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Channel: リニア中央新幹線 南アルプスに穴を開けちゃっていいのかい?
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全国新幹線鉄道整備法の成立過程 ――高速道路建設のほうがよっぽどマシじゃないですか

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ご理解されれば納得されなくても工事を進めるとするJR東海の姿勢。ふつうの民間業者とは、だいぶ性格が異なるなぁと思います。

なぜこれほど強い姿勢で臨めるかを考えると、リニア建設事業が単なる民間事業とは異なり、全国新幹線鉄道整備法(全幹法)という法律にのっとっているからじゃないでしょうか?

類似の事業である高速道路建設の場合、全幹法に相当するのは高速自動車国道法、国土開発幹線自動車道法といった法律のようです。新幹線建設と高速道路建設とを法的に比較すると、民主主義的な手続きや地元の関与という点では次のような違いがあるようです。

高速道路の予定路線決定には内閣の議を必要とする(高速自動車国道法第3条)。新幹線建設の場合、予定路線(基本路線)や整備計画の決定は国土交通大臣の一存で決定できる(全幹法第4条)

高速道路の事業計画を進めるには要所で国土開発幹線自動車道建設会議(20人)の審議を必要とするが、その半数は国会議員で構成されなければならない(国土開発幹線自動車道建設法第5条、第13条)。新幹線建設の場合、同様の役割を果すとみられる交通政策審議会は、国土交通省の選ぶ有識者だけで構成されている(交通政策審議会令

高速道路計画の予定路線決定には、利害関係を有する者が意見を陳述することができるとされている(国土開発幹線自動車道建設法第5条)。新幹線計画の場合、そのような制度はない

新幹線建設には、「地方公共団体は、建設に要する土地の取得のあつせんその他必要な措置を講ずるよう努めるものとする。」というように、事業に協力せよとの義務規定がある(全幹法第13条4項)。高速道路関係の法律には見当たらない

国土開発幹線自動車道建設法第9条には、「国土開発幹線自動車道の建設に必要な土地等を供したため生活の基礎を失う者がある場合においては、政府は、その者に対し、政令で定めるところにより、その受ける補償と相まつて行なうことを必要と認める生活再建又は環境整備のための措置について、その実施に努めなければならない。」という規定がある全幹法にはない


ド素人が法律を見比べただけであり、もしかしたら間違いだらけかもしれません。しかしちょっと見たところでは、高速道路計画には国会議員や意見陳述制度を通じて地元の声を届けさせる道筋が整えられているなど、高速道路整備のほうが、事業を丁寧に進めさせる仕組みになっているように感じられます。(マトモに運用されているかは分かりません)

ちなみに高速道路関係のふたつの法律が成立したのは昭和32年。かたや全国新幹線鉄道整備法は昭和45年に成立。後からできた法律のほうがザル法になっているようです。

全幹法の成立経緯を調べると、昭和40年代前半に出てきた国家プロジェクト”全国新幹線網の実現”を推進するためにつくられた特別法という位置づけのようです。


例によって全国新幹線鉄道整備法成立に至るまでの新聞記事です。

朝日新聞 昭和42年(1967年)9月1日 朝刊 
国鉄が20年後のビジョン 全国に新幹線網 
”過密なき集中„めざす 首都圏には高速通勤線

http://park.geocities.jp/jigiua8eurao4/SouthAlps/Shizuoka-news/1967-9-1.html

●昭和44年(1969年)5月30日
新全国総合開発計画が閣議決定される。上記記事にある「第二東海道新幹線」構想が盛り込まれる。
【国土交通省ホームページ】
http://www.mlit.go.jp/kokudoseisaku/kokudoseisaku_tk3_000026.html

朝日新聞 昭和44年(1969年)9月18日 朝刊
主要全都市を結ぶ 自民が新幹線鉄道網案 
60年度までに建設 総延長9000キロ
 
http://park.geocities.jp/jigiua8eurao4/SouthAlps/Shizuoka-news/1969-9-18.html
⇒第二東海道新幹線、中央新幹線の2路線が登場。

朝日新聞 昭和45年(1970年)4月13日 夕刊
10年後目標に建設 第二東海道新幹線構想 新方式列車で時速500キロ 
http://park.geocities.jp/jigiua8eurao4/SouthAlps/Shizuoka-news/1970-4-13.html
⇒第二東海道新幹線は超電導リニア方式で建設できるとする

朝日新聞 昭和45年(1970年)3月6日 朝刊
全国新幹線網の建設促進 各党共同で今国会提案
 60年完成めざす 財源、46年までに結論 自民案骨子 中心都市結び9000キロ
 
http://park.geocities.jp/jigiua8eurao4/SouthAlps/Shizuoka-news/1970-3-6.html
⇒全国新幹線網と、それを実現するための法案を国会に提出することを決定。

朝日新聞 昭和45年(1970年)3月12日 朝刊
新幹線網・法案要綱決る 着工順位はふれず 財源措置、引続き検討 議員立法で提案 20日ごろ 
http://park.geocities.jp/jigiua8eurao4/SouthAlps/Shizuoka-news/1970-3-12.html

朝日新聞 昭和45年(1970年)5月14日 朝刊 
規模・財源など触れず 新幹線法かけこみ成立 
http://park.geocities.jp/jigiua8eurao4/SouthAlps/Shizuoka-news/1970-5-14.html

こののち昭和48年になり、全国新幹線鉄道整備法に基づき、全国新幹線網を基本計画に位置付けることとなる。
(以降の新聞記事については8/17の当ブログを参照していただきたい)
http://rdsig.yahoo.co.jp/blog/article/titlelink/RV=1/RU=aHR0cDovL2Jsb2dzLnlhaG9vLmNvLmpwL2ppZ2l1YThldXJhbzQvMTQ5MzI4MjkuaHRtbA--



どうも全幹法は、田名角栄議員に触発されて急いで作った「全国新幹線網」構想を早急に実現させるために、やはり急いで法律を急ごしらえで作ったために、ザル法になったんじゃないかと思ってしまいます。その後の国鉄の財政悪化に伴い、新幹線計画自体が長い凍結に入り、平成に入ってからは”整備新幹線”というものを法律の枠外の制度で作り始めたがために、時代錯誤がそのまま温存されてしまったのではないでしょうか。

とまあ、類似の国家プロジェクトである高速道路網整備に関わる諸法律と比較しても、事業推進に優位な規定となっているようなので、この法律を適用している時点で、純粋な民間事業とは言えないんじゃないかと思うし、「リニア建設は民間事業だから一般人があれこれ言う資格はない」という主張は、ちょっと違うとも思います。
(一例:ホリエモン氏「リニアの何が問題なんだろう?)

https://dot.asahi.com/wa/2014100800091.html




大規模地震対策特別措置法の見直し ”南海トラフ大地震警戒宣言”が発令されたらリニアはどうなる?

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リニア中央新幹線を、国が積極的に推進しなければならないとする重大な根拠のひとつが「南海トラフ大地震に備えて交通の二重系統化」です。

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国土強靭化基本計画のページより複製 

ところで南海トラフ地震については、平成14年に成立した「南海トラフ地震に係る地震防災対策の推進に関する特別措置法」に基づき、「南海トラフ地震防災対策推進地域」が設定され、地震対策を強化が進められることになっています。

一方、これとは別に、「(南海トラフの東端である)東海地震については予測できる可能性がある」として成立したのが大規模地震対策特別措置法です。1978年(昭和53年)に成立し、1979年(昭和54年)には地震防災対策強化地域が指定されました。

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図1 東海地震を対象とした地震防災対策強化地域 
紫の線はリニアのルート 


大規模地震対策特別措置法では、警戒宣言が発令された際、関係する自治体や学校、病院、大企業などはそれぞれとるべき対応を定めることとなっています。例えば、東海地震の警戒宣言が発令されると、東海道新幹線が運行停止になったりするわけです。

このほど、大規模地震対策特別措置法の対象範囲を南海トラフ全般に広げるかどうかが検討されることになりました。

現在のところ

●地震予測技術が向上したかというと全く逆であり、むしろ「調べれば調べるほどわからない」
●予測対象は南海トラフ全般に広げる方向で議論が進められる
●今後は”予知を前提”とした対策のあり方を改める
●警戒宣言発令時の規制を緩和

という方向で議論が進められているようです。

(ややこしくてすみません。以下の記事を参考にしてください)


さて、リニア中央新幹線は、東海地震の防災多作強化地域だけでなく、「南海トラフ地震防災対策推進地域」をも貫きます。しかも想定によると、リニア想定ルートのうち濃尾平野一帯は震度6強以上の激しい揺れになると想定されています。また、東海道新幹線も全区間が推進地域に含まれていることにご注意ください。

イメージ 1

図2 南海トラフ地震を対象とした防災対策推進地域
内閣府中央防災会議のホームページより引用・加筆 

ということは、大規模地震対策特別措置法の対象範囲を南海トラフ全般に広げた後に、南海トラフ地震に対する警戒宣言(前兆現象についての情報などを含む)が発令された場合に備え、JR東海はリニア中央新幹線・東海道新幹線どちらについても運行停止を含む何らかの対応を準備しておく必要がでてくるはずです。

今のところ、東海地震を対象とした現行の地震防災対策強化地域においては、警戒宣言発令時、東海道新幹線は震度6強以上の揺れが想定される名古屋以東は運行停止となります。同じことを中央新幹線および南海トラフ大地震に当てはめると、南海トラフ地震で震度6強以上となりうるエリア(甲府盆地、名古屋~三重県北部)も運行停止にしなければならないはずです。そもそも以前当ブログで指摘したように、名古屋以西ではリニアのほうが南海トラフに近い地域を通りますし、伊勢湾沿岸の津波浸水想定範囲や液状化の危険地域が含まれるため、現行東海道新幹線よりも危ないのかもしれません。

イメージ 2
図3 南海トラフ地震の想定震度
内閣府中央防災会議のホームページより引用・加筆
オレンジ色が想定震度6強、赤が想定震度7

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図4 本州中部を拡大 紫の線がリニア中央新幹線想定ルート  


ここで矛盾が生じるように思えます。

繰り返しますが、冒頭に記した、平成26年に政府が閣議決定した国土強靭化基本計画では、「災害により分断、機能停止する可能性を前提に、代替ルートを確保する」ことを目的として、リニア中央新幹線を早急に整備するとしています。

これに従うのなら、南海トラフ大地震の発生が予知され、”南海トラフ大地震警戒宣言”(仮称)が発令された場合、リニア・東海道新幹線どちらも運行を停止したら「代替ルート」は意味をなさなくなります


けれども、どちらも南海トラフ地震防災対策推進地域を通る以上、どちらも情報発表時の対応を用意しておかなければならない。

同様に東名高速道路と新東名・新名神高速道路は、「南海トラフ地震防災対策推進地域」の内部で二重系統化しています。けれども、道路は鉄道と異なり、警戒宣言が発令されても徐行・車両数の制限のうえ通行可能とされていますし、地震が発生して数か所で損傷しても、無事だった部分をつないで緊急車両を通すことも可能です。けれどもリニアによる二重系統化は、あくまで東京~大阪の旅客輸送のためだから、一部分でも運休したら全く意味がない。まして損傷したらどうしようもない。

調べてみると、リニアにおいて地上部分を盛土構造にしないのは、ガイドウェイのズレをミリ単位に抑えなければならないからだそうです(※)。数㎝ずれたら営業運転が困難になるようなものを、大地震の予知がされた場合に運行できるはずがありません。
(※)東海旅客鉄道20年史による山梨実験線建設時の沿革による。 だから残土処分地を他に設ける必要がある。


リニアで求められる”二重系統化”とは、果たして何を目的とするのでしょうか?

わけがわかりません…

同じトンネルで事業計画の進み具合が大きく異なると・・・

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ここのところ、南アルプスの長野県側において、リニアの建設工事に向け、JR東海が急ピッチで説明会を進めているようです。住民感情を逆なでするようなことをするなどしているようですが・・・。

そのJR東海は、「来年初めには斜坑(非常口)の掘削に着工し、2018年初めには本坑に到達、長野側工区の完了は2023年を目指す」と地元に向けて説明しているそうです。

こちら(南信州新記事9月8日) にJR東海の示した工事スケジュールが掲載されています。そのまま引用すると著作権に触れそうだし、見づらいので、縦書きに修正したものを掲載します。
イメージ 1


ついでに南アルプスのトンネル概念図を掲載します。東(甲府側)が上になっています。

 
 
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南アルプストンネルの位置 

トンネル工事で推定される工区ごとに色分けしてみる

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環境影響評価書資料編 「工事計画」による
色を付けた部分がトンネルになる。
坑口ごと掘削方向(=発生土の搬出方向)を色分けして図示している。 
南巨摩第四トンネルについては工区設定が不明であるため点線表示 


ところで、同じ南アルプストンネルの中間地点となる静岡市では、何が起きているのかさっぱり分かりません。

というわけで推測になりますが、長野県側の状況やこれまでの説明により、静岡市での計画は、次のように進められるものと思われます

①様々な調査・許認可
②掘削工事に向けての準備工事
③工事用道路トンネルの掘削
④斜坑の掘削
⑤先進坑・本坑・導水路の掘削
⑥路盤整備

来年いっぱいは、環境や土地条件の調査等に費やすことになるでしょう。昨年度の静岡市による調査で新たな新分布種を確認するなど、生物相調査がまだ不十分であるうえ、発生土置場の安定性についての調査が進んでいないためです。

これら諸手続きが終わった後に、工事に先駆けて林道の改良工事が必要となりますが、そのスケジュールも環境保全措置も不明なままです。また、発生土置場の整地・砂防工事や樹木の移植なども必要です。さらには、冬場は通行止めという条件も加わります。

こうした諸準備に、まだ2年半は必要でしょう。

さて大鹿村内では、2000mの斜坑を掘り終えるのに1年3ヵ月を見込んでいます。斜坑は月平均で133m掘ることになります

これを静岡市内に予定されている各種作業用トンネルに当てはめると次にようになります。

工事用道路トンネル(4500m)…両側から掘ると17カ月
二軒小屋南斜坑(3500m)…26カ月
西俣斜坑(3100m)…23カ月 

イメージ 2
この図では上が北

ふたつの斜坑のうち、西俣非常口(斜坑)は、工事用道路トンネルの完成を待たないと掘ることができません。これは、現在は道路が存在しないという事情に加え、猛きん類への環境保全措置というタテマエで工事用道路トンネルを必要としているためです。よって、西俣斜坑が本坑に到達するには、最短でも40ヵ月(3年4ヵ月)が必要となります。

また、釜沢東(除山)斜坑から掘る本坑(西へ推定600m、東へ推定4800m)の貫通には6年4ヵ月を要するとしています。ですから単純に考えると、本坑は月平均で63m掘ることになります。

これを静岡側に当てはめると、西俣斜坑終点から大鹿側の向けて掘る本坑部分約3000mを掘り終えるには48ヵ月(4年)かかります。

以上、整理するとこんな感じになります

【静岡市側での最短の工事工程予想】
2017年度 各種調査の継続
2018年度後半~ 林道工事
2019年度半ば~発生土置場整備、ヤード整備、宿舎設置
2020年度 工事用道路トンネル掘削開始
2021年度後半 西俣斜坑の掘削工事
2023年度後半 西俣斜坑から先進坑・本坑の掘削
2028年度初頭 貫通

もう一度強調しますが、あくまでこれは、全ての準備がトントン拍子で進むという、ありえない前提で見込んだものです。現実には事前に水利権調整、河川法・森林法上の許認可、林道通行や改変の許可が必要ですし、新たに何か重要な生物の分布が見つかったら、そこで追加の保全対策も考える必要があります。どのタイミングで施工業者を決定するか、説明会はどのような形で行うのか、緊急時の行政対応をどうするのか、そういったことも一切決まっていません。

このように考えると、静岡市工区での本坑着工は最短でも2023年度以降になると予想されます。すると貫通は2026年か2027年。それからガイドウェイ設置やら電気工事を始めるので、南アルプストンネル全体の完成は、どんなに早くとも2028年以降になるのではないでしょうか?

