⇒話し合い⇒合意⇒説明⇒納得⇒着工

という順序をとらなければならないのに、今のJR東海の進め方は

事業者案の提示⇒地元から対案の提示⇒代替案の提示⇒話し合い⇒合意⇒説明⇒納得着工

となっているわけですよ。必要な手順をすっぽかしているわけで、こんな進め方では納得できるはずがない。


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