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さて、西俣斜坑を掘り終える2023年には、大鹿村での説明だと、大鹿側の工事は終了間際になっていることになります。先進坑はすでに掘削を終えているのかもしれません。

かたや静岡側でのスケジュールは、絶対に2027年名古屋開業には間に合わない。

「大鹿側から静岡側へ掘ってしまえ」
という考えがJR東海内部に生じたり、推進している側から要請が出てくることはないのでしょうか? 

リニアからの残土は不要じゃないのかな?―早川芦安連絡道路、不審点が多すぎませんか―

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「早川芦安連絡道路って不審点が多すぎませんか?」
このようなタイトルを掲げながら、この道路の必要性について言及するつもりはありません。地域のために必要なら早急に造るべきでしょう。必要性とは全く関係なく、事業計画に不審点が多すぎるという話です。



リニアの南アルプス横断トンネルの山梨県側にあたる早川町では、昨年12月、形ばかりの起工式が行われました。マスコミからは「南アルプス本格工事開始」と報道されたものの、その後は宿舎を建設しただけで、全く動きがないようです。

●トンネル建設に160万立米も必要なのか? 

早川町側には南アルプストンネルから232万立方メートル、東の第四南巨摩トンネルから94万立方メートル、切土3万立方メートル、合計329万立方メートルの発生土が生じる見込みです。

これらのうち160万㎥(48.6%)は早川芦安連絡道路の造成に使い、残り半分は、完成後の同道路を使って東側へ運び出す計画だそうです。このうち100万㎥(30.4%)は芦安地区での駐車場造成に使うそうな。

早川芦安連絡道路とは、早川町北部から甲府盆地側の芦安温泉に向けて新設される道路のことで、道路トンネルと早川を渡る橋梁の建設がメインとなります。南アルプススーパー林道に向かう夜叉人峠トンネルの南側に計画されています。

このトンネル、断面図から大雑把に見積もると、断面積は50~60㎡ぐらいになるものと見られます。すると発生土量は50㎡×3740m×1.5(変化率)で、19~34万立米。両側から掘るなら早川町側へは10~17万立米程度の発生土が生じます。

したがって早川芦安連絡道路では、合計175万立米ぐらいの発生土を使うことになります

ところが、この発生土の使用計画について、ものすごく不自然な点が見受けられます。新設道路の盛土に使うそうですが、175万立米はいくらなんでも過大じゃないでしょうか?


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より拡大して書き直します。トンネル区間を緑色で、地上部のうち盛土になるとみられる部分を赤色で、橋になるとみられる部分をピンクで示しています。
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国土地理院 地理院地図 電子国土Webより複製・加筆 

地上区間は750m程度とみられますが、早川および支流(カッパ滝とある谷川)の深い谷を渡る必要があるため、1/3程度は橋になるはずです。盛土は、道路が山腹を横切る部分と、橋の取り付け部分に用いられるのでしょう。

果たしてどれくらい使うのか?

ちょっと試算してみます。(おヒマな方は、紙と鉛筆とルート機能付き電卓でお付き合いください)

一般的に、道路盛土の高さ上限は20m程度、盛土勾配は30°とのこと。それから地形図から判断して、橋が架けられるあたりの斜面勾配を30°と見積もります。
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この条件だと、橋の取り付け部分への盛土量は橋ひとつにつき2.1万立米程度になりますから、二つの橋に使えば8.4万立米程度となります。

また、道路が山腹を横切る部分については、山地の道路によくみられるように、谷側に垂直の壁を設けて、その中に土を詰めると考えます。急傾斜の地ですから、斜面勾配を45°とします。道路の幅は7mですから盛土高さも7m。よって盛土断面積は24.5㎡となります。

盛土構造となりそうな区間の長さはおそらく450m程度。45m×24.5㎡で。およそ1.1万立米。

これで合計は9.5万立米程度


これでは総発生土量の5%程度にしかなりません。しかもこの量なら、新設道路トンネルからの発生土だけでも余ってしまいます。

早川芦安連絡道路を建設するのに、リニアからの発生土量は不要ではないでしょうか?

そもそも、チョー簡単に、盛土区間の延長を500m、高さ20mとすると、道路の幅は175mという現実離れした数字になってしまうわけで、この計画がおかしいことは一目瞭然。 

●どういう審議をしていたのだろう? 

同じく山梨県の発表資料です。
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これによると、「リニアからの発生土を使うため建設コストを抑えることができる」と説明しています。しかし、どう考えても160万立米も使うはずがない。むしろ邪魔なはず

もしも発生土160万立米を全部盛土構造に使うのなら、早川本流にロックフィルダムを造るか、もしくは”カッパ滝の谷川”を埋め立てるような規模となり、あまりにも過大(たぶんコスト面でも)な規模となります。事業計画内容が非合理的なのは明白なのに、妥当であると判断されていたようです。

ヘンですよね。

さらに下段を見ると、この早川芦安連絡道路は、当初計画では2014年(平成26年)度に着工し、今頃は工事の最中で、2019年(平成31年)度に完成する計画だったようです。ところが実際には、平成26年に環境調査や測量を担当する業者の入札を開始したとの発表があったものの、その後の音沙汰はない状況です。

それどころか今年はじめに行われた現地取材によると、そもそも早川芦安連絡道路の工事予定地までの道路改良が先に必要だとか、工事費の割合をめぐってJR東海と山梨県とで調整がつかないとか、そういった状況にあるようです。
http://shuzaikoara.blog39.fc2.com/blog-entry-465.html

リニア本体工事の発生土処分を左右する道路なのですが、どうなっているのだろう?


●そもそも盛土構造にする必要があるのか?

盛土で埋めてしまうかもしれない「カッパ滝」のかかる沢について、空中写真で拡大してみると、近年、土石流が流れたかのように見えます。早川との合流点付近の谷底に石がゴロゴロ転がっているように見受けられるためです。また、源頭部には、最近崩れたばかりとみえる崩壊地もあります。
イメージ 4
国土地理院ホームページより引用・加筆 


土石流の頻発する谷川を埋め立てたら、その上流側に大量の土砂をため込む危険性が生じるような気がします。

ここに橋を架けるのなら、盛土など用いずアーチ橋で一跨ぎにすべきじゃないのかな?

さらに、この一帯は山梨県立南アルプス自然公園第2種特別地域に指定されています。環境・景観への影響を最小限にする必要がありますから、改変面積が大きくなる盛土構造は避けるべきではないでしょうか?

◇   ◇   ◇   ◇   ◇ 

繰り返しますが、道路の必要性について作者は判断できません。

しかし、必要性をリニア計画に結び付けようとする理論は、破綻しているのではないでしょうか? 



早川芦安連絡道路の不審点 続き ユネスコエコパーク緩衝地域内にて大量の残土処分?

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リニア南アルプストンネルの発生土処分の可否を握る(?)早川芦安連絡道路計画。

この計画については、前回のブログでの指摘に加え、まだ疑問点があります。

環境影響評価書によると、160万立米の盛土面積は7万平方メートルになるとのことです。また、山梨県提示の資料によると、新設される道路のうち地上部分の延長はおよそ750mとみられます。早川と支流の深い谷に橋梁を架けるでしょうから、盛土区間の長さは500m程度となるものとみられます。この区間の道路の幅は、路肩を含めて8.5mだそうです。

8.5m×500mで、道路造成に必要となる盛土の面積は4250m程度。これでは環境影響評価書に示された盛土面積7万㎡の6%にしかなりません。盛土の裾部分が広くなることを考慮しても、あまりにも差が大きすぎます。

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となると、考えられる可能性はただ一つ。

「早川と支流の深い谷」は、橋を架けて渡るのではなく、発生土で埋め立ててしまうに違いありません。規模の大きな早川を埋め立てるのは無理でしょうけど、支流なら、土木技術的には考えられなくもない。

早川芦安連絡道路構想には、新設トンネルの東口にあたる芦安山岳館前の谷側を埋め立てて駐車場を造成する事業もセットになっているらしいので、同じようなことを西口でも行うとしても、不思議ではありません。

しかしそんなことをすれば、道路整備に本来必要な規模をはるかに超えてしまい、道路建設に名を借りた残土処分場そのものになってしまうのではないでしょうか

ここに早川芦安連絡道路構想の不自然さがあります。

こちらは、早川芦安連絡道路予定地付近における南アルプスユネスコエコパークの地域区分図です。黄色い部分が移行地域、緑色の部分が緩衝地域、赤い部分が核心地域で、順に保全のレベルがあがります。

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右上枠内を拡大
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移行地域は人が居住し、持続可能な範囲内で通常の社会活動が許されるエリア、核心地域は厳重に自然環境が保全されるエリアになります。両エリアが直接に接するのを避けるために設けられるのが緩衝地域で、人の営みは旅館業、観光業などにを持続可能かつ核心地域に影響を及ぼさぬ範囲で行うことに制限されています。

早川芦安連絡道路の工事予定地は、全て緩衝地域内に入っているのです。

環境保全を優先すべき場所において、行政が率先して残土処分場を見まごう大規模な盛土を行うことはおかしいのではないでしょうか? 

また、このような事業をJR東海との共同で行うことにも疑問があります。

山梨・静岡・長野3県の環境影響評価書において、JR東海は南アルプスユネスコエコパーク内における地上工事については全て移行地域内にとどめ。緩衝地域はトンネルで通過するとしています。だからどうしたとは明記していませんが、それによってユネスコエコパークの管理計画との整合性は保たれると主張しているのでしょう。また、長野県版評価書では、移行地域内(つまり大鹿村内)には発生度の最終処分場は設置しないとしています。

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長野県版の環境影響評価書より引用

しかし山梨県がリニアからの発生土を運び込もうとしているのは緩衝地域内です。しかも結構な規模の工事を緩衝地域内で行うことになるため、これはJR東海が示した環境保全の方針と矛盾します

したがってJR東海は評価書を変更せぬ限り、早川芦安連絡道路に協力はできないはずです。もしくは、県行政が評価書を否定することになる。
おかしいですよね?

どうしても道路を建設する必要があるのならば、
●位置を変更する
●大規模盛土ではなく橋梁にすべき
●JR東海の参加は不要

というように事業計画を変更すべきではないかと思うのであります。リニア残土を使用する必要はないでしょう。

リニア着工の前に中部横断道の発生土を何とかすべきでは?

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リニア計画の行方を左右するかもしれない中部横断自動車道の残土問題です。あまり詳しく調べているわけでもなく、また、工区ごとに建設主体が分割されているために、全体像がつかみにくくなっていますが、疑問に感じることを並べてみます。

ことし8月20日、静岡新聞に次のような記事が掲載されました。

イメージ 2

この中部横断道は、山梨県甲斐市の双葉ICから静岡県の清水港まで、富士川沿いの山間部を貫くため、多くのトンネルが設けられます。そのトンネル工事において、地盤が悪くて土砂崩落が相次ぐ、大量の湧水が発生するなど難航し、そのうえ建設発生土に基準値を超える有害物質が検出され、その処理に四苦八苦しているということです。

国土交通省甲府河川国道事務所の記者発表

産経新聞によると、掘り出した発生土の置き場確保にさえ苦慮しているとか

ところで、この有害物質については、すでに平成25年ごろから問題化していたようで、当時から対策を考案していたそうです。

一部を抜粋して貼り付けておきます。
イメージ 1
産経新聞記によると、今後も有害物質を含む発生土が生じるのは確実とみられるものの、その置き場の確保さえ決まっていないとのこと。3年前から対策に迫られていたのに未だ確保できていないのであれば、よっぽど場所の選定に苦慮しているに違いありません。

ところで中部横断道は、北から

増穂IC~六郷IC(9.3㎞)…中日本高速道路
六郷IC~富沢IC(28.3㎞)…国土交通省
富沢IC~新清水ジャンクション(21.9㎞)…中日本高速道路

と、建設主体が分割されています。ここに掲げられた「当該事業(全19本、総延長約15kmのトンネル)とは、国土交通省直轄区間だけを指しています。ここだけで380万立米の発生土が出るのですから、中日本高速道路担当区間も含めると、合計600万立米ぐらいに達するのでしょう。そのうち有害物質を含むのはどのぐらいになるのでしょうか・・・?

話が突然変わりますが、現在、GoogleEarthで甲府盆地の中部横断道建設現場付近を眺めると、あちこちに青いビニールシートの小山が見受けられます。今年5月に撮影されたものだそうです。
イメージ 3

ピンクの線で囲った部分です。おそらくこれが、有害物質を含む発生土なのでしょう。このあと、盛土に封じ込められるのを待っているのでしょうか。なんだか、えらく遠くまで運ばれていますが、置き場の確保に四苦八苦したであろうことがうかがえます。


衛星画像にはリニア中央新幹線の予定ルートも記入しておきました。

リニア中央新幹線の建設エリアは、中部横断道の建設エリアと重なります。そしてリニア建設にともない山梨県内に出される発生土は672万立米。行き先はほとんど決まっていません。

中部横断道から建設発生土の処分が確定していない、このタイミングでリニア着工に踏み切れば、いっときに1000万立米を上回る量が峡南地域に吐き出されることになります

中部横断道の場合、盛土区間にある程度の量の汚染土壌を閉じ込めたそうですが、リニア建設の場合、それこそ行き場がない!

ヤバくないですか・・・?

前回、前々回のブログで紹介した通り、山梨県からは早川芦安連絡道路建設や芦安温泉付近の駐車場造成に160万を使うという構想が出ていますが、それならば、先に着工した中部横断道からの発生土を使ったほうが合理的な気もします。

結局、リニア建設の大義名分って何なのさ? ~意義はあっても目的はない

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リニア沿線のあちこちで、JR東海の進めるリニア計画について、疑問や不満の声が高まっています。

象徴的なのが長野県大鹿村で、一方的な説明会をもとに「ご理解は頂いた」とJR側が勝手に判断、事業着手に迫ろうとしており、地方レベルではありますが、かなり批判の的になっているようです。

信濃毎日新聞10月5日社説
おなじく18日記事


迷惑をこうむる住民に対して「ご理解」していただくのなら、まずは事業者側が、その事業の必要性つまり大義名分を説明することが、議論の出発点になると思います…というか、そうしなきゃ道理が通らない。リニア中央新幹線の場合、そのあたりが非常に曖昧であるから、強い反発を招く要因になっているのでしょう。

そんなわけで、久しぶりに「リニアそもそも論」=リニア計画にはゴリ押しするだけの大義名分はあるのか?について考えてみようと思います。

◇   ◇   ◇   ◇   ◇ 

もう5年も前になりますが、国土交通省中央新幹線が平成23年5月12日に国土交通大臣に提出した答申が建設指示の根拠となったのでした。そこには次のように書かれています。

①三大都市圏を高速かつ安定的に結ぶ幹線鉄道路線の充実
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②三大都市圏以外の沿線地域に与える効果
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③東海道新幹線の輸送形態の転換と沿線都市群の再発展
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④三大都市圏を短時間で直結する意義
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⑤世界をリードする先進的鉄道技術の確立及び他の産業への波及効果
とあります。
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全文はこちら(PDFファイルで7.47MB)

ちょっと考えてみます。

①においては、東海地震等の災害リスクへの備えになるということをうたっています。これについては、このブログで何十回も繰り返したように、
・そもそも基本計画路線自体は東海地震説(いわゆる石橋説)や大規模地震対策特別措置法制定よりも先行して決定している。
・今となっては、東海地震は単独ではなく南海トラフ大地震と連動する可能性が大きいとされている。
・基本計画路線の中央新幹線は名古屋以西では東海道新幹線よりも南海トラフよりを通る。
・大地震発生時の南アルプスでの地殻変動をルート設定時に考慮していない。
・リニア完成前に大地震が発生する可能性を考慮していない。
など、迂回路としての
妥当性は疑問だらけです。

また、東海道新幹線大改修との関連についても述べていますが、大改修は既にリニア着工に先駆けて初めているため、今となっては根拠とは言えないでしょう。
(日本経済新聞平成25年1月29日記事)
JR東海、新幹線の大規模改修5年前倒し 工費3600億円圧縮

②では、沿線への効果をうたっているものの、それならば直線ルートにこだわる必要性は低いし、まして”停まれない”リニア方式はかえって不利になるでしょう。

③はよく分かりませんが、静岡県知事とのやり取りを見る限り、東海道新幹線の利便性向上はたいして期待できないでしょう。リニア開業後にも「のぞみ」が存続し、それが静岡などにも停車するとは考えられません(山陽新幹線直通列車を温存したらリニアへのシフトは進まなくなる)。
(静岡新聞 平成28年9月28日記事)
リニア「メリットない」 川勝知事、新幹線新駅を引き合い?

④では、移動時間の短縮により三大都市圏がより密接に結びついて巨大都市を形成することが「効果」としています。しかし「人的交流を活発化」させること、言い換えれば移動需要の喚起が目的であるのなら、何も巨額の資金を使わって時間短縮を図らずとも、そのぶん東海道新幹線の料金を下げるということも一手法として考えるべきだと思います。目的に対し、なぜリニアが手段になるのか説明されていません。

⑤は個人の考え方次第でしょう。何より冒頭に示したように、多大な迷惑を被る住民が確実に出現し、自然破壊も確実に生じる事業を手放しで称賛できるはずがない。多大な犠牲を黙認できるのだとしたら、それは感覚がマヒしているのだと思います。

というように、国家プロジェクト整備の根拠としては、ツッコミどころの多い内容となっています。

ところで答申をよく見ると、見出しは「意義」であって「目的」とはしていないのです。

「意義」と「目的」

似たようで違うふたつの言葉。手元の国語辞典では次のように説明されています。

『三省堂 新明解国語辞典』
意義
そのものでなければ果たす(担う)ことの出来ないという意味での、存在理由。
目的
行動する目標として考えられた、そうしたい何事か。

『学研 現代新国語辞典』
意義
(ある行為そのものがもっている)ねうち。価値。
目的
なしとげたい、または得たいとして、それを目ざして行動するように設定しためあて。
 

答申を作成した国交省担当者(?)は、答申において「目的」ではなく「意義」という言葉を選びました。つまり何かの目的を達成するためにリニアを建設するのではなく、リニアを建設するとこのような価値がある、という理由で整備計画を決定したことになります。 

言葉遊びのようなことですが、非常に重要なことであると思います。

◇   ◇   ◇   ◇   ◇ 

例えば、ある川において洪水被害が頻繁に発生し、住民から被害を軽減するよう望む声が行政に寄せられているとします。そして何かしら対策をとるのであれば、
●ダムを建設して流量を調整する。
●遊水地建設によりいっときに川に流れ込まないようにする。
●放水路建設により河川水を分ける。
●河道を掘削して断面積を大きくし、より大きな流量に対応させる。
●堤防をかさ上げして断面積を大きくし、より大きな流量に対応させる。
●浸透性の舗装を普及させる
●森林整備
●ハザードマップを配布し、住民に洪水リスクを周知させる
●避難体制を整備

思いつくまま並べましたが、いろいろな対策が考えられる中から、対象となる河川の規模、地形、想定雨量、流域の土地利用、財政、被害想定など自然や社会条件に合わせて必要な手法を選び出し、実行に移すのが普通だと思います。

この場合、「洪水被害を軽減する」という目的を達成するために、例えば「ダムを建設する」などといった手段が選ばれることになります。目的があって手段が選ばれるわけです。下流域での洪水被害を軽減するために、場合によっては上流集落に対して立ち退きを無理やりにお願いすることがあるかもしれません。洪水による人的・物的被害の解消という目的に納得してもらって、はじめて立ち退きが成立することになるといえるでしょう。

◇   ◇   ◇   ◇   ◇ 

ところがリニア計画は違います。

改めて答申を眺めると・・・

2.中央新幹線整備の意義について
①三大都市圏を高速かつ安定的に結ぶ幹線鉄道路線の充実
②三大都市圏以外の沿線地域に与える効果
③東海道新幹線の輸送形態の転換と沿線都市群の再発展
④三大都市圏を短時間で直結する異議
⑤世界をリードする先進的鉄道技術の確立及び他の産業への波及効果

「意義」という言葉が用いられている以上、これらはあくまでリニア新幹線に期待できる(かもしれない)価値であって、「目的」ではない。その価値を認めることができない限り、不都合をこうむってまで事業に賛同することはできないでしょう。そして目的が不明確であるがゆえに、実現しなくても困ることはないことになります。
(実際、説明会で「リニア中央新幹線が実現しないとわが社は立ち行かなくなるのです」という話は聞いたことが無い。

ゆえに、住民の感情や沿線の環境を犠牲にしてまで事業を強行するだけの大義名分はリニア計画には存在しないと思うし、この計画に異議を唱える人をあからさまに批判するのは見当違いだと思うのであります。


(注)諏訪湖ルートは技術的問題で出てきたのを既成同盟会が拡大解釈しただけ)

トランス・サイエンス問題 「ご理解ください」は科学・技術コミュニケーションの欠如モデル

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まるで幕末のペリーによる砲艦外交のような感じで、南アルプス横断トンネルの長野県大鹿村側での工事許容となる、来月1日に”起工式”をおこなう予定だそうです。

JR東海や大鹿村行政は、村民の理解が深まったとしています、

◇   ◇   ◇   ◇   ◇ 


突然ですが、捕鯨論争とよばれるものを頭に浮かべてみてください。


国際会議の場などでは、個体数や体長など、一見すると科学的な論争をしています。けれどもその実、捕鯨に反対する側の主張は「クジラはヒトと同じように賢く社会性を持つ動物だ。捕って食べてしまうなんてザンコク極まりない!」というところにあるのだから、捕鯨を再開したい日本などがいくら科学的なデータを出そうとも、「感情VS科学」のような構図になるのだから、最初から話がかみ合うはずがありません。

もっとも捕鯨を再開したい日本人の側だって「クジラを捕るなという欧米人だって、昔はさんざん捕っていただろう。それに牛や豚はもとよりカンガルーなんぞ食べてしまうのはザンコクではないのか?」という感情がどこかにあるに違いない。すると捕鯨論争は、一見、科学的論争に見えながら、実際には動物愛護精神、歴史観といった感情を抜きにして考えることは不可能ではないかと思うのであります。


つまり、捕鯨論争は科学的に問うことはできても、科学的判断だけでは答えが出せない問題であるといえます。科学・技術と社会との接点で生じるこうした問題について、1972年に米国の核物理学者であるワインバーグ(Weinberg)という人物は、「トランス・サイエンス」と名付けました。


元来、別々の概念であった科学と技術が結びつき、社会に強い影響を及ぼすようになってから、トランス・サイエンスの問題は増える一方にあります。食の安全、医療・福祉、ネット上の諸問題、公害、自然破壊、資源管理、疑似科学など、考え出したらキリがありません。


原子力発電所の問題などは典型例でしょう。例えば使用済み核燃料の処分について、その適切な処分地や処分・管理方法を科学的に判断することは可能かもしれないけれども、現世代のツケを将来世代(数万年というのは未来永劫に等しい)に回すという宿命の是非は、科学ではなく倫理を伴わなければ判断することはできないと思います。
◇   ◇   ◇   ◇   ◇ 


ところで、科学・技術の専門家と、専門知識を持たぬ社会とが意思疎通を図ることを科学技術コミュニケーションとよびます。



この科学技術コミュニケーションは、かつては「一般人は正確な科学・技術の知識が欠如した状況にある。だから正しい知識を注入すれば、科学・技術への不安、懸念、心配、反対などは一掃できる。」という考え方が主流であったそうです。行ってみれば、「ご理解ください・ご安心ください」のモデルです。「説明会をしました。ご理解いただけました」というわけで、お役所などとしては実に都合のよい論理であります。


ところが次第に、従来型の「ご理解ください」では一般市民の「ご理解」がいただけなくなる事態が顕著になってきます。特に


・未知のリスク
・専門家に対する不信感が強い場合
・その科学・技術がもつ社会的背景への疑問が強いとき


には、「ご理解ください」は、全く無意味であることが明らかになってきたのです(一般人の感覚としては当前だと思うのだけど)。このため従来型の「ご理解ください」というタイプについて、英国の科学評論家ブライアン・ウィンは「科学・技術コミュニケーションの欠如モデル」という名称が与えられました。


欠如モデルが社会的に広く認知されることなった背景には、1990年代の英国における遺伝子組み換え作物導入をめぐる論争と、BSE問題があるそうです。


《遺伝子組み換え作物導入をめぐる論争》
市民が導入に懸念を示すのは安全性への懸念にあるとして、科学者および政府としては、単純に遺伝子組み換え作物の安全性を主張してればよいとタカをくくっていたようです。ところが、反対運動の根底には、伝統的農業の放棄への拒絶と、英国農業が米国の巨大企業に飲み込まれることへの懸念があったのだから、「安全です」は、逆に導入への天秤棒を担ぐようなものとみなされ、火に油を注ぐようなものになってしまった。


《後者の場合》
1980年代後半より、牛の脳がスポンジ状になり、やがて死んでしまう牛海綿状脳症(BSE)が相次ぐ。知見の少ない病気であったこと(専門家会議発足時には原因も特定されていなかった)から科学者側にも意見が分かれていたのであるが、専門家委員会は「人には伝染しません」と宣言してしまった。ところが1993年に人への感染が明らかになったため、政府・専門家への信頼は地に落ちることとなった。


このような騒動を経て、2000年に英国議会上院の科学・技術特別委員会は「科学と社会」という報告書を提出します。非常に大部な報告書だということですが、要点は次のようなものだそうです。


まず、英国における科学と社会の関係についての現状を
●科学と社会の関係は危機にある。
●科学・技術の専門家の助言によって政策を進める構図は不信をかっている。
●科学・技術の急速な発展に不安を感じる人が多い。
●科学・技術に関する問題だとして政策担当者が対応した問題は、実は科学・技術以外の面が大きい。


としています。つまり、人々の科学・技術に対する態度は、多様な価値観を伴ったものであると認識したうえで、こうした価値観を政策決定に反映させてゆくことが重要であるとしています。


そして、
英国社会は既存の制度や手続きを広く一般市民に開いてゆき、多様な人々の見解が反映されるように変わらなければならない。なぜなら、科学は現代の民主主義体制の中にありながら、一般市民の感覚や価値観を無視するという危険を冒しているからである。これは改められるべきである。そして大学や研究機関も、一般市民との対話を新たに付け加わった「雑用」のように考えるのではなく、自らの研究義務の不可欠な任務と考えるような文化を構築しなければならない。


と結んでいます。一方通行の「欠如モデル」から双方向型の「対話モデル」への変革を促しているのです。

この報告書の影響力は大きく、世界各国で科学・技術コミュニケーションを見直すなどの波紋を広げています。日本でも、例えば遺伝子組み換え作物の導入については、専門家に多くの一般市民を加えた会議の場を設け、政策決定に関与させるという試みがなされています。


(北海道庁 遺伝子組み換え作物導入に関するコンセンサス会議)

(文部科学省の対応)


このほか、詳細を把握しているわけではありませんが、医療、情報化社会などの分野においてでも同様な試みがなされているようです。
残念ながら、こうした事例はごく限られているのが現状であって、大方の場合は官僚主催の専門家会議に終始していますが、とりあえずは社会への影響を見据えてガイドライン等の作成を模索しているようです。最近で言えば、人工知能、自動運転自動車、ドローン、防災に関する情報等々。ポケモンGOはどうだっけかな…? 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇ 


ここでリニア中央新幹線計画に目を転じます。


これまで実験線で走行実験を繰り返すだけであったものを、実際に世の中に現出させて営業運転させようという計画です。そこには超電導磁気浮上技術による時速500キロ運転、南アルプスの長大トンネル、大深度地下トンネル、磁界防御の必要性、ばく大なエネルギー消費など、前例が乏しいか全くない、つまり知見に乏しい科学・技術的要素が多く含まれます。その意義として”人口7000万人のスーパー・メガリージョンの実現”が掲げられる一方、事業に伴う利害地域が全く一致しないなど、影響は技術者や事業者(JR東海)の手の届く範囲を超え、社会に広く及びます。まさに典型的なトランス・サイエンスの問題が目一杯詰め込まれています。


かたや、そのリニア中央新幹線に直接対峙せねばらなぬ人々が持つ「技術を担当する側」への不信感は非常に強く、「未知のリスク」は多大であり、「事業を進める必然性」については説明されぬままです。

要するに、形式上は、環境保全や安全性など科学・技術の問題が問われているわけですが、疑問を持つ側のホンネとしては、「そもそもなんでこんな訳のわからぬ迷惑事業を引き受けねばならんのか?」というところにあるわけです。しかしこうしたタイプの疑問・不信感に対するJR東海の姿勢は「ご理解ください」をひたすら繰り返すにとどまっています。これはブライアン・ウィンのいう「科学・技術コミュニケーションの欠如モデル」の典型例といえるでしょう。


この種の問題について打開したければ、双方向のコミュニケーションをとらねばらない。


それにもかかわらず、一方通行の説明会、質問数制限(3つまで)のうえ再質問禁止、住民理解の浸透度合いは事業者自らが判断、といったコミュニケーションのあり方は、遺伝子組み換え食品やBSE問題に揺れた英国科学・技術界における失敗例の上を行く、”大失敗モデル”といえます。


そればかりか、「前人未踏の技術で社会に大変革をもたらす」ようなことをうたいながら、リニア計画が社会に与える影響―当然ゼニ勘定だけでなくデメリットも―を事業者、開発担当者、政府ともども、ほとんどマトモに検討していません。これでは社会や環境に対する影響の大きさを理解しているとも言い難い

◇   ◇   ◇   ◇   ◇ 


リニア計画を推進する各担当者は、自らの進める事業は「科学・技術的な問題ではあるが、問われているのは科学・技術にとどまらない」ことをよくよく考える必要があると指摘して、締めくくります。



【参考文献】
小林傳司(2007) 『トランス・サイエンスの時代―科学技術と社会をつなぐ』 NTT出版
池内了(2012) 『科学の限界』  ちくま新書

残土搬出先が決まってないのにトンネル工事を開始した?

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引続き科学・技術を社会との”きしみ”―トランス・サイエンス問題―という観点より、リニア計画を考えてみようと思っていましたが、急に妙なニュースが入ってきたのでまた次の機会にします。

なおJR東海への財政投融資を目的として独立行政法人、鉄道建設・運輸施設整備支援機構法を改正するための国会審議が行われましたが、当ブログ作者はドシロウト故に言及は避けます。そちらの問題についてはジャーナリストの樫田氏のブログをご覧ください。

「リニア、残念だった衆議院国土交通委員会。誰もリニア問題の本質を知らないままで可決された」



さてブログ作者が気になったのは、山梨県早川町において南アルプスでのトンネル工事が始まったというニュースです。

facebookに投稿されたNHKニュースよりコピー
11年後に東京・名古屋間の開業を目指して建設が進められているリニア中央新幹線で、難所とされる南アルプスを貫くトンネルの掘削工事が早川町で始まりました。
掘削工事が始まったのは、南アルプスを貫くトンネルの山梨県側で、JR東海は去年12月から資材置き場の整備など掘削に向けた準備を進めてきました。

 JR東海によりますと、掘削工事は27日から始まり、まずはリニア中央新幹線の車両が通るトンネル本体を掘るための作業用のトンネルの掘削が行われているということです。

この作業は、当初、ことし3月ごろから始まる予定で、半年以上ずれ込んでいるということです。

掘削工事がずれ込んだことについてJR東海は「工事で発生した土砂を運ぶベルトコンベヤーの設置など準備を進める一方工事用の車両の通行に必要な協議を道路管理者と進めてきたため」としています。

 一方、ことし秋ごろに始まる予定だったトンネル本線の掘削工事は、来年度以降にずれ込む見通しで、JR東海は「全体の工期には影響はないと考えている。引き続き安全などを重視し、計画を着実に進めていきたい」としています。

引用終わり

南アルプス横断トンネル・先進坑に付属する作業用トンネルとしては、早川町には2つの斜坑(非常口)と工事用道路トンネルが掘られる計画です。NHKではどこのトンネルを掘るか報じていませんが、山梨日日新聞の記事によると「掘削を始めたのは長さ2.5㎞の作業用トンネルで…」とされているから、図2で赤く囲った、新倉地区の非常口に該当します。
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図1 南アルプスのトンネル計画 

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図2 早川町内のリニア関連工事計画
評価書より複製・加筆  
右下の「発生土置場」の盛土容量は3万立方メートル 

真っ先に浮かんだ疑問は、
発生土置場が確定していないのに、掘った残土はどこに運ぶんだ?

という点です。トンネル工事を開始する前には発生土置場に対する環境保全措置を公表する公約がありますが、今まで山梨工区に対応した発生置場として示された地点は、図2の塩島地区だけです。ここの容量は評価書では4.1万立米としていましたが、平成27年12月に公表された環境保全方針によると、そこでの受け入れ可能量は3万立米ということです。

今回の工事に伴う発生土量を見積もってみます。

なお報道では「工事開始」としていますが、実はこの斜坑の位置には、既に2008年ごろ試掘と称して小断面のトンネルが掘られています。ですので「掘削工事」というよりも「拡幅する」としたほうが実態にあっていると思われます。
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図3 試掘坑のようす
JR東海資料より複製・加筆  

斜坑の断面積を、静岡県での審議資料より68㎡とします。またJR東海資料の写真などから、試掘坑の規模は大雑把に幅4~5m×高さ5~6m程度とみなせることから、掘り終えた断面積を25㎡とみなします。

68㎡より、掘り終えた分を差し引いて43㎡とします。

掘り出した土は、実際の掘削容積よりも容積が増しますが、この変化率を1.5とします(JR東海が静岡版評価書で使用)。

すると、このほどの斜坑拡幅で生じるであろう発生土量は16万立米程度と見込まれます。

43㎡×2500m×1.5≒160000㎥

しかし繰り返しますが、早川町内で確定している発生土置場は、上図右下に示された塩島地区一カ所の3万立米だけです。発生土置場が塩島だけであるなら500m分しか拡幅できないでしょう

おかしい。

早川町内の発生土については、別事業の早川芦安連絡道路の盛土に転用するという計画がありますが、こちらは計画自体が具体化していません。

現時点では、3万立米以上を掘り出してはいけないはずなのです。

近いうちに新たな発生土置場を確保するメドがついたのでしょうか?
それとも途中まで掘って作業を休止するのでしょうか?
取材していて誰も気にならなかったのかなあ?



このブログ記事を掲載した直後、産経新聞の写真付き記事が配信されているのに気づきました。その記事では、「町内での発生土置場は2%しかきまっていない」と書いてありました。財政投融資のタイミングを考えると、「工事は順調に進んでいますよ」というパフォーマンスにしか思えないのであります。

残土処分先は0.6%しか決まってないのに南アルプス掘削開始? ついでに残土処分リンク集

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本日、長野県側の大鹿村において、リニアの南アルプス横断トンネルの起工式が行われました。住民の合意が全く進まないままの起工式ということになったようです。

今回の大鹿村における起工式は、先週末に山梨県早川町にて報道陣向けに行われたズリ搬出と同じく、財政投融資実現のための独立行政法人法改正のためにパフォーマンス的な要素が強いのではないかと思います。

現時点で残土の処分先がほとんど決まっていないのだからトンネルは掘れない!

南アルプストンネルから早川町と大鹿村に掘り出される発生土は合計457万立方メートル。それに対し、現時点で確定しているのは早川町塩島の3万立方メートルだけ。

全体の0.6%にしかなりません。 

さて、その大鹿村において、残土についての学習会が催されたそうです。その模様はこちらに詳しく描かれています。
http://shuzaikoara.blog39.fc2.com/blog-entry-515.html


残土の処分先が決まっていないのに穴を掘ろうという不思議な計画。というわけで、私なりに発生土の取り扱いに関するリンク集を作成してみました。

●基本事項
資源の有効な利用の促進に関する法律 
・建設発生土は同法施行令第2条において、「建設副産物」と定義されている。よって廃棄物(ゴミ)ではない。⇒建設副産物の解説
・同法に基づき、国土交通省などはマニュアルを作成している。リニアの建設発生土を他の事業に用いる場合は、このマニュアルに従うことになる。

●環境影響評価書への国土交通大臣意見で回避すべきとされた場所(大意)
・土石流の起こるような急勾配の河川流域
・地すべりの上(下なら地すべり防止に有効とされる)
・急斜面の上
・希少な動植物の分布域
・生態系保全上、重要な場所
・景観保全上、重要な場所
・人々の憩いの場
⇒特に問題のある地点については、各自治体ごとに条例や指針などにより開発規制がなされていると思います。

●建設発生土の概念 
処理業者による分かりやすい解説

●建設発生土および建設汚泥の再利用基準
国土交通省ホームページhttp://www.mlit.go.jp/tec/hasseido.html
・発生土は水分含有量、性状、強度等により、第1種~第4種建設発生土および泥土の5段階に区分される。第1、第2種建設発生土は建設資材として有効利用されるが、第3、第4種では利用に制約があり、泥土になるとほとんど使い道がないらしい。


●盛土、谷の埋立などを行う際の開発許可に関わる主な法律・制度 
河川法
・河川法適用河川を埋め立てるような場合、以下の許可が必要となる。
 第24条(土地の占用の許可) ⇒河川区域を埋め立てる場合
 第26条(工作物の新築等の許可)⇒盛土の擁壁、土留工、砂防ダム等を河川に設置する場合
 第27条(
土地の掘削等の許可)⇒河川区域に盛土を行う際の許可基準

森林法 
・林地開発許可制度(第10条の2)
http://www.rinya.maff.go.jp/j/tisan/tisan/con_4.html 
⇒森林法第5条の規定に基づき都道府県知事が定めた地域森林計画の対象民有林にて、1ヘクタール以上の開発行為を行うための許可手続きを定めたもの。
・保安林制度(第25条、第30条)
 水源の涵養、土砂の崩壊その他の災害の防備、生活環境の保全・形成等、特定の公益目的のために、農林水産大臣又は都道府県知事によって指定される森林。開発には許可が必要。

農地法 
・農地転用許可制度 
農地を農業以外の用途に転用する際の手続き

土壌汚染対策法
 工場跡地等、汚染の確認された地域の土壌についての取り扱いを定めた法律。建設発生土に基準値以上の自然由来重金属等が検出された場合についても、人為的汚染土壌と同様に取り扱うべきとされる。
以下はどちらも環境省の解説ページへリンク
(詳細解説)http://www.env.go.jp/water/dojo/pamph_law-scheme/
(簡易パンフレット)http://www.env.go.jp/water/dojo/gl-man.html

●海岸を埋め立てる場合 
公有水面埋立法を中心に、海岸法、河川法(河口部の場合)、土地開発法、都市計画法などが複雑に絡んでくるらしい。ブログ作者の理解の範囲を超えています。


●リニア沿線および周辺自治体の盛土・土地の埋立等に関する条例 
東京都

 
町田市 土砂等による埋立て等の規制に関する条例  (面積500㎡以上/高さ1m以上を対象)
 
八王子市 土砂等による土地の埋立て等の規制に関する条例  (面積500㎡以上/高さ1m以上を対象)



 神奈川県下19の市・町で条例制定相模原市、平塚市、藤沢市、小田原市、秦野市、厚木市、伊勢原市、海老名氏、座間市、南足柄市、綾瀬市、葉山町、大磯町、中井町、大井町、松田町、山北町、愛川町、茅ヶ崎市)
うち、リニア沿線では相模原市 土砂等の埋立て等の規制に関する条例がある。 (面積500㎡以上/高さ1m以上かつ5000㎥以上を対象)


静岡県土採取等規制条例 (「採取等」には盛土・埋立が含まれる。面積1000㎡以上かつ盛土量2000㎥以上)

 富士宮市土砂等による土地の埋立て等の規制に関する条例 (面積500㎡以上/埋立量500㎥以上)

 富士市土砂等による土地の埋立て等の規制に関する条例 (面積500㎡以上/埋立量500㎥以上)

岐阜県埋立て等の規制に関する条例 (面積3000㎡以上)


愛知県
 春日井市土砂等の埋立て等に関する条例

 犬山市埋め立て等による地下水の汚染の防止に関する条例

そのほか、残土処分に関わる主な条例
川崎市環境影響評価条例
静岡市環境影響評価条例(残土処分場:50000㎡以上)

早川芦安連絡道路~盛土材料は大量にあるのにリニア残土がさらに必要?

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本日(11/8)になって急激に当ブログを訪問される方が増えました。福岡で地下鉄工事が原因の大規模陥没事故が起きておりますが、この事故からリニア計画を連想された方が多いことを実感しました。

ブログ作者は技術的なことはさっぱり分かりませんが、気になったことを書きます。

リニアのトンネルのうち、首都圏と名古屋市付近の区間は「大深度地下の公共的使用に関する特別措置法」を適用して建設されます。

これは
①地下室の建設のための利用が通常行われない深さ(地下40m以深)
②建築物の基礎の設置のための利用が通常行われない深さ(支持地盤上面から10m以深)
の、どちらか深い方の深さよりも下部になる位置を対象とし、通常は事前の補償が必要となるものを免除して、公共的な地下利用を認めるというものです。法律の定義なので回りくどくてすみません。
(国土交通省HP)

というわけで、地上の土地所有者に補償を払うことなくトンネルを掘ることが可能になります。そのため地下鉄のように道路の下をたどるのではなく、ビルや住宅地の真下にルートが設定されています。

下図は愛知県名古屋市の名古屋城公園付近で、昨日(7日)に起工式の行われた「非常口」にあたります。

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愛知県版 環境影響評価書 関連図より複製 

分かりづらいですが、このトンネルは高層ビル、高校、病院、小学校といった大型の建造物をはじめ、中小のビルや家屋の下を通ります。万一、陥没事故が起き場合、道路下に掘られる地下鉄と異なり、頭上の建造物を巻き込んでしまうことが避けられないでしょう。

ちなみに、ここに掘られる非常口とは、直径40m、深さ90mという巨大な穴です。


以下が本題です

こちらは山梨県南部のGoogleEarthの画像です。身延町付近になります。

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身延町北部 早川沿いに積まれた中部横断道からの建設発生土
GoogleEarthより複製・加筆  

画面中央の広い河原は早川です。右手で富士川に合流します。その早川河川敷に、だだっ広い造成地が確認できます。

ここをストリートビュー画像(2014年8月撮影)に切り替えると、道路際に看板が立っているのが分かります。各自ご確認いただきたいのですが、その看板には

「中部横断自動車道の建設発生土を搬入する工事を行っています 平成27年3月10日まで」 
とあります。

しかし今でも搬入作業を継続しているようです。国土地理院の地形図閲覧サービスで面積測定を行うと、おおよそ2万5000㎡になります。盛土の厚さは最大で15mくらいありそうなので、容量は30万立米以上になると思われます

一方こちらは、JR東海がリニア工事からの建設発生土を置く予定の早川町塩島地区の航空写真です。黄色い線で囲った部分になります。
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そこには既に、南アルプスの地質調査と称して小断面トンネルを掘った際の残土が積まれています(2008年頃)。盛土面積は約3000㎡であり、盛土厚さは2~3m程度とみられるので、1万立米弱の容量とみられます。今後本体工事の際には、この既存盛土の上に発生土を3万立米程度を重ねる計画です。早川町内に出される発生土の1%弱となります。

また、その南側には大小の盛土の小山が並んでいます。これも中部横断道からの発生土であり、面積は南側8500㎡、北側4500㎡ぐらいあります。それぞれ厚さは7~8mはありそうなので、容量は合わせて10万立米ぐらいとみられます。

◇   ◇   ◇   ◇   ◇ 

このブログで何度か取り上げていますが、早川町北端から甲府盆地側とをつなぐ早川芦安連絡道路構想というものがあります。山梨県による事業で、事業費は100億円とされています。2014年(平成26年)に事業決定しています。

早川町は山間地で地形が険しく、土砂崩れなどで頻繁に道路が寸断されます。これを解消するためにトンネルが必要というのが地元の悲願とされており、これを解消するのが早川芦安連絡道路であると説明されています。この事業目的について、ブログ主がとやかく言うつもりは全くございません。

ただ疑問なのが、この道路を実現するには「リニア・南アルプストンネルからの建設発生土を使うことによりコスト削減が可能」という説明です。

山梨県が平成26年に公表した説明です。
これは何だかおかしいのでは?

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早川芦安連絡道路事業化とリニア中央新幹線整備事業との関係  
出典

地元住民のために早期実現する必要があるのなら、なぜ早川沿いに点々と積んでいる中部横断道の残土を有効利用する計画とならなかったのでしょうか? 順番からみても、リニアより先に出てきた方を先に処分しないと、着工したくとも先に進むことができないのでは?

もしかしたら、中部横断道の残土だけでは足りないとか、建設条件に合わないと説明されるかもしれませんが、それならば早川町内にある雨畑ダムや西山ダムにたまった土砂(堆砂)を併用することはできなかったのでしょうか?

ここに、八ッ場ダム問題に取り組む”八ッ場あしたの会”が国土交通省から情報公開請求によって入手した、平成24年時点での全国の主なダムの堆砂状況が示されています。
http://yamba-net.org/%E5%85%A8%E5%9B%BD%E3%83%80%E3%83%A0%E3%81%AE%E5%A0%86%E7%A0%82%E3%83%87%E3%83%BC%E3%82%BF%E3%81%AE%E6%9C%80%E6%96%B0%E7%89%88/

これによると雨畑ダムは総貯水量1365万立米に対し、堆砂量は1275万立米。実に93%!
西山ダムの状況も、総貯水量240万立米に対し、堆砂量は216万立米。これだけで早川芦安連絡道路の盛土には十二分な量があります。

雨畑ダムは日本軽金属所有であり、セメント骨材として採取しているようなので公共事業に使うのは難しいかもしれませんが、西山ダムは山梨県営なので、融通が効くのでは? 流入土砂対策を事業化しているそうですし。


とまあ、早川流域には大量の建設発生土に加え、膨大な量のダム堆砂も存在するので、1㎞程度の盛土ごときに160万立米のリニア残土を”活用”しなければならぬ根拠が、いまいち分からないのであります

キチンと説明されているのでしょうか?

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早川町内にある盛土材料になりそうなもの
国土地理院ホームページより複製・加筆 

リニアでは陥没事故発生時の危機対応ってどうなっているんだろう?

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福岡市営地下鉄の掘削工事現場で大規模な陥没事故が起こりました。これを受けて考えたことです。

この地下鉄は道路の下に造られていました。そのため陥没が大規模になりながらも、不幸中の幸いながら、直接の被害は直上の道路(と周辺インフラ)だけで済み、また、陥没発生前に道路を通行止めにすることにより人的被害は免れることができました。

一般的に地下鉄は、地上の土地所有者への補償や交渉を避けるために、道路に沿ってルート設定される傾向にあります。ゆえに東京でもどこでも、地下鉄はグネグネ曲がっているわけです。

ところが大深度地下法によると、ルートは地上の土地利用と関係なく設定されてしまう傾向にあります。土地所有者への補償が免れるため、目的地への最短ルートでトンネルを掘ることが可能になるめです。リニア中央新幹線は、首都圏や名古屋市において大深度地下法を適用して建設されます。

例えばこちらは、7日に立坑起工式の行われた名古屋市の名古屋城付近です。
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愛知県版 環境影響評価書関連図より複製・加筆 

トンネルは道路と関係なく設定され、建物の密集地帯の地下を貫いています。トンネル頭上には図示した範囲だけでも、小学校、高校、大病院といった、大勢の人が集まる建造物を多数確認することができます。同じ図面の枠外では幼稚園や県営団地もみうけられました。

当然、神奈川県や東京都の大深度地下部でも同様の状況にあります。大都市の大深度地下トンネルだけでなく、岐阜県内や天竜川沿いの段丘など、山岳トンネルであっても土被りの小さな箇所では、同様の懸念があります。

万一、同じような事態がリニア建設で生じた場合は、地上の建物への影響が避けられないように思えます。中にいる人に対し、福岡の事故のように素早く退去を迫ることが可能なのでしょうか?

報道によると、福岡の陥没事故の場合、

地下で作業員が異常を感知⇒警察に通報⇒道路通行止め⇒通行止め後5分で陥没発生 
という経緯で人的被害を防いだようです。

リニアの場合、トンネル頭上に住んでいる人々への連絡などできるのでしょうか?

病院とか団地の場合、異常感知⇒警察⇒警察官派遣⇒避難呼びかけ なんてことをやっていて間に合うのでしょうか?

「今日はあなたのお宅の真下を掘ります。万一に備えて貴重品をそろえ、携帯電話の電源をONにしておいてください」などと連絡があるのでしょうか?


そんなことを考えたのでした。


リニアルート真上となってしまった方々は、そのあたりの危機対応について、JR東海に確認しておいた方がよろしいかと思うのであります。

●リニアの詳細なトンネルルートについては、JR東海の「環境影響評価書 関連図」で確認できます。
http://company.jr-central.co.jp/chuoshinkansen/assessment/document1408/index.html

活発に隆起している山脈を横切るトンネルなんて維持できるのかな?

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「世界でも最大級の隆起速度」という触れ込みで、かつては国内の世界自然遺産登録候補にもあがった南アルプス。

その活発な隆起の場に、長大トンネルを掘るのがリニア中央新幹線計画です。

ホントに大丈夫なのか?

最近、財政投融資のために法律改正したとか何とかというニュースがありましたが、そもそも、

活発に隆起している山にトンネルを掘って維持管理することが可能なのか? 

という根本的なことが全く議論されていないのであります。財政投融資を行うってことは、リニア計画は公的な目的を帯びているということなのでしょう。平成26年に国土強靭化計画で明らかにされた通り、「南海トラフ大地震対策」にするのが、その目的であるはずです。

質疑に当たった国会議員のセンセイ方は、南アルプスの隆起速度と南海トラフ地震発生時における地殻変動との関係について勉強されておられるのでしょうか?

なお、少々地球科学にまつわる内容となるため、以下では南アルプスのことを赤石山脈とします。

●短期的に見れば揺らぎがあるが長期的には日本最大級の隆起速度 
国の事業として水準測量というものがあります。これは、都内に設置された基準(水準原点)を基に、全国の主要道路沿いに設置された水準点の高さを求めてゆくものです。約10年間隔で実施され、すでに100年以上のデータの蓄積があり、土木工事だけでなく地殻変動などを知るための重要な基礎知識にもなっています。
(国土地理院の解説)
http://www.gsi.go.jp/sokuchikijun/suijun-survey.html

1970年代に、過去70年にわたって蓄積されたデータが整理された結果、日本で最も隆起していたのは赤石山脈付近で、100年間に40㎝、年平均にして4㎜程度に達すると報告されました。全国で最も大きな値を示したことになります。
【引用】
檀原毅(1971)日本における最近70年間の総括的上下変動 測地学会誌 第3号 100-108ページ 

赤石山脈は北東-南西方向に延びていますが、この南西部を国道152号線が南北に横切っています。そこに点々と設置された水準点で顕著な隆起が検出されたのです。山脈を横切る部分全域で顕著な隆起が検出されていること、1990年代の測量成果によっても、やはり隆起は継続傾向にあることから、赤石山脈は定常的に隆起を続けているものと考えられるようです。
【引用】
鷺谷威・井上政明(2003)「測地測量データで見る中部日本の地殻変動」 月刊地球 25巻12号 919-928ページ

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【図の引用】
国土地理院測地部(2001)「水準測量データから求めた日本列島100年間の近く上下変動」 国土地理院時報96号 
※なおこの図は長期変動であるがゆえに、過去100年間に発生した地震や火山活動による局地的な変動も含まれているので留意していただきたい。
顕著な隆起域があるが、以下の地域は地震によるものである。
山形~秋田付近⇒1894年庄内地震、1891年陸羽地震、1914年仙北地震
房総半島南部⇒1923年関東地震
浜名湖~三河湾付近⇒1944年東南海地震と1945年三河地震
四国南部や紀伊半島南端⇒1946年南海地震

これら地震による隆起を除く恒常的な隆起域としては、赤石山脈の隆起量は日本最大なのである。なお、大都市部の沈降には地下水の過剰汲み上げによるものが多い。上記報告はウェブ上で公開されており、年次別の変動も閲覧可能である。

また、地質学的な手法によると、年間5~7㎜のペースで隆起している可能性が示されています。
【引用】
米倉ほか編(2001)「日本の地形1 総説」東京大学出版会 149頁より

いっぽう、近年になってGPSで土地の変動を常時観測する技術が確立しました。赤石山脈の周辺部にもGPS水準が点々と設置されましたが、興味深いことに、短期間の観測によると、必ずしも隆起一辺倒ではなく、むしろ沈降しているという結果が出され、(関係者の間では)話題になったようです。
【引用】村上亮・小沢慎三郎(2004)「GPS連続観測による日本列島上下地殻変動とその意義」 地震 第2輯 209-231ページ 

シロウトながら、このほかいくつかの文献を参考にまとめると、100年単位で見れば、赤石山脈は確実に顕著な隆起をしているが、短期的には隆起の様相には揺らぎがありそうだ、ということになります。

●隆起が止まっているとされた北アルプスで顕著な隆起を観測  
最も活発な隆起の検出されたのは国道152号線沿い(長野県飯田市の旧南信濃村)に置かれた「水準点5306」という地点ですが、これは谷底になります。ちなみに現在の標高は495.1m。

ところが南アルプスの稜線は3000mを越え、リニアがぶち抜くあたりには標高3141mの悪沢岳(荒川岳)という全国第6位の高峰もそびえています。ところが、この稜線付近には観測地点がありません。よって隆起速度を見積もることは甚だ困難なのです。

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”100年間に40㎝の隆起”の確認された水準点5306の位置および水準測量路線とリニア・南アルプストンネルとの位置関係。
地殻変動データの空白域とした範囲にも、いくつかGPS基準点が設置されている(井川、大鹿村)。けれども長期間のデータはまだない。
背景画像は国土地理院電子国土Webより引用

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南アルプストンネル付近における標高分布 
最高所は2500mを超え、伊那盆地や甲府盆地との比高は約2000mに及ぶ。 

谷底でさえ顕著な隆起が検出されているのだから、3000m級の稜線付近ではもっと活発な隆起を続けている可能性があるのかもしれません。これは、赤石山脈に限らず、全国の主要な山岳地域についていえることです。

例えば水準測量結果をもとにして、飛騨山脈(北アルプス)は、赤石山脈よりも速い時代に隆起が終了し、現在の隆起は緩慢であるとみる考え方が一般的であったようです。飛騨山脈の麓におけるGPS観測でも、むしろ沈降しているかのような傾向が示されていることから、この考え方は正しいらしいと考えられてきました。ところがり、それはあくまで谷間や麓のデータに基づく推測であって、直接に高山の隆起を測ったものではありません。

そこで、このような疑問に答えをだそうと、飛騨山脈の穂高連峰において、短期間ながらGPSに基づく観測(GNSS)を行われました。

その結果は驚くものでした。なんとこれまでの定説とは異なり、前穂高岳では年間5㎜という顕著な隆起が検出されたのです。さらに観測期間中に起きた東北地方太平洋地震に伴って8㎜程度の沈降も確認されました。
【引用】
西村卓也 国土地理院穂高岳測量班(2013)北アルプス穂高連峰の隆起に関する測地学的検証~一等三角点穂高岳でのCNSS観測~ 

つまり高い山は、麓よりもより隆起が活発であるために、高い山になったと言えるのかもしれないのです。赤石山脈でも同様に考えると、リニアのぶち抜く悪沢岳・小河内岳のような3000m級の高山地帯では、麓での「年間4㎜」よりもずっと活発な隆起をしている可能性が高いと思われます。


●南海トラフ大地震が発生したらどうなる? 
話がガラッと変わりますが、ブログ作者が最も気になるのはこの点です。

南アルプスを形成する岩石は付加体(ふかたい)とよばれ、フィリピン海プレートの表面にたまっていた堆積物が、プレート沈み込みの際、こそげとられるかのように陸側に付着したものです。南アルプスを隆起させる原動力は、フィリピン海プレートの沈み込みということになります。

かたや南海トラフ大地震は、日本列島を載せたプレートの下に、フィリピン海プレートが陸側プレートと固着しながら沈み込み、陸側プレートがひずみに耐えきれなくなって跳ね上がる際に発生すると説明されています。このとき、陸地は海岸側は隆起、内陸側が沈降するように傾くことになります。

ということは、南海トラフ大地震発生時には南アルプスは大幅に隆起するのでしょうか? 

1944年の昭和東南海地震では、浜松市付近の水準点で約20㎝の隆起が検出されましたが、それより北方の「水準点5306」では、急激な変動はしていません。これは震源域が遠州灘までにとどまったためだと思われます。

しかし1854年の安政東海地震では、震源域は駿河湾奥にまで及んだというのが通説であり、富士川河口では断層活動にともなう3mほどの隆起が起きたとされています。

このとき赤石山脈はどのような変動を起こしたのか、それは全く分かりません。

●JR東海の考え方がよく分からない 
JR東海は、「南アルプスの隆起速度は突出した値ではない」とし、トンネルの工事・維持管理に支障はないと結論付けています。



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南アルプスの隆起量に対するJR東海の見解
環境影響評価書の資料編より複製  

しかしこれまで見てきたように、JR東海の見解はおかしい。

赤石山脈の地殻変動についてシロウトなりに総括すると、

短期的には揺らぎがあるが、100年単位(トンネルの耐用年数)でみれば、顕著に隆起している。麓で検出された値は年間4㎜程度であることから、主稜線付近ではより活発な隆起活動の継続している可能性が高い。また、近い将来に起こる可能性が高い南海トラフ大地震の際、赤石山脈がどのような地殻変動を起こすのか全く不明である。

となります。つまり分からないことだらけということになり、大地震という未知のリスクも含まれます。ところがJR東海の見解は、ごく最近10年足らずのGPS観測のみに基づき、「他の地域に比べて突出した値ではない」と強引に結論付けているのです。山岳トンネルの場合、岩盤に一度トンネルを開けたら最後、それを永久に使い続けねばなりません。リニアの耐用年数は知りませんが、少なくとも100年単位で物事を考えるべきでしょう。そしてその間には、確実に南海トラフ大地震も発生するのだから、それも考慮せねばならぬはずです。

また、「周辺地域との間に隆起速度と同等の変位が累積するものではない」としもしていますが、これは誤りでしょう。赤石山脈の東には、標高300m以下の甲府盆地が広がりますが、ここは沈降しているがゆえに盆地となっているのです。それに穂高連峰の例にあるように、主稜線部分が特異的に隆起している可能性もあります。


ところで南アルプスのトンネル工事が極めて困難であろうことを主張すると、しばしば、スイスのゴッタルドベーストンネルが引き合いに出されます。「本場アルプスに50㎞超のトンネルを掘っているから大丈夫だろ」という具合です。

けれどもこれは、彼我の地殻変動の違いを無視した話だと思います。

・最も隆起の活発なスイスアルプス南部での値は年間約1㎜で、北にむかうほど小さくなる。
・St.Gotthardで40㎜/70年=0.57㎜/年
・北側坑口付近で20㎜/70年=0.3㎜/年
・南側坑口付近で50㎜/70年=0.7㎜/年
【引用】
大内俊二訳(1995)「現代地形学」 古今書院 81ページより
(原典)Richard J. Chorley,Stanley A.Schumm David E.Sugden(1984)「Geomorphology」
 

これに比べて南アルプスのリニアトンネルの場合
・約20㎞離れた地点で400㎜/100年=4㎜/年 

というように、値が一ケタ異なります。そして
「問題ない」と主張するわりには、スイスのような、ルート付近でのデータを持っていません(少なくとも公開していない)



地殻変動著しい日本列島の中でも、最も活発な隆起をしている山岳地域に長大トンネルを掘って地震対策にしようというのであれば、安全だといえる根拠を示すべきだと思うのであります。


南アルプストンネルは大地震時の地殻変動に耐えられるのか?

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前回の続きになります

赤石山脈(南アルプス)においては、東海地震/南海トラフ大地震を想定すると、隆起だけでなく水平方向の変動も気になるところです。

2011年3月11日の東北地方太平洋地震では、東北地方全体の幅が東西方向に広がったことが分かっています。地震前に比べると、日本海側沿岸は1m程度東に移動したのに対し、太平洋岸は東に3~4m(牡鹿半島では5m以上)移動したため、陸地が引き伸ばされたことになるわけです。

同様にプレート境界で起きたマグニチュード7.9の大正関東地震(関東大震災)でも、陸軍陸地測量部が行った三角点測量で、同様の地殻変動の起きたことが明らかにされています。相模湾沿岸や房総半島南部が(小田原市付近に対して)2~3m南東側に移動したのに対し、いっぽうで丹沢山地北部や房総半島中部の移動は1m程度であった。つまり大地震にともない、丹沢山地や房総半島南部が、北西-南東方向に1~2mのびたことになります。

当然、プレート境界での大地震である東海地震/南海トラフ大地震でも、同様な変動が予想されます。

1976年に発表された「東海地震説」の震源断層モデルによると、静岡県中部は南東方向に2~3m移動するとともに、赤石山脈中部では、東西方向の距離が1mぐらい伸びるような予想となっています。ただ、リニアのトンネル付近での変動についてはよく分かりません。
※40年経て、この断層モデルも見直され、震源域は当時よりも北側に広げられるように想定されるようになっています。また東海地震が単独で発生するというよりは、連動型の南海トラフ大地震として考えられることが多くなっています。なお、大正関東地震や想定東海地震による地殻変動については、石橋克彦(1994)「大地動乱の時代」(岩波新書)に詳しいので、参照にしていただきたい。 

いずれにせよ、赤石山脈を東西に貫くトンネルを想定している以上、東海地震/南海トラフ大地震の発生した際には、地殻変動によりトンネルが1m程度引き伸ばされるかもしれないのです。

加えて前回指摘したような、急激な隆起も起こりうる。



これは安倍川沿いにあった崖の写真です(静岡市葵区 竜西橋西岸)。
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写真1 安倍川沿いの露頭
縮尺の比較になるものが写っておらず申し訳ありません。右上の緑色のシダの葉が、長さ40~50㎝程度だと思います。 

地層がグニャグニャまがっています。強い力により捻じ曲げられたことが伺えます。
地質学の知識は中途半端なので間違っているかもしれませんが、たぶん頁岩か粘板岩だと思います。赤石山脈の東側を構成する瀬戸川層群といって、同じ地層は、リニアの通過する早川町内にも分布します。

下の写真2でお分かりいただけるかと思いますが、この種の岩は、板状にはがれやすいという性質があります。安倍川源流にある大谷崩れや早川町の七面山の大崩壊地(通称ナナイタガレ)のように大崩壊が起きるのも、この性質が一因ではないかといわれています。
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写真2 板状に剥がれ落ちているところ 




単にトンネルを掘るだけなら、時間とカネさえかけ続ければ、現代の技術なら大丈夫でしょう。しかし大地震による変動に耐えられるのでしょうか?

よく言われるように、地下構造物は揺れに強いとされています。ボルトやコンクリートで岩盤にガッチリ固定してあり、山と一体化しているからです。

しかし赤石山脈の場合、地震発生と同時にトンネルを掘った山自体が変形してしまう可能性が高い。つまりトンネルの壁を固定してある周囲の岩盤自体がズレたりゆがんでしまうのかもしれない。

そのとき、固定してある先が頑丈な岩盤ではなく、写真2のような隙間だらけの岩盤であったら、一緒に動いてしまうのでは・・・? そもそもコンクリート構造物が、山の伸び縮みに対応できるのでしょうか…?


トンネルの壁がグニョグニョ波打ったり、剥がれ落ちたり、岩ごと落下してしまったりすることはないのでしょうか?

全長286㎞にわたる巨大精密構造物が大地震発生時の迂回路になるのか?

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ここまで来た!超電導リニアモーターカー―もう夢ではない。時速500キロの超世界
(鉄道総合技術研究所監修)
という本に、以下のような記述がありました。

72ページより
 地上コイルのうち、車両の浮上力を支え、走行方向に葉案内する浮上・案内コイルの位置が狂うと乗り心地が低下するため、それを取り付けているガイドウェイ側壁部分は、線路方向に滑らかに連続していなければならない。すなわち、水平面の曲がり(蛇行)については、ガイドウェイ中心線を基準として側壁の設置精度を数㎜以下とし、上下方向の凹凸についても、やはり数㎜以下とすることが求められる。

 また、地上コイルがねじれないように、コイル取り付け面の凹凸を2㎜以下とすること(さらにスペーサーで1㎜以下に調整されること)や、地上コイルを取り付けるための埋込インサート(雌ネジ)相互の感覚の誤差を1㎜以下にすることなども求められる。走行路面の仕上がり高さの誤差もまた、数㎜以下の精度で滑らかに造ることが要求される。

 このようにガイドウェイの側壁部分や走行路部分は、在来の鉄道や高速道路等の通常のコンクリート構造物よりも、はるかに厳しい精度管理が要求される。現場施工を伴うコンクリート土木構造物で、このような厳しい精度が要求される例は他には見られないため、さまざまな工夫をこらした器具や作業方法を開発し、土木構造物としては驚異的ともいえる精密さを確保している。
 


この説明によれば、リニアを浮上・推進させるためのコイル位置は、ミリ単位で精度を確保しなければ安定走行はできないそうです。どのくらいまでのズレで、どの程度の衝撃が起き、走行不能に陥るのか、この記述だけでは分かりません。

この精度管理に関係する別の資料も見つけました。JR東海が発足20周年を記念して発行した社史東海旅客鉄道20年史」からの引用です。

148ページより
…山梨実験線は、上記運輸大臣通達(注)の暫定技術基準及び配慮すべき条件に適合するよう、全長42.8㎞、うち複線区間24㎞の規模で全体を計画した。このうち、インフラ構造物については、トンネルが全体の8割異常を占めることとなり、最長は御坂トンネル(仮称)で約14㎞の延長となる。明かり構造物は、高架橋及び橋りょうが大部分を占めるが、切取り区間も一部存在する。盛土構造については、超電導リニアの地上1次モーターと高速性に由来する厳しいガイドウェイ精度管理の面から採用しないこととした  

上記のような精密な設計にする必要があるため、盛土を採用することが難しいのだそうです。

全長286㎞にわたってミリ単位で維持しなければならぬ巨大構造物が、大地震発生時の迂回路になるのでしょうか? 

マグニチュード8を超える規模になると、数千平方キロメートル単位で地面が傾くような規模になるし、あちこちで地割れが生じたり、地すべりが起きたり、液状化が起きたりするかもしれない。当然、路線はある程度の対策を施して建設されるだろうけど、基礎ごと動くような場所ならばどうしようもないわけです。赤石山脈のトンネル部分はメートル単位の変動を起こすかもしれません。
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南海トラフ大地震想定震源域とリニアルート(緑点線)との位置関係
内閣府中央防災会議のホームページより複製・加筆 


ミリ単位での精度維持を求められる”巨大精密装置”に大勢の人命を預けるというのは、かなり無謀ではないかと思うのであります。乗客が無事であったとしても、早急な復旧が可能のようには思えません


道路だったら、幅10㎝の割れ目が生じたとしても、砂利を敷くなり鉄板を渡すなりして、すぐに通行可能となります。けれどもリニアはそういうわけにはいきません。

もちろん、レールの上を鉄輪で走行する新幹線とて、レールのゆがみ等が生じたら、どうなるかわかったものではありません。しかしリニア中央新幹線の場合、当初より「東海/南海トラフ大地震に備えて二重系統化」することが事業推進の意義とされているわけなので、地震発生時には無傷でなければならぬはずだと思うのです。

また、冒頭に記した「ここまで来た超電導リニアモーターカー」の本には、こんなことも書かれています。

229ページより
 大きな地震が発生した場合には、ガイドウェイが変形することも考えられる。しかし超電導リニアは浮上して走行し、かつ電磁気力で支えられているため、ガイドウェイの変形に強いと考えられる。宮崎実験線では、このような場合に走行車両へ影響を及ぼす可能性を調べるため、わざとガイドウェイを変形させて走行実験を行った。その実験では、車両がガイドウェイから外れたり転覆したりということはもちろんなく、多少の変形では走行に影響を及ぼさないことが確認できた。山梨実験線でも3~5両編成において同様の実験を行い、安全性の確認を行っている。また、高架橋の継目部では、常に、変形および変位量を計測し、地震発生時に備え監視を行う。 


「わざとガイドウェイを変形させて走行実験を行った」とあり、とりあえず一応、コイルが破損する状況は想定しているようです。ます。これはおそらく、国土交通省超電導磁気浮上式鉄道実用技術評価委員会に提出された次の資料にある実験のことだと思います。

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平成21年度 超電導磁気浮上式鉄道実用技術評価委員会 資料

浮上コイル1枚欠落までは浮上走行可能だったとしています。

「欠落」というのが、どういう状況を表現していたのか分かりません。きちんと取り外して除けておいたのか、それとも倒れこんだ状況にしてあったのかで、車体の受ける影響は大きく異なると思うのですが。。。

いずれにせよ、この書き方だと、2枚以上破損した状況を想定した実験はしていないということになります。3枚以上外れたら、”想定外”ってことなのでしょうか


本当にリニア中央新幹線が東海地震/南海トラフ地震対策として有効なのか、これら資料からは納得できないのであります。



なお、盛土構造を採用しないという記述には、超電導リニア計画が抱える本質的な問題点がみてとれます。

道路・鉄道等を建設する際には、建設発生土の発生量を抑えるように、切土・トンネル区間と盛土区間とのバランスを考えるのが基本です。地下鉄や放水路のように”掘るだけ”の事業の場合、埋め立て・築堤・造成など大量に発生土を使う別事業とセットになることが求められます。だからこうしあ事業は公共事業にならざるを得ない。

ところが超電導リニアの場合、超高速運転や用地取得回避のために、軌道を地下に埋めねばならず、必然的に大量の発生土が生じます。しかし地上区間でも盛土を使えないのであれば、事業内で発生土を使い切る見込みがほとんどない。いきおい、発生土処分は別事業に頼らざるを得なくなるわけです。


果たしてリニアは庶民的な乗り物か?

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「リニアで通勤・通学」
「名古屋から東京に通勤可能!」

とかなんとか言われていますが、これって、どこまで現実的なのでしょうか?

あれこれ言われている割には、具体的な料金についての資料は全く出てこないのであります。というわけで推測してみようと思います。

リニアの料金は、品川-名古屋で東海道新幹線の料金+700円くらいを見込んでいるという報道がかつてありました。
(日本経済新聞2013年9月18日)

これをもとに考えてみます。なお、建設費が高騰して料金がベラボウに高くならないという前提です。

現在の”のぞみ”の場合、品川-名古屋間で運賃6260円、指定席特急料金4830円、合わせて11090円となっています。

というわけで品川-名古屋でのリニアの料金は11790円と見積もりします。

リニア中央新幹線の品川-名古屋間は286㎞です。これをJRの幹線運賃表に当てはめると5080円になりますので、リニア特急料金は11790円-5080で、推定6710円。キロ当たり23.46円。

これを基に計算すると下表のとおりになりました。
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ブログ作者によるリニア料金の予想 

また、現在発売されている新幹線定期(FREX)と同程度の割引率を用いると仮定して、3ヵ月定期代も試算してみました。
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ブログ作者によるリニア三ヵ月定期券料金の予想 

品川-山梨県駅の料金設定は、東海道新幹線に当てはめれば東京-三島と同様の料金設定となりそうですから。べらぼうに高くなるわけでもなさそうです。長野県駅となると、東京-掛川と同程度になりそうで、これはさすがに高そう。

しかし料金的に可能といっても、本当に通勤・通学の足として使うためには、利便性がより重要な要素になるだろうと思います。

東京駅まで約1時間の駅における、朝の東京駅ゆき上り列車の運行本数は次の通り。
三島駅の場合、6時台3本、7時台5本。
高崎駅の場合、6時台4本、7時台8本。
宇都宮駅の場合、6時台2本、7時台5本。

リニア山梨県駅に、これだけの列車が停車するのでしょうか?

現在のところJR東海は「各駅停車は1時間に1本」としていますが、これだと朝寝坊したりお腹を壊して乗り遅れたら遅刻してしまうかも。

そもそも1編成に乗客は1000人しか乗れないのだから、名古屋+中間駅4つでそれぞれ均等に乗車するなら、甲府では単純計算で250人ぐらいしか乗れないのでは・・・?

さらに、全席指定のリニアで定期利用者用の座席を設けるのなら、そこは該当する駅まで空けておく必要が生じます。果たしてJR東海がそんなムダを許すのでしょうか? なお現行の新幹線定期FREXは自由席用なので、立ち乗りも可能なのであります。

ところで、リニア計画を国として推進する意義として、4番目にあげられているのが経済効果です。それによると、東京-名古屋-大阪を1時間で結ぶことにより、人の行き来が活発になり、様々な経済効果が生み出されるというものです。

イメージ 3
国土交通省中央新幹線小委員会 答申より 

しかし一見、正論のようであって、なんだか腑に落ちないのであります。

この答申だと、国として経済活動を活発にする必要があるとし、その手段として東京-名古屋-大阪での人の行き来を活発させることが有効だとしているわけです。

しかしより活発な行き来が必要があるとして、それを阻んでいるのが何なのか、という観点が全くない。言い換えれば時間的な壁と料金的な壁と、どちらがより邪魔なのかという観点が抜け落ちているように思えるのです。

経済効果が目的なら、東海道新幹線の料金がネックになって移動できない人がいるのではないか?というところまで考えを巡らせるべきではないのでしょうか。庶民感覚では、新幹線料金だってけっこう高額であり、そう気軽・頻繁に使えるものではないんじゃないのかなあ・・・? 

実現性は横に置いておいて、仮に、ばく大な建設費を用いて時間短縮する代わりに、東海道新幹線の値下げを行えば、それはそれで、相当な経済効果を生み出すような気がするのです。

JR東海社史より山梨リニア実験線建設について

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JR東海より「東海旅客鉄道20年史」という社史が作成されています。この本に山梨リニア実験線建設の経緯が掲載されています。

現在のリニア中央新幹線計画を考えるヒントになりそうな内容ですので、一部を抜粋します。なお、運輸大臣通達までの経緯についてはこちらをご覧ください。

(147ページ~)
運輸大臣通達  
 平成元年8月7日の新実験線の山梨県での建設決定を受け、同年12月29日、山梨実験線に係る予算が初めて政府予算案として閣議決定された。翌平成2年6月8日、当社、鉄道総研、鉄道公団の3者に対して、運輸大臣より「超電導磁気浮上式鉄道に係る技術開発の円滑な推進について」が通達され、同時に、20万分の1地勢図による概略のルートが発表された。

 運輸大臣通達の主な内容は以下のとおりである。

(1)技術開発の基本計画
 ・当社と鉄道総研が共同して作成、鉄道総研が大臣承認申請。
 ・記載すべき事項の指定
 技術開発の目標、期間、技術開発を要する施設及び車両の概要、実施しようとする実験の内容及び実施期間など

(2)山梨実験線の建設計画
 ・当社、鉄道総研、鉄道公団が共同して作成、三者が大臣承認申請
 ・記載すべき事項の指定
 線路の位置、線路延長、工事方法、工事着手予定時期及び完了予定時期、工事に要する費用、工事に要する資金計画など

 ・必要な実験を行うために配慮すべき条件
暫定基準 
軌道中心半径 5.8m 
最小曲線半径 8000m 
最急勾配 40‰ 
暫定技術基準 
連続直線区間 (高速)1.4㎞以上 
曲線半径8000m (高速) 1.4㎞以上 
緩和曲線 (高速) 1.4㎞以上 
勾配40‰ (高速) 1.4㎞以上 
縦曲線半径30000m (高速) 1.4㎞以上 
複線明かり (高速) 1.4㎞以上 
複線トンネル (高速) 1.4㎞以上 
総延長 
40km程度 

 資金計画の作成に当たり、中央新幹線は東海道新幹線の役割を代替するもの、第2の東海道新幹線として建設されるものと運輸省の公式見解を受け、また、それゆえ将来実用線の一部となる山梨実験線18.4㎞の用地及び土木構造物は、それを経営責任分野とするJR東海の特別負担で建設するようにとの運輸省の要請のもと、当社は、汎用性のある土木構造物等の施設に係る投資について特別負担することとした。

技術開発基本計画・建設計画の大臣承認  
 大臣通達に基づき、平成2年6月25日付で「技術開発の基本計画」及び「山梨実験線建設計画」について運輸大臣に承認申請し、同日付で承認された。以下のその主な内容を示す。

(1)技術開発基本計画
①技術開発の目標
 ・高速性
 営業最高速度500㎞/hを目指すため、実験線において、より高速(550㎞/h)の安定走行を確認する。
 ・輸送能力・定時性
 ピーク時間当たり10000人程度(片道)の輸送が可能で、定時性の高いシステムを確立する。
 ・経済性
 建設コスト、運営コスト、生産コストの低減化を図るとともに、採算性を踏まえたシステムの経済性を確立する。

②技術開発の機関
 技術開発の期間としては、山梨実験線の一部の使用が可能となる平成5年度から走行試験を開始し、平成9年度までに実用化の目途をつけるものとした。

(2)建設計画
 山梨実験線は運輸大臣通達(別記)の暫定基準及び配慮すべき条件に適合するよう、全長42.8㎞、うち複線区間24㎞の規模で全体を計画した。このうち、インフラ構造物については、トンネルが全体の8割以上を占めることになり、最長は御坂トンネル(仮称)で約14㎞の延長となる。明かり構造物も一部存在する。盛土構造については、超電導リニアの地上1次モーターと高速性に由来する厳しいガイドウェイ精度管理の面から採用しないこととした。

(3)資金フレーム
 技術開発の基本計画及び山梨実験線の建設計画の双方に係る資金計画については、以下のとおりである。
①実験線基盤施設(汎用性のある土木構造物の施設に係る投資)
 ・当社が管理
 ・工事用道路等関連工事については地元協力として山梨県の負担
 ・用地取得費については、山梨県が地元協力として鉄道総研に対する貸付資金を斡旋(将来営業線への転用時点で経営主体すなわち当社が買い取ることとされた)

②実用化技術開発費(実験終了後取り払う電気設備等の施設に係る投資)
 ・鉄道総研が国庫補助金、山梨県の地元協力金、鉄道総研への開銀融資(JR一般負担での返済)、当社の特例負担により資金を調達。
 ・鉄道総研への開銀融資に対しては、当社が債務保証契約を締結。

環境影響調査 
 運輸大臣通達が出された平成2年6月の時点では、実験線建設に先立つ環境影響評価(環境アセスメント)の実施を義務付けた法律ないし山梨県の条例等は存在しなかった。

 しかしながら、実験線の建設及びその後の走行試験に伴う周辺環境への影響を把握し的確に対処するために事業3者と山梨県との間で「山梨リニア実験線に係わる環境影響調査などの進め方について」により手続き等の確認を取り交わし、東八代郡境川村から南都留郡秋山村に至る全長42.8㎞の実験線全線にわたり、環境影響調査を実施して報告書を取りまとめた。このとき、実験施設は将来中央新幹線の一部として活用することになるが、その場合の環境アセスメントの取り扱いについては、その時点での状況を踏まえ、別途関係機関との間で取り決められるものとし、実験線に限定した調査として位置付けられた。
 
 具体的な手続きとしては、平成2年6月25日の技術開発の基本計画と山梨実験線計画の大臣承認の翌日、報告書に関する山梨県への事前説明会を開催した。その後、特に、騒音・振動・磁気の3点について、山梨県リニア推進局及び県民生活局環境保全課と議論を交わし、同年7月20日、「環境影響調査報告書」を正式に山梨県に提出した。その後、山梨県庁内での議論及び部外の専門家の意見などから、特に上記の3点について追加の説明を求められたため、同年8月18日付で「補足説明資料」を提出した。

 そして同年9月5日、山梨県知事より環境影響調査の報告書の内容について意義のない旨の回答を受理するとともに、包括的な環境保全を図るため、山梨県と事業3者の間で、「環境保全協定」を締結し、一連の環境影響調査の手続きが終了した。

関係法令の適用 
 山梨実験線の建設については、前述のように大臣承認により事業が承認されているが、他の関係法令の適用については、以下のとおり関係者間で確認され、従来の鉄道と同様の取り扱いとされ、用地取得の推進と交差協議の円滑化が図られた。

(1)土地収用法
 平成2年9月、山梨実験線の建設事業が、土地収用法対象事業に関する同法第3条第7号の2「日本鉄道建設公団」が設置する鉄道又は軌道の用に供する施設」に該当するかにつき、同公団用地部長から建設省経済局総務課長に対して照会し、即日該当する旨の回答を得た。

(2)租税特別措置法
 公的な事業に置いて用地を譲渡した地権者に対し、譲渡益に対する課税の特例、すなわち租税特別措置法で定めるいわゆる「5000万円控除」が適用されることは、山梨実験線の用地買収を推進するうえで重要な要素である。そこで、山梨実験線が、租税特別措置法の施行規則に定める「日本国有鉄道が設置する鉄道の用に供する施設のうち線路・停車場に係る部分」に該当するかについて、平成2年9月、同公団用地部長から運輸省国有鉄道改革推進部施設課長に対して照会し、同年10月に該当する旨の回答を得た。

(3)道路法
 平成3年6月、運輸省大臣官房国有鉄道改革推進部と建設省道路局との間で、山梨実験線建設に伴う交差協議については同法第31条(道路と鉄道の交差)を、道路占有については第35条(国の行う道路の占用の特例)を適用する旨確認された。
事業者間の協定 
 平成2年6月25日、当社・鉄道総研・鉄道公団は、山梨実験線が技術開発を目的としていることを踏まえ、その円滑な建設に資するため、「山梨リニア実験線建設促進に関する基本協定」を締結し、事業の推進に当たっては。当社の経営上の判断を尊重することをベースとして各社の責任分担、推進体制及びその業務の推進方等について、以下のように基本事項を取り決めた。

(1)用地取得については、鉄道総研が事業主体となり、所得事務を鉄道公団に一括委託し、さらに用地取得義務は山梨県に委託。

(2)土木構造物等汎用性のある施設の建設については、当社が事業主体となり、鉄道公団に一括委託。

(3)実用化技術開発に関しては、鉄道総研が事業主体となり、当社の特別負担に係わる部分については当社を事業主体とみなし当社に委託。
地元協議等と実験線工事着手式 
 平成2年8月22日、山梨県での県議会連盟、建設促進協議会への説明を経て、初めて実験線沿線の市町村に対し事業説明会を開催し、2500分の1の地形図にてルートを発表した。翌8月23日より境川村をはじめとして沿線各市町村の地区ごとの説明会を実施し、測量のための立入りから、用地買収、工事の着手に至る手続き等について説明し、理解を求めた。

 本格的な地元説明及び各種の協議が実施される中、平成2年11月28日、都留変電所の建設予定地において事業推進の安全を祈念する「着手式」が、山梨県主催の下、事業3者はもとより多くの関係者を招へいして、盛大に挙行された。
測量
 山梨実験線の建設工事に先立ち、実験線構造物等の建設位置を現地で定める基準となる測量ポイント(基準点)をトンネル坑口付近等に設置する方法として、工期の短縮、高精度施工の確保、経費の削減等のため、本格的な大規模測量地としては国内初の事例となるGPSによる基準点測量を採用し、平成2(1990)年12月から実施した。

 超電導リニアに求められるガイドウェイの高精度施工を考慮してトンネルの貫通誤差を10万分の2に設定したことにより、GPSによる基準点の目標精度は基準点間において±15㎜とし、測量網はシミュレーションの結果、地形的制約に適合し、測量公立のよい10㎞網とした。結果として、±5㎜いないの精度を確保することができた。
工事の着手 
 先に述べた通り、平成2年11月28日に都留変電所の建設予定地において「山梨リニア実験線着手式」が行われた。

 平成3年2月、山梨実験線のトンネル5工区が発注され、同年5月、九鬼トンネル東工区にて最初の工事用道路トンネルの建設に着手した。そして同年9月17日、九鬼トンネル東工区において初めての起工式が執り行われた。これに続き、同年12月には笹子トンネル西工区にて、翌平成4年4月には、朝日トンネル及び九鬼トンネル西工区がそれぞれ執り行われるなど、順次工事に着手した。
先行区間の設定 
 平成4年度に入り、用地買収の全体的な遅れにより、当初計画の建設工程が既に1年程度遅れていることが顕在化してきた。しかし、実験を可能な限り早く開始し、超電導リニアの技術開発に遅滞をきたさないようにするため、当初計画にある「できあがった一部の区間を使い実験を開始する」という考え方に沿い、関係機関と協議のうえ、先行区間を設定することにした。

 平成4年度時点においては、当初の計画時点と比較して、地上コイルの高耐圧化、電力変換器の大容量化等の技術が向上し、短い区間においても目標とするスピードが達成できる見通しが得られたため、実験線全線42.8㎞のうち、比較的用地買収が進捗していた中央エリアにおける延長18.4㎞を先行区間として設定した。この先行区間における走行実験により、一部長期耐久性試験等は残るものの、当初計画どおり、平成9年度までに実質的な実用化の目途を立てることとした。

 トンネル工事においては、坑口付近は民家が比較的少なく、トンネル掘削に伴う土捨場、工事用道路や坑外設備の借地等の協議がまとまった箇所から順次工事に着工することができた。しかしながら、高架橋や橋りょうの工事は、前述のように用地買収の遅れから着工時期がずれ込んだ。そのため平成7年3月には、技術開発基本計画と山梨実験線建設計画を変更し、実用化の目途立てを平成11年度までとすることとし、運輸大臣の承認を得た。


【気になったこと】
●下線をひいたところなど、リニアは当初より完全な公共事業扱いだったのでは?

●運輸大臣通達によって場所が決まったのが平成2年6月8日、「環境影響調査報告書」を山梨県に提出したのが7月20日。この間わずか一か月半。印刷・製本の手間を考えると実質一ヵ月程度のはず。

●地元への説明は完全に後回し。話がいろいろ決まってから。

●地元への説明の最中に”着手式”を開催。

⇒現在と同じような進め方だったようなのであります。






事業に協力しろというのなら事業目的の妥当性ぐらい説明してほしい

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先月、長野県大鹿村で南アルプストンネル長野工区の起工式が行われました。そしてこのたび愛知、岐阜と続けての”着工”となっています。

その一方で住民理解はまるっきり進んでいないように思われます。南アルプストンネルからの残土の処分場候補地は反対運動に直面しています。山梨県や神奈川県ではトラスト運動も行われていると聞きます。

住民の反発が強い背景には、事業の進め方がメチャクチャであることに加え、事業推進の意義が感じられぬこともあるでしょう。住民目線からみれば、迷惑を受け入れなければならぬ必然性が感じらぬというわけです。



例えば洪水対策としてダムを建設することが決まり、住民に立ち退きを迫る状況を考えていただきたい。ただし補償の話は横に置いておきます。

この場合、ダムを作る側は、ダムを造る意義として洪水対策を掲げています。ということで、予想される降水量や地形などから洪水時の水位・流量・被害を予測し、どれだけの量をダムで貯留でき、被害の軽減効果を予測することになります。

それで、
「ここにダムを造るとこれだけの被害を軽減できるのです。下流の町を守るため、事業にご理解をいただきたい」
という話になります。

で、その予測される効果に不審点があれば、検証する必要があるのは当然でしょう。先祖から受け継いだ土地・住み慣れた土地を追われたり、良好な環境をぶっ壊したり、多額の税金を使ったりするのだから当たり前の話です。

ダムでも堤防でもハコモノでも卸売市場でもカジノでも、公共の利益を目的としているものは皆、同じことでしょう。


リニア計画についても同じことです。

リニア中央新幹線建設の最大の意義が「東海/南海トラフ大地震に備えて二重系統化」であるのだったら、その意義の妥当性や有効性はきちんと説明してほしい。でなきゃ納得できん! 

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国土交通省中央新幹線小委員会の答申(2011年5月12日)





…個人的には、「東海/南海トラフ地震に備えて二重系統化」という名目はマユツバだと思う。
当ブログで繰り返してきたきたように、

●そもそもリニアが無かったらどうなるのか?という想定が不明
●ルート選定に当たり、東海/南海トラフ地震発生時の赤石山脈における地殻変動について検証していない。
●名古屋以西で東海道新幹線よりも南海トラフに近いルートとなる
●甲府盆地、濃尾平野、大阪平野でも大きな被害が予想される
●「東海/南海トラフ地震に備えて二重系統化」はJR東海発足時に出された主張。しかし当時はリニア技術の実用化目途すら立っていなかった。⇒「いつ起こるか分からない地震」に備え、いつ完成するか分からぬものを代替ルートにするのか?
●政府による北陸新幹線整備についても同じ意義が掲げられている。
●地震発生時に南アルプス地下で列車が緊急停止すれば、南アルプスをかかえる自治体にとっては、乗客救助という余計な災害リスクが増えてしまう。⇒大地震時に南アルプス山奥からどうやって避難誘導するのか?


いったあたりがどーしても腑に落ちないのである。地震や地形学関係の図書を読み漁ると不信感は増すばかりであり、南アルプスルートが地震対策として有効である積極的な根拠はなかなか見当たらない。

むしろハッキリと
「時速500キロ運転を実現させて優越感に浸りたい」
「名古屋のために沿線は協力しろ!」
とでも言ってくれた方がスッキリしている気がする。


山梨県地下水及び水源地域の保全に関する条例

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平成26年に制定された水循環基本法について調べようと、内容はチンプンカンプンながら地下水学会誌というものを眺めています。

なんでも地下水の保全に対する姿勢は、直接に上水道や各種用水に向きあっている地方自治体のほうが先行しており、その後を覆うように、国としてのあり方を決めるための法律が整備されつつあるようです。特に、阿蘇山由来の豊富な地下水を上水道に利用していることで有名な熊本市の取り組みが参考になっているとか。

国としての姿勢を定めた基本法に基づき、次は具体的に保全のあり方を規定する法律(仮称:地下水の保全、涵養及び利用に関する法律 略して地下水保全法)が決められる運びになっていたのですが、昨年2月に専門家会議から水制度改革議員連盟に上申したところ、なぜだか急ブレーキがかかってしまったそうです。「リニア計画に支障が出るから」という噂がまことしやかにささやかれています。

ところで、そんなことを調べているうちに知ったのですが、山梨県には山梨県地下水及び水源地域の保全に関する条例という条例が制定されているそうです。
【山梨県庁の説明】

条例制定の背景等
地下水は、県民の生活用水の約半分を地下水に依存する等、県民生活や地域の産業の共通の基盤となっています。
一方、降水量等の自然環境の変化、森林・農地の荒廃、田・畑の宅地化の進行等が地下水に及ぼす影響が懸念されています。
また、国際的な水不足への懸念等を背景とした国内外の企業などによる山林買収の動きを受け、本県においても水源となる森林地域における土地取引の実態把握の必要性が高まっています。
このような背景を踏まえ、地下水の状況及び水源地域における土地取引の実態を把握するとともに、地下水の適正な採取及び水源地域における適正な土地利用の確保のために必要な措置を講じる必要があります。

とあります。

こんなことも定められています。

水源地域における適正な土地利用の確保

1.水源涵養機能の維持及び増進を図るべき森林の存する地域を水源地域に指定
2.水源地域における土地の譲渡者等に事前届出を義務付け
3.届出者に対する水源地域の保全を図るための助言の実施 

条文を読んで整理すると、地下水の涵養地域(=降った雨が浸透して地下水の水源になっているであろう地域)を水源地域に指定し、そこでの土地利用には地下水の涵養機能を損なわぬよう、県が助言を行うということです。

条例で指定された水源地域はこちらに掲載されています。

この一覧を眺めていてまず気になったのは次の地域です。
笛吹市 御坂町上黒駒、御坂町下黒駒、御坂町竹居の各地区。山梨リニア実験線の建設工事で川の水が涸れてしまった地域です。

イメージ 1
環境影響評価書 水資源 資料編より複製 
黒駒地区は表中①のトンネルに、竹居地区は表中②のトンネルに該当  

全て調べてはいませんが、ほかにも水源地域に指定された地区と水枯れ発生地区とが一致している箇所があるかもしれません。

この条例が制定されたのは平成24年12月27日ということで、既に実験線延伸工事の最中であり、条例をもって地下水保全について助言することはできなかったと思います。しかしもしも条例制定が先行していたら、山梨県はどのような助言をしていたのでしょうか? ちなみに環境アセスメントの最中というタイミングになります。

さて今後、リニアのトンネル工事が計画されている地域でも、水源地域に指定されているケースがあるようです。

富士川町  十谷、高下 
早川町 新倉
南アルプス市 芦安芦倉 

.これら地域にはリニア計画にともない、
富士川町十谷⇒第四南巨摩トンネルの頭上、
富士川町高下⇒二つの坑口、大規模保守施設、変電所
早川町新倉⇒二つの坑口および斜坑(非常口)3本
芦安芦倉⇒早川芦安連絡道路東口

が設けられる計画です。 

いずれもトンネルが建設されますし、高下地区には大規模な盛土(および舗装)も計画されています。ですから、地下水の涵養には大きな影響を与えると思われます。

JR東海が昨年末に公表した巨摩山地での水収支解析結果(地下水位の変動予測)によると、富士川町を流れる大柳川では現況の3/4程度に流量が減るという予測が出されています。

もっと小さな、地域の水源に与える影響はより甚大になるでしょうし、動植物への影響だって無視できない。静岡県民が見ても心配になるところですが、山梨県による適切な”助言”がなされるものと期待しております。









大鹿村小河内沢地下での工事って、どうやって河川法の許可が出たのだろう?

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「山梨県地下水及び水源地域の保全に関する条例」や「水循環基本法」を眺めていると、リニア建設は水環境保全の問題をどのようにクリアしてゆくのだろうという疑問が非常に気になります。

ちょっと調べてみると

●河川の表流水を占用するには河川法上の許可が必要
●河川区域の伏流水を占用する際にも河川法上の許可が必要
●掘った井戸水(地下水)を使うなら(基本的には)許可は不要
●トンネル工事で周辺の水利に影響を与えたら補償の対象となる

こんな具合なので、トンネルに湧き出した水は河川水なのか地下水なのか、それ自体がグレーゾーンになっているかのような印象を受けます。

さて、河川の下にトンネルを掘る場合、河川法に基づく許可がいくつも必要となるようです。主だったものは次のようなもの。

第二十四条(土地の占用の許可)
第二十六条(工作物の新築等の許可)
第二十七条(土地の掘削等の許可)
⇒参考
国土交通省京浜河川事務所
国土交通省


こうした許可の基準は、法律とは別に定められていて、それに照らし合わせて、治水・利水・環境に影響が出ないと判断されて、はじめて許可されることになります。

リニアのトンネル工事の場合、環境影響評価の辞典で「トンネルを掘れば水が減る」という試算結果が出ています。よって「大きな影響が出ない」という合理的な根拠が示されぬ限り、河川の下にトンネルを掘ることは許されないはずです。

だからトンネル建設にGOサインが出た時点で、河川法上の問題はクリアされていることになっているはずなのです。
(科学的な妥当性や、住民が納得できるかは別問題。)

◇   ◇   ◇   ◇   ◇ 

リニアのトンネル工事に伴う水の問題の中でも、最大級の懸案となっているのが静岡県の大井川です。環境影響評価書によると、大井川の流量が約2㎥/s減少すると試算されてました。これは年間平均値とのことで、渇水時ならば周辺の河川生態系および水力発電所に影響が出ることになります。

最大の難所になるであろう静岡県内での工事計画が全く具体化してこない一因は、このような河川をめぐる法的な問題もその一因となっていることでしょう。


ところで河川の下のトンネルといえば、南アルプストンネル長野県側工区も同じ条件下にあります。既に11月1日に着工式が行われています。

ここには小河内沢という川が流れています。この川は小渋川に合流し、最終的に天竜川に合流して太平洋に注ぎます。

この小河内沢の右岸(南側)の地下浅いところに、リニアの南アルプストンネルが掘られる計画です。本坑だけでなく先進坑と斜坑(非常口)も掘られる計画であるため、多量の水を引き込むことが容易に想像できます。
イメージ 1
小河内沢付近を拡大
イメージ 3

そして案の定、やはり河川流量が大幅に減少するとの試算が出されました。
イメージ 2
環境影響評価書長野県版より複製・加筆
赤枠内が小河内沢 


ところで図示したように、小河内沢には長野県企業局の所有する発電所があります。

小渋川の標高1050m地点で取水し、小河内沢からの取水も合わせ、小渋川の標高780m付近へ水を落として発電するものです。長野県営の発電所で、小渋川本流と合わせた常時取水量は0.6㎥/s、最大取水量は4.5㎥/s。常時出力は1200kW、最大認可出力は10000kWだそうです。常時取水量は「いつも取水してよい量」であり、最大取水量は「水が豊富な時に取水できる上限」となります。

なお県のデータによると実際に渇水期に小河内川を流れる量は0.35㎥/sであり、実際に取水している量の平均値は0.29㎥/sだそうです。0.06は河川環境維持のために川に流しています。

さて、環境影響評価書によると、渇水期の現況流量を0.58㎥/s(先の実績値と比較すると過大!)とした場合、トンネル完成後は0.08にまで減るというものです。

この予測が正しいと仮定すると、渇水期には河川環境維持流量を差し引いた0.02㎥/sしか取水できなくなります。現況値が”過大評価”されていてアテにならないことを考慮すると、小河内沢からの取水は困難になってしまいます。

当然、県が売電で得る利益は減りますし、取水により大鹿村が県から受ける水の使用量収入も減るでしょう。

そしてなにより生態系や景観に与える影響は重大なものがあると思われます。ユネスコエコパークの理念(持続可能な自然資源の利活用)にも反しているという大問題もあります。

JR東海が起工式に先立って10月に公表した「南アルプストンネル新設(長野工区)工事における環境保全について」によれば、水資源に影響が出そうになったら代替水源を確保するとしていますが、河川環境および水力発電所を維持するだけの代替水源など、原理的にできるはずがありません(そもそも評価書から進歩していない)。

要するに、河川法上の工事許可を与えるには懸念が大きいはず。

しかし実際には、大鹿村では既に小河内沢の下を掘るトンネルについて、起工式が行われました。

おそらくは事業者のJR東海、河川管理者である国土交通省、発電所をもつ長野県、地元大鹿村との間で協議が行われ、法的な問題はクリアできたという判断がなされたからこそ、起工式が行われたものと思います。

しかしどのような協議が行われたのかは、全くのブラックボックスです。な~んにも分かりません。

◇   ◇   ◇   ◇   ◇ 

長野工区については、スケールこそ小さいものの、大井川流量問題の先行事例となったはずです。

大井川の環境保全を万全のものとするためにも、長野県にはどのような協議が水面下で行われ、どのように処理されたのか、ぜひ情報を提供していただきたいと思います。

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